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28 経鼻内視鏡と FICE を用いた咽頭・食道癌の拾い上げ診断 1 愛知県がんセンター中央病院 内視鏡部 ○田中  努 1 、丹羽 康正 1 、田近 正洋 1 【目的】咽頭癌や食道癌の患者には、しばしば咽頭、食道に同時性・ 異時性重複癌が発生することが知られており、継続的な内視鏡検査に よるサーベイランスが重要である。経鼻内視鏡は受診者の忍容性は高 いものの、病変の拾い上げ能について評価は定まっていない。一方、 FICE は血管強調が可能な特殊光診断法で、拾い上げ診断に対する有 用性が期待されている。咽頭癌や食道癌治療後のハイリスクグループ において、経鼻内視鏡と FICE を用いた癌の拾い上げ診断の有用性と 安全性を prospective に検討した。 【方法】病理組織学的に扁平上皮癌と診断された中・下咽頭癌または 食道癌の既往歴がある患者のうち、2010 9 月以降同意を得られた31 例(男性:女性=265、平均年齢64.5 歳、中・下咽頭癌:食道癌= 19142 例は同時性重複癌))を対象とした。中・下咽頭での観察 は白色光の後、FICE で行い、Valsalva 法を併用した。食道ではさら にヨード染色を行った。使用機種は EG530NWFICE 設定は0 R525 GAIN3)・G495 GAIN4)・B495GAIN3)を用いた。 【成績】観察し得た中・下咽頭30 例において、白色光、FICE ともに 悪性病変は発見されなかった。一方、食道31 例のうち、ヨード染色 により食道癌化学放射線療法後の1 症例で異時性食道表在癌が発見さ れたものの、白色光、FICE での認識は困難だった。2 例(6%)に鼻 出血、2 例(6%)に鼻痛がみられたが、いずれも軽度であり治療を 必要としなかった。Valsalva 法は25 例に施行され、施行前後での咽頭 観察は、不変:4 例(16 %)、一部改善:16 例(64 %)、改善:5 20%)であった。 【結論】今回の検討では異時性重複癌の症例が1 例のみであり、経鼻 内視鏡と FICE を用いた内視鏡的観察による拾い上げ診断能の評価に は更なる症例の集積が必要である。一方、FICE 併用の経鼻内視鏡検 査は安全な手技であり、Valsalva 法は中・下咽頭観察に適した方法と 考えられた。 小胃癌に対する NBI 併用拡大内視鏡像の検討 1 独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 消化器科、 2 名古屋大学大学院 消化器内科学 ○龍華 庸光 1 、岩瀬 弘明 1 、島田 昌明 1 、都築 智之 1 日比野祐介 1 、玉置  大 1 、齋藤 雅之 1 、横井 美咲 1 神谷 麻子 1 、喜田 裕一 1 、久野 剛史 1 、後藤 秀実 2 【はじめに】内視鏡技術の進歩により、NBI などの画像強調内視鏡が 臨床に応用され、さらに拡大内視鏡と組み合わせることで、微小血管 や組織構築の異常を直接反映した内視鏡画像を得ることができるた め、精度の高い内視鏡診断が可能なことが明らかになっている。 【目的】当院で ESD を施行した小胃癌(6mm 以上で10mm 以下)、微 小胃癌(5mm 以下)症例に対して、発生部位、NBI 併用拡大内視鏡 所見、肉眼型、組織型、深達度について検討した。【方法】2008 1 月~2011 3 月に当院で ESD を施行した早期胃癌症例のうち小胃癌 症例は7 7 病変、微小胃癌症例は4 4 病変であった。男性7 例、女 4 例、年齢5681 歳で、そのうち前医内視鏡検査で Group 3 または 5 が検出されたものは6 例、当院通常白色光内視鏡検査で Group 5 が検 出されたものは5 例であった。これらを対象とし、発生部位、肉眼型、 組織型、NBI 併用拡大内視鏡所見、深達度について検討した。【結果】 発生部位)領域:2 例、領域:6 例、領域:3 例であった。肉眼 型)0-2a 4 例、0-2b 0 例、0-2c 7 例であった。組織型)tub1 7 例、tub2 4 例であった。NBI 併用拡大内視鏡所見)VS classification system、す なわち(1irregular microvasucular patternMV)かつ demarcation line DL)の存在、(2irregular microsurface patternMS)かつ DL の存 在のいずれかを認めれば術前癌と診断した。(1)または(2)を認め 術前に癌と診断したものは7 例(うち微小癌2 例)、irregular MV (+)も DL (-) で非癌と診断したものは1 例(微小癌)、拡大観察不十分で評価 不能であったものが3 例であった。深達度)M9 例、 SM2 例であっ た。NBI 併用拡大内視鏡のみでは術前深達度診断は困難であった。 【結論】通常白色光内視鏡観察のみでは胃炎、良性びらんや小胃癌と の鑑別診断は困難であるが、NBI 併用拡大内視鏡を駆使することによ り診断能の向上が得られると考えられた。 仮想内視鏡とリンパ節検出支援ソフトウェアを用いた胃癌 の術前診断 1 名古屋大学大学院 医学系研究科 消化器内科学、 2 名古屋大学医学部附属病院 光学医療診療部 ○古川 和宏 1 、宮原 良二 2 、後藤 秀実 1,2 【目的】MDCT の登場により、CT 三次元表示による仮想内視鏡(以 VE)は高精細化し、消化管診断への応用が期待されている。一方、 画像解像度の向上とともに画像情報量は増加し、読影医の負担が問題 となっている。そのためコンピュータを用いた診断支援や病変検出支 援(以下 CAD)の研究が進められている。今回我々は、名古屋大学 大学院情報科学研究科と共同開発したソフトウェア(NewVES)を使 用して、VE CAD を用いた胃癌の術前病期診断を行い、その診断 能について検討した。【方法】2005 1 月から2010 12 月までに、名 古屋大学医学部附属病院で術前診断のために dynamic MDCT を撮影 した、胃癌190 症例201 病変(男性145 名、女性45 名、平均年齢65.3 歳)を対象とした。検討項目は、1)病変検出率、2)深達度診断、お よび3)リンパ節転移の程度の正診率、の3 点とし、病期診断は胃癌 取扱い規約第14 版に基づいて行った。1)は VE を通常の内視鏡と同 様の観察手順で操作することで検討した。2)は VE と連動させた MPR での腫瘍の断面像と造影領域の観察にて検討した。また、3)に 関しては、CAD により腹部領域における塊状構造を自動検出し、指 摘可能であった1cm 以上のリンパ節を転移陽性とし、病理結果との 比較を行った。【成績】1)病変描出率は68.2%137/201)であった。 2)深達度診断の正診率は79.1%159/201)であった。深読みした症 例は16.4%(33/201)、浅読みした症例は4.5%9/201)であった。3CAD による正診率は、73.1%147/201)であり、医師の読影による 正診率の75.6%(152/201)と比べやや劣るものの、ほぼ同等の成績 が得られた(p=0.180)。【結論】胃癌の術前診断において、VE を用い ることにより深達度診断が可能となり、CAD を用いることによりリ ンパ節の効率的な検出ができる可能性が示唆された。今後さらなるソ フトウェアの改良により、診断能の向上と臨床応用が期待される。 当科における適応拡大、適応外病変に対する胃 ESD の 検討 1 岐阜市民病院 消化器内科 ○杉山 昭彦 1 、小木曽富生 1 、川出 尚史 1 、加藤 則廣 1 冨田 栄一 1 【目的】胃癌治療ガイドライン第3 版(案)における内視鏡治療の適 応拡大、適応外病変に対する当科での胃 ESD の現状と問題点を検討 した。【対象と方法】2003 4 月より2010 3 月まで胃病変に対して ESD を行った321 例【成績】絶対適応病変(以下 A 群)は207 64.5%)、適応拡大病変(以下 B 群)(2cm を超える UL (-) の分化型 cT1a 癌、3cm 以下 UL (+) の分化型 cT1a 癌、2cm 以下の UL (-) 未分化 cT1a 癌)は93 例(29%)、適応外病変(以下 C 群)は21 例(6.5%であった。肉眼形態別では、IIa 150 例,IIb 4 例,IIc 118 例,I 7 例,混合型41 例,その他1 例であった。C 群の内訳は IIa 1 0.6%),IIb 2 例(50%),IIc 10 例(8.5%),I 1 例(14.3%), 混合型7 例(17.1%)であり、IIb 型と混合型に多くみられた。IIb では sm2, ly/v (+)、IIc 型では未分化型が4 例(60%),sm2 5 50%)、ly/v (+)が2 例(20%)、I 型では深部浸潤1 例、混合型では UL (+) 3 例(42.9%),SM2 5 例(71.4%),ly/v (+)が2 例(28.6%)であっ た。不完全治癒切除症例は A 4 例(分割2 例、断端陽性2 例)、B 3 例(分割2 例、断端陽性1 例)の計7 例認め、1 例で局所再発にて APC 焼灼術を、1 例で手術を行ったが遺残を認めず、その他5 例では 再発を認めなかった。C 21 例の適応外理由は未分化型6 例、SM2 13 例、ly (+)/v (+)が8 例、UL (+)で31mm 以上の分化型 cT1a 癌が2 であった。そのうち、手術拒否もしくは経過観察は11 例であり、1 sig, sm1, ly (+), v (+), UL (+))において胃癌死を、2 例で他病死(胆管 癌、肺炎)を認めた。一方、手術症例は10 例で、7 例において遺残を 認めなかったが、その後1 例(sm2, ly (+), v (+), UL (+))に肝転移によ る胃癌死を、1 例で他病死(大腸癌)を認めた。【考案】適応拡大症 例の治療成績は概ね良好であった。適応外症例では潰瘍合併例、肉眼 形態では IIb 型、混合型に注意が必要であり、診断的治療としての ESD は有用であると考えられたが、一方、ESD 後の手術拒否例もみ られることも問題点と考えられた。【結語】胃癌治療ガイドライン第 3 版(案)における内視鏡治療の適応基準は妥当と考えられたが、長 期予後のエビデンスを求めるために今後の更なる臨床研究が必要と考 えられた。 S101 S103 S102 S104 シンポジウム

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経鼻内視鏡と FICE を用いた咽頭・食道癌の拾い上げ診断1愛知県がんセンター中央病院 内視鏡部○田中  努 1、丹羽 康正 1、田近 正洋 1

【目的】咽頭癌や食道癌の患者には、しばしば咽頭、食道に同時性・異時性重複癌が発生することが知られており、継続的な内視鏡検査によるサーベイランスが重要である。経鼻内視鏡は受診者の忍容性は高いものの、病変の拾い上げ能について評価は定まっていない。一方、FICEは血管強調が可能な特殊光診断法で、拾い上げ診断に対する有用性が期待されている。咽頭癌や食道癌治療後のハイリスクグループにおいて、経鼻内視鏡と FICEを用いた癌の拾い上げ診断の有用性と安全性を prospectiveに検討した。【方法】病理組織学的に扁平上皮癌と診断された中・下咽頭癌または食道癌の既往歴がある患者のうち、2010年9月以降同意を得られた31例(男性:女性=26:5、平均年齢64.5歳、中・下咽頭癌:食道癌=19:14(2例は同時性重複癌))を対象とした。中・下咽頭での観察は白色光の後、FICEで行い、Valsalva法を併用した。食道ではさらにヨード染色を行った。使用機種は EG530NW、FICE設定は0番R525 GAIN(3)・G495 GAIN(4)・B495GAIN(3)を用いた。【成績】観察し得た中・下咽頭30例において、白色光、FICEともに悪性病変は発見されなかった。一方、食道31例のうち、ヨード染色により食道癌化学放射線療法後の1症例で異時性食道表在癌が発見されたものの、白色光、FICEでの認識は困難だった。2例(6%)に鼻出血、2例(6%)に鼻痛がみられたが、いずれも軽度であり治療を必要としなかった。Valsalva法は25例に施行され、施行前後での咽頭観察は、不変:4例(16%)、一部改善:16例(64%)、改善:5例(20%)であった。【結論】今回の検討では異時性重複癌の症例が1例のみであり、経鼻内視鏡と FICEを用いた内視鏡的観察による拾い上げ診断能の評価には更なる症例の集積が必要である。一方、FICE併用の経鼻内視鏡検査は安全な手技であり、Valsalva法は中・下咽頭観察に適した方法と考えられた。

小胃癌に対するNBI 併用拡大内視鏡像の検討1独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 消化器科、2名古屋大学大学院 消化器内科学○龍華 庸光 1、岩瀬 弘明 1、島田 昌明 1、都築 智之 1、 日比野祐介 1、玉置  大 1、齋藤 雅之 1、横井 美咲 1、 神谷 麻子 1、喜田 裕一 1、久野 剛史 1、後藤 秀実 2

【はじめに】内視鏡技術の進歩により、NBIなどの画像強調内視鏡が臨床に応用され、さらに拡大内視鏡と組み合わせることで、微小血管や組織構築の異常を直接反映した内視鏡画像を得ることができるため、精度の高い内視鏡診断が可能なことが明らかになっている。【目的】当院で ESDを施行した小胃癌(6mm以上で10mm以下)、微小胃癌(5mm以下)症例に対して、発生部位、NBI併用拡大内視鏡所見、肉眼型、組織型、深達度について検討した。【方法】2008年1月~2011年3月に当院で ESDを施行した早期胃癌症例のうち小胃癌症例は7例7病変、微小胃癌症例は4例4病変であった。男性7例、女性4例、年齢56~81歳で、そのうち前医内視鏡検査で Group 3または5が検出されたものは6例、当院通常白色光内視鏡検査で Group 5が検出されたものは5例であった。これらを対象とし、発生部位、肉眼型、組織型、NBI併用拡大内視鏡所見、深達度について検討した。【結果】発生部位)U領域:2例、M領域:6例、L領域:3例であった。肉眼型)0-2a 4例、0-2b 0例、0-2c 7例であった。組織型)tub1 7例、tub2 4例であった。NBI併用拡大内視鏡所見)VS classification system、すなわち(1)irregular microvasucular pattern(MV)かつ demarcation line(DL)の存在、(2)irregular microsurface pattern(MS)かつ DLの存在のいずれかを認めれば術前癌と診断した。(1)または(2)を認め術前に癌と診断したものは7例(うち微小癌2例)、irregular MV (+) もDL (-) で非癌と診断したものは1例(微小癌)、拡大観察不十分で評価不能であったものが3例であった。深達度)M:9例、SM:2例であった。NBI併用拡大内視鏡のみでは術前深達度診断は困難であった。【結論】通常白色光内視鏡観察のみでは胃炎、良性びらんや小胃癌との鑑別診断は困難であるが、NBI併用拡大内視鏡を駆使することにより診断能の向上が得られると考えられた。

仮想内視鏡とリンパ節検出支援ソフトウェアを用いた胃癌の術前診断

1名古屋大学大学院 医学系研究科 消化器内科学、2名古屋大学医学部附属病院 光学医療診療部○古川 和宏 1、宮原 良二 2、後藤 秀実 1,2

【目的】MDCTの登場により、CT三次元表示による仮想内視鏡(以下 VE)は高精細化し、消化管診断への応用が期待されている。一方、画像解像度の向上とともに画像情報量は増加し、読影医の負担が問題となっている。そのためコンピュータを用いた診断支援や病変検出支援(以下 CAD)の研究が進められている。今回我々は、名古屋大学大学院情報科学研究科と共同開発したソフトウェア(NewVES)を使用して、VEと CADを用いた胃癌の術前病期診断を行い、その診断能について検討した。【方法】2005年1月から2010年12月までに、名古屋大学医学部附属病院で術前診断のために dynamic MDCTを撮影した、胃癌190症例201病変(男性145名、女性45名、平均年齢65.3歳)を対象とした。検討項目は、1)病変検出率、2)深達度診断、および3)リンパ節転移の程度の正診率、の3点とし、病期診断は胃癌取扱い規約第14版に基づいて行った。1)は VEを通常の内視鏡と同様の観察手順で操作することで検討した。2)は VEと連動させたMPRでの腫瘍の断面像と造影領域の観察にて検討した。また、3)に関しては、CADにより腹部領域における塊状構造を自動検出し、指摘可能であった1cm以上のリンパ節を転移陽性とし、病理結果との比較を行った。【成績】1)病変描出率は68.2%(137/201)であった。2)深達度診断の正診率は79.1%(159/201)であった。深読みした症例は16.4%(33/201)、浅読みした症例は4.5%(9/201)であった。3)CADによる正診率は、73.1%(147/201)であり、医師の読影による正診率の75.6%(152/201)と比べやや劣るものの、ほぼ同等の成績が得られた(p=0.180)。【結論】胃癌の術前診断において、VEを用いることにより深達度診断が可能となり、CADを用いることによりリンパ節の効率的な検出ができる可能性が示唆された。今後さらなるソフトウェアの改良により、診断能の向上と臨床応用が期待される。

当科における適応拡大、適応外病変に対する胃 ESDの 検討

1岐阜市民病院 消化器内科○杉山 昭彦 1、小木曽富生 1、川出 尚史 1、加藤 則廣 1、 冨田 栄一 1

【目的】胃癌治療ガイドライン第3版(案)における内視鏡治療の適応拡大、適応外病変に対する当科での胃 ESDの現状と問題点を検討した。【対象と方法】2003年4月より2010年3月まで胃病変に対してESDを行った321例【成績】絶対適応病変(以下 A群)は207例(64.5%)、適応拡大病変(以下 B群)(2cmを超える UL (-) の分化型cT1a癌、3cm以下 UL (+) の分化型 cT1a癌、2cm以下の UL (-) 未分化型 cT1a癌)は93例(29%)、適応外病変(以下 C群)は21例(6.5%)であった。肉眼形態別では、IIa型150例,IIb型4例,IIc型118例,I型7例,混合型41例,その他1例であった。C群の内訳は IIa型1例(0.6%),IIb 型2例(50%),IIc 型10例(8.5%),I 型1例(14.3%),混合型7例(17.1%)であり、IIb型と混合型に多くみられた。IIb型では sm2, ly/v (+)、IIc 型では未分化型が4例(60%),sm2が5例(50%)、ly/v (+) が2例(20%)、I型では深部浸潤1例、混合型では UL (+) 3例(42.9%),SM2が5例(71.4%),ly/v (+) が2例(28.6%)であった。不完全治癒切除症例は A群4例(分割2例、断端陽性2例)、B群3例(分割2例、断端陽性1例)の計7例認め、1例で局所再発にてAPC焼灼術を、1例で手術を行ったが遺残を認めず、その他5例では再発を認めなかった。C群21例の適応外理由は未分化型6例、SM2が13例、ly (+)/v (+) が8例、UL (+) で31mm以上の分化型 cT1a癌が2例であった。そのうち、手術拒否もしくは経過観察は11例であり、1例(sig, sm1, ly (+), v (+), UL (+))において胃癌死を、2例で他病死(胆管癌、肺炎)を認めた。一方、手術症例は10例で、7例において遺残を認めなかったが、その後1例(sm2, ly (+), v (+), UL (+))に肝転移による胃癌死を、1例で他病死(大腸癌)を認めた。【考案】適応拡大症例の治療成績は概ね良好であった。適応外症例では潰瘍合併例、肉眼形態では IIb型、混合型に注意が必要であり、診断的治療としてのESDは有用であると考えられたが、一方、ESD後の手術拒否例もみられることも問題点と考えられた。【結語】胃癌治療ガイドライン第3版(案)における内視鏡治療の適応基準は妥当と考えられたが、長期予後のエビデンスを求めるために今後の更なる臨床研究が必要と考えられた。

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手術不能進行胃癌に対する化学療法の治療戦略1トヨタ記念病院 消化器科、2名古屋大学大学院 消化器内科学○篠田 昌孝 1、高士ひとみ 1、鈴木 貴久 1、村山  睦 1、 内山 功子 1、宇佐美彰久 1、遠藤 伸也 1、後藤 秀実 2

JCOG 9912および SPIRITS試験の結果を受けて、胃癌に対する標準化学療法は S-1+CDDP併用療法であり、S-1は単剤での標準治療薬であるとの認識がなされた。しかし、多様な転移浸潤形態、種々の組織型・分化度を示す胃癌に対して、過去に実施されてきた無作為比較試験では、背景別の治療成績の検討が十分とは言えず、個別の症例に対して1st lineの治療レジメンをどのように選択するべきか、また、2nd line以後の治療レジメンの選択、治療終了基準については議論を残している。S-1+CDDP併用療法に不応の症例にも2nd line以後の治療の有効性は示されており、分子標的治療薬の併用も含めて、総合的な治療戦略が求められる。我々は2004年より、手術不能進行胃癌患者を対象に胃癌化学療法を戦略的に実施してきたので報告する。まず、PSが3,4、あるいは重篤な合併症のある患者には、化学療法の適応外として BSC(best supportive care)のみを実施することとし、生存期間中央値は51日であった。次に、PSが2、あるいは年齢が80才以上の患者は、S-1単剤治療とし、生存期間中央値は188日であった。そして、PSが0,1の患者を対象に多剤併用化学療法をプログラムした。即ち、分化型胃癌と肝転移を認める症例には、S-1+CDDPを1st lineとし、S-1+CPT11を2nd lineとした。低分化型胃癌と癌性腹膜炎を認める症例には、S-1+PTXを1st lineとし、PTXを可及的継続とした。その他の症例には、S-1+CDDP、S-1+PTXのいずれかを1st lineとし、他方を2nd lineとした。いずれの場合も、PDとなった後は、さらに未実施の治療レジメン、または S-1単独治療を継続し、QOLの低下や Grade 2以上の毒性が出現するまで治療を継続した。本プログラムで多剤併用化学療法を実施した対症49症例の治療成績は、奏効率46.9%、生存期間中央値461日と良好な成績を得ている。分子標的治療薬の選択併用により更なる治療成績の向上が望まれる。

胃腫瘍に対するHybrid NOTES としての腹腔鏡補助下内視鏡的胃全層切除術の検討

1愛知医科大学 消化器内科○小笠原尚高 1、土方 康孝 1、春日井邦夫 1

背景腹腔鏡補助下に内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)技術を応用した内視鏡的胃全層部分切除術(LAEFR)は,胃内腔側から腫瘍周囲を直接確認しながら胃壁全層を切開する方法で,早期胃癌や胃粘膜下腫瘍に対する切除部分を最小限に抑えて胃の変形を少なくすることが可能と考えられる.今回,当院における LAEFRの有用性,安全性について検討した.方法2009年8月以降,胃粘膜下腫瘍あるいは早期胃癌と診断され LAEFRに同意された7例(男性1例,女性6例,平均年齢70歳)を対象とした.胃粘膜下腫瘍は6例で,全例 EUS-FNAを施行し,うち5例で GISTと診断された.早期胃癌は1例(体上部小彎,IIc)で EUSにて Mと診断したが,病変が広範囲であったためLAEFRを施行した.腫瘍から必要最小限の余白をとり,ESDに準じて粘膜下層までの全周切開後,露出した筋層の一部を針状ナイフにて切開穿孔させ,全層切開した隙間に IT knifeを挿入,腹腔鏡補助下で半周から3/4周性の全層切開を行い,残りは胃壁外からラインを確認し腹腔鏡下にて切除した. 結果全例において,隣接臓器の損傷や術中合併症等を認めず安全に LAEFRが可能であった. GISTの平均径は22.7mm(17-30mm)に対し,切除された GISTを含む胃組織の平均径は34.7mm(25-50mm)であった.高リスク GISTは1例であった.また,早期胃癌は径85mm ×50mmに対し,病変を含む切除された胃組織は径110×62mmであった.腫瘍はすべて断端陰性であり術後の内視鏡検査では胃変形はごく軽度のみで,胃内容物の排泄遅延等を認めなかった.平均入院期間は11.3日間であった. 結語 Hybrid NOTESともいえる LAEFRにより,術後胃変形を防止しうる必要最小限の胃全層部分切除が可能であった.特に,腹腔鏡下手術のみでは切除範囲が大きく術後機能障害をきたしやすい噴門部で有効が高いことが示唆された.本方法は消化管腫瘍に対する治療として確立すれば,ESDと手術との隙間を埋める低侵襲治療として患者への貢献度は高いものと考えられた.

胃 ESD穿孔例における穿孔例の検討1安城更生病院○細井  努 1、山田 雅彦 1、竹内真実子 1

【目的】外科的手術に変わり、早期胃癌に対して ESDによる治療が確立しつつある手技となっている。しかし、その手技の困難さと長時間にわたる治療のため偶発症を引き起こす可能性も高い。今回胃 ESDにおける治療成績とそれに伴う穿孔についての特徴、穿孔時の対処方法について明らかにする。【方法】2007年4月より2011年3月までに施行した胃 ESD症例120病変を対象に、病変の占拠部位、切除片の長径、マーキングから剥離終了までの時間、またその後の対処方法について検討した。デバイスは主に IT knife 2を使用し、症例によりFlush knife BTを使用した。【結果】10例(8.3%)に穿孔を認め、術中穿孔8例、遅発性穿孔2例であった。占拠部位に関しては U領域 3例(11.1%)、M領域3例(6.7%)、L領域4例(8.3%)であった。また、切除片の長径に関しては穿孔例では36.5±20.2mm、非穿孔例では33.7±10.1mmであり、有意差を認めなかった。施行時間については穿孔例116.5±66.6分、非穿孔例では71.7±58.7分(p<0.05)と有意に穿孔例で時間が長かった。また穿孔後の対処として術中穿孔例ではクリップにて縫縮後、全例病変の切除可能であった。5例(62.5%)に腹部穿刺による脱気を行った。穿孔例は全例、絶食、抗生剤投与にて保存的治療を行い、術後4~5日目にガストログラフィンによる造影、または内視鏡検査にて穿孔部の閉鎖を確認し、食事を開始した。【結論】ESDにおいて時間のかかる症例は穿孔の危険性が高く、より慎重に剥離を行うことが必要と考えられた。また、穿孔が起こっても適切な処置により、保存的に治療可能である。

胃 ESD後潰瘍の治癒経過に関する検討1静岡市立静岡病院 消化器内科○大野 和也 1、田中 俊夫 1、高橋 好朗 1、濱村 啓介 1、 武尾 真宏 1、中村 尚広 1、黒石 健吾 1、近藤 貴浩 1、 小柳津竜樹 1

【目的】胃腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の普及に伴い,治療後潰瘍に関する報告も散見されるようになった.治癒率はプロトンポンプ阻害薬(PPI)が H2 blockerに勝ること,8週以内に瘢痕化すること,薬剤により肉芽形成率が異なること等が発表されているが,臨床現場ではこれらに合致しない結果もみられる.当院における胃 ESD後潰瘍の治癒経過について retrospectiveに検証した.【方法】当院で2008年4月から20011年3月までの36ヶ月間に胃 ESDを施行した胃腺腫 /癌の135症例151病変のうち,追跡評価が可能であった113症例128病変を対象とした.術前には酢酸添加インジゴカルミン撒布法や NBI(Narrow Band Imaging)を導入し切除範囲を決定した.ESD後に PPIとポラプレジングを主とした胃粘膜保護剤を継続投与し,治療3ヶ月後(11~13週)に内視鏡で潰瘍治癒を評価した.なお肉芽形成についても評価し,山田2/3型の明確な隆起性肉芽を陽性所見とした.【成績】治療3ヶ月後評価で128病変中5例(3.9%)が瘢痕化せず胃潰瘍 stage分類の H stageに留まり,これらを治癒遅延例とした.領域別では U/M/L:1/1/3例であった.また6例(4.7%)が隆起性肉芽を形成したが,全例が L領域で幽門輪近傍に集中した.更に L領域に限定すれば全41病変中,治癒遅延例は7.3%,肉芽例は14.6%となった.潰瘍出血,癌の遺残再発例は認められなかったが,肉芽例は全例で生検が行われ,3ヶ月以後の観察でも消退しなかった.その他,年齢,切除径,組織型,抗血小板薬の服用歴等では,治癒遅延,肉芽形成に有意な項目は認められなかった.【結論】今回の検討から L領域の潰瘍治癒には注意が必要と思われた.同領域は蠕動や胆汁逆流の影響が強いなどの特性がある.潰瘍治癒遅延例が多かった要因は断定し得ないが,肉芽形成は幽門輪近傍が強い機械的刺激を受けることに起因すると考えた.ESD後潰瘍は人工潰瘍であり通常の消化性潰瘍に比して未解明な部分が多い.病変を切除するだけが ESDではなく,治療後の潰瘍についても理解,検討を重ねていくことが重要と思われた.

S1‒08S1‒07

S1‒06S1‒05

30

糞便中の beta2-microglobulin と creatine kinase B をマーカーに加えた Fecal RNA test の大腸がんスクリーニングの有用性

1浜松医科大学 分子診断学、2浜松医科大学 第1内科○濱屋  寧 1、金岡  繁 1、栗山  茂 2

【 目 的 】 我 々 は 糞 便 中 の cyclooxygenase 2(COX-2),matrix metalloproteinase 7(MMP-7)mRNA発現を指標にした大腸がん診断法 Fecal RNA test(以下 FRT)を開発し、その有用性を報告してきた。今回、COX-2, MMP-7に beta2-microglobulin(B2M),creatine kinase B(CKB)を加えの4マーカーすることによる効果を検討したので報告する。【方法】内視鏡的・病理的に診断された大腸進行腫瘍135例(がん111例、進行腺腫24例)と対照群135例を対象とした。糞便0.5gから RNAを抽出し、qRT-PCRで COX-2, MMP-7, B2M, CKBの解析を行った。またMPA法1回による免疫学的便潜血検査(FOBT)を行い比較検討した。【結果】いずれのマーカーも症例群が対照群に比し有意に発現が上昇し、COX-2, MMP-7は対照群においてほぼ発現を認めなかった。各マーカーのカットオフ値を対照群全体の97.5percentileに設定すると、特異度は RNAマーカーでは98.5%-100%、FOBTは96.3%であった。がん、進行腺腫の感度は、COX-2は75.7%, 33.3%、MMP-7は55.9%, 33.3%、B2Mは24.3%, 25.0%、CKBは28.8%, 25.0%で COX-2が最も高かった。B2Mと CKBは 単独では充分な感度を持たないが、併せて COX-2とMMP-7どちらも陰性の10例の拾い上げが可能であり、4マーカーいずれかが陽性である感度はがんで84.7%, 進行腺腫で70.8%と FOBT(66.7%, 29.2%)に比し有意に高かった(P<0.01)。【結論】B2M, CKBは COX-2陰性大腸進行腫瘍症例の拾い上げに有用であり、4マーカーを用いた FRTは大腸がん診断、特に早期診断に優れている。今後前向き研究による EBMの構築で重要である。

早期大腸癌に対する拡大内視鏡による深達度診断の検討1名古屋市立大学 大学院医学研究科 消化器代謝内科学○北川 美香 1、志村 貴也 1、海老 正秀 1、水島 隆史 1、 平田 慶和 1、村上 賢治 1、片岡 洋望 1、城  卓志 1

【背景】本邦の大腸癌治療ガイドラインにおいて粘膜下層(sm)浸潤距離1000μm未満までの早期大腸癌は内視鏡的治療の適応とされていることから、治療方針決定のための癌の深達度診断は大変重要である。腫瘍表面の pit pattern分類を用いた拡大内視鏡診断は簡便で有用であるが一部の施設にしか普及しておらず、各施設や検査施行医または検査時の状況により診断精度にばらつきがあるのが現状である。【方法】2009年4月1日から2011年3月31日の2年間に、当院にて拡大内視鏡検査を施行した後内視鏡的または外科的に切除された早期大腸癌46例を対象とし、盲目的に retrospectiveに診断した拡大内視鏡診断所見と切除後の病理診断所見とを比較検討した。また、術前レポートに記載されている拡大内視鏡所見と今回の診断所見との一致率も検討した。【結果】平均年齢(mean ± SD)は65±10歳、平均腫瘍径(mean± SD)は23.5±14.7mmであった。Pit pattern分類では IIIL 型1例、IIIS型 2例、IV型を6例みとめたがいずれも粘膜内にとどまる腺腫内癌であった。Vi型軽度不整 pit patternは16例中3例(19%)に sm浸潤癌を認め、sm深部浸潤癌(sm浸潤距離>1000μm)を1例認めた。一方、Vi型高度不整 pit patternを診断した15例中12例(80%)が sm浸潤癌であり、9例(60%)が sm深部浸潤癌であった。VN型 pit patternと診断した6例はすべて sm浸潤癌であり、5例(83%)が sm深部浸潤癌であった。Vi型高度不整または VN型 pit patternを sm深部浸潤癌の指標とした場合、感度93.3%(14/15)、特異度77.4%(24/31)、正診率82.6%(38/46)であった。また術前レポートと今回の拡大内視鏡診断所見の一致率は κ値:0.704であった。【結論】拡大内視鏡診断は、術者間の診断一致率も高く早期大腸癌の深達度診断に有用であると考えられた。

Computer-aided diagnosis systemを用いたCT colonography による大腸腫瘍性病変の診断

1浜松南病院 消化器病・IBDセンター、2浜松南病院 外科○竹内  健 1、飯田 貴之 1、阿部 仁郎 2、渡邊 文利 1、 花井 洋行 1

【背景・目的】近年、大腸がんスクリーニング法として、CT colonography(CTC)の有用性が欧米から多く報告されている。その一方で、通常の CT画像に加えて、注腸造影と内視鏡の疑似的な画像も得られる CTCの的確な読影方法が問題となっている。そこで、コンピューターによる画像解析支援システム(Computer-aided diagnosis system;CAD)が導入されてきているが、その診断における有用性についての検討は少ない。今回、CTCの画像解析ソフトウェアに付属の CAD機能を用いて大腸腫瘍性病変の診断における有用性を評価した。【方法】2010年1月より2011年4月までに当院を受診し同意が得られ、内視鏡検査により病変が認められた19例(男性8例、女性11例、平均年齢68.1歳)を対象とした。被験者は前処置として前日は低残渣食とし、眠前に緩下剤を服用させた。検査当日はクエン酸マグネシウム等張液1.8Lにて処置し大腸内視鏡検査を施行した。続けて鎮痙剤を投与し、炭酸ガスを経肛門的に送気し CTCを行った。得られた画像情報は内視鏡所見を知らされていない放射線技師が GE Healthcare社製 Advantage Workstation VolumeShare4の CAD機能を用いて画像解析を行い、病変の形態と存在部位を内視鏡所見と比較検討した。【結果】対象とした病変数は癌:10;直腸カルチノイド:1;5mm以上のポリープ病:24。CADは病変検出サイズを2mmに設定すると6mm以下の3病変を除き、すべての病変を指摘していた。また、Virtual endoscopy 像により内視鏡所見と同様の形態診断が可能だったが、便等の残渣を陽性所見とする擬陽性が全ての症例で複数認められた。これは検出サイズを5mm以上とすればほぼ回避できるが、7mm以下のポリープ15病変が検出できなくなった。【結語】CADによる CT colonographyは、便潜血反応検査と比較し病変の位置・形態を的確に診断出来る上に放射線技師による診断も可能であり、大腸がんスクリーニングに有用な診断方法と考えられた。しかし、設定により擬陽性が増えるなどの問題があり更に検討する必要がある

切除不能の進行胃癌に対する TS-1+Docetaxel+ Lentinan 併用療法の検討

1藤田保健衛生大学病院 消化管内科○米村  穣 1、柴田 知行 1、中村 正克 1、石塚 隆充 1、 吉岡 大介 1、大久保正明 1、市川裕一朗 1、大森 崇史 1、 長坂 光夫 1、藤田 浩史 1、中川 義仁 1、鎌野 俊彰 1、 丸山 尚子 1、小村 成臣 1、釜谷 明美 1、生野 浩和 1、 加藤 祐子 1、城代 康貴 1、平田 一朗 1

現在の進行胃癌に対する1st line chemotherapyとしては JCOG9912の結果、TS-1 baseが推奨され、SPIRITS試験の結果から TS-1+CDDPの2剤併用療法が標準療法になりつつある。しかし、症例によっては腎機能の低下のために CDDPが使用し難い場合がある。また、腹水貯留症例に対しては、腹水への移行性がよいタキサン系の薬剤を使用することも検討する場合がある。現在、JACCRO GC-03において TS-1+Docetaxel(TXT)の有用性に対する治験が行われており、結果が待たれている。そこで我々は、切除不能の進行胃癌に対して当院で行った1st lineでの TS-1+TXT+Lentinan(LNT)併用療法について検討を行った。【症例】対象は2010年以降に TS-1+TXT+LNT併用療法を行った切除不能の cStage4進行胃癌症例11例である。年齢は61~84歳(中央値70.45歳)、全例 PS0~1、組織型は分化型2例、未分化型9例であり、全例初回の化学療法として行われた。治療法は TS-1 80mg/m2/day を2週 間 内 服 投 与 し1週 間 休 薬、TXT40mg/m2とLNT2mg/bodyを day1に点滴投与を行った。【結果】有害事象は血液毒性では Grade3以上の好中球減少を2例(33%)に認めるのみだった。治療効果は CR:0例、PR:4例、SD:6例、PD:1例で奏効率は36%であった。うち8例が2次治療に移行し、3例は現在も同治療を継続中である。MSTは241.6日、無再発生存期間は209日であった。【まとめ】切除不能の進行胃癌に対する TS-1+TXT+LNT併用療法は有用な治療法の1つとなると考えた。今後症例を集積し、さらなる検討が必要と考えられた。

S1‒12S1‒11

S1‒10S1‒09

31

当科におけるダブルバルーン小腸内視鏡(DBE)検査と小腸癌に関する検討

1岐阜大学医学部付属病院 消化器病態学○井深 貴士 1、荒木 寛司 1、森脇 久隆 1

【目的】従来,小腸腫瘍を術前に診断することは困難であったが、ダブルバルーン小腸内視鏡(DBE)の登場により,多数の小腸腫瘍が診断されるようになった.今回当科における DBE検査と小腸癌について検討した.【対象】2004年3月より2010年12月まで当科にて DBEを施行した241例461件(経口220件,経肛門241件)を対象とした.【成績】DBEの検査契機は原因不明の消化管出血72例(29.9%),悪性リンパ腫小腸精査目的50例(20.7%),腸閉塞,狭窄精査31例(12.9%),画像検査(CT, FDG-PETなど)にて異常指摘32例(12.3%)などであった.偶発症は9件(2.0%)で認めた(肺炎5件,急性膵炎2件 ,敗血症疑い1件,穿孔1件). 155例(64.3%)が有所見例であり,腫瘍性病変が53例(34.2%)と最も多くを占めた.その他の所見として潰瘍・びらん31例(20%),小腸クローン病21例(13.5%),血管性病変11例(7.1%)などを認めた.腫瘍性病変の内訳は悪性リンパ腫29例,GIST7例,原発性小腸癌5例,腺腫3例,Peutz-Jeghers症候群2例,hamartomatous polyp1例,polyp(病理不明)1例,悪性黒色腫1例,神経鞘腫1例,脂肪腫1例,SMT2例であった.5例の原発性小腸癌の内1例は原発性小腸癌の術後再発であった.小腸癌の診断契機は腸閉塞症状3例,検診にて肝腫瘍が指摘され CT検査にて小腸病変が指摘された1例,発熱とリンパ節腫脹を認め CT,上部消化管造影検査にて小腸病変が指摘された1例であった.臨床症状として4例が貧血を認めており,内2例が消化管出血を伴っていた.存在部位は十二指腸上行脚1例,空腸4例であった.大腸癌取扱規約に準じて分類すると肉眼型は5例とも2型もしくは3型でありいずれも進行癌であった.全例が DBE施行時の生検にて診断が可能であった.生検病理結果は tub1 1例,tub2 3例,por 1例であった.治療方針は4例で外科的加療が行われ、遠隔転移1例,腹膜播種1例,腸管膜リンパ節転移2例を認めた.【結論】小腸病変の内,腫瘍性病変の占める頻度は高い.その中で小腸癌の占める割合は比較的低い。又、進行した状態で診断される場合が多い.DBEにて小腸癌の術前診断は可能となったが,今後より早期の診断が望まれる.

右側結腸癌に対する腹腔鏡下大腸切除術の術式の選択と 意義

1三重大学 医学部 消化管・小児外科、2同先端的外科技術開発学○廣 純一郎 1、井上 靖浩 1、川本  文 1、石野 義人 1、 北嶋 貴仁 1、大井 正貴 2、小林美奈子 2、毛利 靖彦 1、 楠  正人 1,2

はじめに:大腸癌における腹腔鏡下大腸切除術は,Conventional Laparoscopic Surgery(CLS),Reduce Port Laparoscopic Surgery,Single Incisional Laparoscopic Surgeryなど様々な選択肢があるが適応や有用性は十分に検討されていない.当科における右側結腸癌に対する腹腔鏡下手術の変遷と工夫およびその成績について報告する.方法:2000年4月より2011年4月までに施行した大腸癌に対する腹腔鏡下手術症例186例中,右側結腸癌症例48例を対象とした.2000年4月より早期癌,2006年1月よりステージ IIIaまでの進行癌に対する CLS,2010年4月よりステージ Iに対する単孔式内視鏡手術を開始し,段階的に適応拡大し術式の選択と意義について検討を行った.リンパ節郭清は,cM癌に対し D1(4例),cSM癌に対し D2(26例),cMP以深に対しD3(18例)を施行した.結果:結腸右半分切除(Rt)35例,回盲部切除(Ce)9例,単孔式内視鏡手術(S)4例(結腸右半切除2例,回盲部切除2例)であった.単孔式内視鏡手術から CLSへ移行した症例は認めなかった.CLSでは D3郭清が可能であったが,単孔式内視鏡手術では狭い視野で鉗子間干渉など手技的に困難であった.ポートの工夫や3mm細径鉗子の使用により D2郭清が安全に施行できた.手術時間は Rt:240分,Ce:179分,S:223分と回盲部切除が最も短く有意差を認めた(P<0.05).単孔式内視鏡手術は,腫瘍最大径(3.3cm),臓器摘出創(3.7cm)が最小で,術後在院日数(7.7日)も最短であったが有意差は認めなかった. D3郭清が必要な進行癌には CLSが,回盲部に主座をおく腫瘍径が4cmまでのステージ Iが単孔式内視鏡手術の良い適応と考えられた.まとめ:右側結腸癌に対する腹腔鏡下手術は,各術式の特性を理解し適応を決めることで,安全性と根治性に整容性を付加した治療が可能であると考えられた.

直腸 LSTの特徴と ESDの意義に関する検討1松田病院 内視鏡センター○浅野 道雄 1、中井 勝彦 1、野中 雅彦 1、松田 保秀 1

【はじめに】当院では、SM深部以深が確診できる病変や一部の顆粒均一型 LSTを除く大腸病変に対し、原則的に内視鏡的一括切除を試みている。今回、直腸 LSTについてその特徴を明らかにし、ESDの意義を検証するために病変の解析を行った。【対象と方法】2004年から2011年3月に当施設で内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を行った大腸病変301例のうち、LSTの形態をとる腫瘍性病変207例を対象とし、直腸(Ra、Rb)89例、結腸(C~Rs)118例とに分けて検討した。【結果】直腸の担癌率および SM以深浸潤率は各々51.7%、21.3%で、結腸の29.7%、16.9%に比して高かった。形態亜分類の割合は、結節混在型(mix)、顆粒均一型(homo)、平坦隆起型(FE)、偽陥凹型(PD)の順に直腸では各70.8、13.5、9.0、6.7%、直腸では各44.1、11.1、14.4、30.5%。腫瘍の平均最大径は直腸42.4mm、結腸32.3mmで、70mm以上の LSTの割合は直腸11.6%、結腸3.2%。直腸病変89例の形態亜分類別担癌率は、mix、homo、FE、PDの順に各57.1、8.3,50.0,83.3%、SM以深浸潤率は各22.2,0,12.5,66.7%。Rb病変63例のうち歯状線からの距離が1cm以内の病変は20例。ESDの一括切除率は直腸89.9%、結腸81.4%で、穿孔を直腸2.2.%、結腸2.4%に認めた。【考察】直腸には、結腸に比べて大きな結節混在型 LSTが多く偽陥凹型が少なかった。その担癌率や SM浸潤率は結腸に比して高いが、内視鏡的な壁深達度の厳密な推測は困難なものが多い。また、歯状線に近い病変もあり、EMRによる一括切除が困難な病変が少なくない。ESDの難易度は結腸に比して低く、全周に近い病変や10cmを超えるような病変でも ESD可能である。一方で腸切除による術後機能障害は大きい。以上から、一般的に直腸には ESDの適応となる病変が多いといえる。

内視鏡摘除のみで経過観察されている大腸SM癌症例によるガイドラインの妥当性の検討

1静岡県立総合病院 消化器内科○鈴木 直之 1、菊山 正隆 1、森田 敏広 1、吉田 将雄 1、 永倉千紗子 1、上田  樹 1、奥野 真理 1、重友 美紀 1、 山田 友世 1、黒上 貴史 1、白根 尚文 1、萱原 隆久 1

【背景と目的】内視鏡摘除病変において、2005年大腸癌ガイドラインから(1)垂直断端陽性(2)SM垂直浸潤距離1000μm以上(3)分化型癌以外(4)脈管侵襲陽性、のいずれかに合致する場合は追加切除を考慮するとされてきた。しかし、追加切除を施行した大腸 SM癌のリンパ節転移や局所遺残の割合は依然低い。そこで同ガイドライン作成から5年が過ぎた現在において内視鏡治療のみで手術を終了した症例を検討することによって、その妥当性や今後の展望について検討をした。【方法】2004年1月1日から2008年12月31日までに当院にて内視鏡治療を行った大腸 SM癌96症例のうち、内視鏡的摘除のみで治療を終了し2年以上経過を追えた30例について、上記(1)から(4)のいずれにも合致しない治癒切除群(A群)15例と、いずれかが合致しガイドライン上追加切除が考慮される群(B群)15例に分けてそれぞれを比較した。【成績】A群:B群の平均観察期間はそれぞれ2.77年:3.71年であった。B群において上記(1)~(4)の項目に合致した症例はそれぞれ、(1)5例(33.3%)、(2)10例(66.7%)、(3)0例(0%)、(4)7例(46.7%)であった。また、合致した項目数では3項目以上が2例(13.3%)、2項目が4例(26.7%)、1項目が9例(60%)であった。今回の検討では A群、B群ともに再発症例はみられなかった。また、B群のうち3項目を満たした2症例および2項目を満たした症例のうちの1例(すべて直腸癌)は追加治療として放射線照射が行われていた。【結論】今回の検討では、大腸癌ガイドラインにおける治癒切除基準を満たしたものはすべて再発は認められておらず内視鏡のみによる治療が成り立つと考えられた。また、追加治療を考慮すべき病変でも放射線照射を追加した症例もあるが全症例で再発は認められなかった。大腸 SM癌全体のリンパ節転移率は10%ほどであり、今回のような予後調査の更なる蓄積から、より over surgeryを減らせる可能性も示唆された。

S1‒16S1‒15

S1‒14S1‒13

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当科における食道切除後小腸再建の検討1名古屋大学大学院腫瘍外科○深谷 昌秀 1、板津 慶太 1、松葉 秀基 1、平田 昭裕 1、 江畑 智希 1、横山 幸浩 1、角田 伸行 1、伊神  剛 1、 菅原  元 1、高橋  祐 1、上原 圭介 1、吉岡裕一郎 1、 梛野 正人 1

<はじめに>胃切除後食道癌では結腸再建がよく行なわれているが、縫合不全の頻度が高く、また手術も煩雑で手術侵襲が大きくなる。有茎空腸再建は吻合部も食道空腸吻合部とY脚2つのみで、結腸再建より手術侵襲は少ないと考える。当科では2007年1月より胸壁前経路有茎空腸再建を導入し、16例を経験したのでその成績を報告する。<術式>通常第2第3空腸動静脈を処理し、空腸を頚部に挙上する。右側の第3肋軟骨を切除し、内胸動静脈を露出、第2空腸動静脈と顕微鏡下で吻合する。腹腔内流入部から40cmのところで Y脚を作成する。腹壁を閉じる際、早期の2例で術後早期に空腸挙上部腹壁の隙間より腸管が脱出し腹壁嵌頓ヘルニアが発生したので、空腸の腹腔内への流入部で腸管と腹壁を必ず固定するようにしている。<対象と方法>2007年1月から2010年10月に行なった胸壁前経路有茎空腸再建16例(胃癌合併5例 胃切除後6例 胃全摘後2例 胃管癌3例)を同時期に行なわれた結腸再建6例(回結腸再建3例 横行結腸再建3例((胃癌合併2例 PpPD後1例 胃切除後2件 胃全摘後1例)))と比較検討した。<結果>16例中15例で空腸動静脈と内胸動静脈の血管吻合を行なった。小腸再建を結腸再建と比較すると、平均手術時間 738分 vs 672分 平均出血量 1467ml vs 1651ml 合併症は術後肺炎 4例(25%)vs 2例(33%)重症肺炎 2例(10%)vs 1例(17%)縫合不全1例(6%)vs 2例(33%) 在院死亡1例(6%)vs 1例(16%)であった。小腸再建特有の合併症として空腸挙上部腹壁の隙間より腸管が脱出した腹壁嵌頓ヘルニア2例(20%)があった。在院日数 40.9日 vs 71.8日であった。<まとめ>当科では、通常、空腸動静脈の血行再建を行なうので、手術時間が長くなる欠点があるが、同時期の結腸再建と比較してあまり変わらなかった。出血量、在院日数は小腸再建の方が少なかったが有意な差は認めなかった。合併症に関しては、小腸再建は重症肺炎で1例在院死亡例があるものの、縫合不全は1例のみで比較的良好な結果を得ている。<結語>当科の小腸再建は血行再建をするので手間がかかるが縫合不全は少なく、在院日数も少ないので優良な術式と思われる。

ダブルバルーン内視鏡(DBE)を用いた小腸腫瘍診断1浜松医科大学 消化器内科、2浜松医科大学 分子診断学、3浜松医科大学 臨床研究管理センター○栗山  茂 1、大澤  恵 1、鈴木 崇弘 1、石田 夏樹 1、 佐原  秀 1、池谷賢太郎 1、寺井 智宏 1、魚谷 貴洋 1、 山出美穂子 1、高柳 泰宏 1、西野 眞史 1、濱屋  寧 1、 杉本 光繁 1、金岡  繁 2、古田 隆久 3、杉本  健 1

【目的】小腸腫瘍は従来稀な疾患でありまた術前診断が困難な場合が多かったが、ダブルバルーン内視鏡(DBE)の普及により正確な存在診断や術前診断が行われるようになってきた。当院での DBEを用いた小腸腫瘍診断の経験と有用性を報告する。【方法】2006年3月~2011年2月の期間に、当院で DBEを施行した201例(168症例:経口的74例、経肛門的127例)を対象とし、小腸腫瘍の診断につき検討した。【成績】DBE検査目的は消化管出血精査70例、クローン病精査・治療44例、小腸腫瘍疑い精査39例、などであった。そのうち小腸腫瘍は24例(12%)に認められ、全例で DBE前に CT、小腸造影、CEなどの検査により小腸腫瘍を疑われた患者からの発見であった。1症例で深部挿入困難で腫瘍診断が困難であった。組織診断確定率は75%(18例 /24例)であり、その内訳は、悪性リンパ腫8例(びまん性大細胞型4例、濾胞性リンパ腫3例、NK/T細胞性リンパ腫1例)、原発性小腸癌4例(十二指腸水平脚2例、空腸癌1例、回腸癌1例)、GIST4例、腺腫4例(FAP2例)、過誤腫3例、カルチノイド1例、脂肪腫1例であった。GIST・カルチノイド・脂肪腫の粘膜下腫瘍病変6例ではDBEによる確定病理診断には至らなかったが、肉眼形態や他の検査から診断の推測は可能であった。過誤腫の2例、腺腫の1例に対しては EMRを施行した。原発性小腸癌では全例2型進行癌での発見であった。3例は中分化腺癌であり、1例はクローン病に合併した回腸癌で低分化腺癌であった。腫瘍診断が困難であった1例は CE、CTにて回腸癌を疑ったが腹膜播種による高度癒着で経口、経肛門いずれも病変に到達できず、手術にて回腸癌と確定診断した。小腸癌で CEA高値例は1例のみであり、また悪性リンパ腫で可溶性 IL-2Rは140~4870(平均1429)U/mlと高値であった。【結論】DBEは他検査で小腸腫瘍が疑われた症例の二次的精査として小腸腫瘍の質的診断(部位、サイズ、病理)および治療方針決定に有用であり、一部の症例では内視鏡治療を可能にした。今後も小腸腫瘍に対しての良悪性の診断や適切な治療方針の決定のためにも DBEの必要性が高まると考えられる。

S1‒18S1‒17

33

ミリプラチン併用 TACEによる肝細胞癌治療 ―エピルビシンとの比較検討―

1朝日大学 村上記念病院 消化器内科○大洞 昭博 1、小島 孝雄 1、加藤 隆弘 1、宮脇喜一郎 1、 遠藤 美生 1、高野 幸彦 1、福田 信宏 1、吉田 尚美 1

<目的>2010年より肝細胞癌における肝動注リピオドリゼーション用薬剤のミリプラチンが使用可能となった.最近,TACEへの使用報告が散見されるが,今回,当科における初期成績について検討した.<方法>ミリプラチン 70mgをヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステルに懸濁した後,ゼラチンスポンゼルと混注し,通常の TACEに準じた方法でマイクロカテーテルから投与した.注入量は最大投与量を70mgまでとし,それ以下の場合は腫瘍血管が懸濁液で充満した時点で終了とした.比較対照群としてほぼ同時期に施行したエピルビシンによる TACE症例11例(以下,E群)と血液生化学検査所見,腫瘍マーカーによる効果判定,自他覚的所見の差異について比較検討した.<対象>十分なインフォームド・コンセントのもと,ミリプラチンによる TACE単独治療が施行された肝細胞癌患者11名(以下,M群)(男性5名,女性6名.年齢47~81歳,平均72.7歳).背景肝は,B型肝硬変1例,C型肝硬変10例.Child-Pugh A が8例,Bが 3例であった.2群の術前肝予備能は,ほぼ同じで,有意差のある検査値はなかった.<結果>自他覚的所見として,発熱は10例(91%.grade2以上は7名で63.4%)に認めた. M, E両群の発熱期間はほぼ同じであったが,最高体温はM群の方が高かった.M群においては2相性発熱を2例(18.1%.治療後11~15日と12~16日まで)に認めた.悪心はM群,疼痛は E群の方が多かった.治療前後の血液生化学検査所見を比較すると,両群ともに軽度の血小板数の低下,AST・ALT上昇や Alb値の低下を認めたが,いずれも肝庇護薬にて改善した.M群のみにおいて白血球数の有意な増加と,さらに T-Bilの有意な上昇を認めた.治療後の腫瘍マーカーの変化は,M群においては AFPやPIVKA2の有意な低下は認められなかったが,E群においては共に有意に低下(p値は共に=0.031)していた.<結語>ミリプラチン併用 TACEはエピルビシン併用 TACEと比較して患者認容性は同等であったが,その治療効果に関してはエピルビシンよりやや劣る可能性も示唆され,さらなる症例の蓄積が必要と思われる.

乏血性肝細胞癌の診断における超音波造影検査の有用性についての検討~特に血管相の染影パターンに注目して

1岐阜市民病院 消化器内科○林  秀樹 1、西垣 洋一 1、冨田 栄一 1

【目的】ソナゾイドを用いた造影超音波検査は空間分解能が高く、リアルタイム性に優れた血流動態の把握が可能であり早期肝細胞癌の診断に有用である。当科でも慢性肝疾患における小結節に対してソナゾイド造影超音波検査を積極的に施行し、乏血性肝細胞癌の診断における有用性について報告してきたが、今回はさらにその血管相における染影パターンに注目して病理学的検討を行ったので報告する。【対象・方法】2007年1月より2010年3月の間に、当科にてソナゾイド造影 USを行い、血管相では hypovascularで Kupffer phaseでは造影欠損を示さなかった56結節。年齢:71±7歳(55~87),性別(男 /女):42/14,背景肝:LC (C) 35例,LC (B) 7例,LC (非 B非 C) 7例,CH (C) 5例,CH (B) 2例。結節径:12.8±3.1mm(7.9~22.5)。内部エコーパターン:低エコー45結節,高エコー11結節。血管相の染影パターンは以下の4型に分類した。I型:結節全体の血流がほとんど認められないもの。II型:結節の一部の血流が認められないもの。III型:結節全体が染影されるものの、その染影効果が周囲肝と比較して弱いもの。IV型:基本的には I型であるが、結節内部を既存の脈管が貫いていると思われるもの。全ての結節を針生検にて病理組織学的に検討した。【結果】56結節の病理組織所見:高分化型肝細胞癌(wd-HCC)23結節,high-grade dysplastic nodule(h-DN)6結節,low-grade dysplastic nodule 6結節(l-DN),非腫瘍 21結節。染影パターン別の病理所見(wd-HCC/h-DN/l-DN/非腫瘍)は I型(19結節):9/4/3/3。II型(12結節):6/1/1/4。III 型(19結節):8/1/2/8。IV 型(6結節):(0/0/0/6)であった。染影パターンを I型と非 I型、病理所見をdysplastic nodule以上の腫瘍と非腫瘍に分類すると I型を示した19結節中16結節(84.2%)が腫瘍であり、非 I型と比べて有意に多かった(p=0.04)。IV型はすべて非腫瘍であった。【結語】ソナゾイド造影

US検査の血管相の染影パターンにより乏血性腫瘤における病理学的悪性度を推測できる可能性が示唆された。

高度血管侵襲を伴う肝細胞癌に対する手術適応と術式の 工夫

1藤田保健衛生大学 肝・脾外科○加藤悠太郎 1、棚橋 義直 1、所  隆昌 1、吉田 淳一 1、 砂川理三郎 1、香川  幹 1、竹浦 千夏 1、杉岡  篤 1

【緒言】Vp3, Vp4, Vv2, Vv3を伴う高度血管侵襲合併肝細胞癌に対し,われわれは術前単回肝動注(CAM)による手術適応の決定とグリソン一括処理先行・腫瘍栓先進部の Zone分類による術式の工夫により良好な治療成績を得ているので報告する.【対象】Vp3, Vp4, Vv2, Vv3合併肝細胞癌76例を対象とし,そのうち51例(67%)に切除を行った.切除例の内訳は手術単独群が10例,CAM後切除群が41例で,CAM施行例の切除率は66%であった.CAM有効群のうち,腫瘍マーカーと画像から有効と判断した CAM有効群が16例,CAM無効群が25例であった.門脈腫瘍栓症例に対する術式はグリソン一括処理先行の脈管処理と腫瘍栓先進部の Zone分類による段階的腫瘍栓摘除を基本とし,対側門脈2次分枝以降の門脈腫瘍栓摘除5例,人工心肺下右房内腫瘍栓摘除2例,心嚢内下大静脈遮断4例を行った.【方法と結果】非切除群,手術単独群,CAM無効群,CAM有効群の

5年生存率は0%, 0%, 0%, 63%で,50%生存期間は3か月,3か月,6か月,69か月であった.手術単独群,CAM無効群,CAM有効群の5年無再発生存率は0%, 0%, 11%, 50%無再発生存期間は3か月,2か月,20か月で,CAM有効群の成績は有意に良好であった.再発形式は,CAM無効群が残肝多発が6例,遠隔転移14例,CAM有効群が無再発4例,残肝8例,腫瘍栓1例,遠隔転移2例で,両群の再発形式は異なり,CAM有効群では再発後の治療成績も良好であった.グリソン一括処理は側副血行路の温存,胆管確保,血流制御に有用であった.CAM有効群では腫瘍栓の癒着が高度となるため,腫瘍栓先進部をZone分類し,腫瘍栓を段階的に摘除する術式の工夫が,残肝虚血時間の短縮,出血量の制御の有用であった.【結語】高度血管侵襲を伴う肝細胞癌に対し,CAMによる手術適応決定とグリソン一括処理先行・腫瘍栓先進部 Zone分類による術式の工夫が切除の安全性と根治性に寄与すると考えられた.

新規4D-US probe を用いたRFA治療効果の検討1名古屋市立大学大学院医学研究科 消化器・代謝内科学○日下部篤宣 1、野尻 俊輔 1、城  卓志 1

背景:肝癌のラジオ波焼灼療法(RFA)において、穿刺位置は治療効果に影響する重要な因子である。通常の2D-USでは2次元スライス像が得られるのみで、スライス厚み方向の情報が得られない。このため、穿刺針が腫瘍中心部からずれることで焼灼が不十分になることを経験する。近年、US装置の発達により3D画像、更にはそれに時間的変化の情報を加えた4D(リアルタイム3D)画像が得られるようになった。今回、新たに開発された4D-US probeを用いることで良好なRFA治療効果が得られるか検討した。方法:2011年1月~3月までに4D-USガイド下 RFAを5症例(5結節)に施行した(平均年齢67.3歳、男女比 3例:2例)。超音波診断装置は Aplio XG(東芝社製)、4D probeは新たに開発された PVT-375MV(3.5MHz)を用いた。RFA穿刺時には、通常の Bモードで得られる電子走査断面と穿刺ラインを含みこの電子走査断面に直交する断面をリアルタイムに並列表示できる biopsy modeを用いた。RFA穿刺針は Le Veen needle又は Cool-tip RFを用い、症例毎に最適と思われる穿刺針を選択した。RFA効果判定は、RFA施行3日後にダイナミック CTを撮影し、西島らが報告した R gradeに従い判定した(R0-R3の4分類:R2:腫瘍全周性に凝固域(+)、しかし ablated margin(AM)5mm未満の部位(+)、R3:腫瘍全周性に5mm以上の AM(+);肝臓 2008;49巻5号)。結果:対象患者の病因は C型肝硬変:4例、B型肝硬変:1例、肝予備能は Child A:3例、Child B:2例であった。腫瘍存在部位は S3:1例、S4:3例、S6:1例であり、治療対象の腫瘍径は平均13.0mm(10-15mm)であった。これらの症例に対して biopsy modeを用いて穿刺したところ、全症例で2方向から腫瘍中心を正確に穿刺していることがリアルタイムで観察できた。効果判定では全例で R3の良好な凝固域が得られた。重篤な合併症は全症例において認められなかった。結語:4D-US biopsy modeを用いることで、腫瘍中心部を正確に穿刺することが可能となり、その結果、良好な治療効果が得られた。今後、4D-USの更なる画質及びリアルタイム性の向上などが期待され、RFAにおける4D-USの有用性は高まるものと思われる。

シンポジウム2

S2‒1

S2‒3

S2‒2

S2‒4

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肝細胞癌に対する放射線治療の位置づけ1浜松医療センター 消化器科、2浜松医療センター 放射線治療科○本城裕美子 1、影山富士人 1、飯島 光晴 2

【目的】肝細胞癌(HCC)に対する放射線治療(RT)は、その適応において一定の指針が示されていない。HCCに対する RTの適応と有用性を検討する。【対象と方法】対象は2000年1月から2011年1月に肝内病変に RTを行った17例(肝内病変群)と遠隔転移巣に RTを行った27例(転移群)の計44例。各群において治療目的と効果を評価した。RTは10MV X線を用い対向又は多門照射、総線量は肝内病変に対しては50Gy、転移巣に対しては30Gyを目標とした。【結果】[肝内病変群]男 /女:17/0例、平均年齢は69歳(58-83歳)で HBV/

HCV/NBNCが1/11/5例、Child-Pugh A/Bは6/11例で Stage II/III/IVa/IVbが1/9/4/3例。脈管浸潤は8例にみられた。RTの完遂率は88.2%で全例のMSTは257日であった。治療前後の変化率は治療直後 /1ヶ月後/3ヶ月後で Albは -8.6/-10.4/-9.8%、PTは -1.4/-6.2/-5.3%であった。治療前の Albが3.5g/dL以下、PTが70%未満の症例で治療後の値がより低下する傾向にあった。治療目的は TACE不応例6例、破裂予防5例、胆道出血2例、Vp 3例、Vv 1例であったがそれぞれの達成率は80%、100%、100%、66.7%、100%であった。Vpに対する治療では3例中2例で腫瘍の縮小、消失、Albの改善と良好な門脈血流が得られ追加治療が可能となり、1例は RT後319日間、1例は760日間の生存を得た。[転移群]男 /女:22/5例、平均年齢は72歳(47-85歳)でHBV/HCV/NBNCが2/22/3例、Child-Pugh A/B/Cは16/10/1例。転移後のMSTは145日であり死因は癌死が12例、肝不全死が5例であった。転移部位の内訳は骨24例、副腎1例、リンパ節4例、脳2例、胸壁1例、大殿筋1例(重複あり)で、部位別のMSTに差はなかった。RTは主に症状緩和に施行され、ほぼ達成されていた。【考察】肝内病変に対する RTは TACE不適例の中で特に脈管浸潤例に多くなされており、一定の局所制御が得られた。ただし予備能の悪い例はその悪化に注意が必要であった。門脈腫瘍塞栓症例では Alb値の改善も期待され、治療の選択枝の一つとなりえた。遠隔転移例の予後は肝機能及び原発巣のコントロールによるが、RTの症状緩和の目的は達成され、患者の QOLに寄与していた。

当院におけるソラフェニブの使用経験1大垣市民病院 消化器内科○安藤 祐資 1、熊田  卓 1、桐山 勢生 1、谷川  誠 1、 久永 康宏 1、豊田 秀徳 1、金森  明 1、多田 俊史 1、 新家 卓郎 1、安東 直人 1、安田  諭 1、坂井 圭介 1、 木村  純 1、山本 健太 1

【目的】分子標的治療薬であるソラフェニブは SHARP試験や Asia-Pacific試験において延命効果が報告され、進行肝細胞癌に対する治療薬として重要な役割を果たしている。今回、当院で経験した進行肝細胞癌に対するソラフェニブ投与例の検討を行った。【方法】対象は2009年6月から2010年12月までの間に当院にてソラフェニブが投与された進行肝細胞癌の患者37例である。【結果】男性30例、女性7例で、平均年齢は70.8±9.4歳であった。背景肝は HBV8例、HCV22例、非 B非 C7例で、Child-Pugh分類は Aが30例、Bが7例であった。初回治療は肝切除15例、TACE10例、TACE+RFAもしくは PEIT3例、RFA2例、PEIT1例、肝動注化学療法1例であり、初回治療としてソラフェニブが投与されたのが5例であった。また前治療は TACE(+RFA)25例、肝切除3例、肝動注化学療法3例、PEIT1例であった。ソラフェニブ開始時の肝細胞癌の進行度は Stage3が8例、4aが9例、4bが20例であった。ソラフェニブの初期投与量は、400mgが10例で、800mgが27例であり、400mg開始例のうち7例が増量され、800mg開始例のうち7例で減量されていた。生存期間中央値は6ヶ月(0.5-19ヶ月)で、内服期間中央値は3ヶ月(0.25-15ヶ月)であった。また3ヶ月 /6ヶ月 /12ヶ月の生存率はそれぞれ、70.4%/58.2%/36.5%であった。副作用が認められたのが30例で、内訳は手足症候群9例、高血圧5例、食欲不振5例、下痢5例、その他7例であった(重複あり)。内服が中止されたのが27例で、中止理由として癌進行が11例で、肝不全進行が8例、その他の副作用によるものが8例であった。【結論】Asia-Pacific試験でのソラフェニブ投与群の生存期間中央値は6.5ヶ月で6ヶ月生存率は53.3%であり、当院でも同じような結果が認められ、進行肝細胞癌の治療のひとつとして重要な役割を果たすものと考えられた。今後、副作用対策等の検討をさらにすすめる必要があると考えられた。

当院における肝細胞癌に対するインターフェロン併用5FU動注化学療法

1静岡県立総合病院、2京都桂病院○白根 尚文 1、國立 裕之 2、菊山 正隆 1

【目的】当院では高度進行肝細胞癌(HCC)の治療成績の向上を目的として2002年よりインターフェロン併用5FU動注療法を導入している。従来施行していた low dose FP療法との比較を含め、その治療成績の検討を行った。【方法】2002年より2010年までに当院でリザーバーシステムを留置し、動注治療をおこなった HCC 45症例を対象とした。そのうちインターフェロン併用5FU動注療法は22症例であった。【成績】インターフェロン併用5FU動注療法の平均生存期間は385日であった。平均生存期間に関しては low dose FP療法と有意差は認めなかった。CR+ PRは14症例であり平均生存期間は630日であった。また1クール施行後に腫瘍マーカーの著明な減少を認める症例が多く認められた。【結語】当院においてはインターフェロン併用5FU動注療法での low dose FP療法に比べて平均生存期間の大きな改善は認めなかった。ただし治療が奏功した症例においては予後の改善が見込め、また比較的短期間で治療効果の予測が可能と思われた。

肝細胞癌に対する経カテーテル的ミリプラチン動注および塞栓療法の検討

1独立行政法人国立病院機構 東名古屋病院 消化器科、2独立行政法人国立病院機構 名古屋医療センター 消化器科、3名古屋大学大学院 消化器内科学○平嶋  昇 1,2、小林 慶子 1,2、高橋 宏尚 1、神谷 麻子 2、 横井 美咲 2、 斎藤 雅之 2、 玉置  大 2、龍華 庸光 2、 日比野佑介 2、 都築 智之 2、 島田 昌明 2、岩瀬 弘明 2、 後藤 秀実 3

[はじめに]2009年10月、肝細胞癌に対しミリプラチンの肝動注療法が保険適応となった。ミリプラチンは肝細胞癌に対するLipiodolization適応が認められた初めてのプラチナ製剤で治療効果向上が期待されている。今回我々がミリプラチンを使用した肝細胞癌症例の早期効果を検討したので報告する。[対象と方法]対象は2010年1月から12月に経カテーテル的ミリプラチン動注および塞栓療法(TAE) を実施し、カテーテル療法のみで治療した肝細胞癌患者27人である。男性16例、女性11例、年齢は平均70.7 (44-84) 才である。肝障害の原因は HBが4例、HCが17例、NBNCが6例である。肝細胞癌は単発16例で平均径37.2 (15-60)mm、多発が11例で最大腫瘍径は平均40.9 (20-100)mmであった。初回治療例20例、再治療例7例であった。ミリプラチンによる治療回数は一回が18例、二回が3例、4回が1例であった。ミリプラチン動注のみで治療したのは21例、2回目以降にミリプラチン動注後に TAEを併用したのは6例であった。今回は初期効果の判定として治療1週間後と1か月後の CTを用いて腫瘍最大割面でのリピオドール沈着率 (%) を計算して判定した。[結果]ミリプラチンの一回使用量は平均71.8 (20-130)mgであった。ミリプラチン動注のみで治療した症例の CTリピオドール沈着率は1週間後・1か月後の順に平均で1回目施行26例では42(0-100)%・23 (0-50)%、2回目施行5例では51 (10-100)%・25 (0-30)%、3回目施行2例では45 (30, 60)%・18 (10, 25)%であった。ミリプラ動注後に TAE併用を併用した6例 ( 計7回 TAE施行 ) では、前動注後の1週間後の CTリピオドール沈着率が37 (0-90)%から TAE後は87 (20-100)%に上昇した。動注単独例でも TAE併用例でも発熱と軽度の肝機能障害以外に重篤な副作用は認められなかった。[考案]肝細胞癌に対するミリプラチンの肝動注療法は安全性が高いが、リピオドール沈着率が1か月後には低下する傾向があり、リピオドール沈着率を上げるためには動注後にTAEを併用するなどの工夫が必要と考えられた。

S2‒8S2‒7

S2‒6S2‒5

35

当院におけるソラフェニブ投与の現状~その適応に関して~1三重大学○小倉  英 1、山本 憲彦 1、稲垣 悠二 1、野尻圭一郎 1、 草川 聡子 1、杉本 龍亮 1、宮地 洋英 1、諸岡 留美 1、 田中 秀明 1、杉本 和史 1、藤田 尚己 1、岩佐 元雄 1、 白木 克哉 1、竹井 謙之 1

【背景】ソラフェニブの肝細胞癌に対する使用は増加しているが適応に関しては明確なコンセンサスはない。今回我々は当院でのソラフェニブ投与の現状について検討、また導入理由に関して示唆に富む症例を経験したので報告する。【方法】2009年5月より2011年4月まで当院でソラフェニブを導入した Child-Pugh A進行性肝細胞癌患者29症例について検討した。【成績】原因は HCV13例、HBV 5例、アルコール7例、NASH 1例、原因不明3例であった。前治療として TAE/RFA2例、外科的切除 3例、TACE5例、TAI 15例、Low dose FP 2例であった。導入理由として、HCC制御困難21例、血管温存目的3例、他の治療継続困難3例、肝外転移を認めたため2例であった。平均投与期間は174日間(6-657日間)。また内服中止後の後治療は、全身状態の悪化、肝不全の進行などで不能となった13例、TACE3例、TAI1例、TAI+全身化学療法1例、リンパ節転移に対して摘出術1例、TS1内服+ CDDP動注、TS1治験2例、ブリバニブ治験1例、肝病変および肺病変に対してラジオ波焼灼療法を施行した1例であった。この中で、血管温存目的でソラフェニブを導入した1例について提示する。 症例74歳男性。2008.11肝内に多発肝細胞癌を認めたため、TACEを施行。2009.7 再び、肝内多発再発を認め入院。入院後施行した腹部血管造影では、前回治療の影響によると思われる巨大な APシャント形成を右葉に認め、経動脈的な治療が困難であると判断。2009.8.14よりソラフェニブの投与を開始した。6カ月後、腫瘍の増大を認めたために入院。入院時施行した腹部血管造影では、前回施行時に認められた肝右葉の巨大なシャントは消失しており TACEを施行しえた。(考察)繰り返す IVR治療による血管障害のため、治療継続が困難な症例にソラフェニブを投与、SDを保つことが可能となりその間に血管障害が改善し IVR治療を施行しえた。ソラフェニブを導入する際には柔軟に適応を考え症例ごとに工夫する必要がある。

S2‒9

73

3

2

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サルモネラ腸炎での内視鏡施行困難な理由についての検討1藤田保健衛生大学病院 消化管内科○城代 康貴 1、藤田 浩史 1、大森 崇史 1、加藤 祐子 1、 市川裕一朗 1、生野 浩和 1、釜谷 明美 1、米村  穣 1、 大久保正明 1、小村 成臣 1、吉岡 大介 1、丸山 尚子 1、 鎌野 俊彰 1、石塚 隆充 1、長坂 光夫 1、中川 義仁 1、 柴田 知行 1、平田 一郎 1

【目的】当科においてサルモネラ腸炎で入院後、2週間以内に全大腸内視鏡が施行可能であった症例はわずか2/17症例(12%)と少なかった。その理由を考察する目的でサルモネラ腸炎の臨床症状、検査データーについて検討した。【対象】2005年1月から2009年12月までの60ケ月間に便培養または腸液培養陽性となった非チフス性サルモネラ腸炎17症例(男性13例、女性4例)。入院症例は9症例、外来症例は8症例で、平均年齢は42.9±17.9歳(男性 46.4±18.5歳 女性 30.3±7.6歳)であった。【成績】抗原型は O9抗原8症例、O8抗原4症例、O7抗原5症例、基礎疾患は約30%(5症例)に潰瘍性大腸炎(以下UC)を認めた。入院時腹部レントゲンにて著名な小腸 airや niveauを認めたものは約30%(5症例)あり下部回腸での浮腫性狭窄が疑われた。血液培養陽性者は5.8%(1例)であった。採血データーでは平均最大 CRP値11.9±12.5mg/dlと炎症反応が高く3症例は20mg/dlを超えていた。入院、外来別の検討では、炎症反応、LDH値は入院症例で外来症例に比較し優位に高く、CPK値、GPT値、体温も入院症例で高い傾向にあった。激しい下痢による脱水から腎機能障害や急性腎不全をきたす症例もあり Cr値が1を超える症例を35%に認めた。さらに臨床症状では、入院症例で吐気、嘔吐、腹痛を約8割に、3割にBlumbergを認め急性腹症類似の症状を呈していた。【結論】サルモネラ腸炎は採血所見、画像所見、臨床症状ともに激しく急性期に内視鏡診断が困難な症例が多いと考えられる。逆にいえば内視鏡が躊躇される下痢患者をみた場合サルモネラ腸炎をとよく疑う事が必要と考えられた。

細菌性腸炎の超音波像の検討1大垣市民病院、2大垣市民病院 放射線科○寺田 和始 1、熊田  卓 1、桐山 勢生 1、谷川  誠 1、 久永 康宏 1、豊田 秀徳 1、金森  明 1、多田 俊史 1、 新家 卓郎 1、安東 直人 1、安田  諭 1、坂井 圭介 1、 木村  純 1、安藤 祐資 1、山本 健太 1

【目的】細菌性腸炎の確定診断である便培養は感度が低く原因が不明で終わることも多い。最近、細菌性腸炎の Bモード画像で原因菌の種類によって特徴的画像を示すことが明かとなってきた。今回われわれは当院で経験した細菌性腸炎の急性期の超音波画像について検討した。【方法】対象は2006年から2010年までの5年間に便培養から細菌性腸炎と確信された504例中、急性期に超音波検査が施行された117例である。原因菌としては O-157が8例、その他大腸菌が2例、キャンピロバクターが52例、サルモネラが5例、ブドウ球菌が45例、腸炎ビブリオが5例であった。これらの超音波像について壁肥厚所見を中心として検討した【成績】O-157腸炎では著明な壁肥厚を示すことが多く、部位は上行結腸、横行結腸、下行結腸、盲腸の順で頻度が高かった。キャンピロバクター腸炎では上行結腸、盲腸、横行結腸、回腸の順で壁肥厚を示す頻度が高かった。これに対してブドウ球菌腸炎では下行結腸、S状結腸、横行結腸、上行結腸の順に壁肥厚を示す頻度が高かった。一方、腸炎ビブリオでは壁肥厚を認めず、腸管の拡張を示すことが多かった。【結論】診断の確定した細菌性腸炎超音波像について検討した。壁肥厚(層構造)とその範囲からある程度の鑑別診断が可能と考えられた。以上から便培養陰性で、細菌性腸炎が疑われる症例においては超音波画像から原因菌の推定が可能な場合もあり、有用性が高いと期待される。

大腸アニサキス症の一例1名古屋第一赤十字病院 消化器内科○村上 義郎 1、春田 純一 1、山口 丈夫 1、西野 正路 1、 石川 卓哉 1、山  剛基 1、亀井圭一郎 1、中村 一平 1、 小林 寛子 1、佐藤亜矢子 1、澤田つな騎 1、水谷 泰之 1、 服部  峻 1

【症例】50歳代 女性。【既往歴】1997年 痔核手術【現病歴】2011年2月9日に検診で便潜血陽性を指摘されたため当科を受診し、2月22日に大腸内視鏡検査を予定した。2月19日の夕食で生イカを摂食し、2月20日の起床時から冷汗を伴う間欠的な心窩部痛が出現した。2月22日になっても症状が改善しないため、血液検査と上部内視鏡検査および大腸内視鏡検査を施行した。【検査】血液検査では CRP 2.6mg/dL、WBC 7400/mm3(Neut 65%, Lymph 26%, Eos 2%)、赤沈(1時間値)26mmと軽度炎症反応を認めた。抗アニサキス IgG・IgA抗体は1.25(基準値1.50未満)と陰性であった。上部内視鏡検査では胃体部にびらん性胃炎を認めた。大腸内視鏡検査では上行結腸に全周性の浮腫性肥厚と、同部位に線状の虫体を、また上行結腸と S状結腸に腺腫を認めた。虫体は生検鉗子を用いて除去し、アニサキスの幼虫と診断した。虫体を認めた部位の大腸粘膜の生検病理組織結果では、小リンパ球や形質細胞、好酸球などの炎症細胞浸潤があり、なかでも好酸球がやや目立ち、脱顆粒の所見も認められた。【経過】腹痛はアニサキスを除去した翌日には消失した。腹痛発症後11日目の3月2日の血液検査はWBC 5200/mm3(Neut 46%, Lymph 39%, Eos 8%)、赤沈(1時間値)18mmと軽快した。抗アニサキス IgG・IgA抗体は2.18と上昇を認めた。3月15日に腺腫の切除を兼ねて大腸内視鏡検査を施行したが、上行結腸に異常所見を認めなかった。【考察】大腸アニサキス症は消化管アニサキス症の1%程度と稀であり、文献的考察をまとめて報告する。

当院における大腸憩室出血症例の検討1岡崎市民病院 研修医2年次、2岡崎市民病院 消化器内科○間宮 慶太 1、松岡  歩 2、飯塚 昭男 2、内田 博起 2、 徳井未奈礼 1、大矢 和広 2、鬼塚 亮一 2、佐藤 淳一 2、 藤吉 俊尚 2

【目的】大腸憩室症は、高齢化や食習慣の欧米化に伴い近年増加傾向にあり、合併症としての憩室出血の頻度も増加している。今回我々は当院における大腸憩室出血症例について検討した。【対象と方法】2007年12月1日から2010年12月31日までに当院にて大腸憩室出血と診断された80例(再発を含むのべ92例)を対象に、その臨床的特徴、治療法について検討した。【結果】年齢は36歳~93歳(年齢中央値72歳)、性別は男性65%、女性35% であった。主訴は全例で下血、血便であり、腹部症状は14%でみられた。基礎疾患として高血圧が37%と最も多く、ほか虚血性心疾患11%、糖尿病9%、脳梗塞9%であり、抗血小板薬、抗凝固薬の内服は25%でみられた。また33%は憩室出血の既往があった。発生部位では上行結腸、S状結腸が多かった。治療については、83%は自然止血したが、15%は内視鏡的止血術を、2%は外科的切除を要した。また30%で輸血を必要とした。【考察】年齢中央値は72歳と高齢で、男女比も2:1と男性に多くみられた。基礎疾患として動脈硬化性疾患が51%と多く、それに伴い抗血小板薬の内服も25%でみられ、抗血小板剤内服が憩室出血の危険因子と考えられた。憩室出血の重症度と抗血小板薬内服の有無について、抗血小板剤内服群(22例)と内服していない群(62例)を比較したところ、止血術については前者で4.5%、後者で17.7%、輸血については前者で13.6%、後者で32.3%と、抗血小板薬を内服している群の方が、内服していない郡に比較してむしろ少ない傾向にあった。また、自然止血した群と止血術を施行した群を比較しても、年齢、性別、来院時Hb、憩室出血の既往、抗血小板薬の有無などについて有意差はみられなかった。【結語】高齢、男性、動脈硬化性疾患の既往、抗血小板剤の内服が憩室出血発症の危険因子と考えられた。憩室出血はほとんどが自然止血するが、一部で輸血や内視鏡的止血術、外科的切除が必要となる症例が存在する。その予後予測は困難であり、厳重な経過観察が必要であると考えられた。

大腸①

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S状結腸直腸瘻を来した結腸憩室炎の一例1静岡市立清水病院 消化器内科、2静岡市立清水病院 外科○川崎 真佑 1、窪田 裕幸 1、松浦 友春 1、東  幸宏 2、 小路  毅 2

症例は77歳女性。嘔吐・下腹部痛を主訴に当院を紹介受診した。既往に子宮外妊娠、子宮筋腫(40歳代、全摘出術)高血圧、高脂血症がある。20xx年10日間の便秘を主訴に、近医を受診し下剤を処方されたが症状改善なく1週間後同院を再診し、イレウスの疑いで当院紹介となった。来院時、38度台の発熱および左下腹部の圧痛を認めた。血液検査上、WBC17100/μl、CRP 18mg/dlと炎症反応の高値を認め腹部造影 CTにて、S状結腸に多発する憩室および壁肥厚を認め、S状結腸憩室炎の診断にて入院となった。絶食・抗生菌薬投与の後腹痛・発熱は速やかに軽快したものの、経口摂取開始後、症状の悪化を認めた。下部消化管内視鏡にて S状結腸の狭窄および強い癒着、屈曲を認めスコープの通過は不可能であった。ガストログラフィン造影にてS状結腸から直腸への造影剤 leakを認め、直後の CTにて S状結腸直腸瘻が確認された。以上より憩室炎による S状結腸直腸瘻と診断し低位前方切除術および回腸人工肛門造設術を行った。術後経過は良好で術後30日で退院となっている。結腸憩室症の瘻孔形成は時に遭遇する合併症であるが、S状結腸憩室炎の場合、膀胱瘻の頻度が比較的高く、直腸瘻の報告は少ない。今回我々は S状結腸直腸瘻を形成した結腸憩室炎の一例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

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9 透析患者に発生したS状結腸穿孔の3例1中濃厚生病院 消化器科○小澤 範高 1、小木曽英介 1、華井 頼子 1、尾辻健太郎 1、 山崎 健路 1、勝村 直樹 1

【目的】リン吸着剤である塩酸セベラマーは、透析患者の心血管系疾患の予防の有用性が認められ広く使用されている。しかし、副作用として極度の便秘により腸閉塞や腸管穿孔をきたした症例が報告されている。当院通院中の塩酸セベラマー内服中の透析患者において、2009年12月から2011年4月の1年4ヶ月の間に3例の大腸穿孔が発生したため報告する。【症例】症例1は61歳男性、排便時に突然の下腹部痛で発症、CTにて S状結腸穿孔の診断にて緊急開腹手術を施行された。手術所見は、膿性腹水を認め、S状結腸に多発する憩室と炎症性の壁肥厚を認めたが、明らかな穿孔部位を特定できなかった。症例2は71歳女性、突然の下血、下腹部痛にて発症、CTにて S状結腸穿孔の診断にて緊急開腹手術を施行された。手術所見は、S状結腸の遊離側、結腸間膜側に穿孔認め、大腸全体に硬便が貯留していた。症例3は54歳女性、下腹部痛を主訴に来院し、S状結腸穿孔の診断にて緊急開腹手術を施行された。これらの症例は、透析患者であること以外に、発症時、便秘傾向があったこと、塩酸セベラマーを高用量内服中であったこと、穿孔部位が S状結腸であることが共通していた。本症例では塩酸セベラマーの副作用としての便秘が腸管穿孔の発症に関わっていた可能性が考えられた。【結語】透析患者の腹部診療にあたり、本症例のような腸管穿孔の可能性を考慮し、早期に診断すること、また、排便コントロールを行うことが重要であると考えられた。塩酸セベラマーに関しては、その有用性と弊害の大きさを検討して慎重に使用する必要があると考えられた。

異物誤嚥により消化管穿孔を来した2例1碧南市民病院 消化器内科○村手健太郎 1、内田  潔 1、長谷川元英 1、中野間 紘 1

【症例1】70歳男性【主訴】心肺停止【現病歴】2009年2月心肺停止状態にて当院救急搬送された。病着時心波形は心停止。昇圧薬等使用し一時的に自己心拍再開も、再度心停止し、心肺蘇生施行したが心拍再開は認められず死亡確認した。ご家族の希望により病理解剖を行った。病理解剖の結果、結腸脾彎曲に植物の束が刺さっており、同部に壊死を伴う潰瘍が形成され出血の所見があった。また刺入部より数cm肛門側に癌腫を認めた。剖検結果より死因は異物による消化管穿孔を伴う敗血症性ショックとした。患者は知的障害及びてんかんの既往があり以前より発作時無意識下に周囲にある物を食べてしまう事があった。【症例2】42歳男性【主訴】腹痛【現病歴】2011年4月飲酒後に自宅にて下腹部の急激な痛みを自覚し当院救急搬送された。病着時より腹部は硬く、全体に圧痛があり筋性防御を認めた。受診時吐下血等消化管出血を疑う所見は無かった。本人は飲酒していたが会話可能であり意識も清明で、内服歴は無く、異物誤嚥の自覚も無かった。消化管穿孔を疑い腹部 CT検査を施行すると、free airを及び小腸に弓状の high density lesionを認めた。異物による消化管(小腸)穿孔による腹膜炎と診断し緊急手術を施行した。術中に回盲部より回腸側60cmにMeckel憩室を認め、憩室に鶏骨及び鶏骨による穿孔部位を確認し、憩室部分を小範囲に切除し端々吻合し手術終了とした。術後抗菌薬を使用し現在合併症等無く経過している。【考察】症例1は器質的な通過障害が原疾患としてあり異食症による無意識の異物誤嚥が穿孔の原因であり、症例2は憩室への異物の迷入が原因であると考える。【まとめ】魚骨等鋭利な異物誤嚥による消化管穿孔は稀ではない。誤嚥直後ならば内視鏡的に除去可能な場合もあるが、本例2例にも共通して言える事だが誤嚥の自覚が無い場合が多い。また X線透過性の異物の場合は術前診断が難しく患者及び家族への十分な問診が必要であると考える。

アルゴンプラズマ凝固法が有効であった出血を繰り返す大腸 angiectasia の1例

1木沢記念病院 消化器科○丸田 明範 1、吉田 健作 1、中川 貴之 1、安田 陽一 1、 杉山  宏 1

【症例】80歳、女性。既往歴として S63年に僧帽弁置換術施行され、以降ワーファリン 2.5mg/日を服用していた。H22年6月より慢性心不全増悪、腎不全にて当院循環器内科に入院していたが、15日に黒色便を認めたため当科紹介となった。検査所見では Hb:9.1g/dlと貧血を認め、PT-INRは9.07と著明に延長していた。CFではバウヒン弁近傍の上行結腸に湧出性出血を伴う平坦な angiectasiaを認めたためクリップにて止血処置を行った。術後、ワーファリンを一時中止したが、7月2日より2mg/日で再開した。13日に再び血便を認めたため CFを施行した。前回と同部位の angiectasiaより湧出性出血を認めたためアルゴンプラズマ凝固法(以下、APC)にて焼灼し、さらにクリップにて止血処置を行った。術後、ワーファリンを一時中止したが、31日に退院すると同時に1.5mg/日で再開した。8月11日に再び血便をきたし再入院となった。検査所見では Hb:7.1g/dlと貧血を認め、PT-INRは4.41と延長していた。CFでは前回に止血処置を行った angiectasiaと、その近傍に新たな湧出性出血を伴う angiectasiaを認めたため両病変をAPCにて焼灼し、クリップで止血処置を追加した。術後、ワーファリンを一時中止したが、21日より0.5mg/日で再開した。その後再出血なく、23日に退院となった。しかし、9月30日より再び血便をきたし再入院となった。検査所見では Hb:8.8g/dlと貧血を認め、PT-INRは1.93とやや延長していた。CFでは8月に新たに止血処置を行ったangiectasiaから出血を認めたため再度 APCにて焼灼した。翌日の CFでは止血良好であった。術後、ワーファリンを一時中止したが、10月5日より0.5mg/日で再開した。現在、最終の止血術から6カ月経過したが、再出血は認めていない。【結論】angiectasiaの多くは治療の対象ではないが、血便をきたす場合は治療が必要である。止血術の第一選択としては APCが挙げられ、その利点としては熱凝固の到達深度が浅層に留まるため腸管穿孔のリスクが少ないとされている。本例では上行結腸の2カ所の angiectasiaから出血を繰り返したが、APCにて安全に止血できた。

当院における大腸イレウスに対する治療成績1鈴鹿中央総合病院 消化器内科○佐瀬 友博 1、磯野 功明 1、田中 宏樹 1、石原 禎子 1、 松崎 晋平 1、青木 雅俊 1、齊藤 知規 1、岡野  宏 1、 向  克己 1、西村  晃 1

【目的】大腸イレウスにおいては早急な診断と同時に穿孔や緊急手術の回避のために減圧治療が必要である。当院にて経験した大腸イレウスの治療経過につき検討した。【方法】2005年7月から2011年3月において大腸イレウス症状を有した61症例を対象とした。男性34名、女性27名、平均年令72±11歳。原因疾患は大腸癌53例、播腫、転移による狭窄4例、他臓器癌による圧排2例、腸管浮腫2例。狭窄部位は直腸5例、S状結腸(RSも含む)36例、下行結腸7例、横行結腸11例、上行結腸2例。手技の選択、成功率、症状改善率、合併症、術後経過を検討した。【成績】緊急で経肛門的イレウス管挿入を試みた52例のうち留置可能は36例で成功率は70%、うち34例で臨床的に減圧良好あった。挿入不能は16例あり屈曲や狭窄で造影剤、ガイドワイヤー通過不能8例、遠位大腸などでイレウス管通過不能8例であった。挿入不能16例うち8例では経鼻的ロングチューブに切り替え減圧を行った。挿入不能の7例とイレウス管留置したが減圧不良であった例、チューブ先端圧迫のため遅発性穿孔を認めた例では緊急手術となった。待機的なステント留置例では12例中11例で成功し、全例において減圧良好で食事再開可能となった。減圧治療成功44例のうち(イレウス管33例、ステント11例)退院可能となったのは36例(82%)であった。経肛門的イレウス管挿入例ではオペまでの待機期間は17日、入院後から食事再開までは22日(オペ後では5日)。ステント留置例では留置から食事再開までは2日であった。処置偶発症は挿入時穿孔2例、遅発性穿孔2例、術中穿孔の存在2例で脱落、再狭窄、出血は認めなかった。【結論】大腸イレウスに対する減圧治療は大腸穿孔回避のための有効な手段ではあるが病変部位や狭窄、屈曲のため手技的に挿入困難な場合も多い。大腸穿孔は重症、致命的な細菌性腹膜炎となるため経鼻的減圧や緊急オペへの切り替えも含めて治療方針決定をすることが必要である。

大腸②

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Virchow転移を契機に発見され、主病巣切除術と全身化学療法も奏効せず、急な転帰をとった上行結腸低分化型線癌の一例

1岐阜県総合医療センター 消化器内科、2同 病理診断部○加藤 潤一 1、芋瀬 基明 1、馬淵 正敏 1、小原 功輝 1、 岩砂 淳平 1、安藤 暢洋 1、大島 靖広 1、岩田 圭介 1、 清水 省吾 1、杉原 潤一 1、岩田  仁 2

【症例】49歳、女性、【主訴】食思不振、【既往歴】特記すべきことなし、【現病歴】2009年2月頃から食思不振が出現、4月に GIFを施行されるも異常なし。5月に入り、鎖骨上窩リンパ節腫大を自覚。半年で4kgの体重減少を認めた。右腹部腫瘤も自覚し、近医で腫瘍マーカーの上昇を指摘されたため、5月14日に当科紹介。同日腹部 CT、超音波検査で腹腔内リンパ節腫大、上行結腸腫瘍が疑われた。5月15日にCF施行され、上行結腸癌と診断。精査加療目的にて5月26日に当科入院となった。【経過】5月28日より m-FOLFOX6を5クール施行した。9月13日より下血が出現。経過をみていたが、増悪したため9月14日に救急外来受診。緊急 GIFを施行されたところ、十二指腸下行部より、拍動性出血が認められた。内視鏡的止血術を試みたが止血し得ず、当院外科にて緊急手術となった。術後診断は「結腸癌:A、全周性、80×70mm、type2、Si(十二指腸)、N3、H0、P1、M1、stageIV」で術式は右半結腸切除および D2リンパ節廓清術、十二指腸壁合併切除、十二指腸壁単純閉鎖、小腸・結腸機能的端々吻合であった。10月20日より7、8クール目の m-FOLFOX6を施行後、11月20日から黄疸出現。減黄のため PTCDを勧めたが、本人が拒否。11月25日よりFOLFIRI+ベバシズマブによる2ndライン化学療法を導入した。しかし、その後黄疸増悪し、DICや腎不全を合併して12月25日に死亡された。【考察】手術標本の病理学的検索では poorly differentiated adenocarcinomaでリンパ管侵襲が高度であった。当症例の病理学的悪性度は、予後不良な臨床経過を説明し得るものであった。手術・化学療法は病勢を抑制できず、また十二指腸浸潤からの消化管出血や閉塞性黄疸を来したことがさらに予後の増悪に影響した。【結語】結腸癌は比較的増殖が緩徐なことが多いが、Virchow転移を伴う場合は、悪性度の高さを予想して、早期より分子標的薬を併用したり、効果不十分であれば、早めにレジメン変更をしたりする必要があると考えられた。

術前化学療法施行後にS4以下仙骨合併骨盤内臓全摘術で根治切除し得た局所進行直腸癌の1例

1名古屋大学 腫瘍外科○伊藤 貴明 1、上原 圭介 1、吉岡裕一郎 1、江畑 智希 1、 横山 幸浩 1、國料 俊男 1、角田 伸行 1、伊神  剛 1、 菅原  元 1、深谷 昌秀 1、高橋  祐 1、板津 慶太 1、 梛野 正人 1

症例は62歳男性で,主訴は下血・肛門痛.精査では直腸(Ra-Rb)に全周性腫瘍を認め,生検で中~高分化腺癌と診断された.造影 CTおよび骨盤MRIでは腫瘍は前立腺・精嚢・膀胱に接し浸潤が疑われ,また直腸右側から仙骨前面かけて広汎な膿瘍を形成していた.側方LN腫大や遠隔転移は認めなかった.直腸周囲膿瘍を伴う高度局所進行直腸癌と診断したが,38度台の発熱と白血球数17000と高度の炎症所見を認めたため,まず S状結腸双孔式人工肛門造設術を施行し抗生剤による治療を行った.感染が改善し解熱後,術前化学療法としてXELOX+Bevacizumabを 3コース行った.GradeIII/IVの有害事象は認めなかった.3コース施行後,腫瘍最大径は7.5→7.1cmと縮小はわずかで,効果判定は SDであったが,腫瘍マーカーでは CEAが10.8→3.3ng/mlへと著明な低下を示した.最終化学療法投与から57日後に手術を施行した.手術はで浸潤の疑われる前方臓器のみならず,腫瘍から連続する膿瘍腔の完全切除が必要と判断し,S4以下仙骨合併骨盤内臓全摘術,回腸導管による尿路再建を施行した.仙骨の切離は腹腔側から行った.手術時間は13時間14分,出血量は3453mlであった.術後,会陰創感染を併発した以外には大きな問題なく,術後34日目に退院した.病理所見では,中分化腺癌で,pAI(前立腺),pN0で剥離断端には腫瘍細胞を認めず,R0切除が達成できた.術後は補助化学療法なしで経過観察中である.直腸周囲膿瘍による炎症を伴う高度局所進行直腸癌に対し,人工肛門造設や術前化学療法などを用い,集学的治療で根治切除が達成できたので報告する.

急速な経過をとったAFP産生 S状結腸癌の一例1山田赤十字病院 消化器科、2山田赤十字病院 外科○山村 光弘 1、杉本 真也 1、山本  玲 1、大山田 純 1、 黒田 幹人 1、川口 真矢 1、佐藤 兵衛 1、福家 博史 1、 宮原 成樹 2

【症例】59歳男性【既往歴】交通外傷のみ。輸血歴あり。【現病歴】200X-1年10月下旬から上腹部痛と上腹不快感を自覚し近医を受信し、上部消化管内視鏡では異常なく胃薬の投薬を受けた。その後腹部全体の痛みを認め当院にて CT検査を受けたところ、大動脈周囲にリンパ節腫大を認め大腸内視鏡にて半周性を呈する2型 S状結腸癌を認め200X年1月に当院に入院となった。【現症】身長162cm、体重75kg(10kg/3か月の体重減少)貧血なく、心肺清。腹部は膨隆して軟、心窩部と臍下部に圧痛あり。臍下圧痛部には硬い腫瘤を触知する。腸音整。表在リンパ節は触知しない。四肢に浮腫はない。【経過】胸部 CT検査では食道周囲、下行結腸周囲にもリンパ節腫大を認め肝に多発腫瘤を認めた。血液検査では LDH443と上昇、CEA、CA19-9、可溶性IL2受容体は正常範囲だったが AFPが29515.1と著明高値であった。原発巣切除と他疾患によるリンパ節腫大の鑑別のための生検を目的として、1月20日に S状結腸切除術を施行された。#16リンパ節は腺癌の転移を認め、S状結腸腫瘍は低分化型腺癌、深部で肝細胞様配列を認め免疫染色では AFP陽性であり、AFP産生癌の多発肝転移、多発リンパ節転移と診断した。術後18日目に退院し、今後化学療法を施行する予定であったが、その約2週間後にリンパ節転移の増大による尿管閉塞にて両側水腎症を発症し、尿管カテーテル留置で改善せず透析を施行することとなった。透析しつつ右腎瘻造設にて一時は腎機能障害がやや軽快したが、化学療法は不可能な状態であり緩和的治療に専念する他なかった。緩和的治療を行い経過を見たが、腎不全発症後1か月後に癌による多臓器不全にて永眠された。今回我々は急な経過をたどった AFP産生大腸癌を経験したので報告する。

診断に苦慮したびまん浸潤型(4型)大腸癌の1剖検例1山田赤十字病院 消化器科、2山田赤十字病院 病理部○山本  玲 1、杉本 真也 1、山村 光弘 1、大山田 純 1、 黒田 幹人 1、川口 真矢 1、佐藤 兵衛 1、福家 博史 1、 矢花  正 2

【症例】64歳、男性。【既往歴】特記事項なし。【主訴】腹痛、水様性下痢。【現病歴】20XX年11月に上記主訴にて近医を受診。症状軽快せず、翌年1月に注腸造影と大腸内視鏡検査にて S状結腸の狭窄と偽ポリポーシス様の浮腫性粘膜を認め、当院外科を紹介受診。炎症性腸疾患の疑いで当科紹介。大腸内視鏡検査で S状結腸の全周性狭窄のため内視鏡通過困難であったが、びらんや潰瘍は認めず。胸腹部 CTでは10cm長の S状結腸壁肥厚と大動脈周囲のリンパ節腫脹、多量の腹水、肝転移巣、左胸膜不整肥厚と両側胸水、鎖骨上窩や両側肺門、縦隔のリンパ節腫脹を認めた。S状結腸狭窄部位からの生検は Group 1であったが、腹水胸水 CEA・CA19-9の著しい上昇から癌性胸腹膜炎が疑われた。胸水穿刺細胞診と鎖骨上窩リンパ節吸引細胞診にてadenocarcinomaが検出。S状結腸癌、肝転移、癌性胸腹膜炎と診断し、FOLFOX4+ bevacizumabの化学療法を1クール施行。しかし不穏や呼吸状態の悪化、病状進行を認め、徐々に全身状態が悪化。当科初診から約3か月後に永眠された。剖検にて約10cm長の S状結腸癌(4型、低分化型腺癌)、肺・肝・横隔膜・骨髄・腹部大動脈周囲リンパ節転移、肺リンパ管症と診断された。【考察】びまん浸潤型(4型)大腸癌は非常に稀で大腸癌全体の1%と言われている。粘膜下病変主体であり早期発見が困難であるため、予後不良であることが多い。今回、我々は診断に苦慮したびまん浸潤型(4型)大腸癌の1例を経験したので報告する。

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大腸穿孔にて発症した腸間膜デスモイド腫瘍の一例1鈴鹿中央総合病院 外科、2鈴鹿中央総合病院 病理○早崎 碧泉 1、坂口 充弘 1、岡本 篤之 1、金兒 博司 1、 田岡 大樹 1、馬場洋一郎 2、村田 哲也 2

症例は72歳男性。受診1週間前から腹部異和感を自覚していたが、前日より腹痛出現、増強したため当院を救急受診した。独歩で来院、体温38.3度、腹部は平坦だが左上腹部に限局した圧痛・反跳痛を認めた。WBC/CRP 10500/4.97、腹部単純写真で free airあり。腹部 CTにて横行結腸付近に周囲の脂肪織に毛羽立ちを伴った mass leisionを認め、この病変に起因する大腸穿孔性腹膜炎と診断、同日緊急手術施行。開腹すると横行結腸脾彎曲部寄りに白苔付着あり、一部結腸が腫瘍様に硬化してこれより口側が拡張していた。この腫瘍による大腸閉塞とそれに伴う拡張口側腸管の穿孔と診断し、病変部横行結腸の部分切除を施行しハルトマン手術とした。病理学的検索では、腸間膜原発のデスモイド腫瘍と考えられた。術後の検索で Gardner症候群にも該当せず、腹部手術の既往や外傷の既往歴も認めていない。術後経過は良好で、術後21日目に退院し、4か月後の現在も再発を認めていない。

憩室内に発症した早期大腸癌の一例1愛知県がんセンター中央病院 消化器内科○品川 秋秀 1、丹羽 康正 1、田近 正洋 1、近藤 真也 1、 田中  努 1、大林 友彦 1、水野 伸匡 1、原  和夫 1、 肱岡  範 1、今岡  大 1、小倉  健 1、羽場  真 1、 永塩 美邦 1、長谷川俊之 1、山雄 健次 1

症例は70歳代男性。家族歴は特記すべき事項は認めず。既往歴として70歳で前立腺癌にて全摘を施行している。2008年9月便潜血陽性にて当院紹介受診された。下部消化管内視鏡検査(CS)を施行したところ、下行結腸に憩室の散在を認め、内一つに内部に直径5mm前後の Ispポリープの集族した憩室を認めた。生検では tuberadenoma with moderate atypiaとの診断であったため、経過観察とした。2009年9月に再び CS施行したところ、同部位のポリープは増大傾向にあり、生検では adenocarcinoma (tub2) を認めた。拡大内視鏡所見では隆起部分は IIIL~IV型 Pit主体であり、陥凹(憩室)の一部には IIIs型 Pitを認めたが、sm浸潤を疑う所見は認めなかった。NBI拡大所見ではCapillary pattern typeIIであった。病変が憩室内に認めるため、内視鏡治療の適応ではないと判断し、2009年12月10日腹腔鏡下下行結腸切除+ D2郭清施行した。病理結果は carcinoma in adenoma D pType 0-IIb 5×5mm tub1 pM/pTis pPM0 pRM0 pN0 pStage0との診断であった。癌は隆起部だけでなく、陥凹部にも存在した。2010年12月現在、再発なく経過している。結腸憩室より発生した癌は、通常の結腸粘膜より発生した癌と比較して、筋層が欠如しているので漿膜面への浸潤が早いとされ、早期発見が重要である。また、治療としては内視鏡的粘膜切除術にて穿孔した例もあり、外科手術が基本と考える。今回、憩室内から発症した早期大腸癌の一例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告とする。

腸重積にて発見された大腸平滑筋肉腫の1例1愛知県厚生連 海南病院 消化器内科、2愛知県厚生連 海南病院 病理診断科○荒川 直之 1、武藤 久哲 1、青木 孝太 1、久保田 稔 1、 石川 大介 1、國井  伸 1、渡辺 一正 1、奥村 明彦 1、 後藤 啓介 2、中村 隆昭 2

【症例】83歳男性【主訴】左下腹部痛【現病歴】H23/4初旬右下腹部痛、下痢あり。数日しても下腹部痛が改善せず、血便も生じたため当科受診。CTにて下行結腸脾弯曲付近に腸重積を疑う所見を認めたため、透視下にて下部消化管内視鏡検査を施行した。大腸スコープ先進部に壊死組織を伴う虚血性の変化がみられ、スコープの通過はできず整復も不可能であった。組織生検では、異型細胞を認めたが検体が少量であったため、組織分類ははっきりしなかった。腹痛は初診時より改善しており、発熱もなく、血液生化学検査でも炎症反応の上昇も軽度であった。しかし、排便はなく、重積が解除されないため、外科にて緊急手術となった。術中所見では、横行結腸脾弯曲付近に比較的境界明瞭な40×25mmの1型腫瘍を認めたが、重積は解除されており、粘膜の壊死も認めなかった。病理組織学的には固有筋層内から粘膜下層に向かって広がる腫瘍を認め、腫瘍内では紡錐形核を有する腫瘍細胞が束状に配列し、錯綜しながら増殖することを認めた。免疫組織学的には、α-SMA陽性、CD34陰性、c-kit陰性、S100陰性、ki-67陽性率30%であり、平滑筋肉腫と診断した。【考察】消化管間葉系腫瘍は、GIST、筋原性腫瘍、神経性腫瘍の3種類に分類されるが、食道以外ではGISTが最も多い。大腸の筋原性腫瘍はほとんどが平滑筋種であり、平滑筋肉腫の報告は極めて稀である。今回我々は腸重積を契機として発見された横行結腸平滑筋肉腫を経験したので報告する。

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21 脳静脈洞血栓症を合併した潰瘍性大腸炎の1例1国立病院機構 名古屋医療センター、2横山胃腸科病院、3名古屋大学 消化器科○横井 美咲 1、喜田 祐一 1、久野 剛史 1、神谷 麻子 1、 齋藤 雅之 1、玉置  大 1、龍華 庸光 1、日比野祐介 1、 島田 昌明 1、都築 智之 1、岩瀬 弘明 1、横山  正 2、 後藤 秀実 3

症例は19歳男性。2-3年前から下痢を自覚しており、血便も時折認めていたが、特に病院には受診していなかった。2011年3月より腹痛を認めたため、かかりつけ医を受診。内視鏡所見より潰瘍性大腸炎と診断され、4月4日より入院加療を開始された。下部消化管内視鏡では直腸から連続して全大腸に渡り塑像な粘膜が認められており、浅い潰瘍・びらんが多発し、易出血性であり、左側結腸優位に所見が認められていた。プレドニゾロン80mgで投与を開始し、5日間投与後、便の性状が泥状に変化したため、60mgに減量。顆粒球除去療法の導入直前、左半身麻痺が認められたため、当院に紹介され、緊急入院となった。当院受診時の身体所見では、左上下肢の感覚には異常認めなかったが、運動麻痺が認められていた。頭部 CTでは右頭頂葉に等吸収領域が認められており、脳膿瘍、腫瘍、血栓症が疑われ、脳神経外科に入院となった。脳血管造影では 右上矢状静脈洞の造影がされず、脳静脈洞血栓症と診断された。同日施行した頭部 CTでは出血を疑わせる高吸収領域が病変部周囲に認められており、出血性脳梗塞、脳ヘルニアの所見が見られたため、血栓除去、頭蓋内圧の減圧目的で4月12日に緊急で減圧開頭術を施行した。術後、採血上は DICもきたしていたため、抗血栓療法を開始し、FFP、血小板の投与を行い、潰瘍性大腸炎に対してはプレドニゾロン60mgから開始し、徐々に減量を行い、現在治療中である。今回は脳静脈洞血栓症を合併した潰瘍性大腸炎を経験したため、若干の文献的考察を加え報告する。

HIV 感染症を合併した潰瘍性大腸炎の一例1順天堂静岡病院 消化器内科、2順天堂静岡病院 血液内科○金光 芳生 1、飯島 克順 1、廿楽 裕徳 1、佐藤 俊輔 1、 成田 諭隆 1、菊池  哲 1、平野 克治 1、玄田 拓哉 1、 小池 道明 2、市田 隆文 1

(症例)49歳 男性(既往歴)虫垂炎(現病歴)平成21年初旬頃より下血を認めていた。症状の改善を見ないため近医を受診し、大腸内視鏡検査にて潰瘍性大腸炎の診断を受けた。平成22年3月からペンタサ4g/日、プレドニゾロン20mg/日による加療を開始したが腹部症状改善見られず、さらに下血の増悪を認めたため当院へ紹介受診となった。入院時の血液検査にて初めて HIV陽性の指摘を受けた。そこで CD4、CD8検索を行い HIVの活動性は無いものと判断し、潰瘍性大腸炎の治療を優先することとした。なお、潰瘍性大腸炎の病変は左側結腸型、臨床症状から重症型と診断した。入院後、絶食管理と水溶性プレドニン60mg(1mg/kg)、ペンタサ4g併用を基本とし、LCAP(リンパ球除去療法)を行い病勢の改善を図った。5月初め頃より便回数も改善みられ、食事を再開としたが、腹部痛の再燃が見られたことよりペンタサからアサコールへの内服薬を変更し腹痛の改善も見られたため6月18日から外来管理とした。プレドニンは徐々に減量し、2mgで維持管理している。また HIVの活動性は認めないが、今後、免疫抑制剤を長期に投与することより予防的に平成23年2月(治療開始11か月目)からツルバダ1錠、ストックリン600mgの治療を開始した。HIVのウイルス量は減少し、現在も外来にて治療継続中である。(結語)国内での潰瘍性大腸炎と HIVの合併症については症例報告数が少なく、治療の優先度について確立されたものはない。HIV陽性の肝移植例と同様、免疫抑制剤を長期投与する場合には HIVに対する抗ウイルス療法は例え病勢が落ち着いていても積極的に併用する必要があると考えられた。

特発性血小板減少性紫斑病を合併した潰瘍性大腸炎の一例1豊橋市民病院 消化器内科○樋口 俊哉 1、浦野 文博 1、藤田 基和 1、内藤 岳人 1、 山田 雅弘 1、北畠 秀介 1、山本 英子 1、河合  学 1、 岡村 正造 1

【症例】20歳男性【主訴】下血【既往歴】アトピー性皮膚炎。【現病歴】潰瘍性大腸炎(UC)にて近医でフォローされていた。2009年4月下血、鼻出血にて当院へ紹介。血小板低値を認め、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)と診断され入院となった。入院中、UCによる下血も認められたため、プレドニゾロン(PSL)50mg/dayにて治療を開始し、血小板数は増加したが、30mg/dayへと減量したところ血小板数が低下した。γグロブリン大量投与を行うも効果なく、6月12日脾臓摘出術を施行。その後血小板は増加し、自覚症状も改善したため退院となった。UCは5-ASA1500mg内服で寛解を得ていた。2011年3月17日下血が出現、PLT0.5万と低下しており ITP増悪、UC増悪にて緊急入院となる。【入院後経過】3月18日デキサメサゾン大量療法4日間投与を開始し、PLT31.3万まで回復。3月25日から PSL35mg/day開始し血便回数も減少した。3月31日夜に再び大量下血、血小板低下を認めたため、4月1日よりデキサメサゾン大量療法2回目を施行したが反応に乏しかった。4月2日よりエルトロンボパグを投与開始。4月3日から γグロブリン大量療法を併用し、4月5日 PSL50mgへと増量した。血小板数は3.5万と一時的な上昇を認めたが、4月8日から再び低下した。4月15日より5-ASA(時間依存型放出性)を内服中止とし、5-ASA(pH依存型放出性)3600mg/dayへ変更した。その後徐々に血小板数増加。4月28日血便消失し、PLT18.1万まで上昇し、PSLを漸減し退院となった。【まとめ】血小板数の低下に伴って、下血の回数、量ともに増加を認めており、ITPと UCの病勢は関連していると考えられる。両疾患は免疫が関与しており、併発する症例は日本でも数例報告されており、文献的考察を加えて報告する。

潰瘍性大腸炎とマイクロRNA前駆体の遺伝子多型との 関連

1藤田保健衛生大学病院 消化管内科、2Univbersity of Texas MD Anderson Cancer Center○市川裕一朗 1、大久保正明 1、田原 智満 2、藤田 浩史 1、 大森 崇史 1、加藤 祐子 1、城代 康貴 1、生野 浩和 1、 釜谷 明美 1、米村  穣 1、小村 成臣 1、丸山 尚子 1、 吉岡 大介 1、鎌野 俊彰 1、石塚 隆充 1、中川 義仁 1、 長坂 光夫 1、柴田 知行 1、平田 一郎 1

【背景】最近、ヒトの種々の疾患に miRNA前駆体の一塩基多型(single-nucleotide polymorphism:SNP)が関連することが明らかになってきている。【目的】日本人における潰瘍性大腸炎と、3つの miRNA前駆体の SNP(miR196a2前駆体中の rs11614913 (C> T)、miR146a 前駆体中の rs2910164 (G> C)、miR499前駆体中の rs3746444 (A> G))との関連性を検討した。【方法】対象は当病院で内視鏡検査を施行した潰瘍性大腸炎170例、健常対照403例であり採取した検体を用いてrs11614913 (C> T)、rs2910164 (G> C)、rs3746444 (A> G) の SNPと潰瘍性大腸炎との関連性を検討した。【結果】rs3746444の AG多型は、健常対照群と比較して潰瘍性大腸群において有意に多く認められた(OR=1.51、95%CI=1.03-2.21、p=0.037)。同多型は層別解析において高齢発症例(OR=1.70、95%CI=1.04-2.78、p=0.035)、左側結腸炎型(OR=2.10、95%CI=1.12-3.94、p=0.024)、 全 大 腸 炎 型(OR=1.81、

95%CI=1.09-3.01、p=0.028)、入院回数(OR=2.63、95%CI=1.22-5.69、p=0.017)、ステロイド依存例(OR=2.63、95%CI=1.27-5.44、p=0.014)、難治例(OR=2.76、95%CI=1.46-5.21、p=0.002)において有意な関連が認められた。また、rs3746444の AA多型では、入院回数(オッズ比 =0.36、95%信頼区間 =0.17-0.79、p=0.012)、ステロイド依存例(OR=0.42、95%CI=0.21-0.88、p=0.021)、難治例(OR=0.38、95%CI =0.20-0.72、p=0.003)において逆相関の関連が認められた。さらに、rs11614913の TT 多 型 は、 難 治 例(OR=2.21、95%CI=1.17-4.18、p=0.016)において有意な関連が認められた。【結語】rs3746444 (A>G) 多型は日本人の潰瘍性大腸炎の発生に影響を与えている可能性が示唆され、また rs3746444 (A> G) 多型と rs11614913 (C>T) 多型は潰瘍性大腸炎の臨床病態に影響を与えている可能性が示唆された。

大腸⑤

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colitic cancer の一例1公立学校共済組合 東海中央病院 消化器内視鏡センター○大塚 裕之 1、清野 隆史 1、森島 大雅 1、石川 英樹 1

【症例】43歳女性【主訴】腹痛【既往歴】16歳時に潰瘍性大腸炎と診断される。35歳まで内服治療を行い、38歳まで当院に通院していた。【現病歴】2010年10月より上腹部の絞られるような痛みが間欠的に出現したため、近医を受診した。2010年11月、潰瘍性大腸炎再発の疑いで当院紹介受診となった。【入院時所見】上腹部に圧痛あり。血液検査では Hb8.5g/dl, MCV72.7flと小球性貧血を認めた。【入院後経過】腹部 USでは大腸壁の肥厚を認め、腹部 CTでは、肝弯曲に直径4cmの腫瘤を認めた。大腸内視鏡検査では肝弯曲に全周性狭窄があり、生検を施行、ファイバーの通過は不可能であったが、肛門側には mucosal bridgeを認め寛解期と考えられた。注腸検査でも、上行結腸へ造影剤は通過しなかった。狭窄部より肛門側の大腸は皺襞無く鉛管様であった。病理結果では全周性狭窄部より粘液貯留の目立つ間質に signet ring cell 様物質を含む poorly differenciated adenocartinoma の浸潤性増殖像を認めた。colitic cancer と診断し、手術目的で外科に転科した。潰瘍性大腸炎であるため大腸全摘を勧めるも本人の同意を得られなかったため、2010年11月に結腸右半切除術を施行した。最終病理診断では、pType3, 5.2×5.6cm, muc, SE, INFb, int, ly2, v2, pPM0 16.0cm, pDM0 5.5cm であった。術後は経過良好で、術後4日目より経口摂取を再開し、術後14日目に退院となった。退院後より術後化学療法として UFT 300mg/ユーゼル75mgを開始し、寛解維持の為、5-ASA 1500mgを継続中である。術後4ヶ月経過するが再発兆候はみられておらず、経過良好である。【考察】潰瘍性大腸炎に合併する colitic cancer は本邦では潰瘍性大腸炎全体の2.6%と報告されている。近年では潰瘍性大腸炎症例数の増加と経過年数の長期化に伴いその割合は増加しているが、その多くは直腸、S状結腸に発症している。今回我々は肝弯曲に存在する colitic cancer の一例を経験したので報告する。

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アサコール®が原因と考えられた腹痛,小腸浮腫を呈した潰瘍性大腸炎の1例

1岐阜大学医学部 消化器病態学○小野木章人 1、荒木 寛司 1、杉山 智彦 1、中西 孝之 1、 井深 貴士 1、白木  亮 1、清水 雅仁 1、永木 正仁 1、 村上 啓雄 1、森脇 久隆 1

【症例】54歳 女性.【家族歴】長男 潰瘍性大腸炎.【既往歴】アトピー性皮膚炎.【アレルギー薬剤(自己申告)】セファクロル,水溶性プレドニン®,ペンタサ®(DLST陰性).【現病歴・経過】1985年発症の全大腸炎型,慢性持続型の潰瘍性大腸炎症例であり,ステロイド,5 ASAは使用せずに臨床的重症度は軽症~中等症で経過していた.2010年12月下旬より,腹痛と排便回数(10行/日)増加を認めた.潰瘍性大腸炎増悪と考え,2011年1月17日アサコール® 3600mg内服開始.1月19日より強い下腹部痛と水様性の下痢回数(20行/日)増加,嘔吐を認め,加療目的に1月20日入院となる。入院時現症では,体温38℃,脈拍86/分,顔面全体に軽度浮腫を認めた。皮疹は認めず.腹部所見では,腹部全体に圧痛(特に右下腹部に反跳痛を伴う強い圧痛)を認めた.採血ではWBC12780(好中球97.5%,好酸球0%),CRP0.82, ESR 19mm/hと炎症反応上昇を認めた.その他肝・腎機能等の生化学検査に異常は認めなかった.便培養・血液培養は陰性であった.腹部単純 CTでは直腸から上行結腸まで連続する腸管壁の浮腫と,小腸の壁肥厚を認めた.入院時直腸内視鏡検査では,Rbより Rsまで連続する血管透見消失,腸管浮腫像,膿の付着を伴う浅いびらんを認め,中等度活動と考えられた.アサコール®内服開始が契機になっていることも考えられたため,潰瘍性大腸炎に対する治療は行わず1月21日よりアサコール®内服を中止した.1月22日より腹痛、嘔吐改善および解熱を認め,排便回数も1月22日15行 /日,1月23日7行/日とアサコール®中止後より速やかに減少した.以上経過よりアサコール®内服が原因と考えられる腹痛,小腸浮腫と考えられた.アサコール®に対する DLST検査を行い,結果陽性であった.アサコール®内服による稀な副作用として小腸浮腫を経験したので報告する.

Mesalazine の副作用で間質性腎炎を呈した潰瘍性大腸炎の1例

1小牧市民病院 消化器科○曽根加奈子 1、宮田 章弘 1、平井 孝典 1、大山  格 1、 小島 優子 1、林 大樹朗 1、鈴木 大介 1、桑原 崇通 1、 灰本 耕基 1、飯田  忠 1、和田 哲孝 1

症例は14歳女性。平成22年春頃より血便を認めた。徐々に血便の回数は増加し、9月頃、学校で貧血(Hb10.4)を指摘された。10月初旬には排便回数が10回 /日となり、毎回下血を認めるため近医を受診した。大腸内視鏡検査を施行したところ、潰瘍性大腸炎の疑いがあり、10月中旬、精査加療目的で当院消化器内科紹介受診となった。Mesalazine 2250mg/日、PSL 10mg内服を開始し、外来で加療するも、症状改善認めず、10月中旬、絶食、点滴による入院加療とした。入院後、腹部 CT・大腸内視鏡検査を施行し、血管透見像の消失、粗造粘膜所見を認め、潰瘍性大腸炎の中等症と診断し、第4病日よりMesalazine注腸を開始した。第5病日、夜間より38度以上の発熱があり、潰瘍性大腸炎の増悪もしくは CF や注腸に伴う bacterial translocationを考え、まず後者の治療として CMZを開始した。その後も高熱が持続したため、原病の増悪を考え、第8病日、PSL 50mg静注を開始したが、発熱の改善は得られなかった。第11病日、左側腹部痛を認めたため、腹部 CTを施行したところ、左腎腫大を認めた。また、尿中 NAG、尿中 β2‒ マイクログロブリンの上昇を認め、Gaシンチにて両側の腎臓に集積を認めたため、Mesalazineによる間質性腎炎を疑い、Mesalazine投与を中止した。Mesalazine中止後速やかに解熱し、炎症反応や尿細管障害の所見も改善傾向となった。潰瘍性大腸炎の治療は PSLに併用して AZP 50mg内服とし、第21病日退院となった。平成23年3月現在、AZP 50mgと PSL 5mg内服のみで潰瘍性大腸炎のコントロールは良好である。今回Mesalazineの副作用として間質性腎炎を呈した潰瘍性大腸炎の症例を経験した。稀少な症例であり、若干の文献的考察を加え報告する。

タクロリムスで寛解導入しえたUCの2例1大垣市民病院 消化器内科、2大垣市民病院 放射線科○坂井 圭介 1、熊田  卓 1、桐山 勢生 1、谷川  誠 1、 久永 康宏 1、豊田 秀徳 1、金森  明 1、多田 俊史 1、 新家 卓郎 1、安東 直人 1、安田  諭 1、木村  純 1、 安藤 祐資 1、山本 健太 1、曽根 康博 2

【はじめに】 UCにおける新たな治療薬として2009年に認可されたタクロリムス(FK506)で寛解導入しえた2例を報告する。【症例1】60代男性。現病歴は2010年9月血便、腹痛、発熱で受診し CFで深掘れ潰瘍を伴う UCの所見で入院となった。入院後経過は重症 UCとしてTPN管理を行い、5ASA製剤、PSL40mgで寛解導入としたところ症状改善を認めるものの、第20病日に PSL25mgまで減量したところで腹痛・血便の出現し再燃をきたした。再度 PSL40mg+AZA50mgへ増量するも症状改善せず、第29病日より FK506開始(0.1mg/kg/d)した。FK506投与量はプロトコールに従い、投与後3-4日毎に食前投与前血中濃度を測定しトラフ値10-15ng/mlとなるように適宜調節した。第33病日には血便など臨床症状の軽快傾向を認め、PSL斬減し第61病日に退院となった。FK506の使用は3ヶ月までとし、中止後の症状増悪は見られなかった。FK506によると思われる有害事象は軽度振戦のみであった。【症例2】60代女性。現病歴は2010年9月頃から下痢症状が出現し、10月中旬に当院を受診され CFで全周性に広汎な粘膜脱落と深掘れ潰瘍を伴う UC所見が見られ入院となった。入院後経過は重症 UCとして TPN管理を行い、第2病日よりシクロスポリン(4mg/kg/d)持続静注を開始した。第12病日で臨床症状の改善傾向が見られたが、肝機能障害が出現し FK506へ変更した。FK506は0.1mg/kg/dより開始し適宜採血にて血中濃度をモニターした。症状は改善し、第29病日に CF施行したところ治癒過程にある事が確認されたため、翌日退院となった。現在は3ヶ月間の FK506投与後中止し、AZA+5ASA製剤のみで増悪することなく寛解維持している。【結語】FK506はステロイド抵抗性、重症 UCによい適応であった。副作用は軽度振戦が出現したのみである。FK506で寛解導入しえた2例を報告した。

インフリキシマブが著効した痔瘻を伴う難治性潰瘍性大腸炎の一例

1名古屋医療センター 消化器科、2名古屋大学 消化器内科、3横山胃腸科病院○神谷 麻子 1、岩瀬 弘明 1、島田 昌明 1、都築 智之 1、 日比野祐介 1、龍華 庸光 1、斉藤 雅之 1、玉置  大 1、 横井 美咲 1、後藤 秀実 2、横山  正 3

【症例】37歳女性。平成12年10月発症の潰瘍性大腸炎(UC)で、近医にてサラゾピリン(SASP)および中等度のプレドニゾロンの内服にて治療されていた。平成22年2月頃より症状悪化したため6-MPを併用したが、発熱および眼瞼、鼻腔、口腔内にアフタ様の病変、下部直腸潰瘍および痔瘻が出現した。免疫低下による感染の合併を危惧され、平成22年3月2日当院へ紹介入院となった。入院時体温37.5度、脈拍90/分台、腹部全体に圧痛あり、30分に1回の血便、著明な肛門痛、眼瞼部に小びらんが多発、鼻腔に限局した粘膜炎、舌右縁にびらんを認めた。血液検査ではWBC 11700/μl、CRP 5.36mg/dl、血沈 (1h) 64mm/h、Hb 9.4g/dl、Clinical Activity Index (CAI) スコア16であり貧血、高度の炎症を伴う重症例であった。SASPをアサコール3600mg/日へ変更、プレドニゾロンを増量し、IVH管理とした。眼瞼病変は麦粒腫、鼻口腔びらんは特異的炎症であった。第8病日の下部消化管内視鏡検査では S状結腸までの観察にてMatts grade4、生検にて US活動期の所見であった。痔瘻に関してはMRI T2WIにて肛門6時方向に高信号を認め限局した膿瘍と考えられた。アサコール、プレドニゾロンにて症状の改善が見られないため、第13病日からインフリキシマブ220mg/回を開始した。翌日より腹痛は軽快、排便回数も7回 /日へ減少したため、第15病日より PSL 15mg/dayへ減量した。第21病日にはCAIスコア0に改善し、痔瘻の症状も消失し第23病日退院となった。3月29日外来にて2回目のインフリキシマブ投与行いプレドニゾロン10mg/dayへ漸減しているが増悪なく経過している。【結語】2010年6月当インフリキシマブが潰瘍性大腸炎にも保険収載となり注目を集めている。今回痔瘻を伴う難治性潰瘍性大腸炎にインフリキシマブを使用し、速やかに寛解導入が得られた症例を経験したので報告する。インフリキシマブは従来の治療に抵抗する難治性潰瘍性大腸炎に有用な薬物であると考えられた。

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クローン病に合併した直腸癌の一例1豊橋市民病院 消化器内科○芳川 昌功 1、浦野 文博 1、藤田 基和 1、内藤 岳人 1、 山田 雅弘 1、北畠 秀介 1、山本 英子 1、松原  浩 1、 河合  学 1、樋口 俊哉 1、岡村 正造 1

【症例】41歳男性【主訴】肛門狭窄【既往歴】平成2年に痔ろうにて近医で手術施行されクローン病が疑われた。平成6年10月と平成7年8月にイレウスで近医に入院歴があり保存的に軽快。【現病歴】平成7年11月に小腸穿孔で小腸部分切除術が施行され、小腸大腸型クローン病と診断された。術後は ED600Kcalと SASP2000mgで治療。平成8年9月に再度イレウスをきたし PSLが開始された。平成11年よりPSL中止し5ASA3000mgと ED900Kcalにて治療。平成14年6月痔ろうが悪化し平成14年8月からインフリキシマブ3回投与。平成14年11月と12月にインフリキシマブが投与された。以降はインフリキシマブなしで経過良好であったが、肛門狭窄に伴う症状は持続していた。平成17年6月、痔ろうにて近医で再手術。平成19年4月よりAZA50mgを開始し白血球数を指標に用量調節を行った。平成20年10月に小腸穿孔で再度緊急手術を施行した。術後は AZA50mgの継続で症状は安定していたが、肛門狭窄は高度で内視鏡の挿入は不可能であった。平成23年1月21日より肛門狭窄による排便困難症状が増悪したため、同年2月8日、15日、22日に肛門狭窄に対して内視鏡的バルーン拡張術を施行した。3度の拡張術の後、細径内視鏡 XP260Nが狭窄を通過することができた。狭窄を超え直腸の観察を行ったところ、下部直腸に全周性の2型腫瘍を認め、生検にて Mucinous adnocarcinomaを認めた。CTでは遠隔転移を認めず平成23年3月28日に直腸切断術が施行された。術後標本では歯状線から口側に40×30mmの全周性の腫瘍を認めた。腫瘍は固有筋層を超えて浸潤が見られた。リンパ節転移は認めず、非腫瘍部には明らかなクローン病の炎症所見は見られなかった。【考案】クローン病など、炎症性腸疾患では長期経過にて腸管の狭窄をきたすことが多く、狭窄腸管ではしばしば経内視鏡的アプローチが困難となることが多い。造影検査にても瘢痕狭窄か、腫瘍性狭窄なのかを見極めるのはしばしば困難である。今回、肛門狭窄に対してバルーン拡張術を行うことで口側の直腸癌を診断することが可能であった症例を経験したので報告する。

若年性関節リウマチ治療中に発症し Infliximab が奏功したクローン病の1例

1トヨタ記念病院 消化器科・内視鏡科○山田健太朗 1、宇佐美彰久 1、鈴木 貴久 1、篠田 昌孝 1、 高士ひとみ 1、村山  睦 1、内山 功子 1、遠藤 伸也 1

【患者】26歳、男性。【主訴】下痢、発熱、食欲不振。【既往歴】1998年若年性関節リウマチ。【家族歴】なし。【現病歴】若年性関節リウマチ に 対 し て、2005年 か ら Etanercept200mg/週 を 自 己 注 射 とMethotrexate8mg/週内服にて治療中。2010年4月初旬より下痢、発熱、食欲不振出現したため2010年4月に当科を受診。【現症】黄疸なし、貧血なし。腹部平坦、軟。下腹部に軽度の自発痛あり。腫瘤は触知せず。血圧:100/80mmHg。脈拍:80回 /分。体温:39.4℃。【検査結果】WBC 6100/μl, Hb 11.5g/dl, Plt 39.4×104/μl, AST 12U/l, ALT 10U/l, LDH 144U/L, Alp 252U/l, γ-GTP 33U/l, BUN 9mg/dl, Cr 0.5mg/dl, CRP 10.6mg/dl,赤沈58mm/h, CEA 0.5ng/ml, CA19-9 2U/ml. sIL-2RA 699U/mL,血液培養陰性。クォンティフェロン:陰性。ツ反:弱陽性。腹部造影CT:腸間膜、傍大動脈リンパ節が腫大していた。PET-CTで腫大したリンパ節に軽度の FDG集積を認めた。上部消化管内視鏡:胃、十二指腸に多発性のびらんを認めた。下部消化管内視鏡:横行結腸に縦走潰瘍を認め、潰瘍底と周囲の浮腫粘膜からの生検で炎症性肉芽腫を認めた。小腸造影では回腸に縦走潰瘍が疑われた。【経過】クローン病および、悪性リンパ腫、腸結核が疑われた。腹腔内リンパ節腫大があり開腹リンパ節生検による診断を考慮したが、同意を得られなかった。Etanerceptの投与を中止し、抗結核薬、5-ASAによる治療を開始した。1ヵ月後の腹部 CTで著変はなかったが、自覚症状、発熱は軽度改善した。6ヵ月の抗結核薬内服終了後に再び、腹部 CT、下部消化管内視鏡、小腸造影を行ったが、前回と変化は認めなかった。臨床経過より Crohn病と診断し2011年3月 Infliximabの投与を開始した。Infliximab初回投与後、自覚症状は消失し、炎症反応と貧血は著明に改善した。また CDAIは165から118にまで低下した。現在 Infliximabによる維持療法を継続中である。【考察】若年性関節リウマチ治療中の患者で腸結核や悪性リンパ腫の可能性が否定できず、クローン病の診断に苦慮し Infliximabの投与で改善を認めた1症例を経験した。

Infliximab による遅発性アレルギーをきたし,adalimumab が著効した小腸大腸型クローン病の1例

1刈谷豊田総合病院 消化器内科○伊藤 峻介 1、浜島 英司 1、井本 正巳 1、中江 康之 1、 仲島さより 1、松山 恭士 1、浜宇津吉隆 1、大森 寛之 1、 桑原 崇通 1、松井 健一 1、村瀬 和敏 1、今田 数実 1、 小川  裕 1、鈴木 敏行 1

【症例】28歳,男性.現病歴は,H15年5月に腹痛と頻回の下痢で他院受診し,小腸大腸型クローン病(以下 CD)と診断され,同年8~9月に infliximabによる治療を3回施行された。H16年に虫垂穿孔にて虫垂切除術施行.H18年4月15日,転居に伴い当科を受診.Mesalazine,rabeprazoleなどの投与で外来治療を続けていたが,H20年に自己中断.H22年6月24日,症状の悪化(6回 /日ほどの軟便.発熱,腹痛はなし.CDAI値は261)で当科を再受診し,7月21日に入院.CFで直腸の縦走潰瘍,CTでは回腸直腸瘻を認めた.CDの再燃と診断し,第10病日に infliximab 280mgを投与した.第13病日からAST50U/l,ALT50U/l前後の肝酵素上昇があったが,排便回数は2~3回 /日に減少し有形便もみられた.第21病日に退院後となったが,その後皮疹,発熱が出現し,8月13日に救急外来を受診.体温39.2℃,右上肢に発赤を伴う膨疹,掻痒感を認めた.採血では,CRP16.3mg/dl,T-Bil1.4mg/dl,ALP583U/lと上昇,AST/ALTも依然上昇しており同日入院となった.腹部 CTでは,肝門脈周囲の浮腫を認め,infliximabの遅発性アレルギーによる発熱,皮疹,肝障害と診断した.第6病日に methylpredonisolone 125mg/dayを投与したところ,炎症反応,CT所見は徐々に改善し,肝酵素上昇も第47病日には改善した.第12病 日 に 退 院 し, 外 来 で predonisolone 10mg/day,mesalazine 3000mg/dayの内服を継続し,軟便~水様便が5回 /日前後であった.10月12日より predonisolone,mesalazineに加えて azathioprine 50mg/dayの内服を開始したが下痢の改善はなし.抗 TNFα抗体の投与が必要と考え,12月27日に adalimumab 160mgを投与し,その後外来で用法通りに継続.本年3月現在,特に副作用は認めず,下血はなく有形便が2~3回 /日,CDAI値も96と改善し,良好に経過している.【考察】自験例では,遅発性アレルギーにより CDに対する infliximabの使用は困難となったが,adalimumabが著効し,infliximab投与不能の CDに対する adalimumabの有用性が示唆された.

慢性骨髄性白血病を合併したクローン病の1例1名古屋市立大学・院医・消化器代謝内科学○溝下  勤 1、谷田 諭史 1、水島 隆史 1、神谷  武 1、 片岡 洋望 1、森  義徳 1、志村 貴也 1、村上 賢治 1、 平田 慶和 1、海老 正秀 1、岡本 泰幸 1、塚本 宏延 1、 尾関 啓司 1、田中  守 1、城  卓志 1

【症例】62歳、女性。【既往歴】Herlyn-Werner-Wunderlich症候群(左腎低形成 +双角子宮)、難治性痔瘻(2001年10月)、慢性骨髄性白血病(2003年4月~現在、ダサチニブ投与で寛解を維持している。)、悪性リンパ腫(Burkitt Like Lymphoma/Leukemia)(2006年、現在は完全寛解)、胆石症(2006年12月に腹腔鏡下胆嚢摘出術施行)【現病歴】2001年5月にクローン病と診断され、治療開始(その後、上記血液疾患の治療歴あり)。2010年12月から水様下痢が出現し、2011年1月に水様下痢が悪化(10回以上 /日)したため入院となった。入院時身体所見:発熱なし、腹部軟・平坦で圧痛なし。腹部腫瘤触知せず。入院時血液検査では、貧血(RBC:363×104/μl、Hb:9.2g/dl)と炎症反応の高値(WBC:9500/μl、CRP:3.89mg/dl)を認めた。入院時下部消化管内視鏡検査では、上行結腸~直腸(Rs)にかけて、縦走潰瘍を認め、病変はスキップしていた。小腸造影は異常なし。便培養検査では常在菌のみだった。CT・MRIでは腹腔内膿瘍・肛門周囲膿瘍は認めなかった。以上より、クローン病(大腸型)の増悪と診断した。慢性骨髄性白血病の合併などを考慮し、外来での治療(サラゾピリン 3000mg/日、プレドニゾロン 10mg/日)に加えて、2回/週(5週間)の強化顆粒球・単球吸着療法(intensive GMA)を1月下旬より追加した。intensive GMA により便回数は2~3回/日、 Crohn’s Disease Activity Index(CDAI)は治療前269→治療後131となり臨床的に改善した。【結論】Intensive GMAが有効であった慢性骨髄性白血病を合併したクローン病の1例を経験したので報告した。

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大腸⑦

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Crohn 病と鑑別を要した腸結核の1例1愛知医科大学 消化器内科○岡庭 紀子 1、増井 竜太 1、川村百合加 1、伊藤 義紹 1、 近藤 好博 1、井澤 晋也 1、土方 康孝 1、河村 直彦 1、 徳留健太郎 1、飯田 章人 1、水野 真理 1、小笠原尚高 1、 舟木  康 1、佐々木誠人 1、春日井邦夫 1

症例は21歳女性で下腹部痛、発熱と下痢を主訴に近医を受診された。下腹部に限局する圧痛を認め、血液検査では貧血と炎症反応を認めたため当院を紹介された。CT検査にて回盲部の炎症所見を認め、下部消化管内視鏡検査では盲腸、バウヒン弁とその周囲で軽度の発赤と浮腫があり、白苔を伴った地図状の不整潰瘍を認め、生検では類上皮肉芽腫を認めたが、乾酪壊死はみられなかった。消化管造影検査では回腸に2か所の非連続性の狭窄があり、また回腸末端は数 cmにわたり全周性の壁硬化、伸展不良を認めた。盲腸も全体に伸展が不良で不整形のバリウムのたまりを認めた。Crohn病と判断し、成分栄養と5-ASA (3000mg/day) の投与を開始した。約3ヶ月間の治療経過で症状軽快したため、自己判断で通院中断された。 その2ヶ月後に喀血され、当院救急外来を受診した。 胸部 Xpと胸部 CTにて右下肺野に浸潤影、散布影を認めた。結核菌塗抹検査 (-)、PCRTB (+)、QFT (+) から肺結核と診断した。抗結核薬である INH, RFP, PZA, EBの4剤内服が開始となった。 その後、胸部 Xpの改善あり、下部消化管内視鏡検査では前述した不整潰瘍は瘢痕化していた。以上、経過より腸結核と診断した。今回、Crohn病と判断し治療を行ったが経過より腸結核と診断し得た1例を経験したので報告する。

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下血を主訴とし、collagen band の肥厚を経時的に観察しえたCollagenous colitis の一例

1名古屋第一赤十字病院 消化器内科○山  剛基 1、春田 純一 1、山口 丈夫 1、石川 卓哉 1、 亀井圭一郎 1、小林 寛子 1、佐藤亜矢子 1、澤田つな騎 1、 水谷 泰之 1、村上 義郎 1、服部  峻 1

症例は70歳代女性。逆流性食道炎、脂質異常症にて近医通院中。3ヶ月前より1日2行程度の下痢が毎日続いていた。1週間前より下血を伴うようになり近医から紹介受診となる。大腸内視鏡を施行し、上行結腸中心とした全大腸からの粘膜出血を伴う易出血粘膜を認めたが、潰瘍や腫瘍など明らかな出血を来たす病変はなかった。全大腸よりランダム生検を施行、出血性大腸炎の診断で精査加療目的に入院となった。入院後は腸管の安静の目的で絶食補液とし下痢下血の改善をみた。初回の大腸内視鏡時の生検では collagen bandの肥厚は軽度あった。ランソプラゾールを8ヶ月前より内服していることからCollagenous colitisの可能性を入院時より考慮して、ランソプラゾールは中止としていた。10日後に再度大腸内視鏡を施行した所、粘膜出血は消失し、拡大観察を含めた内視鏡観察では異常を指摘できなかったが、診断目的に全大腸より再度ランダムに生検を施行した。二度目の生検では被蓋上皮直下に肥厚した collagen bandおよび粘膜固有層にリンパ球や好酸球、形質細胞など含めた炎症細胞浸潤がみられ、上皮細胞内リンパ球は少数であり Collagenous colitisと診断した。Collagenous colitisは、慢性水様性下痢を主訴とし、病理組織学的に大腸被蓋上皮直下に肥厚した collagen bandを有することで診断される疾患である。従来は大腸内視鏡検査などの画像検査で異常がないことが特徴とされてきたが、近年報告例の蓄積により血管網の増生、顆粒状粘膜、線状粘膜欠損などの特徴的内視鏡所見が報告されている。下血を来たした場合は粘膜欠損を伴う場合が多く、粘膜欠損を伴わない出血性大腸炎としての Collagenous colitisは稀であり、また治療に伴い collagen band沈着が消褪するとの報告は散見されるが、本症例は反対に collagen bandの肥厚を経時的に観察でしえた貴重な症例と考え報告とする。

Lansoprazole により発症した collagenous colitis の1例1刈谷豊田総合病院 消化器内科、2刈谷豊田総合病院 病理科○大森 寛行 1、松山 恭士 1、井本 正巳 1、浜島 英司 1、 中江 康之 1、仲島さゆり 1、濱宇津吉隆 1、桑原 崇通 1、 松井 健一 1、村瀬 和敏 1、今田 数美 1、小川  裕 1、 鈴木 敏行 1、伊藤  誠 2

【症例】69才,男性.主訴は下痢,既往歴は OMI,HT,HL.H23/1月頃から3~10行 /日の水様性下痢を認めた.2/14に呼吸困難を認め,CHFの増悪のため当院循環器内科に入院.第2病日より止痢薬を使用したが改善なく,第9病日に当科紹介.血液検査では,有意な所見を認めなかったが,腹部 CTでは,小腸~大腸に液体貯留,R~Sに軽度の全周性壁肥厚を認めた.便培,CDトキシンは陰性であった.何らかの感染性腸炎を疑い,fosfomycin 3g/日と整腸剤を開始したが,下痢は改善しなかった.H22/10月下旬から抗凝固薬による胃粘膜障害予防のため処方されていた lansoprazole 15mg/日による collagenous colitis(以下 CC)を疑い,第12病日より中止し,famotidine 20mg/日i.v.とした.第17病日の CFでは,Sまで観察し,腸管粘膜の浮腫・血管透見像の消失を認めた.組織学的には,炎症性細胞浸潤・びらんを認め,上皮下には100μmの膠原線維帯を認め,CCと診断した.その後下痢は改善し,第28病日に famotidine内服とし,同日退院.3月24日の腹部 CTでは,大腸の壁肥厚は改善し,3月30日の CFでは,粘膜は正常で,組織学的には,軽度の炎症性細胞浸潤を認めるのみで,膠原線維は減少していた.2ヶ月経過した現在,特に症状なく外来で経過観察中である.【考案】CCは,慢性の下痢と大腸生検組織で厚さ10μm以上の膠原線維帯,および粘膜固有層の炎症細胞浸潤が診断基準である.原因としては,薬剤(lansoprazole,NSAIDsなど)や,腸管感染症などの報告がある.本症例は,lansoprazoleを処方されてから,約2ヶ月後に水様性下痢が発症した.薬剤中止後は症状が改善していることや,組織像から CCと確定診断した.CCは,内視鏡所見だけでは特異的な異常所見がないが,組織学的に診断ができるため,下痢の患者には,CFに加え,積極的な生検が必要と考えた.【結語】lansoprazoleにより発症した collagenous colitisの1例を経験した.

サイトメガロウイルス腸炎を合併したGood症候群の一例1浜松医科大学 第一内科、2浜松医科大学 臨床研究管理センター、3浜松医科大学 分子診断学○田村  智 1、大石 愼司 1、鈴木 崇弘 1、石田 夏樹 1、 魚谷 貴洋 1、寺井 智宏 1、山出美穂子 1、西野 眞史 1、 濱屋  寧 1、栗山  茂 1、山田 貴教 1、杉本 光繁 2、 金岡  繁 3、古田 隆久 2、大澤  恵 1、杉本  健 1

症例は81歳、女性。2010年5月下旬より水様下痢が出現。倦怠感や体重減少も伴うようになり7月6日近医入院。大腸内視鏡検査にて横行結腸から直腸に多発する潰瘍性病変を指摘され、精査加療目的にて7月12日当科転院となった。血液検査では軽度の正球性貧血、低蛋白血症および免疫グロブリン(IgG, M, A,)の異常低値を認めた。大腸内視鏡検査を再検したところ、全大腸にわたり境界明瞭な抜き打ち様潰瘍が多発し一部は縦走傾向を有していた。生検組織では悪性所見や血管炎、肉芽腫の所見はなく、非特異的炎症細胞浸潤を認め、免疫組織化学染色にて抗 CMV抗体陽性であり、サイトメガロウイルス腸炎と診断した。また入院時に施行した胸部 CT検査では前縦隔上行大動脈前方に径3cm大の軟部腫瘤を認め、胸腺腫と診断した。以上の検査結果より本症例は胸腺腫に低ガンマグロブリン血症を合併するGood症候群と診断し、それに伴う免疫不全にて CMV腸炎を合併したと考えられた。免疫グロブリンの投与、ガンシクロビルの投与により下痢は改善傾向となり、内視鏡的にも潰瘍病変の改善が認められたが、入院第100病日に肺炎を発症しその後比較的急速に呼吸状態が悪化、第117病日呼吸不全のため永眠された。剖検の結果、死因はニューモシスチス肺炎と診断された。Good症候群の免疫不全の発症機序は未だ十分に解明されておらず、根治的治療法はないため、最終的に感染症が制御不能となり極めて予後不良である。免疫学的特徴として、液性免疫と細胞性免疫の両者の低下を認め、成熟 B細胞成熟障害より低 γグロブリン血症をきたすとされる。本患者において末梢血中の成熟 B細胞数を表面マーカーCD19、CD20、CD21、CD22陽性細胞で検討したところ異常低値を示した。、また、細胞性免疫に関しては末梢血中の IL-4産生 CD4細胞(Th2細胞)数の低下がフローサイトメトリーで示された。本例での免疫異常の検討を含めて若干の文献的考察を加え報告する。

回盲部癌との鑑別に難渋した回盲部単純性潰瘍の一例1愛知県厚生連 海南病院 消化器内科、2愛知県厚生連 海南病院 病理診断科○青木 孝太 1、武藤 久哲 1、荒川 直之 1、久保田 稔 1、 石川 大介 1、國井  伸 1、渡辺 一正 1、奥村 明彦 1、 後藤 啓介 2、中村 隆昭 2

症例は56歳男性。2010年11月頃より軽度の心窩部痛を自覚し近医を受診した。H2 blocker投与にて経過観察されるも症状改善を認めず、2011年1月に当院消化器内科を受診した。当院において上部消化管内視鏡検査を施行したところ、びらん性胃炎を認めるのみであったが、CTを施行したところ盲腸~上行結腸の限局的な壁肥厚と周囲脂肪織の densityの上昇を認めた。下部消化管内視鏡検査を施行したところバウヒン弁の肛門側に半周性の潰瘍性病変を認めた。同部の生検を施行したところ病理結果は炎症細胞浸潤を伴った肉芽組織を認めるのみで悪性所見は認められなかった。内視鏡検査の肉眼所見からは悪性の可能性が否定しきれなかったため、検査から約2週間後に再度下部消化管内視鏡検査を施行した。前回検査と肉眼所見は変化なく、また、再度生検を施行したが病理結果も同様であった。主症状である心窩部痛は継続しており、悪性が否定できないこと、また本人の外科的切除による治療希望が強かったことから回盲部切除を施行した。切除標本は盲腸~上行結腸にかけて50mm大の潰瘍形成を認めた。組織学的には潰瘍底には好中球、リンパ球、形質細胞浸潤がみられるのみで悪性所見は認めなかった。以上より回盲部単純性潰瘍と診断した。単純性腸潰瘍は回盲部に好発する難治性、易再発性の原因不明の慢性炎症性腸疾患である。鑑別疾患として、悪性腫瘍、腸管ベーチェット病、腸結核などが挙げられるが本症例ではいずれも否定的であった。今回我々は回盲部癌との鑑別に難渋した回盲部単純性潰瘍の一例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する。

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当院のB型肝炎関連疾患におけるHBV subgenotype 分布についての検討

1公立陶生病院 消化器内科、2名古屋大学医学部消化器内科○吉崎 道代 1、石川 恵理 1、小島 久実 1、浅井 裕充 1、 松崎 一平 1、松浦 哲生 1、清水 裕子 1、林  隆男 1、 黒岩 正憲 1、森田 敬一 1、林  和彦 2、後藤 秀実 1

【目的】本邦の B型慢性肝炎(CHB)では genotypeC2と B1が約90%を占めている。B型急性肝炎(AHB)でも genotypeC2と B1が多数を占めるが、海外型の genotype A, D, C1, B3, B4の増加が報告されている。今回当院の B型肝炎関連疾患における HBV subgenotype分布について検討したので報告する。【対象】AHB27例と CHB29例。HBV subgenotypeは preSのダイレクトシークエンスを行い、NJ法の分子系統樹を用いて解析した。【結果】AHBでは HBV subgenotypeAe/A2 (n=11), Bj/B2 (n=1), Ba/B3 (n=1), C1 (n=2), Ce/C2 (n=9), C6 (n=1)であった。急性肝炎では Ae/A2が最も多く、genotypeBと Cでは海外型のsubgenotype B3, C1, C6を認めた。一方 CHBでは HBV subgenotypeBj/B1 (n=2), Ce/C2 (n=27) であり、全例国内型であった。【結語】AHBでは genotype Aが最大であり、また日本に多く分布している genotypeCや Bにおいても海外型を認めた。急性肝炎のおいても慢性化の可能性に十分留意して診療にあたる必要があると思われた。

HBV再活性化を来した2例1大同病院 消化器内科○小川 和昭 1、藤城 卓也 1、榊原 聡介 1、野々垣浩二 1、 印牧 直人 1

【はじめに】近年、免疫抑制剤、化学療法の普及により B型肝炎ウイルスの再活性化の問題が注目されている。B型肝炎の再活性化においては、キャリアからの再活性化と既感染者からの再活性化があるが、既感染からの再活性化、de novo B型肝炎では劇症化が多く予後不良である。今回我々は、核酸アナログ投与により救命しえた de novo B型肝炎の2例を経験したので報告する。【症例】症例1は80歳、男性。当院血液内科にて、2008年に悪性リンパ腫と診断され R-CHOP8クール施行され寛解状態であった。2010年9月肝機能障害を認め当科に精査入院となった。HBs抗原は陰性、HBs抗体陽性、HBV-DNA:3.3logcopy/mlであり、他に肝機能障害を来す原因がないことからもR-CHOP施行後の B型肝炎再活性化と診断し、エンテカビル投与した。黄疸の遷延を認めたが、HBV-DNAは感度以下となり現在は外来通院中である。症例2は、72歳、男性。2010年12月、感冒症状を主訴に当院受診し、血液検査にて肝機能障害を認め当科に精査入院となった。2007年に当院受診歴があり、肝機能障害を認めたが HBs抗原陰性であった。今回の入院時には HBs抗原陽性、HBs抗体陽性、HBe抗体陽性、HBV-DNA:7.8logcopy/mlと高値であり、B型肝炎既感染の再活性化と診断した。エンテカビル投与により、ウイルス量の低下を認め、肝機能障害は改善した。【考察】核酸アナログ投与により救命しえた de novo B型肝炎の2例を経験した。免疫療法・化学療法により発症する B型肝炎対策ガイドラインは示されているが、本症例のように誘因なく再活性化する症例もあり、更なる検討が必要と思われた。

エンテカビル耐性株が出現したB型慢性肝炎の一例1愛知医科大学病院 消化器内科○杉山 智哉 1、佐藤  顕 1、坂野 文美 1、山本 高也 1、 金森 寛幸 1、大橋 知彦 1、中出 幸臣 1、中尾 春壽 1、 春日井邦夫 1、米田 政志 1

【はじめに】B型肝炎治療において,エンテカビル(ETV)は強力な抗ウイルス効果に加え,耐性株の出現率が低いことから現在、第一選択薬とされている。今回,我々は LAM内服開始2年後に breakthrough(BT)を生じ ETVへの変更にて鎮静化したが,約7年後に ETV耐性株による BTが出現した症例を経験したので報告する。【経過】症例は54歳女性。ALTが50~80U/l 前後で推移する B型慢性肝炎にて外来通院中の2001年に LAM投与を開始したが、ALTは正常化したものの HBV DNAは4.0logコピー/ml未満にはならなかった。その後2年が経過した2003年に ALT 131 U/l 、HBV DNA 6.9logコピー/mlと増悪し、ETVへ切替えたところ肝機能は正常化し、ウイルス量も検出感度以下となった。ETVへ変更後4年経過した2007年には HBV DNAは3.9logコピー/mlと増加し始めたが、ALT 30 U/l 未満 を持続していたためそのまま経過観察していた。しかし、3年後の2010年9月にALT 77U/l 、HBV DNA 6.0logコピー/mlと肝酵素値、ウイルス量ともに上昇したためアデフォビル(ADV)併用を開始した。その後肝機能は速やかに改善し、投与3カ月後にはウイルス量も2.1 logコピー/ml未満となり現在に至っている。ADV投与開始前に施行したイノリパ法による遺伝子解析にて LAM耐性遺伝子である rt180番目の LからMへの変異、及び ETV耐性遺伝子である rt184番目の Tから I/L/F/Mへの変異が見られた。【考察】ETVの耐性株の出現率は年率1.1%であるが、LAM耐性株の症例では ETV耐性株が出現しやすい。ETVの認可からまだ5年にすぎず、LAMから ETVへの切替え症例も多いため ETV耐性株は今後増加する可能性がある。核酸アナログ耐性と薬剤選択に関して若干の文献的考察を加え報告する。

エンテカビルとステロイド治療を施行したB型急性肝炎(genotypeA)の1例

1岐阜県総合医療センター 消化器内科、2同 病理診断部○小原 功輝 1、安藤 暢洋 1、加藤 潤一 1、馬淵 正敏 1、 岩砂 淳平 1、大島 靖広 1、岩田 圭介 1、芋瀬 基明 1、 清水 省吾 1、杉原 潤一 1、岩田  仁 2

【症例】49歳、男性。特記すべき既往歴なし。平成22年9月頃風俗店へ行き、12月初旬から感冒症状出現し、尿濃染に気付いたため近医を受診したところ、黄疸を指摘され12月15日当科紹介受診となった。T-Bil 10.2mg/dlと高度の黄疸、トランスアミナーゼの著明な上昇(AST 375IU/L、ALT 767IU/L)が認められ、HBsAg (+) であり B型急性肝炎の疑いで入院となった。入院後 IgM-HBcAb (+)、HBV-DNA8.1 Logcopy/mlと判明し、B型急性肝炎と確定診断した。安静、補液で経過をみたが、PTは108%と保たれているものの T-Bil 13.2mg/dl 、ALT 787IU/L と改善が認められず、7病日から SNMC80ml/日を開始した。HBV genotypeが Aeと判明したため10病日からエンテカビルを開始した。ALT は209IU/L と低下したが、T-Bilは20.6mg/dlに上昇し、14病日から UDCA600mg/日を開始した。しかしその後も T-Bil 24.3mg/dlまで上昇したため、24病日から PSL 30mg/日の内服を併用した。27病日には T-Bil 18.9mg/dlと減少傾向を示したため、以後漸減し60病日で PSLを中止したが、ALT は39IU/Lと順調に改善した。70病日には SNMCも中止したが、T-Bil 1.3mg/dl 、ALT 18IU/Lと再燃はみられず、HBV-DNA3.3Logcopy/mlまで低下し、76病日退院となった。64病日に施行した肝生検では、小葉内の single cell necrosisとspotty necrosis、グリソン鞘の軽度浮腫状拡大、胆汁うっ滞像が認められ、急性肝炎回復期に矛盾しない所見であった。今後は HBsAg陰性化までエンテカビルを継続する予定である。【考察】genotypeA型のHBVによる肝炎は近年増加傾向にあり、慢性化のリスクが高いことが知られている。genotypeA型による B型急性肝炎において経過が遷延する症例では、肝炎重症化と慢性化防止の目的でエンテカビルの投与を積極的に考慮すべきと思われる。早期にエンテカビルを含めた積極的治療を行い良好な経過をたどった genotypeA型の B型急性肝炎の1例を経験したため報告する。

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自己免疫性肝炎における血清 IgG4の臨床的意義について1名古屋大学 医学部 消化器内科○石津 洋二 1、片野 義明 1、中野  聡 1、増田 寛子 1、 及部祐加子 1、土居崎正雄 1、葛谷 貞二 1、舘  佳彦 1、 本多  隆 1、林  和彦 1、石上 雅敏 1、中野  功 1、 後藤 秀実 1

(背景)自己免疫性肝炎における血清 IgG4に関して、その陽性率、予後との関連、ステロイドに対する治療反応性などの臨床的意義について不明な点が多い。そこで今回、当院にて肝生検を施行し、自己免疫性肝炎の国際診断基準で確定診断された症例を対象に治療開始前の血清 IgG4を測定し、臨床背景、治療効果、病期の進行および予後について検討した。(対象)29例の自己免疫性肝炎。男性8例、女性21例、平均年齢56歳であった。(結果)29例中4例(13.8%)が血清 IgG4高値であった。IgG4高値例のうち3例で肝組織の IgG4免疫染色を施行したが、すべて陰性だった。血清 IgG4高値群4例と血清 IgG4正常群25例を比較検討したところ、IgG4高値群において、γGTP値、ALP値が有意に高値を示し、また ALB値、PT値は有意に低値を示した。ステロイドに対する治療反応性において血清 IgG4との関連は観察されなかった。血清 IgG4高値群の1例が、自己免疫性肝炎確定診断後3年で自己免疫性膵炎を併発した。(結論)今回の検討は少数例の対象であるが、自己免疫性肝炎で血清 IgG4が高値であった症例から、IgG4関連疾患である自己免疫性膵炎が併発したので注意が必要である。

症候性原発性胆汁性肝硬変症(sPBC)に自己免疫性肝炎(AIH)を合併した1例

1名古屋セントラル病院 消化器内科○神谷 友康 1、真鍋 孔透 1、佐藤 寛之 1、桶屋 将之 1、 安藤 伸浩 1、川島 靖浩 1

【症例】57歳、男性。【主訴】黄疸【現病歴】腰痛のため近医を受診したところ黄疸を認めたため精査目的で当院紹介となった。【入院時所見】眼球結膜 黄疸 眼球結膜 正常 腹部 平坦 軟 圧痛なし肝を触知せず。浮腫なし。表在リンパ節触知なし。WBC 8450/μl T-Bil 8.6 mg/dlと高 Bil血症を認め ALP 3184 IU/l AST 114 IU/l ALT 69 IU/lγ-GTP 554 IU/lと肝逸脱酵素の軽度上昇、胆道系酵素の著明な上昇を認めた。CEA 2.5 CA19-9 7.7と腫瘍マーカーは正常であった。【経過】入院時施行した造影 CTにて総胆管、肝門部胆管に軽度拡張を認めたが明らかな腫瘤や結石像は認められなかった。ERCPを施行し、胆管造影を施行したが明らかな閉塞所見は認められなかった。減黄目的に ENBDを挿入し、数日経過をみていたが黄疸の改善は認められなかった。その後血液検査にて抗ミトコンドリア抗体80倍、IgG 2259mg/dl IgA 415mg/dl IgM 380 mg/dl 抗核抗体 40倍であった。症候性 PBCと診断し、確定診断のため肝生検を施行。UDCA600mg/dayの内服を開始とした。その後の病理組織診断にて CNSDC、肝細胞のロゼット形成を認め PBCと AIHの組織所見が混在する所見であった。症候性 PBCと AIHの合併と診断し UDCAに PSL30mg/dayを追加し治療を開始した。その後徐々に黄疸は改善傾向であり、経過良好である。【考察】原発性胆汁性肝硬変は病因・病態に自己免疫学的機序が想定される慢性進行性の胆汁うっ滞性肝疾患であり、種々の自己免疫性疾患を合併することが知られている。自己免疫疾患の中でも PBCと AIHの病像が同時にあるいは異時性にみられる病態はオーバーラップ症候群と呼ばれてきた。診断基準により異なるが PBCの7~20%で認められるとされている。今回我々は比較的稀とされているオーバーラップ症候群の1例を経験したため若干の文献的考察を加えて報告する。

特発性血小板減少性紫斑病を合併した自己免疫性肝炎の 一例

1JA愛知厚生連 豊田厚生病院 内科○平林 恵梨 1、森田  清 1、大久保賢治 1、竹内 淳史 1、 金沢 宏信 1、清水 潤一 1、伊藤 隆徳 1、竹山 友章 1、 橋詰 清孝 1、西村 大作 1、片田 直幸 1

【症例】57歳女性【主訴】全身倦怠感【既往歴】特記すべきことなし【家族歴】姉が肝硬変、甲状腺疾患【現病歴】平成22年12月初旬より尿の色が濃くなってきたのに気づく。また12月29日から全身倦怠感出現。平成23年1月4日当院外来受診し、血液検査施行したところ総ビリルビンの上昇、肝胆道系酵素の上昇、血小板低下あり、急性肝炎と考えられ同日入院。【入院時現症】体温36.8度、血圧109/66 mmHg、脈拍63/分、SpO2 97%。眼球結膜・皮膚に黄疸あり。心音整、雑音なし。腹部は平坦・軟。圧痛なし。右肋弓下に肝を4横指触れる。腹水なし。【入院時検査成績】総ビリルビン10.5mg/dl、ALP 385U/l、AST 1315 U/l、ALT 891U/l、γ-GTP 124U/l、血小板3万5千、IgG 2096mg/dl、抗核抗体320倍陽性、IgM-HA抗体陰性、HBs抗原陰性、HCV抗体陰性。PA IgG 153ng/107cellsと高値。【臨床経過】腹部超音波検査・腹部 CT検査上は肝脾腫大、胆嚢壁の全周性肥厚あり急性肝炎の像を呈した。1月5日肝生検施行。びまん性に肝細胞は腫大し、広範な虚脱を伴い、虚脱部には好酸球、リンパ球、形質細胞の浸潤あり、高度なインターフェイス肝炎を示す急性肝炎の所見であった。自己免疫性肝炎国際診断基準で確診例と考えられ急性発症型の自己免疫性肝炎と診断した。また骨髄穿刺施行し特発性血小板減少性紫斑病として矛盾のない所見であった。1月12日からプレドニゾロン40mg/day内服施行。以後漸減。1月28日総ビリルビンと ALP再上昇ありウルソデオキシコール酸の内服を追加した。その後は肝胆道系酵素減少、血小板上昇認められ2月7日退院となった。【結語】自己免疫性肝炎は慢性甲状腺炎、慢性関節リウマチ、自己免疫性溶血性貧血などの自己免疫疾患を合併することは知られているが、特発性血小板減少性紫斑病の合併は1-2%と比較的まれである。今回われわれは同時性に自己免疫性肝炎と特発性血小板減少性紫斑病を発症した一例を経験した。若干の文献的考察を加え報告する。

生体肝移植が回避できた劇症肝炎の1例1愛知県厚生連 海南病院 消化器内科、2愛知県厚生連 海南病院 病理診断科○武藤 久哲 1、荒川 直之 1、青木 孝太 1、久保田 稔 1、 石川 大介 1、國井  伸 1、渡辺 一正 1、奥村 明彦 1、 後藤 啓介 2、中村 隆昭 2

症例は30歳台女性。主訴は全身倦怠感と白色便。7月10日ごろより、全身倦怠感と白色便が出現。7月13日より口唇に皮疹が出現したため近医を受診。ゾビラックスの内服開始となった。7月17日近医受診後に肝機能障害を指摘され、急性肝炎の疑いで当院紹介初診となった。初診時には、GOT 697IU/l、GPT 451IU/l、TB 6.8mg/dl、PT 46.6% と高度の肝機能障害を認めた。CTでは実質相にて肝辺縁近傍の濃染と門脈周囲の低吸収域を認めた。肝障害の原因を検索したところ、A、B、C、E型肝炎ウイルスの関与は否定的であり、CMV、EBV、HSVなどのウイルスの関与も否定的であった。また、抗核抗体は陰性、IgGも正常範囲内であった。薬剤の関与については、発症時期などから考えて可能性が高いと考えた漢方薬について DLSTを施行したが、結果は陰性であった。2度以上の明らかな肝性脳症は認めず、原因不明の重症の急性肝障害として経過観察した。その後も徐々に PT値が低下したため入院第6病日からステロイドパルス療法を施行した。トランスアミナーゼは著明に低下したが、入院第8病日には2度の肝性脳症が出現した。CTにても肝はやや委縮傾向にあり、少量の腹水を認めた。生体肝移植が必要となる可能性が高いと判断したため、ヘリコプターにて岡山大学へ搬送した。生体肝移植の準備をしつつ慎重に経過を観察されたが、転院後第8病日の CTでは肝の著明な委縮を認めた。しかしその頃より PT値が徐々に改善する傾向が現われ、生体肝移植が回避できた。転院後第28日病日に施行された腹腔鏡下肝生検では、肉眼的には馬鈴薯肝であり、組織学的には Submassive necrosisを認め、慢性肝障害は否定的で自己免疫性肝炎や薬物性を積極的に示唆する所見にも乏しく、急性肝障害回復期の像という所見であった。患者は転院後入院第40病日に岡山大学を退院し、現在当院にて外来フォローアップ中である。

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大腸癌肝転移に対する術前化学療法の肝切除術への影響1岐阜大学 医学部 腫瘍外科○安福  至 1、今井  寿 1、佐々木義之 1、田中 善宏 1、 野中 健一 1、高橋 孝夫 1、山口 和也 1、長田 真二 1、 吉田 和弘 1

【緒言】大腸癌肝転移治療では,周術期化学療法による治療成績の向上が期待されている一方,抗癌剤特異的肝障害が問題視されており,過去の大腸癌肝転移肝切除症例から,術前化学療法が手術の安全性に及ぼす影響について調査した。【対象と方法】対象は2005年4月より2011年3月までの大腸癌肝転移肝切除症例で,同時性肝切除症例と再肝切除症例は除外した。治療内容(術前化学療法の有無,レジメ,治療回数,肝切除までの期間)および手術因子(手術時間,出血量,術後在院日数,合併症,血液検査結果)について,術前化学療法群(C群)と非施行群(N群)で比較検討した。【結果】41例の肝切除例中28例が対象となり,C群18例,N群10例であった。1,C群における化学療法から手術までの日数は,40±14日であり,平均14±8回の治療が行われていた。2,肝転移の個数,最大径,術式などの背景因子に差はなかったが,手術時間は N群で196±69分,C群で231±49分と C群で長い傾向があり(p=0.06),出血量は N群で406±403mL,C群で701±522mLと C群で多い傾向があった(p=0.07)。3,平均術後在院日数は両群とも13日,術後合併症発生率は N群20.0%,C群22.2%と同等であったが,C群では胆汁漏2例,肝内動脈瘤破裂1例とより重篤な合併症を認めた。4,術後1日目の血液検査では,C群で AST(196 vs. 260),ALT(151 vs. 214)が高い傾向があり,WBCは C群で有意に高値であった(7495 vs. 10162, p=0.01)。【考察】大腸癌肝転移に対する術前化学療法は,術後在院日数や合併症の頻度には影響しないが,出血量の増加,重篤な合併症の増加に関連する可能性が示唆された。

EOB造影MRI 肝細胞相にて信号低下を認め、CTHA後期相でコロナ様濃染像を呈した限局性結節性過形成の1例

1三重中央医療センター 消化器科○竹内 圭介 1、川村 智子 1、子日 克宣 1、加藤 裕也 1、 亀井  昭 1、渡邉 典子 1、長谷川浩司 1

症例は38歳の女性。既往歴に特記事項なし。2009年9月に右下腹部痛を主訴として近医を受診。画像検査で婦人科領域の疾患が疑われ、当院婦人科を受診。ただし同科では原因疾患は認められず、当科を紹介された。腹痛は自然軽快したが、腹部 CT検査、超音波検査で肝に腫瘍性病変を指摘され、精査を目的に入院となった。血液検査では肝機能検査値はいずれも正常。HCV抗体、HBs抗原はともに陰性であり、腫瘍マーカーは AFP 1.3ng/ml、CEA 3.1 ng/ml、CA19-9 0.1 U/ml、CA125 6.4 U/mlと正常域であった。CT検査では単純で肝 S6に20mmの淡い低吸収域を認め、同部は造影早期に強く濃染され、後期で淡い低吸収となった。腹部超音波検査では、S6に径20mmの淡い高エコー腫瘤を認め、ソナゾイド造影で early vascular phaseにて中心から遠心性に染影を認めたが、post vascular phaseでは欠損像は認められなかった。MRIでは T1強調で軽度低信号、T2強調で軽度高信号を示し、拡散強調では等信号であった。EOB造影では早期相で濃染し、遅延相では腫瘍辺縁部が高信号となり、中心部に信号低下を認めた。腹部血管造影では、腫瘍は二本の動脈が中心に流入し放射状に濃染を認めた。CTAPでは欠損域となり、CTHAでは早期濃染を認め、後期相でコロナ様濃染を認めた。以上から限局性結節性過形成を第一に疑ったが、肝癌を完全には否定できず、腫瘍生検を行った。腫瘍部の組織は背景肝とほぼ変化がなく、悪性所見は認められなかった。現在経過観察中だが、腫瘍に変化は認められない。限局性結節性過形成は良性の過形成病変であり、確定診断が得られれば経過観察が第一となるが、肝細胞癌をはじめとする多血性腫瘍との鑑別が重要となる。典型的な画像所見を呈さないために、診断に苦慮する症例も存在し、若干の文献的考察を加え報告する。

非機能性膵内分泌腫瘍の肝転移巣との鑑別に苦慮した肝血管腫の一例

1磐田市立総合病院 消化器内科○伊藤  潤 1、成瀬 智康 1、鈴木 静乃 1、森川 友裕 1、 西垣 信宏 1、井上 裕介 1、住吉 信一 1、笹田 雄三 1、 斎田 康彦 1、犬飼 政美 1

【症例】49歳女性【主訴】左上腹部痛【既往歴】メニエール病、気管支喘息【現病歴】2009年10月より左上腹部痛を自覚し、12月17日に近医を受診した。腹部超音波検査で膵体部に径19mmの低エコーを呈する腫瘤を指摘され、2010年1月13日に当院当科を紹介受診した。精査の目的にて2月3日に当科入院となった。【初診時現症】身長157.9cm、体重43.7kg、体温37.1℃、脈拍82bpm整,血圧126/88mmHg左右差なし。左上腹部に軽度圧痛を認める以外に、胸腹部に異常所見なし。神経学的異常所見なし。【当院経過】腹部造影 CTにて膵体部に造影早期相に強い造影効果を認め平衡相にわたり造影効果のある径20mmの腫瘍と肝 S5/6領域に膵腫瘍と同様の造影効果を認める径18mmの腫瘍を認めた。腹部造影MRIでも膵体部に造影早期相で強い造影効果を認め平衡相にわたって造影効果を認める経22mmの辺縁分葉化した腫瘤を認めた。肝 S5/6領域の腫瘍は膵腫瘍と同様の造影効果を認めた。ERCPにて主膵管の途絶を認めた。画像所見から膵体部腫瘍は膵内分泌腫瘍、肝 S5/6の腫瘍はその肝転移巣と考え、2月16日に膵体尾部切除+肝部分切除+胆嚢摘出術を施行した。摘出標本では14×11mmの膵体部腫瘤性病変と15×12mmの肝腫瘤性病変を認めた。病理組織学的に非機能性膵内分泌腫瘍及び肝血管腫と診断された。【結語】膵内分泌腫瘍は膵腫瘍全体の1~2%を占め、そのうち50~60%が非機能性である。非機能性膵内分泌腫瘍はその60%程度に遠隔転移を伴い、診断時に既に肝転移を認める場合も少なくない。基本的に悪性腫瘍と考え、治療としては一般に原発巣及び転移巣の切除を基本とする。本症例は画像所見から術前診断では肝腫瘍は転移巣と思われたが、術後標本の組織所見から肝血管腫と診断された。膵内分泌腫瘍およびその転移巣について画像診断の観点から、若干の文献的考察を加えて報告する。

慢性C型肝炎に対するペグインターフェロン療法の肝線維化別の検討

1公立学校共済組合 東海中央病院 消化器内視鏡センター○森島 大雅 1、大塚 裕之 1、清野 隆史 1、石川 英樹 1

【目的】現在、C型肝炎に対する治療はペグインターフェロン(以下PEG-IFN)、リバビリン併用療法、PEG-IFN単独療法が標準となっているが、無効症例や再燃症例も経験しており、その治療成績を肝生検による肝線維化の評価を含め検討した。【対象】2008年1月から2011年3月までの期間に、慢性 C型肝炎に対して PEG-IFN療法を導入し、治療を完遂した45例のうち、治療前に肝生検を施行した9例を検討した。平均年齢: 56.9歳(50-66)、男性:女性=5:4例、HCV1型高ウィルス量:6名、2型高ウィルス量:1例、2型低ウィルス量:2例【方法】肝生検は、超音波下に肝右葉を16or18Gバード社製モノプティー針で穿刺、翌日の採血にて貧血の進行の有無を確認した。PEG-IFN療法は、慢性 C型肝炎治療ガイドラインに従い、PEG-IFN、リバビリン併用療法(24-48週)、PEG-IFN単独療法(48週)を行った。【結果】肝生検を施行した全例で十分な検体が採取可能であり、手技に伴う合併症は認めなかった。9例の肝線維化は、新犬山分類のF0:1例、F1:3例、F2:2例、F3:3例であった。平均血小板数はF0, 1:20.9万、F2:24.2万、F3:14万であった。全体での SVR率は88.9%(8/9)、F0, 1, 2症例の SVR率は100%(6/6)。F3症例の SVR率は66.7%(2/3)で、1例で治療後4週に再燃を認めた。治療開始8週までにウィルス陰性化した症例は、F0, 1, 2症例では100%(6/6)、F3症例では33.3%(1/3)であった。【考察】慢性肝炎が進行し線維化のある症例では、当院の成績でも低い SVR率であった。また線維化の強い F3症例の1例では、16週でウィルスが陰性化したが、48週治療後すぐに再燃を認めており、72週間延長投与等による成績向上を検討する必要があった。

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UFTが著効した肝細胞癌切除後多発肺転移の1例1豊橋市民病院 消化器内科○三竹 泰弘 1、岡村 正造 1、浦野 文博 1、藤田 基和 1、 内藤 岳人 1、山田 雅弘 1、北畠 秀介 1、山本 英子 1、 松原  浩 1、河合  学 1、樋口 俊哉 1、田中 浩敬 1

日本肝臓学会提唱のコンセンサスに基づく肝細胞癌(以後 HCC)治療アルゴリズム2010では肝外病変のある HCCで肝予備能良好(Child-Pugh A)の場合は sorafenibが標準治療となる。また、科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン(2009年版)では経口化学療法は効果がなく勧められない(グレード C2)との位置づけである。しかしながら5FU誘導体の経口抗癌剤である UFTが肝細胞癌の肺転移巣に著効したという報告を稀に認める。今回我々は UFTにより肝細胞癌切除後の多発肺転移が著明に縮小した1例を経験したため、報告する。症例は74歳男性。HBs抗原陰性、HCV抗体陰性。平成18年12月にHCCに対し他院で拡大右葉切除を施行され、その後明らかな肝内再発なく経過していた。平成21年10月に PIVKA-2は407mAU/mLと上昇し、CTで多発肺転移を認め、当院紹介受診となった。肝予備能はChild-Pugh6点(A)と良好であったが、sorafenibは使用に対しての同意が得られず、平成22年3月より UFT300mg/dayを開始した。治療開始1ヵ月後の CTで右葉に5個、最大腫瘍径8mm の肺転移巣を認めたが、8ヵ月後の CTでは肺病変は著明に縮小し、PIVKA-2は217mAU/mLと低下傾向を示した。12ヶ月後の CTで肺転移巣はさらに縮小しPIVKA -2も40mAU/mLと正常化した。UFTによる治療経過中、画像上の肝内再発は認めなかった。UFTが HCCの肺転移に著効したという症例報告は散見され、著効例の特徴として、肝内病変がコントロールされていること、肺転移巣の腫瘍径が1cm以下と小さいこと、化学療法の治療歴がないことなどが挙げられている。本症例はこれらの条件をすべて満たしていた。肺転移に対する標準的治療は sorafenibであるが、肝予備能良好例に限られる、副作用が多いなどの問題点がある。前記の条件を満たす症例ではより副作用の少ない UFTが奏功する可能性があり、UFTが肝外転移における治療の選択肢の1つになると思われた。

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ラジオ波焼灼療法後に発症した肝仮性動脈瘤の2例1岐阜市民病院 消化器内科○入谷 壮一 1、西垣 洋一 1、林  秀樹 1、鈴木 祐介 1、 黒部 拓也 1、奥野  充 1、堀部 陽平 1、中島 賢憲 1、 小木曽富生 1、川出 尚史 1、向井  強 1、杉山 昭彦 1、 加藤 則廣 1、冨田 栄一 1

今回我々は、ラジオ波焼灼療法(RFA)後に発症した肝仮性動脈瘤を2例経験したので報告する。【症例】症例1は78歳男性。平成19年2月に直腸癌(Rb)に対して低位前方切除術を、同年8月には6個の転移性肝癌に対して RFAを施行され、以後全身化学療法(FOLFILI)が行われていた。平成21年3月、腹部エコー検査で肝 S1、5、6、7に再発を指摘され当科入院となった。いずれの腫瘍に対しても RFAが施行され、術後の経過は順調であったが、術後第16日目に強い腹痛が出現し、血液検査で貧血(Hb 6.5 mg/dl)を認めた。腹部造影 CT検査では、A6の動脈瘤様拡張と同部位からの活動性出血を疑う所見を認め、緊急血管造影検査が施行された。A6末梢の仮性動脈瘤及び、同部位からの造影剤の漏出を認め、仮性動脈瘤の破裂と診断し、coilingを行い止血に成功した。その後、出血はみられなかった。症例2は89歳男性。平成22年3月に C型慢性肝炎の follow中に肝細胞癌を指摘され、RFAを施行された。平成23年1月、S6、7に肝細胞癌再発を指摘され、当科入院となった。入院2日目と6日目に S7の腫瘍に対して RFAを施行され、術後の腹痛もほとんど認められなかった。しかし、入院9日目の S6の腫瘍に対する RFA施行時に、前回までのRFAの穿刺ライン上の S8に3cm大の仮性動脈瘤を疑う病変を認め、造影 CT検査の所見と併せて仮性動脈瘤と診断、緊急血管造影検査を施行し coilingを行った。その後、再出血はみられなかった。【結語】ラジオ波焼灼療法後に発症した肝仮性動脈瘤の2例を経験した。仮性動脈瘤の形成は RFAの合併症として報告されているが、症例1のように、突然の破裂により発見される場合と、症例2のようにほとんど無症状で画像的に診断される場合があり得る。RFA後に突然強い腹痛が発現した場合は仮性動脈瘤破裂も念頭に入れ、速やかな診断、治療が必要であるが、症例2のように破裂前の仮性動脈瘤を診断するには RFA後の画像的 follow upが重要であると考えられた。

胆嚢頚部近傍肝癌に対するRFAにおいて経乳頭的胆嚢ドレナージ(ETGBD)が有用であった一例

1大同病院 消化器内科○印牧 直人 1、小川 和昭 1、榊原 聡介 1、藤城 卓也 1、 野々垣浩二 1

近年、肝細胞癌の局所治療法としてラジオ波焼灼療法(RFA)が第一選択となっているが、胆嚢壁近傍の病変に対してはアプローチルートや偶発症の面から比較的困難な場合もある。今回、経乳頭的胆嚢ドレナージ(ETGBD)を併用することにより胆嚢を縮小し、安全に治療を行えた一例を経験したので報告する。症例は76歳男性。主訴は肝癌の精査・治療。既往歴として前立腺癌・骨転移に対してホルモン療法中、肝 S7に原発性肝癌を発症し、平成21年12月に肝部分切除術を実施。現病歴として肝癌治療後の経過観察目的で行った腹部超音波検査にて肝 S5、S3に再発を疑う所見を認め、精査治療目的で平成22年11月に入院となった。腹部 USでは、S5の腫瘍は胆嚢頚部に接するように存在する haloを伴わない内部不均一な22mm大の円形な腫瘤で、ソナゾイドを用いた造影エコーにて動脈相で濃染し、後血管相でwashoutを示した。造影 CT、造影MRIにても同様に動脈相で濃染、門脈相で washoutとして描出され、原発性肝癌と診断した。S3の病変は多血性腫瘍として描出されなかった。治療目的で TACEを試みたが腫瘍血管を同定出来ず、効果不十分と考えられたため実施しなかった。胆嚢頚部に接した病変であるため胆嚢を縮小して肝腫瘍と分離することにより、胆嚢を誤刺せずに、かつ胆嚢に影響なく安全に RFAが行えると判断して、ETGBDを試みた。十二指腸乳頭切開を付加せずに6Frチューブを胆嚢内に留置した。2日後、胆嚢が縮小したため腫瘍穿刺ルートが容易に確保でき、cool-tipを用いて RFAによる治療が可能であった。RFA実施5日後の造影 CT、造影 USでは腫瘍の完全焼灼が確認でき、半年後の経過観察で行った造影MRI、造影 USにても再発所見はみられず局処根治と診断した。肝癌に対する RFAにおいて胆嚢壁穿孔は重大な偶発症のひとつとされている。本例は胆嚢を縮小することによりそのリスクを軽減して十分な焼灼を行うことで局所根治を得ることが可能であり、今後同様な病変においては考慮すべき治療法の一つと考えられたため報告した。

乏血性腫瘍の造影パターンを示した肝細胞癌の一例1名古屋掖済会病院 消化器科○岩田 浩史 1、西川 貴広 1、竹内眞理子 1、佐橋  学 1、 北洞 洋樹 1、泉  千明 1、大橋  暁 1、神部 隆吉 1

要旨:症例は73歳、男性。糖尿病治療歴あり、HBs抗原陰性、HCV抗体陰性。平成21年12月急性胆管炎を契機に当科初診時、ダイナミック造影 CTにて、肝右葉に径2cm大、造影効果の乏しい単発の肝腫瘍を認めた。同腫瘍は単純MRI T2強調画像で高信号、Gd-EOB‒DTPA(プリモビスト)を使用したMRIでは造影効果はほぼみられず、同造影の肝細胞相において低信号を示した。以上の画像所見から、異型結節や高分化型の肝細胞癌の疑いと考え、胆管炎治療の改善後、いずれ肝腫瘍の加療を念頭に厳重に経過観察を行った。経過観察中、乏血性腫瘍の造影パターンに大きな変化はみられなかったが、腫瘍サイズ増大が明らかとなり、脱分化した可能性も否定できないと判断し、外科的治療目的で、平成22年11月、肝 S7区域切除術を実施した。切除標本における病理学的検討では、hepatocellular carcinoma(中分化型)trabecular typeと診断した。背景肝には軽度から中等度の炎症と線維化が見られた。なお、術前の肝機能障害の程度は、肝障害度 A、Child-Pugh B(7点)であり、術後の血液検査では、HBs抗原陰性、HBs抗体陽性、HBc抗体陽性、HBV-DNA陰性であった。慢性肝炎や肝硬変を背景として、再生結節や異型結節などから肝細胞癌に至る多段階的発育による発癌系が指摘されており、本症例でもこのような発育過程を追跡した可能性もある。乏血性腫瘍の造影パターンを示したため術前画像診断に苦慮したが、肝細胞癌を診断するうえで重要な症例と考え、若干の考察を踏まえ提示する。

EOB-MRI にて非特異的な画像所見を呈した肝細胞癌の1例1名鉄病院 消化器内科、2名古屋大学医学部・大学院医学系研究科 消化器内科学○荒川 恭宏 1、杉原  眞 1、西尾 雄司 1、大菅 雅宏 1、 安田真理子 1、後藤 秀実 2、安藤 貴文 2

【目的】肝腫瘍の診断は,ガドキセト酸ナトリウム(Gd-EOB-DTPA)造影MRI(以下 EOB-MRI)により格段に向上した.水溶性MRI造影剤と異なり,脂溶性のため肝細胞内に取り込まれ肝細胞機能低下を評価でき,dynamic相において血流変化を示さない時期においても診断を行うことができる.今回 EOB-MRIにて非特異的な画像所見を示し,経過観察中に増大し,肝生検にて Hepatocellular carcinoma(以下HCC)と診断され肝切除を施行した症例を経験したので報告する.【症例】80歳男性.難治性胃潰瘍にて当院紹介となり,スクリーニングの腹部 USにて脂肪肝と S5に内部不均一な腫瘤,また S8に境界明瞭で内部均一の低エコー域を認めた.精査目的で dynamic CTを施行すると,S5に門脈相以降にリング状に造影される腫瘤と,S8に2.5cm大の動脈相にて造影されず,門脈相,平衡相にて周囲がリング状に造影効果を示す腫瘤を認めた.S5は血管腫と考えられ,S8に関して精査目的で EOB-MRIを施行したところ,造影早期に強い濃染を認め,門脈相以降にリング状に辺縁が造影され,肝細胞相にて等信号を示した.典型的な HCCとは診断できず,限局性結節性過形成等を鑑別にいれ慎重に経過観察とした.その後 PIVKA-2の上昇を認め,再度EOB-MRIを施行すると S8の腫瘍は前回同様に造影早期に濃染され,後期~肝細胞相にかけて等信号となったが2.9cmと増大を認めた.肝生検を施行したところ,背景肝は非アルコール性脂肪肝炎(以下NASH),Brunt分類 stage2であり,腫瘍部位は腺管状構造を認め高分化 HCCと診断された.根治性を考慮し外科にて肝右葉切除を施行した.病理結果は境界明瞭な被膜形成を認める結節型の中~高分化の混在した HCCであり,内部に偽腺管を認め,一部胆汁産生の亢進を認めた.【考察】肝細胞相にて陰影欠損を示さず等信号となった理由として背景肝が NASHであった事や,腫瘍内の胆汁産生亢進の関与も考えられた.肝細胞相の陰影欠損の評価のみでは HCCを見落とす危険性もあり,文献的考察も含め報告する.

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毛髪胃石による腸閉塞の1例1半田市立半田病院 消化器内科○石田 陽祐 1、神岡 諭郎 1、森井 正哉 1、島田礼一郎 1、 岩下 紘一 1、安藤 通崇 1、広崎 拓也 1、川口  彩 1、 光本 一樹 1、大塚 泰郎 1、肥田野 等 1

【症例】10歳女性【家族歴・既往歴】特記事項なし【現病歴】2011年某日、昼食後に腹痛出現し嘔吐2回あり。翌日近医受診し胃腸炎と診断されいったん経過観察となったが、その後も腹痛持続するため再度近医受診。腹部レントゲン検査にて腸閉塞を疑われ当院 ER紹介、小児科入院となった。【入院時現症】身長152cm、体重37Kg、体温37.8℃。腹部は軟、やや膨満。左上腹部に圧痛認めたが筋性防御や反跳痛は認めなかった。そのほか身体所見に異常はなく頭部に脱毛はなかった。【入院時検査所見】腹部レントゲン:小腸ガス著明でニボーあり。腹部 CT検査:回腸に内部に air density混じた食物残渣様の便塊を認め、その口側小腸の著明な拡張を認めたため同部位が腸閉塞の原因と考えられた。【入院時血液検査所見】白血球上昇を認めた。【入院後臨床経過】入院時は経鼻胃管を挿入し絶食とし補液をおこなった。第2病日に当科紹介となった。排便・排ガスはまったく認めず経鼻胃管からの排液量も多いため、経鼻内視鏡を用いてイレウス管を挿入したところ胃内に毛髪を含んだ胃石を認めた。母親に問診をとりなおしたところ患者は幼少期から毛髪を食べる癖があったとのことだった。第3病日夜に毛髪が混じた排便が確認され腹部症状は軽快した。第4病日にイレウス管からの小腸造影検査をおこなったところ小腸に有意な狭窄は認めず、造影剤は大腸まで流れたためイレウス管を抜去した。経口摂取開始後も腹部症状の増悪なく第7病日に退院となった。小腸につまった毛髪胃石は排泄されたがその時点では胃内にはまだ毛髪胃石があるため、今後再度腸閉塞になる恐れがあると考えられた。入院時 CT検査で胃石は大きさ約70×30mmあり内視鏡的摘出術や自然排出は困難だろうと予想し外科的手術を検討した。手術前に上部消化管内視鏡検査や CT検査をおこなったところ胃内の毛髪胃石は消失していた。毛髪胃石による腸閉塞は本邦ではまれであり、内視鏡的摘出術は困難で手術に至ったという報告が多い。今回我々は毛髪胃石による腸閉塞をきたした非常にまれな1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

保存的に治療した門脈ガス血症の一例1岐阜市民病院 消化器内科、2岐阜市民病院 病理検査部○小木曽とみお1、入谷 壮一 1、奥野  充 1、黒部 拓也 1、 堀部 陽平 1、鈴木 祐介 1、中島 賢憲 1、川出 尚史 1、 林  秀樹 1、向井  強 1、杉山 昭彦 1、西垣 洋一 1、 加藤 則廣 1、冨田 栄一 1、山田 鉄也 2

症例:93歳、女性。主訴:腹痛、嘔吐。既往歴:50歳代 高血圧、糖尿病、80歳代 慢性腎不全、88歳 胆石胆のう炎(ope)。家族歴:特記すべきことなし。現病歴:平成23年3月26日自宅の台所にて転倒し、動けなくなり救急搬送。右大腿骨転子部骨折と診断され、手術目的にて整形外科入院となる。31日手術予定であったが、30日16時突然の腹痛、嘔吐認め当科紹介となる。現症:身長145cm、体重33Kg。胸部:呼吸音、心音異常なし。腹部:やや膨隆、軟、圧痛軽度。転科後経過:CTにて肝内門脈枝に多量のガス像を認めた。胃大弯および上腸間膜静脈にもガス像が見られた。胃および小腸、大腸は全体的にガス拡張を認めたが、あきらかな腸管壁浮腫や狭窄は指摘できなかった。血液検査では CRPの軽度上昇を認めるのみで、アシドーシスもなく明きらかな腸管壊死や腹膜炎を示唆する所見を認めなかった。外科とも試験開腹も検討したが、症状に乏しく、血液検査でもあきらかな壊死所見を認めなかったため、経鼻胃管を挿入し、絶飲食、抗生剤投与にて厳重に経過観察とした。経鼻胃管挿入後ガスおよび胃内容が排出され、腹痛、悪心、嘔吐は消失した。翌日の CTでは著明に門脈ガス像は減少していた。腸管ガス像も減少していたが、胃壁の著明な肥厚を認めた。発症5日後の CTでは門脈ガスは完全に消失していた。6日後に上部消化管内視鏡検査施行、胃底部~体部にかけて大弯を中心に、点状発赤と浮腫、炎症所見を認めた。体下部~前庭部はやや浮腫状で易出血性であった。胃蜂窩織炎を疑う所見であった。内視鏡検査直後の CTではあきらかな門脈ガスをみとめなかった。7日後より食事摂取開始、症状の再燃なく、骨折手術目的にて整形外科に再度転科となった。以後症状の再燃を認めていない。保存的治療にて改善した門脈ガス血症を経験したので文献的考察を加え報告した。

胃カンジタ潰瘍3例の検討1藤田保健衛生大学病院、2藤田保健衛生大学医学部消化管内科○陳  光明 1、柴田 知行 2、藤田 浩史 2、大森 崇史 2、 城代 康貴 2、加藤 祐子 2、生野 浩和 2、市川裕一朗 2、 釜谷 明美 2、大久保正明 2、米村  穣 2、小村 成臣 2、 吉岡 大介 2、丸山 尚子 2、鎌野 俊彰 2、田原 智満 2、 石塚 隆充 2、中川 義仁 2、長坂 光夫 2、岩田 正己 2、 平田 一郎 2

【背景】今回、我々はカンジダ胃潰瘍症例を経験したので若干の文献的考察とともに報告する。【症例1】70代男性。近医にて定期検査の際、貧血の進行を認め当科を紹介受診。アルコール性肝障害(焼酎600ml、ブランデー600ml、酎ハイ350ml/日)、糖尿病性腎症にて加療中。上部内視鏡検査にて、胃底部に20mm大の平皿状の潰瘍底を伴うSMT様の隆起性病変を認めたため精査加療目的にて入院となる。潰瘍部の生検でカンジダを認めたが明らかな SMT成分や癌は検出されなかった。胃透視では、胃底部にやや不整な陥凹を伴う軟らかい透亮像を認めた。CTでは明らかな SMTを指摘し得ず。以上の所見から胃カンジダ症と診断した。プロトンポンプ阻害薬(PPI)+粘膜防御剤を投与し経過観察とした。1ヶ月後の上部内視鏡検査にて潰瘍はほぼ瘢痕化し、同部位の生検でカンジダは認められなかった。【症例2】70代男性。吐下血により入院す。入院当日の内視鏡検査にて、胃体中部~胃角後壁に連続する大小の潰瘍を認めた。潰瘍は類円形で全体的にやや隆起していた。潰瘍部の生検でカンジダを認めた。呼気試験においてヘリコバクター・ピロリ(ピロリ)+であった。PPI+胃粘膜保護薬の投与され、退院後にピロリ除菌治療が行われた。退院2ヶ月後の内視鏡検査では潰瘍は瘢痕化した。バイアスピリン内服のため、生検はできず。尿素呼気試験ではピロリ(-)となった。【症例3】50代男性。数年前から1型糖尿病に対しインスリン導入をされていたが HbA1cは9.4と不良であった。また焼酎200ml/日の飲酒歴あり。空腹時の胃痛に対し内視鏡検査をしたところ、胃角部前壁大弯に周囲のやや隆起した A2ステージ潰瘍を認めた。潰瘍からの生検にてカンジダ様真菌塊とピロリが検出された。PPIの投与を行ったところ潰瘍はH1まで改善し退院。その後ピロリ除菌治療が行われた。6ヶ月後の内視鏡検査にて潰瘍は S1となり同部位の生検ではカンジダ、ピロリ共に(-)であった。【結論】3症例は通常潰瘍とはやや異なる形態を呈していた。悪性リンパ腫に類似した形態を呈した潰瘍を見た場合、カンジダ潰瘍を鑑別診断に挙げる必要もある。

胃腺腫の背景粘膜と除菌後の変化1愛知県がんセンター愛知病院 消化器内科、2名古屋大学 消化器内科○榊原 真肇 1、藤田 孝義 1、側島  友 1、都築 佳枝 1、 安藤 貴文 2、後藤 秀実 2

【目的】胃腺腫の背景粘膜と HPの除菌効果を明らかにする。【方法】対象は、胃腺腫87例(隆起型59例、陥凹型9例、腺腫内癌19例)、早期胃癌183例(分化型132例、未分化型51例)、進行胃癌35例である。方法は、胃癌と胃腺腫の背景粘膜について3項目(萎縮の程度、萎縮の拡がり、腸上皮化生の拡がり)を比較した。また、胃腺腫の除菌後の変化についても検討した。【成績】萎縮の拡がりが O3以上の割合は、隆起型腺腫が95%、陥凹型腺腫が89%、腺腫内癌が90%であり、分化型早期胃癌が83%、未分化型早期胃癌が35%、進行胃癌が45%であり、O3以上の割合は、隆起型、陥凹型、腺腫内癌いずれも分化型と同等だった。萎縮の程度、腸上皮化生も同様であった。以上から、萎縮の程度と拡がりと腸上皮化生の拡がりは、胃腺腫では早期胃癌と同等か強いと考えられた。除菌後の胃腺腫の変化を検討すると、隆起型10例のうち、消失例が3例、縮小例が1例、平坦化が2例、凹凸化が2例、変化なしが2例であった。一方、陥凹型3例のうち、消失例が1例、発癌例が2例であった。【結論】胃腺腫の背景粘膜は早期胃癌の背景粘膜と類似していることから、胃腺腫の除菌効果は期待できる。しかし、胃腺腫は除菌後に平坦化するなどわかりにくくなるため、除菌前に正確に診断しておく必要がある。

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肝門部腫瘤の放射線治療後に出現し13回の内視鏡的アルゴンプラズマ凝固療法を要した胃前庭部血管拡張症の一例

1岐阜市民病院 消化器内科○黒部 拓也 1、林  秀樹 1、入谷 壮一 1、奥野  充 1、 堀部 陽平 1、中島 賢憲 1、鈴木 祐介 1、小木曽富生 1、 川出 尚史 1、向井  強 1、杉山 昭彦 1、西垣 洋一 1、 加藤 則廣 1、冨田 栄一 1

患者は50歳男性。主訴は消化管出血。既往歴は2005年より糖尿病。現病歴は1998年より C型慢性肝炎にて当科通院中。2010年4月に肝門部腫瘤および肝内の多発性肝癌と診断。肝門部腫瘤に対して計60Gyの放射線治療を施行。8月よりソラフェニブ400mgの投与を開始した。10月26日より黒色便が出現し、10月28日には Hbも7.7g/dLと著明な貧血がみられたため GIF施行し、胃前庭部に全周性の顕性出血を伴う胃前庭部血管拡張症(GAVE)と診断し、当科入院となった。入院後よりソラフェニブは中止とし、第8病日から GAVEに対して内視鏡的アルゴンプラズマ凝固療法(APC)を開始した。7回のAPC終了後にも改善がみられず外科的切除も考慮したが、術後出血や縫合不全のリスクが高く困難と考えられ断念した。その後も APC治療を繰り返し、2011年1月の9回目の APC施行後からは吐血の回数も減少。同年3月までに計13回の APC治療を施行した結果、顕性出血は改善した。また最終の APCから2か月経過した現在も貧血の進行や大量吐血や内視鏡的には明らかな GAVEの再発はみられていない。今回の患者における GAVEの原因としてはソラフェニブの副作用や肝門部腫瘤に対する放射線治療による影響として放射線性胃炎および何らかの成因に伴う門脈圧亢進症などが推察された。GAVEに伴う出血の治療として多くの施設から APCの有用性が報告されているが、自験例のように経過が許せば可能な限り安全性の高い APCを選択する事が有用と思われた。

転移性腎癌にスニチニブによるネオアジュバント療法+根治的腎摘除術を施行した後に生じた出血性胃潰瘍に対して内視鏡的止血術が困難であった1例

1名古屋大学 医学部 消化器内科、2名古屋大学 医学部 光学診療部○平山  裕 1、安藤 貴文 1、石黒 和博 1、前田  修 1、 渡辺  修 1、日比 知志 1、神谷  徹 1、三村 俊哉 1、 森瀬 和宏 1、宮原 良二 2、大宮 直木 1、後藤 秀実 1,2

【背景】分子標的薬の登場により進行癌に対する治療戦略が変化している。進行腎癌では一部の分子標的薬で原発巣の縮小効果を認め、局所浸潤の著しい例や腫瘍血栓を有する症例に対して分子標的治療を先行し、奏効が得られれば摘除を考慮する症例も報告されている。その一方血圧上昇や出血等のイベントも報告されている。今回我々はスニチニブによるネオアジュバント療法+根治的腎摘術後に生じた出血性胃潰瘍に対して内視鏡的止血術が困難であった症例を経験したので報告する。【症例】60歳台男性【病歴】2010年6月に左下腿部の腫脹を認め、近医受診。その際左脛骨に腫瘍性病変を認めた。精査の結果、右腎癌、下大静脈内腫瘍栓、左脛骨・仙骨転移と診断され当院泌尿器科に紹介された。2010年7、8月に骨転移部に計48Gyの放射線治療を施行し、また同年7月より12月までスニチニブによる治療を4コースを行った。2011年1月に根治的右腎摘出術+腫瘍塞栓除去術を施行した。術後経過は順調であったが、術後7日より徐々に貧血の進行を認めたために上部消化管内視鏡検査(EGD)を施行した。所見は胃角部小彎側に活動性潰瘍を認めた。明らかな出血等は認めなかった。PPIは既に使用されており、経過観察となった。その2日後に吐血、血圧低下を認めたため、消化管出血の疑いにて EGDを施行した。上記病変から噴出性出血を認め、HSE等にて止血術を行った。更に2日後に吐血、血圧低下、黒色便を認めた。EGDでは、上記病変から噴出性の出血を認め、クリップ等にて止血術を行った。その翌日、4日後の観察では明らかな出血を認めなかったが、観察後に貧血進行、血圧低下を認めた。内視鏡的止血は困難と判断し、消化器外科で緊急幽門側胃切除術が施行された。病理結果は、gastric ulcer, UL-4であった。【結語】sunitinib等の分子標的薬の使用は出血のリスクであるという報告も散見され、また化学療法中であることから重篤な合併症を来す可能性もある。更なる症例の蓄積や検討が必要であると考えられた。

内視鏡的止血術において止血困難であった出血性胃潰瘍の1例

1岐阜社会保険病院、2名古屋大学大学院医学系研究科消化器内科学○印藤 敏彦 1、渡邉 久倫 1、清水 達治 1、安藤 貴文 2、 後藤 秀実 2

今回、我々は内視鏡的止血術において止血困難であった出血性潰瘍を経験したので報告する.症例は59歳男性.主訴は吐血・意識消失.既往歴は無し.出勤途中に吐血、その後突然の意識消失を起こし救急車で受診.上部消化管内視鏡検査で胃角部に深い潰瘍を認めた.絶食・絶飲の上、補液管理.PPI静注と粘膜保護薬の経口投与、輸血も行い経過観察とした.高周波凝固等で止血処置を行なってきたが、何回も出血を繰り返している事や穿通を起している可能性が高い状態であると思われたため、入院5日目、外科医と相談した上で血管塞栓術等の内科的な治療は選択せず、緊急手術を施行した.結果、潰瘍は小網内に穿通しており左胃動脈本幹からの太い分枝が潰瘍底に露出している事が判明し、幽門側胃切除を施行され、2週間後に元気に退院された.内視鏡による治療のほうが開腹手術よりも身体的侵襲は少ないため、再出血を繰り返す潰瘍もついつい内視鏡治療を繰り返してしまいがちである.しかし、出血性潰瘍の内科的治療が功を奏しない場合は、不慮の失血死を回避するためにも、外科との早い段階での協力体制の下、適切な時期で手術対応が可能な環境を構築しておく必要がある.また、その際には手術適応に踏み切る客観的な基準をあらかじめ決定しておく必要があると思われた。

経鼻内視鏡時のキシロカイン鼻腔内投与による麻酔が原因と考えられた回転性眩暈の2例

1国立長寿医療研究センター 消化器科、2名古屋大学大学院医学系研究科 消化器内科学○京兼 和宏 1、山田 理 1、松浦 俊博 1、安藤 貴文 2、 後藤 秀実 2

【症例1】63歳女性。検診目的で当院を受診。2007年2月21日経鼻内視鏡検査を施行した。麻酔はボスミン・キシロカイン混合液の鼻腔内噴霧で行った。検査終了直後より眼振を伴う回転性眩暈を生じ、嘔吐も見られるようになった。頭部MRI検査を含む神経学的な所見はなかった。耳鼻科にてキシロカインの耳管逆流による眩暈が疑われた。症状がひどいため入院にて経過観察していたが、症状は徐々に改善し、約4時間後に症状は消失した。その後症状の再燃はなく、翌日退院した。【症例2】63歳女性。胃部不快にて平成22年9月14日に近医で経鼻内視鏡検査を受けた。麻酔は鼻腔内への噴霧法であった。検査直後には異常は認められなかったが、次第に浮遊感が出現。その後、回転性眩暈、嘔吐が見られるようになった。点滴等で経過観察されていたが症状が治まらないため、発症より約4時間後に当院へ救急搬送された。当院搬送時には眩暈は改善傾向で眼振はみられず、神経学的所見もなかった。キシロカインの耳管逆流による眩暈を疑い、経過観察を行ったが、発症5時間後には症状は消失し帰宅した。【考案】耳鼻科領域ではキシロカインの鼓室内注入により、眼振を伴う激しい回転性眩暈が起こることが知られており、通常3時間程度で改善すると言われている。今回の症例は2例とも、経鼻内視鏡時に鼻腔内に投与されたキシロカインが、耳管逆流により鼓室内に達することにより引き起こされた眩暈と考えられた。経鼻内視鏡の注意を要する合併症と考えられ報告した。

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胃瘻の内部バンパーの圧迫が原因と考えられた出血性胃潰瘍の2例

1平野総合病院 消化器科、2岐阜大学医学部 第1内科○島崎  信 1、馬場  厚 1,2、永野 淳二 1,2、小野木章人 1,2

【はじめに】胃瘻の後期合併症として胃潰瘍が問題とされ、種々デバイスの改良などが試みられている。今回、胃瘻の内部バンパーの圧迫が原因と考えられた出血性胃潰瘍の2例を経験した。胃瘻の長期管理を行う上で示唆に富むと考えられたので報告する。【症例】症例1。90代女性、脳血管障害後遺症のためバルンチューブ型の胃瘻を留置され療養病棟入院中。吐血のため紹介入院。緊急内視鏡検査にて胃瘻の対側にあたる体中部後壁に露出血管を伴う A1潰瘍を認めクリップ止血を行った。バルン先端より中心のシリコンチューブが突出しており、この圧迫による潰瘍形成と考えられた。症例2。70代女性、脳血管障害後遺症のためバンパーボタン型の胃瘻を留置され介護施設入所中。吐血のため救急搬送された。緊急内視鏡検査にて胃瘻の内部バンパーに接して露出血管を伴う A1潰瘍を認めクリップ止血を行った。本例は造設時より皮下脂肪が増加していた。体表からの観察では、デバイスには1cm程度のあそびが確認されたが、ギャッジアップ時にはあそびはほとんどなく、この圧迫による潰瘍形成と考えられた。【まとめ】異なる機序による胃瘻の内部バンパーの圧迫が原因と考えられた出血性胃潰瘍の2例を経験した。合併症を未然に防ぐため、内部バンパーの直接観察、体位変換時のチューブのあそびを観察することの有用性が示唆された。

経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)後2年6ヶ月で判明し保存的治療で改善した結腸皮膚瘻の1例

1津島市民病院 消化器科○前村 幸輔 1、荒川 大吾 1、小林都仁夫 1、蓮尾 由貴 1、 久富 充郎 1

症例は67歳男性。脳梗塞・脳出血のため当院脳神経外科入院中、嚥下困難にて平成18年5月に経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)が施行された(胃壁固定具は使用せず)。造設後胃瘻よりの栄養が問題なく行われ経過良好にて退院した。その後外来にて計4回の胃瘻ボタン交換が行われたが、問題なく経過していた。平成20年11月に胃瘻ボタン交換を行った直後より、経腸栄養剤の臭いのする水様性下痢を生じ止痢剤の投与にても軽快せず、腹部 CTを実施したところ横行結腸内に胃瘻ボタンの先端を認めた。透視下に胃瘻ボタンより造影剤を注入すると横行結腸が造影され、横行結腸皮膚瘻の存在が確認されたため入院となった。上部消化管内視鏡検査を行い、胃結腸瘻が閉じていることを確認した。ボタンを抜去し、絶食、抗生剤点滴投与にて保存的に経過観察したが、腹痛や発熱を生じることなく、腹膜炎の徴候は認めなかった。その後胃壁固定具を併用して慎重に再度 PEGを施行し、経腸栄養を再開したが問題を生じず、その後のボタン交換にても合併症なく現在まで経過している。PEGの比較的稀な合併症である結腸皮膚瘻であるが、通常造設直後か1回目のボタン交換時に判明したという報告が多い。当症例の様にボタン交換を繰り返し2年以上経過して判明した例は非常に稀であると考えられる。PEG施行時の合併症である結腸皮膚瘻に関して、同様の症例を中心に若干の文献的考察を加え報告する。

内視鏡的胃瘻造設術5ヵ月後に診断された胃横行結腸皮膚瘻の1例

1刈谷豊田総合病院 内科○村瀬 和敏 1、松山 恭士 1、浜島 英司 1、井本 正巳 1、 中江 康之 1、仲島さより 1、浜宇津吉隆 1、大森 寛行 1、 桑原 崇通 1、松井 健一 1、今田 数実 1、小川  裕 1、 鈴木 敏行 1

【症例】67歳,男性.主訴は,胃瘻カテーテルによる胃横行結腸皮膚瘻.既往歴は,2005年に脳梗塞.平成22年9月14日より誤嚥性肺炎で当科入院し,抗生剤投与で改善した.嚥下障害のため経口摂取困難であった.腹部 CTで胃壁の前面に横行結腸がみられたため,下剤を使用,結腸内の減圧をはかり,10月20日に内視鏡的胃瘻造設術(PEG)を施行した.PEG施行数日後に発熱と胃瘻刺入部より排膿を認めたため,胃横行結腸皮膚瘻も念頭に胸腹部 CTを施行したが,肺炎を認めたのみで腹部に明らかな異常所見を指摘できなかった.肺炎に瘻孔周囲炎を合併したものと考え,絶食,抗生剤投与,瘻孔洗浄をしたところ解熱し,胃瘻を使用して経管栄養を開始したが問題なく経過し,11月19日に転院となった.転院先で2011年3月4日に scopeを使用せずに胃瘻カテーテル交換が施行された.交換後の造影で横行結腸が造影され,PEG時の胃横行結腸皮膚瘻と診断され当院転院となった.来院時,発熱はなく,腹部は平坦軟で圧痛はなく,瘻孔周囲の発赤や腫脹も認めなかった.血液検査では,WBC4100/μl,CRP2.15mg/dlと軽度の炎症反応上昇を認めた.同日の腹部 CTでは,胃瘻カテーテルの先端は横行結腸内に認めたが,瘻孔周囲の炎症所見を認めなかった.第2病日に胃瘻カテーテルを切断し,絶食,Ceftriaxone投与,経鼻胃管留置による胃内減圧を行った.その後,発熱や炎症反応の上昇は認めず,体表の瘻孔は自然閉鎖し,胃瘻カテーテルのバンパーは第16日目に自然排泄された.第27日目に PEGを再施行し,内視鏡的に胃側の胃横行結腸瘻の閉鎖も確認した. PEG後,CTで腹壁直下に胃壁を認め,胃内に胃瘻カテーテル先端があることを確認し経管栄養再開後も問題なく経過した.【考案】今回,比較的稀な PEGによる晩期合併症の1つである胃横行結腸皮膚瘻の1例を経験した.1回目のPEG後の CTでは横行結腸が腹壁固定のため虚脱しており,胃横行結腸瘻を指摘できず,後から見直しても指摘できなかった.PEG時には,透光,finger signに留意しながら施行することがこの合併症予防に重要と考えられた.

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ESDを施行した胃底腺型と思われる胃癌の一例1愛知県がんセンター 中央病院 消化器内科、2たかしクリニック○大林 友彦 1、丹羽 康正 1、田近 正洋 1、近藤 真也 1、 田中  努 1、水野 伸匡 1、原  和生 1、肱岡  範 1、 今岡  大 1、小倉  健 1、羽場  真 1、永塩 美邦 1、 品川 秋秀 1、長谷川俊之 1、鈴木 隆志 2、山雄 健次 1

57歳女性【主訴】検診異常【既往歴】甲状腺癌(手術)、胆嚢結石(手術)、尿管結石、高血圧症【現病歴】平成17年2月、近医で施行された検診の上部消化管内視鏡検査(EGD)にて噴門直下に隆起性病変を指摘され、生検では group Vであった。当院での治療を希望されたため平成17年3月に紹介受診となった。EGDを施行し噴門直下穹窿部前壁に10mm大の隆起性病変を認めた。当院での生検では group IVであり、5月に ESD予定となった。しかし、当日の観察にて病変が不明瞭となっており、ESDは中止とし生検のみを施行した。結果は group IIIであり経過観察となった。同年8月に再検するも生検瘢痕のみで生検せず、以後年に1~2回の EGDでの経過観察となっていた。平成19年9月に他院で施行された EGDの生検で group IVであったため、再び当院に紹介された。その後3回の EGDを施行するも潰瘍瘢痕様の所見であるため経過観察となった。その後他院にて経過観察されていたが、平成22年2月、平成23年1月の EGDにて同部位の生検瘢痕の両端に顆粒を認め、当院へ再紹介された。拡大内視鏡では中心部にわずかな陥凹を有し、SMT様の小隆起で異常血管を認めるものの、腺管構造の異常を認めなかった。腫瘍性病変の診断的治療を目的に、同年2月 ESDを施行した。病理結果は adenocarcinoma, well diff., 0-IIa, 13×7mm, pT1b/pSM1, tub1, ly0, v0, VM0, HM0であった。病理学的には胃底腺型胃癌の可能性が示唆された。【考察】今回、長期に経過を追え、病理学的に胃底腺型胃癌と考えられた早期胃癌に対しESDを施行した1例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。

胃原発悪性リンパ腫に合併した早期胃癌に対し ESDを行った一例

1静岡市立静岡病院 消化器内科○黒石 健吾 1、中村 尚広 1、小柳津竜樹 1、近藤 貴浩 1、 武尾 真宏 1、大野 和也 1、濱村 啓介 1、田中 俊夫 1、 高橋 好朗 1

【症例】69歳 男性【主訴】上部消化管精査【既往歴】なし【生活歴】喫煙歴:10~20本 /日 30年間 飲酒歴:1~2合 /日【家族歴】母:胃癌【血液検査】WBC6600/mm3, Hb10.9g/dl, Plt40.0/mm3, AST15IU/L, ALT12IU/L, ALP263IU/L, LDH171IU/L, T-BIL0.6mg/dl, BUN13.3mg/dl, CRE0.96mg/dl, TP6.7g/dl, Alb3.7g/dl, IgG1471mg/dl, IgM24mg/dl, IgA300mg/dl, CRP2.4mg/dl, CEA3.7ng/dl, CA19-9 4.8U/ml, 可溶性 IL-2レセプター 740U/ml【経過】平成21年2月、近医で上部消化管内視鏡を施行した際に異常を指摘され精査加療目的で当院紹介。前庭部に白苔を伴う不整な潰瘍を全周性に認めた。生検で大型の異型細胞の浸潤を認め、CD20:陽性、びまん性大細胞型 B細胞リンパ腫と診断した。同時に、胃体上部小弯に発赤調の陥凹性病変を認め、生検で高分化型腺癌であった。骨髄への侵潤はなく、Gaシンチグラフィー/PET-CTで胃への取り込み・集積を認めるのみで病期1期(Ann Arbor分類)であった。また、胃体上部の胃癌は内視鏡所見上は深達度Mの早期胃癌と考えられた。以上より、まずは胃悪性リンパ腫に対し化学療法(R-CHOP)を行った後に、早期胃癌に対する ESDを行う方針とした。化学療法を6コース施行し、食後の胃部不快感が出現したため内視鏡を施行した。前庭部の潰瘍は改善を認めたが、狭窄を来していたためバルーン拡張術を行った。その後症状は消失し化学療法を計8コース施行した。平成22年1月早期胃癌に対して ESDを施行し、病変を完全一括切除した。最終病理は、pM, ly0, v0, pLM (-), pVM (-) であった。【考察】限局期のびまん性大細胞型 B細胞リンパ腫には、R-CHOPによる化学療法もしくは放射線併用療法が標準治療であり治療成績も優れている。本症例でも R-CHPを8コース行い CRとなり、早期胃癌をESDで切除し得た。【まとめ】胃悪性リンパ腫に合併した早期胃癌の一例を経験した。若干の文献的考察を加え報告する。

ESDで切除した胃 hamartomatous inverted polyp の1例1土岐市立総合病院 消化器科○下郷 友弥 1、渡邊 武人 1、白井  修 1、吉村  透 1、 南堂 吉紀 1、清水  豊 1

【目的】胃 hamartomatous inverted polypは近年報告が散見されているが、比較的稀な症例である。また、早期胃癌の合併症例も報告されている。今回、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で切除した胃hamartomatous inverted polypの症例を経験したので報告する。【症例】74歳の男性。既往は胆石手術、高血圧、気管支喘息であり近医通院していた。3年前より胃粘膜下腫瘍を指摘されており、増大傾向なく経過観察されていた。2011年2月、経過観察目的で上部消化管内視鏡検査を施行したところ、胃穹窿部に大きさ約15mmの山田3型ポリープ様の腫瘤を認め表面は平滑で正常粘膜に覆われ、弾性はやや硬であった。生検施行したところ、粘液変性を伴う粘膜下層に拡張する腺管の散在を認め gastritis cystica profundaを疑う所見と判断された。腹部造影 CT検査では腫瘤は胃粘膜と同等の造影効果を示した。超音波内視鏡検査では第2層に主座をおく腫瘤であり、内部エコーは不均一な低エコーで一部無エコー域も認めた。第3層以深の構造は保たれており、内視鏡的切除も可能と判断した。1年前に比べ若干の増大を認め、第2層由来の GISTも否定できなかったことから診断・治療目的で ESDを施行した。術後、問題なく経過し術後7日で退院となった。【病理】腫瘍の表面は正常粘膜で覆われていた。腫瘍本体は拡張する腺管を多数含む異型に乏しい腺管の増殖からなっており、粘膜筋板の不規則な走行により分葉状となっていた。Gastric hamartomatous inverted polypと診断され、断端陰性で悪性所見は認めなかった。【結語】胃 hamartomatous inverted polypは稀ではあるが胃粘膜下腫瘍の鑑別の一つとして考慮するべきと考えられた。

内視鏡的粘膜下剥離術(ESD)にて切除した胃炎症性線維性ポリープの一例

1高山赤十字病院 内科○大西 祥代 1、今井  奨 1、牧谷 光晴 1、中井  実 1、 白子 順子 1、棚橋  忍 1

症例は48歳女性。平成19年8月多いんいて上部消化管内視鏡検査施行され、胃粘膜下腫瘍を指摘されたが、悪性所見を認めず経過観察となった。平成22年3月再度内視鏡検査を施行され腫瘍の増大傾向を認めたが生検にて組織採取ができず、精査目的で当院紹介となった。平成22年4月当院にて内視鏡検査を施行し胃前庭部後壁に20mm×13mmの粘膜下腫瘍を認めた。超音波内視鏡では内部はやや低エコーを示し組織採取目的にて EUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺生検法)を施行した。細胞診の所見は ClassIIIであり所見は認めなかったが主要成分が採取でいないため偽陰性である可能性を説明し、増大傾向にもあることからご本人と相談し同5月 ESDを施行した。ESDはフラッシュナイフを用いて施行し、出血などもなく切除は比較的容易であった。病理所見は炎症性線維性ポリープ(IFP)の所見であり、悪性所見は認めなかった。IFPは消化管粘膜下に発生する良性疾患で、原因はいまだ不明である。他の粘膜下腫瘍との鑑別は困難であり、内視鏡的切除によって診断されることが多い疾患である。今回も生検及びEUS-FNAにて主要成分が採取できていない可能性があると内視鏡的切除を施行したが、結局 EUS-FNAの組織所見も IFPに矛盾しない所見であったことから、粘膜下腫瘍の組織診断をするうえで本疾患も念頭に入れた検討が必要であると考えられた

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化学療法によって down staging が得られ、通過障害改善目的の手術が結果として根治術となった高度進行胃癌の1例

1岐阜県総合医療センター 消化器内科、2同 外科、3同 病理診断部○馬淵 正敏 1、芋瀬 基明 1、加藤 潤一 1、小原 功輝 1、 岩砂 淳平 1、安藤 暢洋 1、大島 靖広 1、岩田 圭介 1、 清水 省吾 1、杉原 潤一 1、田中 千弘 2、國枝 克行 2、 酒々井夏子 3、岩田  仁 3

【症例】69歳、女性、【主訴】上腹部痛、【家族歴】特記すべきことなし、【既往歴】特記すべきことなし、【現病歴】2010年3月より上腹部痛を自覚したため、精査目的にて近医で GIFを施行されたところ幽門前庭部に全周性の2型腫瘍、体中部小弯側に3型腫瘍を指摘された。CTにて幽門前庭部病変の膵浸潤が疑われた。また5個の領域リンパ節と腹部大動脈周囲リンパ節(#16b1)の腫大が認められた。以上より T4N2M1Stage4と診断し、精査加療目的にて9月27日に当科入院となった。【経過】明らかな通過障害を認めなかったことから、9月29日より TS-1+ CDDPレジメンにて化学療法を開始した。10月下旬より嘔気と食後の嘔吐を認めるようになったため、原因精査目的にて2クール目施行中の11月15日に GIFを施行した。主病巣は縮小傾向であったが、幽門狭窄はかえって著明となり、スコープの通過は困難になっていた。11月16日の CTでは、#16b1リンパ節を含め腫大したリンパ節の縮小を認めた。通過障害改善目的で、当院外科にて12月10日に手術が施行された。術式は、幽門側胃切除術、D2+αリンパ節郭清、Roux-en Y吻合による再建であり、病理診断は ypT3N1M0Stage3Aであった。【考察】当症例では、初診時手術不能進行胃癌として、全身化学療法を開始したが、通過障害改善目的で手術を施行したところ、化学療法にて down stagingできていたため結果として根治術が得られた。【結語】初診時、手術不能進行胃癌と診断されても、治療効果によっては down stagingによる根治手術の可能性があることを常に念頭において化学療法を進めるべきである。

多発肝・リンパ節転移のある進行胃癌に対するS-1単剤投与が著効し完治した1例

1静岡市立清水病院 消化器内科、2静岡市立清水病院 外科○松浦 友春 1、窪田 裕幸 1、川崎 真佑 1、丸尾 啓敏 2、 谷口 正美 2、小路  毅 2、平出 貴乗 2

症例は74歳、男性。主訴は腹痛、嘔吐および腹満感を主訴に当院受診。上部消化管内視鏡で胃前庭部前壁に直径4cm弱の2型腫瘍を認め、生検で中分化型腺癌であった。CT検査では肝転移とリンパ節転移を多数認めた。総肝動脈幹前上部リンパ節(No.8a)は長径7cm大であり、CT上では膵頭部への浸潤も疑われた。cT3cN3cH1cM1StageIVの進行胃癌と診断し、S-1単剤療法(120mg/body/day)を4週間投与2週間休薬で開始した。血球減少等の副作用は出現したが、2コース施行後の上部内視鏡検査で腫瘍の著明な縮小と CT検査で肝転移巣の消失およびリンパ節の縮小を認めた。8コース施行後には原発巣は瘢痕化しており、リンパ節はさらに縮小していた。根治切除可能と判断し、幽門側胃切除術 D2郭清を行った。病理組織診断で原発巣、リンパ節ともに癌細胞の遺残はなく、化学療法の効果判定基準 Grade3と判定した。根治切除不能と診断していた進行胃癌に対し S-1単剤療法が著効し、根治切除可能となり、さらには pCRの判定となった症例は稀であり、貴重な症例であるため今回経過を含めて報告する。

PIVKA-2, AFP 産生胃癌の一例1国際医療福祉大学熱海病院 消化器内科、2国際医療福祉大学熱海病院 病理○斉木  巌 1、北洞 哲冶 1、麓 多美子 1、東郷 聖子 1、 唐澤 英偉 1、北村  創 2

(症例)94歳 女性(現病歴)2010年3月より食欲不振となった。4月嘔吐・胸焼け・両足浮腫が出現し近医受診。貧血指摘され、精査加療目的にて本院を紹介。高度の鉄欠乏性貧血および低蛋白血症を認め、同月当科入院となった。(既往歴)2006年 両側慢性硬膜下血腫(経過)入院後施行した上部消化管内視鏡で胃幽門部に Borrmann 3型様腫瘍を認め、生検にて胃幽門部低分化腺癌と診断した。幽門部狭窄が強く嘔吐の原因と考えられ、手術を考慮し検査を行った。造影 CTにて多発肝転移・腹膜播種を認めたため stage 4と判定、根治的手術は不可能であった。高齢であること、嘔気により食事摂取できず全身状態不良であることより、化学療法も困難と判断、低栄養状態を改善するため中心静脈カテーテルを挿入し全身状態の改善を試みた。栄養・電解質管理と胸腹水等に対する対症療法としていたが、急激な経過をたどり5月31日死亡となった。入院中、CEA・CA19-9正常であったため、肝腫瘍鑑別の必要性もあり PIVKA-2、AFP測定したところ高値が示された。病理解剖を行い検索したところ原発巣は胃と診断、胃癌細胞内に PIVKA-2および AFP局在の染色陽性像が得られた。(結語)今回我々は AFPだけでなく PIVKA-2を産生する胃癌の一例を経験した。未だ症例報告は少なく、文献的考察も含め報告する。

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消化管ステント挿入に難渋した胃術後における悪性十二指腸狭窄の一例

1岐阜市民病院 消化器内科○堀部 陽平 1、杉山 昭彦 1、冨田 栄一 1、加藤 則廣 1、 西垣 洋一 1、向井  強 1、林  秀樹 1、川出 尚史 1、 小木曽富生 1、鈴木 祐介 1、中島 賢憲 1、奥野  充 1、 入谷 壮一 1、黒部 拓也 1

【はじめに】内視鏡下で挿入可能な消化管ステントが使用可能になり、手術療法が困難な悪性の消化管狭窄に対し、ステント留置術は非常に有効な手段となったが難渋する症例も散見される。今回我々は、肺癌の膵転移に伴う十二指腸浸潤による消化管狭窄に対し、ステント留置を試みたところ、胃潰瘍の術後再建(Roux-Y再建術)のため、ステント留置に難渋した症例を経験したので報告する。【症例】81歳男性、肺癌に対し化学療法を施行するも PDであり、緩和医療をうけていた。H23年4月3日、嘔吐と腹痛を主訴に救急搬送され同日入院。精査のため4月5日当科紹介。腹部 CTでは、十二指腸から口側の消化管の拡張を認め、GIFにて、輸出脚は腫瘍の浸潤でほぼ閉塞した状態であった。手術での狭窄解除は全身状態から困難で、4月8日内視鏡下でのステント留置術を行った。ステント挿入可能な2T240にて内視鏡観察を行ったが、術後胃のため、ファイバ-の追従性が悪く、狭窄部が観察できなかった。より細径の XQ240へ変更し、ガイドワイヤーを留置し、ガイドワイヤーを残して内視鏡を抜去、タンデム tubeを外筒として2T240をガイドワイヤーに沿って挿入し、内視鏡下にWallFlex Duodenal Stent 9cmを留置した。3日後に行った GIFでは、ステントの拡張および造影剤の通過も良好であった。【考察】WallFlex Duodenal Stentは経内視鏡下での挿入が可能であり、悪性の胃十二指腸狭窄に対するステント留置術を比較的容易に、また安全に行えるようにした。ただ、一期的なステント留置は大口径の内視鏡に限られているため、本例のように屈曲が強く挿入困難な場合には、ファイバ-の入れ替えなどによる二期的な挿入での対応が必要である。今後はより細径の内視鏡で使用できるデバイスの開発が必要と考えられた。【結語】今回我々は悪性十二指腸狭窄に対しての消化管ステント挿入時に術後胃の影響で挿入に難渋した症例を経験したので報告した。

内視鏡的切除を行った巨大な十二指腸Fibromyxolipomatous polyp の一例

1浜松医科大学 第一内科、2浜松医科大学 分子診断学○天野 雄介 1、濱屋  寧 2、山田 貴教 1、栗山  茂 1、 杉本 光繁 1、大澤  恵 1、杉本  健 1

【症例】60歳代、女性。【主訴】黒色便。【既往歴】30歳代:内痔核手術。【生活歴】飲酒歴なし、喫煙歴なし、アレルギーなし。【経過】20XX年2月に黒色便が出現し近医を受診したところ、Hb 8.5g/dlの鉄欠乏性貧血を指摘され鉄剤内服が行われた。消化管出血精査のため上部および下部消化管内視鏡を行うが出血源を指摘できず、小腸病変からの出血が疑われ精査のため、3月に当院紹介入院となった。入院後、経口的に行ったダブルバルーン内視鏡(DBE)検査では十二指腸下行脚の乳頭対側に基部を有する10cmをこえる有茎性ポリープを認めた。ポリープはほぼ正常上皮におおわれていたが、一部上皮が脱落した部分があり消化管出血の原因となりうると考えられた。腹部 CT、MRI検査所見からは脂肪腫が最も疑われたが、内視鏡検査時に採取した生検組織からは確定診断は得られなかった。外科手術の侵襲を考慮し、十分なインフォームドコンセントのもとで内視鏡的切除を選択した。処置にあたり、DBEのオーバーチューブを併用し上部消化管内視鏡を用い操作性を確保し、ポリープ基部にクリッピングを行い、SBナイフ Jrを用いて茎部の切断を行い切除し得た。組織学的には、浮腫状・粘液腫様の基質、紡錘形~多角形の線維芽細胞、成熟脂肪細胞などからなる Fibromyxolipomatous polypと診断した。内視鏡切除後の経過良好で11日後に退院とした。【考察】本例は消化管出血を契機に発見された巨大な十二指腸 Fibromyxolipomatous polypで、過去に報告はなく貴重な症例と考えられた。また、SBナイフ Jrを用いた切除法は、本例のように長い有茎性のポリープに対して有効であると考えられた。

B-RTOにて退縮しえた十二指腸静脈瘤の1例1小牧市民病院 消化器科○勝野アズサ 1、宮田 章弘 1、平井 孝典 1、大山  格 1、 小島 優子 1、林 大樹朗 1、鈴木 大介 1、桑原 崇通 1、 灰本 耕基 1、飯田  忠 1、和田 哲孝 1

症例は58歳、男性。主訴は腹痛、下血。既往歴はアルコール性肝炎、脂肪肝、高血圧、急性 A型肝炎。嗜好歴は飲酒、焼酎3杯 /日。現病歴は前日夜からの腹痛・下血を主訴に朝救急外来を受診。来院後も下血が続き、Hb7.0g/dLと貧血を認めた。輸血し、緊急上部消化管内視鏡検査を施行したところ、十二指腸下行脚に一部びらんを伴う静脈瘤が多発していた。十二指腸静脈瘤破裂と診断されて緊急入院となった。入院後も下血が持続し、夕方に意識障害・出血性ショックを呈した。Hb6.7g/dLと貧血が進行していたため、再度輸血し、2回目の上部消化管内視鏡検査を施行したところ、十二指腸静脈瘤に赤色血栓を認めた。クリッピングを行い、止血を確認した。ダイナミック CTで十二指腸下行脚から水平脚にかけて怒張する静脈瘤を認めた。再出血予防のため治療法として B-RTOを選択した。右大腿静脈からアプローチし、門脈-下大静脈シャントを選択した。下流でバルーンを拡張し、まず側副血行路を50%ブドウ糖で塞栓してから、オレイン酸モノエタノールアミンを注入して静脈瘤を塞栓した。翌日の血管造影では静脈瘤はやや縮小していたが、効果不十分と判断して再度50%ブドウ糖、オレイン酸モノエタノールアミンを用いて B-RTOを施行した。2日後の血管造影では、静脈瘤は十分に縮小していた。術後、一時的な黄疸・腹水貯留を認めたが再出血は認めていない。十二指腸静脈瘤は比較的まれな疾患で、治療法に関して一定のコンセンサスは得られていない。今後症例を集積しコンセンサスを得ることが望まれる。

繰り返し施行した上部消化管内視鏡検査にて診断した胆石症に伴う胆嚢十二指腸瘻の一例

1岐阜赤十字病院 消化器内科、2岐阜赤十字病院 放射線科、3岐阜赤十字病院 外科○杉江 岳彦 1、高橋 裕司 1、宮崎 恒起 1、松下 知路 1、 伊藤陽一郎 1、名倉 一夫 1、後藤 裕夫 2、藤田 修平 3、 小久保健太郎3、栃井 航也 3、飯田  豊 3、林  昌俊 3

【症例】70歳代男性【既往歴】高血圧、前立腺肥大症で加療中【臨床経過】前医にて慢性胃炎にて経過観察されていた。2008年4月の上部内視鏡検査で十二指腸球部前壁の粘膜びらんを認めた。2009年2月の内視鏡検査で同部は粘膜下腫瘍様隆起とびらんを認め、精査加療目的にて当院紹介受診となった。(生検は2回施行するもduodenitisのみであった)【現症】身長159cm 体重65kg 体温36.2℃ 胸部に異常所見を認めず。腹部は右季肋部に軽度圧痛を認めるが筋性防御、腹膜刺激症状は認めなかった。表在リンパ節は触知せず。【検査成績】WBC 5000/ul RBC 478万 Hb 15.1 g/dl Ht 43.7% PLT 21.9万 

CRP 0.12 T.P 7.6 ALB 4.5 T.bil 1.3 AST 31 ALT 30 LDH 216 γGTP 27 ALP 193 CHE 289 BUN 23.3 Cr 1.05 AMY 67【入院後経過】上部内視鏡検査で十二指腸球部前壁に陥凹性病変を認めた。陥凹内は黄色の脆弱な繊維性組織で構成されていた。陥凹周堤は肥厚した炎症性粘膜で形成されていた。生検では前医同様 duodenitisであった。腹部 CTでは胆嚢内気腫と十二指腸壁肥厚を認め胆嚢十二指腸瘻の存在が疑われた。。経口ガストログラフィンでの上部消化管造影検査で胆嚢十二指腸瘻と胆石が描出された。治療は当院外科にて開腹下で胆嚢摘出術と十二指腸瘻孔閉鎖術を施行した。胆嚢癌、十二指腸癌の合併は認められなかった。【結語】胆嚢十二指腸瘻は胆石症の合併症として時折経験される。本症例では明らかな胆石発作所見を認めず瘻孔の存在も内視鏡検査にて推測された。また本例では繰り返し施行された上部内視鏡検査で瘻孔形成の過程が観察され、貴重な症例と判断し報告した。

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十二指腸乳頭部の生検により確定診断に至った IgG4関連自己免疫性膵炎の一例

1浜松医科大学 第一内科、2浜松医科大学 分子診断学、3浜松医科大学 臨床研究管理センター○高野 亮佑 1、栗山  茂 1、鈴木 崇弘 1、石田 夏樹 1、 大石 愼司 1、魚谷 貴洋 1、寺井 智宏 1、山出美穂子 1、 西野 眞史 1、濱屋  寧 2、山田 貴教 1、杉本 光繁 1、 金岡  繁 2、古田 隆久 3、大澤  恵 1、杉本  健 1

症例は58歳、男性。2010年10月下旬に臍周囲の圧迫感を自覚し近医受診。肝胆道系酵素上昇と腹部超音波検査にて膵頭部の腫大および肝内胆管の拡張を認め、膵腫瘍が疑われ精査加療目的にて当科紹介入院となった。腹部造影 CTでは膵はびまん性に腫大しており、膵内胆管の狭窄およびそれより末梢側の胆管拡張が認められた。入院時の血液検査にてトリプシン550 ng/ml、エラスターゼ I 1300 ng/mlと上昇を認め、IgG4 908 mg/dlで異常高値を認めた。IgG4関連自己免疫性膵炎(AIP)を疑い ERCPを施行した。膵体部主膵管に15mmに渡る狭窄が見られたが、duct penetrating sign陽性、尾側膵管の拡張は目立たず、膵液細胞診も陰性であり膵癌は否定的と考えられた。胆管の造影では下部胆管に20mmほどの狭細化を認めたため、同部位より胆管生検を施行したが、IgG4陽性細胞は見られなかった。診断確定のため後日Vater乳頭の生検を施行。内視鏡的に Vater乳頭は軽度の腫大を認めるのみであったが、生検組織にて高度な形質細胞の浸潤が見られ、IgG4陽性であった。以上の検査結果より IgG4関連 AIPと診断し、PSL30mg/dayより内服治療を開始した。治療開始後肝胆道系酵素は速やかに正常化し、治療3ヶ月後に施行した腹部 CTでは膵腫大および胆管の拡張は著明に改善していた。治療4ヶ月後の上部消化管内視鏡検査では、Vater乳頭の腫大は改善しており、生検でも IgG4陽性細胞の浸潤は改善していた。現在 PSL5mg維持投与中であり経過良好である。IgG4関連 AIPは膵外病変として胆管狭窄を伴うことがあり、しばしば悪性疾患との鑑別が問題となる。本症例では胆管狭窄部からの生検では診断がつかなかったが、Vater乳頭の生検より確定診断することができ、その後の治療方針決定に有用であった。

膵十二指腸動脈瘤破裂に起因すると考えられた腹腔内出血の一例

1済生会松阪総合病院 内科○山本 貴之 1、吉澤 尚彦 1、竹内 俊文 1、黒田 直起 1、 福家 洋之 1、河俣 浩之 1、橋本  章 1、脇田 善弘 1、 清水 敦哉 1

症例は50歳代女性で,生来健康であった.腹痛,嘔吐,下痢を主訴に当院救急外来を受診し,精査加療目的に入院となった.入院時現症では意識清明,上腹部に圧痛認めるのみであった。腹部 CTでは明らかな異常所見は認められなかった。後日ノロウイルス陽性と判明した。入院翌朝に筋性防御・腹膜刺激兆候が出現した.血液検査ではWBC11000/μl,Hb15.2g/dl,CRP3.3mg/dlとわずかな炎症反応の上昇を認めた.再度施行した腹部 CTでは後腹膜に high density areaとともに不整な血管径の拡張を認め,腹腔内動脈瘤破裂を疑った.緊急腹部血管造影検査による腹部動脈,上腸間膜からの造影では膵アーケード(前上膵十二指腸動脈,後上膵十二指腸動脈など)に多発する血管の数珠状拡張と狭小化を認め,膵頭十二指腸動脈瘤破裂・後腹膜出血と診断し,TAEを行った.術後,繰り返す嘔吐が出現した.上部消化管内視鏡検査では十二指腸に浮腫状の狭窄あり虚血性変化が疑われた.バルーン拡張を行い,徐々に食事摂取可能となり退院となった.現在まで再発を認めていない.腹部画像診断では横隔膜正中弓状靭帯の狭窄は見られなかった.SAM(Segmental Arterial Mediolysis)は非炎症性,非動脈硬化性の病態であり広範囲,多発性に動脈瘤を形成するとされる。臨床的には1.中高年者,2.炎症性変化や動脈硬化性変化などの基礎疾患がないこと,3.突然の腹腔内出血,4.血管造影検査における血管の数珠状の不整な拡張と狭小化が認められることであり,本症例は SAMの可能性が考えられた.

急性膵炎を契機に発見された膵動静脈奇形の一例1三重大学 医学部 消化器肝臓内科、2三重大学 医学部 肝胆膵移植外科○爲田 雅彦 1、井上 宏之 1、高山 玲子 1、二宮 克仁 1、 田野 俊介 1、濱田 康彦 1、葛原 正樹 1、田中 匡介 1、 堀木 紀行 1、臼井 正信 2、伊佐地秀司 2、竹井 謙之 1

【症例】46歳男性。平成23年2月下旬から心窩部痛が出現し、近医にて胃腸炎として内服薬を処方された。症状の改善なく、3月上旬に前医を受診した。腹部 CTにて膵頭部に血管性病変を指摘されるも経過観察とされた。その後も心窩部痛の増悪を認め、再度受診。CTにて膵頭部の腫大と周囲の脂肪織濃度の上昇を指摘され、急性膵炎の診断にて前医に入院となった。膵炎に対して保存的治療を開始されるも症状の改善無く、疼痛に対して塩酸モルヒネの使用も開始された。症状の改善を認めないため、精査加療目的で4月に当院に転院となった。当院入院時、心窩部に圧痛を認めたが発熱はなく、バイタルサインは安定していた。血液検査ではアミラーゼ160IU/l、CRP 1.80mg/dlと軽度の上昇を認めた。入院後施行した造影 CTにて膵頭部で増生した血管を認めるとともに、早期に静脈、門脈の描出を認めた。また、膵頭部には腫大を認め、血管病変周囲に嚢胞を認めた。EUSでは膵頭部病変部にモザイク様の血流所見を認めた。以上より膵動静脈奇形と診断した。外科的切除の適応と判断し亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。摘出標本は膵頭部に仮性嚢胞を認めるとともに、膵頭部から十二指腸の粘膜下層にかけて血管の集簇、増生を認め、動脈、静脈が隣接して存在していることから膵動静脈奇形と診断した。【考察】膵動静脈奇形は消化管の動静脈奇形のうち0.9%の頻度と稀な疾患である。症状は消化管出血が最も多く、本症例のように膵炎による腹痛を認めるとも報告されている。今回我々は急性膵炎を契機として発見された膵動静脈奇形を経験したため、若干の文献的な考察を加えて報告する。

診断に苦慮した膵嚢胞内真菌症の一例1豊橋市民病院 消化器内科○田中  卓 1、藤田 基和 1、浦野 文博 1、内藤 岳人 1、 山田 雅弘 1、北畠 秀介 1、山本 英子 1、松原  浩 1、 河合  学 1、樋口 俊哉 1、田中 浩敬 1、岡村 正造 1

【症例】73歳男性【主訴】腹痛【既往歴】67歳時に S状結腸癌にて S状結腸切除【家族歴】特記事項なし【生活歴】過去に喫煙歴あり、飲酒 日本酒1合/日【現病歴】大腸癌術後のフォローで当院の外科外来に通院中。2009年4月下旬より上腹部痛が出現したため、当院受診。腹部理学所見にて腹膜刺激症状を認め、血液検査にて炎症反応高値・膵型アミラーゼ高値を、また CT検査にて膵頭部周囲の脂肪織濃度上昇を認めたため、急性膵炎の診断にて入院となった。入院後、保存的治療にて急性膵炎は改善したため、原因検索を開始した。MRCPにて膵鉤部に20mm大の嚢胞性病変を、EUSにて嚢胞内部に乳頭状の結節性病変を認めた。ERCPにて嚢胞性病変は主膵管と交通を有し、嚢胞内に陰影欠損像を認めた。膵管ブラッシング細胞診では疑陽性の結果であった。造影超音波検査では嚢胞内の腫瘤に造影効果を認めた。血液検査では CA19-9、CEA、Span-1、DUPANなどの腫瘍マーカーの上昇は認めなかった。以上の臨床所見より膵鉤部の分枝型IPMNを第一に考え、同年6月に亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。術後の病理標本では主膵管より分岐した末梢側の膵管の内腔拡張を認め、内腔にカンジダと考えられる真菌の芽胞や菌糸を伴った滲出物の充満、および膵管粘膜への炎症細胞浸潤を認め、慢性膵炎に伴う仮性嚢胞内への真菌感染を示唆する所見であった。【考察】近年、膵嚢胞性疾患は画像診断の向上によりその質的診断、鑑別診断能は格段に向上した。しかし、中にはこれらの画像診断においても診断に難渋する例が少なからず見られる。本症例では画像上 IPMN類似の所見を呈し術前診断が困難であった。画像上、嚢胞内に結節様の所見を呈した場合、鑑別診断の一つに真菌感染も念頭に置く必要があると考えられた.今回我々は診断に苦慮した膵嚢胞内真菌症という貴重な症例を経験したため、若干の文献的考察を加えて報告する。

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多彩な膵外病変を認めた IgG4関連硬化性疾患の1例1三重大学附属病院 消化器肝臓内科、2三重大学附属病院 光学診療部○高山 玲子 1、井上 宏之 1、為田 雅彦 1、二宮 克仁 1、 田野 俊介 1、葛原 正樹 2、濱田 康彦 2、田中 匡介 2、 堀木 紀行 2、竹井 謙之 1

患者は80歳代男性。2009年9月に発熱にて近医で抗生剤投与されるも改善せず、感染性腹部大動脈瘤疑いにて同年10月に当院心臓血管外科で Y-graft置換術を施行された。病理組織上で大動脈周囲に著明なIgG4陽性形質細胞浸潤を認め、IgG4関連硬化性疾患と診断したが経過観察となった。2010年10月に施行された CTで膵体部に限局性腫大を認め、当科紹介受診となった。血液検査上、IgG 2710.0 mg/dl、IgG4 584 mg./dlと高値であった。ダイナミック CTで膵体部の腫大は早期相で造影不良、後期相で周囲の膵実質より強く造影された。また、両腎に境界不明瞭な造影不良域が多発しており、IgG4関連間質性腎炎を疑った。MRIでは膵病変は T2強調と Diffusionで強い高信号を示し、MRCPで同部の膵管狭小化も認めた。両腎も Diffusionで高信号であり、大動脈周囲や Th10椎体右側にも Diffusionで高信号を示す軟部陰影を認めた。PET-CTでは膵体部病変に限局した SUV=2.9、大動脈周囲(SUV=4.2)、Th10椎体右側(SUV=3.0)、腎(SUV=5~6)、右肺上葉に SUV=4.3、左右肺門、縦隔リンパ節にも FDG集積(SUV=2.9)を認めた。EUSでは膵体部病変は境界不明瞭で辺縁不整な low echoic lesionとして描出された。膵管造影で膵体部に主膵管の狭細像を認め、尾側主膵管の拡張はなかった。膵体部病変と縦隔リンパ節に対し EUS-FNAを施行、病理組織結果は膵・縦隔ともに悪性所見を認めなかった。腎生検、肺生検では軽度の線維化、炎症所見のみであった。十二指腸生検で形質細胞を混じる中等度炎症細胞浸潤と少数の IgG4陽性細胞を認めた。以上より IgG4関連硬化性疾患と診断し、Steroid治療を開始した。治療1月後の PETでは膵病変の集積は消失し、他部位でも集積の低下を認めた。多彩な膵外病変を認めた IgG4関連硬化性疾患の1例を認めたため、報告する。

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膵Solid-pseudopapillary neoplasm (SPN) の1切除例1朝日大学歯学部附属村上記念病院 消化器内科○高野 幸彦 1、小島 孝雄 1、加藤 隆弘 1、宮脇喜一郎 1、 遠藤 美生 1、吉田 尚美 1、福田 信宏 1、大洞 昭博 1、 奥田 順一 1

症例は23歳、女性。主訴はなし(腹部 CTにて異常を指摘)。家族歴に特記すべきことなし。近医にて不眠症・うつ病で内服加療中。平成22年9月26日午前5時に、同窓会で飲酒後の気分不良、嘔気、嘔吐にて近くの総合病院へ救急搬送された。腹部 CTにて膵尾部に腫瘍を認めたため、精査目的にて当院紹介受診となった。身体所見では左上腹部に弾性硬の腫瘤を触知した。腹部 USでは、腫瘍辺縁の著明な石灰化のためか描出困難であった。ダイナミック CT検査では、膵尾部に約10cm大の境界明瞭で、辺縁にはいわゆる卵殻状石灰化を伴い、内部に隔壁を有する多房性腫瘤を認めた。造影効果はほとんど認めなかった。腹部MRI検査では、腫瘍の多房性嚢胞内部は T1強調画像では高信号、T2強調画像では低信号を呈し、出血が示唆された。FDG-PETにて腫瘍内腹側に小結節状に高集積を認めた。以上より膵 Solid-pseudopapillary neoplasmを疑い、FDG-PETの結果から悪性も否定できなかったため、当院外科にて膵体尾部切除術が施行された。切除標本肉眼所見では、厚い器質化した capsuleで、非常に硬い皮膜を有し、内部は繊維性隔壁で多房化し、大部分は出血壊死であった。病理組織所見では、比較的揃った類円形核・好酸性胞体を有する腫瘍細胞が主に充実性に増殖し、時に腺管様構造やロゼット状構造を認めた。偽乳頭状構造は目立たなかった。免疫染色では β-cateninが核・細胞質共に 陽 性、CD10,56陽 性、NSE 陽 性 で あ り、Solid-pseudopapillary neoplasmと診断した。膵 SPNの一例を経験したので報告する。

腹痛を契機に発見されたリンパ節転移を伴う膵ガストリノーマの1例

1愛知医科大学 消化器内科、2愛知医科大学 消化器外科○小林 佑次 1、田中 創始 1、野田 久嗣 1、石井 紀光 1、 佐々木誠人 1、中尾 春壽 1、春日井邦夫 1、米田 政志 1、 永田  博 2、野浪 敏明 2

症例は29歳、女性。腹痛を主訴に近医を受診。CTにて膵頭部に腫瘤性病変を認め、精査目的にて当院紹介受診となる。造影 CTで膵頭部に早期相にて比較的境界明瞭で、造影効果を有する35mm大の腫瘤を認め、尾側の主膵管の拡張は認めなかった。EGDにて、十二指腸球部にびらんを認めた。EUSでは、膵頭部に35mm大の境界明瞭、内部エコーは不均一な腫瘤を認めた。膵頭部に16mm大のリンパ節の腫大を認めた。EUS-FNAにて、小型類円型の核を有する細胞を認め、chromograninA陽性、synaptophysin陽性であった。また、血清ガストリンは430pg/mlと高値を認めた。以上より、膵ガストリノーマと診断した。明らかな多発所見や、副甲状腺・下垂体腫瘍の合併は認めなかったため、膵頭十二指腸切除術を施行した。病理所見は、35mm大の充実性腫瘤で、小型類円形細胞の索状配列を認め、chromograninA陽性、synaptophysin陽性であった。Mib-1 indexは1.5%程度で、No13のリンパ節に転移を認めたため、最終診断は膵ガストリノーマ(Well differentiated endocrine carcinoma)であった。術後、血清ガストリンは正常値となり、経過観察をしている。今回我々は、腹痛を契機に発見されたガストリノーマを経験したため若干の文献的考察を加えて報告する。

膵漿液性嚢胞腺腫に膵腺扁平上皮癌を合併した1例1岐阜県総合医療センター 消化器科、2岐阜県総合医療センター 病理診断科○安藤 暢洋 1、加藤 潤一 1、小原 功輝 1、馬淵 正敏 1、 岩砂 淳平 1、大島 靖広 1、岩田 圭介 1、芋瀬 基明 1、 清水 省吾 1、杉原 潤一 1、岩田  仁 2

症例は70歳男性。主訴は膵腫瘤精査。既往歴・家族歴に特記すべきことはなく健診にて高血糖を指摘されその際に施行した腹部 USにて膵尾部腫瘤を指摘されたため当科紹介受診。膵尾部腫瘤は US上境界明瞭な不整形の低エコー腫瘤で内部エコーは不均一であった。MRI上 T1WIでは低信号、T2WIでは高信号を呈し、造影 CTでは腫瘍内部は早期より濃染する隔壁構造と充実成分を伴っていた。また主膵管は腫瘤によって腹側に偏位していたが、頭側にも拡張を認めると共に頭部に乏血性腫瘤を認めた。EUSでは膵尾部腫瘤は比較的境界明瞭で内部エコーは全体にやや高く小さな嚢胞状の無エコー域が散在していたが血流 dopplerは確認されなかった。一方、膵頭部腫瘤は境界不明瞭で辺縁不整な低エコー腫瘤であった。ERCP/MRCPでは主膵管は頭部で筆尖状の高度狭窄を認めその上流は拡張していた。また下部胆管にも狭窄を認め同部位より擦過細胞診を行ったが悪性所見は得られなかった。PET-CTでは膵尾部腫瘤に集積はなかったが膵頭部腫瘤には集積を認めた。以上の画像所見から膵尾部腫瘤は膵漿液性嚢胞腫瘍、膵頭部腫瘤は通常型膵管癌と考え手術を施行した。病理結果は膵漿液性嚢胞腺腫と膵腺扁平上皮癌であり、術後より gemcitabineによる化学療法を行ったが術後約7ヶ月で死亡された。膵管癌と膵漿液性嚢胞腫瘍の合併は稀な症例であり、若干の考察を加えて報告する。

脾温存膵体尾部切除を行った膵漿液性嚢胞腺腫の1例1市立伊勢総合病院 外科、2市立伊勢総合病院 病理○武内泰司郎 1、佐野 孝治 1、野田 直哉 1、湯浅 浩行 1、 伊藤 史人 1、野田 雅俊 2

症例は76歳、女性。健診目的に近医で腹部超音波検査を施行、上腹部に腫瘤を認め、精査加療目的に当院に紹介受診。来院時身体所見にて腹部に腫瘤は触知せず、圧痛も認めなかった。血液検査ではCEA,CA19-9を含め異常値を認めなかった。腹部超音波検査では、心窩部に類円形で大きさ5.5×5.1×4.8cmの比較的境界明瞭な内部エコーは不均一な腫瘤を認めた。腹部単純 CTでは腫瘤は径6cmで、嚢胞状の low density massとして認められたが、内部に一部隔壁様構造がみられた。造影 CTでは隔壁が造影され、大小多数の嚢胞様構造が明らかとなった。腹部造影MRI検査では膵体部に6×5cm大の T1WIで低信号、T2WIで網目様低信号を伴う高輝度を呈する境界明瞭な腫瘤を認めた。辺縁の被膜と内部隔壁構造のみに造影効果を認め、MRCPでは主膵管の拡張なく、腫瘤より尾側膵管は描出されなかった。超音波内視鏡検査では胃体部小弯後壁に壁外圧排像を認め、膵体部の腫瘤は、6.2×5.4cmの境界明瞭な低エコー腫瘤として描出され、辺縁に小嚢胞の集簇が確認された。以上から膵漿液性嚢胞腫瘍と診断した。10年前の腹部超音波検査では同腫瘍は認められず、緩徐ではあるが増大傾向あり経過観察することより手術を希望されたため、手術を施行した。術中所見では、膵体部より発生する可動性良好な6cm大の腫瘤を認めた。腫瘍より尾側の膵は萎縮していた。脾動静脈脾温存膵体尾部切除を行い、腫瘍を摘出した。摘出標本割面の肉眼所見では、繊維性被膜を有し、境界明瞭な蜂巣状の micro cysticな多嚢胞性病変であり、中央に星芒状繊維化を伴っていた。組織所見では大小の嚢胞形成と胞体上皮は淡明な立方状~扁平な細胞で裏打ちされており、膵漿液性嚢胞腫瘍と診断された。術後経過良好にて術後13日目に退院となった。現在、外来にて経過観察中である。10年の間に増大を認めた膵漿液性嚢胞腫瘍を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

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全身に多発腫瘤形成を認めた退形成膵癌の一例1静岡市立静岡病院 消化器内科○近藤 貴浩 1、田中 俊夫 1、黒石 健吾 1、中村 尚広 1、 武尾 宏雄 1、鈴木  亮 1、大野 和也 1、濱村 啓介 1、 高橋 好朗 1、小柳津竜樹 1

 退形成性膵癌は膵癌の中では非常に稀であり予後も不良とされている.今回,我々は多形細胞型退形成性膵癌を経験したので報告する.症例は55歳男性,平成21年5月右肩,右前腕,左大腿の腫脹を自覚し,同年8月尿黄染を認めた為,当科受診し腹部 CTにて膵頭部に約5cm大の腫瘍と閉塞性黄疸を認めた為,当科入院とした.四肢,躯幹に多発する腫瘍を認めた為,頸部リンパ節の生検を試行した.免疫染色で c-kit (+-), CD34 (-) であった為,GISTを疑いメチル酸イマチニブ400mg/dayで治療を開始したが PDであり中止とした. 病理でMyofibloblastic Sarcomaの診断であり,左膝の疼痛に対しは放射線療法を施行し,全身化学療法としてはイホスファミド,塩酸ドキソルビシンによる治療を5クール施行した.筋肉内腫瘤は縮小効果を示したが,膵頭部腫瘤は不変であった.腹部膨満を認めた為,平成22年7月当科入院となった.腹水穿刺にて癌性腹膜炎による腸閉塞と診断され,イレウス管挿入後一時的に症状改善したが入院約1ヶ月で永眠された.病理解剖を行い死因は多細胞性退形成性膵癌による癌性心膜炎と考えられた. 本邦における過去15年の症例報告では骨格筋内に多発腫瘤形成を伴った退形成膵癌は報告がなく,稀な症例であり,病理像も非常に多彩であった一剖検例である.

2年の経過で急速に進行した膵管内乳頭粘液腺癌の1例1国民健康保険関ヶ原病院 内科、2岐阜大学附属病院 消化器内科、3国民健康保険関ヶ原病院 外科、4岐阜大学附属病院 消化器外科○中村 博式 1、桐井 宏和 1、 森島眞理子 1、瀬古  章 1、 安田 一朗 2、佐々木義之 3,4、松尾  篤 3、宮  喜一 3、 今井  寿 4、長田 真二 4、 吉田 和弘 4

症例は79歳女性.主訴:口渇.既往歴:高脂血症,高血圧にて当科定期通院中.現病歴:2008年9月に急性膵炎にて当科入院し,保存的に加療.軽快後の腹部造影 CT,MRCPでは特記すべき所見はなく,その後当科外来にて経過観察していた.2010年2月22日定期受診時,口渇があるとのことで,血液検査を施行したところ,BS 396 mg/dl,HbA1c 9.9 %と糖尿病の存在を指摘.糖尿病コントロール目的にて2月25日当科入院となった.臨床経過:入院後,インスリン治療を開始し,強化インスリン療法にて血糖は良好なコントロールを得た.腹部造影 CT,MRCPで2008年当科入院時には認めなかった膵頭部~体部への途絶,下部胆管の圧排所見,膵臓全体の多発嚢胞を認めた.また CEA 6.1 ng/ml,CA19-9 234.8 U/ml,DUPAN-2 182U/ml,Span-1 105.9U/mlと腫瘍マーカーの上昇を認めた.3月15日 FDG-PETを施行したところ,膵頭部に集積を認め,悪性腫瘍の可能性高く,3月17日EUS-FNA施行.膵管内乳頭粘液腺癌の病理診断であった.4月1日岐阜大学医学部附属病院転院し,4月20日膵全摘,門脈合併切除予定にて開腹するも,肝転移と多数の腹膜播種により根治手術は断念し,十二指腸バイパス術(胃 -空腸吻合術)が行われた.5月6日退院され,当院外来にて緩和治療中心し,経過観察したが,7月14日亡くなられた.膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は通常 slow growingな腫瘍であり,腺腫より非浸潤癌,微小浸潤癌,浸潤癌へと連続する腫瘍であるといわれている.本症例は2年前に急性膵炎にて当科入院時に膵臓の器質的疾患の存在を明らかにするため腹部造影 CT,MRCPが施行されていたが,IPMNは指摘できず,2年間で急速に進行し,浸潤癌となったと考えられた.急速に進行した IPMN由来の浸潤癌で稀であり,貴重な症例であると考えられた.

検診 PET-CT で発見された膵管内乳頭粘液性腺癌の1例1名古屋大学大学院医学系研究科 消化器内科学、2名古屋大学医学部付属病院 光学医療診療部○鷲見  肇 1、廣岡 芳樹 2、伊藤 彰浩 1、川嶋 啓揮 1、 大野栄三郎 2、伊藤 裕也 1、中村 陽介 2、平松  武 1、 杉本 啓之 1、舩坂 好平 1、坂巻 慶一 1、鶴留 一誠 1、 後藤 秀美 1,2

【症例】60歳代後半の男性で主訴は検診異常。既往歴、家族歴に特記すべきことなし。2010年12月に検診の PET-CTで膵頭部に FDG集積を認め、膵腫瘍疑いで精査目的に当院紹介受診となった。【入院後経過】血液検査では軽度アミラーゼ上昇を認めたが、他の血液生化学検査は正常範囲内であった。造影ダイナミック CT検査では膵頭部に25mm大の多房性嚢胞性病変を認め、内部に乳頭状隆起と腫瘍辺縁部に石灰化を認めた。乳頭状の充実性部分は動脈相より濃染し、遅延相では隔壁に濃染を認めた。また、主膵管、総胆管の拡張は認めなかった。MRIは T1WIで低信号、T2WIで高信号の多房性病変で内部には T1WIで淡い高信号、T2WIで淡い低信号を呈する乳頭状隆起を認めた。石灰化は T2WIで低信号を示した。MRCPでは嚢胞と膵管との交通は明らかでなかった。超音波内視鏡検査(EUS)では膵頭部に25mm大の多房性嚢胞性病変を認め、内腔には造影 EUSにて造影効果を示す20mm大の乳頭状隆起を認めた。また、腫瘍辺縁の嚢胞内に石灰化を認めた。膵管との交通は明らかでなく主膵管、胆管の拡張を認めなかった。膵管造影検査では、主膵管の軽度拡張を認めるも粘液の存在は明らかでなく、また病変部は造影されなかった。以上より粘液産生の乏しい IPMCと診断し、2011年1月に幽門輪温存膵頭十二指腸切除を施行した。病理組織学的所見では、膵管上皮内の進展と間質への浸潤を認め、IPMN由来浸潤癌(pT2, pN0, sM0, StageII)と診断した。石灰化を伴う IPMNは比較的稀であり、非典型的なIPMCであった。術後経過は良好で術後第21病日退院となった。【結語】検診 PET-CTで発見された石灰化を伴う IPMCの1例を経験した。

貧血を契機に発見された IPMN由来浸潤癌の1例1公立陶生病院 消化器内科○松崎 一平 1、森田 敬一 1、黒岩 正憲 1、林  隆男 1、 清水 裕子 1、松浦 哲生 1、浅井 裕充 1、小島 久実 1、 石川 恵里 1

症例は84歳女性。2010年7月頃より貧血を認め、同年12月近医にて上部消化管内視鏡検査施行したところ十二指腸下行脚に隆起性の病変を認め当院紹介となった。腹部超音波検査では膵頭部に51.1×33.0mmの内部不均一な低エコー腫瘤を認めた。造影 CTでは膵実質は萎縮し膵頭部に不整な染まりを呈する腫瘤を認め、十二指腸下行脚を圧排していた。腫瘍の辺縁には多房性嚢胞を認めた。MRIでは T1で低信号、T2は等信号で内部には高信号を呈する領域が混在していた。MRCPでは腫瘤に圧排された周囲の多房性嚢胞の描出を認めた。ERCPでは、上十二指腸角から下行脚にかけて不整な粘膜を呈する隆起性の病変を認めた。乳頭は正常で膵管造影にて主膵管は頭部で圧排所見を認めた。下行脚の隆起性病変から生検を行い adenocarcinomaを認めた。以上より IPMN由来の浸潤癌で十二指腸浸潤と診断した。手術を希望されたため2011年1月、亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。病理組織学的所見は最大径約5.5cmの結節型病変を認め、周囲には多房性の嚢胞性病変を認めた。結節型病変は腫大した核を有する異型細胞が乳頭状、絨毛状に増殖しており主膵管にわずかに進展する異型細胞を認めた。十二指腸への浸潤を認めた。今回われわれは貧血を契機に発見された IPMN由来浸潤癌の1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する。

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Gemcitabine による間質性肺炎を発症した膵癌の一例1藤田保健衛生大学 肝胆膵内科○有馬 裕子 1、橋本 千樹 1、川部 直人 1、原田 雅生 1、 新田 佳史 1、村尾 道人 1、中野 卓二 1、嶋崎 宏明 1、 吉岡健太郎 1

【症例】71歳 男性【主訴】心窩部痛【既往歴】白内障にて手術(20年前)【現病歴】200X年7月に心窩部痛にて近医を受診。上部・下部消化管造影検査、下部消化管内視鏡検査を施行したが、異常は認めなかった。その後も症状の改善は認めず、腹部超音波検査を施行したところ肝 S7に腫瘍性病変を認めたため、翌年1月当院紹介となった。造影 CTにて膵尾部腫瘍、肝内多発腫瘍を認め、膵癌の肝転移の診断にて化学療法目的にて入院となった。【経過】入院第3病日より化学療法(gemcitabine1000mg/m2、day 1, 8, 15 4週ごと)を開始。1クール施行後の造影 CTでは治療効果は SDであり一旦退院となった。その後外来にて化学療法継続していたが、3クール施行後、同年4月中旬より呼吸苦が出現し外来受診。胸部レントゲン、CTにてスリガラス状陰影を認め、間質性肺炎の疑いにて同日緊急入院となった。ステロイドパルス療法を施行し(prednisolone1g/日×3日間)、その後呼吸状態は改善。胸部レントゲン所見も改善。Gemcitabine投与は中止し、TS-1内服へ変更し、第39病日退院となった。退院2日後に再度呼吸苦出現し入院。胸部レントゲンにて間質性肺炎の増悪は認めず、TS-1の副作用による症状と考えられた。休薬にて全身状態は改善し第22病日退院となった。その後化学療法は中止し、外来にて経過観察していたが、翌年1月経口摂取不良となり入院。入院後、高カロリー輸液を施行し、癌性疼痛に対してはモルヒネ投与にて経過観察していたが、徐々に全身状態は増悪し第55病日永眠された。

膵体部癌術後の膵内転移を切除した1例1愛知県がんセンター中央病院 消化器外科、2愛知県がんセンター中央病院 遺伝子病理診断部、3愛知県がんセンター中央病院 消化器内科○大澤 高陽 1、清水 泰博 1、佐野  力 1、千田 嘉毅 1、金光 幸秀 1、伊藤 誠二 1、小森 康司 1、安部 哲也 1、三澤 一成 1、伊藤 友一 1、石黒 成治 1、植村 則久 1、金城 和寿 1、服部 憲史 1、二宮  豪 1、川合 亮祐 1、今井 健晴 1、二村 雄次 1、細田 和貴 2、谷田部 恭 2、山雄 健次 3

症例は初診時71歳、男性。膵体部癌の診断で2008年6月に膵体尾部・脾切除を施行し、病理所見は中分化型管状腺癌で TS2 (2.8cm), s (+), rp (+), pv (-), a (+), pT4N1M0 Stage IVa(膵癌取扱い規約)であった。2009年2月まで術後補助化学療法(TS1内服)を施行し、以後は外来にて経過観察中であった。2010年11月に血液検査で CA19-9が3,031U/mlと上昇し、CTで前回の膵切除断端から離れた膵頭下部~鉤部の膵実質内に2.5cm大の腫瘤が出現したため精査を行った。PETでは膵頭部に結節状の集積を認めたが他部位に集積はなく、EUSでは膵頭部に3cm大の辺縁不整な低エコ -腫瘍が存在し、FNAで腺癌と診断した。膵癌術後再発または異時性膵癌を疑って12月に残膵全摘を施行。切除標本では前回膵切除断端から離れた膵頭部実質に腫瘍が存在し、病理所見は中分化型管状腺癌で TS2 (2.4cm), ch (-), du (+), s (+), rp (+), pv (-), a (-), n1 (+) で、膵断端再発や主膵管進展などの所見は明らかでなかった。前回手術から期間が短い事、組織学的類似性を有していた事、KRAS遺伝子や p53の変異パターンが一致していた事から異時発生よりも、転移再発による病変と考えた。

腫瘤描出に拡散強調MRI が有用で小膵癌と診断し切除した進行膵癌の一例

1三重大学 肝胆膵移植外科○栗山 直久 1、村田 泰洋 1、熊本 幸司 1、安積 良紀 1、 大澤 一郎 1、岸和田昌之 1、濱田 賢司 1、水野 修吾 1、 臼井 正信 1、櫻井 洋至 1、田端 正己 1、伊佐地秀司 1

症例は62歳男性。会社の検診にて CA19-9高値を認めたため、近医を受診。造影 CTにて膵体部に2cm大の小嚢胞と軽度の膵管拡張を指摘され、分枝型 IPMN疑いにて当科に紹介。CA19-9が100.8U/mlと高値を示したが、他の腫瘍マーカーは正常であった。膵ダイナミック CTでも前回と同様の所見で、明らかな腫瘍性病変は描出されなかった。ERPでは膵体部に軽度の狭窄を認めたため擦過細胞診を施行したがclass Iで、それより尾側膵管には拡張した分枝膵管が多数描出された。MRIでは膵体部に拡散強調画像でのみ描出される2cm大の高信号を示す部位を認め、それより末梢側は IPMNを疑わせる嚢胞性変化を呈していた。EUSでは拡散強調MRIに一致して膵体部に辺縁やや不整な直径20mmの低エコー領域を認めたため、EUS-FNAを施行したところ class V(腺癌)と診断された。また FDG PET-CTでは膵臓内に異常集積を認めなかった。膵体部小膵癌(T1)の術前診断で脾合併膵体尾部切除を施行した。最終診断は invasive ductal carcinoma, well differentiated tubular adenocarcinoma, ly2, v1, ne3, mpd (-), TS3 (2.8×2.0×4.8cm), pT3 [S (+), RP (+)], PCM (-), DPM (+), R1, pN2(14番リンパ節;1/3),Stage IVaであり,術前の進展度診断とはかけ離れた所見であった。術後経過良好にて術後14日目に退院。 DPM (+) であったため術後に化学放射線療法を追加し、術後5カ月、全身化学療法を継続し無再発生存中である。

4D-CT アンギオによる術前血流評価が有用であった腹腔動脈解離を伴う膵頭部癌の1例

1木沢記念病院 外科、2木沢記念病院 消化器科、3木沢記念病院 放射線科、4木沢記念病院 病理診断科○堀田 亮輔 1、吉田 直優 1、伊藤 由裕 1、山本 淳史 1、 尾関  豊 1、杉山  宏 2、西堀 弘記 3、松永 研吾 4

症例は71歳の男性。近医で肝機能異常を指摘され、当院消化器科に紹介された。血液生化学検査で T-Bil 3.8mg/dl、CEA 5.9ng/ml、CA19-9 1951ng/mlの上昇があり、腹部 CTで膵頭部に20mm大の低吸収域を認めたため、膵頭部癌と診断した。ERBD挿入後に外科へ転科し、術前の化学放射線療法 CRTを行った。化学療法のレジメンは GEM+S-1で、照射は IMRT 46Gyとした。3D-CTアンギオで腹腔動脈の内腔にflapと径10mmの拡張があり、腹腔動脈解離が発見された。総肝動脈からは左肝動脈と胃十二指腸動脈が分岐し、上腸間脈動脈 SMAから右肝動脈が分岐していた。左右肝動脈は肝門部で交通枝を介して交通し、右肝動脈根部と胃十二指腸動脈の間にも交通枝が存在した。そのため、解離により腹腔動脈からの血流が不良となっている可能性が考えられ、4D-CTアンギオを施行して腹腔動脈の血流を評価した。腹腔動脈および SMAはほぼ同時に造影され腹腔動脈の血流低下はほとんどないと診断できた。術前 CRT後の画像で腫瘍の縮小が得られ、照射終了から2か月目に膵頭十二指腸切除術を行った。胆管炎による胆管周囲の炎症が強く、左右肝動脈の交通枝は温存が困難であったため切離した。SMAから分岐する右肝動脈は温存した。術後経過は良好で術後第24病日に退院した。病理診断は T3N0M0、ly0 v0 ne0で、術前 CRTの効果と思われる線維化が著明であった。腹腔動脈解離はまれな疾患であるが、ほとんどの症例は経過観察が可能とされている。また、SMAから分岐する右肝動脈は膵頭十二指腸切除術時に合併切除してもよい、とされている。しかし、本症例のような腹腔動脈解離が併存する場合に SMAから分岐する右肝動脈を切除すると腹腔動脈の再建が必要になる可能性が考えられ、腹腔動脈の血流を術前に評価することは不可欠である。しかし、カテーテルによる血管造影は動脈解離の場合に禁忌であり、4D-CTアンギオは大変有用な血流評価手段と考えられた

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総胆管結石に対する胆石除去用オフセットバルーンの開発1市立四日市病院 消化器内科○小林  真 1、宮田 良平 1、前川 直志 1、竹口 英伸 1、 山脇  真 1、桑原 好造 1、水谷 哲也 1、矢野 元義 1

【目的】従来の胆石除去用バルーンは中央にシャフトが存在するため胆石を保持するスペースが少なく、胆石が横に逃げてしまうことも多い。われわれは結石に対する保持力を上げるために、バルーンをオフセットさせた胆石除去用オフセットバルーンカテーテルをゼオンメディカルと共同開発した。【器具】オフセットバルーンはバルーンが片方向のみに膨張するように作成されており、バルーン手前の結石を保持する部分を大きくなっている。最大バルーン径は18mm、0.035インチガイドワイヤーに対応している。【結果】バルーンをオフセットさせたために、総胆管内ではバルーンと結石が一直線になり、結石をかき出す力が増強した。特に下部胆管において結石が横に逃げにくくなり、いわゆるポケットに入ることが少なく、総胆管胆石の排石には有用であった。今回の検討においてバルーンに対する損傷は認められず、バルーンをオフセットさせても十分な強度を持つと考えられた。【症例】78歳、男性。総胆管の大結石に対し内視鏡的乳頭ラージバルーン拡張術(EPLBD) を施行し排石させた。回収した結石は短径14mmであった。【結論】胆石除去用オフセットバルーンカテーテルは結石が横に逃げにくく、十分な乳頭処理を行えば大結石の治療も可能であり、EPLBDとの併用も効果的であった。総胆管結石の治療に有用であると考えられた。

当科における超高齢者の総胆管結石に対する治療の検討1愛知県厚生農業協同組合連合会 江南厚生病院 消化器内科○伊藤 信仁 1、颯田 祐介 1、堤  靖彦 1、佐々木洋治 1、 吉田 大介 1、古田 武久 1、板津 孝明 1、伊佐治亮平 1、 小林 健一 1、小宮山琢真 1、丸川 高弘 1、酒井 大輔 1

【目的】当科では超高齢者の総胆管結石に対しても全身状態などを考慮しつつ内視鏡的結石除去術を施行している.今回我々は当科における85歳以上の超高齢者に対する総胆管結石治療について検討した.【対象】当院にて2008年5月より2011年3月までの間に総胆管結石と診断された85歳以上の症例28例(男性10例,女性18例,平均年齢89.4±3.4歳.延べ36回の入院,63回の検査)について,治療成績,合併症,併存疾患について検討した.【結果】延べ36回の入院時の胆管炎の重症度(急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドライン)は,胆管炎なし5回,軽症7回,中等症15回,重症9回で,重症9回中5回,中等症15回中3回において入院当日に緊急で治療を行った.26例(延べ34回の入院,57回の検査)に内視鏡的結石除去術を行い,胃切除後で内視鏡的治療が困難であった2例(延べ2回の入院,6回の検査)に経皮経肝的砕石術を施行した.結石最大径は平均10.1±5.2mm,初診時の結石数は平均2.8±2.1個であった.内視鏡的治療例26例のうち23例(88.5%)は残石なく治療を終了したが,3例(11.5%)は完全砕石困難であり胆管ドレナージ後に経過観察となった.乳頭処置を計15例に施行(EPBD4例,EST11例)した.平均検査回数は1.67±0.76回であった.治療経過中の死亡が2例(内視鏡治療1例,経皮経肝的治療1例;7.1%)に認められたが,2例ともに胆管炎軽快後,心不全を発症しての死亡であった.治療関連合併症は,内視鏡的治療で鎮静による呼吸抑制が1例にみられたが,膵炎や出血などは認めなかった.初診時の performance statusは1:12例,2:7例,3:5例,4:4例で,28例のうち27例に併存疾患を認めた.内訳は認知症20例,高血圧13例,脳血管障害7例,心血管疾患7例などであった(重複あり).胆嚢結石が28例中17例にみられたが,胃癌合併の為開腹手術となった1例を除き,胆嚢摘出術は高齢であるとの理由で未施行であった.【結語】超高齢者の総胆管結石治療について検討した.内視鏡的結石除去術の安全性については問題ないと考えられるが,併存疾患やADL不良例が多いために慎重な対応が必要である.

腹腔鏡下胆嚢摘出術後に生じた金属クリップを核とした胆管結石の一例

1大垣市民病院 消化器内科、2大垣市民病院 放射線科○山本 健太 1、熊田  卓 1、桐山 勢生 1、谷川  誠 1、 久永 康宏 1、豊田 秀徳 1、金森  明 1、多田 俊史 1、 新家 卓郎 1、安東 直人 1、安田  諭 1、坂井 圭介 1、 木村  純 1、安藤 祐資 1、寺田 和始 1、曽根 康博 2

80歳代女性,平成8年に胆石症に対して腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.胆嚢床と肝の癒着は少なく,剥離は容易に行う事ができ胆嚢動脈は及び胆嚢管は超音波凝固切開装置とチタン製金属クリップを使用して処理を行いドレナージチューブは使用せずトラブルなく終了した.術後経過は良好であり,退院後も腹部症状は認めず経過していた.平成22年11月上腹部痛と嘔吐を主訴に救急外来を受診し,胆道系酵素及び肝逸脱酵素の上昇を認めた.腹部レントゲンでは腹腔鏡手術時に処理されたと考えられる肝門部の金属クリップとはやや離れた内側に金属クリップを認めた.腹部超音波検査では肝内胆管及び総胆管の拡張を認め総胆管内腔に胆石及び胆泥を認めた.腹部 CT検査では肝門部の金属クリップとは別に中心部に高い CT値を含む結石が総胆管内に認められ,総胆管及び肝内胆管の拡張を認めた.金属クリップを核とした胆管結石症と診断したが発熱及び炎症反応の上昇を認めず,抗血小板薬を内服していたため絶食・補液にて保存的加療を開始した.第2病日に腹痛は消失し,第3病日には血液検査が正常化した.第7病日に内視鏡的逆行性胆管造影検査を施行すると,胆管は拡張し最大17mmの楕円形の透瞭像を数個みとめた.そのうちひとつの胆石中心部に金属クリップを認めた.内視鏡的十二指腸乳頭切開術を行い,バスケット鉗子及びバルーンカテーテルを使用し胆管結石を截石した.金属クリップを含む胆石はバスケット鉗子を使用し把持・回収した.金属クリップに変形は認めなかった.術後経過は良好で第9病日退院した.迷入したクリップを核とした胆管結石は比較的まれな合併症であり,本邦報告例を中心とした文献的考察をふまえて報告する.

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造影超音波検査が有用であった胆嚢癌の一例1医療法人山下病院 消化器内科○富永雄一郎 1、瀧  智行 1、富田  誠 1、小田 雄一 1、 服部 昌志 1、磯部  祥 1、中澤 三郎 1、服部外志之 1

症例は63歳、女性。慢性関節リウマチにて近医通院中、全身倦怠感が出現したため2010年6月腹部超音波検査実施、胆嚢底部に隆起性病変を指摘され当院へ紹介受診となった。腹部造影超音波検査を実施、胆嚢底部に27x18mm大の Is+IIa病変を認めたが染影効果は Is中心部に集中し弱く、散在性で染影効も持続しなかった。しかし、Is様病変であり胆嚢癌の否定はできず精査をすすめた。採血検査は、CEA 2.2ng/ml、CA19-9 6.2U/mlと腫瘍マーカーに異常は認めず、肝胆道系酵素にも異常は認めなかった。腹部 CT検査では、胆嚢底部に隆起性病変を認め、単純ではやや低吸収域、動脈相から門脈相にかけて造影効果を認め、平衡相では造影効果が残存していた。超音波内視鏡検査では、胆嚢底部に Is+IIa病変を認め、内部は高低エコーが混在し、胆嚢壁構造は一部不鮮明な部位を認めた。前回実施から約1カ月後に再度造影超音波検査を実施したところ、大きさは前回同様の Is病変を底部に認めた。染影効果は動脈相で強くびまん性に認めたが、門脈相では減弱し染影効果の持続はやや短い印象であった。平衡相では染影効果はほぼ認めなくなっており、高音圧を一気にかけた後の flow imaging(capture mode)では、樹枝状に広がる血流像を認めたが、その間隙の染影効果は弱かった。以上の結果より、Is型で大きさは27mmであるが、造影超音波検査では基部からの血流が弱めであり胆嚢癌+腺腫、または早期胆嚢癌と診断し十分に説明したうえで腹腔鏡下胆嚢摘出術を実施した。病理組織診断は、Papillary adenocarcinoma、m、ly0、v0であり、癌周囲部では一部 adenoma病変であった。今回我々は造影超音波検査が有用であった胆嚢癌の一例を経験したので、若干の考察を加えて報告する。

ワーファリン内服中に胆道出血、急性閉塞性化膿性胆管炎および急性膵炎をきたした一例

1静岡県立総合病院 消化器科○森田 敏広 1、菊山 正隆 1、木村 勇人 1、重友 美紀 1、 吉田 将雄 1、上田  樹 1、丸野 貴久 1、白根 尚文 1、 黒上 貴史 1、鈴木 直之 1、吉川 俊之 1、松村 和宜 1

【症例】77歳女性。肺塞栓の既往にてワーファリン内服中であった。39度の発熱と呼吸苦を主訴に救急外来受診。血液検査にて、WBC、CRP、胆道・膵臓系酵素の上昇を認めた。PT-INRは10以上と異常高値であった。救急受診数日前より感冒症状のためフロモックスを内服されており、PT-INRの延長の原因と考えられた。腹部 CTでは胆管は全領域にわたって拡張し、内部に high densityな構造物が充満しており胆道炎が疑われた。緊急で実施した ERCPでは乳頭部は腫大し、開口部より血液流出を認めた。吸引では血性胆汁を認めた。ENBDチューブを留置し、ドレナージと全身管理によって炎症所見は消失した。細胞診は Class Iであった。【結語】本症例ではワーファリン内服により胆道出血が起こりそこに感染をきたした結果、急性閉塞性化膿性胆管炎および急性膵炎を併発したものと考えられた。ワーファリン内服のみで胆道出血をきたす例は少ないが、PT-INRが予想外に伸びている例の胆管炎では念頭に置くべき疾患と考えられた。

原因不明の肝障害で発症し、胆管癌との鑑別が困難であった良性胆管狭窄の一例

1名古屋記念病院 消化器内科○内田 元太 1、鈴木 重行 1、宮良 幸子 1、伊藤 亜夜 1、 中舘  功 1、近藤  啓 1、樋上 勝也 1、神谷  聡 1、 山内  学 1

症例は76歳、女性。糖尿病にて当院内分泌内科に通院中、自覚症状はなかったが、血液検査にて混合性の肝障害を認め、腹部単純 CT検査から閉塞性黄疸も疑われたため精査入院となった。腹部単純 CTとMRCPでは肝内胆管から中部胆管までの拡張を認め、下部胆管に狭小化を認めたが、明らかな総胆管結石や腫瘍は認めなかった。超音波内視鏡検査でも下部胆管や Vater乳頭に腫瘍は認めなかった。内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)でも下部胆管狭窄を認め、内視鏡的逆行性胆道ドレナージ(ERBD)チューブを留置したが肝障害の改善は認めなかった。肝炎ウイルスマーカー、抗核抗体、抗 LKM抗体、抗ミトコンドリア抗体はいずれも陰性であり、IgG4も正常範囲内であった。薬剤性肝障害も否定はできず、サルポグレラート、ボグリボース、ミチグリニドの内服を中止したが肝障害は改善せず、またサルポグレラートの薬剤リンパ球刺激試験も陰性であった。後日ハウエル生検鉗子にて胆管狭窄部の生検を施行したところ、胆管癌の疑いがあり、外科にて幽門輪温存膵頭十二指腸切除術施行となった。組織学的には fibrous stenosis and focal hyperplastic epithelium with atypiaと診断された。術中に肝生検も施行したが、特異的な所見は認めず、肝障害の原因については確定診断が得られなかった。今回、術前には胆管癌との鑑別が困難で、幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した良性胆管狭窄の一例を経験した。本症例に対して若干の文献的考察を加えて報告する。

総胆管結石を合併し診断に苦慮した原発性硬化性胆管炎の1例

1JA静岡厚生連 遠州病院 内科(消化器)○吉岡 邦晃 1、白井 直人 1、杉山 智洋 1、高垣 航輔 1、 竹内 靖雄 1、梶村 昌良 1

症例は30歳男性、4年前から胆管炎を繰り返し他院で保存的治療を行っていた。半年前に総胆管結石性胆管炎を他院で治療、内視鏡的十二指腸乳頭切開術及び結石摘出術を行った。胆嚢結石あり、胆嚢摘出術をすすめられたが患者が拒否した。今回、腹痛と嘔吐を主訴に来院、腹部エコー・CTで総胆管結石と上流の胆管拡張や胆嚢腫大を認め、採血で肝胆道系及び膵酵素・炎症反応上昇あり、当初は通常の総胆管結石性胆管炎・急性膵炎と考え入院治療を開始した。しかし入院後の ERCP時、砕石後バルーンカテーテルによる造影で下部総胆管に長い狭窄があり、易出血性も認めたことから特殊な胆管炎を疑った。MRCPで下部総胆管以外にも肝内胆管に枯れ枝状の複数の狭窄を認め、原発性硬化性胆管炎と診断した。自己抗体検査や肝生検で IgG4関連胆管炎や自己免疫性肝炎は否定された。消化管スクリーニングで潰瘍性大腸炎が合併していた。過去にさかのぼり、10年前から腸炎症状がありその頃から潰瘍性大腸炎は発症していたものと推測された。総胆管結石合併原発性硬化性胆管炎は報告が少なく、診断に苦慮した経緯を含め報告した。

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化学療法が奏功した胆嚢小細胞癌の1例1愛知県がんセンター中央病院 消化器内科、2愛知県がんセンター中央病院 内視鏡部○長谷川俊之 1、水野 伸匡 1、原  和生 1、肘岡  範 1、 今岡  大 1、長塩 美邦 1、小倉  健 1、羽場  真 1、 大林 友彦 1、品川 秋秀 1、丹羽 康正 2、田近 正洋 2、 近藤 真也 2、田中  努 2、山雄 健次 1

胆嚢小細胞癌の発生頻度は稀で、通常の腺癌よりもさらに予後不良な組織型であるといわれている。胆嚢小細胞癌に対する確立された化学療法は無く、胆嚢癌に保険適応されている gemcitabineおよび S-1で治療される場合もある。今回、小細胞肺癌に準じた化学療法が奏功し腫瘍縮小効果を認めた胆嚢小細胞癌の1例を経験したので報告する。症例は50歳代の女性。2010年10月頃から心窩部痛が出現し、同年11月に近医を受診した。腹部 CTで胆嚢体底部に肝実質へ浸潤伴う腫瘤を認め、胆嚢原発悪性腫瘍が疑われ当科紹介となった。身体所見上では右肋弓下に腫瘤を4横指触知し、血液検査では肝胆道系酵素の上昇を認め、腫瘍マーカーは CEA 1.0 ng/mL,CA19-9 11.6 ng/mL,NSE 478.4 ng/mL(基準値:≦12.0)であった。経皮的肝腫瘍生検にて、小型でクロマチンに富む腫瘍細胞の密な増生を認め,免疫染色ではSynaptophysin (+)、Chromogranin A (+) であり,未分化小細胞癌と診断し た。NCCN ガ イ ド ラ イ ン に 則 り、 小 細 胞 肺 癌 に 準 じ てCDDP+CPT-11による治療を予定していたが、入院後5日で急激な腹水の増量を認めたため,CBDCA+VP-16による化学療法を開始した。治療開始に伴い速やかに腹水は減少し、右肋弓下に触知していた腫瘤も触れなくなった。2コース施行後の CTでは、腫瘍径は明らかに縮小し、腹水も消失しており、血液所見では NSEが5.8 ng/mLへ低下した。有害事象は Grade4の好中球減少(1コース中)、Grade3(3コース中)の貧血を認めたが、投与量を減量して治療継続可能であった。現在までに5コースを施行し、部分奏功継続中である。

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閉塞性黄疸を伴う悪性十二指腸狭窄に対して十二指腸用ステントを用いた胆管・消化管Double stenting を行った2例

1西美濃厚生病院 内科○高田  淳 1、林  基志 1、岩下 雅秀 1、田上  真 1、 畠山 啓朗 1、林  隆夫 1、前田 晃男 1、西脇 伸二 1、 齋藤公志郎 1

Gastric outlet obstruction(GOO)に対する姑息的治療の一つとして,ステント留置がある.近年まで本邦では保険収載された胃十二指腸用ステントがなかったが,2010年,胃十二指腸用 Self-expandable metallic stent(SEMS)が発売された.今回われわれは2例の GOOを合併した閉塞性黄疸の患者に十二指腸用 SEMSと胆管ステントのDouble stentingを行い,良好な結果を得たので,報告する.症例1は85歳男性.食欲不振と黄疸にて当院受診.GIFにて十二指腸乳頭部癌と診断した.腫瘍による閉塞性黄疸と,十二指腸狭窄を伴っていた.癌の浸潤により,経乳頭的処置が不可能であったため,PTCD施行し,減黄.高齢と認知症のため,手術適応ないと判断されたため,経皮的に胆管 covered SEMS留置を行った後,十二指腸 SEMSを留置した.十二指腸 SEMS留置後も胆汁流出は良好で,食事も全量摂取まで改善したため,退院・外来通院とした.症例2は82歳女性.老人保健施設入所中に黄疸が出現し,当科受診.CT,ERCPにて膵頭部癌による閉塞性黄疸と診断.胆管プラスチックステントを留置し,黄疸消失.療養病棟にて経過観察していたが,5ヶ月後より嘔吐が出現したため,GIF施行したところ,十二指腸下行脚で高度狭窄をきたしており,スコープ通過不能であった.そのため,十二指腸 SEMSを留置し,狭窄を解除したが,SEMSにより胆管プラスチックステントが圧排・屈曲してしまい,閉塞性黄疸の状態となった.GIFにて十二指腸SEMSの網目からプラスチックステントを内腔側に誘導・屈曲解除したところ,一時的に胆汁流出が確認されたが,その翌日には Labo.dataが増悪し,GIFにて胆汁流出が確認できなかったため,ERCPを施行した.乳頭は腫瘍の浸潤のため確認不可能で,SEMSの網目より,総胆管へカニュレーションし,プラスチックステントをもう1本総胆管に留置した.その後 Labo.data順調に改善し,食事摂取も改善した.十二指腸用 SEMSを用いた胆管・消化管 Double stentingは,十二指腸SEMS内からの内視鏡的胆管処置も可能であり,有用であった.

EPLBDによる胆道出血に対して動脈塞栓術を施行した一例1岐阜市民病院 消化器内科○奥野  充 1、向井  強 1、中島 賢憲 1、黒部 拓也 1、 入谷 壮一 1、堀部 陽平 1、鈴木 祐介 1、小木曽富生 1、 川出 尚史 1、林  秀樹 1、杉山 昭彦 1、西垣 洋一 1、 加藤 則廣 1、冨田 栄一 1

症例は80歳女性.2004年に総胆管結石,胆嚢結石に対して,内視鏡的採石術および腹腔鏡下胆嚢摘出術が施行された.2010年11月20日に心窩部痛を認めたため近医受診.MRCPにて総胆管結石を認めたため,11月22日当科紹介入院となった.同日 ERCPを施行したところ,総胆管拡張(最大径15mm)と最大径12mm総胆管結石を計7個認めた.複数個の結石であり,ESTの既往があったため,CRE balloon(max 18mm)を用いて EPLBD(Endoscopic Papillary Large Balloon Dilation)を施行した.速やかな採石が可能であったが,EPLBD直後より胆管内より出血を認め,徐々に出血量が増加した.採石用 balloon catheterおよび CRE balloonによる圧迫止血では止血困難であったため,Covered metallic stent(Fully-covered WallFLEX stent; 径10mm, 長さ8cm)を留置したところ,止血が確認できたため手技を終了した.しかし,帰室直後より吐血を認め,徐々に血圧が低下したため,血管造影を行った.後上膵十二指腸動脈より造影剤の漏出を認めたため Fiber coilにて動脈塞栓術を施行した.その後は経過良好であり,輸血も行わなかった.11月24日に ERCPを施行し,Covered metallic stentを抜去したところ,乳頭部直上の胆管粘膜に縦走裂傷が確認された.近年,径15mmまたは18mmの拡張用 balloonを用いた EPLBDは,巨大結石や複数結石症例で膵内胆管狭窄がない場合が良い適応であるとの報告が散見される.EPLBDは採石成功率が高く,処置時間の短縮・処置回数の減少が得られるほか,早期偶発症の発生率が低いという利点が挙げられ,処置に伴う出血については2~3.6%と報告されている.しかし,本症例のように下部胆管拡張を認めるが,乳頭部胆管には拡張を認めない場合に対して,径18mmの拡張用 balloonを使用することは胆管損傷や出血のリスクが高くなると考えられる.今回,胆管の過拡張が原因と思われる胆管損傷および出血をきたし,動脈塞栓術による止血を必要とした症例を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.

膵十二指腸動脈瘤破裂をきたした一症例1一宮市立市民病院 消化器内科、2一宮市立市民病院 放射線科、3名古屋大学医学部付属病院 放射線科○山口 純治 1、中條 千幸 1、山中 敏広 1、水谷 恵至 1、 金森 信一 1、井口 洋一 1、石黒 裕規 1、松浦倫三郎 1、 伊藤  隼 1、金倉 阿優 1、小澤  喬 1、梶川  豪 1、 村尾 豪之 2、鈴木耕次郎 3

【症例】62歳女性【現病歴】パーキンソン病、胆石症にて通院中であった。腹痛、嘔吐にて救急受診された。【現症】身長158cm、体重37.5kg、意識清明、血圧119/49 mmHg 脈拍112/分(整)体温38.2℃呼吸数25回 /分、黄疸はあり、腹部膨満で軟、腸雑音は正常。【入院時検査結果】T-bil8.2mg/dl AST 218U/L ALT 35U/L ALP1365U/L

WBC20600/μl Plt:27.1万 μl CRP17.17mg/dl【経過】急性閉塞性化膿性胆管炎の診断で緊急内視鏡的逆行性胆管ドレナージが施行された。検査時に十二指腸乳頭部近傍の瘻孔と考えられる部位より出血を認めた。腹部 CTでは胆嚢内に血腫及び胆管内に血性胆汁所見があり、動脈相で造影される動脈瘤が描出された。3D angiographyでは後上膵十二指腸動脈に動脈瘤が描出された。腹部血管造影検査を行ったところ、後上膵十二指腸動脈に仮性動脈瘤を認めた。マイクロコイルを用いて塞栓術を行い、止血に成功した。【考察】膵十二指腸動脈瘤は破裂後に診断されることが多く、出血部位は消化管、後腹膜、腹腔内がほとんどである。総胆管内に穿破した報告は少なく、極めて稀といえる症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

急性胆嚢炎に合併した仮性動脈瘤に対し動脈塞栓術が有効であった1例

1藤枝市立総合病院 消化器科、2浜松南病院○半谷  匠 1、丸山 保彦 1、景岡 正信 1、大畠 昭彦 1、 森  雅史 1、志村 輝幸 1、宇於崎宏城 1、渡辺 文利 2

【症例】50歳、男性【主訴】発熱、腹痛 【現病歴】2010年8月6日右後大脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血で当院脳外科入院。第4病日、同動脈瘤に対しコイル塞栓術施行。第6病日より熱発し、敗血症、DIC、血球貪食症候群、TTPなどを発症したため、それぞれに対する治療を行い改善傾向にあった。第54病日39.2℃の熱発を認め、これまでも感染源が不明であったため、再度スクリーニングとして腹部エコーを施行した。【臨床経過】検査施行時、sonographic Murphy’s signを認めた。エコーでは胆嚢腫大、壁肥厚等の急性胆嚢炎の所見が認められるとともに、胆嚢頚部付近に血流信号を伴う嚢胞状の構造物があり、仮性動脈瘤が疑われた。腹部造影 CTを施行し仮性動脈瘤と胆嚢内に出血を疑う所見が認められたため、に血管造影検査を施行した。右肝動脈に仮性動脈瘤を認め、動脈塞栓術を施行した。動脈塞栓術後も胆嚢炎が遷延したため、PTGBDを施行したところ血性胆汁がドレナージされた。造影 CT検査と合わせて再破裂が疑われたため、血管造影検査を施行した。前回塞栓術を施行した仮性動脈瘤が再び描出されたため、再度動脈塞栓術を施行した。その後再出血はなく胆嚢炎も改善し、第135病日退院となった。【考察】胆嚢炎、全身感染症に仮性動脈瘤を合併した症例を経験した。仮性動脈瘤は破裂のリスク、死亡率ともに高く、迅速な対応が要求される。治療法として動脈塞栓術、胆摘が考えられるが、本症例は手術を行うには全身状態が悪かったため、動脈塞栓術を選択した。動脈塞栓術は全身状態が不良な例にも施行でき、仮性動脈瘤の治療に特に有用であると考えられた。

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PPI 投与にて内視鏡的に変化を示したBarrett 腺癌の1例1豊橋医療センター 消化器科、2豊橋医療センター 外科、3豊橋市民病院 消化器内科○高田 都佳 1、松下 正伸 1、浅田 崇洋 2、武藤 俊博 2、 野村 尚弘 2、岡本喜一郎 2、山下 克也 2、佐藤  健 2、 市原  透 2、岡村 正造 3

〔症例〕63歳男性〔現病歴〕2010年6月1ヶ月間持続する心窩部痛、食道つかえ感にて当院受診。〔臨床経過〕上部内視鏡検査(GIS)にて、門歯より22cmの胸部中部に食道胃接合部を認め、28~32cmの部位に1/2周を占める辺縁不正な陥凹性病変、噴門部は、36cmの位置に存在し、全長約15cmの Long segment Barrett’s esophagus(LSBE)を認めた。陥凹部からの生検で病理医も low grade dysplasiaなのか腺癌なのか断定できず、要再検となった。周囲の粘膜組織は、Barrett食道であった。胸部 CTでは、下部食道に不正な壁肥厚あり。ラベプラゾールナトリウム20mg/日を1ヶ月間投与し自覚症状が改善。この時の GISでは、食道中部の中心部陥凹が初回に比し縮小かつ平低化していた。潰瘍は縮小傾向を示した。生検で Barrett食道に合併した高分化型腺癌と診断されたため、9月15日食道亜全摘+3領域郭清(胃管胸骨後再建)を行った。病理結果は、well differentiated adenocarcinoma arising in Barrett esophagus、T3(AD)、ly2、v2、INFb、stage2であった。〔結語〕今回、PPI投与により胃癌の malignant cycle時にみられるような潰瘍の縮小を認めた Barrett腺癌の1例を経験した。

口腔内癌に重複した表在型食道癌の1例1半田市立半田病院 消化器内科○広崎 拓也 1、神岡 諭郎 1、森井 正哉 1、島田礼一郎 1、 岩下 紘一 1、安藤 通崇 1、川口  彩 1、光本 一樹 1、 石田 陽祐 1、大塚 泰郎 1、肥田野 等 1

症例は60歳台男性。平成22年某月当院耳鼻咽喉科にて口腔内癌を指摘された。重複癌精査目的にて当科紹介となった。上部消化管内視鏡検査にて胸部中部食道に3/4周性の0-IIc型の表在型食道癌を認めた。ヨード染色にて不染帯を呈し、NBI拡大観察では病変の大部分はIPCLパターン分類の typeV-1で、一部に IPCL高度破壊(V-3)を認めた。EUSでは深達度はM3までと診断した。口腔内癌の治療が優先されると判断し、耳鼻咽喉科にて口腔内癌 cT2N0M0の手術を施行した。術後に左頚部リンパ節腫脹を認め生検したところ、扁平上皮癌を認めた。追加郭清した結果、中内深頚リンパ節に転移が陽性であった。同リンパ節は、胸部中部食道癌が責任病変であれば内視鏡的粘膜下層剥離術(以下 ESD)の適応はないが、口腔内癌からの転移と考え、食道の病変は ESDの相対適応であると判断し ESDを施行した。3/4周性のやや広範な病変であり、境界直近にマーキングおこない一括切除した。デバイスは flush knife BT 1.5mmを使用した。一部筋層が露出し、穿孔して縦隔炎を合併したが、抗生剤投与にて保存的に軽快した。術後7日目に食事開始し術後15日目に退院した。切除病変の大きさは46×34/48×36mmで、病理組織学的所見は pT1a-LPM, INFb, ly0, v0, pHM0, pVMXであった。現在経過観察中であり、再発所見を認めていない。また術後狭窄を来したが、通過障害はなく、拡張術は行っていない。今回、我々はリンパ節転移の評価と周在性の問題から治療選択に苦慮したが、ESDにより切除しえた表在型食道癌の1例を経験した。

食道小細胞癌の1例1名古屋掖済会 消化器科○佐橋  学 1、北洞 洋樹 1、西川 貴広 1、竹内眞理子 1、 泉  千明 1、岩田 浩史 1、大橋  暁 1、神部 隆吉 1

【症例】69歳男性【既往歴】特記事項なし。嗜好にアルコール毎日摂取あり、喫煙は不明。【現病歴】平成21年8月から食欲不振あり、12月ごろから心窩部痛のため、鎮痛剤を毎日内服していた。平成22年1月5日に完全に食事が通らず、当科受診された。また、平成21年8月より、5ヶ月間に11kgの体重減少を認めた。【検査所見】血液検査では腫瘍マーカーとして、CEA 72.3 mg/mlと上昇を認めたが、CA19-9・SCCは陰性であった。上部内視鏡検査にて門歯より28~40cmの部位に2型腫瘍と食物残渣の貯留を認め、CTにて胸部中部食道を主体に上部食道、下部食道に及ぶ腫瘤あり、胸部気管リンパ節、噴門リンパ節の著明な腫大と肝臓 S8に転移を認めた。腹部超音波検査にても、リンパ節転移、肝転移の所見を認めた。上部消化管透視にて胸部中部食道に2型の長径12cmの腫瘍を認め、胃体上部小弯から体中部後壁に圧排所見を認めた。【病理所見】CD56陽性、ケラチン弱陽性、CD3陰性、CD20陰性より小細胞癌と考えられた。食道小細胞癌、T4N3M1、StageIVbと診断された。【治療経過】1月18日より Cisplatin 60mg/m2 (100mg/body) + Irinotecan 60mg/m2 (90mg/body) を3週投与1週休薬で1クールとして化学療法を開始した。その後、好中球減少や腎機能障害を起こしたため、Cisplatin+ Irinotecanによる化学療法を6クールで終了し、7月よりレジメンを Carboplatin AUC5 (325mg/body)+ Irinotecan 50mg/m2 (80mg/body) を3週投与1週休薬に変更した。その後も、腎機能障害と好中球減少があったことより、用量調節しながら平成23年2月まで8クールまで化学療法を継続した。3月に右頚部リンパ節と肝臓に新規の転移巣が認められたため、化学療法を終了し、疼痛緩和・姑息照射目的にて放射線治療と緩和治療を施行していたが、初診から1年3ヶ月経過した平成23年5月1日に死亡された。【まとめ】食道小細胞癌は稀な疾患で早期から脈管浸潤をきたすために予後不良であり、初診からの平均生存期間が5ヶ月、1年生存率が10%と報告されている。今回化学療法を施行した食道小細胞癌の1例を経験したので報告する。

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低用量アスピリン内服患者における逆流性食道炎発症の 検討

1朝日大学歯学部附属村上記念病院 消化器内科○宮脇喜一郎 1、加藤 隆弘 1、遠藤 美生 1、高野 幸彦 1、 伴  尚美 1、福田 信宏 1、大洞 昭博 1、小島 孝雄 1

【背景と目的】低用量アスピリン(以下 LDA)による胃・小腸粘膜障害に関しては多くの報告がなされているが、食道粘膜への影響に関して検討した研究は少ない。今回 LDA内服患者の逆流性食道炎との関連について retrospectiveに検討した。【対象と方法】2009年2月から2010年6月までに当院にて上部消化管内視鏡検査を施行した患者のうち、LDA内服患者131人(男:73人、女:58人、平均年齢73.9歳)と性・年齢をマッチさせた LDA非内服患者132人(男:68人、女:64人、平均年齢72.6歳)を対象として逆流性食道炎の有無につき比較検討した。逆流性食道炎所見はロサンゼルス分類に準じて診断した。また、胃酸分泌抑制剤(プロトンポンプ阻害剤(以下 PPI)、H2受容体拮抗剤(以下 H2RA))、胃粘膜保護剤、循環器用薬(ワーファリン、β拮抗剤、Ca拮抗剤、硝酸剤)、食道裂孔ヘルニアの有無、胃十二指腸潰瘍の有無との関係も検討した。【結果】LDA内服患者ではLA-M:A:B以上 は各々20%:9%:2%であり、対象13%:3%:2%と比較して優位に高かった(p<0.05)。併用の胃酸分泌抑制剤での検討では LA-M以上の粘膜障害を認めた患者の割合は、LDA服用者では PPI:H2RA:投薬なしが22%:36%:57%であり、対象の13%, 27%, 28%より優位に高かった(p<0.05)。LDA服用者のうち LA-M以上の逆流性食道炎症例の63%が食道裂孔ヘルニアの合併を認めた。各種循環器用薬、胃粘膜保護剤、胃十二指腸潰瘍病変の有無に関しては関連性を認めなかった。【結論】LDAは逆流性食道炎のリスク因子と考えられ、特に食道裂孔ヘルニアを有する症例でリスクの増加が示唆された。また、PPI投与は LDA内服による逆流性食道炎の発症を抑制していると考えられた。

EUS-FNA後に感染し食道に穿破した気管支原生嚢胞の一例1岐阜大学 医学部付属病院 第一内科○上村 真也 1、安田 一朗 1、山内 貴裕 1、河口 順二 1、 土井 晋平 1、高井 光治 1、戸田 勝久 1、白鳥 義宗 1、 永木 正仁 1、森脇 久隆 1

症例は37歳女性。1年前に胃癌のため腹腔鏡補助下胃全摘術の既往あり。経過観察のために受けた胸部 CTにて上縦隔に1mm大の腫瘤を指摘されたため、EUS-FNAによる病理学的診断目的にて当科紹介となった。EUSでは左総頸動脈に接して25×13mm大の境界明瞭な二房性腫瘤を認め、内部は強い低エコーを呈していた。嚢胞性病変も疑われたが無エコーではなく、転移性リンパ節の可能性もあると判断し19G針にて吸引生検を施行した。得られた検体は白色透明ゼリー状であり、この段階で気管支原生嚢胞と考え、穿刺は1回のみで終了とした。感染予防目的で LVFX50mgを3日間処方し検査後帰宅としたが、5日後より嚥下時の違和感を自覚するようになり、翌6日目には発熱、前胸部痛も出現したため当科を受診。血液検査にて白血球11,900/μl、CRP21.9mg/dlと高度な炎症所見を認め、胸部 CTでは嚢胞が4mmに増大しており、気管・食道・左総頸動脈・左鎖骨下動脈を圧排していた。また、嚢胞壁の肥厚、嚢胞周囲の density上昇もみられ、FNA後の嚢胞感染と診断し入院となった。その後、MEPM 1.5g/day点滴投与にて2日後には解熱し、5日目には自覚症状も改善、血液検査所見上も炎症所見の改善をみとめた。7日目に胸部 CTを再検したところ、嚢胞は2mm大に縮小していたが内部は air densityであり、食道への穿破を疑い上部消化管内視鏡検査を行ったところ、食道に嚢胞内へのろう孔を認めた。CT所見上、食道および嚢胞壁から縦隔内への穿孔はなく、食事摂取も問題なくできたため、10日後に退院となった。EUS-FNA後の嚢胞感染は文献的にも1%程度の頻度で報告されているが、感染により食道へ穿破した気管支原性嚢胞の報告はなく、極めて興味深い経過を辿った症例と思われた。

進行食道癌・早期胃癌の重複癌症例において、食道癌に対してS-1/CDDP/放射線治療を施行しCRを得、胃癌に対して内視鏡下胃粘膜下層薄利術(SED)を施行し、治癒切除を得た一例

1国立病院機構 名古屋医療センター 消化器科、2名古屋大学大学院 消化器内科学○日比野祐介 1、岩瀬 弘明 1、島田 昌明 1、都築 智之 1、 龍華 庸光 1、齋藤 雅之 1、玉置  大 1、横井 美咲 1、 神谷 麻子 1、喜田 裕一 1、久野 剛史 1、後藤 秀実 2

【目的】今回われわれは進行食道癌、早期胃癌の重複癌症例において、進行食道癌に対して S-1/CDDP/放射線治療を施行し、その後早期胃癌に対して内視鏡下胃粘膜下層剥離術(ESD)を施行し、治療し得た1例を経験したので報告する。【方法】症例は54歳男性。平成22年夏頃より嚥下時のつかえ感を自覚し、近医を受診した。内視鏡検査にて進行食道癌、早期胃癌を指摘され、治療目的に当院に受診となった。食道癌は下部食道に半周性の type2病変を認め、T2 (MP), N0, M0と診断した。胃癌は胃体下部小彎前壁に存在する φ20mm大の0-2a+2c病変であり、進達度は SMと診断した。予後決定因子は食道癌であると判断し、同年9月27日より S-1/CDDP/放射線治療を開始した。2コース目は骨髄抑制が強く、S-1を減量とし、放射線治療を施行した。平成23年1月19日、3コース目の治療時点において骨髄抑制が遷延し、S-1/CDDP投与容量を減らして施行した。この時点で食道癌原発巣は瘢痕化し、CTにて転移巣を認めず、生検にて陰性を確認し、CRと判断した。胃癌は化学療法により縮小し、φ18mm大の0-2a (SM1) と判断し、平成23年3月23日に ESDを施行した。結果、tub1、VM (-)、HM (-)、進達度 SM1で、治癒切除と判断した。現在は外来にて経過観察中である。【結論】進行食道癌に対しては放射線化学療法を用いることにより、CRとなり、胃癌に対しては化学療法にて腫瘍縮小効果を得ることができ、結果 ESDを施行・治癒切除を得ることが可能となった症例を経験した。重複癌の多い食道癌に対しては、治療前に慎重な検索が必要であり、治療は手術だけではなく、S-1/CDDP/放射線治療・内視鏡治療などを組み合わせた治療も有効であると考えられた。

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食道②

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診断に難渋し臨床的に家族性地中海熱が疑われた1例1名古屋大学大学院 医学系研究科 消化器内科学、2名古屋大学医学部附属病院 光学医療診療部○日比 知志 1、安藤 貴文 1、石黒 和博 1、前田  修 1、 渡辺  修 1、神谷  徹 1、三村 俊哉 1、氏原 正樹 1、 平山  裕 1、森瀬 和宏 1、宮原 良二 2、大宮 直木 1、 後藤 秀実 1,2

【症例】39歳男性【既往歴・家族歴】特記事項なし【現病歴】2001年から半年毎に腹痛が出現し、2004年から腹痛が年に3-4回出現するようになった。2005年11月に腹痛と39℃の発熱のため近医に入院、その際の血液検査で白血球と CRPの著明な上昇と腹部 CT検査で小腸の壁肥厚が疑われた。絶食と抗生剤の投与により1週間ほどで症状は改善し退院となった。2005年12月に再び腹痛・発熱があり、近医に再入院したが原因は不明であった。翌2006年5月に精査のため当院紹介受診となり、6月に経肛門的ダブルバルーン小腸内視鏡検査を施行すると、回腸にびらん及び粗ゾウな粘膜を認めた。同2006年8月に再び発熱と左側腹部痛が出現し、40℃の発熱を伴うようになり当院入院となった。血液検査にてWBC 16300×103 /μl、CRP 16.8 mg/dlと著明な上昇を認め、腹部 CT検査にて空腸の壁肥厚と周囲の LN腫大を認めた。経口的ダブルバルーン小腸内視鏡検査では空腸に粘膜浮腫、潰瘍瘢痕、地図状の浅い潰瘍など多彩な病変が認められた。病状経過は補液と抗生剤投与にて軽快し退院となった。周期的に繰り返される腹痛・発熱のため家族性地中海熱(FMF)も疑われたため、遺伝子検査を S大学に依頼したところ、結果はMEFV遺伝子の exon2の E148ヘテロ複合体のみ検出され、この変異だけでは遺伝学的に FMFの確定診断はできないが、遺伝子検査だけで完全に FMFを否定することはできないという回答であった。以後も引き続き腹痛が出現したためにコルヒチン1mg/日の投与を開始したところ、腹痛の完全な消失にはいたらなかったが、腹痛の出現頻度の減少と、痛みの改善が認められるようになった。

古典的 PNに空腸穿孔を合併した一例1稲沢市民病院 内科○安住  基 1、栗木 潤介 1、河辺 智久 1、坂田 豊博 1、 神田 信之 1

症例は70歳代女性、2008年8月に発熱と全身筋肉痛が出現し10月に近医受診した。RAと診断されプレドニン30mg/日内服開始した。症状軽快し10mg/日に漸減された。12月下旬より食欲不振と全身倦怠感あり近医受診し、精査加療目的で2009年1月6日に当院内科紹介され入院した。1月16日に左背部痛が出現し、CTにて腹腔内に free airと少量の腹水を認めたため外科へ転科、即日手術となった。トライツ靭帯から肛門側35cmの空腸に8×6mmの穿孔あり、空腸部分切除術が施行された。穿孔部位の周囲には帯状の粘膜欠損が認められた。術後に心不全、呼吸不全合併し2月12日死亡された。膠原病に腸管障害を合併する症例が少なからず存在する。当症例では RAと診断されプレドニンを内服していたが、発熱と筋肉痛は消失したものの空腸の穿孔を合併した。剖検では心筋梗塞、間質性肺炎、腎巣状糸球体硬化症を合併しており、穿孔部周囲の小腸に全周性の虚血性変化を認めた。臨床経過と病理所見より結節性多発動脈炎と診断した。本症例においては穿孔部周囲に幅一横指ほどの輪状の虚血性変化(潰瘍)が特徴的であった。

集学的治療により軽快し得た子宮頚癌放射線照射後の小腸大腸障害の1例

1藤田保健衛生大学病院 消化管内科○生野 浩和 1、藤田 浩史 1、中川 義仁 1、大森 崇史 1、 加藤 祐子 1、城代 康貴 1、市川裕一朗 1、釜谷 明美 1、 米村  穣 1、大久保正明 1、小村 成臣 1、吉岡 大介 1、 丸山 尚子 1、鎌野 俊彰 1、石塚 隆充 1、長坂 光夫 1、 柴田 知行 1、平田 一郎 1

【症例】68歳女性。【既往歴】子宮頚癌、2009年9月~11月に化学療法併用放射線治療(CCRT)を施行し完全寛解(CR)。【家族歴】母が胃癌。【現病歴】2010年9月に貧血と便潜血反応陽性にて当科紹介受診。上部消化管内視鏡検査では貧血の原因を認めず、下部消化管内視鏡検査で小腸からの出血と、S状結腸と直腸に毛細血管拡張を認め、小腸カプセル内視鏡検査で回腸にびらんを認め、CCRT後の腸管合併症と診断した。外来で適宜輸血を行いながら精査を進めるも11月24日にHb 4.5g/dlと高度貧血を認めたため当院産婦人科に入院。11月29日に消化管出血精査加療目的に当科転科となった。【当科入院時所見】身長159cm、体重40.6kg、血圧111/67mmHg、脈拍66/min(整)、体温36.1℃。眼瞼結膜に貧血あり。腹部は平坦、軟、圧痛なし。性器出血なし。下腿浮腫なし。RBC 284万 /μl、Hb 8.8g/dl、Hct 28.5%、総蛋白 4.6g/dl、Alb 2.4g/dl。【経過】下部消化管内視鏡検査で回腸末端、盲腸、横行結腸、S状結腸、直腸に多発血管拡張を認め、2011年1月19日までに APCにて計4回の内視鏡的止血術を施行した。しかし内視鏡先進部の口側回腸より鮮血流入を認め、これ以上の内視鏡加療は困難であり、貧血の改善も認めないことから、2月15日に病変部口側回腸での双孔式人工肛門造設術を施行した。人工肛門造設後は消化管出血や貧血進行を認めなかった。人工肛門からの排液が1日3000ml以上持続したため、経口摂取とともに補液による脱水補正を継続。今後在宅での補液継続のため IVH portも挿入した。人工肛門排液量の減量目的にコデインリン酸塩散1%を内服開始したところ、排液量は減少し、脱水の改善や体重増加を得られた。【結語】集学的治療により軽快し得た放射線性腸炎の1例を経験したので報告した。

虚血性小腸炎の1例1三重大学医学部附属病院 消化器・肝臓内科、2三重大学医学部附属病院 光学医療診療部○田野 俊介 1、田野 俊介 1、葛原 正樹 2、二宮 克仁 1、 高山 玲子 1、井上 宏之 1、濱田 康彦 2、田中 匡介 2、 堀木 紀行 2、竹井 謙之 1

77歳の女性。既往歴に高血圧、糖尿病あり。主訴は腹痛であった。現病歴は H22年11月に腹痛にて近医に入院した。このとき CTにて上腸間膜動脈根部の閉塞、腹腔動脈根部の狭窄を認めたが、末梢の血流は保たれており、絶食輸液のみで軽快した。しかし、その後、再び腹痛、体重減少を認めたため H23年1月に前医にて CTを再検されたところ、前回には認めなかった小腸壁の肥厚を認めた。同年2月に小腸悪性リンパ腫疑いにて当院紹介となった。外来にて上下部消化管内視鏡を施行したが、明らかな異常を認めなかった。カプセル内視鏡を施行したが、十二指腸憩室に滞留し、小腸の観察は行えなかった。さらなる精査加療のため同年3月に当院入院となった。入院後に施行したCTでも小腸壁の肥厚を認め、その口側の腸管は拡張、液貯留を認め、閉塞性イレウスの所見であった。小腸病変の精査のため経肛門ダブルバルーン小腸内視鏡を施行した。回腸に一部潰瘍を伴う全周性の狭窄があり、スコープの通過は不可能であった。ガストログラフィンによる造影ではなめらかな狭窄を約5cmにわたって認めた。狭窄部の生検では悪性所見は認めなかった。背景に高度の動脈硬化があり、虚血性小腸炎が疑われた。狭窄は高度であり、狭窄長からバルーン拡張は不可と思われ、カプセル内視鏡の滞留も認めていたことから手術加療目的にて当院消化管外科に転科、腹腔鏡下小腸部分切除術が施行された。回腸末端から200cm口側に小腸と横行結腸、大網に癒着しており、癒着部位に狭窄を認めた。狭窄部前後の腸管を15cm切除し、端々吻合が施行された。術後経過は良好で退院となった。切除標本は腸管壁の肥厚と狭窄を認めた。組織学的には潰瘍形成を認め、潰瘍底には慢性炎症細胞浸潤を認めた。約3cmの長さにわたって粘膜下層から漿膜下層までの強い線維化を伴う壁肥厚を認めた。漿膜下層では動脈内膜の線維性肥厚と器質化血栓を認め虚血性小腸炎の慢性狭窄像として矛盾しないものであった。

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小腸①

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当院における肺癌小腸転移症例の検討1市立四日市病院 外科○筒山 将之 1、鹿野 敏雄 1、木下 敬史 1、倉田 信彦 1、 梅田 晋一 1、徳永 晴策 1、鎗田 哲暢 1、柴田 雅央 1、 服部 圭祐 1、蜂須賀丈博 1、森  敏宏 1、篠原 雅彦 1、 宮内 正之 1

【緒言】肺癌の小腸転移は比較的稀であり、さらに小腸転移病変が消化管穿孔をきたすことは極めて稀といわれている。一方で小腸腫瘍においては転移性腫瘍が多いと報告されている。今回我々は当院で肺癌小腸転移をきたし、開腹手術を施行した5症例を検討したので文献的考察を加えて報告する。【対象】当院で2005年から2010年までに肺癌小腸転移により開腹手術例を施行した5症例。【結果】性別はいずれも男性、平均年齢65.8歳(53歳~79歳)で、4例は穿孔性腹膜炎を発症した症例、1例は腸閉塞症状をきたした症例であった。肺癌で化学療法中であったのは1例、肺癌と診断され化学療法なく経過観察中であったのは2例、術前肺癌と診断されておらず、術後諸検査により肺癌小腸転移と診断された症例が1例であった。開腹時所見として、転移部位は十二指腸が1例・空腸が3例・胃転移を含む多発小腸転移が1例で、術式は小腸切除・1期的吻合が行われたものが4例、バイパス術が1例であった。いずれの症例も病理組織学的に肺癌小腸転移と診断され、その組織型は未分化癌1例、腺癌4例であった。主な術後合併症としては肺炎、創感染を認めた。術後生存期間は平均37.4日(0日~102日)で、全症例4カ月以内に死亡した。原病死といえるものは2例で、その他の死因としては重症感染症による播種性血管内凝固・多臓器不全が1例、術後合併症による死亡が2例であった。【考察】肺癌の小腸転移は肺癌終末期像の1つであり、諸家の報告と同様に自験例でも手術後の予後は極めて不良であった。その為、手術適応に関しては各科と検討し、患者・家族の意向を尊重したうえで決定するべきである。しかしながら外科的な介入によって QOLを改善しえた症例もあり、また緊急手術前に小腸病変の質的診断はその多くが不可能であることから、積極的に手術を考慮しなければいけない症例もあると思われる。

ダブルバルン小腸内視鏡により術前診断し単孔式腹腔鏡補助下手術を施行した回腸海綿状血管腫の1例

1名古屋大学 大学院 消化器外科学、2名古屋大学 大学院 消化器内科学○金  正修 1、中山 吾郎 1、大宮 直木 2、小林 大介 1、 寺本  仁 1、大橋 紀文 1、小池 聖彦 1、藤原 道隆 1、 小寺 泰弘 1、後藤 秀実 2

ダブルバルン小腸内視鏡(DBE)にて術前に診断し,単孔式腹腔鏡(SILS)補助下回腸部分切除術を施行した回腸海綿状血管腫の1例を経験したので報告する.症例は39歳,女性.主訴は下血.大腸内視鏡検査にて異常所見はなく,小腸疾患の疑いで DBEが施行された.Bauhin弁より口側約60cmに出血源と考えられる海綿状血管腫を認め,SILS補助下に回腸部分切除術を施行した.小腸出血の診断はこれまで解剖学的特徴から困難であり,血管造影や出血シンチなどが行われてきたが,ある程度の持続的出血がなければその診断は困難であった.本症例は術前に DBEにより出血原因・部位を同定のうえ,SILS補助下により約3cmの創での低侵襲手術を施行し得た.今後,原因不明の消化管出血において DBEと SILSの組み合わせが有用である可能性が示唆された.

活動性出血をきたしMDCTが診断に有用であった空腸GIST の1例

1国家公務員共済組合連合会 東海病院 内科○戸田 崇之 1、加藤  亨 1、三宅 忍幸 1、北村 雅一 1、 丸田 真也 1

【はじめに】腫瘍径が2cmながら活動性出血をきたした空腸 GISTの1例を経験したので報告する。【症例】59歳女性、既往歴として右肺結核手術、子宮筋腫手術、アルコール性肝障害があった。2週間前にふらつきがあり、近医を受診し、Hb 7.4g/dlと貧血を認めた。またタール便も出現したため当院紹介となった。来院時、血圧102/50 mmHg、脈拍 60/分、検査所見では赤血球 141万 /μl、Hb 4.5 g/dl 。上下部消化管内視鏡検査では明らかな出血源は認めなかった。また、上部内視鏡からのガストロ小腸造影でも異常を指摘できなかった。MDCTにて空腸に動脈相で濃染する2cm大の腫瘤を認め、小腸腫瘍または血管性病変と診断した。入院後も断続的に下血があり総輸血量16単位となったため第6病日に準緊急手術を施行した。術中所見では、Treitz靭帯より約30cmの空腸に径2cm大の弾性軟、白色の腫瘍を認め、空腸部分切除術を行った。腫瘍径 20x15mm、粘膜面には深い潰瘍があり露出血管を認めた。病理検査では紡錘型細胞の増殖が見られるも、分裂像はほとんど認められずGIST, low gradeと診断した。術後経過は良好で術後16日目に退院となった。【考察】消化管出血のうち小腸出血の占める割合は3~6%とされる。小腸出血の診断方法にはカプセル内視鏡(CE)、バルーン内視鏡(BE)、MDCT、腹部血管造影、出血シンチグラフィ、小腸 X線造影などがある(CE、BE、出血シンチは当院では施行できない)。CEとBEの登場により小腸出血の診断能は飛躍的に向上したが、活動性出血の緊急例ではMDCT、血管造影、出血シンチが有効である。また、小腸 GISTにおける消化管出血の頻度は29~62%と報告されており、本例のように比較的小さい腫瘍でも出血を来たすことがある。腹部造影 CTは小腸 GIST症例の95%に実施され、その82%で腫瘍が同定された、との報告もある。低侵襲で多くの施設で実施可能であるMDCTは小腸出血や GISTの診断に有用である。

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小腸②

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クローン病小腸狭窄に対するダブルバルーン内視鏡(DBE)による内視鏡下バルーン拡張術(EBD)の有効性

1名古屋大学大学院 医学系研究科 消化器内科学、2名古屋大学医学部附属病院 光学医療診療部○山田 弘志 1、大宮 直木 1、小原  圭 1、竹中 宏之 1、 石原  誠 1、名倉明日香 1、水谷 太郎 1、山村 健史 1、 坂野 閣紀 1、古川 和宏 1、立松 英純 1、山本富美子 1、 大野栄三郎 2、宮原 良二 2、川嶋 啓揮 1、伊藤 彰浩 1、 廣岡 芳樹 2、後藤 秀実 1,2

【目的】従来、クローン病の深部小腸狭窄の治療法は手術が主であったが、DBE下 EBDにより手術回避も可能となった。今回、DBE下EBDの有効性について検討した。【対象と方法】2003年6月~2011年3月に当院で DBEを施行した小腸クローン病81例中、EBDを実施した25例(男女比:5/20、平均年齢:37.9歳±9.9、罹病期間:7.4年±5.0年、小腸型/小腸大腸型:21/4、拡張病変数 /回:2.0病変±1.2病変、DBE検査数(EBD)/症例:2.0回±1.1回)。当院における EBDの適応は1.狭窄症状を有している、2.瘻孔を合併していない、3.活動性潰瘍を合併していない、4.内視鏡が狭窄を通過しない、5.狭窄長 5cm以下、の条件をすべて満たしているものとした。また拡張後にscope先端が狭窄部を通過することを EBDの成功と定義としている。【結果】EBD後の経過は中央値1455日の観察期間において、累積非症状再燃率すなわち初回 EBDのみで経過良好なのが25例中5例の25%、つまり25例中20例の80%で再燃、追加治療が必要であった。繰り返し EBDをすることによりその20例中10例(50%)で手術を回避することができ、累積非手術率は25例中15例で60%となっている。【結論】クローン病の小腸狭窄に対する DBE下 EBDは有効な治療法と考えられた。特に残存小腸が短い場合や手術拒否例に勧められる治療法である。また EBDは手術を回避する手段としても有用であった。しかし、再狭窄が問題であり繰り返し EBDを実施しなければならない場合が多い。

当院におけるカプセル内視鏡検査によるNSAIDs 起因性小腸粘膜障害の検討

1藤田保健衛生大学坂文種報徳會病医院 内科○鳥井 淑敬 1、芳野 純治 1、乾  和郎 1、若林 貴夫 1、 三好 広尚 1、小林  隆 1、服部 信幸 1、小坂 俊仁 1、 友松雄一郎 1、山本 智支 1、松浦 弘尚 1、成田 賢生 1、 森  智子 1

【目的】小腸疾患に対する診断として,カプセル内視鏡検査(CE)が開発され普及している.また,非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の内服で多彩な小腸粘膜障害が生じることが示唆されている.今回,我々は小腸疾患が疑われ CEを実施した症例について,小腸におけるNSAIDs起因性粘膜障害を検討した.【方法】対象は,2009年4月から2011年3月までに小腸疾患を疑い CEを実施した症例の中で,NSAIDsを内服している10例,NSAIDs・抗凝固薬等の薬剤を内服していない10例(コントロール群)の小腸粘膜障害の種類と分布を検討した.平均年齢及び性差は,NSAIDs内服群で75.8歳(62-84歳 ),男女比=3:7.コントロール群では65.1歳(42-87歳 ) 男女比=3:2であった.【成績】有所見率は NSAIDs内服群では8/10例(80%),コントロール群3/10例(30%)であった.CEの有所見例について単変量解析を行ったところ,NSADs内服群はコントロール群に比して有意に有所見例が多かった(P<0.05).NSAIDs内服群における有所見例の中で,粘膜発赤が3例、多発びらんが2例、潰瘍・瘢痕3例と多彩な病変が認められた.NSAIDs群における有所見例の中で4/8例(50%)で病変は下部小腸に認められた.一方,コントロール群では粘膜発赤1例、多発びらん1例、潰瘍瘢痕1例が認められた.コントロール群においては、病変部位に一定の傾向は認められなかった.【結語】NSAIDs群はコントロール群に比して CEの有所見率が有意に多く,NSAIDsによる小腸粘膜障害の可能性が示唆された.若干の文献的考察を含め報告する.

当院におけるカプセル内視鏡(CE)の使用成績1公立学校共済組合 東海中央病院 消化器内視鏡センター○清野 隆史 1、大塚 裕之 1、森島 大雅 1、石川 英樹 1

【目的】当院で CEを導入してから3年が経過し、その使用成績を検討した。【対象と方法】2008年4月から2011年3月までに当院で CEを施行した80例(男性51例、女性29例、平均年齢64.1歳)を対象に、平均胃通過時間、全小腸観察率、平均小腸通過時間、有所見率を検討した。PillCam SBから PillCam SB2への変更前後での比較検討、前日検査食として大腸検査食を使用した群(使用群)と使用していない群(未使用群)での比較検討も行った。検査機器は PillCam SBおよびSB2、RAPIDワークステーションを使用した。朝8時30分に来院し、臨床検査技師、看護師、医師同席の下で、CEを服用。2時間後より飲水可、4時間後より軽食可、17時30分に再度来院し、検査終了。 基本的に全例外来で施行している。【結果】検査目的の内訳は、原因不明消化管出血(OGIB)57例(71.3%)、腹痛7例(8.8%)、腸閉塞3例、その他13例であった。平均胃通過時間:47.8分、全小腸観察率:76.3%(61/80)であり、全小腸観察が可能であった61症例に関する平均小腸通過時間:272.7分であった。有所見率:92.5%であり、病変の内訳は出血5例、潰瘍11例、びらん12例、angioectasia14例、粘膜発赤33例、ポリープ6例、SMT4例、条虫1例、小腸外病変3例であった。PillCam SB 44症例と PillCam SB2 36症例で比較すると、平均胃通過時間は SB:47.1分・SB2:47.81分、全小腸観察率は SB:72.7%(32/44)・SB2:80.6%(29/36)、平均小腸通過時間は SB:281.4分・SB2:264.6分、 有 所 見 率 は SB:97.7 %(43/44)・SB2:86.1 %(31/36)であった。大腸検査食の使用・未使用で比較すると、平均胃通過時間は使用群:47.27分・未使用群:46.6分、全小腸観察率は使用群:79.3%(46/58)・未使用群:63.6%(14/22)、平均小腸通過時間は使用群:279.8分・未使用群:266.1分、有所見率は使用群:89.7%(52/58)・未使用群:100%(22/22)であった。便潜血陰性でも小腸潰瘍が存在する1例を経験した。【結語】PillCam SB2導入後、および前処置として大腸検査食を使用することで全小腸観察率が向上することがわかった。

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小腸③

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子宮頸癌に対する放射線治療後17年で発症した膀胱自然破裂の1例

1トヨタ記念病院 消化器科○鈴木 貴久 1、宇佐美彰久 1、篠田 昌孝 1、高士ひとみ 1、 村山  睦 1、内山 功子 1、遠藤 伸也 1

【患者】62歳、女性【主訴】下腹部痛【現病歴】急激な右下腹部痛が出現し ERへ搬送。鎮痛剤処方され帰宅し、翌日当科初診。急性腹症として入院治療となった。【既往歴】45歳時に子宮頸癌で手術、放射線治療 【現症】体温37.2℃ ,血圧185/ 96mmHg,脈拍111回 /分・整。貧血、黄疸なし。右下腹部に圧痛を認めたが、筋性防御なし。【検査所見】Plt7.7×104/μlと低下し BUN35mg/dl, Cre3.8mg/dlと腎機能の悪化を認めた。腹水は黄色透明で漏出性だった。【経過】第4病日に腹部膨満感、呼吸困難感が出現しダイナミック CTを行うと腹水が増加していた。さらに3時間後の胸部単純 CTで腹水の densityは急激に上昇しており、膀胱破裂が疑われた。尿道カテーテルを留置し保存的治療を行った。翌日の膀胱造影で漏れなし。第15病日尿道カテーテル抜去し間歇的自己導尿を開始した。第19病日に行った膀胱鏡では、頂部に5mmの潰瘍を認めた。子宮頸癌放射線療法後に発症した膀胱自然破裂と診断し、外来経過観察中である。【考察】膀胱自然破裂はまれな疾患である。近年では子宮頸癌術後放射線治療による放射線膀胱炎における報告が増加しており、急性腹症として消化器内科、外科が遭遇することもある。【結語】子宮癌術後、放射線療法の既往を有する症例では本疾患を念頭において診療にあたる必要がある.

断酒後、吸収障害による体重減少が疑われ、生活指導と四物湯により改善した2型双極性障害合併アルコール依存症の1例

1かすみがうらクリニック、2市立四日市病院 消化器内科○廣藤 秀雄 1、矢野 元義 2、小林  真 2、水谷 哲也 2、 桑原 好造 2、竹口 英伸 2、前川 直志 2

【症例】46歳、男性、会社員〈主訴1〉右手に針で刺すような痛み、不眠、幻聴(音楽)〈既往歴〉A型肝炎、高血圧〈生活歴〉16歳の初飲から習慣性飲酒。焼酎2-3杯とビール大2-3本 /日。〈現病歴1〉平成22年4/1、19時が最終飲酒。4/3、当院アルコール専門外来を初診。〈臨床経過1〉アルコール離脱症状の予防治療開始とともに主訴が改善。一方、アルコール性肝障害と高血圧のため内科へ院内紹介された。7/19から1-2時間しか眠られず、過緊張、不隠。炭酸リチウム(抗躁薬)の追加後、食事量が増えるも12/13まで67kgから55kgへと

2kg/月の体重減少が持続的に進行した。10/20に炭酸リチウムを中止、10/21市立病院消化器内科にて採血・画像の精査上、所見なし。〈主訴2〉体重減少〈現病歴2〉12/13、甲状腺機能が正常なため、原因検索目的にて院内再紹介。〈臨床経過2〉1日コーヒー6杯やウーロン茶など2-3Lの過飲行動を確認。また、東洋医学的腹部診察によりオ血(微小循環障害)の所見があり、冷え症体質とも合わせ、クラシエ四物湯3錠を1日1回、朝食前・温服にて処方した。体重減少は速やかに止まり、平成23年1/20に57kgと増加に転じた。しかし、1日20本の喫煙習慣が続き、満腹感がわからない、几帳面な性格から来る強迫的な認知反応などの複雑な経過中、3/3から炭酸リチウムが再開された、同剤600mg/日にて血中濃度は0.6mEq/Lと基準値内。4/14甲状腺機能にて FT4低下0.80 ng/dL, TSH上昇5.97 μIU/mLから4/18市立病院内分泌外来へ紹介された。甲状腺USと甲状腺ホルモン再検値も正常なため、リチウムによる甲状腺機能低下の可能性を指摘された。【考察】アルコール依存症の断酒継続途中から生じた持続的な体重減少の原因鑑別を内科学教本 Harrisonに求めた。まず、深部体温の低下に働く飲料の性質を説明し、過飲を改めるよう指導した。さらに摂食低下や下痢を認めず、東洋医学的身体反応が微小循環障害に相当することから消化管領域の吸収障害と吸収後の血流動態に四物湯が奏効して、体重減少の改善に寄与したと考えられた。

異時性6重複癌の1例1山田赤十字病院 外科○藤永 和寿 1、楠田  司 1、宮原 成樹 1、高橋 幸二 1、 松本 英一 1、藤井 幸治 1、奥田 善大 1、山岸  農 1、 村林 紘二 1

今回われわれは、異時性6重複癌の1例を経験したので報告する。症例は67歳、女性。38歳時、上行結腸癌で発症し右半結腸切除術施行した。52歳時、左乳癌にて胸筋温存乳房切除術、その2ヶ月後直腸癌にて内視鏡的粘膜切除術した。63歳頃から定期フォローはされていなかったが、67歳時呼吸困難を主訴に受診となった。左胸水が多量に貯留しており、胸水ドレナージにて加療、あわせて胸水細胞診も施行したが陰性であった。CTにて骨転移、腹腔内リンパ節腫大を認めたことから、他の転移検索のため PET-CTが施行された。PET-CTでは下行結腸に FDGの集積を認め、CF施行したところ下行結腸癌と診断された。また、術前検査の GIFにて胃癌も認め、左半結腸切除術・胃局所切除術となった。この時、骨転移の原発巣の検索のために骨生検を施行し、乳癌からの転移と判明した。手術から半年後、黒色便のため GIF施行したところ、胃癌と診断され胃全摘術を施行した。胃周囲の郭清されたリンパ節に転移を認めたが、乳癌からのリンパ節転移であった。現在、乳癌術後の骨転移・腹腔内リンパ節転移を認めているが、SDの状態である。異時性6重複癌の症例を経験したため、若干の文献的考察を加え報告する。

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