エフェクターによる音の変化...聴覚上の歪み方がtubescreamer、overdrive、distortion、fuzz...
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エフェクターによる音の変化
研究者 渡邉晟 勝野啓吾 林晃平
指導者 安達隆太先生
1 研究の背景
私たちは軽音楽部に所属しており、普段使用している機材の音を、科学的に検証したいと考
えた。
予備実験によって音を大きく変化させる要因の1つは、エフェクター(※1)という強制的
に周波数スペクトル(※2)を変化させる道具によるものとわかった。
エフェクターには多くの種類があるが、今回は音を歪ませることを目的としたエフェクター
に注目した。
2 研究の目的
歪み系エフェクターには多くの種類があるが、今回使用した4つのエフェクターの中では、
聴覚上の歪み方が TubeScreamer、OverDrive、Distortion、Fuzz の順に増していく。
歪んだ音の聴覚上の音色とその音の科学的なデータの関係性を明らかにし、歪みの要因を見
つける。それを踏まえ、歪んだ音の聴覚上の音色とその音の倍音(※3)の数の関係性を明
らかにするために研究を行う。
3 実験1の方法
オーディオジェネレーター(一定の周波数の音を出し続けることのできる機械)から出力
された300Hz の音を OverDrive, TubeScreamer, Distortion, Fuzz の4つの歪みエフェ
クターに通し、それを WaveSpectra という周波数スペクトルを表示できるソフトに入力す
る。
現れた結果から、-100dB(※4)以下の値を除き、データをとる。(明らかにノイズ
として判断できる値が-100dB 以下であったため)
左の機械
オーディオジェネレーター
中央の機械
エフェクター
オーディオジェネレーターのノイズ
4 実験 1 の結果
エフェクターなし
(横線が-100dB) (丸印は奇数次倍音 表示できないところは省く。)
TubeScreamer
OverDrive
Distortion
Fuzz
オーディオジェネレーターから各エフェクターを通して WaveSpectra に出力したとき
聴覚上は有意な差は無い。
ギターの時は聴覚上でエフェクターごとの音の変化が分かったが、オーディオジェネレータ
ーの時には有意な差は無かった。しかし倍音の増加の仕方はギターの時の聴覚上の歪みの増
加と一致した。
倍音が多数出ている、つまり基音以外の音が複数出ていることが音が歪むための条件ならば、
2つ以上の音が同時に出ている和音は歪みであるのかどうか考え、実験2を行った。
5 実験 2 の方法
はじめに歪んだ音と歪んでいない音の違いを調べるためにギターでドの音(130Hz)を出
力し、それぞれエフェクター無しと有りのデータを取り、2つの結果を見比べて特に大きく
変化した範囲を調べる。エフェクターは OverDrive を使用する。
次に和音は歪みなのかハーモニーなのかを調べるため、エフェクターを使用しない和音
(ド:130Hz ミ:164Hz ソ:196Hz)のデータをとり、エフェクターを使用し
たドの音と比較する。なお、この実験では-80dB 以下の値を除き、データをとる。(明ら
かにノイズとして判断できる値が-80dB 以下であったため)
ギターのノイズ
各データの実際の音を聞き、比較する。
6 実験2の結果
(横線が-80dB)
ド エフェクターなし
ド OverDrive
ドミソ エフェクターなし
二つのドの音のデータの3KHzから10KHzの間に注目するとエフェクター無しの時は読
み取れるデータが無く、エフェクターを使用したときは音量と倍音の数が大きく増加し読み取
れるデータがあった。
これは、三つのデータの中で3kHz から10kHz の間で読み取れる倍音をすべて書き出し、
その値があるものには○、無いものには×をした表である。
Hz ド エフェクターなし ド OverDrive ドミソの和音
3003.9 × × ○
3025.4 × ○ ×
3154.6 × ○ ×
3186.9 × × ○
3316.1 × ○ ×
3391.5 × × ○
3423.8 × ○ ×
3585.3 × ○ ×
3682.2 × ○ ×
3811.4 × × ○
3822.1 × ○ ×
3951.3 × ○ ×
4048.2 × × ○
4069.8 × ○ ×
4209.7 × ○ ×
4231.3 × × ○
4360.5 × ○ ×
4446.6 × × ○
4478.9 × ○ ×
4608.1 × ○ ×
4651.2 × × ○
4748.1 × ○ ×
4855.7 × ○ ×
4888 × × ○
4995.7 × ○ ×
5081.8 × × ○
5146.4 × ○ ×
5264.9 × ○ ×
5297.2 × × ○
5383.3 × ○ ×
5534 × ○ ×
5663.2 × ○ ×
5792.4 × ○ ×
6320 × ○ ×
6460 × ○ ×
6632.2 × × ○
7095.2 × × ○
ドのエフェクターを使用した音と、ドミソのエフェクター無しの音に一致する倍音は無かっ
た。実際の音もドミソのエフェクター無しの音は歪んで聞こえなかった。
このことから和音は歪みではなく、ハーモニーであることがわかった。
7 考察
実験を通して、歪みは単に音の重なりでは無く、倍音の重なりであると考えられる。
しかし、なぜ歪みが増加すると倍音が増加するのかは分からなかった。
そこで実験データを見直すと、エフェクターを使ったオーディオジェネレーターの倍音は、
OverDrive の第二倍音以外、すべて偶数次倍音よりも奇数次倍音の方が音量が大きかった。
このことから歪みと奇数次倍音には何か関係があると考えられる。
しかしギターのデータでは特にそういった特徴は見られず、ギターにも当てはまるかは分ら
ない。
8 結論
歪んだ音の聴覚上の音色とその音の科学的なデータの関係性は明らかにできなかったが、奇
数次倍音の音量が大きいと聴覚上の音色を歪ませる可能性がある。
9 まとめと今後の課題
歪みに奇数次倍音が関係していると予想できたが、その根拠は見つからなかった。
なぜ、3kHz から 10kHz にかけて音量と倍音の数が増加したのかわからなかった。
なぜ OverDrive のみ偶数次倍音である第二倍音の音量が奇数次倍音と同等であったのか分
からなかった。
○用語解説
※1 エフェクター
そもそもエフェクターとはギターなどの音を変化させる道具で、
これには様々な種類があり、変化の仕方もとても沢山ある。今回私たちは、その中でも音を
歪ませることを目的とした歪み系統のエフェクターに注目した。歪みとは音が割れている状
態のことである。
※2 周波数スペクトル
私たちが使用した周波数スペクトルは、周波数を横軸、音の大きさを縦軸として周波数ごと
に音の大きさがわかるようになっている。
※3 倍音
f=V/λ
周波数=(音速)/(波長) 波長
このような仕組みで倍音が生まれる。
※4 dB(デシベル)
音の大きさの単位で、基準の音と比較してどの程度の大きさかを示す考え方
参考文献
・ZOOM 社 G3(エフェクター)
・オーディオジェネレーター
・Wave Spectra(フリーソフト efu 著作)
・SoundStorm:歪みと倍音
(http://www.sound-storm.net/bbs02.html)
・DigiLand
(http://info.shimamura.co.jp/digital/knowledge/2014/09/34946)
・SoundSide
(http://soundside.blog3.fc2.com/blog-entry-99.html)
・倍音
第4倍音
第3倍音
第2倍音
基音
(http://www.animato-jp.net/~se/baion.html)
・音名と周波数
(http://wooper.jp/sheet/hertz-and-name.pdf)