ディジタル移動無線の 基礎10/9/00 学生実験d 1 ディジタル移動無線の 基礎...
TRANSCRIPT
10/9/00 学生実験D 1
ディジタル移動無線の基礎
東北大学大学院工学研究科
電気・通信工学専攻
通信システム工学講座
コミュニケーション工学
安達研究室
10/9/00 学生実験D 2
はじめに
移動通信では,電波は様々な方向から受信アンテナに到達する.このため,移動しながら送受信すると電波が互いに干渉し,受信電力が時間的に大きく変動する.これはフェージング現象と呼ばれており,送信したディジタル信号に誤りを発生させる原因になっている.移動通信における電波伝搬からディジタル信号伝送の基礎を学ぶ.
電波伝搬とマルチパスフェージングフェージングチャネルのモデル化ディジタル伝送フェージング対策
10/9/00 学生実験D 3
直接波
回折波
反射波
反射波
受信点
電波伝搬の特徴
移動通信を正しく理解するためには,まず電波伝搬の特徴を知ることが重要である.
建造物, 電柱, 樹木や車さえも電波を反射する.これらが多重伝搬路(マルチパス)を形成する.受信波は直接波,回折波と反射波の3種類に分けられる.
10/9/00 学生実験D 4
模式的理解
送信電波は大きな建造物や地形の起伏によって遮られることがある.基地局・移動局間にある建造物などによる電波の遮蔽・反射によって移動局周辺への電波エネルギー到達量が緩慢に変動する.
散乱体(scatterers)大きな
反射体(reflector)
遮蔽
移動局周辺まで到達した電波が近傍の散乱物(構造物や樹木など)によって反射・回折され,それらが干渉しあって受信電力が瞬時変動する.
移動局が基地局から離れるにつれて電波が減衰する.
不規則変動
送信局
受信局
10/9/00 学生実験D 5
モデル化
3つの要因に分解できる.送信点からの距離に依存する伝搬損失数十から数百メートルの周期で不規則に伝搬損失が変動するシャドウイング搬送波波長の半分程度の周期で不規則に受信電力が変動するマルチパスフェージング
距離基地局
伝搬損失
マルチパスフェージング
約1 m
約100 m
シャドウイング
10/9/00 学生実験D 6
受信信号電力の数式表現
3つの項の乗積
[ ] 1)(
)(101
)(
2
210
)(2
=
××∝−
tREd
tRd
trt
は距離,ただし,
δ
α
伝播損失
シャドウイング
マルチパスフェージ
ング
10/9/00 学生実験D 7
伝搬損失,シャドウイング,マルチパスフェージングの発生原因
送信点からの距離に依存した伝搬損失電波が広がりながら伝播するためであり,移動局が基地局から離れるにつれて電波強さが減衰すること.シャドウイング基地局と移動局との間にある大きな建造物などによる電波の遮蔽・反射によって移動局周辺への電波エネルギー到達量が緩慢に変動するために発生する現象のこと.平均受信電力がおおむね,数十から数百メートルの周期で不規則に変動する.変動幅の大きさは基地局・移動局間の地形地物のマクロ構造に依存する.マルチパスフェージング移動局周辺まで到達した電波が近傍の反射物(建造物や樹木など)で反射・回折され,それらが干渉しあうことによって発生する受信電力の瞬時変動現象のこと.搬送波波長の半分程度の周期で受信信号の振幅が不規則に変動する.
10/9/00 学生実験D 8
マルチパスフェージング
電波が前方と後方から到来しているときには定在波が生成される.
アンテナが移動すると受信信号の大きさが変動する
実際にはもっと複雑→統計的取り扱い
x
電波
λ/2
10/9/00 学生実験D 9
マルチパスフェージングの観測
受信電力の瞬時時間変動周波数:800MHz, 移動速度:5.4km/h
RBW300 kHz
VBW300 kHz
SWP2.0 s
CENTER 1.990500000 GHz SPAN 0 Hz
0.4 sec
10dB
fD=4 Hz
10/9/00 学生実験D 10
マルチパスフェージングの速さ
アンテナが移動していると,ドップラー効果により電波の周波数が変化する.最大の周波数シフトを最大ドップラー周波数 fDという.
Hz λv
fD =
Hz Df−
v m/s
Hz Df+
2
1
1)(
−−
∝
D
D
f
fffP
パワースペクトル例)時速200kmで走行しながらディジタル携帯電話(800MHzの搬送波周波数)を使っているとき,最大ドップラー周波数はfD=148Hzにも達する.
Hz Df+
f
Hz Df− cf
P(f)
10/9/00 学生実験D 11
統計的性質
距離に依存した伝搬損失送信点からの距離をdとすると,信号振幅の2乗(電力のこと)はdαに反比例して減衰する.αはおよそ3から4の間の値をとることが知られている.シャドウイング損失をデシベルで表したときの値をδ(t)で表すものとすると, δ(t)は標準偏差σが6から10程度の正規確率過程(
ガウス確率過程)に従って変動することが知られている.マルチパスフェージング都市内では,受信信号の振幅R(t)はレイリー分布を有す
る確率過程でモデル化できることが知られている.
10/9/00 学生実験D 12
レイリー分布
Rの確率密度関数
Rの累積分布
[ ] [ ]
−=
2
2
2exp
2)(
RER
RER
Rp
[ ]
−−== ∫ 2
2
0exp1)()(
RER
dRRpRPR
0 R
p(R)
[ ]2
2
0
RER =
10/9/00 学生実験D 13
ディジタル伝送
基底帯域(ベースバンド)伝送ディジタル情報の0,1に対応したパルスを伝送する.いくつかのパルス波形がある.通信路符号(Linecode)とも言われる.
(a)オン-オフ
0 1 1 0 1 0 0 1
(b)NRZ
(d)AMI
Alternatemarkinversion(交互マーク反転)
Non-return-to-zero
(e)マンチェスタ
直流成分あり
直流成分なし
(c)RZ
Return-to-zero
0 T 2T 3T 4T 5T 6T 7T 8T
10/9/00 学生実験D 14
変調
ベースバンド伝送の信号波形は零周波数付近のスペクトルを持っている.しかし,現実の大部分の通信路は零周波数付近を殆ど伝送することができない帯域通信路とみなされる.無線通信路はまさにそういう通信路である.ベースバンドデータ信号を通信路に最適な周波数帯域へ移す技術が変調である.変調信号の表現
( ) ( )[ ]{ }[ ]
[ ]{ } tfjtjQtIts
tstftQtftIts
tfjtjtA
ttfjtAttftAts
c
ccT
c
ccT
π
ππ
πφ
φπφπ
2exp)()()(
)(Re2sin)(2cos)()(
2exp)(exp)(Re
)(2expRe)()(2cos)()(
+=
=−=
=
+⋅=+=
または
10/9/00 学生実験D 15
複素数として扱った方が便利なので,通常,
A(t)expjφ(t)I(t)+jQ(t)
で表わされる表現を用いる.
送信するデータに応じて,A(t) とφ(t),またはI(t)とQ(t) を変化させる
cos2πfct
sin2πfct
cos2πfct
sin2
πfct
I
Q
10/9/00 学生実験D 16
ディジタル変調の種類
振幅,位相,または周波数,すなわちA(t),φ(t),またはd φ(t)/dtを変化させる3つの方法がある.I(t)とQ(t)を変化させても良い.
)()()(exp)()( tjQtItjtAts +== φ
振幅変調
位相変調
On-OffASK(Amplitude shift keying)PSK(Phase shift keying)FSK(Frequency shift keying)
AM
PM
ディジタル アナログ
周波数変調FM
10/9/00 学生実験D 17
(a) On-off
(b) 2PSK
(c) 2FSK
送信データ
1 110
t
)()(
)(exp)(
tjQtI
tjtA
+=φ
I
Q
dttd )(
2
1 φπ
10/9/00 学生実験D 18
信号点配置
多値PSK
QAM(a) 2PSK (b) 4PSK (c) 8PSK
I
Q
10
10
11
00
01
111
110
010
011
001
000100
101
(e) 16QAM(d) 4QAM
10
11
00
01
(d) 2ASK
10
2次元多値ASK
4ASK
4AS
K
11
11100001
10
00
01
)()(
)(exp)(
tjQtI
tjtA
+=φ
10/9/00 学生実験D 19
I(t)とQ(t)の波形
11 01 00
110 100
S+
I(t)
Q(t)
(b)4PSKS−
1 0 11 00
I(t)(a)2PSK
S2+
S2−
ディジタルデータ
I(t)
Q(t)
(c)8PSK
S+
S2−
I
Q
10
111
110
010
011
001
000100
101
10
11
00
01
)()(
)(exp)(
tjQtI
tjtA
+=φ
t
10/9/00 学生実験D 20
変調器の構成
ベースバンド波形のスペクトルが,そのまま搬送周波数帯にシフトする
帯域制限なしでは高調波成分がある
→無線通信では他チャネルへ干渉を与える
{ }tftQtftI
ttftAts
cc
cT
ππ
φπ
2sin)(2cos)(
)(2cos)()(
−=+=
x
cos2πfct
x
- sin2πfct
I(t)
Q(t) +sT(t)マッピ
ング
0f
1/T-1/T
2sin
)(
=
fTfT
fPπ
πP(f)
fcf
1/T-1/T
P(f)メインローブ
10/9/00 学生実験D 21
帯域制限フィルタの導入
ナイキストフィルタ T秒ごとに標本化された標本をフィルタを通したとき,出力波形のT秒
ごとの標本値が元の値と完全に等しくなるようなフィルタをナイキストフィルタという.
x
cos2πfct
x
- sin2πfct
LPF
LPF
I(t)
Q(t) +sT(t)
LPF:低域通過フィルタ
マッピング
メモリ
標本化定理n [-W, W]に帯域制限された信号波形をTs=1/(2W) 秒間隔で標本化すればもとの波形を
完全に復元できるnこのときのフィルタは矩形フィルタで、フィルタのインパルス応答はh(τ)
-W Wτπ
τπτ
s
s
f
fh
sin)( =
0
10/9/00 学生実験D 22
ナイキストフィルタの応答
2PSKの例帯域制限フィルタなし
帯域制限フィルタあり
1 0 11 00
I(t)
S2+
S2−
送信データ
-W=-1/(2T)
W=1/(2T)
f
理想フィルタ
T
t
フィルタ出力
T
t
フィルタ入力
標本時点の出力値は入力と同じ値が保存される
10/9/00 学生実験D 23
ナイキストフィルタの周波数応答
理想フィルタは作りにくい
ナイキスト2乗余弦フィルタが良く用いられる
-W=-1/(2T)
W=1/(2T)
f
≤
=elsewhere 0
2/1 1)(
TffH
+≤≤
−
−
−
−≤≤
=
elsewhere 02
1f
21
2
12
cos
21
f0 1
)( 2
TTTf
TT
fHααα
απ
α
αはロールオフファクタ
fc
f
1/T-1/T
P(f)
帯域制限フィルタなし
T2
1 α+T2
1 α−
f
fc
f
1/T-1/T
P(f)
ナイキストフィルタ
帯域幅 ( )α+× 11
T
10/9/00 学生実験D 24
ディジタル型変調器
メモリに記憶させたフィルタ出力波形を読み出す
x
cos2πfct
x
- sin2πfct
波形メモリ
波形メモリ
I(t)
Q(t) +sT(t)
ROM
シフ
トレ
ジス
タ
{ }tftQtftI
ttftAts
cc
cT
ππφπ
2sin)(2cos)(
)(2cos)()(
−=+=
10/9/00 学生実験D 25
伝送誤りの発生原因
受信信号の振幅と位相が変化する
伝送誤りの例
受 信 信 号 の振幅と位相が変化する
熱雑音による誤り
位相回転による誤り
1-1
1-1 -1
1 受信データに誤りが生ずる
信号振幅が小さくなったとき
熱雑音
1
-1
1
-1 -1
1信号振幅が大きいとき
受信データは正しく受信される
10/9/00 学生実験D 26
“1”の領域
2PSKのときの誤り発生機構
信号電力が大きいとき(同期検波出力)
雑音
受信信号
I
Q受信信号+雑音
誤りなし
10/9/00 学生実験D 27
“1”の領域“1”の領域
信号電力が小さいとき(同期検波出力)
雑音
受信信号
I
Q
雑音
受信信号
I
Q受信信号+雑音
受信信号+雑音
誤りなし 誤り発生
10/9/00 学生実験D 28
アンテナダイバーシチ受信
ダイバーシチ受信とは,お互いに離して設置した複数のアンテナで受信した信号を合成することによりフェージングの影響を軽減する技術である.異なるアンテナで受信した信号に現れるフェージングが同じではない,ということを利用している.
選択合成ダイバーシチ最も構成が簡単なダイバーシチ受信が選択合成である.
10/9/00 学生実験D 29
選択ダイバーシチ
受信機
データ判定復号
受信機
受信データ
アンテナ#0
アンテナ#1
アンテナ#0#1
時間
電波
の強
さ
10/9/00 学生実験D 30
おわりに
電波伝搬路は複雑です.フェージングが発生するため,確率的通信路として特徴付けられます.確率的通信路でのディジタル信号伝送はかなり困難なので,高度な無線通信技術が要求されています.ダイバーシチ受信はそのうちのひとつです.
最近,数Mbpsオーダーのディジタル信号
伝送が要求されており,より高度な無線技術の研究を進めています.