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心拍で読み解く持久能力評価法 福岡大学 スポーツ科学部 教授 上原吉就 令和2年5月14日

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Page 1: 心拍で読み解く持久能力評価法 - JST...3000 50 100 150 200 漸増運動負荷中の心拍数および従来法と新規の自律神経活動指標の動態 m) HF (ms 2)

心拍で読み解く持久能力評価法

福岡大学スポーツ科学部

教授 上原吉就

令和2年5月14日

Page 2: 心拍で読み解く持久能力評価法 - JST...3000 50 100 150 200 漸増運動負荷中の心拍数および従来法と新規の自律神経活動指標の動態 m) HF (ms 2)

0 30 90 180 ∞

ATP供

給率

①クレアチンリン酸系

②解糖系

③有酸素系

100〜200m走 400m走 800m走1500m走マラソン

運動時間(秒)

ATP(アデノシン3リン酸)のエネルギーで筋肉を収縮させる

運動持続時間・強度とエネルギー供給系の割合

有酸素系の能力

= 持久力(体力)

各人の有酸素系の能力を把握できると様々なメリットがある。

・ 持久力が判る・ トレーニング効果が判る・効果的なトレーニング強度が判る...

・ 健康指標になる・ ダイエットに効果的な運動強度が判る・安全な運動強度が判る...

非アスリート

アスリート

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従来の有酸素系能力測定方法(運動負荷試験)

Rest

1-4 min

W-up (10 w)

4 min

疲労困憊

漸増負荷

健常男性;毎分20W

健常女性;毎分10W Recovery

呼気ガス測定、血中乳酸濃度

血中乳酸濃度測定血中乳酸濃度を測定(30秒〜1分毎)し,急増点(乳酸性作業閾値 ; LT)を見付ける

→ 侵襲的,面倒,医療従事者・熟練者が必要

呼気ガス分析最大酸素摂取量および換気性作業閾値 (VT)を算出VT: O2摂取量と CO2 排出量の屈曲点→ 極めて高価,熟練者が必要

有酸素運動

無酸素運動

心拍数測定→ 容易,安価,不正確(実用性に乏しい)

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心拍のゆらぎ(心拍変動)から自律神経を評価する試み

心拍の1拍1拍の揺らぎのことである

1拍 1拍

760ms 720ms

心拍変動(Heart Rate Variability)とは

周波数

パワー

心拍変動から自律神経活動を評価できるAkselrod et al, Am J Physiol, 1985

※交感神経指標がないため、一般的にLFとHFの比

(LF/HF) が交感神経指標として用いられている。

〇低周波成分(Low frequency, LF; 0.04-0.15 Hz)

交感神経と副交感神経を反映する

〇高周波成分(High frequency, HF; 0.15-0.4 Hz)

副交感神経を反映する

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従来の交感神経活動指標 (LF/HF) は有用であるのか?

LF/HFが交感神経活動の指標であるならば…

LF/HFも高まるはず…

運動によって交感神経活動は高まる姿勢の変化

Pagani et al., Circ Res, 1986

LF/HFは交感神経指標として広く用いられている

LF/HF

運動中の交感神経指標として有用ではない可能性がある

LF

/HF

Arai et al., Am J Physiol, 1989

運動強度が高くてもLF/HFは高まらない

心移植

心不全

健常者

Polanczyk et al., Eur J Appl Physiol, 1998

薬理的に交感神経を遮断してもLF/HFには反映されない

LF

/HF

Pre 交感神経遮断薬

副交感神経遮断薬

交感・副交感神経遮断薬

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先行研究 特開2007-181486 「運動負荷の測定装置」出願人:菊池誠

運動強度の測定法(従来の簡易測定法)

目的: 運動中の被検者における最適な運動負荷量を判定する。

・ 測定した心拍変動のパワースペクトルから、LF,HF,LF/HFを算出、HFやLF/HFから運動負荷を検出する。

HF: 副交感神経の活動が反映 LF/HF: 交感神経の活動が反映

・ 運動中の交感神経活動が本当にこのように変化していくのか?・ 交感神経活動が変化するなら、その急増点まで把握できるのか?

従来技術とその問題点

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実験プロトコル

Rest

1-4 min

W-up (10 w)

4 min

疲労困憊

漸増負荷

健常男性;毎分20W

健常女性;毎分10W Recovery

心拍変動測定従来法有酸素能力測定(呼気ガス分析、血中乳酸濃度)

対象者

健常成人 15名(男性 7名, 女性 8名)

心拍変動測定心電図からR-R間隔を測定し、リアルタイム周波数解析により得られた自律神経成分は試験開始から10秒ごとに平均値を算出した。

自律神経成分

Low frequency power (LF):交感神経と副交感神経

High frequency power (HF):副交感神経

LF/HF:交感神経(従来法)

新規指標の開発

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値は平均±標準偏差で示す. RQは呼吸商, HRは心拍数, RPEは主観的運動強度, LAは血中乳酸濃度を示す. RQ, HR, RPEは運動終了時の値を示す. LAは運動終了3分後の値を示す.

Variables

Age 21.4 ± 1.3 21.0 ± 0.8

High (cm) 172.1 ± 4.1 160.0 ± 5.5

Weight (kg) 62.0 ± 5.8 53.7 ± 3.7

VO2 max / W (ml/min/kg) 45.1 ± 5.8 40.8 ± 2.8

RQ 1.21 ± 0.06 1.13 ± 0.05

HR (beat ・ min-1

) 191 ± 8 183 ± 10

RPE 19 ± 1 19 ± 1

LA (mmol/L) 7.6 ± 1.5 8.5 ± 1.9

VT_VO2 /W (mi/min/kg) 19.6 ± 3.0 20.9 ± 2.0

LT_VO2 /W (mil/min/kg) 21.9 ± 2.8 20.6 ± 4.3

Table 1. Subject background of the men (n= 7) and wemen (n= 8)

Men Women

被検者特性

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0.0

400.0

800.0

1200.0

0.0

100.0

200.0

300.0

400.0

500.0

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0 LF/HF成分(交感神経)

W-up安静

漸増運動負荷

Start End

HF成分(副交感神経)

LF成分(交感・副交感神経)

運動負荷試験中の従来法による自律神経動態

(n=1)

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60

100

140

180

220

60

100

140

180

220

0

10

20

30

40

0

10

20

30

40

LT VT

VTLT

0

100

200

300

400

500

600

0

100

200

300

400

500

600

0

400

800

1200

0

400

800

1200

* * * * * * * * *

* * * * * * * * *

** *

* ** * * * * *

** * * * * * * *

* * * * * * * *

* ** *

* * * * * * *

LF成分

(交感・副交感神経)

HR

(b

pm

)

LF

/HF成分

(交感神経)

HF成分

(副交感神経)

LT,VTを基準とした運動強度における従来法を用いた自律神経動態

先行研究で示された運動強度の増加に伴うLF/HF変化は認められない

* p< 0.05 vs 30%LT, 30%VT

(n=15)

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運動中の心拍上昇に関わる自律神経の動態

➀運動中の心拍上昇と自律神経の関係心拍数(

bpm)

酸素摂取量(mL / min)

交感神経支配のみ

副交感神経支配のみ

通常心拍

交感神経副交感神経支配なしREST EXERCISE

②運動中の交感神経に影響を与える因子

圧受容器

ホルモン

40

60

80

100

120

140

160

60 70 80 90 100 110 120 130

心拍数(

bpm)

平均動脈圧(mm Hg)

動脈圧の増加は心拍数を低下させる

REST

EXERCISE

Modified from Robinson et al., Circulation Res, 1966

20

40

60

80

100

120

140

0 200 400 600 800 1000 1200

エピネフリンは中強度から急増する

Mazzeo et al., J Appl Physiol, 1989

交感神経活性の抑制

Modified from Robinson et al., Circulation Res, 1966

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新たな交感神経活動指標の試み

HR

運動強度 高低

圧受容器感知

心拍の急上昇抑制

動脈圧は心拍数の急増を制御している

圧受容器の影響を排除したHR

圧受容器による影響を排除することでHRは急増する

LF成分:交感神経、副交感神経活動

圧受容器反射を反映

制御ホルモン

Heart rate (HR) / LF は、交感神経活動を反映した新規の指標となる可能性

=

活性化

心拍上昇

Heart rate (HR)

LF

新規指標

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0

1000

2000

3000

50

100

150

200

漸増運動負荷中の心拍数および従来法と新規の自律神経活動指標の動態

HR

(bpm

)H

F (

ms

2)

LF

(m

s2)

LF

/HF

新規指標

HR

/LF

0

400

800

1200

0

150

300

450

0.0

4.0

8.0

12.0

W-up

Rest

Increasing load

副交感神経

交感神経

急激な上昇が認められる

乳酸域値

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0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

Re

st

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

110%

120%

130%

140%

150%

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

Re

st

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

110%

120%

130%

140%

150%

0.0

200.0

400.0

600.0

800.0

0.0

200.0

400.0

600.0

800.0

換気性作業閾値(VT) 乳酸性作業閾値(LT)

LF

/HF

(従来の交感神経指

標)

HR

/LF

LF/HF(従来の交感神経指標)と HR/LF(新規指標)との比較

新規指標 (HR/LF) は VT および LT から急増する

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0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

0

100

200

300

400

500

600

700

Re

st

w-u

p

10-2

0w

20-3

0w

30-4

0w

40-5

0w

50-6

0w

60-7

0w

70-8

0w

80-9

0w

90-1

00w

100

-110

w

110

-120

w

120

-130

w

130

-140

w

140

-150

w

血中乳酸

(mm

ol/

L)

HR

/LF

血中乳酸

Heart rate (HR) / LF

アドレナリン

(pg

/mL

)

血中乳酸

(mm

ol/

L)

血中乳酸

アドレナリン

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

0

100

200

300

400

500

600

ノルアドレナリン

(pg

/mL

)

血中乳酸

(mm

ol/

L)

血中乳酸

ノルアドレナリン

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

漸増運動負荷中の乳酸値とカテコラミンならびに新規の自律神経活動指標 (HR/LF) の動態

(n=8)

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新規指標を応用したより正確な乳酸域値・換気性域値の判定方法

W-upRest Increasing load

Start End

-2.0

-1.0

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

Log

HF & LF/HF(従来の交感神経指標)

-2.0

-1.0

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

Log

HF v.s. Heart rate (HR) / LF(新規の交感神経指標)

HF

LF/HF

HR/LF

クロスポイント

HF

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相対的運動強度における漸増運動中の新規指標とHFの推移

HF

HR/LF

HF と新規指標 (HR/LF) の優位性がVTおよびLT近傍で入れ替わる

-2.00

-1.00

0.00

1.00

2.00

3.00

4.00

-2.00

-1.00

0.00

1.00

2.00

3.00

4.00 乳酸性作業閾値(LT)換気性作業閾値(VT)

Lo

g

Lo

g

VT LT

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新技術の特徴・従来技術との比較

• 従来技術の問題点であった、運動中の交感神経活動を反映する指標の開発に成功した。

• この指標を応用することによって、正確に最適運動強度を求めることが可能となった。

• 本技術の適用により、現在スタンダードに用いられている呼気ガス分析装置を使用する必要が無くなり、コストが 1/100~1/1,000 程度まで削減することが期待される。

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想定される用途

• 本技術を適用することで、簡便、安価でかつ正確に有酸素性能力および最適運動強度を測定する専門機器開発が可能となる。

• スポーツ現場、アスリート向けの最適運動強度の測定装置に応用可能である。

• 医療ならびにジム等の健康関連機器の開発および搭載・応用が可能である。

• 上記以外に、ダイエットやファンラン等に用いられるスマートウォッチ等のウェアラブル端末への応用も期待できる。

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企業への期待

• 既に開発済みのスポーツ・健康機器やウェアラブル端末への技術を持つ企業には、本技術の導入が有効と思われる。

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産学連携の経歴

• 2020年4月〜 旭化成株式会社と共同研究開始

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本技術に関する知的財産権

• 発明の名称: 運動強度測定装置、運動強度測定方法

および運動強度測定プログラム

• 出願番号 : 特願 2019-078637

• 出願人 : 学校法人福岡大学

• 発明者 : 上原吉就、松田拓朗、 田上友季也

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問い合わせ先

福岡大学

研究推進部 産学官連携センター

TEL 092-871-6631

FAX 092-866-2308

E-mail [email protected]