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・国連の集団安全保障措置 ・武力の行使との一体化 ・国連平和維持活動(PKO)等に おける武器使用 平成25年12月17日 安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会 (第5回会合) 内閣官房副長官補 資料

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  • ・国連の集団安全保障措置 ・武力の行使との一体化 ・国連平和維持活動(PKO)等に おける武器使用

    平成25年12月17日

    安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(第5回会合)

    内閣官房副長官補

    資料

  • (1)有識者の見解等

    (ア)昭和34年(1959年)12月16日最高裁判所大法廷・いわゆる砂川事件判決 田中耕太郎裁判官の補足意見 「憲法九条の平和主義の精神は、憲法前文の理念と相まつて不動である。それは侵略戦争と国際紛争解決のための武力行使を永久に放棄する。しかしこれによつてわが国が平和と安全のための国際協同体に対する義務を当然免除されたものと誤解してはならない。(略) 国家の保有する自衛に必要な力は、その形式的な法的ステータスは格別として、実質的には、自国の防衛とともに、諸国家を包容する国際協同体内の平和と安全の維持の手段たる性格を獲得するにいたる。現在の過渡期において、なお侵略の脅威が全然解消したと認めず、国際協同体内の平和と安全の維持について協同体自体の力のみに依存できないと認める見解があるにしても、これを全然否定することはできない。そうとすれば従来の「力の均衡」を全面的に清算することは現状の下ではできない。しかし将来においてもし平和の確実性が増大するならば、それに従つて、力の均衡の必要は漸減し、軍備縮少が漸進的に実現されて行くであろう。しかるときに現在の過渡期において平和を愛好する各国が自衛のために保有しまた利用する力は、国際的性格のものに徐々に変質してくるのである。かような性格をもつている力は、憲法九条二項の禁止しているところの戦力とその性質を同じうするものではない。 要するに我々は、憲法の平和主義を、単なる一国家だけの観点からでなく、それを超える立場すなわち世界法的次元に立つて、民主的な平和愛好諸国の法的確信に合致するように解釈しなければならない。(略) 我々は「国際平和を誠実に希求」するが、その平和は「正義と秩序を基調」とするものでなければならぬこと憲法九条が冒頭に宣明するごとくである。平和は正義と秩序の実現すなわち「法の支配」と不可分である。真の自衛のための努力は正義の要請であるとともに、国際平和に対する義務として各国民に課せられているのである。」

    1.国連の集団安全保障措置(1)

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  • (イ)村瀬信也「国際法論集」学術選書89 信山社、P.259-260 「しかるに憲法9条は、個別国家としての日本が、国際紛争(自国が当事者となっている国際紛争)を解決する手段として、「武力の行使」(use of force)に訴えることを禁止しているのである。国連憲章2条4項

    が禁止している「武力の行使」も同様である。これに対して、上記のように国際平和活動のために軍事力を用いることは、そもそも個別国家が行う「武力の行使」ではなく、国際の平和と安全の維持という国際公益を実現する目的で、国連安保理その他の権限ある機関の決議・要請によってとられる「強制行動」(enforcement actions)であり、そこでの軍事活動は「武器の使用」(use of weapons, arms)として、「武力

    の行使」とははっきり区別しなければならない。それが国連憲章2条4項の例外であること、そして憲法9条の範囲外(国連憲章2条4項の例外)であることは明らかである。 (略)

    しかし、安保理は本来の国連憲章43条の国連軍に代わる措置として、「第7章の下に安保理によってauthorize(授権、許可、容認)された」強制措置の仕組み(多国籍軍など)を、その実践過程において整備

    してきたことが正しく評価されなければならない。この安保理授権型多国籍軍は、国連憲章第7章の手続に従い、平和の破壊の認定(39条)→経済制裁(41条)という段階を経て授権・容認される軍隊であるか

    ら、各国軍隊を集団的自衛権の基礎の下で束ねた連合軍とは異なり、あくまでも「国連の」軍隊としての性格を持つものである。また国連憲章第6章(紛争の平和的処理)と第7章との中間段階に位置づけられる国連平和維持活動(PKO:peace-keeping operations)の役割が、半世紀以上の歴史の中で、高く評価さ

    れていることは周知のとおりである。このほかにも地域的な機関や枠組みを通して、平和維持の機能が実現されている。これらはいずれも集団安全保障の系譜に属する国際平和活動である。

    集団安全保障系列の国際任務は憲法9条の範囲外の問題であるとの認識が共有できるならば、我が国はそうした活動に積極的に参加することが可能となる。」

    1.国連の集団安全保障措置(2)

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  • (2)政府の見解等 (ア)衆議院帝国憲法改正案委員会(昭和21年(1946年)7月4日) ○吉田内閣総理大臣

    「・・・又御尋ねの講和條約が出來、日本が獨立を囘復した場合に、日本の獨立なるものを完全な状態に復せしめた場合に於て、武力なくして侵略國に向つて如何に之を日本自ら自己國家を防衞するか、此の御質問は洵に御尤もでありますが、併しながら國際平和國體が樹立せられて、さうして樹立後に於ては、所謂U・N・Oの目的が達せられた場合にはU・N・O 加盟國は國際聯合憲章の規定の第四十三條に依りますれば、兵力を提供する義務を持ち、U・N・O 自身が兵力を持つて世界の平和を害する侵略國に對しては、世界を擧げて此の侵略國を壓伏する抑壓すると云ふことになつて居ります、理想だけ申せば、或は是は理想に止まり、或は空文に屬するかも知れませぬが、兎に角國際平和を維持する目的を以て樹立せられたU・N・Oとしては、其の憲法とも云ふべき條章に於て、斯くの如く特別の兵力を持ち、特に其の國體が特殊の兵力を持ち、世界の平和を妨害する者、或は世界の平和を脅かす國に對しては制裁を加へることになつて居ります、此の憲章に依り、又國際聯合に日本が獨立國として加入致しました場合に於ては、一應此の憲章に依つて保護せられるもの、斯う私は解釋して居ります。」 (イ)衆議院予算委員会(昭和36年(1961年)2月22日) ○林内閣法制局長官

    「・・・いわゆる国連の警察活動が理想的形態において、つまり国連の内部の秩序を乱したものを制裁する、あるいはその秩序を維持するという意味で警察部隊を作るという場合に、しかもそれが、何と申しますか、国連というものに統合しまして、各国の兵隊とか、あるいは各国の組織というものをそこで解消して、各国は人員だけ供出して一つの統合したものを作ってしまう、こういうことになりますと、実は九条の文言から見ますと、日本が主権国家として行動するわけでも何でもないわけです。そういう点においては憲法に直接当たってこない場合もある。それからまた、そういう警察軍が行動するのが、平和的な、いわゆる軍事行動をやらない警察軍もあり得るわけであります。そういうものは頭から九条一項の問題にならない、かように考えるわけであります。」

    1.国連の集団安全保障措置(3)

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  • (ウ)衆議院予算委員会(昭和40年(1965年)12月23日) ○高辻内閣法制局長官

    「・・・一つの国際社会というものが、こう広く各国の国民を代表するようなかっこうで一つの社会ができる。その社会の内部における治安維持のために、その組織化された団体がその意思によって武力を行使することがある、そういう場合に、その団体に対して兵力を提供するということ自身は九条の問題にはならぬだろうということを申したことばございます。そういう場合国際社会がある程度組織化されることになりますが、組織化された国際団体の活動、それを警察活動と申したことはございます。・・・理想的な姿とか、・・・そういうものになれば、政治的な当否の問題は別として、憲法九条のらち外の問題である。したがって、そういう場合に、そういう団体に対して兵力を提供するということ自身は憲法九条一項の戦争を放棄しているという問題には抵触しない。すなわち、憲法上は許されるだろう、政治上の問題は別である。当然のことでございますが、そういうふうに解釈いたしております。

    (エ)稲葉誠一衆議院議員質問主意書に対する答弁書(昭和55年(1980年)10月28日) 「・・・いわゆる「国連軍」(引用注:国連がその「平和維持活動」として編成したいわゆる「国連軍」)は、個々の事例によりその目的・任務が異なるので、それへの参加の可否を一律に論ずることはできないが、当該「国連軍」の目的・任務が武力行使を伴うものであれば、自衛隊がこれに参加することは憲法上許されないと考えている。これに対し、当該「国連軍」の目的・任務が武力行使を伴わないものであれば、自衛隊がこれに参加することは憲法上許されないわけではないが、現行自衛隊法上は、自衛隊にそのような任務を与えていないので、これに参加することは許されないと考えている。」

    1.国連の集団安全保障措置(4)

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  • (オ)衆議院予算委員会(平成2年(1990年)10月19日) ○工藤内閣法制局長官 「国連憲章に基づきます、いわゆる正規のと俗称言われておりますが、そういう国連軍へ我が国がどのように関与するか、その仕方あるいは参加の態様といったものにつきましては、現在まだ研究中でございまして、結果を明確に申し上げるわけにはまだ参っておらない、かような段階にございます。」

    (カ)衆議院予算委員会平成10年(1998年)3月18日 ○大森内閣法制局長官

    「現在の国連憲章第四十二条、四十三条に規定されております国連軍につきましては、従前から私どもが申し上げておりますように、憲法九条の解釈、運用の積み重ねから推論いたしますと、我が国がこれに参加することには憲法上の疑義があるというふうに考えているわけでございます。

    ・・・要するに、国連軍への参加というのは、我が国の主権行為が基点になることは間違いございません。ただ、その上で、その参加をした我が国の組織が国連軍の中でどう位置づけられ、それに対する指揮の形態がどうなるのか、あるいは撤収の要件あるいは手続がどう定められるのかということが、その参加した我が国の組織の行動がなお我が国の武力の行使に当たるかどうかという評価にやはり決定的な影響を及ぼす。したがいまして、特別協定が決まらなければ、そのあたりの確定的な評価ができない、こういうことでございます。」

    (キ)長妻昭衆議院議員質問主意書に対する答弁書(平成16年(2004年)6月22日) 「・・・・政府が前記の昭和55年の答弁書等で憲法上許されないと述べたいわゆる多国籍軍への「参加」とは、当該多国籍軍の司令官の指揮下に入り、その一員として行動することという限定された意味でのものであり、このような意味における「参加」が許されないと述べたのは、その目的・任務が武力の行使を伴う多国籍軍に右のような形態で「参加」すると、自衛隊の活動が武力の行使に及んだり他国の武力の行使と一体化することがないという前提を確保することが困難であると考えてきたためである。・・・・」

    1.国連の集団安全保障措置(5)

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  • (1)政府の答弁 (ア)衆議院予算委員会(平成9年(1997年)2月13日) ○大森内閣法制局長官 「・・・このような、いわゆる一体化の理論と申しますのは、仮に、みずからは直接武力の行使をしていないとしても、他の者が行う武力の行使への関与の密接性等から、我が国も武力の行使をしているとの評価を受ける場合を対象とするものでありまして、いわば法的評価に伴う当然の事理を述べるものでございます。 そして問題は、他国による武力の行使と一体となす行為であるかどうか、その判断につきましては大体四つぐらいの考慮事情を述べてきているわけでございまして、委員重々御承知と思いますが、要するに、戦闘活動が行われている、または行われようとしている地点と当該行動がなされる場所との地理的関係、当該行動等の具体的内容、他国の武力の行使の任に当たる者との関係の密接性、協力しようとする相手の活動の現況等の諸般の事情を総合的に勘案して、個々的に判断さるべきものである、そういう見解をとっております。」

    2.「武力の行使との一体化」(1)

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  • (イ)参議院予算委員会(昭和34年(1959年)3月19日) ○林内閣法制局長官

    「・・・今安保条約の改定の交渉をやっております場合において、日本の態度は、いわゆる日本の負うべき義務は、日本の憲法の範囲内においてやるということでございますから、日本の憲法上負い得ないものをこの条約の中に盛り込むはずはないわけであります。ただいま仰せられました補給業務ということの内容は、先ほど総理が仰せられた通り実ははっきりしないのでございますが、経済的に燃料を売るとか、貸すとか、あるいは病院を提供するとかということは軍事行動とは認められませんし、そういうものは朝鮮事変の際にも日本はやっておるわけであります。こういうことは日本の憲法上禁止されないということは当然だと思います。しかし極東の平和と安全のために出動する米軍と一体をなすような行動をして補給業務をすることは、これは憲法上違法ではないかと思います。そういうところは条約上もちろんはっきりさしていくべきだと思います。」

    (ウ)参議院外務委員会(昭和57年(1982年)4月20日) ○角田内閣法制局長官

    「…武力行使以外でも憲法上できないものがあるかどうかという直接の御質問に対しては、これはいまの段階で武力行使というものをもう少し具体的になってきた場合に詰めなければならない問題じゃないかと私は思っております。」

    「一体をなすような行動をして補給業務をやるというふうに書いてありますが、これはその補給という観念の方から見るのじゃなくて、それ自体が武力行使の内容をなすような直接それにくっついていると、そういうようなものはむしろ武力行使としてとらえられる、そして憲法に反するというような意味で林元長官が言われたのだと、そういう意味では私が先ほど来申し上げていることと基本的には違いはないように思います。」

    2.「武力の行使との一体化」(2)

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  • (エ)衆議院国際連合平和協力に関する特別委員会(平成2年(1990年)10月29日) ○柳井外務省条約局長

    「実際に生起いたします武力紛争というのは大変千差万別であると思います。したがいまして、この問題は結局その具体的な紛争に即してケース・バイ・ケースに判断せざるを得ない問題であると思います。非常に典型的な例として従来挙げられておりますのは、例えば地上で戦闘が行われておりまして、それに空挺部隊から弾薬を補給するというようなものにつきましては、その空挺部隊から弾薬を落とすというような活動それ自体は補給かもしれませんが、しかし、そのような場合には武力行使と一体となるとみなされるのではないかというふうに考えておりますが、ただ、初めに申し上げましたように、実際の武力紛争というのは大変千差万別で、いろいろな状況があると思います。したがいまして、そのような状況に即してケース・バイ・ケースに判断する必要があるというふうに考えております。」

    (オ)衆議院国際連合平和協力に関する特別委員会(平成2年(1990年)10月29日) ○工藤内閣法制局長官 「・・・例えば現に戦闘が行われているというふうなところでそういう前線へ武器弾薬を供給するようなこと、輸送するようなこと、あるいはそういった現に戦闘が行われているような医療部隊のところにいわば組み込まれるような形でと申しますか、そういうふうな形でまさに医療活動をするような場合、こういうふうなのは・・・問題があろうということでございますし、逆にそういう戦闘行為のところから一線を画されるようなところで、そういうところまで医薬品や食料品を輸送するようなこと、こういうふうなことは当然今のような憲法九条の判断基準からして問題はなかろう、こういうことでございます。したがいまして、両端はある程度申し上げられる、こういうことだと思います。」

    2.「武力の行使との一体化」(3)

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  • (カ)参議院日米防衛協力のための指針に関する特別委員会(平成11年(1999年)5月10日) (注)「後方地域支援」という概念を周辺事態法で導入(平成11年(1999年)) ○大森内閣法制局長官

    「・・・後方地域支援と申しますのは、後方地域、すなわち我が国領域並びに現に戦闘行為が行われておらず、かつそこで実施される活動の期間を通じて戦闘が行われることがないと認められる我が国周辺の公海及びその上空の範囲において行うという制約をまず課しております。・・・後方地域においてのみ後方地域支援活動が行われるということを実効的に確保するためのシステムを設けております。 このような後方地域支援の性格、内容にかんがみますと、この法案[注:周辺事態安全確保法]に基づい

    て実施することを予定している後方地域支援が米軍の武力の行使と一体化を生じるということはそもそも想定できないということでございます。

    したがいまして、米軍が武力の行使をしている、それは言葉をかえますと軍事行動をしているということでございますが、それに一定の限度でかかわることがすべて憲法に違反するというような議論というのは、飛躍した議論ではなかろうかと思うわけでございます。」 (キ)参議院日米防衛協力のための指針に関する特別委員会(平成11年(1999年)5月20日) ○大森内閣法制局長官

    「・・・要するに安保条約及びその関連取り決めに基づいて我が国から行われる米軍の戦闘作戦行動のための基地としての使用について、我が国があらかじめ応諾をしているという結果として米軍機が滑走路を使用するわけでございます。その場合に、我が国の行為としましては、あくまでそういう施設を使用することを応諾するという消極的な行為にとどまりまして、予定される米軍の武力の行使と一体化するような積極的な行為を我が国がそれ以上にするということはないと考えられますので、いわゆる一体化論との関係では、滑走路を使用することを応諾するということとの関係では憲法上の問題は生じないんではないかというふうに考えているところでございます。」

    2.「武力の行使との一体化」(4)

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  • (ク)中川正春衆議院議員質問主意書に対する答弁書(平成16年(2004年)2月6日) 「お尋ねの「占領行政の主体」及び「占領軍」がどのようなものを想定しているのか必ずしも明らかではないが、米国及び英国は、安保理決議第千四百八十三号において、占領国としての関係国際法の下での権限、責任及び義務を有することが認識されるとともに、領土の実効的な統治を通じたイラク国民の福祉の増進に関する権限を付与されている。連合暫定施政当局(CPA)は、このような責任、権限及び義務に基づき、イラクにつき、安全で安定した状態を回復し、イラクの人々が自らの政治的将来を自由に決定することができる状態を創出するために、暫定的に施政を行う機関である。

    米国及び英国は、同決議において認識されているとおり、占領国としての地位を有しており、イラクに現在展開する米国及び英国の軍隊は、そのような地位を有する国の軍隊である。

    イラク人道復興支援特措法に基づく自衛隊の活動は、憲法第九条の禁ずる武力の行使に当たるものではなく、また、我が国が武力紛争の当事国ではない以上、交戦権の行使に当たることはないことから、憲法との関係で問題が生ずるものではない。」

    (ケ)衆議院国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動並びにイラク人道復興支援活動等に関する特別委員会(平成19年(2007年)4月26日) ○塩崎内閣官房長官 「・・・自衛隊は、いわゆる統合された司令部のもとで連絡や調整を行うけれどもその指揮下に入ることはない、我が国の主体的な判断のもとで、我が国の指揮に従って、イラク特措法に基づいて行われる、こういうことであって、こういった観点からも、他国の武力行使と一体化することはないというのが前提でございまして、そういったことが担保されているというふうに理解をしております。」

    2.「武力の行使との一体化」(5)

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  • (コ)両院国家基本政策委員会合同審査会(平成16年(2004年)11月10日) ○小泉内閣総理大臣

    「イラク特措法に関して言えと、法律上、いうことになればですね、自衛隊が活動している地域は非戦闘地域なんです。(略)。私は、特措法というのは、自衛隊が活動する地域は非戦闘地域である、これがイラク特措法の趣旨なんです。(略) それは、将来のことを100%見通すことはできません。非戦闘地域でなくなった場合には、これは自衛隊は特措法に基づいて撤退しなきゃならない。しかし、特措法についての定義上何かと問われたから、自衛隊の活動している地域は非戦闘地域である。これは法律の趣旨なんです。将来、組織的、計画的、継続的に戦闘が行われるかどうか、これは将来、はっきり100%、いつどうなるかというのをこの際断言することはできません。しかし、はっきり申し上げますが、自衛隊が活動している地域は非戦闘地域、これがイラク特措法の趣旨なんです。」

    2.「武力の行使との一体化」(6)

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  • (1)「国連平和維持活動 原則と指針(キャップストーン・ドクトリン)」 (2008年1月18日) 国連PKO局・フィールド支援局(P.31-P.35)

    3.1 国連平和維持の基本原則の適用 国連平和維持の実践は過去60 年間に大きな進化を遂げたが、3つの基本原則が伝統的に、国際の平和と安全を維持する手段としての役割を果たし、国連平和維持活動を引き続き特徴付けている。 ・当事者の同意 (Consent of the parties) ・不偏性 (Impartiality) ・自衛及び任務の防衛以外の実力の不行使 (Non-use of force except in self-defence and defence of the mandate) (略)

    当事者の同意:国連PKO は、主たる紛争当事者の同意を得て展開される。これには、政治プロセス及びこれを支援する任務を有するPKOの受入れについての当事者のコミットメントが必要である。主たる当事者の同意は、国連PKOに対して任務の遂行に必要な政治面、物理面の双方における行動の自由を提供する。このような同意がなければ、国連PKO は紛争の当事者となり、平和を維持するという本質的な役割を離れて、強制行動へと傾斜するおそれがある。(略)

    不偏性:国連PKO は、いかなる当事者を有利にすること又は害することなく、その任務を実施しなければな

    らない。主たる当事者の同意と協力を維持するためには、不偏性が欠かせないが、これを中立性(neutrality)又は不作為(inactivity)と混同すべきでない。(略)

    自衛及び任務の防衛以外の実力の不行使:自衛以外の実力の不行使の原則は、1956 年の武装国連平和維持要員の初めての展開時にさかのぼる。その後、自衛という概念には、PKO が安全保障理事会の任務の下での責務を果たすことを強硬な手段で阻止する試みへの抵抗が含まれるようになった。国連PKO

    は強制の手段ではない。しかし、自衛及び任務の防衛のためであれば、安全保障理事会の許可を受けて戦術レベルで実力を行使できると広く理解されている。(略) →(次ページへ)

    3.国連平和維持活動(PKO)等における武器使用(1)

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  • (→前ページからの続き) 現場では時に似ているように見えることもあるが、強力な平和維持(robust peacekeeping)は、憲章第7

    章の下で規定されている平和執行と混同されるべきではない。強力な平和維持は、安全保障理事会の許可及び受入国及び(又は)主たる紛争当事者の同意を得て、戦術レベルでの実力の行使を伴う。これに対し、平和執行は主たる当事者の同意を必要とせず、かつ安全保障理事会の許可がない限り憲章第2 条4 によって通常は加盟国に禁じられている戦略又は国際レベルでの軍事力の行使を伴い得る。 国連 PKO は、他の説得の方法が尽くされた際の最後の解決手段の措置としてのみ、実力を行使すべ

    きであり、実際にそうする際も、活動は常に自制を働かせなければならない。実力の行使の最終的な目的は、和平プロセスに抵抗し又は、民間人に危害を及ぼそうとするスポイラーに影響を与え、これを抑止することであり、その軍事的敗北を求めることではない。国連PKO による実力の行使は、ミッション及びその任務に対する同意を維持しながら、所期の効果を達成するための必要最小限度の実力(the minimum force necessary)という原則の範囲内で、常に正確、相応かつ適切な方法に調整すべきである。

    3.国連平和維持活動(PKO)等における武器使用(2)

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  • (2) 国連平和維持隊への参加に当たっての基本方針 (日本政府のいわゆるPKO参加5原則)

    「我が国は国際平和協力法に基づき、次の基本方針に従い国連平和維持隊に参加することとしている。 1. 紛争当事者の間で停戦合意が成立していること。

    2. 当該平和維持隊が活動する地域の属する国を含む紛争当事者が当該平和維持隊の活動及び当該平和維持隊への我が国の参加に同意していること。 3. 当該平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。 4. 上記の基本方針のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は、撤収することが出来ること。 5. 武器の使用は、要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られること。」

    3.国連平和維持活動(PKO)等における武器使用(3)

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  • (3) PKOにおけるこれまでの武器使用権限の変遷

    (ア)平成4年(1992年)(国際平和協力法成立当初) ○「自己又は自己と共に現場に所在する我が国要員の生命又は身体を防衛する」ための武器使用(法第24条第1項~第3項)

    (※自己又は自己と共に現場に所在する我が国要員の生命又は身体を防衛することは、いわば 自己保存のための自然権的権利というべきものであるから、そのために必要な最小限の「武 器の使用」は、憲法第9条第1項で禁止された「武力の行使」には当たらない。)

    (イ)平成10年(1998年)改正 ○自衛官の武器使用に関する改正(法第24条第4項、第5項) ・部隊として国際平和協力業務に従事する自衛官等の武器等の使用について、その一層の適正 を確保するため、現場に上官が在るときは、生命又は身体に対する侵害又は危難が切迫し、当 該上官の命令を受けるいとまがない場合を除き、その命令によらなければならないものとする。 (ウ)平成13年(2001年)改正 ○武器の使用による防護対象の拡大(法第24条第1項~第3項) ・武器の使用に係る防護対象として、自己と共に現場に所在する「その職務を行うに伴い自己の 管理の下に入った者の生命又は身体」を加える。 ○自衛隊法第95条(武器等防護)の適用除外の解除(法第24条第8項(当時)の削除)

    (※自衛隊法第95条に基づく武器の使用は、自衛隊の武器等という我が国の防衛力を構成する 重要な物的手段を破壊、奪取しようとする行為からこれらを防護するための極めて受動的か つ限定的な必要最小限の行為であり、それが我が国領域外で行われたとしても、憲法第9条 第1項で禁止された「武力の行使」に当たらない。)

    3.国連平和維持活動(PKO)等における武器使用(4)

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  • (4) 政府の答弁 (ア)犬塚直史参議院議員質問主意書に対する答弁書(平成19年(2007年)10月16日)

    「一についてで述べたとおり、「不朽の自由」作戦下の米国等の活動は、国連憲章第五十一条の個別的又は集団的自衛権を行使するものとして開始されたものと考えている。

    平成十三年十二月五日のボン合意を受けて同月二十二日にアフガニスタンに暫定政府が成立した後に同国の領域内で行われている「不朽の自由」作戦下の米国等の活動は、国際法上は、基本的には、領域国であるアフガニスタンの同意に基づいて、同国の警察当局等の機関がその任務の一環として行うべき治安の回復及び維持のための活動の一部を補完的に行っているものと観念される。このように観念される活動は、国際法上は、国連憲章第二条第四項で禁止されている「武力の行使」には当たらず、したがって、自衛権の行使に当たること又は安保理の決定に基づくことを理由とする違法性の阻却を論ずる必要はないと考えている。」

    3.国連平和維持活動(PKO)等における武器使用(5)

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  • (イ)参議院外交防衛委員会(平成15年(2003年)5月15日) ○宮崎内閣法制局第一部長

    「お尋ねのように、自衛隊の部隊の所在地からかなり離れた場所に所在します他国の部隊なり隊員さんの下に駆け付けて武器使用するという場合は、我が国の自衛官自身の生命又は身体の危険が存在しない場合の武器使用だという前提だというお尋ねだと思います。

    ・・・このような場合に駆け付けて武器を使用するということは、言わば自己保存のための自然権的権利というべきものだという説明はできないわけでございます。

    ・・・その駆け付けて応援しようとした対象の事態、ある今お尋ねの攻撃をしているその主体というものが国又は国に準ずる者である場合もあり得るわけでございまして、そうでありますと、・・・それは国際紛争を解決する手段としての武力の行使ということに及ぶことが、及びかねないということになるわけでございまして、そうでありますと、憲法九条の禁じます武力の行使に当たるおそれがあるというふうに考えてきたわけでございます。

    したがって、これを逆に申しますと、・・・例えば相手方が単なる犯罪集団であることがはっきりしているという場合など、これに対する武器使用が国際紛争を解決する手段としての武力の行使に当たるおそれがないんだという状況を前提にすることができるという場合がありますれば、それは、それは別途そういう立法措置を取るべきだということは別にいたしまして、憲法上はそのような武器使用が許容される余地がないとは言えないというふうに、抽象的にはかように考えておるわけでございます。」

    3.国連平和維持活動(PKO)等における武器使用(6)

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  • 19

    3.国連平和維持活動(PKO)等における武器使用(7) (3)国際連合平和協力法案(平成2年(1990年)10月16日閣議決定、同日、第119回国会に提出されたが、衆議院の段階で審議未了・廃案) ※PKO参加5原則や非戦闘地域といった憲法第9条との関係で問題が生じないようにする「法律上の仕組み」は設けていない。

    第二条 政府は、この法律に基づく海外派遣に係る平和協力業務の実施、物資協力及びこれらについての国以外の者の協力(次項において「海外派遣に係る平和協力業務の実施等」という。)を適切に組み合わせることにより、国際の平和及び安全の維持のための活動に効果的に協力するものとする。 (定義) 第三条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 一 (略) 二 平和協力業務 国際の平和及び安全の維持のための活動に係る次に掲げる業務をいう。

    イ 停戦(武力紛争の停止、兵力の撤退その他これらに類するものをいう。)の監視 ロ 紛争終了後の暫定政府等の行政事務に関する助言又は指導 ハ 紛争終了後の議会の選挙、住民投票等の監視又は管理 ニ 物資協力に係る物品の輸送その他の輸送、通信又は機械器具(物資協力に係る物品を含む。)の据付け、検査若しくは修理 ホ 医療活動(防疫活動を含む) ヘ 紛争によって被害を受けた住民その他の者の救援のための活動 ト 紛争によって生じた被害の復旧のための活動 チ イからトまでに掲げる業務に類するものとして政令で定めるもの

    (小型武器の貸与等) 第二十七条 3 第一項の規定により小型武器を貸与された平和協力隊員は、自己又は他人の生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の事由のある場合で、かつ、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてでなければ、当該小型武器を使用することができない。ただし、当該小型武器を使用することができる場合であっても、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十六条又は第三十七条の規定に該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない。

  • (4)海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律に関する政府答弁 参議院外交防衛委員会(平成21年(2009年)6月4日) ○横畠内閣法制局第二部長 「海賊とテロ組織との関連でのお尋ねでございますけれども、本法案における海賊行為への対処につきましては、国連海洋法条約により、公海における海賊行為については我が国の管轄権を及ぼすことができるとされていることを前提として、一つ目として、私有の船舶によるものであること。二つ目として、私的目的に出たものであること、すなわち私人の行為であるということ。三つ目として、公海上において行われるものであること。四つ目として、船舶の強取、財物の強取、乗組員等の略取など、今日言わば人類共通の敵、いずれの国等も許すことができないものと評価される犯罪行為としての定型を備えたものであること。これらのすべてを満たすものとして海賊行為を定義し、その上で処罰することとしております。 すなわち、国や国に準ずる者と申しますか、国等が国等の行為として行われるものは、その定義上海賊行為からは除外されております。したがいまして、御懸念のような、憲法第九条によって禁じられた武力の行使に及ぶということはないものと考えております。 なお、公海上のある行為が、私的目的による私人の行為として今申し上げたように定義された海賊行為に当たるかどうかは、これまでの審議の中でも他から答弁もありましたように、個別具体の状況に応じまして、船舶の外観でありますとか航行の態様、乗組員等の異常な挙動、その他諸般の事情から合理的に認定することが可能であるものと考えております。」 【参考:海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律(平成21年(2009年)法律第55号)】 第二条 この法律において「海賊行為」とは、船舶(軍艦及び各国政府が所有し又は運航する船舶を除く。)に乗り組み又は乗船した者が、私的目的で、公海(海洋法に関する国際連合条約に規定する排他的経済水域を含む。)又は我が国の領海若しくは内水において行う次の各号のいずれかの行為をいう。

    20

    3.国連平和維持活動(PKO)等における武器使用(8)

  • 21

    【参考1】 年表:主な国連平和維持活動(PKO)と関連国連決議を有する多国籍軍等

    主な出来事 国連の対応 備考

    冷戦終結まで(~1989年12月)

    朝鮮戦争 1950.6 安保理決議第83号及び第84号の勧告に基づき、極東米軍を中心に朝鮮国連軍を組織

    朝鮮国連軍は国連憲章7章に基づく武力の行使を明確に授権するものではない。

    第2次中東戦争 (スエズ動乱)

    1956.11 第1次国連緊急軍(UNEF I)の設立 英仏の拒否権行使により、平和のための結集決議(国連安保理決議ではなく国連総会決議)により設立

    レバノン危機 1958.6 国連レバノン監視団(UNOGIL)の設立

    コンゴ動乱 1960.7 国連コンゴ活動(ONUC)の設立 任務遂行に当たって実力の行使を容認

    キプロス紛争 1964.3 国連キプロス平和維持隊(UNFICYP)の設立

    第4次中東戦争 1974.5 国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)の設立

    イスラエルのレバノン侵攻

    1978.3 国連レバノン暫定隊(UNIFIL)の設立

    冷戦終結後 (1989年12月~2000年)

    イラクのクウェート侵攻

    1991.1 安保理決議第660号及び関連諸決議の履行確保等を任務とする湾岸多国籍軍を組織(安保理決議第678号)

    アンゴラ包括和平協定(ビセス合意)調印

    1991.5 第2次国連アンゴラ監視団(UNAVEM II)の設立 国際平和協力法(PKO法)に基づく我が国初の要員派遣を実施

  • 冷戦終結後 (1989年12月~2000年)

    ボスニア紛争 1992.2

    国連保護隊(UNPROFOR)の設立 1995.12 安保理決議第1031号により、和平協定の履行のための和平実施部隊(IFOR)の展開を許可し、UNPROFORの権限をIFORに移行

    当初UNPROFORは停戦監視に従事したが、紛争の激化に伴い、人道支援物資の配給、安全地区の保護等のため、安保理決議第836号により憲章7章下で実力行使を含む必要な措置をとる権限を付与された

    カンボジア内戦 1992.2 国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)の設立 複合型PKOの登場 我が国初の自衛隊のPKO派遣を実施(1992.9)

    ソマリア内戦 1992.12 安保理決議第794号により多国籍軍(UNITAF)を設立 1993.3 第2次国連ソマリア活動(UNOSOM II)の設立、 95年撤退

    安保理決議第814号により、UNOSOM IIに憲章7章下であらゆる必要な措置をとる権限を付与された

    ルワンダ内戦 1993.10

    国連ルワンダ支援団(UNAMIR)の設立 1994.6 ルワンダ大虐殺の発生を受け、安保理決議第929号により、避難民等の保護、人道援助活動の支援を行う多国籍軍を設立

    コソボ紛争 1999.6 安保理決議第1244号により、国連コソボ暫定統治ミッション(UNMIK)及びKFOR(国際安全保障部隊)の設立

    東ティモール独立運動

    1999.9 安保理決議1264号により、多国籍軍(INTERFET)を設立 1999年10月、国連東ティモール暫定行政機構(UNTAET)が設立され、多国籍軍の任務が引き継がれた

    2000年以降

    アフガニスタン暫定政権発足

    2001.12 安保理決議第1386号により、国際治安支援部隊(ISAF)の設立を授権(対アフガン武力行使は自衛権に基づく)

    対イラク武力行使 2003.3

    安保理決議第678号、決議第687号、第1441号を含む関連する安保理決議により、米英等が対イラク武力行使を実施。2003.5.以降、安保理決議第1483号等により、多国籍軍の活動を容認。

    対リビア武力行使 2011.3 安保理決議第1973号に基づき、米英仏を中心とする多国籍軍が対リビア武力行使を実施

    紛争の多様化

    複合型PKO・統合ミッションの増加 【我が国が要員を派遣したミッションの例】 2004.6 国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH) 2006.8 国連東ティモール統合ミッション(UNMIT) 2011.7 国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS) 22

  • 1.~2. (略) 3.憲法9条1項が武力の行使の放棄を規定しているのは、わが国がみずからの意志によってする武力

    の行使についてであって、わが国以外の政治組織がその意志によってする武力の行使についてではない。その種の武力の行使に所要の部隊を供出することについては、その保持について4に述べる点があるほか、憲法に直接の規定はない。ただ、憲法は、国際協和をもって国政の指標としているから、その供出は、憲法上、この指標に矛盾しないと認められる場合においてのみ許されるといわなければならない。(1)ある国際社会において、その国際社会内部の国際の平和と安全を確保するため、当該国際社会の構成国家を超越する政治組織が成立しており、(2)当該国際社会内部の国際の平和と安全の維持のための超国家的作用として、右の政治組織の意志により武力が行使される場合においては、右の武力の行使は、超国家的な政治組織による国際の平和と安全の維持のためにするものであり、その国際社会の構成国であるわが国が右の武力の行使にあたる部隊を構成すべき部隊を供出することは、国際協和の指標に矛盾するものとはいえず、憲法上非難すべき点はないと思われる。 4.問題は、このような政治組織に供出される部隊を保持することが憲法9条2項に規定する戦力の不保持に抵触するかどうかの点であるが、憲法9条2項が戦力を保持しないとするのは、国際紛争の武力的解決行動を放棄するという憲法9条1項の目的を達成するための具体的措置としてであるから、任務と規模からみて右の目的の達成を妨げることがないと認められる部隊であれば、これを保持することが憲法9条2項の規定に抵触することにはならないと解される。(略)

    5.(略)してみれば、少くとも安全保障に関する限りは、国連が、国連加盟国の構成する国際社会の内部における国際の平和と安全を維持するための超国家的作用としてその意志により武力を行使する政治組織たるの実をそなえているものとみても、現実の問題として不適当とはいえない。すなわち憲章43条に規定する本来の国連軍を構成するものとしてわが国が部隊を保持し、供出することは、3及び4に述べたところからみて、憲法9条を含むわが憲法の否認するところであるとはいえない。

    【参考2】「いわゆる国連軍とわが憲法(昭和40年9月3日、法制局)」(1)

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    (注:昭和43年に外務省が作成した「国連協力法案関係文書」に収録された内閣法制局の考え方。その後秘密指定解除。)

  • 6.ところで、現在、国連憲章43条の各加盟国の供出兵力から成る本来の国連軍は成立するに至ってい

    ない。(略)いわゆる国連軍に部隊を供出することが憲法上容認されるためには、いわゆる国連軍の武力行動が、国連という超国家的政治組織による超国家的作用として、国連社会内部の国際の平和及び安全の維持のためになされる武力の行使であるのでなければならない。したがって、個々の具体的事案につきこの点を明らかにするには、次の3点に照らして審査する必要がある。 (1)当該いわゆる国連軍による武力の行使が国連自体の意志に基づいて遂行されるものであるか。

    武力の行使が国連自体の意志により遂行されるためには、当然その機関である総会又は安保理事会の決議が必要とされるが、これらの機関の決議がみずから武力の行使を遂行するというのではなく、加盟国に対しそれぞれその意志により武力を行使すべきことを勧奨するという内容のものであるならば、そのような勧奨に応じてなされる武力の行使は、当該加盟国自体の武力の行使であって、国連のそれであるとはいえない。 (2)武力の行使が国連みずからがするものであることの実をそなえているか。

    この点について積極に解されるためには、いわゆる国連軍が、国連又はその機関に任命され、かつ、その指揮下にある指揮官によって指揮され、その経費が、直接には、国連の負担である場合のように、国連の統制の下に置かれているのでなければならない。

    (3)当該いわゆる国連軍による武力の行使は、国連加盟国の間又は国連加盟国内部に生じた事態が国連社会の平和と安全に対する障害となる場合において、その障害を除去することを目的としているものであるか。 以上の3点について積極に解される場合には、そのいわゆる国連軍の一部を構成するものとして部

    隊を保持し、供出することは、その供出自体が任意のものであるとしても、政策上の当否の問題は別として、憲法9条を含むわが憲法の否認するところではないといってよい。 (後略)

    【参考2】「いわゆる国連軍とわが憲法(昭和40年9月3日、法制局)」(2)

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    (注:昭和43年に外務省が作成した「国連協力法案関係文書」に収録された内閣法制局の考え方。その後秘密指定解除。)