千代田区における環境配慮活動の拠...

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1 千代田区における環境配慮活動の拠 点構想 :低炭素活動のプラットフォーム構築 と省エネ型ワークスタイルの提案 霧生駿介 荻原知慧 笠原陽子 下野翼 (大森正之 環境経済学ゼミナール 3 年) 【目次】 はじめに 第 1 章 千代田区における環境配慮活動の 現状 1-1 千代田区の特性 1-2 千代田区の地球温暖化対策 1-2-1 千代田区地球温暖化対策条例 1-2-2 千代田区地球温暖化対策地域 推進計画 2015 1-2-3 千代田区の地球温暖化対策に おける課題 第 2 章 環境配慮活動の拠点の必要性 2-1 環境配慮活動の拠点の定義づけ 2-2 千代田区における環境配慮活動の 拠点が担うべき役割 2-3 千代田区における環境配慮活動の 拠点に適した運営形態 第 3 章 千代田区内・区外でのカーボン・ オフセット(事業案) 3-1 区内でのカーボン・オフセット 事業の提案 3-1-1 千代田区によるゼロ・ エネルギー・ビル(ZEB)の推進 3-1-2 カーボン・ニュートラル・ビル (CNB)の提案 3-1-3 太陽光発電によるカーボン・ オフセット 3-2 区外でのカーボン・オフセット 事業の提案 3-2-1 区外でカーボン・オフセットを 行う意義 3-2-2 カーボン・オフセットを行う 上での理想的な CO2 削減方法 3-2-3 岐阜県高山市・群馬県嬬恋村 とのカーボン・オフセット事業 の拡大 3-3 ちよだ森づくりプロジェクトの 提案 第 4 章 省エネ型ワークスタイルの導入と 普及(事業案) 4-1 千代田区内で省エネ型ワークスタ イルを導入・普及する意義 4-2 オフィス・アンプラグド・キャン ペーンの提案 4-2-1 オフィス・アンプラグド・キャ ンペーンとは何か 4-2-2 オフィス・アンプラグド・キャ ンペーンの例 4-3 オフィス・アンプラグド・キャン ペーンの実施と普及 4-3-1 千代田区内の企業による アンプラグド 4-3-2 オフィス・アンプラグド・ キャンペーンを実施・普及 させる方法 おわりに 【注釈】 【参考文献・URL】 【調査協力企業・団体】

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1

千代田区における環境配慮活動の拠

点構想

:低炭素活動のプラットフォーム構築

と省エネ型ワークスタイルの提案

霧生駿介 荻原知慧 笠原陽子 下野翼

(大森正之 環境経済学ゼミナール 3年)

【目次】

はじめに

第 1 章 千代田区における環境配慮活動の

現状

1-1 千代田区の特性

1-2 千代田区の地球温暖化対策

1-2-1 千代田区地球温暖化対策条例

1-2-2 千代田区地球温暖化対策地域

推進計画 2015

1-2-3 千代田区の地球温暖化対策に

おける課題

第 2章 環境配慮活動の拠点の必要性

2-1 環境配慮活動の拠点の定義づけ

2-2 千代田区における環境配慮活動の

拠点が担うべき役割

2-3 千代田区における環境配慮活動の

拠点に適した運営形態

第 3 章 千代田区内・区外でのカーボン・

オフセット(事業案)

3-1 区内でのカーボン・オフセット

事業の提案

3-1-1千代田区によるゼロ・

エネルギー・ビル(ZEB)の推進

3-1-2 カーボン・ニュートラル・ビル

(CNB)の提案

3-1-3 太陽光発電によるカーボン・

オフセット

3-2 区外でのカーボン・オフセット

事業の提案

3-2-1 区外でカーボン・オフセットを

行う意義

3-2-2 カーボン・オフセットを行う

上での理想的な CO2削減方法

3-2-3 岐阜県高山市・群馬県嬬恋村

とのカーボン・オフセット事業

の拡大

3-3 ちよだ森づくりプロジェクトの

提案

第 4 章 省エネ型ワークスタイルの導入と

普及(事業案)

4-1 千代田区内で省エネ型ワークスタ

イルを導入・普及する意義

4-2 オフィス・アンプラグド・キャン

ペーンの提案

4-2-1 オフィス・アンプラグド・キャ

ンペーンとは何か

4-2-2 オフィス・アンプラグド・キャ

ンペーンの例

4-3 オフィス・アンプラグド・キャン

ペーンの実施と普及

4-3-1 千代田区内の企業による

アンプラグド

4-3-2 オフィス・アンプラグド・

キャンペーンを実施・普及

させる方法

おわりに

【注釈】

【参考文献・URL】

【調査協力企業・団体】

2

はじめに

現在、地球温暖化(以下、温暖化と略す)

が進行しており、取り組むべき重要な問題

となっている。日本では、各自治体が野心

的な CO2排出削減目標を掲げ、温暖化対策を

はじめ様々な環境配慮活動を行っている。

CO2排出削減目標の達成には、自治体だけで

なく事業者や市民の環境配慮活動が必要で

ある。自治体では、環境配慮活動を行う組

織・団体や個人向けの環境配慮活動の拠点

を設置している。この拠点は温暖化対策を

始め、ヒートアイランド対策や生物多様性

の保全などをテーマに、事業者や市民向け

のイベント、環境講座を行っている。私た

ちはこの拠点に注目し、千代田区における

環境配慮活動の拠点が行うべき事業内容を

提案する。

私たちが千代田区を研究対象とする理由

は、以下の 3 点である。1 点目は、私たち

が在籍する明治大学は千代田区に所在して

おり、就学区民として区の掲げている CO2

削減目標に貢献したいと考えたためである。

2 点目は、千代田区地球温暖化対策地域推

進計画 2015において、環境配慮活動の拠点

である(仮称)ちよだエコセンター(以下、

エコセンターと略す)の開設が述べられて

いるためだ。3 点目は、千代田区の環境配

慮活動を担う組織・団体、個人の連携が充

分にとれておらず、これらのプラットフォ

ームが必要と考えたためである。

まず第 1 章では、千代田区が行う温暖化

対策の現状と課題を説明する。第 2 章は、

環境配慮活動の拠点を定義づけ、エコセン

ターに最も適した運営形態として指定管理

者制度を提案する。第 3 章では、千代田区

内・区外で行うカーボン・オフセット事業

について説明する。区内のカーボン・オフ

セット事業としては、区営の集合住宅の屋

根を利用した太陽光発電を提案する。区外

の事業としては、提携関係を結んでいる岐

阜県高山市、群馬県嬬恋村との森林整備事

業の拡大を提案する。第 4 章では、区内の

オフィスで働く各人が電源を使わない、ま

たは最低限の電源で業務を行うオフィス・

アンプラグド・キャンペーンの実施・普及

について述べる。

第 1章 千代田区における環境配慮活動の

現状

1-1 千代田区の特性

千代田区には皇居、官公庁、さらにオフ

ィスビルが立ち並び、政治と経済の中心と

なっている。区は他の都市に先駆けて様々

な施策で環境問題に取り組んできた。2009

年にはその取り組みが評価され、東京 23区

で唯一の環境モデル都市1に選定された。ま

た、昼間人口にあたる就業区民が 70 万人、

就学区民が 10万人である一方で、夜間人口

にあたる区民はわずか約 5万人である。昼

間人口が夜間人口の 16倍にも及ぶという

23区でも稀有な特性を有している。また中

央区、港区、新宿区についで 4番目に事業

所数が多く、サービス業がほとんどである

ため、オフィスビルで働く就業区民が多い

ことがわかる。

1-2 千代田区の地球温暖化対策

1-2-1 千代田区地球温暖化対策条例

本条例は、千代田区の温暖化対策地域に

おいて基本となる考え方、区・区民・事業

者の責務、温暖化対策の総合的かつ計画的

な推進を定義づけることを目的としている。

3

CO2排出削減目標として、2020年までに 1990

年度比で 25%削減することを規定している。

また、環境教育の推進や、千代田区独自の

環境マネジメントシステムである千代田エ

コシステム(以下、CES と略す)を推進す

ることも規定している。

1-2-2 千代田区地球温暖化対策地域

推進計画 2015

条例に基づいて、2010 年に千代田区地球

温暖化対策地域推進計画が策定された。同

計画を変化する国内外の地球温暖化の動向

に合わせ、2015年に改定したものが、千代

田区地球温化対策地域推進計画 2015 であ

る。図1は区が基準年としている 1990年の

CO2排出量と、2008 年から 2012 年の CO2排

出量の推移と温暖化対策目標をまとめたも

のである。

条例の CO2削減目標に加え、計画では 2024

年度までに 25%削減する目標も述べられて

いる。2012 年の削減量は 1990 年度比で約

6%に留まっており、より一層の温暖化対策

が必要だ。同時に 2012年度の排出量におい

て、約 75%を占めている業務部門における

温暖化対策は必須である。

0001

1-2-3 千代田区の地球温暖化対策に

おける課題

区が抱えている温暖化対策における課題

は、以下の 3 点である。1点目は、環境配

慮活動を行う組織・団体が数多く存在する

が、その組織・団体間の連携が十分に取れ

ていないことである。区内には、千代田区

環境まちづくり部や CES 推進協議会、企業

の環境部、環境 NPO、環境社団法人などの

環境配慮活動を行う組織・団体が数多くあ

る。個人の努力や単独の組織・団体だけで

環境問題を解決することは難しく、環境配

慮活動を担う組織・団体間の連携は不可欠

である。

2 点目は区外との連携である。区は岐阜

県高山市と森林整備協定、群馬県嬬恋村と

姉妹協定を結んでいる。区の CO2排出量は膨

大であり、高山市との森林整備によって得

られる CO2吸収量は区の CO2排出量の 2万分

の1に過ぎない2。また、この CO2 吸収量が

区内のどこから排出される CO2 をオフセッ

トしているのか不明である。森林整備で得

た吸収量の使途が特定されていないため、

区の税金を使うことに対して区民の理解が

得られていない3。

※千代田区 HP を基に独自に作成

図 1【千代田区内の CO2 排出量の推移と温暖化対策目標】

4

3 点目は、区の特性を生かした事業が少

ないことである。夜間人口が圧倒的に少な

い一方で、昼間人口、特に就業区民が多く、

オフィスビルで働く人が圧倒的に多いとい

う特性を生かした事業をさらに行うべきで

ある。

第 2章 環境配慮活動の拠点の必要性

2-1 環境配慮活動の拠点の定義づけ

環境配慮活動の拠点とは、各地域におい

て環境問題に関する講座やイベント、独自

の環境マネジメントシステム普及などの事

業を行う組織・団体および施設のことであ

る。また、地域内で環境配慮活動を行う組

織・団体や個人を支援する役割を担ってい

る。他区の拠点を参照すれ環境配慮活動の

拠点の活動領域は、温暖化対策やヒートア

イランド対策、生物多様性、リサイクル、

環境教育などであり、環境問題を包括的に

扱っている。しかし、多くの拠点は環境教

育を主な活動としており、実際に CO₂削減

事業を担う拠点は少ない。

2-2 千代田区における環境配慮活動の

拠点が担うべき役割

区は、千代田区地球温暖化対策地域推進

計画 2015 においてエコセンターの開設を

構想している。エコセンターを環境学習の

拠点、環境マネジメントシステム普及の拠

点、リサイクルの拠点、環境に関するネッ

トワークの拠点と位置づけている。また、

ゼロ・エネルギー・ビル(以下、ZEB と略

す)と呼ばれる、運用時のエネルギー収支

をゼロとするビルを推進する一環としてエ

コセンターを ZEB のモデル施設とすること

を検討している。

私たちは、区の構想に加え、さらに 2 つ

の役割を担うべきであると考えている。1

つ目は、区に適した CO₂削減事業を実施す

ることである。前章で述べたとおり、削減

目標の達成は困難であり、従来の温暖化対

策に加え、新たに削減事業を実施すべきで

ある。区は、様々な削減事業を行っている

が、オンサイトで CO₂を削減する事業に偏

っている。CO₂をオンサイトで削減しつつ、

同時にオフサイト(オフセット)で CO₂を

削減することが望ましい。2 つ目は、区内

で働く人に環境配慮活動を実施・普及する

ことである。千代田区は、オフィスビルで

働く人が圧倒的に多く、就業区民向けの独

自の温暖化対策が必要だ。

2-3 千代田区における環境配慮活動の

拠点に適した運営形態

私たちは、エコセンターに適した運営形

態を検討するために、都内各区における環

境配慮活動の拠点の現状と課題及び運営形

態に関するシンポジウム4を開催した。表 1

は、シンポジウムに参加した都内各区の環

境配慮活動の拠点の運営形態をまとめたも

のである。

環境配慮活動の拠点の運営形態を大きく

分けると、指定管理者制度、区の直接運営、

業務委託の 3 つとなる。その中でも、エコ

センターに適した運営形態は指定管理者制

度である。指定管理者制度とは、公共施設

の管理を自治体の指定する事業者が代行す

る制度のことで、市民サービスの向上と経

費削減を目的として作られたものである。

指定管理者制度は営利活動を行うことがで

き、資金集め(募金活動等)を行い易い。

区内の様々な人材が運営や事業に関わりや

5

すいという利点もある。また、公募によっ

て数年周期で指定管理者を選定するため、

指定管理者の変更が可能である。区の直接

運営5の場合、営利活動を行うことが出来ず、

積極的な事業活動を行うことができないこ

とから、資金集めが制限される。さらに運

営や事業の実施において、他の運営形態と

比べると柔軟性に乏しい。業務委託6は区か

ら依頼された業務のみを行うため、独自の

事業を行うことが出来ない。

本論文では、指定管理者制度をエコセン

ターが採用することを前提として、2 つの

事業内容を提案する。1 つ目は、千代田区

内・区外でのカーボン・オフセット事業を

提案する。2 つ目は、オフィスビルで働く

人へ省エネ型ワークスタイルを導入・普及

することを目的とした事業を提案する。

第 3 章 千代田区内・区外でのカーボン・

オフセット事業

3-1 区内でのカーボン・オフセット事業の

提案

3-1-1 千代田区によるゼロ・エネルギー・

ビル(ZEB)の推進

ZEB とは、省エネルギー機器や再生可能

エネルギーの導入によって、運用時のエネ

ルギー収支を年間でゼロにする建物である。

千代田区は区内の温暖化対策のひとつとし

て、ZEB の推進を検討しているが、これは

あくまでエネルギー対策事業である。ZEB

を運用時のみではなく、製品(建築物)に関

する資源の調達から廃棄までの全ての環境

影響を評価する、ライフサイクルアセスメ

ント(以下、LCAと略す)で CO2排出量を見た

ものが図 2である。

※大成建設 HP を基に独自に作成

※ヒアリング調査を基に独自に作成

表 1【都内各区の環境配慮活動の拠点の運営形態】

図 2【LCA で見た ZEB の CO2 排出量】

6

運用時における CO2排出量は 69%を占めて

おり、建設時と解体時の CO2排出量は 31%

を占めている。ZEB はあくまで運用時のみ

を考えたものであり、建設時と解体時を含

めるとカーボン・ニュートラルにはならな

い。

3-1-2 カーボン・ニュートラル・ビル(CNB)

の提案

私たちは運用時だけではなく、建設時と

解体時を含めて CO2 収支をゼロまたは黒字

にするカーボン・ニュートラル・ビル(以

下 CNB と略す)を提案する。現状では、一

棟のビルのみ(オンサイト)でカーボン・

ニュートラルを達成することはできない。

LCA 全体でカーボン・ニュートラルを達成

するためには、運用時の CO2排出量をゼロに

するだけでなく、それ以上に CO2を削減しな

ければならない。表 2 は各建設会社が開発

した ZEB施設の例である。

清水建設はバイオマス発電を利用し、大

林組と三建設備工業株式会社は広大な敷地

を利用し、太陽光パネルを設置することで

運用時のエネルギーをゼロにすることを達

成している。大成建設は都市型の ZEB を建

設し、2015年度に運用時のゼロ・エネルギ

ー化をようやく達成した。しかし、現時点

で運用時のエネルギー収支をオンサイトで

マイナスにすることは技術的に不可能であ

る。そこで、私たちはカーボン・オフセッ

トを利用してオフサイトで建設時と解体時

の CO2排出量を相殺するしかないと考えた。

3-1-3 太陽光発電によるカーボン・

オフセット

私たちは、区内でカーボン・オフセット

を行う方法として、太陽光発電に注目した。

また、設置場所としては、未利用である区

営の集合住宅の屋根が望ましいと考えた。

区には区営の集合住宅が計 18施設あり、全

施設の屋根に太陽光パネルを敷き詰めるこ

※参考 URL5,6,7,8 を基に独自に作成

表2【各建設会社が開発したZEB施設の例】

7

とが可能であると仮定した。インターネッ

ト上の太陽光シミュレータ7を使って算定

したところ、年間予想 CO2 削減量は約

103t-CO2 であった。日本の平均的なオフィ

スビルの建設・解体時の CO2 排出量は、約

2,146t-CO28であり、このカーボン・オフセ

ットを利用することによって、21 年で CNB

を実現できる9。また、オフィスビルの平均

耐用年数である 50年で見てみると、設置可

能な屋根面積の内の 42%10でカーボン・ニ

ュートラルを実現できる。このことから、

区営の集合住宅の屋根を利用するカーボ

ン・オフセットでは、最大 2 棟までのカー

ボン・ニュートラルが実現できる。

3-2 区外でのカーボン・オフセット事業の

提案

3-2-1 区外でカーボン・オフセットを

行う意義

今後、エコセンター以外に、区の公共施

設を更新する際は、CNB を導入するべきで

ある。3 棟目以上の CNB を導入するには、

新たにオフサイトでカーボン・オフセット

を行わなければならない。区内での太陽光

発電によるカーボン・オフセット以外に、

遠方で行う区外でのカーボン・オフセット

が必要となる。

3-2-2 カーボン・オフセットを行う上での

理想的な CO2削減方法

区外でのカーボン・オフセットを行う上

で、理想的な CO2削減方法を考える。太陽光

発電に投資する企業 A と植林事業に投資す

る企業 B を比較した。国や自治体から、各

企業に CO2 を削減できないと罰金を払うと

いう削減義務が課せられていると仮定する。

企業 A は罰金相当額を太陽光発電に投資し、

CO2削減を行う。太陽光発電により、削減義

務分の CO2削減を達成したとする。しかし太

陽光発電は、建設時と解体時に CO2が排出さ

れてしまうため、その CO2削減するためのコ

ストが追加的にかかってしまう。そのため、

太陽光発電に投資する総コストが罰金額を

上回ってしまう。

一方で、植林事業に投資する企業 B は、

植林事業に罰金相当額を投資することで

CO2削減しようとする。植林事業も輸送運搬

の過程で CO2が排出される。しかし、削減量

自体は太陽光発電と比べると、同じコスト

で約 2.5 倍の CO₂を削減できると見込まれ

ている11。つまり理想的な CO2 削減方法は、

植林などの、炭素の固定化12である。炭素の

固定化には、植樹や間伐等の森林整備、果

樹の植栽、海での炭素の固定などの様々な

方法がある。炭素の固定化は森林のない千

代田区でも以下のように行われている。

2012年、千代田区は岐阜県高山市と森林

整備協定を結んだ。千代田区は、高山市へ

森林整備の費用として、年間約 100 万円を

提供している。その資金をもとに、高山市

は年間約 10ha の市有林の森林整備を行う。

事業によって得た CO2吸収量は区内の CO2排

出量をオフセットしている。また、区は姉

妹都市である嬬恋村と「ちよだ・つま恋の

森づくりツアー」を共同で行っている。植

林による炭素の固定化に加えて参加した区

民の環境教育に繋がっている。現在、区は

嬬恋村と森林整備協定を結んでいないが、

ヒアリング調査13によると、嬬恋村は森林整

備協定を結ぶことを望んでいる。また、区

も千代田区地球温暖化対策地域推進計画

2015で、嬬恋村と新規の森林整備事業を行

8

うことを構想している。

3-2-3 岐阜県高山市・群馬県嬬恋村との

カーボン・オフセットの拡大

私たちは、炭素の固定化こそ理想的な CO2

削減であり、区が温暖化対策として推進す

べきものだと考えている。そこで、現在行

われている高山市との森林整備事業をさら

に拡大し、嬬恋村との新規の森林整備事業

を行うことを提案する。千代田区が現在、

高山市と行っている森林整備で得た CO2 吸

収量は区内のCO2総排出量の約2万分の1に

過ぎない。しかしながら、これらの森林整

備事業を拡大することで、区の公共施設の

一部を更新する際の CNB 化を実現できる。

また、森林整備事業を行うことによって得

る CO2吸収量は、神田祭や区民体育大会など

の区内イベントの CO2 排出量をオフセット

できる。さらに、区営の集合住宅の屋根を

利用した太陽光発電やエコセンターの CNB

の見学ツアー、嬬恋村の植樹ツアーを実施

および継続することで、住民や就業就学者

への環境教育の拡充に繋がる。

3-3 ちよだ森づくりプロジェクト

カーボン・オフセットを拡大するためには、

区の税収以外の資金確保が必須である。そ

こで、私たちは、クラウドファンディング

を利用して、「ちよだ森づくりプロジェクト」

を立ち上げ、高山市、嬬恋村でのカーボン・

オフセットの資金を募ることを提案する。

クラウドファンディングのメリットは千代

田区以外の有志から資金を集めることが可

能である点だ。

実際のクラウドファンディングの形とし

ては、寄付型と物産提供型を考えた。寄付

型は、資金提供者にリターンが発生しない

ものであり、1円単位で受け付けるもので

ある。物産提供型は、定額で受け付け、資

金提供者へのリターンとして、高山市や嬬

恋村の物産を還元するものである。高山市

と嬬恋村はこのクラウドファンディングに

よって林業関連の雇用が創出された見返り

として、資金提供者に物産を提供する形で

ある。以上の 2 つの形でクラウドファンデ

ィングを行うことを提案する。

前述の有志、つまり資金提供者の候補と

しては、現在の千代田区民だけではなく、

就業就学区民や元区民、元就業就学区民な

どが挙げられる。また、エコセンターでも

同様の人々や区を応援している人などから

寄付を募る必要がある。さらに、エコセン

ターが神田祭等の区内のイベントにおいて

も寄付を募ることで資金を集める。クラウ

ドファンディングによって、カーボン・オ

フセットが拡大することで、千代田区の CO2

削減目標に貢献することができる。

第 4 章 省エネ型ワークスタイルの導入と

普及(事業案)

4-1 千代田区で省エネ型ワークスタイル

を導入・普及する意義

千代田区は、第1章で述べたとおり、昼

間人口が夜間人口の約 16倍である。昼間人

口の中では就業区民が約 87.5%を占めてい

る。また、東京 23区内で 4番目に事業所数

が多く、その大半がサービス業である。つ

まりオフィスビルで働く就業区民が多い。

CO2削減目標達成のためには、圧倒的な数を

占めるオフィスビルで働く人々が省エネ型

ワークスタイルを導入し、それを普及させ

ることが必要だ。

9

4-2 オフィス・アンプラグド・

キャンペーンの提案

4-2-1 オフィス・アンプラグド・

キャンペーンとは何か

本来アンプラグドとは電源を使用しない、

または最低限の電源で楽器を演奏すること

である。本提案はオフィスビルで働く各人

が一定時間、電力を使わない、もしくは最

低限の電力使用量で業務を行うことを実

施・普及するキャンペーンである。

資源エネルギー庁の『夏期最大電力使用

日の需要構造推計』によると、電力需要の

ピークである 14時前後は、業務部門におけ

るオフィスビルの電力需要が 40%を占めて

いる。つまりオフィスビルからの電力消費

量が多い。電力供給を安定させるためにも、

消費する電力を夜間に回すピークシフト、

もしくは電力を使用しないピークカットを

行う必要がある。

4-2-2 オフィス・アンプラグド・

キャンペーンの例

アンプラグドの実施対象として、パソコ

ン(以下、PC と略す)がある。12 時から

17時の間の約 2時間、電源プラグを抜いた

状態で PCを使用し夜間に充電を行う。図 3

はオフィスビルの電力需要構成である。

図 3よりオフィスビルにおける PCの電力

需要は 7%である。仮に千代田区の就業区

民約 70万人の内、半分の 35万人が PCのア

ンプラグドを行った場合、千代田区全体の

オフィスビルが使う電力の 3.5%をピーク

シフトすることが可能だ。

また、PC 以外ではコピー機やプリンタ、

FAXなどの OA機器や照明のアンプラグドが

実施可能である。同じく、これらの機器の

使用を控えることによって、ピークカット

を行う。OA 機器の電力需要は 15.5%14であ

り、大幅なピークカットが見込まれる。

4-3 オフィス・アンプラグド・

キャンペーンの実施と普及

4-3-1 千代田区内の企業による

アンプラグド

現在、区内でアンプラグドを実施してい

る企業は数多くある。例えば、山崎製パン

株式会社は、離席する際に PCを「スタンバ

イモード」、または「モニター電源オフ」に

設定している15。また、三幸株式会社は PC

を省エネモードにし、5分でディスプレイ

がオフに 10 分でスリープモードになるよ

うに設定している16。他にも多くの企業が節

電行動を実施している17。節電行動を行って

いる企業が多い中、オフィス・アンプラグ

※資源エネルギー庁「夏期最大電力使用日の需要構造推計(東京電力管内)」を基に独自に作成

図 3【オフィスビルにおける 14 時断面の電力需要構成】

10

ド・キャンペーンを行う目的は、節電行動

に統一したネーミングをつけ、区内のオフ

ィスで働く個人を巻き込んだムーブメント

を起こすことだ。この場合、企業は各個人

の活動を応援するサポーターに徹する。

4-3-2 オフィス・アンプラグド・

キャンペーンを実施・普及させる

方法

本提案の実施・普及には、オフィスで働

く各人が、自発的に取り組むことが不可欠

である。アンプラグドを行う意義は、節電

行動を行うことで他者から称賛され、承認

欲求が満たされることだ。

また、本提案を実施・普及させる方法と

して、キャンペーンのロゴをエコセンター

が作成し、流布させることを提案する。さ

らに、ロゴ入りのステッカーや物品を参加

者に提供することで、参加しやすくすると

共に、参加者の輪を広げることが可能にな

る。

おわりに

本論文では、千代田区内・区外でのカー

ボン・オフセット事業案(エコセンターの

CNB 化を含む)と省エネ型ワークスタイル

の導入と普及の事業案の 2 つを提案した。

私たちは、エコセンターがオンサイトとオ

フサイトの CO2 削減をつなげるプラットフ

ォームになると考える。今後の展望として、

私たちの提案したエコセンターによる事業

案が実現した場合、区内の CO2 排出量が削

減され、千代田区の CO2 削減目標の達成に

貢献することができると考える。

本研究は「千代田区内大学と千代田区の

連携協定に関する基本協定」に基づき、平

成 16 年度から各大学が行う千代田区に関

する様々な現象を 1 つの学問として学ぶ

「千代田学」の一環として行われた。最後

に、この論文作成にご協力頂いた千代田区

をはじめとする各行政機関および、各企

業・団体・個人の方々に感謝の意を述べ、

この論文を結ぶ。

【注釈】 1 低炭素社会の実現に向け高い目標を掲げ、

先駆的な取組にチャレンジする都市・地

域として日本政府より選定された自治体

のこと。 2 高山市との森林整備事業での CO2削減量

は 4,290tであり、千代田区の CO2排出量

は 235,000tである。 3 千代田区 HP「千代田区環境モデル都市第

2期行動計画への意見公募の結果公表」

より 4 シンポジウム「都市部におけるエコ活動

拠点のあり方」-低炭素コミュニティの協

創に向けて- 大森ゼミナール主催で、

2015年 11月 14日(土)明治大学にて開

催した。 5 区の直接運営とは、施設の設置、運営を

自治体が直接担う方法である。管理運営

の責任が明確で信頼性、継続性が高く、

行政目的に沿った管理運営を行いやすい。 6 業務委託とは、管理責任や処分権限を自

治体に保留したうえで、自治体が設定し

た管理や処分の方法に従って施設を運営

することである。 7 省エネドットコムの HP上にある太陽光シ

ミュレータを利用した。これは、住所と

屋根の傾斜を設定し、屋根面と斜面の向

きを設定することで、年間予想発電量と

年間予想 CO2削減量が算定できる。 8 日本の平均的なオフィス(50 人が利用す

るオフィス)の年間 CO2 排出量は

136.5t-CO2 である。また、大成建設ホー

ムページより、35 年間のライフサイクル

CO2 では、建設・解体時の CO2 排出は

約 31%であり、運用時のCO2 排出は 69%

である。よって、

11

136.5×35=4777.5

4777.5 × 31

69=2146.41 = 2

以上より、建設・解体時の CO2 排出量を

2146t-CO2とした。

9 2146

103=20.83…

以上より 21 年でカーボン・ニュートラル

が達成できる。

10 2146

50×103=0.416…

以上より 42%でカーボン・ニュートラル

が達成できる。 11 高知県環境部林業環境政策課 HPより、

CO2を 1万 t削減するためには、再エネ

への置き換えの場合、3億 600万円かか

るのに対し、森林整備の場合、1億 2400

万円で削減が可能である。 12 植物が光合成により取り込んだ CO2 と

呼吸により排出される CO2 の差を内部

に貯蔵する。 13 2015年 5月 24日群馬県嬬恋村役場の総

合政策課長である下谷彰一様にヒアリン

グ調査をした。 14「Office Automation」の略。企業などで

使われる情報機器の総称で、本論文では

PC、FAX、プリンタ、コピー機を含めてい

る。 15 千代田区 HP「地球温暖化配慮行動の主

な取り組み事例集」より 16 千代田区 HP「地球温暖化配慮行動の主

な取り組み事例集」より 17 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社、

日立インターメディックス株式会社、日

本製紙株式会社、三菱地所株式会社、和

光堂株式会社、高砂熱学工業株式会社な

ど。区の HPに毎年事業所の取り組みが公

表されており、平成 27 年度においてはエ

コ活動事例集が発行される。

【参考文献・URL】

1. 千代田区(2015年 9月 16日閲覧)

https://www.city.chiyoda.lg.jp/ind

ex.htm

2. 総務省統計局「平成 22年国勢調査」

(2015年 9月 16閲覧)

http://www.stat.go.jp/data/kokusei

/2010/index.html

3. 富士ゼロックス HP「日本のオフィスの

平均的 CO2排出量試算と削減の可能性

検討」(2015年 9月 23日閲覧)

http://www.fujixerox.co.jp/company

/eco/office/solution/software/data

/eco_software_

4. 大成建設「ZEB実証棟」(2015年 11月

2日閲覧)

http://www.taisei.co.jp/giken/topi

cs/1353301853006.html

5. 大成建設「ライフサイクル CO2による

建物環境負荷評価」(2015 年 11月 4日

閲覧)

http://www.taisei.co.jp/kankyou/en

v_fair/sekkei/03.html

6. 清水建設「生長の家、森の中のオフィ

ス」(2015年 10月 13日閲覧)

http://www.shimz.co.jp/tw/works/01

office/jp_off_201305_seichonoie.ht

ml

7. 大林組「本館テクノステーション」

(2015年 10月 13日閲覧)

https://www.obayashi.co.jp/tri/tec

hnostation/

8. 三建設備工業「つくば未来技術センタ

ー」(2015年 10月 13日閲覧)

http://www.skk.jp/technology/tsuku

ba-mirai.html

9. 省エネドットコム「太陽光発電シミュ

レーション」(2015年 11月 10日閲覧)

http://www.shouene.com/simulation/

10. 高知県林業環境政策課 PDF「森林吸収

源対策等を推進するための税財源の確

12

保」

11. 総務省統計局「平成 24年経済センサス」

(2015年 11月 20日閲覧)

http://www.stat.go.jp/data/e-censu

s/2012/

12. 日経アーキテクチュア「23区の大規模

プロジェクト」(2015 年 11月 27日閲

覧)

http://www.nikkei.com/article/DGXM

ZO85942340R20C15A4000000/

13. 資源エネルギー庁 PDF「夏季最大電力

使用日の需要構造推計」(2015年 11月

27日閲覧)

14. 首相官邸「環境モデル都市と環境未来

都市」

(2015年 12月 17日閲覧)

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/t

iiki/kankyo/pdf/kankyo_gaiyo.pdf

【調査協力企業・団体】

1. 品川区環境情報活動センター 大島正

幸様(訪問日 2015年 5月 2日)

2. 中央区立環境情報センター 松田真実

様(訪問日 2015年 5月 18日)

3. エコギャラリー新宿様(訪問日 2015年

5月 18日)

4. 群馬県嬬恋村総合政策課課長 下谷彰

一様(訪問日 2015年 5月 24日)

5. 港区立エコプラザ 水野さえ子様 (講

演日 5月 28日)

6. かつしかエコライフプラザ様 (訪問日

2015年 6月 22日)

7. 江東区環境学習情報館(えこっくる江

東)上原新次様(訪問日 2015年 6月 23

日)

8. 株式会社オルタナ 森摂様 (講演日

2015年 6月 25日)

9. 目黒エコプラザ様(訪問日 2015年 7月

23日)

10. えどがわエコセンター 小林豊様(訪問

日 2015年 7月 23日)

11. あらかわエコセンター様(訪問日 2015

年 7月 29日)

12. カーボンフリーコンサルティング株式

会社 池田陸郎様(講演日 2015年 7月

31日)

13. 株式会社マルチメディアシステム 伊

藤裕様(講演日 2015年 10月 8日)

14. 大成建設株式会社(訪問日 2015年 11月

6日)

15. 千代田区エコセンタービジョン検討会

にご出席の皆様

16. シンポジウム「都市部におけるエコ活

動拠点のあり方」にご出席の皆様