一般化パートン分布関数と横運動量依存分布関数 - kek...s. arnold et al., arxiv :...

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一般化パートン分布関数 と 横運動量依存分布関数 1. 始めに 2. 横運動量依存分布関数 3. 一般化パートン分布関数 4. 横運動量依存分布関数 と 軌道角運動量 5. まとめ 目次 Masashi Wakamatsu , Osaka University : KEK, 2011

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  • 一般化パートン分布関数 と横運動量依存分布関数

    1. 始めに

    2. 横運動量依存分布関数

    3. 一般化パートン分布関数

    4. 横運動量依存分布関数と軌道角運動量

    5. まとめ

    目次

    Masashi Wakamatsu , Osaka University : KEK, 2011

  • 1. 始めに

    一般化パートン分布関数と横運動量依存分布関数は、通常のパートン分布関数の3次元的一般化であり、共通のmother distributionから得られると言う意味で兄弟の関係にあるとも言われる。(Belitsky, Ji, Yuan, 2004)

    ここで

    GPD

    TMD

    実際には、これらの2つは生まれも育ちもかなり異なる物理量である。

    mother 分布

  • GPDの理論的枠組みは、既にかなり成熟したレベルにある。

    Collinear factorizationの枠組みで解析可能 (DVCS, HEMP 過程、等)

    GPD は、light-cone 上で、bi-localで gauge-invariant なクォーク、グルオン演算子の off-forward matrix elementとして曖昧さなく定義される。

    GPDのモーメントは既知の hadronic form factorや、その一般化を含み、前方極限では通常の PDFに帰着する。

    GPDの座標空間へのフーリエ変換である impact parameter space PDF は座標空間における確率密度としての解釈を有し、通常のPDFの自然な3次元的拡張になっている。(Burkart)

    Leading-twist で、既に、factorization が証明されている。(Collins)

    Nucleon spin contentsを探る曖昧さのない手段を提供する。(Ji の和則)

  • 一方、TMD の理論的基盤はまだまだ不満足な点が多い。

    核子中のパートンの運動は3次元的であるはずなので、縦方向運動量比と横運動量 の関数である TMDは通常の PDFの自然な拡張のはず?

    しかし、collinear factorization を越える枠組みが要求される TMD の定式化には、通常の PDF のときにはなかった様々な困難が現れる。

    一旦、量子補正を考慮すると、gauge-invarianceかつ process independence (factorization)を満たす TMD の存在自体が必ずしも自明ではない。

    final (initial) state interactionの役割?

    Transverse motion と軌道角運動量の定量的な関係?

  • 2. 横運動量依存分布関数

    TMD 理論の基本的な問題点

    [復習] standard PDF

    with

    PDFのゲージ不変性を保証する gauge link は、たたき出されるクォークと標的spectator との終状態相互作用の効果を取り入れていると解釈されている。

    Light-cone (LC) gauge の極限 では

    なので、終状態相互作用は消えて、PDF は素朴な確率解釈が可能。

  • TMD への自然な一般化?

    with

    LC gauge の gauge field は、residual gauge 変換の自由度のため、propagator の 特異性の避け方に不定性が生じるので、無限遠 での境界条件をつけてこの自由度を固定する。

  • 重要な事実は、次の条件を同時に満たす gauge choice は存在しないことである。

    LC gauge では、LC に沿った gauge link は消失するが、横方向への gauge linkは残る。

    それゆえ、 LC gauge でも、終状態(始状態)相互作用の効果が残る。

    ユニタリ性のため

    しかし、この経路は、 と を結ぶ straight path とは異なる!

    TMD の定義は、一般に、gauge link path に依存する!

    SDIS path

  • これまでにわかっている重要な事実

    2つの (naïve) T-odd TMDs は、 gauge link (終/始状態相互作用)を取り入れたときにのみ、0でない。(Brodsky, Hwang, Schmidt, 2002)

    LC gaugeでは、無限遠での gauge linkが本質的。 (Belitsky, Ji, Yuan, 2002)

    Drell-Yan 過程に対する gauge-link は、もう一つのハドロンからの annihilation partner の軌跡が、 から始まることに対応して、SIDIS のものとは異なる。(Collins, 2002)

    T-odd TMD に対する重要な帰結

  • [Reminder] 核内の核子の運動量分布を探る

    もし、終状態相互作用が無視できるならば、この反応は核子の運動量分布の直接的プローブを提供する。

    現実には、終状態相互作用は無視できない。いわゆるWKB (eikonal) 近似で、観測にかかるのは、distorted momentum distributionである。

  • SIDISに対する 1-loop での factorization の証明 (Ji, Ma, Yuan, 2005)

    非偏極構造関数

    tree level を超えると、soft-gluon の輻射に起因する rapidity divergence のために、TMD クォーク分布は、通常の collinear factorization scale だけでなく、gluon rapidity cutoff 因子 にも依存する量になる。

  • TMD の定義式

    ただし、Collins によって指摘されたように、gauge link path を、 straight light-like にとると、この TMD は、zero plus-momentum の virtual gluonに由来する対数発散を有する。これを避けるために、4元ベクトル で規定される non-light-likeな gauge link をとらなければならない。

    困ったことに、このように定義された TMD は、 積分の後に、通常の PDF に帰着しない!

    この結果、TMD には、エネルギー依存無次元パラメターに対する依存性が生じる。構造関数は、このパラメターに依存すべきでないので、これに対する繰り込み群方程式が導ける。 (Collins, Soper, Sterman)

  • 小さな横方向運動量での素朴な factorization は collinear anomaly のために破れ、 - dependent PDFの定義に困難を引き起こす。 ( は にconjugateな座標変数)

    Drell-Yan 過程に対する factorization の証明 (Becher, Neubert, 2010)

    factorization theorem は、2つのTMD の積についてのみ証明できる。(積のみが well-defined) ただし、hard momentum transfer に対する依存性は次のような形で分離できる。

    このようにして定義された TMD が universal (process-independent) かどうかはわからない。また、おそらく以下の条件を満たさない。

  • TMD の定義 (もう一つの試み)

    Collins, Hautmann, Phys. Lett. B472 (2000) 129.

    Cherednikov, Stefanis, Nucl. Phys. B802 (2008) 146.

    定義に、light-like gauge link を採用するが、soft gluon に起因する発散を、soft factorにより相殺するように、TMD の定義を修正する。

    ただし

    Gauge link の真空期待値

  • modified TMD の利点

    しかし、難点は

    積分すると、通常の PDF に帰着する! ( reducibility )

    簡単な繰り込み群方程式を満たす。( に対して)

    具体的な反応過程での factorization の証明は存在しない。

    結局のところ、最も基本的な T-even の非偏極 TMDでさえ

    factorization proof

    universality & reducibility

    の間の深刻な対立が解消されていない?

  • TMD の現象論的解析

  • TMD の現象論的解析

    現段階でのTMD (特に、方位角依存構造関数)の現象論的解析は、tree-levelの近似の下でなされている。(スケール依存性無視)

    HERMES group や、 COMPASS group の SIDIS 実験データの解析から、既に、transversity や、 Sivers function が引き出されている。

    M . Anselmino et al., Eur. J. Phys. A39 (2009) 89.

    S. Arnold et al., arXiv : 0805.2137 [hep-ph].

    これらの現象論的解析では、 TMD に対して factorized hypothsis が用いられ、 依存性は、フレーバー非依存の Gauss 型が仮定されている。

    with

    warm-gear TMD の測定も報告されている。

    J. Huang, and X. Jiang, JLab experiment E06-010/011.

  • Lattice QCD に基づく TMD の研究 (U. Musch et al. arXiv : 1011.1213)

    TMD の定義式

    TMD は path に依存

    straight gauge link approx.SIDIS path

  • Lorentz structure

    etc.

    TMD sample

    etc.

    ただし

    Lattice QCD simulation でアクセスできる運動学的領域には制限がある。

  • Lattice QCD で -分布を計算できないことに対応!

    特に では、 は、1点 でしか得られない!

  • [注意] Direct gauge link の制限のため T-odd TMD = 0!

    ただし

    いわゆる worm-gear function を通じたクォーク密度分布の変形等が観測された。

    (2) TMDの factorization hypothesis の検証

    簡単化された geometry (direct gauge link) 、Gaussian fit model などの仮定、等の制限下、 TMD の予備的研究を行った。

    (1) T-even TMD の低次の -モーメントの計算

  • TMD における変数 と の相関の検証

    または

    以下の normalized amplitude を導入して、その 依存性を調べた。

    次ページの図参照

    [結論]

    factorized hypothsis からの有意のズレは見いだせなかった。

  • 比較された模型は、Bacchetta らの diquark spectator model

  • TMD の factorized ansatz は、ほとんどの模型で多かれ尐なかれ破れている。

    反クォーク分布を含めて通常のクォーク分布に対して最良の予言を与えることができるのは Chiral Quark Soliton Model (CQSM) であるが、TMD に関しては今のところ、iso-singlet の非偏極分布の計算があるのみである。

    他の多くの模型にない特徴は、横方向運動量 で積分した 分布を見ればわかる。

    反クォーク分布の正値性

  • Factorized ansatz の検証 (CQSM)

    劇的に破れている!

    クォークと反クォークに対する平均横方向運動量(2乗)

    反クォークの方が、 分布がより大きな広がりを持つ!

    軌道角運動量 への大きな寄与?

  • 3. 一般化パートン分布関数

    deeply virtual Compton scattering (DVCS), hard exclusive meson production

    (HEMP) 等の hard exclusive reaction の QCD-description の中に現れる。

    kinematics と定義

    ここで

  • の GPD のフーリエ変換である impact parameter dependent GPD (Burkardt, 2000) は理論的に多尐簡単になるので、Lattice QCD や模型などで多くの研究がなされている。

    -空間での3次元構造

    既に、COMPASS, HERMES, JLab の実験による大量のデータの蓄積がある。

    GPD の枠組みでの実験データの解析には3変数の関数である GPD のmodelingが不可欠である。(特に、 -依存性の modelingが難しい。)

    最近、Ji の核子スピン和則と関係する核子スピンの分解に関して意外な進展があった。

  • Ji の核子スピン和則 (Ji, 1997)

    ここで

    COMPASS, HERMES, RHIC 等の実験で測定された は和則に入ってこない!

    なぜならこの時点では、グルオンの全角運動量のスピンと軌道角運動量へのゲージ不変な分解は存在しないと信じられていたからである。

  • ところが、最近、Chen et al. が、核子スピンの新しいゲージ不変な分解を提唱し論争を巻き起こしている。

    基本的なアイデア

    with

    and

    各項は別々にゲージ不変 !

    最終的に

    X.-S. Chen et al., Phys. Rev. Lett. 103, 062001 (2009) ; 100, 232002 (2008).

  • Chen et al. の分解を、角運動量ではなく、核子の運動量に適用すると

    ただし

    この分解は、標準的に受け入れられている分解

    とは本質的に異なっており、核子中のクォークとグルオンの運動量比の漸近値に対して次の非標準的な予言に導くと主張された。

  • 最近、以下の論文において、この主張に対する反論が提出された。

    M.W., Phys. Rev. D81 (2010) 114010, and arXiv:1007.5355 (Phys.Rev. D)

    [主な結論]

    核子スピンの4つの項へのゲージ不変な分解は確かに可能である。しかし、その分解の仕方は必ずしも一意的ではない。

    ゲージ不変であるのみならず、Lorentz-frame independent な分解が可能。

    基本的には、2つの独立な分解が存在する。

    all gauge-equivalent !

  • 分解 (I)が推奨の分解である。なぜなら、この分解に現れるクォークとグルオンの軌道角運動量は、高エネルギー観測量と結びつけられるからである。

    with

    with

    dynamical OAM canonical OAM

    さらに

    canonical OAM potential angular momentum

    dynamical OAM

    Feynman paradox

  • pretzelosity分布 ( T-even, chiral-odd TMD 分布 )

    MIT bag 模型で (後に、scalar diquark 模型でも)

    • pretzelosity 分布は、相対論的効果、または、quark OAM の目安を与える!

    • pretzelosity 分布の存在は、核子の球形からのずれの目安でもある!

    4. 横運動量依存分布関数と軌道角運動量

    H. Avakian et al., Phys. Rev. D78, 114024 (2008).

    G. A. Miller, Phys. Rev. C68, 022201 (2003).

  • さらに最近、MIT bag 模型で

    最後の関係式は

    から容易に推察できる。なぜなら、MIT bag 模型の基底状態の w.f.

    より

    pretzelocityの測定 Quark OAM ?

    H. Avakian et al., arXiv : 1001.5467 [hep-ph].

  • これより

    ところで

    因みに、MIT bag 模型における磁気能率は

  • SU(6)-like スピン-フレーバー構造も考慮したMIT bag 模型の予言

    • MIT bag 模型では、dynamical OAM と、canonical OAM の区別なし!

    • スケール依存性を考慮しても、CQSMや lattice QCDの予言と矛盾?

    Pretzelocity で測れる OAM の意味は?

    GPDs

  • [Reminder] 原子核物理における軌道角運動量の例

    重陽子における D-state probability テンソル力の強さ

    観測量ではない! ( Amado, 1979, Friar, 1979, Bogner et al, 2010)

  • 5. まとめ

    量子補正を考慮すると、gauge-invarianceと factorization (universality) を満たす TMDの存在自体が必ずしも自明とは言えない。 特に

    実験的に最も重要な課題は、Drell-Yan 過程、または、W-production 過程における Sivers function の sign change を確認することであろう。

    TMD と軌道角運動量の関係は、それ自体非常に興味深いものであるが、

    あくまで、定性的なもの(模型依存)であり、尐なくとも、核子スピン分解における定量性に関しては限定的と言えるかもしれない。

    一方、GPDの枠組みに基づく核子スピンの完全分解(4つの部分への分解)には堅固な理論的基盤が与えられた。

    相対論的(場の理論的)束縛状態のスピンの起源の完全理解!

  • [Backup slides]

  • with the full gauge field, not the “canonical momentum”

    or its “nontrivial gauge-invariant extension”

    Chen’s decomposition is not recommendable, because the knowledge of standard

    electrodynamics tells us that the momentum appearing in the Lorentz force

    equation of motion of a charged particle is the so-called “dynamical momentum”

    Similarly, the orbital angular momentum, accompanying the mass flow of a

    charged particle, is the “dynamical OAM”

    not the “canonical OAM” .

  • Gauge-invariant decomposition (I) : our recommendable decomposition

    with

    generalized potential OAM term !

    The point is that we can show that the quark and gluon OAMs in this

    decomposition can be related to experimental observables !

  • Gauge-invariant decomposition (II) :

    with

    This decomposition reduces to any ones of Bashinsky-Jaffe, of Chen et al., and

    of Jaffe-Manohar one, after an appropriate gauge-fixing in a suitable Lorentz

    frame, which means that these three decomposition are all gauge-equivalent !

    They are not recommendable decompositions, however, because the quark and

    gluon OAM parts in those do not correspond to any experimental observables !