岐阜県ツキノワグマの個体数推定(2012 ·...

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1 岐阜県ツキノワグマの個体数推定(2012 年) 委託先:兵庫県立大学 自然・環境科学研究所 坂田宏志先生 太田海香先生 要約 岐阜県のツキノワグマの自然増加率や生息個体数などの推定を、捕獲数の変動を主要な情 報とした Harvest-based model を基本モデルとした階層ベイズモデルを構築し、マルコ フ連鎖モンテカルロ法によって行った。 推定には、有害捕獲数、出没件数、堅果の豊凶指数などのデータを用いた。 岐阜県内の個体群を北アルプス個体群と白山・奥美濃個体群の 2 つの個体群に分けて推定 した。 将来予測を行うことも考慮して、密度効果を考慮したモデルの検討も行った。 推定年度を、出没数や捕獲数が多い年(2006 )から始める場合、および平年並みの年(2004 )から始める場合の2つのパターンで推定した。 自然増加率の中央値は、北アルプス個体群で 1.196~1.309、白山・奥美濃個体群で 1.175 1.298 と推定された。密度効果の影響は両個体群ともにほとんどみられなかった。 個体数は、どちらの個体群とも推定年度に関わりなく増加傾向にあった。2004 年から推 定を開始した場合には、 2006 年から推定を開始した場合よりも推定値が高くなった。 2004 年から推定した場合、 2011 年の北アルプス個体群の個体数の中央値は 1353.4 頭(90%信 頼限界では 427.74548.2 頭)、白山・奥美濃個体群の中央値は 643.9 頭(90%信頼限界 では 2312124.4 頭)、2006 年から推定した場合、北アルプス個体群の中央値は 962.8 頭(90%信頼限界では 300.33412.2 頭)、白山・奥美濃個体群の中央値は 600.7 頭(90信頼限界では 181.22063.8 頭)と推定された。

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Page 1: 岐阜県ツキノワグマの個体数推定(2012 · 化された指数とし、事前分布も期待値0、分散1 の正規分布とした。 N[2008](2008年の生息個体数):

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岐阜県ツキノワグマの個体数推定(2012 年)

委託先:兵庫県立大学 自然・環境科学研究所

坂田宏志先生 太田海香先生

要約

・ 岐阜県のツキノワグマの自然増加率や生息個体数などの推定を、捕獲数の変動を主要な情

報とした Harvest-based model を基本モデルとした階層ベイズモデルを構築し、マルコ

フ連鎖モンテカルロ法によって行った。

・ 推定には、有害捕獲数、出没件数、堅果の豊凶指数などのデータを用いた。

・ 岐阜県内の個体群を北アルプス個体群と白山・奥美濃個体群の 2 つの個体群に分けて推定

した。

・ 将来予測を行うことも考慮して、密度効果を考慮したモデルの検討も行った。

・ 推定年度を、出没数や捕獲数が多い年(2006年)から始める場合、および平年並みの年(2004

年)から始める場合の2つのパターンで推定した。

・ 自然増加率の中央値は、北アルプス個体群で 1.196~1.309、白山・奥美濃個体群で 1.175

~1.298 と推定された。密度効果の影響は両個体群ともにほとんどみられなかった。

・ 個体数は、どちらの個体群とも推定年度に関わりなく増加傾向にあった。2004 年から推

定を開始した場合には、2006年から推定を開始した場合よりも推定値が高くなった。2004

年から推定した場合、2011 年の北アルプス個体群の個体数の中央値は 1353.4 頭(90%信

頼限界では 427.7~4548.2 頭)、白山・奥美濃個体群の中央値は 643.9 頭(90%信頼限界

では 231~2124.4 頭)、2006 年から推定した場合、北アルプス個体群の中央値は 962.8

頭(90%信頼限界では 300.3~3412.2 頭)、白山・奥美濃個体群の中央値は 600.7 頭(90%

信頼限界では 181.2~2063.8 頭)と推定された。

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1. はじめに

2012 年末までに得られたデータから、岐阜県におけるツキノワグマの最近の自然増加率や

生息個体数などの推定を行った。

推定方法は、捕獲数の変動を主要な情報とする Harvest-based model を基本モデルとして

用い、マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)による階層ベイズ推定を採用した。有害捕獲

数、出没件数、堅果の豊凶指数などのデータを用いて、自然増加率、個体数の他に、捕獲率

や個体数と出没件数に関する係数、出没件数や捕獲数を左右する誤差変動の大きさを推定し

た。

特に注意を要した検討事項

・増加率における密度効果の導入

現時点では密度の変動が小さく密度効果の検出は難しいと考えられるが、将来予測などを

行う場合のことも考慮し、密度効果を考慮したモデルの検討も行った。

・推定年度の違い

出没や捕獲が特異的に多い年から推定を始める場合と、平年並みの年から推定を始める場

合での推定結果の違いを検討した。

2. 方法

対象とする期間と地域

対象期間は 2004 年から 2011 年までと 2006 年から 2011 年までの 2 期間で推定した。対

象個体群は岐阜県北アルプス地域個体群と白山・奥美濃地域個体群である。

用いたデータ

推定にあたっては、次にあげるデータを用いた(表 1-2)。

出没件数 sight[i] :i 年のクマの出没件数であり、個体数を反映する指標として用いた

捕獲数 ct[i] :捕殺・非捕殺を問わず、i 年に捕獲された個体数。狩猟による捕獲数、有害

捕獲数、交通事故死亡数の合計値。

有害捕獲数 yugai[i] : i 年に許可された有害捕獲数。個体数の動向を反映する指標として

扱った。

捕殺数 kill[i] :i 年の狩猟や有害捕獲による捕殺数と交通事故などの人為的死亡数の合計値。

堅果類の豊凶指数 nut[i]:i 年の豊凶指数。豊凶指数は樹種ごとの面積割合から年ごとに重

みづけ平均を算出し、それを平均 0、分散 1 に標準化して用いた。

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表1 北アルプス地域個体群データ

表 2 白山・奥美濃地域個体群データ

年度 出没件数 有害捕獲数 捕殺数 捕獲数 豊凶指数

2004 70 44 50 52

2005 50 11 38 38

2006 275 124 132 139

2007 138 33 67 68

2008 167 20 54 55 3.775851

2009 184 26 69 69 3.500619

2010 591 148 163 170 0.450155

2011 196 45 66 66 2.4

年度 出没件数 有害捕獲数 捕殺数 捕獲数 豊凶指数

2004 94 37 68 75

2005 40 9 19 19

2006 367 122 124 143

2007 90 31 32 37

2008 77 15 35 38 2.085927

2009 78 19 27 27 8.65674

2010 317 87 84 94 1.200289

2011 76 12 17 18 10.19132

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推定するパラメータ

各推定変数の定義と事前分布設定の際の考え方は、以下のとおりである(表 3)。

ire (自然増加率):ire[i]= exp(lire+irr*log(nut[i]))

出生と自然死亡の結果としての雌雄合わせた全個体数に対する増減の比率で、豊凶によって

変動すると仮定した。MCMC では上の式の中の lire と irr を推定する。lire の事前分布は環

境省自然環境局生物多様性センター(2011)と同じ事前分布を用いる。irr については、兵庫

県のツキノワグマ(坂田ほか 2011)の事例と大きく変わらないと考えられることから、坂田

ほか(2011)と同様に設定した。また、増加率 lire と増加率に対する堅果の影響 irr につい

ては地域個体群で同じと仮定した。

pce(有害捕獲率):pce[i]=1/(1+exp(-(pcp+pcr* log(nut[i]))))

pce は有害捕獲による捕獲率で、MCMC では上の式の中の pcp と pcr を推定する。pcp と pcr

の事前分布は事前情報が少ないため、分散を大きめにとり 5 に設定した。pcp については 2

地域で異なり、また豊凶によって捕獲率が変動するとした。

pse(個体数と出没件数の比率を示す係数):pse[i]= exp(psp+psr* log(nut[i]))

pse はクマ 1 頭当たりの出没件数で、MCMC では上の式の中の psp と psr を推定する。psp

と psr の事前分布は事前情報が少ないため、分散を大きめにとりの5に設定した。psp につ

いては 2 地域で異なり、また pse は豊凶によって変動するとした。

nut[i](調査の行われていない年の堅果類の豊凶指数):

具体的にはそれぞれの地域の 2004~2007 年の豊凶指数を推定した。平均 0、分散 1 に標準

化された指数とし、事前分布も期待値 0、分散 1 の正規分布とした。

N[2008](2008 年の生息個体数): N[2008]= (exp(lnN))

lnN の事前分布は正規分布とし、それぞれの地域の期待値に関しては岐阜県特定鳥獣保護管

理計画に掲載されている推定値を用いる。また事前分布の 95%信頼限界がそれぞれの地域個

体群全体の推定値(北アルプス:約 3,500 頭、白山・奥美濃:約 2,000 頭)になるように、

分散を広めに設定した。

lk(環境収容力の自然対数値):k=exp(lk)

森林面積 1km2当たりの環境収容力 k を推定した。

sightv、ctv(出没件数、有害捕獲数の期待値からの誤差分散):

それぞれ、観測モデルで示す確率分布の誤差分散として推定した。

各推定変数の初期値は、事前分布の期待値とした。

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表3 推定した変数とその初期値および事前分布

パラメータ 初期値 事前分布 備考

lire 0.1148 normal(0.1148,var=0.05)

irr 0 normal(0,var=0.01)

psp -4.8602 normal(log(1.15)-0.5*10, var=10) 2地域で異なる

psr 0 normal(0,var=5)

pcp -1.3863 normal(log(0.2/(1-0.2)),var=10) 2地域で異なる

pcr 0 normal(0,var=5)

lnN 6.7464 normal(log(851),sd=0.721482) 北アルプス

6.1696 normal(log(478),sd=0.7302509) 白山・奥美濃

sightv 0.1000 igamma(0.01,scale=0.01)

ctv 0.1000 igamma(0.01,scale=0.01)

nut 0 normal(0,var=1) 2地域で異なる

lk 4.6052 normal(log(100),var=1)

過程モデル

個体群動態の過程モデルは、全生息個体数は 2008 年を起点とし、

2008 年から現在への個体数は、

N[i+1]=(ire[i] *N[i]/( 1+ß[i]* N[i]))-kill[i]

ß[i]=( ire[i]-1)/(k*f_area)

(i=2008,2009,2010 のとき)

2004-2007 年までの個体数は

N[i-1]=(kill[i-1]+N[i])/(ire[i-1]-ß[i-1]*(kill [i-1]+N[i]))

ß [i-1]=( ire[i-1] -1)/(k*f_area)

(i=2008, 2007,…,2005 のとき)

のように計算する。

ここで、N[i]と β[i]は i 年の生息個体数と密度効果の強さを示す。また、f_area は、各地域

の森林面積(単位:km2)を表す。

なお、生息個体数は自然増加数から捕獲数を差し引き、1 年の中でもっとも個体数が少な

い時点を想定している。

観測モデル

推定する個体数と観測されるデータとの関係を示す観測モデルは以下のとおりとする。

有害捕獲数に関する観測モデル

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log(yugai[i]) ~ normal(μ=log(pce ×N[i])-0.5*ctv, σ2=ctv)

出没件数に関する観測モデル

log(sight[i]) ~ normal(μ=log(pse ×N[i])-0.5*sightv, σ2=sightv)

なお、対数変換の過程で生じる期待値のずれを補正するために-0.5* sightv と-0.5*ctv を加え

た。

マルコフ連鎖モンテカルロ法

これまで述べたデータとモデルおよび事前分布の設定に基づいて、SAS/STAT9.3 の

MCMC Procedure を用いて(SAS Institute Inc. 2011)推定を行った。サンプリングはマル

コフ連鎖モンテカルロ法(Gilks et al. 1996)の一つであるメトロポリス法によって行い、パ

ラメータの事後分布を推定した。ただし、推定個体数がその年の全捕獲数を下回る場合はサ

ンプリングを行わないとした。

初期値の影響が残る最初の 500 万回はサンプリングを行わない Burn-In period とし、次の

1000 万回のうち 1000 回に 1 回サンプリングし、計 1 万回のサンプリングを行った。

収束判定

収束判定は、有効サンプルサイズ(Kass et al. 1998)と Geweke 検定(Geweke 1992)の

2 つの基準で確認した。有効サンプルサイズによる判定では、これが 1,000 以上であること

を基準とした。Geweke 法では、サンプリングされたデータのうち、最初の 1,000 回と最後

の 5,000 回の期待値の差を検定し、棄却水準が 0.01 にならないことを基準とした。

3. 結果

収束

いずれの推定変数についてもサンプリングの際の自己相関はほとんどなく、有効サンプル

数は 8,000 を超え、良好なサンプリングができたと判断された。Geweke 検定ではすべて基

準を上回り収束していると判断できた。

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ツキノワグマの事後分布の要約

表 4 2004-2011 年の推定

平均値 標準偏差 5% 25% 中央値 75% 95%

lp -0.8190 1.0312 -2.6355 -1.4214 -0.7121 -0.1088 0.6668

lire 0.2278 0.0624 0.1284 0.1861 0.2267 0.2692 0.3319

irr 0.0330 0.0888 -0.1126 -0.0263 0.0322 0.0919 0.1802

lk 4.5943 1.0033 2.9636 3.9124 4.5852 5.275 6.2694

pspア -1.6483 0.6573 -2.7805 -2.0906 -1.6262 -1.1851 -0.6146

psp白 -1.5813 0.6251 -2.6808 -1.9868 -1.5387 -1.1294 -0.6382

psr -0.5586 0.1197 -0.7621 -0.6335 -0.5537 -0.4796 -0.37

pcpア -2.9167 0.7458 -4.165 -3.4182 -2.907 -2.41 -1.7192

pcp白 -2.8600 0.7161 -4.0737 -3.3319 -2.8433 -2.3698 -1.72

pcr -0.8660 0.1816 -1.1768 -0.9728 -0.8553 -0.7469 -0.5918

lnNア 6.8104 0.6339 5.8264 6.3569 6.7738 7.2289 7.9055

lnN白 6.1125 0.6030 5.1993 5.6795 6.0627 6.5052 7.193

Nア 2004 664.6 478.5 225.5 361.7 530.6 807 1539.6

Nア 2005 756.3 535.5 259.5 414.3 604.8 923.6 1756.4

Nア 2006 929.0 647.2 334.3 517.3 742.7 1122.9 2130.7

Nア 2007 966.8 716.6 300.8 503.3 762.1 1186.2 2309.7

Nア 2008 1120.6 845.0 339.5 576.5 875 1379 2712.5

Nア 2009 1360.6 1040.5 409 694.7 1059 1689.2 3277.9

Nア 2010 1655.5 1311.8 479.3 823.3 1277.8 2058.1 4059.9

Nア 2011 1790.9 1499.2 427.7 837.6 1353.4 2253.1 4548.2

N白 2004 417.4 277.2 168.5 244.4 336.7 495.7 939.2

N白 2005 431.1 295.5 165 245.2 344 514.6 989.7

N白 2006 541.1 378.3 198.5 304.1 430 645.4 1261

N白 2007 481.5 357.4 159.7 257.2 375 584.5 1156

N白 2008 549.2 406.8 181 293 429.5 669 1330

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平均値 標準偏差 5% 25% 中央値 75% 95%

N白 2009 628.3 469.8 204.6 333.9 491.2 767.0 1523.0

N白 2010 777.4 595.5 244.5 402.8 603.4 950.9 1917.2

N白 2011 838.8 679.4 231.0 413.3 643.9 1037.2 2124.4

nutア 2004 -0.0622 0.5682 -0.9800 -0.4474 -0.0792 0.3086 0.9003

nutア 2005 1.1637 0.5039 0.3368 0.8397 1.1551 1.4882 2.0165

nutア 2006 -1.2091 0.5043 -2.0387 -1.5437 -1.2033 -0.8811 -0.3819

nutア 2007 0.0733 0.4252 -0.6124 -0.2068 0.0671 0.3510 0.7685

nut白 2004 -0.6518 0.5307 -1.5133 -1.0044 -0.6584 -0.3109 0.2274

nut白 2005 0.8385 0.5191 -0.00290 0.4888 0.8386 1.1756 1.6936

nut白 2006 -2.0957 0.5288 -2.9548 -2.4415 -2.0979 -1.7433 -1.2341

nut白 2007 -0.3856 0.4300 -1.0790 -0.6711 -0.3911 -0.1074 0.3299

sightv 0.1180 0.0696 0.0455 0.0725 0.1012 0.1438 0.2446

CTv 0.2072 0.1221 0.0808 0.1263 0.1769 0.2512 0.4329

アは北アルプス個体群、白は白山・奥美濃個体群を表す。

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表 5 2006-2011 年の推定

平均値 標準偏差 5% 25% 中央値 75% 95%

lp -0.8330 1.0913 -2.7953 -1.4810 -0.7341 -0.0668 0.7810

lire 0.1856 0.0762 0.0594 0.1348 0.1863 0.2359 0.3082

irr 0.0367 0.0942 -0.1160 -0.0278 0.0359 0.0998 0.1922

lk 4.6020 1.0105 2.9601 3.9114 4.5845 5.2862 6.2571

pspア -1.3419 0.6723 -2.4815 -1.7932 -1.3049 -0.8562 -0.3064

psp白 -1.5386 0.6754 -2.6825 -1.9916 -1.5150 -1.0632 -0.4714

psr -0.5310 0.1367 -0.7568 -0.6152 -0.5307 -0.4450 -0.3094

pcpア -2.7090 0.8027 -4.0001 -3.2528 -2.7046 -2.1670 -1.4165

pcp白 -2.8402 0.8091 -4.1443 -3.3806 -2.8535 -2.3283 -1.5191

pcr -0.8817 0.2367 -1.2685 -1.0074 -0.8702 -0.7357 -0.5404

lnNア 6.6809 0.6390 5.7030 6.2195 6.6447 7.1046 7.7680

lnN白 6.1714 0.6219 5.2059 5.7175 6.1415 6.5879 7.2394

Nア 2006 926.3 680.9 320.1 500.0 730.8 1121.1 2154.9

Nア 2007 904.5 709.7 276.2 463.7 702.0 1121.2 2176.4

Nア 2008 990.8 783.1 300.0 502.0 769.0 1218.0 2363.5

Nア 2009 1145.1 918.9 347.0 576.6 880.1 1412.6 2766.0

Nア 2010 1326.3 1115.9 379.0 639.9 997.7 1629.3 3299.5

Nア 2011 1318.8 1220.9 300.3 585.6 962.8 1643.7 3412.1

N白 2006 609.7 419.2 223.6 341.5 491.7 736.4 1391.0

N白 2007 533.2 393.6 168.6 278.7 423.0 655.5 1272.9

N白 2008 587.4 436.6 182.0 304.0 465.0 726.0 1393.0

N白 2009 646.7 492.0 191.5 330.3 506.6 798.6 1571.9

N白 2010 769.0 602.9 218.8 385.3 598.9 948.7 1879.6

N白 2011 796.5 681.2 181.2 362.7 600.7 993.2 2063.8

nutア 2006 -0.9107 0.5608 -1.8136 -1.2848 -0.9157 -0.5487 0.0142

nutア 2007 0.2808 0.4852 -0.4949 -0.0318 0.2649 0.5856 1.1013

nut白 2006 -1.9110 0.5890 -2.8402 -2.2989 -1.9290 -1.5376 -0.9244

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平均値 標準偏差 5% 25% 中央値 75% 95%

nut白 2007 -0.2459 0.4851 -1.0087 -0.5764 -0.2672 0.0574 0.5829

sightv 0.1200 0.0858 0.0409 0.0676 0.0969 0.1460 0.2726

CTv 0.2585 0.2047 0.0863 0.1407 0.2035 0.3067 0.6107

アは北アルプス個体群、白は白山・奥美濃個体群を表す。

表 6 2006-2011 年の推定における各地域の密度効果

アルプス増加率 アルプス増加率

(密度効果あり) 白山増加率

白山増加率

(密度効果あり)

2006 1.155 1.154 1.123 1.122

2007 1.209 1.208 1.188 1.187

2008 1.235 1.233 1.18 1.18

2009 1.231 1.23 1.239 1.239

2010 1.144 1.143 1.159 1.159

値は増加率の中央値

2004-2011 年、2006-2011 年どちらのケースにおいても個体群は増加傾向を示した

(表 4,5)。

どちらの地域個体群においても、密度効果が増加率の推定に及ぼす影響は小さかった(表 6)。

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図1 推定個体数と人為的死亡数(推定期間 2004-2011 年)

上図 北アルプス地域個体群

下図 白山・奥美濃地域個体群

中央値と 50%信頼限界、90%信頼限界を示す。○は観測値を表す。

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図2 推定個体数と人為的死亡数(推定期間 2006-2011 年)

上図 北アルプス地域個体群

下図 白山・奥美濃地域個体群

中央値と 50%信頼限界、90%信頼限界を示す。○は観測値を表す。

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有害捕獲数(北アルプス)

有害捕獲数(白山・奥美濃)

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図3 観測値と期待値の関係(推定期間 2004-2011 年)

中央値と 50%信頼限界、90%信頼限界を示す。○は観測値を表す。

出没件数(白山・奥美濃)

出没件数(北アルプス)

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有害捕獲数(北アルプス)

有害捕獲数(白山・奥美濃)

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図4 観測値と期待値の関係(推定期間 2006-2011 年)

中央値と 50%信頼限界、90%信頼限界を示す。○は観測値を表す。

出没件数(白山・奥美濃)

出没件数(北アルプス)

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4. 考察

2011 年時の推定個体数は、2004 年からのデータを用いた推定では、2006 年からのデータ

を用いた推定より高くなった。これは両地域ともに 2005 年に最も有害捕獲数が少なかったた

め、それを含めるか否かで、データから読み取れる個体数の動向に違いがでたと考えられる。

このように、データの蓄積が少ない場合や、データの誤差変動が大きい場合は、データの

追加によって、推定値が変動することは避けられない。将来的に、新たなデータを追加して

推定値を更新する場合には、今回推定した個体数を更新しなおすことが必要となる。

現段階では、現在入手できるデータをできる限り活用した 2004 年からのデータを用いた推

定を採用しておくべきと考える。

両地域とも共通して、増加傾向にあることが示唆された。また密度効果については、北アルプ

ス地域でやや見られたが、顕著に表れることはなかった。このことから両地域ともに密度効果が表れ

る個体数に達していないということが考えられる。

rr

引用文献

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Gilks WR, Richardson S, Spiegelhalter D 1996 Markov Chain Monte Carlo in Practice.

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生息状況調査及び調査体制構築検討業務報告書. pp.173-184

SAS Institute Inc. 2011 SAS/STAT® 9.3 User’s Guide. SAS Institute Inc., Cary, NC.

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兵庫ワイルドライフレポート.pp32-43.