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会F’“S vanli nt 《特別研究(2005年度)》 行動経済学の研究一他者に配慮する選好と感情一 男☆ Behavioral Economics ofOther-Regarding Pr Norio]r()mono 「利己主義者は純粋に物質的な面でさえ,愛や情に動かされている人 たちほどうまくやれないことが多い」.ロバート・フラング はじめに 感情が人の経済行動,より一般的には判断や意思決定に大きな影響を及ぼすことは日常の経験からは 明らかであるが,現代の経済学の中で重視されるようになったのは比較的最近のことである2。特に感情 の持つ合理的な側面,あるいは感情の持っ意義や価値にっいて関心が払われるようになったのは,一部 の例外的な先駆的研究を除けばきわめて最近のことである3。 一方,人々が利他的あるいは協力的な行動をするかどうかが経済の運営に関して重大な影響を及ぼす ことは論を待たないであろうが,新古典派経済学において仮定されている利己的行動の前提の妥当性に 対する実証的な反論は膨大に蓄積されている。 人々が他の人々と相互依存関係にある時,他者に配慮する選好に基づいて行動すると考えられること は実証的および理論的観点から多くの重要な成果が得られている4。 本稿は,感情が人々の相互依存行動に及ぼす影響について直接測定しようとする研究の成果を概観・ 要約して,感情が相互依存行動に及ぼす効果にっいて再考し,感情が合理性についてもたらす意義につ ☆情報コミュニケーション学部教授 1Frank(1988),訳書p. iii. 2経済学の歴史の中には,アダム・スミスやジョン・メイナード・ケインズを始め,人間の感情を重視した経済学者 は多い。しかし対照的に,現代の経済学史の中では数少ないが,その中にはSimonの先駆的な着想があり,Frank (1988),Hirshleifer(1987)は独創的な貢献をしている。最近の行動経済学につながる流れの中で感情の働きを重 したのはElster(1996,1998,2000)の一連の著作やLoewenstein(2000)である。「緊急の課題 と結びついてどのように行動を引き起こすかについて理解することである」(Elster,1998, p. 73)。行動経済学の 文脈における感情の働き全般については,友野(2006)が包括的に紹介している。ごく最近の優れた展望としては, Kaufman(2006), Ketelaar(2006), Zeelenberg and Pieters(2006)がある。 Damasio(2004), Frank(2004a)o 他者に配慮する選好については膨大な文献があるが,包括的なものとしてCamerer(2003b), Fehr and Fisc (2004b,2005a,2005b), Fehr and Schmidt(2003,2006)がある。また,最近出版されたKo王m は利他性,互酬性,贈与などに関する多くの優れた研究が集められており,きわめて有益である。 一141一

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日 必 会F’“S vanli nt

《特別研究(2005年度)》

行動経済学の研究一他者に配慮する選好と感情一

友 野 典 男☆

Behavioral Economics ofOther-Regarding Preferences and Emotions

Norio]r()mono

「利己主義者は純粋に物質的な面でさえ,愛や情に動かされている人

たちほどうまくやれないことが多い」.ロバート・フラング

はじめに

感情が人の経済行動,より一般的には判断や意思決定に大きな影響を及ぼすことは日常の経験からは

明らかであるが,現代の経済学の中で重視されるようになったのは比較的最近のことである2。特に感情

の持つ合理的な側面,あるいは感情の持っ意義や価値にっいて関心が払われるようになったのは,一部

の例外的な先駆的研究を除けばきわめて最近のことである3。

 一方,人々が利他的あるいは協力的な行動をするかどうかが経済の運営に関して重大な影響を及ぼす

ことは論を待たないであろうが,新古典派経済学において仮定されている利己的行動の前提の妥当性に

対する実証的な反論は膨大に蓄積されている。

 人々が他の人々と相互依存関係にある時,他者に配慮する選好に基づいて行動すると考えられること

は実証的および理論的観点から多くの重要な成果が得られている4。

本稿は,感情が人々の相互依存行動に及ぼす影響について直接測定しようとする研究の成果を概観・

要約して,感情が相互依存行動に及ぼす効果にっいて再考し,感情が合理性についてもたらす意義につ

☆情報コミュニケーション学部教授

1Frank(1988),訳書p. iii.

2経済学の歴史の中には,アダム・スミスやジョン・メイナード・ケインズを始め,人間の感情を重視した経済学者 は多い。しかし対照的に,現代の経済学史の中では数少ないが,その中にはSimonの先駆的な着想があり,Frank (1988),Hirshleifer(1987)は独創的な貢献をしている。最近の行動経済学につながる流れの中で感情の働きを重視 したのはElster(1996,1998,2000)の一連の著作やLoewenstein(2000)である。「緊急の課題は,感情が他の動機 と結びついてどのように行動を引き起こすかについて理解することである」(Elster,1998, p. 73)。行動経済学の 文脈における感情の働き全般については,友野(2006)が包括的に紹介している。ごく最近の優れた展望としては, Kaufman(2006), Ketelaar(2006), Zeelenberg and Pieters(2006)がある。

 Damasio(2004), Frank(2004a)o

 他者に配慮する選好については膨大な文献があるが,包括的なものとしてCamerer(2003b), Fehr and Fischbacher (2004b,2005a,2005b), Fehr and Schmidt(2003,2006)がある。また,最近出版されたKo王m and Ythier(2006)に

 は利他性,互酬性,贈与などに関する多くの優れた研究が集められており,きわめて有益である。

一141一

45  2口 2007 3月

いて考察する5。分析対象となるのは,実験ゲームなどを用いて被験者の感情状態を被験者から報告して

もらうなどの方法で直接計測するという方法をとった研究である。この他に機能的核磁気共鳴画像(fMRI)

や陽電子断層撮影法(PET)といった非侵襲的な計測装置を使ってゲーム中の被験者の脳の働きを調べる

神経経済学(neuroeconomics)の研究でも感情の働きが測定されているが,これらにっいては簡単に触れ

るに留める6。

1.社会的感情の機能

 他者との相互依存関係において大きな影響力を持つ社会的感情には二つの機能がある(Ketelaar,

2006)。一つは,個人の内部で,自分自身に向けられる感情である。そのような自己に向けられる感情に

は,恥,罪悪感,狼狽(embarrassment),後悔などがある。もう一つは他者に向けられる感情であり,侮

辱(contempt),怒り,反感(disgust)などがある。これらの感情は自己あるいは他者に規範を守らせるよ

うに機能する。すなわち,自己に向けられる感情は,自分自身が規範遵守的行動(norm-obeying behavior)

をとることに役立ち,一方,他者に向けられる感情は,その他者に規範を守らせるような行動を,すな

わち,規範実効化行動(norm-enforcing behavior)をとらせる。

 公正や倫理感も感情の一種と考えられる。これらは上の二っに直接分類されないが,公正に反する行

動を他者がすれば,怒りなどの他者に向けられる感情が喚起され,公正に反する行動を自分がすれば,

恥や罪悪感などの自己に向けられる感情が喚起されて,それ以降の行動が変化することがある。この意

味で,公正などの感情も結局は自己に向けられるまたは他者に向けられる感情と直接のつながりがある。

2.他者に配慮する選好のモデル

 人々が自己の利得のみならず他者の利得に対しても関心を払い,それが自己の効用に影響を及ぼし,

行動を規定することがあることは日常の経験からもまた最近の実験研究によっても明らかである。その

ような行動をもたらす選好を「他者に配慮する選好(other-regarding preference)」と呼ぶ。本節では,

他者に配慮する選好に関して現在までに考えられているモデルを概観する。後の節で感情の役割の重要

性に着目するが,感情が意思決定に対して大きな影響を持っことが明らかにされ,現存の他者に配慮す

る選好モデルは成功していないことがわかる。

 他者に配慮する選好がモデル化される場合には,大きく分けて3つの類型がある(Fehr and Schimdt,

2003, 2006)7。

 第1は, 「社会的選好(social preference)」と呼ばれるもので,主体の効用関数に自分自身の物的利

5友野(2005)は,感情と協力行動についての議論全体をサーヴェイしているが,本稿では感情が社会的選好に及ぼす 影響を具体的に検証した研究に的を絞って論ずる。6神経経済学について包括的に論じているものとしてCamerer et a1.(2004,2005), Chorvat and McCabe(2005), Cohen(2005), Kenning and Plassmann(2005), Rustichini(2005), Sanfey et al.(2006), Zak(2004)がある。

7それぞれのモデルに関する文献にっいては煩雑になるので省略した。Fθhr and Schmidt(2003,2006)参照。

                     -142一

日治大Al’S 会斗“+9 pm所紀

得のみならず他者の利得も変数として入るという性質を持つ選好である。この場合には, 「他者」とは

どこの範囲の人が含まれるのかという問題がある。他のすべての人々の利得を考慮することはないし,

またそうすることもできない。社会的選好モデルには,利他性モデル,相対所得と嫉妬モデル,不平等回

避モデルなどが(それらの混合型も)含まれる。第2に,「相互依存的選好(interdependent preference)」

と呼ばれる選好である。このモデルでは,人々は他者の「タイプ」に関心を払うと仮定するのが特徴で

ある。人々は利己的なタイプと(条件っきの)利他的なタイプに分けられ,利他的な人が利他的な相手

と関わる時には利他的な選好を示すが,相手が利己的な場合には自分も利己的に行動する。つまり,自

分の選好は相手のタイプに依存して決まると想定するのである。このモデルを定式化した例は少ないが,

利他性と意地悪(spitefulness)を組み合わせたモデルがある。第3が「意図に基づく互酬性(intention

based reciprocity)」モデルである。このモデルでは,人は他者の意図に大きな関心を払い,相手が自

分に対して悪い意図を持つとみなすならば,相手に対して不利益となる行動をするし,意図が良いなら

相手の利益となる行動をとると想定する8。

 このようなモデルを考察したりそれらに言及する文献では,そのモデルの特徴を表わすものとしてと

して, 「公正」 「利他性」 「平等」 「互酬性」 「社会的選好」などの表現が用いられることが多いが,

これらの用語ははっきり定義されて使われているとは限らない。しかし一般に,人々が利己心ばかりで

なく公正や利他性をも考慮した行動をするという議論では,上の3つの類型のどれかに当てはまる他者

に配慮する選好が論じられていることが大部分である。

 他者に配慮する選好モデルでは,感情の役割が不明瞭であるか全く役割が与えられていない場合が多

いとしばしば批判される。たとえば,最終提案ゲームで,提案者がコンピュ・一・一タである場合と人間であ

る場合とでは,提案額が同じであったとしても応答者の感情の持ち方が異なることがいくつかの実験で

示されている(Blount,1995;Sanfey, et a1.,2003;van’tWout et a1.,2006)。したがって,この結

果は,分配の結果の平等性が選好されるとする不平等回避モデル(社会的選好モデル)では説明できな

いことになり,提案者の意図が重要であるとされている(Falk, Fehr and Fischbacher,2000)。しかし

意図だけでは説明できないことがあり,意図に基づく互酬性モデルもうまく機能しない(Reuben and van

Winden,2004,2005)。ここで感情の働きが重要となってくる。以下の節では,主として実験ゲームに

おけるプレイヤーの感情をさまざまな方法で測定し,感情の役割を考察することで,他者に配慮する選

好モデルでは説明し得ない現象が生じていると批判する研究を取りあげ,その意味を考察する。

 上であげた他者に配慮する選好モデルでは,さまざまな意味での公正や結果の平等が変数として効用

関数に組み込まれるが,その場合には経済主体の解くべき効用最大化問題は新古典派流の効用最大化問

題より複雑になる。主体がこのような複雑な関数を最大化すると考えることは,行動経済学の前提であ

る限定合理性と矛盾するのではないかという疑問が提出されることがある(van Winden, forthcoming)。

したがって彼らは感情を取り入れた行動の非合理的側面を強調する。一方Fehr and Schmidt(2006)は,

8第1と第2の場合には,通常のゲーム理論で考えられている効用関数を拡張することでモデル化は可能であるが, 第3の場合にはそれはできない。心理的ゲーム(Rabin,1993)と呼ばれるゲーム理論が必要となる。

                     -143一

45  2口 2007 3月

人が感情に基づいて行動すると言うことは決して非合理性を意味しないと主張する。彼らは通常の経済

財に加えて感情を変数として効用関数に組み込み,通常の財の場合と同様に効用関数を最大化しようと

するという意味においては,人は合理的な存在なのではないかと示唆する。筆者は,van Winden

(forthcoming)の批判は必ずしも当を得ていないと考える。あらゆる財を考慮して,さらにあらゆる場合

に生じるであろう感情を考慮した効用関数を最大化すると考えると確かに主体に膨大な計算量を強いる

ことになる。しかし,人は目先の事象だけに限定して着目しまた短期的結果を求めるとすれば,感情が

効用関数に組み込まれているとしても限定合理性の考え方と必ずしも矛盾しないことになる9。その場合

の,考慮に入れる範囲の限定,いわば視野の限定はヒューリスティクスによって行なわれると考えられ

る(友野,2006)。またこのヒューリスティクスには感情が深く関わると考えられる(Finucane et a1.,

2000;Slovic et al.,2002a,2002b)。しかしこの点の研究は今後の課題である。

3.他者に配慮する選好と感情

 以下では,感情の働きを測定した(主として実験)研究を取りあげ,そこで得られた結果が,現在の

他者に配慮する選好モデルではうまく説明できないことについて考察する。

 経済学でしばしば行なわれる実験ゲームでは,人々の戦略的な行動がどのような結果をもたらすのか

が明確にわかるため,数多くの実験が行なわれている1°。Straub and Murnighan(1995)はかなり早い時期

に,最終提案ゲームにおいて応答者が低い提示を拒否する原因が,応答者の怒りという感情にあること

を示唆したが,感情が直接測定されたわけではなかった。またRuffle(1999)は,ギフト交換ゲームでの

行動をモデル化する際に,驚き,落胆,困惑などの感情を変数として入れるという試みを行なったが,

同様に感情を直接測定したのではなかった。

 Xiao and Hauser(2005)は,応答者が提案者に対して,自分の気持ち(感情)を表現する機会があると

いう設定で最終提案ゲーム実験を行ない,その機会がない場合と比較している11。応答者は,提案がされ

た後で拒否と受諾を選ぶだけではなく,提案者に対する感情を記述して提案者に知らせることができる

ようになっていた。この実験の結果,感情を表わす機会がある場合の方が,ない場合よりも不公正な提

案を拒否する割合が低下した。つまり,提案の拒否は,感情表現の一方法であって,記述して表現する

方法が部分的にその代わりとなる。言ってみれば,不満をぶつけることで不公正に対する怒りが多少は

軽減され,そのため拒否が減ったということができよう。応答者の態度は感情によって決定される部分

があるということの証明になっている。日常生活でも,経済的利得は増えないのに,直接相手に抗議し

たり,不満をぶつけるだけことで満足するということはよく経験する。

9Glimcher, Dorris and Bayer(2005)は,人間は,生理的な意味での効用最大化を目指しているのではないかと言う 仮説を提出する。標準的経済学における効用最大化とは異なり,物質的満足だけではなく感情がもたらす快も含め たいわば総効用を最大にしようとしているというのが,生理的効用最大化である。しかし,生理的効用最大化がな されているという確証はまだ得られていない。1° ナ終提案ゲーム,公共財ゲーム,信頼ゲーム,ギフト交換ゲームなどの定義や実験の標準的な結果については, Camerer(2003)およびKagel and Roth(1995)参照。

uこのパラグラフは,友野(2006,pp.309-310)からの引用である。

                     一 144一

日 ”1‘’ ?E愚石’Afi’li

 最終提案ゲー一一ムや公共財ゲームとは異なる独自の設定のゲームで実験を行ない,分配の結果,決定者

の意図,感情の三者間の関連についての興味深い結果を報告しているのはOfferman(2002)である。彼は,

次のような2人ゲームを考案し,プレイヤーの感情的反応を調べた。このゲームでは,プレイヤーAは,

自分とともに相手にも利得を与えるような選択肢αと,自己の利益は図るが相手には損害を与えるよう

な選択肢βからの選択を行なう。その後プレイヤーBは,相手に報酬を与えるような選択肢X,冷静に自

分の利益だけを考える選択肢Y,相手を処罰する選択肢Zの中から選択をする。表1には,それぞれの戦

略の組み合わせに対する両プレイヤーの利得が示されている。

表1 0fferman(2002)のゲーム(利得の単位はオランダ・ギルダー)

プレイヤーAの選択肢

  α(援助的)

  β(攻撃的)

プレイヤーBの選択肢

  X(報酬)

  Y(冷静)

  Z(処罰)

プレイヤーAの利得

 8

11

404

  一

プレイヤーBの利得

44

 一

909

 1

 この実験では,プレイヤーAの選択をサイコロで決める設定(目が1~3なら選択肢α,4~6ならβ)

とA自身が決める設定でゲームが行なわれた。それぞれの場合にプレイヤーBにどんな感情が引き起こさ

れ,それがBの戦略決定にどんな影響を及ぼすのかが分析の焦点である。プレイヤーBは自分の戦略を選

択した後で,Aの選択がわかった時にどう感じたのかを思い出して,怒り,苛立ちなどのネガティヴな感

情と,喜び,感謝などのポジティヴな感情にっいてそれぞれ8段階(0「全く感じなかった」から7「強

く感じた」まで)で報告した。ゲームの結果は次のとおりである,サイコロがAの選択肢を決める設定で

Aの選択肢がαであった場合には,Bの選択はX:50%, Y50%, ZO%であり, A自身が選択肢αを選ん

だ場合には,Bの選択はX:75%, Y25%, ZO%であった。サイコロがAの選択肢βを決めた場合には,

Bの選択はX:25%,Y58%, Z 17%であり, A自身が選択肢βを選んだ場合には, Bの選択はX:0%,

Y17%, Z83%であった。

 この実験結果は,分配の結果に対する平等を求めるというモデルでは説明できない。また偶然決まっ

た援助行動(α)に対してBの半数が報酬を与える(返礼をする)選択肢Xを選んだので,この結果は意

図に基づく互酬性モデルではうまく説明できない。さらに,Aの意図的な援助行動(α)に対しては偶然

の援助行動の場合よりも25ポイントも多くの報酬行動(X)が見られた。一方,Aの意図的な攻撃行動

(β)に対しては偶然の攻撃行動(β)の場合よりも67ポイントもの多くが処罰行動(Z)を行なった。

つまり,正の互酬性よりも負の互酬性の方がはるかに強く示されたのである。この互酬性の強さの違い

一145一

第45巻 2号2007 3月

の原因は感情に求めるのがもっとも妥当である。プレイヤ・一・Bの感情に関しては,サイコロが決める設

定でもAが選択する設定でも,選択肢αに対しては全員がポジティヴな感情を感じており,どちらの設

定でもポジティヴな感情を強く感じた者が40%,弱く感じた者が60%であった。対照的に選択肢βに対

しては設定によってBの感じ方は異なる。サイコロが決める設定では弱いネガティヴな感情を感じた者が

82%であり,ネガティヴな感情を持たなかった者も18%いた。Aが選択する設定では,弱いネガティヴ

な感情を感じた者が33%,強く感じた者が58%,感じなかった者が8%であった。

 プレイヤ・一一Bの反応は確かにAの意図に影響されるのであるが,それをもたらすのは,Bの感情,特に

怒りなどのネガティヴな感情であることになる。

4.怒り,罪悪感,公正

 おそらく最も早く被験者自身に感情を尋ねるという形で感情を測定し,その影響を調べたのは

Pillutla and Murnighan(1996)であろう。彼らは最終提案ゲームにおいて提案者の提示額が示された後

で,応答者に「どう感じたか?」という自由記述式の質問をした。回答は後に怒りまたは不公正を訴え

る程度に応じて7段階にランク付けされた。そして怒りの程度と提案の拒否との間に強い正の相関関係

があることを見い出した。

 Ketelaar and Au(2003)は,囚人のディレンマゲームと最終提案ゲーム実験を複数回行ない,ゲームと

ゲームの間に被験者の気分や感情をコントロールすることで,後のゲームにおける被験者の行動が変化

することを確認した。その変化の原因と変化の結果が重要である。

 まず彼らは,被験者に囚人のディレンマゲームを10回を1セットとして4セット(計40回)コンピ

ュー ^と対戦させた。その後,ランダムに割り当てられた被験者の半数には,罪悪感,恥,自己非難を

感じるようなもっとも最近の経験にっいて詳しく記述させた(罪悪感条件)。このような方法で被験者

に罪悪感のような感情をもたらせることができるとされている。一方,残りの半数には日常的な一日に

ついて記述させた(コントロール条件)。被験者はその後囚人のディレンマゲームの残りの4セットを

行なった。その結果,罪悪感条件の被験者は53%が協力を選択し,コントロール条件の被験者で協力を

選択したのは39%であった。また最初の4セットで中央値(47%)以上の割引で協力を選んだ「協力的

なタイプ」とそれ以下であった「非協力的なタイプ」に分け,タイプ別および条件別に協力行動の変化

を見ると,非協力タイプでかっ罪悪感条件の人の協力率がもっとも大きく増加した。実験の途中で喚起

された,ゲームとは直接には無関係の罪悪感が,彼らに協力行動をとらせるように作用したと考えられ

る。ただしこの効果は長くは持続せず,後半の最初に1セット(10回)のゲームでの行動に対してだけ

強く見られた。

 Ketelaar and Au(2003)が行なったもう一つの実験では,被験者に人為的に罪悪感がもたらされるので

はなく,ゲームにおける自己の選択が原因で罪悪感が生じるように工夫されていた。彼らの実験では最

終提案ゲームが1回行なわれ,1週間後に同じ相手と同じ設定で最終提案ゲームがもう1回行なわれた。

一146一

日治大’!s会斗’U一石’7CiLfi紀

匿名ではなく知人や友人との間のゲームであり,提案者と応答者はランダムに決められた。この実験で

は,19ドルを1ドル単位で相手と自分に分けるという設定であり,両者への平等な配分の提案はなく,

必ずどちらかに偏った配分となる。最初のゲームでは,提案者は提案を提示後直ぐに(応答者の拒否・

受諾の決定を知らずに),罪悪感を含むいくっかの異なる感情状態に関して最低0(全く感じない)から

最高6(きわめて強く感じる)まで7段階の評価を行なった。1週間後に同一の相手に対して同じ役割で

再びゲームを行ない,行動の変化を調べるのが目的である。

 初回の自分では,自分に有利な(利己的な)提案が58%であった。応答者による拒否はまったくなか

った。最初のゲームでの36人の提案者のうち1/3は何らかの(つまりゼロでない)罪悪感を抱いてい

た。これらは全員利己的な提案を行なった者である。さて2回目の実験の結果,1回目に罪悪感を感じて

いた12名のうち11名は寛大な(相手に有利な)提案を行ない,1回目と同様に利己的な提案を行なった

のはわずかに1名のみであった。1回目に利己的な提案を行なったが罪悪感を感じなかった者は,2回目

でも80%は利己的な提案を行なった。1回目に利己的な提案をしながら罪悪感を感じなかった者のうち,

2回目に寛大な提案に転じたのは,わずかに2名(19%)であった。1回目に寛大な提案を行なった者で

罪悪感を感じたのは皆無であったが,彼らのうち60%は2回目には利己的な提案に転じた。

 この実験でも顕著なのは,利己的な行動から寛大な行動へと変化をもたらしたのは,罪悪感を感じた

かどうかである。罪悪感を感じなかった者の多くは,利己的な行動を維持したか,寛大な行動から利己

的な行動に転じたのであった。

 「略奪ゲーム(power-to-take game)」は, Bosman and van Winden(2002)による新しい実験ゲームであ

り,他の実験ゲームに比して感情の働きがよく分かるという意味で優れている12。

 まずこのゲームの概要を示そう。このゲームは,1回限りの,2人,2段階ゲームである。プレイヤー

Aが提案者,プレイヤー-Bが応答者となり,両者とも初期保有所得を持っている13。提案者(プレイヤー

A)は,応答者(プレイヤーB)の持っている初期所得を2人で分配する提案をすることができる。そし

て応答者は,自分の所得を0%から100%の割合で破棄することができる。っまり応答者は,提案者の提

案が理由は何であれ不満であれば,自分の初期所得を(一部または全部)放棄すること(全く放棄しな

くても良い)で提案者に対して一種の処罰または報復をすることができるのである14。

 より形式的に言えば,ゲームの第1段階では,提案者Aは応答者Bの所得Ebのうちt∈[0,1]の割合

で所得を「略奪する」ことができる。第2段階では,応答者は自己の所得Ebのうちd∈[O,1]の割合

で所得を破棄できるのである。したがって提案者の利得(所得総額)は,Ea+t(1-d)Ebであり,応

答者の利得は(1-t)(1-d)Ebとなる。たいていの実験ではさらにEa=Ebと仮定される。

 略奪ゲームは,感情と経済行動の相互作用を理解するための簡素なゲームとして有用である。両者と

12ェ奪ゲームを用いた実験には,Ben-Shakhar et al.(2004), Bosman and van Winden(2002), Bosman Sutter and

 van Winden(2005), Hopfensitz and Reuben(2005), Reuben and van Winden(2004, 2005, 2006), van Winden(2001,

 forthcoming)がある。13

炎喆ロ有所得は,実験者によって与えられることもあるし,被験者自身が努力によって獲得する場合もある。14

ナ終提案ゲームでは,応答者は提案者の提案を拒否するか受諾するかの二通りしか選択肢はなかったが,略奪ゲー ムでは選択肢が連続的にあると考えられる。

                     -147一

45  2口 2007 3月

も初期保有所得は等しい。しかし応答者の所得のみが分配の対象となる。したがって,応答者は自分の

所得が権力を持つ主体(A)によって略奪あるいは搾取されることになり夏5,応答者は提案に対して怒り,

罪悪感,恥辱などの感情を経験することが予想できる。さらに応答者は自己の所得を破棄できるために,

処罰と所得のトレードオフが示されることになる。

 このゲームの実験結果は,提案者の略奪率tの中央値は0.6であり,応答者の破棄率dは略奪率の値に

応じて異なり,略奪率が0.6以下の時には破棄率は平均であった(Bosman and van Winden,2002;Bosman

Sutter and van Winden,2005)。提案者の略奪率が0.6であるときには,全所得の80%を要求すること

を意味する。これは最終提案ゲームの平均(約50%程度)をはるかに上回る提案であり,結果の平等に

著しく反することになる。

 略奪ゲー一一一ムにおいて応答者が経験した感情についてはいくつかの報告がされている。応答者は自己の

所得を略奪されると怒り(anger),苛立ち(irritation),侮辱(contempt)などのネガティヴな感情を感じ

ることが多い。これらの感情は「怒り」とまとめることができよう。Reuben and van Winden(2004)は,

どの程度の強さの怒りを感じたかを,1を最弱,7を最強とする7段階で応答者に評価してもらった。そ

の値と自己の所得の破棄率との関係を見ると,怒りの強度が1-3の場合には,破棄率は5.7°/・,4-6で

は41.9%,6-7では,60.5%であり,怒りと破棄が強い正の相関関係にあることが示された。

 Reuben and van Winden(2005)は,意思決定に関わる感情は,破棄決定にまでに要する時間によっても

示されているのではないかと推測し,その時間を測定している。それによると,d・=Oの場合に要した平

均時間は21.7秒,d=1では23.0秒であった。これに対して0<d<1の場合には,56.5秒の時間を要し

たのである。このような決定に要する時間の相違は,合理的意思決定では説明できないものである。決

定に要する時間が異なることは,感情喚起の強さによって説明できる(Reuben and van Winden,2005)。

非常に強い感情と弱い感情の場合には,決定時間は短い,思考より感情的反応が強い場合には,感情的

反応が優勢となる。感情喚起が中程度の時には,感情と認知の相互作用あるいは相克が働き,決定まで

に時間がかかると考えられる(van Winden, forthcoming)。

 また応答者に事前に,提案者の略奪率の予想値を尋ね,この予想値が事後的な怒りの程度や破棄率と

どんな関係にあるかを調べることも行なわれている(Reuben and van Winden,2004)。彼らによると,

怒りと破棄は,予想略奪率と負の相関関係にあることが示された。それらが実際の略奪率と正の相関が

あるのは当然であり,もし応答者にとって不平等回避性や意図が重要であれば,重要なのは実際の略奪

率であって予想略奪率ではないはずである。予期しないことが生じると強い感情が喚起されると考えら

れる。実際の略奪率く予想略奪率(悲観的予想)の場合には,破棄率は小さく,逆の場合(楽観的予想)

には大であった(Reuben and van Winden,2004)。っまり予想が参照点となって参照点効果が働いてい

るのである16。

15このゲームが現実の経済関係を表わす例として,税当局による課税,プリンシパル・エイジェント関係,独占的な 価格形成などが挙げられる(Bosman and van Winden,2002)。 van Winden(2GO1)は,納税者が怒りの感情によって自

 分の所得を破棄して税当局に抵抗する場合もあると指摘し,そのような危険を「感情的ハザード」(emotional hazard)と呼ぶ。16

椏嚴メが経験した感情は自己報告されたが,さらに生理的証拠もある(Ben-Shakhar et a1.,2004)。彼らは被験者の 皮膚伝導反応と自己報告は正の相関があること,それらが実際の破棄率と予想破棄率にも相関することを見出した。

                     -148一

日 ’!IL会・必゜ntSfi,

 略奪ゲーム実験の以上の結果は,公正モデルに真っ向から対立するが,実験で公正についてどう考え

るかを被験者に尋ねることはほとんどなかった。そこでReuben and van Winden(2004,2005)では,実験

後に提案者と応答者に公正な略奪率にっいてどう考えるかについて質問している。その結果わかったこ

とは,応答者は,自分が想定する公正な略奪率が怒りや破棄の原因ではないことである。重要なのは,

上で見たように,実際の略奪率と予想略奪率のみである。したがってこのゲームはもちろん,一般の社

会的選好における公正の役割に疑問を投げかけることになる。

 さらに,略奪ゲームを二回繰り返すという実験が行なわれ,1回目と2回目で行動を変えた提案者の感

情が調べられた(Reuben and van Winden,2005)。それによると,2回目に1回目よりも略奪率を低くし

た提案者(応答者は1回目とは異なるランダムな相手)は,1回目の終了後に恥を感じた者だけであった。

選んだ略奪率が自分が公正な略奪率と想定する率よりも高いのに応答者によって破棄された場合には,

提案者は強い恥(shame)を感じる。提案者の感情としては罪悪感も感じるが,恥を感じた者が多かった。

応答者の破棄は非難を意味し,それが恥を感じさせるのであろう。っまり,提案者の決定には公正は重

要な役割を果たすが,それは恥という感情によって支えられているのである17。

 公正感は人によってかなり異なり,それほど安定していないことがわかる。上述の2回繰り返し略奪

ゲームでは,2回目のゲームで1回目と役割が異なると公正感も異なることが被験者への質問からわかっ

ている(Reuben and van Winden,2005)18。さらに1回目に応答者であり破棄をしたが,2回目に提案者に

転じると高い略奪率を提示する者がいた。したがって,人は何らかの意味での公正を追求するあるいは

公正であることによって効用を得るという他者に配慮するモデルの考え方には強い疑問が生じる。

5.処罰と感情

 公共財ゲームにおいては処罰の可能性が重要な役割を果たし,処罰がある場合には協力関係が維持さ

れることが確かめられている(Carpenter, Matthews and Ong’ong’a,2004;Fehr and Gachter,2002)。

またゲームのプレイヤーではない第三者による処罰を導入することで,やはり協力が維持されることも

分かっている(Carpenter and Matthews,2005;Fehr and Fischbacher,2004a)。グループの他のメンバ

ーに比べて貢献額が小さいほど処罰されることが多く,処罰も厳しかった(利得が大きく引かれた)。ま

た,繰り返し公共財ゲームで処罰を導入すると,貢献額が劇的に増加することも報告されている(Fehr

and Gtichter, 2000a, 2000b)o

 Fehr and Gachter(2002)は,処罰のある公共財ゲーム実験の後で,フリーライダーに対する怒りや不

快感について,次のように二つのケースについて被験者に質問した。「あなたが16[5]ポイントの貢献を

17

ワた,1回目より2回目に略奪率を増加させた提案者もいたが,彼らは1回目に応答者による破棄を経験せず,し たがってもっと大きな略奪率を提案すべきであったという後悔(regret)を感じたものであった。後悔の社会的行動 に及ぼす影響についてはConnolly and Zeelenberg(2006), Zeelenberg and Beattie(1997)参照。

Is De Cremer and van Dijk(2005)は,役割の相違に基づく公正感の違いを分析している,資源を配分するゲーム(最

 終提案ゲーム,信頼ゲーム,略奪ゲームはすべて当てはまる)において先導者の役割が与えられると,そのプレイ ヤーは資源をより多く自分のものにする「権利」が与えられると感じているのではないかと主張する。これに対し て後で行動する追随者は,より平等な分配を要求する。

                     -149一

45巻 2口 2007 3月

したとしよう。他のある人は14[3]ポイント,別の人は18[7]ポイントの貢献であった。ところが,四番

目の人は2[2]ポイントの貢献しかしなかったとする。実験後に四番目の人に偶然会ったら,この人に対

してどんな感情を抱くか」。このシナリオを読んで,怒りや不快感の程度を1を最弱,7を最強として7

段階で評価してもらった。すると,第一のケースでは,レベル6以上の強い怒りを感じた人は47パーセ

ント,レベル5の怒りを感じた人が37パーセントいた。カッコ内に示された第二のケースでは,レベル

6以上の強い怒りを感じた人は17パーセント,レベル4か5の怒りを感じた人が81パーセントいた。

フリーライダーに対する怒りの程度は,その人の貢献額とグループの他の人の貢献額の差に影響を受け

ていることが示されている。

 さらに,逆に自分がフリーライダーであった場合には,他の人が怒りを感じると思うかという質問に

対しては,多くの人がやはり,グループの他のメンバー一一との差が大きいほど強い怒りを抱くだろうと予

想していた。

 このような質問の結果は,処罰行動と完全に整合していた(Fehr and Gachter,2002)。したがって,

フリーライダーに対する怒りの感情が処罰行動を引き起こす重要な要因であると考えられる19。また第三者

による処罰は,当事者が感じる怒りの感情とは少し異なる一種の義憤の感情がもたらすものであろう2°。

 協力的規範が実効化されるためには恥(shame)や罪悪感(guilty)といった社会的感情が重要である

(Hopfensitz and Reuben,2005)。彼らは,処罰のあるゲームでは処罰する方と処罰される方の両方の行

動や感情の検討が必要でありJ処罰の有効性は処罰される者の反応にも依存すると言う。処罰されるこ

とで怒りを感じたら,処罰者に対する報復を招くかも知れない。したがって怒りだけでは処罰と報復の

繰り返しを招くことになり,資源の浪費にっながる。処罰を有効たらしめるのは処罰される方の道徳的

反応である。処罰を受けた側がより協力的になり,報復を控えることが重要となろう。まさにこれが生

じることがHopfensitz and Reuben(2005)による実験で示された。

 彼らは,処罰のない設定とある設定の2回のゲームを行ない,処罰の効果を調べた。さらに,処罰を

行なう側と処罰される側の感情にっいて,被験者に直接答えて貰うことでデータを得た。

 ゲームは,1回限りの2人ゲームで,プレイヤーAが先に動き,プレイヤーBが後で手を決定する。プ

レイヤーAには150点,プレイヤー-Bには100点が当初に与えられている。先ずプレイヤーAが協力する

か裏切るかを決める(選択肢はこの二つだけである)。Aが裏切りを選択すれば,それぞれが初期額を得

てゲー・一ムは終了する。Aが協力を選択すれば, Aの初期額のうち50点が減らされ,その6倍である300

点がBに移される。次にBの手番となる。BはAに返却する分を150点,50点,0点の中から選択する。

150点の返却は,利得を折半することを意味し,50点はAの損失をちょうど補うことを意味する。0点は

全くの私益追求行動である。処罰のない設定の場合には,ゲームはこれで終了する。したがってプレイ

ヤーAの利得πaは,BからAへの返却額をrとすれば,πa=100+rとなり, Bの利得πb=100+6×50

19サ味深いことにKurzban, DeScioli and O’Brien(forthcoming)は,匿名性の条件を緩め,実験者などが傍観してい

 ると,処罰は増加することを信頼ゲームを用いて実験的に確かめた。この原因は評判形成(reputation formation) であると彼らは考えている。20Carpenter and Matthews(2005)はこのことを確かめている。

                     -150一

日治大”IS’会:1”.1一石Pt所,、

一rとなる。

 このゲームには特に名称は付けられていないが,信頼ゲームや最終提案ゲームの要素を持っている。

彼らの実験では,このゲームを2回続けて実施した。第1ラウンドと第2ラウンドでは同一のプレイヤ

ーA(またはB)が割り当てられるが,対戦する相手はランダムに異なるとした。さらにゲームは処罰の

ない設定とある設定の太織りで行なわれた。処罰のある設定では,プレイヤーBの選択が終了した後で,

互いに相手を処罰することができる。処罰をする場合には,処罰者はp点を失い,処罰される者は4p点

を失うとする。まずプレイヤーAが処罰することができるが,Aがp・=O(処罰しない)を選択すればゲー

ムはそこで終了する。Aがp>0を選択すれば,次にプレイヤーBがプレイヤーAを処罰する機会が与えら

れるが,これは処罰というより報復と言う方が適切であろう。これが繰り返されるが,どちらかのプレ

イヤーがp=0を選択するか,一方の持ち点がゼロになるとゲームは終了する。

 この実験では,怒り,恥,罪悪感,公正感などの感情的反応を観察するために,プレイヤーによる自

己報告を利用した。さらに相手プレイヤーの行動についての予想と公正についてプレイヤーがどのよう

に考えるかも調べている。感情の測定は相手の選択が終わり,自分が手を選択する前に行なわれた。相

手の行動に対する予想は,自分の手の選択が終わって相手の行動を見る前に行なわれた。公正に対する

感覚については実験後に質問された。

 ゲームの結果,処罰が可能な設定では予想通り協力は高い率で維持された。第2ラウンドでの結果は

だい1ラウンドでの経験に大きく依存するが,処罰がない場合には第1ラウンドでBからの返却が小さか

った(r〈150)プレイヤーAは,第2ラウンドでは2/3が裏切りを選択した。r=150の場合には全員が

協ヵを選択した。処罰がある場合には第1ラウンドでBからの返却が小さかった(r<150)プレイヤーA

は,第2ラウンドでは20%が裏切りを選択し,r=150の場合には全員が協力を選択した。さらに処罰が

ある場合に,第1ラウンドでBからの返却がr<150でかつ処罰しなかったプレイヤーAは,第2ラウンド

では50%が協力し,r<150でかっ処罰したAは,第2ラウンドでは88%が協力した。

 プレイヤーAの感情についてはどうであろうか。プレイヤーAが処罰を行なったのは怒りが原因であ

る。プレイヤーBが利己的な行動をとればAの怒りの程度は当然高いが,それが予期しないものであり,

また不公正とみなされる時にはさらに高くなる。プレイヤーBによる報復も同様に怒りであり,やはり

処罰を実行させることになった。さらに詳しく見ると,プレイヤーBが報復するのは怒りは感じるが恥を

感じてはいない場合であった。さらに恥を感じたプレイヤーBは,利己的行動を修正することが多かった。

 怒りの感情が処罰の原因であり,それが協力関係を引き出すことがわかった。しかしさらに報復を導

き,はてしない泥仕合になることもある。しかし,報復を思いとどまらせるのは恥や罪悪感といった順

社会的感情である(Bowles and Gintis,2006)21。そのような社会的感情が怒りに対して怒りで返すとい

う報復行動を抑制すると考えられる。

 不公正とみなされる行動をとった相手を処罰することで協力は維持されるが,処罰する者の動機は,

それによって協力を引き出し自分の利得を増加させることではなく,処罰それ自体が快をもたらすから

21゚悪感が協力行動に及ぼす影響にっいてはKetelaar and Au(2003)も同様に述べている。

                     -151一

45巻 2口 2007 3月

だという証拠がある22。Hopfensitz and Reuben(2005)による実験でも, r=50であったプレイヤーAが分

配の不公正を正すために処罰を行なうのであれば,Aは66.67以上を処罰に使うとは考えられない。し

かし実験ではr=50であったAのうち31. 3%が66. 67以上の利得を処罰することで失ったのである。処罰

それ自体が快をもたらすということが行動に表われていると考えられる。

6.神経経済学による証拠

 本節では,実験ゲームを行なっているプレイヤーの脳の状態をfMRIやPETという画像装置を使って測

定した神経経済学の研究についていくっか取りあげる23。それらは主として,プレイヤーが協力や処罰な

どの行動をとるときに,脳の感情を司る部位が活性化したのかどうかを調べるものである。この方法は,

感情状態をプレイヤーに直接尋ねる方法とともに,感情が事実行動に影響を及ぼすかどうかを実証的に

確かめることができる。

 Sanfey et al.(2003)は,最終提案ゲームの被験者の脳画像をflVfRIを用いて測定している。初期額の

10~20%というきわめて不公正,不平等な提案に対して応答者は,前頭前背外側皮質(dorsolateral

prefrontal cortex:DLPFC),前帯状回皮質(anterior cingulate cortex:ACC),島(とう)(insula)が

特に活性化したのが観察されている。このうち島は,痛み,嫌気,空腹,喉の渇きなどの不快な情動を

経験する時に活性化する部位である。ACCは, 「管理制御能力」(executive function)を担当する脳部

位であり,脳の他のさまざまな部位からの信号を受け取り,それらの間の対立を調整するところである

(Gazzaniga et a1.2002)。おそらく,分配を要求するDLPFCと不公平を厭がる島との間の葛藤をACC

が調整したと推測できる25。特に島が強く活性化した被験者は拒否することがより多かった(相関係数

0。45)。また,提案者が人の場合の方が,提案者がコンピュータの場合よりも不公正な提案に際して,

より島が活性化する傾向が見られた。このことから島の活性化は社会的文脈で行なわれていることが示

唆される。さらに,DLPFCに比して島がより活性化したときには提案は拒否され,逆にDLPFCの方が

島より活性化したいる時には,不公正な提案であっても受け入れる傾向が見られた。このことは,意思

決定において,感情と認知の相互作用によって決定が行なわれていることの強い証拠である。

 Rilling et a1.(2002)は,繰り返し囚人のディレンマ実験を行ない,協力行動における神経活動を調

べた。被験者の相手は,人の場合とコンピュータの場合とがあった。自分が協力を選んだときに,相手

も協力を選ぶと,線条体,ACC,眼窩前皮質(orbitofrontal cortex:OFC)カs’活性化することがわかっ

た。報酬,葛藤の調整(ACC),感情(OFC)が機能しているのである。特に,脳の報酬に関連する部位(線

条体と眼窩前皮質を含む辺縁系のドーパミン・システム)が活性化するということは,互酬的な協力行

動は報酬(快)をもたらすことを示している。また,協力を選んだ相手が人間の場合と,相手がコンピ

ュータの場合とでは報酬額は同一であっても人間相手の方が活性化の程度が強かった。もし,金銭的利

22この点については6節のde Quervain et a1.(2004)についての議論を参照。23

ネ下の3パラグラフは,友野(2005)の議論を若干修正して引用したものである。

                     -152一

日大“1‘’会’“Ns- B,、

得によって脳が快を感じるのであれば,相手が人間であるかコンピュータであるかは問わないはずであ

る。さらに公正モデルが示すように,結果の公正が重要であれば相手がだれかは問題にならないはずで

ある。コンピュータ相手よりも人間が相手の場合の方がより強く快を感じたということは,単に協力行

動が報酬をもたらすことにとどまらず,社会的な文脈での共感などに基づく協力行動が特に人間にとっ

て報酬となり快をもたらすと推測できる。

 de Quervain et a1.(2004)はPET画像を用いて,信頼ゲームにおける処罰に関する脳の活動を調べて

いる。プレイヤーAは初期額を受け取り,その中からBに提供する額を決める。実験者はその額を4倍し

てBに渡し,Bはその一部をAに返すかどうかを決定する。 AはBを信頼すれば投資し, BはAの信頼に答

えるのであれば任意の額を返却するのである。AがBを信頼したのにBが信頼に答えずにAを裏切ったと

きには,AにBを処罰する機会が与えられた。ただし, AがBの利得を実際に減ずる場合と, Aは処罰の意

志を示すが,実際にはBの利得を減らさない形式的な処罰の2通りの条件であった。結果として,処罰を

するときには,どちらの条件であっても背側線条体の尾状核が活性化した。この部位は,報酬を予測し

て意思決定や行動を起こすときに活性化することが知られている。さらに,尾状核がより活性化した被

験者は,より多額の処罰を行なった。つまり,モラルや規範を破る者に対して処罰を与えること自体が

快をもたらすことが示唆される。

7.合理性追求装置としての感情

 感情は合理的な思考や合理的選択を撹乱する要因であると研究者も一般の人も長い間考えてきた。現

代の標準的経済学(新古典派経済学)で感情が言及されることは滅多にないが,暗黙的には感情は合理

性に対する雛乱要因であるとみなされている。

 前節までで見てきたように,感情が社会的相互作用に及ぼす影響は多面的であるが,その中で特筆す

べきは感情の持つポジティブな役割である。協力行動それ自体や規範に従うことが快をもたらしたり,

怒りが処罰を通じて協力体制を整えたり,恥や罪悪感が後悔や反省を媒介として協力行動をとらせたり

と,感情がさまざまなルートによって協力を支えている。

 また社会的ディレンマ状況において,短期的には合理的な戦略である「裏切り」をとらずに長期的に

成功する「協力」を選択させる原動力となっているのが,感情の重要な機能なのである。短期的には非

合理的に見える戦略が長期的には合理的となりうるのであり,この場合には。感情は合理的決定を鈍ら

せるものではなく,むしろ合理的決定を推進するものである(Ketelaar,2006, Ketelaar and Au,2003)。

感情があることによって人は「合理的な愚か者」(Sen,1977)にならずにすむのである。

 人間の究極の目的は適応度を最大化することであるというのが進化心理学の考え方である。この考え

方に依拠して,その目標達成のためには,物質的・経済的利得ができるだけ大きい方がよく,このため

には,長期的な協力関係がきわめて有効である。協力関係を構築・維持するためには,短期的な一見す

ると合理的な決定を行なうことを防ぐ装置が必要であり,この装置として機能するのが感情なのである。

一153一

45巻第2号2007 3月

この意味で感情は,人間が進化・適応する上で本質的な効果を持つのであり,いわばこの合理性は,「適

応的合理性(adaptive rationality)」と言うことができる(Frank,2004a)24。

おわりに

 ゲームを用いた実験や神経経済学などの実証的研究によって,怒りなどの順社会的感情は,長期的な

協力関係を維持する合理的な装置として機能することを見てきた。

 信頼関係は社会を維持し繁栄させるの不可欠な役割を果たしていることが指摘されているが,信頼も

また信頼感という言葉が示しているように感情の働きが大きい。さらに,倫理や正義と言った概念にも

感情が重要な役割を果たすことが指摘されている(Greene et al.,2001;Greene and Haidt,2002;Haidt,

2001;Rawles,1963)。すなわち経済社会が滞りなく運行されるためには,順社会的感情が決定的に重

要なのである。

 経済学は,スミスやヒュームの貢献に立ち返って,順社会的感情(道徳感情)が経済社会に及ぼす重

要性を見過ごしてはならないであろう。

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