egfr遺伝子変異陽性nsclcの最新治療...また、ll3でのジオトリフ服用症例で用量調整の影響を...

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EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの最新治療 進む個別化医療におけるEGFR-TKIの使い分け 座談会 - 京滋北陸エリア 上皮成長因子受容体( EGFR)遺伝子変異陽性非小細胞肺癌(NSCLC )は、日本人の肺腺癌患者の約50%を占めると言われ、さ らにエクソン19欠失変異(Del 19)、エクソン21のL858R点突然変異(L858R)など、様々なサブタイプに分類されます。こ うした背景から日本肺癌学会の肺癌診療ガイドラインでも治療の個別化が推奨しています。様々な臨床背景の患者に対してどのよ うな治療選択をしていくべきかを、NSCLC 治療の実臨床に携わる 5 人の臨床医に検討していただきました。 (2017 年 4 月 1 日取材) 京都大学医学部附属病院 がん薬物治療科 特定助教 永井 宏樹先生 座 長 出席者 関西医科大学附属病院 呼吸器腫瘍内科 准教授 ※取材時(2017.4.1)倉敷中央病院 呼吸器内科 部長 吉岡 弘鎮先生 京都桂病院 呼吸器センター・ 呼吸器内科 副医長 岩坪 重彰先生 京都大学医学部附属病院 呼吸器内科 吉田 博徳先生 日本赤十字社 京都第二赤十字病院 呼吸器内科 山本 千恵先生

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Page 1: EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの最新治療...また、LL3でのジオトリフ服用症例で用量調整の影響を 解析した結果、全副作用の発現率が減量前100%から減

EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの最新治療進む個別化医療におけるEGFR-TKIの使い分け

座談会 - 京滋北陸エリア

上皮成長因子受容体( EGFR)遺伝子変異陽性非小細胞肺癌( NSCLC )は、日本人の肺腺癌患者の約50%を占めると言われ、さらにエクソン19欠失変異(Del 19)、エクソン21のL858R点突然変異(L858R)など、様々なサブタイプに分類されます。こうした背景から日本肺癌学会の肺癌診療ガイドラインでも治療の個別化が推奨しています。様々な臨床背景の患者に対してどのような治療選択をしていくべきかを、NSCLC治療の実臨床に携わる5人の臨床医に検討していただきました。(2017年4月1日取材)

京都大学医学部附属病院がん薬物治療科 特定助教永井 宏樹先生座 長

出席者 関西医科大学附属病院呼吸器腫瘍内科 准教授※取材時(2017.4.1)倉敷中央病院 呼吸器内科 部長

吉岡 弘鎮先生京都桂病院 呼吸器センター・呼吸器内科 副医長岩坪 重彰先生京都大学医学部附属病院呼吸器内科吉田 博徳先生日本赤十字社 京都第二赤十字病院 呼吸器内科山本 千恵先生

Page 2: EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの最新治療...また、LL3でのジオトリフ服用症例で用量調整の影響を 解析した結果、全副作用の発現率が減量前100%から減

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100

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00 3 9 15 21 27 33 39 456 12 18 24 30 36 42 48

全生存率(%)

全生存期間(月)

L858R afatinib

L858R PEM+CDDP

L858R100

80

60

40

20

00 3 9 15 21 27 33 39 456 12 18 24 30 36 42 48

全生存率(%)

全生存期間(月)

Del 19 afatinib

Del 19 PEM+CDDP

Del 19

Kato T. et al.: Cancer Sci 2015 106(9):1202※本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された

Fig.1 Subgroup OS analysis of LUX-Lung 3 Japanese Sub set Del 19 vs L858R

目  的:1 次治療としてのジオトリフ単独療法の有効性および安全性を PEM+CDDP 併用化学療法と比較する対  象:EGFR TKI を含む化学療法未治療の EGFR 遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌患者 345 例(日本人 83 例を含む)方  法:対象をジオトリフ群(40mg/ 日を連日経口投与)あるいは PEM+CDDP 群(各々 500mg/m2、75mg/m2 を 3 週毎に点滴静注)にランダムに割付け、有効性および安全性を検討した評価項目:主要評価項目…無増悪生存期間     主な副次評価項目…奏効率、病勢コントロール率、全生存期間、患者報告アウトカム、安全性解析計画:事前に計画されたサブグループ解析として、日本人における有効性と安全性の層別解析を実施した副 作 用 :ジオトリフ群の副作用発現率は 100.0% で、下痢(100.0%)、発疹 / ざ瘡(100.0%)、爪の異常(92.6%)などが認められた。PEM+CDDP 群の副作用発現率は 100.0% で、悪心(89.3%)、食欲減退(78.6%)、 好中球減少症(71.4%)などが認められた

サブタイプによる EGFR-TKI 3剤の使い分けに対する最新知見

永井:切除不能なNSCLCでは1990年頃の全生存期間(OS)は1年前後でした。2000年ぐらいまでの治療薬は、殺細胞性抗癌剤がメインでした1)が、癌の増殖を促進させるEGFRの遺伝子変異や未分化リンパ腫キナーゼ( ALK )融合遺伝子に対する分子標的薬の時代が10年続き、ここ2年では免疫チェックポイント阻害薬が登場してきています。

最近の新薬開発の中心は分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬で、昨年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)の肺癌治療薬に関する演題数は、分子標的薬が最多で次いで免疫チェックポイント阻害薬となっています。

これまでに肺腺癌のドライバー遺伝子変異としては、EGFR や ALK 融合遺伝子以外に MET 遺伝子増幅、RET 融合遺伝子、ROS1 融合遺伝子、HER2 遺伝子変異、BRAF遺伝子変異などが発見され、治療薬の研究も始まっています。このような背景を反映し、日本肺癌学会の肺癌診療ガイドラインでも治療の個別化が推奨されています。

EGFR遺伝子変異陽性のNSCLCに対する治療戦略は、1次治療でゲフィチニブ、エルロチニブ、ジオトリフのいずれかを使用し、病勢進行(PD)になった場合は、エクソン20のT790M点突然変異(T790M)があればオシメル

チニブ、なければ化学療法を選択し、その後に再度EGFR-TKI投与なども行い、OS延長を目指します。つまりEGFR遺伝子変異陽性例ではEGFR-TKIを軸とする治療方針は当面は変わらないと考えられます。

EGFR-TKI の使い分けは、Del 19 と L858R のメジャー変異、それ以外の Uncommon 変異、パフォーマンスステータス(PS)、年齢、脳転移の有無といった要素でも異なり、専門医でも意見の一致をみないクリニカルクエスチョンも残されています。そういった現実を踏まえ、EGFR-TKIの使い分けについてこの場で皆さんと一緒に考えていきたいと思います。まず、LUX-Lung 7(LL7)試験を中心とする最新の知見を吉岡先生に整理して解説していただきます。

吉岡:現在、EGFR遺伝子変異陽性の1次治療に対するEGFR-TKIの選択肢は、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ジオトリフの3剤があります。ゲフィチニブとエルロチニブを比較したHead to HeadのWJOG5108L試験では、無増悪生存期間(PFS)、OSのハザード比で統計学的有意差は認められていません2)。

第2世代のEGFR-TKIであるジオトリフは、LUX-Lung 3(LL3)、LUX-Lung 6(LL6)の2つの化学療法との比較試験の統合解析で、Del 19では化学療法に比べ、OSを延長したことがわかりました3)。ゲフィチニブ、エルロチニブといった第1世代のEGFR-TKIでは、化学療法に比べ

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座談会 -京滋北陸エリアEGFR遺伝子変異陽性NSCLCの最新治療 進む個別化医療におけるEGFR-TKIの使い分け

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で、LL6ではシスプラチン+ゲムシタビンです。一方LL7は、ジオトリフとゲフィチニブとのHead to Headですから、対照群の違いが影響しているかもしれません。

吉田:日本人が登録されているLL3のL858Rに関する解析を見ても、ジオトリフは化学療法に比べ劣っているわけではありません。この結果が実臨床に即していると考えています。これとLL7の結果を併せて考えると、L858Rの症例にEGFR-TKI を投与するならば、治療効果の高い薬剤を優先して投与する原則に沿い、ジオトリフを第1選択薬にすることが順当だと判断しています。

吉岡:ここで、ジオトリフの投与量を解析したLL3の日本人サブ解析データを紹介します。開始用量の40mgを継続した症例と30mg、20mgに減量した症例では、40mgを継続した症例のPFSが短く、20mgまで減量した症例が長い傾向でした。

こうした傾向からも現在のEGFR-TKIの一律用量は、検討・改善の余地があると考えています。

また、LL3でのジオトリフ服用症例で用量調整の影響を解析した結果、全副作用の発現率が減量前 100%から減量後86.1%、グレード3以上の副作用は減量前73.0%から減量後 20.5%まで低下しています。とりわけジオトリフで多い下痢は、グレード 3 以上が減量前 20.5%から減量後4.1%に低下し、その他の副作用の発現率も重篤なものは減少していました。

同じ解析結果でジオトリフ投与開始後 22 日目と 43 日目での血漿中薬剤濃度も比較しています。43日目までに30mg に減量した症例の 22 日目時点の血漿中濃度は、40mg を継続した症例よりも高く、減量後には 40mg を

OSを延長した結果は報告されていません。もっともLL3、LL6とも変異別のOSサブ解析結果では、

L858Rでは差はありませんでした。LL3の日本人症例のサブ解析結果でも同じくジオトリフ

はDel 19でOSの延長効果を示し、L858Rでは差は認められませんでした4)(Fig.1)。

LL7は、第1世代のゲフィチニブと第2世代のジオトリフを直接比較して行われ、Del 19またはL858Rの未治療・PS 0-1 の進行肺腺癌で、ジオトリフ 1 日 1 回 40mg とゲフィチニブ 1 日 1 回 250mg の 2 群に分け、PFS、Time to Treatment Failure(TTF)、OS を主要評価項目として検討した試験です。両群間の患者背景はほぼ同じでした。

PFS は中央値でみると、ジオトリフ 11.0 か月、ゲフィチニブ10.9か月ですが、ジオトリフのPFS曲線が上であり後半明らかになっています。ハザード比は 0.74 で P 値は 0.0178 でした。また、奏効率はジオトリフ 72.5%、ゲフィチニブ56%でP値は0.0018でした5)。

永井:今の吉岡先生の解説では、PFSやOSの中央値よりもハザード比で検討しないと評価が難しいということになりますね。

吉岡:LL7のPFSのカプラン・マイヤー曲線をみると、後半で両群の差が明らかになっています。この後半の差を評価するには、一部の患者集団で起きると考えられるため、ハザード比での検討が必要です。

永井:L858Rに対するジオトリフの有効性について皆さんのご意見はいかがですか?

山本:ハザード比はありますが、印象としてゲフィチニブとは差がないと感じています。

岩坪:LL3とLL6の統合解析でジオトリフのOS延長効果がDel 19とL858Rで差があった3)ことで各変異別に治療を変えるべきかという議論が起こったわけですが、LL7で方向性が見えたと思います。私はLL7を受け、Del 19とL858Rともにジオトリフが第1選択薬と判断しましたが、LL3とLL6の統合解析とLL7でなぜ傾向が異なったかは今も疑問に思っています。

吉岡:LL3の比較対照はシスプラチン+ペメトレキセド

京都大学医学部附属病院 がん薬物治療科 特定助教 永井宏樹

・EGFR-TKIの使い分けについては変異別、高齢者、脳転移の有無が検討課題・Del 19で75歳未満、PS 0-1、脳転移なしの場合は、第1選択薬はジオトリフで全員一致

永井先生Doctor's eye

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継続した症例と同等になっています。しかも LL3 でジオトリフ投与開始 6 か月以内に減量をした症例と減量しなかった症例のPFSに有意差はありません6)。

つまりジオトリフの忍容性に応じた適切な用量マネジメント(休薬・減量)は、有効性に影響を与えずに副作用を軽減し、治療継続を可能にするということです。このため私は実臨床でグレード3や忍容できないグレード2の副作用が認められた場合は、速やかに減量すべきと考えています。

ジオトリフは年齢、BMI、PS など 患者背景による用量マネジメントが鍵

永井:実臨床では、80代の患者へのジオトリフ投与は安全性が気になります。Del 19またはL858Rの、ゲフィチニブという選択肢もあります。しかしながら、マイナー変異では可能ならばジオトリフを選択したいと私は考えますが、いかがでしょうか。

吉岡:80代でも20mg開始であればジオトリフへ忍容性があると考えられる場合、私は投与可能と考えています。

岩坪:BMIが低いと減量傾向にあるという報告6)もありましたが、その点はいかがですか。

吉岡:ゲフィチニブでは体表面積1.5m2を境に血中濃度がかなり異なるとの報告7)もあります。ジオトリフも体格は一定程度関係しているとは思いますが、クリアな相関は確

立されていません。

永井:実臨床での視点からだと体格の差は気になります。体重30Kg台の高齢女性と体重70Kgの中年男性を同じように40mgで開始してよいのかという意味です。

吉岡:私は、体重30kg台ならば30mgから開始します。

岩坪:若年者でも同様の対応ですか?

吉岡:やはり体格がある程度は関係していると思いますので、60歳ぐらいで体重30kg台などの場合は減量で開始します。というのも、ジオトリフの治験症例で体重100kgの患者では40mg投与でも副作用がほとんどなかった経験があるからです。ただこの症例の場合、PFSはかなり短いものでした。その点から体格が小さい場合は減量、大きい場合は増量した方がいい場合もあると考えています。

EGFR-TKIの使い分けに関連し、有効性も副作用もすぐれた絶対王者はいないのが現状です。薬剤選択は有効性と忍容性のバランスで規定されますが、多くの患者の治療目標は「元気(副作用が少なく)で長生き(OS延長)する」ことです。

薬剤選択では患者の意志も重要です。大別すると、延命を望む患者、副作用コントロールを前提に有効性の高い薬剤を望む患者ではジオトリフ、延命よりも副作用の軽度さを重視する患者ではゲフィチニブと考えます。

ドレナージ後も悪性胸水が残存している場合や、脳転移例で特に浮腫がある場合は、エルロチニブ+ベバシズマブ

(AT療法)、ベバシズマブが投与できない場合はジオトリフを選択します。

3 人の臨床医が考える、変異別、高齢者、脳転移によるリアルなEGFR-TKI選択とは

永井:ここで3施設の先生方にお答えいただいたアンケートの結果から薬剤選択についてディスカッションしたいと思います。使い分けについては変異別、高齢者、脳転移の有無が焦点になると思われます。

まずDel 19で75歳未満、PS 0-1、脳転移なしの場合は、第 1 選択薬はジオトリフで全員一致しています(Fig.2)。

吉岡先生Doctor's eye

・LL7のカプラン・マイヤー曲線は後半で両群の曲線差が開いている。ハザード比での検討が必要・忍容性に応じた適切な用量マネジメント(休薬・減量)は、有効性に影響を与えずに副作用を軽減、治療継続を可能に

関西医科大学附属病院 呼吸器腫瘍内科 准教授 吉岡弘鎮先生※取材時 (2017.4.1) 所属 倉敷中央病院 呼吸器内科 部長

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座談会 -京滋北陸エリアEGFR遺伝子変異陽性NSCLCの最新治療 進む個別化医療におけるEGFR-TKIの使い分け

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L858R で 75 歳未満、PS 0-1、脳転移なしでは、山本先生の第1選択薬はゲフィチニブで、元気であればジオトリフということですが。

山本:L858Rに関しては、LL7のOS中央値はジオトリフ25か月、ゲフィチニブ21.2か月でハザード比は0.91でした5)。副作用がより軽微な治療薬が望ましいだろうという考えが基本ですが、絶対ジオトリフを使わないわけではありません。エルロチニブも選択肢としてありますが、そこは患者の状況次第です。ジオトリフの副作用が厳しいとしても、一定の忍容性があると判断すればエルロチニブ、それも難しそうならばゲフィチニブを検討します。また、皮疹を避けたい患者ではゲフィチニブを検討します。

永井:皆さんはジオトリフの皮疹で難渋したケースはありますか?私の場合は、下痢や爪囲炎で困る例は経験していますが、皮疹で困る経験は少ない印象です。

吉岡:少なくとも日本人ではエルロチニブと同程度の発現頻度という印象です。もっとも下痢の副作用が強い患者では、早期に減量が行われるので、皮疹が出現しにくいのかもしれません。

永井:岩坪先生と吉田先生は、ジオトリフを選択されていますね。

岩坪:従来は、LL3とLL6の統合解析結果3)を加味し、L858Rではゲフィチニブとも考えましたが、LL7では全体でPFSのハザード比5)を見ると、Phase 2bでも結果は尊重すべきと考えました。

永井:LL7はPhase 2bですが、多くの第Ⅲ相試験と変わらない規模の症例数でかつHead to Head試験であることを考えれば、インパクトが大きいと私も考えています。

吉田:私もジオトリフ単剤で2~3年の奏効が維持できている例がゲフィチニブよりも多いことが、ジオトリフを選択する理由です。

永井:Del 19の75歳未満、脳転移ありでは、ジオトリフ単剤、AT療法に分かれます(Fig.3)。山本先生はAT療法を選ばれていますね。

山本:エルロチニブを選択するのは髄液移行性が良好との報告8)があるからです。ベバシズマブ併用の是非は、出血

京都桂病院 呼吸器センター・呼吸器内科 副医長 岩坪重彰先生

・Del 19とL858Rの変異別で治療を変えるべきかという議論が起こったが、LL7で方向性が見えた・LL7では全体でPFSのハザード比を見ると、Phase 2bでも結果は尊重すべき

岩坪先生Doctor's eye

②EGFR-TKI初回EGFR-TKIと変更

ジオトリフ

第3世代EGFR-TKI

EGFR-TKI化学療法

化学療法T790M+

1st-line

岩坪先生

2nd-line 3rd-line

T790M-

Del 19 , 75歳未満 , PS 0-1, 脳転移なし

ジオトリフ

第3世代EGFR-TKI

EGFR-TKI化学療法

化学療法T790M+

T790M-

L858R , 75歳未満 , PS 0-1, 脳転移なし

Del 19 , 75歳未満 , PS 0-1, 脳転移なし

L858R , 75歳未満 , PS 0-1, 脳転移なし

Del 19 , 75歳未満 , PS 0-1, 脳転移なし

L858R , 75歳未満 , PS 0-1, 脳転移なし

ジオトリフ

第3世代EGFR-TKI

免疫療法化学療法

化学療法

EGFR-TKI

T790M+

吉田先生

T790M-

ジオトリフ

第3世代EGFR-TKI

EGFR-TKI

化学療法

化学療法T790M+

T790M-

3rd-line はどれもあり得る。もう一度Re-biopsy も考慮ニボルマブ、ペンブロリズマブもあり得る

3rd-line はどれもあり得る。もう一度Re-biopsy も考慮ニボルマブ、ペンブロリズマブもあり得る

75歳未満 PS 0-1 脳転移なしFig.2

免疫療法

ジオトリフ

第3世代EGFR-TKI

化学療法

①化学療法T790M+

山本先生

T790M-

①ゲフィチニブ②元気であればジオトリフ

第3世代EGFR-TKI

②EGFR-TKI初回EGFR-TKIと変更化学療法

①化学療法T790M+

T790M-

初期検査 T790M陰性の場合はもう一度Re-biopsy も考慮

初期検査 T790M陰性の場合はもう一度Re-biopsy も考慮

調査対象:座談会出席者 方法:記名回答

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岩坪:まずはジオトリフを考えますが、脳転移の程度にもよります。放射線照射は必要とは思われないものの、浮腫が強く中枢神経障害が出現する可能性が高ければ、AT療法も念頭に置きます。

永井:高齢者ではかなり意見が割れています(Fig.4)。75歳以上でDel 19、PS 0-1、脳転移なしの場合、山本先生は第1選択薬がゲフィチニブですね。

山本:75歳以上ではやはり安全性重視のためにゲフィチニブを選択しますが、76~77歳でPSが良好な症例でジオトリフを投与した経験もあり、その際は有効でした。ただし、80歳以上では下痢の副作用による影響の深刻度はか

傾向の有無などを考慮して決定します。

永井:LL3とLL6のジオトリフ単剤の脳転移症例における奏効率は約70%~75%で9)、エルロチニブ単剤とほぼ同等です。エルロチニブを使うメリットは、AT療法が行えることです。私も脳浮腫が重度な症例などにはAT療法を施行します。

岩坪:私はジオトリフ単剤です。ジオトリフが無効ならばAT療法です。現在はEGFR-TKI有効例のOSが4~5年という時代ですので、脳転移への放射線全脳照射は白質脳症の発現を考えると避けたいですね。

吉田:Del 19では浮腫が目立たない脳転移であれば、ジオトリフ単剤で十分と感じていますが、痙攣を起こしそうな浮腫がある場合などは、AT療法を選択します。L858Rでベバシズマブの適応として問題なしと判断すれば、AT療法優先です。

永井:脳転移例でDel 19ならば、効果を期待しやすいジオトリフを選択しますが、L858Rではジオトリフ単剤かAT療法かは悩むところですが。

吉岡:浮腫を伴う脳転移がある症例ではDel 19、L858Rにかかわらず、ベバシズマブが適応になれば、AT療法を選択しています。

永井:L858Rで75歳未満、脳転移ありでは、山本先生はエルロチニブ+ベバシズマブ、岩坪先生はジオトリフですね。

京都大学医学部附属病院 呼吸器内科 吉田博徳先生

・LL3のL858Rに関する解析を見ても化学療法に比べジオトリフは劣っていないという結果は、実臨床に則している・ジオトリフ単剤で2 ~ 3年の奏効が維持できている例がゲフィチニブよりも多いことがジオトリフを選択する理由

吉田先生Doctor's eye

1st-line 2nd-line 3rd-line

②EGFR-TKI初回EGFR-TKIと変更

ジオトリフ※約2か月でMR/CT検査効果によりエルロチニブ +ベバシズマブに変更

第3世代EGFR-TKI

EGFR-TKI化学療法

化学療法T790M+

岩坪先生

T790M-

Del 19 , 75歳未満 , PS 0-1, 脳転移あり

L858R , 75歳未満 , PS 0-1, 脳転移あり

Del 19 , 75歳未満 , PS 0-1, 脳転移あり

L858R , 75歳未満 , PS 0-1, 脳転移あり

Del 19 , 75歳未満 , PS 0-1, 脳転移あり

L858R , 75歳未満 , PS 0-1, 脳転移あり

ジオトリフ

第3世代EGFR-TKI

EGFR-TKI化学療法

化学療法T790M+

T790M-

①ジオトリフ②エルロチニブ+ベバシズマブ

第3世代EGFR-TKI

免疫療法化学療法

化学療法

EGFR-TKI

T790M+

吉田先生

T790M-

第3世代EGFR-TKI

EGFR-TKI

化学療法

化学療法T790M+

T790M-

3rd-line はどれもあり得る。もう一度Re-biopsy も考慮ニボルマブ、ペンブロリズマブもあり得る

3rd-line はどれもあり得る。もう一度Re-biopsy も考慮ニボルマブ、ペンブロリズマブもあり得る

75歳未満 PS 0-1 脳転移ありFig.3

免疫療法

第3世代EGFR-TKI

化学療法

化学療法T790M+

山本先生

T790M-

第3世代EGFR-TKI

②EGFR-TKI初回EGFR-TKIと変更化学療法

化学療法T790M+

T790M-初期検査 T790M陰性の場合はもう一度Re-biopsy も考慮

初期検査 T790M陰性の場合はもう一度Re-biopsy も考慮

①エルロチニブ+ベバシズマブ②ジオトリフ

エルロチニブ+ベバシズマブ※出血傾向なし

エルロチニブ+ベバシズマブ※出血傾向なし

調査対象:座談会出席者 方法:記名回答

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座談会 -京滋北陸エリアEGFR遺伝子変異陽性NSCLCの最新治療 進む個別化医療におけるEGFR-TKIの使い分け

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から90歳以上の長寿も考えられるような80歳代の患者では、ジオトリフも選択肢に挙がります。

永井:70歳代後半でジオトリフ投与時は40mgから始めますか。

岩坪:70歳代後半でも若めに見える患者では、40mgで開始しますが、80歳以上で40mgに抵抗があれば30mgで開始し、忍容性があれば増量も考えるのが現実的です。85歳以上はゲフィチニブだと考えています。

吉田:私も皆さんとほぼ同じ意見で、80歳以上では患者があまり延命を希望せず、副作用が軽度であることを望まれることが多いのでゲフィチニブが中心です。ただ、皆さんのお話を聞きながら、ゲフィチニブでの肝障害発現も考慮し、ジオトリフ20mg開始で忍容性が認められなければ、ゲフィチニブへの変更も考え始めています。75~80歳では延命を望む患者が多いので、化学療法も可能な体力がある場合は減量を視野にいれながらジオトリフを選択します。

高齢者ではまず忍容性を考慮するため、若年者と比べるとL858Rでの薬剤選択は大きな議論にはならないという考えです。

永井:山本先生は、Del 19でPSが良好ならば、ジオトリフを選択する例もあるとのことでしたが、L858Rではその割合はいかかですか?

山本:Del 19と比べて低いのが現状です。

永井:岩坪先生は、高齢者のDel 19ではジオトリフ、L858Rではゲフィチニブかジオトリフとのことですが、

なり異なると考えています。個人的には薬剤選択では、副作用の管理面から、患者が独居か家族と同居かという生活背景も重視しています。

永井:岩坪先生は70~75歳ではジオトリフ30mg、75~80歳は患者背景により判断し、下痢などのセルフマネジメントが可能と判断したらジオトリフ、80歳以上はゲフィチニブとしていますね。

岩坪:80歳までは体力があれば、ジオトリフを積極的に投与しようと思っていますが、国内の平均寿命が男性81歳、女性87歳という現実で、80歳以上では肺癌のコントロールのみではなく、患者の価値観や治療のマイルドさも考慮してゲフィチニブを選択しがちです。もっとも体力面

・76 ~ 77歳でPSが良好な症例では、ジオトリフ投与が有効だった症例を経験

山本先生Doctor's eye

1st-line 2nd-line 3rd-line

・70-75歳 ジオトリフ(30㎎)・75-80歳 患者背景により判断、下痢などのマネジメントできそうならジオトリフ・80歳以上 ゲフィチニブ

85歳以上だとゲフィチニブ選択70代まではジオトリフ

(80歳以上 80歳未満が微妙なところ)

第 3世代EGFR-TKI

EGFR-TKI化学療法

化学療法T790M+

岩坪先生

T790M-

Del 19 , 75歳以上 , PS 0-1, 脳転移なし

第 3世代EGFR-TKI

EGFR-TKI化学療法

化学療法T790M+

T790M-

L858R ,75歳以上 ,PS 0-1, 脳転移なし

Del 19 , 75歳以上 , PS 0-1, 脳転移なし

L858R ,75歳以上 ,PS 0-1, 脳転移なし

Del 19 , 75歳以上 , PS 0-1, 脳転移なし

L858R ,75歳以上 ,PS 0-1, 脳転移なし

第 3世代EGFR-TKI

免疫療法化学療法

化学療法

EGFR-TKI

T790M+

吉田先生

T790M-

第 3世代EGFR-TKI

EGFR-TKI

EGFR-TKI

EGFR-TKI

化学療法

化学療法T790M+

T790M-

3rd-line はどれもあり得る。もう一度Re-biopsy も考慮ニボルマブ、ペンブロリズマブもあり得る

3rd-line はどれもあり得る。もう一度Re-biopsy も考慮ニボルマブ、ペンブロリズマブもあり得る

75歳以上 PS 0-1 脳転移なしFig.4

免疫療法

第 3世代EGFR-TKI

化学療法

化学療法T790M+

山本先生

T790M-

第 3世代EGFR-TKI

化学療法

化学療法T790M+

T790M-初期検査 T790M陰性の場合はもう一度Re-biopsy も考慮

初期検査 T790M陰性の場合はもう一度Re-biopsy も考慮

ゲフィチニブジオトリフ (30㎎)

①ジオトリフ20/30㎎検討

②ゲフィチニブ

①ゲフィチニブ②ジオトリフ20/30㎎検討

①ゲフィチニブ②ジオトリフ

③エルロチニブ

①ゲフィチニブ②ジオトリフ

③エルロチニブ

日本赤十字社 京都第二赤十字病院 呼吸器内科 山本千恵先生

調査対象:座談会出席者 方法:記名回答

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8

両者でその割合は変わりますか?

岩坪:変わりません。ジオトリフが有効なケースは、L858Rでも長期に効く印象を実臨床で持っていますので、まずは最も有効な薬剤で治療を開始したいと考えています。

永井:吉田先生は、忍容性重視とおっしゃっていましたが、先生がよく行うAT療法は、高齢者ではどの程度実施しますか?

吉田:高齢者へのベバシズマブ投与は肺癌診療ガイドラインでも推奨されておらず10)、個人的には原則75歳までと考えています。それ以上の年齢では、ジオトリフの減量を選択するケースが半数以上です。ただ脳浮腫の治療で、ステロイドも抗浮腫薬も使用不可あるいは無効の場合は、やむなくベバシズマブを単独投与することはあります。

岩坪:AT療法ではなくベバシズマブ単独ですか?

吉田:脳転移への放射線照射で脳放射線壊死による浮腫が発生した場合です。

患者調査では、副作用より効果を重視する傾向

吉岡:肺癌学会が行った患者の薬剤選択に関する意識調査の結果を紹介します。抗癌剤治療を受けたことのある肺癌患者約100人に対するアンケート調査です11)。「あなたが抗がん剤治療に期待することは何ですか」という質問に対し、3つを選択してもらったところ、1 位は「生存期間が

延びること」、以下「がんが進行しない期間が延びること」、「これまでと同じ生活が維持できること」、「がんが小さくなること」、「副作用が少ないこと」などとなっていました。効果を望む人が多く、可能なら以前と同様の生活を維持したいということです。

また同アンケートでは「抗がん剤治療では副作用が出ることがありますが、あなたが抗がん剤治療を選ぶ際に、効果と副作用のバランスをどのようにお考えですか?」という質問もしています。1 位が「一番効果の高い治療なら、副作用を軽くする対処療法がしっかり受けられれば、治療を受けたい」。2 位が「一番効果の高い治療なら、多少つらい副作用があっても、治療を受けたい」。3 位が「効果は一番高くなくてよいので、副作用があまりない治療を受けたい」という結果でした。これは、かなり強い治療でも受けたいということです(Fig.5)。

同調査からは、患者は副作用よりも効果を重視している傾向があることが伺えます。

EGFR-TKI リチャレンジとその後の治療戦略、今後の展望は

永井:EGFR-TKIを使った治療戦略の中で、免疫チェックポイント阻害剤をいつ使うかという問題ですが、先生方はどうしていますか。

吉田:単純にEGFR-TKIのリチャレンジがしづらくなるため、最後の最後にしています。

山本:報道の影響で希望する患者が多いのですが、同様に最後の手段です。

日本肺癌学会肺がん医療向上委員会 肺がん治療(抗がん剤治療)に関するアンケート

Fig.5 Q. 抗がん剤治療では副作用が出ることがありますが、 あなたが抗がん剤治療を選ぶ際に、効果と副作用のバランスをどのようにお考えですか?(ひとつだけ選択してください)

65

21

13

7

1

0 10 20 30 40 50 60 70 (人)

一番効果の高い治療なら、副作用を軽くする対処療法が 

しっかり受けられれば、治療を受けたい 

効果は一番高くなくてよいので、副作用があまりない治療を受けたい 

副作用は嫌なので抗がん剤治療は受けたくない

わからない

一番効果の高い治療なら、多少つらい副作用があっても、治療を受けたい 

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座談会 -京滋北陸エリアEGFR遺伝子変異陽性NSCLCの最新治療 進む個別化医療におけるEGFR-TKIの使い分け

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1) Ohe Y.et al.:Ann Oncol 2007 18(2):3172) Urata Y.et al.:J Clin Oncol 2016 34(27):32483) Yang JC.et al.:Lancet Oncol 2015 16(2):141※4) Kato T.et al.:Cancer Sci 2015 106(9):1202※5) Paz-Ares L.et al.:Ann Oncol 2017 28(2):270※6) Yang J.C.et al.:Ann Oncol 2016 27(11):2103※7) Ichihara E.et al.:Lung Cancer 2013 81(3):4358) Togashi Y.et al.:Cancer Chemother Pharmacol 2012 70(3):3999) Schuler M.et al.:J Thorac Oncol 2016 11(3):380※10) 日本肺癌学会ガイドライン検討委員会:EBMの手法による肺癌診療ガイドライン  2016年版、日本肺癌学会11) 日本肺癌学会 肺がん医療向上委員会 肺がん治療(抗がん剤治療)に関するアンケート12) Mok TS.et al.:N Engl J Med 2017 376(7):629

※本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された

岩坪:免疫チェックポイント阻害薬の影響は長期間継続するので、吉田先生と同じ理由で最後の最後ですね。

永井:第3世代のEGFR-TKIであるオシメルチニブに関してはいかがでしょうか。ゲフィチニブとエルロチニブの中央値が10か月強、ジオトリフは約14か月です。現状では、EGFR-TKI前治療を有する症例に対するオシメルチニブとプラチナ製剤+ペメトレキセド併用群と比較したAURA3試験12)では、オシメルチニブのPFS中央値は約10.1か月です。オシメルチニブは2次治療としての上乗せ効果に期待した方がいいと思いますか。

吉岡:私は、オシメルチニブの1次治療におけるPFSが20か月になるかがカギになると考えています。

永井:かつてOSで1年を目指して治療をしていた時代から現在はOSで4~5年を目指す治療へと大きな進歩を遂げているという現実は、今後の治療の進歩への光明を暗示していると思います。分子標的薬では ROS1融合遺伝子陽性の治療薬も登場し、今後は MET 遺伝子増幅などへの分子標的薬も登場する可能性はあります。その意味ではプラチナダブレット、EGFR-TKI、免疫チェックポイント阻害薬などを組み合わせて治癒を目指せる時代がくればいいと思います。本日は活発なご意見をいただきありがとうございました。

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2017年6 月作成123456