改良型バイオネーターを用いた骨格性上顎前突症例の 小林...

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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/ Title Author(s) �, �; �, �; �, �; �, �; �, �; �, Journal �, 120(1): 79-89 URL http://doi.org/10.15041/tdcgakuho.120.79 Right Description

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  • Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,

    Available from http://ir.tdc.ac.jp/

    Title改良型バイオネーターを用いた骨格性上顎前突症例の

    Ⅰ期治療報告

    Author(s)小林, 弘史; 戸嶋, 翼; 嶋田, 勝也; 森川, 泰紀; 末石,

    研二; 西井, 康

    Journal 歯科学報, 120(1): 79-89

    URL http://doi.org/10.15041/tdcgakuho.120.79

    Right

    Description

  • 緒 言

    骨格性上顎前突症例は,上顎骨が前突していることよりも,下顎骨が後退していることに起因している場合が多い1-4)。顎骨の成長コントロールを行うⅠ期治療では,機能的矯正装置を用いた下顎骨の前方成長を促す治療をしばしば行う。その際には,下顎骨の成長スパートの判定や下顎骨の成長を妨げる様々な因子の排除を行うことが重要である5,6)。歯列の排列は,唇側からの頰唇圧と舌側からの舌

    圧とのバランス,いわゆるバクシネーターメカニズムにより決定されることは広く知られており7,8),骨格性上顎前突症例では下唇圧が通常よりも強いことが報告されている9)。このように機能障害によって形態異常は引き起こされるが,一方で形態異常が機能障害を誘発することもあり,不正咬合の改善に

    は,形態と機能の双方の改善が望まれる10,11)。様々な機能的矯正装置の中で,形態と機能の双方

    を改善できる装置としてFränkel 装置が選択されることが多いが,装置の製作や臨床上の取り扱いが難しい装置でもある。そこでTeuscher は,下唇圧の排除機構を組み入れた改良型バイオネーター(図1)12)を考案した。この装置は,機能的矯正装置として作用しながら下唇圧の排除と過大な overjet による下唇の上顎前歯の内側への巻き込みを防止する効果があり,形態と機能の改善が行われるよう改良されている。今回著者らは,骨格性上顎前突と診断されたⅠ期

    臨床報告

    改良型バイオネーターを用いた骨格性上顎前突症例のⅠ期治療報告

    小林弘史1) 戸嶋 翼2) 嶋田勝也3) 森川泰紀2)

    末石研二2) 西井 康2)

    1)山梨県,2)東京歯科大学歯科矯正学講座,3)東京都

    抄録:今回報告する2症例は,初診時年齢13歳10か月の男子(症例1)と6歳8か月の女児(症例2)で,上顎前突を主訴に来院した。両症例とも過大な overjet とそれに伴う下唇のくわえ込み,下唇の翻転等の形態と機能の異常を認めた。検査の結果,下顎後退型の骨格性上顎前突と診断した。症例1は上下顎とも永久歯列となっており,Dolico facial pattern であった。症例2は上下顎前歯部に叢生のある混合歯列で,Brachy facial pattern であった。治療方針として,下唇圧の排除機構を組み入れた改良型バイオネーターを用いて下顎前方成長を促すⅠ期治療を行った。両症例ともⅠ期治療終了後には,下顎骨の前方成長によって過大な overjet や下唇のくわえ込み等の改善がなされ,形態と機能の双方の改善が行われた。Ⅰ期治療における成長コントロールが効果的に行われることによって,良好な側貌プロファイルの獲得や正常な口腔周囲機能の獲得に有用であることが示された。

    キーワード:改良型バイオネーター,下顎後退型上顎前突,Ⅰ期治療

    (2019年11月8日受付,2020年1月24日受理)http : //doi.org/10.15041/tdcgakuho.120.79連絡先:〒407‐0015 山梨県韮崎市若宮1-2-50

    韮崎市民交流センターニコリ3Fニッコリ矯正歯科クリニック 小林弘史 図1 改良型バイオネーター

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    ― 79 ―

  • 治療に対して,改良型バイオネーターを使用し良好な治療結果を得た。そこで改良型バイオネーターを使用した2症例を基に,矯正歯科臨床における有用性について考察したので報告する。なお,この報告にあたり患者とその保護者の承諾を得ている。

    症例 1

    1.診査および診断患者は初診時年齢13歳10か月の男子で,上顎前突

    を主訴として来院した。現病歴として上顎前突は永久歯萌出時から気になり始め,本人や家族も徐々にひどくなっていると感じていた。またかかりつけ歯科医にも指摘されていたため当院を受診した。既往歴として,慢性鼻炎,上顎洞炎にて近医の耳鼻科に通院している。家族歴に特記事項はない。顔貌所見として側貌は convex type を示し,口唇閉鎖時にはオトガイ部の緊張と下唇の翻転が認められる(図2)。口腔内所見として上下顎ともに永久歯列となっている。臼歯関係は両側ともⅡ級,overjet9mm,overbite4mmである(図3,4)。機能的問題として,口呼吸,咬下唇癖と両側顎関節にクリック音を認めた。口蓋扁桃の肥大がみられたが,いびき等の症状はない。特記すべきは上顎歯列弓幅径が大きく,上下顎小臼歯部の歯列弓幅径の不一致を認める。そのため,小臼歯部では上下顎の咬頭同士が接触し,上顎の小臼歯舌側咬頭には咬耗がみられる。パノラマエックス線写真(図5)では上下顎両側に

    形成中の第三大臼歯を認めるものの,異常所見はみ図2 症例1 初診時の顔貌写真

    図3 症例1 初診時の口腔内写真

    図4 症例1 初診時の模型

    小林,他:改良型バイオネーターを用いたⅠ期治療報告80

    ― 80 ―

  • られない。側貌頭部エックス線規格写真分析(表1)より骨格系では SNA85°,SNB76°,ANB9°,Na-sion Prep. to Pt. A 0mm,Nasion Prep. to Pog-18mmまた FMA36°,GonialAngle136°と下顎後退型の骨格性上顎前突であり,Dolico facial patternの傾向を示している。また,歯系においては,U1 to FH120°,IMPA95°,L1 to APO3.5mmと下顎前歯歯軸は標準的だが上顎前歯歯軸の唇側傾斜を認めた。以上のことから,上顎前歯唇側傾斜を伴う下顎後

    退型骨格性上顎前突と診断した。

    2.治療計画初診時身長は160cmで男子として平均的な成長

    を経ており,今後まだ下顎の前方成長が期待できる年齢であることや上顎歯列弓幅径が大きく下顎の成長を阻害する要因が少ないこと,咬下唇癖の既往もあることから改良型バイオネーターを使用したⅠ期治療を行うこととした。注意すべき点として,Dolico facial pattern の傾向があるため,現在の咬合高径を維持し下顎骨の後下方への回転を防ぐよう

    バイオネーターの咬合面を削合せずに作製した。

    3.治療経過下顎の成長余地はまだ残されているとはいえ,早

    期にⅠ期治療の介入が必要であったために,診断後すみやかに改良型バイオネーターの使用を行った。一か月毎の来院時にCoffin のスプリングと唇側線を調整しながら,上下顎歯列の側方拡大と上顎前歯の舌側傾斜を行った。装置使用開始後10か月で,両側臼歯関係Ⅰ級を獲得したため資料を採取した。資料採取時の身長は165cmであった。

    4.治療結果Ⅰ期治療終了時の顔貌所見として,口唇閉鎖時の

    オトガイ部の緊張は消失し下唇の翻転もみられなくなった(図6)。口腔内所見では臼歯関係Ⅰ級,overjet4mm,overbite2mmとなった(図7,8)。幅径については,上下顎ともにわずかに拡大され幅径は一致した。また咬頭同士の接触は改善され,咬下唇癖と顎関節クリック音は消失していた。パノラマエックス線写真(図9)では歯根や歯槽骨

    表1 症例1 治療前の側貌頭部エックス線規格写真分析

    計測項目 Norm±S.D. 初診時

    骨格系SNA 81.5±4 85SNB 77±4 76ANB 6.5 9Facial Axis 86±3 82FMA 34±4 36Gonial angle 131±6 136Nasion Prep. to Pt.A 1±2 0Nasion Prep. to Pog -3.5±2 -18

    歯系U1 to FH 111.5±5 120IMPA 95±6 95L1 to APO 3±1.5 3.5Interincisal angle 119±7 109

    Harvold-McNamara 分析Maxillary length 100Mandibular length 121Lower anterior facial height 79

    図5 症例1 初診時のパノラマエックス線写真

    図6 症例1 Ⅰ期治療後の顔貌写真

    歯科学報 Vol.120,No.1(2020) 81

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  • への影響等はみられない。側貌頭部エックス線規格写真分析(表2)では骨格系において,SNA85°,SNB79°,ANB6°,Nasion Prep. to Pt.A0mm,Nasion Prep. to Pog-13.5mmまた FMA35°と下顎の前方成長がみられANBは改善している。またわずかに下顎骨の反時計回りの回転がみられ,注意すべき下顎の後下方への回転を抑えることができた。歯系においては,U1 to FH 114°,IMPA99°,

    L1 to APO7mmと上顎前歯の舌側傾斜と下顎前歯の唇側傾斜がみられたが,治療後の上下顎前歯の歯軸は標準値内である。

    表2 症例1 治療前後の側貌頭部エックス線規格写真分析

    計測項目 Norm±S.D. 初診時Ⅰ期治療終了時

    骨格系SNA 81.5±4 85 85SNB 77±4 76 79ANB 6.5 9 6Facial Axis 86±3 82 83FMA 34±4 36 35Gonial angle 131±6 136 138Nasion Prep. to Pt.A 1±2 0 0Nasion Prep. to Pog -3.5±2 -18 -13.5

    歯系U1 to FH 111.5±5 120 114IMPA 95±6 95 99L1 to APO 3±1.5 3.5 7Interincisal angle 119±7 109 111

    Harvold-McNamara 分析Maxillary length 100 100Mandibular length 121 129Lower anterior facial height 79 80.5

    図9 症例1 Ⅰ期治療後のパノラマエックス線写真

    図8 症例1 Ⅰ期治療後の模型

    図7 症例1 Ⅰ期治療後の口腔内写真

    小林,他:改良型バイオネーターを用いたⅠ期治療報告82

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  • 治療前後の重ね合わせ(図10)では,Condylion から Pt. A までの中顔面の奥行きを示すMaxillarylength は100mmと変化はなく,Condylion からGnathion までの下顎骨の長さを示すMandibularlength では121mmから129mmに変化しており(Harvold-McNamara 分析13,14)),顎顔面の自然成長に加え改良型バイオネーターの効果と思われる下顎

    の旺盛な前方成長がみられる(表3)。上顎前歯の舌側傾斜と下顎の前方成長によって上下唇の突出感は減少し,側貌プロファイルの改善もみられた。

    症例 2

    1.診査および診断患者は初診時年齢6歳8か月の女児で,上顎前突

    と叢生を主訴に来院した。現病歴として上顎前突と叢生は,前歯部永久歯の萌出時に気がついたとのことだった。保護者が今後の歯列を心配し当院を受診した。既往歴に特記事項はない。家族歴として父親は叢生の診断により抜歯を伴う矯正治療を経験しており,母親は上顎前突であった。顔貌所見として側貌は convex type を示し,口唇閉鎖時にはオトガイ部の緊張と下唇の翻転がみられる(図11)。口腔内

    表3 症例1 治療前後のHarvold-McNamara 分析の比較実線:術前 破線:術後

    A B CMAXILLARY LENGTH

    (MM)MANDIBULAR LENGTH

    (MM)LOWER ANTERIORFACIAL HEIGHT(MM)

    91 114‐118 70‐7492 117‐120 71‐7593 119‐122 72‐7694 121‐124 72‐7695 122‐125 73‐7796 125‐127 74‐7897 126‐129 75‐7998 128‐131 75‐7999 129‐132 76‐80100 130‐133 77‐81101 131‐134 78‐82102 135‐137 79‐83103 136‐139 79‐83104 137‐140 80‐84105 138‐141 81‐85

    図10 症例1 側貌頭部エックス線規格写真の重ね合わせ黒線:初診時 赤線:Ⅰ期治療終了時

    図11 症例2 初診時の顔貌写真

    歯科学報 Vol.120,No.1(2020) 83

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  • 所見としてHellman の歯齢ⅡCの混合歯列で,臼歯関係は両側ともⅡ級,overjet7mm,overbite4mmである(図12,13)。過蓋咬合のために上顎前歯部口蓋歯肉に下顎前歯が接触しており,歯肉には圧痕と発赤を認める。上下顎前歯はすでに叢生となっており,後続永久歯の萌出スペースは不足している。機能的問題として咬爪癖がある。パノラマエックス線写真(図14)では,異常所見は

    みられない。側貌頭部エックス線規格写真分析(表4)では骨格系において,SNA80°,SNB74°,

    表4 症例2 治療前の側貌頭部エックス線規格写真分析

    計測項目 Norm±S.D. 初診時

    骨格系SNA 81±3 80SNB 76±3 74ANB 4.5 6Facial Axis 86±3 85FMA 32±2 27Gonial angle 129±5 122Nasion Prep. to Pt.A 1±2 -2Nasion Prep. to Pog -7±2 -13

    歯系U1 to FH 109±5 119IMPA 94±6 97L1 to APO 3±1.5 2Interincisal angle 124±7 118

    Harvold-McNamara 分析Maxillary length 81Mandibular length 97Lower anterior facial height 60

    図12 症例2 初診時の口腔内写真

    図13 症例2 初診時の模型

    図14 症例2 初診時のパノラマエックス線写真

    小林,他:改良型バイオネーターを用いたⅠ期治療報告84

    ― 84 ―

  • ANB6°,Nasion Prep. to Pt. A-2mm,NasionPrep. to Pog-13mmまた FMA27°,GonialAngle122°で下顎後退型の上顎前突であり,Brachy facialpattern である。また,歯系においては,U1 toFH 119°,IMPA97°,L1 to APO2mmであり下顎前歯歯軸は標準的だが上顎前歯歯軸の唇側傾斜を認めた。以上のことから,上顎前歯唇側傾斜を伴う下顎後

    退型骨格性上顎前突と診断した。

    2.治療計画永久歯萌出スペース不足のため,まずは可撤式拡

    大装置にて上下顎歯列弓の側方拡大を行い,永久歯交換時の叢生に備えることとした。拡大後に改良型バイオネーターを使用して下顎の前方成長促進を図り,口唇閉鎖不全の解消と臼歯関係の改善を行う治療計画とした。Brachy facial pattern のため,バイ

    オネーターの咬合面レジンを削合し overbite の改善も行えるよう計画した。

    3.治療経過上下顎歯列弓拡大のため可撤式拡大装置を6か月

    間使用し,その後改良型バイオネーターを使用した。一か月毎の来院時にCoffin のスプリングと唇側線を調整しながら上下顎歯列の側方拡大と上顎前歯の舌側傾斜を行った。バイオネーター使用開始後11か月で両側臼歯関係Ⅰ級を獲得したため資料を採取した。

    4.治療結果Ⅰ期治療終了時の顔貌所見として,下唇の翻転が

    消失し口唇閉鎖不全は改善した(図15)。口腔内所見では臼歯関係Ⅰ級,overjet3mm,overbite2mmとなった(図16,17)。overbite が改善されたことで,上顎前歯部口蓋歯肉の圧痕や発赤は消失した。幅径は上顎で5.5mm,下顎で4mm拡大された。咬爪癖は患者の意識管理により改善していた。パノラマエックス線写真(図18)では,永久歯への

    交換や歯根,歯槽骨などの異常はみられない。側貌頭部エックス線規格写真分析(表5)では骨格系において,SNA80°,SNB76°,ANB4°,Nasion Prep.to Pt. A-2mm,Nasion Prep. to Pog-10.5mmまた FMA28°とANBの改善がみられた。歯系においては,U1 to FH114°,IMPA98.5°,

    L1 to APO4mmとなり上顎前歯の舌側傾斜と下顎図15 症例2 Ⅰ期治療後の顔貌写真

    図16 症例2 Ⅰ期治療後の口腔内写真

    歯科学報 Vol.120,No.1(2020) 85

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  • 前歯のわずかな唇側傾斜がみられ,治療後の上下顎前歯の歯軸は標準値内となった。治療前後の重ね合わせ(図19)では,BA-NA平面

    およびFH平面の自然成長による延長がみられ頭蓋底や顎顔面の前後径が増大している。そのためANBや Nasion Prep. における Pt. A や Pog の値に大きな変化はみられなかったが,実際にはMaxil-lary length は81mmから84.5mmに,Mandibularlength は97mmから105mmに変化しており(表6),前後径における顎顔面のゆるやかな自然成長がみられる中,下顎骨では著しい成長がみられた。歯軸の改善と下顎の前方成長によって下唇の翻転は消失し,側貌プロファイルの改善もみられた。

    考 察

    今回使用した改良型バイオネーターは,下唇パッドが組み込まれたバイオネーターであるが,下唇パッドについてはFränkel 装置を参考に設計されている。Fränkel 装置は,歯列に加わる不正な筋圧を排除し,正常な筋機能を賦活化するよう働く装置で,Fränkel は,下唇パッドが口唇に力を加えることで感覚入力が中枢神経系に伝達され,異常な筋活動を取り除き正常な成長発育を促す環境が構築され

    ると報告している15)。また Fränkel 装置は FR-1から FR-4までの4タイプに分けられ,症状に合わせて適応される。しかしながらいずれのタイプも設計が複雑で作製の難易度が高く,特にFR-2は粘膜支持の装置のため,使用に関する正しい知識が求められる16)。一方,バイオネーターはBalters によって開発さ

    れ,最も使用しやすい機能的矯正装置の一つと考えられている。その理由として複雑な技工作業が少なく,咬合の垂直的な調整(咬合の維持,咬合の挙上,咬合の圧下)17)を行えるようデザインを選択できることや,患者にとって使用しやすいこと18,19)が

    表5 症例2 治療前後の側貌頭部エックス線規格写真分析

    計測項目 Norm±S.D. 初診時Ⅰ期治療終了時

    骨格系SNA 81±3 80 80SNB 76±3 74 76ANB 4.5 6 4Facial Axis 86±3 85 85FMA 32±2 27 28Gonial angle 129±5 122 125Nasion Prep. to Pt.A 1±2 -2 -2Nasion Prep. to Pog -7±2 -13 -10.5

    歯系U1 to FH 109±5 119 114IMPA 94±6 97 98.5L1 to APO 3±1.5 2 4Interincisal angle 124±7 118 119

    Harvold-McNamara 分析Maxillary length 81 84.5Mandibular length 97 105Lower anterior facial height 60 62

    図17 症例2 Ⅰ期治療後の模型

    図18 症例2 Ⅰ期治療後のパノラマエックス線写真

    小林,他:改良型バイオネーターを用いたⅠ期治療報告86

    ― 86 ―

  • あげられる。しかしバイオネーターは,Fränkel 装置のような筋の賦活化を行う機構をもたないため,直接的な口腔周囲筋の訓練ができないという欠点がある。そこでTeuscher は,それらを改善すべくFrän-

    kel 装置と同様な下唇パッドをバイオネーターに組み込み12),バイオネーターの取り扱いやすさとFränkel 装置の筋機能訓練機構を備えた装置へと改良している。Teuscher の原法では,下唇パッドの他にヘッドギアチューブを設置し,ヘッドギアによ

    る効果で上顎の前下方への移動を防ぐよう設計されている。またバイオネーターの使用に際しては,以下の条件に一部もしくはすべてに当てはまる下顎後退型上顎前突に有効とBalters は報告している20)。① 叢生のない歯列② 唇側傾斜している上顎前歯③ 直立,または良い位置にある下顎前歯④ スピーカーブの強い過蓋咬合⑤ 上顎前歯歯槽骨の変形を伴う開咬本症例は,2症例とも過大な overjet という形態

    的な不正と,overjet に伴う下唇のくわえ込みや下唇圧による下唇の翻転という機能的な不正が混在している。そのため,形態と機能の双方の改善を目的に改良型バイオネーターを使用した。2症例ともⅠ期治療終了後にはMandibular length の増加がみられ,下顎の前方成長が促進されたと考えられる。さらに,Mandibular length の増加に伴い,Harvold-McNamara 分析の比率21)は治療後に改善している(表2,4)。また機能的には口唇閉鎖不全の改善がみられ,オトガイ部の緊張も消失した。症例2では,Balters の条件の多くが合致してい

    た。そのため前歯部の叢生を側方拡大にて改善した後,バイオネーターを使用した。この際に臼歯の垂直的な移動を促すよう装置を設計したことで,過蓋咬合の改善も行われたと考えられる。患者の年齢を考慮すると,成長に伴い顎顔面全体の前後径が増加しているため,治療前後の重ね合わせによるANB

    表6 症例2 治療前後のHarvold-McNamara 分析の比較実線:術前 破線:術後

    A B CMAXILLARY LENGTH

    (MM)MANDIBULAR LENGTH

    (MM)LOWER ANTERIORFACIAL HEIGHT(MM)

    75 92‐95 58‐6076 93‐96 58‐6077 94‐97 59‐6178 95‐98 60‐6279 96‐99 61‐6380 97‐100 62‐6481 99‐102 62‐6482 101‐105 63‐6483 103‐106 64‐6584 104‐107 65‐6685 105‐108 66‐6786 107‐110 67‐6987 109‐112 67‐69

    図19 症例2 側方頭部エックス線規格写真の重ね合わせ黒線:初診時 赤線:Ⅰ期治療終了時

    歯科学報 Vol.120,No.1(2020) 87

    ― 87 ―

  • 等の変化量はわずかであったが,Mandibularlength は大きく増大していたため,バイオネーターによる効果と考えられる。また症例1のように,すでに永久歯列であった場

    合,マルチブラケット装置を用いたⅡ期治療から開始することが比較的多いと思われる。患者個人の成長を正確に予測することは困難であるものの,Hellman の歯齢,身長の記録や初潮の発現時期などの身体発育の経過,手根骨出現の有無やその成熟度といった生理的年齢を評価し,永久歯列であってもある程度の成長余力があれば,Ⅰ期治療の有効性を期待できるものと考えられる。また,Dolico facialpattern であったため,下顎の後下方への回転には十分注意した装置の設計と調整が必要になったが,下顎の回転にほとんど影響なくⅠ期治療を終えることができた。

    結 論

    骨格性上顎前突症例の多くは下顎後退型の上顎前突であり,形態的・機能的な不正を伴っている。適切な診断によってⅠ期治療で用いる改良型バイオネーターは,形態と機能に効果的に作用し骨格性上顎前突の改善に寄与することが示された。

    著者の利益相反:開示すべき利益相反はない。

    文 献1)Craig CE:The skeletal patterns characteristic ofClass I and Class Ⅱ, Division I Malocclusions innorma lateralis, Angle Orthod,21:44-56,1951.

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    19)McNamara Jr JA, Brudon WL:Orthodontics anddentofacial orthopedics 1st edition,301-313,Need-ham Press, Michigan,2001.

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    21)根津 浩:ClassⅢ永久歯列咬合の治療における開始時期,治療目標およびメカニクスについて,矯正臨床ジャーナル,13:17-58,1997.

    小林,他:改良型バイオネーターを用いたⅠ期治療報告88

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  • Phase Ⅰ treatment of skeletal Class Ⅱ patient with modified bionator:A case report

    Hiroshi KOBAYASHI,Tsubasa TOJIMA,Katsuya SHIMADATaiki MORIKAWA,Kenji SUEISHI,Yasushi NISHII

    1)Yamanashi,2)Department of Orthodontics, Tokyo Dental College,3)Tokyo

    Key words : Modified bionator, Skeletal maxillary protrusion with mandibular retrognathic, Phase I treatment

    The two cases reported here involved an adolescent boy(13 years and 10months of age,case1)and ayoung girl(6years and8months of age,case2)who visited our hospital with chief complaints of maxillaryprotrusion.In both cases,abnormalities in form and function were observed,such as excessive overjetand accompanying lower lip sucking and lower lip rotation.Clinical examination supported the diagnosis ofskeletal maxillary protrusion with mandibular retrognathism in both patients.The patient in case1hadpermanent dentition in both jaws and a Dolicofacial pattern.The patient in case2exhibited mixed denti-tion with crowding in the upper and lower anterior teeth and a Brachyfacial pattern.The treatment strat-egy was phase I treatment for promoting mandibular anterior growth using a modified bionator,which in-corporates a mechanism to eliminate lower lip pressure.In both cases,after completion of phase I treat-ment,anterior overgrowth of the mandible improved the excessive overjet and lower lip sucking,therebyimproving both form and function.In conclusion,effective growth control in phase I treatment can aid inobtaining good profile and normal perioral function. (The Shikwa Gakuho,120:79-89,2020)

    歯科学報 Vol.120,No.1(2020) 89

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