建設コスト縮減を目的とした新粗石コンクリート...
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結果になったものと考えられる。
3・3 アルカリ骨材反応
図6には、反応性骨材を用いた供試体を作製後、
アルカリ骨材反応を促進させた供試体の膨張ひず
みの経時変化を示す。セメントモルタル(OP)は、
材齢七日から急激にひずみが増加し、材齢約一四
日で写真2に示すようにアルカリ骨材反応による
亀甲状のひびわれが発生
している。一方、ジオポ
リマーモルタル(GP1
およびGP2)は、セメ
ントモルタル(OP)のよ
うな急激なひずみの増加
は発生しておらず、また
写真2に示すように、ひ
び割れも発生していない。
以上より、今回の試験
条件の範囲では、ジオポ
リマーモルタル(OP)
は、アルカリ骨材反応が
発生しない材料であることが分かる。
4
施工事例
ジオポリマーの施工実績は、試験施工を含めて
現在までに四件ある。ここでは、一例としてジオ
ポリマーの耐酸性を期待して施工されたものを紹
介する。施工場所では、酸によるコンクリートの
劣化が激しく、耐酸性に優れた材料が望まれてい
た。採用されたジオポリマー製品は、写真3に示
すJIS
A
5371の境界ブロックであり、施
工本数は六一本(切り下げ一本を含む)である。
施工後の状況を写真4に示す。
5
結び
ジオポリマーは、二酸化炭素排出量を削減でき
る自然に優しい材料であるとともに、セメントコ
ンクリートにはない多くの特長を持っている。こ
こでは紹介できなかったが、これまでに、ジオポ
リマーは耐火性能に優れていることや、セシウム
を固定化する特性があること等を確認している。
また、ジオポリマーの材料として、フライアッ
シュや高炉スラグ微粉末の代わりに「もみ殻灰」
を適用した研究も報告されている。「もみ殻灰」
はもみ殻の焼き方によって大きく特性が異なる。
「もみ殻灰」を用いる場合は、どのような焼き方
がジオポリマーに適しているかを検討することが
重要であると考えている。
最後に、ジオポリマーが今後の土地改良事業に
おける「管理された自然」の基盤構築の一助にな
れば幸いである。
写真 2 表面ひび割れの発生状況の比較 (上からOP,GP1,GP2)
図 6 膨張ひずみの経時変化写真 3 ジオポリマー製ブロック
写真 4 施工後の状況
OP
GP1
GP2
ひび割れ
ジオポリマー
技 術 紹 介
技 術 紹 介
1
技術の背景
近年、地球環境保護や環境負荷の低減を背景に
して、建設現場においても省エネルギー・省資源
に対する気運が高まっている。
このような状況下、建設コストの縮減として、
掘削土など現地発生材や河床材料を積極的に利用
して砂防構造物を構築する工法の開発が行われて
いる。
一般的に砂防工事では、残土処分場までの運搬
距離が長くなる場合が多く、加えて運搬費用もか
さむことから、発生土の有効活用が急務になって
おり、砂防CSG(Cem
ented Sand and Gravel
)
工法、INSEM(IN
-situ Stabilized Exca-
vated Material
)工法などの開発が積概的に進
められてきた。
しかし、これらの工法では、ある程度の粒径調
整(一般的に礫径八〇㎜以下)をした発生材ある
いは河床材を用いるため、大径の河床材もしくは
サイトの掘削などにより発生する大きな岩塊の処
理や活用については依然として課題となっている。
そこで、大きな粒径材(粗石)を積み上げ、そ
の間隙に高流動コンクリートを充填することによ
り、構造体を築造する新な粗石コンクリート工法
(NRFC
:New
Rock Filled Concreate
)が開発さ
れ、砂防構造物の構築が行われている。
2
粗石コンクリートの概要
練石積の粗石コンクリートによる構造物は、大
正初期から昭和三十年代後半まで、全国各地で多
数構築されてきている。従来の練石積による粗石
コンクリートは、表面の練石を一段(概ね三〇㎝)
積んでから、粗石を内部に配置して、間隙内部に
コンクリートを充填する方法が採用されていた。
特に昭和二十年代頃まではバイブレータが普及し
ていないため、内部コンクリートの締固めには突
き棒が多く使用されている。
3
新粗石コンクリートの特徴
砂防CSG工法やINSEM工法は現地発生材
を有効利用するが、一般に礫粒径八〇㎜以下の発
生材料を用いるため、河床材料など八〇㎜以上が
建設コスト縮減を目的とした新粗石コンクリート(NEW ROCK FILLED CONCREATE)による砂防堰堤の構築
岩田地崎建設株式会社技術部 須藤 敦史
写真 1 粗石コンクリートによる砂防堰堤の施工(その①)
70 土地改良 293号 2016.4●
多い粗石・巨石(礫)は活用し得ないものとなっ
ている。
また、特殊な高流動コンクリートを使用するこ
とによる堤体の発熱などの検討事項があるが、以
下に新粗石コンクリートの特徴を示す。
①
建設残土発生量の低減(環境負荷の低減)
②
一般的な建設機械で施工(施工向上と汎用性)
③
コンクリート量の低減(コスト縮減)
4
新粗石コンクリートによる構造物の施工
新粗石コンクリートによる砂防堰堤の施工手順
を以下に示す。
ⅰ堤体の基礎掘削などの残土から、粗石(φ
八〇㎜〜五〇〇㎜)を採取して一時仮置きを行
い、そののちに粒径別にストックヤードに運
搬・貯蔵する。(写真その①上段・中段)
次に、所定の強度・比重・粒径粗石の選別と並
行して、堤体には粗石投入箇所(打設区画)の区
画を作成する。(写真その①下段)
ⅱ粗石の表面を洗浄し、重量を測定して打設区画
に投入する。(写真その②上段)
次に、区画に投入された粗石を重機と人力にて
打設区画に体積比:五〇%になるように敷きなら
す。(写真その②中段)
最後に粗石間隙の充填状況をハイスコープによ
り確認をしながら高流動の充填コンクリートの打
設を行う。(写真その②下段)
充填コンクリートは基本的に締固め作業を行わ
ないため、自己充填機能を必要とする。ここでは
高性能減水剤を使用して流動性を高めた高流動コ
ンクリートを使用しており、一般のコンクリート
におけるスランプ管理ではなく、フロー値によっ
て品質管理を実施している(配合表1参照)。
ⅲ高流動コンクリートの打設終了の後、ブリージ
ング処理・散水養生を行う。(写真その③上段)
写真その③中段には、新粗石コンクリートの出
来型および充填の確認(φ三〇〇㎜コア抜き)状
況を示す。堤体より抜き出したコアから、高流動
コンクリートは満遍なく間隙に行き渡り、未充填
箇所は見られなかった。
最後に堤体の上・下流部に、通常のダムコンク
リートによる保護コンクリートを打設して砂防堰
堤の築造が終了する(写真4参照)。
5
新粗石コンクリートの発熱特性
新粗石コンクリートは、多様な粒径の粗石・岩
塊を用い、セメント量が一般のコンクリートより
多い高流動コンクリートで充填するため、砂防堰
堤などのマスコンクリートの築造において、温度
応力や温度ひび割れ発生が懸念されるが、実際の
発熱特性やその解析方法などが解明されていない。
そこで今回は、新粗石コンクリートの発熱特性
の一部を明らかにし、同時に発熱を正確に再現す
表 1 高流動(充填)コンクリート配合表
単位量(kg/m3) W/C(%)
S/s(%)C:セメント W:水 S:細骨材 G:粗骨材 AE剤
高流動 480 165 902 812 1.0% 34.4 53.0
写真 2 粗石コンクリートによる砂防堰堤の施工(その②)
写真 3 粗石コンクリートによる砂防堰堤の施工(その③)
技 術 紹 介
る手法の検討を行なっている。
⑴ 新粗石コンクリートの発熱逆解析
一般にマスコンクリートの発熱解析を行なうに
は、セメントや骨材など数多くの発熱に関するパ
ラメータの決定(入力)をしなければならないが、
物理定数や入力境界条件には不確実性が多く、現
場計測と数値解析の結果が異なる場合が多い。そ
こで有限要素法に拡張カルマンフィルタを適用し
た逆解析(観測値から入力パラメータを同定し、
それらを用いてその後の発熱挙動予測を実施)に
よって、これらの問題の解決を試みた。
ここで検討に用いた新粗石(高流動)コンクリー
トの逆解析(有限要素法:FEM)モデルを図1
に示す。
⑵ 新粗石コンクリートの発熱現象の再現
逆解析により得られた発熱に関する係数を用い
て、新粗石(高流動)コンクリートの発熱(温度
分布)を再現した図2に示す。
図2に示した逆解析値を用いた発熱温度の再現
値は、実際の砂防堰堤において観測された粗石(高
流動)コンクリートの中心部における発熱温度(約
三二℃)および表面の温度変動(外気温の影響)
とほぼ同じ値を示しており、逆解析により粗石コ
ンクリートにおける発熱に関する係数が正確に求
められたといえる。
砂防堰堤における逆解析および再現解析により、
以下に示す新粗石(高流動)コンクリートの発熱
現象の特徴が得られた。
①新粗石(高流動)コンクリートの発熱温度は、
セメントの発熱が粗石に吸収されるため理論
値よりも低くなり、粗石(体積比:五〇%)率
に依存する。
②発熱初期では、粗石にセメントの発熱が吸収さ
れるため遅く立ち上がり、発熱後期では粗石や
境界条件の影響を受けるため温度降下が早く
なる傾向を示した。
6
結び
今回は、大きな粒径材(粗石)を積み上げ、そ
の間隙に高流動コンクリートを充填することによ
り、構造体を築造する新粗石コンクリート工法に
よる砂防構造物の構築を紹介した。今後、建設現
場においても省エネルギー・省資源が進み、さら
に建設現場における活用が多くなると考えられる
ため、今後も構造物における省力化技術の開発に
取り組んでゆきたいと考えている。
参考文献
須籐敦史、笈川利夫、遠田康英、砂防ダムにおける新
粗石コンクリートの発熱特性に関する研究、ダム工学会
第二三回ダム工学会研究発表会、pp.1-4, 2011.11
写真 4 砂防堰堤の全景
図 1 FEM解析モデル図 2 粗石コンクリーの発熱状況
71土地改良 293号 2016.4 ●
多い粗石・巨石(礫)は活用し得ないものとなっ
ている。
また、特殊な高流動コンクリートを使用するこ
とによる堤体の発熱などの検討事項があるが、以
下に新粗石コンクリートの特徴を示す。
①
建設残土発生量の低減(環境負荷の低減)
②
一般的な建設機械で施工(施工向上と汎用性)
③
コンクリート量の低減(コスト縮減)
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新粗石コンクリートによる構造物の施工
新粗石コンクリートによる砂防堰堤の施工手順
を以下に示す。
ⅰ堤体の基礎掘削などの残土から、粗石(φ
八〇㎜〜五〇〇㎜)を採取して一時仮置きを行
い、そののちに粒径別にストックヤードに運
搬・貯蔵する。(写真その①上段・中段)
次に、所定の強度・比重・粒径粗石の選別と並
行して、堤体には粗石投入箇所(打設区画)の区
画を作成する。(写真その①下段)
ⅱ粗石の表面を洗浄し、重量を測定して打設区画
に投入する。(写真その②上段)
次に、区画に投入された粗石を重機と人力にて
打設区画に体積比:五〇%になるように敷きなら
す。(写真その②中段)
最後に粗石間隙の充填状況をハイスコープによ
り確認をしながら高流動の充填コンクリートの打
設を行う。(写真その②下段)
充填コンクリートは基本的に締固め作業を行わ
ないため、自己充填機能を必要とする。ここでは
高性能減水剤を使用して流動性を高めた高流動コ
ンクリートを使用しており、一般のコンクリート
におけるスランプ管理ではなく、フロー値によっ
て品質管理を実施している(配合表1参照)。
ⅲ高流動コンクリートの打設終了の後、ブリージ
ング処理・散水養生を行う。(写真その③上段)
写真その③中段には、新粗石コンクリートの出
来型および充填の確認(φ三〇〇㎜コア抜き)状
況を示す。堤体より抜き出したコアから、高流動
コンクリートは満遍なく間隙に行き渡り、未充填
箇所は見られなかった。
最後に堤体の上・下流部に、通常のダムコンク
リートによる保護コンクリートを打設して砂防堰
堤の築造が終了する(写真4参照)。
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新粗石コンクリートの発熱特性
新粗石コンクリートは、多様な粒径の粗石・岩
塊を用い、セメント量が一般のコンクリートより
多い高流動コンクリートで充填するため、砂防堰
堤などのマスコンクリートの築造において、温度
応力や温度ひび割れ発生が懸念されるが、実際の
発熱特性やその解析方法などが解明されていない。
そこで今回は、新粗石コンクリートの発熱特性
の一部を明らかにし、同時に発熱を正確に再現す
表 1 高流動(充填)コンクリート配合表
単位量(kg/m3) W/C(%)
S/s(%)C:セメント W:水 S:細骨材 G:粗骨材 AE剤
高流動 480 165 902 812 1.0% 34.4 53.0
写真 2 粗石コンクリートによる砂防堰堤の施工(その②)
写真 3 粗石コンクリートによる砂防堰堤の施工(その③)
技 術 紹 介
る手法の検討を行なっている。
⑴ 新粗石コンクリートの発熱逆解析
一般にマスコンクリートの発熱解析を行なうに
は、セメントや骨材など数多くの発熱に関するパ
ラメータの決定(入力)をしなければならないが、
物理定数や入力境界条件には不確実性が多く、現
場計測と数値解析の結果が異なる場合が多い。そ
こで有限要素法に拡張カルマンフィルタを適用し
た逆解析(観測値から入力パラメータを同定し、
それらを用いてその後の発熱挙動予測を実施)に
よって、これらの問題の解決を試みた。
ここで検討に用いた新粗石(高流動)コンクリー
トの逆解析(有限要素法:FEM)モデルを図1
に示す。
⑵ 新粗石コンクリートの発熱現象の再現
逆解析により得られた発熱に関する係数を用い
て、新粗石(高流動)コンクリートの発熱(温度
分布)を再現した図2に示す。
図2に示した逆解析値を用いた発熱温度の再現
値は、実際の砂防堰堤において観測された粗石(高
流動)コンクリートの中心部における発熱温度(約
三二℃)および表面の温度変動(外気温の影響)
とほぼ同じ値を示しており、逆解析により粗石コ
ンクリートにおける発熱に関する係数が正確に求
められたといえる。
砂防堰堤における逆解析および再現解析により、
以下に示す新粗石(高流動)コンクリートの発熱
現象の特徴が得られた。
①新粗石(高流動)コンクリートの発熱温度は、
セメントの発熱が粗石に吸収されるため理論
値よりも低くなり、粗石(体積比:五〇%)率
に依存する。
②発熱初期では、粗石にセメントの発熱が吸収さ
れるため遅く立ち上がり、発熱後期では粗石や
境界条件の影響を受けるため温度降下が早く
なる傾向を示した。
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結び
今回は、大きな粒径材(粗石)を積み上げ、そ
の間隙に高流動コンクリートを充填することによ
り、構造体を築造する新粗石コンクリート工法に
よる砂防構造物の構築を紹介した。今後、建設現
場においても省エネルギー・省資源が進み、さら
に建設現場における活用が多くなると考えられる
ため、今後も構造物における省力化技術の開発に
取り組んでゆきたいと考えている。
参考文献
須籐敦史、笈川利夫、遠田康英、砂防ダムにおける新
粗石コンクリートの発熱特性に関する研究、ダム工学会
第二三回ダム工学会研究発表会、pp.1-4, 2011.11
写真 4 砂防堰堤の全景
図 1 FEM解析モデル図 2 粗石コンクリーの発熱状況
72 土地改良 293号 2016.4●