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京都産業大学益川塾 Maskawa Institute for Science and Culture (MISC) Kyoto Sangyo University 年次報告  第3報 Annual Report 2012 平成24年度

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京都産業大学益川塾

Maskawa Institute for Science and Culture

(MISC)

Kyoto Sangyo University

年次報告  第3報Annual Report 2012

平成24年度

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はじめに

京都産業大学益川塾は、過去3年、研鑽を積んだすべての塾生を無事に社会に送り出すことができました。これは、多くの大学や研究教育機関と諸企業の理解とご協力の結果であり、心から感謝いたします。この3年間、塾では、自然科学系は「素粒子の標準模型を越えて」そして人文社会系は「京都の歴史と文化を究める」を指針として掲げ、研究を進めて参りました。本報告書は、平成24年度の塾生および指導教授の活動成果をまとめたものです。

益川塾は、設立当初から、私立大学の連携を大きな柱としてきました。その狙いは、互いに連携を図ることによって、国公立の諸機関に負けない研究成果を挙げることにあります。その第一歩として取り組んだ日本大学理工学部との協力は着実に実を結びつつあります。昨年度は第1回のシンポジウムを東京で開催し、本年度は第2回の連携シンポジウムを京都で開くことができました。そして、来年度も東京での開催が企画されています。

以上のように基礎的な研究を推進すると共に、益川塾は広く市民に向けて科学と文化の情報を発信する活動にも取り組んでいます。本年度は、第4回の『地震と噴火の日本列島』と第5回の『西園寺(北山殿)の仏たち』の一般向けシンポジウムを開催し、多くの市民の参加を得ることができました。また、益川塾と京都市教育委員会の話し合いから、小中学生を対象として開かれる京都産業大学土曜講座『京都で学ぼうサイエンス』が誕生しました。この新しい試みが、子供たちの目を科学へ向ける一助となることを期待しています。

本塾が更なる発展を遂げますように、今後とも皆様のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

平成25年4月

京都産業大学益川塾塾頭益川 敏英

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目次0. はじめに i

1. 本年度の構成員                     2

2. 自然科学系の研究活動および研究業績           3

2.1 自然科学系活動報告:個人研究 5

2.2 自然科学系研究報告会および活動報告会の実施    19

2.3 速報会    20

2.4 原著論文等   22

2.5 国際会議・セミナー等での講演    24

2.6 外部資金等の獲得    30

2.7 その他の業績    30

3. 人文社会科学系の研究活動および研究業績           33

3.1 人文社会科学系活動報告:個人研究     35

3.2 人文社会科学系研究報告会および活動報告会の実施 52

3.3 指導教授によるセミナーの実施 54

4. セミナー・集中講義           57

5. 日大理工・益川塾連携 素粒子物理学シンポジウム 70

6. 京都産業大学 益川塾 第4回シンポジウム「地震と噴火の日本列島」 72

7. 京都産業大学 益川塾 第5回シンポジウム「西園寺(北山殿)の仏たち」 73

8. 京都産業大学 益川塾 第1回フィールドワーク「松尾大社の神像と松風苑三庭」 74

9. 京都産業大学 益川塾 第2回フィールドワーク「西園寺(北山殿)の仏を訪ねる」 75

10. 益川塾交流会 76

11. 塾頭の講演・広報活動・報道等 77

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2012年 4月 9日 入塾式

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1 本年度の構成員

塾頭   益川  敏英 

副塾頭      柴   孝夫          曽我見 郁夫   

学内指導教授   外山  政文        原   哲也         三好  蕃                  小林  一彦        志賀  浄邦          鈴木  久男        宮川  康子          矢野  道雄        

学外指導教授   植松  恒夫        九後  太一         小出  義夫        高杉  英一         仲   滋文        福山  武志         山脇  幸一                  伊東  史朗         

特任研究員   梅津  光一郎

自然科学系博士研究員   荒木  威         石田  裕之        酒谷  雄峰

自然科学系研究員   西山  陽大 

人文社会科学系研究員   一谷  耕         大森  惠子         倉部  健治        西   いおり        二村  盛寧         

特定研究員(PD)   松崎  真也         

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2 自然科学系の研究活動および研究業績

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2.1 自然科学系活動報告: 個人研究本年度、自然科学系研究員が取り組んだ研究活動および研究について各研究員がまとめたものを以下に掲載する。

• 荒木 威 (Takeshi Araki)

素粒子物理学の標準模型において、3世代のフェルミオンは全て同じ量子数を持ち、その質量はヒッグス機構によって与えられる。ところが、同一の性質(量子数)、同一の質量生成機構を持つにも関わらず、それらの質量は世代によって大きく異なり、世代が若くなるほど質量が小さくなるという階層的な質量構造を持つ。このことは世代に関する新たな指導原理の存在を示唆していると言え、例えば世代を支配する新たな対称性(フレーバー対称性)を導入する試みが古くからなされてきた。このような拡張を考える際、どんな対称性をどのように課すか、ということが重要になってくるが、その手がかりとしてニュートリノ質量の階層性に注目し研究を進めた。ニュートリノ振動実験によりニュートリノ質量の二乗差が測られているが、その結果は第 1,2世代ニュートリノの質量が近似的に縮退している可能性が高いことを示唆している(階層性がノーマルでかつ第 1世代ニュートリノの質量が極端に小さな場合を除く)。この点に動機付けられ、フェルミオンの第 1,2世代が二次元回転群の二重項として振舞うような模型を構築した。また、ニュートリノを含まない二重ベータ崩壊の探索実験や、宇宙背景放射の観測実験によりニュートリノ質量の和を制限することが可能であるが、両実験の感度は近い将来に上述の部分縮退の領域に到達する見込みであり、実験検証の可能性という観点からもこのような研究は意義深いと言える。当初はクォーク・セクターも含めた統一的な模型の構築を目指していたが、クォーク・セクターの包括は難点が多く、更なる考察が必要と判断し、レプトン・セクターのみの模型を先ず発表した。クォーク・セクターの推考が甘く、無駄な時間を費やしてしまったことは反省すべき点であり、クォーク・セクターの包括は最も重要な今後の課題の 1つである。また、模型のゲージ化と量子アノマリの計算も今後の課題である。

近年、Tri-Bi-Maximal(TBM)型のレプトン混合行列が注目を集めてきたが、実際に測定された混合角はTBM型の予言値から逸脱していることが分かった。従って、TBM型の混合は第 0近似であると解釈するのが自然であり、その混合パターンからの逸脱を促すような摂動項が存在すると考えられる。このような考察に基づき θ23と θ13を摂動展開すると、両者が同じパラメータで記述されていることが分かる。この点に動機付けられ、θ23と θ13の間に何らかの関係性が存在しないか調べた。関係性の有無とその詳細は摂動項の詳細に帰着するが、摂動項の起源が不明であるため、ここでは何かしらの関係性を先ず仮定し、それを導くためにはどのような摂動項が要求されるのか調べた。また、TBM型の混合パターンは

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フレーバー対称性により導出可能であることが知られているが、その対称性をどのように破れば欲しい摂動項を導くことができるか調べた。この研究は現在進行中であり、まとまり次第論文にして発表する予定である。

• 石田 裕之 (Hiroyuki Ishida)

CERNで行われている LHC実験が 2012年 7月 4日、ヒッグス粒子らしき新粒子の発見を報告したが、その発見以降もなお、素粒子標準模型は非常に成功した模型であり続けている。しかしながら、素粒子標準模型には以下に挙げられるような不満足点も存在している。それは、宇宙暗黒物質の候補が存在しない、ニュートリノの質量の起源が説明できない、宇宙バリオン数非対称性の起源が説明できない、そしてフェルミオンの世代構造の起源が説明できないなどである。本研究はその中でも、フェルミオンの世代構造の起源に着目し考察した。

フェルミオンの世代構造を考察するときに、混合行列を理解することは非常に重要である。世代の混合具合は、クォークとレプトンでは大きく振る舞いが異なることが実験から報告されている。特にレプトンの混合はクォークとは違い大きいことが測られているため、その起源について多くの研究がなされてきた。2012

年 3月にDAYA-BAY実験が θPMNS13 の値を報告するまで、ニュートリノの混合行

列は tri-bi maximal (TBM)混合と呼ばれる混合行列が実験結果を非常によく説明すると考えられてきた。TBM混合の起源として、非可換離散群という幾何学的な起源をもつ群を用いた模型が考えられたが、前述のとおりDAYA-BAY実験が非常に精度よく θPMNS

13 はゼロではないと報告したため、非可換離散群の立場で構築された模型は変更を余儀なくされた。本研究はもう少し広い視点でこのような混合の起源が議論できないか、という着想のもとで進めてきた。

フレーバー対称性といった新しい対称性は、低エネルギーでは破れているか隠れたものである必要があり、その破れがわずかであろうと大きく破れていようとも、破れに関する量は低エネルギー理論では小さなパラメータとして残っているはずである。このような観点により小さなパラメータの存在がキーポイントとなる。ここでは太陽ニュートリノ質量二乗差 (Δm2

12)が大気ニュートリノ質量二乗差 (Δm2

23)よりも小さいことに注目した。Δm212がゼロの極限を考えた時には、

ニュートリノの質量行列にO(2)対称性が現れる。言い換えると、1世代目と 2世代目のニュートリノの質量固有値が縮退している質量行列が第 0近似で現れる。一方で、電荷をもったフェルミオンは第 3世代との階層性が非常に大きいため、このような質量行列からスタートすることは一見難しい。しかし、第 1・2世代の質量が第 0近似でゼロとすれば、電荷をもったフェルミオンにも適用が可能である。この第 0近似の質量行列へ摂動的に項を加えることで、質量行列が構成される。この質量行列の構造は摂動項の中の構造へ階層性を仮定することなしに混合行列の特徴をも再現し得るということがわかった。

本年度はレプトンセクターのみに限って解析を行い、ニュートリノ振動実験に

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よって測られている混合角を十分再現し得る模型を構築することができた。またこの模型の枠組みにおいて、自発的CP対称性の破れを導入した。このCP対称性の破れの大きさによって、電子の質量の小ささとレプトンの混合角 θPMNS

13 との間に相関が生まれることがわかった。しかしながら、現在のところはパラメータ数も多く予言力に乏しい。今後はより幅広く現象論に当たり、且つクォークセクターへの適用可能性についても着目していきたい。

• 酒谷 雄峰 (Yuho Sakatani)

ブラックホールが熱力学的な振る舞いをすることはよく知られており、この性質に着目して重力理論を熱力学的に定式化するという研究が古くから行われている。最近特に定常ブラックホール時空のまわりでの重力場の長波長の揺らぎが粘性流体力学の方程式を用いて記述できることが示され、重力理論と流体力学の間の対応関係が様々な具体例を通して確認されている。しかし、重力解に対応する熱力学系は粘性流体だけに限定される理由はなく、より一般的な連続体力学が重力理論と対応する可能性も考えられる。我々は過去の研究において、そのような一般的な連続体力学として (相対論的)粘弾性体力学を構築した。本年度の研究[MISC-2012-08]ではこれに高次の補正を加えた粘弾性体模型を構築し、重力理論と (高次の補正を加えた)粘弾性体力学の間の対応を調べるための基礎を与えた。

重力理論と熱力学の間の対応を調べる他の方法として、曲がった時空上の場の理論に基づくものがある。このアプローチでは物質場の真空状態をどのように定義するかが重要になる。我々は、[MISC-2013-01] で、曲がった時空上の自由スカラー場の理論を考え、任意の時刻 tI における Hamiltonianの瞬間的な基底状態として真空状態 |0tI 〉を定義した。そして、その真空に関する (正振動モードの)

波動関数を求める手法を開発した。これを用いると、この時刻 tI を無限の過去や未来にとばす極限として in-真空や out-真空の波動関数を得ることができ、in-

inおよび in-out propagatorが計算できる。具体例として de Sitter空間におけるpropagatorを計算し、これが de Sitter群の下で不変な形に書けることをみた。これまで、masslessスカラー場の de Sitter不変なFock真空が存在しないことから、masslessスカラー場の de Sitter不変な propagatorは得られていなかった。しかし我々の in-out propagatorは de Sitter不変性を壊さずにmassless極限がとれるため、in-out formalismでmasslessスカラー場の摂動論を行うことが出来る。さらに、我々の in-out propagatorが、通常の Feynman経路積分から求まるものと一致することも数値的に確認した。de Sitter空間はある温度を持った熱浴のように振る舞うことが知られているが、今回の研究から、熱平衡に達する前の緩和過程を記述できるのではないかという示唆が得られたため、今後はこの点を調べたい。

ブラックホールの持つエントロピーを統計力学的に説明できる理論として超弦理論がある。この理論に存在する D-ブレーンなどの物体を平坦な時空に置くと、その物体のエネルギーは時空を曲げ、ある曲がった重力解を与える。こうして得られる重力解の中には、T-foldと呼ばれる種類の解が含まれている。我々は、

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[MISC-2012-09]で、特定のT-fold時空の解を具体的に構成し、T-fold時空の対称性を調べるには doubled geometryと呼ばれる一般化された幾何学を用いるのが有効であることを具体例を通して示した。さらに、このT-fold上を運動する弦の古典解を構成し、T-fold時空の持つ非自明なモノドロミーが弦の持つチャージにどのように作用するかを調べた。今後は、この研究から得られた教訓に基づいて、一般的な doubled geometry上を運動する弦の理論を構築したいと考えている。

• 西山 陽大 (Akihiro Nishiyama)

近年、RHIC及び LHCの高エネルギー重イオン衝突実験では、Quark-Gluon

Plasma(QGP)を生成させるための研究が行われている。QGP生成後に関しては、粘性率の小さい流体模型が実験結果を良く再現している。流体模型を用いた解析から、原子核衝突からグルオン粒子の最終的な熱平衡化 (Bose-Einstein分布の実現、QGPの生成)までの変化が早期の時間スケール (0.6∼1.0fm/c)で起こっていることが示唆されている。現在、このQGPの生成のメカニズム (早期熱化)

についてはまだ解明されていない。例えば、この一連の過程を単純な擬粒子描像を用いる Boltzmann方程式を使って解析した場合、早い時間での熱化を実現することが全く不可能なのである。粒子描像を超える何らかのアプローチが必要となる。

そこで我々はその候補として、非平衡場の量子論に基づくアプローチを提案する。この手法は具体的にはYang-Mills(YM)方程式とKadanoff-Baym(KB)方程式に代表される方法である。本研究の目的は、QCDに対し、これらの方程式を数値的に解くことで、QGPの生成過程を明らかにすることである。

QCDでYM方程式とKB方程式を解く前に、膨張系でのスカラーO(N)理論の数値計算を実現した。スカラーO(N)理論のメリットは 1/N展開を用いることで粒子数が結合定数の逆数まで増加する全ての時間のダイナミクスを追跡できる点にある。そこで、強い古典場を初期条件とした場合を模型として考え、古典場の時間発展方程式とKB方程式のダイナミクスを追跡した。結果、膨張系で、初期条件の古典場から Parametric Resonanceによるスカラーの粒子発生、(Field-Particle

Conversion)と最終的なスカラー粒子の熱平衡化を世界で最初に実現した。さらに、最近ドイツとフランスのグループで行われている衝突項の古典近似との比較を行い、古典近似の欠点が最終的なBose-Einstein(BE)分布が実現しないことを指摘し、本当の熱平衡化 (BE分布)を実現するには我々の量子非平衡過程を追跡する必要があることを主張した。この結果は、古典近似を超える量子非平衡過程の必要性があることを膨張系でも示した世界で最初の仕事である。

• 松崎 真也 (Shinya Matsuzaki)

2012年7月4日、私たちは歴史的瞬間を目の当たりにした。スイスの大型ハドロン衝突(LHC)実験で、素粒子の標準模型が予言するヒッグス粒子らしきもの

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が発見された。このヒッグス粒子は標準模型において素粒子の質量の起源を与えるものであり、この発見は近年の素粒子物理において最も大きなインパクトを与えた。

しかし発見された粒子のシグナルについてヒッグス粒子から期待される性質とやや異なるものが現在報告されている。特にヒッグス粒子から2光子、またクォーク・レプトン対への崩壊モードにそれは著しい。このような異なる性質の背後に標準模型を超える物理(BSM)の存在が期待される。

私はBSMの候補としてテクニカラー理論に注目して研究を行ってきた。テクニカラー理論において質量の起源は、ヒッグス粒子の代わりに新しいカラー(ゲージ相互作用)をもつ新しいフェルミオン (テクニフェルミオン)対の力学的凝縮によって説明され、その機構は低エネルギースケールの量子色力学によるクォーク質量の力学的獲得と類似のものである。

特に現象論的にも整合性を保つと期待されるウォーキングテクニカラー理論についての考察を進めてきた。この力学的性質は量子色力学とは本質的に異なり、特に近似的なスケール不変性を持つ点に理論の特徴がある。そのスケール不変性はテクニフェルミオン対凝縮によって力学的かつ自発的に破られ、軽い擬南部・ゴールドストンスカラー粒子、テクニディラトンが出現する。このテクニディラトンが LHC実験で発見されたヒッグス粒子らしきものである可能性がある。

私はテクニディラトンの LHC実験におけるシグナル解析を行い、その研究成果を論文にまとめた [MISC-2012-07, -11, -14, -16]。その成果として、現在報告されている2光子、またクォーク・レプトン対への崩壊モードの異常な性質をテクニディラトンによって説明可能であることを示した。さらに標準模型のヒッグス粒子よりもテクニディラトンの方が現在の実験データとの相性がよい傾向にあることがわかった。この研究は様々なディラトン模型による同様な LHC物理解析のパイオニアとなり、現在この立場の BSMの研究をリードしている。今後もこのテクニディラトンの LHC物理の性質の解析を来る新しい実験データとの比較を通して考察する予定である。また、ウォーキングテクニカラーが予言するほかの特徴的なスペクトル(複合ベクトル中間子など)の LHC実験の物理についても研究も行う。

• 曽我見 郁夫 (Ikuo Sogami)

研究課題(1)「基本フェルミオン場の統一理論」

基本フェルミオンを総体として記述するために、ディラック行列の三重テンソル積から成る代数を導入し、その上に多重スピノール場 - 三連場 - の理論を構築する。三連場のカイラル成分に対して Weinberg-Salam の電弱対称性を課すことによって、標準模型を自然な形で拡張する理論が構成される。すなわち、カイラルな三連場はスピン 1/2 のみを成分として含むローレンツ群の可約表現となり、それらの成分は通常の3家族と共に付加的な1家族のクォークとレプトンと解釈

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することができる。ここで、通常の3家族は標準模型のゲージ場とヒッグス場が相互作用するとし、第4番目の家族にはそれらとは異なるゲージ場とヒッグス場が相互作用するものと要請する。この理論では、標準模型に関係する場はバリオニック物質が存在する 明世界を記述するのに対して、第4家族に関係する場は暗黒物質が存在する 暗世界 を記述するという世界像を描くことになる。明世界と 暗世界 は共通のインフレーション期を経由した後、再加熱期に入り、その後弱い相関を保ちつつ全宇宙の熱史を辿る。

このように構成された多重スピノール場の理論には、明世界と暗世界を緩やかに結びつける数多くのチャンネルが存在する。とくに、暗世界のニュートリノを含む1ループ過程で通常のハドロンと右巻き電子が相互作用することを利用して、暗黒物質を検出する可能性ある。同様のループ過程によってミュー粒子の g − 2

への寄与を評価することができる。また、ヒッグス粒子の 2光子崩壊にも標準模型とは異なる寄与がある。今後、それらの効果を分析しなければならない。

LHC実験は、126GeV近傍に “ヒッグス粒子らしきピーク”を見出すと共に、低いエネルギー領域には超対称粒子の存在を示すシグナルが皆無であることを明らかにした。この結果から、標準模型のみを前提とし超対称性を仮定しない本研究課題の設定が適切であったと判断される。

研究課題(2)「希薄な分散溶液中のコロイド相互作用と構造形成」

巨大イオンやコロイド溶液中の秩序形成過程を化学と物理学の対象とする場合、もっとも注意を払うべき重要なポイントは、その現象がもつ非一様性である。とくに、系を記述する熱力学的な諸量をどのように選択するかが鍵となる。コロイド化学の古典理論である DLVO体系では、系のヘルムホルツ自由エネルギーの計算から、粒子間に働く純斥力の対ポテンシャルが導出された。この斥力項と短距離のファンデルワールス引力項を組み合わせたDLVOポテンシャルは、コロイド粒子の凝集沈降を記述するシュルツ・ハーディーの経験則を説明することに成功した結果、半世紀以上にわたってコロイド化学の標準理論と位置付けられてきた。これに対して、本研究者は系のギッブス自由エネルギーを「化学ポテンシャルの総和」として計算することにより、同種電荷をもつ巨大粒子間に中距離の強い斥力と共に長距離の弱い引力が存在することを見出している。この効果は、巨大粒子の中間に存在する小さい対イオンとの媒介によって生じるもので、シュルツ・ハーディー則を説明すると共に様々な長距離秩序の形成を記述し、コロイド科学に強いインパクトを与えた。この効果の実証研究が年々盛んになっており、JAXAのプロジェクトとして、2014年に国際科学ステーション「きぼう」で実験が行われることになった。そのために、菊池・コッセル法と名付けた実験手段を開発し、その装置を現在フライトモデルとして作成中である。今後も、「きぼう」実験グループの責任者として、理論と実験の両面にわたり研究を推進する。

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• 外山 政文 (Masafumi Toyama)

本年度も昨年度に引き続きグローバータイプの量子探索アルゴリズムの探索効率について研究を行った。グローバーの量子探索アルゴリズムは、2大量子アルゴリズムの一つであり、もはや量子コンピューティングにおける古典的問題となっている。しかしながら、それには幾つか解決すべき問題があり、その解決策として様々な位相整合法が提案されて来た。我々が数年前に提案した多重位相整合法もその一つであるが、本年度は、従来の単一位相整合の一つである Li and Li位相整合に基づき、任意の与えられた標的割合に対して必ず成功確率が1になる位相因子を決定する厳密解を求める研究を行った。そして、位相整合法における探索の成功及び失敗振幅について最もコンパクトな表式を導出した。本研究ではまた、成功確率が1の探索を達成するための探索ステップ数とオリジナル・グローバーアルゴリズムの最適探索ステップ数との関係を明らかにした。更に、Hoyer

やHsieh and Liによって提案された他のより複雑な位相整合が、上記の厳密解によって与えられる探索の最適性を超えることができるかどうか厳密に調べた。探索アルゴリズムの探索効率を比較解析するには、共通の条件下で議論されねばならない。従来の議論では、この点が非常に曖昧であった。本研究では、任意の標的割合に対して探索成功確率が1という強い条件の下で、数値解析により探索効率の比較を行った。その結果、Hsieh and Li の位相整合は、Li and Liあるいはそれと物理的には等価な Longの位相整合の最適性を超えないことを明らかにした。即ち、成功確率が1の整合位相に対する厳密解を許す Li and Liの位相整合が探索ステップ数(スピード)においても最適であることを明確に証明した。

上記のように、探索成功確率の問題は本研究で完全に解決できたが、探索スピードの問題は、グローバー型探索では解決できない問題である事を改めて確認する結果となった。この探索スピードの問題は量子探索問題における根本的な問題であり、簡単には進展が期待できるものでないが、今後も、グローバー型の探索を超える新しいアルゴリズムの構築を目指して研究を継続していきたい。また、量子鍵配送の新しいモデルや量子疑似テレパシーなどの分野にも研究を拡大して行く。

• 原 哲也 (Tetsuya Hara)(1) 自己重力の系のエントロピー:

これは、星のエントロピー (S)は、崩壊する前、質量 (M)の1乗に比例 (S ∝ M)

するが、重力崩壊して Black Hole (BH) になると、何故質量の 2乗に比例するようになるのか (S ∝ M2)、また崩壊するに従い何故急激にエントロピーが増加するのかという問題である。これに関して、自己重力の系は、その重力場によるエネルギー (E ∝ −GM2/r))に相当して、自己重力から生じるエントロピーを考慮すべきでは無いかという仮説を考えている。これは化学ポテンシャルに重力ポテンシャルからの寄与を加味することに相当し (”Statistical Physics” , Landau and

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Lifshitz)、こうするとエントロピーは、重力崩壊する以前でも質量の 2乗に比例し、不自然な増大は起こらなくなる。 Lynden-Bell や Wood もこの関係を導いている。また星の温度に Tolman Temperature (T (g00)

0.5 = 一定)の関係を用いることにも相当している。また、中性子星に対して、その大きさに相当する不確定性関係より、エネルギーの不確定が生じ、それを温度とみなすと、BH と同様に温度があることになり、BHとの類推から、表面から輻射を放出する可能性がある。つまり、中性子星の表面は一定の加速度を受けており、Unruh 効果の面から、表面が一定の熱浴の中に存在することに相当し、その温度の輻射を出している可能性である。如何にこの類推を具体化するか、今後検討を続ける。

(2) バリオン数の生成:

上記のエントロピーの問題に加えて、BH が形成されたとすると、BH でのバリオン数の保存が成立しないという問題について調べて来た。つまり、BH は質量(M)、角運動量(L)、電荷(Q)で特徴付けられ、そのバリオン数 (B) やレプトン数(L )は保存量ではないとされている。Bekenstein の論文を、かなり簡約すると、例えば質量のあるスカラー場は、その BH の地平面上での面積分と、無限遠方での面積分がゼロとなるような場(Yukawa potential で表せる場)となり、その面で囲まれた領域でも、Schwarz の不等式を用いることにより、場がゼロになるというものである。バリオン数が存在するという情報を伝える場がゼロとなる。つまりそのような場は存在しないから、バリオン数は保存しないという論理である。

そしてこのバリオン数が保存しないという問題にたいする関心より、現在、宇宙におけるバリオン数生成の問題を検討している。特に Leptogenesisから Spharelon

が飛び交う時代における Baryogenesis の過程において、粒子間の反応の熱平衡より、各構成粒子の化学ポテンシャルの間に関係が成立する。Spharelon の遷移や、ハイパー電荷の保存の関係等が制限となり、かつB −L が保存することにより、この時代に、それ以前の B −L が、バリオン数 B へどの程度変換するかを、或る程度簡単な仮定の下で推定している。

• 三好 蕃 (Shigeru Miyoshi)

X線観測データを使った「銀河団とダークマターの研究」について、現在稼働中のX線天文衛星の性能下で可能な研究課題は全て調べ尽くされた感があり、ここ暫くは停滞している。勿論、アーカイブデータを使ってルーチングワーク的な研究を継続することも可能であるが、検出器のエネルギー分解能や角度分解能から判断して、観測結果からダークマターの性質について何か意味ある結論を引き出そうとしても、それは原理的に難しい。銀河団形成のコンピュータシミュレーションの結果と観測結果の比較という観点から今特に興味があるのは銀河団の最外層部の構造であるが、そこはガス密度が薄いためX線光度も低く、観測データの統計精度を上げるのは容易ではない。そうした困難を解決してくれそうなのが

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JAXAの次期X線天文衛星ASTRO-Hで、平成26年に完成の予定である。そのASTRO-Hの観測データと比較検討されるべき理論モデルについては、基本的なものは既に完成しており、あとは観測結果を見ながら微調整すればよい段階にあり、観測データが取得され次第すぐに対応できる態勢にある。

昨年度の年次報告書で詳しく述べた「クェーサーからの高エネルギー光子放出のメカニズムの解明」に向けて開発中の数値シミュレーションのプログラムについては、計算機への打ち込みは終えているが、実際に走らせて結果を得るまでには未だ至っていない。プログラムの内容は、中心のブラックホールのすぐ外に、ブラックホールを包む形でほぼ球対称に存在する(と考えられている)高温コロナの電子による(コロナより温度の低い降着円盤からコロナに向けて放射された)紫外線や軟X線光子の逆コンプトン散乱の計算が主で、特殊相対論と一般相対論、さらには量子論まで考慮したものになっており、しかも、他の同種プログラムによく見られる近似式はほとんど含まれていない。そのため、シミュレーションの結果を物理的に正しく説明・解釈するのは容易である。しかし、近似式の使用を避けたが故にプログラムがかなり複雑になっていて、実際に計算を始めるところまで持ってゆくのに手間取っている。一旦走り出せば後はスムーズに作業が進むと思われるが、それまでもう少し時間がかかりそうである。

上記の2つの研究課題に加えて、「太陽系形成の直前における物理的状況を解明する」課題にも取り組んでいる。まず太陽系の形成は、星形成の理論モデルでよく取り上げられる単純な密度揺らぎの成長による星間雲の収縮によるのではなく、超新星や超巨星からの爆風や星風を受けた星間雲が、その風圧による圧縮を受けたのが元で収縮を起こして最終的に太陽系形成にまで至ったことが明らかになっている。それは、半減期が500万年以下の短寿命核種のうち、「超新星でしか形成できないもの及び超新星では形成できないものの両方が原始太陽系に存在した」証拠が隕石の中から発見されたことによる。さらに、その超新星についても、その存在が確認された短寿命核種の種類から、Ia型超新星ではないことも明らかになっている。残された問題は、その超新星と超巨星が同一の星の異なるフェーズに対応するものなのか、それとも両者が別々の星なのか、さらにまた、太陽系形成時におけるその星(あるいは星たち)が原始太陽(系)とどういう位置関係にあったかである。前者については、「それらは元々同一の星であったとしてよい」との結論に達した。確率的に見ても、それらが別々の星である可能性は非常に低いので、これはむしろ当然の結果かと思われる。次に、その星は単独星だったのか、それとも連星系の一員であったのかという問題であるが、これは、その超新星の前身がウォルフライエ星であったのか、それとも青色あるいは赤色超巨星であったのかによって判別できる。そしてそれを見分けるには、ウォルフライエ星と超巨星が、それぞれ、原子核やその同位元素をどのような割合で合成するかを見てやればよく、現在それを詳しく調べているところである。これらが明確になれば、最終的に、その星の主系列時の質量やその星と原始太陽(系)の距離などを見積ることができるはずである。さらに、現在の太陽系の元素および

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その同位元素の組成比(アバンダンス)を太陽系形成時にまで遡った値(これは既に計算済み)から、その超新星や超巨星による汚染分を引き去ることで、原始太陽系の生みの親である星間雲のその当時のアバンダンスが得られるが、これは銀河系の化学的進化を見る上で重要なデータとなる。

• 植松 恒夫 (Tsuneo Uematsu)

素粒子の標準模型の確立にとって、素粒子に質量を与えるヒッグス粒子の発見が不可欠であるが、2012年 7月にCERN(欧州共同原子核研究所)は陽子・陽子衝突型加速器 LHCにおいて質量が 125GeV付近にヒッグス粒子とみられる新しいボソンが見つかったと発表した。発見された新しいボソンが実際に標準模型が予言するヒッグス粒子かどうかを明らかにするには今後の更なる実験解析を待つ必要がある。特に、ヒッグス粒子は短い時間に 2個の光子や 4個のレプトンなどの他の粒子に崩壊するが、観測されたボソンの崩壊率が標準模型の予想に合致するか否かを今後詳細に調べなければならない。

標準模型のうち、強い力を記述する理論が SU(3)カラーの自由度をゲージ化した量子色力学(QCD)である。一方、ここ 10年ばかり電子・陽電子衝突実験で測定される仮想光子構造関数についてQCDの摂動論的手法を用いて研究を行ってきた。特に標的の光子が仮想光子の場合で、その質量がQCDのスケール・パラメータに比べて十分大きく、また探索光子の質量よりも十分小さい運動学的領域では、構造関数やパートン分布関数は摂動論で大きさも形も計算可能である。これらについてQCDのNNLOのオーダーまで計算を行った。この数年はさらに、重いクォークの質量効果を取り入れる研究を行い、演算子積展開やDGLAPの発展方程式の理論的枠組みに質量効果を取り込む手法を定式化した。

上記の研究に関して、2012年 7月にフランスで開催された第 16回量子色力学国際会議(QCD12)でその成果を発表した。特に、偏極光子構造関数 gγ

1 の 1次のモーメント和則の重いクォークの質量効果や、超対称QCDでクォークやグルーオン以外に、質量の大きな超対称粒子であるスクォークやグルイノが存在する場合の光子構造関数の計算を遂行した。この会議では、電子・陽電子衝突の 2光子過程で測定される、π中間子の遷移形状因子 (transition form factor) についての実験および理論の最新の研究成果の報告があり、これについて検討した結果を 2012

年 11月の第 2回日大理工・益川塾連携シンポジウムで報告した。

LHCで見つかったヒッグスらしきボソンの2光子崩壊 (H → γγ)の崩壊率は今のところ若干標準模型からのずれがある。そこで、逆過程である2光子過程を通してのヒッグス粒子生成 (γγ → H) に興味が持たれる。特に、ここでは、e+ e−

衝突実験での2光子過程によるヒッグス粒子生成で、片方の電子 (陽電子) に大きい運動量の遷移 (仮想光子の質量の 2乗Q2)を与え、single taggingする event の理論的計算を行った。この測定でちょうどπ中間子の場合と同様にヒッグス粒子の transition form factorのQ2 依存性を知ることができ、これが標準理論と合致

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するのか否かに興味が持たれる。その計算結果については 2013年 3月に広島大学で開催される日本物理学会で報告する予定である。

• 小出 義夫 (Yoshio Koide)

はじめに私の研究の主題は,フレーバー物理の解明にある.今年度の研究は大きく分類すると次の2つのテーマとなる.(i) ユカワオン模型に基づくクォークとレプトンの質量スペクトルと混合の統一的記述の探索.(ii) 逆階層質量を持ったファミリー・ゲージボゾンのモデル構築とその現象論的探索.

これらは,一見,異なる研究課題のように見えるが,実は互いに関連し合っている:フレーバーの起源として,ファミリー対称性を考える.そのとき,クォークとレプトンの質量スペクトルと混合を与えるパラメターとして,標準模型では,「湯川結合定数 Yf (f = u, d, e, ν, · · · )」が登場するが,この Yf は各クォークとレプトンごとに天から与えられた「定数」であって,理論的にそれを計算することはできない.しかも,この定数 Yf の存在は,仮定するファミリー対称性を陽に破っている.そこで,Yf の正体は,あるスカラー粒子 Yf (Yukawaons) が存在し,それの真空期待値 〈Yf〉 が湯川結合定数と呼ばれているものであると仮定する.こう考えることにより,出発点の理論は厳密にファミリー対称性を保つことが可能となる.しかも,ポテンシャルの極小条件を計算することにより,〈Yf〉は原理的には力学的に計算可能な量となる.

一方,このファミリー対称性は,ゲージ対称性と考えるべきである.さもないと,質量ゼロの南部・ゴールドストン・ボゾンが現れてしまう,ところが,ファミリー・ゲージボゾンが存在するモデルにおいて,低いエネルギースケールを持った理論を構築しようとすると,実験事実といろいろ矛盾することが知られている.結果として,かなり高いエネルギースケールを持ったモデルを考えざるを得なくなる.これでは,このゲージボソン効果は観測不能となる.

本年度の成果

(i) ユカワオン模型の唯一の弱点は,前年度に発見された νe-ν3 混合角の実験値sin2 2θ13 � 0.09 を説明できないことであった.従来のユカワオン模型では,かなり小さな値 10−4 となってしまう.西浦(大阪工大)との共同研究により,模型は順次改良され,ついに,実験値の Rν = Δm2

32/Δm221 � 3 × 102 を採用すると,

sin2 2θ13 � 0.09 が予言できるという模型にたどり着いた.この成功によって,「観測されている質量と混合の階層性はすべて荷電レプトンの質量を用いて記述できるはず」というユカワオン模型の予想は,より現実味を帯びてきた.

(ii)本年度の大きな進展は,山下(元益川塾生,現愛知医科大)との共同研究による「逆階層を持ったファミリー・ゲージボゾンのモデル」の提案であろう.この逆転の発想により,ゲージボゾンの効果は従来の実験結果と矛盾せず,しかも

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様々なところで,すでに見えているという可能性を指摘できた.この新しいモデルにより,実り多い New Physics が期待できることとなった.

• 高杉 英一 (Eiichi Takasugi)

1.クークとレプトン両系でのCPの破れの起源を同じくする質量行列が可能であるかの研究をおこなった。両系で同じ起源の複素位相を持つためには、湯川結合に起源を求める事はできないため実数とした。次に、質量行列は hierarchical

な構造をもつ行列であるとした。これは、混合や質量のスペクトルが直感的に見やすい構造を持っているからである。具体的には Forggatt-Nielsen(FN)型の模型 (U(1)対称性を仮定)を考察した。パラメータをできるだけ少なくするため、湯川結合はほぼDemocraticに選んだ。2つのFN場を導入し、CPを破る位相はこれらの真空期待値の位相差に起因する模型を考えた。また、これらの FN場に異なったパリティを与え、U(1) × Z2対称性をもつ相互作用を導入した。

以前の論文では、湯川結合にDemocraticな構造を与えたが、今回は (3,3)成分のみに自由度を与え、またパリティの取り方をクークとレプトンで変えた。U(1)

チャージは SU(5)の構造と整合性を保つようにとってある。議論の点は、 クークとレプトン両系で同じ複素位相の起源を持った模型で、CKMとPMNS両混合行列とCPの位相が説明できるか、  hierarchicalな構造を持った質量行列から、CKMの hierarchicalな構造とPMNSのmildな構造、また質量の構造が共に説明できるか、の2点である。この模型では、ニュートリノの質量はシーソー機構を通して実現される。

結論は、混合、またニュートリノの質量の2乗の差(この模型はNormal hier-

archyを導く)もよく再現する模型を得た。クークや荷電レプトンの質量に関しては、第2世代と第3世代の比に関しては定性的に合う結果を得たが、1世代と第2世代の質量の比はうまく説明できない。しかし、一つの複素位相を持つ hier-

archicalな構造をもつ質量の模型で、少ないパラメータ数ながら多くの実験結果を再現する模型が得られたのは驚きであった。

2.散乱や崩壊における波束の役割と波束の大きさはどの程度であるかを考察した。波束を小さくすると、エネルギーや運動量の保存則が破れてしまう。この大きさの程度は、波束のサイズの逆数程度である。波束を原子核サイズにとれば、πの質量程度の破れがある事になる。Point interactionでは、この保存則の破れは見つかっていないので、波束のサイズは保存則の実験的な精度から得られる大きさ以上でなければならないとの結論を得た。

将来の計画としては、今回考察した質量行列を第1世代の質量を再現できる模型に修正できるかを検討したい。また、量子力学における観測とはどういう事であるかをについて、最近示唆に富む実験結果や理論が提出され活発な議論になっている。これらの問題は重要と思われるので、引き続き研究を行いたい。

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• 福山 武志 (Takeshi Fukuyama)

研究の主目標は、次世代標準模型の建設である。それに関して今年度は3つの目標があった。

1. 3月に京都大学基礎物理学研究所で開催された [GUT2012]の Proceedings

を完成させることであった。講演者の協力のお蔭で、すべての口頭講演、ポスター講演の原稿が集まり、Proceedingsが、American Institute of Physics

から公刊された。

2. 2年以上執筆に時間をかけていた電気双極子モーメント(EDM)のレヴューを Int.J.Mod.Phys.Aから刊行することができた。その動機付けは、まず、EDMが、標準模型を超える新物理 (以下新物理)の対象としてきわめて重要であるからである。標準模型では、バリオンの非対称性の唯一の源泉は、Kobayashi-Maskawaの CP位相であるが、2008年のノーベル賞受賞講演で小林氏は、「And matter dominance of the Universe seems to require

new sources of CP violation, because it appears that CP violation of the

six-quark model is too small to explain matter dominance.」と述べられている。実際、(nB/nγ)SM ≈ 10−19で観測値の 10−11よりも何桁も小さい。一方で色々な模型で、新しい位相が出てくる。素粒子のEDMは、P-odd, T-odd

  (したがってCPT不変性からCP-odd)な物理量である。しかし SMでは、quarkのEDMは、3-loopで、leptonのEDMは、4-loopで初めて現れる。そのため非常に小さい値しか出さない。しかし、例えば SUSYや、Two Higgs

Doublet Modelsなどでは、新しい位相のために、1-loopや 2-loopでも非ゼロの寄与を与える。しかしそれが、模型の必然的な結果なのか、模型の予言性のなさによるものか、広い分野で混同されていた。この点を理論屋の立場から整理したかった。さらにEDMは、単に素粒子のEDMをそのまま測定するのではなくて、原子や分子の EDMとして何桁も増幅されて見える。ここでは最新の原子や分子スペクトロピーの知識や、レーザー物理が応用される。それらを包括的に議論したレヴューがぜひ必要だと考えられたからである。

3. これも 4年以上前からの懸案であった、我々のグループが 10年以上に亘って展開してきた SO(10)GUTの総括をまとめておきたいという願望がようやく実現され、これもこの 2月中にも Int.J.Mod.Phys.Aから刊行される。これについては、概略がいろんなところで述べられているので省略する。

• 梅津 光一郎 (Koichiro Umetsu)

今年度は量子力学の基礎理論に関する研究,特に不確定性関係に関する研究を行った。不確定性原理は、正準交換関係の物理的意味を明確化することを目的

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としてHeisenbergによって導入され、量子力学の最も重要な概念の1つである。Heisenbergのオリジナル論文 [1]ではいわゆる「不確定さ」(ドイツ語で Unge-

nauigkeiten)の定義は明確に与えていなかったが、ガンマ線顕微鏡による電子の位置測定の実験を例に挙げ、電子の位置測定における誤差と位置を測定したことによって生じる電子の運動量への擾乱について考察している。その後、この「不確定さ」は、Kennardや Robertsonによって標準偏差として表されたり、“測定とは対象と測定器との相互作用させること”とする von Neumannの誤差と擾乱の定義が用いられることになった。

近年、小澤正直教授とウィーン工科大学の実験グループは中性子のスピン測定実験によって、von Neumannの定義による誤差と擾乱の積が Heisenberg lower

limitを下回ることを実証し、これをHeisenbergの不確定性関係の破れと主張することで大きな話題を呼んだ [2]。

しかしながら、上述の通り、Heisenbergの論文では誤差や擾乱のような “不確定さ”について明確な定義を与えておらず、その定量的な表現には曖昧さが残されている。これを受け、藤川和男教授は常に成立するハイゼンベルグ型の不確定性関係の1つの定式化として,新しい不確定性関係を提案した [3]。この定式化では新しい誤差を von Neumannの定義による素朴な誤差と標準偏差の線形和として、新しい擾乱も同様に素朴な擾乱と標準偏差の線形和として定義する。我々はこの新しい不確定性関係がウィーン工科大学の実験結果を用いた場合においても成立していることを示した [4]。したがって、この常に成立する不確定性関係をHeisenbergのオリジナル論文に現れる不確定性関係と考えれば、Heisenbergの不確定性関係が破れると言う必要はなくなる。また、新しい誤差の定義は我々に「良い測定」とは何かということを示唆してくれる。素朴な von Neumannの誤差の定義によれば、いわゆる正確な測定(素朴な誤差が0となる測定)であっても測定値に揺らぎが生じる場合がある。しかし、新しい誤差の定義では、素朴な誤差が0となる場合でも、初期状態の標準偏差による揺らぎが含まれているため、測定値が様々な値を取ってしまうことにも直感的に納得できる。したがって、我々の誤差の定義によれば、「良い測定とは標準偏差の小さい状態を小さな誤差で測定することである」と言うことができる。さらに、我々はこれまでに知られている全ての不確定性関係式がRobertsonの不確定性関係から導出できることを証明した。

参考文献[1] W. Heisenberg, Z. Phys. 43, 172 (1927).[2] J. Erhart et al., Nature Phys. 8, 185 (2012).[3] K. Fujikawa, Phys. Rev. A67, 062117 (2012).[4] K. Fujikawa and K. Umetsu, Prog. Theor. Exp. Phys. 013A03 (2013).

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2.2 自然科学系研究報告会および活動報告会の実施自然科学系では、下記のとおり研究報告会および本年度の活動報告がセミナー形式で行われ、活発な意見交換や議論がなされた。

1. 平成24年4月21日 発表者:石田 裕之,

“Baryogenesis via Right-handed Neutrino Oscillation in the νMSM ”

2. 平成24年6月2日 発表者:酒谷 雄峰,

“連続体力学のエントロピーに基づいた定式化と相対論的粘弾性体力学”

3. 平成24年6月30日 発表者:高杉 英一,

“マヨラナニュートリノ系でのCPの破れを追い求めて”

4. 平成24年7月3日 発表者:荒木 威,

“発散を含まない量子効果によるフレーバー対称性の破れ”

5. 平成25年2月21日 発表者:石田 裕之,

“Partial mass degeneracy”

6. 平成25年2月21日 発表者:酒谷 雄峰,

“On propagators in de Sitter space”

7. 平成25年2月21日 発表者:松崎 真也,

“125 GeV techni-dilaton at the LHC”

8. 平成25年2月21日 発表者:梅津 光一郎,

“Aspects of universally valid Heisenberg uncertainty relation”

9. 平成25年2月22日 発表者:曽我見 郁夫,

“基本フェルミオン場の統一理論”

10. 平成25年2月22日 発表者:植松 恒夫,

“2光子過程をめぐって”

11. 平成25年2月22日 発表者:高杉 英一,

“同じCPの破れのオリジンをもつクォーク・レプトン質量行列”

12. 平成25年2月22日 発表者:荒木 威,

“Are θMNS13 and θMNS

23 correclated?”

13. 平成25年2月23日 発表者:西山 陽大,

“Kadanoff-Baym Theory for Thermalization of Quantum Fields”

14. 平成25年2月23日 発表者:小出 義夫,

“Introduction to Family Gauge Boson Model with an Inverted Mass Hier-

archy”

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活動報告会の様子

発表者:荒木威 研究員 発表者:石田裕之 研究員

発表者:酒谷雄峰 研究員 発表者:西山陽大 研究員

2.3 速報会

1. 平成24年4月24日 報告者:酒谷 雄峰,

“The relativistic fluid dual to vacuum Einstein gravity”, G. Compere, P.

McFadden, K. Skenderis and M. Taylor, (arXiv:1201.2678[hep-th])

2. 平成24年5月11日 報告者:梅津 光一郎,

“Revisiting Hardy’s Paradox: Counterfactual Statements, Real Measure-

ments, Entanglement and Weak Values”, Y. Aharonov, A. Botero, S. Popescu,

B. Reznik and J. Tollaksen, (arXiv:quant-ph/0104062v1)

3. 平成24年5月22日 報告者:石田 裕之,

“θPMNS13 = θC/

√2 from GUTs”, S. Antusch, C. Gross, V. Maurer and

C. Sluka, (arXiv:1205.1051[hep-ph])

4. 平成24年5月29日 報告者:曽我見 郁夫,

“Long-range attractive tail of colloid interaction”, I.S. Sogami,

(arXiv:1302.6388[cond-mat])

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5. 平成24年6月9日 報告者:曽我見 郁夫,

“Vector WIMP Miracle”, T. Abe, M. Kakizaki, S. Matsumoto and O. Seto,

(arXiv:1012.3982[hep-th])

6. 平成24年6月12日 報告者:荒木 威,

“Residual Symmetries for Neutrino Mixing with a Large”, S.F. Ge,

D.A. Dicus and W.W. Repko, (arXiv:1108.0964 [hep-ph])

7. 平成24年6月16日 報告者:荒木 威,

“Report on Neutrino 2012 @Kyoto”

8. 平成24年6月19日 報告者:高杉 英一,

“Analytic Solutions of the Teukolsky Equation and their Low Frequency Ex-

pansions”, S. Mano, H. Suzuki and E. Takasugi, (arXiv:arXiv:gr-qc/9603020)

9. 平成24年7月7日 報告者:酒谷 雄峰,

“Rotating Black Holes: Separable Wave Equations for Gravitational and

Electromagnetic Perturbations”, S.A. Teukolsky,

(Phys. Rev. Lett. 29, 1114-1118 (1972))

10. 平成24年7月17日 報告者:松崎 真也,

“Understanding an “evidence/discovery” of a Higgs boson at LHC”

11. 平成24年9月25日 報告者:松崎 真也,

“125 GeV Techni-dilaton at the LHC”, S. Matsuzaki and K. Yamawaki,

(arXiv:1207.5911 [hep-ph])

12. 平成24年10月26日 報告者:酒谷 雄峰,

“Rotating Rindler-AdS space”, M. Parikh, P. Samantray and E. Verlinde,

(Phys. Rev. D 86, 024005 (2012))

13. 平成25年1月23日 報告者:荒木 威,

“Constraints on Cosmology from the Cosmic Microwave Background Power

Spectrum of the 2500-square degree SPT-SZ Survey”, Z. Hou et al.,

(arXiv:1212.6267 [astro-ph.CO])

14. 平成25年1月30日 報告者:梅津 光一郎,

“Experimental demonstration of a universally valid error-disturbance un-

certainty relation in spin-measurements”, J. Erhart et al.,

(arXiv:1201.1833 [quant-ph])

15. 平成25年2月2日 報告者:石田 裕之,

“Freeze-In Production of FIMP Dark Matter”, L.J. Hall et al.,

(arXiv:0911.1120 [hep-ph])

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16. 平成25年2月6日 報告者:松崎 真也,

“ “Super”-Dilatation Symmetry of the Top-Higgs System”, C.T. Hill,

(arXiv:1211.2773 [hep-ph])

2.4 原著論文等1. Analysis of techni-dilaton as a dark matter candidate,

Ki-Young Choi, Deog Ki Hong and Shinya Matsuzaki,

JHEP 1212 (2012) 059 (arXiv:1201.4988[hep-ph]).

2. Techni-dilaton at 125 GeV,

Shinya Matsuzaki and Koichi Yamawaki,

Phys.Rev. D85 095020 (2012) (arXiv:1201.4722[hep-ph]).

3. Searching for New Physics beyond the Standard Model in Electric

Dipole Moment ,

Takeshi Fukuyama ,

Int.J.Mod.Phys. A27 (2012) 1230015 (arXiv:1201.4252[hep-ph]).

4. Yukawaon Model with U(3)×S3 Family Symmetries,

Yoshio Koide and Hiroyuki Nishiura,

Phys. Lett. B712 (2012) 396-400 (arXiv:1202.5815[hep-ph]).

5. Family Gauge Bosons with an Inverted Mass Hierarchy,

Yoshio Koide and Toshifumi Yamashita,

Phys. Lett. B711 (2012) 384-389 (arXiv:1203.2028 [hep-ph]).

6. Algebraic description of external and internal attributes of fun-

damental fermions,

Ikuo S. Sogami ,

J. Phys. : Conf. Ser. 343; 012113 (2012) (arXiv:1106.3229[hep-ph]).

7. Discovering 125 GeV techni-dilaton at LHC,

Shinya Matsuzaki and Koichi Yamawaki,

Phys. Rev. D86, 035025 (2012) (arXiv:1206.6703[hep-ph]).

8. Conformal higher-order viscoelastic fluid mechanics,

Masafumi Fukuma and Yuho Sakatani,

JHEP 1206 (2012) 102 (arXiv:1204.6288[hep-th]).

9. Rotating string in doubled geometry with generalized isometries,

Toru Kikuchi, Takashi Okada and Yuho Sakatani,

Phys. Rev. D86, 046001 (2012) (arXiv:1205.5549[hep-th]).

22

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10. Family Gauge Bosons with an Inverted Mass Hierarchy,

Yoshio Koide and Todhifumi Yamashita,

AIP Conf. Proc. 1467 (2012) 15-20 (arXiv:1207.2308 [hep-ph]).

11. Walking techni-pions at LHC,

Junji Jia, Shinya Matsuzaki and Koichi Yamawaki,

Phys. Rev. D87 (2013) 016006 (arXiv:1207.0735[hep-ph]).

12. Minimal SO(10) GUT in 4D and its extension to 5D,

Takeshi Fukuyama,

AIP Conf. Proc. 1467 (2012) 69-75 (arXiv:1207.3098[hep-ph]).

13. No-go theorms and GUT,

Takeshi Fukuyama,

AIP Conf. Proc. 1467 (2012) 4-6 (arXiv:1207.3851[hep-ph]).

14. Is 125 GeV techni-dilaton found at LHC?,

Shinya Matsuzaki and Koichi Yamawaki,

Phys. Lett. B719 (2013) 378-382 (arXiv:1207.5911[hep-ph]).

15. Photon structure functions with heavy particle mass effects,

Tsuneo Uematsu, (arXiv:1208.3308[hep-ph]).

16. Holographic techni-dilaton at 125 GeV,

Shinya Matsuzaki and Koichi Yamawaki,

Phys. Rev. D86 (2012) 115004 (arXiv:1209.2017[hep-ph]).

17. Deviations from the e-μ-τ Universality and Family Gauge Bosons

with a Visible Energy Scale,

Yoshio Koide,

Eur. Phys. J. C73 (2013) 2277 (arXiv:1209.1275[hep-ph]).

18. Can mass of the lightest family gauge boson be of the order of

TeV?,

Yoshio Koide and Hiroyuki Nishiura,

Phys. Rev. D87 (2013) 016016 (arXiv:1209.1694[hep-ph]).

19. Neutrino Mass Matrix Model with a Bilinear Form,

Yoshio Koide and Hiroyuki Nishiura, (arXiv:1301.4312[hep-ph]).

20. Aspects of universally valid Heisenberg uncertainty relation,

Kazuo Fujikawa and Koichiro Umetsu,

PTEP 2013, 013A03 (2013) (arXiv:1211.1828 [quant-ph]).

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2. Ikuo S. Sogami, “Long-range Attractive Tail of Colloidal Interaction: Keynote

Speech”,

International Association of Colloid and Interface Scientists (IACIS 2012),

May 13–18, 2012, Sendai, Japan.

3. Shinya Matsuzaki,“125 GeV Techni-dilaton at LHC”,

APCTP focus program, “Holography at LHC”, Aug.1–10, 2012, Pohang,

Korea.

4. Shinya Matsuzaki,“125 GeV Techni-dilaton at the LHC”,

“Nagoya University, E-ken Summer School 2012”, Sept.5, 2012, Fukui,

Japan.

5. Takeshi Araki, “A flavor model for the νMSM”, “Japanese-German Sym-

posium on Neutrino, Dark Matter, Higgs and beyond the Standard Model”,

Kanazawa University, Oct.1–3, 2012, Ishikawa, Japan.

6. Hiroyuki Ishida, “Possibility of 1-2 Degenerate Model for Fermion Flavour

Structure”,

“Japanese-German Symposium”, Kanazawa University, Oct.1–3, 2012, Ishikawa,

Japan.

7. Shinya Matsuzaki,“125 GeV Techni-dilaton at the LHC”,

“Frontiers beyond the standard model III”, Oct.11–13, 2012, Minneapolis,

Minnesota, U.S.A..

8. Shinya Matsuzaki,“125 GeV Techni-dilaton at the LHC”,

“Lattice Meets Experimet 2012: Beyond the Standard Model”, Oct.26–17,

2012, Boulder, Colorado, U.S.A..

9. Takeshi Araki, “Flavor Models for the νMSM”,

“The 3rd International Workshop on Dark Matter, Dark Energy and Matter-

antimatter Asymmetry”, National Tsing-Hua University, Dec.28–31, 2012,

Hsinchu, Taiwan.

10. Takeshi Fukuyama, “Searching for New Physics beyond the Standard Model

in Electric Dipole Moment”,

Workshop of Program on CP Violation in Elementary Particles and Com-

posite Systems (PCPV 2013), Feb.19–23, 2013, Maharashtra, India.

《国際会議における発表》

1. Tsuneo Uematsu, “Photon structure functions with heavy particle mass

effects”

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16th International Conference in Quantum ChromoDynamics,

Jul. 2–6, 2012, Montpellier, France.

2. Ikuo S. Sogami, “Multi-Spinor Field Theory of Fundamental Fermions”

Quantum Chromodynamics: History and Prospects

Sept.3, 2012, Oberwolz, Austria.

3. Shinya Matsuzaki,“125 GeV Techni-dilaton at the LHC”,

“Higgs Coupling 2012”, Nov.18–20, 2012, Tokyo, Japan.

4. Shinya Matsuzaki, “125 GeV Techni-dilaton at the LHC”,

KMI-GCOE Workshop on “Strong Coupling Gauge Theories in the LHC

Perspective (SCGT 12)”, Dec.4–7, 2012, Nagoya, Japan.

5. Akihiro Nishiyama, “Kadanoff-Baym Approach to Thermalization of Quan-

tum Fields”,

29th Winter Workshop on Nuclear Dynamics, Feb.3–10, 2013, California,

U.S.A..

6. Ikuo S. Sogami, “Kikuchi-Kossel Analysis of Colloidal Crystals”

International Topical Team Meeting on Crystal Growth, Colloidal Crystal-

lization and Protein Crystal Growth,

Mar.3–5, 2013, Sendai, Japan.

《国内研究会における発表》

1. 酒谷 雄峰,“Rotating string in doubled geometry with generalized isome-

tries”

京都大学基礎物理学研究所研究会 「場の理論と弦理論」,京都大学,2012

年 7月 23–27日

2. 西山 陽大,“Equilibration of Scalar Fields in an Expanding System”,

京都大学基礎物理学研究所研究会「熱場の量子論とその応用」,京都大学,2012年 7月 23–27日

3. 松崎 真也,“125 GeV Techni-dilaton at the LHC”,

“LHC workshop”, 東京大学,2012年 9月 17–18日

4. 荒木 威,「第 1, 2世代フェルミオン間の質量縮退から探る世代構造の謎」,

日大理工・益川塾連携 素粒子物理学シンポジウム, 京都産業大学,2012年 11月 2–3日

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5. 松崎 真也,“125 GeV Techni-dilaton at the LHC”,

日大理工・益川塾連携素粒子物理学シンポジウム, 京都産業大学,2012年 11月 2–3日

6. 曽我見 郁夫,「多重スピノール場に基づく標準模型の拡大: 左右ねじれ模型」日大理工・益川塾連携 素粒子物理学シンポジウム, 京都産業大学,2012年 11月 2–3日

7. 植松 恒夫,“Axial anomaly and two-photon processes”

日大理工・益川塾連携 素粒子物理学シンポジウム, 京都産業大学,2012年 11月 2–3日

8. 小出 義夫,“逆階層質量を持ったファミリー・ゲージボゾンの現象論”

日大理工・益川塾連携 素粒子物理学シンポジウム, 京都産業大学,2012年 11月 2–3日

9. 高杉 英一,“二重ベータ崩壊の展望”

日大理工・益川塾連携 素粒子物理学シンポジウム, 京都産業大学,2012年 11月 2–3日

10. 福山 武志,“LHCと SO(10) GUT”

日大理工・益川塾連携 素粒子物理学シンポジウム, 京都産業大学,2012年 11月 2–3日

11. 酒谷 雄峰,“Relativistic viscoelastic fluid mechanics”

Workshop「エキゾチック時空幾何とその応用」,理化学研究所,2013年 2

月 23日

12. 酒谷 雄峰,「時間依存するハミルトニアンを持つ系の真空期待値」KEK理論研究会 2013,KEK, 2013年 3月 18–21日

《他大学・他の研究機関におけるセミナー講演》

1. Yoshio Koide, “Quark and Lepton Mass Matrices given by a Bilinear Form

of a Fundamental VEV Matrices Φ0”, NCTS, May 1, 2012, Hsinchu, Taiwan.

2. Yoshio Koide, “Charged Lepton Mass Formula and its Related Topics”,

NTU, May 7, 2012, Taipei, Taiwan.

3. 石田 裕之, “Baryogenesis via Right-handed Neutrino Oscillation in the νMSM”,

京都大学, 2012年 5月

4. 石田 裕之, “Baryogenesis via Right-handed Neutrino Oscillation in the νMSM”,

日本大学, 2012年 6月

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5. 石田 裕之, “Baryogenesis via Right-handed Neutrino Oscillation in the νMSM”,

神戸大学, 2012年 6月

6. 石田 裕之, “Baryogenesis via Right-handed Neutrino Oscillation in the νMSM”,

富山大学, 2012年 6月

7. 酒谷 雄峰,“Conformal higher-order viscoelastic fluid mechanics”

日本大学,2012年 6月 20日

8. 石田 裕之, “Baryogenesis via Right-handed Neutrino Oscillation in the νMSM”,

金沢大学, 2012年 7月

9. 荒木 威, “Corrections to Leptonic Mixing Matrix and Non-zero θ13”,

神戸大学, 2012年 7月 2日

10. 曽我見 郁夫,「基本フェルミオンの多重スピノール場の理論: L-R捻じれ模型」工学院大学,2012年 10月 15日

11. 荒木 威,“Flavor Symmetry Breaking via Quantum Corrections and a large

θ13”, 日本大学, 2012年 10月 17日

12. Shinya Matsuzaki, “125 GeV Techni-dilaton at the LHC”,

Seminar at Michigan State University, Oct.25, 2012, Michigan, U.S.A..

13. 松崎 真也,“125 GeV Techni-dilaton at the LHC”,

京都大学, 2012年 11月 28日

14. 松崎 真也,“125 GeV Techni-dilaton at the LHC”,

東京大学駒場キャンパス,2012年 12月 19日

15. 西山 陽大,“Kadanoff Baym Theory for Thermalization of Quantum Fields”,

京都大学,2012年 12月 21日

16. 福山 武志,「Diamagnetic Atomの EDMの問題点」,

東京工業大学,2012年 12月 21日

17. 松崎 真也, “125 GeV Techni-dilaton at the LHC”,

筑波大学, 2013年 1月 11日

18. Ikuo S. Sogami, “Multi-spinor Field Theory for Extended Standard Model:

Bright World versus Dark World”

Particle and Astrophysics Colloqium at Barcelona University, Feb. 4, 2013,

Barcelona, Spain.

19. Shinya Matsuzaki, “125 GeV Techni-dilaton at the LHC”,

Seminar at University of California, San Diego, Mar.18, 2013, San Diego,

U.S.A..

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《学会一般講演》

1. 荒木 威, ◦石田 裕之, “CP Violation in Neutrino Sector and Leptogenesis”,

日本物理学会 2012年秋季大会, 京都産業大学,2012年 9月

2. ◦酒谷 雄峰,菊池 徹,岡田 崇,“Rotating string in doubled geometry with

generalized isometries”

日本物理学会 2012年秋季大会 ,京都産業大学,2012年 9月

3. ◦西山 陽大,八田 佳孝,“Nonequilibrium Field Theoretical Approach in

Expanding Systems”

日本物理学会 2012年秋季大会 ,京都産業大学,2012年 9月

4. 小出 義夫,◦ 西浦 宏幸,「内部対称性をもつ基本ユカワオンで記述されたクォーク・レプトン統一質量行列模型」日本物理学会 2012年秋季大会 ,京都産業大学,2012年 9月

5. ◦梅津 光一郎,“Effective theory of matter field near the event horizon”, 日本物理学会 2012年秋季大会 ,京都産業大学,2012年 9月

6. 石田 裕之, ◦小出 義夫, “e-μ universality puzzle in B → K�+�− and a family

gauge symmetry I”, 日本物理学会第 68回年次大会, 広島大学, 2013年 3月

7. ◦石田 裕之,小出 義夫, “e-μ universality puzzle in B → K�+�− and a family

gauge symmetry II”, 日本物理学会第 68回年次大会, 広島大学, 2013年 3月

8. ◦酒谷 雄峰,杉下 宗太郎,福間 将文,「非定常時空上の Green関数について」,日本物理学会第 68回年次大会,広島大学,2013年 3月

9. ◦西山 陽大,“Thermalization of Gluonic Matter”, 日本物理学会第 68回年次大会,広島大学,2013年 3月

10. ◦渡辺則之,栗原良将,植松 恒夫,佐々木賢,「2光子過程におけるヒッグス粒子生成と transition form factor」,日本物理学会第 68回年次大会,広島大学,2013年 3月

11. 小出 義夫,◦ 西浦 宏幸,「二重シーソータイプのニュートリノ質量行列模型」,日本物理学会第 68回年次大会,広島大学,2013年 3月

12. 藤川 和男,◦梅津 光一郎,“Aspects of universally valid Heisenberg uncer-

tainty relation”, 日本物理学会第 68回年次大会,広島大学,2013年 3月

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2.6 外部資金等の獲得1. 曽我見 郁夫,「フレーバーの起源とゲージ対称性の研究」科学研究費補助金(基盤研究 S-課題番号 2224003-分担)

2. 曽我見 郁夫,「レーザー光回折による微小重力下でのコロイド結晶も構造解析と粒子間相互作用の研究」「きぼう」船内実験室利用第2期の採択テーマ(09宇航環利 0323001-代表)

3. 植松 恒夫,「エネルギー・フロンティアの物理と量子色力学の摂動論的手法」科学研究費補助金(基盤研究C-課題番号 22540276-代表)

4. 高杉 英一,「科学的体験を重視した新理科教育プログラムおよび指導法の研究」,科学研究費補助金(基盤研究C-課題番号 22500810-分担)

5. 福山 武志,「次世代標準模型の構成ー SUSY SO(10) GUT」,科学研究費補助金(基盤研究C-課題番号 20540282-代表)

2.7 その他の業績• Takeshi Fukuyama and Rabindra N. Mohapatra, (Editors) GUT2012 Pro-

ceedings, AIP Conf. Proc. 1467 (2012) 312.

• 原 哲也,和合 孝倫,由比 庸平,梶浦 大吾,「自己重力系のエントロピーについて」, 京都産業大学論集,自然科学系,第 41号,2012年 3月

• Koichiro Umetsu, “Effective Theory of Matter Field near the Event Hori-

zon”, Chapter 1 in Black Holes: Evolution, Theory and Thermodynamics,

Nova Science Publishers Inc., Jul. 5, 2012.

• 梅津 光一郎,京都 Radio「アカデミック・カフェ」出演,2012年 9月 4日

• 日本物理学会 2012年秋季大会 実行委員  2012年 9月 11–15日原 哲也(委員長),三好 蕃(副委員長),外山 政文,小出 義夫,梅津 光一郎,荒木 威,石田 裕之,酒谷 雄峰,松崎 真也,西山 陽大

• 小谷 恒之,高杉 英一,土井 勝,西浦 宏幸,第 12回素粒子メダル受賞,「マヨラナニュートリノのCP位相に関する研究」,2012年 9月 13日

• 曽我見 郁夫,「湯川先生の着想からヒッグス粒子まで」京都産業大学土曜講座(京都市教育委員会協賛),京都産業大学むすびわざ館,2012年 10月 20日

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• 高杉 英一,「小柴博士・南部博士の人となり」京都産業大学土曜講座(京都市教育委員会協賛),京都産業大学むすびわざ館,2013年 3月 2日

• 酒谷 雄峰, “Rotating string in doubled geometry with generalized isome-

tries”,素粒子論研究・電子版 Vol. 13 (2012) No. 2.

• 荒木 威,“Flavor puzzles and partial mass-degeneracy”

素粒子論研究・電子版 Vol. 15 (2013) No. 1.

• 松崎 真也,“125Gev Techni-dilaton at the LHC”

素粒子論研究・電子版 Vol. 15 (2013) No. 1.

• 曽我見 郁夫,“多重スピノール場に基づく標準模型の拡大”

素粒子論研究・電子版 Vol. 15 (2013) No. 1.

• 植松 恒夫,“Axial anomaly and two-photon processes”

素粒子論研究・電子版 Vol. 15 (2013) No. 1.

• 小出 義夫,“逆階層質量をもったファミリー・ゲージ・ボゾンの現象論”

素粒子論研究・電子版 Vol. 15 (2013) No. 1.

• 高杉 英一,“二重ベータ崩壊の展望”

素粒子論研究・電子版 Vol. 15 (2013) No. 1.

• 福山 武志,“LHCと SO(10) GUT”

素粒子論研究・電子版 Vol. 15 (2013) No. 1.

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3 人文社会科学系の研究活動および研究業績

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3.1 人文社会科学系活動報告:個人研究本年度、人文社会科学系研究員が取り組んだ研究活動および研究について各研究員がまとめたものを以下に掲載する。

• 一谷 耕 (Koh Ichitani)

過疎化・少子高齢化の進行により集落の自治機能が急速に低下し、社会的共同生活の維持が困難な集落も増加している。地域再生策や地域振興策が立案されてはいるが、自治機能が停滞している集落では対策を受け入れることができない集落も数多く存在する。しかし、その中でも集落再生を成し遂げた集落は多く存在することを踏まえ、集落再生の成功例を分析する事により、地域差の枠を超えたさまざまな集落に対応できる集落再生策の提言を行うことを目的とし、研究を進めた結果、以下の点を明らかにする事ができた。

集落再生の成功例の多くの集落では住民自らが主体となり、集落の課題、集落の持つ力を見直し、活路を見出したことが集落の再生に繋がったということである。この集落を見つめ直すという行動が集落の維持・再生の基礎となっている。集落の自治機能が低下している集落においても、集落に住む住民が集落の現状、課題、強み、弱み、地域資源、先人が残してきた生活の知恵を改めて見つめ直すことが今まで見えなかった、集落の魅力や課題を認識する有効な手法であると考えられる。この結果を踏まえ、再度集落のあり方を集落住民が再考していくことこそが集落の維持・再生の第一歩になる。また、集落の維持・再生において重要とされるのは、住民が主体となった集落の考察だけでなく、行政が主体となった総合計画も欠かす事ができない。上記で述べた集落の魅力や課題を市町村の総合計画に活かすことにより、集落の維持・再生はより現実的なものとなる。今後、過疎化・少子高齢化により、人口減少が進む地域は増加していく事が予想される。しかし、その集落すべてに歴史や先人の生きる知恵が息づいてきたことを、現代に生きる私たちが改めて見つめ直す事により、これからの集落維持・再生に活かせるのではないのだろうか。

また、最後になったが、本年度調査に伺ったほとんどの集落で、集落を取り囲むように獣害用の柵が張り巡らされており、獣害被害の深刻さを目の当たりにした。現在日本では獣害の被害額は年間でおおよそ 200億円、その 6割が獣類、4

割が鳥類によるものであり、獣類では 9割がイノシシ、サル、シカによるものである。この獣害の増加も、過疎化・少子高齢化による耕作放棄地の増加によるものとされている。

今後は益川塾の経験を糧に「限界集落」化が進む地域に住む人々の生活をいかに維持していくのかといった、生活基盤の確保に焦点をおき研究に取組んでいきたい。

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• 大森 惠子 (Keiko Omori)

「鷹の家・西園寺家と鷹ヶ峰 ―不動信仰を中心にしてー」

鎌倉幕府執権の北条氏と政治的な結び付きを強め絶大な権勢を誇った西園寺公経のころから、西園寺家は「鷹の家」であり、「琵琶の家」としても名を馳せていた。公経の後裔に当たる西園寺公衡は、鷹の家の習いは受け継ぐことができたと推定できる。『春日権現験記絵』は鎌倉時代後期に当たる延慶 2(1309)年に西園寺公衡によって、春日社に奉納された絵巻である。同絵巻には、「鷹狩りの鷹」を描写した部分が 2ヵ所存在し、第五巻第二段の絵である武士の手に留まる 1羽の鷹と、第十三巻第二段の絵である棒の上に留まった 2羽の鷹の姿である。これらの絵の有様によって公衡は、西園寺家が鷹の家であることを公然と明示したと考えられる。本研究では西園寺境内の不動堂を中心に取り上げ、西園寺家は不動尊に何を祈願してきたのか、この点を明らかにすることを試みた。

日本の仏像や絵画を見ると、古代においては鷹の鳥頭人身(迦楼羅天)の面や像が存在し、中世には山岳修験に関わる天狗の姿として鷹の鳥頭人身が描かれるようになった。一方では、火の神・山の神・太陽神・水の神の象徴として、飯綱権現像(鷹の鳥頭人身像)が山岳霊山の堂内に安置されるようになった。山岳霊山の縁起に記述された鷹に注目する。富山県の立山に伝わる「立山宝(峰)宮和光大権現縁起」によれば、古来、白鷹は神のもとに人を導く鳥として尊ばれ,不動明王の化身動物とされ、立山において鷹は不動明王そのものと信じられていたことが分かる。九州の豊前に位置する彦山にも同様の宗教観念が存在し、建保元(1213)年 7月に書き留められた「彦山流記」に記述がある。同縁起は、彦山の山神・水神の化身として鷹が出現したとし、鷹は宝池の主ではなく、「小鳥王」であると説いている。さらに、元亀 3(1572)年に記された「鎮西彦山縁起」には、3羽の鷹による介護の結果、白鹿は生き還り姿を消してしまった有様を見た恒雄は、鷹も鹿も彦山の霊神が変化し出現したものであろうと、判断したとある。つまり、鷹は山の神そのものと信じられたのである。

中世において、このような神仏習合思想が存在したことは、鷹の家である西園寺家の氏寺であった西園寺の伽藍配置からも窺い知ることができ、『増鏡』に「池のほとりに妙音堂、たきのもとには不動尊」と、『明月記』にも「北山不動愛染王奉造被安置各有一堂」と記載がある。現在なお鹿苑寺境内の不動堂内の石窟(旧・西園寺境内)のなかに、西園寺時代の遺構を保ったままで石造の不動明王像が存在している(鈴木久男編著『鹿苑寺境内不動堂石室調査報告書』参照)。『増鏡』に「生身の明王」と記された木造不動明王像は、相国寺境内の承天閣美術館に安置されている。

石不動尊が安置されている不動堂の背後の山が不動山で不動石があり、その峰続きに「鷹ヶ峯」が存在する状況は、正保 2(1645)年に作成された「北山鹿苑寺境内図」からも窺い知るとこができる。鷹ヶ峰は、古代には猟遊の地とされた栗栖野郷の西北にあたる山である。伝承では、毎年鷹が山に来て雛を生んで育てた

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ので、その山を鷹ヶ峰と称したという(『京都市の地名』参照)。

このように西園寺家は、西園寺境内の不動尊に「鷹の家」としての家職守護を願ったと考えられる。石不動尊は山の神・鷹の神・水の神・厄除け神・戦勝の神でもある、とする宗教観念の存在が推定でき、鷹狩りを守護する仏として足利義満も祀り継いだといえよう。

今後は、論文を執筆し学会の会誌に投稿する、準備を開始したい。

紀要論文

• 大森惠子,「愛宕山の修験道 ―火・水と山の念仏を中心にして―」『山岳修験』第 50号,pp.36~48,平成 24年 8月

学会での講演

• 大森惠子,「鎮魂と御霊」日本宗教民俗学会 4月例会,大谷大学,平成 24年 4月

• 大森惠子,「獅子舞と鎮魂」日本宗教民俗学会 第 22回年会大会 シンポジウム「鎮魂と供養」,大谷大学,平成 24年 6月

• 大森惠子,「中世における西園寺家の山岳信仰 ―不動信仰を中心にして―」日本山岳修験学会 大峰山学術大会,大峰山洞川中学校講堂,平成 24年 9月

• 大森惠子,「河川掌握と川の神・水の神の祭祀形態の考察 ―中世の西園寺家とその遺跡を中心にして―」日本民俗学会 第 64回年会大会,東京学芸大学,平成 24年 10月

• 大森惠子,「白山における泰澄伝承」説話・伝承学会 地域大会 シンポジウム「白山信仰」,郡上市民センター文化ホール,平成 25年 1月

市民講演等

• 大森惠子,「但馬の民俗芸能 ―獅子舞の風流化を中心にしてー」但馬ふるさとひとづくり大学 第 4回講座,兵庫県立但馬長寿の郷,平成 24

年 7月

• 大森惠子,「弁財天の世界 ―乙姫と女人往生を中心にして―」「俗・民俗学は面白い」第 8回講座,佛教大学四条センター,平成 24年 11月

• 大森惠子,「天狗信仰と能」国立能楽堂公開講座,国立能楽堂大講義室,平成 24年 12月

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• 大森惠子,「稲荷信仰の霊験譚と能楽」国立能楽堂公開講座,国立能楽堂大講義室,平成 25年 1月

• 大森惠子,「西園寺の妙音天と琵琶の伝授」京都産業大学 益川塾 第 5回シンポジウム「西園寺(北山殿)の仏たち」,京都産業大学 むすびわざ館,平成 25年 3月

外部資金等の獲得

• 大森惠子,「絵巻物と山岳霊場縁起のなかの鷹」『鷹書類の調査と研究』平成 20年~平成 23年度 科学研究費補助金 基礎研究 (C) 研究成果報告書 所収 平成 24年 3月 (総頁数 71頁、該当頁数 9頁)

• 倉部 健治 (Kurabe Kenji)はじめに 4月5月の定例研究会で、曽我見郁夫副塾頭からテーマを「大きく彫琢」するようにとの指南があり、鈴木久男教授からは「堀川の視点」という示唆があたえられた。京都二尊院の仁斎墓参から研究の一歩をはじめた。

I 堀川塾の流系 伊藤(源七)仁斎は寛永四(1627)年、京都の堀川通勘解由小路上ル町(現・京都市上京区下立売上る東側四丁目)に生まれた。その後、寛文二(1662)年に、同地に古義堂(堀川塾)を開いた。「近世京都」の原型形成期であった。(『伊藤仁斎』石田一良)6月、京都府立大の上杉和央准教授の助言をいただき、「堀川」を基軸に置いた『都記』を初見し、仁斎の母の祖父にあたる連歌師里村紹巴の朱筆記入を見つけることができた。

II 古学の真意 朱子学との格闘の中から「日本儒学」の創発へとその思想形成を挑んだ思想史の研究成果は少なくない。宮川康子教授の『伊藤仁斎の学問と教育』(加藤仁平)を入手できた。仁斎学の核にあたる場に「水哉閣」・「同志会」がある。そこに生まれた「古義堂」に多くの門人が集まった。「伊藤仁斎の門人帳」(植谷元)という研究がある。天理大学図書館には、5~6月に三日間通い、懇切丁寧なガイドをえて、門人動向の分析を始めた。

III 町衆の意欲 仁斎の思想形成において「京都町衆」の果たした役割は大きい。『京都の歴史-5近世京都の確立』、『京都町衆 伊藤仁斎の思想形成』(三宅正彦)などがある。「京都町衆の生活規範」などのテーマが追及されている。京都市歴史資料館の伊東宗裕氏の助言で『京羽二重』などを使用しながら、「京洛の諸職・生業地図」の作成に取りかかることができた。さらに、矢野道男教授より、仁斎学と「貞享暦」を作った渋川春海の学風を結んでみるよう示唆があった。仁斎の「生活地図」「生活年表」の作成の方向が見えてきた。

IV 童子問の方向 仁斎思想の歴史研究に沿いながらも、仁斎学の「学びの方法」を探求するのが主眼である。童子の率直な質問に懸命に答えようとする「問

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答」という方法。『童子問』の冒頭に記す“「古」は「邇」。”という方法。そのほか、「忠恕」「血脈と意味」、「四端」「卑近」、「他者」「公共」など、仁斎の方法を探る「キーワード」が浮かびあがってきた。宮川教授の指導で、伊藤仁斎『童子問』清水茂校注(岩波文庫)を「現代語」で読む会を1月に始めた。

V 詩歌の習合 仁斎の漢詩(『古学先生詩集』の中には「堀川百題」の七言絶句四十一首が載っている)の構成にみられる「和習」の方法は、『論語』の「恕」の解釈にもあったとする大谷雅夫氏(「伊藤仁斎の詩歌と学問」)の指摘に注目したい。さらに、仁斎にとって、詩歌もまた日ごろの学問のうちであり、自らの思想を意識化する「活物直感」の方法の一つであったとする大谷氏の推察もる。今後、仁斎の『和歌集』の考察にもおよびたい。

• 西 いおり (Iori Nishi)

ここ数年、京の俳諧と江戸の俳諧を註釈する機会に恵まれ、自分なりに風土、つまり土地柄が俳諧の特徴を表現し、その内容の大きな相違に気付かされた。今年度は、その中で京の文芸特徴の更なる深い追求を試みるため、雛屋立圃という人物の動向を考察してみた。雛屋立圃の本名は、野々口立圃といい、家業が雛人形作りを商いとしていたために呼ばれた呼称である。絵画を得意とし、自筆といわれている資料は極めて多く貞門期の俳人の中で類をみない程である。その殆どが立派な巻子本であり、床飾り用の掛け軸である。但し、偽物が多く出回る程であり注意が必要であるものの、立圃の書画は当時の人々に人気があったと言える。その背景には、平和な江戸時代に入り、人々は来世に幸福を求めるのではなく、今生きているこの世がよければよいという現世利益の七福神信仰が流行り、立圃はユーモラスな七福神の書画を描き人気を博したのである。立圃のその書画の流れは、寛永文化の潮流を汲むもので、寛永頃から始まった古典文学をパロディー化の風潮に発想を得て創作されたものである。そこで寛永文化との関係について考えてみた。そして『隔蓂記』を手掛かりにし、立圃の動きを辿ってみたところ、慶安元年四月二十四日に、鹿苑寺に鳳林承章を訪ねていること初見とし、十七カ所の記述が確認できる。鳳林承章が住職を勤めていた鹿苑寺は、当時和漢連句や俳諧の会、古典の講義など様々催されていて、公家・僧侶・医師・町衆が集う文化人交流のサロンになっていた。立圃が鳳林承章の文化サロンを訪ねたのは、五十一歳の時で晩年といってよい年齢であるが、鳳林承章との雅交は以後十四年に及んだ。慶安元年七月二十三日には「十七番発句合」について終日鳳林承章と語り合い、山本友我を交えて俳諧を楽しんでいることが記されている。友我は絵を御水尾院の叡覧に供する程の画家であり、立圃と友我は早くからの友人の関係にあったといわれている。また翌年十二月二十三日には、岩倉具起邸で催された俳諧に鳳林承章に伴って参加しているが、具起は権中納言従二位に叙せられた公家であって、文事を能くし立圃の作品のよき理解者であった。兎も角『隔蓂記』には、立圃が鹿苑寺の文化サロンに参加して当時の京都の公家公卿及び町衆の文化人と雅交を重ねていた様子が細かく記されている。立圃五十七歳の慶安四年の時、福

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沙(砂)を混ぜる』とした。これにより、度量衡にて重量換算した 5%及び 10%の砂を添加したものを焼成し、砂を添加しないのものとの比較を行った。

前述のように、出土塼は塊状態での剥離痕があり、成形は型に対して粘土の塊を押しつけて行ったと判断することで、型を用いた成形方法をとることとした。型の形状は、脱型の際 4方向で分解できるものと 1方向のみ分解できるものの 2

種類の分解式木型を作製した(図 1)。

脱型の際、粘土と型が密着しないように布を用いて両者を隔てた可能性がある。今回は布を用いた場合と用いない場合の 2通りを実施することとした。

III 製造

10月上旬から 11月下旬にかけ、原料の調合、成形、乾燥、焼成を実施した。そして、砂無添加、5%添加、10%添加の 3種類の瓦をそれぞれ 10個程度得た。

IV 考察

上記の製造工程における乾燥の過程で、出土遺物に近い形(逆台形)が自然に生まれることを確認した。これにより当時の成形方法も型による成形が行われたことが確信できた。布を用いたものは、用いなかったものよりも脱型が容易だった。これにより、効率よく脱型を行うために当時も布が使われたと思われる。また、布を用いたものは、1方向分解型、4方向分解型とも容易に脱型ができたため、短時間で型の準備ができる 1方向型が主に使用されたと考えられる。また、砂を混ぜたものは、砂を混ぜなかったものに対し、収縮やそりの発生を小さくおさえることができた。砂添加の主目的は、強度不足を補うことであったと思われるが、焼成収縮による寸法バラツキの減少や、そりの発生防止と、そのバラツキ防止にも効果があることがわかった。つまり、砂の粘土への添加は、高い寸法精度が要求される敷瓦としての品質を高める効果があったと思われる。

V まとめ

今回の再現焼成を通じて、平安時代初期の塼(敷瓦)について、製造方法のひとつを再現することができた。これによって、平安時代初期における塼の製造は、現代と同じように良品を効率よく作りたいという努力がなされていたことが判明した。

図 1 左より、完成した塼、成形木型(1方向分解)、成形木型(4方向分解)

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原著論文

• 小林一彦,「王朝の女流歌人 ―御文庫の典籍から― (五)出羽弁」『しくれてい』120号,冷泉家時雨亭文庫,2012年 4月

• 小林一彦,「王朝の女流歌人 ―御文庫の典籍から― (六)清少納言」『しくれてい』121号,冷泉家時雨亭文庫,2012年 7月

• 小林一彦,「王朝の女流歌人 ―御文庫の典籍から― (七)二条院讃岐」『しくれてい』122号,冷泉家時雨亭文庫,2012年 10月

• 小林一彦,「王朝の女流歌人 ―御文庫の典籍から― (八)伊勢大輔」『しくれてい』123号,冷泉家時雨亭文庫,2013年 1月

著書

• 小林一彦 他,「【善本とは何か─『明日香井和歌集』の場合」『中世文学と隣接諸学第 6巻 中世詩歌の本質と連関』,竹林舎,2012年 4

• 小林一彦他,「The Power of Poetic House Particularly Relation to the Reizei

/「歌の家」の力 ―冷泉家を中心に―」日英バイリンガル版『Waka Opening Up to the World Language Community

and Gender/世界へひらく和歌 言語共同体ジェンダー』,勉誠出版,2012

年 5月

• 小林一彦 他,「土左日記」『古典籍研究ガイダンス 王朝文学をよむために』,国文学研究資料館/笠間書院,2012年 6月

• 小林一彦,「コレクション日本歌人選 049 鴨長明と寂蓮」笠間書院,2012年 8月

• 小林一彦,「100分 de名著 方丈記」NHK出版,2012年 10月

• 小林一彦 他,「創立 40周年 特別展示「鴨長明とその時代 方丈記 800年記念」展示図録」大学共同利用機関法人人間文化研究機構国文学研究資料館,2012年 5月

• 小林一彦 他,「鴨長明方丈と賀茂御祖神社式年遷宮資料展展示図録」下鴨神社,2012年 10月

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国内研究会における招待講演

• 小林一彦,「鴨長明とその時代 ―武家勢力台頭の中で―」方丈記 800年委員会第1回総会講演,下鴨神社参集殿,2012年 4月 26日

• 小林一彦,「平清盛とその時代」第 43回日本和装師会研修会,京都市勧業館みやこめっせ,2012年 7月 8日

• 小林一彦,「古今和歌集の享受 ―日本人の感性と美意識―」香道志野流松隠会総会記念講演会,名古屋国際会議場,2013年 2月 24日

学会での講演

• 小林一彦, 「鴨長明の和歌を読む」中世文学会 春季全国大会,中央大学,2012年 5月 27日

国内研究会での講演

• 小林一彦, 「800年目の方丈記と鴨長明」京都産業大学日本文化研究所月例研究会,京都産業大学,2012年 6月 26日

市民講演等

• 小林一彦, 「鴨長明の人と作品 (1)『方丈記』とその周辺 ―争乱と災害の中で―」京都 SKY大学会講演会,京都新聞文化ホール,2012年 5月 8日

• 小林一彦「古典の世界―四季のうつろいの美しさも青春の挫折と悩みも―」京二中鳥羽講座,京都府立鳥羽高校講堂,2012年 6月 11日

• 小林一彦, 「引き算の生き方―『方丈記』に学ぶ(一)~(四)」(一)「天変地異と争乱の時代」,2012年 6月 20日(二)「無常の世を生きる」,2012年 6月 20日(三)「自分史としての魅力」,2012年 7月 11日(四)「鴨長明の実像にせまる」,2012年 7月 11日教養講座前期水曜講座,京都産業大学むすびわざ館、他 15件

外部的資金等の獲得

• 小林一彦,「私家集の書誌学・文献学による解析を通じて基底部から新しい和歌史を構築する」科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金 基盤研究C)

解説記事等

• 小林一彦,「「方丈記」関連書相次ぐ 世の無常 支持され続け800年」読売新聞東京本社朝刊,2012年 5月 1日

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• 小林一彦,「文楽を守れ! ―132氏からの熱いメッセージ/劇場で泣きたい」上方芸能 184号,2012年 6月

• 小林一彦,「方丈記 800年特集 いまに生きる方丈記の知恵/第一級のルポルタージュ」日本経済新聞大阪本社朝刊,2012年 9月 14日

• 小林一彦,「鴨長明『方丈記』800年/鬱屈した青春歌 尾崎豊に似る」産経新聞大阪本社夕刊,2012年 9月 20日

• 小林一彦,「方丈記 800年の輝き/究極のシンプル・ライフ/生き方のヒント ぎっしり」毎日新聞大阪本社朝刊,2012年 9月 28日

• 小林一彦,「方丈記、写本に新記述」京都新聞朝刊,2012年 11月 19日

• 小林一彦,「方丈記と鴨長明の世界/古典読む意味改めて」毎日新聞大阪本社朝刊,2012年 11月 20日

• 小林一彦,「日本人の忘れもの 24 人材育成/多元的な視点から問題を分析できる力を」京都新聞朝刊,2012年 12月 9日

• 小林一彦,「日本人の忘れもの記念フォーラム in京都 大切にしたい言葉と季節感/いま、発信する京都のこころ/美しい言葉は古典から」京都新聞朝刊,2013年 1月 25日

• 小林一彦,「@キャンパス「方丈記 現代に語る」指導教員コメント」京都新聞夕刊,2013年 2月 13日

その他の業績

• 小林一彦,NHK放送センターテレビ解説「Eテレ/ 100分 de名著 方丈記」第 1回「知られざる災害文学」2012年 10月 3日(再放送 10月 10日)第 2回「負け組 長明の人生」2012年 10月 10日(再放送 10月 17日)第 3回「捨ててつかんだ幸せ」2012年 10月 17日(再放送 10月 24日)第 4回「不安の時代をどう生きるか?」2012年 10月 24日(再放送 10月 31

日・11月 7日)

• 小林一彦,NHK京都放送局 テレビ解説「NHK京都スペシャル/今甦る 方丈記のメッセージ」京都地方 2012年 11月 29日(近畿地方再放送 2012年 12月 8日)

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• 小林一彦,NHK大阪放送局ラジオインタビュー「関西ラジオワイド/旬の人・時の人」2012年 10月 1日

• 志賀 浄邦 (Kiyokuni Shiga)

今年度は、昨年度からの継続分も含め、主に以下の4つの研究プロジェクトおよび研究活動に関わった。

I 個人研究

「仏教論理学とジャイナ教論理学の比較研究:アルチャタとジャイナ教徒の対立と相互交渉」科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金 若手研究B)

II 共同研究 1

「言語・思想・実践から見たアジアの文化交通と日本」(京都産業大学日本文化研究所・共同研究プロジェクト・宮川班)

III 共同研究 2

「グローバル化の中の国民統合と国際関係」(京都産業大学世界問題研究所・共同研究プロジェクト・インド担当)

III 共同研究 3

「PST研究会(仏教論理学に関する文献『集量論注 (Pramanasamuccayatika)』のサンスクリット写本を解読し校訂・翻訳を行う研究会)」(於龍谷大学)

上記のうち、個人研究としては (1)が主要なものとなるが、その概要は以下の通りである。仏教とジャイナ教は、成立当初から多くの共通点を有していたが、その中の一つとして論理性や合理性を重んじた点を挙げることができる。本研究の目的は、両学派が保持する論理学文献を比較・対照することにより、両者の論理学体系の共通点と相違点を明らかにすることである。特にジャイナ教説を知っていたと思われる仏教論理学者アルチャタを取り上げ、彼の思想的立場とジャイナ教論理学説の関係性を探ってみたい。また、後代の仏教徒にとって事物の瞬間的存在(刹那滅)論証を確立する際、最大の武器となる内遍充論をめぐる仏教徒とジャイナ教徒との思想的対立と相互交渉を文献学的に跡付けることを目指す。

(1)については、2012年 10月に行われたジャイナ教研究会において、「ジャイナ教諸論師とアルチャタの対立と相互交渉」というタイトルで研究発表を行った。(2)については、10月の月例研究会の際に「人間仏教:證厳法師と慈済会の実践」というタイトルで、台湾仏教の現状についての研究報告を行った。2013年 2月には、台湾仏教の現地調査のため、台湾・台北市および花蓮市を訪れる予定である。(3)については 12月の月例研究会の際に「近現代インドと B.R.アンベードカル」というタイトルで、インドにおけるカースト問題と仏教復興の動きについ

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京都伝統産業の記録作成:京都産業大学むすびわざ館ギャラリー第 3回企画展「京瓦の美~わざの継承と明日への挑戦~」開催に伴って鴟尾の再現製作の取材を 2012年 7月から 12月にかけて実施した。現在その再現記録を整理し,伝統産業の資料として記録保存するための作業を進めている。

著書

• 鈴木久男,「1973年発見の朱雀院掘立柱建物」『平安京と貴族の住まい』, 京都大学学術出版会, 2012年 6月

• 鈴木 久男,「発掘調査から見えてきた鳥羽離宮」『鳥羽離宮跡を訪ねて』, 京都創文社, 2012年 6月

学会での講演

• 鈴木久男, 「考古学からみた西園寺家北山殿と下鴨神社境内水辺の祭祀跡」中世文学会 平成 24年度秋季大会 公開シンポジウム,京都産業大学, 2012

年 10月 27日

市民講演等

• 鈴木久男, 「金閣寺成る」帝塚山大学 市民大学講座 第 279回, 2013年 1月 12日

外部的資金等の獲得

• 鈴木久男,「平安京の「居住と空間」分析」平成 24年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)(基盤研究C)

その他の業績

• 鈴木久男,「池の沢庭園と秀隣院庭園」滋賀県高島市教育委員会, 2012年 11月 4日

• 鈴木久男,「鳥羽離宮跡の発掘」京都市伏見区城南宮斎館, 2012年 11月 25日

• 宮川 康子 (Yasuko Miyagawa)

本年度の研究テーマは大きく次の3つになる。

I 歴史記述とナショナリズムー神無しの歴史は可能か

近世18世紀後半から、民間の知識人たちの中に歴史への関心が高まってくる。幕末の志士たちに影響を与えたといわれる頼山陽の『日本外史』も、大坂の町人学問所懐徳堂の中井履軒が書いた『通語』や中井竹山の『逸史』を下敷きにしてい

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る。特にこの二つの歴史記述は、懐徳堂の思想の大きな特徴である無鬼論(無神論)に貫かれた記述であり、近代啓蒙主義的な歴史記述を先取りするものであった。しかし幕末から明治にかけて、国学的考証主義や、水戸学の国体論が支配的になった結果、西洋歴史学を受容しつつも、日本の近代歴史学は神話的起源を復活させることになる。それは歴史記述が近代日本のナショナリズム形成と深く関わっていたからである。

『通語』、『逸史』は活字化もされておらず、現在全く読めないテキストとなってしまっている。それはこの二書が近代国民国家形成のための主要な歴史的ナラティブによって隠蔽されてしまったからに他ならない。私は 10年前からこの二書を読み下しにして復刻する作業を進めるとともに、近世 18世紀の歴史的ナラティブの多様性と、近代国民国家が要請する歴史の語りとの関係を明らかにしようと研究を進めてきた。来年度には『草茅の歴史家たちー神無しの歴史は可能か』としてその成果をまとめるつもりである。

II 戸坂潤『日本イデオロギー』の研究

第二次大戦の終戦 6日前に獄死した戸坂潤は、最後まで唯物論者として当時の全体主義的ナショナリズムに抵抗した哲学者であった。彼は当時の大学アカデミズムの哲学、歴史学が作り上げる日本主義的ナラティブを「日本イデオロギー」として徹底的に分析・批判した。彼はそれを学問の原始化、神学化であるという。彼の鋭い批判は上記の私の問題関心にとって極めて重要なものであり、研究成果の一部を叢書アレテイア 14「批評理論と社会理論 2」(御茶ノ水書房)に「戸坂潤と小林秀雄」としてまとめた。

III その他

科学研究費(挑戦的萌芽)では、頼山陽の女弟子である江馬細香の絵画と漢詩の研究に取り組んでいる。また懐徳堂周辺の知識人である上田秋成の言語論について、本学日本文化研究所と釜山大学校日本研究所の合同フォーラムで発表を行った。

• 伊東 史朗 (Shiro Ito)

本年度の研究課題は「平安・鎌倉時代における不動明王像の展開について」である。その内容は、平安時代後期(11世紀)から鎌倉時代(13世紀)にかけて不動明王像の図像的展開を、実作品の調査を踏まえながらたどるというものであった。

不動明王の図像は「大師御筆様」と「十九相観様」の二種に代表されるが、そのほかに僧侶の感得・意楽(インスピレイション)による部分的な変形の盛んに行われるのがこの期なので、その諸相を解明するのは重要な意義がある。

本研究では、年度当初に提出した計画書の通り、以下三件の調査を実施し、撮影した図版を購入することにより考察を加えた。

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I 神護寺明王堂不動明王像

明王堂は、空海が唐から帰国後まず入った神護寺において建立した堂宇のひとつ護摩堂のことで、そこに安置される不動明王像がどのような姿であるか興味がもたれた。調査の結果、空海が注目していた「十九相観様」の像容であり、その図像による最初期の造例であることが判明した。神護寺護摩堂の本尊だった不動明王像はすでに平安時代後期に寺外に出ており(高野山南院本尊=波切不動がそれに当たると思われる)、本像はその後身として 11世紀に改めて造立されたものである。今回の調査結果は、本年刊行の学術雑誌に報告する予定である。

II 戒光寺不動明王像

III 園城寺長日護摩堂不動明王像

II、IIIともに「大師御筆様」に属する不動明王像であるが、頭髪を巻髪にするなどその図像から部分的に外れる像容のあるのは僧侶の感得・意楽による変形である。しかも共通する変形なので、同じ感得・意楽によるものと推定され、また作風から考えて作者も同一ないし非常に近い者といえる。鎌倉時代前期(13世紀前半)におけるこのような関連のわかる作例はまれであり、重要な作品群と評価された。

以上三件の調査・研究を通して、この時期における不動明王像の図像的諸相は非常にバラエティに富んでいることが判明した。まだ未調査の重要作品は数多くあり、そのような研究意図によりさらに研究を進める必要性を痛感している。

原著論文

• 伊東史朗, 「愛染明王の信仰と造形」『調査報告 重要文化財 甚目寺愛染明王像』,甚目寺観音,2012年 11月

紀要論文

• 伊東史朗,「芝薬師(大興寺)十二神将(巳神将・午神将)像 ―鎌倉時代末院派仏師の一活動―」仏教芸術 323, 2012年 7月

• 伊東史朗,「百済寺十一面観音像について」国華 1407, 2013年 1月

著書、解説記事等

• 伊藤史朗,「仏像鑑賞のために(上・下)」中日新聞,平成 24年 11月 10日-17日

• 伊藤史朗,「近江の仏像・神像」秀明美術 19,秀明文化財団,2012年 11月

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市民講演等

• 伊藤史朗,「密教彫像の展開」和歌山県立博物館特別講演会,2012年 11月

• 伊藤史朗,「相ついで確認された西園寺の仏たち」京都産業大学益川塾第 5回シンポジウム『西園寺(北山殿)の仏たち』,京都産業大学むすびわざ館,2013年 3月

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3.2 人文社会科学系研究報告会および活動報告会の実施人文社会科学系では、下記のとおり研究報告会, 活動報告会が行われ、活発な意見交換および議論がなされた。

• 平成24年度益川塾人文社会科学系定例報告会• 第1回 平成24年  6月22日18時から  1号館4階研究室

• 第2回 平成24年 11月14日18時から  1号館4階研究室

• 第3回 平成24年 12月18日18時から  1号館4階研究室

• 第4回 平成25年  1月22日18時から  1号館4階研究室

• 第5回 平成25年  2月19日18時から  1号館4階研究室

• 平成24年度益川塾人文社会科学系研究会報告♦ 日時:平成25年3月22日 13時00分~

♦ 会場:京都産業大学1号館4階 談話室

1. 発表者: 一谷 耕「京都府の集落の再考察」

2. 発表者: 大森 惠子「鷹の家・西園寺家と鷹ヶ峰 ―不動信仰を中心にして―」

3. 発表者:倉部 健治「伊藤仁斎の古義堂」

4. 発表者:二村 盛寧「モノづくり的観点からみた敷瓦に関する考察」

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♦研究発表状況 (平成25年3月22日談話室)

発表者:一谷耕 研究員 発表者:大森惠子 研究員

発表者:倉部健治 研究員 発表者:二村盛寧 研究員

報告会の様子

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3.3 指導教授によるセミナーの実施下記のとおり、指導教授によるセミナーが行われた。

♦ 日時:平成24年5月18日 18時30分~

♦ 会場:京都産業大学1号館4階 談話室

♦ 講演者:鈴木 久男(京都産業大学文化学部教授, 益川塾指導教授)

♦ 講演タイトル:公経造営の北山殿 ―基本設計の考察―

♦ 講演要旨:藤原公経が北山の地に造営した山荘の、基本構想を考古学から探る。規模、主要建物の配置、邸内の設え、庭園などについて議論する。

• セミナーの様子

講演者:鈴木 指導教授

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♦ 日時:平成24年7月28日 15時30分~♦ 会場:京都産業大学1号館4階 談話室♦ 講演者:宮川 康子(京都産業大学文化学部教授, 益川塾指導教授)

♦ 講演タイトル:懐徳堂からみた近代日本♦ 講演要旨: 懐徳堂は享保9年に大坂商人たちが基金を出し合って建てられた町人学問所である。しかし2年後には幕府の官許を得、半ば公的な学問所としての自覚を持って発展していった。やがて4代学主中井竹山とその弟履軒の時代になるとその学問の水準は江戸の昌平黌をはるかにしのぐといわれ、全国の文人たちが立ち寄る学校となっていった。その学問的成果の集大成が山片蟠桃の『夢の代』である。 しかし近代以降の歴史学、思想史学はほとんどこの学校の存在を評価することはなかった。なかでも丸山真男の『日本政治思想史研究』が、荻生徂徠を高く評価する一方で、懐徳堂の学問を「みるべきものはない」と酷評した影響は大きい。 何故日本近代は懐徳堂の学問を隠蔽してきたのか。懐徳堂の思想は、西洋の啓蒙思想と多くの共通点を持っている。近代に通ずる思想の萌芽が日本近代では全く無視されてきたのである。このことは逆に日本の近代がどのような方向で始まったのか、その問題はどこにあったのかを照らし出すものとなるだろう。 今回はいまだに知られていない中井履軒の歴史思想に焦点を当てながら近代日本を再考する視座としての懐徳堂を紹介する。

• セミナーの様子

講演者:宮川 指導教授

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4 セミナー・集中講義

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益川塾セミナー・集中講義• 平成24年5月12日講演者: 井元 信之  (大阪大学)タイトル:量子情報処理と量子力学の基本的問題

講演内容:近年,量子コンピューティングや量子暗号など、いわゆる量子情報処理と呼ばれる分野が確立されつつある。これら情報の担い手は電子・光子・スピンなどの量子力学に従う担体のため、その基礎理論を明確に理解すること、そしてその特性を適宜に活用する必要がある。本講演では量子情報処理と量子力学基礎理論に関して、大きく3つのテーマについて御講演頂いた。1つめは量子情報処理である。量子力学にはエンタングルメントやクローン禁止定理のような日常の経験とは乖離した性質があり、これらを有効に活用することによって、究極のプライバシー通信である量子暗号,計算能力が飛躍的に増大する量子コンピューター,電話で物質転送ができる可能性を持つ量子テレポーテーション,認証や投票等に応用可能な多者間情報処理など、これまでにない革命的な情報通信を可能にし、この分野はテクノロジーとしてもサイエンスとしても非常に興味深い。1970年代から現在に至るまでの大きな進展と今後解決すべき問題について御紹介頂いた。2つめはベルの不等式である。この不等式は一般に量子力学の世界には局所実在論(隠れた変数理論)では表しきれない豊かな世界があることを明確に示す不等式として広く知られている。しかし、ベルの不等式のうち最もよく知られているCHSH不等式に現れる表式は少々天下り的に議論されることが多い。4つの項のうち、なぜ1つの項だけが負の係数となるのか判別式の観点から直感的に理解できるよう御説明頂いた。3つめはハーディーのパラドックスと弱測定に関する検証実験である。ハーディーのパラドックスもまたベルの不等式と同様に、隠れた変数理論と量子力学との違いを明確に示す思考実験として知られている。ハーディーの思考実験では1の確率で起こる電子・陽電子の対消滅が重要な役割を果たすが,これを実際の実験で再現することは至難の業である。しかし、光子を用いることによってこの思考実験を再現することが可能となる。電子・陽電子に代わるものを光子ではどのように作られるのか。対消滅をどのように再現するか。弱測定を実際にどのようにおこなっているのか。エンタングルメントの性質をうまく活用しながら、各装置の果たす役割,そして弱測定を通して得られた測定結果について御解説頂いた。

井元氏による講演の様子

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• 平成24年5月26日講演者: 山中 真人  (KEK)

タイトル:暗黒物質の残存量の産出と観測・検出実験を通じた暗黒物質の検証

講演内容:銀河団内の遠方銀河の回転速度の観測は、バリオン物質のみを期待した場合では説明できない結果を報告した。これにより、Zwickyは 1934年に暗黒物質の存在を提唱した。この暗黒物質の最有力候補としては、素粒子標準模型の枠組みには含まれていない未知の素粒子が期待されている。暗黒物質となりうるための性質として、次のような条件を満たしている必要がある。それは、電気的に中性で相互作用が弱く、寿命が少なくとも今の宇宙年齢よりも十分長く安定であるということである。暗黒物質の研究には 3種類の方向性があり、それらは密接に関連している。それは、加速器実験によって暗黒物質を生成し期待される結果を予測すること、宇宙にある暗黒物質の直接または間接検出によって期待される結果を予測すること、そして初期宇宙における暗黒物質生成の起源を探り現在の残存量を計算することである。暗黒物質は宇宙の構造形成のためには必要不可欠であり、標準模型を超えた物理を探索するためのよい指標になる。本公演では、暗黒物質研究を行う際に必要な残存量計算や、直接・間接観測実験で検証するためにはどのような計算が必要になるかということを基礎的なところから詳細にお話し頂いた。暗黒物質の残存量計算は、暗黒物質の解明に関して極めて重要である。暗黒物質の生成過程には熱的過程と非熱的過程の 2種類がある。熱的生成の場合はボルツマン方程式という暗黒物質の数密度に関する時間発展の方程式を解く必要があり、この方程式の中に暗黒物質の性質の詳細の情報が入っている。一方非熱的生成の場合は、非常に弱い相互作用のために暗黒物質は熱化されず、残存量計算は熱的生成シナリオのようにはいかない。本公演では、暗黒物質へと崩壊することができるが、暗黒物質よりも相互作用が強い粒子の存在を仮定し、その粒子の崩壊によって暗黒物質が生成されるシナリオを紹介して頂いた。どちらの生成過程も現在の観測が示唆している残存量を十分説明することが可能であるが、生成過程が異なるので暗黒物質の性質は大きく違い、観測の際にどのような違いが生まれるかを正確に把握しておかなくてはいけない。本公演では、直接・間接探索でどのようなシグナルが期待されるかということを包括的にお話し頂いた。

山中氏による講演の様子

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• 平成24年7月14日講演者: 高橋 義朗  (京都大学)タイトル:超低温原子気体の精密量子制御

– 強相関量子多体系の量子シミュレーションと基礎物理学への応用 –

講演内容:近年、レーザー冷却の技術を駆使することにより超低温原子気体を生成することが可能になり、現在では様々な研究に応用展開されている。その中から特に注目を浴びている発展的な話題として、光格子と呼ばれる周期的ポテンシャル中の超低温原子気体を用いた強相関量子多体系の量子シミュレーションに関する研究について御講演頂いた。量子多体系のシミュレーションを行うとき、我々のよく知る別の量子多体系を用いることが有用であると考えられる。ここでは、冷却原子系において良いモデルとされるハバードモデルを用いる。光格子および原子の様々なパラメータを変化させ、その系の振る舞いを研究することは、ハバードモデルで記述される強相関量子多体系に対するシミュレーターとして見做すことができる。前半では、レーザー冷却や光格子に関する原理的な説明から、実際に行っている実験の様子、そして光格子中のアルカリ金属原子を用いたハバードモデルの量子シミュレーションについて最新の研究を中心に御紹介頂いた。後半では希土類のイッテルビウム原子を用いた量子シミュレーションについてお話頂いた。イッテルビウム原子は7種類の安定同位体が存在し、その安定同位体の天然存在比も比較的均等にばらけており、5種類のボース同位体と 2種類のフェルミ同位体を含むため、実に多様な混合量子縮退系を生成できることが特徴である。それぞれの同位体において量子縮退を成功させた実験の様子や同位体同士を混合した際の量子縮退の様子を見せて頂いた。また、ボース・ハバードモデルを用いた超流動とモット絶縁体の転移,フェルミ・ハバードモデルを用いたモット絶縁体,さらにはボース・フェルミ混合系におけるモット絶縁体相に関する研究について御解説頂いた。本講演の最後には、基礎物理学への応用と題し、極低温原子の超精密分光による近距離重力補正の検証についてお話頂いた。ニュートンの万有引力の法則は天体の運動を見事に再現し、長距離においては様々な実験によって検証が行われている。その一方で、例えば湯川型ポテンシャルの様に、ある距離を超えると急速にゼロに近づくようなポテンシャルであれば、ニュートンの重力ポテンシャルの補正項として加えることができる。上述のイッテルビウム原子の実験から半値全幅が 1kHz程度の分光に成功したことを用いて、重力補正項の結合定数により厳しい制限を加える可能性について今後の展望をお話頂いた。 高橋氏による講演の様子

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• 平成24年9月29日講演者: 後藤 亨  (KEK)

タイトル:超対称模型の現状

講演内容:素粒子物理学の標準模型は様々な実験結果と非常に良く整合してきたが、それと同時にいくつかの問題点も指摘されてきており、超対称性による拡張が古くから提案されてきた。また、超対称性の探索は LHC実験の主要題目の内の 1つでもあり、実験検証の可能性という意味でも非常に注目を集めている。このような情勢を踏まえ、本セミナーではKEKの後藤氏をお招きし、超対称模型の現状についてお話し頂いた。セミナーは前後半に分けられ、前半はヒッグス粒子の二次発散問題から超対称性導入までの流れや、最小の模型であるMinimal

Supersymmetric Standard Modelの基本構造や SUSY Flavor問題などについての解説がなされた。また、超対称性は低エネルギー領域では破れている必要があり、その破れの詳細により超対称模型は様々なシナリオに分類されるが、本セミナーではMinimal Supergtravityシナリオを採用していただき、その特徴などもレヴューして頂いた。後半では、LHCの最新結果をもとに超対称模型の現状について、(1) 超対称粒子の直接検出, (2) 125GeVヒッグス粒子との整合性, (3) Flavor

Physicsからの制限、の 3つの観点からお話し頂いた。直接検出実験においては、強い相互作用をするクォークやグルーオンの超対称パートナーが主なターゲットとなるが、それらの存在を支持するようなシグナルは未だ得られておらず、これにより例えばMinimal Supergtravityシナリオのパラメータ領域がどのように制限されるのか示して頂いた。続いて、2012年夏に発見された 125GeV程度の質量を持ったヒッグス(らしき)粒子が、超対称模型にどのような影響を及ぼすか論じて頂いた。125GeVという質量は、典型的な超対称模型の予言と比べるとやや高目と言えるが、トップクォークの超対称パートナーが比較的重い場合などには十分あり得る値である。最後に b → sγやBs → μ+μ−などの探索実験からくる制限について解説して頂いた。特にBs →μ+μ−に関しては、実験の精度が標準模型の予言値に近づきつつあり、もし超対称性が存在するのであればそのシグナルが間もなく見つかるであろうと期待されていたため、活発な議論がなされた。 後藤氏による講演の様子

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• 平成24年10月19日講演者: 松原 隆彦  (名古屋大学)タイトル:宇宙の大規模構造と精密宇宙論

講演内容:宇宙の大規模構造は、アメリカニューメキシコ州に設置されているスローン・デジタル・スカイ・サーベイ (SDSS)などの銀河の赤方偏移の探査機によって詳細に調べられてきた。赤方偏移の探索方法には 2種類あり、“深い”探索と “広い”探索と言われる。それぞれに利点があり、深い探索というのは遠くの宇宙までを探索することに対応し、宇宙膨張の時間的変化や大局的な曲率そして構造の進化といった宇宙創生から現在までの発展について探ることに、広い領域の探索はデータの統計を貯めより高い精度で結果を導くことに優れている。講演者には、現在進められている実験および近い将来に計画されている実験においてどのような結果が期待されるかということを含め講演して頂いた。また、これらの観測から大規模構造形成のためにはゆらぎが必要であるということが知られている。このゆらぎは理論的にはバリオン音響振動 (BAO)という現象によって生成されることが予言されており、この現象は銀河の分布に影響を与えると考えられるので、銀河分布におけるバリオン音響振動スケールを宇宙の膨張率を測定するものさしとして用いることによって、ダークエネルギーを測定することが可能となる。また、この生成された初期ゆらぎはランダムガウスゆらぎに非常に近いが、この中にわずかな非ガウス性がある可能性がある。しかし、非ガウス性のモデル化は自由度が無限にあるため非常に難しい。よく用いられるモデルとして、局所非ガウスモデルに基づいた解析が紹介された。初期非ガウス性の検証には、大規模構造の観測におけるバイアス効果が都合がよいことが知られている。バイアス効果は小さなスケールの物理現象であるが、初期の非ガウス性によって大規模構造のような大きなスケールのパワースペクトルに影響を及ぼすためである。近年の解析によって、非ガウス性を担う効果の最低次の係数に対して制限が得られているが、未だに決定的な結果は得られていない。本公演では、宇宙観測が精密になっている今、より精密な理論が必要であることが指摘され、理論にどのような変更が必要になるかということを最新の研究を基に簡潔にまとめて頂いた。また、修正された理論が Planckや Euclid

といった近い将来にデータを報告する期待のある実験からどのような制限を受けるかを紹介して頂いた。

松原氏による講演の様子

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• 平成24年10月27日講演者: 久野 良孝  (大阪大学)タイトル:標準理論を超える物理を探求する

– 荷電レプトンフレーバー非保存過程の探索 –

講演内容:2012年夏、世界最大のハドロン衝突型加速器実験LHCにおいて、標準模型の最後の未発見粒子であったヒッグス粒子とおぼしき新粒子の発見がなされた。しかしながら、標準模型の枠組みを越える新しい物理現象の兆候は依然として得られていない。LHCのような大型衝突実験が行われている一方、精密測定による稀過程探索実験も世界各国で行われており、特に荷電レプトンフレーバー非保存(CLFV)過程はQCDによる不確定性が無く、かつ標準模型からの寄与が無いことから、新しい物理を探索する上で非常に有用であると期待されている。講演者は、CLFV過程の 1つであるミューオン電子転換過程の探索実験、COMET

を J-PARCで計画しており、現行からの 4桁以上の精度向上を目指しておられる。本セミナーでは、まず稀過程実験の意義や特徴などに関する一般的な議論がなされ、その後、特にミューオンが関与する過程について理論と実験の両面から解説して頂いた。例えば、拡張された標準模型の候補として超対称模型や余剰次元模型などが提案されているが、これらの模型はミューオンの稀崩壊やミューオン電子転換過程を引き起こすことが知られている。これらの模型を例にとり、模型が正しいとすると上記の過程がどの程度起こり得るか、それに対して実験がどのような制限を与え、その制限が将来的にどの程度向上されるのかまとめて頂いた。次にミューオンの稀崩壊探索実験を行っているスイスのMEG実験が紹介され、その後、講演者が計画しておられるCOMET実験について詳しく述べて頂いた。4桁以上の精度向上を目指す上で特に重要となってくるのが、いかにしてミューオンビームの強度を上げるか、という点であるが、講演者が大阪大学のRCNPで行っているMuSIC実験では低エネルギー陽子ビームを用いているにも関わらず、すでに現行の最大強度と同程度のミューオンビームを実現しており、J-PARCの高エネルギー陽子ビームを用いた際には更なる向上が期待できる。また、ミューオンの輸送装置や生成された電子の検出装置に関する解説や、実験の妨げになるバックグラウンドの除去率改善に向けた取り組みなどについてもお話頂いた。最後に、現在の計画の進行状況や今後の展望、競合相手であるフェルミ研究所のMu2e実験との比較などの議論がなされた。

久野氏による講演の様子

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• 平成24年11月10日講演者: 梁 正樹  (東京大学)タイトル:電気双極子モーメントの現状とその評価の改善

講演内容:電気双極子モーメント (EDM)は、新物理のよいプローブとなる。その理由は、標準模型では観測にかかりそうもない程小さいが、新物理の寄与を考慮に入れると現在の実験による上限値に近い値になり得るためである。また、EDM

は時間対称性の破れを探る実験なので、CPT定理を仮定すると CP対称性の破れを探ることと等価である。よって、宇宙のバリオン数非対称性生成の起源に関する理論の検証にもつながる可能性がある。EDMの測り方は非常に単純で、外場中に置いた粒子のスピンが歳差運動をする。この歳差運動を Larmor歳差運動という。Larmor歳差運動を電場を反転させて測り、差を取ることによってEDM

の大きさを決定することができる。実験は原子、分子などいろいろな粒子を用いて行われている。現在のところ水銀原子を用いた実験がもっとも厳しい制限を与えているが、数年後に期待される次世代の実験ではこの実験値よりも 2桁小さい上限値を与えることが期待されている。次世代実験が到達できる範囲に、超対称性 (SUSY)模型などの新物理に関する模型による予言が多く存在するため、非常に注目すべき物理現象となる。本公演では新物理の可能性として、以下の 2つの拡張模型について言及された。まず第一に、ヒッグスセクターを拡張した 2つのヒッグス二重項模型 (2HDM)である。この模型は標準模型のみでは不十分なCP

対称性の破れについて新たな源が登場する。ヒッグスセクターを拡張すると、新たなヒッグス粒子がループを回ることができるので、標準模型に比べEDMが非常に大きくできる。しかしまだまだ仮定を課さなければ実験の制限にかかるような域には達することができない。第二に SUSYを仮定した場合のEDMの評価もまたお話し頂いた。SUSYを仮定する場合には、実験による制限から一般に非常に重たい SUSY粒子か、世代によって階層的な質量を仮定する他ないという現状となっている。実験結果はQCDレベルの理論計算で求められるウィルソン係数に対して制限を与える。QCDの計算は非常に不定性が大きく、現在も改善が続けられている。本公演では、中性子 EDM

におけるウィルソン係数の導出を、新たな 4体フェルミ演算子を導入し、繰り込み群を用いた計算を行うことで、先行研究で行われていた摂動論の計算より数十%精度が上がるという最新の成果も含めお話し頂いた。

梁氏による講演の様子

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• 平成24年11月16日講演者: 氷上 忍  (沖縄科学技術大学院大学)タイトル:ランダム行列理論とその展開

講演内容:ランダム行列理論は非常に幅広い分野に応用されている一般的理論であるが、本講義では、特にランダム行列理論を用いたモジュライ空間の p-スピン曲線の交点数の計算や、ストリング方程式などの多様体によらない普遍方程式の導出についてお話し頂いた。前半の講義では、まず、リーマンゼータ関数の零点の位置などの様々なスペクトルが、普遍的にランダム行列の固有値の間隔の分布を通して理解できるということを紹介して頂いた。具体例として、Gaussian

Unitary Ensemble や、ランダム行列の最大固有値の確率分布などを考える際に現れるTracy-Widom 分布が示され、外場が結合した場合のGaussianランダム行列理論について説明があった。そして、これを用いて、例えば両端を固定した場合の非交差二体ブラウン運動における粒子の位置の分布などが説明できることを紹介して頂いた。前半の講義の最後では、ある行列模型における特性多項式を他の行列模型における特性多項式の平均値として表すことが出来るという双対性定理の証明について、そして、この双対性定理をリーマンゼータ関数の零点分布や開弦と閉弦の間の双対性 (open/closed duality)の説明に用いるといった応用について、ご解説頂いた。後半の講義では、まずリーマン面の点付きモジュライ空間について紹介して頂き、点付きモジュライ空間のスピン曲線の交点数の生成関数がGelfand-Dikiiヒエラルキーを満たすというWitten予想について説明して頂いた。そして、双対定理とレプリカ法を用いると、交点数を相関関数のCauchyの積分表示で書くことができ、これによりWitten予想の証明が得られるという講演者らの最近の研究が紹介された。また、p-

スピン曲線の交点数の表式を、pが負の場合に解析接続した結果についても説明があり、特に、p = −2の場合の結果はblackhole/string transitionと呼ばれるユニタリ行列模型におけるラージN相転移の研究に応用できることや、p = −∞とすれば考える多様体に依らない普遍方程式が得られるという結果についても紹介して頂いた。 氷上氏による講演の様子

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• 平成25年1月12日講演者: 赤松 幸尚  (名古屋大学)タイトル:クォーク・グルーオン・プラズマにおける「力」の量子論的記述

講演内容:近年のRHIC及び LHCにおける高エネルギー重イオン衝突実験では、Quark-Gluon Plasma(QGP)を生成するための研究が行われている。生成されたQGP媒質については粘性の非常に小さい流体模型が成功を収めている。QGP生成の証拠の一つとして、熱平衡化した媒質中でのDebye遮蔽により、J/ψの生成が抑えられるという現象が起こる。講演では、QGP流体中でのチャームクォークやボトムクォークといった重いクォークのダイナミクスについて、最近の研究成果を発表して頂いた。媒質中での重いクォークを追跡するには、QGP流体中の摩擦力やその揺らぎを決定する必要がある。その為に、重いクォークを問題とする系とし、軽いクォークやグルオンで構成される媒質を環境として、Hilbert空間を分離する操作を行い、得られた縮約密度行列について、場の理論に基づくMaster

方程式を導出する。前半では、まず、RHIC及びLHCでの陽子同士の衝突と原子核同士の衝突実験の観測結果を比較しながら、J/ΨやΥのQGP媒質中での抑制についてご紹介頂いた。また、QGP媒質中でのポテンシャル力について紹介して頂き、媒質中での別の種類の力即ち、摩擦力とその揺らぎを描写する必要があることを強調して頂いた。後半では、非平衡現象を扱うため、Closed Time Path

形式をQCDに適用し、最終的に得られる縮約密度行列に対する汎関数Master方程式の導出法についてご講演頂いた。講演では、Hard Thermal Loop resumed摂動論における Leading Orderまでを取り入れ、質量が大きい極限すなわち非相対論的な場合で、長時間極限 (Markov極限)を取ったときの有効作用を与えた後で、Stochasticポテンシャルと摩擦力の元になる作用について紹介して頂いた。また、繰りこみ操作を行い、与えられたハミルトニアンを使い、最終的に汎関数Master

方程式が導出できることを示して頂いた。そこでは、摩擦力とその揺らぎが重要な役割を果たすことが議論された。さらに、重いクォーク数の保存則や Ehrenfest方程式を紹介して頂き、Stochasticポテンシャルや摩擦力の導出に対する他の研究者の研究成果についてお話頂いた。講演の最後には、非摂動論的領域について、高次のオーダーの摂動論的アプローチの必要性や上記アプローチの現象論への適用可能性について今後の展望をお話頂いた。 赤松氏による講演の様子

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• 平成25年1月19日講演者: 早坂 圭司  (名古屋大学)タイトル:Belle実験におけるタウ物理研究

– タウLFV探索を中心に –

講演内容:高エネルギー加速器研究機構のKEKBファクトリーでは、B中間子の生成と共にタウレプトンも同時に量産され、タウファクトリーとしても非常に重要な役割を果たしてきた。講演者は、KEKBファクトリーで行われたBelle実験においてタウレプトンのデータ解析を担当されており、現在も 2010年夏までに蓄積されたデータの解析をすすめ、Heavy Flavor Averaging Groupなどに解析結果を提供しておられる。学生時代は理論研究をなさっていたということで、本セミナーでは理論研究者の目線に合わせ、一般的な加速器実験における基礎知識から丁寧にお話して頂いた。その後、Belle実験におけるタウレプトン過程の役割と意義、そして実際にタウレプトンのイベントがどの様にして識別できるのか、などを解説して頂いた。タウファクトリーとしてのBelle実験に課せられた最も重要な使命の内の 1つとして、タウレプトンの荷電レプトンフレーバー非保存 (CLFV)

過程の探索が挙げられる。CLFV過程はQCDによる不確定性が無くかつ標準模型からの寄与が無いため、標準模型を越える新しい物理現象に対して非常に良い感度を持つ。特にタウはハドロンへと崩壊できる唯一のレプトンであり、多彩な崩壊モードという観点からも注目を集めている。今回は実際に Belle実験で得られたデータを元に、解析手法や事象選別の方法などを説明して頂き、それらの結果が例えば超対称性の模型にどの様な制限を与えるか解説して頂いた。次に、タウレプトンの崩壊過程を用い、レプトン・セクターにおけるCP対称性の破れを探索する試みについて論じられた。一般に、複数のヒッグス場を導入する拡張模型ではこのようなCP対称性を破る崩壊過程が予言されるが、具体例としてここではヒッグス場を 3つ導入した模型を仮定し、その複素結合定数に対してどの程度の制限を付けることができるか示して頂いた。Belle実験は多くのタウ CLFV

過程に対し世界で最も強い制限を課している実験である。現在、KEKB ファクトリーは SuperKEKBファクトリーへとアップグレード中であり、それに伴いBelle実験もBelle-II実験への拡張が計画されている。最後に SuperKEKBで期待されるルミノシティーで、タウレプトンCLFV過程に関してどの程度の精度向上が期待できるかまとめて頂いた。

早坂氏による講演の様子

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• 平成25年1月26日講演者: 磯 暁  (KEK)

タイトル:126 GeV Higgs 粒子とプランクスケールの物理

講演内容:昨年、標準模型のヒッグス粒子に似た振る舞いをする粒子が LHCで発見され、これが 126GeV程度の質量を持つことが分かった。仮にこの新粒子がヒッグス粒子であったとすると、質量が 126GeV程度であるという事実はヒッグスポテンシャルの 4次の結合定数がプランクスケール付近で 0に近づくことを意味している。この事実と、コンフォーマルな理論では階層性問題が解決されるという点に着目し、講演者はヒッグスポテンシャルがプランクスケールでは平坦であったという仮定の下、126GeV程度のヒッグス質量が低エネルギーでどの様に実現されるかを議論した。本セミナーでは、まず、この研究の基礎となる思想について詳しく説明して頂いた。特に、階層性問題をどのように解決するかについて独自の観点から詳しくお話頂いた。次に、プランクスケールで平坦だったポテンシャルから、どのようにして電弱対称性の破れを引き起こすかについて解説して頂いた。具体的には、Coleman-Weinberg機構によりポテンシャルを radiative

に生成することになるが、標準模型ではトップ・クォークの湯川結合定数が大きいためColeman-Weinberg機構がうまく機能しない。そこで標準模型の拡張が必要になってくるのだが、ニュートリノの微小な質量やバリオン非対称性問題などを鑑み、講演者は B−Lゲージ対称性と右巻きニュートリノの導入による拡張を考えた。この模型では、Coleman-Weinberg機構によりまずB−L対称性が破れ、これに伴って radiativeに生成された scalar mixingにより電弱対称性が破られる。そして、電弱対称性の破れを 246GeVで引き起こすには、B−L対称性の破れのスケールはおよそTeV程度のスケールであることが予言される。また、プランクスケールで古典的なコンフォーマル対称性を持つという要請のため、この枠組みはパラメータの数が非常に少なく、予言能力が高いという点も特徴的である。最後に、プランクスケールで平坦なヒッグスポテンシャルを持つような模型を、超弦理論やプランクスケールにおける non-

susy GUTなどの枠組みから導出できないかといった、最近の取り組みについてもコメントして頂いた。 磯氏による講演の様子

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5 日大理工・益川塾連携 素粒子物理学シンポジウム-CST & Maskawa Institute Joint Symposium on Particle Physics-

平成24年11月2日、3日、「日本大学理工学部・益川塾連携 素粒子物理学シンポジウム」が開催された。

開会の挨拶をする益川敏英塾頭

研究発表を行う荒木研究員

 このシンポジウムは、日本大学理工学部物理学科の素粒子論研究室と京都産業大学益川塾が連携し、素粒子物理学の最近の話題についてトピックを取り上げ、研究報告と討論を行い、研究の進展と研究者の交流を促すことを目的としたものである。

 平成23年度、第1回の開催は日本大学理工学部駿河台キャンパスをメイン会場に開催されたが、2回目となる今回は、京都産業大学 壬生校地「むすびわざ館」を会場に開催された。

 開会挨拶では、益川敏英塾頭から「私立大学の研究環境は、国立大学と異なっている。その環境の中で、私立大学の研究環境を発展させるには、互いに協力し連携を強化する必要がある。今回で2回目となる日本大学との連携シンポジウムを継続し、さらには、私立大学との連携を拡大していきたい。」と挨拶があった。

2日には、曽我見郁夫 益川塾副塾頭(京都産業大学名誉教授)による「多重スピノール場に基づく標準模型の拡大」と題した講演のほか、仲滋文 日本大学理工学部教授(益川塾 学外指導教授)による「Non-Local vs. Non-Commutative」と題した講演が行われ、3日には、益川塾指導教授、塾生および日本大学理工学部の教員らの講演や発表が行われた。

招待講師を含め、両日で合計 15人の講師による講演等が行われたシンポジウムには、本学益川塾関係者および学生、日本大学関係者および他大学の教員等、約40人が参加し、活発な議論や意見交換が行われ充実したものとなった。

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以下、日大理工・益川塾連携 素粒子物理学シンポジウムのプログラムを添付する。

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6 京都産業大学 益川塾 第4回シンポジウム「地震と噴火の日本列島」

地震や噴火などの自然現象と日本の文化について語る尾池所長

尾池所長、益川塾頭、曽我見副塾頭で行われた意見交換

 平成25年2月9日(土)、京都産業大学益川塾第4回シンポジウム「地震と噴火の日本列島」がむすびわざ館で開催され、尾池和夫 国際高等研究所長前京都大学総長による講演の他、尾池和夫所長、益川敏英塾頭、曽我見郁夫副塾頭らによる鼎談が行われた。

 益川塾では、志ある研究者が互いに切磋琢磨しつつ研究に専念し、生涯に渡って学問を極めていくための揺るぎなき礎を築く場を提供すると共に、科学の普及等を通じて、科学の発展に寄与するために自然科学系および人文社会科学系の塾生を受け入れて活動を行っている。

 第1部で、地震学が専門の尾池所長は、プレートが集まる「変動帯」の日本の地震が多発する理由や、地震と日本特有の文化の関係、都市との関わりについてなどを紹介した。

 第2部では、聴講者からの質問を交えて尾池所長と益川塾頭、曽我見副塾頭の鼎談が行なわれ、「地球科学を学ぶ」をテーマに、京都の地震リスクなどについて意見交換が行われた。

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7 京都産業大学 益川塾 第5回シンポジウム「西園寺 (北山殿)の仏たち」

西園寺の創建や仏像について話す伊東教授

伊東教授、鈴木教授、大森研究員の3者による鼎談

 平成25年3月9日、京都産業大学益川塾第5回シンポジウム「西園寺 (北山殿)の仏たち」が開催され、第1部では、伊東史朗 和歌山県立博物館長・益川塾指導教授による基調講演「相ついで確認された西園寺の仏たち」を開催。第2部では講演と鼎談が行われ、230名の参加者たちはメモをとりながら熱心に聞き入っていた。

 冒頭に挨拶を行った益川敏英 益川塾塾頭は、「益川塾ではこれまで様々な研究調査を行い、今回のシンポジウムを開催することができた。本学は 2015年に創立 50周年を迎え、大きな節目となる。今回の会場である『むすびわざ館』が昨年開設され、皆様にはこれからもこのようなイベントを通じて『むすびわざ館』へ足を運んでいただきたい。」と語った。

 第1部で基調講演を行った伊東指導教授は、西園寺 (さいおんじ)公経 (きんつね)が京都北山に創建した西園寺の歴史について説明し、そこに由来する仏像を写真で紹介しながら特徴や成り立ちについて解説した。

 第2部の講演および鼎談では、鈴木久男 文化学部教授・益川塾指導教授による「鹿苑寺石不動と四十五尺の滝」と題した講演と、大森惠子 益川塾人文社会科学系研究員による「西園寺の妙音天と琵琶の伝授」と題した講演を行った。その後、宮川康子 日本文化研究所長をコーディネーターとし、伊東指導教授を含めた3者による鼎談を行い、西園寺に石不動明王と生身不動明王の2体があった理由など、3者それぞれの見解を説明された。

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8 京都産業大学 益川塾 第1回フィールドワーク「松尾大社の神像と松風苑三庭」

境内で説明を行う鈴木教授

晴天の中、フィールドワークを楽しむ参加者たち

 平成24年4月28日、松尾大社(京都市西京区)において、益川塾フィールドワーク「松尾大社の神像と松風苑三庭」が開催され、一般の参加者および塾生を合わせ約60人が参加した。

 益川塾では、研究者の育成および科学の普及に寄与することを目的に、自然科学系および人文社会科学系の研究員を受け入れ、志ある研究者が互いに切磋琢磨しつつ研究に専念できる場を提供するとともに、一般社会人を対象としたシンポジウムやフィールドワークを開催している。

 参加者は 2つのグループに分かれ、境内の神像館と庭園で交互にフィールドワークを行った。神像館では、伊東史朗 和歌山県立博物館長・益川塾指導教授が、重要文化財とされる「老相男神」「壮年相男神」「女神」の三神像の身なりやしぐさ、いつ作られたかなどの興味深い話について説明した。

庭園とその他境内の見学では、鈴木久男 文化学部教授・益川塾指導教授が、上古(じょうこ)の庭、曲水(きょくすい)の庭の特色や、霊亀の滝の由来や伝説などについて説明した。蓬莱(ほうらい)の庭では、本学の学生が日頃の演習の成果を見せるべく、参加者に説明を行った。

参加者たちは、歴史のある松尾大社で貴重な文化財や芸術に触れながら、興味を深めるとともに、満開の山吹を楽しみながらフィールドワークを行った。

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9 京都産業大学 益川塾 第2回フィールドワーク「西園寺(北山殿)の仏を訪ねる」

西園寺で説明を行う伊東史朗 指導教授

相国寺 開山堂で説明を聞く参加者

 平成25年3月30日、益川塾フィールドワーク「西園寺(北山殿)の仏を訪ねる」が開催され、一般の参加者および塾生らと西園寺、相国寺、白雲神社(京都御苑)を訪れた。

 今回のフィールドワークは、3月9日に開催した「益川塾 第 5回シンポジウム」での講演および鼎談のテーマ「西園寺(北山殿)の仏たち」を、実際に観てより詳しい解説を行うもので、定員を大幅に超える応募があった。

 西園寺では、伊東史朗 和歌山県立博物館長・益川塾指導教授による解説が行われ、重要文化財である阿弥陀如来像を間近に観ながら、仏像の造りや西園寺の歴史についての説明があり、参加者は熱心に聞き入った。

相国寺では、春の特別拝観中である『開山堂』『法堂』『浴室』を見学したあと、桜が満開の京都御苑北側の近衛邸跡を散策しながら白雲神社(京都御苑)を訪れた。

講師との活発な質疑応答が行われるなど、参加者は普段観ることができない貴重な文化財に触れ、京都文化に更なる興味を深めることができた。

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10 益川塾交流会塾生同士の交流や塾生と指導教員の親睦を深めることを目的として下記の日程

で交流会を開催致しました。

•お花見日時:平成24年4月14日(土)14時00分~

場所:北大路橋周辺の賀茂川

•自然科学系・人文社会科学系交流会日時:平成24年7月28日 (土) 18時30分~

場所:鶴清 (京都市下京区木屋町五条上ル)

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11 塾頭の講演・広報活動・報道等《講演》

1. 2012年 9月 15日 日本物理学会 2012年秋季大会 市民科学講演会

2. 2012年 10月 15日 朝日新聞社 環境フォーラム対談

3. 2012年 11月 2日 日大理工・益川塾連携シンポジウム

4. 2012年 11月 25日 日本プライマリ・ケア連合学会講演会

5. 2013年 2月 9日 京都産業大学 益川塾 第 4回シンポジウム「地震と噴火の日本列島」

6. 2013年 2月 11日 ノーベル賞受賞者フォーラム

7. 2013年 2月 25日 産経新聞社座談会「子供たちの『理科離れ』を考える」

8. 2013年 3月 9日 京都産業大学 益川塾 第 5回シンポジウム「西園寺 (北山殿)の仏たち」

《新聞・雑誌等掲載記事》

1. 2012年 4月 2日 日本経済新聞 夕刊 14面 「こころの玉手箱」

2. 2012年 4月 27日 京都新聞朝刊 15面「第 3回シンポジウム『神々の京都』」

3. 2012年 5月 27日 京都新聞 朝刊 23面 「日本学士院公開講演会での講演」

4. 2012年 10月 16日 朝日新聞 朝刊 20面 「益川敏英流 スローライフ」

5. 2013年 1月 1日 読売新聞 朝刊 3面 「私のチャレンジ 2013」

6. 2013年 2月 9日 小学館「サライ」2013年 3月号「忘れられないこの 1枚」

7. 2013年 2月 12日 読売新聞 夕刊 12面 「ノーベル賞受賞者フォーラム」

8. 2013年 2月 6–9日、13–16日、19–23日、26–28日、3月 1–2日、5–8日、 朝日新聞名古屋本社版 「愛知(ここ)に人あり」コーナー(連載)

9. 2013年 3月 30日 SANKEI EXPRESS「日本の科学を考える」

《テレビ出演》

1. 2013年 1月 8日 NHK「高校講座 科学と人間生活」出演

2. 2013年 1月 15日 BS朝日「経済討論番組「明日へのベクトル」出演

その他多数

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京都産業大学益川塾 2012年度年次報告書 第3報

発行   2013年 4月

発行者  京都産業大学益川塾     〒603-8555 京都市北区上賀茂本山

印刷   中西印刷株式会社c©京都産業大学益川塾

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