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産業連携ネットワーク陸上養殖交流会 発表資料 陸上養殖ビジネス化に向けた課題 20131010日(木) ㈱アイ・エム・ティー 三上 恒生 1

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産業連携ネットワーク陸上養殖交流会 発表資料 陸上養殖ビジネス化に向けた課題

2013年10月10日(木) ㈱アイ・エム・ティー

三上 恒生

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1. 陸上養殖の定義

• 必ずしも明確な定義は無い。

• 広い意味では、海や河川の隣接地に池を設置し、海水/河川水を引き込み、排水を海、河川に捨てる「かけ流し」式養殖も陸上養殖。現状でのウナギやアユの養殖なども広い意味では陸上養殖。

• RAS(Recirculating Aquaculture Systems)=日本語では閉鎖循環式養殖のことをここでは陸上養殖と呼ぶ(狭義の定義)。

• 基本的には、1回の生産期間中は水替えをしないのがRASの概念であるが、実際には蒸発水分や、固形排出物に含まれる水分などの補給が必要であり、補給水は一日1~3%程度は必要。しかし、かけ流し式にように100%以上の換水は行わない。

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2. RASの基本技術

①基本概念 • RASでは水質の管理が最も大切である。 • 養殖対象魚種の特性を調べ、養殖するのに最適な環境を決

定し、その環境をいかに安定して提供できるかがポイント。 • その為には、最適な水温、最適な水質、最適な水流、最適な

餌などを明確にする必要がある。 ②魚を養殖するというよりは、微生物を元気にする感覚 RASでは、魚を育成するという感覚よりは、バイオフィルター内

の微生物をいかに活性化させるかといった感覚の方が強い。つまり、微生物が十分能力を発揮できれば水質が安定するので、適正な給餌をすれば魚は結果として順調に育つことになる。

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基本要素技術は以下の通り。 ① 水の循環技術 いかに効率よく、省エネで水を循環させるか ② 水の浄化技術 一般的には、物理濾過と生物濾過の併用 また残餌や糞などの回収技術も必要 ③ 加温(冷却)技術 水温を最適温度に保つ技術(特に日本でのRASでは重要) ④ 酸素供給技術 高密度養殖であれば、高濃度酸素水の供給が必要 ⑤ トータルなシステム設計 以上をシンプルなシステムとして仕上げる技術

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2. RASの基本技術

一般的なRASのシステム

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2. RASの基本技術

3. IMTの技術(屋内型エビ生産システム:ISPS)

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3. IMTの技術(Fish Protech CASシステム)

4. 世界的な陸上養殖技術(RAS)の普及

パターン1・・かけ流し式からRASへの転換 パターン1は、かけ流し式からRASへの転換。

このパターンは主として以下の要因で普及が進んでいる。

・排水基準が厳しくなるなどかけ流し式では環境コストがかかりすぎる場合

・冬場加温したり、一年中酸素を注入したりすることで、養殖効率を飛躍的に高める場合

・安全安心な高付加価値の魚を年間一定量供給する場合

但し、このパターンは、主として淡水魚(一番ポピュラーなものは鰻、それ以外にはスズキ類やマス類など)

例1)世界最初のRASは、デンマークの養鰻場であると言われている(1970年代初頭)

例2)韓国でも鰻の養殖は盛んであり、2011年には523の養殖場が稼働しているが、その内、30%がRASを採用している。

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・パターン2 海面養殖の一部をRASで補完 Grieg Seafood社というノルウェイの大手アトランティックサーモン生産会社では近年RASを「一部」導入している。

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4. 世界的な陸上養殖技術の普及

Grieg Seafood社はRASの利点を以下の通り説明している。

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4. 世界的な陸上養殖技術の普及

パターン3 最初から閉鎖循環式養殖での事業化 世界的には内陸部など水不足地域での養殖施設が建設されてきている。 かけ流しは、大量な水が確保でき、しかも水温や水質が魚養殖に適した場所でのみで可能 ⇒ 閉鎖循環は、農業や畜産よりも水消費が少なくて済む。 乾燥地域での食料確保に向けて ドイツの援助で南アフリカ地域で大規模なナマズ生産施設が建設されたなどの例もある。 • 現在、弊社はボリビアにおいて日本のODAで建設した井戸水を使ったパ

クーの陸上養殖技術をコンサルティングしている。 • 本年11月からモンゴル内陸部でのエビ陸上養殖実験が開始され、弊社

がコンサルタントとして参加する。

4. 世界的な陸上養殖技術の普及

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単位 ㍑牛 豚 鶏 米 大麦 小麦 エビ エビ(RAS)

72,300 7,950 3,000 3,600 2,600 2,000 10,000以上 300

1㎏の食料を生産するのに必要な水消費量

• パターン1 かけ流し式からRASへの転換 半かけ流し方式への転換が進んでいる。(特に鰻や、ますの養殖場) クルマエビの養殖場などもかなり閉鎖循環に近いものも出現。 完全なRASへの転換事例は少ない。 • パターン2 海面養殖の一部をRASで補完 独立行政法人水産総合研究センターでは、赤潮対策などを目的にブリを半年早く採卵し、20㎝サイズまで育成した稚魚を、鹿児島県東町漁協で海面養殖、「鰤王」として販売開始している。 • パターン3 最初から閉鎖循環式養殖での事業化 ① 弊社の技術でのエビ生産施設は新潟県妙高市 ② トラフグは九州地域でRASあるいはSemi-RASで、また栃木県那珂川町の温泉ト

ラフグ ③ チョウザメは茨城県つくば市のフジキン、現在は20か所程度 ④ アワビに関しては多くの陸上養殖施設は沿岸部に立地するが、一方で廃コンテ

ナを活用した陸上養殖キットは内陸地域でも使われている。 ⑤ 長崎県五島列島での地下海水を使ったSemi-RAS方式のヒラメ養殖

5. 日本での陸上養殖事業

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6. 陸上養殖に適した魚種の選定

法律などで決められているわけでは無いが、欧米先進国では不文律となっている下記原則を弊社では守りたいと考えています。 選定基準 ① 成長の早い魚種であること(原則1年未満) (各種リスクの軽減、生産コストの軽減) ② 飼料効率の良い魚種であること(原則FCRが2前後以下) (飼料コストの軽減、小魚資源の枯渇を防ぐ) ③ 稚魚が年間を通じて安定的に入手される魚種であること (SPFの稚魚で病気リスク回避、稚魚コストが一定) ④ その上で、可能な限り付加価値の高い魚種であること (基本的に㎏の池渡し販売価格が1,000円前後以上でないと、 現在の技術では採算が合わない) 16

• 妙高での概略収支は右図の通り。 • 売上金額の前提は販売単価 3,000円/㎏ • ニッチな市場のみで流通可能 • 生産コストは約2,132円/㎏ • 初期投資の回収は約10年かかる ⇒必ずしも採算性が良いとは言えない 目標は、以下の通り。 • 初期投資 2億円 • 生産原価 1,000円/㎏ • 販売価格 2,000円/㎏ • 初期投資の回収 約5年

8.陸上養殖の採算性(屋内型エビ生産システム)

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システム規模 600トン×2基 イニシャルコスト 300百万円 生産量(年10回) 35トン/年 売上金額 105百万円 生産原価 75百万円 材料費 27百万円 人件費 16百万円 水道光熱費 22百万円 その他 9百万円 生産単価 2,132円/Kg 初期投資回収 10年

(1) ビジネス化に向けた課題の整理 ① 養殖システムのコストダウン(システムの規模拡大を含む) ② 安全安心な稚魚の安定確保 ③ 養殖効率が良く、水質悪化要因にならない、かつ安価な餌

の開発 ④ 他事業との複合化、6次産業化・地域振興 ⑤ 国・自治体の支援 ⑥ 付加価値を付けたマーケティング

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9. 陸上養殖事業ビジネス化の課題と対応方法

(2)課題克服への対応 ①養殖システムのコストダウン • 新たな技術の開発(効率的な生物濾過、安価な酸素供給、

省エネ技術など) • 普及していけば自ずとコストダウンにつながる。

• 海外からの最先端かつ安価な養殖関連機器の導入

• 事業規模の拡大によるコストダウン(次ページ試算結果参

照)

9. 事業性を高めるための方策

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システム規模拡大に

伴うコストダウン 屋内型エビ生産システム

の生産規模を、現在の妙高

施設規模である年35tから

525tに規模拡大した場合の

採算性向上を試算した結果

は右表の通り。

販売価格を3,000円/㎏から

2,000円/㎏に下げても、初期コ

スト回収が9.9年から5.6年に

短縮される。

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9. 事業性を高めるための方策

妙高実績 単位 大規模タイプ 単位600t×2 600t×3×10

初期投資額 300,000,000 円 2,704,260,000 円

生産量 35 t/y 525 t/y

販売単価 3,000 円/㎏ 2,000 円/㎏

年間売上 105,000,000 円 1,050,000,000 円

年間コスト材料費稚エビ 8,050,000 円 110,000,000 円餌 11,692,800 円 126,000,000 円その他 7,512,000 円 15,000,000 円小計 27,254,800 円 251,000,000 円人件費 16,000,000 円 60,000,000 円水道光熱費 22,004,600 円 176,317,000 円(内加温費) 15,000,000 円 68,000,000 円その他 9,360,000 円 79,245,000 円年間コスト計 74,619,400 円 566,562,000 円

生産単価 2,132 円/㎏ 1,079 円/㎏

初期コストの回収 9.9 年 5.6 年

② 安全安心な稚魚の安定確保 • 効率的な陸上養殖事業の為には、SPF(無病)の稚エビが、安定的

(量、質)に、可能であれば年間を通じて入手可能な環境が必要 • 日本の稚魚生産技術は世界でもトップクラスであるが、その多くは

公的機関が持っており、公的機関で生産される稚魚は、放流用あるいは漁協の海面養殖用にしか利用できない。

• また放流用、海面養殖用共に、基本は年に1回しか生産されない。 ⇒前出の、水研センター「鰤」の稚魚生産の様な技術で生産された稚魚が、RASにも使うことができるような仕組みが望まれる。 ③ 養殖効率が良く、水質悪化要因にならない、かつ安価な餌の開

発 • 陸上養殖用の餌の開発が必要(高密度、高水温、運動量などが

かけ流しや海面養殖とは大きく異なる。残餌が水質を悪化させない水中保形性なども必要。)

• 養殖全般の課題として、植物性蛋白など代替原料の利用拡大 22

9. 事業性を高めるための方策

④ 他事業との複合化、6次産業化・地域振興 特に、加温コストを削減するため、排熱を出している/出す施設との複合化を図る。例えば、以下の通り。 • 半導体工場とのタイアップ

「半導体製造過程での排熱を養殖の加温に利用」 「半導体のコーティングには窒素が必要、養殖には酸素が必要」

• 温泉や地熱発電、バイオマス発電などの熱の有効利用 • 6次産業化

一年中安定生産される魚を原料とした、安全安心な付加価値水産加工品までの一貫生産

• 観光振興(特に温泉観光地) 温泉熱を加温に活用。生産された魚介類を名物料理に活用し、食の魅力を増して観光客増を図る。(温泉トラフグの例)

• 市街地内の商店街の活性化 遊休倉庫などを活用した、小規模の陸上養殖。商店街内の各種レストランで魚料理をメニュー化、加工品の開発、釣りや掴みどりのイベントなどで商店街の活性化の材料とする。

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9. 事業性を高めるための方策

⑤付加価値をつけたマーケティング

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9. 事業性を高めるための方策

朝日新聞(1987.2.2)

このころから養殖魚に関する認識はほとんど変わっていない。

欧米での陸上養殖魚の市場評価 ・オーガニックフィッシュとして価値を認められている。 ・天然物はトレーサビリティが担保できない。水銀などの不安。 ・元来、肉食から魚食への転換は、健康志向 ⇒結果として、同じ魚種で天然物より2割程度高い価格で取引されている。 日本での評価 ・特に「和食」関連で陸上養殖の評価が低い。 魚は「旬な天然物しか使わない」 ・フレンチ、イタリアンなどで評価が確立されつつある。 ・安全・安心な食材としての付加価値を確保する必要がある。

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9. 事業性を高めるための方策