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介護職員・施設の職場研修 1 © 2019 青見健志 個人情報保護 プライバシーの保護

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介護職員・施設の職場研修

1© 2019 青見健志

個人情報保護プライバシーの保護

個人情報保護

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第1部

© 2019 青見健志

1.はじめに

平成29年4月に厚生労働省より「医療・介護関係事業者における 個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」 が発表され、個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン等が定められている。

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・介護施設の個人情報に関して

近年、ITを利用した情報活用の技術は日々進化している。情報活用のために収集・蓄積された個人情報は、膨大な量のデータとなっており、その情報が外部に漏洩すれば、二度と消すことは出来ない。個人情報が漏洩したことにより発生する不利益な状況は、生涯続くことになる。情報管理に関する法律は日々見直されており、その法改正に基づき個人情報の管理をしなければならない。

・法改正に基づいた最新のルールを適用する必要がある

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1.はじめに

情報収集はインターネット検索により簡単に行えるが、個人情報保護について情報を得ようとするならば、関係省庁や行政が法律を基に作成した最新のガイドラインやQ&Aを確認すべきである。自分や施設に都合のよい間違った情報や古い情報により得た知識で、個人情報を管理することは、個人情報の漏洩に繋がる。

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・インターネット上にある自分に都合のよい情報だけを信じない

個人情報保護に関する法律は、ほぼ毎年何かしらの改正や変更がされていて、一年前の情報でも、すでに古い情報になっている可能性がある。つまり、施設で作成された個人情報のマニュアル等も、毎年更新、もしくは確認作業が必要であると認識しなければならない。

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2.個人情報の定義について

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・個人情報の種類と内容を正確に説明できますか?

①個人情報②個人識別符号③要配慮個人情報

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知識が無いのに、個人情報を保護する事ができるのか?個人的な経験や感覚だけで、個人情報の管理をしている状態は、非常にまずい状況ではないだろうか?介護施設が取り扱う個人情報について、正確な知識と理解、そしてルールが無ければ、個人情報は守れない。

2.個人情報の定義について

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①生存する個人に関する情報であり、特定の個人を識別する「個人情報」

・個人情報に該当する項目

②情報単体から特定の個人を識別できる「個人識別符号」が含まれるもの

• 個人に関する情報:氏名、生年月日、住所、電話番号• 個人の属性に関する情報:個人の身体、財産、職種、役職等• 個人を判別できる情報:映像、音声• 特定の個人を識別できる情報:メールアドレス

• 細胞から採取されたDNAの配列情報• 介護保険証・健康保険証に記載されている記号、番号及び被保険者番号• 旅券番号・免許証番号・マイナンバー・基礎年金番号等• 国家資格の登録番号、雇用保険の被保険者番号• 指紋、顔の特徴、手の静脈、手の形、歩き方、声紋情報等

※個人識別符号に関する定義は、政令により定められている。

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2.個人情報の定義について

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③差別や偏見、不利益を助長する可能性がある「要配慮個人情報」が含まれるもの

・個人情報に該当する項目

• 身体障害・知的障害・精神障害・発達障害、その他の心身の機能障害等

• 医療機関で取り扱う、疾病の予防や早期発見を目的とした健康診断や検査の結果等により、個人の病気の特定や健康状態が明らかになる情報

• 医療機関で実施される疾病・負傷・心身の変化の改善を目的とする診療や治療、健康管理の内容、調剤情報等により、個人の病気の特定や健康状態が明らかになる情報

• 被害者や被告人の逮捕、捜索、差し押さえ、拘留、公訴と提訴など刑事事件に関わる手続きが行われた事実に関する情報

• 少年法に接触している者の調査、保護の措置、審判、保護処分、その他の少年保護事件に関する手続きが行われた事実に関する情報

• 本人の人種、社会的身分等の情報

※要配慮個人情報に関する内容は、政令により定められている。© 2019 青見健志

要配慮個人情報は漏洩することにより、偏見や差別、不当な差別や不利益が生じる可能性があり、取り扱いに配慮しなければならない情報

3.介護施設の個人情報漏洩を定義するなら

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・介護施設の個人情報漏洩の定義

介護施設が得た利用者、利用者家族、その他職員等の関係者すべてに関わる個人情報(任意の一人の個人に関する情報で特定の個人を識別できるもの)が、「個人情報を保有する者」および「個人情報に該当する者」の意図に反して、「故意」または「過失」により、第三者にわたること。

① 個人情報の利用範囲、目的について説明同意を得ていない使用② 規定のルール以外の目的に使用する不正利用③ 必要以上の個人情報を提供することによるプライバシーの侵害④ 個人情報の紛失(データを含む)⑤ 個人情報の流出(データを含む)⑥ 個人情報の盗難(データを含む)⑦ 個人情報が第三者の目に触れる、耳に入る、手元にわたる等⑧ その他

・個人情報漏洩に当たるケースについて

4.介護の現場における個人情報

高齢者が介護サービスを受けるために必要な個人情報とは?

介護を受ける側に立って想像してみよう

① 介護サービスを利用するために関係窓口へ相談すると、氏名・年齢・住所などの個人情報をフェイスシートに記録し、介護を提供するサービス事業者へ情報が共有される。

② 介護サービスが開始される前に、趣味・特徴・性格・生い立ち・経済状況・キーパーソン(主となる家族情報)・身体状況・病歴・かかりつけ医などの様々な情報が、必要情報としてケアマネージャーや介護サービス事業者に共有される。

③ 介護サービスが開始された時には、初めて対面する施設の介護職員が、自分の情報を話や書面上で知った状況で接することになる。

《介護サービスの利用開始まで》

利用者や利用者家族の個人情報を、取扱いに関する正確な知識がない人に活用されていると考えると、非常に危険である。

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4.介護の現場における個人情報

① サービス提供記録として、バイタルサイン、日々の介護記録、提供された介護サービスの内容、支払履歴など沢山の情報が毎日記録される。年月が経つにつれ、その情報量は膨大になり、介護保険法による決まりにより、最低でも五年間施設に情報が保存される。

② 施設に勤める介護職員を含め様々な関係者が、利用者の個人情報を知ることになる。新しく入社して情報を知る職員もいれば、情報を知り得たまま退職していく職員もいる。

③ 担当者会議や請求業務などで、FAX、パソコンデータ、メール、メモリースティック、紙媒体、サーバー、クラウドデータ通信等の様々な方法により、個人情報が日々共有される。

《要介護高齢者に介護サービスが開始されると》

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要介護利用者の情報提供に使われるFAXの誤送信は、日常的に起こっており、これは個人情報の漏洩にあたるが、関係者にその状況説明がされることもない。送信相手に電話で書類の廃棄をお願いしているが、本当に廃棄したか確認される事もない。

個人情報の取り扱いがわかっていない職員が沢山いるのでは?

5.個人情報はどのように漏洩するのか

・個人情報はどこから漏洩するのか理解しておきましょう

①施設で働く職員から②施設を出入りする人から③施設を退職した職員から④会社のパソコン・スマホ等の機器から⑤施設に泥棒が入ったとき⑥その他

パターンを考えると意外とシンプル

個人情報が漏洩するルートとパターンを、一つひとつ考え把握することで、対策を立てることが可能となる。

《介護施設の個人情報が漏洩するルート》

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《①施設で働く職員から》⚫ 施設で働く職員に、個人情報の取り扱いに関するルールやマニュアルが周知徹

底されていない。⚫ 個人情報保護に関する誓約書(確認書)を取り交わしていない。⚫ 職員が噂話をして、情報を関係の無い人に漏らす。⚫ 自分や会社のパソコンやスマホから、SNSを利用して、何も考えずに様々な情報

をアップしたり書き込む。それがネット上で炎上し、職場が特定され、情報が拡散される。

⚫ 利用者と関係のない周りの人(他の利用者・家族・近所の人)から質問をされた時に、何も考えず情報を漏らす。

⚫ 書類を鍵のついた棚に管理していない。⚫ 個人情報が入ったメモリースティックや鞄を紛失する。⚫ 書類が誰にでも見えるところで作成されていたり、置いてあったりする。⚫ 個人情報を記載した書類をシュレッダーにかけずにゴミ箱に捨てる。⚫ 仕事を家に持ち帰ることで、個人情報を施設外部に持ち出す。⚫ 担当者会議の書類などの記録情報を外に忘れる。⚫ 間違った場所に利用者情報を提供する。⚫ その他

5.個人情報はどのように漏洩するのか

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⚫ 施設に出入りする業者に対し、個人情報保護に関する誓約書(確認書)が取り交わされておらず、個人情報が漏洩する。

⚫ 施設を出入りする業者と仲良くなり、必要の無い情報を伝えたり、施設内の出入りを業者任せにして管理していない。

⚫ 施設に訪れる家族や見学者に対し、個人情報保護に誓約書(確認書)を取り交わしたり、施設で知り得た情報を漏らさないように説明をしていない。

⚫ 施設に訪れた人に対し、施設職員が必要のない情報まで話せば、それを聞いた人は、あそこの施設にはあんな人やこんな人がいると外で話をする。

⚫ 施設を出入りした人が、近所にいる○○さんが来ていたと、顔見知りの人の噂する。

⚫ 施設を出入りすれば、見えるところに書類があったり、見えるところで書類を作成していたり、必要のない情報を通った人が知ってしまう。

⚫ 許可なく写真を撮ったり、撮影をしたりする。それに対し職員が注意をしない。

⚫ 関係者でもないのに、敷地や施設内を出入りする。それに対して施設職員が、立入理由や身分確認をしない。

⚫ 何かしらの目的で、個人情報を盗み利用する。⚫ その他

《②施設を出入りする人から》

5.個人情報はどのように漏洩するのか

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⚫ モラルが低く、知り得た個人情報を外部に漏らす。⚫ もう関係ないと考え、中であった事をいろいろと噂したり、話題にする。⚫ 知り得た情報を、次に働く施設に提供する。⚫ 知り得た情報を新しく始めた仕事の営業や訪問販売などで利用する。⚫ 家に持ち帰ってやっていた仕事の書類が、そのまま残っている。⚫ 退職後も許可なく施設内を出入りする。⚫ 個人情報に関する教育を受けていない。

⚫ 個人情報に関する誓約書(確認書)を取り交わしていない。また、その中に退職後の取り決めがされていない。

⚫ その他

《③施設を退職した職員から》

5.個人情報はどのように漏洩するのか

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介護施設を退職する職員は、働いていた期間に知り得た様々な個人情報を持ったまま退職する。施設職員ではなくなった日から、その知り得た情報を活用する権限はなくなるため、知り得た情報を話したり、活用する行為は個人情報保護に違反する事になる。また、部外者という取り扱いになるため、施設内の出入りや、その後の情報等を聞かれても教えることはできない。

⚫ ウイルスに感染し、情報が知らないうちに盗まれる。⚫ パソコン等の情報機器にウイルス対策がされていない。⚫ 施設職員がウイルスに感染するはずがないと考えている。⚫ 職員によりパソコンがウイルス感染させられ、情報が知らないうちに漏洩する。⚫ 電子機器が盗まれたり、落としたり、忘れたりして情報が漏れる。

⚫ 便利なため、インターネットでいろいろと情報検索しているうちにウイルスに感染する。

⚫ 職員に電子機器が私物化され、勝手にフリーソフトや無料アプリをダウンロードして使われてる。

⚫ 仕事中のスマートフォンなどの電子機器の取り扱いに関する決まりがない。⚫ SNSやFacebookなどを活用した施設の案内やコマーシャル活動に、ルール決め

がされていない。⚫ SNSやFacebookなどを活用した施設の案内やコマーシャル活動に、利用者の写

真を使用する許可を得ていない。⚫ 家から持ってきたメモリースティック等を許可なくパソコンのUSBに差し込む。⚫ 外部の人から、様々な目的で個人情報が日々狙われる。⚫ その他

5.個人情報はどのように漏洩するのか

《④会社のパソコン・スマホ等の機器から》

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⚫ 介護施設の戸締まりがきちんとされていない。⚫ 重要な物が金庫等で管理されていない。⚫ 介護施設にセキュリティがかかっていない。⚫ 持って行きやすい場所に貴重品が放置してある。⚫ 日頃のチェックができていないことで、盗まれたことに気がつかない。⚫ そもそも泥棒が入ると思っていない。⚫ 施設職員に防犯教育がされていない。⚫ 個人情報を鍵のかかる戸棚に片づけない。⚫ その他

泥棒と言うと、外部から物を盗む事を想定するが、実は内部から持ち出すことの方が簡単である。日頃の管理体制が甘ければ、物がなくなったり、情報が持ち出されたりすることに誰も気が付かないままといった状況の方が実は多くある。介護施設は、沢山の他人が集まる場所である。安全という認識は捨て、防犯管理に努めて行かないといけない。

5.個人情報はどのように漏洩するのか

《⑥施設に泥棒が入ったとき》

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6.介護施設の個人情報管理について

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施設管理者や職員の知識が乏しいと、個人情報が日々漏洩している状況に全く気が付かず、事の重大性さえ認識していない施設が多々ある。

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・介護施設として、必ず作成しなければならない事項

① 個人情報の取り扱いに関するマニュアルと誓約書(確認書)② 利用者・利用者家族の個人情報取り扱いに関する同意書

個人情報取り扱いに関するマニュアルと誓約書(確認書)がなければ、個人情報の取り扱い方法が定まらない。そのため、利用者や利用者家族から同意書を取ったところで、個人情報が適切に管理されているとは言えない。

また、作成されたマニュアルが職員へ周知、理解されていない状況では、個人情報が適切に管理されているとは言えない。

6.介護施設の個人情報管理について

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① 個人情報保護取り扱いに関するマニュアルを説明する② 個人情報の取り扱いに関して、内容の理解が得られる③ 個人情報の取り扱いに関する誓約書(確認書)への同意(サイン)を得る

介護施設は、利用者と利用者家族から同意を得て介護サービスを提供している。そのため、施設に出入りする職員、業者、他人(ボランティアなど)に対し、施設が定めた個人情報の取り扱いに関する説明と誓約書(確認書)の取り交わしが必要である。

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・介護施設に入社した職員に対し最初にすること

介護施設で取り扱う利用者情報は、利用者と利用者家族から同意を得て取り扱いを行っている。その同意は、介護施設や施設職員が適切に個人情報を管理しているという約束の上で成り立っている。つまり、個人情報の取り扱いに関するマニュアルを理解せず、誓約書(確認書)への同意を得ていない職員が現場で働いていることは、利用者への個人情報管理に対する約束違反に匹敵するレベルとなる。

6.介護施設の個人情報管理について

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① 利用者や利用者家族に、個人情報保護に関する内容を契約書等に記載し、説明と同意を取る。

② 施設を出入りする業者に対し、個人情報保護に関する誓約書(確認書)を取る

③ 施設を出入りする人には、目的を確認し、必ずホルダーに入れた許可書等を首からさげて貰うなどの対応をする。

④ 施設見学者に対して、できるだけ個人情報を与えないために、見学ルートを作るなど一定の対応を心がける。

⑤ 利用者に関わる相談や担当者会議は個室で行うなど、周りに聞こえない配慮をする。

⑥ 施設の防犯体制について、パソコンのウイルス対策、監視カメラの設置、施錠の取り決め、警備会社との連携等により、セキュリティを強化する。

手間がかかるが、個人情報を保護する為には必要な作業である。

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・施設に出入りする人に行うべきこと

7.個人情報利用に関する例外事項

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生命を守る為の救急対応、災害に取り残された高齢者の情報提供など、必要とあらば個人情報を関係機関に速やかに提供することも大切である。

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・利用者の同意を得ずに、例外的に個人情報の利用が許される場合

① 法令に基づく場合(※)

② 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき

③ 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき

④ 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。

(※)関係機関が実施する児童虐待、犯罪、事件、横領、脱税の調査や国勢調査などの統計利用に関してなど

8.個人情報保護の意識が高まらない理由

・個人情報が漏洩すれば、どのような影響がでるのか答えられる?

個人情報は金銭を目的として盗まれる。一番狙われるのはクレジットカードやパスワード、そしてメールアドレスである。メールアドレスが漏れればウイルスや迷惑メールが送られ、個人のパソコンの中にある情報が盗まれる可能性が高まる。

そして、名簿販売事業者に個人情報が売られ、情報の販売先は、不動産会社(大手・中堅企業)、コンサルティング会社(不動産コンサル、営業代行等)、テレマーケティング会社、健康食品、化粧品、宝飾品販売会社などであり、その他、学習

塾、教育産業、教材販売、自動車教習所、成人式向けの呉服販売等が多く、大手(上場企業)から地方の商店まで幅広い事業者に販売されている。

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介護施設が保有する個人情報を管理するため、業務上の取り扱いについてマニュアルが作成され、日々厳しく管理されている。しかし、個人情報を取り扱っている施設職員へ、実際に漏れた先に何が起こるのか尋ねたところで、介護施設の信用低下や法的な罰則を受ける等の理解しかない点は問題である。

・個人情報が狙われる理由は?

9.個人情報はなぜ狙われるのか

・病院や介護施設の個人情報の販売は禁止されている。

個人情報の入手先が病院・介護施設の場合、その情報を買い取り、販売してはいけないルールがある。しかし、情報の出所について確認されることは少なく、名簿販売業者により入手先の情報を消すなど加工が施され、様々な企業に販売されている。

悪い輩は、寝たきり要介護高齢者の名前、住所、独居か同居、資産額、理解力低下等の情報を手に入れれば、簡単に詐欺、泥棒、強盗を働くことが出来ると考える。高齢者をターゲットにした詐欺がなくならないのは、個人情報が漏れているからである。

・個人情報は正確であるほど高額で取引されている

病院や介護施設にある個人情報はデータに誤りや偽りが少なく、情報の更新頻度も高い。他の業種が管理している個人情報を盗み出すよりも、極めて魅力的である。そのため、個人情報は常に狙われていると想定して、セキュリティを強化する必要がある。一般企業が漏洩する個人情報に比べ、病院や介護施設の個人情報が漏洩した場合、規模を問わず、個人に与える被害は大きくなる可能性がある。

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10.高齢者介護に個人情報は欠かせない

・利用者に関わる情報提供がなければ介護は行えない

ケアマネジャーは、業務管理や職員教育がしっかりと行われ、質の高い施設に利用者を紹介する。

利用者と利用者家族は、介護施設で働く職員は自分たちの個人情報を適切に管理取り扱いしていると信じて、介護サービスを利用する。その信頼関係を裏切らないように、職員一人ひとりが個人情報の知識と理解を持ち、施設に定められたマニュアルに則り、個人情報を取り扱っていかなければならない。

介護保険制度を利用して介護は行われており、そこには利用者情報を活用したモニタリングや実績記録などの、法律で定められた書類の作成と保管が求められる。そのため、介護サービスに関わる職員は、個人情報の取り扱いについて、知識と理解を持ち合わせた上で業務に当たらないといけない。

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・介護サービスを受ける利用者は施設を信頼している

11.個人情報保護のまとめ

個人情報を盗むのも、漏洩させるのもすべて人間人は他人の個人情報(プライバシー)を知りたいという欲求がある。個人情報は話のタネや噂になり、いろいろ知っていると注目される。個人情報は仕事で必要となり、会社には様々な情報が管理されてる。

個人情報を手に入れ、自分の利益のために販売する人がいる。詐欺や泥棒を目的として悪用する人がいる。手に入れた情報から、欲に駆られ犯罪を犯してしまう人がいる。

あなたが漏らした情報で、施設から盗まれた情報で

人のプライバシーが侵害されたり犯罪に巻き込まれたりだまされたりして 人が傷つく。

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《最後に》

個人情報は、認識・管理・対策の甘さで漏洩する。自分が個人情報を漏洩させると何が起こるのかをしっかり認識すべきである。

認知症独居高齢者の情報を漏らせば、その情報を知った悪質業者が家に訪れ、判断力が低下していることをいいことに、高額なリフォームを契約させるかもしれない。独居高齢者の情報を漏らせば、家にオレオレ詐欺の電話がかかってきてだまされるかもしれない。

介護の現場では、様々な個人情報を利用する。その情報を管理するのは、施設で働く職員である。個人情報を漏洩させれば、事件に発展し責任を問われる。

個人情報を取り扱う責任の重さを自覚し日々の行動に気を付けましょう!

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11.個人情報保護のまとめ

プライバシーの保護

第2部

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1.プライバシーとは

・プライバシーとは⚫ 個人や家庭内の私事・私生活。個人の秘密。また、それが他人から干渉・侵害を受けな

い権利

⚫ 個人的な日常生活や社会行動を他人に興味本位に見られたり、干渉されたりすること無く、安心して過ごすことが出来る自由

⚫ 自分が望む生き方を自由に選択し、他からの支配や干渉を受けず、自分の考えたやり方で行動し、その行動の結果に責任を持つこと

⚫ 個人の容姿、人格、性別、考え方、宗教、思想、生き方、病歴、経歴、前科等が国家や他人に否定や干渉されたり、差別や誤った印象を受けない権利

⚫ 個人の情報を自己でコントロールすることができる、もしくは事業者に提供した個人情報が法律に則り保護される権利

⚫ 個人の顔や体等を許可なく撮影されたり、公開されない権利⚫ 個人が開示した情報を公衆へ誤認させるような印象操作を受けない権利

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以前のプライバシーは、個人の私生活における自由を他人にみだりに見られたり、干渉を受けないという権利であった。しかし、インターネットの発達と普及による情報化社会において、電子データ上の個人情報の保護と削除についての(忘れられる)権利もプライバシーであり、個人が持つ多様な考え方や価値観が尊重されることや、経歴や宗教、思想などによる不当な差別や偏見を受けない権利もプライバシーと考えられるようになった。

2.プライバシーの侵害とは

⚫ 私生活を興味本位で探ったり、覗こうとしたり、住居等に侵入したりすること。

⚫ 他人に知られたくない個人の秘密や私生活について、公開されたり、噂を流されたり、干渉されること。

⚫ 個人情報の公開により、他人に自己の真の姿と異なる誤った印象を与えること。

⚫ 個人の嘘の情報を流したり、間違った印象を与えるような情報を公開すること。また、嘘や間違った情報を修正したり、削除したりすることができないこと。

⚫ 氏名や肖像を他人が利得のために流用すること。

⚫ 自分の姿が映り込んだ写真を許可無くテレビやインターネット上等に公開されること。

⚫ 個人情報が流出したことにより、日常生活や精神的に支障をきたすこと。⚫ 自分の望み通りに選択することができず、行動が人の裁量に委ねられる状態。

⚫ 容姿、人格、性別、考え方、宗教、思想、生き方、病歴、経歴、前科等を理由として、差別や偏見を持たれたり、社会生活において否定や干渉を受けること。

・プライバシーの侵害とは

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プライバシーの侵害という概念は、多様な価値観の混在する社会において、個人の権利と自由が、国家や地域社会、そして他人により侵害されることを意味している。

3.介護施設ではプライバシーが守られない

・介護施設には介護施設のルールがある

在宅で自立した生活を送ることができれば、自分の思い通りに生活を送れるが、介護施設で介護サービスを受けると、施設のタイムスケジュールに合わせた生活を送らないといけない。

介護サービスでは、入浴日が定められ、毎日風呂に入ることができなかったり、施設の都合により午前や午後に入浴時間が割り振られる。

また、食事においても、同じ空間に居る他人と同じ物を食べるなどバリエーションが少なく、同一のことを強いられる環境である。

自分の望み通りに行動を選択することができない状況が発生し、それを他人に委ねられている状況は、自己決定権がないことを意味している。

それは、介護サービスを受ける要介護高齢者のプライバシーが守られないことを意味している。

プライバシーの概念が変化し、多様な価値観や個人の自由が尊重される社会において、残念ながら介護サービスでは、業務の都合により真逆のことが行われている状況にある。

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4.介護現場におけるプライバシーとは

要介護高齢者介護が直面するプライバシー侵害について

介護を受ける側に立って想像してみよう

日常生活において、自分のことが自分で出来なくなり、やむなく介護を必要とする状態に陥る。介護をお願いするということは、自分の身体や生活の場を他人に見られ、干渉されることで、精神的な苦痛を味わうことや、介護を受ける高齢者が職員に気を遣い我慢する状況が発生する。介護に携わる職員は、そのことを理解し、要介護者のプライバシーが侵害され、人としての尊厳が失われないように注意が必要である。

① 事故防止を目的に様々な行動を監視、もしくは禁止される。② 入浴の際に裸を介護職員に見られる。業務時間の都合で丸洗いされる。③ 昼食やレクリエーションのバリエーションがない。④ 排尿や排便をしている姿を安全のため介護職員に監視される。⑤ 排尿や排便を失敗する姿を多くの介護職員に見られる。⑥ 送迎の際に部屋の中まで施設の職員が迎えにくる。⑦ 入所すれば生活全般の行動を施設職員に見られる。⑧ 入所して介護を受けると、個人の自由な行動が制限される。⑨ 要求や要望が多いと、あの人はワガママでうるさい人という印象を付けられる

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5.介護現場のプライバシーを考える

要介護者とプライバシーの関係

介護度が重度化するほど、個人のプライバシーは無くなっていく。4つのパターンに分け、プライバシーのことを考えてみよう。

①自立した元気な高齢者の場合

若者が、「年だから無理しないでね。」などと年寄り扱いをする。自分より年配だからと気を遣って、電車の席を譲ろうとする。

人のことを年寄り扱いして、余計なお世話だと急に怒り出した。

自分には必要のない干渉をされたことで、年寄りだと馬鹿にされたと受け取ったからである。自分は親切だと思っているが、相手にとって余計なお世話だと思われることがある。

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5.介護現場のプライバシーを考える

②介護度の軽い要支援者(軽介護)の場合

健康な自分が道を歩いているとき、「気を付けてね。」と何度も心配される。トイレに行くとき、「大丈夫ですか、手伝いましょうか?」と何度も心配される。階段を登るときに他人から「段差があるから、転ぶと危ないですよ」と何度も心配される。自分の行動に対してあまり干渉されると、いい加減にほっといて欲しいと怒り出すことは当然である。

まだまだ自立していることが多く、できる限り人には頼りたくないと考えている要支援者にとって、過剰な安全確認やできない前提の対応は、その利用者のプライバシー(日常生活の干渉)を阻害することになると理解しよう。

介護職員が見守りによる介助を中心に行う。危ない時に、「気をつけてね。」「大丈夫?」と声をかけ、必要時に対応することで解決することが多い。

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5.介護現場のプライバシーを考える

転倒のリスク、認知症による物忘れ、脳出血等の後遺症などが見受けられる。歩行やトイレに行く場合に見守りを行ったり、介助を行う必要が出てくる。

ショートステイやデイサービスの利用が開始され、一緒に介護サービスを受けている利用者と同じ食事や介護サービスを受ける。送迎で迎えに行く際は、玄関まで上がるなどの対応が必要となる。入浴の際は職員が付き添い、裸を他人に見られる。介護職員がいろいろと確認や質問を繰り返す。

③介護を必要とする要介護度1~2(中等度介護者)の場合

要介護1~2の状況になると、介護を必要とする場面が増え、プライバシーの侵害が大きくなってくる。自分の行動に、安全のため見守りや介助が必要となり個人の自由が無くなる。また、バリエーションの無い食事や介護サービスが繰り返され、入浴や排泄時には自分の見られたくない姿を他人へさらすことになる。介護に対し拒否をされたり、腹を立てる様子は、プライバシーの侵害による当たり前の反応である。苦痛の無い生活を送れるよう配慮が必要である。

33© 2019 青見健志

トイレ介助の時に介護職員が、「終わったら教えてくださいね。」、「立ったら危ないから呼んでくださいね。」と利用者へ声を掛けその場を離れた。結局、利用者から呼んでもらえず、気になって確認するとトイレで転倒していた。介護職員は利用者へ、「だから危ないってさっき言ったのに!」と言った。

《よくあるエピソード》

介護職員はよく、「高齢者は自分が危ないことをわかっていない!」と決めつけ対応している場合がよくある。実際は、「恥ずかしい」、「干渉されたくない」、「人に迷惑を掛けたくない」という理由から、自分で解決しようという行動であることを理解しておく必要がある。危ない・出来ない前提の声かけや対応をしている場合、さらに事故が増える結果となる。

また、新人職員などなじみの関係が構築されていない場合、お願いしにくいと思われ、呼び出しボタンなどで合図をしてもらえることが少なくなるため、仕事に慣れるまでは任せないような対応が必要になる。

本人が気にならない距離からの見守りをすることで、安全とプライバシーを確保したり、なじみの関係が構築されることで事故は減らすことができる。

《問題点》

34© 2019 青見健志

5.介護現場のプライバシーを考える

車いすや歩行介助が必要な場合、どこに行くにも介護職員の確認と介助が必要となる。認知症が重度化すれば、行動全てに介護職員の見守りや監視が必要となる。自分が望んでやりたいことは、もはや実現しないかもしれない。

入浴では体を見られ、人に体を洗われる。日中はオムツの着用により、排尿や排便の自由がなく、その排泄物を職員に見られる。ポータブルトイレがベッドの側に設置され、室内の環境が介護優先となる。食事はミキサー食などに限定され、自分の好きな物を食べる楽しみは失われる。

送迎時やホームヘルパーは、ベッドを設置している寝室まで入ってくるため、私生活の場を他人に見られる。

施設へ入所すれば、他人との共同生活を送り、時間の区切られた自由の少ない環境で過ごす。

④介護を必要とする要介護度3~5(重度介護者)の場合

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要介護3~5の状況になると、個人の自由な選択による活動は失われる。また、日常生

活のすべてに介護が必要な状態となり、利用者は自分の恥ずかしい姿を介護職員にゆだねる必要がある。それは利用者のプライバシーは全て侵害されている事を意味するため、介護職員は高齢者のプライバシーを理解し仕事に取り組む必要がある。

普段から利用者や入所者の声に耳を傾け、なじみの人間関係を築き、介護を受ける要介護者が精神的に苦しむことのないよう心がけないといけない。

要介護度が高くなると、プライバシーを侵害しないことが難しい状況となる。

介護職員は、その状況を理解した上で対応しないと、介護を受ける利用者は訴えることができない弱い立場にあり、「恥ずかしい」、「我慢している」、「苦しい」という精神的な苦痛を強いる状況に陥り、人としての尊厳が失われてしまう。

介護職員が利用者に対して、上手に声をかけ、利用者の要望を聞き出し、丁寧な介護を提供し、信頼される人間関係を築くことで、不穏や問題行動を減らし、介護事故やトラブルを防ぐことが出来る。

要介護高齢者に求められる介護とは、自分の家庭で過ごすような自由や安心感を提供することである。

《問題点》

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6.プライバシーまとめ

《要介護者に対するプライバシーへの注意点》

介護の仕事は、要介護者のプライバシーへ介護職員が介入しているという自覚が必要である。施設の職員に頼らざる得ない要介護高齢者は、弱い立場にるため、もしかすると施設職員の顔色をうかがい、我慢をしているかもしれない。

要介護高齢者に「できないから」、「あぶないから」、「わからないから」などと決めつけ、強い口調で注意したり、介護をしてやっているといった感覚や態度を見せてはならない。利用者のプライバシーが無くなると言うことは、人としての尊厳が失われるこを意味している。

介護を提供することでサービス料を頂いている。仕事として利用者の尊厳が守られた介護を提供しなければならない。

自分がされたくない、見られたくない、言われたくない、望まないことは、子供も大人も高齢者(要介護者)も同じである。利用者の体のことについて、バカにしたり、裏であだ名をつけ呼ぶこともプライバシーの侵害である。

なじみの関係が無い新入職員が「空気が読めず」、「間合いが読めず」、要介護者のプライバシーを侵害してしまい、怒鳴られたり、介護拒否をされることは当たり前のことである。ベテラン職員は配慮しておく必要がある。

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6.プライバシーまとめ

《最後に》

介護施設では、利用者のプライバシーを守りなさいと言われても、非常に難しく、職員は業務に追われ、要介護者の安全や見守りを優先させるがために、プライバシーを侵害してしまう。

介護を受ける高齢者にどれだけ精神的な苦痛を与えず、家庭で過ごしているような自由で安心した気持ちで過ごしてもらえるのかが重要な課題となる。

要介護者としっかりとした人間関係を築くことで、要望を聞き出したり、プライベートゾーン(距離)を縮め、恥ずかしいという気持ちを和らげ、上手に対応できるように心がけていこう。

《施設の謳い文句「家庭的な雰囲気」とは》

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要介護高齢者が望む自分の家庭に近い状況でプライバシーが保護され高齢者の尊厳が守られていることである。

7.職員の個人情報とプライバシー

《一緒に働く職員にもプライバシーと個人情報がある。》

職員情報は円滑な業務運営を目的として管理されている。業務中に知り得た情報は必要目的以外で使用することは禁止されている。

また、職員同士で人の噂を流したり、悪口を言ったりするのはマナー違反になる。自分が陰で言われたら嫌な事はみんな同じである。

自分の口から余計な自分の個人情報を垂れ流すと、尾ひれがついた噂が流れるかもしれない。人の批判ばかりして、口が軽いと信用を失い、誰も本音で話してくれなくなり孤立する。介護の仕事はチームワークが必要なため、円滑なコミュニケーションが必要不可欠である。人間関係が崩れると、職場の雰囲気が悪くなり、仕事が苦痛になる。その影響は介護の質の低下として利用者へ現れる。

《働きやすい職場を目指すなら》

施設で働く職員の個人情報とプライバシーが守られ、良識のあるコミュニケーションにより、良好な人間関係を築かれることで、互いに協力しながら介護の業務に当たることができる職場を作ることである。

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