金融行政の動向と 顧客本位の経営に求められる課題...

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有限責任監査法人トーマツ 2018227~ 持続可能なビジネスモデルの構築とは ~ 金融行政の動向と 顧客本位の経営に求められる課題

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Page 1: 金融行政の動向と 顧客本位の経営に求められる課題 …...ベストプラクティス追求のため の「見える化と探究型対話」へ 「見える化」

有限責任監査法人トーマツ2018年2月27日

~持続可能なビジネスモデルの構築とは ~

金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

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Ⅰ. 金融行政の動向 2金融行政運営の基本的な考え方

検査・監督のあり方の見直し

Ⅱ. 顧客本位の経営 18

家計の安定的な資産形成が必要とされる背景

金融機関の取組みの見える化

地域金融機関の現状と課題

顧客本位の金融仲介の取組み

持続可能なビジネスモデルの構築に向けた対応

目次

本資料は信頼できると判断した資料・データ等により作成いたしましたが、その正確性および完全性について保証するものではありません。参考に

いたしました資料やそこに記載されていた数値等につきましては、その合理性や妥当性についてのレビューは行っておりません。

本資料中に記載された意見や予測は作成時点のものであり、今後新たな情報等が得られた場合には予告なく変更される可能性があります。

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Ⅰ. 金融行政の動向

2 金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

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金融行政運営の基本的な考え方

3 金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

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© 2018. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC.金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題4

金融行政運営の基本的な考え方

金融庁は、金融行政の目標とそれを実現するための各施策を明確にしています

金融庁は、金融行政の目指すものを「金融行政方針」に明示。その進捗状況や実績を評価した「金融レ

ポート」を公表し、その評価を翌事務年度の「金融行政方針」に反映させるとしています。(PDCAサイクル)

金融庁が目指すもの ⇒ 企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大

こうした目標を実効的に進めるために金融庁・金融行政の改革をはじめとして、各種施策を掲げている

金融システムの安定 金融仲介機能の発揮

利用者保護 利用者利便

市場の公正性・透明性 市場の活力

1

2

3

国民の安定的な資産形成に資する金融・資本市場の整備顧客の信頼・安心感の確保

それぞれの両立

金融当局・金融行政運営の改革

国民の安定的な資産形成に資する金融・資本市場の整備

金融上の課題の包括的検討

金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保

IT技術の進展等への対応

顧客の信頼・安心感の確保

金融行政運営の基本方針

出所:金融庁「金融行政方針」(平成29年11月)

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© 2018. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC.金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題5

金融行政方針からのメッセージ

金融庁は、環境変化への機動的な対応を求めています

~ 既存のビジネスモデル、既存の思考回路、既存の組織運営の見直し ~

12

3

4

5

環境変化への機動的な対応~少子高齢化の進展、低金利環境の継続、テクノロジーの進展 ~

財務の健全性と資本効率の確保~収益・リスクテイク・自己資本の間のバランス ~

持続可能なビジネスモデルの構築~金融仲介機能の発揮、共通価値の創造 ~

フォワードルッキングなリスク管理~ コンダクトリスク、主要なバリューチェーン総合的検証 ~

顧客本位の業務運営のためのベストプラクティスの追求~安定的な資産形成、質の高い金融サービス ~

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検査・監督のあり方の見直し

6 金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

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© 2018. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC.金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題7

金融行政の新たなアプローチ

金融庁では、「見える化」と「市場メカニズムの発揮」による金融サービス競争を促進しようとしています

最近の金融行政をみると、「責任ある機関投資家の諸原則」(2014年)、「コーポレートガバナンス・コード」(2015年)、「顧客本位の業務運営に関する原則」(2017年)の策定など、従来のルールベースからプリン

シプルベース・アプローチ(原則主義)に転換、金融機関に対しては、原則を採択するかどうかを含めて経営の自主性を尊重する方向へと変化

こうしたアプローチは、「見える化」により顧客の金融機関選択を促し、「市場メカニズムの発揮」により金融機関におけるより良質なサービス競争の促進を企図

これまで法令等が事実上の最低基準(ミニマム・スタンダード)となり、形式的・画一的な対応を助長

金融庁は「見える化」を進め、より良い金融商品やサービスの提供を競い合う環境の整備に注力

完全競争市場においては、顧客本位でない金融機関は市場メカニズムによって淘汰される

もっとも、現実には情報の非対称性が存在し、どの金融機関が顧客本位なのかよく分からず、市場メカニズムによる淘汰が発生しにくい

情報の非対称性を無くし、市場メカニズムを発揮させるために金融機関の「見える化」を進める

背景等

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新しい検査・監督の進め方

金融庁では、有識者会議の提言を踏まえ、新しい検査・監督を実現するための基本的な考え方を明らかにしています

「金融モニタリング有識者会議」では、検査・監督の目指すべき方向と対応すべき課題等を示した報告書「検査・監督改革の方向と課題」を公表( 2017年3月)

金融庁では当該報告書を踏まえ、「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」 (案)を公表、今後、個別の分野についてディスカッション・ペーパーの形で対話の材料を提供予定

金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

最低基準検証 動的な監督 見える化と探究的対話

最低基準検証を形式チェックから実効性の評価へ

最低基準検証の意義

従来の最低基準検証の課題(形式・過去・部分への集中)

最低基準検証の進め方

フォワードルッキングな分析に基づく動的な監督へ

動的な監督の意義

将来を見据えた分析(ストレステストの活用等)

柔軟かつ実効性のある対応

ベストプラクティス追求のための「見える化と探究型対話」へ

「見える化」

多様な創意工夫に向けた「探究型対話」

業界による自主的な取組み

検査・監督の進め方(「実質・未来・全体」を実現するための手法)

優先課題の重点的なモニタリング、オン・オフ一体の継続的なモニタリング、高い専門性等

出所:金融庁「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)(案)」(平成29年12月)

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新しい検査・監督の方向①

金融行政の究極的な目標との整合性確保

金融行政の究極的な目標である「企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大」を達成するためには、金融システムの安定と金融仲介機能の発揮の両立、利用者保護と利用者利便の両立、市場の公正性・透明性と活力の両立の実現が必要

金融行政を巡る環境や優先課題が変化する中、検査・監督のあり方が金融行政の究極的な目標と整合的な姿となっているか、継続的な点検・見直しが必要

「市場の失敗」の存在

金融行政の中核的な目標

金融行政の付加的な目標

金融行政の究極的な目標

金融システムのネットワーク性に由来する外部不経済

情報の非対称性

金融

システムの安定

市場の公正・透明

金融仲介機能の発揮

利用者の最善の利益に沿った商品・サービスの提供

市場の活力

企業・経済の持続的成長

国民の厚生の増大

安定的な資産形成

利用者の保護

・・・・

金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

出所:金融庁「第1回金融モニタリング有識者会議資料」(平成28年8月24日)、「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)(案)」(平成29年12月)

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新しい検査・監督の方向②

「形式・過去・部分」から「実質・未来・全体」へ

当時の主な課題

金融行政への信頼回復

不良債権問題の解決

利用者保護のためのミニマム・スタンダードの徹底

発足当時の検査・監督の方針

ルール重視の事後チェック行政

厳格な個別資産査定中心の検査

法令遵守確認の徹底

コンセプト 内容

形式 実質

最低基準(ミニマム・スタンダード)が形式的に守られているかではなく、実質的に良質な金融サービスが提供できているか(ベストプラクティス)へ

過去 未来過去の一時点の健全性の確認ではなく、将来に向けたビジネスモデルの持続可能性があるか

部分 全体特定の個別問題への対応に集中するのではなく、真に重要な問題への対応が出来ているか

検査・監督見直しの3つの柱

出所:金融庁「第1回金融モニタリング有識者会議資料」(平成28年8月24日)、「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)(案)」(平成29年12月)

金融庁は、金融危機時の優先課題(金融行政への信頼回復、不良債権処理等)に対応するため、ルール重視の事後チェック型の行政や資産査定を中心とした検査・監督手法を確立。当時の優先課題の解決に寄与

もっとも、こうした検査・監督手法を機械的に継続したことで、「形式への集中」、「過去への集中」、「部分への集中」といった副作用が、当局の側にも金融機関の側にも発生

このため、検査・監督の全般にわたり「形式から実質へ」、「過去から未来へ」、「部分から全体へ」へと視点を拡大するための見直しが必要

⇒ この結果、不良債権問題は収束し、最低限の利用者保護の徹底が図られた

10 金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

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© 2018. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC.金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題11

新しい検査・監督の方向③

持続的な最低基準充足を確保するための「動的な監督」

出所:金融庁「第3回金融モニタリング有識者会議資料」(平成28年10月24日)、「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)(案)」(平成29年12月)

収益

自己資本

リスクテイク

収益・リスクテイク・自己資本間のバランス

経営環境が変化(人口減少、低金利継続、テクノロジーの進展)する中、持続的な最低基準充足を確保するためには、一時点の資産査定等の充足状況を確認するだけではない「動的な監督」が必要

すなわち、収益・リスクテイク・自己資本の間のバランスがとれているか、変化する環境の中でビジネスモデルが持続可能かといった点を全体的・実質的に評価することが重要

金融機関が将来的に最低基準に抵触する蓋然性について、個別の特性等を踏まえた分析(ストレステスト等)を行い、一律の処方箋を押し付けるのではなく、課題認識、根本原因および改善策の妥当性について、適切な問いかけを続けることにより解決を探ることが重要(柔軟かつ実効性のある対応)

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新しい検査・監督の方向④

ベストプラクティスの追求に向けた探究的対話

最低基準の遵守状況のチェック

チェックボックス的な検証ではなく、ガバナンス、企業文化、内部管理態勢が全体として機能しているか

個別の問題事象については、根本原因の追求を通じ、同原因の問題が形を変えて発生することを防ぐ

個別の規定の適用に当たっても、法令等の全体構造を把握した上で、保護すべき利益を特定し判断

内部監査に依拠すべき事項は内部監査に委ねる

持続的な最低基準充足を確保するための動的な監督

将来を見据えた分析(マクロ・プルーデンス手法の深化)

収益性やビジネスモデルの持続可能性に遡った検証

自らの環境やリスク特性に応じたシナリオを用いたストレステスト

金融機関ごとの経営環境、ビジネスモデル、リスク特性を踏まえた根本問題についての対話

早期警戒制度の見直し

ベストプラクティスのための「見える化と探究型対話」

ルールやチェックリストからプリンシプルを中心とした枠組み

開示の促進等を通じて、ベストプラクティス追求を弱めている要因の排除

水平的レビュー、企業ヒアリング等を通じた個別金融機関の分析

当局が収集した情報(商品・サービスの内容・品質等)の公表

業界の自主ガイドライン等の取組み

(例)(例) (例)

検査・監督のアプローチ

出所:金融庁「第2回金融モニタリング有識者会議資料」(平成28年9月30日)、「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)(案)」(平成29年12月)

環境変化や新たな課題(持続可能で多様なビジネスモデルの確立、フォワードルッキングなリスク把握と対応)の優先度が高まる中、「ベストプラクティスのための見える化と探究的対話」が必要

「ベストプラクティスに向けた対話」としては、当局が広く金融機関の優れた取り組みや、利用者から見た金融機関の状況を把握・蓄積したうえで、的確な質問や情報提供を通じて金融機関自身の自主的な対応を促すことが重要

また、利用者や株主による金融機関の選択・選別がより的確になされるよう、「見える化」の促進等の環境整備を通じて、金融機関の側における横並び意識や内向きの意識を解消していく

12 金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

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新しい検査・監督の方向⑤

フォワードルッキングなリスク把握

金融庁では、個別金融機関のミクロの動きと経済・市場全体のマクロの動きの相互作用を把握しつつ、金融セクター全体に内在するリスクをフォワードルッキングに把握、個別金融機関への働きかけなどを通じて、金融システムの安定を確保するアプローチを指向

ミクロ・マクロデータ分析/市場参加者や金融機関との意見交換

マクロ経済分析(先進国・新興国) 各国金融政策動向 内外市場動向(株式、債券、為替、商品) マネーフロー

金融機関の経営戦略・決算分析 貸出・運用・動向 資金調達・流動性 市場参加者等との意見交換

金融システムの潜在的リスクの把握

金融機関へのヒアリング データ収集水平的レビュー

リスクの波及経路の検証・影響評価

金融機関への働きかけ 必要な規制・監督対応

リスク管理態勢の高度化 経営管理態勢の強化 ビジネスモデルの持続可能性

規制ツールの整備・運用 好取組事例の共有

出所:金融庁「第3回金融モニタリング有識者会議資料」(平成28年10月24日)

フォワードルッキングな

モニタリング

深度ある対話

13 金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

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新しい検査・監督の方向⑥

従来の検査(・監督) 問題意識 新しいモニタリング

<何をどう見るか>

財務の健全性に関しては個別資産査定が中心

財務の健全性以外に関しては法令遵守態勢のチェックが中心

個別資産査定に集中し、金融機関の経営全体の中で真に重要な

リスクについて、論議ができていないのではないか、金融機関の

融資判断を、検査官に説明しにくい事業性よりも担保・保証等中

心に偏らせる影響が生じかねないのではないか

金融機関が、当局検査の指摘の対応を含め証跡を残すことなど

形式的な面に過度に注力しており、実質的なリスク管理や顧客保

護態勢の向上につながっていないのではないか

原則、金融機関の自己査定

を尊重、取引先の財務だけ

ではなく事業を評価している

か議論

課題に応じて、ビジネスモデ

ルやガバナンスを含めた根

本原因について論議

出所:金融庁「第4回金融モニタリング有識者会議資料」(平成28年11月22日)

オン・オフ一体の継続的なモニタリング

<いつだれがモニタリングを行うか>

原則、一定の周期に基づきオンサイト検査対象先を選定

経営環境の変化が加速しているのに、定期検査の間の期間の

新たな課題の発生に機動的な対応ができないのではないか

一律の総花的な検査は非効率。課題の大きな検査先に対し、継

続的な改善を求める効果的な対応ができないのではないか

オフサイトでの継続的なモニ

タリング、必要な場合には、

重要なテーマに絞って機動

的にオンサイトを実施

<結果をどう伝えるか>

検査では、金融機関と合意した内容について確認表を作成し、確認表に基づき検査結果を通知

検査では何らかの指摘事項を見出してくることが期待される一

方、金融機関と合意できた事項のみ指摘する慣行があったため、

重要な経営課題の深度ある検証よりも、金融機関と合意しやす

い形式・表層的な指摘に注力しがちになっているのではないか

検査において、金融機関と合意が得られない場合には、確認表に両論を併記し、検査官の所見などの形で金融機関へ提示

14 金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

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検査マニュアルの廃止

検査マニュアルは平成30年度終了後を目途に廃止へ

検査マニュアルは、金融危機の時代に自己査定、償却・引当、リスク管理、法令等遵守・顧客保護等に

関する最低限の基準の遵守態勢を確立するうえで、一定の役割を果たす

他方、検査マニュアルを用いたチェックリスト方式の検査の弊害も生じ、機械的・網羅的な確認ではなく

問題の本質は何なのか、金融行政目標に遡り、実質的に判断していく必要

こうしたことから、検査マニュアルは別表も含め廃止することとし、廃止時期については、実務での誤解

や混乱が生じないよう、準備期間を設け平成30年度終了後(平成31年4月1日以降)を目途

考えられる役割 課題

(行政の着眼点の明確化)

裁量行政に陥ることを防止し、行政の透明性・公平性・対外的な説明責任を確保

金融機関と当局の間の議論の共通の前提を確保

金融機関での自主的な活用を通じて、自己管理の高度化に寄与

(検査・監督のクオリティコントロール)

検査・監督担当者の研修資料・手引書として、モニタリングの質を担保

モニタリングの知見・経験を蓄積し、行政としての継続性を確保

チェックリストによる確認が検査の焦点になると、検査官による形式的・些末な指摘の増加につながり、また、実質や全体像が見失われるおそれ

金融機関がチェックリストの形式的遵守を図ると、自己管理の形式化・リスク管理のコンプラ化につながるおそれ

金融機関に、最低基準のみ遵守していればよいというカルチャーを生むおそれ

環境や課題の変化への機動的な対応への妨げや、自己変革を避ける口実となるおそれ

15 金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

出所:金融庁「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)(案)」(平成29年12月)

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検査マニュアル別表の廃止

検査マニュアルは平成30年度終了後を目途に廃止へ

検査マニュアル別表は、金融機関における自己査定態勢に係るいわば最低限の実務を確立するため

に整備されたもの、いつまでも最低基準の実務にとどまるのではなく、より優れたプラクティスに向けて

各行が改善を図ることが期待(⇒金融機関の現状の実務を否定するものではない)

検査マニュアルを超えた取組みを工夫している金融機関も見られる一方、検査マニュアルに記載され

ているプラクティスからの乖離に消極的になったり、マニュアル通りにやっていればいいとして、思考停

止に陥っている金融機関も

こうした中、メインバンクが取引企業の抜本的な事業再生を行おうとしても形式的な基準を当てはまる

と引き当てが増えるとして、メインバンク以外が反対し、事業再生が進まないケースも

16 金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

出所:金融庁「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)(案)」(平成29年12月)

金融庁では、個別貸出の査定や償却・引当に着目するのではなく、償却・引当の水準が全体として適切か否か、会計基準に沿った適切な償却・引当が実現できるよう金融機関の態勢が適切に機能しているか否か、といった点に着目して検証

こうした点について、今後、金融機関の規模・特性に応じた対応のあり方も含め、現状の実務を出発点とした今後の改善の道筋としてどのようなものが考えられるかディスカッションペーパー等を用いて関係者と議論を深めるとしている

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金融庁の組織再編のイメージ

金融庁は、金融行政の戦略立案機能の強化を目的に組織再編へ

現 在 2018年7月以降

監督局

検査局

総務企画局

監督局

総合政策局

企画市場局

業態ごとのモニタリングの一体化

個別金融機関の日常的な検査・監督

総合司令塔としての機能

専門分野別チーム(IT・リスク管理・市場分析等)の機能

金融市場のルール策定・運用

フィンテックへの対応強化、市場機能強化

金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

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Ⅱ. 顧客本位の経営

18 金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

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家計の安定的な資産形成が必要とされる背景

金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題19

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顧客本位の業務運営が必要とされる背景

これまで蓄積された国民の貯蓄(資産)を安定的に増大させていくためには、顧客本位の業務運営の確立・定着が必要となります

我が国には1,800兆円を超える家計金融資産が蓄積されているが、現状はその過半を占める900兆円以上が現預金

であり、米英に比べ株式・投資信託等の割合は低い

我が国の家計金融資産に占める現預金の割合(2016年末51.7%)は、米国(13.7%)等に比べ高い

一方、株式・投信等の割合( 2016年末18.6%)は、米国(46.2%)等に比べ低い

このような家計金融資産構成の違いから、我が国の家計金融資産の伸びは、米英に比べて低い水準にとどまってお

り、家計の安定的な資産形成が図られているとは言い難い状況

過去20年間で米国は3倍以上に大きく増加している一方、我が国では1.5倍程度の増加にとどまる

金融庁では、人口の減少や高齢化の進展に直面する我が国経済にとって、蓄積された国民の資産を有効に活用す

ることで家計が安定的に資産形成を行い、ひいては消費・投資が活性化されることが重要としている

こうした中で、「つみたてNISA」の創設、投資初心者を主な対象とした実践的な投資教育の促進と情報提供

併せて、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの制定などにより、企業の収益力向上・中長期

的な価値の向上を促す

その上で、金融機関等には顧客の利益を最優先する「顧客本位の業務運営」(フィデューシャリー・デューティー)の確

立と定着を求めている

20

出所:金融庁「金融レポート」(平成29年10月)

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© 2018. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC.金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

顧客本位の業務運営の進捗状況

金融行政方針においてフィデューシャリー・デューティーの取組みを重点施策として掲げて以降、大手金融機関で「宣言」等の公表が始まりました

「平成26事務年度金融モニタリング基本方針」(平成26年9月)2頁より引用

家計や年金、機関投資家が運用する多額の資産が、それぞれの資金の性格や資産保有者のニーズに即して適切に運用されることが重要である。このため、商品開発、販売、運用、資産管理それぞれに携わる金融機関がその役割・責任(フィデューシャリー・デューティー)を実際に果たすことが求められる。

「平成27事務年度金融行政方針」(平成27年9月)4頁より引用

フィデューシャリー・デューティーの浸透・実践投資信託・貯蓄性保険商品等の商品開発、販売、運用、資産管理それぞれに携わる金融機関等が、真に顧客のために行動しているか検証するとともに、この分野における民間の自主的な取組みを支援することで、フィデューシャリー・デューティーの徹底を図る。

2015年の金融行政方針の公表以降、大手金融機関では相次いで、いわゆるフィデューシャリー・デューティー宣言を公表

2017年3月の「顧客本位の業務運営に関する原則」を踏まえ、方針の見直しを行っている金融機関、新たに方針の策定を行っている金融機関も見られた

有識者を招聘し、自社の取組み等の改善に向けた提言を受け、取組方針等の見直し

顧客本位の業務運営方針における各種取組みに係る具体策を公表

2017年月12末までに取組方針の見える化を目指し、銀行、証券、保険会社など計935の金融事業者が取組方針を公表 顧客本位の業務運営の定着度合いを客観的に評価できる成果指標(KPI)の公表

21

国内でフィデューシャリー・デューティーに関心が高まったのは、2014年に金融庁が公表した金融モニタリ

ング基本方針にその役割等が記載されたことがきっかけ。翌年の金融行政方針においてフィデューシャリー・デューティーの浸透・実践として、真に顧客のために行動しているか検証するとしています。

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テーマ型投資信託が多く、ブームが過ぎると基準価格が下がるおそれ

売買のタイミングを適切に見極めることは困難で、株価のピークにおいて株式投信が最も売れる傾向

高い販売手数料や信託報酬の投資信託が多い

販売手数料は、低下傾向もうかがえるものの、販売額上位の商品では上昇、足下で手数料の高い商品にシフト

毎月分配型投資信託が売れ筋、投資信託残高の過半を占める

複利効果が働きにくいほか、元本を一部払い戻して高分配を続けている場合がある。「分配金として元本の一部が払い戻されることもある」ことなどを認識していない顧客が約半数

回転売買が多い

22 金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

顧客本位の業務運営の現状

金融庁では、投資信託の販売実態について問題提起を行い、安定的な資産形成につながっていないと認識しています

現行の営業体制を維持しながら顧客本位の取組みは可能か

多数の営業担当者を擁し、収益を優先して需要を掘り起こすプッシュ型のビジネスモデルとなっているとの指摘

現場の不適切なカルチャーを助長する要因として、営業ノルマやインセンティブ等の仕組みを廃止する動き

安定的な資産形成に資する商品(投資初心者が安心して投資でき商品)の開発は進んでいるか

実践的な投資教育の促進と情報提供が進んでいるか

投資教育を受けた経験がない人が約7割、そのうち約7割の人が投資の知識を身に付けたいと思っていない

出所:金融庁「金融レポート」(平成29年10月)

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金融機関の取組みの見える化

金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題23

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成果指標(KPI)の好事例

金融庁では、 顧客本位の業務運営を定着させるための取組方針とともにその定着度合いを客観的に評価できるKPIに注目しています

現状、公表されているKPIは投信関連に限定されている状況。今後は、テーマ別に順次拡大していくことが予想される

(金融庁が紹介したKPIの好事例)

金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題24

出所:金融庁『「顧客本位の業務運営に関する原則」を採択し、取組方針を公表した金融事業者のリストの公表について』(平成30年1月23日更新)

成果指標(KPI) 顧客本位の取組内容の例

投資信託の運用損益別顧客比率 インベスターリターンと基準価格の騰落率との差

投資信託の販売額上位商品、その販売額/構成割合

投資信託における長期・積立・分散投資の状況

投資信託販売に占める毎月分配型販売額/構成比

投資信託残高に対する分配金の割合

投資信託の販売額に占める自社グループ商品の比率

顧客の運用による成果をより分かりやすくすることを示す

足下と5年前の売れ筋商品を比較することで中期分散投資を軸とした商品提案の進展を示す

長期的な資産形成ニーズに対して、平均保有年数、販売に占める積立投信(つみたてNISA等)の比率を示す

長期的な資産形成ニーズに対して、分配頻度の少ない商品を提供していることを示す

グループ会社の商品に捉われることなく、幅広い候補から商品を選定していることを示す

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© 2018. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC.金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題25

金融機関間で比較可能なKPIの公表

金融庁では、比較可能なKPIの公表により、更に金融機関の取組みの「見える化」を促進するとしています

「原則」の定着に向け、金融機関の取組みの「見える化」を促進 金融機関間で比較可能なKPI等の公表

(長期的にリスク・手数料等に見合ったリターンを提供しているか) 金融機関へのモニタリング

-把握した結果について、全体の傾向や取組事例等をとりまとめて公表-金融機関が掲げている顧客本位の取組方針が、多数の営業職員を擁して需要を掘り起こす「プッシュ型」の営業体制下で実現可能か、分析・検証

2017年3月の「顧客本位の業務運営に関する原則」からの進化・明確化

「長期的にリスク・手数料に見合ったリターン」という考え方について、金融庁は明示的には基準を示していない

今後、金融機関において、サービス対比の手数料を明示するためには、提供しているサービスの内部でのアンバンドリング化などが必要。これを実施するためには、商品別の管理会計の精緻化・高度化等も求められる

また、「インベストメントチェーン」全体の視点や顧客属性の詳細な分析・管理に加え、商品企画機能・役割の見直しや、顧客データ管理の高度化等が合せて必要

出所:金融庁「金融行政方針」(平成29年11月)

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© 2018. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC.金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題26

民間の第三者的な評価機関

「見える化」の次のステップとして、民間の第三者的な主体による金融機関の取組みを評価するビジネスがスタートしています

「見える化」された取組みを評価し、結果を公表する民間機関の設立に広がり

投資信託の販売業務を行う金融事業者がいかに「顧客本位の業務運営」を行っているかについて、取組方針や取組状況を評価・格付する取組み

投資信託のフィーが同じ投資信託商品グループの中で相対的に高いか安いかを示すツール(報酬の相対的な高さを表示)を提供する取組み

こうした第三者評価機関に加え、

金融事業者自身が行う顧客本位の業務運営に係る取組状況の評価・検証(PDCA)について助言・サーポート等を行う取組み

民間の第三者的な主体による金融機関の取組みの「見える化」については、すでに、投資信託の信託報酬に関する指標が開発・公表されるといった形で、金融事業者の業務運営に係る評価指標の開発・提供が行われている

こうした第三者評価が、客観性・中立性を確保する形で行われていくよう、民間の取組みを促進

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© 2018. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC.27 金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

顧客本位の業務運営に関するPDCAサイクル

顧客本位の業務運営について、取組状況を定期的に公表するとともに、取組内容についても見直しすることが求められます

方針策定後の運用状

況を、グループ横断的

に検証

方針と運用状況の

ギャップの洗い出し

次年度に向けた課題

の整理

洗い出された課題への

対応策の策定・実施

次年度方針の策定

「顧客本位の業務運営方針」の公表 方針に基づく取組を実

顧客本位の

業務運営.

Plan

顧客本位の業務

運営方針策定

Do

方針に基づく

取組み

Act

課題への対応策

方針の改訂

Check

方針と取組状況

の検証・分析

取組内容の現状評価課題への対応・次年度方針策定に

あたっての助言 等

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© 2018. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC.金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

「顧客本位の業務運営に関する原則」を踏まえた金融事業者の行動

顧客本位の業務運営を確保するためには、経営トップのリーダーシップの発揮をはじめ、マネジメント層、現場レベルでの適切な行動が求められます

28

経営トップのリーダーシップの発揮

顧客本位の業務運営(あるべき姿)を実践するため、現状の態勢における課題を把握(ギャップ分析)

こうした分析を踏まえ、経営方針・行動規範・事業計画等の見直し、アクションプランの策定・進捗状況の確認

この際、既存の組織・規程等に屋上屋を重ねるのではなく、効率化の発想(トップの捨てる覚悟)、顧客本位の業務運営の趣旨を踏まえた「再構築」が必要

顧客本位の業務運営を遵守するための意識を共有し、実践する企業文化の定着

マネジメント層における事業計画等の策定・実施、フォローアップ

経営方針・行動規範(ルールや枠組み)の浸透・定着に向けた取組み

顧客本位の業務運営の定着度合いを評価するための成果指標(KPI)の策定・モニタリング

利益相反管理態勢の整備及び利益相反回避策の検討

フロント部門のモニタリングによる遵守状況のチェック、内部監査による浸透度合いの検証

現場レベルでの実践を通じた浸透、フィードバック

現場レベルによる主体的な気付き・創意工夫を発揮し、具体的方策をマネジメント層へ提案

顧客情報の収集・分析、顧客セグメントの分析、ターゲット顧客層等の選定

顧客のニーズを的確にとらえた商品選定(商品のリスク・複雑性に応じて販売すべき顧客属性の想定)

投資未経験者向け営業施策の策定・実施

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© 2018. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC.金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題29

退職世代等に対する金融業の貢献

金融庁では、退職世代等に対する金融サービスのあり方の検討を進めるとしています

金融庁が退職世代への金融サービス提供を推進する背景には、日本の金融資産の大半を退職世代が保有しており、それが有効活用されていないという問題意識

高齢化が進む中、退職世代の経済的安定も重要な問題

目的①眠っている預金を資産形成に 目的②退職世代の経済的安定

金融審議会「第5回市場ワーキング・グループ」 議事録(2016年9月、金融庁)

家計金融資産の形成に関する議論において、委員発言

「1000兆円が60代以上のところで集中しているということでございますから、この退職世代に投資を促す仕組みづくり、つまり、退職金の運用等に適したローリスク、ローリターンのポート

フォリオの提示を積極的にやっていく必要があると考えます。これは、官民を挙げて横断的に退職世代の預貯金に滞留している部分を資産形成へ促す仕組みづくりを行っていく必要があると考えています。(後略)」

平成29事務年度金融行政方針(10頁から引用)

世帯主が60歳以上の世帯が家計金融資産の6割以上を保有し、金融資産の他にも住宅・宅地などの実物資産を多く保有している状況にある。これらの世帯について、住宅ローン等を控除した金融純資産を見ると、1千万円に届かない世帯が半数近くを占めている。他方、ゆとりある暮らしを送った上でさらに多額の相続財産を残せるような富裕層 も存在する。

退職世代等の置かれている状況が様々であることを踏まえて考えていく必要があるが、平均寿命の延伸傾向が続く中、高齢者が、長期にわたって不安なくゆとりある生活を維持していくためには、それぞれの状況に適した資産の運用と取崩しを含めた資産の有効活用が計画的に行われる必要があると

考えられる。

フィナンシャル・ジェントロジーの進展も踏まえ、よりきめ細かな高齢投資家の保護について検討

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© 2018. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC.金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題30

顧客本位の業務運営の定着

【参考】顧客本位の業務運営の定着に関するPDCAサイクル

利益相反管理態勢の整備、利益相反回避策の検討

商品選定方針・基準の策定

顧客属性に応じた商品提供体制の見直し(慎重に販売すべき商品の特定)

顧客属性に応じたアフターフォローの見直し(情報提供、コンサルティング)

経営戦略の再点検、取組方針やアクションプラン、KPIの策定、進捗状況の確認

金融商品・サービス提供に関する事業計画の見直し

組織の見直し(取締役会・各種委員会等の役割・権限、3つの防衛線の役割分担)

方針・規程の体系整備

経営陣・取締役会等によるオーナーシップ

組織全体へのカスケードダウン

顧客本位の業務運営を所管する部署

立案・議論サポート適時適切な報告

カスケードダウンモニタリング

ルールや枠組みの浸透・定着に向けた取組(例)

方針・規程体系の整備 研修・トレーニング フロント部門におけるモニタリング

内部監査による浸透度合いの検証

取組方針と取組みの実態が乖離していないか

評価指標等を基に対話・原則を踏まえた取組みの働きかけ 等

当局によるモニタリング

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地域金融機関の現状と課題

31 金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

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地域銀行の経営の現状

地域銀行の経営状況は金融緩和政策の継続により、長短金利差が縮小し、収益性が低下しています

2017年3月期決算をみると、前期に比べ、貸出利鞘の低下幅が拡大し、役務取引等利益も減少。多くの地域銀行で顧客向けサービス業務(貸出・手数料ビジネス)の収益低下が継続

こうした中、当期純利益を確保するため、有価証券運用への依存を高める動きや、不動産融資(アパート・マンションローンを含む)等の量的拡大を図る動きが見られた。このほか、与信費用の減少(貸倒引当金の戻入の発生)が収益に大きく寄与している先も見られた

顧客向けサービス業務利益率(注1)は昨事務年度の試算(注2)を上回るペースで減少し、既に5割超の地域銀行でマイナス (注1)(貸出残高×預貸金利回り差+役務取引等利益-営業経費)/預金(平残)

(注2)2025年3月期には約6割の地域銀行で当該利益がマイナスになると試算

顧客向けサービス業務の利益率がマイナスとなっている地域銀行の多くは、有価証券運用による収益への依存を一段と高めており、その結果、金利リスク量が増加

担保・保証に依存した融資の量的拡大に頼る金融機関については、人口減少が継続し、全ての金融機関が融資量の拡大を続けることが現実的ではない中、ビジネスモデルの持続可能性に懸念

貸倒引当金の戻入の発生要因によっては、中長期的に顧客基盤を失うことにつながるおそれに留意

出所:金融庁「金融レポート」(平成29年10月)

金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

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有価証券運用による収益への依存

有価証券運用による収益への依存を高める動きが見られる中、金利リスク等の適切なリスク管理が求められています

金融機関が抱える金利リスク 有価証券運用による益出し

金融レポートでは、有価証券の益出しが当

期利益に占める割合の分布を示し、地域

銀行106行中38行が50%以上になってい

ることを明らかにしている

また、一部の金融機関における不適切な

事例を示すことで、将来の財務の健全性へ

の影響を懸念している

i. 当期利益を確保するため、購入した「ブル

型ファンド」と「ベア型ファンド」のうち、利

益が出るファンドのみ売却する一方、含み

損の損切りを先送りしている事例

ii. 利息配当金収益の増加を図るため、将来

的に大きな含み損を抱えるリスクを十分に

考えずに、残存期間が極めて長い債券等

への投資を拡大し、金利リスク等を増加さ

せている事例 等

金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題33

金融レポートでは、円金利が1%上昇した

場合の自己資本に対する割合(主要行等

10%、地域銀行30%、信金・信組40%)と、

地域金融機関の円金利リスク量が拡大傾

向にあることを示し、予期せぬ金利の上昇

に直面しても、自らのバランスシートが大き

く毀損しないよう金利リスク等の適切なリス

ク管理の重要性を指摘

加えて、金利リスク量と有価証券運用依存

度の状況を示すことで、顧客向けサービス

業務の利益がマイナスとなっている地域銀

行の多くが有価証券運用による短期的な

収益への依存を高めたことで、金利リスク

量が増加している様子を明らかにしている

出所:金融庁「金融レポート」(平成29年10月)

有価証券運用の実態

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アパマンローンと銀行カードローンの増加

銀行では、アパマンローンやカードローンといった分野に注力していますが、顧客本位の業務運営という観点から大きな課題もみられます

近年の銀行カードローン等残高の増加を背景に、「過剰な貸付が行われている」との批判

銀行は法令等により過剰貸付の抑制を含めた利用者保護が確保されていると考えられていることから、総量規制の対象外

一方、広告・宣伝態勢に改善余地がある、収入証明書に基づく客観的なチェック・牽制が働いていない等の課題・問題点が窺われた

金融庁では昨年9月から同ローン残高の多い12行を対象に検査を実施、主な着眼点は以下のとおり

保証会社の審査に過度に依存していないか 過剰な貸付を防止するための審査態勢(年収証明の取得、融資上限枠の設定など)

融資実行後の顧客の状況変化の把握 配慮に欠けた広告宣伝 支店や行員に対する業績評価体系

34

伝統的な銀行ビジネスの収益が低下する中、銀行は、短期的な収益を確保するため、アパマンローンやカードローンといった比較的金利の高い分野に注力しているものの、以下のような問題点も

アパマンローンの対象である貸家業には、①空室率は築年数の経過とともに上昇、②賃料水準は築年数の経過とともに低下し、築後15年経過後を目安に低下傾向は顕著、③地域銀行によってバラツキはあるものの、実際の収支状況は、一定程度は赤字

一方、アパマンローンの借り手には、①築年数の経過とともに賃貸物件の収支のみでは賄えず、給与等の他の収入等で補てんしている者、②アパート経営の知識が乏しく、空室・賃料低下等のリスクを十分に理解しないまま、相続税対策目的等で借入までして貸家業を行っている者が存在

金融機関においては、将来的な賃貸物件の需要見込み、金利上昇や空室・賃料低下などのリスクについて、融資審査の際に適切に評価した上で、それを分かりやすく借り手に伝えるなど、借り手に対するリスク説明を充実させる必要 等

アパマンローン 銀行カードローン

出所:金融庁「金融レポート」(平成29年10月)、「銀行カードローン検査 中間とりまとめ」(平成30年1月)

金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

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© 2018. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC.金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題35

与信費用の減少

金融庁では、当期純利益を確保するため、金融機関自身の顧客基盤の毀損にもつながりかねない対応がみられると懸念しています

4

3

1

6

10

27

55

50%以上

40%~…

30%~…

20%~…

10%~…

0%超

0%

当期純利益に占める貸倒引当金戻入益の割合(2017年3月)(行)

① 安定的な景気動向等の結果、倒産等の減少によって貸倒引当率が低下したことによるもの

② 本業支援等によって、顧客企業の債務者区分がランクアップしたことによるもの

③ 短期的な収益を確保するため、債務者区分が下位の企業への貸出金を回収したことによるもの

地域銀行の2017年3月期決算において、当期純益に占める貸倒引当金の戻入益の割合にバラツキが見られ、中には、その割合が3割以上になる先(8行)も確認される

貸倒引当金の戻入が発生する要因としては、

顧客企業の業況回復ではなく、債務者区分が下位の企業への貸出金の回収による動きが増えると、中長期的に顧客基盤を失うことにもつながるおそれがあることに留意が必要

出所:金融庁「金融レポート」(平成29年10月)

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顧客本位の金融仲介の取組み

金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題36

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© 2018. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC.37 金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

地域金融機関の課題(まとめ)

地域金融機関の経営環境が厳しくなる中、行政として、金融仲介機能の発揮に努めている金融機関へのサポートも検討しています

我が国金融システムは、低金利環境の継続と金利上昇という両面のリスクに直面した課題を抱える

これまで、低金利環境の継続により特に地域金融機関の収益力は低下した一方、信用コストの低下が純利益に寄与。今後、信用コストの増加など金利上昇がもたらすリスクにも留意が必要

こうした中、地域金融機関は有価証券運用により利益を補ってきたが、新たなリスク要因として問題視

金融庁の試算によると、高齢化等を背景に地域金融機関の顧客向けサービス業務利益の将来的な低下は不可避

それまでに経営改革を行わなければならないが、「貸出も有価証券運用もダメ」と当局に言われ、何をすべきか?

金融庁では、顧客本位の金融仲介の発揮に努める金融機関の取組みへのサポートは必要と認識

地域金融機関が、最大限、地域企業の価値向上や地域経済の活性化に貢献できるよう、業務範囲に係る規制緩和を含め環境整備について検討⇒ 保有不動産の有効活用や地域企業支援のためのコンサルティング業務などが行いやすくなるよう規制緩和

地域経済活性化支援機構(REVIC)、日本人材機構による人材・ノウハウの支援強化

地域金融・中小企業金融の分野における公的金融と民間金融の望ましい関係のあり方について議論

⇒ 今後、公的金融が現在果たしている機能・領域を新たな事業機会として捉える余地が生まれる可能性

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© 2018. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC.金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題38

顧客本位の金融仲介の取組み

地域金融機関が付加価値の高いサービスを提供し、安定した顧客基盤と収益を確保する取組みがより一層重要となっています

顧客との「共有価値の創造」 (金融機関が貸出先を支援し、貸出先(ひいては地域経済)の業績・景気が良くなれば結果として金融機関の収益改善につながるという考え)について、金融行政方針において強調

「地域企業の競争環境の構築」について地域金融機関が担う役割についても言及

付加価値の高い金融サービスとして、経営改善や事業再生・継承を例示

団塊世代の経営者のリタイアにより、今後は中小企業の事業承継が大幅に増加するとみられる

金融機関は融資先の事業承継が円滑に進むように積極的に支援を行う必要

金融仲介機能の見える化・高度化に伴い、金融機関ではこうした業務を遂行できる人材の確保・教育が必要

付加価値の高い金融仲介の推進が目指されている一方、現状では「日本型金融排除」が起きている

金融機関が貸出先の状況を十分に評価せず(評価できず)、担保・保証がある先や信用力がある先にだけ貸付を行っている状況では

顧客本位の金融仲介の取組みと金融機関の利益追求は相反するものではなく、むしろ同じ方向性

顧客本位の取組みを行っている金融機関は地域平均・同規模銀行平均よりも高い利益率を維持

地銀の利益率が低下する中、「ビジネスモデルの変革」の答えの一つ

顧客本位の金融仲介の取組みの方向性

出所:金融庁「金融行政方針」(平成29年11月)

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企業から見た金融機関の評価

金融庁では、持続可能なビジネスモデルとして、リレーションシップの強化により安定的な顧客基盤を築くことが不可欠と認識しています

メインバンクは「担保・保証がないと貸してくれない」と感じている割合は4割(正常先上位で23%、要注意先以下で54%)。「信用保証協会の保証を利用している」割合は、正常先上位で26%、要注意先以下で76%

「過去1年以内に資金繰りに困ったことがある」企業の割合は2割強(要注意先以下では約半数)存在。これらの企業のうち、「メインバンクから特段支援を受けていない」割合は約3割(要注意先以下では約4

割)

経営課題を抱えている債務者区分下位の企業への訪問が少ない。要注意先以下の企業の約2割が、メインバンクに経営上の課題や悩みを「相談していない」、または「あまり・全く聞いてくれない」と回答

金融機関から提供されたサービスが非常に役に立ったと回答した企業の約7割が金融機関との取引を拡大している。

貸出金利回りの低下の程度が低い銀行については、サービスに対する顧客からの評価が相対的に高い。貸出金利回りの低下幅の緩やかな上位30行は、低下が著しい下位30行に比べて、経営上の課題や悩みの把握、サービス提供の効果といった項目において、顧客企業から高い評価を受けている

政府系金融機関との取引の選択理由は、「民間金融機関も支援してくれたが、政府系金融機関の方が借入条件が良かったから」の割合が約6割、「民間金融機関では支援してくれなかった」が1割弱

日本型金融排除の実態

企業が銀行に期待するサービスは「販売パートナー紹介」「マーケティング」などの販売力を強化する支援と、「人材育成」経営力を強化するための支援

39

出所:金融庁「金融レポート」(29年10月)、同「金融仲介の改善に向けた検討会議(第9回)」議事要旨および配布資料

金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

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持続可能なビジネスモデルの構築に向けた対応

金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題40

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© 2018. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC.金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題41

持続可能なビジネスモデルの構築

金融庁では、ビジネスモデルの持続可能性について、検査を実施することで早急な対応を促すとしています

ビジネスモデルの持続可能性に深刻な課題を抱える金融機関に対し検査を実施し、課題解決に向けた早急な対応を促す(⇒経営課題を特定した上で、経営陣や社外取締役と深度ある対話)

金融仲介機能の発揮状況を示す客観的な共通のKPIを選定・公表し、金融機関の取組みの「見える化」を図る

地域経済活性化支援機構(REVIC)、日本人材機構による人材・ノウハウの支援強化

公的金融と民間金融の競合等の実態について調査、望ましい関係のあり方を関係者と議論

将来にわたって健全性と金融仲介機能を両立させる競争のあり方、金融機能の維持や退出に関する現行の制度・監督の改善余地について、有識者と検討

低金利環境の継続、金利上昇のいずれの場合でも健全性を維持できるよう、証券運用をはじめとするリスク管理の高度化等に向けた対話を継続

有価証券運用による収益への依存 アパマンローンや不動産向け融資の増加

経営環境が厳しさを増す中にあっても、希望的な観測に頼った経営を行っている先、社外取締役・株主等外部からの牽制機能も働いていない先が存在

各金融機関のガバナンスの実態を把握し、改善に向けた対話の実施

地域金融機関に対し強く改革を促す金融庁の対応

経済・市場環境の変化への対応 金融ビジネスの環境変化に対応したガバナンス

出所:金融庁「金融行政方針」(平成29年11月)

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© 2018. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC.金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題42

持続可能なビジネスモデルの構築に向けた対応

構造的な変化や環境変化に対して、遅れずに適切な対応をとることができる質の高いガバナンスの構築が求められています

金融庁は、金融機関に対して、ガバナンス態勢の整備にとどまることなく、ガバナンスの実効的な発揮を求めている

金融行政方針では、経営者に向けた厳しいメッセージが特に前面に押し出されている一方で、金融庁が想定するグッド・プラクティスを探るヒントにもなる

金融庁が提唱するKPIや「顧客本位の原則」だけでなく、RAFやストレステストの活用も視野に入れて検討の必要

金融行政方針からのメッセージ 対応例

資本コストに対する意識が不十分

先見性のある経営判断を行えるCEOが選任・育成されていない

将来起こりうる課題を認識できていない、具体的な取組みを見いだせていない

希望的な観測に頼った経営を行っている

外部(社外取締役・株主等)、内部双方からの牽制が働いていない

ROA/ROEや株価純資産倍率、資本コストなどの経営指標を意識

CEO選任・解任基準の策定、サクセッションプランの作成

リスクの所在を特定し、リスクに対して取るべき行動を決める、RAFの活用

将来起こりうるシナリオを想定した経営、ストレステストの活用

社外取締役の選任とそれを活かすガバナンス体制の構築、株主、従業員などのステークホルダーに対する関与の強化

出所:金融庁「金融行政方針」(平成29年11月)

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© 2018. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC.43 金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

持続可能なビジネスモデルの構築

顧客本位の金融仲介の取組みを実現するためには、経営トップによる強いリーダーシップが必要であるとしています

地域銀行の“グッドプラクティス”

10年以上にわたり顧客目線の経営を継続(業績目標ノルマ廃止、営業店の自主的計画策定、業務効率化IT導入、顧客対応時間の確保⇒経営方針にそった役職員の行動を評価する人事評価体系)

地元密着・本業回帰型の経営を継続(営業現場での提案力重視の人材育成、顧客情報管理システム導入、事務集約化・簡素化、顧客との対話時間確保)

短期的な収益を求めない経営理念・顧客本位の取組を公言(顧客リレーション強化、事業性評価による本業支援、外部有識者を交えた会議体を通じて顧客本位の取組を検討)

信金・信組の“グッドプラクティス”

金融商品の販売を行わず、預金・融資業務に専念(高頻度の顧客訪問、スピーディな融資判断)

きめ細かな融資(顧客の事業実態の把握徹底、創業支援、地域特性を踏まえたオーダーメード型ローン)

量のノルマを廃止&付加価値営業促進(高めの最低金利設定、目利きを活かした融資提案)

金融庁は“グッド・プラクティス”先の特徴を洗い出す際に、以下の視点を重視している

経営トップの関与・本気度

顧客対応の充実度

業績評価制度・人事制度

IT活用を通じた業務効率化

顧客本位の取組みと高い採算性は両立し得る

金融レポートにおける指摘事項 金融機関への示唆

出所:金融庁「金融レポート」(29年10月)より抜粋

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© 2018. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC.44 金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題

金融ビジネスの環境変化に対応したガバナンス

環境変化に対応した経営方針を営業現場に浸透させ、組織的・継続的な取組みにつなげていく適切なガバナンスの発揮が求められます

「経済・経営状況の把握」、「営業現場への浸透」、「組織的・継続的な取組み」…どうやって実現するか?

「コーポレートガバナンス・コード」や「顧客本位の業務運営に関する原則」は原則論。具体的なプロセスに落とし込んでいくには、各金融機関でRAFの活用等の取組みを進める必要

「顧客本位の業務運営に関する原則」(2017年3月)

原則⑦従業員に対する適切な動機づけの枠組み等

金融事業者は、顧客の最善の利益を追求するための行動、顧客の公正な取扱い、利

益相反の適切な管理等を促進するように設計された報酬・業績評価体系、従業員研

修その他の適切な動機づけの枠組みや適切なガバナンス体制を整備すべきである。

「第6回金融仲介の改善に向けた検討会議」(2016年11月)委員発言要旨

「地銀では、経営理念と現場のギャップによって、やる気のある人材が失われつつあ

る。早期退職者や内定辞退者が増えており、営業店の現場は厳しい状況にある。経

営者はCS(顧客満足)ES(従業員満足)双方にきちんと取り組む必要があるが、ESに

大きな問題があると、CSに結びつかない。金融機関との深度ある対話の中で、企業

風土についても実態把握に組み込んで欲しい。」

「経営トップが長期的な観点からものを考えていても、営業店の現場では今期どうなる

かという、短期的な収益を考えている。金融機関へのモニタリングにおいては、営業店

の現場がどうなっているかを見て頂きたい。」

「経営トップは減点主義で厳しくペナルティを課している認識はない(中略)。しかし、営

業現場が減点主義だと思っていれば、行動もそうした認識を反映したままになってしま

う。」

原則論を巡る議論 リスクアペタイトフレームワークの活用のイメージ

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© 2018. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC.金融行政の動向と顧客本位の経営に求められる課題45

収益・リスクテイク・資本の間のバランス

「収益・リスクテイク・資本のバランス」には、ストレステストも活用したリスクアペタイト・フレームワーク(RAF)の活用が有効です

リスク管理、収益管理、自己資本管理の相互連携が必ずしも十分ではなかった

既往の経営管理手法

金融機関の持続的な健全性を確保するために、収益・リスクテイク・自己資本の間の適切なバランスを維持し、ビジネスモデルの持続可能性を確保することが重要

リスク管理、収益管理、自己資本管理を有機的につなぎ、ビジネスモデル(≒経営戦略)の評価・管理・修正を実施する手法の開発と、それを支えるガバナンス態勢と経営の関与が不可欠

金融庁が求める経営管理手法

リスクテイクと収益のバランス

リスクテイク対比で収益が低い場合には、持続的な収益確保が困難となる恐れ

リスクテイク(リスク管理)

収益(管理)

自己資本(管理)

ストレステスト

自己資本とリスクテイクのバランス

リスクテイク対比で資本が低い場合には、バランスシートが毀損し、預金者等の信頼を失う恐れ

収益と自己資本のバランス

収益が自己資本対比で

低い場合、将来の十分な資本確保が脅かされる恐れ

収益(管理)

自己資本(管理)

リスクテイク(リスク管理)

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