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1. 目的 バス における ある。 バス した , がある。 km ある に対し, kmにすぎ い。 あるこ する , あた い。 また, しく, カンォンド チョルラナム い。 モータリゼーション い, バス をピークに にま している。 しかし において, ずか %にすぎ に対し, バス シェア して %に ぼる 1) バス , ほぼす ネットワークを している。 各 バスターミナルが され, 大 バスが している。 一 が多く, また きるため, 運 より あるが, れている。 バス , ネットワークを しているこ から, らかにしよう する システム って する える。 における システムおよび , れてきた。 , キム ( ) およびヤン ( ) が, こ における ある。 キム データを して いだした。 てた , スケール して まり, ( a, b, )に されるパーソントリップデータを した した。 , から 握したヤン ( ) ,ソ する いだされ, ソ が確 された。 また, こ OD に因 した, ある。 ヤン , システム 多く された。 ホン・ハン ( ) ( 域) を いだし, ナムほか ( ) データを した 長距離バス交通からみた韓国の都市群システム I. はじめに No pp Komazawa Journal of Geography

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Page 1: 長距離バス交通からみた韓国の都市群システムrepo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/17683/kg041-01.pdf · には,発生最大流をその都市の代表的な流動と見なす,最大流動法を採用する。第Ⅲ章では抽

1. 目的

バスは韓国における都市間交通の重要な媒体である。 韓国で長距離バス路線が発達した背景

には, 鉄道路線の未発達がある。 日本の鉄道総延長が27,245kmであるのに対し, 韓国は3,140

kmにすぎない。 韓国の国土面積は日本の約4分の1であることを考慮すると, 単位面積あた

りの鉄道路線密度は日本の半分に満たない。 また, 鉄道路線の地域的偏在が著しく, 国土縁辺

地域の江原カンウォン

道ド

・全羅南チョルラナム

道ド

では鉄道整備が進んでいない。

モータリゼーションの進展にともない, バス輸送人員は1990年の82.19億人をピークに2002

年には50.69億人にまで減少している。 しかし2002年において, 鉄道交通が陸上旅客交通のわ

ずか7.7%にすぎないのに対し, バス交通のシェアは依然として39.7%にのぼる1)。

バスは, 韓国のほぼすべての市郡を結ぶネットワークを形成している。 各都市には大規模な

市外・高速バスターミナルが整備され, 大型バスが頻繁に発着している。 一般に市外・高速バ

スは運行便数が多く, また必ず着席できるため, 運賃は鉄道より若干割高であるが, 利便性・

快適性に優れている。

バス交通は, 全国規模の高密度ネットワークを形成していることから, 都市間の結合様態と

その全体的構造を明らかにしようとする都市群システム研究にとって有効な素材を提供すると

考える。

韓国における都市群システムおよび機能地域構造の研究は, 1970年代末以降精力的に継続さ

れてきた。 管見の限りでは, キム (1979) およびヤン (1979) が, この分野における研究の嚆

矢である。 キムはソウル市の通勤通学流動データを利用して結節地域構造を見いだした。 地域

間の連結関係に焦点を当てた研究は, 都市スケールの内部構造分析の一環として始まり, 南

(1981a, 1981b, 1982) に代表されるパーソントリップデータを利用した研究が進展した。

一方, 都市間の結合関係を市外電話の通話量から把握したヤン (1979) の研究では, ソウル

を頂点とする階層構造が見いだされ, ソウルへの機能の集中が確認された。 また, この研究は

OD行列に因子分析を適用した, 韓国で最初の都市地理学研究でもある。 ヤンの研究以降, 韓

国の国家的都市群システムの研究は数多く蓄積された。 ホン・ハン (1979) は鉄道旅客流動か

ら15の鉄道圏 (結節地域) を見いだし, ナムほか (1989) は貨物流動データを利用した都市群

― ―1

長距離バス交通からみた韓国の都市群システム

須 山 聡

I. はじめに

駒澤地理 No.41 pp.1~24, 2005Komazawa Journal of Geography

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システムの抽出を試みた。 これらの蓄積の結果, 南 (1985), ソン (1990) などに都市群シス

テム研究の成果が結実した。

バス交通流動を利用した研究では, イ (1979) があげられる。 イの研究は, バスの運行頻度

をデータとし, 取得困難な流動統計データに代わるデータ利用方法を提示した点で特筆される。

さらにイ (1990) は, 1961・75・85年の3年次について, 全国96都市を対象にバス流動量を指

標とした都市群システムの抽出を試みている。

これらに続いて, 近年では北田 (2000) が鉄道 (セマウル号・無窮花ムグンファ

号)2)・高速バス・航

空機の旅客流動データを利用して, 1977年・85年・95年における都市群システムの経年変化を

分析している。 北田の研究は旅客データを利用し, 3年次間の比較を行った点で高く評価でき

る。 しかし旅客流動の実態を忠実に把握しようとするあまり, 旅客数のはっきりしている交通

デバイスを厳選したため, かえって分析対象から除外された市郡が多い点に問題がある。

北田のジレンマは韓国で都市群システムを研究する際には必ず突き当たる問題である。 都市

間の機能的な結びつきを分析するためには流動データが不可欠である。 当該分野研究において

は, 通勤通学流動 (ソン 2000, 2003) ・貨物流動 (ハン 1984;チャン・ハン 2000) ・交通

流動 (李 2003) など, 日本の研究でも多用されるデータに加えて, 電話の通話量データを利

用した前述のヤンの研究も見られる。 これは韓国において取得可能な流動データの種類が日本

とは異なるためである。 いわば �手を代え品を替え�地域間流動データを確保するところから

研究が始まるが, 現実には, 大量で詳細な流動データを公的機関から取得するときには, 担当

者との個人的な縁故に依存することが多い。 韓国でも情報公開は法制化されているが, 容易に

入手できる統計データは地域単位が大まかであったり, 精度が低いものがほとんどである。 し

たがって何の縁故もない外国人研究者がこれらを利用しようとしても, 入手できる可能性はき

わめて低い。

そこで本論では, 一般に市販されている 『時刻表』 をデータとして採用し, 韓国における市

外バスおよび高速バスの運行データから, 韓国における都市群システムの抽出を試みる。 この

着想は前述のイ (1979) から得られたものである。 さらに抽出された都市群システムの特徴を

検討し, それらの形成過程を考察する。

次章では, 本論で使用したデータの性格と限界を指摘し, 長距離バス流動から都市群システム

を見いだすために必要なOD行列の作成方法について述べる。 都市群システムを抽出するため

には, 発生最大流をその都市の代表的な流動と見なす, 最大流動法を採用する。 第Ⅲ章では抽

出された各システムの地域的な特徴を分析し, 第Ⅳ章で都市群システムの形成過程を考察する。

Ⅱ. 『時刻表』 データとOD行列の作成

韓国におけるバス交通は, �市郡内を運行する市内バス・郡内バス・マウルバス3)・農漁村

― ―2

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バス, �市郡間を結ぶ市外バス, �高速道路を利用して拠点都市間を結ぶ高速バス, �仁川インチョン

金キン

浦ポ

など主要な国際空港と拠点都市間を結ぶ空港バスに大別される。 また, 市外バス・高速バ

スには, 深夜運行される深夜バスが含まれる。 本論では全国的なネットワークを形成する市外

バス・高速バスを取り上げる。 これらをあわせて以下, 長距離バスと呼称する。

しかし大都市圏内においては, 市内バスが市の領域を超えて近隣の市郡にまで運行される例

が多い。 そのため, ソウル特別市および釜プ

山サン

・仁川・大テ

邱グ

などの広域市においては, 市郡間移

動の手段として市内バスが果たす役割が大きい。 また, ソウル大都市圏の場合, 地下鉄が近隣

の城ソン

南ナム

市や水原スウォン

市まで延びている。 その結果, 大都市圏スケールにおいては, 長距離バス流動

を利用した都市群システムの抽出には限界があることに留意しなければならない。

本論作成のための調査において, バス路線別の利用客数や経由地を含めた詳細な路線データ

を得ることはできなかった。 本論で使用するデータは, おもに鉄道旅行文化社発行の 『月刊

観光交通時刻表』 (以下, 『時刻表』 と略称する) に依拠し, 韓国観光公社のデータベース4)に

含まれるバス時刻表を補足的に利用した。 なお, 流動量にはリ (1979) でも利用された便数を

採用した。

『時刻表』 には, 高速バスと市外バスが別項目として掲載されている。 掲載内容は同様で,

バスターミナル別に終着点までの運行便数・運行頻度・始発と最終便の時刻・運賃・主要経由

地・沿線観光地などである。 図1�aに 『時刻表』 の掲載形式を示した。 任意のバスターミナ

ルPについてみると, 終点となるバスターミナルQ・R・Sがある。 路線LはP―Q間を, 路

線MはR―S間を結ぶ。 路線MにおいてはPは経由地である。 『時刻表』 に掲載される区間は,

路線LではP―Q, 路線MではP―R, P―Sの計3区間である。 いずれの区間においても,

発地となるバスターミナルPが, 路線の始発点か経由点かは 『時刻表』 からは判断できない。

また, A発でBとCを経由してDを終着点とする路線があるとして, 『時刻表』 から見いだ

される区間は, A―D・B―D・C―Dの3区間である (図1�b)。 逆にDが始発点の場合は,

D―A・D―B・D―Cの3区間が見いだされる。 すなわち, 『時刻表』 に依存する限り, 発

地側は始発点か経由点かは不明であるが, 着地側は必ず終着点となる。 『時刻表』 から得られ

るデータは, 任意のバスターミナルを発地とし, そこから出発する路線の終着点を着地とする

流動データと理解される。

理想的には, A・B・C・Dの4点によって構成される路線の場合, 4点間を結ぶ12区間す

べての便数が得られることが望ましい。 しかし別の観点に立てば, このような手順で作成され

たデータ行列は, ある路線内における任意の地点と, そこから到達可能なもっとも遠い地点と

のリンクデータと見ることもできる。 すなわち, 「どこまで行けるか」 が重視されたデータと

いえよう。

このことを都市群システムの論理に即して考えれば, 近隣都市間の結合関係は過小評価され

るものの, 都市群システムの空間的広がりが強調されることが予想される。 したがって, 韓国

― ―3

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における国家スケールでの都市群システムを見いだすという本論の目的達成のためには, むし

ろ適切なデータ構造といえよう。

集計の結果, 4,127区間においてバス流動が抽出された5)。 運行頻度の掲載方法には, 1日

あたりの便数と運行間隔がある。 前者は3,136区間, 後者は991区間にみられた。 前者の場合,

掲載された便数がそのままデータとして利用できる。 後者の場合は, 始発便と最終便の発車時

刻から運行時間帯を算出し, これを運行間隔で除した値に1を加えて便数とした。 運行間隔が

たとえば10~20分と表示されている場合は, その中間値である15分を運行間隔とした。

『時刻表』 には172のバスターミナルが掲載されているが, 同一市郡内に複数のバスターミ

ナルがある場合がある。 本論では集計単位地区を市郡とし, 自地区内流動は無視する。 したがっ

て同一市郡内のバスターミナルは統合する必要がある。 その場合, 同一市郡内に存在するE・

Fという2つのバスターミナルを結ぶ, 区間E―FはOD行列から除外される。 またさらに市

― ―4

図1 データの取得とOD行列の構成

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郡外にGというバスターミナルがあり, 路線が異なるE―G・F―Gという2区間が確認され

た場合は, 両者の便数の和をその市郡からGが所在する市郡への流動量として採用する。 一方,

E発でFを経由してGにいたる単一路線でも, E―G・F―Gの2区間が求められるが, この

場合は便数の多い路線で代表させた。 2004年現在韓国における市郡数は167で6), 『時刻表』 に

掲載されたバスターミナルが存在する市郡は138であった (図2)。 上記の処理の結果, バス流

動が認められる区間数は2,542に統合された。

またデータを集計する途上で, 『時刻表』 にバスターミナルが掲載されていない16市郡を終

着点とする区間が70区間見いだされた。 これらについては当然復路が存在すると考えられるが,

施設としてのバスターミナルが存在しないため, 『時刻表』 には掲載されていないものと推定

される。 本論ではこれらの16市郡も発地として採用した7)。 その際の着地は前記の70区間の発

地とし, 便数もそれらと同数とした。 この結果, バスターミナルが存在する市郡数は154となっ

た。 長距離バス流動が確認できなかった8市郡は, 1郡をのぞいてソウル大都市圏に含まれる

― ―5

図2 研究対象地域

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京畿道に分布する8)。 ソウル大都市圏における旅客流動は, 前述のように市内バスや地下鉄へ

の依存が大きいためと考えられる。

Ⅲ. 長距離バス交通から見た都市群システム

1. 都市群システムの全体的構造

第Ⅱ章で述べた手順に従いOD行列を作成し, 最大流動法によって韓国の都市群システムを

検出した。 その結果, ソウル・大邱・釜山・晋州チンジュ

(慶尚南道) ・江陵カンヌン

(江原道) ・麗ヨ

水ス

(全羅

南道) ・泰テ

安アン

(忠清南道) をそれぞれ最上位結節点とする都市群システムが見いだされた。 こ

れらのほか, 城ソン

南ナム

(京畿道) ・議政府ウィジョンプ

(京畿道) を中心とする都市群システムも検出されたが,

いずれも小規模であるため, 以下では上記の7システムを中心に, 各都市群システムの特徴を

論ずる。 なお以降では, 各市郡を結節点として扱う際には, 「晋州」 「江陵」 など地名のみで表

記し, 面的広がりについて言及する場合には 「晋州市」 「江陵市」 とする。

各都市群システムを図3~5に示した。 図中の縦軸は結節点の総吸収量を示し, リンクは下

位結節点からの最大流動量を同結節点の総発生流動量で除した流動率で表示した。 システムの

分布を概観すると, ソウルシステムが京畿道・江原道内陸部・忠清道・全羅道を領域とし, 国

土の半分以上を占めている。 最上位結節点のソウルは6,684.2便を吸収し, 5階層からなる複

雑なシステムを構成している。 次に3,418.3便を吸収する大邱を頂点とした大邱システムが,

慶尚北道のほぼ全域と忠清北道・慶尚南道の一部を領域に収めている。 人口規模ではソウルに

次ぐ大都市である釜山は, 総吸収量では2,919.4便にとどまり, 大邱に次ぐ地位に位置してい

る。 釜山システムは空間的広がりでも大邱システムより小さく, その領域は慶尚南道の中・東

部に限られる。 晋州・麗水システムはそれぞれ慶尚南道西部と全羅南道東部の市郡を含む。 江

陵システムは江原道の日本海側を領域とする。 泰安システムはおもに忠清南道北西部を占める。

城南・議政府システムはソウル近郊に分布する。

ソウルシステムは国土の西側と北東部を占め, 大邱システムと釜山システムが南東部に位置

し, 晋州・江陵・麗水・泰安システムがこれらの境界や国土の縁辺部分に分布する。 ソウル・

大邱・釜山の3システムが, 国土の大部分を網羅する主要なシステムであることがわかる。

長距離バスの流動量は人口と相関すると予想されるが, 市郡別の総吸収流動量と人口の対数

相関係数は0.653で決して高いとはいえない。 これは, ソウル・釜山・大邱などの大都市圏近

郊の都市において, 長距離バス交通への依存が低いことが第1の要因であろう。 また, 長距離

バス路線の始終点は大都市におかれることが多く, その場合, 近郊に位置する市郡は経由地と

される。 したがって 『時刻表』 データでは, これらの市郡からの発生量は大きいが, 吸収量は

著しく小さくなる9)。 そのため, 本データでは大都市周辺地域に位置する市郡のポテンシャル

が過小評価される。 しかし, 韓国では全国規模の流動データが容易に入手できないことを考慮

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― ―7

図3

ソウルシステムにおける地域間結合(2004年)

(『時刻表』および韓国観光公社の資料より作成)

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― ―8

図4

大邱・晋州・城南・議政府システムにおける地域間結合(2004年)

(『時刻表』および韓国観光公社の資料より作成)

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― ―9

図5

釜山・江陵・麗水・泰安システムにおける地域間結合(2004年)

(『時刻表』および韓国観光公社の資料より作成)

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― ―10

図6 韓国の都市群システムにおけるサブシステム (2004年)(『時刻表』 および韓国観光公社の資料より作成)

0 100km

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すると, 『時刻表』 データが提供する情報はこれらの欠陥を補って余りある。

第2節以降では, 各都市群システムの内部構造を詳細に検討したい。

2. ソウルシステム

ソウルシステムは合計87市郡で構成される (図3)。 システム全体の総吸収量は3万9,573.5

便で, 韓国全体の総吸収量の56.7%を占める (表1)。

ソウルシステムの特徴は, サブシステムの規模とその地域的な分布にある (図6)。

� 大規模サブシステムの分布と構造

ソウルシステム内部におけるサブシステム数は11を数え, とくに全州チョンジュ

(全羅北道)・光州・

大田・仁川を頂点とするサブシステムが大規模である。 これらの結節点からソウルへの流動率

は, 10~14%にとどまる (図3)。 流動率は上位結節点との結合度を示す指標と解釈されるこ

とから, これらのサブシステムはソウルに対して緩やかな結びつきを有すると判断できる。

仁川をのぞく3つの大規模サブシステムは, システム南部に位置する忠清南道南部・全羅北

道・全羅南道をそれぞれ分割している。 これらのサブシステム内部にはさらに小規模な第3階

層システムが存在し, 複雑なシステム構造をなしている。

南部の3サブシステム中最大の全州サブシステムは, 全羅北道の道庁所在地である全州を頂

点とし, おもに全羅北道に分布する15市郡によって構成される。 サブシステム内部には4つの

第3階層システムが存在し, これらが包含する市郡数は9にのぼる。 一方, 全州と接続しなが

らも第3階層システムを有さない単独結節点は5にとどまる10)。 なかでも益山イクサン

を頂点とするシ

ステム内には, さらに下位のシステムが内包されている。 このため全州への平均最大流動量は

109.6便, 平均流動率では4サブシステム中最低の31.0%にとどまる (表2)。 全州市は人口

― ―11

表1 韓国における都市群システムの構成(2004年)

システム名最上位結節点の総吸収量(便)

システム全体の総吸収量(便)

階層別結節点数合計

第1 第2 第3 第4 第5 単独*

ソウル

大 邱

釜 山

晋 州

江 陵

麗 水

泰 安

城 南

議政府

6,684.2

3,418.3

2,919.4

1,651.8

1,032.6

758.1

703.2

640.8

394.9

39,573.5

10,935.5

8,704.4

2,856.4

2,794.7

2,107.9

1,824.3

709.4

495.5

1

1

1

1

1

1

1

1

1

11

5

1

0

2

1

1

0

0

43

6

5

0

3

2

1

0

0

13

0

1

0

0

0

0

0

0

1

0

0

0

0

0

0

0

0

19

13

6

5

1

1

2

1

1

88

25

14

6

7

5

5

2

2

*サブシステムをもたないため, 階層を決定できない結節点を意味する。(『時刻表』 および韓国観光公社の資料より作成)

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61.6万人を数えるが, 人口10万人以上の都市が道内に4市あり, うち3市が第3階層システム

の頂点に位置する。

これらの事実は, サブシステム内部における全州の求心力の低さを示唆する。 その一方, シ

ステム全体の吸収量に占めるシステム内部からの吸収量 (完結率) は64.8%に達し (表2),

サブシステム外部からの吸収が少ないことを示す。 すなわち全州サブシステムは, 域外からは

孤立的であり, なおかつ内部においては最上位結節点の影響力が弱いことを特徴とする。

光州サブシステムは, 全羅南道西部を中心とする16市郡を範囲とし, 内部に木浦モッポ

・莞島ワンド

を頂

点とする第3階層システムを有するものの11), 光州と直接接続する単独結節点が卓越する。 光

州への平均流動量は121.1便で, 平均流動率は46.6%を示す (表2)。 なかでも, 光州の南西側

に隣接する羅州ナジュ

からは463.0便の流動が発生し, 流動率は75.0%に達する。 一方, 光州サブシ

ステムの完結率は60.4%で, 孤立性は全州サブシステムより若干低い。

光州とソウルの結合は緩やかであるが12), サブシステム全体では他システムからの影響を全

州サブシステムより強く受けている。 一方サブシステム内部には, 光州を中心とした強固な結

合が見られる。 全羅南道の場合, 光州サブシステム内の主要都市は人口25.0万人の木浦市のみ

であることを考慮すると, サブシステム内部における構造の相違は, 領域内の人口分布に大き

く規定されているといえよう。 首位都市に集中するプライメイト型の人口分布を呈する全羅南

― ―12

表2 都市群システムの完結性と最上位結節点の求心性(2004年)

システム名システムの吸収量(便)

完結率(b/a*100)

最上位結節点への最大流動

総吸収量�システム内からの吸収量�

平均流動量(便) 平均流動率(%)

ソウル

サブシステム

ソウル*

全 州

光 州

大 田

仁 川

39,569.0

19,155.8

6,261.1

5,580.4

4,456.4

4,115.2

21,497.2

11,789.3

4,056.3

3,369.3

1,568.8

713.5

54.3

61.5

64.8

60.4

35.2

17.3

121.8

113.2

109.6

121.1

107.5

50.3

34.9

38.5

31.0

46.6

37.1

49.9

大 邱

釜 山

晋 州

江 陵

麗 水

泰 安

城 南

議政府

10,921.5

8,485.4

2,852.4

2,780.7

2,111.9

1,824.3

712.4

495.5

7,573.3

5,028.6

1,552.4

1,414.5

1,320.7

771.1

41.2

77.2

69.3

59.3

54.4

50.9

62.5

42.3

5.8

15.6

106.9

171.8

155.1

96.8

149.5

116.8

20.6

38.6

38.9

41.1

41.0

25.7

41.4

36.2

100.0

79.4

*ソウルシステム内の単独結節点と小規模サブシステムを, 便宜的にソウルサブシステムとした。(『時刻表』 および韓国観光公社の資料より作成)

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道では, 単純な構造の都市群システムが形成され, ある程度の規模を持った地方都市が併存す

る全羅北道では, 複数の階層からなる複雑な都市群システムが形成される。

忠清南道南部を主な領域とする大田サブシステムは9市郡によって構成される。 内部には第

3階層システムが存在せず, 8結節点すべてが単独結節点である。 しかし, 大田と単独結節点

の結合は必ずしも強いとはいえない。 平均流動率は37.1%と光州サブシステムよりも低く, 流

動量には43.0~193.0便と幅があり, 平均値でも107.5便にとどまる (表2)。

忠清南道は全羅道と比べるとソウルに近接し, サブシステム内部をソウル―釜山を結ぶ京釜キョンブ

高速道路が縦断するため, ソウルの影響力が相対的に強い。 たとえば, 大田サブシステム内で

最もソウルに近い公州コンジュ

からは, 大田へ190.0便発生している一方, ソウルへも125.0便が発生し

ている。 また大田サブシステムの完結率は35.2%にとどまり (表2), 域外からの影響を受け

やすいことを示唆する。 大田サブシステムは, 大田への直接的な結合で構成されているものの,

サブシステム全体がソウルからの影響を一定程度受けるため, 大田の地位が相対的に低く, 開

放的な性格を有する。

総吸収量1,966.2便の仁川を頂点とする仁川サブシステムは, ソウルの西側にあたる京畿道

の7市郡と仁川広域市からなる。 同サブシステムの最大の特徴は, 総吸収量が1,188.0便に達

する水原を頂点とする第3階層システムを有することである。 仁川と水原に接続する結節点は

それぞれ3で, サブシステム内を2分する。 水原市は人口94.6万人を有し, 特別市・広域市に

次ぐ規模を持つ。 水原からは46市郡に向けて流動が確認され, 交通結節点としての機能が高い。

水原から仁川への流動量が116.2便であるのに対し, 忠清南道の道庁所在地の天安チョナン

へは89.8便,

京畿道南部に位置する平澤ピョンテク

へは71.0便が発生している。 しかし, 市内バスや地下鉄が有力な交

通手段となるソウルへの流動は認められなかった。 水原を頂点とする第3階層システムは, 実

質的にはソウルに従属するサブシステムとみなせる。 したがって仁川サブシステムの規模は,

見いだされたものの半分程度に縮小すると考えられる。

� 小規模サブシステムの分布と地方中心都市

前項で考察した4つの大規模サブシステム以外に, ソウルシステム内部には7の小規模サブ

システムが分布する (図6)。 これらは, 江原道内陸部から忠清北道・忠清南道北部にかけて

分布する。 これらの地域はソウルから100~200km圏に該当し, ソウル大都市圏を取り囲む地

域である。 それぞれのサブシステムの頂点に位置する都市は, 京畿道麗州ヨジュ

市をのぞいて人口10

万人以上の地方中心都市であり, 江原道春チュン

川チョン

市・忠清北道清チョン

州ジュ

市は道庁所在地, 江原道原ウォン

州ジュ

市・

忠清南道天安市は道内最大都市でもある。

しかし, 人口規模の大きな地方中心都市を上位結節点としながらも, これらのサブシステム

の規模は小さい。 最も多くの市郡で構成される原州サブシステムでも4, 麗州・清州・堤チェ

川チョン

(忠清北道) を頂点とするサブシステムは, わずか1結節点を下位に擁するのみである。 これ

らを頂点とするサブシステムは, 隣接結節点までを範囲とする程度の空間的広がりしかもたな

― ―13

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い。 清州市の人口58.6万人に対して, 前述の全州市は人口規模でほぼ同水準である。 しかし,

サブシステムの規模には大きな格差がある。 すなわち, 人口規模や都市機能の水準に比して,

この地域における地方中心都市の結節点としての機能は著しく低い。

この地域におけるサブシステムが成長しないことには, 2つの理由が考えられる。 第1はこ

の地域の位置的特性であり, ソウルからの距離によって規定される。 当該地域ではソウルから

の影響が依然強く, サブシステムの最上位結節点への流動に匹敵する。 たとえば, 春川サブシ

ステムに含まれる江原道洪ホン

川チョン

の場合, 春川への流動量は92.0便であるのに対し, ソウルへの流

動量が76.8便と接近している。 また, 春川に隣接しながらもソウルに直接接続する江原道華ファ

川チョン

は, ソウルに行くためには必ず春川を通らなければならない位置にある。 それにもかかわらず,

ソウルへは21.0便発生しているのに対し, 春川へは15.0便にとどまる。

第2に, バス交通の特性があげられよう。 ソウルを発地とした場合, 原州は江陵への, 清州・

天安は大田・大邱・釜山へいたる経路上に位置する。 韓国の長距離バスにはノンストップの路

線も多いが, 市外バスの場合は一般に複数の経由地で停車して客を乗降させる。 これらの結節

点はさらに遠隔に位置する終着点までの路線の途上に位置するため, 本論で採用したデータ,

すなわち任意の点から終着点までの区間を集計する, という手法では終着点としては取り扱わ

れず, 吸収量が少なくなる。 これはデータ構造上の制約ではあるが, そのことがかえって, ソ

ウルと大田・大邱・釜山などの大都市の中間に位置するこの地域の, いわば 「廊下的」 性格を

浮き彫りにしたといえよう。

� 単独結節点の分布とソウルへの依存

サブシステムをもたず, ソウルへ結合する単独結節点は, ソウルシステム内に19存在する

(表3)。 これらの内訳は, 京畿道が8, 江原道が5, 忠清南道が3, 忠清北道・全羅北道・慶

尚北道が各1である。 単独結節点は, 近隣の有力結節点の影響を受けつつもソウルと結合する

ことから, 最上位結節点との強い結合関係を示す指標と考えられる。 京畿道は, 全域がソウル

大都市圏に包含され, ソウルの影響力がきわめて強い。 しかし京畿道にとどまらず, 単独結節

点が江原道内陸部や忠清道にまで分布することは, これらの地域もまたソウルの強い影響下に

あることを端的に表している。

表3に基づいて, 単独結節点から発生する最大流動とソウルからの距離の関係を検討しよう。

流動量と運行距離の相関係数は�0.763で強い逆相関関係にあるが, 流動率と運行距離の間には

意味のある相関が見られない。 流動量は実際の便数であるから, 距離とともに減衰することは

容易に理解できる。 一方, 流動率もまたソウルへの依存を示すものであれば, 距離減衰効果が

観察されるはずである。 しかし, ソウルに最も近接した京畿道龍仁ヨンイン

・烏オ

山サン

では, 流動率が20%

台にとどまり, むしろ50~100km圏にある江原道鉄原チョロン

および京畿道坡州パジュ

・抱川ポチョン

などで50~90%

台に達する13)。 ソウルに近接する地域においてはソウルへの移動に長距離バス以外の手段が用

いられるため, ソウルとの結びつきが見かけ上弱くなるのであろう。 その点を考慮に入れた上

― ―14

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でも, ソウル大都市圏外縁部から大都市圏外にかけての地域に, ソウルへの直接依存度が大き

い結節点が分布することに留意すべきである。 たとえば江原道の華川・楊口ヤング

・麟蹄インジェ

は, ソウル

からみて前述の春川サブシステムより遠くに位置しているにもかかわらず, 道庁所在地の春川

を頂点とするサブシステムには含まれず, ソウルに直接接続している。 すなわちソウルの影響

力は地方の中心的な結節点を飛び越え, システムの縁辺部にまでも強く及んでいる。

� ソウルシステム内部の地域的特徴

以上の分析に基づき, ソウルシステムを全体的に俯瞰すると, ソウルを取り囲む京畿道はソ

ウルの影響を強く受ける単独結節点が分布する地域であり, ソウルの西側に限っては仁川サブ

システムが広がる。 ソウル大都市圏外の100~200km圏は地方中心都市を頂点とする小規模な

サブシステムによって特徴づけられるが, サブシステムをもたない単独結節点も多く, 両者が

併存している。 忠清南道南部と全羅道は, 道を領域とした大規模なサブシステムによって分割

されている。

サブシステムの配置からみた場合, ソウルシステム内部にはソウルからの距離に規定された

明確な配置原理がある。 ソウルの影響力は, ソウル大都市圏内においては個別の結節点に対し

て直接強く及び, 単独結節点を形成する。 ソウル大都市圏の隣接地域においては, 地方中心都

― ―15

表3 ソウルシステム内における単独結節点(2004年)

市 道 結節点ソウルへの最大流動

流動量(便) 流動率(%) 運行距離(km)

京 畿 道京 畿 道京 畿 道京 畿 道京 畿 道京 畿 道京 畿 道京 畿 道江 原 道忠清南道江 原 道忠清南道忠清北道江 原 道江 原 道忠清南道全羅北道江 原 道慶尚北道

龍 仁烏 山抱 川坡 州平 澤利 川安 城楊 平鉄 原牙 山華 川燕 岐鎮 川麟 蹄楊 口鶏 龍完 州旌 善軍 威

94.5131.8267.0115.0154.7115.1140.887.2137.095.621.030.587.729.020.88.013.013.08.0

20.626.859.077.725.915.742.924.293.217.038.223.934.335.446.4100.037.121.0100.0

41.946.047.551.069.873.174.177.285.0100.0117.0119.1124.5163.5171.2180.0218.3236.2297.0

(『時刻表』 より作成)

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市からの影響力が周辺には優勢に働き, サブシステムを形成する。 しかし, それらの影響力が

及ぶ範囲は限られ, サブシステムは小規模に限定される。 地方中心都市から離れた地域の結節

点においては, ソウルからの影響力が地方中心都市からのそれを再び上回り, 単独結節点とな

る。

忠清南道南部以南の地域では, ソウルの影響力は前地域に比べて限定的で, 大田・全州・光

州を頂点とした大規模なサブシステムが形成される。 しかしサブシステム内部の構造はそれぞ

れ異なる。 全州・光州サブシステムは完結率が高く, 域外からの影響が少ない。 光州サブシス

テムでは下位結節点と光州との結びつきが強いが, 大田サブシステムではソウルからの影響力

を若干受けて, サブシステム内部の結合が弱い。 また全州サブシステムは, 全州の影響力が相

対的に弱いため, 小規模な第3階層システムを複数内包する。

3. 大邱・釜山システム

慶尚北道・慶尚南道は, 大邱・釜山の2システムにおおむね分割されている。 これらのシス

テムは, ソウルシステムに次ぐ地位を占める。

� 大邱システム

大邱システムは25市郡によって構成され, 全体で10,921.5便の吸収量を有する (表1)。 最

上位結節点である大邱の吸収量はソウルの約半分であり, システム全体ではソウルシステムの

約4分の1にすぎない。 ここにいたって, ソウルシステムの規模がひときわ大きいこと, ひい

てはソウルが韓国の国土全体に及ぼす影響力がきわめて強いことが, より鮮明に示される。

大邱システム内部には小規模サブシステムが5存在するが, それらよりも13の単独結節点が

システムの構造を特徴づける (図4)。 単独結節点は最上位結節点との強い結合を示唆するが,

大邱システムにおける最上位結節点への平均流動量は106.9便, 流動率は38.9%で, 平均流動

率がソウルシステムより高い (表2)。 したがってシステム内部における大邱の地位は, ソウ

ルのそれに比べて高いと解せられる。 しかし, この平均流動率は全システム中の下位に位置す

るため, 最上位結節点の求心力が必ずしも高くはない。 大邱システムには単独結節点と小規模

サブシステムが併存するため, 全体として大邱の求心力は低下する。

一方で大邱システムの完結率は, 全システム中最高の69.3%に達する。 大邱システムは完結

性が高いものの, 小規模サブシステムを複数内包しているため, システム全体としては大邱の

求心力が比較的低いことが特徴である。

� 釜山システム

韓国第2の都市である釜山を頂点としたシステムは, わずか14市郡によって構成された小規

模なものである (表1)。 システム全体の総吸収量は8,704.4便で, 大邱システムの80%程度で

ある。 システムを構成する市郡数では, ソウルシステムの全州サブシステムと同規模である。

システムの空間的範囲は慶尚南道の中部・東部および蔚山に限定される (図5)。

― ―16

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釜山システム内部には, 慶尚南道馬マ

山サン

を頂点とするサブシステムが存在する (図6)。 馬山

サブシステムは7市郡で構成され, 釜山システム全体の半数を占める。 釜山システムは, 釜山

と直接接続する単独結節点が分布する東部と, 西部の馬山サブシステム領域に分割される。 釜

山への平均流動量・流動率は, ともに大邱システムより高いものの, 完結率は大邱システムを

10.0ポイント下回る (表2)。 釜山システムが有するサブシステムは馬山サブシステムのみで

あるため, 平均流動量・流動率の高さは, 東部に分布する単独結節点との結合の強さをもっぱ

ら意味する。 すなわち釜山システムは東部と西部に大きく分断され, さらにはシステム全体の

独立性でも大邱システムに及ばないといえよう。

馬山の総吸収量は釜山の57.0%に相当する1,663.6便にすぎないが, 人口では釜山広域市の36

6.3万人に対し, 馬山市はわずか10%あまりの43.4万人であることを考慮する必要がある。 人

口41.8万人で馬山市とほぼ同規模の天安市の総吸収量が1,410.5便で, 総吸収量も馬山と同程度

であることから, 馬山が人口規模以上の機能量を有するのではなく, むしろ釜山の機能量が低

いと考えるべきであろう。

とすれば, 釜山の機能量がなぜ低いかが問題となる。 第1には, 釜山の位置が国土の東南端

にあり, 後背地が北側と西側にしか展開していないことがあろう。 一般に最大流動法では, 縁

辺部においては流動を吸収できる空間が中央部よりも限定されるため, ポテンシャルが低下す

る。 加えて釜山システムは, より大規模な大邱システムに隣接し, 慶尚北道からの流動を大邱

に遮られている。 最後に, 釜山システム内部での競合があろう。 釜山広域市を含む慶尚南道南

東部は, 韓国最大の重化学工業地域であり, 釜山に隣接して金キ

海メ

市・昌原チャンウォン

市・鎮海市・馬山市,

さらには蔚山広域市が分布している。 これらの都市は釜山広域市とともに釜山大都市圏を形成

し, それぞれが工業集積のみならず都市機能全般を集積させている。 釜山は周辺に位置する単

独結節点と, サブシステムの頂点にある馬山に機能を分散させていると考えられる。

大邱・釜山両システムは, 国土の約4分の1を占め, 慶尚道をほぼ網羅する。 しかし両者は

競合的な関係にあり, 現在は大邱システムが優勢である。 両システムともに完結性は平均より

高い。 大邱システムでは最上位結節点の求心力が比較的低いのに対し, 釜山から単独結節点へ

の影響力は強い。 また, 馬山の影響力がシステム西部において卓越し, 釜山とシステムを2分

する。 さらに釜山に隣接する単独結節点が釜山の機能を分担している。

4. 晋州・麗水, 江陵・泰安, その他のシステム

� 晋州・麗水システム

晋州・麗水システムは, それぞれ慶尚南道西部・全羅南道東部に隣接して位置する (図4・

5)。 晋州システムは, 北側をソウル・大邱システムに, 東側を釜山システムに接する。 麗水

システムは北側と西側をソウルシステムに囲まれている。 両システムは, 大規模システムの境

界部分に成立したシステムといえよう。

― ―17

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晋州システムは慶尚南道西部の6市郡からなり, 最上位結節点の晋州は1,651.8便の総吸収

量を有する。 一方麗水システムは5市郡によって構成され, 麗水の総吸収量は758.1便である

(表1)。 両システムとも, 3大都市群システムに比べて小規模である。 晋州システムは内部に

サブシステムをまったく有さない単純な構造である。 そのため, 平均流動率は41.0%に達し,

最上位結節点の統制が強い (表2)。

麗水システムは順スン

天チョン

を頂点とするサブシステムを内包し, 単独結節点が1つしか存在しない。

麗水の総吸収量758.1便に対して, 順天の総吸収量は757.9便と, わずか0.2便差で麗水を頂点と

するシステムと判定されたが, 人口規模からも麗水市30.3万人, 順天市26.5万人と接近してお

り, 両結節点の差異はわずかである。 すなわち, 一極的な支配下にある晋州システムに対して,

麗水システムは麗水・順天の2結節点が並立する二極構造を有する。 このようなシステムの構

造的差異は, システム内部における人口分布によって規定されると考えられる。

慶尚道・全羅道の境界地域に2つの都市群システムが成立した要因には, 当該地域が, 釜山・

光州からの中間点に位置することがあろう。 慶尚道と全羅道は歴史的に地域間の対立が激しく,

両地域間を結ぶ交通インフラの整備は遅れている。 釜山―光州間は, 対馬海峡沿いを横断する

南ナ

海メ

高速道路と湖ホ

南ナム

高速道路によって結ばれているが, 全通はソウル―釜山間を結ぶ京釜高速

道路より3年遅い1973年11月で, 現在計画中の南海高速道路の木浦―順天間は開通年次が未定

である。 また釜山と木浦を結ぶ国鉄慶全キョンジョン

線では, 釜山発の列車のほとんどが晋州を, 光州・木

浦発の列車のほとんどが順天を終着とし, 釜山―光州・木浦を結ぶ直通列車は1日3往復しか

運行されない14)。

慶尚道と全羅道の境界地域は, 両道の中心都市である大邱・釜山・光州, さらにはソウルの

影響が及ぶ限界点付近にあたる。 晋州・麗水システムの完結率は, 前者が54.4%, 後者が62.5

%で比較的高い (表2)。 このことは, 両システムが孤立的な性格を有することを示す。 両シ

ステムは大規模システムの影響が減衰した, いわば 「狭間の地域」 に成立したシステムである

といえよう。

� 江陵・泰安システム

江陵システムは江原道の日本海側の嶺ヨン

東ドン

地域に形成される (図5) 15)。 構成市郡数は7で,

最上位結節点の江陵の総吸収量は1,032.6便, システム全体の総吸収量は2,770.7便で, 晋州シ

ステムと同規模である (表1)。 泰安システムは, 忠清南道の泰安半島に位置する4市郡とソ

ウルに隣接する京畿道光明市で構成される。 泰安の総吸収量は703.2便, システム全体の総吸

収量は1,824.3便で麗水システムと同規模である。

江陵システムは南北に延びた形状で, 2つのサブシステムを内包している。 泰安システムは

1つのサブシステムを含むほか, 光明を飛び地的な領域としている。 光明市はソウルの都市域

と連続しており, 泰安システムは実質的には泰安半島の4市郡で構成される。

これらのシステムの形成要因は, 両地域の地形的な隔絶性と後進性にある。 江陵システムが

― ―18

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位置する嶺東地域は, 韓国の脊梁山脈である太白山脈に隔てられ, 嶺東高速道路が開通する19

75年までは, 国道4号と国鉄嶺東線のみがソウルと江陵を結ぶ交通路であった16)。 江陵の総吸

収量のうち, 574.8便はシステム外からであるが, その42.7%にあたる245.5便はソウル・仁川

をはじめとする嶺東高速道路沿線の6結節点からの吸収である。 また, 江陵システムの完結率

が50.9%と低いことは, 嶺東高速道路の開通により, 当該システムが域外の影響を受けやすく

なったことを示す (表2)。 江陵システムにとって, 嶺東高速道路の開通はシステム外部との

接続を強化する役割を果たしたといえよう。

泰安システムが位置する泰安半島は, 1945年の解放以降も後進地域とされてきた。 現在, 泰

安郡の海岸線は泰安海岸国立公園に指定され, システム内を西海岸ソ ヘ ア ン

高速道路が縦断しているた

め, 夏季には海水浴客で賑わう。 泰安半島の交通条件が改善されたのは京畿道と忠清南道の境

界に位置する牙ア

山サン

湾開発の影響である17)。 それ以前の泰安半島は, 国土軸からはずれた貧困な

農漁村地帯であった。 泰安システムの完結率は42.3%にすぎず, 域外, とくにソウルからの影

響が強いことを示唆する (表2)。

嶺東地域および泰安半島は, 地形的な隔絶性から孤立的なシステムが形成された。 しかし交

通インフラの整備が進んだ結果, ソウルに比較的近接している両システムは完結率を低下させ,

むしろ開放的なシステムに変容した。

� その他のシステム

ソウルを取り囲む京畿道には城南と議政府を頂点とする小規模なシステムが存在する (図4)。

両システムはそれぞれ1市郡と接続するのみで, 周囲をソウルシステムに取り囲まれている。

城南市には1980年代にソウルの過集積を解消するために建設された, 5つの新都市の1つで

ある盆プン

唐ダン

ニュータウンが整備されている18)。 盆唐ニュータウンの建設以降, 郊外農村地域だっ

た城南市の人口は急増し, 特別市・広域市をのぞくと水原市に次ぐ規模に成長した。 また, 市

内に京釜高速道路の板パン

橋ギョ

インターチェンジがあるため, 交通結節点としての機能も向上した。

議政府市はソウルの北東に隣接し, 南北分断以前はソウルと元山ウォンサン

(現, 朝鮮民主主義人民共

和国) を結んだ国鉄京元キョンウォン

線の沿線に位置する (ナム・チェ 2004)。 このような背景から, 議政

府は従来から京畿・江原両道の北部地域との結びつきが強い。

城南・議政府両結節点は, 市内バス・地下鉄によってソウルとの流動が確保されていること

から, 実質的に両システムはソウルシステムに内包されるサブシステムであると考えられる。

本論で採用したデータの限界性から, 独立したシステムとして分離された。

Ⅳ. おわりに ―韓国における都市群システムの形成過程―

長距離バス交通からみた場合, 韓国には7の主要な都市群システムが見いだされた。 それら

は①国土の過半を占めるソウルシステム, ②慶尚道を分割する大邱・釜山システム, ③3大シ

― ―19

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ステムの境界に成立した晋州・麗水システム, ④地形的隔絶性と後進性を背景とする江陵・泰

安システム, と性格づけることができる (図7)。 城南・議政府システムは, 実質的にはソウ

ルシステムのサブシステムである。

ソウルシステム内部においては, ソウルからの距離に規定されて, �単独結節点が分布する

京畿道, �地方中心都市を頂点とした小規模サブシステムと単独結節点が並立する江原道内陸

部・忠清北道・忠清南道北部, �大田・全州・光州を頂点とする大規模サブシステムが占拠す

る忠清南道南部・全羅道, の3地域に区分できた。 「漢江ハンガン

の奇跡」 と呼ばれた経済成長期以前

においては, ソウルシステムは�および�の範囲にとどまり, 仁川・水原を大規模サブシステ

ムとして内包していたと考えられる。 また, �に分布する小規模サブシステムは, 現在より多

くの結節点によって構成されていたと考えられる。 大田・全州・光州はそれぞれ, 忠清南道・

全羅北道・全羅南道を領域とする, 独立したシステムを形成していたと考えられる。 これらは

1970年代における高速道路の開通により, ソウルとの流動が増大した結果, ソウルのサブシス

テムに編入された。

一方, 大邱・大田システムが展開する慶尚道においては, 釜山システムの範囲が現在より北

― ―20

図7 韓国における都市群システムの形成過程 (1970年代~2004年)

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にまで及んでいたと考えられる。 釜山システムの縮小は, 馬山・昌原などの域内主要都市, お

よび大邱との競合の結果であろう。 また, 晋州・麗水・江陵・泰安の小規模システムの領域は,

現在とあまり変わらなかったと予測できるが, 完結率は現在よりはるかに高く, 孤立的な性格

が強かったであろう。 このほかにも, 木浦をはじめ, 全羅北道の益山, 慶尚南道にあった蔚山

など, 国土縁辺に位置しながら拠点性の高い都市の中には, 過去には大規模なサブシステムを

形成していた可能性があるものもある。

このように考えると, 韓国の都市群システムは, ソウルへの急激な機能の集中によって統合

される方向にあることは明確である。 今後もこの傾向が継続するとすれば, まず大田サブシス

テムは解消し, ソウルシステム内における�の地域に含み込まれるであろう。 また, 交通条件

の改善によって完結性を低下させた江陵・泰安システムも, 同様の経過をたどると予測される。

一方, 慶尚道と全羅道の狭間にある晋州・麗水システムがそれぞれ釜山・ソウルシステムに組

み込まれる可能性もある。 大邱・釜山システムの競合関係は今後も継続すると考えられるが,

2004年4月に開業した高速鉄道や航空旅客の増加は, 釜山システムの縮小を促す可能性もある。

ソウルとの接続強化によって, 大邱システムがソウルシステムのサブシステム化することもあ

り得る。

また, 韓国においては現在も農山村における過疎化に歯止めがかからず, 都市と農村の格差

が拡大を続けている。 このことが下位結節点から発生する流動を萎縮させることも考えられよ

う。 この現象は, バスターミナルがない市郡の存在によってすでに顕在化している。 都市―農

村間と同様の格差拡大は, ソウル―地方都市間においても問題となっている。 大都市圏以外の

地域では, 道庁所在地レベルの地方中心都市においても人口の停滞や減少が見られる。 したがっ

て, サブシステムレベルでの規模縮小も予想されよう。 とくにソウルシステム内の小規模サブ

システムが縮小し, 江原道・忠清道の全域がソウルの影響を強く被る単独結節点分布域になる

可能性が高い。

韓国は国土政策上, 分散型を標榜してはいるものの, 現実にはソウル大都市圏への集中が止

まらない。 本論が採用したデータは, OD表が入手できない場合の簡便法であるが, それをもっ

てしても, 韓国の国家的都市群システムをほぼ実態に即して抽出できたものと考える。 その結

果, 国土全体に対するソウルの影響力の強さが, 改めて確認された。

付 記

本論は2004年度駒澤大学在外研究 (長期;派遣先, 大韓民国高麗大学校師範大学地理教育科) による研究成果の第1報である。 高麗大学校においては, 地理教育科の南�佑教授に研究環境の面で親身なご助力を得た。 本論作成にあたって, 大学院生の孫承浩氏は, 都市群システム研究について門外漢の筆者に有益なアドバイスを与えてくださった。 非常勤講師の鄭美愛氏には, ODデータ作

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Page 22: 長距離バス交通からみた韓国の都市群システムrepo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/17683/kg041-01.pdf · には,発生最大流をその都市の代表的な流動と見なす,最大流動法を採用する。第Ⅲ章では抽

成の際にご助力をいただいた。 また, 本論で採用した都市名の日本語読みは, http://www.korea�go.toの 「韓国地名一覧」 を参照した。 末筆ながら記して感謝申し上げたい。

1) 建設交通部 『交通部門輸送実績報告』 による。2) セマウル号は日本の特急列車, 無窮花号は急行列車に該当する。3) マウルとは村落の意味で, マウルバスは元来農村と中心集落を結ぶ路線が主体であった。 現在ではソウル特別市や各広域市の区を圏域として運行されるバスも同様の名称で呼称される。4) 韓国観光公社のHP (http://www.knto.or.kr) に掲載されている市外バス時刻表は, 『時刻表』に基づくと思われるが, 『時刻表』 には掲載されていないバスターミナルが3か所ある。5) この数字は発地側からのカウントである。 すなわち地点A―B間を結ぶ路線は, A発B着とB発A着の2区間としてカウントされる。6) 韓国の行政単位は1特別市 (ソウル) ・6広域市 (釜山・仁川・大邱・大田

テジョン

・光州クヮンジュ

・蔚山ウルサン

) ・9道 (京畿道

キ ョンギ ド

・江原道カンウォンド

・忠清北道チュンチョンプッド

・忠清南道チュンチョンナムド

・全羅北道チョル ラプ ッド

・全羅南道チョル ラナムド

・慶尚北道キョンサンプッド

・慶尚南道キョンサンナムド

・済州道チ ェジ ュド

) の16市道に分けられ, ソウル特別市と6広域市は区に, 他の9道は市郡に細分される。本論では特別市・広域市をそれぞれ1市とし, 道内の市郡と同列に取り扱う。 また, 島嶼で本土と直通バス路線をもたない済州道 (2市2郡) および慶尚北道鬱陵

ウルルン

郡の計2道3郡は対象から除外した。7) これらの16市郡は, 高城

コソン

郡 (江原道) ・光明クヮンミョン

市・広州クヮンジュ

市・金浦市・東豆川トンドゥチョン

市・始興シフン

市・安養アニャン

市・華城ファソン

市 (京畿道) ・鶏龍ケリョン

市 (忠清南道) ・完州ワンジュ

郡 (全羅北道) ・務安ムアン

郡・新安シナン

郡・長城チャンソン

郡 (全羅南道) ・慶山

キョンサン

市・軍威クヌィ

郡 (慶尚北道) ・鎮チ

海ネ

市 (慶尚南道) である。8) バス運行区間が見いだされず, 最終的にOD行列から除外された市郡は, 楊州

ヤンジュ

市・南楊州ナミャンジュ

市・九ク

里リ

市・河南ハナム

市・軍浦クンポ

市・果川クヮチョン

市・儀旺ウィワン

市 (京畿道), および和順ファスン

郡 (全羅南道) である。9) たとえば, 人口22.8万人の江陵市 (総吸収量1032.6便) とほぼ同規模で, 大邱広域市に隣接する慶尚北道慶山市の総吸収量はわずか143.3便である。 また, 人口76.4万人の京畿道高陽

コヤン

市の総吸収量は163.5便, 人口58.1万人の京畿道安養市は252.1便にすぎない。10) 本論では, 最上位結節点に接続しているが, 下位にサブシステムを有さず, 階層を決定できない結節点を単独結節点として扱う。 単独結節点は, 本来最上位結節点からみた場合において使用されるべき用語であるが, ここでは全州に接続しながらも下位に第3階層システムを有さない結節点を指して同様の用語を用いた。11) 木浦を頂点とする3市郡によって構成される第3階層システムは注目に値する。 木浦は国土縁辺地域である全羅南道の南端部に位置するが, 朝鮮時代末期に仁川などとともに開港場とされ,植民地時代には群山

クンサン

とともに日本への米の積出港として発展した。 木浦には現在でも高次の都市機能が集積し, 全羅南道南部の拠点として機能している。 木浦に接続する結節点は2つのみであるが, 流動率がきわめて高いことが図3から読み取れる。 隔絶地域にありながら拠点性の高い都市の存在は, 小規模ながら強固なシステムを形成する要因であろう。12) 光州からソウルへの流動量は176.8便である。13) 忠清南道鶏龍市・慶尚南道軍威郡はそれぞれ大田・大邱に隣接し, 長距離バスの発生量自体が各8便と少なく, それらがすべてソウルを終点としている。 これらの都市にも大田・大邱からの市内バスが運行されている。14) これに対し, ソウル―釜山を結ぶ国鉄京釜線のセマウル・無窮花号は35往復, 2004年4月に開

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業した高速鉄道 (KTX) は37往復である。 また, ソウル―光州・木浦を結ぶ国鉄湖南線のセマウル・無窮花号は16往復, KTXは17往復で, いずれの路線も釜山―光州・木浦間の直通列車よりもはるかに多い。15) 嶺東は太白

テベク

山脈の東側を意味し, 元来は慶尚北道の日本海側も含む地域名であったが, 現在は一般に江原道の日本海側のみを指す。 後進地域とされる江原道の, さらに遠隔地というニュアンスをこめて用いられることが多い。16) 国鉄嶺東線は山岳地帯を迂回するため, 慶尚北道の栄州

ヨンジュ

を経由する。 現在でも最速のセマウル号で江陵までは6時間20分を要する。17) 牙山湾開発は, 1967年に始まった大規模な地域開発プロジェクトであり, 干満差の大きい牙山湾を埋め立て・干拓し, 農地整備と工業開発を同時に進める計画であった。18) 盆唐ニュータウンのほか, ソウル20km圏内には, 一山

イルサン

・中洞チュンドン

・山本サンボン

・坪村ピョンチョン

のニュータウンが建設された。 これらのニュータウンには居住機能のみならず, オフィス機能や商業集積もみられ,ソウルの機能の外縁的分散に貢献している (鄭 2002;キム 2003)。

文 献

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