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船舶用レーダー通信技術の研究開発 (平成20年度~平成22年度) 独立行政法人 情報通信研究機構 武蔵野電機株式会社

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船舶用レーダー通信技術の研究開発(平成20年度~平成22年度)

独立行政法人 情報通信研究機構武蔵野電機株式会社

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1

船舶用レーダー通信システムの前提船舶用レーダー通信の目的

Ⅰ 既存の船舶用レーダーシステムを流用する。

通信用アンテナは船舶用レーダーアンテナを基本とする。

立体回路は船舶用レーダーシステムを流用する。

アンテナ特性は、

大型船用で水平ビームが約1°小型船用で約2°~6°

しかし、垂直ビームは±10度以上ある。

すなわち、反射波が多く存在する。

ロータリージョイントがあるため、立体回路は既存のものに追加・改修して対応せざるを得ない。

レーダーの送受信と通信の送受信を干渉無く配置する統合化技術が必要。

Ⅱ 既存の船舶用レーダーシステムに影響を与えない。

既存のレーダーは3波が使えるが、ほとんどが9410MHzである。このため、干渉があることは前提で、各種干渉除去装置を有する。

許可されている9375MHzと9445MHzにて、通信を行い、既存レーダーへの干渉を極力抑える。

また、レーダー性能に影響を与えることがないような通信信号が求められる。

したがって、9GHzの高速チップによる周波数拡散の通信方式が必要となる。

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そもそも海上の移動体通信には、どのような制限があるか?

アンテナの高さが通信距離(見通し)に影響を与える。

h1(アンテナ高)

水平線距離

r:地球半径等価地球半径係数4/3のとき:8490km

r

0

5

10

15

20

25

0 5 10 15 20 25 30

アンテナ高[m]

水平

線距

離[km

大型船のアンテナ高15m、小型船のアンテナ高4mとすると24kmが見通せる限界となる。

d1 d2

r2

直接波

r1

送信点 受信点

電波の空間に広がって進む

d

フレネル半径

2次

1次

フレネルゾーン

迂回波

0123456789

101112131415

0 5000 10000 15000 20000

通信距離[m]

フレネル半径[m]

1次フレネルゾーンが海面に触れた点から、伝搬損失は急激に大きくなる。(距離の4乗に比例)つまり、受信電力が大幅に低下する。 2

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移動による受信電力の変化

相互の距離が変化する海上通信は、極端に通信品位が低下する場合がある。

-90

-80

-70

-60

-50

-40

-30

-20

-10

100 1000 10000 100000距離 D [m]

受信

電力

Pr 

[dB

m]

シミュレーションの条件

・周波数:9.410GHz・送信電力:37dBm・アンテナ利得:30dBi(送受信とも)・結合損等:12dB(送受信とも) カップラ:10dB、フィルタ・ケーブル:2dB・アンテナ間距離:100~100km・アンテナ高:4mと15mの組合せ・反射面:1面・反射率:100%、位相180度回転・大地:平面(地球の丸みを考慮していない)

f:9.410GHzh1:4mh2:15m

受信感度(-65dBm)

ブレークポイント(フレネルとの接点)

6dB

自由空間

3

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システム検討・シミュレーション

担当:独立行政法人 情報通信研究機構

4

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レーダー特有の課題

実際の船舶用レーダーの画像× 通信不可

○ 通信可

× 通信不可

○ 通信可

× 通信不可

○ 通信可

レーダー送信

レーダー受信

パルス周期

観測時間 通信時間帯(表示範囲外)

アンテナが向き合う必要がある。空間的同期

レーダーの休止時間に通信する必要がある。

時間的同期

アンテナが自立的に360°回転する。

自立的に間欠送信をしている。

測定レンジ パルス幅 [μs]

繰り返し(PRF) 往復時間 [μs]

通信可能時間

[μs] [nm] [km] 周波数 [Hz] 周期 [μs] 0.5(SP1) 0.962 0.08 2250 444 6.2 438 1.5(MP1) 2.778 0.28 1703 587 18.5 569 3(MP2) 5.556 0.5 1204 831 37.0 794 6(LP1) 11.112 0.8 752 1330 74.1 1256

12(LP2) 22.224 1.0 650 1538 148.2 1390

不感帯

代表的な船舶用レーダーの値から計算備考1 1nm=1852m備考2 往復時間=2×距離/光速c、c=3×108[m]備考3 通信可能距離=繰り返し周期-往復時間備考4 PRF:Pulse Repetition Frequency

(送信繰り返し周波数)5

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レーダーアンテナ:屋外

導波管

送受信機制御器 表示器

方向性結合器 SG(I/Q制御)

FPGA

PC

実映像のレーダー画面に通信変調信号を混入した場合1

信号は表示レンジ以遠に混入

通常の画像

信号を混入した画像

CH1:送信トリガ

レーダービデオ(受信信号)

CH1:送信トリガ

レーダービデオ(受信信号)

実映像のレーダー画面に通信変調信号を混入した場合2

通常の画像

信号を混入した画像

CH1:送信トリガ

レーダービデオ(受信信号)

CH1:送信トリガ

レーダービデオ(受信信号)

信号は表示レンジ内に混入

実験結果から

通信予定時間(空き時間)に時間的な余裕を持って信号を混入しても、レーダーの画像処理によって、感度が悪化したと同様な影響をもたらす場合があった。

信号無し 信号有り

原因と対策

船舶用レーダーに使われている受信機では、一般的にAC結合増幅器が用いられているので、レーダーの受信信号(パルス信号)に比べて非常に長い信号が入ると平均値のレベルが変動し、レーダーパルス信号レベルが低下したような効果を与えてしまう。 (拡散チップ速度と拡散率を下げ、1回の通信長を短くすることが現実的である。)

通信可能時間の検討その2 実映像のレーダー画面に通信変調信号を混入した場合の検討

通信信号の信号長とレベル

6

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60ビットのデータ系列をスペクトル拡散(変調方式:FSK、PSK)する。FSKは、9375MHzと9445MHzによる周波数シフト。PSKは、9445MHzの位相0°と180°による位相シフト。チップ速度:10,15,18.75,30,37.5,50Mcps 拡散率:16,32,64,128,256,512,1024

パケット長:64bitの構成内訳

・PRE(2bit)、SYNC(7bit)、HDR(2bit)、POST(2Bit)は送受信のためレーダー 通信装置が使用する。・DATA(51Bit)に自船情報/相手船情報をのせる。・レーダー通信制御装置はDATA(51Bit)にのせるデータをレーダー

通信装置へ送る。

DATA(51bit)の内容形式

a.パケット番号(2Bit) b.自船情報/相手船情報(41Bit)c.CRC8(8Bit)

船種

0:漁船(Fishing Vessel)1:貨物船(Cargo ships)2:タンカー(Tanker)3:客船(Passenger ships)4:タグボート(Tugs)5:プレジャーボート(Pleasure craft)6:帆走船(Sailing Vessel)7:表面効果翼船(Wing In Ground)8:曳航船(Towing Vessel)9:はしけ(Port tenders)10:巡視船(Patrol boat)11:軍艦(Battleship)12:潜水艦(Submarine)

運航状況

0:動力航行中(under way using engine)1:錨泊中(at anchor)2:操船不能(not under command)3:操船性能に制限あり(restricted maneuverability)4:喫水制限あり(constrained by her draught)5:繋留中(moored)6:座礁(aground)7:漁業操業中(engaged in fishing)8:帆走中(under way sailing)

通信信号の検討

自船情報/相手船情報のビット内訳(163ビット)

緯度 20ビット 北緯30度からの+方向オフセット 0.001分単位

経度 21ビット 東経126度からの+方向オフセット 0.001分単位

対地船速 7ビット kn単位 0~50(0~50kn)対地コース 9ビット 度単位 0~359(0~359度)船首 9ビット 度単位 0~359(0~359度)船種 4ビット 0~12運航状態 4ビット 0~8船体長 5ビット 10m単位船名 66ビット 1文字6ビット、11文字文国際信号符号 18ビット 1文字6ビット、3文字文

船舶用レーダー画面に通信結果を表示させる必要がある。

現行の船舶用レーダーは、外部からAIS(船舶自動識別装

置)の情報を取り入れ、座標変換をして画像として表示している。

通信結果をAISのフォーマットに変換して、レーダー画像に表示させる。

AISで使用している情報量(163ビット)だと4パケットを使用する。

AIS情報の表示例PRE SYNC HDR DATA POST

2bit 7bit 2bit 51bit 2bit

パケット番号

自船情報/相手船情報 CRC8

2bit 41bit 8bit

7

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通信プロトコルとID付与

通信信号

RADARが出力したパルス信号

■単方向通信モード

自局・相手局とも同じ動作を行います。このモードのときは、自分のパルス出力を基準に通信信号を出力します。

通信信号出力タイミング

通信信号

パルス出力トリガ(RADARより入力)

RADARが出力したパルス信号

sim出力した通信信号 sim出力した通信信号

通信信号出力タイミング

自局または相手局送信側

通信信号

RADARが受信したパルス信号

通信信号出力タイミング

通信信号

RADARが受信したパルス信号

simが受信した通信信号

simが受信した通信信号

通信信号出力タイミング

自局または相手局受信側

(トリガ信号から経過時間を計数)

(トリガ信号から経過時間を計数)

(受信パルスから経過時間を計数)

(受信パルスから経過時間を計数)

(伝播空間)

0101…

0101…

0101…

0101…

1:レーダー波に対する変調方式の検討

レーダー波そのものを位相変調する方式

ID

信号

時間t

電力

P

レーダーパルス幅 tw

レーダー画像

処理時間」

繰返時間 t

通常のレーダー波

レーダー波+通信信号

電力

P

IDを付加

時間

レーダーから発射されたレーダーパルスが物標に反射して帰ってくるまでの待ち時間

t

3:SS信号を付加する方式の検討

レーダーが待ち受け中にスペクトラム拡散信号によるIDを付加する方式

2:パルス幅、繰り返しを変えてID信号とする方式の検討

毎送信毎のパルス幅及び繰り返し周波数を変化させ、IDを付加する方式

レーダー画像処理時間」

通信モードは単方向通信及び自動折り返し通信を検討した。

しかし、レーダーがレーダー電波を送信しているときは、通信が出来ないことから、試作機には両方搭載するが、単方向通信モードにて実験を行うこととした。

1 通信が確立する前に、相手のIDが欲しい場合がある。

2 このため、IDを常に送信する、放送方式を主に、3つの手法を検討した。

8

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Ⅰ レーダー波に変調を加える方式

9GHz発信器を高速スイッチングし、パルス変調を行う通信モジュールを試作した。

通信実験を実施(電波暗室内)

周波数:9300~9500MHz

出力:5W

立ち上がり、立ち下がり:各5ns

ID付与技術

10nsの場合

F1= 9.375 GHz F2= 9.445 GHz

F1

F2

出力波形(IF:70MHz)

駆動波形

駆動波形

F1= 9.375 GHzF2= 9.445 GHzF3= 9.410 GHz

F3 F1 F2 F1 F2

スペクトラム波形

1 発振デバイスは完成した。

2 予定した増幅器が生産中止となり、固体素子レーダーを借用して、開発したデバイスを統合する検討を行った。 しかし、制御するFPGAを全面的に変更する必要があり、接続することは困難であると判断した。

3 既存の方法でレーダー波に符号を加えるためには、数μS~数10μSの長

パルスを用いている。船舶用レーダーでは探知性能を向上するために、長1μSという狭パルスを用いているため、対応は困難であると判断した。

4 なお、開発したデバイスは通信用デバイスに使用することとした。

Ⅱ パルス幅、繰り返しを変えてID信号とする方式

1 固体素子レーダーの送信パルス幅、繰り返し周波数を、1送信毎に 変更できるかについて調査した。

2 調査の結果、レーダーとしての性能を維持するためには、受信回路も毎回パルス幅・繰り返し周波数の違う反射を制御する必要があることから、 終検討から除外した。

Ⅲ 通信パケットを流用した方式

1 通信信号用のパケットにID情報のみを付加する方式を検討した。2 ID信号は、送信時に全周にわたって送信を行う放送方式及び特

定のターゲットに送信する方式を検討した。機器は、通信用試作機の通信パケットを流用し、ソフトのみ入れ替えて検討した。

3 実験の結果、IDを送受信できることを確認した。

PRE SYNC DATA CRC POST

2bit 7bit 12bit 4bit 2bit

ID信号の構成:27bit

9

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24回転

24回転

27回転

20回転

そもそも独立して回転しているアンテナ同士が向き合うのか?

アンテナパターンを考慮し、1対3で回転率が違う場合のシミュレーションを実施

1 通信を開始するには、まず、相手のレーダーと対向するような

レーダーの回転制御が必要

2 1対向が出来れば、回頭等を除き15msec程度(1見合い)の通

信可能時間が確保できる。

アンテナ回転同期システムシミュレーション実験

回転同期試験装置 アンテナ回転同期インターフェース

相手船回転信号

ビデオ信号

トリガー信号

自船回転制御信号

1.通信相手船レーダーの設定

相手船の方位、アンテナ回転速度、送信パルス幅、周期、アンテナ ビーム幅を設定

2.自船レーダーの設定

自船レーダーのアンテナ回転速度、可変範囲等を設定

3.相手船送信波の抽出

相手船の方位、指定されたPW、PRIで現れるパルスを信号処理(FPGA)で相手船の送信波を識別・抽出する。

シミュレーション結果

初動時の対面位置によって、数秒から10分程度までの幅はあるが、対向することは可能である。

また、アンテナパターンのデータから1対向当たり約15msec程

度の通信時間を持つことは可能である。

時間的空間的同期技術(シミュレーション)

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機器の詳細設計と試験

担当:武蔵野電機株式会社

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項目 仕様

レーダー装置部 送信電力 10KW(1,2号機)、8KW(3号機)、4KW(4号機)

送信周波数 9410MHz±30MHz

送信パルス幅 0.08~1μs

送信繰返し周波数 2250~650Hz

空中線開口長 6ft(1,2,3号機)、4ft(4号機)

空中線水平ビーム幅 1.2°(1,2,3号機)、2°(4号機)

空中線利得 30dBi(1,2,3号機)、25dBi(4号機)

空中線回転数 20~50rpm(1,2号機)、約27rpm(3,4号機)

通信装置部 変調方式 位相変調(PSK:G1D)、周波数偏移変調(FSK:F1D)

通信周波数 (G1D):9445MHz、(F1D):9375MHz&9445MHz

占有帯域幅 100MHz(G1D)、170MHz(F1D)

空中線電力(結合機を含む) 0.5W(1、2号機)、0.4W(3,4号機)

通信信号 フレーム長 64ビット(データ長51ビット)

拡散度 16,32,64,128,256,512,1024

拡散チップレート 10,15,18.75、30、37.5、50MHz

同期 レーダーの送信タイミングに同期

送信タイミング レーダー送信から2~999μs後に送信開始

空中線 レーダー空中線を共用

ダイバーシティ受信用ホーンアンテナ(利得20dBi)

機器の詳細設計と試作レーダー通信装置仕様

12

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レーダー空中線駆動部にあるエンコーダから出力される方位パルス信号をフィードバック制御の回転速度検出信号として利用したサーボモータによる回転制御システムを構築する。 回転加速はモータの供給電圧制御、減速は供給電圧制御とイナーシャ摩擦制動と回生ブレーキを併用する。

アンテナ回転同期制御システム

回生電流を活用したブレーキシステムは、発生した回生電流を電動機の電機子に戻してやることによって、急激に制動させることが出来る。

回生ブレーキ

R

ME

R

ME

S1

S2

S1

S2回生ブレーキに切換

時間的空間的同期技術

ブレーキ

回路

アンテナ回転同期

インターフェース

(制御PC)

M供給電源

①③②

アンテナ回転制御部

通信受信部で受信したレーダー送信波

レーダー空中線駆動部制御部

表示器

①設定回転数②イナーシャ制動③ブレーキON

回転同期 I/F空中線I/F回路

(回転数制御)

レーダー送信波

回転制御信号

方位パルス信号

モータ

ドライバ設定制御

信号

エンコーダ

(アンテナ試作)

13

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船舶用9GHz帯レーダーに通信機能を付加して船舶用レーダー通信を可能とするレーダーと通信の統合化技術の研究開発を行うために、レーダー通信装置を開発した。レーダー通信は、単方向通信と双方向通信の方式構築を行い、レーダー通信の有効性を検証した。

レーダー通信装置の外観

開発の概要

船舶用レーダ-の送受信の伝送線路に通信信号を結合し、通信アンテナをレーダーアンテナと共有するレーダー通信装置である。

レーダー通信装置のブロック図

装置の概要

空中線

送受信機

レーダー表示器

通信表示器

レーダー処理器

通信制御PC

(通信装置の試作)通信信号の付加技術

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レーダー通信装置の送受信機外観 通信装置の概要

送受信機

通信装置

通信装置は、60ビットのデータ系列をスペクトル拡散(変調方式:FSK、PSK)を使用して通信を行う。

FSKは、9375MHzと9445MHzによる周波数シフト。

PSKは、9445MHzの位相0°と180°による位相シフト。

レーダー送受信部

通信装置受信部

通信装置送信部

通信信号結合部

DS/FS切替

9375MHzPLO

9445MHzPLO

9445MHzPLO

送受信切換モジュール

(通信装置の試作)通信信号の付加技術

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実証実験

担当:独立行政法人 情報通信研究機構

16

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場所 時期 内容 結果概要

Ⅰ 福島スカイパーク 平成22年10月試作機(1号機,2号機)による回転制御実験、通信実験

回転制御及び通信の動作を確認した。

Ⅱ 福島スカイパーク 平成23年1月試作機(1号機~4号機)による回転制御実験、通信実験

アンテナの停止から対向までの経過時間を確認した。

通信については一定時間受信したときのエラー率を測定した。

拡散率32でチップ速度50Mcps(約1.5Mbps)においても、通信が出来ることを確認した。

ⅢNICT新潟上越有間川試験場等

平成23年2月試作機(1号機~4号機)による通信実験

海面を挟んだ陸上においての通信実験を実施した。一定時間の受信を繰り返し、拡散率32、チップ速度50Mcps(約1.5Mbps)においても、通信が出来ることを確認した。

Ⅳ 神奈川県間口漁港 平成23年3月試作機(1号機~4号機)による陸船間ID実験、通信実験

陸船間の通信実験を実施した。

終的な入出力インターフェースを用いて、入出を変えて送信し、表示が変わることを確認した。(IDについても同様)

なお、見通し距離でも受信が出来ない場合が確認された。検討の結果、受信側にダイバシティー効果を取り入れ、安定させることとした。

Ⅴ 新潟県直江津港周辺 平成23年3月試作機(1号機~4号機)による船間ID実験、通信実験

大型船(フェリー)と小型船(タグボート)及び陸上の3局によるID放送・受信実験、通信実験を実施した。

IDは複数局が受信できた。( 大距離15km)

通信は、大型船と小型船の間で 大6kmにおいて、速1.2Mbpsにおいて通信出来ることを確認した。(

大型船とフェリーターミナル屋上とでは 大15kmにおいて通信ができた。)

実験結果とまとめ

17

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通信信号の確認を行ったが、30mのフレキシブル導波管を初めて接続したこともあり、回転制御の動作状態と各部の問題点を確認した。

全長:920m全幅:60m(滑走路:舗装路25m、未舗装路:左右17.5m)

広帯域アンテナ(レベル確認用)

アンテナ高さ約2m

受信側アンテナ部10㎡レーダー反射器(中間点に設置)

反射器の高さ約2m

アンテナ高:約3m

実証実験(Ⅰ 回転制御及び通信信号に関する実験)

福島スカイパーク

通信実験概要

通信実験結果

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通信実験距離約70m:機器性能の確認、および基礎データの取得。約700m:積雪のため700mで測定した。約900m:除雪を行い滑走路の 大距離で測定した。

実験内容・約70m位置アンテナ固定、単方向:製品の動作確認とともに、基礎データを取得した。

・約700m位置アンテナ固定、単方向: 基礎データとの受信レベル、受信状況の比較確認を行った。アンテナ固定、単方向、送受信ともレーダーON:: 受信側レーダーONによる通信への影響を確認した。アンテナ回転制御の実験:動作を確認した。

・約900m位置アンテナ固定、単方向: 基礎データとの受信レベル、受信状況の比較確認を行った。アンテナ回転制御の実験:動作を確認した。

32BIT 64BIT 128BIT

チップレート

トリガー受信回数 トリガー受信回数 トリガー受信回数

パケットエラー回数 パケットエラー回数 パケットエラー回数

10Mcps44303 44317 44329

226 1149 567

15Mcps44327 44317 44330

1191 1346 306

30Mcps44316 44306 44319

2467 1116 416

50Mcps44294 44306 44296

13241 1481 226

通信結果:距離900m

表上の表記説明:

トリガ受信回数送受の空中線対向が合致し、レーダートリガーパルスを受信できた回数。

パケットエラー回数レーダーパルスを受信できた回数のうち、パケットデータが間違っている回数

実証実験(Ⅱ 回転制御、通信信号及びID信号に関する実験)

福島スカイパーク

通信実験結果

通信距離 大 900m受信条件(1) 通信対象 : 1 号機 → 2 号機(2) 通信路 : 送信側: 空中線停止 受信側: 空中線停止

(3) 送信条件 : 送信繰り返し750Hz(4) 計測時間 : 60秒

拡散率32、チップ速度50Mcps(約1.5Mbps)においても、通信が出来ることを確認した。

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受信側送信側

約3.5km

・NICT有間川サイト・アンテナ高:海抜約15m

・コンビニ駐車場・アンテナ高:海抜約14m

実証実験(Ⅲ 海上を挟んだ陸上における通信実験)

通信実験概要

NICT新潟上越市有間川試験場

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通信結果

通信距離 約 3.5Km受信条件(1) 通信対象 : 1 号機 → 2 号機(2) 通信路 : 送信側: 空中線回転 受信側: 空中線停止

(3) 送信条件 : 送信繰り返し750Hz(4) 計測時間 : 150秒

拡散率→ 32BIT 64BIT 128BIT

チップレート

受信データ(L/L)トリガー受信回数 トリガー受信回数 トリガー受信回数

パケットエラー回数 パケットエラー回数 パケットエラー回数

10Mcps 131,13,13/24,24,24244 172 203

20 39 12

15Mcps 131,13,13/24,24,24240 158 202

55 33 49

30Mcps 131,13,13/24,24,24135 262 229

50 74 59

50Mcps 131,13,13/24,24,24170 186 249

133 61 69

表上の表記説明:

トリガ受信回数送受の空中線対向が合致し、レーダートリガーパルスを受信できた回数。

パケットエラー回数レーダーパルスを受信できた回数のうち、パケットデータが間違っている回数

NICT新潟上越市有間川試験場

実証実験(Ⅲ 海上を挟んだ陸上における通信実験)

・約3分程度の受信を繰り返して実施した。・拡散率32でチップ速度50Mcps(約1.5Mbps)においても、通信が出来ることを確認した。

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海上ポイント1約200m

陸上ポイント 陸上間口港駐車場に設置・アンテナ固定・アンテナ高:海抜約6m

海上漁船に設置・船にて移動し送信・アンテナ高:海抜約3.5m

神奈川間口漁港

実証実験(Ⅳ 陸船間の通信実験)

通信実験概要

海上ポイント3約300m

海上ポイント2約400m

漁船が各ポイントに移動して実験を実施。

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船種データを タンカーから貨物船に変更し、受信側で変更されたことを確認。

AIS情報が表示され船位置が表示される。通信前のデータ

通信後のデータ

神奈川間口漁港実証実験(Ⅳ 陸船間の通信実験)

通信結果

・ 終的な入出力インターフェースを用いて、入出を変えて送信し、表示が変わることを確認した。

・送受信が同じレーダーアンテナだと、見通し距離でも伝搬状況で受信出来ないことがあった。

送信側アンテナ:レーダーアンテナを供用

受信側アンテナ:ダイバシティー効果を取り入れて安定受信が必要である。

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直江津港

実証実験(Ⅴ ID及び通信の総合試験)

通信実験概要

湾内と航路 大6kmフェリーとタグボートが移動

通信装置1こがね丸

通信装置2タグボート

通信装置3

ターミナルビル屋上

大通信距離15km

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干渉除去装置にて通信信号の影響は除去されている。(受信レーダー画像)

通信結果の画面:運行状態や信号符号を変えて通信を確認した。

ID放送の受信画面:フェリーから送信してタグボートや陸上で同時に受信した。

直江津港での通信実験結果

実証実験(Ⅴ ID及び通信の総合試験)

-90

-80

-70

-60

-50

-40

-30

-20

-10

100 1000 10000 100000

距離 D [m]

受信

電力

Pr 

[dB

m]

受信感度(-65dBm)

送信側 受信側周波数 9410MHz 9410MHz送信電力 37dBm(5W) -

アンテナ利得 25dBi 18dBi給電線損 2dB 5dBカプラ損 10dB 0

アンテナ高 2m 15m

実験使用した船舶

小型のタグボート(アンテナ高約2m)

実験の結果

船舶間の 大通信距離約6km

再計算における各パラメータ

船舶間通信実験結果ID・通信ともに 大距離約6km

陸船間通信実験結果ID・通信ともに 大距離約15km

通信速度1.2Mbpsを達成した。

船舶間の伝搬について、実際に使用した船舶の値を用いて再度計算した。事前計算は約20km再計算では約8km実測は約6km再計算と実測がほぼ一致している。 25

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まとめ

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課題 達成目標 結果

通信信号の付加技術

既設レーダーに影響を与えない通信方式の開発

既設レーダーに通信信号が混入しても影響度が少ない(除去できる)通信方式としてPSK、FSKの周波数拡散通信方式を開発した。

しかし、既存の船舶用レーダーに対し、位相変化の影響度が掌握できないので、FSK方式によって通信時の既設レーダーへの特別な影響が無いことを実証実験(船舶間)にて確認した。

デジタル信号による1Mbpsの高速通信の実現

9GHz発振素子をFPGAで制御し 速50Mcpsの高速チップを用いて

周波数拡散をしつつ高速通信を行った。 陸上における実験において1.5Mbpsを達成できた。

また、船舶間の実証実験では距離6kmにおいて1.2Mbpsの通信測度にて通信が出来た。(陸船間では 大15km)

ID付与技術

レーダー波に変調を加え、ID情報を付加する。

デバイスの開発を行い、複数の9GHz発振素子を立ち上がり5nsの高速スイッチングをすることで、レーダー波にID情報を付加する技術を開発した。(モジュール単体、電波暗室内にて確認)

しかし、十分な出力が得られる増幅器部品が製造中止となり、他の機器への接続も困難なことから、試作機への導入を断念した。

レーダー波の休止時間にID情報を送信する。

通信信号と同じ方式で、レーダー波の送信休止時間にID情報を付加する技術を開発した。(全周及び特定ターゲット)

試作機に導入し、実証実験(陸船間、船舶間)において確認した。

時間的空間的同期技術

1見合い当たり14mSの対向時間を確保する。

アンテナ制御に関するシミュレーションを実施し、試作機によって初動位置によって、対向するまでの時間は違うものの約15mSの対向時間を確保できた。

しかし、実験結果から、受信側についてはダイバシティーが必要であることがわかった。このため受信アンテナを別に設置し、送信のみレーダーアンテナで行い、所望のターゲットに送信する制御を実施し、試作機において確認できた。

目標課題と結果

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知的財産への取り組み等平成20年度 動向の机上調査を実施した。

平成21年度 専門機関(IMO、ITU-R、Ofcom)への聞き取り調査及び推進方法の検討

学会発表 電子情報通信学会(春期全国大会):2件

平成22年度 専門機関(ITU-R WP5B会議)へ基本コンセプトを提案した。

平成23年度 学会発表:10月 1件実施、12月 2件申込済、 3月 3件(予定)、特許:2件申請

Ⅰ 海外機関へのインタビュー

(ITU-R、IMO、CIRM:国際的なメーカー団体)

ITU-Rにおいて9GHzにおける通

信の許可が出ることが先決との調査結果

Ⅱ ITU-Rへのアプローチ

2010年11月のWP5B会合に提案した。

日本寄与文書(5B/605)は、e-Navigationを強化するため、レーダー

への情報を付加する機能をつけることを提案した もの。

結果としては、WRC議題として「9GHz帯の通信に関する検討開始」

とすることが必要である旨指摘をうけた。

技術的には興味深いとの感想が数カ国からあった。

国際標準化

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専用端末による情報配信・共有化

タブレット型表示見本

スマートフォン型表示見本

情報表示見本

レーダー通信技術の応用 小型船における受信情報の伝達のためのシステム検討

レーダー通信装置で情報が伝達されても、小型船では通信装置近辺に人がいるとは限らない。情報の配信・共有化が必要

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