山形大学集中講義 環境変化への適応過程における情...

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1 山形大学集中講義 動物生理学の基礎における電気生理学、 動物生理学の基礎における電気生理学、 神経生理学 神経生理学 東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 生体情報学研究室 生体情報学研究室 良隆 環境変化への適応過程における情報伝達機構のはたらき 神経生物学的研究 ペプチドニューロン 神経分泌・神経修飾 岡 良隆 教授 (朴 民根 助教授) 赤染 康久 助手 阿部 秀樹 助手 曲輪 美秀 技術職員 AA AA AA AA AAAAAAAA AAA AAAAA AAAAAAAA A A A A A A A A AAAAAAAA AAAAAAAA 電気生理学 電気生理学 分子生物学 分子生物学 遺伝子操作 遺伝子操作 トランスジェニック トランスジェニック メダカ メダカ イメージング イメージング 行動観察 行動観察 形態学 形態学 ドワーフグーラミー ミドリフグ キンギョ カワハギ メダカ Society for Neuroscience 34 th Annual Meeting, 2004 San Diego (26,000 attendees) (10/04/2004) 2004 2004 年ノーベル医学生理学賞 年ノーベル医学生理学賞 アクセル アクセル バック バック http://nobelprize.org/ 嗅覚受容体と嗅 嗅覚受容体と嗅 覚系のしくみ 覚系のしくみ

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山形大学集中講義動物生理学の基礎における電気生理学、動物生理学の基礎における電気生理学、神経生理学神経生理学

東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻生体情報学研究室生体情報学研究室

岡 良隆

環境変化への適応過程における情報伝達機構のはたらき

神経生物学的研究ペプチドニューロン

神経分泌・神経修飾

岡 良隆 教授 (朴 民根 助教授) 赤染 康久 助手 阿部 秀樹 助手 曲輪 美秀 技術職員

AAAAAAAA

AAAAAAAA

AAAAAAAA

AAAAAAAA

AAAAAAAA

AAAAAAAA

AAAAAAAA

電気生理学電気生理学

分子生物学分子生物学

遺伝子操作遺伝子操作トランスジェニックトランスジェニックメダカメダカ

イメージングイメージング

行動観察行動観察

形態学形態学

ドワーフグーラミー

ミドリフグ

キンギョ カワハギ

メダカ

Society for Neuroscience34th Annual Meeting, 2004 San Diego (26,000 attendees)

(10/04/2004)20042004年ノーベル医学生理学賞年ノーベル医学生理学賞

アクセルアクセル && バックバック

http://nobelprize.org/

嗅覚受容体と嗅嗅覚受容体と嗅覚系のしくみ覚系のしくみ

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におい受容体と嗅覚神経系の構成

嗅球

僧帽細胞

糸球体

篩骨

嗅上皮

におい受容体細胞

におい分子を含む空気

におい受容体

1. におい物質が受容体細胞に結合する

2. におい受容体細胞が活性化して電気的信号を送り出す

3. 信号は嗅球の糸球体で中継される

4. 信号は脳の高次中枢へ伝えられる

シナプスにおける神経伝達

受容体を介する情報伝達

2002003年ノーベル化学賞3年ノーベル化学賞

アグレアグレ && マッキノンマッキノン

細胞膜に存在す細胞膜に存在するチャネルるチャネル((イオイオ

ンチャネル、水ンチャネル、水チャネル)の発見チャネル)の発見

アクアポリン(水チャネル)とイオンチャネル

Fig 1. The dividing wall between the cell and the outside world – including other cells – is far from being an impervious shell. On the contrary, it is perforated by various channels. Many of these are specially adapted to one specific ion or molecule and do not permit any other type to pass. Here to the left we see a water channel and to the right an ion channel.

aquaporin Ion channel

20002000年ノーベル医学生理学賞年ノーベル医学生理学賞

カールソン、グリーンガード、カンデルカールソン、グリーンガード、カンデル

神経系における神経系における情報伝達のしくみ情報伝達のしくみ

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3

2000年ノーベル

医学生理学賞

Arvid CarlssonEric KandelPaul Greengard

19911991年ノーベル医学生理学賞年ノーベル医学生理学賞

ネーアーネーアー && ザックマンザックマン

単一イオンチャネ単一イオンチャネルの働きに関すルの働きに関す

る発見-パッチクる発見-パッチクランプランプ

イオンチャネル・イオンチャネル・神経伝達神経伝達

19631963年ノーベル医学生理学賞年ノーベル医学生理学賞

エックルス,ホジキンエックルス,ホジキン && ハクスレーハクスレー

神経細胞(ニューロン)の構造

脳(Brain) の構成要素

• 神経細胞(ニューロン)

• 神経膠細胞(グリア)

• 血管

他のニューロンから来た軸索

シナプス終末(終末ボタン)

樹状突起の枝

神経伝達物質を含むシナプス小胞

樹状突起

細胞体

細胞体

ゴルジ装置

リボソーム

他のニューロンから来

た軸索

軸索

ミエリン鞘(オリゴデンドログリア)

ミトコンドリア

粗面小胞体

有髄繊維

ランヴィエ絞輪

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イオンポンプ イオンチャネル

イオンポンプ• 濃度勾配に逆らってイオンを能動輸送する• 新たなイオン濃度勾配を作る

イオンチャネル• 濃度勾配にしたがってイオンを拡散させる• 特定のイオンに対して選択的透過性を示す

イオンポンプとイオンチャネル

電極刺入

Threshold: 閾値Resting potential:

静止膜電位

活動電位

受動的電位変化

脱分極

過分極

膜電

位(m

V)

刺激

電流

(nA

)神経細胞の電気信号 パッチクランプ法

Neher & Sakmann, 1991年ノーベル医学生理学賞

軽く吸引する

ピペットと膜の間に強力なシールができる

強く吸引する

細胞質がピペット内とつながる

電極を引き戻す

小胞ができる

電極を引き戻す

膜の切れ端が癒合

する

細胞膜の外側が外を向く

細胞膜の内側が外を向く

空気中にさらす

パッチクランプのイメージ図と写真 培養神経細胞からのパッチクランプ記録

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5

electrode

脳スライスを用いたパッチクランプ記録

20μm

TN-GnRH neurons

Telencephalon

Olfactory Bulb

IR-DIC image of TN-GnRH neurons

ガラス電極

細胞内記録用ガラス電極(上2本)

パッチクランプ用ガラスピペット(下2本)

1.5mm

図1

フィラメントボックス

プログラムキー

パラメータ表示部

デシケーター

プッシュボタン

ガラス電極作成器(プラー)

サウンドモニタ

パッチクランプアンプ コンピュータ

オシロスコープ

A/D D/A コンバータ

マニピュレータ

除振台

正立顕微鏡

マニピュレータ

近赤外線ビデオカメラ

ビデオモニタ

酸素・二酸化炭素混合ガス

プリンタ

電気刺激装置

パッチクランプ実験セット

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オシロスコープマニピュレータ

パッチクランプアンプ

除振台

正立顕微鏡

マニピュレータ

近赤外線ビデオカメラ

ビデオモニタ

電気刺激装置

パッチクランプ実験セット パッチクランプ実験セット

パッチクランプアンプ

除振台

正立顕微鏡

マニピュレータ

近赤外線ビデオカメラ

ビデオモニタ

コンピュータ

マニピュレータ駆動部

A/D・ D/A コンバータ

カメラコントローラ

マニピュレーター

電位記録用電極電流注入用電極

記録槽灌流液流入部

灌流液流出部

照明装置

マニピュレーター

マニピュレーター駆動部につながるチューブ

マニピュレーター駆動部につながるチューブ

2電極膜電位固定記録装置

dE/dt=Ic/C=-E/RC

E=E0 exp(-t/RC) RC=τ 時定数

神経細胞膜の物理化学的性質

細胞膜は抵抗と容量が並列に接続されたものである

RC=τ 時定数 RC=τ 時定数

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膜孔を介する拡散電位

溶液を入れた直後 平衡状態

E=0 E=EK

K+K+

A- A-

K+ K+

A- A-

------ +

+

+

+

+

+

ー +膜孔はK+イオン

のみに選択的透過性を持つ

1

221 ][

][ln +

+

=−=KK

FRTEEEK

1 2 1 2

電気的ポテンシャル

化学的ポテンシャル

K+正味流量=0

1から2へのK+

正味流量>0

膜はK+に透過性 1から2へのK+の

流れと逆向きの電位が平衡

最初の状態 → 平衡状態

K+濃度が10倍になる毎に58mV変化

Nernstの式

S:Zs価のイオンEs:電位差R:気体定数(8.31joule/deg・mol)T:絶対温度(20℃の時293K)F:ファラデー定数(96,500coul/mol)Goldman-Hodgkin-Katz の式

oCliNaik

iCloNaok

oCliNaik

iCloNaokm

ClPNaPKPClPNaPKP

ClPNaPKPClPNaPKP

FRTE

][][][][][][log58

][][][][][][ln

10 −++

−++

−++

−++

++++

=

++++

=

電気化学的平衡

1

210

1

221 ][

][log303.2][][ln

SS

FZRT

SS

FZRTEEEs

ss

==−=

静止膜電位 再分極活動電位

K+とNa+に対する

透過性は変化する

ネルンスト電位(mV)

-75+55(-60;Clin=52)

パッチクランプ法Erwin Neher & Bert Sakmann1991年ノーベル医学・生理学賞

パッチクランプ法を用いると単一のイオンチャンネルの開閉を計測することができる。

多数のイオンチャンネルの活動を加算平均すると細胞全体を流れる電流が計測できる。

興奮性膜とイオンチャンネル

脱分極

過分極膜電位

外側

内側

脱分極

過分極膜電位

外側

内側閉 開 閉

閉 開 閉不活性化

膜電位依存性Na+チャネルとK+チャネルの

機能的状態変化

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膜電

位(m

V)

膜電

位(m

V)

閉開 開

単一

チャ

ンネ

ルを

流れ

るN

a+ 電流

単一

チャ

ンネ

ルを

流れ

るK

+ 電流

複数

のチ

ャン

ネル

を流

れる

Na+ 電

流(n

A)

多数

のチ

ャン

ネル

を流

れる

Na+ 電

流(n

A)

複数

のチ

ャン

ネル

を流

れる

K+ 電

流(n

A)

多数

のチ

ャン

ネル

を流

れる

K+ 電

流(m

A/c

m2 )

Na+チャネル(左図)およびK+チャネル(右図)を流れるイオン電流チャネルの開口確率(またはコンダクタンス)と膜電位の関係(中央)

イカの巨大軸索

Hodgkin, A. & Huxley, A.1963年ノーベル医学・

生理学賞

(Eccles, J.C. と同時受賞)

1.細胞内の記録電極で膜電位(Vm)を測定し、

膜電位固定用のアンプに送る2.膜電位固定用のアンプは膜電位Vmを

希望するコマンド電位と比較する

3.膜電位(Vm)がコマンド電位と違っているときは膜電位

固定用のアンプは第2の電極から軸索内に電流を注入する。このフィードバック作用により膜電位はコマンド電位と等しくなる。

記録電極

生理食塩水

イカの巨大軸索

電流注入用電極

4.軸索に注入する電流、すなわち膜をよぎって流れる電流はここで測定される。

膜電位測定

膜電位固定用アンプ

電流測定

基準電極

膜電位固定法によって測定したイカの巨大軸索膜を流れる電流

膜電

位(m

V)

膜電

流(m

A/c

m2 ) 外向き

内向き容量性電流

65mV過分極コマンド

65mV脱分極コマンド

容量性電流

一過性内向き電流

遅延性外向き電流

膜電位固定法

膜電

位(m

V)

膜電

流(m

A/c

m2 )

膜電

位(m

V)

膜電

流(m

A/c

m2 )

膜電

位(m

V)

膜電

流(m

A/c

m2 )

膜電

流(m

A/c

m2 )

2種類の電位依存性イオンチャネル:NaチャネルとKチャネル

TEA(Kチャネルの特異的阻害剤)

TTX(Naチャネルの特異的阻害剤)

INa=gNa*(Vm-ENa)IK=gK*(Vm-EK)

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膜電

位(m

V)

膜電

流(m

A/c

m2 )

Na+

コン

ダク

タン

ス(m

S/ c

m2 )

K+コ

ンダ

クタ

ンス

(mS/

cm

2 )

活動電位の基礎になるコンダクタンス変化は時間と電位に依存する

活動電位生成に関わるフィードバックサイクル

膜電

位(m

V)

膜コ

ンダ

クタ

ンス

(mSi

emen

s/cm

2 )

イカの巨大軸索における活動電位

刺激

電流

膜電

位(m

V)

膜電

位(m

V) Na+ およびK + コンダクタンスに基づく理論的モデル

Na+ チャネル

が開く

Na+ 電流が増える

脱分極が進む

速い正のフィードバック

遅い負のフィードバック

K+ 電流が増える

K+ チャネル

が開く

過分極する

膜が脱分極する

理論的に再構成した活動電位

膜電

位(m

V)

膜電

位(m

V)

静止膜電位

活動電位の閾値

電位記録用電極

電流注入用電極

軸索上の距離 (mm)

軸索上の距離 (mm)

膜電

位(m

V)

膜電

位(m

V)

電位記録用電極

電流注入用電極

静止膜電位→

活動電位の閾値→

長さ定数=膜電位が1/eになる距離

軸索内を流れる受動的な電流

活動電位による興奮の伝導

Naチャンネルが刺激に応じて局所的

に開き、この地点で活動電位を生じる1

局所的な脱分極が隣り合うNaチャンネルを開き、

この地点においても活動電位を生じる3

脱分極性電流の一部が軸索内を受動的に流れる

2刺激

上流側のNaチャンネルは不活性化しKチャンネ

ルが開く。膜電位は再分極し、この地点において軸索は不応期にある。

4

同じ過程が繰り返され、軸索に沿って活動電位が伝播していく。

5

活動電位の閾値

静止膜電位

活動電位の閾値

活動電位の閾値

静止膜電位

静止膜電位

活動電位の伝導

不応期不応期

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活動電位の閾値

静止膜電位

活動電位の閾値

活動電位の閾値

静止膜電位

静止膜電位

有髄神経

活動電位の伝導

ランヴィエ絞輪希突起神経膠細胞(オリ

ゴデンドログリア)

ミエリン鞘

活動電位の跳躍伝導

分子生物学的手法によるイオンチャネルの構造解析

cRNA

cRNA

分子生物学的手法によるイオンチャネルの構造解析

ツメガエル卵母細胞のイオンチャネル発現系

(A)アフリカツメガエル。 (B)アフリカツメガエルの卵母細胞。(C)卵母細胞にmRNAを注入することによってK+チャンネルを発現させ、膜電位固定法でK+電流を測定する実験。

膜電

位(m

V)

膜電

流(μ

A)

時間(秒)

外側

内側

チャンネル孔を形成するループ 神経毒

結合部位膜電位

センサー

イオン選択性

不活性化

チャンネル孔を形成する

ループ

チャンネル孔を透過するイオン

膜電位依存性イオンチャネルの構造

Na+ Channel K+ Channel

チャンネル孔を形成するループ

Na+チャネルは4

つのリピート構造を持つ。

S5-S6の間にチャンネル孔を形成するループ=選択性フィルター

を持つ

K+チャネルは4

つのサブユニットから構成される。

1つの領域はS1-S6の6つの膜貫通ドメインを持つ

S4に膜電位セン

サーを持つ

Na+チャネルは細

胞内に不活性化に働くアミノ酸配

列を持つ

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S4セグメントには塩基性アミン酸残基(影)が周期的に存在する

Shaker Kチャネルの不活性化

ボールと鎖によるKチャネル不活性化のモデル

イオンチャネルの構造と機能

ShBのアミノ末端の6番から46番までのペプチドを切り

離した変異体は不活性化しなくなるが,そのペプチドを細胞内から与えると再び不活性化するようになる。

電位センサーのモデル 不活性化のモデル

これまでに提唱された電位センサーのモデル

ノーベル化学賞に米国の2氏

スウェーデンの王立科学アカデミーは8日、03年のノーベル化学賞を、米ジョンズ・ホプキンス大のピーター・アグレ教授と、米ロックフェラー大学のロドリック・マキノン教授に贈ると発表した。業績は「生体細胞膜に存在する物質の通り道の研究」。授賞式は12月10日にストックホルムで開かれる。賞金は総額1000万クローナ(約1億4000万円)を受賞者で等分。自然科学系分野のノーベル賞は、昨年まで3年連続で日本人が受賞したが、今年は選ばれなかった。

生き物の体は水に満たされた多くの細胞からできている。水やさまざまの物質が細胞膜のどこを、どのように通って細胞に出入りするかは、長い間の関心事だった。

アグレ教授は88年、細胞膜に新しい膜たんぱく質を見つけた。さらに、この膜たんぱく質が水だけを通す穴(チャンネル)であることを突き止め、「アクアポリン」と名付けた。人も全身に存在しているこの穴によって、飲んだ水を吸収したり尿を作ったりできる。

また、水とともに細胞を出入りする分子やイオンも、神経や筋肉などの組織で細胞間の情報伝達にかかわっている。マキノン教授は98年、カリウムイオンが通るチャンネルの姿を原子レベルで解明することに成功。細胞膜チャンネルの構造や働きの研究に新しい道を開いた。

水やイオンのチャンネルに起こる異常は、腎臓や心臓など多くの組織で病気の原因となる。2人の研究成果は、病気の理解や治療薬の開発に役立っている。

昨年、化学賞を受けた島津製作所フェローの田中耕一さんは「(昨年まで)3年連続の日本人受賞は単なる巡り合わせ。昨年以来、私よりけた違いに頑張っておられたり、成果を出しておられたりする方にたくさんお会いした。自信をもって進んでいってほしい」と、出張先のカナダからコメントを寄せた。

01年に同賞を受賞した野依良治・理化学研究所理事長は「今回の化学賞授賞テーマは、従来の古典的な化学分野とは異なり、生物に近い。(医学生理学賞も含め)今年の受賞者を見ると、学問に垣根はない、ということを象徴している」と話した。

ピーター・アグレ氏 米国生まれ。米ジョンズ・ホプキンス大医学部で医学博士号取得。同大教授。54歳。

ロドリック・マキノン氏 米国生まれ。米タフツ大医学部で医学博士号取得。米ロックフェラー大ハワードヒューズ医学研究所の教授。47歳。

アクアポリンとイオンチャネルKチャネルの三次元構造

The Structure of the Potassium Channel: Molecular Basis of K+

Conduction and SelectivityDeclan A. Doyle, Joa˜ o Morais Cabral,

Richard A. Pfuetzner, Anling Kuo, Jacqueline M. Gulbis, Steven L. Cohen, Brian T. Chait, Roderick MacKinnon*SCIENCE VOL. 280 3 APRIL 1998

Ion conduction pore is conserved among

potassium channelsZhe Lu, Angela M. Klem & Yajamana Ramu

NATURE |VOL 413 | 25 OCTOBER 2001

Bacterial K channelKcsA

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Naチャネルの三次元構造

The voltage-sensitive sodium channel is a bell-shaped molecule with several cavitiesChikara Sato*, Yutaka Ueno*, Kiyoshi Asai*, Katsutoshi Takahashi², Masahiko Sato³, Andreas Engelß & Yoshinori FujiyoshiNature 409:1047-1051(2001)

膜電位依存性カリウムチャネルのX線構造解析による三次元像

膜電位依存性カリウムチャネルの閉(左)・開(右)状態における膜電位センサーの位置

神経細胞(ニューロン)の構造

脳(Brain) の構成要素

• 神経細胞(ニューロン)

• 神経膠細胞(グリア)

• 血管

他のニューロンから来た軸索

シナプス終末(終末ボタン)

樹状突起の枝

神経伝達物質を含むシナプス小胞

樹状突起

細胞体

細胞体

ゴルジ装置

リボソーム

他のニューロンから来

た軸索

軸索

ミエリン鞘(オリゴデンドログリア)

ミトコンドリア

粗面小胞体

有髄繊維

ランヴィエ絞輪

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長い(1ms前後)シナプ

ス遅延

長い(1ms前後)シナ

プス遅延

シナプス前細胞

シナプス後細胞ギャップ結合

ミトコンドリア

細胞質

微小管

シナプス前細胞

シナプス間隙

シナプス前膜

神経伝達物質の放出

融合中のシナプス小胞

シナプス小胞

シナプス後細胞

シナプス後細胞の伝達物質受容体

受容体イオンチャネルを透過するイ

オン

シナプス後膜

シナプス前膜ギャップ結合チャネル

を透過するイオン

ギャップ結合チャネル

電気シナプス 化学シナプス

電気シナプスと化学シナプスの構造と機能

シナプス前細胞

シナプス後細胞

シナプス前細胞

シナプス後細胞

シナプス後膜

短い(~0.1ms)シナプス遅延

ギャップ結合

神経細胞の電気信号-細胞内記録-

シナプス前細胞

静止膜電位

静止膜電位

抑制性シナプス電位興奮性シナプス電位

電極刺入

Threshold: 閾値Resting potential:

静止膜電位

活動電位

図2

シナプス後細胞

シナプス遅延(約1ms) シナプス遅延(約1ms)

逆転電位

逆転電位

受動的電位変化

脱分極

過分極

膜電

位(m

V)

刺激

電流

(nA

)

シナプス後膜電位と逆転電位

シナプス前細胞

シナプス後細胞

静止膜電位

静止膜電位

抑制性シナプス興奮性シナプス

興奮性シナプスの等価回路

)( EPSPmEPSPEPSP EVgI −=

mV

rr

rE

rE

ggEgEgE

NaK

Na

Na

K

K

KNa

KKNaNaEPSP

10115575

11 −=++−

=+

+=

++

=

図3

化学シナプスにおける神経

伝達

神経伝達物質が合成されシナプス小胞に貯蔵される

カルシウムによってシナプス小胞とシナプス前膜の融合が起こる

細胞膜からシナプス小胞の膜が回収されて再利用される(エンドサイトーシス)

カルシウムチャネルを通じてカルシウムが流入する

シナプス前終末の脱分極が膜電位依存性カルシウムチャネルを開く

活動電位がシナプス前終末に到達する

ミエリン鞘

シナプス小胞

神経伝達物質

受容体

シナプス後膜を流れる電流

樹状突起

クラスリン被覆小胞

イオン 受容体イオンチャネルの開閉

シナプス後膜を流れるシナプス電流が興奮性または抑制性シナプス電位を生じ、シナプス後細胞の興奮性を変化させる

7

神経伝達物質がシナプス後膜の受容体分子に結合する

神経伝達物質が開口放出によってシナプス間隙に放出される

このイオンチャネルは,膜電位依存性イオンチャネルに比べると選択性が低く,異なる受容体イオンチャネル複合体によって各種の異なる陽イオンまたは陰イオンが透過できる。しかしながら,神経伝達物質は実際にはイオンに比べると大きいので,イオンチャネルを通ることはできない。

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パッチピペット

膜電位(mV)

単一アセチルコリン受容体チャネルを流れる電流のパッチクランプ法による測定

Ach 受容体

単一アセチルコリン受容体チャネルを流れる電流

複数のアセチルコリン受容体チャネルを流れる電流

すべてのアセチルコリン受容体チャネルを流れる電流

シナプス電流によって誘起されたシナプス後電位

開いたイオンチャネルの数

開いたイオンチャネルの数

開いたイオンチャネルの数

運動ニューロン刺激によるアセチルコリン放出

神経伝達物質受容体の活性化

シナプス小胞のリサイクリング

短時間シナプス前終末を

刺激

細胞外のHRPを洗い流して5

分待つ

1時間後

(HRP)

エンドソーム

出芽

開口放出(エクソサイトーシス)

ドッキング

プライミング融合

出芽

エンドサイトーシス

イカの巨大シナプス

Hodgkin, A. & Huxley, A.1963年ノーベル医学・

生理学賞

(Eccles, J.C. と同時受賞)

星状神経節(stellate ganglion)

Ca2+ 感受性色素を用いたCa2+ イメージン

Ca2+ 感受性色素:Rhod-2(左)Fura-2(右)など

神経伝達物質の放出におけるCa2+の役割

シナプス前細胞

シナプス後電位

シナプス後細胞

シナプス前膜電位(mV)

シナプス前細胞のCa電流(μA/cm2)

シナプス後膜電位(mV)

対照 Cd投与

時間 (ミリ秒)

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神経筋接合部における素量的伝達

軸索の電気刺激

シナプス後膜の膜電位測定

筋細胞

運動神経の電気刺激

終板電位

閾値

活動電位

運動神経の電気刺激(低Ca2+溶液中)

閾値下の終板電位自発的微少終板電位

自発的微少終板電位

刺激前のシナプス前膜の凍結割断像

刺激後のシナプス前膜の凍結割断像

放出された素量の数(単位:千)

融合したシナプス小胞の数(単位

千)

EPSP

の数

微小

EPSP

の数

EPSP振幅 (mV)

微小EPSP振幅 (mV)

時間 (mS) 時間 (mS)

シナ

プス

後膜

電位

(mV

)

シナ

プス

後膜

電位

(mV

)

融合したシナプス小胞

4AP(Kチャネル阻害剤):濃度依存的

に活動電位の持続時間を長くする

刺激に対して微少終板電位を生じない

統計的モデルから予測した曲線

Ca2+チャネル

逆転電位と閾値がシナプス後電位の形を決める

シナプス後電位の加算

閾値

活動電位

EPSP

逆転電位

アセチルコリンシナプスの活性化

逆転電位

逆転電位

GABA シナプスの活性化

GABA シナプスの活性化

IPSP

逆転電位>閾値=興奮性

逆転電位<閾値=抑制性

細胞体

軸索

樹状突起

細胞体シナプス稿電位の測定

シナ

プス

後膜

電位

(mV

)

閾値

静止膜電位

EPSP (Synapse E1 or E2)

加算されたEPSP (Synapse E1 +

E2)IPSP (Synapse

I)

加算されたEPSPとIPSP (Synapse

E1 + I)

加算されたEPSPとIPSP (Synapse E1 +

I + E2)

低分子量の神経伝達物質

アセチルコリンACh

グルタミン酸Glu

セロトニン

アドレナリン

ノルアドレナリン

ドーパミン

アスパラギン酸Asp

γアミノ酪酸GABA

グリシンGly

アミン

ヒスタミン

ペプチド神経伝達物質

例:メチオニンエンケファリン(他にも多数ある)

アミノ酸

興奮性アミノ酸

抑制性アミノ酸

古典的神経伝達物質(イオノトロピック受容体に結合;ただし、Ach, Glu,

GABAの結合する

メタボトロピック受容体もある)

神経修飾物質(メタボトロピック受容体に結合)

低分子量伝達物質の選択的放出

小型シナプス小胞に入った低分子量

伝達物質

大型有芯小胞に入った

ペプチド

Ca濃度の広

域的上昇

低頻度刺激

高頻度刺激

Ca濃度の局所的上昇

細胞体または終末における神経伝達物質の合成

1

神経伝達物質の小胞内への貯蔵

2

小胞の膜融合と神経伝達物質の放出

3

神経伝達物質の結合と受容体の活性化

4神経伝達物質の拡散・分解と終末での再利用

5

トランスポーター

前駆物質

伝達物質

合成酵素

伝達物質分子

細胞体における酵素の合成

1 酵素の遅い軸索輸送

2神経伝達物質の合成と貯蔵

3

前駆物質の終末への取り込み

5

(A) 神経伝達物質の一生

(B) 低分子量伝達物質

核前駆物質

微小管

前駆物質

伝達物質

終末 酵素軸索

ゴルジ体

粗面小胞体

(C) ペプチド性伝達物質

細胞体における伝達物質前駆体と酵素の合成

1 酵素とペプチド前駆体の微小管に沿った速い軸索輸送

2 酵素のプレペプチド修飾による神経伝達物質の生成

3

神経伝達物質の放出・拡散とタンパク質分解酵素による分解

4

拡散と分解

ペプチドと低分子量伝達物質の

放出

両方のタイプの伝達物質の放出

神経伝達物質の放出と拡散

4

伝達物質の合成・貯蔵・放出・除去

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シナプス後細胞

シナプス前終末

グルタミン酸受容体

トランスポーター

グリア細胞

シナプス後細胞 アセチルコリン受容体

トランスポーター

シナプス前終末

シナプス後細胞

シナプス前終末

シナプス後細胞

シナプス前終末

GABA 受容体グリシン

受容体

GABA 分解

GABA トラン

スポーター

グリシントランスポー

ター

神経伝達物質の合成と分解

ACh

グリア細胞

小胞GABA トランスポーター

小胞 トランス

ポーター

グリア細胞

2種類のシナプス後膜受容体

(A) リガンドによってゲートされるイオンチャネル

(イオノトロピック受容体)

(B) G蛋白質共役型受容体(メタボトロピック受容体)

イオン

神経伝達物質

細胞の外側

細胞の内側

神経伝達物質 受容体

効果器蛋白質

G蛋白質

イオン

神経伝達物質の結合

1

イオンチャネルが開く

2

イオンが膜を過って流れる

3

神経伝達物質の結合

1

G蛋白質の活性化

2G蛋白質のサブユニットまたは細胞内メッセンジャーがイオンチャネルを修飾する

3

イオンチャネルの開き易さが変わる

4

イオンが膜を過って流れる

5

細胞の内側

受容体

細胞

細胞の外側

アセチルコリン受容体・

イオンチャネル複合体の

構造

4つの膜貫通ヘリックス 3つの膜貫通ヘリックスと1つのチャネル孔形成ループ

会合したサブユニット

チャネル孔形成ループ

伝達物質結合部位

伝達物質

M1~M4セグメント

M2セグメントが

チャネル孔を形成する

4つの膜貫通セグメント

5つのサブユニットが会合細胞外ループに伝

達物質結合部位

伝達物質が受容体に結合すると

チャネル孔が開く

イオンチャネル型受容体(イオノトロピック受容体;リガンドによってゲートされるイオンチャネル)の一般的な構造

メタボトロピック受容体(G蛋白質共役型受

容体)の構造と機能

効果器の蛋白質

受容体

神経伝達物質

膜電位依存性イオンチャネル

イオン

G蛋白質

神経伝達物質の結合

1GTPが結合してサブ

ユニットが解離

2 GαまたはGβγが効果器の蛋白

質またはイオンチャネルを活性化

中間経路によって生成されたメッセンジャーを介してイオンチャネルが修飾される

3

受容体への神経伝達物質の結合がGタンパク質を活性化し、その後

の細胞内情報伝達系を活性化し、イオンチャネルの開き方を変える

細胞外に神経伝達物質結合

部位

細胞内にG蛋白質結合部位

7つの膜貫通セグメント

受容体はイオンチャネル孔を持たない

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蛋白質のリン酸化によるイオンチャネル

の修飾

ノルエピネフリン

蛋白質キナーゼCとIP3受容

体を介するカルシウム放出

ジアシルグリセロールとIP3

フォスフォリパーゼC

メタボトロピックグルタミン受容体

蛋白質キナーゼA

cAMP

アデニル酸シクラーゼ

標的

効果器

セカンドメッセンジャー

効果器の蛋白質

G蛋白質

受容体

神経伝達物質

βアドレナリン作動性受容体

グルタミン酸

タンパク質リン酸化の増加とカルシウム結合タンパク

質の活性化

アデニル酸シクラーゼ

ドーパミン作動性D2受容体

ドーパミン

蛋白質キナーゼA

蛋白質キナーゼ

セカンドメッセンジャー

セカンドメッセンジャー

蛋白質フォスファターゼ

リン酸化されたイオンチャネルは開きや

すい

脱リン酸化されたイオンチャネルは閉じ

やすい

G蛋白質共役型受容体の情報伝達系

タンパク質リン酸化の減少

タンパク質リン酸化の増加

細胞の外側

受容体

神経伝達物質

カルシウムチャネル神経伝達物質Gタンパク質結合型受容体への結合

1

G蛋白質がアデニル酸シクラーゼを活性化しcAMPが生成される

2

脳内の情報伝達に影響を与えるような蛋白質を遺伝子がコードする

cAMPが蛋白質キ

ナーゼAを活性化しそれがCREBをリン酸化する

3

新たに作られた蛋白質、例えば、イオンチャネルや修飾物質、酵素など

標的遺伝子

遺伝子の翻訳

転写制御

RNAポリメラーゼ

CREBが遺伝子の転写活性を修飾する

神経伝達物質が遺伝子活性を調節することによって長期間にわたる影響を及ぼす例

細胞の内側

レセプターチロシンキ

ナーゼ