味覚、嗅覚 味覚...
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味覚、嗅覚
化学物質が接触(溶解)することにより生じる
化学感覚
その意義
○快、不快の情緒を生じることにより、個
体の生命保持に必要な食物や環境を選
択する行動の動機付けmotivationとなる
○遠隔地にある食品の探索や種族保存
行動にも重要な役割
(ヒト以外の動物での嗅覚)
味覚:直接刺激感覚
嗅覚:遠隔刺激感覚
味覚1.味覚の一般的性質
a. 基本味
塩味(salty)
酸味(sour)
甘味(sweet)
苦み(bitter)
を4基本味とし、
この4味の混合により、日常経験する多様な味の感覚が生じるとされていた。
近年は、うま味(アミノ酸やグルタミン酸)を第5の基本味とする考えが定着してきている。
b. 測定法
①全口腔法
②滴下法
全口腔法より信頼度は高いが、閾値は高く
出る←刺激の空間的加重がない
c.味覚の閾値
・検知閾(detection threshold)
・認知閾(recognition threshold)
検知閾のおよそ1.5〜2倍
舌運動や唾液分泌で個人差が出る
閾値:生体に対する各味質の役割の違いで、大きな
差がある。
各味質の生体での役割
・甘味:糖のシグナル(エネルギー源)
・塩味:ミネラルのシグナル
・酸味:腐敗物のシグナル
・苦味:毒物のシグナル
・うまみ:タンパク質(アミノ酸)、遺伝子(核酸)のシグナル
甘味、塩味に比べ、酸味、苦味は低い濃度でも味の識別ができる。
d.味盲(taste blindnes or non-taster)
同じ測定方法を用いても、その閾値は個人差が大
その中でも・PTC(phenylthiocarbamide)・PROP(6-n-propylthiouracil)
の苦味については、その閾値に二峰性がみられる
劣性遺伝白人:30% 日本人:8~15%
(キニーネの苦みに対しては正常)
両者の受容体であるT2R38のアミノ酸が変異
図4-98 4基本味質とPTCに対する閾濃度の出現頻度
被検数は47人。(Blakeslee and Salmon:Proc Natl Acad.Sci.21:85,1935より)
標準生理学第7版より
e.呈味物質
・甘味:糖類やαアミノ酸
・塩味:ナトリウム、リチウム、カリウムなどのアルカリ金属
濃度により塩味の質は異なる。食塩水 0.01~0.03 M :甘い
0.04 M :甘辛い0.05 M以上 :塩味
・酸味:酸酸味の強さは必ずしもpHに依存しない。有機酸は酸味以外の味を生ずることがある。
・苦味:水に難溶性のもの。アルカロイドなど。
・うまみ:アミノ酸 : グルタミン酸、アスパラギン酸核酸 : イノシン酸、グアニル酸、アデ
ニル酸、ウラシル酸
f.味覚障害
味覚障害の症状
・味覚減退・味覚消失・口腔内異常感・舌痛、口の中が絶えず苦い
嗅覚障害による風味障害でも、味覚障害と訴える場合も多い。
味覚機能を評価する上で、国際的に統一された方法はないが、
電気味覚検査濾紙ディスク法(滴下法に相当)
が全国で広く使用されている
2.味覚の神経生理学
a.味覚の末梢機序
○味蕾の構造と分布
感覚受容器(感覚器)の味蕾が存在する口腔
内の部位
・舌 ・軟口蓋 ・咽頭 ・喉頭
味蕾の大部分は、舌面に存在する3種類の乳
頭に存在 ・茸状乳頭(30%)
・葉状乳頭(28%)
・有郭乳頭(42%)
味蕾内には4種の細胞がある
・味細胞(III型細胞):受容細胞
・支持細胞(I型とII型)
・基底細胞(IV型)
・味細胞が100個前後集まる
味細胞:微繊毛を舌面にだす
細胞底部で味蕾に進入する味神経線
維とシナプス形成。
○神経支配
・顔面神経(鼓索神経)nXII:茸状乳頭(舌の前2/3)の味蕾の支配
・舌咽神経nIX:有郭乳頭(舌後方1/3)の味蕾の支配
・顔面神経(鼓索神経)nXII &舌咽神経nIX:葉状乳頭の味蕾の支配
・浅在性大錐体神経:口蓋の味蕾を支配
・上喉頭神経(迷走神経nX):咽喉頭部の味蕾
各味覚神経の味質応答性の差
・舌咽神経
:キニーネに対する感受性が特に高い
・大錐体神経
:ショ糖、酸によく応答する
・上喉頭神経(迷走神経nX)
:低閾値の機械刺激や純水刺激に応じる
⇒湿度のモニター
嚥下反射時の気道を保護
○味受容と味細胞の電気現象
①甘味、苦み、うま味
②塩味、酸味
・味覚強度の伝達
味溶液の濃度:味神経インパルス頻度に変換
・味質の伝達については2つの仮説がある
①専有回線説 labelled line theory②総神経線維パターン説 across-neuron
pattern thory
各味質の受容体の発現は異なる細胞で見られる
しかし、
実際に味応答を記録してみると、一つのニューロン、神経細胞が複数の味質に応答するものもある
ラット、サルの鼓索神経応答
味細胞
様々な基本味刺激に対して
・特異的に応答するタイプ(specialist)・広範な刺激種に応答するタイプ
(generalist)の両方が存在
味細胞と味神経の全体的な応答パターンは非常によく似ている。
b.味覚の中枢経路
1.味細胞からの味覚情報
○ サル
味細胞→味覚神経(一次ニューロン)
→孤束核(延髄)(NTS)(二次ニューロン)
→同側中心被蓋路(TTC)
→視床(後腹側内側核小細胞部)(VPMpc)(三次
ニューロン)
→大脳皮質味覚野(第一次味覚野:中心溝付
近の弁蓋部や島皮質)
→第二次味覚野
:眼窩前頭皮質
→前頭葉(前頭前野)
Clinical Neurosic.Vol 28より
○これ以外の動物
味細胞
→味覚神経
→孤束核(延髄)
→結合腕傍核(橋部)
→視床(後腹側内側核小細胞部)
→大脳皮質
孤束核(一次中継核)
・味覚に基づく顔面表情変化(体性運動系)
・唾液、消化液(消化器系)、インスリン(内
分泌系)の分泌
・味覚情報をより上位の中枢へ送る
眼窩前頭皮質
・味覚以外にも、嗅覚、一般体性感覚、内臓
感覚などの情報も同時に入力する連合野
・食物の呈する複雑な感覚要素を総合的に
判断
前頭前野
味の記憶や、味の想像、想起などにより高
次の味覚機能に関係
c.味の質の情報処理
1. パターンによる情報処理
①空間パターン chemotopy
味質に応じて味覚中枢に局在性に投射する傾向
がみられる
・ラット
大脳皮質味覚野の吻尾側方向に
甘味応答、塩味応答、苦味応答
結合腕傍核にも大まかなchemotopy
しかし、そのオーバーラップは大きく、明確
な局在分布はみられない。
ヒト
fMRIを用いた研究から
5基本味に対する第一次味覚野の応答に
はモザイク様のchemotopyがある
②時間パターン
ラット孤束核ニューロンでは
甘味(ショ糖)
苦味(キニーネ)
に対する応答のインパルス発射の時系列に
は、それぞれ特徴がある
2.末梢から中枢への情報の伝達
○末梢ニューロンレベル
・味細胞はいずれか1つの味覚受容体を再現する(分子生物学的研究)
・味覚神経単一線維は、基本味のいずれかに最もよく応じる(電気生理学的研究)
○中枢ニューロンレベル
種々の入力が収束するようになる
たとえば、末梢では一側投射だったのが、視床以降は両側投射が見られるようになる
⇒末梢と同程度の純粋なラベルドラインの存在は考えにくい
弱いラベルドラインが、脳部位局在性に投射、時間−空間パターンにより、中枢の味質情報処理を行う??
○二次味覚野ニューロン
味覚(47%)嗅覚(12%)視覚(10%)刺激に応答するものが入り混じり、2種の感覚刺激に応じるものがみられる。
3.味覚により生じる情動
①情動に関係する部位
・扁桃体
ラットなど:脳幹部の各味覚中継核から入力
霊長類:大脳皮質第一次味覚野から入力
役割
・味覚入力を情動行動に結び付けるインタ
ーフェース
・味覚性情動学習の獲得と保持
②報酬系に関係する部位
側坐核
・大脳皮質各部や扁桃体からの情報受け
取る
・摂食意欲や情動行動発現に関係
・最終的には視床下部(主として摂食中枢
のある外側野)へ
⇒食行動を直接コントロール
4.味の学習
①生まれつきの味覚行動
a.味による唾液分泌
b.顔面表情の変化などの反射性応答
ヒトの味覚顔面反射
・新生児に基本味をなめさせる⇒成人と同じよ
うに、各味質に特有な表情を示す
・無脳児や水頭症の小児、あるいは先天的に
盲目のものでもおこる
⇒生得的で脳幹に中枢がある反射
c.新奇恐怖
:初めて経験する食べ物
を警戒し、匂いをかいで
みたり、少し口にして味
の安全性を確かめよう
とする行動。
雑食動物が示す。
②後天的な味覚行動
経験、学習、記憶などで獲得される
a.安全学習:新奇恐怖で警戒してもそれが安全であることが
わかれば躊躇なく食べることができるようになる
b.弁別学習:食経験が豊富になり、識別能、弁別能が獲得さ
れて微妙な味の違いが認知可能になる
c.味覚嗜好学習:幸せな記憶とともに食べたものは好きな食べ物
になる・とてもおいしかった。・母親が子供の頃から食べさせてくれた。・誕生パーティーのような楽しい場面で食べた。
d.味覚嫌悪学習:不快な経験をしたものは嫌いな食べ物になる
・食べた後吐き気、腹痛など体調が悪くなった。・食べたくない物を無理に食べさせられた。・味、におい、食感などがとても嫌。
d.条件付け味覚嫌悪学習
US: 塩化リチウムの腹腔内投与を行うことが多い。内臓の不快感を生じる
実験動物にも1回の経験(CSとUSの対呈示)で、容易に獲得させることのできる強い連合学習
主にげっ歯類の動物を用いて、種々の観点から膨大な研究がなされている
(A)味覚嫌悪学習獲得前の摂取行動メカニズム
扁桃中心核へ味覚情報が入力
⇒腹側被蓋野を起点とする脳内報酬系が機能
⇒視床下部外側野⇒摂取行動の惹起
(B)味覚嫌悪学習獲得後の嫌悪性反応および摂取忌避を聞き起こす神経メカニズム。孤束核、結合腕傍核、扁桃体基底外側核のCSに対する神経応答が促進される一方で、偏桃体中心核ニューロンが抑制されることで、脳内報酬系に機能に変化が生じ、嫌悪性反応や摂取拒否が起こる。
C.味覚情報の調節
味覚は絶対的な感覚ではない
体液組成の変化により味覚の感受性も変化⇒同じものでもおいしく感じたり感じなかったり
する(閾値は変わらない)。
動物の体内状況により末梢の味覚感受性レベ
ルで味覚情報は調節され、その情報により、摂食行動は大きく影響される
○甘味感受性の調節
①レプチン(食欲抑制物質)
主に脂肪細胞により産生されるホルモン
摂食抑制、エネルギー消費亢進、体重調整に関与
②内因性カンナビノイド(食欲促進物質)
中枢ではレプチンと拮抗した機能を持ち、血中濃度もレプチンと逆相関
① ② により、味細胞レベルで調節されている。
図3 末梢での甘味感受性の拮抗調節機構
甘味受容細胞はレプチンや内因性カンナビノイドといった食欲調節物質に対する感受性を発現し、それらにより拮抗的に甘味物質に対する応答性が調節される。末梢で調節を受けた情報はそのまま神経へと伝達され、中枢へと送られる。なお、Ob-Rb,CB1受容体が同じ甘味受容細胞に発現するかは未だ不明である。Clinical Neurosic.Vol 28より
嗅覚 Olfactory sense
ニオイ分子が気化、さらに鼻粘膜の粘液中に溶け込んで、初めてニオイ(嗅覚)として感受される
動物の摂食行動、動物社会の交流手段として重要な役割を果たす
ブレインサイエンス・シリーズ19 脳とニオイより
I. 嗅覚の一般的性質
1. 匂い物質
・分子量約300以下の揮発性有機化合物自然界には数十万種類存在
・ニオイの質は非常に複雑で、うまく分類できてていない
Amoore(1963)
2.においの測定法
オルファクトメータ
5原臭
・βフェニールエチルアルコール(花のにおい)
・メチルサイクロペンテノロン(焦げたにおい)
・イソ吉草酸(腐敗臭)
・γウンデカラクトン(果実のにおい)
・スカトール(糞臭)
3.においの閾値に影響するもの
①測定方法
②測定技術
③鼻粘膜の血管の収縮
④鼻粘膜の分泌の程度
⑤女性:月経周期
条件①~④
健常者でも測定毎に10倍の濃度差があり
同一の個人でも測定する日時によりかわる
図2-7(左) 加齢にともなう米国人を対象とした嗅覚力損失の変化
年齢の増加(横軸)に対する男女の嗅力の変化(縦軸)を示していいる(Doty et.al.,:Science, 226, 1441-1443,1984)より
3.加齢による影響
・30歳くらいに嗅力のピークがある
・60歳を超えると急激に低下
図2-10(右) 喫煙と禁煙に対する嗅力の変化を三次元に表現した図
縦軸は嗅力を示し、横軸に喫煙量と禁煙年数を示す。(Doty et al., : Science,
226, 1441-1443, 1984)より
ブレインサイエンス・シリーズ19 脳とニオイ 共立出版より
4.喫煙による影響
one pack(20本)×喫煙年数
4. 匂いに影響する因子
①匂い分子の構造の違い
②匂い物質の濃度の違い
① 匂い分子の構造の違い
官能基 炭素数 不飽和度
(A)構造が似ている匂い同士でも
:違う匂い
(B)構造が異なる匂い同士でも
:似たような匂い
② 匂い物質の濃度の違い
濃度により異なる匂い
を生じる
例:スカトール
高濃度:悪臭
低濃度:ジャスミン
の香り
5.嗅覚障害
・職業と関係するもの:セメント,石灰,タバコ工場などへの5年
以上の勤務
・妊娠初期:嗅覚過敏 hyperosmia、
妊娠後期:嗅覚鈍麻 hyposmia
嗅上皮に対するホルモン変調の効果
・糖尿病:60%の患者で嗅覚鈍麻
・アルツハイマー型痴呆症の初期
:嗅覚不全 dysosmiaが出現しやすい
・鼻炎、副鼻腔炎、機械的あるいは手術後の中枢
損傷→嗅覚脱失や嗅覚の部分脱失
・てんかん発作前:幻臭(刺激がないのに何かに
おいがする)
⇒嗅覚の中枢、梨状皮質:てんかん発作の源で
はないかといわれている
・カコスミアcacosmia(刺激がないのにいつも不
快臭があることをいう)
II.嗅覚の神経生理学
1.嗅覚の末梢機序
○鼻腔と嗅上皮の構造
哺乳類の鼻腔
鼻中隔(鼻腔を左右に分ける)と鼻甲介:
非常に入り組んだ構造
鼻甲介:鼻腔容積が小さくなる
→加温、加湿、防塵など鼻腔の機能の効率化
嗅粘膜:
・ヒト:上鼻甲介の内側粘膜とそれに対向する鼻
中隔粘膜。面積:10cm2未満
・マウスやイヌ:鼻腔全体のほぼ半分
図4-109 嗅上皮の位置と構造
(a):鼻腔内における嗅上皮の位置と嗅球との関係。標準生理学第7版より
嗅粘膜の微細構造:
基底膜により2つの層に分けられる
1.嗅上皮層:粘膜表層部
① 嗅(神経)細胞
② 支持細胞
③ 基底細胞
2.粘膜固有層:深部
Bowman腺や杯細胞、血管、膠原線維、
三叉神経、交感、副交感神経終末
① 嗅(神経)細胞=第I神経、双極細胞
樹状突起を嗅上皮の表面に向けて伸ばし、さらに
その先端にある嗅小胞から嗅線毛(10本)を伸
ばす。
受容体:嗅線毛上にある
・軸索:
基底膜方向に伸びて軸索束となる
→篩板を貫いて頭蓋骨へ侵入
→嗅球の糸球体で僧帽細胞とシナプス結合
・鼻腔を介して外界と頭蓋内の中枢とを直接つなぐ
ヒト:1000万個 ウサギ、イヌ:1億個
② 支持細胞: 嗅細胞を保持
死滅した嗅細胞をマクロファージ
とともに貪食
③ 基底細胞
・水平基底細胞
・球状基底細胞:嗅細胞の幹細胞
嗅細胞のターンオーバー周期:4週間
嗅粘液の役割
①匂い物質を受容部位まで輸送
匂い結合タンパク質(odorant binding
protein :OBP)が匂い物質と結合し、嗅覚受容
体まで輸送
②外界由来の有害な化学物質の代謝・分解
匂い物質も官能基をもつ有機化合物
⇒当然酵素反応を受ける
⇒嗅粘液の分泌量の変化が嗅覚感覚に影響?
⇒匂いの感じ方が個体により、また生理状態によ
り変わる一因
○匂い物質の受容機構
・受容体:Gタンパク質共役型受容体(G-protein coupled receptor;GPCR)
約1000個の多重遺伝子ファミリー形成
・ 1個の嗅神経の細胞には、1種類の嗅覚
受容体遺伝子だけが発現
(受容体遺伝子:388種類)
one-neuron one-receptor rule
図4-2 ニオイ受容部位のアミノ酸配列
嗅毛膜を7回貫通し、NH2基は細胞外にあり、COOH基は細胞内にある。(Buck and Axel:Cell, 1991)より
ブレインサイエンス・シリーズ19 脳とニオイより
・ 受容部位:単体化学物質の化学構造の一部を識別
している(匂い物質に含まれる各匂い分子)
⇒匂い物質が、ある化学構造の一部を有している場合、その化学構造に応じる受容体は、全部応答
⇒匂い物質は 複数の嗅覚受容体と結合できる
⇒受容体と匂い分子の結合の有無で、スウィッチ on or off
☞それぞれの匂いに特有の嗅覚受容体の組み合せ
が作られる
スイッチ(受容体遺伝子):388個パターン:2(on or off)の388乗存在
3. 嗅球への匂い情報の伝達
匂い物質が嗅覚受容体に結合
→Gタンパク質の活性化
→cAMP (セカンドメッセンジャー)の産生
→環状ヌクレオチド作動性チャネル(cyclic
nucleotide-gated channel:CNGチャネル)の開口
→Na+とCa2+が細胞内流入
→活動電位の発生
→流入したCa2+により、 Ca2+作動性Cl-チャネル
( Ca2+ dependent Cl- channel;DCDチャネル)が開口
→活動電位のさらなる増大
☞匂い物質の化学情報の電気信号への変換
変換された電気信号
嗅神経細胞の軸索末端から嗅覚の一次中枢(嗅球)へ運ばれ、
二次神経細胞(僧帽・房飾細胞)の樹状突起とシナプスを形成、糸球体という構造をとる。
・嗅細胞(の受容体)と嗅球糸球体の関係
one-receptor one-glomerulus rule
・同じ受容体をもつ嗅神経の軸索は、同じ糸球体
に集まる
受容体の活性化:糸球体の発火
= 1:1の対応
⇒ある匂いによって活性化された嗅覚受容体の組
み合せの情報は、保存されて嗅球へ
1種類の匂い分子
→複数の組み合わせの嗅覚受容体と結合
→嗅球上の複数の糸球体を活性化
特定の匂い分子を感知した際の糸球の活性パターン
⇒匂い地図
1種類の匂い分子は複数の組み合わせの嗅覚受容体と結合し、その結果、嗅球上の複数の糸球を活性化させる。特定の匂い分子を感知した際の糸球の活性化パターンは、匂い地図と呼ばれる。この図では、食べ物の匂いを感知した場合と、天敵の匂いを感知した場合にそれぞれ異なる匂い地図が嗅球上に現れる様子を示している。匂い地図は糸球を素子とした電光掲示板の上の画像パターンにたとえることができる。脳は匂い地図の情報を読み解いて、適切な情動や行動を引き起こしている。
Clinical Neuroscience vol.28より
野生型マウスの嗅上皮は背側ゾーンと腹側ゾーンに分類できる。背側ゾーンに存在する嗅細胞は嗅球の背側ドメインの糸球に接続し、腹側ゾーンに存在する嗅細胞は腹側ドメインの糸球へ接続するという対応がある。嗅覚系に存在するゾーンやドメイン構造の生物学的な意味を解明するために、背側ゾーンに存在する嗅細胞を特異的に除去した背側ゾーン除去マウスを作成し、その匂い認識能力を解析した。
O-MACSは背側ゾーン特異的に発現する遺伝子。NSEは神経細胞特異的に発現する遺伝子。DTAはジフテリア毒素A断片遺伝子。Creは組換え酵素遺伝子で、2つのloxP配列の間にある転写停止配列(stop)を切り取る性質がある。2種類のノックインマウスを掛け合わせることで、背側ゾーンの嗅細胞を特異的に除去した。背側ゾーン除去マウスの嗅球の背側ドメインは嗅細胞に接続せずに、糸球のない空の領域として形成された。
におい地図を読み解くメカニズムa.背側ゾーン除去マウス作成
b.背側ゾーン除去マウスの匂い認識能力
背側ゾーン除去マウス⇒無傷な腹側ゾーンの嗅細胞により、匂い自体の
認知には問題なし
・におい分子の感知:正常・におい分子の区別:正常・報酬と関連学習する能力:正常
では、どこに問題があるのか?
野生マウス:腐敗の匂い、刺激物の匂い、天敵の匂
いに対して忌避行動を示す。
背側ゾーン除去マウス:忌避行動を示さず恐れるそぶりも見せ
ず、ネコそのものに近づく
図4 においに対する恐怖反応を制御する神経回路
天敵の分泌物に含まれる匂い分子であるTMTは、背側と腹側の双方のゾーンに発現する嗅覚受容体を同時に活性化させる。背側ゾーンの嗅細胞から始まる神経経路は嗅皮質を経由して、分界条床核の中央領域の神経細胞を活性化させる。その結果、脳内のストレス経路(視床下部-下垂体-副腎経路)が活性化される。この神経経路が天敵の匂いに対する先天的な忌避や恐怖行動を引き起こしていると考えられる。これに対して、腹側ゾーンの嗅細胞から始まる神経経路は、匂いと報酬や痛みとの関連学習などによって後天的に獲得した行動を引き起こしていると考えられる。
嗅球上の匂い地図を構成する糸球体は、
嗅球のどの領域に存在するかによって異なる
機能的な意味を持っている可能性が考えられ
る
現在わかっていること
嗅球の背側ドメイン
・前方領域の糸球クラスター
:腐敗臭により活性化
⇒嫌悪反応
・後方領域の糸球クラスター
:天敵臭により活性化
⇒恐怖反応
2.嗅覚の中枢機序
嗅覚中枢経路
・嗅皮質への入力
嗅上皮 ⇒嗅球 ⇒外側嗅索⇒嗅皮質
(前嗅核、梨状皮質、嗅結節、扁桃体、嗅内野)
・嗅皮質からの出力
① ⇒視床背内側核経由後
⇒無顆粒性島皮質/眼窩前島皮質後部
② ⇒無顆粒性島皮質/眼窩前島皮質後部(直接
投射)
嗅球の神経回路網
嗅球の構成要素
・中継ニューロン
(樹状突起に嗅細胞の軸索がシナプス結合)
僧帽細胞
房飾細胞
・介在ニューロン
傍糸球体細胞
顆粒細胞
短軸索細胞
・入力線維
嗅神経
・遠心性線維
カラムを構成
嗅球a.嗅細胞の軸索
・僧帽・房飾細胞の主樹状突起・傍糸球体の樹状突起
にシナプス結合
b.特定の脳領域から遠心性線維の入力を受ける
伝達物質・ノルアドレナリン ・セロトニン
・アセチルコリン ・GABA
c.多くの連合線維の投射を受ける
⇒単なる中継核ではなく皮質連合野に近い
①記憶・学習
②神経回路形成などの基礎となるシナプス可塑性
③生体の生理的、認知科学的状態に応じた匂い情報の識別や制御
に関わる構造体
糸球体層における入力レベルの調節
①フィードバック抑制(相反性樹状突起間シナプス)
・僧帽細胞や房飾細胞(興奮性シナプス、グル
タミン酸放出)→顆粒細胞興奮
・顆粒細胞(抑制性シナプス、GABA)→僧帽細
胞や房飾細胞抑制
傍糸球体細胞でも同じことが起こる
図7-106 僧帽細胞と顆粒細胞の樹状突起間シナプス
MD:僧帽細胞の樹状突起、GG:顆粒細胞の樹状突起。赤矢印は僧帽細胞から顆粒細胞への興奮性シナプス伝達、灰色矢印は顆粒細胞から僧帽細胞への抑制性シナプス伝達を示す。(森、1978)
新生理学第4版より
生理的意義
匂いを受容した嗅細胞軸索の収束によりシナプス後細胞が脱分極しすぎて新たな匂い刺激に対する応答性を失うことを防ぐ。⇒フィードバック抑制により応答性を維持。
同一糸球体内では大きな影響近傍の他の糸球体へはほとんど影響しない
②興奮性ネットワーク
僧帽・房飾細胞同士による
入力に対する糸球体の感受性を増幅する機構
以上①、②は同一糸球体内で起こる
糸球体間情報伝達抑制としては
③側方抑制
短軸索細胞による周辺糸球体への側方抑制
・軸索を最長2mmものばす
(糸球体20~30個分の長さ)
・周辺の傍糸球体細胞にシナプス結合
匂い情報
⇒外房飾細胞⇒短軸索細胞興奮(グルタミン酸)
⇒傍糸球体細胞(GABA放出)⇒僧帽細胞抑制
生理的な意義
匂い情報のコントラスト増
強と特徴抽出を仲介。
匂いの濃度が増して、賦
活される糸球体は広がり、
増加するにもかかわらず、
匂いの質は変化せず同
じ匂いとして知覚される。
匂いの質の維持。
②外叢状層における出力レベルの調節
僧帽・房飾細胞の主樹状突起からのシナプス電位が僧帽・房飾細胞体に伝わり、活動電位を発生
この後
①嗅球から嗅皮質へ伝播
②僧帽・房飾細胞の副樹状突起への逆伝播
②のとき僧帽・房飾細胞の副樹状突起と顆粒細胞の間で樹上突起間シナプスが活性化
この相反性樹状突起間シナプスにより
・興奮僧帽・房飾細胞の自己抑制
・近傍の僧帽・房飾細胞の側方抑制
⇒糸球体層で発生した空間パターンの更なる処理を行っている
個々の僧帽・房飾細胞が近傍の僧帽・房飾細胞を
側方抑制することによりコントラストが高まる
側方抑制:顆粒細胞スパインのNMDA受容
体による
嗅球は糸球体を中心に、糸球体層から顆粒細胞
層まで嗅球の全層を含んだ狭いカラム構造を形
成。
このカラム構造の中
で側方抑制が機能
僧帽・房飾細胞の軸索
→外側嗅索となり嗅皮質へ
図5-1 ウサギ嗅球断面図
図中の数字は嗅球内のおおよその総数を示す。矢印は情報の流れをあらわす。
(Maulton and Tucker:Ann.N.Y.Acad.Sci.,16,380-428,1964)より
ブレインサイエンス・シリーズ 脳とニオイより
連想記憶を司る梨状皮質
主要な神経回路
・外側嗅索―浅錐体細胞―深錐体細胞
・外側嗅索―浅錐体細胞―抑制性介在細胞
―深錐体細胞
・深錐体細胞―抑制性介在細胞―浅錐体細胞
反回性フィードバック(抑制性)と側方興
奮
この神経結合の収束-発散ネットワークにより連想記憶が形成される
図7-107 梨状皮質の神経回路
LOT:外側嗅索、SP:浅錐体細胞、DP:深錐体細胞、IN:抑制性介在細胞、AC:前交連、OB:嗅球、DPC:梨状皮質の深部領域、ローマ数字は層を示す。(佐藤ら、1983)新生理学第4版より
イヌを用いて、梨状皮質よりニオイ応答を記録
II層の細胞:単純化学物質
III層の細胞:動物の生活にとって重要であ
ると思われる複雑なニオイ(フ
ン、尿、固形餌料)によく応答
↓層構造の縦軸方向において、ニオイの情報処
理が行われている。
梨状皮質からの出力細胞:錐体細胞
・遠心性線維として嗅球へもどる
・視床内側核経由眼窩前頭皮質
・眼窩前頭皮質(直接経路)
匂いの認知を司る眼窩前頭皮質
複数の感覚系から入力を受ける⇒統合
⇒扁桃体やその他の辺縁系、視床下部、脳幹
へ出力
意思決定や情動、気分、報酬期待、内臓機能などの調節行う
嗅覚中枢の働き
○サルを用いた実験
嗅球
・3〜5種のにおい刺激に応答:67.5%
・1種だけのにおい:12%程度
梨状皮質と扁桃核内側部
2〜4種のにおいに応答:71.3%と最多。
視床背内側核
3〜4種のにおい:65.9%が応答する。
眼窩前頭皮質中央後部(CPOF)
3〜5種のにおい:83.3%が応答する。
上位に行くほど応答するにおいの数が増加
眼窩前頭皮質外側後部(LPOF):
1種のにおいに応答:半数
1〜2個のにおい刺激に応答:79.6%
↓
においを分析する機構がこの経路に発達していることを示唆。
*LPOFを両側的に破壊したサルでは、にお
いによってえさを識別する能力著しく低下。
図4-116 サルの嗅覚中枢ニューロンの8種のにおい刺激に対する応答
[(a),(b),(d)]=Tanabe T et.Al: J NeurophysioL.38:1284,1975,(c),(e)=Yarita H et al:J Neurophusiol. 43,69,1980より]
標準生理学第7版
図7-8 ウサギ視床内側核のニオイ応答のまとめ
上の数字は神経細胞番号。※は大脳皮質嗅覚野に軸索が投射していることが電気生理学的に証明された細胞。
AA:酢酸イソアミル、CLT:シクロテン、VA:イソ吉草酸、DE:エチレンジクロライド、CM:カンファー、BL:ボルネオール、CL:シオネール、UDL:ガンマーウンデカラクトン
(Imamura et al.:Jpm.J.Physiol.,1984)よりブレインサイエンス・シリーズ19 脳とニオイより
上位中枢に行くにしたがって、生活臭に反応するようになる
図2-26 ウサギ嗅覚野より得られたニオイ応答のまとめ(Onoda et al., 1984)
興奮的応答:ニオイにより神経発射頻度が増す型。抑制的応答:ニオイにより頻度が減る型。“自分の....”とは“記録した動物の....”という意味である。一番上の数字は神経細胞番号。
AA:酢酸イソアミル、CLT:シクロテン、VA:イソ吉草酸、DE:エチレンジクロライド、CM:カンファー、BL:ボルネオール、CL:シオネール、UDL:ガンマーウンデカラクトン。おいしさの科学事典より
○ウサギ視床内側核のニオイ応答のまとめ
○ウサギ嗅覚野より得られたニオイ応答のまとめ
嗅覚情報の情報処理ステップ
①嗅細胞
:匂い決定基が特定の匂い受容体を活性化
②嗅球の糸球体層
:匂い決定基の匂いイメージを形成(匂い
マップ)
③嗅球の僧帽・房飾細胞と顆粒球
:文脈に依存した匂いイメージを形成
④嗅球へ投射する遠心性線維
:その活性化と連合してそのときに嗅いだ匂
いの記憶を形成
⑤嗅皮質
:局所回路によって匂いの連想記憶を形成
⑥ 眼窩前島皮質
:局所回路によって匂いの認知やフレー
バーが起こる
6. もう一つの嗅覚系
副嗅覚系:フェロモンを受容して脳へと伝搬する特
殊な感覚系
①フェロモンの性質
・定義
“ある動物個体が体の外に発し、同種他個体に
受容され、特定の反応を引き起こす物質“
・2種類に分類される
①リリーサーフェロモン
直接に異性に特異的な行動を引き起こす
性ホルモン
②プライマーフェロモン
生理過程に影響して間接的に発達や生
殖機能に変化を与える
② 受容器官:鋤鼻器(鼻腔内)
③ 鋤鼻神経細胞で生
じた電位変化
→副嗅球(嗅球の
後背側にある)→脳
④ ヒトの鋤鼻器
・ヒトでも鋤鼻器は存在するが、出生とともに退化、
神経系としての機能は果たしていない。
図11-7 ヒト胎児の鋤鼻系A.胎齢8週ころ、鋤鼻神経は副嗅球に投射している一方、嗅神経も嗅球に投射している。
B.胎齢10週ころ、鋤鼻器は大きくなりその菅壁は厚くなるが、鋤鼻神経の退縮が始まっている。主嗅覚系は発達し続けている。
C.胎齢12週ころ、鋤鼻器の菅壁は薄くなり菅腔は広がるが、鋤鼻神経は退縮する。一方、主嗅覚系はどんどん発達していく。(高見 茂:Brain Med., 11, 163-169,1999)の165頁、図3を改変ブレインサイエンス・シリーズ19 脳とニオイより
・ドミトリー(寄宿舎)効果共同生活をしている女性同士の月経周期はだんだん同期してくる⇒月経周期を延長するホルモンと短縮するホルモンがヒトの腋窩から分泌され、これら2種類のフェロモンが月経周期の同期を引き起こす。(プライマーホルモン)
・女性は、自分と異なるタイプのHLAクラスI抗原を有する男性のにおい(フェロモン)を好む傾向がる⇒自分の子供の遺伝子の多様性を増大させる
ためと解釈されている。*HLAクラスI抗原:ヒトの細胞表面に存在。
自己と非自己を識別