かかももめめ風風だだよよりり - kitami · 2018-03-28 ·...

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扉の写真…「昭和61年8月25日 『常呂町百年史』用「古老の座談会」 この人・この作品…東直子『とりつくしま』『晴れ女の耳』 『私のミトンさん』 音の缶詰・CDレビュー…音楽の宝庫、1970年代のポップス ジャクソン・ブラウン 「ジャクソン・ブラウン・ベスト・セレクション」 「プリテンダー」「孤独なランナー」 「ソロ・アコースティック」 いちおしコミック…谷口ジロー『欅の木』『父の暦』 『遙かな町へ』 常呂図書館情報紙 かもめ風だより かもめ風だより 2017.3 VOL15 メニュー紹介 ■扉の写真 写真は、『常呂町百年史』の付録として掲載するために行われた「古老の座談会」 (昭和61年8月25日)です。18人の方々が大正から昭和にかけての常呂のあ れこれを語っています。この座談会は、百年史ばかりではなく、ビデオテープ にも収められ、常呂図書館ではDVDに変換して保存しています。

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Page 1: かかももめめ風風だだよよりり - Kitami · 2018-03-28 · ★偉大なマンガ家/谷口ジローの家族物語 谷口ジロー 『欅の木』(小学館 1993年)

扉の写真…「昭和61年8月25日 『常呂町百年史』用「古老の座談会」

この人・この作品…東直子『とりつくしま』『晴れ女の耳』

『私のミトンさん』

音の缶詰・CDレビュー…音楽の宝庫、1970年代のポップス

ジャクソン・ブラウン

「ジャクソン・ブラウン・ベスト・セレクション」

「プリテンダー」「孤独なランナー」

「ソロ・アコースティック」

いちおしコミック…谷口ジロー『欅の木』『父の暦』

『遙かな町へ』▲ △ ▲

常呂図書館情報紙 ★

かもめ風だよりかもめ風だより2017.3 VOL15

メニュー紹介

■扉の写真写真は、『常呂町百年史』の付録として掲載するために行われた「古老の座談会」

(昭和61年8月25日)です。18人の方々が大正から昭和にかけての常呂のあ

れこれを語っています。この座談会は、百年史ばかりではなく、ビデオテープ

にも収められ、常呂図書館ではDVDに変換して保存しています。

Page 2: かかももめめ風風だだよよりり - Kitami · 2018-03-28 · ★偉大なマンガ家/谷口ジローの家族物語 谷口ジロー 『欅の木』(小学館 1993年)

こ の 人

こ の 作 品

■『とりつくしま』は、とても奇妙なタイトルの短編連作集です。『この世界の片隅に』

の作者/こうの史代さんが、『とりつくしま』文庫化に寄せる文を月刊『ちくま』3月号

に「不自由さを承知で愛する誰かの何かに宿る」と題して書いているので引用します。「死

んでしまった後に、まだこの世に未練を残していると、〈とりつくしま係〉がやってきて、

あなたの望む物体に、あなたの心を入れてあげると言う。この世から引き離されてしまっ

たわたしに、とりつくしまを与えてくれると言う。そしてわたしは、今まで見慣れた何か......

に宿って、いちばん大切だった誰かを、思いがけず間近から眺める…今までの自分とは違

う視点から眺め直す11の物語でできている」と紹介。それぞれの物語は温かな気持ちに

なるものもあれば、とりつくしまもないまま捨てられたり、辛辣な結末があったり、ただ

ただ魅入られてしまう物語ばかり。こうの史代さんは「無情すぎる設定の中で、情の濃す

ぎる人びとが織りなす物語は、誰かの秘密を覗くようで、ときに背徳感が痛い。でもそん

なものからも、かれらはもう解き放たれてしまっているのだ。そこに繰り返し気づくたび、

寂しさがさざ波のように寄せてくる。怖いくらいの濃い愛情が、波間にきらきら光ってい

る。きらきら光りながら、遠ざかってゆく」と評し、個人的なできごとに続けています。

この個人的なことと併せ、『日の鳥1.2』((日本文芸社)もぜひどうぞ。『とりつくしま』

を別な角度から感じることができます。

■『晴れ女の耳』(角川書店)表紙の扉に「5つの怪談短編集」とあり、物語の中に秘め

られた怖さに引き込まれます。過酷な仕打ちや体験に運命をもて

あそばれた家族が異形(いぎょう)となって現代に生きる物語が

収められています。「赤べべ」は、村の川が氾濫を繰り返し、水神

さまを鎮めるために人柱になった親子が人さらいをする狸となっ

てさまようように今を生きています。タイトルの「晴れ女の耳」

は、夫殺しの罪を着せられた母親と子どもたちが村人から追われ

餓死し、残された一人の女の子が死なずに生き続ける策として耳

の中で暮らすほどに小さくなってしまう物語。そのすさまじさは

恐れおののくほどですが、この2編は奇妙に明るい最後を用意し

ています。「イボの神様」は悲哀と慈しみからおかしみに突然変わ

る最後が不思議。全編を通して感じられるのは、中途半端ではな

くとことん真剣に思う・祈る・願うという意識です。善悪ではなく意識が存在を決める世

界が胸に広がります。

■『私のミトンさん』(朝日新聞社)海外で仕事をしている叔父さんの留守宅に暮らすこ

とになった主人公の茜は、その家の地下室で身長が50センチほど

で赤い服のおばあさんと出会います。ミトンさんとの物語の始まり

です。ミトンさんと出会うことで、ミトンさんが引き寄せるように

思いがけない人たちと出会い、その人たちの意識の深いところを感

じるようになります。せつなく悲しいことや思い続ける大切さや辛

さ、旅をするようにお互いにつながりながら茜と周りの人たちが互

いの物語を語り始めます。居場所とどこに行くかは自分の意志で決

めるミトンさんに導かれるように、物語の中の人たちは意志を強く

持つことで自身が求めるところに旅立ちます。不思議でおだやか、

茜の周りの人たちが語る物語の豊かさ、深さに惹かれます。〈何だ

ろう、これは〉と思いつつ著者が描くふしぎな世界を楽しめます。

東直子(ひがし・なおこ) 異形のふしぎな世界

『とりつくしま』(筑摩書房) 『晴れ女の耳』 (角川書店)

『私のミトンさん』 (毎日新聞社)

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音楽の宝庫、1970年代のポップス

ジャクソン・ブラウン「ジャクソン・ブラウン・ベスト・セレクション」

「孤独なランナー」「プリテンダー」

「ジャクソン・ブラウン・ソロ・アコースティック」

●ジャクソン・ブラウンは1948年生ま

れの現役シンガー・ソングライター。曲の

良さと力強いボーカルが魅力で、2015

年には12度目の来日コンサートもしてい

ます。日本での人気が高いミュージシャン。

●2004年にロックの殿堂入りを果た

し、『ジャクソン・ブラウン』(シンコーミ

ュージック)には、ブルース・スプリング

スティーンの式典スピーチを載せているの

で一部分を紹介します。「70年代、ヴェ

トナム戦争後のアメリカにおいて…60年

代の長くゆっくりとした残り火、傷心、失

望、使い果たされた可能性、それらをジャ

クソン・ブラウンの傑作『レイト・フォー

・ザ・スカイ』ほど見事にとらえて表現し

たアルバムはない…あの時代の意味を理解

するには欠かせない」、また70年代の代

表曲をいくつも挙げ、「イーグルスの方が

成功したことは知っているけれど、ドン・

ヘンリーも同意するはずだ。これらの曲は

彼らが書きたかった曲だよ!俺だって書き

たかった!」と賞賛しています。●「ベス

ト・セレクション」には、70年代の代表

曲が並びますが、初期の傑作アルバムの一

つ「レイト・フォー・ザ・スカイ」からは

タイトル曲のみで、大半が「プリテンダー」

「孤独のランナー」収録曲です。●「ファ

ースト」から4枚目の「レイト・フォー・

ザ・スカイ」までは、軽快さとゆったりし

た曲が多い印象がありますが、「プリテン

ダー」(1976年)では一変、緊張感や

苦悩、せつなさが

漂う曲が多くなり

ます。それでも曲

は美しく力強い。

1曲目の「フュー

ズ」とアルバム最

後の「プリテンダ

ー」だけでもそのことが十分分かります。

そして印象的なギターやピアノのフレー

ズ、バックボーカルのサポートが曲を輝か

せています。●「孤独なランナー」(19

77年)は、コンサートの旅、人生の旅が

テーマのライブアル

バム。オープニング

のタイトル曲「ラン

ニング・オン・エン

プティ」は、最強の

ツアーバンドととも

に疾走し、ドライブ

感あふれる名曲です。コンサート会場だけ

ではなく、ツアー中のホテルなどいろいろ

な場所で録音され、テーマの「旅」がいっ

ぱい詰まったライブ作品。特に「ザ・ロー

ドアウト」から「スティ」へつながるアル

バムのフィナーレは、コンサートの定番だ

った時代があります。このアルバムは、ジ

ャクソン・ブラウンが優れたシンガー・ソ

ングライターであるとともに、ロックンロ

ーラーであることを証明しています。

●「ソロ・アコースティック」は、200

5年と08年に発

表した1.2集を

一緒にしたアルバ

ムでギターまたは

ピアノの弾き語り

ソロライブです。

これまで紹介した

3枚のアルバムには収録されていない70

年代の曲と80年代から2000年代初め

の代表曲をたっぷり聴くことができます。

ギターとピアノに魂がこもり、リラックス

した温かさに満ち、観客との親密さが伝わ

ってきます。曲の解説がていねいで曲間の

おしゃべりも対訳がついているので、アッ

トホームな雰囲気を存分味わうことができ

ます。バンドとともに緻密に計算したサウ

ンドも良いけれど、観客とライブ空間を共

有するソロからは、40年のキャリアから

生み出される歌の力を感じます。

音の缶詰

CDレビュー

Page 4: かかももめめ風風だだよよりり - Kitami · 2018-03-28 · ★偉大なマンガ家/谷口ジローの家族物語 谷口ジロー 『欅の木』(小学館 1993年)

★偉大なマンガ家/谷口ジローの家族物語

谷口ジロー

『欅の木』(小学館 1993年)

『父の暦』(小学館 1995年)

『遙かな町へ』(双葉社文庫 1999年)

●今年の2月11日、谷口ジローが69歳で亡くな

りました。あまたある作品の中から家族をテーマにした3冊を紹介します。

■『欅(けやき)の木』の原作は小説家/内海隆一郎の短編集『人びとシリーズ「けやき

のき」』。原作者の後書きに、200編ほどの中から谷口ジローと

編集者が選んだ8編が収められ、「自分の書いた人物たちの容貌や

表情、まわりの情景…そのすべてが、わたしの頭のなかにあるも

のと寸分ちがわない…思うに、谷口さんとわたしの胸のなかには、

ごく似かよった〈想像装置〉がある」と綴っています。原作に谷

口ジローの絵が加わり、上質の短編映画を何本も楽しむ気持ちに

なれます。

■『父の暦』は著者のふるさと鳥取が舞台。父親を避けていた主

人公が父親の葬儀のため16年ぶりにふるさとに帰り、葬儀に集

った身内が語る父の思い出を聴くうちに子どもの頃の記憶が蘇り

ます。家族が幸せだった時代、昭和27年の鳥取大火で父が理髪

店を失い、父と母の関係がうまくいかなくなった時代、主人公が

知っている父と母の姿と身内が語る父の姿をつなぎ合わせること

で、主人公が避けてきた父との対話を知らずともなく始め、物語

の最後で和解を果たします。●作者は〈あとがき〉で「父親に対

して子供の頃から抱き続けた、息子のわだかまった気持ち…抽象

的な心の葛藤」を作品の核として位置付け、「『父の暦』は…郷里

への思いをこめて創作した物語…地方から上京した都会で生活す

る人達の郷里へ寄せる思いは…年を経て、郷里のある幸せを知る。

当時の自分が父や母と同年代に成長した時、初めてその生き方に

感動できる」と書いています。年を重ねた読者にこそ思いが伝わ

る作品です。

■『遙かな町へ 上・下』はタイムスリップもの。48歳の主人

公が34年前の14歳/中学生にタイムスリップします。時代は

東京オリンピックの前年、昭和38年。それも主人公の父親が家

族に理由を告げぬまま家を出て行く4ヶ月前の我が家へ。主人公

は14歳を再び体験しますが、多くの経験値を持った中年が生き

る14歳は当時とは少しずつ違いがあらわになります。主人公は

「今…こうして再び14歳に戻ってみると、今まで見過ごしてき

たものが見えるような気がした…私は決意した。父の失踪を止め

よう。今の私なら、できるかもしれない」と思うようになります。

父の失踪の理由はいったい何か、戦争を挟み思うようには生きら

れなかった時代背景に、14歳と48歳という2つの人格を生きる主人公は、人生の可能

性ややり直し、父と母の気持ちにどこまで近づくことができるのでしょう?物語の最後に

タイムスリップがもたらしたステキな仕掛けがあります。●谷口ジローはヨーロッパ、と

りわけフランスで評価が高く、『遙かな町へ』は実写版で映画化され、日本には字幕付き

で輸入されています。また、常呂図書館ではほとんどの作品を所蔵しています。

いちおしコミック