かかももめめ風風だだよよりり - kitami · 2018-03-28 ·...
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扉の写真…「昭和61年8月25日 『常呂町百年史』用「古老の座談会」
この人・この作品…東直子『とりつくしま』『晴れ女の耳』
『私のミトンさん』
音の缶詰・CDレビュー…音楽の宝庫、1970年代のポップス
ジャクソン・ブラウン
「ジャクソン・ブラウン・ベスト・セレクション」
「プリテンダー」「孤独なランナー」
「ソロ・アコースティック」
いちおしコミック…谷口ジロー『欅の木』『父の暦』
『遙かな町へ』▲ △ ▲
常呂図書館情報紙 ★
かもめ風だよりかもめ風だより2017.3 VOL15
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メニュー紹介
■扉の写真写真は、『常呂町百年史』の付録として掲載するために行われた「古老の座談会」
(昭和61年8月25日)です。18人の方々が大正から昭和にかけての常呂のあ
れこれを語っています。この座談会は、百年史ばかりではなく、ビデオテープ
にも収められ、常呂図書館ではDVDに変換して保存しています。
こ の 人
こ の 作 品
■『とりつくしま』は、とても奇妙なタイトルの短編連作集です。『この世界の片隅に』
の作者/こうの史代さんが、『とりつくしま』文庫化に寄せる文を月刊『ちくま』3月号
に「不自由さを承知で愛する誰かの何かに宿る」と題して書いているので引用します。「死
んでしまった後に、まだこの世に未練を残していると、〈とりつくしま係〉がやってきて、
あなたの望む物体に、あなたの心を入れてあげると言う。この世から引き離されてしまっ
たわたしに、とりつくしまを与えてくれると言う。そしてわたしは、今まで見慣れた何か......
に宿って、いちばん大切だった誰かを、思いがけず間近から眺める…今までの自分とは違
う視点から眺め直す11の物語でできている」と紹介。それぞれの物語は温かな気持ちに
なるものもあれば、とりつくしまもないまま捨てられたり、辛辣な結末があったり、ただ
ただ魅入られてしまう物語ばかり。こうの史代さんは「無情すぎる設定の中で、情の濃す
ぎる人びとが織りなす物語は、誰かの秘密を覗くようで、ときに背徳感が痛い。でもそん
なものからも、かれらはもう解き放たれてしまっているのだ。そこに繰り返し気づくたび、
寂しさがさざ波のように寄せてくる。怖いくらいの濃い愛情が、波間にきらきら光ってい
る。きらきら光りながら、遠ざかってゆく」と評し、個人的なできごとに続けています。
この個人的なことと併せ、『日の鳥1.2』((日本文芸社)もぜひどうぞ。『とりつくしま』
を別な角度から感じることができます。
■『晴れ女の耳』(角川書店)表紙の扉に「5つの怪談短編集」とあり、物語の中に秘め
られた怖さに引き込まれます。過酷な仕打ちや体験に運命をもて
あそばれた家族が異形(いぎょう)となって現代に生きる物語が
収められています。「赤べべ」は、村の川が氾濫を繰り返し、水神
さまを鎮めるために人柱になった親子が人さらいをする狸となっ
てさまようように今を生きています。タイトルの「晴れ女の耳」
は、夫殺しの罪を着せられた母親と子どもたちが村人から追われ
餓死し、残された一人の女の子が死なずに生き続ける策として耳
の中で暮らすほどに小さくなってしまう物語。そのすさまじさは
恐れおののくほどですが、この2編は奇妙に明るい最後を用意し
ています。「イボの神様」は悲哀と慈しみからおかしみに突然変わ
る最後が不思議。全編を通して感じられるのは、中途半端ではな
くとことん真剣に思う・祈る・願うという意識です。善悪ではなく意識が存在を決める世
界が胸に広がります。
■『私のミトンさん』(朝日新聞社)海外で仕事をしている叔父さんの留守宅に暮らすこ
とになった主人公の茜は、その家の地下室で身長が50センチほど
で赤い服のおばあさんと出会います。ミトンさんとの物語の始まり
です。ミトンさんと出会うことで、ミトンさんが引き寄せるように
思いがけない人たちと出会い、その人たちの意識の深いところを感
じるようになります。せつなく悲しいことや思い続ける大切さや辛
さ、旅をするようにお互いにつながりながら茜と周りの人たちが互
いの物語を語り始めます。居場所とどこに行くかは自分の意志で決
めるミトンさんに導かれるように、物語の中の人たちは意志を強く
持つことで自身が求めるところに旅立ちます。不思議でおだやか、
茜の周りの人たちが語る物語の豊かさ、深さに惹かれます。〈何だ
ろう、これは〉と思いつつ著者が描くふしぎな世界を楽しめます。
東直子(ひがし・なおこ) 異形のふしぎな世界
『とりつくしま』(筑摩書房) 『晴れ女の耳』 (角川書店)
『私のミトンさん』 (毎日新聞社)
音楽の宝庫、1970年代のポップス
ジャクソン・ブラウン「ジャクソン・ブラウン・ベスト・セレクション」
「孤独なランナー」「プリテンダー」
「ジャクソン・ブラウン・ソロ・アコースティック」
●ジャクソン・ブラウンは1948年生ま
れの現役シンガー・ソングライター。曲の
良さと力強いボーカルが魅力で、2015
年には12度目の来日コンサートもしてい
ます。日本での人気が高いミュージシャン。
●2004年にロックの殿堂入りを果た
し、『ジャクソン・ブラウン』(シンコーミ
ュージック)には、ブルース・スプリング
スティーンの式典スピーチを載せているの
で一部分を紹介します。「70年代、ヴェ
トナム戦争後のアメリカにおいて…60年
代の長くゆっくりとした残り火、傷心、失
望、使い果たされた可能性、それらをジャ
クソン・ブラウンの傑作『レイト・フォー
・ザ・スカイ』ほど見事にとらえて表現し
たアルバムはない…あの時代の意味を理解
するには欠かせない」、また70年代の代
表曲をいくつも挙げ、「イーグルスの方が
成功したことは知っているけれど、ドン・
ヘンリーも同意するはずだ。これらの曲は
彼らが書きたかった曲だよ!俺だって書き
たかった!」と賞賛しています。●「ベス
ト・セレクション」には、70年代の代表
曲が並びますが、初期の傑作アルバムの一
つ「レイト・フォー・ザ・スカイ」からは
タイトル曲のみで、大半が「プリテンダー」
「孤独のランナー」収録曲です。●「ファ
ースト」から4枚目の「レイト・フォー・
ザ・スカイ」までは、軽快さとゆったりし
た曲が多い印象がありますが、「プリテン
ダー」(1976年)では一変、緊張感や
苦悩、せつなさが
漂う曲が多くなり
ます。それでも曲
は美しく力強い。
1曲目の「フュー
ズ」とアルバム最
後の「プリテンダ
ー」だけでもそのことが十分分かります。
そして印象的なギターやピアノのフレー
ズ、バックボーカルのサポートが曲を輝か
せています。●「孤独なランナー」(19
77年)は、コンサートの旅、人生の旅が
テーマのライブアル
バム。オープニング
のタイトル曲「ラン
ニング・オン・エン
プティ」は、最強の
ツアーバンドととも
に疾走し、ドライブ
感あふれる名曲です。コンサート会場だけ
ではなく、ツアー中のホテルなどいろいろ
な場所で録音され、テーマの「旅」がいっ
ぱい詰まったライブ作品。特に「ザ・ロー
ドアウト」から「スティ」へつながるアル
バムのフィナーレは、コンサートの定番だ
った時代があります。このアルバムは、ジ
ャクソン・ブラウンが優れたシンガー・ソ
ングライターであるとともに、ロックンロ
ーラーであることを証明しています。
●「ソロ・アコースティック」は、200
5年と08年に発
表した1.2集を
一緒にしたアルバ
ムでギターまたは
ピアノの弾き語り
ソロライブです。
これまで紹介した
3枚のアルバムには収録されていない70
年代の曲と80年代から2000年代初め
の代表曲をたっぷり聴くことができます。
ギターとピアノに魂がこもり、リラックス
した温かさに満ち、観客との親密さが伝わ
ってきます。曲の解説がていねいで曲間の
おしゃべりも対訳がついているので、アッ
トホームな雰囲気を存分味わうことができ
ます。バンドとともに緻密に計算したサウ
ンドも良いけれど、観客とライブ空間を共
有するソロからは、40年のキャリアから
生み出される歌の力を感じます。
音の缶詰
CDレビュー
★偉大なマンガ家/谷口ジローの家族物語
谷口ジロー
『欅の木』(小学館 1993年)
『父の暦』(小学館 1995年)
『遙かな町へ』(双葉社文庫 1999年)
●今年の2月11日、谷口ジローが69歳で亡くな
りました。あまたある作品の中から家族をテーマにした3冊を紹介します。
■『欅(けやき)の木』の原作は小説家/内海隆一郎の短編集『人びとシリーズ「けやき
のき」』。原作者の後書きに、200編ほどの中から谷口ジローと
編集者が選んだ8編が収められ、「自分の書いた人物たちの容貌や
表情、まわりの情景…そのすべてが、わたしの頭のなかにあるも
のと寸分ちがわない…思うに、谷口さんとわたしの胸のなかには、
ごく似かよった〈想像装置〉がある」と綴っています。原作に谷
口ジローの絵が加わり、上質の短編映画を何本も楽しむ気持ちに
なれます。
■『父の暦』は著者のふるさと鳥取が舞台。父親を避けていた主
人公が父親の葬儀のため16年ぶりにふるさとに帰り、葬儀に集
った身内が語る父の思い出を聴くうちに子どもの頃の記憶が蘇り
ます。家族が幸せだった時代、昭和27年の鳥取大火で父が理髪
店を失い、父と母の関係がうまくいかなくなった時代、主人公が
知っている父と母の姿と身内が語る父の姿をつなぎ合わせること
で、主人公が避けてきた父との対話を知らずともなく始め、物語
の最後で和解を果たします。●作者は〈あとがき〉で「父親に対
して子供の頃から抱き続けた、息子のわだかまった気持ち…抽象
的な心の葛藤」を作品の核として位置付け、「『父の暦』は…郷里
への思いをこめて創作した物語…地方から上京した都会で生活す
る人達の郷里へ寄せる思いは…年を経て、郷里のある幸せを知る。
当時の自分が父や母と同年代に成長した時、初めてその生き方に
感動できる」と書いています。年を重ねた読者にこそ思いが伝わ
る作品です。
■『遙かな町へ 上・下』はタイムスリップもの。48歳の主人
公が34年前の14歳/中学生にタイムスリップします。時代は
東京オリンピックの前年、昭和38年。それも主人公の父親が家
族に理由を告げぬまま家を出て行く4ヶ月前の我が家へ。主人公
は14歳を再び体験しますが、多くの経験値を持った中年が生き
る14歳は当時とは少しずつ違いがあらわになります。主人公は
「今…こうして再び14歳に戻ってみると、今まで見過ごしてき
たものが見えるような気がした…私は決意した。父の失踪を止め
よう。今の私なら、できるかもしれない」と思うようになります。
父の失踪の理由はいったい何か、戦争を挟み思うようには生きら
れなかった時代背景に、14歳と48歳という2つの人格を生きる主人公は、人生の可能
性ややり直し、父と母の気持ちにどこまで近づくことができるのでしょう?物語の最後に
タイムスリップがもたらしたステキな仕掛けがあります。●谷口ジローはヨーロッパ、と
りわけフランスで評価が高く、『遙かな町へ』は実写版で映画化され、日本には字幕付き
で輸入されています。また、常呂図書館ではほとんどの作品を所蔵しています。
いちおしコミック