静岡県榛南海域へ移植したカジメ・サガラメ種苗の生長・成...

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静岡県榛南海域へ移植したカジメ・サガラメ種苗の生長・成 熟とアイゴによる食害 誌名 誌名 水産増殖 = The aquiculture ISSN ISSN 03714217 著者 著者 二村, 和視 高辻, 裕史 増田, 傑 嶌本, 淳司 巻/号 巻/号 55巻4号 掲載ページ 掲載ページ p. 541-546 発行年月 発行年月 2007年12月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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静岡県榛南海域へ移植したカジメ・サガラメ種苗の生長・成熟とアイゴによる食害

誌名誌名 水産増殖 = The aquiculture

ISSNISSN 03714217

著者著者

二村, 和視高辻, 裕史増田, 傑嶌本, 淳司

巻/号巻/号 55巻4号

掲載ページ掲載ページ p. 541-546

発行年月発行年月 2007年12月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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水産増殖 (AquacultureSci.) 55(4),541-546 (2007)

静岡県榛南海域ヘ移植したカジメ・サガラメ種苗の

生長・成熟とアイゴによる食害

二村和視1・高辻裕史2・増田 傑3・鳥本淳司3

Growth and Maturation of Eckloniαcava and Eisenia arborea Seedlings

Transplanted along The Coast of Hainan, Shizuoka Prefecture and The

grazing Caused by Herbivorous Fish Siganusルscescens

Kazumi NIMURA¥ Hiroshi TAKATSU]l2, Suguru MASUDA3 and Junji SHIM品目T03

Abstract: A vast deforested area of approximately 8,000 ha exists around the coast of Hainan,

Shizuoka. Here we transplanted seedlings of kelps Ecklonia cava and Eiseniaαrborea were

transplanted into St. 1 (ca 5 m in depth) and St. 2 (ca 8 m in depth) in this area; we also investigated

the growth and the maturation of these seedlings, and the grazing by the herbivorous fish Siganus ルscescensfrom July 2005 to February 2006. The blade length of E. cavαin St. 1 was ca 50 cm in J uly

2005. The minimum blade length (ca 20 cm) was observed from September to October 2005, and

the length began to increase subsequent1y. During the investigation, seasonal changes in the E.

cava blade length in St. 2 were similar to those observed for St. 1, and the blade length of St. 2 was

always lesser than that of St.1. Mature E. cava sporophytes were observed from September 2005

to February 2006 and approximately half number of the sporophytes were matured by November

2005. Juvenile sporophytes derived from transplanted E. cava were observed around the concrete

blocks in February 2006.百legrazing by S.ルscescenswas observed from August 2005 to February

2006 in both the species. Particularly, the E. arborea sporophytes transplanted in St. 1 underwent

serious grazing damage as compared to the E. cavαsporophytes. The blade length of E. arborea

was below 10 cm, and a major part of blade was grazed during the period from September 2005 to

February 2006. Therefore, no juvenile E. arborea sporophytes were observed there.

Key words: Ecklonia cavα; Eiseniαarboreα; Siganus fuscescens; transplant

カジメ Eckloniacavaおよびサガラメ Eiseniaarborea

は大型の多年生褐藻で,沿岸域に海中林を構成するけ11

嶋 1993)。海中林は魚介類の育成場や生息場として沿

岸生態系において重要な役割を果たしているが,近

年では海中林が消失する磯焼け現象が顕在化している

(富士 1999)。静岡県牧之原市および御前崎市にかけ

ての榛南海域では,約8000haものカジメ・サガラメ

海中林が消失する大規模な磯焼けが発生している(静

岡県 1978;長谷川 11996a, 1996b;相楽 2000)0カジメ

では,他の海域では過去に移植事例として,冬季か

ら春季にかけて海域に設置したコンク リートブロック

2007年6月29日受付 2007年9月6日受理.

へのカジメ幼体や成体の移植が試みられている(中久

1980;清水 1981;大野ら 1983;山内 1983)。現在,当

海域に現存するカジメ ・サガラメ海中林はほとんど無

く,海域内での再生産は期待できない状況にあり,人

工種苗を天然、海域に移植する方法が磯焼け対策の手法

として期待される。

当海域での磯焼けの発生要因は特定されていない

が,カジメ海中林が広く形成されている岡県伊豆海

域よりも懸濁物が多く 光量が低いことや (霜村ら

2003;静岡県水産振興室 ・東京久栄 2005),藻食性魚

類アイゴ Siganusルscescensによる食害が磯焼けの持

l静岡県水産技術研究所 (ShizuokaPrefectural Research Institute of Fishery, Yaizu, Shizuoka 425-0032, ]apan). 2いであ株式会社 (IDEAconsultants Inc., Nagoya 455-0032, ]apan). 3静岡県水産振興室 (FisheriesPromotion Office, Shizuoka Prefectural Government, Shizuoka 42Cト8601,]apan).

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542 二村 ・高辻・増田 ・罵本

Shizuoka Drefecture

。,

旦生並生笠a豆!y

St. 1 St. 2 o 0

Jゅa r

qa ga

qa cJ

~ 500m

Fig. 1. The study site along the coast of Hainan in Shizuoka Prefecture.

続要因と考えられている (長谷川ら2003)。また,ア

イゴは残存していた海中林や造成した群落の衰退に

も関与していることが示唆されている(堀内 ・中山

2000; 増田ら 2000)。 しかし,このような環境下にお

いても当海域に移植したカジメは生育していることか

ら (長谷川ら2003),人工種苗を移植することにより

海中林復元の可能性の有無や生長 ・成熟について調査

した。またアイゴによる移植個体への食害が観察され

たので,その状況についても報告する。

材料および方法

材料には,静岡県水産技術研究所駿河湾深層水水産

利用施設で2∞4年11月に生産した葉長約 1cmのサガ

ラメおよびカジメ胞子体が付着した種糸を用いた(二

村 2oo6a)0 この種糸を直径約 9mmのクレモナロープ

に巻き,エックスブロック T-3(重量約3.0t;株式会社

テトラ製)に固定した。なお 種糸はブロック 1基あ

たり約 8mとした。2005年 2月に種糸を付けたブロッ

クを静岡県牧之原市片浜地先の 2地点に計40基沈設し

た (Fig.1)。沈設した地点はそれぞれ St1および St2

とし (Fig.1), St. 1は北緯34041'42'¥東経138013'15ぺ

水深4.9~5.1 m, St. 2は北緯34041'39¥東経138013'27'¥水深7.9~8.6 m とした。St.1ではカジメとサガラメが

付いたブロックを16基,カジメのみが付いたブロック

を3基沈設し, St. 2ではカジメのみが付いたブロック

21基とした。

日積算光量および、水温を St.1および St.2において

観測した。調査期間は,2005年7月 1日から2006年3

月15日とした。日積算光量は記録式光量子計(MD5-Mk

V/D:アレック電子杜)を用いて10分間隔で光量を測

定し,光量に時間を乗ずることで 1日あたりの積算光

量を算出した。また,水温は記録式水温計 (MDらMk

V/T:アレック電子社)を用いて, 10分間隔で24時間

連続観測し,それぞれの値を旬別に平均した。

沈設 5ヶ月後の2005年7月から翌2006年2月まで毎

月,各ブロック上のサガラメおよびカジメの個体数を

Young sporophyte (Ecklonia ca肌 Eisenjaarborea)

Ecklonia cava Eisenja arborea

一ハハハ》iH

11千円札

一一

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11ー

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-

4

-

4||百||↓』

Fig. 2. Parameters measured in Ecklonia cava and Eisenia arborea sporophytes. TL: Total length, BL: Blade length,

SL: Stipe length.

計数した。なお,測定および観察対象としたブロック

は, St 1のカジメおよびサガラメ付きブロックを 3基,

カジメのみのブロックを 2基,St. 2ではカジメのみが

付いたブロック 5基とした。また,各ブロック上のサ

ガラメもしくはカジメの全長が大きい個体から 15~20

個体の葉長および茎長を測定し,生長および食害状態,

成熟の有無について観察した。各測定部位を Fig.2に

示す。全長は,幼体では茎状部と付着器の移行部から

葉状部先端まで,成体では茎状部の移行部から最も長

い側葉の先端までの長さとした。また葉長は,葉状部

と茎状部の移行部から,幼体では先端まで,成体では

最も長い側葉の先端までの長さとした。茎長は,茎状

部と付着器,茎状部と葉状部のそれぞれ移行部までの

長さとした。なお,食害の状態については, Fig.3に

示すように,食害なし,葉状部に食害あり,生長点と

茎状部のみ,茎状部のみの 4段階に分類した。

日積算光量・水温

St. 1および St.2の日積算光量および、水温の変化を

Fig.4に示す。日積算光量は調査期間を通じて, St. 1

では平均6.8:!:5.2 mol/m2/dayを示し, St. 2での 2.9

:!: 2.7 mol/m2/dayに比べて2倍以上の高い値を示した。

水温は, St. 1で8月に最高約26tを示した後,2月に

最低の12tとなった。St.2では 8月に約25tで最高と

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543

St. 2

800

700

600

500

400

300

200

100

016 '7 '8'9¥0'1U2'1'2

2005 2006

カジメ・サガラメの生長とアイゴによる食害

つム

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1

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EA

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A

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oa∞Hobs52Z

St. 1

HMAU

Fig. 3. Illustrations indicate normal sporophyte (A), spo-

rophyte with a grazed portion of a blade (B), sporophyte

comprising the growth region and stipe (C), and sporo

phyte comprising only the stipe (D)

⑮ 。苓A

Fig. 5. Seasonal changes in the number of sporophytes per

concrete block at St. 1 and St. 2. The circ¥es and triangles at

St.1 indicate Ecklonia cava (n=2) , and E. cava and Eisenia

arborea (n=3) , respectively. Circles also indicates E. cava

(n=5) at St. 2. Data was shown average ::t standard deviation.

St. 2 St. 1 250

200 5 にJ

玉150誌

= ぷ 100s -。'" 50

A

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25 (

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8 o~ 30

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-5 60 国ロU

<l) 40 '百

'" ∞20

一一一-Sl.1

SI. 2

Fig. 4. Fluctuations in daily light quantity (A) and water

temperature (B) at St. 1 and St. 2.

2006 12 11 10 7

2005

O

80 St. 1およなり ,その後 St.1と同様に水温が下降し,

ぴSt.2で同様の変化を示した。

吉 60にJ

340 む

<l) 0. '';コ

∞ 20

o 1 6 ' "7 '8 '9 i 10"11' 1z' 1 ' 2' 16 ' 7 I 8 " 9 " 10111' 12" 1 ' 2

2005 2006 2005 2006

Fig. 6. Seasonal changes in the to凶 length,blade length

and stipe length of the sporophytes on the concrete

block at St. 1 and St. 2. The circles and triangles indicate

Ecklonia cava and Eisenia arborea, respectively. Data was

shown average ::t maximum and minimum.

に達した。葉長は7月の約50cmから減少し, 9月には

約20cmとなり ,11月以降に水温の下降と共に葉長は

増加 した (Figs.4, 6)。茎長は11月までは15cm以下で

カジメ・サ力ラメの生長・成熟

2005年 7月から2006年 2月までのカジメおよびサガ

ラメのコンクリートブロ ック1基あたりの個体数の変

化を Fig.5に示す。St.1のカジメは観察開始時に約

400個体であったが,徐々に減少し, 2006年 1月に約

350個体で最低を示 した後 2月には増加 した。St.1

のカ ジメおよびサガラメ種苗を付けたブロックでは,

7月の調査開始時に両種の合計個体数は約400個体で

あったが,観察期間を通して徐々に減少し,試験終了

時には約250個体となった。また, St. 2のカジメも観

察開始時の約300個体から2005年9月から2006年 1月

に約200個体に減少し, その後2006年2月に増加 した。

St. 1のカジメは, 2005年7月に全長60cmを示した

が,秋季には減少し, 9, 10月は約30cmとなった (Fig.

6)0その後,12月から全長が増加 し,2月には約110cm

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二村 ・高辻 ・増田・罵本

は,それぞれlOcmおよび 6cm以下であった (Fig.6)。

また茎長は期間を通して変化がなく ,5cm以下であっ

た (Fig.6)。なお,サガラメの成熟個体は観察されな

かった。

544

あったのに対し, 12月以降は急激に伸長し,2月には

約55cmとなった (Fig.6)。また,子嚢斑は 9月に約

10%, 1O~ 11月には約50%の個体で形成した (Fig. 7) 。

St. 1のサガラメは 7月に全長約35cm,葉長約30cm

であったが, 9月から翌年 2月までは全長および葉長 St. 2のカジメでは, 7月に葉長40cmを示したが,

夏季には減少し,9, 10月は約20cmとなった (Fig.6)。

その後,12月から葉長が増加し, 2月には葉長約40cm

に達した。茎長は12月までは10cm以下であったのに

対し,12月以降伸長し,2月には約20cmとなった (Fig.

6)。また,子嚢斑は2005年 9月から翌年 1月にかけて

観察され,12月には約40%が子嚢斑を有していた (Fig.

7)。また, 2006年 2月には St.1および2において,ブ

ロック上やブロ ック周辺の岩礁に多いところでは40個

体1m2程度の幼体が観察され,再生産が確認された。

St. 2 Ecklonia cava 100

80

40

20

O 78910111212 2005 2006

60

St. 1 Ecklonia cava

80

20

O 78

2005

A

U

A

U

A

U

AU

PO

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-

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(ポ)

UHhE白色。』

C品目

む{をと

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U{℃UH前

CCZ司MH

藻食性魚類による移植藻体の食害

カジメ ・サガラメ共に 8月以降に食害が観察された

9 10 11 12 1 2 2006

Fig. 7. Seasonal changes in the number of sterile and fer-

tile sporophytes on the concrete block at St. 1 and St. 2. No

fertile sporophyte was observed in Eisenia arborea at St. 1.

St. 2 Ecklonia cava

.

100

80

60

40

St. 1 Eisenia arborea

-.; l'

100

80

60

40

St. 1 Ecklonia cava

80

60

40

~ 100 、'-'

U U 』

b.O <1)

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a

20

O ~ ・-ー,",' '-;'."J ',' ,,,¥ O ~ ・ e 園口可'.' f,' - 。7 8 9 10 11 12 1 2 7 8 9 10 11 12 1 2 7 8 9 10 11 12 1 2

2005 2006 2005 2006 2005 2006

Fig. 8. Seasonal changes in the ratio of the grazing degrees for Siganusルscescenson the concrete block at St. 1 and St. 2.

Each symbols indicates normal sporophyte (圃), sporophyte with a part of the blade grazed (口),sporophyte comprising the

growth region and stipe ( ), and sporophyte comprising only the stipe (皿).

20 20

Fig. 9. Sporophytes of Ecklonia cava (A-C) and Eisenia arborea (D) grazed by Siganusルscescenson the concrete block at

St. 1 in September 2005. Scale bar indicate 5mm in figure C.

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カジメ・サガラメの生長とアイゴによる食害 545

(Figs. 8, 9 A-D)。食害個体には,規則正しい弧状の食

み跡が観察された (Fig.9 B, c) 0 St. 1のカジメにつ

いては10月に数個体で生長帯もしくは茎状部のみと

なったが,ほとんどの個体が葉状部の食害のみであっ

た (Fig.8)。またサガラメについては, 8月に約85%

の個体で葉状部の食害が観察され, 9月には約85%が

生長帯のみとなり,約 6%は茎状部のみとなった。10

月以降は生長帯のみ,または生長帯と 茎状部のみが

残存する個体のみとなった。St.2のカジメは 8月に約

60%の個体が被食され,その後10月にはすべての個体

で被食されていた。また12月以降は徐々に食害を受け

ていない個体が増加した。また,カジメとサガラメが

生育していた場合には,サガラメが選択的に食害を受

けていた (Fig.9D)。

考 察

カジメの葉長は7月から10月にかけて減少し,サガ

ラメも 7月から10月にかけて葉長が減少し,その後も

ほとんど増加しなかった (Fig.6)。静岡県伊豆半島に

おけるカジメ群落の現存量は7-8月に最大となり,

その後冬季にかけて減少することや (Yokohamaet al.

1987), 20"(;以上は葉状部の生長に適さないことが報

告されている (霜村ら2003)。また食害の状況はカ ジ

メ・サガラメ共に 8月以降に観察され,特にサガラメ

では 9月にほとんどの個体が生長帯のみとなった。、1/

海域には,アイゴ,ブダイ,イスズミなどの藻食性魚

類が生息している。本研究において主に観察された食

害痕は,規則的に並んだ細かい鋸歯状の凹凸で縁取ら

れた弧状の痕跡でアイゴの食害痕に酷似し,他の藻食

性魚類であるブダイやイスズミとは食害痕が異なった

(桐山ら 2005)。今回で観察された夏季から秋季にか

けての食害は,本試験と同じ海域に移植したカ ジメに

おいても観察されており (長谷川ら2003),近隣の御

前崎市地先においてもアイゴによる摂食の盛期が夏季

から秋季であることと一致していた (増田ら 2000)。

また,アイゴのカ ジメ摂食量は,水温と共に増加す

ることが報告されている (霜村ら 2003;)11俣・ 長谷川

2006; 山田 2006)。当該海域の 8- 11月の水温は 20

-260Cで (Fig.4),アイ ゴによる摂食が活発になる

水温で、もある。このように夏季以降の葉長の減少は,

季節的なカジメ・サガラメ自体の生長量の減少に加え,

アイゴによる食害に起因すると考えられた。

カジメは St.1およびSt.2共に, 12月以降に茎長の

増加が見られ, St. 1でSt.2よりも伸長した (Fig.6)。

アラメ ・カジメの茎状部は天然、海域で冬季から春季に

伸長 し,夏季から秋季にはほぼ伸長しないことが報告

されている (喜田・前川 1985;Serisawa et al. 2002)。

また,培養試験ではカジメ茎状部は 16"(;以下で伸 長

するが, 200

Cではほとんど生長せず,高光量条件の方

が茎状部の伸長が早いことが報告されている (二村ら

2006b)。このことから,冬季のカジメ 茎状部の伸長

は水温の低下に起因し,水深が浅く,より光量が高い

St. 1において (Fig.4),茎状部の伸長量が大きいと

考えられた。一方,サガラメの茎状部はほとんど伸長

しなかった (Fig.6)。これは同化器官である葉状部が

食害により 著 しく欠損しているため (Figs.8, 9D),

茎状部がほとんど伸長しなかったと考えられた。移植

したサガラメはカジメよりもアイゴに被食されていた

(Figs. 8, 9D)。このようにアイゴはカ ジメに比べてサ

ガラメを曙好すると推察される。

水深の異なる 2地点に移植 したカジメの生長は,水

深約 8mの St.2よりも水深約5mの St.1で,全長,

葉長, 茎長において概ね高い値を示した。両地点の生

育環境を比較すると,光量は試験期間の平均値で St.1

で St.2に比べて 2倍以上の高い値を示したが,水温は

期間を通じでほぼ同様の変化となっていた。カジメ幼

体の生育下限光量は約 1mol/m2/dayと報告されてお

り(JII崎 ・山田 1991),両地点での 1mol/m2/day未満

の日数は, St. 1で260日中43日, St. 2で90日であった。

このように日積算光量が多く,生育下限光量以上の日

数が多いことから,St. 1は St.2に比べて良女子な光条件

と考えられる。一方,食害状況を比較すると,浅所で

ある St.1では 9月以降すべての個体で食害を受けてい

たが,深所である St.2では食害を受けていない個体も

あり, 2006年 2月には約 1/3の個体で被食されなかっ

た (Fig.8)。 しかし, 葉長は10月以降に St.1でSt.2よ

りも高く (Fig.6),アイゴによる食害と光量条件がカ

ジメの生長に影響を及ぼしていると推察された。

本研究での移植海域と同じ榛南海域でのカ ジメの生

長について, 1999年にこの海域で発生した群は翌年の

4月から 8月に, 全長が最大40cmであることが報告

されている (長谷川ら2003)0本研究で用いた人工種

苗は, 2005年 2月に葉長約 1cmで移植した後, 1年

後の2006年 2月には,St. 1で平均全長約110cm, St. 2

で約60cmとなり,人工種苗において生長が速いこと

が推察された。伊豆半島先端海域でのカ ジメの成熟に

ついて Arugaet al. (1997)は当歳のカ ジメの約10%

が12月に子嚢斑を形成し また年齢の増加に伴い成熟

する割合が高 く,成熟期間が長くなることを報告して

いる。両地点でのカ ジメの成熟は St.1および St.2共

に, 11月に約40-50%が成熟しており (Fig.7),伊豆

半島での報告よりも 高い成熟割合を示した。さらに

2月には移設したブロックおよびその周辺に幼体が観

察されたことから,移植個体から放出された遊走子に

より海中林が広がることが期待される。

Page 7: 静岡県榛南海域へ移植したカジメ・サガラメ種苗の生長・成 …静岡県榛南海域へ移植したカジメ・サガラメ種苗の生長・成 熟とアイゴによる食害

546 二村 ・高辻 ・増田 ・罵本

以上から,海域に移植したカジメ・サガラメ種苗の

生長と成熟,アイゴによる食害の関係が明らかとなっ

た。両種とも榛南海域での移植後の生育は可能であり ,

移植後 1年で再生産に寄与するが, アイゴの食害がカ

ジメ ・サガラメの生長に悪影響を及ぼすことが明らか

となった。特にサガラメに対する食害は強く,再生産

は石在認、で、き なかった。

要 約

静岡県の榛南海域では大規模な磯焼けが発生してい

る。本研究では榛南海域にカジメ ・サガラメ種苗をSt.

1 (水深約 5m)に, カジメ種苗を St.2 (水深約 8m)

の 2地点に移植し,その生長 ・成熟,ア イゴによる食

害状況を2005年 7月から2006年 2月まで観察した。 カ

ジメの葉長は, St. 1では 7月に約50cmを示し,9 ~

10月に約20cmで最小値となり,その後は増加した。

St. 2においても葉長は同様の変化 を示したが, St. 1よ

りも測定期間を通じて短かかった。 カジメ成熟個体は

9月から翌年 2月にかけて観察され, 11月には約半数

が成熟し,周辺に幼体が観察された。両種とも,アイ

ゴによる食害が 8月から翌年 2月に観察された。特に

St. 1に移植したサガラメは,カジメよりも食害を強く

受 け, 9月から翌年 2月 にかけて葉長10cm以下とな

り,葉状部の大部分が被食され,再生産は確認できな

かった。

謝 苦手

本研究を行うにあたり,多大なる御協力を賜った東

北大学大学院農学研究科谷口和也教授に厚く御礼 申し

上げる。 また,本稿をまとめるにあたり,ご助言頂い

た静岡県水産技術研究所駿河湾深層水水産利用施設の

職員の方々に感謝の意を表す。

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