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油価下落の原因と産油国の対応、 今後の展望 2016310日イイノホール 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 本村真澄 2015年度第4回みずほ総研コンファレンス ロシア地政学リスクと原油安の行方

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油価下落の原因と産油国の対応、 今後の展望

2016年3月10日イイノホール 石油天然ガス・金属鉱物資源機構

本村真澄

2015年度第4回みずほ総研コンファレンス ロシア地政学リスクと原油安の行方

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原油価格の推移(2003年~16年1月)

年金ファンド流入 背景にピークオイル論

サブプライム 問題化で資金 が原油へ流入

リーマン ショック

QE、 投機資金 回帰

1

リビア、イラン、シリア 地政学リスク

最高値:$147.27/bbl 2008年7月11日

米シェール オイル増産 QE終了

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2 21世紀に入っての世界の油価動向

• 1999年末発足のベネズエラ・チャベス政権がOPEC生産枠順守を宣言したことから石油市場の引締り

• 2000年代前半は年金ファンド等の参入と、「ピークオイル説」の喧伝で油価上昇基調

• 2008年、油価は最高値を付けたのちリーマンショックで暴落。経済低迷の需要減で油価下落。

• 2009年からのQE→油価高騰、QE終了→油価下落 • 米シェールオイル生産が2014年に日量500万バレル

– 2014年は石油生産が対前年2.3%増であるのに対して、石油消費量は0.8%増で在庫の積み上がり傾向

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3 最近24年の石油生産量の推移

ITバブル崩壊・9.11 アジア通貨危機

金融危機

千b/d 年率1.5%前後の需要増傾向続く

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主要産油国の石油生産量 (2011年および2014年)

千b/d

BP統計による

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米国の石油生産の伸びが引き鉄

• 米国は2011年から毎年日量約100万バレル増産という急ピッチなペース – シェールオイルの成功による劇的な生産増 – 2011-2014年の4年間で日量380万バレルの増産 – 世界で日量200万バレル供給過剰状態

• サウジアラビア、ロシアも需要増を反映し増産 • 2014年夏から、供給過剰から油価下落始まる • 2014年10月29日、米国でQE終了。利上げ予測

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6 OPEC他の産油国の考え • 2014年11月27日OPEC総会での産油国の考え

– 油価下落局面で減産を見送り(生産カルテルを放棄) – 油価の更なる下落によりシェールオイル追い落としへ – 油価下がるも販売量確保で石油収入目減りを抑える

• ロシアも11月25日に基本的にOPECに同調表明 – ロシアは技術的な理由で減産は不可能

• 西シベリアの原油はパラフィン分を2%含み、生産停止では地表設備内で原油固化。油田の回復困難

• 1坑当たりの石油生産量も少ない – 重質油、バイオ燃料も追い落としの対象

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在来型・非在来型石油資源量と生産コスト

国際エネギー機関IEA(2011)による推定 シェールオイルの生産コストは、条件の良いsweet spotで $25~$45/bbl。 黒枠で囲った範囲の資源を 市場から締め出し

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8 米国の油価、石油生産量と掘削リグ数

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9 米国でのシェールオイル生産の現状

• 坑井当り掘削費:$600-1000万 – 稼働リグ数がピーク時から6割減⇒生産量はそれ程減らず – コスト削減(対前年比):掘削20%↓、水圧破砕30%↓

• 小規模の事業展開が可能(大水深開発と対照的) – 短いリードタイム(油価に敏感に対応) – 油価$60でbreak even、油価上昇局面で直ちに生産回帰 – 高油価で生産増、低油価で生産減。価格は$60付近で「天井」か – シェールが新しい「スウィング・プロデューサー」

• ヘッジ($60-$90での販売オプション)により油価下落でも耐性あり。2015年まで生産継続がなされた

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11 米国のシェールオイル開発 ノースダコタ: バッケン層 テキサス: イーグルフォード層 パーミアン盆地(西部) カリフォルニア: サンウォーキン盆地 ロスアンジェルス 盆地 シェール以外に シルト、炭酸塩岩 入っているもの まで総称して タイトオイルと呼ぶ

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12 米の主なシェールオイル(1)Eagle Ford層 面的な鉱床の広がり→「農耕的」開発 生産量(2015年2月);170万バレル/日

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現在は史上最高水準。輸出収入確保のためには生産増加が有効。 13 サウディアラビア:石油生産量推移

単位:万b/d

OPECによる生産量調整

出典:BP統計、点線部分はJOGMEC推計 注:NGLを含む

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14 サウディアラビア:財政事情(報道ベース)

・2015年政府歳入予算 :1,931億ドル(7,150億リヤル)

・外貨準備高(サウディ通貨庁:SAMA): 2014年8月7,460億ドルから2015年8月6,620億ドルへ縮小

・財政・予算緊縮化報道 政府契約の年内調印停止(出典:Bloomberg 7 Oct.’15) 政府支出支払締切を1カ月前倒し(11月半ば)(出典:ロイター, 13 Oct. ‘15)

2015年プロジェクト契約額: 355億ドル(出典:MEED, 13 Oct. ‘15)

→2008年以来の低水準 ・増大する軍事費 ・仏の軍事インフラ成約・協議高 : 110億ドル(10/13 仏首相発表)

・イラク国境(900km)とイエメン国境(1800km)ハイテクフェンス: 130億ドル ・イエメン戦争:9月までで800億ドル以上。イエメン復興費。

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イラン:原油生産量推移

・経済制裁を受け、原油生産量は激減。 ・自国シェアの回復を最優先に掲げ、他のOPEC加盟国に対して減産を呼び掛ける。日量50万バレルは直ちに回復と宣言。

2015年8月:287万b/d

1~8月平均:284万b/d

2007年:400万b/d

出所:IEA

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油価下落のロシアへの影響 • ロシア石油企業への影響

– 石油はドル建て輸出、ルーブル安で油価下落の損失を相殺 – 「オランダ病」(資源輸出国の通貨高)を克服 – 油価の減少により石油関連税部分の縮小 – ロシアは生産コスト、採算分岐点低く、低油価に耐性あり – 大規模投資(含むインフラ)、回収困難鉱床の投資は延期 – 中期的には生産減へ(2020年に15%減か)

• ロシア政府への影響 – 歳入減は顕著、2016年は緊縮財政(10%削減)で乗り切り – 2016年国家予算の油価前提を$50へ、更には$40も用意 – 予備基金で不足分を補填するが2017年までに底を突く

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ロシアの石油税の影響

• 石油税制の改正 – 2015年1月1日の「ユーラシア経済同盟」の発足に伴い他国から

の輸出に対抗、輸出税は’17年に向け低減化 – 一方で産出税(NRET)は’17年に向け引き上げで相殺

• 輸出税=59%×(ウラル原油価格-$25)+$4/bbl – 下線部を2015年 42%、2016年 36%(未実施)、2017年 30%

• 産出税= Rb493/t×埋蔵量枯渇係数×(平均Urals輸出価格[$/bbl]-$15)×対ドル為替レート (Rb/$)×1/261 – 下線部を2015年 Rb775/t、2016年 856(実施), 2017年 918

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油価の変化に伴う石油諸税の変化 2014年は油価の71%が輸出税+産出税 (2015年:油価$53.6/b、為替$1=Rb62.55) 2015年は油価の59%が輸出税+産出税 2014年と比較して2015年において 油価が50%減少しても、会社の 取り分は30%の減少。国の税収は59%減少

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19 ロシア主要石油企業の生産履歴

Rosneftは4年連続は対前年1%減(西シベリア減退)。 在来型油田、及びガス田(コンデンセートを持つ)開発に注力する方針。 伸び率Bashneft 11%増、GazpromNeft 2%増、Tatneft 2.7%増

100万t/年

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ロシアの2030年までの石油生産見込み (2010年策定)

2010年代を通じて、ロシアで主力であった 西シベリア(チュメニ)のシェアは65%から 55%へと下落。これを補うものとして 「より遠く」:東シベリア、北極海 「より賢く」:西シベリア・バジェノフ層の シェールオイル開発 が期待されていた。コンデンセートについて は特段言及なし。 しかし、ウクライナ問題に端を発する対露経済 制裁で、北極海、シェール開発は困難に。 替わりに在来型油田への投資、及び 「より深く」:コンデンセート層開発更には ガス田深部油層開発が活発化。

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2016年の産油国増産凍結の動き ・1月27日、トランスネフチ首脳が、ロシアがOPECと協調減産の可能性について協議する見通しを示唆 ・1月28日、ロシアのノバク・エネルギー大臣によれば、サウジアラビアからOPECとして各国が石油生産を5%カットするという提案を受けた。ロシアとしては来月の生産国会議に参加の意向。 ・2月16日、サウジアラビア、ロシア、カタール、ベネズエラの4カ国の担当相は、ドーハで会合を開き、原油の生産量を1月11日の水準に据え置き、増産をしないことで合意(露は前年同月比1.5%増)。他の

産油国も同意することが条件で、イランやイラクなど増産を続ける国の協調を得られるかが焦点。→油価は殆ど反応せず ・2月17日、イラン「原油市場の安定に向けた行動を支持」 ・2月23日、ヌアイミ石油鉱物資源相「減産はあてにせず」 ・2月23日、ザンギャネ石油相「制裁で失ったシェアの回復は権利」

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OPECとロシア

• 2003年9月:サウジアラビアのアブドラ皇太子(当時)がロシア訪問、生産抑制要請 – ロシアは10%超の増産率(水平掘り,水圧破砕) – サウジは市場逼迫から1,100万b/dに向け投資増

• ロシアは2004年6月、石油の輸出税率を45%から59%へ引き上げ – 2005年に増産ペースは9%から2.5%へ減少 – 税制による誘導で緩やかに生産量調整 – 2年かけてサウジの要請に答えたもの – 2008年リーマンショックでは辛うじて-0.7%へ

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ロシアの石油生産伸び率の推移

単位\年 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 石油百万t 305 323 348 380 421 459 470 480 491 488 494 505 511 518 523 527 百万b/d 6.18 6.54 7.06 7.70 8.54 9.19 9.41 9.61 9.83 9.78 9.92 10.2 10.3 10.4 10.5 10.6 伸び率(%) 0 6 8 9 11 9 2.5 2.2 2.3 -0.7 1.2 2.2 1.3 1.3 1.0 0.7 ガスBm3 591 584 581 595 620 634 641 656 653 663 582 650 670 655 668 640

2005年の伸び率の 急ブレーキは、前年の 輸出増税の効果

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24 石油価格の変遷(1881年~2014年)

メジャーカルテルの時代

OPEC カルテル の時代

市場の 時代

11年 18年 11年

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25 石油価格の動向をどう見るか • 1928年(アクナキャリー闇協定)~1973年:

– 石油メジャーによるカルテルの時代 • 1973年10月~1985年:OPECカルテルの時代 • 1985年以降:市場支配の時代

– サウジアラビアが「スウィングプロデューサー」放棄 – 油価は$15/バレルに下落、以降18年間低油価

• 2014年:米国シェールの過剰生産で油価下落 – 200万b/日の供給過剰。年率135万b/dの需要増。 – 増産凍結なら2年ほどで需給はバランスか? – 「シェールの天井」で低油価が長期化するか?