中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...

23
中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに 新政権発足以降も,財政政策においては積極 財政政策を継続することとなったが,大規模な 公共事業には慎重な姿勢を示している。リーマ ンショック後の大規模な景気対策の後遺症とも 言われる過剰設備,不動産市場の加熱などの問 題がその背景にある。同時に,比較的健全な中 央財政に対し,債務問題が深刻化しリスクが高 まる地方財政という構図がさらに鮮明となって いる状況もある。このことは,2013年末に中 華人民共和国・審計署(日本の会計検査院に相 当する。以下,審計署)によって公表された監 査結果でも明らかとなった。中国の財政を巡る 課題は,地方債務の問題のみならず,税財制改 革,地方行政管理制度の改革,中央地方関係の 調整など多岐に及んでいる。これらはすべて長 年の懸案事項とされながらも,抜本的改革には 中国の財政は,比較的健全な中央財政に対し,債務や不良債権の拡大を中心にリスクが 高まっている地方財政という構図である。このことは,中華人民共和国・審計署(日本の 会計検査院に相当)による地方債務の監査結果を見ても明らかである。依然として7%台 半ばという高い成長率を維持していることや,多額の外貨準備,経常黒字などの状況を考 えれば,政府債務が短期的に中国経済全体に大きな混乱をもたらすことは当面は考えにく いだろう。しかしながら,一部の地方財政で問題が顕在化することによってその影響が飛 び火したり,改革が進まずに問題が先送りされるような事態が続けば,いずれは深刻な危 機につながる。こうした状況を回避するためには,税財政制度改革,財政移転制度の充 実,地方財政関連法規の整備とそれに基づく適切な財政運営,政府間における事務-権限 -財源-責任の適切な配置など,課題は山積している。これらは,現政権が掲げている, 経済の構造調整の断行や政府機能の転換を実現するためにも,決して避けて通れない課題 であり,先送りは許されない。経済の減速傾向が強まる中で,財政の果たすべき役割がま すます重要となっており,改革のために残された時間は限られている。 キーワード:地方債務問題,政府間財政関係,行財政政策 JEL ClassificationH 6,H 7,O 要  約 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 二郎 *大東文化大学副学長 / 経済学部教授

Upload: others

Post on 11-Sep-2020

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題

-54-

Ⅰ.はじめに

新政権発足以降も,財政政策においては積極財政政策を継続することとなったが,大規模な公共事業には慎重な姿勢を示している。リーマンショック後の大規模な景気対策の後遺症とも言われる過剰設備,不動産市場の加熱などの問題がその背景にある。同時に,比較的健全な中央財政に対し,債務問題が深刻化しリスクが高まる地方財政という構図がさらに鮮明となって

いる状況もある。このことは,2013年末に中華人民共和国・審計署(日本の会計検査院に相当する。以下,審計署)によって公表された監査結果でも明らかとなった。中国の財政を巡る課題は,地方債務の問題のみならず,税財制改革,地方行政管理制度の改革,中央地方関係の調整など多岐に及んでいる。これらはすべて長年の懸案事項とされながらも,抜本的改革には

中国の財政は,比較的健全な中央財政に対し,債務や不良債権の拡大を中心にリスクが高まっている地方財政という構図である。このことは,中華人民共和国・審計署(日本の会計検査院に相当)による地方債務の監査結果を見ても明らかである。依然として7%台半ばという高い成長率を維持していることや,多額の外貨準備,経常黒字などの状況を考えれば,政府債務が短期的に中国経済全体に大きな混乱をもたらすことは当面は考えにくいだろう。しかしながら,一部の地方財政で問題が顕在化することによってその影響が飛び火したり,改革が進まずに問題が先送りされるような事態が続けば,いずれは深刻な危機につながる。こうした状況を回避するためには,税財政制度改革,財政移転制度の充実,地方財政関連法規の整備とそれに基づく適切な財政運営,政府間における事務-権限-財源-責任の適切な配置など,課題は山積している。これらは,現政権が掲げている,経済の構造調整の断行や政府機能の転換を実現するためにも,決して避けて通れない課題であり,先送りは許されない。経済の減速傾向が強まる中で,財政の果たすべき役割がますます重要となっており,改革のために残された時間は限られている。

キーワード:地方債務問題,政府間財政関係,行財政政策JEL Classification:H6,H7,O2

要  約

中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題

内  二郎*

*大東文化大学副学長/経済学部教授

Page 2: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成26年第3号(通巻第119号)2014年8月>

-55-

至っていない。2013年の中国共産党第18期第3回中央委員

会全体会議(以下,第18期三中全会)において,税財政改革が経済政策における重要課題の一つとして取り上げられ,さらに2014年の全国人民代表大会(以下,全人代)においても具体的な問題点や課題が指摘されるところとなった。現政権が目指す「政府機能の転換」においても,税財政改革の断行が必要不可欠な課題となる。同時に,政府間の財政関係における事務配分,権限,財源の配置を調整することも重要な課題とされるなど,税財政改革の必要性がこれまで以上に強調されている。こうした関連事

項の改革を同時並行的に実施していかなければ,地方の債務問題の解決はおろか,マクロ経済の安定化という政府の機能を果たすことはできない。

このような状況にある中国の財政について,本稿では,最近の財政データを用いて財政状況を把握し,財政の構造や収支の動向など,中国財政の全体像を確認する。そして,2013年末に公表された審計署による監査結果を分析し,地方債務の現状と問題点について詳しく考察する。そのうえで,税制改革や行政改革,中央-地方の財政関係の調整など,必要とされる種々の改革の動向と課題についても検討する。

Ⅱ.財政状況の検証

中国の財政状況について,2013年度の指標の確認を通して,財政収支の状況や収入/支出構造,財政赤字の現状等について検証する。

Ⅱ-1.財政収支の状況2013年度の全国財政収入は12兆9,143億元で,

対前年比で約1兆8,000億元の増加(+10.1%)となり,そのうち中央が約6兆元(+7.1%),地方が約6兆9,000億元(+12.9%)であった。一方,支出は13兆9,744億元で,対前年比で約1兆3,700億元の増加(+10.9%)となり,そのうち中央が約2兆元(+9.1%),地方が約11兆9,000億元(+11.3%)であった。

中国の財政規模は経済成長とともに大きくなり,特に2000年~2012年に約10倍となり,年平均で20%を超える規模で拡大した。また,財政収入の対GDP比は2000年時点では約14%と極めて小さかったが,2012年には約23%とタイや韓国と同水準となっている。中央政府と地方政府のバランスでは,収入についてはほぼ半々となり,支出面では中央の15%に対し地方が85%を占めているが,この割合は,ここ

数年ほぼ同水準で推移している。

Ⅱ-2.収支構造の変化2013年の税収の状況をみると,増値税が減

少傾向にあるもののウェートは大きく,国内消費税や営業税と合わせて,間接税中心の税収構造に変化はない。企業所得税は前年比で+14%程度の伸びとなり,特に不動産業が同+25%と大きな伸びとなった。個人所得税は同+12.2%の伸びとなったが,財産移転所得税が同+38%と大きく増加した。これらの背景には,不動産市場における価格の上昇や取引の活発化などがある。

一方,支出面では教育比のウェートが+23%と大きいが,伸び率は前年比で+3%程度にとどまっている。社会保障・就業や医療・衛生関連支出は,割合も伸び率も比較的大きくなっている。

このような財政収支の状況で,2013年の財政赤字は約1兆600億元となり,対GDP比で約2%と,2012年の約1.6%から上昇した。また,地方政府の債券発行額も2012年の2,500億

Page 3: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題

-56-

図1 財政収支の推移 (単位:億元/%)

0.00

5.00

10.00

15.00

20.00

25.00

30.00

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

140,000

160,000

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

財政収入

財政支出

財政収入/GDP

財政支出/GDP

(出所)中華人民共和国財政部・国家統計局

図2 税収構造(2013年) (単位:億元)

国内増値税

28,803 (26%)

国内消費税, 8,230(7%)

営業税, 17,217(16%)

企業所得税, 22,416 (20%)

個人所得税, 6,531(6%)

輸出貨物増値税・

消費税

14,003 (13%)

地方不動産契約税

3,844 (3%)

地方土地増値税

3,294 (3%)

地方耕地占用税

1,808 (2%)

地方土地使用税

1,719 (2%) 車両購入税

2,596 ( 2%)

(出所)中華人民共和国財政部・国家統計局

Page 4: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成26年第3号(通巻第119号)2014年8月>

-57-

図3 支出構造(2013年) (単位:億元)

4

教育費

21,877(23%)

科学技術

5,063(5%)

文化・体育・

メディア

2,520(3%)

医療・衛生

8,209(9%)社会保障・就業

14,417(15%)

保障住宅

4,433(5%)

農林水産事務

13,228(14%)

都市農村社区

11,067(12%)

省エネ・環境保

護 3,383(4%)

交通運輸, 9,270(10%)

(出所)中華人民共和国財政部・国家統計局

図 4 財政赤字の推移 (単位:億元/%)

-1.00

-0.50

0.00

0.50

1.00

1.50

2.00

2.50

3.00

-12000

-10000

-8000

-6000

-4000

-2000

0

2000

4000

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

財政赤字

GDP比

(出所)中華人民共和国財政部・国家統計局

このような財政収支の状況で,2013 年の財政赤字は約 1 兆 600 億元となり,対 GDP 比

で約 2%と,2012年の約 1.6%から上昇した。また,地方政府の債券発行額も 2012年の 2,500億元から 1,000 億元拡大し,3,500 億元となった。2014 年の財政赤字も同程度と見込まれ

ているが,地方政府の債権発行額をさらに 500 億元増やして 4,000 億元とする見通しもあ

る。

Ⅱ-3.留意点と課題

(出所)中華人民共和国財政部・国家統計局

図4 財政赤字の推移 (単位:億元/%)

-1.00

-0.50

0.00

0.50

1.00

1.50

2.00

2.50

3.00

-12,000

-10,000

-8,000

-6,000

-4,000

-2,000

0

2,000

4,000

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

財政赤字

GDP比

(出所)中華人民共和国財政部・国家統計局

Page 5: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題

-58-

元から1,000億元拡大し,3,500億元となった。2014年の財政赤字も同程度と見込まれているが,地方政府の債権発行額をさらに500億元増やして4,000億元とする見通しもある。

Ⅱ-3.留意点と課題中国の財政状況を考える際,相対的に健全な

中央財政に対し,地方政府の債務は常に不透明性が強く,健全性も疑問視されることが多い。2013年の財政収支の状況をみても,全体としては安定しており,中央政府は比較的健全な状況を維持している。他方,地方財政については,債券発行額が拡大するとともに,地方債務の問題に対する懸念が拡大しており,「比較的健全な中央財政とリスクへの懸念が高まる地方財政」という構図がより顕著になっている。こうした状況下で,積極財政政策の継続という基本的なスタンスは変更されていないが,政府は景気対策目的の大型公共投資には慎重な姿勢を示しており,支出構造にも大きな変化はみられない。

そのなかで注目される点として,税外収入の大きな伸びがある。2013年の税外収入は約1兆8,600億元で前年比+12.1%であった。そのうち,中央政府が約3,540億元で+22.9%と大きな伸びを示し,地方政府は約1兆5,100億元で+9.8%の伸びとなった。そのなかでも,政府性基金の拡大が顕著であり,全国政府性基金収入は5兆2,200億元で同+39.2%と大きく

増加した。そのうち,中央政府性基金収入が27.5%増の約4,320億元となり,特にエネルギー,環境負荷金の伸びが大きかった。地方政府性基金収入は40.3%増の約4兆8,000億元と極めて大きな伸びとなり,土地,資源関連の収入の伸びが顕著であった。一方,支出面でも,全国政府性基金支出が37.9%増の約5兆元となり,そのうち,中央政府性基金支出が26.9%増の2,760億元,地方政府性基金支出が38.6%増の約4兆7,360億元となった。このように政府性基金が拡大しているのがここ数年の特徴と言え,なかでも資源,不動産関連の基金の増加が目立っている。

これに関連して,不動産関連税収の伸びも大きくなっている。営業税は9.3%増の約1兆7,200億元であったが,そのうち,不動産営業税が33.6%増の約5,400億元,建築営業税が16.5%増の約4,300億元,不動産契約税(地方分)が33.8%増の約3,800億元,土地増値税(地方分)が21.1%増の約3,300億元,耕地占用税が11.6%増の約1,800億元,城鎮土地使用税が11.5%増の1,720億元となるなど,土地,不動産関連の税収増が目立っている。実際,2013年度には,政府性基金収入の中央から地方への移転額が約56%増加しており,地方の土地譲渡 収 入 も 約45% 増 と な り, 一 時 収 入 の 約35.3%,移転後の総収入比で約24.6%と大きなウェートを占めている。

このように,中国の財政の現状は,土地や不

表1 財政の土地譲渡収入への依存 (単位:億元)

2012 2013 2012 2013 2012 2013公共財政収入 56,133 60,174 61,077 68,969 117,210 129,143中央→地方 -45,383 -48,857 45,383 48,857 0 0政府性基金収入 3,313 4,232 34,204 48,007 37,517 52,239中央→地方 -1,180 -1,836 1,180 1,836 0 0一次収入 59,446 64,406 95,281 116,976 - -移転後収入 12,883 13,713 141,844 167,669 154,727 181,382

35.3% 24.6%

(一時収入比) (移転後収入比)

中央 地方 全国

2013年 地方の土地譲渡収入 28517 41250

28,517 41,250

(出所)財政部資料による

Page 6: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成26年第3号(通巻第119号)2014年8月>

-59-

動産への依存度が高くなっており,地方財政においてこの傾向が強い。そのため,特に地方財政が不動産市場の影響を強く受けることになり,不安定化の要因となる。また,不動産価格の下落や土地取引の抑制が収入減につながることになるため,地方政府においては不動産関連の金融引き締めや取引の制限など,不動産市場

に対する引き締め的政策がとりにくくなるといった問題もある。財政の安定化,特に地方財政の健全化のためには,土地や不動産関連収入への依存度を低下させ,安定した収入を確保するための抜本的な税制改革が極めて重要な政策課題となる。

Ⅲ.地方政府の債務

地方政府の債務に関しては,2011年6月に審計署によって行われた調査・監査の結果が公表されたのをきっかけに大きく注目されるところとなった。地方債務は,規模とともに拡大のスピードが極めて速く,その状況に対する懸念が大きく高まっている。その後,2013年8月に再度審計署によって全国規模の調査が実施され,その結果が同年12月に公表された。ここでは,再調査の公表結果を精査することにより,中国の地方政府債務の現状や問題点について考察する。

Ⅲ-1.地方政府の債務状況表2の通り,2013年の6月から8月にかけ

て,全国の各級地方政府の部門・機関について,広範囲にわたって大規模な調査が実施された。地方政府の財政状況については,従来から

不透明性が高いことが大きなリスク要因となっており,より透明性を高めることが急務とされてきた。また,地方政府の抱える問題に対しては早急に対応しなければ,中国経済全体に悪影響を与えかねないという深刻な問題もある。これらの観点からも,今次の大規模調査は,地方政府の債務に対する政府の危機感が強く表れたものであると言える。

政府債務の規模を中央と地方で比較すると,表3のように2012年末は中央が約11兆9,000億元,地方が約15兆9,000億元であったが,2013年6月末にはそれぞれ約12兆4,000億元,約17兆9,000億元となり,規模が大きいことに加え,その伸びも,地方政府部門で大きくなっていることが分かる。

表2 審計署による2013年調査の概要

6

2012 2013 2012 2013 2012 2013

公共財政収入 56133 60174 61077 68969 117210 129143中央→地方 -45383 -48857 45383 48857 0 0政府性基金収入 3313 4232 34204 48007 37517 52239中央→地方 -1180 -1836 1180 1836 0 0一次収入 59446 64406 95281 116976 - -移転後収入 12883 13713 141844 167669 154727 181382

35.3% 24.6%

(一時収入比) (移転後収入比)

中央 地方 全国

2013年 地方の土地譲渡収入 28517 41250

(出所)財政部資料による

Ⅲ.地方政府の債務 地方政府の債務に関しては,2011 年 6 月に審計署によって行われた調査・監査の結果が

公表されたのをきっかけに大きく注目されるところとなった。地方債務は,規模とともに

拡大のスピードが極めて速く,その状況に対する懸念が大きく高まっている。その後,2013年 8 月に再度審計署によって全国規模の調査が実施され,その結果が同年 12 月に公表され

た。ここでは,再調査の公表結果を精査することにより,中国の地方政府債務の現状や問

題点について考察する。

Ⅲ-1.地方政府の債務状況 表 2 の通り,2013 年の 6 月から 8 月にかけて,全国の各級地方政府の部門・機関につい

て,広範囲にわたって大規模な調査が実施された。地方政府の財政状況については,従来

から不透明性が高いことが大きなリスク要因となっており,より透明性を高めることが急

務とされてきた。また,地方政府の抱える問題に対しては早急に対応しなければ,中国経

済全体に悪影響を与えかねないという深刻な問題もある。これらの観点からも,今次の大

規模調査は,地方政府の債務に対する政府の危機感が強く表れたものであると言える。

表 2 審計署による 2013 年調査の概要

検査期間

調査員動員数

調査対象地域

公共事業単位:2,235、その他:14,219

対象項目数検査対象債務 245万4,635件

73万65件

検査対象機関政府部門・機関:62,215、地方政府融資平台:7,170、経費補助事業単位:68,621

2013年6月~8月

全国の審計機関 計54,400人

中央、省級:31、計画単列都市:5、市級:391、県級:2,778、郷鎮:33,091

(出所)「全国政府性債務審計結果」中華人民共和国審計署(2013)

(出所)「全国政府性債務審計結果」中華人民共和国審計署(2013)

Page 7: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題

-60-

表3 中央・地方の政府債務規模

7

政府債務の規模を中央と地方で比較すると,表 3 のように 2012 年末は中央が約 11 兆

9,000億元,地方が約 15兆 9,000億元であったが,2013年 6月末にはそれぞれ約 12兆 4,000億元,約 17 兆 9,000 億元となり,規模が大きいことに加え,その伸びも,地方政府部門で

大きくなっていることが分かる。

表 3 中央・地方の政府債務規模 2012年末 2013年6月末

中央 11兆8,833.6億元 12兆3,841.0億元

地方 15兆8,858.3億元 17兆8,908.7億元 (出所)「全国政府性債務審計結果」中華人民共和国審計署(2013)

図 5 債務規模の中央-地方のバランス (単位:億元)

0

50000

100000

150000

200000

250000

300000

350000

2012年末 2013年6月末

地方

中央

(出所)「全国政府性債務審計結果」中華人民共和国審計署(2013)

図 6 地方債務総額の推移 (単位:億元)

(出所)「全国政府性債務審計結果」中華人民共和国審計署(2013)

図5 債務規模の中央-地方のバランス (単位:億元)

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

350,000

2012年末 2013年6月末

地方

中央

(出所)「全国政府性債務審計結果」中華人民共和国審計署(2013)

図6 地方債務総額の推移 (単位:億元)

8

1類, 6.71類, 9.6 1類, 10.9

2類, 2.3

2類, 2.52類, 2.7

3類, 1.7

3類, 3.8

3類, 4.3

合計, 10.8

合計, 15.9

合計, 17.9

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0

14.0

16.0

18.0

20.0

2010年末 2012年末 2013年6月

1類

2類

3類 その他の関連債務 (政府(部門)は担保責任を負わないが債務者が返済不能

政府の直接債務(政府(部門)が借入れ、直接返済責任を負う債務)。

となった場合に政府が一定の責任を負う。主として地方の企業や政府関連

政府の保証債務(政府(部門)が担保責任・連帯保証を負う偶発債務)。

事業単位が主体となった公共事業投資など)。 (出所)「全国政府性債務審計結果」中華人民共和国審計署(2013)

2013年度6月末時点における地方政府の債務総額は,2010年末と比べて約67%増の17.9

兆元となり,2010年末の 10.8兆元,2012年末の 15.9兆元から引き続き増加を続けている。

これら債務を対 GDP 比でみると,10 年末が 27%であったのに対し,13 年 6 月末には 32%となった。その内訳は,1 類が約 10.9 兆元(約 61%),2 類が約 2.7 兆元(約 15%),3 類

が約 4.3 兆元(約 24%)となり,この割合は過去の検査時と比べても大きな変化はない。

図 7 地方政務の債務規模(2013 年 6 月末)

1類10兆8,859.2億元 60.85%

2類2兆6,655.8億元

14.90%

3類4兆3393.7億元

24.25%

(出所)「全国政府性債務審計結果」中華人民共和国審計署(2013)

Page 8: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成26年第3号(通巻第119号)2014年8月>

-61-

2013年度6月末時点における地方政府の債務総額は,2010年末と比べて約67%増の17.9兆元となり,2010年末の10.8兆元,2012年末の15.9兆元から引き続き増加を続けている。これら債務を対GDP比でみると,10年末が27%

であったのに対し,13年6月末には32%となった。その内訳は,1類が約10.9兆元(約61%),2類が約2.7兆元(約15%),3類が約4.3兆元

(約24%)となり,この割合は過去の検査時と比べても大きな変化はない。

図7 地方政府の債務規模(2013年6月末)

8

1類, 6.71類, 9.6 1類, 10.9

2類, 2.3

2類, 2.52類, 2.7

3類, 1.7

3類, 3.83類, 4.3

合計, 10.8

合計, 15.9合計, 17.9

0.02.04.06.08.0

10.012.014.016.018.020.0

2010年末 2012年末 2013年6月

1類

2類

3類 その他の関連債務 (政府(部門)は担保責任を負わないが債務者が返済不能

政府の直接債務(政府(部門)が借入れ、直接返済責任を負う債務)。

となった場合に政府が一定の責任を負う。主として地方の企業や政府関連

政府の保証債務(政府(部門)が担保責任・連帯保証を負う偶発債務)。

事業単位が主体となった公共事業投資など)。 (出所)「全国政府性債務審計結果」中華人民共和国審計署(2013)

2013年度6月末時点における地方政府の債務総額は,2010年末と比べて約67%増の17.9

兆元となり,2010年末の 10.8兆元,2012年末の 15.9兆元から引き続き増加を続けている。

これら債務を対 GDP 比でみると,10 年末が 27%であったのに対し,13 年 6 月末には 32%となった。その内訳は,1 類が約 10.9 兆元(約 61%),2 類が約 2.7 兆元(約 15%),3 類

が約 4.3 兆元(約 24%)となり,この割合は過去の検査時と比べても大きな変化はない。

図 7 地方政務の債務規模(2013 年 6 月末)

1類10兆8,859.2億元 60.85%

2類2兆6,655.8億元

14.90%

3類4兆3393.7億元

24.25%

(出所)「全国政府性債務審計結果」中華人民共和国審計署(2013)

図8 各級政府の債務残高(単位:億元/%)

29.0

40.7

28.2

2.00.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

40.0

45.0

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

省レベル 市レベル 県レベル 郷鎮レベル 合計

1類

2類

3類

比重

(出所)「全国政府性債務審計結果」中華人民共和国審計署(2013)

Page 9: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題

-62-

各級政府ごとの債務合計金額をみると,市(地区)級政府の割合が約40%と10年末から若干比重が下がったものの,依然として高い。これは,市(地区)級レベルには規模が大きな地域があり,また行政改革により単位数が増加したことにも原因がある。一方,地方政府のうち比較的小さい県級や郷鎮における債務には,債務保証した借入金のほか,公務員(特に教員)の給与やプロジェクト費用の未払い費用,徴収不足や資金の流用によって生じた社会保障資金の積み立て不足,農村合作社基金の流用,貸倒損失など,表面化していない偶発債務が多いと言われており,この点にも留意しておかなければいけない。

次に,借入主体別の債務残高については,地方政府融資平台(以下,融資プラットフォーム)の割合が総額の39%となった。これは,2010年末の46%から縮小してはいるが,依然として大きなウェートを占めている。また,前回調査との大きな相違点として,国有企業(独資・株式制)の借り入れが明らかとなった。そ

の債務残高は3.1兆元で総額の17.5%を占めた。これには,前回調査後に地方債務問題への懸念が大きく高まるなかで,借入主体では融資プラットフォームの拡大が問題視されたことを受け,融資プラットフォームに対する管理が強化されたことによって融資プラットフォームの借り入れが縮小し,その一方で国有企業を通じた資金調達が拡大したという背景があると考えられる。こうした地方政府に関係のある借入主体の多様化が,地方債務の不透明化,複雑化につながることも懸念される。

資金調達ルートをみると,引き続き銀行ローンが中心であるが,シェアは2010年末の80%から57%程度に低下した一方で,債券発行の割合が高まった。特に,2012年以降の債券発行額が3.2兆元で,前年の2.1兆元から大きく増加しており,このなかには融資プラットフォームが発行する都市建設債が多く含まれている。他方で,BT(建設・譲渡方式),信託融資,融資リース,金融機関融資など,銀行ローンや債券発行以外の資金調達ルートが多様化したこと

図9 借入主体別債務残高 (単位:億元/%)

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

40.0

45.0

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

45,000

地方政府融資平台

地方政府部門・機構

経費補助事業単位

国有企業(

独資・株式)

自収自支事業単位

その他単位

公用事業単位

1類

2類

3類

合計(%)

(出所)「全国政府性債務審計結果」中華人民共和国審計署(2013)

Page 10: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成26年第3号(通巻第119号)2014年8月>

-63-

も注目される。こうしたルートはシャドーバンキング1)との関連が深い可能性が高いと考えられる。シャドーバンキングについては,理財商品(資金運用商品)のうち,元本が保証されない商業銀行のバランスシート外(オフバラン

ス)のものが融資規制を回避するための迂回融資として利用されているケースがある。この拡大にも,融資プラットフォームに対する規制や管理強化が大きく影響したと考えられる。

他方,地方政府が調達した資金の使途をみる

1)信託会社,投資ファンド,貸金業などが,理財商品(資産運用商品)を販売して調達した資金が,地方政府の公共事業をはじめ,不動産開発やインフラ整備等のプロジェクトに対し大きな規模で投資されており,そのリスク拡大が懸念されている。

図10 資金調達方法ごとの債務残高 (単位:億元/%)

11

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

0

10000

20000

30000

40000

50000

60000

1類 2類 3類 合計(%)

(出所)「全国政府性債務審計結果」中華人民共和国審計署(2013)

他方,地方政府が調達した資金の使途をみると,インフラ関連,交通運輸関係の投資が

中心となっているほか,土地の収用や備蓄が約 11%となっているなど,開発関連が主とな

っているこれまでの傾向に大きな変化はない。この点に関して,特に高速道路建設の関連

債務が問題視されている。2013年 6月末時点での高速道路建設関連債務返済額は 1兆 9,400億元に達しており,高速料金廃止の補填の 4,400 億元を加えると,高速道路関連債務の地

方債務総額に占める割合は約 13%となり,地方政府にとって重い負担となっている。 図 11 調達資金の使途 (単位:億元/%)

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

40.0

0

5000

10000

15000

20000

25000

30000

35000

40000

1類 2類 3類 合計(%)

(出所)「全国政府性債務審計結果」中華人民共和国審計署(2013)

60,000

50,000

40,000

30,000

20,000

10,000

(出所)「全国政府性債務審計結果」中華人民共和国審計署(2013)

図11 調達資金の使途 (単位:億元/%)

11

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

0

10000

20000

30000

40000

50000

60000

1類 2類 3類 合計(%)

(出所)「全国政府性債務審計結果」中華人民共和国審計署(2013)

他方,地方政府が調達した資金の使途をみると,インフラ関連,交通運輸関係の投資が

中心となっているほか,土地の収用や備蓄が約 11%となっているなど,開発関連が主とな

っているこれまでの傾向に大きな変化はない。この点に関して,特に高速道路建設の関連

債務が問題視されている。2013年 6月末時点での高速道路建設関連債務返済額は 1兆 9,400億元に達しており,高速料金廃止の補填の 4,400 億元を加えると,高速道路関連債務の地

方債務総額に占める割合は約 13%となり,地方政府にとって重い負担となっている。 図 11 調達資金の使途 (単位:億元/%)

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

40.0

0

5000

10000

15000

20000

25000

30000

35000

40000

1類 2類 3類 合計(%)

(出所)「全国政府性債務審計結果」中華人民共和国審計署(2013)

40,000

35,000

30,000

25,000

20,000

15,000

10,000

5,000

(出所)「全国政府性債務審計結果」中華人民共和国審計署(2013)

Page 11: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題

-64-

と,インフラ関連,交通運輸関係の投資が中心となっているほか,土地の収用や備蓄が約11%となっているなど,開発関連が主となっているこれまでの傾向に大きな変化はない。この点に関して,特に高速道路建設の関連債務が問題視されている。2013年6月末時点での高速道路建設関連債務返済額は1兆9,400億元に達しており,高速料金廃止の補填の4,400億元を加えると,高速道路関連債務の地方債務総額に占める割合は約13%となり,地方政府にとって重い負担となっている。

このような地方債務の状況下で懸念されるもう一つの課題が,債務の償還である。2015年末までに,現在の債務総額の約半分が,そして2016年末までに約65%が償還期限を迎えるなど,債務返済圧力は年々高まっている。こうした状況に対し,新規債務の20%以上が過去の債務の返済に回されており,そのため2012年

の新規発行債務が2011年の約2倍になるなど,過去債務の償還が新規発行債務の拡大につながるという悪循環になってきている。

Ⅲ-2.分析と評価以上のような地方政府の債務状況について,

審計署は,政府債務の対GDP比が国際的な基準2)である60%を下回っている点を挙げて,リスクはコントロール可能であると評価している。しかし,詳細に考察を加えると,いくつかの問題点や課題が指摘できる。

第一に,審計署の主張する根拠である。審計署は2012年末の政府債務の対GDP比を39.4%としているが,これは全国債務残高のうち実際に政府資金で償還されたもののみを負債率としているため過小評価となっており,債務総額の対GDP比は約54%になるという見方や,鉄道総公司や政策性銀行,国有資産管理会社などの

2)財政赤字の国際的基準としては,EUの通貨統合の基準が一般的である。それによれば,原則として単年度の財政赤字をGDPの3%以下,累計の債務残高がGDP60%を上回らないこととされている。この基準と照らして財政赤字の水準を判断する目安とされている。

図12 償還期限別の債務残高/比率 (単位:億元/%)

12

このような地方債務の状況下で懸念されるもう一つの課題が,債務の償還である。2015年末までに,現在の債務総額の約半分が,そして 2016 年末までに約 65%が償還期限を迎

えるなど,債務返済圧力は年々高まっている。こうした状況に対し,新規債務の 20%以上

が過去の債務の返済に回されており,そのため 2012 年の新規発行債務が 2011 年の約 2 倍

になるなど,過去債務の償還が新規発行債務の拡大につながるという悪循環になってきて

いる。

図 12 償還期限別の債務残高/比率 (単位:億元/%)

18.419.9

15.5

10.98.0

27.3

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

40.0

45.0

50.0

0

10000

20000

30000

40000

50000

60000

①2013/7~12 ②2014 ③2015 ④2016 ⑤2017 ⑥2018~

1類 2類 3類 合計

①(%) ②(%) ③(%) 合計(%)

(出所)「全国政府性債務審計結果」中華人民共和国審計署(2013)

Ⅲ-2.分析と評価 以上のような地方政府の債務状況について,審計署は,政府債務の対 GDP 比が国際的な

基準2)である 60%を下回っている点を挙げて,リスクはコントロール可能であると評価して

いる。しかし,詳細に考察を加えると,いくつかの問題点や課題が指摘できる。 第一に,審計署の主張する根拠である。審計署は 2012 年末の政府債務の対 GDP 比を

39.4%としているが,これは全国債務残高のうち実際に政府資金で償還されたもののみを負

債率としているため過小評価となっており,債務総額の対 GDP 比は約 54%になるという

見方や,鉄道総公司や政策性銀行,国有資産管理会社などの債務を加えると 60%を上回る

との推計もある3)。第二に,ウェートが若干低下したとはいえ,資金調達ルートが銀行借り

入れに偏っていることや,借入主体が融資プラットフォームに集中しているなど,リスク

が集中していることも問題である。第三に,土地関連収入への依存度が高いことである。

特に,土地譲渡収入による債務償還が 2010 年末の 24%から 2012 年末には 37%へと大き

く拡大しており,不動産市場の状況に強く影響を受けることになる。第四に,債務の増加

2) 財政赤字の国際的基準としては,EU の通貨統合の基準が一般的である。それによれば,原則として単

年度の財政赤字を GDP の 3%以下,累計の債務残高が GDP60%を上回らないこととされている。この

基準と照らして財政赤字の水準を判断する目安とされている。 3) 2013 年 6 月末時点の債務残高の合計額で計算。

60,000

50,000

40,000

30,000

20,000

10,000

(出所)「全国政府性債務審計結果」中華人民共和国審計署(2013)

Page 12: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成26年第3号(通巻第119号)2014年8月>

-65-

債務を加えると60%を上回るとの推計もある3)。第二に,ウェートが若干低下したとはいえ,資金調達ルートが銀行借り入れに偏っていることや,借入主体が融資プラットフォームに集中しているなど,リスクが集中していることも問題である。第三に,土地関連収入への依存度が高いことである。特に,土地譲渡収入による債務償還が2010年末の24%から2012年末には37%へと大きく拡大しており,不動産市場の状況に強く影響を受けることになる。第四に,債務の増加のスピードが速く,しかも,2013年6月末時点の債務総額は2010年末と比べて約20%増となり,そのうち省級政府が約14.4%,市(地区)級政府が約17.4%,県級政府が約26.6%と下級政府ほど伸びが大きくなっていることである。第五に,債務の状況に格差が生じていることである。先に指摘した高速道路部門の債務比率が大きくなっていることや,債務比率が100%を上回る地域が,2012年末において省級で3,市(地区)級で31,県級で195,郷鎮で3,465存在していることなど,一部の地方や業種において債務負担が大きくなっている。また,債務残高では江蘇省が約1兆4,800億元,広東省が約1兆元と大きくなっており,対GDP比では貴州省が約79%,重慶市が約62%と高くなっているなど,地域間の債務比率にも開きがある。経済成長が減速傾向にあるとはいえ,依然として7%台半ばの成長率を維持していることや,約3兆8,000万ドルに達する外貨準備,1,800億ドルを超える経常黒字などの状況を考えれば,政府債務が中国経済に大きな影響を与えることは当面考えにくい。しかしながら,一部の地域で問題が顕在化することによってその影響が飛び火し,経済,社会の混乱要因となる可能性もあることから,管理の強化や透明性の確保,制度の整備など,細心の注意

が必要であることは言うまでもない。このように,地方債務を巡る課題は山積しており,そのマネジメントは容易ではない。

Ⅲ-3.当面の課題地方の債務問題は,シャドーバンキング問題

とも関連性が深く,リスクマネジメントが極めて重要である。債務を適切にコントロールするために,適格な審査,管理強化によって債務の増加を抑制することや,債務返済を着実に行っていくことは当然のことである。その際,資産管理会社を活用した債務管理のスキームが考えられる。中国では,四大国有商業銀行の不良債権処理を主たる目的として,1990年後半から2000年代初頭に資産管理会社が相次いで設立され,一定の成果をあげてきた。今後,仮に,融資プラットフォームをはじめとする借入主体の債権の不良化が拡大していけば,こうした経験を活かして資産管理会社による債務処理を考えるケースが想定される。また,地方政府が所有する国有資産の売却を併せて実施していくことも必要になると考えられる。ただし,いずれにしても限界があり,最終的に債務不履行が拡大するような事態になれば,中央政府によって補填せざるを得ない事態にもなりかねない。

一方で,地方政府の資金調達ルートとして,地方債制度を拡充することも不可欠である。中国では,リーマンショック後の4兆元の景気対策の財源とその後の積極的財政政策の継続のために,中央政府の強い管理4)の下で,財政部による地方債の代理発行という極めて漸進的な形で地方債発行が解禁された。当初は財源確保による景気対策が主な目的であり,地方政府の財政裁量権は限定的であった。その後,2011年10月に,地方政府が発行実務を担う「地方政府自行発行債券」の発行を実験的に開始する

3)2013年6月末時点の債務残高の合計額で計算。4)国務院の許可が必要となること,発行及び償還の主体は省級政府のみとすること,財政部による代理発行とす

ること(利回りは基本的に国債と同様)など,中央の強い管理のもとでの発行である。地方債発行の拡大に一定の歯止めをかける措置とも言えるが,地方政府の財政力や信用力,リスクを反映していない。

Page 13: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題

-66-

ことを財政部が発表した。2011年には上海市,広東省,浙江省,深圳市(広東省)の四地域において開始され,さらに2013年には江蘇省と山東省が加えられ六地域での試験的実施となった。2009年から2011年までは毎年2,000億元,2012年には2,500億元発行された。このように,地方債の発行が拡大されていくことで,債務の所在がある程度明確になる可能性があり,財政面での地方政府の裁量度と責任を高めることや,債務の透明化が進むことなどが期待される。今後,地方債発行による財源調達を拡大していくためにも,地方税収の拡大による地方独自の財源確保や地方税法や地方財政法などの法整備が急がれる。

一方,地方政府の健全化のためには,地方債務の拡大を抑制することも必要である。そのためには,投資依存型成長からの脱却を進める構造調整が不可欠である。現在の中国経済が抱える最も深刻な問題の一つに,投資への過度な依存が引き起こした過剰設備と,それに伴う過剰生産がもたらす非効率な経済構造がある。こうした構造を改めることがこれまでにも課題とされてきたが,経済成長を維持するために特に地方での非効率な投資が後を絶たなかった。2013

年秋の第18期三中全会において,発展方式の転換として資源配分における市場の役割を決定的に拡充することが強調された。投資依存からの脱却が進まなければ,政府債務の削減にもマイナスの影響が出ることは必至である。併せて,人事考課の見直しも急務である。地方の指導者や幹部の評価は,その地域の経済の発展・成長によって評価されてきた。そのため,地方レベルでの投資が拡大する傾向が続いてきた。そのなかには非効率な投資も少なくなく,乱脈投資と呼ばれるものもあり,地方財政を圧迫する原因ともなっている。こうした人事考課の方式を見直さなければ,投資依存の構造を変えることは困難である。これまでにも人事考課の見直しの必要性が指摘されたが,本質的な改善には至らなかった。2014年の地方の人民代表大会において改革に着手され,環境・省エネ対応,過剰設備の解消,投資コントロール・乱脈投資の縮小などの実績を総合的に判断材料にすることや,地方債務の状況も評価の重要指標とすることなどが示された。これは大きな前進であり,人事考課の改訂によって,地方債務の抑制圧力としていくことも継続的な課題である。

Ⅳ.関連する改革

地方債務の問題と関連して,税財政面でも必要となる課題は多い。ここでは,現在進行中の

「営改増」5)改革をはじめとする税制改革の状況や,地方行政管理体制の改革動向について整理,検討する。併せて,財政面での中央-地方関係における課題や最重要政策の一つとされる都市化と財政負担の問題についても検証を加える。

Ⅳ-1.税制改革の動向と課題財政の健全化を図り,政府の果たすべき役割

を明確にして着実に実行していくためには,そのための財源が必要であり,税制改革が不可欠となる。中国の税構造は間接税が主体であり,その中心は増値税(付加価値税:日本の消費税に相当)で,税収の約50%を占めており,消費税,営業税(サービスにかかる付加価値税)

5)営業税を増値税に統合し,税の簡素化を図る改革。付加価値税である増値税は,日本の消費税に相当する税であり,営業税はサービスにかかる消費税である。

Page 14: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成26年第3号(通巻第119号)2014年8月>

-67-

を加えると税収の約70%となっている。その一方で,企業所得税と個人所得税は合計でも税収の25%程度に留まっており,その他の資源税,財産行為税,特定目的税が残りの10%弱を占めるという構造になっている。税制面での問題点や必要な改革についてはこれまでにも繰り返し指摘されてきたが,抜本的改革には至っていない。格差問題の解決が大きな課題である中国においては,より再分配機能の高い直接税の比率を高めるために直間比率の見直しが必要である。この点について,いくつかの税制改革の課題が指摘できる。

例えば,個人所得税においては,所得の区分が11種と極めて大きい。また,給与所得に対して超過累進課税制度が採られているが,その他は課税所得区分ごとの分離課税で雑所得,移転所得等については税率も20%と定率となっているため,こうした区分の所得を増やすことで富裕層の節税対策ともなり,所得の捕捉および税の徴収に不備が生じ,不公平な状況を招いている。個人所得税の簡素化とともに,所得の捕捉と適正な課税を同時に行うことが急務である。その一方で,近年,経済成長と賃金の上昇によって所得税の課税最低限が急速に引上げられたことにより所得税の納税者が減少している。これでは,増加する医療,年金などの社会保障費や教育費を支える財源にも問題が生じることになる。課税ベースを確保するためにも,個人所得税の全体像を見直さなければならないだろう。地方財政の強化を考えた場合には,日本の住民税や事業税等の仕組みを導入することも検討課題である。

所得税改革と併せて,相続税(遺産税)や贈与税,固定資産税などの導入を急がなければならない。これらの税については,従前から議論がなされ試行的に行われてきたが,本格的導入には至っていない。相続税の導入については,資産の把握を強化して隠蔽を防止することをはじめとして,徴税の公平性を担保しなければならない。海外への資産流出の問題とも併せて,管理強化が不可欠となる。他方で,汚職や腐敗

に対する取り締まりを強化している現政権の姿勢に照らせば,相続税や贈与税の導入のチャンスとも言える。固定資産税については,上海市や重慶市など一部で試験的に行われたものの,本格的に導入されていない。不動産バブルが問題視される一方で,特に地方政府の収入の土地依存度が高いことをはじめ,不動産価格の下落によって不良債権の拡大が引き起こされることが懸念されており,このことも固定資産税の導入を遅らせる要因となっている。固定資産税は格差の是正策であるとともに,地方政府の有力な財源となり得ることから,高級物件を中心に導入を進め,徐々に課税ベースを拡大していくなどの工夫も必要となるであろう。

他方で,重要な税制改正として営業税を増値税に組み入れる「営改増」改革が進められている。2012年から上海市の交通運輸業と一部の現代サービス業において試験的に開始され,その後,北京市,江蘇省,安徽省,福建省,広東省(深圳市を含む)天津市,浙江省,湖北省などに拡大され,2013年8月以降は試験的運用が全国的に実施されることとなった。2013年の第18期三中全会においてもその重要性が強調されている。「営改増」は,税額控除を採用することで,特に中小企業の営業税負担を軽減することや,重複課税問題を解消することが目的とされている。「営改増」改革は,税負担の軽減や税体系の簡素化という効果以外に,中央-地方の税源配分にも大きな影響を与えることになる。現行では,営業税は地方税であり増値税は中央と地方の共有税(中央:地方=75:25で配分)である。そのため,試験的運用のように単に営業税を増値税に転換するだけでは,財源配分が地方財政に不利になるため,増値税全体の配分方式の見直し等を行わなければ,地方政府の強い抵抗も予想され,実効性の乏しいものとなる。ただし,逆に考えれば,事務の負担と財源,権限の配置が必ずしも適切となっていない中央-地方間,あるいは各級政府間の財政関係の適正化を進める起爆剤として利用できる可能性もある。こうした点からは,

Page 15: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題

-68-

「営改増」改革の深化が期待される。以上のように,これまで進捗が極めて遅かっ

た税制改革についても,ようやく改革が緒に就いた。税制は,政府間財政関係の適正化や個人間の財政調整においても重要な機能を果たす。その一方で,様々な既得権構造に切り込むことが大前提であり,改革には極めて大きな困難を伴う。それだけに,これまでにも議論はされるものの,抜本的改革は進められなかった。国有企業に対する優遇政策について,国有企業の国庫納付金6)の比率を,30%程度に引き上げることが決定されたが,期間は2020年までとされており,改革のスピードは極めて緩やかである。格差問題の抜本的対策として機能させるためには,さらなる切り込みが求められる。したがって,今後の税制改革の動きは,現政権が強い政治的リーダーシップを発揮して経済政策の諸課題を解決していけるか否かを見極める貴重な判断材料ともなり得る。

Ⅳ-2.地方行政管理体制の改革税財政改革とともに,行政改革も重要な課題

となっている。2013年に行われた第18期三中全会の決定においても,政府機能の転換や行政体制改革の深化,行政管理方式の革新などを通じて政府に対する信頼度を高め,実行力を強化したサービス型政府への転換の重要性が強調されている。その下で,地方の行政管理体制の改革も進められている。

中国の行政地方行政管理においては,県級政府の役割が相対的に大きかったが,行政管理や財政面では脆弱な県が多く,県級の行財政管理をどのように行うかが従来から問題となっていた。1982年の「市(地区)級の体制改革に関する市管県を実行する通達」によって,市(地区)級政府を中心とした管理体制が強化されることとなった。その後は市(地区)や県の合併,整理を行い,地方行政管理においては「市

管県」制度が広く進められた。その結果,1988年末時点には,全国164の市(地区)級政府において739の県が管理されることになり,県を管轄する市(地区)級政府の割合は,全国で90%を超えた。その後,市(地区)級と県級の権限や機能について数次にわたって見直しが行われたが,1999年の改革によって省級・市(地区)級・県級・郷鎮級という明確な四層制の管理システムが確立された。2000年以降は,主として少数民族地域を除く全国16の省および直轄市において「市管県」の管理体制が実行された。「市管県」によって,地方レベルにおいては,発展の格差は生じたものの,都市・農村の一体改革に寄与した面もあり,都市化の推進にも役立ったとの評価もある7)。

しかし,市場経済化の進展とともに各地方レベルの行財政の役割にも変化が生じ,「市管県」の管理方式にも問題が出始めた。特に,東部沿海地域の大都市において,行政に関連する様々な権限や権益面で市(地区)級政府と県級政府の間で対立が起こった。また,四層制をとる地方行政システムでは,事務が重複したり権限配置が曖昧になったりすることによって,非効率な状況となった。特に「市管県」が強化された時期には,市(地区)級政府が各地で急増し,行政コストの増加を招いた。また,1994年の分税制改革によって,下級政府ほど財政が困窮する事態となったこともあり,省級政府と市

(地区)級政府が財源を奪い合う事態にもなった。こうした状況によって,本来は市(地区)級政府が県級政府を行財政面で管理するとともにサポートすることが意図されていたにもかかわらず,県級政府の力が低下し,県域経済の衰退が顕著となった。

そこで,県級政府の体制強化と県域経済発展を目的として,行財政面において省級政府が直接県級政府を管轄する「省直管県」改革が実施されることとなった。この改革は2005年頃か

6)国有企業の国庫納付金は,株式会社の配当に準ずるものであり,国有資本経営予算に納付される。7)繆(2013)pp.61~65

Page 16: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成26年第3号(通巻第119号)2014年8月>

-69-

ら活発となり,従来の省級が市(地区)級を管理し,市(地区)級が県級を管理するという三層による行政管理体制を,省級が市(地区)級および県級政府を直接管理する仕組みへ移行する改革であり,県級政府が省級政府の管轄下に置かれることになる。また,郷鎮の財政を廃止して県財政に統合する「郷財県管」改革も行われた。そこで,行政単位の合併や統廃合などの行政システム改革が進み,農業税の廃止など税制面での改革と併せて財政状況の改善と効率化

が推進された。これによって,行財政システムの簡素化や,県級および郷鎮政府の財政強化につながることが期待されるとともに,省以下の政府間財政関係の管理を徹底することによって,地方財政のリスク管理を強化することが狙いとされた。併せて,市(地区)級政府の増加を抑えつつ下級政府の財政力を強化するために,省級政府に一定の権限を与えるという改革でもある8)。しかし,市(地区)級政府にとっては,事務は減少するものの,それ以上に権限

8)省級政府が財政や領導をはじめとする人事面においても県に直接関与することになった。

表4 地方行政管理のモデル

18

北京、天津、上海、重慶などの直轄市および海南省はそもそも市(地区)が存在しないので、自動的に「省直管県」となる。

モデル①

行政システム上の「省直管県」型(北京・天津・上海・重慶・海南)

全面的な「省直管県」型(浙江・安徽)

財政、幹部人事を直接管理するとともに、県域経済を強化し強い県の権限を拡大する改革を一体的に進める。

モデル②

新制度創新型(吉林)

体制および制度改革を通じて全面的に省以外の地方政府の権限を拡大する。(省以下の地方政府の財政権限拡大、税種よる歳入区分、各級政府の財政における役割、権限、責任の明確化、財政移転の省から県への直接支給、省による県財政の管理強化、「郷財県管」制度の推進など)

モデル③

補助金管理型(山西・遼寧・河南)

省から県への補助金直接支給に伴い、省が直接県を管理する。(主として貧困県の救済が目的)。市(地区)財政の権限、財源を縮小し、県財政の強化を進め、省が管理する方式。財政の予算と決算、各種の財政統計、事務などは従来の行政レベルが行い、市(地区)がとりまとめる。

モデル④

省・市(地区)共同管理型(山東・広西)

財政移転について、省が資金補助する場合に直接県を査定するが、実際の分配業務や関連事務は、省が市に、市が県にという従来の方法で取り扱う。同時に省による県財政の管理を強化する。

モデル⑤

インセンティブ機能型(広東)

県域経済の発展を推進するため、下級政府の経済管理の権限拡大、市(地区)が行う審査等の権限を県政府付与する。(市場参入、企業の投資、外商投資、資金分配と管理、税制の優遇および個人の技術資格の認定などの権限を県に移管。県政府のリーダー育成強化に関わる条例策定、省が県を管理する体制の強化、県域経済の発展の潜在力の発揮、行政部署の削減、など)。

モデル⑥

(出所)繆(2013)pp.61 をもとに作成

しかし,2011 年末には,全国 27 の省,1,080 の市(地区)および県級政府において,「省

管県」が実施されるようになっている。これは,全国の県レベル政府の約 54%にあたる規

模である。また,「郷財県管」についても,郷鎮財政の廃止,統廃合などによって県レベル

政府が予算の編成や収支管理を行う方式への改革が進んでおり,2011 年末には全国で 2 億

9,300 万,約 86%の郷鎮において「郷財県管」が実施されるに至っている 。 引き続き,行財政改革を通じた地方財政制度の再構築によって,地方財政の健全性を確

保していくことが重要な課題となる。また,現政権が掲げる重要目標の一つである政府機

能の転換や政府と市場の関係の整理などにも通じるため,実行力が試される課題でもある。

ただし,総体的にみれば集権的動きを急速に進める動きが強まっている一方で,地方行政

レベルの改革においては,市(地区)級政府の権限を縮小して省級政府による管理を強化

しつつも,強い県の権限を拡大したり(強県拡権),省のサポートによって弱い県の権限を

拡大して県の力を強化する(拡権強県)改革などにより,県の相対的権限の拡大と財政力

の強化を目指すという一種の文献的な動きが進められるなど,その方向性はある意味で矛

盾するとも言える。

体制および制度改革を通じて全面的に省以外の地方政府の権限を拡大する。(省以下の地方政府の財政権限拡大、税種による歳入区分、各級政府の財政における役割、権限、責任の明確化、財政移転の省から県への直接支給、省による県財政の管理強化、「郷財県管」制度の推進など)

(出所)繆(2013)pp.61をもとに作成

Page 17: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題

-70-

や財源を大きく失うことへの危機感から,県を市轄区として事前に自らの市に吸収したり,人事面での干渉を続けるなどして権限委譲を実行しないなどの強い抵抗などもあって,改革は漸進的なものとなってきた。

しかし,2011年末には,全国27の省,1,080の市(地区)および県級政府において,「省管県」が実施された。これは,全国の県レベル政府の約54%にあたる規模である。また,「郷財県管」についても,郷鎮財政の廃止,統廃合などによって県レベル政府が予算の編成や収支管理を行う方式への改革が進んでおり,2011年末には全国で2万9,300,約86%の郷鎮において「郷財県管」が実施された。

引き続き,行財政改革を通じた地方財政制度の再構築によって,地方財政の健全性を確保していくことが重要な課題となる。また,現政権が掲げる重要目標の一つである政府機能の転換や政府と市場の関係の整理などにも通じるため,実行力が試される課題でもある。ただし,総体的にみれば集権的動きを急速に進める動きが強まっている一方で,地方行政レベルの改革においては,市(地区)級政府の権限を縮小して省級政府による管理を強化しつつも,強い県の権限を拡大したり(強県拡権),省のサポートによって弱い県の権限を拡大して県の力を強化する(拡権強県)改革などにより,県の相対的権限の拡大と財政力の強化を目指すという一種の文献的な動きが進められるなど,その方向性はある意味で矛盾するとも言える。

Ⅳ-3.中央-地方の財政関係の課題財政力を強化,安定させるためには,中央と

地方の財政関係の適正化が不可欠である。1994年の分税制改革によって,中央財政と地方財政の役割の区分と財源の調整が一定程度整えられたが,依然として不十分な点が多いことは否めない。

財政面での中央政府と地方政府の関係,さらには地方政府間の関係を考える際,その国の体制が集権型か分権型かによって,あるいは地方

政府の構造などの違いによって,課税自主権をはじめとする財政にかかる権限には大きな違いが生じる。しかし,いずれの場合にも,事務配分,役割分担の明確化に基づいて財源と権限,そしてそれに伴う責任が適正に配置されなければならない。中国の政府間財政関係においては,中央政府と四層の地方政府との間で,事務-役割・権限-財源-責任の配置が必ずしも適正となっておらず,重複や偏重がみられたり,役割や運用に不透明な部分も多い。こうした問題は分税制によっても解決されておらず,その後も抜本的改革には至っていない。それぞれの政府が責任を持つ事務と役割を明確にし,それに見合った財源と権限を配置して責任を明確化することが不可欠であり,それがなければ財政の健全化は困難である。第18期三中全会の決定においても,現代財政制度の確立として,予算制度改革とともに中央-地方の権限と支出責任の合理的な確定が必要であると強調された。特にこれは,地方債務のコントロールを適切に行うためにも避けて通れない課題である。同時に,法律面においても地方財政法,地方自治法などの整備と適正な運用によって,それぞれの権限と責任の所在を明確にしておかなければならない。この点について,中国の地方政府は地方自治体でない,つまり立法や政策実施など様々な面で自治権を有しないだけに,実質的な改革は事実上不可能とも言える。しかしながら,必ずしも政治体制改革を待たなければ改革が進まないという訳ではなく,現在の国家体制を前提としたうえで,財政体制の再構築を模索すべきであろう。現在の地方政府の規模や機能を考えれば,例えば中央から省級政府に財政的権限を一定程度付与すると同時に,下級政府の事務を削減して財政規模を縮小し,省級政府を主体とする財政体制の構築を目指すことも検討に値すると考えられる。

一方,政府間財政関係におけるもう一つの重要課題は,財政移転制度のさらなる充実である。様々な格差問題が表面化している現状においては,再分配機能がこれまで以上に重要な意

Page 18: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成26年第3号(通巻第119号)2014年8月>

-71-

味を持つことになり,そのためにも,政府間の財政調整機能を拡充することが求められている。

分税制改革によって財政移転制度が一定程度整えられ,その後,数次の改革を経て,現在の制度は,主に一般移転支出(交付税に相当する均衡性移転支出,および民族地区移転支出・農村税費改革移転支出・定額補助などを含む),専項補助(特定補助金),税収返還の3つから成っている9)。地方財政収入と各財政移転の状況をみると,一般性移転支出については,当初は極めて小規模であったがその後徐々に増加し,2010年には移転総額の約4割程度にまで増加した。専項補助も拡大を続けており,省級政府の補助収入に占める割合も継続的に増加している。従来から,地域間の再分配について

は,上級政府が特定の事業に対して補助金を支給して推進するという手法が中心であった。

「西部大開発」や,その後の開発方針として打ち出された「東北振興」,「中部崛起(中部振興戦略)」などの地域発展戦略はその象徴であり,その他にも地域間,産業構造,発展の量と質などの調和を目指すとして,中央政府がプロジェクト方式の資源配分や補助金支給による事業を拡大させてきた。税収返還10)は,1994年には約1,800億元で省級政府への移転総額の約75%を占めていたが,財政移転制度の調整的改革の進展によって,2006年には30%程度にまで低下した。財政移転の方向性としては,地方交付税に相当する,再分配機能をより有している一般移転支出が増加することが望ましい。一方,

9)一般性移転支出は日本の地方交付税に,専項補助はインフラ整備や社会保障,三農対策など各種プロジェクトごとに配分される特定補助金に相当する。税収返還は,中央政府から地方政府へ税収の一定割合が還付される制度であり相対的にみて富裕地域に多く還付される要素があるため再分配機能は限定的である。

10)分税制改革以前(基本的に1993年)の各地方の歳入を保証し,分税制導入によって減少した分が中央から地方に還付される,税還付制度である。

図13 財政移転の状況 (単位:億元)

20

0.0

20000.0

40000.0

60000.0

80000.0

100000.0

120000.0

140000.0

専項移転支出

税収返還

財政性移転支出等

地方本級収入

(出所)李(2006),李(2010),財政部資料等により作成

分税制改革によって財政移転制度が一定程度整えられ,その後,数次の改革を経て,現

在の制度は,主に一般移転支出(交付税に相当する均衡性移転支出,および民族地区移転

支出・農村税費改革移転支出・定額補助などを含む),専項補助 (特定補助金),税収返還

の 3 つから成っている9)。地方財政収入と各財政移転の状況をみると,一般性移転支出につ

いては,当初は極めて小規模であったがその後徐々に増加し,2010 年には移転総額の約 4割程度にまで増加した。専項補助も拡大を続けており,省級政府の補助収入に占める割合

も継続的に増加している。従来から,地域間の再分配については,上級政府が特定の事業

に対して補助金を支給して推進するという手法が中心であった。「西部大開発」や,その後

の開発方針として打ち出された「東北振興」,「中部崛起(中部振興戦略)」などの地域発展

戦略はその象徴であり,その他にも地域間,産業構造,発展の量と質などの調和を目指す

として,中央政府がプロジェクト方式の資源配分や補助金支給による事業を拡大させてき

た。税収返還10)は,1994 年には約 1,800 億元で省級政府への移転総額の約 75 % を占めて

いたが,財政移転制度の調整的改革の進展によって,2006 年には 30% 程度にまで低下し

た。財政移転の方向性としては,地方交付税に相当する,再分配機能をより有している一

般移転支出が増加することが望ましい。一方,税収返還制度は,税収全体が拡大していけ

9)一般性移転支出は日本の地方交付税に,専項補助はインフラ整備や社会保障,三農対策など各種プロジ

ェクトごとに配分される特定補助金に相当する。税収返還は,中央政府から地方政府へ税収の一定割合が

還付される制度であり相対的にみて富裕地域に多く還付される要素があるため再分配機能は限定的であ

る。 10)分税制改革以前(基本的に 1993 年)の各地方の歳入を保証し,分税制導入によって減少した分が中央

から地方に還付される,税還付制度である。

140,000.0

120,000.0

100,000.0

80,000.0

60,000.0

40,000.0

20,000.0

(出所)李(2006),李(2010),財政部資料等により作成

Page 19: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題

-72-

税収返還制度は,税収全体が拡大していけば,徐々に中央政府の税収が増加することになる制度であり,中央政府の財政力を強化するという点では過渡的に役割があったが,既得権を保証する制度とみることもでき,しかも制度上,経済先進地域により厚く還付される制度であるため,引き続き徐々に縮小していくことが必要となる。専項補助については,地域開発投資として重要な役割を果たす一方で,大規模公共事業や土地開発に投入されるケースが多く,経済成長を維持,拡大するために,地方における非効率な投資の拡大や過剰設備の原因となる場合がある。また,調査費,管理費や許認可に係る諸費用などの名目で,補助金の一部が地方政府によって搾取されるという状況もあり,不正・腐敗の要因にもなるため,厳格な管理が必要となる。実際に,3つの財政移転について2012年と2013年を比較すると,財政移転総額が8.1%増加し,そのうち一般性移転支出が+14%となった一方で,専項補助が+2.5%と微増に留まり,税収返還は1.3%の減少となった。少しずつではあるが,好ましい方向に進んでいる。

財政移転制度については,これまで具体的データが乏しく,極めて不透明な状況にあったが,2009年度の全人代の財政報告以降,徐々にデータの公表が進んでいる。より透明性の高い,信頼される制度を確立するためにも,引き続き制度改革を進める過程でデータのさらなる公表が求められる。制度改革においては,各地域の基準財政収入や基準財政需要といった明確な基準を策定し,それらに基づいて適正な方法,規模の財政調整を実施していくという基本的な政策運営が必要である。つまり,客観的基準に基づいた制度設計と運用なくしては,適正な再分配は機能しない。この点は財政移転のみならず,年金や医療を含む社会保障制度においても共通する課題である。さらに,財政調整機

能の拡充に先立って進めなければいけないのが,既得権構造の打破である。現状のように政府,国有企業,高所得者層などの間に様々な既得権が存在する状況を放置して再分配を拡充させていけば,かえって格差の拡大や固定化につながる危険性が高い。現在,種々の改革を進めるうえで弊害となっている既得権構造を解消していくことが,財政調整制度を機能させて様々な格差を是正してくうえで,避けて通れない課題である。

Ⅳ-4.都市化と財政負担発展方式の転換,そして経済構造改革を目指

す過程で,都市化の推進が重要な課題として注目されている。李克強総理が2012年末の中央工作会議において「人を中心とした新型都市化の推進」政策を打ち出して以降,都市化の動きが加速している。中国の都市化率は約53%に達している11)。新型都市化の目的の一つは,消費主導の経済構造への転換である。潜在力の大きい農村の消費を喚起することが不可欠であり,そのために,農民の所得増加を実現して消費の拡大を目指すものである。一方で,都市化の推進には様々なインフラ整備が必要なため,引き続き投資需要を喚起することも経済成長にとってプラスになるという意図もある。都市化の推進は,国土の均衡発展とともに,都市-農村,そして都市住民と農民の間に存在する様々な格差を是正することも大きな目的としている。現在の都市化は,大都市周辺に中小都市をバランスよく建設し,都市の急激な過密化や環境悪化を抑えつつ進めるとされている。また,開発戦略として農民から土地を収用して住宅や商業施設を建設するという手法が中心である。そして,農民には集合住宅を分配し,周辺の開発地に企業を誘致して雇用も確保し,地域の発展と生活の向上の実現を目指すものである。

11)全人口に占める都市常住人口の割合。ただし,必ずしも都市戸籍を有しているとは限らない。実質的な都市化の推進には,都市戸籍の付与とそれに伴う公共サービスの提供がなされなければならないが,現実はこうした点が伴っていないケースが少なくない。そのため,実際の都市化率は50%には遠く及ばないとみられる。

Page 20: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成26年第3号(通巻第119号)2014年8月>

-73-

しかしながら,こうした都市化政策には多くの問題がある。何よりも,都市化のための財源をどう確保するかが課題である。都市化の推進には住宅・生活インフラ,道路,病院,学校などの公共施設,商業施設など様々なインフラ整備を伴う。そのため,地方財政が厳しさを増しているにもかかわらず,都市化を口実に地方政府が投資を拡大させることにつながる危険性がある。これでは,乱開発につながって非効率な投資が拡大したり,環境の悪化を招くことになり,本末転倒である。さらに,融資プラットフォームやシャドーバンキングを通じた資金調達が拡大することにつながれば,地方債務問題が一気に深刻化することが懸念される。次に,不安定化する不動産市場の問題である。都市化の急速な推進によって土地取引が活発になれば,不動産価格の高騰につながる。しかし,不動産市場が供給過剰状況になったり資金調達が困難になると,今度は不動産価格が下落し,銀行や家計が多額の不良債権を抱えることになる危険性が高まる。これは一種のバブル崩壊であるが,これは地方政府にとっても地方債務問題に直結しているため,半ば強引に不動産価格を維持するという反市場的な動きにさえつながる。

他方で,都市化の実効性にも疑問が残る。改革の成果が,当初の想定ほど順調に得られていない現実がある。例えば,都市化政策の結果,住宅の分配は受けるものの,生活の糧であった農地を失い,生活に困窮する農民が増加している。農民は土地売却によって一時的な収入は得るが,その後は技術や知識の問題から職に就けないケースが少なくない。同時に,開発に伴って期待された企業進出が思うように進まず,求人の増加が極めて限定的となることも多い。また,急激な都市化のスピードに住宅や商業施設の建設が追いつかず,一時的に住宅を失ったり,契約の不履行なども生じている。さらには,待遇面での問題も残されたままである。都市化に伴って農民の待遇の改善も実行されなければならない。新型都市化政策は,戸籍制度改革を伴う。都市戸籍を付与するという政策も各

地で拡大しており,新たな都市に移住させられた農民は都市戸籍を付与され都市民となる。しかし,都市戸籍は与えられても,医療保険,年金などの社会保障や,教育,その他公共サービスに関しての待遇が改善されず,依然として都市住民との格差が解消されないという基本的問題が解消されていない。この点においては,特に,農民工(出稼ぎ労働者)の問題が大きい。都市部で働く農民工(出稼ぎ労働者)の数は2.6億人に達すると言われている。そのなかで実際に住宅を保有していたり,都市部の社会保障や教育などの公的サービスを受けることができる農民工(出稼ぎ労働者)は極めて限定的である。こうした人々に公的サービスを付与するとともに,住宅をはじめとする生活インフラを整えることも重要課題である。それには大きな財源が必要であり,特に中小都市の財政力を強化しなければ実現できない。

このように,現在進められている都市化の推進は,目指す方向と実態との間に大きな開きがある。特に問題となるのは,いずれの改革においても,莫大な財政負担が必要となることである。そのため,地方政府の財政圧力が大きく高まることは必至であり,財政力の脆弱な地方においては実現可能性が乏しいと言わざるを得ない。

格差の解消や消費主導による経済構造へ転換という改革の方向性は必ずしも間違っておらず,都市化の推進自体は有益な改革となり得るが,克服すべき課題が多く残されている。特に,財政負担の問題が最も深刻であり,地方財政を強化するために財政移転制度を拡充したり,事務-税源配分の調整を中心とした地方行財政制度の再整備や財源確保のための税財政改革など,抜本的な税財政改革を総合的に断行できなければ,都市インフラの整備や公共サービスの提供を充実させるという実を伴った「真の都市化」の推進は不可能である。習近平・李克強政権肝入りの都市化改革の成否は,財政改革の行方にかかっているとも言っても過言ではない。

Page 21: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題

-74-

Ⅴ.むすび―財政を巡る課題

財政を取り巻く課題はこれまでにも繰り返し指摘されてきたが,いかにもスピード感に欠け,抜本的な改革に結びついていない。税財政改革の断行は,常に既得権との対立に直面する。企業に対する課税の強化は,国有企業を中心とする既得権者の抵抗に直面するし,個人所得税の整理と課税の強化は,低所得者の不満とともに,高所得層の反発を引き起こすことにもなり,強い抵抗が予想される。また,財政力の強化にむけて集権的な改革を強化すれば,地方政府の抵抗も強まることになる。こうした多種多様な既得権,抵抗勢力を抑えて改革を進めることができるかどうかが大きく問われることになる。換言すれば,税財政改革が徹底できるか否かは,現政権の実行力を見極める重要な試金石でもあるとも言える。

2014年の全人代において,経済成長率の年間目標値が7.5%とされたことで,改革に対する政権の姿勢がすでに疑問視され始めている。また,景気の減速感が強まるなか,2014年4月に開催された国務院常務会議において,インフラ投資の拡大策が打ち出された。主たる内容は,6,600キロに及ぶ新規鉄道建設や低所得者向けの旧住宅の建て替え・新規住宅建設など,鉄道と住宅が中心である。これら事業の資金は,基金創設による起債によって民間資金を導入するとされているが,最終的には政府債務の一部となる可能性があり,財政支出の拡大要因である。さらに,中小・零細企業の企業所得税

減税も併せて実施されるため,財政圧力はさらに高まる。こうした政策の実施は,経済発展方式の転換を大目標に掲げている政権の方針を揺るがすことにつながる点が大きな問題である。経済成長の減速をある程度犠牲にしながらも,経済の構造調整を徹底して進めるということが現政権成立時の大きな方針であっただけに,景気の減速感が高まればやはり政府の景気刺激策によって支えるという従来からの手法から脱却できないとの評価につながることは,中国経済にとって深刻である。

資源配分において,市場に決定的な役割を持たせるとした第18期三中全会の決定は,中国の経済体制の大転換を期待させる。しかしながら,そのためには,政府機能自体を見直し,それに合わせた経済体制の確立,制度・政策の構築と適切な実行がトータルで行われることが不可欠であることを忘れてはいけない。政府と市場の役割を明確にしたうえで,公共部門の果たすべき役割を再整理し,効率的な政府となるよう規制改革を推進して政府機能の転換が図られなければならない。透明性を確保しつつ,個々の事務や事業,政策を各級政府間で適切に分担し,それぞれが効率的な公共サービスの提供主体となれるような制度整備の充実や法的根拠の明確化が極めて重要となる。税財政政策の果たすべき役割がますます大きくなっており,改革の行方が喫緊の課題として,これまでにも増して注目される。

Page 22: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成26年第3号(通巻第119号)2014年8月>

-75-

参 考 文 献

田中修(2011)『2011~2015年の中国経済』蒼蒼社

内 二郎(2011)「財政体制改革の再検証と評価」中兼和津次編『改革開放以後の経済制度・政策の変遷とその評価』所収 早稲田大学現代中国研究所

高培勇主編(2010)『中国財政発展報告2010/2011 “十二五”時期的中国財政改革』中国財政経済出版社

河北大学予算管理研究所編(2007)『中国政府間財政関係研究』経済管理出版社

李冬梅(2006)『中国地方政府債務問題研究』中国財政経済出版社

廖暁軍主編(2010)『財税改革縦論』中国科学出版社

劉尚希(2010)「地方政府融資熱:乱象還是創新」『人民論壇』2010年総第277期

王剣・李靖娜・羅廷婷(2009)「2000億地方債発行的実施与評価」『商業文化』2009年第8期

中華人民共和国国家税務総局「関与貫徹執行修改后的個人所得税法有関問題公告」(2011年第46号)

鐘暁敏・叶寧(2010)『中国地方財政体制改革研究』中国財政経済出版社

中南財経政法大学・湖北財政与発展研究中心・中国地方財政研究中心(2010)『中国地方財政発展報告―省管県財政体制研究』経済科学出版社

中南財経政法大学・湖北財政与発展研究中心・中国地方財政研究中心(2012)『中国地方財政発展報告―地方政府融資平台発展研究』経済科学出版社

楊小雲(2011)『新中国 中央与地方関係沿革』世界知識出版社

郝竜航・王駿編著(2012)『“営改増”―機遇与挑戦』中国財政経済出版社

周沅帆(2011)『城投債―中国式市政債券』中

信出版社陳均平(2010)『中国地方政府債務的確定,計

量和報告』中国財政経済出版社敬志紅(2011)『地方政府性債務管理研究兼論

地方投融資平台管理』中国農業出版社寇鉄軍(2011)『地方財政与体制創新』東北財

経大学出版社田志剛(2010)『地方政府間財政支出責任划分

研究』中国財政経済出版社胡徳仁(2011)『中国地区間財政均等化問題研

究』人民出版社上海財経大学公共政策研究中心・曽軍平・劉小

兵主編(2012)『2012中国財政発展報告―経済社会転型中的財政公平分析』北京大学出版社

上海財経大学中国公共財政研究院・胡怡建主編『2013中国財政発展報告』北京大学出版社

繆匡華(2013)『福建“省直管県”体制改革実践与探索』厦門大学出版社

中華人民共和国財政部(2012)「2011年中央対地方税収返還和転移支付決算表」

中華人民共和国財政部(2012)「省直管県和郷財県管改革情況」

中華人民共和国財政部(2013)「関于2012年中央対地方税收返還和転移支付決算的説明」

中華人民共和国財政部(2013)「2012年中央対地方税収返還和転移支付決算表」

中華人民共和国財政部(2013)「関与2013年中央公共財政収入予算的説明」

中華人民共和国財政部(2014)「2013年財政収支情況」

中華人民共和国審計署(2013)「2013年第32号公告:全国政府性債務審計結果」

中華人民共和国審計署(2011)「2011年第35号:全国地方政府性債務審計結果」

中華人民共和国審計署(2012)「2012年第26号公告:54個県財政性資金審計調査結果」

中華人民共和国審計署(2013)「2013年第24号

Page 23: 中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題...中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題 -54- Ⅰ.はじめに

中国の財政状況,政策および地方債務問題の現状と課題

-76-

公告:36个地方政府本級政府性債務審計結果」

中国人民共和国国家統計局『中国統計年鑑』各年版 中国統計出版社

中華人民共和国財政部『中国財政年鑑』各年版 中国財政雑誌社

中華人民共和国国家統計局 http://www.stats.gov.cn/

中華人民共和国財政部 http://www.mof.gov.cn/index.htm

中華人民共和国商務部 http://www.mofcom.gov.cn/

中華人民共和国審計署 http://www.audit.gov.cn/n1992130/index.html