関節リウマチの診断と治療...関節リウマチ(ra)とは 概念...
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関節リウマチの診断と治療
高松赤十字病院 西岡 孝
関節リウマチ(RA)とは
概念 多発性関節炎を主徴とする原因不明の 慢性炎症性疾患である 病変の主座は関節滑膜であるが、進行 すれば軟骨・骨を侵し、関節組織の 破壊や変形へと至る 疫学 人口比 0.5%(70万人)
女性に好発し、男女比は 1:3~5 好発年齢は30~50歳 症状 朝のこわばり、関節痛、関節炎、関節 変形、熱など
RAに侵されやすい手の関節
DIP
PIP
MCP・MP
手関節
RAの手指の主な変形
尺側偏位
ボタン穴 変形
スワンネック 変形
Z型変形
リウマチ手
尺側偏位
リウマチ手
ボタン穴変形 スワンネック変形
RAの足趾の主な変形
外反母趾 槌趾
関節炎症状
経過
RAの進行
関節炎症状
経過
関節炎症状
経過
多周期型 60~70%
単周期型 15~20%
進行型 15~20%
関節リウマチによる関節の変化
= 正常 =
滑膜炎
骨びらん
= 関節リウマチ =
骨
軟骨
滑液
滑膜
パンヌス
関節裂隙狭小化 関節包
宮坂 信之:日本内科学会雑誌 2001;90:1833
RA関節炎の進展
1.5年 5年 12.5年 20年 21年
発病からの年数
関節破壊の進行
RAの診断
関節リウマチの改訂診断基準
1. 朝のこわばり(≧6週)
2. 3関節以上の腫脹(≧6週)
3. 手関節またはMP関節またはPIP関節の腫脹(≧6週)
4. 対称性関節腫脹
5. 手のX線変化
6. 皮下結節
7. リウマトイド因子陽性
以上の7項目のうち4項目以上あればRA
(1987年,アメリカリウマチ協会による)
-関節破壊の経過-
Funchs HA. Et al., J Rheumatol. 16, 585, 1989
関節破壊
■ 進行例や高齢者は合併症が多く、 薬剤が使いにくく、副作用も出やすい
■ 早期ほど薬剤の効果が得られ、 寛解に導入しやすく、機能障害を軽減 できる
■ 早期に関節破壊が進行しやすい ⇒破壊前に阻止する必要がある
早期診断と早期治療が勧められる根拠
早期RAの診断基準 日本リウマチ学会(1994年)
6項目中3項目以上でRA
1. 3関節以上の圧痛または他動運動痛
2. 2関節以上の腫脹
3. 朝のこわばり
4. リウマトイド結節
5. 赤沈20mm/時以上の高 値またはCRP陽性
6. リウマトイド因子の陽性
厚生省早期RA研究班(1993年)
6項目中4項目以上でRA
1. 全身の3つ以上の関節域の腫脹:1週間以上続く
2. 手関節、MCP、PIP、または足関節またはMTPの腫脹:1週間以上続く
3. 対称性腫脹:1週間以上続く
4. 朝のこわばり:15分以上あり、その状態が1週間以上続く
5. 手または足のX線検査:軟部組織紡錘状腫脹と骨粗鬆症、または骨びらん
6. リウマトイド因子の陽性
新RA分類基準 (2010)
腫脹または圧痛関節数(0 - 5点)
1個の中~大関節** 0
2-10個の中~大関節** 1
1-3個の小関節* 2
4-10個の小関節* 3
11関節以上(少なくとも1つは小関節*) 5
血清学的検査(0 - 3点)
RFも抗CCP抗体も陰性 0
RFか抗CCP抗体のいずれかが低値の陽性 2
RFか抗CCP抗体のいずれかが高値の陽性 3
滑膜炎の期間(0 - 1点)
6週間未満 0
6週間以上 1
急性期反応(0 - 1点)
CRPもESRも正常値 0
CRPもESRも異常値 1
スコアが6点以上ならば RAと分類される
*MCP、PIP,MTP2-5、1stIP、手首を含む **肩、肘、膝l、股関節、足首を含む ***:DIP、1stCMC、MTPは除外
低値の陽性:基準値上限より大きく上限の3倍以内の値 高値の陽性:基準値の3倍より大きい値
早期での診断を確実にし、治療が必要な
症例には早期からの治療を行い関節破壊を
防止することを目的に、
「 ACR/EULAR新分類基準」が発表された。
RAの治療
DMARDs
ステロイド薬
免疫 異常
炎症 NSAIDs
RAの病態
RAの薬物治療
試験的薬物
第3選択薬 (副腎皮質ステロイド)
第2選択薬 (DMARDs)
第1選択薬 (NSAIDs)
以前のRAの治療(ピラミッド)
○抗リウマチ薬(DMARDs)はRAの活動性をコントロールする薬剤である。
○近年、DMARDsには関節破壊の進行を防止する(あるいは少なくとも抑制する)作用が明らかにされ、特に骨びらんの出現以前、またRA罹病期間が短いほどDMARDsの効果が高いことが示されている。
○早期からのDMARDs導入(RAの診断より3ヵ月以内)が勧められる【推奨A】。
○事実上すべてのRA患者がDMARDs療法の適応とみなされる。
RA治療における抗リウマチ薬の位置づけ
「EBMに基づく治療ガイドライン」のポイント (厚生労働省研究班、日本リウマチ財団発行、2004年)
①効果発現が遅発性で、投与後 8~12週かかる
②急性発症に対する消炎鎮痛効果はない
③患者によってResponderとNon-responderに分かれる
④ 2~3年の継続投与で効果の減弱が現れることがある
⑤臨床的寛解と同時に赤沈、CRP、リウマトイド因子の
改善がみられる
⑥副作用の発現頻度が比較的高く、ときに腎、肺、造血器に重篤な影響を与える
DMARDsの特徴
メトトレキ サート
金チオリンゴ酸 ナトリウム
オーラノフィン
アクタリット
ミゾリビン
ロベンザリット
サラゾスルファ ピリジン
D-ペニシ ラミン
ブシラミン
副作用
効果
強 弱
弱
強
DMARDsの効果と副作用
関節リウマチの診療マニュアル(改訂版)
薬剤 抗リウマチ
作用 推奨度
骨破壊抑制効果
【EBMの有無】
リウマトレックス 強 A あり
リマチル 中 A なし
アザルフィジン 中 A (報告あり)
メタルカプターゼ 中 B なし
オークル/モーバー 弱 B なし
リドーラ 弱 B なし
(アラバ*) 強 A あり
厚生労働省研究班(2004)
*PMSで間質性肺炎が多発したため、ほとんど処方されていない
DMARDs(MTXなど)を
3ヶ月以内に開始
ACR治療ガイドライン(2002)抜粋
初期治療
MTXが投与されて いない場合
既にMTXが投与
されている場合
MTX
ACR Subcommittee on RA Guidelines : Arthritis Rheum 2002;46:328. より改変
・ 患者教育
・ NSAIDsを考慮 ・ ステロイドを考慮
・ リハビリテーション
3ヶ月治療後も効果不十分
生物学的製剤 他のDMARDの 単独・併用投与
生物学的製剤とは、遺伝子学的手法を用いて、目的に応じて 人為的に作り替えた遺伝子を生きた細胞に導入し、この遺伝 子に作らせたタンパク質を精製したものである。
生物学的製剤は構造の違いから、 抗体製剤 (インフリキシマブ、アダリムマブなど) と 受容体製剤 (エタネルセプトなど) に分けられる。(右図)
抗体製剤:標的分子に特異的に結合することでその作用を阻害する。 標的分子との結合が比較的不可逆的であり、標的分子 発現細胞の多彩な傷害が可能という特徴がある。
受容体製剤:“おとりレセプター”として働き、標的分子を捕捉することで その働きを抑える。標的分子との結合は高親和性ながら 可逆的であり、標的分子の一過性中和以外の作用が発現 されにくい特徴がある。
生物学的製剤
標的 分子 TNF-α IL‐6 T細胞
薬剤名 レミケード エンブレル ヒュミラ シンポニー シムジア アクテムラ オレンシア
一般名 infliximab etanercept adalimumab golimumab Cetolizumab
pegol tocilizuma
b abatacept
半減期 約8~10日 約4日 約12~14日 約12~14日 約10日 約10~20日 約10日
投与量
3mg/kg (6~10㎎/㎏変更可)
25~50mg 40mg~80㎎ 50~100mg 200mg
8mg/kg 60kg未満 500mg 60~100kg 750mg 100kg以上 1g
投与 方法
点滴静注
皮下注
皮下注
皮下注
皮下注
点滴静注
点滴静注
投与 間隔
0週、2週、6週後、8週毎
(4週まで短縮可)
1週間に2回 または、1回
2週間に1回 4週間に1回 0週、2週、4週後、2週間に1回1本 または4週に1回2本
4週間に1回 0週、2週、4週後、4週毎
生物学的製剤一覧
生物学的製剤の問題点
1)従来のDMARDSの併用療法に比べると かなり高価になる
2)結核などの感染症の頻度が上昇する
3)全例に有効ではない
4)効果が持続しない
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RA治療の考え方の流れ
基礎療法
抗炎症(痛み止め)
抗リウマチ薬
ステロイド
手術 免疫抑制薬
基礎療法
抗リウマチ薬
免疫抑制薬・生物学的製剤
NSAID
ステロイド
手術
ピラミッド方式 逆ピラミッド
従来の考え方 現在の考え方
RAの手術的加療
手術的加療の目的
消炎・鎮痛
関節機能の改善
ADL動作の向上
薬物療法やリハビリテーションとの 組み合わせで行う
RAの手術療法は、
①関節破壊を予防するための手術
②破壊された関節の機能を回復させるための手術に分けることができる。
主として膝、肘、手や指関節等に行う。炎症の主体が滑膜に存在する場合に、滑膜を取り除くことにより、関節破壊の進行を止めることを目的として行われる。
手術的加療の種類
関節破壊を予防するための手術
-早期滑膜切除術-
滑膜
薬物療法がある程度奏功しているものの、炎症のコントロールが不十分で日常生活中の動作に困難をきたす症例に適応となる。
直視下術式と内視鏡下術式がある。
最近ではほとんどの場合は人工関節置換術によって行われる。
関節に必要な3つの因子(無痛性、可動性、支持性)を回復させる手術方法である。
主として膝、股関節などの荷重関節に行う。
関節破壊が進行し可動域制限が生じているか強い疼痛が残っている場合で、施術により改善できる見込みにある症例が適応となる。
〔人工股関節置換術〕 〔人工膝関節置換術〕
破壊された関節の機能を回復させるための手術
-関節形成術-
主として頸椎に行われる。
頸髄圧迫により神経障害が生じ、歩行障害や手指機能障害が起こることがあり、上位頸椎の固定術を行うことでこれらの症状の改善をはかる。
頸椎以外にも手指や足関節に行われることもある。
主として足趾の関節に行う。 足の変形を矯正することで痛みをとり、歩行の改善をはかる。 結果として普通の靴が履けるようになる。 槌指変形、外反母趾がよい適応。
〔足関節固定術〕 〔足趾切除形成術〕
-関節固定術 -
-関節形成術-
手術療法の適応部位
滑膜 切除術
関節 固定術
関節 形成術
人工関節 置換術
頸椎 肩 肘 手 手指 股 膝 足 足趾
◎
○ ○ ○ ○ ○ ○
◎
◎ ◎
◎ ◎ ○ ○ ○ ○
術前 術後
足趾形成術+足趾固定術
術前 術後
足関節固定術
前屈位 後屈位 頸椎
CT
頸椎後方固定術
術前 術後
人工肘関節置換術
術前
人工膝関節置換術
右 左
術後
右 左
29歳,女性
66歳,女性
66歳,女性
74歳,女性
手術後
55歳 59歳
61歳 62歳
右股関節 60歳時よりIFX開始 65歳,男性
55歳 59歳 61歳
63歳 64歳 65歳
60歳時よりIFX開始 左股関節 65歳,男性
TNF阻害薬療法下における下肢荷重関節の変化
GradeⅢ以上は中等度 以上の破壊+
GradeⅢ以上でTNF阻
害療法を開始された場合は、関節破壊の進行を阻止することが困難
下肢荷重関節を温存するためには、早期にTNF阻害療法を開始し疾患活動性をコントロールする必要あり
Biannual number of surgeries for Japanese outpatients with rheumatoid arthritis (RA)
participating in a single institute-based large observational cohort (IORRA).
Momohara S et al. Ann Rheum Dis 2010;69:312-313