岡山県 に於 け る豚,さ ぎ,住 民 の 日本脳炎

血球凝集抑制反応値の変動

(日 本脳炎の疫学的研究,第4報)

緒 方 正 名　 長谷川 敬 彦　 人 見 硬

粟 屋 研 吾　 寺 谷 巌

岡山大学医学部公衆衛生学教室

北 村 直 次　 長 尾 寛

岡 山 県 衛 生 研 究 所

高 橋 武 夫　 近 藤 博　 梶 清 哲 朗

岡 山 県 衛 生 部

緒 言

日本 脳 炎 は蚊 を媒 介 と す る 伝染 性 疾 患 で あ

るが,感 染 源 動 物 と して豚,さ ぎ類 等1,2,3)が

あげられている。特に豚については抗体

価の上昇が人間の流行に先立つ事がいわ

れており,流 行予測にも役立つと考えら

れてい る4)。私共は昭和40年 度岡山県下

に於ける豚(屠 殺豚及び囮豚),さ ぎ,日

本脳炎未発地域である一村の住民の日本

脳炎血球凝集反応抑制抗体(以 下HI抗

体と略す。)に ついて測定を行なつたの

で ここに報告する。

測定材料並びに測定方法

測定材料

屠殺豚血清;屠 畜場にて採血 し,直 ち

に血清分離後HI価 の測定に使用 した。

囮豚;岡 山県南部(高 松地区)農 業高

校の飼育豚について約12日 間の間隔をお

いて定期的に耳静脈より採血 し,屠 殺豚

と同様にHI価 の測定に供 した。

さぎ類;岡 山県南部の御津郡津高町及

び邑久郡邑久町において農作物を保護す

るために,特 に官庁の許可を得て銃猟を

行なつた。私共は其の際同地に赴き生存

中直ちに頸静脈より採血 し測定に供 した。

住民;岡 山県に於て日本脳炎患者の現

在迄発生をみていない英田郡東粟倉村の住民

について肘静脈より採血 し測定に供 した。豚,

さぎ,住 民の採血地は 〔第1図 〕に示す如 く

である。

第1図　 岡山県に於 ける豚.さ ぎ ・住民の血 液採血

個所; ◎豚屠殺場(岡 山市), ●→屠殺場行豚原産地,

◎ 囮豚飼育場, ▲ ごい さぎ採血地, △中(白)さ ぎ採血地, ■住民採血地(日 脳 未発地),

○ 160未満 〓 160～320 ● 640以 上のHI陽 性豚数(7

月25日 ～31日), S;県 南部, N;県 北部

32 緒方 正名 ・長谷 川敬彦 ・人見硬 ・粟屋研吾 ・寺谷巌 ・北村直次 ・長 尾寛 ・高橋武 夫 ・近藤博 ・梶清哲朗

測定方法

日本脳炎ウイルス血球凝集抑制反応;血 清

分離後直ちに豚,さ ぎ類についてはアセ トン

処理,次 で血球吸収を行ないJaGAr株 を抗原

とし,住 民血液については血清を分離 しカオ

リン処理後中山株を抗原 として国立予防衛生

研究所法5)に 従つて1日 雛血球によるHI反

応を行なつた。

日脳 豚 血 清 のDEAEセ ル ロ ー ズ カ ラ ム ク

ロ マ トグ ラ フ ィ-6); HIテ ス トで1260倍 以 上

のtiterを 示 す 豚 血 清17mlをKekwickの 硫

酸 ナ トリウ ム法 に よ つ て13.5%の 硫 酸 ナ ト リ

ウ ムで 塩 析 した γ-グロブ リン分 画 に つ い て

DEAEセ ル ロ ー ス カ ラ ム ク ロ マ トグ ラ フ ィー

を 行 な つ た 。DEAEセ ル ロ ー ズ(Pharmaica,

Upsalla, Sweden)を0.02M Phosphate buffer

よ り塩 濃 度 を高 め, 0.1Mと し,更 に0.05M

NaCIを 加 え てStep-wise Elutionを 行 なつ た。

この よ うに して 得 られ たFraction 1, 2, 3,

4,に つ い て のHl抗 体 価 の測 定 は,前 述 の

血 清 と同 じ方 法 を 用 い た 。

測 定 成 績

部に於ける屠殺豚を検体とした際の 日脳HI

陽性豚(160倍 以上)の 百分率の推移は 〔第

2図 〕に示す如 く, 5, 6, 7月 に一次流行が認

められ約205以 上の豚が陽性化 し,か つ南部

に於ては多少早い傾向が存 した。 しか し併 ら

Samplingの 方法の問題 もあり,一 次流行 は

単一峯でなく2～3の 複峯として認められた。

二次流行は8月 初旬であつてほとんどの豚

が陽性化 した。豚の50%陽 性化は南部 で は

7月31日,北 部では8月2日 であつて南部に

早い傾向は存するが,特 に南北部 間 に時間

的の著明な差異は認められなかつた。そして

二次流行より約2～3週 間遅れて患者発生の

Peakが 認め られ,ま た血清反応陽性患者 の

Peak (Mode)も 届出患者とほとんど同 じで

あつた。抗体価の変動は 〔第3図 〕に示す如

くであつて,8月 中旬以降には南北共に1280

倍以上を示すHI反 応強陽性の豚が, 50%以

上 も存在 した。

又 〔第3図 〕に見 られる様に5, 6, 7月

のHI価 はほとんどが10以 下で少数が10以 上

を示 した形で上昇するが,こ れに反 し11月以

降に於けるHI価 の低下は対象とした豚全体

に見 られ,夏 の二次流行時のHI価 の上下の幅

の分散を保ちながら,平

均 として時間と共に下降

している。 この事は5,

6, 7月 の上昇時には各

地域に於ける有毒蚊発生

の時期に豚がそれにささ

れるという要因の離散か

ら有毒蚊にさされた豚の

みが上昇するという離散

型の上昇を示 したものと

思われる。一方秋におけ

る豚は特に6ケ 月豚を選

んでいるので,夏 におけ

る豚の二次流行にさらさ

れており,し かも11月以

降になつてHI価 が全体

として低下する現象は,

屠殺豚の 日脳HI抗 体の推移;岡 山県南北

第2図　 屠殺豚血清HI抗 体 陽性率の推移及び 日本脳炎患者発生

図(各 柱 は届 出患者数を示 し,黒 柱はその うち血清反応

陽性患者数を示す)　 (昭和40年,岡 山県)

岡山県に於ける豚,さ ぎ,住民の日本脳炎血球凝集抑制反応値の変動 33

第3図　 屠殺豚血清HI抗 体価 の推移(岡 山県,昭 和40年)

豚に於けるHI抗 体 そのものが秋に至つて低

下の傾向を示すものとも考え られる。尚翌年

1, 2月 においてもHI陽 性豚が10～40%存 在

することが認め られるのは注目すべき事であ

る。その原因として前述の如 く,夏 期に子豚

の際に有毒蚊によつて刺された影響が残つて

いるものと考へられるが,母 豚より子豚への

胎盤を通してのHI抗 体の移行の問題も存在

するのでその事に関しては現在研究を行なつ

ている。その結果12月 生れの子豚に於いても

5例 中160を 示すものは2例 認められたが詳

細に関しては今後発表の予定である。月別,

郡市別,日 脳HI抗 体陽性率(20倍 以上, 160

倍以上, 1280倍 以上)は 〔第I表 〕に示 される。

地域的流行予測として,豚 抗体価の上昇は

どのような意義を持つかという点については,

未だ不明の点 も少 くない。即 ち豚抗体価の上

昇は有毒蚊 の存在の間接的な証明となる。 し

か し日本脳炎患者の発生には,前 編に述べた

如 く住民の自然免疫や,予 防接種による人工

免疫の影響があ る と考え られる。〔第工表〕

の郡市別,月 別,陽 性豚数と住民罹患率の価

示されている如 く,岡 山県ではほとんどすべ

ての豚が陽性化 したのであるか ら,邑 久郡の

例のように豚の陽性化にかかわら

ず患者発生のない地点 も存在する。

それ故時期的流行予測として豚抗

体の陽性化は,そ の約10日 後には

日本脳炎患者を発生さす可能性の

ある事を示すものと考えられる。

一方に於て患者流行に関係ある事

実として, HI反 応で1280倍 以

上 の抗体価が23例 中5例 とあら

われた倉敷市が県南では比較的罹

患率が高 く,人 口10万 に対 し4.3

であつ て,か つ北部 では罹患率

11.9を 示す苫田郡が6月 で既に2

検体中1検 体に1280倍 の抗体価を

示 したような例もあつた。

後 に 述 べ る如 く,囮 豚 の継 続 観

察 の 成 績 か らは, HI価 は最 高160

か ら640倍 を 示 して い る。 一 方 屠

殺豚では1280倍 以上の高いHI価 を示すCase

が見 られるが,こ の様なHI価 の大きなひら

きは,豚 の日本脳炎Virusに 対する感受性が

同 じであるとすると有毒蚊にみまわれた際の

感作量の相異か,あ るいは有毒蚊に再三刺さ

れる回数等の因子が関係 しているのか も知れ

ない。一般に前年度の罹患率が比較的低 く,

且つ早 くか ら抗体価の高い豚が多 く存在する

地域に日本脳炎の流行する恐れがあると考え

られる。なお 〔第1図 〕には7月25日 ～31日

に於けるHI反 応陽性豚数が記されているが,

県南では倉敷市,県 北では上房郡に第二次流

行のきざしがあらわれたようである。共に比

較的高い罹患率を示 した。

囮豚の日脳HI抗 体の推移;囮 豚の飼育地,

吉備郡高松町は県南部では比較的北方で県中

央部に位する地域である。 〔第4図 〕に示す

如 く豚50%陽 性化は8月7日 であつて,二 次

流行は屠殺豚と著明な差異は認め られなかつ

た｡ま た豚A, B, Dの 如 く8月30日 には8月

19日 に対 し下降の傾向を示 していた。このこ

とは 〔第3図 〕屠殺隊HI抗 体価の下降と関

係のある事実 と思われる。

さぎ類のHI抗 体価;御 津郡津高町に於け

3 4 緒 方 正 名 ・ 長 谷 川 敬 彦 ・ 人 見 硬 ・ 粟 屋 研 吾 ・ 寺 谷 巖 ・ 北 村 直 次 ・ 長 尾 寛 ・ 高 橋 武 夫 ・ 近 藤 博 ・ 梶 清 哲 朗

第I表

　岡

山県

の郡

市別

にお

ける

日本

脳炎HI反

応陽

性豚

数の

変動

及び

患者

罹患

率(20<;

20～2560,

160<;

160～

2560,

1280<;

1280～2560を

示す)

* (罹

患率

は人

口10万

対)

岡山県 に於 ける豚,さ ぎ,住 民の 日本脳炎血球凝集抑制反応値の変動 35

第4図　 囮豚(高 松町)の 日脳HI抗 体価の変 動

第5図　 さぎ血清のHI抗 体価

第6図　 東粟倉村(日 本脳炎 患者未発地)

住民の 日脳HI抗 体 価

る"ご い さ ぎ"の 抗 体 価 は 〔第5図 〕 に

示 す如 くで あ つ て,こ の地 域 で は ごい さ

ぎ と,中 さ ぎ(白 さ ぎ)は 同 じ山 頂 に 巣 を

持 つ て い た が,ご い さ ぎ に の み親2/6,子

3/4,計5/10(50%)のHI抗 体 陽性 さ ぎ が

認 め られ,中 さぎ に は認 め られ な か つ た 。

な お 邑 久 郡 邑久 町 の 成 績 で はHI反 応

陽性 を示 す ご い さ ぎ は 認 め られ な か つ た 。

日脳未発地域のHI抗 体価;岡 山県は

全国有数の日本脳炎多発県であるが,英

田郡東粟倉村のみは現在迄一名の患者発

生 も認め られなかつた地域である。今年

度は村民の一部に始めてワクチン接種を

行なつた。〔第6図 〕に示 す如 く,未 接種群

に於いて8月20日 迄にHI反 応が陰性であつ

た事実は,こ の地が日脳に感染の可能性のあ

まりなかつた事を示す所見である。また接種

群に於いてはHI値40倍 以上で判定した場合

5096反 応陽性化が認められた。以後の継続測

定成績は次回に報告する。

日脳 豚血 清 γ GlobulinのDEAEセ ル ロ ー

ズ カ ラム ク ロマ トグ ラ フ ィ ー;〔第7図 〕に示

され る様 に 各分 画 にHI抗 体 の存 在 が 認 め ら

れ る が,各 分 画 の280mμ の 吸 収, OD280=

1.0に 対 す るHI抗 体 価 の 比 は分 画1に 於 い

て313,分 画2に 於 い て200,分 画3に おい て,

372,分 画4は800を 示 し, HI抗 体 は分 画4

に高 い事 が わ か る。 しか しな が ら感 染 して か

36 緒方 正名 ・長谷川敬彦 ・人見硬 ・粟屋研吾 ・寺谷巌 ・北 村直次 ・長尾寛 ・高橋武夫 ・近藤博 ・梶清哲朗

第7図　 豚 血 清 γ グ ロ ブ リ ン分 画 の ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー(DEAEセ ル ロ ー ス,カ ラ ム)

カ ラ ム; 1.3×15cm, 1; 0.02M Phosphate pH 7.0, 2; 0.05M Phoehate PH7.0,

3; 0.1M Phosphatep H 7.0, 4; 0.1M Phosphate PH 7.0+0.05MNaGl

らの 採 血 日時 に よ つ て γ GlobulinのSubfrac

tion中 に お い て抗 体 が 高 く存 在 す る分 画 が 移

動 す る可 能 性 は考 え られ る ので,こ の 点 に つ

い て は 今 後 研 究 を 進 め るつ も りで あ る。 尚 分

画1は7 S,分 画4は19 Sで あ る と云 わ れ

て い る。

考 案

日本 脳 炎 ウ イ ル ス伝 播 サ イ クル に 於 け るア

ンプ リフ ァイ ヤ ー と して は,豚 及 び さぎ の 重

要 性 がBuecher, Scherer7)等 に よつ て とな え

られ て い る。 就 中豚 に つ い て は 中村 の実 験成

績8)に 於 け る如 く,感 染 後平 均3日 よ り始 ま

り2～3日 間 に及 ぶ ウ イル ス血 症 の期 間 が あ

る と いわ れ て お り,今 野,石 田等4)に よ る昭

和39年 度 の 宮 城 県 の 測 定 例 で は,先 ず 豚 の

一 次 流 行(豚 の約20%の 陽 性 化 で ,こ れ は

豚 相 互 間 の 流 行 と考 え られ て い る。)は7

月 中 旬 に認 め られ,二 次流 行(豚 の ほ と ん ど

100%陽 性 化 で,人 の 流行 に密 接 な 関係 が あ

ると考 え られ る。)は8月1日 より8月7日

の間であり,そ れより約20日 後に患者発生の

中心が認められている。岡山県では過去15年

間南部の流行が北部のそれより1週 間先行す

る傾向があつたので,豚 の陽性化との関係を

求めた。 しかしながら検査の対象となつた豚

舎の数や分布地区が関係 しているのか も知れ

ないが,一 次流行は南部では7月7日 迄に20

%以 上のPeakが3回 現われ,そ の内最初の

Peakは5月 中旬であつた。北部では20%以

上のPeakが2回 現われ,最 初のPeakは6

月中旬で多少一次流行の遅れる傾向があつた。

二次流行は8月 初旬に現われ, 50%陽 性化

は南部7月31日,北 部8月2日 で南部は3日

早いのみで特に大差はな く,そ れより2～3

週間後県南8月16日,県 北8月26日,全 県8

月20日 に患者発生の中心(Median)が 現われた

事は宮城県の例とほとんど等 しい。それ故南

北部患者発生の差は豚陽性化の差の他にコガ

タアカィエ蚊,特 に有毒蚊の発生の差等 も加

岡山県に於ける豚,さ ぎ,住 民の日本脳炎血球凝集抑制反応値の変動 37

はつていると思はれ る。次に岡山県と他県と

の比較では既に述べた如 く,岡 山県の患者発

生の中心は過去4年 間高知県のそれより約10

日間遅れているが,神 戸集団会(厚 生省主催)

に於ける高知県衛生研究所の成績では一次流

行は6月19日 前後に10.3%, 6月30日 前後に

13.1%程 度の小流行が見 られ,つ いで二次流

行に於ける豚50%陽 性化は7月 中旬であり,一方患者発生のMedianは8月9日 であつた。

岡山県の二次流行の50%陽 性化の月 日は7月

31日 より8月2日 であり,患 者発生のMedian

は8月20日 であつた。即ち高知県,岡 山県で

は豚の二次流行もまた患者発生のMedianも

約10日 間高知県が先行 しているようである。

しかし豚抗体の上昇と患者発生の期間が必ず

しも各県で全 く同じであるとは考えられない

ので,こ の点については多数の県の成績より

判断すべきものと考えられる。

豚のHI抗 体の陽性化の月日数と患者発生

の月日との関係を有毒蚊が豚を刺 した後 の

成績 よ り計算す る と,〔 第8図 〕の模型図

に示す よ うにな る。即ち豚が有毒蚊にささ

れてから4～7日,平 均5日 にウイルス血症

を起すといわれている。ウイルス血症の血液

を吸つた蚊は2週 間後に人間に対する感染性

を帯びるので,平 均 して,豚 が吸血 してから

約19日 後には人間に対する感染性を帯びた有

毒蚊 となるわけである。人間自身の潜伏期は

約3日 といわれているので,有 毒蚊が豚をさ

してより約22日 後には初期の患者の発生する

第8図　 豚,蚊,人,の 日本脳炎 ウイルス伝播 サイクル模式 図

(昭和40年,岡 山県)

可能性がある。一方豚が有毒蚊に刺されてか

ら約14日 後には豚の抗体が検出されるといわ

れているので豚の抗体が陽性化 して約8日 後

には日脳の患者は発生するはずである。昭和

40年 の成績より考えて豚の50%陽 性化は8月

1日 頃であつて,患 者の初発が8月14日 に認

められているか らこの豚の陽性化より患者発

生までの期間は約13日 であつて,こ の理論値

と大差はないように思われる。

さぎ は 同 様 にBuescher, Scherer7)に よ つ

て 鳥類 の ア ンプ リフ ァイ ヤ-と い われ て い る

が,特 に ごい さぎ の み は コ ガ タア カ イエ蚊 の

嗜 好性 の あ る鳥 とい わ れ て い る。 北 岡等9)に

よ れ ば,ご い さぎ に20%,中(白)さ ぎ に4%

の 中 和 抗 体 の 保 有 が 認 め られ,春 夏 の季 節 的

な 差 異 は割 合 に少 な い と い う。 然 し乍 ら補 体

結 合 抗 体 は証 明 され て い な か つ た 。私 共 はHI

反応で津高 町 に於 いて ごい

さぎ中50%がHI反 応陽性で

ある事を見出 したが,同 じ山

頂に巣をもつ,中(白)さ ぎ

血清にはHI抗 体は見 出され

なかつた。ごいさぎは豚と異

り行動半径が大であるのでア

ンプ リフ アイヤーとしてはあ

る程度離れた場所に流行を移

行させ るという意義が有るの

ではあるまいか。隣接 した西

粟倉村には日本脳炎患者が発生 しているのに,

何故豚を飼育 している東粟倉村に患者の発生

がなかつたのかは不明である。然 し乍 ら日本

脳炎ワクチン未接種群には日脳HI抗 体が陰

性であるので感染はあまり認められなかつた

のではあるまいか。一方に於いて接種群には

50%し かHI抗 体が陽性化 しなかつた。その

理由としては注射量が0.1ml皮 内接種2回 の

みであつた点,又 この地方の住民はあまり日

脳の不顕性感染を受けていないので,ワ クチ

ンが初回免疫の形になつているのではあるま

いか。大谷氏の北海道における初年度のワク

チン接種の時に余り抗体価の上昇が見 られな

かつた例10)と様と思われる9こ れに反 し流行

38 緒方正名 ・長谷加敬彦 ・人見 硬 ・粟屋研吾 ・寺谷巌 ・北村直次 ・長尾寛 ・高橋武 夫 ・近藤博 ・梶清哲朗

地のワクチン接種は木顕性感染を経た人に対

してワクチンそのものが追加免疫の形となつ

ていると考えられる。

結 論

昭和40年 度岡山県下における豚,さ ぎ.住

民の日本脳炎血球凝集反応抑制抗体(HI抗

体)の 定量を行い.以 下に示す如き成績を得

た。

I.県 南,県 北 部 屠 殺 豚 に お い て は, 5月

よ り始 ま り, 6月 中,下 旬 に一 次 流 行 が認 め

られ た 。 更 に8月 初 旬 に二 次 流 行 が認 め られ,

殆 ん ど の 豚 が 陽性 化 した 。50%陽 性 化 は 県 南

7月31日,県 北8月2日 で あ り,血 清 反 応 陽

性 患者 は県 南 で は8月14日,県 北 で は8月23

日に あ らわ れ た 。一 方,患 者 発 生 の 中心(Med

ian)は 県南8月15日,県 北8月26日 で あ つ た。

ま た 囮 豚 に お い て も殆 ん ど 同様 の傾 向 が認 め

られ た 。 屠 殺 豚HI抗 体 価 は11.月 以 降 に 明か

な 減 少 を 示 す が 尚 翌 年1, 2月 に於 い て10～

40%に 及ぶHI陽 性豚の存在がみとめられた。

皿.県 南部津高町のさぎ山において捕獲 し

たごいさぎにおいては50%,HI抗 体の陽性

化が認あられたが,共 棲 している中さぎ(白

さぎ)に は認め られなかつた。

III.岡 山県 日本脳炎患者未発地域(東 粟倉

村)の 住民の 日脳HI抗 体については7月29

日, 8月20日 の測定成績では 日脳ワクチン未

接種群では抗体陽性者は認め られず. 0.1ml,

2回 の皮内接種によつて接種者の50%に 陽性

化が認められた。

IV.日 本 脳 炎 感 染 豚 血 清 の γ globulinを

DEAFセ ル ロー ズ カ ラ ム ク ロ マ トグ ラ フ ィ ー

に よつ てSubfractionに 分 離 し,抗 体 活 性 度

の 高 いSubfractionを 得 る こ とが 出 来 た。

項を終 るに臨み, JaGAr株 の供 与に御 配慮 を受け

た国立予防衛生研究所,大 谷明博士,及 び技術上 の

御援助を戴いた岡山大学脳炎研究室,井 上功一 君に

感謝 の意を表 します。

文 献

1) Sabin A. B., Ginder D. R., and Matumoto, M.;

Am. J. Hyg., Vol. 46, 341 (1947).

2) Buescher, E. L., et al; J. Imm., Vol. 83, No.

6, 605 (1959).

3) Scherer, W. F,. et al; J. Imm., Vol. 83, No.

6, 602 (1959).

4) 今野二郎 他,医 学の あゆみ. 53巻, 3号, 113,

(1965).

5) 国立予防衛生研究所編,日 本脳炎 ウイルスの血

球凝集反応 及び血清診断のための血球凝集抑制

反応 の 新 しい方法 につ いて.改 訂2版(1962).

6) Fahey. T. L. Horbett. A. P.; J. Biol. Chem.,

Vol. 234, 2645 (1945).

7) Buecher, EL. Scherer. W. F.; Am. J. Trop.

Med. Hyg., Vol. 8. 644 (1959).

8) 中村 〓 治他:第12会 ウイル ス 学 会 総 会 発 表

(1962).

9) 北 岡正 見 等;日 本 脳 炎 調 査 研 究 協 議 会 . 42

(1950-1951).

10) 大谷 明,小 児 科 臨 床; Vol 17, No. 1, 32 (1964) .

岡 山県に於 ける豚,さ ぎ,住 民の 日本脳炎血球凝集抑制反応値の変動 39

Haemoagglutinin Inhibition Test of Japanese B Encephalitis in the Serum

of Swine, Heron and Inhabitants in Okayama Prefecture.

(The Epidemiological Study of Japanese B Encephalitis in Japan, Part 4)

by

Masana Ogata, Norihiko Hasegawa, Katashi Hitomi and Kengo Awaya

Department of Public Health, Okayama University Medical School

Naoji Kitamura and Yutaka Nagao

Institute of Hygiene Okayama Prefecture

Takeo Takahashi, Hiroshi Kondo and Tetsuro Kajikiyo

Public Health Section, Health Department Okayama Prefecture

(Director; Prof. Masana Ogata, Department of Public Health, Okayama University Medical School)

Haemoagglutinin inhibition test (HI test) of Japanese B Encephalitis was conducted in the people, pigs and hercn that lived in Okayama Prefecture in 1966, and following results

were obtained.1. The first epidemic in the pigs in the year was shown on the middle of June and 20%

of the pigs showed positive HI test, 1: 160 or above. The second wide epidemic in the pigs was also observed in the begining of August and all of the pigs showed positive HI test. The above results were obtained from the HI test of pigs in the slaughterhouses, and the HI test of serum obtained from the ear vein of pigs in the breeding house also showed similar results.

2. On the HI test of night heron, caught at the nests in the mountain at Tsudaka Village,

half of heron showed positive reaction. However HI test of white heron lived in the nests near

the nests of night heron, showed negative reaction.

3. On the HI test of inhabitants in Higashiawakura Village, where the patient of Japanese

B Encephalitis has not been found, a half of the inhabitants injected Japanese B Encephalitis vaccine showed positive reaction and the non vaccinated group showed negative reaction.

4. The high specific active antibody of HI reaction was prepared from pig T globulin by

DEAE cellulose column chromatography.