近代巨大株式会社の資本調達様式 -...

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No.3 弘前大学『経済研究』 October1980 -24《研究ノート》 近代巨大株式会社の資本調達様式 一一フィッチとオッ ベンハ イマ一対スウイージーの論争をふり かえって一一 1 特有な資本調達様式 現代の社会において,決定的な役割を演じて いる経済主体は,巨大企業であ る。そして,そ れは,莫大な数の出資者達により共同所有され ている近代株式会社であることも ,言うま でも ない。 したがって ,近代巨大株式会社が,いかなる 経済活動を遂行するかということ ,いかなる法 則性をもって運動 してい るかと いうこと,すな わち,現代巨大株式会社の本質的理解は,経済 学のみならず社会科学全般にとり ,重要な意義 を持つのである。 例えば, A.A. バーリは,現代巨大株式会社 に直接関連する諸領域を,次 の よ う に 整 理 し た。1) 1.現代巨大株式会社は,「私有財産制度の 法理論と実務との両方に,油断のならない 変化をもたら した」 2.現代巨大株式会社は「生産と交換を, 自 由(競争〉市場(機構)から管理価格(市 場〉機構のもとへ移行させた」こと ,すな わち,不完全市場あるいは独占の契機をも たらした。 3 それは,「国家統制主義者が編成した人 1) Adolf A. Berle, Jr., "Foreword",in Edward S. Masoned. ,TheCorporationinModernSociety, 1970, ppIX x. この編著書は,前舎によると ,近代巨大株式会社につ いて ,アメリカ諸学による業績を収録した「最善,唯一 の論文集Jである。ちなみに,前舎のパ一日と,序のメ 経済学者 4 名,経営学者 2 名,法学者 6 名,政治家 1 名, 社会学者 2 名である。 ag 間集団や金融機構とみまちがえるほどの , 巨大な人的組織と資本集中機構を発現させ T こ」。 4.その権力(の性格や行使〉をめ ぐる問題 は,ますます深刻化してきた。 5 特に最近のことであるが,その利潤の分 配様式は,巨大株式会社に対する 制度的な 諸利害の衡突が生じる状況に即して,特有 の形態をとり始めたJ 。 その形態たるや, 「利潤の社会化とみまちがうほどのもの」 である。 以上のように,バーリは,近代巨大株式会社 の影響の大きさを,産業革命に匹敵するほどの 社会的変革とみなしているのである。ここに掲 げられた問題領域は,経済学,経営学,法学, 政治学,社会学など,社会科学のあらゆる分野 に係わりを持つものである。 本稿は,近代巨大株式会社の壮大な問題領域 を網羅するまでには至らず,その本質を把握す るための基礎的なメノレクマ ール の一角を占める 資本調達様式につい てのみ,考察す るものであ る。この様式は,近代巨大株式会社を支配する ものが,所有者ではなくなり, 「経営者」にな ったとする 「経営者支配J 説によれば,特有の 形態をと るはずで‘あ る。資本調達様式の特有な 形態とは,株式所有の高度分散および,外部資 金への依存の低下=自己金融の増大である。特 有の形態の「予言」は1930 年代になされており , 近年にはこの形態の変容を指摘することによ り 「経営者支配」説を根本的に震憾させるかとみ られる論争が惹起されている。それは,フィッ チとオッベンハイマ ーに対するスウイージ ーの

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Page 1: 近代巨大株式会社の資本調達様式 - 弘前大学human.cc.hirosaki-u.ac.jp/economics/pdf/treatise/3/... · 2016. 1. 22. · 4) Victor Perlo, "The Empire of High Finance,"

No.3 弘前大学『経済研究』 October 1980

- 24ー

《研究ノート》

近代巨大株式会社の資本調達様式

一一フィッチとオッベンハイマ一対スウイージーの論争をふり かえって一一

1 特有な資本調達様式

現代の社会において,決定的な役割を演じて

いる経済主体は,巨大企業である。そして,そ

れは,莫大な数の出資者達により共同所有され

ている近代株式会社であることも,言うまでも

ない。

したがって,近代巨大株式会社が,いかなる

経済活動を遂行するかということ,いかなる法

則性をもって運動しているかということ,すな

わち,現代巨大株式会社の本質的理解は,経済

学のみならず社会科学全般にとり ,重要な意義

を持つのである。

例えば, A.A.バーリは,現代巨大株式会社

に直接関連する諸領域を,次のように整理し

た。1)

1.現代巨大株式会社は, 「私有財産制度の

法理論と実務との両方に,油断のならない

変化をもたらした」

2.現代巨大株式会社は「生産と交換を,自

由(競争〉市場(機構)から管理価格 (市

場〉機構のもとへ移行させた」こと,すな

わち,不完全市場あるいは独占の契機をも

たらした。

3 それは, 「国家統制主義者が編成した人

1) Adolf A. Berle, Jr., "Foreword", in Edward

S. Mason ed., The Corporation in Modern Society,

1970, pp IX~x. この編著書は,前舎によると,近代巨大株式会社につ

いて,アメリカ諸学による業績を収録した「最善,唯一

の論文集Jである。ちなみに,前舎のパ一日と,序のメ

イスンをはじめ,その他13~請の論文の執筆者の内訳は,経済学者4名,経営学者2名,法学者6名,政治家1名,

社会学者2名である。

子 ag

間集団や金融機構とみまちがえるほどの,

巨大な人的組織と資本集中機構を発現させ

Tこ」。

4.その権力(の性格や行使〉をめぐる問題

は,ますます深刻化してきた。

5 特に最近のことであるが,その利潤の分

配様式は,巨大株式会社に対する制度的な

諸利害の衡突が生じる状況に即して,特有

の形態をとり始めたJ。 その形態たるや,

「利潤の社会化とみまちがうほどのもの」

である。

以上のように,バーリは,近代巨大株式会社

の影響の大きさを,産業革命に匹敵するほどの

社会的変革とみなしているのである。ここに掲

げられた問題領域は,経済学,経営学,法学,

政治学,社会学など,社会科学のあらゆる分野

に係わりを持つものである。

本稿は,近代巨大株式会社の壮大な問題領域

を網羅するまでには至らず,その本質を把握す

るための基礎的なメノレクマールの一角を占める

資本調達様式についてのみ,考察するものであ

る。この様式は,近代巨大株式会社を支配する

ものが,所有者ではなくなり, 「経営者」にな

ったとする 「経営者支配J説によれば,特有の

形態をと るはずで‘ある。資本調達様式の特有な

形態とは,株式所有の高度分散および,外部資

金への依存の低下=自己金融の増大である。特

有の形態の「予言」は1930年代になされており ,

近年にはこの形態の変容を指摘することによ り

「経営者支配」説を根本的に震憾させるかとみ

られる論争が惹起されている。それは,フィッ

チとオッベンハイマーに対するスウイージーの

Page 2: 近代巨大株式会社の資本調達様式 - 弘前大学human.cc.hirosaki-u.ac.jp/economics/pdf/treatise/3/... · 2016. 1. 22. · 4) Victor Perlo, "The Empire of High Finance,"

近代巨大株式会社の資本調達様式

論争である。

2 調達様式の変化

財産の所有者は,私有財産制のもとでの当然、

の権利として,その財産の排他的な支配権を持

つのであり,その管理と利用の成果をわがもの

とする。そのことは,個人企業においては,出

資した個人が,みずから経営を担当し,その利

潤を享受するというように現われる。株式会社

においても,株主達は,会社財産を共同所有し,

持株に比例する議決権により株主総会を通じて

最高の経営意思を決定し,持株に比例した利潤

の分配を享受する。

とこ ろが,株式会社では,その規模が巨大化

し,株主数が莫大になると共に,その所有者に

よる会社支配は,事実上,経営者ーによる会社支

配に道を譲ることになり ,私有財産制の変容が

もたらされたと言うのが,パーリとミ ーンズに

よる「経営者支配」説の骨子である。2〕両氏は,

これを裏付けるために,二面からの実証研究の

成果を提示した。その第ーは,巨大株式会社の

最大級の株主達の持株比率を調査したことであ

る。その結論として,最大級の株主といえども,

その持株比率が数パーセントに過ぎず,株式会

社の最高意思決定機関である株主総会の議決を

左右するほどの力を有していない。このため,

経営者は,委任状機構などの手段も援用するこ

とにより,その任免が株主によってなされる恐

れが解消し,自らをその地位に再選することが

可能であるとした。その第二は,判例を豊富に

調査したことである。その結論と して,裁判所

は,私有財産制ないし株主の権利を厳格に保護

するというよりは,むしろ,経営者により自由

裁量される領域の拡大をますます容認している

としずこ。

第一の実証研究に対しては,同様の他の調査

2) Adolf A. Berle, Jr. and Gardiner C. Means, "The

Modern Corporation and Private Property", 1932.

北島忠男訳「近代株式会社と私有財産」。

この主張は,その後の著書にも,引き継がれているが,

その内, 近年では, AdolfA. Berle, "The American

Economic Republic", 1963. ffl'i山英夫訳「財産と権力J。

一一 2:i-

による反証が少くない。その内,最も有力な調

査は, T.N.E.C.調査であり ,のそれを援用し

たV.パーロ の反証であった。4)しかし,ノミーリ

とミーンズも,T.N.E.C.も,その調査対象年

次が1930年代近辺であった。したがって,この

実証の成否はその後の調査に委ねられているが,

注目すべきものは1960年代の R.J.ラーナーに

よる調査と,5)アメリカ下院銀行・通貨委員会

による調査(通称パットマン委員会報告〉であ

ろう。6)

このパットマン委員会報告を援用して,近代

巨大株式会社の資本調達様式を分析し, 「経営

者支配」説を否定し, 「金融資本支配」を論証

したのが,フ ィッチとオッベンハイマーであ

る。7〕彼等は,近代巨大株式会社の資本調達様

式の特徴を,次のように描いた。

「かつてないほど集中度を増した商業銀行機

構は,過去の時代の個人的株式所有が見劣り す

るほど大量の信託保有株を支配する。 一ー 『フ

ォーチ・ュソ』誌500社のうちの147社は,それら

の株式の 5%以上を, (パットマン委員会の〉

調査対象の銀行49行のどれかによって所有され

ている。 一・0・総じて言えば,銀行49行は,5270

社の一種類ないし数種類の株式を少くとも 5%

以上所有している ・これを平均してみると,

一銀行当り 108社になる。JS)

3) Temporary National Economic Committee, Mo・

nograph No. 29, '‘The distribution of ownership in

the 200 Largest Nonfinancial Corporations,'’ 1940

その紹介と批判は,上林貞治郎著「現代企業における資本 ・経営 ・技術」。

4) Victor Perlo, "The Empire of High Finance,"

1957.浅尾孝訳「最高の金融’帝国J。5) Robert J. Larne工J‘Ownershipand Control in the

200 Largest Non-financial Corporation, 1929 and

1963.”三戸公訳, 『ii}大非金融h200社における所有と支

配, 1929年と1963年との比較』,「立教経済学研究」第21巻 l号所収。6) The House Subcommittee on Bani口ngand Cu-

rrency, "Report on Conunercial Banks and Their

Trust Activities (the Patman Peport) ,'’ 1968.志村嘉

一訳「銀行集中と産業支配ーーパットマン報告J1970年。7) Robert Fitch & Mary Oppenheimer, '河川.10I<ules

the Corporations?,'’ 1970.岩田巌雄 ・高橋昭三監訳「だ

れが会社を支配するかーー金融資本と『経営者支配』j。

筆者はその一部を訳している。以下引用は F&Oとする。

8) F & 0, op. cit., partl, p. 99. 邦訳38頁。

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一26

「規模別に会社を分析してみると,2億5000

万ドル以上の資産をもっている巨大企業がまさ

に最大の長期負債を負っている」。9)

最大1000社の財務報告内容によると, 1968年

~1969年度聞に,運転資本は危機的状態にまで

悪化している。」当座比率も 27.4%から 22.2%

へ低下した。10〕

「連邦通商委員会(FTC)の数字によると,

最大級の株式会社が,信用において最大のシェ

アを占めている」。

合州国での利潤率は1965年はじめから低落し,

巨大株式会社のみではなく ,株式会社全体でみ

ると,新投資の総所要資本調達額のなかで,未

配分利潤からの供給率は,1968年には19.9%に

まで減少した。

「1956~1965年の聞に,金融機関は,非金融

会社が利用した外部資金のおよそ 3分の 2を供

給した」。11)これは史上空前の率である。

かく して,フィ γ チとオッベンハイマーは,

近代巨大株式会社の資本調達の内では,・自己金

融の比重が低下し,外部資金への依存が顕著に

なったという変化を実証した。そして,外部資

金の最大の供給者であるとともに,最大級の株

主である金融機関が,近代巨大株式会社を支配

していると結論付けた。

これに対して,スウイージーは,次のような

批判を加え,変化を否定している。

銀行の信託部門は,特定の会社の株式を大量

に保有しているとしても,その会社の支配を行

うとは限らない。フィッチとオッベンハイマー

は, 「銀行信託部門の株式保有と株式会社支配

との聞の因果関係を証明するただひとつのケー

スさえ提供してくれないのである。J12)

合州国経済を支配している数多くの巨大企業

は「追加資本を調達したし、と一 ,数多く存在

9) F & 0, op. cit., part2, p. 74. 邦訳64頁。

10) F & 0, op. cit., part2, p. 76. 邦訳66~67頁。

11) F & 0, op. cit., p町 t2,p. 74. 邦訳64頁。

12) Paul M. Sweezy and Harry Magdoff, "The Dy-

namics of U.S. Capitalism,'’ 1972. p. 115.以下引用は

D戸 市miesとする。

岸本重陳訳「アメリカ資本主義の1fiJJ態J170~171頁。

しう る貸手のうちから選別して---最終的には,

金融家に対して自分自身の側の条件を押しつけ

ることができる。」13〕

かくして,スウイ ージーは, 「たんに産業と

公益事業だけでなく ,銀行およびその他の営利

的金融諸機関をふくめて,株式会社を支配する

のは独占資本である」と結論する。14)

3 財務意思決定

近代巨大株式会社の資本調達様式に限定して,

フィッチとオッベンハイマーに対するスウイー

ジーの論争点を上述のように整理してみると,

その鋭い対立が明確になろう。 しかも,両者と

も,その主張の裏付けと して, 豊富な実証資料

を用意しているため,軽々な論争の評価は慎し

まねばなるまい。しかし,あえて論じることに

しよう。

まず,株式所有についての論点から見てゆこ

う。スウイージーは,銀行の信託部が保有する

株式と,会社支配との因果関係について「ただ

ひとつのケースさえ提供」されていないと評す

るが,これは了解しがたい。フィッチとオッベ

ンハイマーは,文中に次のような例を挙げてい

る。金融機関の議決権は,会社の合同を促進ま

たは阻止したとし、う例を,六件。次に,会社の

長期販売目標,そのための広告予算,社員の雇

用の拡大,重役の報酬額などを, 会社に提案し

て,それに従わせた例を,二件挙げていた。

しかし,スウイージーにとっては, 「それら

の逸話のすべては,各金融機関の業務の大部分

は,いろいろなやり方で企業と取引をしている

ということ以外には,けっきょく何も言ってい

ない」と見えるのであるから, 15)われわれは更

にフィッチとオッベンハイマ一説を支持する論

拠を,次に補強しておこう。

これらの事例が,金融機関と企業との業務的

「取号Uを示すと理解すべきか,それとも会社

支配を示すとするか判断するためには,ありう

13) Dynamics. p. 125. 邦訳187頁。

14) Dynamics. p. 141. 邦訳214頁。

15) Dynamics. p. 120. 邦訳178頁。

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近代巨大株式会社の資本調達様式

ベき誤解を解いておかねばなるまし、。その誤解

とは,銀行の持株比率は 5%程度であるから,

会社支配が不可能との判断である。彼等は,特

定の銀行の信託部が,特定の会社の株式の 5%

程度を保有したことのみで,会社支配を論証し

てはいない。16) 「その持株が,利害の一致した

諸銀行の支配する多少とも少ない持株数と結合

するさまざまな場合」に,会社への発言権を有

効に行使するのであり,まずこ,この保有株が銀

行と会社との「兼任重役制を実質化」し, 会社

へ影響力を及ぼす,と彼等は説いている。17)こ

のために,彼等は,商業銀行相互の株式持合や

合併の事実のみならず,他の金融機関(特に保

険会社〉との合同の事実を列挙し,商業銀行が

「単一銀行持株会社 one-bank holding com

pany」を創設するに至るという,金融諸機関の

集中について多大の頁をさいているのである。

また,彼等の著書の全編にわたって,兼任重役

制の事例が数多く登場している。

したがって,われわれは, 単なる特定の金融

機関による会社支配ではなくて,金融独占体に

よる会社支配の有無を問題にしているというこ

とを,銘記しておかねばならなし、。その上で,

われわれは,金融機関の影響力の増大を分析し,

それが何をもたらすかという研究を遂行した第

三の著書を参考に判断しよう。

D. Jパームと N.B.スタイルスは,機関投

資家と会社支配の研究を,詳細に行っている。

この機関投資家とは,銀行,保険会社,貯蓄貸

付組合,年金基金,投資会社,大学基金,財団

を指す。この内,貯蓄貸付組合は,ほとんど株

式を所有しないし 大学基金および財団も,そ

の資金の半分を株式投資へ運用するにすぎない。

それらを除いた機関投資家が,会社支配に直接

的に関連する株式投資への運用比率が高いもの

である。特に,投資会社の代表格である「ミ ュ

ーチュアル ・ファンドおよび年金基金は,株式

16) 「5パーセン トの持株は,それだりでは会社を支配す

るにはまったく不充分である。j

F & 0, op. cit., part2, p. 100. 邦訳38頁。

17) F & 0, op. cit., part2, p. 99. 邦訳38頁。

- 27ー

投資への運用比率がきわめて高いJ。18)

ところで,銀行は,年金基金の 4分の 3を信

託契約にもとづいて運用している。 「保険会社

と商業銀行の資産(信託部の資産を含む)は,

合計すれば,合衆国の機関投資額……の4分の

3以上に達する」。19)銀行は,保険会社との合同

を進め, 「単一銀行持株会社」を通じて,合州

国の機関投資の20分の lを占める ミューチュア

ル ・ファンドを支配しつつある。 かくして,商

業銀行を総帥として,機関株主の連合軍が,会

社支配をするか否かをわれわれは明らかにすれ

は;よし、。

さて,パームとスタイルスが挙げた事例は 6

つある。強大な通信販売会社モンゴメリ ・ワー

ド社の社長交替劇で,ほとんどの銀行,信託会

社,保険会社,投資信託は一致して,決定的な

議決権を行使した。ニューヨーク・セントラル

鉄道の乗取り劇で, 減配にふみきった経営者側

は,機関投資家から一括して支持の投票を拒否

されたため,敗北した。マサチューセッツ ・イ

ンベスターズ ・トラスト(投資信託〉社は,投

資先の会社の合併や退職金の提案に対して, 反

対の投票をした。以上の件が現実の議決権行使

の事例である。残りの例では,機関投資家が,

議決権の行使以前に,会社へ圧力をかけている。

それは,経営者に,役員報酬の引上げを断念さ

せたり,合併を断念しないとみるや,持株を処

分することにより ,その会社の株価を暴落させ

た,とし、う事例がある。そして最後は,保険会

社が産業会社への融資を与える代償として,内

部留保を強制した り,資本投資や会社財産の抵

当入れや長期契約を制限した事例である。20)

18) D.]. Baum and N. B. Stiles,“The Silent Partners

一一ーInstitutionalInvestors and Corporate Control,"

1965.

坂野幹夫訳「機関投資家と会社支配J51頁。19) F & 0, op. cit., part2, p. 103. 邦訳42頁。

20) Baum & Stiles, op. cit., cap. 4. 邦訳第4章。

しかし,機関投資家の強大な権力の行使目的につ←て

は,フイッチ逮とパーム逮とは,見解が臭っている。フ

ィッチ逮は,それが会社を支配することによりあくなき

金融利潤の追求をめざすとみなしているが,パ ム達は,

会社に「責任ある行動Jをとらせることを要求するとみ

なしている。また,フィッチ逮は,その行使が既に常態

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28ー

かかる事例は,フィッチ等のそれと極めて類

似しているだけでなく ,バーム達も,機関投資

家が強大な権力を有していることを描き出して

いる。そして,それは,株式会社の財務意思決

定についての要求を主としていることにわれわ

れは注目しておこう。

4 内部資金と外部資金

資本制企業は,競争に打ち克つために,いや

存続するためで、さえ,優秀な機械・設備を導入

し,大規模化を絶えずはかつてゆかざるをえな

い。つまるところ, 資本の有機的構成が高度化

するとともに,固定資本の比重が増大してゆく。

したがって,これに充当しうる資金源泉は,株

式発行および内部留保であり,それらに準ずる

ものが長期借入(社債も含む)である。この他,

短期借入があるが,機械設備への投資に充当で

きないと一応言える。

株式会社の資本の源泉を, 「経営者支配」に

関連させてみた場合,内部資金と外部資金との

区別が意義を持たされている。私有財産所有者

としての株主が会社を支配しているならば, 経

営者に利潤極大化を追求させ,利潤を可能な限

り多く配当させようとする。これに対し, 「経

営者支配」となった会社は,株主からの配当支

払要求の圧力を免れえるため,配当性向を低下

させ, 利潤の大部分を内部留保できるよう にな

り,それをもって,会社に関連する諸個人の利

害関係を調整すると, 「経営者支配」説の論者

は想定している。また,会社の新規の設備投資

に必要な資本も,この内部資金から賄い,外部

資金に依存しなければ,経営者は永久に資本市

場からの圧力を蒙むらず,自主性を保持しうる

とも,考えられた。したがって,内部資金への

依存度が大きくなることは, 「経営者支配」が

であるとみなしている。他方,パーム遣は,その行使が

まだ若干例しかないが,今後は機関権力の強化が続き,

ついに法律的規制が加えられるようになると予想してい

る。その他にも,近年の極めて多数の事例は,松井手口夫

稿「アメリカの主要産業と金融機関 60年代以降の銀

行と産業との 『結合』関係にかんするー研究 J日本

証券経済研究所証券資料136号。

表1 資金源泉:非農業,非金融法人企業(資金総額に占める百分比〉

(1964~1968年〉

年度 l利 潤 |減価償却費i外部金融

1964 25.5 44.1 29.6

1965 24.9 37.8 39.2

1966 24.5 38.0 39.2

1967 22.5 43. 7 35.0

1968 19.9 41. 2 42.8

(出典) Economic Report of the President, February 1970 (Washington, 1970),

Table C-74より百分比計算。

成立している ことの客観的な反映とみなされ

る。

そこで,フィ ッチとオッベンハイマーは,近

年のアメリカ非金融法人企業の資金源泉の内,

内部留保された利潤の比重が低下し,逆に外部

資金の比重が増大していることを表lで示し,

「経営者支配」を否定している。21)そのうえ,

外部資金の内,特に長期借入の総体に占める企

業規模別の利用比率を分析し, 巨大企業が最大

の長期債務を負っていることを示し,この長期

負債の最大の供給者が金融機関である ことと,

先の金融機関の保有株や重役兼任制も併せて,

金融機関により近代巨大株式会社が支配されて

いるという論拠としている。

これに対してスウイ ージーは, 金融機関の貸

付を,金融機関による支配と,同一視できない,

と批判している。その論拠として,会社はその

預金によって銀行に対する純粋の貸手となって

いるから,会社が銀行を支配するという議論も

成立つのであって 「どちらか一方が他方を支配

していると想定するだけの根拠はなし、」と述べ

る。22)

このように,両者は正反対の主張をするが,

どちらが正しし、かという判断を,第1に,われ

われは次の SECの機関投資家調査によって行

おう。23)表2は, SECが調査対象とした最大49

21) F & 0, op. cit., part2, p. 74. 邦訳64頁。22) Dynamics, op. cit., p. 126. 邦訳189頁。23) Institutional Investor Study Peport of the S. E. C., 1971, Vol. 5, p. 2739. 松井和夫稿「アメリカの主要産業と金融機関J 168~

169頁に所収。

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近代巨大株式会社の資本調達様式

表2 49銀行と調査対象の288社との預金 ・持株関係

I 1 1 ~'16~' ?O~130~150~189~l 会社数 I0 lg社119印刷ω社189社[134社|合計

預金関係が存| | | | | | | | I 2 I 3 I 6 I 10 I 11 I 11 I 6 I 49 在するケース| | | | | | | |

預金関係と持| I I I I I I I 株関係が存在I2 I 8 I 10 I 10 I 8 I g I 2 I 49 するケース I I I I I I I I

表3 49銀行と調査対象の 288社との持株関係

会社数 Io 11~110~130~110~1100~1130~|合音I 19社129社169社199社129社1172社|

銀行数 Io I o I o I 5 i 15 I 141 15 1 49

銀行と 288社(NYSE上場会社上位社を含む〉

の預金 ・持株関係の相互関連を示したものであ

る。見られように,その関連は,かなり強いの

であり,会社は銀行にその株式を所有されてい

るので,預金先として他の銀行を選ぶことでき

ず,当該銀行に預金していると言える。それを

逆に,会社が預金するとしづ貸手の地位を利用

して, 銀行に株式を引受けさせていると解釈す

るのであれば,表 3を示すことで,われわれは

反駁できる。すなわち,各銀行は数多くの会社

の株式を所有しているのであって,極端な場合

では,一銀行で 165社の株式を所有しているの

である。したがって,預金する会社による銀行

支配を考えるならば,一会社が 165銀行に預金

を分散して,それらを支配下に置くとしづ証明

をしなければなるまい。 そのように,一社の預

金を大きく分散すれば,一銀行当りの預金額は

少額となり, 銀行に支配力を及ぼせるはずもな

いのである。

それでもなお,銀行を会社が支配すると強弁

し続けること も,スウイージーは,できるかも

しれない。彼は,巨大株式会社の内部資金を過

大に評師しているからである。そこで第二に,

仮に,銀行が大口の預金獲得のために会社に服

従するとしたら,どんな条件を会社は持ちだす

であろうか。銀行が会社に要求した前節の事例

を逆にして,会社は銀行の合同を促進または阻

止するとか融資方針の変更を迫ったりする,と

考えるべきだろうか。このような銀行の重大な

経営方針を変更してまでも獲得せねばならない

- 29-

預金とは,その銀行にとって決定的に多額なも

の,他方の会社にとってその産業の設備投資に

直ちに充用するまでもない少額なもの,と考え

ざるをえない。もちろん,会社が多額の手形決

済資金や社債償還資金などを預金することもあ

ろうが,その預金はいずれも短期的なものであ

って,銀行の重大経営方針に圧力を加えるには

至らない。したがって,長期的な預金と考える

かぎり,銀行の規模が,会社のそれに比べて,

著しく小さい場合にしか,会社による銀行支配

の可能性はないと言えよう。

第三に,なお,大銀行といえども,預金準備

率が一時的に極端に悪化する場合,会社からの

大口預金に救済を求める可能性がある。そのよ

うな不時の決定的な預金を期待できれば,銀行

は会社からその代償を求められても応じざるを

えないであろう。とはいえ,その預金額は,銀

行にとっても会社にとっても,多額なものであ’

るはずである。そこで, 会社に多額な預金をす

る余裕があるかどうかを判断するためには, 内

部留保の大きさが一応の目安となる。

スウイ ージーは,総利潤が絶対額で増大して

いることを,1960年から1970年の公式統計によ

り実証する。ω彼は, 1942年の著書で,巨大独

占株式会社が,その利益率に正比例して内部資

金が増大し,資本市場および銀行への依存から

解放される傾向がある と主張したが,その後の

傾向も同じであることを,改めて実証しようと

しているわけである。25〕

両者とも 「大統領経済報告」26〕という公式統

計を出典としており ,調査対象となっている会

社は非農業非金融法人企業であり ,巨大株式会

社のみのデーターでないという限界がある。

とはいえ,どちらの実証根拠が適切であろう

か。総利潤が内部資金に正比例するというスウ

イージーの表現は,修辞的なものとしても,認

めるべきであろうか。総利潤に法人税が比例し,

24) Dynamics, op. cit., p. 140. 邦訳213頁。25) Paul M. Sweezy,“The Theory of Capitalist De-

velopment,'’ 1942. p. 267. それ以後の著書でも,その主張は保持されている。

26) Economic Report of the President.

Page 7: 近代巨大株式会社の資本調達様式 - 弘前大学human.cc.hirosaki-u.ac.jp/economics/pdf/treatise/3/... · 2016. 1. 22. · 4) Victor Perlo, "The Empire of High Finance,"

- 30ー

配当率安定化傾向があるとしたら,一応は留保

利益が比例的に増大するであろう。しかし,ス

ウイ ージーの言う 内部資金とは,留保利益と減

価償却費との合計であるから,27)さらに総利潤

と減価償却費との比例関係がなければならない。

表 1でも明らかなように,直ちに比例関係は実

証されていない。

また,調査対象期間は, ベトナム派兵の前後

であり,戦費増大による激しいイソプレーショ

ンに直面している。したがって,総利潤の絶対

額の増大があるとしても,インフレーションを

勘案して割号|かねば,スウイージーのように,

その増大を過大評価してしまう ことになる。同

様に,イ ンフレーショ ンは,資金源泉としての

減価償却費の意義を減じる。減価償却費は,設

備購入のための資金源と しては,過去の設備購

入費に相当する資金の回収分にすぎなし、から,

インフレーションが常態となっている現代では,

それをもってしては,旧来と同様の設備に更新

するにしても不足をきたすからである。それに

もかかわらず,企業は,競争戦に置かれている

から,絶えずヨリ優秀な新鋭設備の導入を,そ

れがインフレーションでますます高価になろう

とも,図らねばならない。したがって,資金i原

泉としての意義では,減価償却費が実物補墳に

すら不足するのであるから,未配分利潤の大き

さが第一義的になるのである。スウイ ージーは,

未配分利潤よりも減価償却費の比重が増大して

いるにもかかわらず,両者を一体として内部資

金とみなすから,外部資金の比重の増大を過小

評価してしまうのである。

これに対して,フィ ッチ等は,1964年と 1968

年の資金源泉の内,未配分利潤が 25.5 %から

19. 9%と減じ,他方,外部金融が 29.6 %から

42. 8%へと増大したことを,表 1で注目してい

る。同期に減価償却費は44.1%から41.2%と変

27)伺機の概念で,より詳しく分析したものとして次があ

る。宮崎義一「戦後日本の企業集団(普及版)J第V盟主主。ま

た,三戸公 .IE木久司 晴山英夫幸子「大企業における所

有と支配」は,機関株主の実態調査のみならず,理論と

しても注目すペきものである。

化に乏しい。だから,株式会社の資金源泉は,

内部留保よりも,外部資金への依存度を高めて

いる ことは,否定できない。フィッチ等は,外

部資金の内,総長期負債を会社規模別に分析し,

巨大株式会社が最大の長期負債を負っている こ

とを,表4で実証した。28)この最大の供給者が

金融機関であることは言うまでもない。

表4 長期借入(1960~1970年の総負債額に対する百分比〉

(単位会1社00規万模ドル)1196011962119641196811970

1~5 7.4 9.3 10.4 11.7 12.6

5~10 8.2 9. 1 10.5 12.3 12.9

10~25 9.0 10. l 11. 6 14.8 14.3

25~50 10.9 12. 1 12.8 14.4 16.2

50~100 12.9 14.1 14.0 19.3 19.6

100~250 13目 9 14.0 14. 1 17.3 18.7

250~1000 16.0 16.4 16.2 18.8 18.6

しかし,スウイ ージーは,なおも,金融機関

の貸付を, 金融機関による会社支配と,同一視

できないと主張するが,これについて第四に,

どう考えるべきであろうか。スウイ ージーの言

うように,巨大株式会社は, 「数多く存在しう

るJ金融機関が,長期貸付を申し出るので,

「選別」し, 「条件を押しつける」ことができ

るであろうか。 例えば,銀行は,貸付利子と預

金利子との差額を主たる利益としているから,

大口で優良な貸付先を獲得する動機が存在する

ことは,一般論としては正当である。 しかし,

問題は,近代巨大株式会社と,単一銀行持株会

社に象徴される巨大金融機関との具体的関係で,

論じるべきである。巨大株式会社が必要とする

長期負債は莫大な額になろうが,これに応じう

る銀行が「数多く存在」すると言えようか。合

州国の総預金額の24%を,十大銀行だけで占め

ている実情があるからである。しかも,銀行業

の集中はなおも続行中であり,巨大銀行間の株

式相互持合関係も著しく発展している。巨大株

式会社数と,莫大な額の長期貸付能力のある巨

大銀行数とは,相対的には前者の方が「数多く

存在しうる」ことは明らかである。したがって,

28) F & 0, op. cit., part2, p. 74.邦訳65頁。

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近代巨大株式会社の資本調達様式

巨大銀行が,巨大株式会社を 「選別」すると考

えるべきである。なおも,長期負債の供給者と

して, 年金基金と保険会社を考慮に入れても,

前者の資産の約70%を銀行信託部が保有してお

り, 後者と銀行との合同が,ますます進行して

いる。さらに,単一銀行持株会社組織により ,

ミューチュアノレ ・フ ァン ドも支配下に組み入れ,

金融独占が形成されているのである。したがっ

て巨大株式会社は,長期負債をこの金融独占に

依存ぜざるをえないのであるから,短期負債の

供給者を「選別」することも許されないという

「条件」を金融独占に 「押しつけ」られる,と

考えるべきである。

以上,フ ィッチとオッベンハイマ一対スウイ

ージーの論争をふりかえって,近代巨大株式会

社の資本調達様式の特徴を,内部留保の比重低

下,他方における外部資金への依存度の増大,

と把えることに正当な根拠がある ことを四点で

確認した。

5 資金源の展望

近代巨大株式会社が,外部資金への依存を高

めている事実は,何を意味しているであろうか。

フィッチ等は,これを金融機関による近代巨大

株式会社の支配と把え,金融機関が所有ないし

保有する株式への高配当政策をとらぜることと,

金融機関が金利稼ぎのために会社の借入金を増

大させるとと,を支配の基本的な果実とみなし

ていた。 そして,この果実を極大化するために,

「資本移動プロセス」 と 「貸付資本の蓄積」 と

「投機資本の蓄積Jとし、う三様式を発展さぜ,

その様式を支配下の会社聞の「互恵関係の増

大」と「国家資本」によって補完ないし補償し

たとしていた。この見解を吟味することによっ

て,本稿の結論とする。

まず,高配当政策について,フィッチ等は表

29) F & 0, op. cit., part3, p. 39.邦訳118頁。なお,「産

業利潤もまた会社の寡頭支配者によって金融利潤の獲得

に貢献しなければならない。とくに,産業利潤は,普通

株の価格上昇,配当の増加,投資銀行家への手数料の増

大,また商業銀行への支払利息の増大に貢献しなければ

ならない。Jpart3, p. 46. 124頁。

- 31ー

(1)

表5 資産規模別の会社配当性向

(会$1,社000資,00産0)119601196211964119661196811970

10~25 40 5 31. 1 29.4 25.2 25.0 27.7

25~50 42.8 40.3 32.6 41. 9 31. 5 35.7

50~100 51. 9 48.4 41. 2 34.8 35.9 41. 6

100~250 59.4 53. 5! 40. 9 47.5 43.8 43.3

250~1,000 57.5叫吋仏947.1 50.1

1,000~ 70. 81 64. 01 56. 56. 5 53.5 55.5

(注)(1)配当として支払われた利誌の割合。(出典)FTC-SEC. Quarterly Financial Report

for Manufacturing Corporations, Third Quart巴r1970.

5で, 29〕巨大株式会社ほど高い配当性向である

ことを示している。これに対して,スウイージ

ーは,どの資産規模の会社の配当性向でも,60

年から70年にかけて,低下しているので,金融

機関の支配力の強化の実証ではな く,逆の実証

になっていると批判している。却 しかし,フィ

ッチ等は,金融機関が,どの資産規模の会社を

も支配するのではな く,巨大会社の支配を持株

と重役兼任制と融資により行なうとしているの

であるから,その部分に注目すればよい。スウ

イージーは,その最大規模の会社の配当性向が,

他の資産規模のそれの低下があったとしても,

金融機関の支配ゆえに増大し続けるという実証

を求めるであろう。しかしながら,金融機関は,

スウィジーが誤解しているような,自らの持株

に対する配当収入の増加自体を,単なる支配の

成果としていない。それは,金融機関の持株比

率が,銀行でも約 5%というように,低L、から

である。それよりも金融機関にとっては,業績

不相応に高配当政策をとらせることが,かかる

巨大株式会社の資金を枯渇さぜ,銀行貸付への

依存を高めさせるという「貸付資本の蓄積Jへ

の手段になりうると ころに,ヨリ意義を見い出

すのである。 したがって, 資産規模10億ドル以

上の最大の株式会社の配当性向が,60年の70.8

%から, 70年の55.5%へと低下していること自

体は,他の規模の会社のそれが同様に低下して

30) Dynamics, op. cit., p. 122.邦訳181頁。

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- 32

表6 資産規模聞の配当性向格差

会社 資 産 | | | | | | ( $ l, 000, 000) I 1960 I 19臼 119臼 ll966ll968ll970

10~25 I L 001 i. 001 i. ool i. ool i. ool i. oo

25~50 I i. o倒L3ol L nl L 66! L 261 L 29

50~100 I L 281 L 561 L 401 L 381 L 441 1. 50

100~250 I 1.4引1.7剖1.391 1. 8到l.7日1.5同150~1, ooo I 1.4剖1.941 1. 681 1. 701 1. 881 1. 81

1,000~ I L 7引2.061 1. 921 2. 241 2. 141 2. 00

(出典〉 表5から,指数化。

いるので,とりたてて注目するに値いしない。

問題は,資産規模聞の配当性向の格差である

から,各年度において,最小資産規模の会社の

配当性向を 1とおいて,指数化をほどこして,

表 6を作成してみるほうが良かろう。この指数

と資産規模との相関関係は,歴然としていて,

表の最小資産の会社の配当性向のほぼ二倍が最

大資産の会社のそれである。年度を通してみて

も,最大資産の会社の配当性向は,最小資産の

会社のそれの, 60年では1.7倍であるのに,70

年では2倍へと増大している。このように指数

化の結果は,フィッチ等の論理の妥当性を証明

しているよ うである。 指数全体を見渡すと, 各

規模において10年間の指数は極めて安定してい

るので,最大規模の会社に劇的な変化があった

とは言えない。それに反して,表4で与見たよう

に,総長期借入に占める巨大株式会社の比率は,

年度を経過するごとに,ますぎす増大していた。

そこでこの両表で表現していることを,重ね合

わせてみると,配当性向と長期借入との相関関

係Lt,直ちにみいだしえない。フィッチ等は,

さらに短期負債も規模別に分析して,配当性向

との相関関係を,あるならば実証する作業が必

要であったろう。 したがって,巨大株式会社の

配当性向が高いことから,直ちに「貸付資本の

蓄積」を帰結することは,短絡的すぎるという

そしりを免れない。 「貸付資本の蓄積」は, 他

の要因を,たとえば,設備投資の種類,株式発

行市場の動向, 景気変動, 金融政策や経済政策,

インフレーシ ョン等々を,考慮に入れてゆかね

ばならないであろう。

とはいえ,資産規模が大きいほど,配当性向

が高いことを明らかにしたことは,当面の問題

にとり,別の観点からも意義がある。それは,

配当性向の資産規模別格差が安定していること

と,機関投資家のポートフォ リオに巨大株式会

社の株式の比重が継続的に高いこととの因果関

係を証明しうるからである。この因果関係は両

面から言えるのであって,高い配当性向である

からポートフォリオに組み込み,組み込んだか

らこそ, 兼任重役制や融資などで巨大株式会社

へ影響力を強めて高い配当性向を維持させる。

しかも機関投資家は,常にポートフォリオに

いずれかの会社の株式を組み込まざるをえない

のであるから,各年度において他の会社よりも

相対的に配当性向の高い会社の株式でありさえ

すれば良いのである。 したがって,表6の指数

が意義を付与されるのである。

次に,巨大株式会社の借入金の増大の意味を,

フィッチ等の言うように,金融機関の金利稼ぎ

と考えるのみで良いだろうか。もちろん,フィ

ッチ等は,巨大株式会社側の動機として,近年

の比較的急速な成長と,利潤率の低落を挙げて

はいるが,金融機関側の動機がより強調されて

いるのである。これに関して,スウイ ージーは,

論争以後に発表した論文で興味ある事実を提供

している。彼は相変らず金融機関による巨大株

式会社支配を否定しているのであるが,表 7

で,31)非金融企業の外部金融の資金源の変遷を

示して,借入金への依存が,それも特に短期債

務の著しい増大が近年の傾向である こと,を示

表7 外部金融の資金源一一一非金百~!企業 (%)

(1) (2) (3)仏)株式取引長期債務(a)短期債務(b)総外部金融

1950-54 22.7 55.7 21. 6 100

1955-59 18.0 55.5 26.5 100

1960-64 7.6 63.2 29.2 100

1965 69 4.3 53.3 42.0 100

1970-74 13.9 50.l 36.0 100

(a)社債と担保(b)銀行貸付,単名商業手形,手形引受,金融会社

貸付, および合州国政府貸付。il:IJll! Federal Reserve Bulletin の諸版の資金

循環勘定から計算した。

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近代巨大株式会社の資本調達様式

表8 貸出と預金

商業銀行

年末

1950

1955

1960

1965

1970

1974

貸出預金

一一10億ドル一一

$ 31. 6 $87. 7

48.4 105.3

71. 6 127.2

120.3 181.8

188.8 266.8

319.3 389.4

ニューヨーク市の巨大銀行(u)

1950

1955

1960

$ 9. 9

14.2

18.6

$ 25.1

27.9

31. 0

預金に対する貸出の百分比

36.0%

46.0

56.3

66.2

70.8

82.0

39.4

50.9

60.。1965 31. 8 45. 7 69. 6

1970 45. 5 63. 2 72. 0

1974 78. 9 93. 5 84. 4

(a) 1965年12月31日現在,1億ドノレ以上の預金総額を有する銀行。

資料:1974年以前のデータは,連邦準備制度のさまざまな報告書による。 1974年のデータは,Federal Reserve Statitical Release H. 4. 3

1974年最終号から。

している。そして,この傾向をもたらした原因

を,企業側の動機のみで説明している。それは,

借入金の資本コストが,株式のそれよりも,税

の控除により低いことと,インフレーションに

より借入金の返済が容易になることである。し

かしながら, 利子費用の増加により「企業の資

本からの収益のかなりの部分が,金融部門にす

いあげられている」 という事実も,示して,

「(一・いくつかの巨大企業さえも含めて〉す

でに破産のふちまできている」企業もあると言

う。32)益こまでみると,先の企業側の動機は,

むしろ自らの破滅を導くものとなる。

他方,フィッチ等の言う金融機関側の金利稼

ぎという動機のみで説明することも難点がある。

表 8で示すように,33〕商業銀行の預金に対する

31) H. Magdoff and P. M. Sweezy, '‘The End of Pro-

sperity," 1971 堀江忠男監訳 「アメリカの繁栄は終った」1980年4月

刊, 168頁。32)同訳176頁。33)同訳76頁。

- 33ー

貸出の比率は,近年,急激に増加し,銀行経営

が危機的状況に至っている。スウイージーは,

これにも銀行側の動機が「利潤に対するあ くな

き欲望と,競争圧力Jにあるからだと言う。ωこの動機も,なぜ銀行が危機的状況に至るまで

貸付を増大させるのかを説明するには充分でな

し、。

このように,巨大株式会社を中心とする借入

金依存の増大は,その財務的流動性を低下させ

るし,他方,銀行は預金支拡準備を激減させる

という,両者ともに危機的状況に陥いらざるを

えない過度のものである。仮りに,フィ ッチ等

の言うように,金融機関による会社支配である

とするなら,金融機関は自らの危機的状況を回

避し,会社に犠牲を転稼しているはずである。

他方,巨大株式会社と金融機関が.全 く別箇の

動機で行動した結果,会社側で借入金の増大,

金融機関で貸付金の増大という事態が生じたと,

スウイージーが言うが,逆に両者が危機的状況

にまで-事態を進めたことを説明していない(そ

うであるからこそ,なおさら,彼は両者の危機

的状況から,近年に1929年の大恐慌の再来を予

想している〉。 しかし,目を日本に転じてみれ

ば,借入金への過度の依存が,かえって高度経

済成長の一因をなしていたのである。したがっ

て,巨大株式会社と金融機関が,危機的状況に

共通に置かれているのであるから,他方で両者

の動機の共通面,ないし関連性をも分析すべき

なのである。それは,かつてスウイージーが捨

てた金融資本概念の復位,すなわち金融独占と

産業独占との融合 ・癒着のより立ち入った分析

を意味するのであるが......0

その関連は,スウ イージーの論争以後の論文

の内の表7から暗示されているように思える。

非金融会社の外部金高1の資金源の内, 長期債務

の比率のピークは,60~64年であり ,株式発行

は急激に低下している。他方,短期債務のピー

クは,65~69年であって,株式発行は最低であ

る。これから資金源の因果関係を推定すると,

34)同訳79頁。

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-34-

60~65年に株式発行が困難になってくると,設

備投資への資金源を代替するものとして,金融

機関から長期借入を求める。しかしながら,そ

の返済資金を株式発行により調達することは,

65~69年に,ますます困難になってしまったの

で,金融機関は預金支払準備の減少を回復する

ために,長期貸付を制限して,短期貸付で代替

しようとする。そして, 70年以降,金融機関は,

膨張した短期貸付と長期貸付の返済を求めて,

会社に株式発行を要求していく。かくして,70

年代に株式発行が増加するか,留保利潤が増加

するか,少くともどちらかの成功を見なければ,

金融機関と会社との危機的状況からの脱却をは

かれない。すでに,単一銀行持株会社による金

融集中は進行しているので,金融機関は他の金

融機関に不良債権を肩替りさせ,犠牲を転稼す

る余地もない。したがって,巨大会社の選別す

ら始める。これが,ベン ・セソ トラル社やロッ

キード社の先例を始めとして,今日のクライス

ラ一社の破局であろう。35)金融集中が著しい 日

本においても,銀行による「管理倒産」が噂さ

されるのである。36)そして,ベン ・セントラル

社やクライスラ 一社,佐世保重工社のように, 37)

その債務の肩替りを,政府になさしめる方向も,

例外とは言えなくなるのであろう。また,金融

機関の主導による巨大会社の合同運動も, 資本

調達様式における危機的状況からの脱却のため

に,大きな意義を持つで、あろう。38)

(1980. 6.13)

(追記〉 脱稿後,スウ イージーに対するフ ィッチに

よる反批判の論文を入手した。 これについての検討

は,後日を期すことにしたし、。また, フィッチとオ

ッベンハイマー著「だれが会社を支配するか」につ

いての苫評は,菊池敏夫氏(商学論纂20巻 5号),

三戸公氏(図書新l.lf1'78.8. 26),日本工業新聞 (’78.

35) Edward I. Altman, "Corporate Bankruptcy m

America,'’ 1971.

36)抜本藤良箸 「管理倒産 |昭和53年6月刊。37)日本経済新聞特別取材班 「救済 ・ドキュメント・佐世保重工J昭和53年7月干I]。

38)日本経済新聞特別取材班 「ドキュメント・安宅産業J。松井和夫続「戦後アメリカの企業合併運動と株式市場J証券経済第127号。

9.11)等から頂戴した。

〔付記〕 本航は,昭和54年度科学研究費補助金の交

付による研究成果の一部である。