高い生産性・収益性を生む養豚経営の ... -...

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<推薦理由> 最近の養豚は、国際化の進展する中で、産地間競争の激化、需要の伸び悩み、担い 手の不足、消費者ニーズの多様化、豚の疾病の問題や環境対策など、経営環境は厳し さを増してきている。 このような情勢の中で安全で良質な豚肉を低コストで生産し、国際化や産地間競争 に打ち勝つため、足腰の強い養豚経営を実現していく必要がある。 今回推薦する有限会社大隅ポークは、計画的な飼養規模の拡大、借入金の計画的な 返済による健全経営への移行、繁殖・肥育部門などの飼養成績向上によるコスト低減、 環境保全施設の整備など、現在の畜産経営に求められている主要な項目を確実に実行 に移すとともに、プライベートブランド(PB)豚肉を生産し、好まれる豚肉づくり とその有利販売に取り組んできた事例であり、今後ともその成果が期待されることか ら推薦する。 なお、評価された取り組み内容は、以下のとおりである。 生産した肉豚の品質・斉一性の向上とPB商品の資質改善により、取引先のス ーパーならびに消費者から好まれる豚肉づくりに努め、長年の努力によってその 評価を得るなど、生産から販売までの体制を築き上げていること。 経営主夫婦がコスト意識を持ち、記録・記帳を励行し、経営・技術両面での問 題点の発見とその改善に努め、経営管理能力を向上させてきている。その経営成 果は、繁殖・肥育部門の飼養成績の維持・向上を図るなど、単位当たりの成果は 群を抜き優れていること。 特に、分娩回数や子豚の育成率、増体重や飼料要求率の改善、豚舎環境の改善 - 131 - 高い生産性・収益性を生む養豚経営の実践 有限会社 大隅ポーク 鹿児島県曽於郡大隅町 設立年月 昭和60年5月

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<推薦理由>最近の養豚は、国際化の進展する中で、産地間競争の激化、需要の伸び悩み、担い

手の不足、消費者ニーズの多様化、豚の疾病の問題や環境対策など、経営環境は厳しさを増してきている。このような情勢の中で安全で良質な豚肉を低コストで生産し、国際化や産地間競争

に打ち勝つため、足腰の強い養豚経営を実現していく必要がある。今回推薦する有限会社大隅ポークは、計画的な飼養規模の拡大、借入金の計画的な

返済による健全経営への移行、繁殖・肥育部門などの飼養成績向上によるコスト低減、環境保全施設の整備など、現在の畜産経営に求められている主要な項目を確実に実行に移すとともに、プライベートブランド(PB)豚肉を生産し、好まれる豚肉づくりとその有利販売に取り組んできた事例であり、今後ともその成果が期待されることから推薦する。なお、評価された取り組み内容は、以下のとおりである。① 生産した肉豚の品質・斉一性の向上とPB商品の資質改善により、取引先のスーパーならびに消費者から好まれる豚肉づくりに努め、長年の努力によってその評価を得るなど、生産から販売までの体制を築き上げていること。

② 経営主夫婦がコスト意識を持ち、記録・記帳を励行し、経営・技術両面での問題点の発見とその改善に努め、経営管理能力を向上させてきている。その経営成果は、繁殖・肥育部門の飼養成績の維持・向上を図るなど、単位当たりの成果は群を抜き優れていること。

③ 特に、分娩回数や子豚の育成率、増体重や飼料要求率の改善、豚舎環境の改善

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高い生産性・収益性を生む養豚経営の実践

有限会社 大隅ポーク鹿児島県曽於郡大隅町設立年月 昭和60年5月

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や衛生対策による事故率の低下など、基本技術を再確認しながら向上のために従業員と一体となって取り組んできていること。

④ 平成11年4月から就農した後継者(長男)の人工授精技術や更新用として自家保留する種豚の選抜技術が高く、繁殖成績を向上させ、「大隅ポーク」の経営を支えていること。

⑤ 従業員の業務分担と責任体制を明確にするとともに、従業員の「やる気」を促すために飼養成績に応じて変動するボーナス制を設けていること、さらに休みを経営主家族も従業員も週1日とし、その他必要に応じて休暇をとれるような仕組みとしており、経営主家族内、あるいは従業員との間でしっかりとした条件に基づく労働関係が確立されていること。

⑥ 環境保全対策は、施設の整備を行い耕種部門と連携をとりながら、混住化しつつある地域内で調和をとり、環境保全型養豚経営を実践しており、高く評価されること。

⑦ 制度資金と自己資金による計画的な規模拡大、そして有限会社の設立、借入金の計画的な返済による健全経営への移行、後継者の就農、環境保全施設の整備など、現在、畜産経営に求められている主要な事項を確実に実行に移し、生産性と収益性の高い経営基盤を築いてきていること。

(鹿児島県審査委員会委員長  宮田 孝次)

<発表事例の内容>1 地域の概況

① 大隅町は、鹿児島県の東部、曽於郡のほぼ中央に位置し、鹿児島市、都城市、鹿屋市、志布志町、串間市を結ぶ交通の要衝にあたっている。

② 地形は、北西から南東へ約20kmのだ円形で北は末吉町および姶良郡福山町、東は松山町、南は有明町ならびに大崎町、西は輝北町に接している。

③ 大隅町の農業粗生産額は118.9億円で、うち畜産は85.5億円で農業粗生産額の71.9%を占め、本町の基幹作物となっている。

④ 畜産部門では豚が55.1億円で46.3%を占め、次いで肉用牛15.6%、ブロイラー8.3%となっている。また、耕種・園芸部門では露地野菜が22.2%を占め、次いで水稲の5.9%となっている。

⑤ 大隅町では毎年、秋の収穫が終わった11月3日は「弥五郎どんまつり」が行われている。午前1時から巨人・弥五郎どんが徹夜で組み立てられ、神宮を先頭に八幡神社を出発、大隅の町中を練り歩く「弥五郎どん浜くだり」が催され、大隅一帯や県内外からの見物客でにぎわう。

⑥ この「弥五郎どん」は穀物の豊作や剛健な心の神様として、昔からなくてはならない存在になっており、ちなみに数年前には、スペインのバルセロナで世界巨人大会が開催され、大隅町の「弥五郎どん」も初めての海外渡航となった。

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2 経営管理技術や特色ある取り組み

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経営実績とそれを支える経営管理技術、特色ある取り組み内容とその成果等

左記の活動に取り組んだ動機、背景、経過やその取り組みを支えた外部からの支援等

1.経営の概要① 当経営は、昭和52年に養豚経営を専業化し、昭和60年に有限会社大隅ポーク(1戸法人)を設立している。

② 家族ならびに従業員5人の業務分担と責任体制を明確化にし、法人の経営管理と飼養管理の向上に努めてきている。また、従業員には成果に基づく報

酬制(ボーナス制)を導入し、競争意識の向上とやる気の醸成を図っている。

③ 当経営では、長男(現在26歳)が東京農大の短期学部を卒業後、イギリスでの1年間の留学を終えて、平成11年4月から後継者として就農している。後継者の人工授精技術と自家保留

する種豚の将来性を見込んで選抜する技術は、系列の原種豚農場からも種豚選抜の依頼があるほど周囲からも高く評価を得ており、この技術が現在の優れた繁殖成績を維持している。

経営主は、昭和49年から養豚業を手がけ、昭和52年には養豚専業を志し、養豚一貫施設の整備のために補助事業、蓄積した自己資金と制度資金(国民金融公庫資金、スーパーL資金、農業近代化資金)の活用などで、計画的に飼養規模の拡大を進めてきている。昭和60年には母豚が常時180頭規模に

なったのをきっかけに、緻密な経営管理と役割分担の明確化、家計と経営の分離をめざすとともに、社会的信用や税制面、金融面など、法人化のメリットを追求し、確固たる経営基盤を確立することとした。当経営では、従業員5人(50歳代2人、

40歳代1人、30歳代1人、20歳代1人)を常時雇用している。雇用に当たっては経営主の方針で、養豚経験者より未経験の方が「当農場の飼養管理体系を励行し、成果が期待できる」ということから、未経験者を採用している。採用後は経営主自ら飼養管理の基本的な事項について、細かく指導するとともに、従業員の「やる気」を促すために業務分担と責任体制の明確化を行い、成果に基づく報酬制(ボーナス制)を導入するなどしている。また、従業員が休みのときは経営主自ら飼養管理の労力を補うなど、構成員家族と従業員の協力体制ができあがっており、相互に労力の負担が偏らないように心がけている。

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2.飼養品種当経営の種雌豚の品種はWL主体で、

一部WLの種豚を更新用として生産するために大ヨークシャー種の雌を常時25頭飼養し、種雌豚全体は常時332頭を飼養している。これら種雌豚に交配する種雄豚はデュロック種22頭と、一部WL種豚の更新用として生産するランドレース種2頭を常時飼養し、繁殖・肥育成績は高い水準にある。

3.飼養技術の概要1)繁殖部門① 繁殖部門では、母豚個体別に種付け、分娩、離乳の状況が一目でわかるように台帳を整理し、再発情までのチェックを厳しく行い、高い分娩技術水準を維持している。

② 繁殖部門の主要な分娩回数や子豚の育成率向上、離乳子豚・肥育豚の事故率の低下等による飼養技術の成果が反映し、種雌豚1頭当たり肉豚販売頭数など高い水準にある。

③ 分娩舎・離乳子豚舎はすべてウインドウレスで強制換気を行うとともに、分娩舎内の環境悪化や不衛生を招かないように、原則として毎日朝と夕方の2回、定期的な巡回を行っている。巡回の際は、除ふんと排尿溝の清掃を心がけ、哺乳子豚の育成率向上に努めている。

④ 子豚・肥育豚の飼養管理では、防暑・防寒対策に十分留意するとともに、ストレスや事故を防止し、発育を促進させるため、分娩から出荷までを同一群とし、過密にならないように心がけている。これらの飼養技

種雌豚候補豚の外部導入は、品質や繁殖能力など一定でないことや衛生対策、モト畜費を軽減すること等から自家育成が望ましいと判断し、指定種豚場から導入した大ヨークシャーの雌とランドレース種の雄を基礎にしてF1種豚(WL)を生産し、資質の優れたものを更新用として保留するようにしている。平成15年10月末の自家産割合は種雄豚

で50%、種雌豚で95%となっている。

繁殖部門の飼養成績は、経営を左右する重要な部門であり、夏場・冬場の子豚の事故を防止し、生産性の向上を図るため、分娩舎・離乳子豚舎はウインドウレス豚舎として日常は強制換気を行い、子豚が快適な飼養環境の中で飼養することとした。また、舎内での異常発生による事故防

止策として、電話回線により経営主自宅と従業員へ即時知らせる仕組みを導入した。分娩回数を高めるために、離乳後の発

情の予測発見が重要なことから、離乳した母豚だけ5頭1組にし、その中に種雄豚1頭を飼養し発情を促進する飼養管理体系をとることにした。母豚の過肥や痩せすぎは不受胎を招き

やすいことから、授乳中の母豚は離乳後の受胎率向上のために、ボディコンディションに留意し、飼養管理を行っている。発情した種豚は、原則として1発情に

2回交配とし、1回目は本交、2回目は人工授精の方式をとっている。また、採取した精液は定期的に検査を行い、正常であることを確認しながら授精を行って

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術が反映し、種雌豚1頭当たり肉豚販売頭数なども高い水準を維持している。

【繁殖成績】・年間分娩回数2.37回(比較値2.26回)・1腹当たり分娩頭数12.0頭(比較値11.0頭)

・1腹当たり哺乳開始頭数11.0頭(比較値10.2頭)

・1腹当たり離乳頭数10.6頭(比較値9.6頭)

・離乳時育成率95.9%(比較値94.2%)・種雌豚1頭当たり離乳頭数25.0頭(比較値21.6頭)

※比較値は平成14年度診断平均値(調査対象期間:平成14年1月~同12月または平成13年7月~平成14年6月)

2)肥育部門① 肥育前期から後期の1頭当たりの飼養面積は0.9m2を確保するようにし、過密にならないように留意している。

② 枝肉重量を規格内に揃えるため出荷の都度、計量して出荷している。自主格付けを含む上物率は83.5%(比較値75.5%)の水準になっている。

【肥育成績】・平均出荷日齢183日(比較値207日)・平均出荷時体重112kg(比較値112kg)・平均枝肉重量71.0kg(比較値71.0kg)・対出荷頭数事故率1.14%(比較値8.97%)

・上物率83.5%(比較値75.5%)・枝肉単価421円(比較値457円)・飼料要求率2.79(比較値2.89)

いる。子豚の育成率を高めるため、分娩した

子豚は母乳不足分の補充用として、初乳のあと3日ぐらいからぬるま湯で溶かした代用乳を与えることにした(未熟児も育っている)。種雌豚を収容している豚舎には、夏場

の食欲不振や夏バテを防止し、受胎率を向上させるために、冷却装置を取り付け、舎内を快適な温度に保つように工夫している。また、交配後の受胎確認が繁殖成績を

向上させることから、後継者と従業員が妊娠診断器を活用し、交配後25日以内と再発情、再々発情により交配した母豚などのチェックを行い、受胎率向上を図ることとした。

肥育部門では、ストレスや事故を防止し、発育を促進させるため、分娩から出荷までを同一群とし、過密にならないようにしている。また、衛生対策の基本は「消毒の徹底」

を念頭におき、豚舎全体の定期的消毒を励行している。また、夏場の食欲不振や発育遅延防止

策として、屋根上に散水し、舎内の気温を適正に保っている。

高い生産技術を維持している背景には、経営主の「豚舎の日常作業である除ふんは、効率よく実施し、豚を管理・観察する時間をもうけることが生産性向上の秘訣」という基本的な考え方があり、このことを従業員に徹底し、実践することで実現させている。このような日常の経営に対する心がけ

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・農場要求率3.23(比較値3.44)・種雌豚1頭当たり肉豚販売頭数23.2頭(比較値18.9頭)

※比較値は平成14年度診断平均値※比較値の調査対象期間は平成14年1月~同12月または平成13年7月~平成14年6月である)

3.経営管理の徹底によるコストの引き下げと所得の増加本格的に養豚経営を開始し27年が経過

している。その間、規模拡大を計画的に進めながら繁殖・肥育部門で飼養成績は優れた成果をあげてきており、この優れた技術を基礎に豚舎の建築費を下げるための自力施行、浄化槽のランニングコストを引き下げるための夜間電力の活用などさまざまな工夫を重ねて、コスト低減に努めている。養豚所得は群を抜いた水準となってお

り、今後、法人経営を目指す畜産経営者にとってモデル的経営を実践しているといえる。

※比較値は平成14年度診断平均値なお、借入金は経営実態に即した範囲

の額にとどめ、計画的に返済されている。繁殖・肥育部門の高い飼養技術水準と生産した豚肉の販売努力によって毎年標準

が、繁殖技術の向上や子豚・肥育豚の事故防止と発育を促進させ飼料要求率を下げるなど、基本技術を重視した飼養管理体系が効率的な養豚経営の基礎を築いているといえる。

飼養成績や経営収支に関する記録・記帳を励行し、その結果に基づき家族で経営全般の問題点をよく把握し、特に繁殖・肥育部門の飼養成績等については、従業員と実績検討ならびにその改善方策について十分検討を行いながら一体となって、経営の改善に取り組んできている。また、平成8年から養豚場内に工場を

設置し、豚舎の建築費の引き下げと構造上自分たちが工夫した豚舎を建築するため経営主自ら設計し、基礎工事は専門業者に依頼するが、その他は鋼材を仕入れ従業員と自力で建築し、建築費の引き下げを図っている。さらに、「平成15年度資源リサイクル

畜産環境整備事業」により設置した浄化槽の電気料を節約するために夜8時以降の夜間運転とし、電気料の節減を図っている。なお、経営管理は経営主の妻が日々の

経営収支に関する取引の一切を毎月パソコンに入力し、決算申告時に税理士の指導を受けるなど、経営管理を徹底している。平成12年度からは畜産協会の経営診断も受診してきており、毎年その分析結果に基づき、飼養成績や生産コスト、販売成果などの把握に努めるとともに、その改善に取り組んできている。

大隅ポーク実 績(千円)

比較値

(千円)

生産原価(肉豚1頭当たり) 22,697 27,664

〃(枝肉1kg) 322 388

養豚所得(種雌豚1頭当たり) 184 152

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以上の所得を確保し、残高を年々減少させ、健全経営を展開している。

4.好まれる豚肉づくり① 当経営は、平成7年から味豚グループ6名でスーパーとの取引契約を開始し、「こだわりの逸品 鹿児島県産 美味豚」のシールを作成し、PRするなど、好まれる豚肉づくりと顔の見える取引の拡大に努めてきている。

② また、過去において肉色やドリップ、熟度の問題でスーパーからクレームがつき、その改善のために飼料の成分とその使い方、種豚の品種・系統などについて、飼料メーカーや種豚の導入先と検討を行うなど、自己研鑽を重ね、好まれる豚肉づくりに努めている。

5.万全な環境対策と地域農業への資源還元環境保全施設は平成15年度までに全て

整い、たい肥化と浄化槽による尿処理は順調に処理されている。なお、完熟たい肥はお茶農家、肉用牛

農家、野菜農家など約50戸に無償譲渡するなど、耕種部門と連携を図っている。

平成2年に同じ系列の仲間で味豚グループ(結成当時7名、現在6名)を結成し、飼養管理や種豚の改良などについて勉強会を実施している。現在のメンバー6名は、当経営と宮崎県川南の養豚農家5名の計6名の構成である。グループ員それぞれの飼養規模は、母豚450頭1戸、350頭1戸(本人)、200頭1戸、150頭2戸、80頭1戸である。スーパーとの「こだわりの逸品 鹿児

島県産 美味豚」の契約取引では、年2回程度、春と秋にスーパーの責任者に自分たちの養豚場を紹介する一方、自らもスーパーに出向き、生産豚肉が店頭でどのようにして売られているかを確認している。また、消費者からの評価など積極的な市場調査と情報交換も行い、好まれる豚肉づくりと顔の見える取引の拡大に努めてきている。

環境保全施設は、これまで飼養規模の拡大に併せて必要に応じて浄化槽やたい肥舎の施設整備を行ってきたが、平成15年に母豚を80頭増頭したことや旧浄化槽の老朽化に対応し、「資源リサイクル畜産環境整備事業」により浄化槽を設置し、規模に見合った施設整備を図った。

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6.仲間との意見交換① 同じ系列の仲間と味豚グループを結成し、飼料メーカーや獣医師を呼んで飼養管理や種豚の改良などについて勉強会を実施している。

② 平成7年から大隅・鹿屋地区の養豚経営者30人で豚親会を結成し、自己の繁殖成績や経営全般のレベルアップのための勉強会の開催、消費者向けのおいしい豚肉づくり、環境対策についての情報交換会を実施している。

地域との交流や仲間作りが、今後の養豚経営には極めて重要であることから、積極的に参画するとともに、地域のリーダー役を務めている。

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3 経営・生産の内容

1)労働力の構成(平成15年10月現在)

※構成員3名の労働時間(6,200時間)のうち、1,240時間ほどが販売・一般管理相当業務に要する時間である。

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2)収入等の状況(平成14年11月~平成15年10月)

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3)土地所有と利用状況単位:a

4)家畜の飼養状況単位:頭

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5)施設等の所有・利用状況(1)所有物件

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(2)リース・賃借物件

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6)経営の実績・技術等の概要(1)経営実績(平成14年11月~平成15年10月)

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(2)技術等の概要

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4 経営・活動の推移

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5 家畜排せつ物処理・利用方法と環境保全対策

1)家畜排せつ物の処理方法・ 子豚舎・肥育豚舎のふんはスクレパーで取り出し、固液分離して固形分をスクリューコンベアで乾燥たい肥舎へ搬出している。・ 乾燥たい肥舎ではショベルローダーでコンポスト処理機に投入またはロータリーで攪拌して、たい肥化し製品置場で保管している。・ 生産たい肥はお茶農家(60%)、肉用牛農家(20%)、野菜農家(20%)に無償譲渡している。・ 尿・汚水処理については、活性汚泥法により浄化槽で処理したあと、放流基準値:BOD90ppm、SS100ppm、大腸菌群3,000個/cm3以下で放流している。・ 離乳子豚舎は、一部ふん尿混合によるスラリー方式のため、脱水機にかけ固液分離してしぼった後、液は浄化槽へ、固形分はたい肥舎で発酵処理している。

2)家畜排せつ物の利活用(1)固形分

(2)液体分

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3)処理・利用のフロー図

4)処理・利活用に関する評価と課題(1)鹿児島県審査委員会の評価・ ふん尿処理施設は、昭和63年、平成7年、15年の規模拡大に併せてたい肥舎、浄化槽を整備してきている。現在は発酵たい肥化したたい肥を、コンポストで処理し、良質たい肥を生産している。利用は地域のお茶農家や肉用牛農家、園芸農家など約50戸の農家に無償譲渡している。

・ 平成15年度に飼養規模拡大を行うと同時に、資源リサイクル畜産環境整備事業により、隣接養豚場と共同で浄化槽を設置しており、環境対策では特に問題はないと思われる。

・ 季節別にたい肥の需要量に変動はあるものの、これまでたい肥はよく処理されているといえる。また、利用の少ない時期でもたい肥舎の面積は十分確保されていることから、特に問題はないと思われる。

(2)課 題・ あえて課題をあげると、地域のお茶農家や肉用牛農家、園芸農家などに無償譲渡しているたい肥の換金化である。しかし、地域と共存できる養豚経営、そして生産たい肥をうまく利活用していくことを考慮すると無償譲渡もやむを得ないと推察される。

・ 多額な投資をして環境保全施設整備を行ってきており、可能なかぎり換金化の努力はしていく必要がある。

5)畜舎周辺の環境美化に関する取り組み・ 今後も長期的に養豚経営を継続していくため、平成15年度に2戸で資源リサイクル畜産環境整備事業を活用して共同処理場を設置、環境保全対策は整って

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いる。・ 苦情等の発生源とみなされないためにも、発酵資材を使用した消臭対策と場内の整理整頓に心がけ、畜舎周辺にも花木を植えるなど、環境美化に配慮している。

6 後継者確保・人材育成等と経営の継続性に関する取り組み

① 長男(現在26歳)は東京農大の短期学部を卒業後、イギリスで1年間の留学を経て、平成11年4月より就農している。就農後は人工授精業務と更新用の種豚生産業務に携わり、特に自家保留する種

豚の能力・将来性を見込んで選抜する技術は、種豚導入先の原種豚農場からも選抜を依頼されるほどの評価を得ており、現在の有限会社大隅ポークを支える優れた繁殖成績は後継者の活躍によってもたらされたといっても過言ではない。

② 現在の従業員5人(50歳代2人、40歳代1人、30歳代1人、20歳代1人)の雇用にあたっては、経営主の方針で「養豚経験者より未経験の方が当農場の飼養管理体系を励行し、成果が期待できる」ということから、未経験者を採用した。採用後は経営主自らが飼養管理の基本的な事項を細かく指導し、育ててきた。また、業務内容と責任体制を明確にするとともに、従業員の「やる気」を促すために飼育成績に応じて変動するボーナス制を設けている。

7 地域農業や地域社会との協調・融和についての活動内容

・ 経営主は、平成6年度に設立された大隅町認定農業者協議会(事務局:大隅町、会員157人)の畜産部会(肉用牛47人、養豚10人、養鶏5人、酪農2人)の会長を勤め、農業経営者間の交流に努めている。

・ 当経営では、県内の農業高校生や養豚後継者など実習生を受け入れ、飼養管理の基本技術や養豚経営者としての心構えなどを伝え、担い手育成に尽力してきた。

・ 経営主家族の地域活動への参加については、経営主が大隅地域交通安全協会の役員を勤めるほか、妻が県認定の農村女性ホームリーダーとして農作業環境改善や家計記録簿・経営簿記記帳を実践するなど、地域の拠点農家として活動している。また、後継者は4Hクラブの会員として活動しており、多忙の中にも家族それ

ぞれが地域社会の役割を担い、農業振興の中核的役割を果たしている。

8 今後の目指す方向性と課題

<経営者自身の考える事項>

① 経営規模は目指してきた目標を達成したため、今後は現状規模を維持しながら安全・安心を重視した高品質のPB豚肉の生産と直売に取り組みたい。

② 現在の豚肉の取引価格は1年間ごとの契約販売(1年おきに契約更新)で不安定であるため、量的にも質的にもより信頼される豚肉生産を行い、長期契約を可

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能としたい。なお、このためにさらなる情報交換を行い、長期契約について、取引先に理解

を得られるよう努めるとともに、価格変動に左右されない販売・流通体系の確立を目指す。

③ 養豚経営を長期的に継続させるためには、環境保全がより重要になってきている。関連施設を完備した一方で、ランニングコストの上昇が予想されるので、従業員と一体となり、単位当たりの生産性の向上に努めてさらなる低コスト化を行い、国際化に対応し得る養豚経営の確立を目指したい。

④ 養豚経営を通じた地域活動への参加と協調の必要性を実感していることから、引き続き家族それぞれが現在の役割を担いつつ、地域社会と共存できる養豚経営を目指したい。

《鹿児島県審査委員会の評価》

今回推薦する「有限会社大隅ポーク」は、大型種主体の経営で家族と従業員が一体となり、生産性の向上を図るとともに、プライベートブランド豚肉を生産し、好まれる豚肉づくりとその有利販売に努めてきた。豚肉の品質は取引先のスーパーの要望に合わせた資質の改善を進め、定質・定量という面から高い評価を得ており、経営主が目指している長期契約による取引が期待される。これまでの経営の取り組みをみても、計画的な飼養規模の拡大、借入金の計画的な

返済による健全経営への移行、繁殖・肥育部門などの飼養成績向上によるコスト低減、環境保全施設の整備など、現在の畜産経営に求められている主要な項目を確実に実行に移してきており、今後ともその成果が期待される。さらに経営主家族は養豚経営を通じた地域活動への参加の必要性も実感しており、

今後とも地域社会・農業振興のための活躍が期待される。

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