離散確率解析のオプションプライシングへの応用1 概要...
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離散確率解析のオプションプライシングへの応用
~離散マルグレイブオプションのプライシング~
一橋大学大学院経済学研究科修士課程
河合紀寿
2009年 2月 14日
1 概要
離散時間でのオプションプライシングに関して議論を行う。まずは代表的なデリバティ
ブ(先物、オプション)を紹介し、オプションの特徴をつかむ。続いて二項モデルでのオ
プションの価格付け理論を確認する。ここで、オプションの価格はリスク中立確率の下で
求めた満期のペイオフの期待値の、現在価値に等しいことを示す。
次に測度変換について議論し、ランダムウォークを取り上げる。ここでの目標は、ラン
ダムウォークにおける一般にエッシャー変換と呼ばれる測度変換でのラドンニコディム密
度過程がマルチンゲールであることを示すことである。私の修士論文ではこの結果を、離
散伊藤公式(藤田,2008)を用いて示した。離散伊藤公式とは、伊藤の公式に対応する、離
散時間での差分方程式である。ランダムウォークの確率過程がマルチンゲールとなる必要
十分条件を離散伊藤公式から導き、その結果を適用することで目標を達成した。
最後にランダムウォークを使ったオプションの例として離散マルグレイブオプションの
プライシングを行う。マルグレイブオプション(Margrabe,1978)とは、満期で異なる原
資産を交換できるオプションである。その時のペイオフは原資産 S1、S2 があった時、
max(S1, S2)
である。このオプションを離散時間でモデル化し、そのプレミアムを求める。
以上が概要である。目次を通して内容を概観する。
目次
1 概要 2
2 デリバティブ 6
3 先物とオプション 7
3.1 先物 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7
3.2 オプション . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
3.3 具体例~日経225先物~ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9
3.4 具体例~日経225オプション~ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10
3.5 先物の理論値 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13
3.6 裁定取引 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
3.7 オプションの理論値 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
3.8 ファイナンスの基本定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
4 測度変換 22
4.1 測度変換の基本 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22
4.2 エッシャー変換について . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24
5 マルグレイブオプション 32
5.1 マルグレイブオプション . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 32
5.2 離散マルグレイブオプション . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 35
6 まとめ 43
2 デリバティブ
デリバティブとは
• 金融派生商品とよばれている。• 原資産(株、債券など)の価格の変動によって価値が変わる金融商品。
デリバティブには、先物やオプションなどがある。具体的には
• 日経 225平均先物
• 日経 225平均オプション
• WTI先物(原油)
• 商品先物(小麦、大豆、金、銀など)
などが有名。
3 先物とオプション
3.1 先物
先物契約とは
• どの原資産を• いつ (満期)
• いくらで(受け渡し価格)• 買う or売るか
という契約である。
契約は義務であり、必ず履行しなくてはいけない。現時点での金銭の授受はない。先物の
ポジションは、先物買い、先物売りが存在する。
3.2 オプション
オプション契約とは
• どの原資産を• いつ (満期)
• いくらで(受け渡し価格)• 買う(コール)or売る(プット)かという権利
を売買する契約である。オプションのポジションは、コールの買い、コールの売り、プッ
トの買い、プットの売りが存在する。オプションは権利なので価値(プレミアム)があり、
放棄もできる。
3.3 具体例~日経225先物~
225 先物は原資産に日経平均株価を扱う。取引額は 1000 倍。日経平均が 8000 円なら
ば、800万円。
【現時点】3月満期の 225先物を受渡価格 8000円で 1枚、買建てた。現時点で金の受け渡
しはない。
【相場が上昇】満期日に 9000円でポジションを閉じた。損益は 1000× 1000= 100万円。
【相場は下落】満期日に 7000円でポジションを閉じた。損益は-100万円である。
3.3.1 先物の損益
先物を受け渡し価格K で買った場合のペイオフ(満期での金の受け渡し額)
ST −K
先物を受け渡し価格K で売った場合のペイオフ
K − ST
3.4 具体例~日経225オプション~
原資産は日経平均株価。
【現時点】行使価格 8500円のコールを 1枚、200円× 1000= 20万円で買った。
【相場が上昇】満期の原資産が 9000円の時、損益は 500× 1000= 50万円。最初に 20万
払ったので、結果として 30万儲かった。
【相場は下落】満期の原資産が 7000 円の時、権利を放棄すればよいので、損失は最初に
払った額の 20万円で済む。
3.4.1 オプションの損益
Callを行使価格K で買った場合のペイオフ
max(ST −K, 0)
Putを行使価格K で買った場合のペイオフ
max(K − ST , 0)
先物のペイオフは
ペイオフ
S
ペイオフ
S
オプションのペイオフは
ペイオフ
S
ペイオフ
S
ペイオフ ペイオフ
S S
Callの買い Callの売り Putの買い Putの売り
プレミアムを含めたオプションのペイオフは
ペイオフ
S
ペイオフ
S
ペイオフ ペイオフ
S S
Callの買い Callの売り Putの買い Putの売り
K
K
K
K
ペイオフ
S
ペイオフ
S
ペイオフ ペイオフ
S S
ロングストラドル
ショートストラドル
ロングストラングル
ショートストラングル
3.5 先物の理論値
先物の理論値 F を求めたい。
• 原資産価格= S
• 安全利子率= r
• 満期までの期間= T(年)
としたする。株式の配当は考えない。このとき、
F = SerT
が成り立つ。ただし連続複利を考えている。
limn→∞
(1 +
r
n
)n
= er
3.6 裁定取引
3.6.1 F > SerT の時
F > SerT ならば、現時点で先物を売り建てて、銀行から S を借りて原資産を S で買
う。満期で F − SerT > 0のペイオフが発生するので、確実に儲けることができる。
3.6.2 F < SerT の時
F < SerT ならば、現時点で先物を買い建てて、S を空売りする。空売りして得たお金
を銀行に預けることで、満期で SerT − F > 0のペイオフが発生し、確実に儲ける事がで
きる。
これらのリスクゼロで儲ける事ができる機会を裁定機会と呼ぶ。裁定機会を利用して利益
を得ることを裁定取引と呼ぶ。
この裁定機会はいずれ解消していくので、先物価格は理論値に近づいていく。これが先
物によって原資産の価格が上昇する理由である。(原油や穀物などの先物主導の価格上昇
は記憶に新しいと思います。)
3.7 オプションの理論値
3.7.1 1期間二項モデル
簡単のために二項モデルを考える。
8000
9000
7000
C
Cu = 500
Cd = 0
• 原資産価格 8000
• 現時点でのオプションの価値(プレミアム)C• 行使価格 8500
• 利子率 r
裁定機会がないようにオプションを複製する。
• 原資産を ϕ単位持つ。
• 安全資産を ψ 単位持つ。
このとき
C = 8000ϕ+ ψ
9000ϕ+ (1 + r)ψ = 500
7000ϕ+ (1 + r)ψ = 0
連立方程式を解くと、
ϕ = 0.25, ψ = −1750
となり、C = 250となる。
一般化して考える。
S
uS
dS
C
Cu
Cd
• 0 < d < 1 + r < u
C = Sϕ+ ψ
Cu = uSϕ+ (1 + r)ψ
Cd = dSϕ+ (1 + r)ψ
このとき連立方程式を解くと、
ϕ =Cu − Cd
S(u− d), ψ =
11 + r
uCd − dCu
u− d
と求まる。
これを C = Sϕ+ ψ に代入し、整理すると、
C =1
1 + r
((1 + r) − d
u− dCu +
u− (1 + r)u− d
Cd
)ここで、q = (1+r)−d
u−d とすると、
C =1
1 + r(qCu + (1 − q)Cd)
と簡単に書ける。
qは確率と考えられるので、確率変数X を満期でのオプションのペイオフとすれば二項
モデルでのオプションの価格は、
C =1
1 + rEQ(X)
と書くことができる。Qはリスク中立確率測度と呼ぶ。
つまり、オプションの価格は、満期でのオプションのペイオフをリスク中立確率で求めた
期待値の現在価値であることがわかった。先ほどの例でリスク中立確率を求める。
8000
9000
7000
C
Cu = 500
Cd = 0
• u =98, d =
78
• 行使価格 8500
• 利子率 r = 0
リスク中立確率は、
q =(1 + r) − d
u− d=
12
となる。オプションの価格は、
C =12× 500 +
12× 0 = 250
となり、複製戦略で求めた値と等しいことが確認できた。
オプションプライシングの本質は、
• 満期でのペイオフを• リスク中立確率のもとで期待値をとり、• それを現在価値に換算する
ということである。
3.8 ファイナンスの基本定理
【定理】(第一基本定理)
市場に裁定機会が存在しないこととリスク中立確率が存在することは同値である。
【定理】(第二基本定理)
市場に裁定機会が存在しないとする。このとき市場が完備であることとリスク中立確率が
一意に決まることは同値である。
【定義】(完備)
完備とはすべての証券が自己充足的な取引戦略によって複製されるとき、市場は完備であ
るという。
【定義】(自己充足的)
ポートフォリオを組む時に新たな資金の流入や流出がないポートフォリオを自己充足的で
あるという。
4 測度変換
4.1 測度変換の基本
再び二項モデルを考える。
S
uS
dS
C
Cu
Cd
p
1 − p
p
1 − p
実際の生起確率 pを与える。このとき
EQ(X) = qCu + (1 − q)Cd =(pq
pCu + (1 − p)
(1 − q)(1 − p)
Cd
)= EP (
dQ
dPX)
このように書ける。
定義(同値)
確率空間上の任意の事象 Aに対して、
P (A) > 0 ⇐⇒ Q(A) > 0
が成り立つとき、測度 P と Qは同値であるという。
定義(Radon-Nycodim 微分)
同値な測度 P と Qにおいて与えられる、dQ
dPを Radon-Nycodim 微分と呼ぶ。
<ここまでのまとめ>
オプションプライシングにおいて、リスク中立確率を決めることは、適当な Radon-
Nycodim 微分を求めることと同義である。そしてこの測度を適当に変換することを測度
変換という。
4.2 エッシャー変換について
エッシャー変換と呼ばれる測度変換がある。Black-Scholes モデルにてブラウン運動の
ドリフトを取り除くために有用であり、Cameron-Martin-Girsanovの定理と対応している。
ここではランダムウォークを導入し、具体的に調べてみる。
4.2.1 エッシャー変換
• X を確率変数とする。
• dQ
dP=
eθX
EP (eθX)
4.2.2 非対称ランダムウォーク
• ξi は独立同分布の確率変数
• P (ξi = 1) = p, P (ξi = −1) = 1 − p
• Zt = ξ1 + ξ2 + · · · + ξt
ランダムウォークの動き
p
1 − p
t = 0 t = 1
0
1
−1
2
0
−2
1 − p
1 − p
p
p
t = 2
具体的に t = 1で考えてみる。
EQ(ξ1) = EP
(dQ
dPξ1
)= EP
(eθξ1
EP (eθξ1)ξ1
)=
peθ
peθ + (1 − p)e−θ− (1 − p)e−θ
peθ + (1 − p)e−θ
このとき測度 Qの下で、
P (ξ1 = 1) =peθ
peθ + (1 − p)e−θ
P (ξ1 = −1) =(1 − p)e−θ
peθ + (1 − p)e−θ
となることがわかる。
4.2.3 確率過程への拡張
確率過程での測度変換は以下で与えられる。
EQ(Zt|Fs) =1Xs
EP (XtZt|Fs)
ただし、
• Zt は確率過程
• s ≤ t ≤ T
• Xt = EP (dQdP |Ft)
• Ft は filtration。時刻 tまでの情報。
4.2.4 マルチンゲール
定義(マルチンゲール)
確率過程 Xt がマルチンゲールであるとは、
E(Xt|Fs) = Xs, ∀t ≥ ∀s
を満たすことである。
このとき、両辺の期待値をとることで、
E(Xt) = E(Xt−1) = · · · = E(X0)
がわかる。
【目標】ランダムウォーク Zt において
Yt =eθZt
EP (eθZt)=
eθZt
(peθ + (1 − p)e−θ)t
はマルチンゲールであると示したい。
【解1】
E(Yt|Fs) = Ys,∀t ≥ ∀s
を示す。実際に、
E(Yt|Fs) = YsE
(t∏
k=s+1
eθZk
peθ + (1 − p)e−θ
∣∣∣∣∣Fs
)= Ys
となり、マルチンゲール。
【解2】
離散伊藤公式から確率過程がマルチンゲールとなる必要十分条件を導出し、その結果を
使う。
4.2.5 離散伊藤公式
f(t + 1, Zt+1) − f(t, Zt) =f(t + 1, Zt + 1) − f(t + 1, Zt − 1)
2(Zt+1 − Zt)
+f(t + 1, Zt + 1) − 2f(t + 1, Zt) + f(t + 1, Zt − 1)
2
+ f(t + 1, Zt) − f(t, Zt)
ここにランダムウォークでの Doob-Meyer分解とマルチンゲール表現定理を使うと、
f(t, Zt) =
t−1∑i=0
f(i + 1, Zi + 1) − f(i + 1, Zi − 1)
2(Zi+1 − Zi − (2p − 1))
+
t−1∑i=0
{f(i + 1, Zi + 1) − 2f(i, Zi) + f(i + 1, Zi − 1)
2
+ (2p − 1)f(i + 1, Zi + 1) − f(i + 1, Zi − 1)
2
}+ f(0, 0)
そして結果として、
f(t, Zt)がマルチンゲール⇔
任意の t ≥ 0,任意の x ∈ Z に対して、
f(t + 1, x + 1) − 2f(t, x) + f(t + 1, x − 1)
2+ (2p − 1)
f(t + 1, x + 1) − f(t + 1, x − 1)
2= 0
が得られる。この結果を使う。
f(t, x) =eθx
(peθ + (1 − p)e−θ)t
において、
f(t + 1, x + 1) − 2f(t, x) + f(t + 1, x − 1)
2+ (2p − 1)
f(t + 1, x + 1) − f(t + 1, x − 1)
2
=eθ(x+1)
2(peθ + (1 − p)e−θ)t+1−
2eθx(peθ + (1 − p)e−θ)
2(peθ + (1 − p)e−θ)t+1+
eθ(x−1)
2(peθ + (1 − p)e−θ)t+1
+(2p − 1)(eθ(x+1) − eθ(x−1))
2(peθ + (1 − p)e−θ)t+1
=(1 − 2p)(eθ(x+1) − eθ(x−1))
2(peθ + (1 − p)e−θ)t+1+
(2p − 1)(eθ(x+1) − eθ(x−1))
2(peθ + (1 − p)e−θ)t+1
= 0
5 マルグレイブオプション
5.1 マルグレイブオプション
モデルは以下である。
dS1(t) = α1S1(t)dt+ S1(t)σ1dW1(t)
dS2(t) = α2S2(t)dt+ S2(t)σ2dW2(t)
• 満期のペイオフはmax(S1(T ), S2(T ))
• Wi(t), i = 1, 2は独立の標準ブラウン運動
• α, σ は定数
• r = 0
オプションの価格は、時刻 tにおいて、
Π(t;Y) = S1(t)EQ
[max
{S2(T )S1(T )
− 1, 0} ∣∣∣Ft
]= S1(t)EQ [max{ZT − 1, 0}|Ft]
• ZT =S2(T )S1(T )
• Qは S1(t)をニューメレールとした時の、Zt をマルチンゲールにする測度
伊藤の公式より、
dZt = ZtσdW (t)
• σ = ∥σ2 − σ1∥• W (t)は Qの下で標準ブラウン運動
以上にブラックショールズ式を適用すると、
Π(t;X) = S2(t)N(d1) − S1(t)N(d2)
ただし、d1 =log S2(t)
S1(t)+ 1
2σ2(T − t)
σ√T − t
d2 = d1 − σ√T − t
と求めることができる。
5.2 離散マルグレイブオプション
モデルは、
S1(t) = eaZ1t
S2(t) = S1(t)ebZ2t
• Z1t = ξ11 + ξ12 + · · · + ξ1t、S1(0) = 1
• Z2t = ξ21 + ξ22 + · · · + ξ2t、S2(0) = 1
• 満期のオプションのペイオフはmax(S1(T ), S2(T ))
• Zit , i = 1, 2は非対称ランダムウォーク
• a, bは定数、b > 0
• r = 0
【目標】時点 0でのオプションの価値(プレミアム)を求めたい。
時点 0でのオプションの価値は、
V0 = EQ(max(1, Z(T )))
ただし、
• Z(t) =S2(t)S1(t)
= ebZ2t
• Qは Z(t)をマルチンゲールにする測度
• Qの下で P (ξ2i = 1) = p, P (ξ2i = −1) = 1 − p
とする。
図では以下になる。Z(t)の動き。
eb
e−b1 1
e−2b
eTb
· · ·
e2b
e(T−1)b
e−(T−1)b
e−Tb
p
1 − p
p
p
p
p
p
p
1 − p
1 − p
1 − p
1 − p
1 − p
1 − pp
1 − p
満期でのオプションのペイオフ
max(1, Z(T ))
• Z(T ) > 1のとき、max(1, Z(T )) = Z(T )
• Z(T ) ≤ 1のとき、max(1, Z(T )) = 1
満期での Z(T )
• e(2k−T )b,K = 0, 1, 2, · · · , T である。
【問題意識】満期で Z(T )が 1より大きいか知りたい。
• e(2(α+1)−T )b > 1
• e(2α−T )b ≤ 1
とする。
αは、T − 2
2< α ≤ T
2
を満たす整数。
オプションのペイオフは、
max(1, eTb) = eTb
max(1, e(T−1)b) = e(T−1)b
max(1, e(2(α+1)−T )b) = e(2(α+1)−T )b
max(1, e−Tb) = 1
max(1, e−(T−1)b) = 1
max(1, e2(α−T )b) = 1
満期でのペイオフがとる確率を求めたい。
満期 T で原資産が上昇した回数を X 回とする。このとき、以下が成り立つ。
P (X = k) =(T
k
)pk(1 − p)T−k
= f(k) k = 0, 1, · · · , T
ペイオフと確率の関係は、
eTb, f(T )
e(T−1)b, f(T − 1)
e(2(α+1)−T )b, f(α+ 1)
1, f(0)
1, f(1)
1, f(α)
以上より、オプションの価格は
V0 =T∑
i=α+1
f(i)e(2i−T )b +α∑
i=0
f(i)
となる。
【目標】リスク中立確率を求める。
• マルチンゲール測度の下で Z(T )はマルチンゲール。
EQ(Z(t+ 1)|Ft) = Z(t)
これより、
EQ(ebξ2t+1) = 1 ⇔ p =
1 − e−b
eb − e−b
また S1(t)をニューメレールにしたので、
EQ
(1
S1(t+ 1)
∣∣∣Ft
)=
1S1(t)
測度 Qの下で、P (ξ1i = 1) = p′, P (ξ1i = −1) = 1 − p′ とすると、
EQ
(1
eaξ1t+1
∣∣∣Ft
)= 1 ⇔ p′ =
1 − ea
e−a − ea
が成り立つ。これよりオプションの価格は、
V0 =T∑
k=α+1
(T
k
) 1 − e−b
eb − e−b
k eb − 1
eb − e−b
T−k
e(2k−T )b +
α∑k=0
(T
k
) 1 − e−b
eb − e−b
k eb − 1
eb − e−b
T−k
となる。
6 まとめ
今回は離散確率解析について、具体例から感覚をつかみ、オプションの価格はリスク中
立確率で満期のペイオフの期待値をとったものという考えを使って、離散マルグレイブオ
プションのプライシングを行った。しかし、満期の価格だけでペイオフが決まらないオプ
ションはこの考え方は使えない。その点は注意が必要である。
またモデルで金利の影響を無視しているので、金利の影響を加えたほうがよい。今回の離
散モデルと連続のモデルのつながりをうまく示せるとモデルの価値が出てくると思う。そ
こに研究の余地があると思う。