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論文
丸め誤差を対称に保った角柱周りの流れ解析
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後保範 (株)日立製作所エンタープライズサーバ事業部
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概要
流れの方程式である 方程式は現在もまだその振る舞いが詳しく
解明されていない.そのため,物理と数学で数値シミュレーション結果の評価
に異なることがある.対称な初期条件と境界条件を与えた角柱周りの流れ解析
はその一つである.物理の立場ではミクロな面まで考慮すると対称な条件は現
実的に不可能で,非対称なカルマン渦が発生する数値シミュレーションが当然
であろう.一方非線型のため自明ではないが 数学では対称な条件では対称な
結果となるのが自然と思える.角柱周りの流れ解析では対称な条件を与えても,
一定のレイノルズ数以上では非対称なカルマン渦が発生する.一見これは,物
理現象に良く合うと思われるが,対称条件で非対称なカルマン渦が発生する原
因は,数学的な反復打ち切り誤差や丸め誤差のためであり,物理現象を反映し
たものではない.本論文では数値誤差による影響度の評価を行い,対称のまま
の数値シミュレーションを可能にすることで,数値誤差と物理的な非対称性の
具体的な関連を得ることを目的とした.非対称な流れの原因を明確にしておく
ことは,数値シミュレーションの進歩のために重要と考える.
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は じ め に
流れの方程式である 方程式は代表的な非線形問題であり,現
在においてもまだその振る舞いは詳しく解明されていない.そのため,
の数学的に未解明な の 題の難
問の1つに「 」 が取り上
げられている.ここでは少し問題を簡単にし,物理と数学で数値シミュレーショ
ン結果の解釈が異なる問題に付いて取り上げ原因を調べることにした.角柱周
りの流れはカルマン渦 が発生するので有名である.流れの支配方程式であ
る 方程式を差分法で数値的に解いても,レイノルズ数が一定以
上になると必ずカルマン渦が発生すると言われている.本論文では,対称な初
期条件と境界条件のもとでカルマン渦の発生原因を具体的に調べ,発生原因を
取り除くことでカルマン渦のない対称な流れの計算可能性について報告する.
方程式において速度と圧力を変数として差分法で離散化 すると,
圧力による連立一次方程式と速度による時間積分が発生する.連立一次方程式
を逐次過剰緩和法 法 で計算すると,丸め誤差より大きい反復打ち切り
誤差で非対称な現象が発生する.数学的には,対称な計算となる共役勾配法
法 でも丸め誤差のため,結果は非対称となる.また,速度の時間積分計算に
おいても,丸め誤差のため初期値が対称でも非対称な流れとなる.角柱周りの
流れ解析で,対称な初期条件と境界条件を与えてもカルマン渦という非対称現
象が発生するのはこのためである.差分法による計算で,丸め誤差を無くすこ
とは不可能であるが,角柱の上下で丸め誤差も対称となる計算 は可能である.
今回,対称性を直接意識しないで,括弧を使用しペアーとなる項を纏めて計算
することにより,角柱の上下で丸め誤差が対称になる流れ解析が得られた.そ
の場合,角柱周りの流れ解析でカルマン渦の発生しない対称な流れとなる.一
方 法で計算する場合は反復打ち切り精度に比例した非対称性が発生するこ
とも判明した.対称になるプログラムに非常に小さな非対称の条件を与えても
カルマン渦が発生する非対称性な流れになることも判明した.これは分子レベ
ルのミクロな非対称性でもカルマン渦が発生することを意味し数値シミュレー
ションの解釈で物理と数学で矛盾が無いことを示している.
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角柱
初期流速はポテンシャル流れ
自然流出
図 解析対象とした角柱周りの流れ
対象とする流れ解析
本研究の目的は, 方程式に対称な初期条件と境界条件を与える
と,対称な流れが得られるかである.そのため,解析領域が簡単で非対称なカ
ルマン渦が発生する角柱周りの流れを対象にする.図 に解析対象とする領域
と条件を示す. の境界から 軸に沿って一様な速度 で流入し,
軸の上下端も の一様な流れで, 軸の中心に角柱があり自然流出
するとする.
支配方程式を式 に示す,レイノルズ数 を使用して無次元化した非圧
縮 方程式である.ここでは, 次元流れを扱うため は 方向の
流速 と 方向の流速 をもつ 次元ベクトルである. は無次元化した圧力を
示す.
時間間隔 を用いて式 の時間積分を行う.時刻 の変数は
のように右上に添え字を付けて表示する.一方,時刻 の変数は右上の添え
字 を省略する.ここで,式 の連続の式を圧力 に関するポアソン方程
式に変換する.式 の 番目の式の両辺の発散をとり, は本来ゼロなの
で,時間積分の誤差を蓄積させないために寄与の大きい1項 だけを残す.変
換後の方程式を式 に示す.
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式 の空間離散化は,通常格子に中心差分法を適用する. , 方向とも
等分割し,それぞれの分割幅を , とする.格子点 での流速 , 及び
圧力 をそれぞれ, , , とする.圧力 に関する計算式を式 に示
す.この式は,各格子点の圧力 を未知数とする連立一次方程式となり,反
復解法で計算する.反復解法としては,逐次過大緩和法 法 や共役勾配法
法 が使用される.
方向の速度 に関する計算式を式 に, 方向の速度 に関する計算式
を式 に示す.両式とも, ステップの , , から ステップの
及び を求めるものである.各格子点の , が代入計算で直接求
められる.
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軸対称に保つ工夫
角柱周りの 次元差分法による流れ解析において, 軸で対称な境界条件と
初期条件を与えても非対称なカルマン渦が発生する原因は下記の 点と考えら
れる.
圧力 における反復解法の打ち切り誤差
速度 , と圧力 における計算丸め誤差
上記原因を取り除くために下記の工夫をする.
数学的に 軸対称となる反復解法の採用
丸め誤差が 軸対称となる演算順序の決定
圧力計算で非対称となる原因
式 から圧力 に対する連立一次方程式 が得られる. 次元差分法
のため,係数行列 は各行に非ゼロが 個の規則的疎行列となる.この連立一
次方程式は各刻み時間 毎に解き,前の時刻の値が初期値として利用できる
ため逐次過剰緩和法 法 を使用することが多い.しかし, 法は差分
格子点の更新前と更新後の値の利用が計算順序で異なるため,反復打ち切り精
度に依存した 軸非対称の誤差が発生する.通常,反復打ち切り精度は計算機
の丸め誤差より相当低い精度を指定する.このため,流れ計算結果の非対称性
は圧力に対する反復解法の打ち切り精度に依存する.一方,共役勾配法 法
は差分格子点の計算順序に結果が依存しないで,数学的 無限桁計算 には 軸
対称の解が期待できる.しかし,実際の計算では有限桁計算による丸め誤差の
ため,行列 及び右辺ベクトル が 軸対称でも反復計算解は 軸非対称とな
る. の解 の 法による計算手順を図 に示す. は ステップ前の
の値で, 法の初期値とする.また, はベクトル と の内積を示す.
法で丸め誤差のため 軸対称とならないのは, と の
計算である.即ち,行列 とベクトルの乗算である.この両者の計算を改めて,
と表す.問題は行列 とベクトル が 軸対称でも が丸め誤差のた
め 軸対称にならないことである. 次元差分法で発生する行列 とベクトル
に対して, 軸対称の意味を図 で説明する.図 の 軸中心を境に上下に同
じ幅で同じ格子数に分割されているとする.今,上下で と の格子点
に着目する.格子点 と は 軸中心を境に対称の位置にあるとする.
次元差分法のため,行列 は各格子点で 個の非ゼロ要素をもつ.点 にお
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収束まで以下を反復計算
図 法による の計算
上格子点
軸中心
下格子点
図 格子点と行列 の関係
ける行列 の非ゼロ要素を , , , 及び で表す.同様に,
点 における非ゼロ要素を , , , 及び で表す. ~
の位置は両方とも図 に示すとおりである.行列 が 軸対称とは, 軸に
対称な格子点 と の間で式 が成り立つことである.また,図 の格
子点 と に接続する格子点でベクトル が 軸対称とは式 が成り立
つことである.
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格子点 における の計算式を式 に,格子点 の計算式を式
に示す.
圧力計算を対称にする工夫
圧力の計算結果を 軸対称に保つには, 軸で対称な格子点 と にお
いて の計算で が成立する必要がある.式 ,式 ,式
及び式 の関係から数学的(無限桁計算)には は成立する.しかし,
有限桁の浮動小数点演算では,丸め誤差のためこの関係は成立しない.丸め誤
差を含めて成立させるための工夫は 種類考えられる.一つは, と を別
の式で計算し, 軸対称になるように式 の項の計算順序を変更する方法であ
る.もう一つは, 項の加減算では丸め誤差が計算順序に依存しないことを使用
する方法である.前者では対称性を意識した区間分けが必要なのに対して,後
者では括弧を使用してペアーとなる項の計算を先にするだけで良い.そのため,
特に対称性を意識したり, 次元解析の場合に区分けをする必要のない,後者
の方法で以下説明する.この方法では,元が対称なら 軸でも, 軸でも対称に
なる.式 にこのアイデアーを反映したものを式 に示す.ここでの,必
要条件は括弧内の計算を先に行うことだけである.
速度の時間積分を対称にする工夫
及び 方向の速度 及び の時間積分に対しても 軸対称に計算するための
工夫が必要である.速度 が 軸対称とは, 軸対称な格子点 と に
おいて, 及び が成立することである. 時刻から 時刻
への の時間積分の計算を式 に示す.ここで, 及び 方向の格子点数を
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それぞれ 及び とし, , , , をそれぞれ ,
, , で示す.また, は時刻 の の計算値を示す.
式 の計算において, と の計算順序による丸め誤差のため,
は 軸対称性が崩れる.丸め誤差を含めて対称に保つには を
先に計算して,結果を から引けば良い. 軸に対しては と に
関して同様な工夫をすれば良い.式 の速度 に対する時間積分に対して,
軸及び 軸の対称性を考慮したものを式 に示す.速度 に関しても同様
で, 次元解析の場合も 軸に関する処理を追加すれば良い.
流れ解析の結果
方程式に対称な初期条件と境界条件を与えた場合の流れ解析の
結果を示す.対象とした流れ解析場は図 に示す,角柱周りの流れである.
方向の速度を , 方向の速度を とする.流れの方程式はレイノルズ数(
数)で無次元化した式 に示す非圧縮 方程式である.一様な流
速 で流入する流れの 軸の中心に の角柱があり,自然流出す
る.解析範囲は 次元で の大きさで,流入境界の後方 の位置に角柱を
置く.速度 と圧力 を変数とし,通常格子と中心差分法で式 のように離
散化する. で, 及び 方向をそれぞれ 及び 分割し,
で ステップ( まで時間積分する.圧力 の連立一次方程式は相対
残差の 乗ノルムが 以下となるまで反復計算する.流れ計算結果は流速ベ
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図 法の結果
クトルと渦度で表示する.渦度は濃く表示されるほど絶対値が大きい値を示す.
白黒表示のため右回りの渦度も左回りの渦度も同じ濃さで表示する. 法で
圧力 を計算した流れを図 と図 に示す.図 は のときの流れで,図
は のときの流れである. 法で圧力 を計算した流れを図 と図 に
示す.図 は のときの流れで,図 は のときの流れである.更に,
圧力 の計算に 法を使用し,圧力 と速度 の計算で丸め誤差を 軸対
称にするよう工夫した流れを図 と図 に示す.図 は のときの流れで,
図 は のときの流れである.これらの図から, 法では の
とき共にカルマン渦が発生し, 法では ではまだカルマン渦の発生が
なく, でカルマン渦が発生することが分かる.一方,丸め誤差を対称に
した 法では 共にカルマン渦が発生しないで,上下に対称な流れで
ある.
結果の非対称性とカルマン渦の発生
流れ解析結果の各時間における流速 の 軸非対称性とカルマン渦の発
生の関係を調べる. 軸非対称性の度合い の計算式を式 に示す.ここで,
及び 方向の格子数をそれぞれ 及び とし に対称な格子点を で
とする. ,即ち なら流速 が完全に 軸対
称であることを示す.各計算手法による流れの非対称性を図 に示す.計算手
法として 法, 法及び丸め誤差を 軸対称に工夫した 法を記載した.
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図 法の結果
図 法の結果
横軸は積分時間 で縦軸は非対称性の度合い の逆数の対数で,値が小さい
ほど非対称性が強いことを示す.この図から 法と 法による流れの非対
称性は,積分時間が経過すると共に大きくなり,縦軸の値がほとんどゼロになっ
た時点でカルマン渦が発生していることが分かる. 法と 法では非対称
度合い及びカルマン渦の発生時間が大きく異なっている.その原因は, 法
による流れの非対称性の主発生要因が反復打ち切り精度なのに対して, 法は
丸め誤差が原因のためである.一方,丸め誤差を対称にした 法では,流れ
の非対称度合い は常にゼロ 逆数の対数が無限大 であることが分かる.こ
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図 法の結果
図 丸め誤差対称な 法の結果
のため,工夫した計算手法を使用して,初期条件と境界条件を対称に与えれば,
永久に対称でカルマン渦の発生しない流れが得られることが分かる.
圧力による連立一次方程式の計算に 法を使用したとき,反復打ち切り精
度が流れの非対称性に与える影響を調査する. 法による流れ解析で,圧力
の連立一次方程式の相対残差に対する反復打ち切り精度 の値を変化させた場
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図 丸め誤差対称な 法の結果
図 計算手法による流れの非対称性
合の,流れの非対称性を図 に示す.この図から, を から ,
と段々小さくしていくと,非対称度合いは比例して小さくなり,カルマン渦の
発生時間も遅くなることが分かる.これより, 法による流れの非対称性の
主発生要因が反復打ち切り精度であることが説明できる.
初期条件の非対称性が結果の流れにどのように影響するかを調査するため,
丸め誤差対称な 法を使用して流れ解析をおこない,流れの非対称性を評価
する.流入境界上で 軸中心から 格子だけ下方の 方向の流速が他より だ
け異なり, とした場合の流れの非対称性を図 に示す. の大きさを
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図 法の打切り精度による流れの非対称性
図 流入速度差 による流れの非対称性
反復解法の打切り精度と同じ のケースと,倍精度浮動小数点の最小単位と
同じ のケースで示す.これから,計算機で表現可能な最小単位の初期
条件の非対称性を与えてもカルマン渦は発生し,発生時間は対称な初期条件を
与えて 法で計算した場合とほぼ同じことが分かる.
レイノルズ数 が流れの非対称性にどのように影響するかを調査するため,
法を使用し反復打ち切り精度 を としたときの流れの非対称性を図
に示す.初期条件と境界条件は対称に与えている.この図から, の
ときは非対称度合いはほぼ一定で, になると時間が経過すると段々非
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図 レイノルズ数 による流れの非対称性 法
対称度合いは大きくなりカルマン渦が発生することが分かる.更に,レイノル
ズ数を大きくすると非対称度合いは大きくなり,カルマン渦の発生も早くなる
ことが分かる. では途中で発散し,計算解を求めることができない.
お わ り に
流れの方程式である 方程式は現在もまだその振る舞いが詳しく
解明されていない.本研究により,「対称な初期条件と境界条件を与えると必ず
対称な流れを得られるか 」との問に, と答える根拠が得られた.角柱周り
の流れを 次元差分法で求めるとき,対称な初期条件と境界条件を与えても非
対称なカルマン渦が発生するのは, 法の反復打ち切り誤差と浮動小数点計
算における丸め誤差が原因であることが判明した.圧力による連立一次方程式
の計算に 法を使用し,速度の時間積分と圧力計算の演算順序を工夫して丸
め誤差を対称に保つことで,対称でカルマン渦の発生しない流れの数値計算に
成功した.今後,数学的な証明を行うと共に, 方程式の基本的問
題である「連続な流れは必ず連続な流れを導くか 」に挑戦したい.
参 考 文 献
;
高見穎郎,河村哲也;偏微分方程式の差分解法,東京大学出版会
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矢川元基;パソコンで見る流れの科学―数値流体力学入門,ブルーバッ
クス
後保範; 法で結果の対称性を保つ工夫,
ウイルキンソン著,一松信他訳;基本的演算における丸め誤差解析,培
風館
戸川隼人;共役勾配法,教育出版
大石進一;精度保証付き数値計算,コロナ社
バーガ著;渋谷政昭訳:計算機による大型行列の反復解法,サイエ
ンス社
小国力外 ;行列計算ソフトウエア,丸善
中山顕外 ;熱流体力学 基礎から数値シミュレーションまで ,共立出版
高橋亮一;コンピュータによる流体力学<演習>,構造計画研究所
巽共正;流体力学,培風館
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謝辞 本論文に対する貴重なコメントを頂いた東京大学金田康正教授と,
数値実験の一部を実施した早稲田大学教育学部数学専修ゼミ生の佐久間詔子さ
ん及び丸山由美子さんのそれぞれに,謹んで感謝の意を表する.