温度差のみで流体の成分分離を 実現する小型デバイ …...[1] r.byron bird,...

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1 温度差のみで流体の成分分離を 実現する小型デバイス 芝浦工業大学工学部 小野直樹 産業技術総合研究所 松本壮平 茨城大学理学部 渡邊辰矢

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Page 1: 温度差のみで流体の成分分離を 実現する小型デバイ …...[1] R.Byron Bird, Warren E.Stewart, Edwin N.Lightfoot, Transport Phenomena, 2007, p25-28, p275-276, p526,

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温度差のみで流体の成分分離を実現する小型デバイス

芝浦工業大学工学部 小野直樹

産業技術総合研究所 松本壮平

茨城大学理学部 渡邊辰矢

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内容

(1)従来技術とその問題点

(2)新技術の特徴

(3)新技術の研究開発の状況

(4)想定される用途

(5)実用化に向けた課題

(6)企業への期待(連携のお願い)

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従来技術とその問題点流体中の成分(例えば水素等の価値のある気体等)

の高純度法として、既に実用化されているものには、

化学吸着法や分離膜法があるが、

・特殊な材料や薬品を使用する

・低コスト化に限界がある

等の問題がある。

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新技術の特徴

• 従来技術のように特殊な材料や薬液を一切使用せず、温度差のみで成分の濃縮が可能。

→駆動源は温度差のみで省エネで環境に優しい。• 気体や液体の種類を選ばない。原理的にはどんな流体でも適用可能。

• 気体の成分分離だけでなく、流体中の微粒子の分離にも適用可能。

• 装置の小型化が可能。

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新技術の研究開発の状況

1)分離機構の原理

2)装置の概要

3)実験例(混合ガスからの水素の例)

4)実験例(液中からの微粒子の例)

5)理論的な裏付け

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・ソーレ効果と呼ばれる熱拡散現象を用いている。これは領域内の2成分が、温度勾配の発生とともに高温側に軽分子,低温側に重分子が移動する現象。

Fig. Separation of gas mixture by the Soret effect

[1] R.Byron Bird, Warren E.Stewart, Edwin N.Lightfoot, Transport Phenomena, 2007, p25-28, p275-276, p526, p767-772.

2つの流束が発生Flow

mixed gas

分離機構の原理

2つの流束が釣り合った時,分離が完了し,濃度差が発生

例として、水素と二酸化炭素の場合、TH=450℃,TL=0℃の時、Δx=8.8% になる。

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分離機構の原理(素子ネットワークによる高性能化)

入口 高濃度出口

低濃度出口

・分離素子の大規模ネットワーク化により、高濃度と高収率を両立

単一素子 素子ネットワーク

50%54%

46%

流れ方向

50%

50%

50%

50%

50%

50%

50%

54%46%

58%61%

99%100%

100%100%

42%39%

1%0%

0%0%

低濃度

高濃度

高性能を達成可能なネットワーク構成方法を提案

大規模ネットワークを一括形成可能なデバイス構造を提案

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装置の概要分離ユニットを微細化し、多数連結してネットワーク構造としている。

40mm

水素低濃度

水素高濃度

→Si基板とガラス板で作成したデバイス例

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Flow controller

Gas chromatograph

Gas cylinderNetwork device

High

MiddleLow

Cooler

Heater

130μm

HigherLower

90μm

90μm

80μm

40μm

100μm20μm

Inlet

Flow rate [ml/min] 15-27

Table Experimental condition (Network device)

装置は分離ユニットである小型分離素子を36列360段配列した。

1素子で1回の分離が起こり,下部から高濃度ガス,上部から低濃度ガスが流出.

XZY

step

rowHigherLower

最後の12列ずつを出口3ヶ所に分けた

この素子が緻密に配列され、各出口と入口が連結されることで、右図のように、左壁側に高濃度ガス、右壁側に低濃度ガスが集まる

step

row

Fig. Detail of Network device

高濃度ガス低濃度ガス

30~80℃

0℃

実験例(混合ガスからの水素の例)

温度差が小さい予備実験の条件

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素子ネットワーク型分離装置 結果

47.948.148.348.548.748.949.149.349.5

25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85Hyd

roge

n co

ncen

tratio

n [%

]

Temperature difference [℃]

47.948.148.348.548.748.949.149.349.5

25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85Hyd

roge

n co

ncen

tratio

n [%

]

Temperature difference [℃]

High

Middle

Low

gas cylinder

(a) Flow rate 15[ml/min] (b) Flow rate 21[ml/min] (c) Flow rate 27[ml/min]

→出口を3分割して取り出すことにより、水素が濃化されたガスの抽出に成功した。→しかし濃度の向上は初期ガスから最大0.7%で、理論予測値の1/10以下にとどまっている。実験装置の改良を実施中。

Flow rate [ml/min] High [%] Middle [%] Low [%]15 49.07 (+0.37) 48.61(-0.09) 48.15 (-0.55)21 49.27 (+0.57) 48.66(-0.04) 48.10 (-0.60)27 49.40 (+0.70) 48.80(+0.1) 48.21 (-0.49)

Theory value 59.15 (+10.45) 48.66(-0.04) 38.29 (-10.41)

Table Outlet hydrogen concentration for temperature difference 80℃

実験例(混合ガスからの水素の例)

温度差が小さい予備実験の条件(γ~0.02)(γについては後述)

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実験例(液中からの微粒子の例)

実験装置概要

微粒子の濃度分布(輝度値分布)(180段まで)

→微粒子の濃度分布(輝度値分布)写真

→液中の微粒子分離プロセスへも適用可能であることが確認できた。

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理論的な裏付け(概要)以下のような数学モデル(ネットワーク構造)を用いて解析した。(多段連結した時の分離濃度の限界値について調べた)

一つの分離ユニット(素子)による濃度変化

ここでは濃度xはuとして表現

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13[2]S.Matsumoto et.al., National Heat Transfer Symposium, Fukuoka International Congress Center, I133, (2015).

………………

………………

段数と列数を増やすことで,

列方向に濃度勾配が形成される[2]

Con

cent

ratio

n

Row

high low

各素子の圧力勾配が等しく,出口が等流量と仮定

半整数段

理論的な裏付け(概要)

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理論的な裏付け(計算例)

40列で400段までの計算結果

計算結果の濃度分布の3次元表示

十分な分離に必要な段数N*は:

MN *

中間の遷移濃度部分の幅列数M’は:1'M

入口の濃度分布に出口部では依存しなくなることも特徴

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• 数理的な解析により、原理的にはネットワークの列数と段数を、成分に合わせて適切に決めることにより、100%近く分離できることが証明できている [3][4]。

• 上記の理論解析から、成分種に依存する分離係数がわかればネットワーク構造の列数と段数が設計できる。

• 分離機構は、ここで用いたソーレ効果に限らない。他の物理現象による分離(静電気力や電磁力等)でも、同様な装置の設計が可能。

[3]S.Watanabe, S.Matsumoto, T.Higurashi and N.Ono, Physica D, 331(2016)1-12.[4]S.Watanabe, S.Matsumoto, T.Higurashi, Y.Yoshikawa and N.Ono, Journal of Physical Society of Japan 84, 043401(2015).

理論的な裏付け(まとめ)

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• ここではガスの場合として、水素と二酸化炭素の混合ガスを用いた。ソーレ効果は確かに生じており分離が起こせることがわかった[5][6]。

• ガスのソーレ効果は他のガスの組み合わせでも起こり得るが、強く発生するものとしては下記の報告例がある[7]。他にも多くあると見られる。

N2-H2, CO-H2, Ne-He, Ar-He, He-H2, Ar-Ne, Ar-H2, Ar-N2

[5]T.Wako, M.Shimizu, S.Matsumoto and N.Ono, J. Therm. Sci. Technol. 9 (2014) JTST0005.[6]S.Kuwatani, S.Watanabe and N.Ono, J. Therm. Sci. Technol. 7 (2012) 31-44.[7]J.O.Hirschfelder, C.F.Curtiss and R.B.Bird, Molecular theory of gases and liquids, John wiley & sons Inc.(1963), p584-585.

理論的な裏付け(気体分離の汎用性)

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想定される用途

• 本技術は、貴重な(工業上価値のある)ガスを混合ガスから低コストで分離する用途に活用できる。また貴重な微粒子を混合液から分離する用途にも適している。

• 本技術で、ある程度の濃縮(あるいは粗分離)を行い、最終精製のみに従来法を用いるといった活用も考えられる。低コストにつながる。

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実用化に向けた課題

• 分離性能が低い点に関しては、印加温度大(オール金属製の装置にして温度差を数百度へ)と、素子数の増加(素子数を大幅増すればいつかは解決)や、素子内の流路形状改善で解決する予定。

• 素子内の出入口での流れの変化による成分の再混合を抑えることが一つの鍵である。流体数値シミュレーションも併用して解決を目指している。

• 実用化に向けて、まずは目標成分の出口濃度として純度90%を目指している。

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企業への期待(連携のお願い)(1)

• 混合ガスや、微粒子を含む液体からの、有益成分の分離のプロセスに応用できないか。具体的な実用例(物質例)をご提案頂きたい。

• 共同開発の形で、具体的な事例(物質例)にて連携して実用化を図りたい。

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• 成分分離(ソーレ効果)に必要な駆動源は温度差のみである。有効活用されていない高温熱(あるいは低温熱)がある環境に適した装置である。

• 例えば焼却炉等の廃熱や、液化天然ガス等の蒸発時の冷熱やガス改質時の廃熱などが利用できると適である。

• 流体の成分分離にご興味がある企業と、上記の熱源をお持ちの企業は同一でなくても可。

企業への期待(連携のお願い)(2)

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本技術に関する知的財産権

• 発明の名称 :素子配列,素子,流体の成分分離方法,および素子配列の製造方法

• 出願番号 :特願2014-255463(特開2016-112534)

• 出願人 :産総研,茨城大学,芝浦工大

• 発明者 :松本壮平,渡邊辰矢,小野直樹

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研究活動の経緯

• 2008年 芝浦工大にて実験研究開始

• 2009年 茨城大学、産総研との連携研究開始

• 2012年-2014年科研費(挑戦的萌芽No.24656146 )に採択

• 2015年-2017年科研費(基盤研究(C)No.15K05841 )に採択

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お問い合わせ先

芝浦工業大学 研究推進室 研究企画課

産学官連携コーディネータ

吉田 晃

TEL03-5859-7180

FAX03-5859-7181

e-mail [email protected]

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