の 書物観* - j-stage

16
Japan Society of Library and Information Science NII-Electronic Library Service Japan Sooiety of Library and nformation Soienoe 143 クシ にみる 書物観 ビアス ・一 図書館 印刷 史 レクシ 構築 最 も力 はイ ンク ラの 収集 本稿 当該 レクシ 提示 観 点 を 明 らか 図書館 クナ ブ ラ 日およ ラ展示 目録 を通 して ンの 容を討 した クナブラに用 られ た 活字休 遷や が写本から えた近 形態 と発 展 され て トラ 書誌学 研究成 より 印刷術 地理 伝播過程 および 書物 形成過程 歴史 具現化し 取れ ンク ナブ ラの 時代 学問 発展期 位置 もうかがえたは じめ 1 クナ 目録 構成 内容 Ll 析書誌学 L2 印刷 術 伝播 提示 2 1925 年展示会 目録 構成 内容 21 クナ ブ にお 書物 変化 2 2 提示 3 書物観 は じめ に アス PierceButler 18 &」1953 1920 年代 図書館 The Ncwberry Library レクシ 部門 財団 The Wing FoundHdon 管理者 となり 印刷 史 ンの 最 も力 を注 はイ クナブ ラの 収集 H ナブ レクシ 書誌学 分野 研究活動 とし評価 うけ 1 200010 6 受理 20Q14 7 改稿受 ** わかま 純真 ∫短期大学 図書館学 従来 An Intvoduction to Librarl Science2 中心 るシカ 大 学 時代 業績 じられ 時代 目されず 来た ため 書誌学者 書 物 史研 究 者 ての 側面 てはほ 議論 しか し 書館 を見るためには シカ 大学時 ばか なく 時代 業 績 も含 視点 から ること が必 時代 代 表的業 当該 を見直す にしこに 後年 図書館学 基礎 なる 観 点 を読 がで ではな かと たから ある 階としレクシ 形成 経緯 を収集方針 うな も たか 収集方 策定 そし収集活動 展開 した かを 詳細 検討 した S らか 歴史的 学術 的な地からレクシ ンの 構築 を 計画 収集方 針 を策 定 厳密 実践 した も注 目す ウィ 財団 当初 4 印刷術発明 N 工工 Eleotronio Library

Upload: khangminh22

Post on 08-Apr-2023

6 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Japan Society of Library and Information Science

NII-Electronic Library Service

Japan  Sooiety  of  Library  and  工nformation  Soienoe

143

イ ン ク ナ ブ ラ .・ コ レ ク シ ョ ン に み るバ トラ

ー の 書物観*

若  松  昭 子* *

  ビ ア ス ・バ トラー

が ニ ュ・一ベ リ

ー図書館 の 印刷 史 コ レ ク シ ョ ン構築 の 中で 最 も力 を注 い

だ の は イ ン ク ナ ブ ラ の 収集 で あ る 。本稿 で は ,当該 コ レ ク シ ョ ン を通 して バ トラ ・一が提示

し よ う と した 観点を明らか にす る ため に,ニ ューベ リ

ー図書館 の イ ン クナ ブ ラ 日録 お よ び

イ ン ク ナ ブ ラ展 示 会 目録 の 分 析 を 通 して コ レ ク シ ョ ン の 内容 を検 討 した。コ レ ク シ ョ ン に

は イ ン ク ナ ブ ラ に 用 い られ た 活字休の 変遷 や ,書 物が 写 本 か ら標 題 紙等の 機能 を備 え た近

代的 な形態へ と発展する様子 が 示 され て い た 。 即 ち,バ トラーは当時発展期に あ っ た 分析

書 誌 学 の 研 究 成 果 を採 用 す る こ と に よ り, 印刷術 の 歴 史地 理 的 な 伝播過程 ,

お よ び書物 の

形成過程 とい う二 つ の 歴史 を具現化 しよ うと して い た こ とが 見 て 取れ た 。 さ らに , イン ク

ナ ブ ラ の 時代 を学問の 発展期 と して 位置づ け よ う と して い た こ と もうかがえた。

目  次

は じめ に

1.イ ン ク ナ ブ ラ 目録 の 構成 と内容

 Ll 分 析書誌学の 採用

 L2 印刷術の 伝播過程 の提示

2.1925年展示会 目録の 構成 と内容

 2.1 イ ン クナ ブ ラ期に おける書物の 変化

 2.2 書物の 形成遇 程の提示

3.バ トラ ーの 書物観

お わ り に

は じめ に

 ピ ア ス ・バ トラー (Pierce Butler;18&」1953)は,

1920年代 ,ニ ューベ リ

ー図書館 (The  Ncwberry

Library)の 特殊 コ レク シ ョ ン 部門で ある ウ ィ ン

グ財団 (The  Wing  FoundHdon )の 管理者 とな り,

財団 の 印刷 史 コ レ ク シ ョ ン の 基礎 を築 い た 。バ ト

ラ ーが 最 も力 を注 い だの は イ ン クナ ブ ラ の 収集で

あ っ た。今 H ,こ の イ ン ク ナ ブ ラ ・コ レ ク シ ョ ン

は ,書誌学や書物 史分野 の研究活動 を支え る もの

として 高 い 評価 を うけて い る1)

2000年 10月 6 日受理 20Q1年 4月 7 日改稿受 理**

わ か ま つ  あ きこ 埼玉 純真 女・∫ 

短期大学

バ ト ラー

の 図 書 館 学 に つ い て は, 従 来 ,

An

Intvoduction to Librarl>, Science2)

を中心 とす る シ カ

ゴ 大学時代 の 業績が専 ら論 じられ ,ニ ュ

ーベ リー

時代 に つ い て は着 目されず に 来 た 。 そ の ため, 彼

の 書誌学者な い し書物 史研究者 と して の 側面に つ

い て は ほ と ん ど議論 さ れ て い な い。 しか し,バ ト

ラー

の 図書館学観を見 るた め には,シカ ゴ大学時

代 ばか りで な く,ニ ュ

ーベ リー時代 の業績 も含め

た 視点か ら考察す る こ と が必 要で あ ろ う。 そ こ で

筆者は,ニ ューベ リ

ー時代 の バ トラ

ーの代 表的業

績 で ある当該 コ レ ク シ ョ ン を見直す こ と に した 。

そこ に, 後年 に お ける彼 の 図書館学 の 基礎 となる

観点 を読み取る こ とが で きる の で はな い か と考え

たか ら で あ る 。

 そ の 第一

段階 と して ,まず,バ トラ ーに よ る コ

レ ク シ ョ ン 形成の 経緯 をた ど り, 彼 の 収集方針は

どの よ うなもの で あ っ たか,彼は どの よ うに して

収集方針 を策定 し,そ して ,ど の ような収集活動

を展 開 した の か を詳細 に検 討 したS〕

。 そ の 結果 ,

次 の 事柄 が明 らか に な っ た 。

 バ トラーは

, 歴史的か つ 学術 的 な見地 か ら印刷

史 コ レ ク シ ョ ン の 構築 をめ ざし,計画的 に収集方

針 を策定 し,自ら厳密 な資料選定 を実践 した 。 中

で も注 目す べ き点 は ,ウ ィ ン グ財 団 の 設立 当初 ,

ニ ューベ リ

ー図書館

4)の 理 事会 が ,印刷術発 明

N 工工一Eleotronio  Library  

Japan Society of Library and Information Science

NII-Electronic Library Service

Japan  Sooiety  of  Library  and  工nformation  Soienoe

144 R 本図書館情報学会誌 Vol. 46, No , 4

, APIil 2001

時か らそ の 後の 100年間 (1450年 一1550年)に 出

版 さ れ た 図書 を収集 し よ うと考え て い た に もか か

わ らず,バ トラーは そ の 前半 50年間 (1450−1500

年)の 図書 ,つ ま リイ ン ク ナ ブ ラ (incunabula)

に 収集の 対象 を絞 っ た こ とで あ る 。 収集に先立 っ

て設定 した選書基準 に,バ トラーは 歴史的,学術

的51,芸 術的価値 と い う三 つ の 基 準 を設け た

。 イ

ン クナ ブ ラ の 収集が優先 された の は,バ トラー

; つ の 条件すべ て を満たす図書 と して それらを重

視 して い たか らで あ っ た 。

  しか し,先の研究で は主 と して コ レク シ ョ ン を

形成す る プ ロ セ ス に焦点 を当て たた め に,

イ ン ク

ナ ブ ラ ・コ レ ク シ ョ ン の 具体的な内容に は触れ る

こ とが で きなか っ た 。 そ こ で 次 の よ うな疑問が残

され た 。   バ トラ ーが構築 した イ ン ク ナ ブ ラ ・コ

レ ク シ ョ ン の 具 体的 な内容 は どの よ うな もの だ っ

た の か 。   イ ン クナ ブ ラ を歴 史的 ,学術 的 , 芸術

的に 重 要で ある と位置づ けた バ トラ ーの 考え方 の

根底に は どの よ うな書物観が あ っ た の か 。

 ニ ューベ リ

ー図書館時代 を バ トラ

ーの 図書館学

の 出発点 と捉 え る な らば,

こ れ らの 疑 問を明 らか

に してお く必要がある 。 本研究で は,以 ドの 資料

と方法 を用 い て 上記 の 課題 を検討す る。

 バ トラ ーの 構築 した コ レ クシ ョ ン の 内容,お よ

びそ こ に盛 り込 もうとした書物観 を具体 的に示す

もの と して ,バ トラー

が編 纂 した 2種類 の 冖録類

があ る 。

..・つ は,ニ ュ

ーベ リ

ー図書 館が所蔵す る

イ ン クナ ブ ラ の 目録 で あ り, もう一

つ は こ :L・・一ベ

リー

図書館が 主催 したイ ン ク ナブ ラ 展示会の 目録

で ある 。

  バ トラ ーは 1919年,1924年,1933年 の 3回 に わ

た り,ニ ューベ リ

ー図書館の イ ン ク ナブ ラ 目$.i e) 7: 8}

を編纂 した 。 (以.ド,

こ れ らを 「バ トラーの 目録」

と呼び,各 々 を 1919年版,1924年版,1933年版

と呼ぶ 。 ) 1933年版は ,バ トラー

が ニ ューベ リ

図書館 を辞 した一

年半後,即 ち,彼が既 に シ カ ゴ

大学教授 とな っ て い た時期 に 出版 された 。 しか し,

刊行 まで の 準備 の 期 間を考慮す る と,1933年版

の 編纂作業が ウ ィ ン グ財 団管理者 と して の バ トラ

ーの 最後 の 仕事にあた る と推測で きる 。 したが っ

て ,こ の 目録 は バ トラー

が ニ ューベ リ

ー図書館 で

行 っ た イ ン クナブ ラ収集 の 結果 を最 も良 く反映 し

て い る もの で あ る ,と見なす こ と が で きよ う。

 バ トラL一

が 編纂 したイ ン ク ナブ ラ 目録 に は,大

きな特徴が あ る 。 そ れ は, 個 々 の 書誌記入 が 地域

別,出版社別に排列 され て い る 点で ある。こ れ は ,

ロ バ ート ・プ ロ ク タ

ー (Robert George  Collier

Proctor,1869−1903)に よ っ て 編纂 された 大英博

物館9:1

の イ ン クナ ブ ラ 目録 に なら っ た もの で あ っ

た 。こ の 排列 の 方法,各見出 しの も と に盛 り込 ま

れ た内容,お よび こ の 排列を採用 した理 由 に,バ

トラ ーの書物観が示 されて い る と考え る 。

  さ ら に,バ トラーは ニ ュ

ーベ リー図書館 時代 に

2 圖 にわ た りニ ューベ リ

ー図書館 の イ ン クナ ブ ラ

展示会 の 企画,お よびその 日録作成 を行 っ た 。  ・

っ は,

1925 年 の:‘The  Fift¥Years of  the  Printed

Book ”と題 する イ ン クナ ブ ラ の 展示会,もう一

は 1930 年 の“lncunabula : Special Exhibition of

Fifteenth  Century  Books ”と題す る 展示会で あ る

〔以下 , 「’1925年展示会」11930年展示 会」と呼ぶ )。

1925年展 示 会 の F1録1°:

は ,図 版は な く記述 も少

な い 17ペー

ジの 小 珊子で あ り,1930年展示会 目

録ll)

に は 解説が ない。 両者 と も, 現在 の 目か ら

見る と展示 会 日録 と して 1’分 な もの と は 言 い 難

い。 しか し,収録 され て い る具体的な作 品,また

そ れ ら の構成や解説か ら は, 展示会に お ける バ ト

ラー一

の 意図 ,さ らには コ レ ク シ ョ ン に バ トラー

盛 り込 もう と した書物観の一端を読み とる こ とが

で きる 。

  こ れ まで ,バ トラーの 編纂 した こ れ ら の イ ン ク

ナブ ラ 目録や 展示 会 目録 は 研 究対象と して は 取 り

上 げ られ て こ なか っ た 。 本稿で は,こ れ ら 2種類

の 冖録の 分析 を通 して ニ ューベ リ

ー図書館時代 に

お け る バ ト ラ ーの 書物観を探 っ て ゆ き た い

。 ただ

し,個 々 の EI録にお け る書誌記述 の 例や記述方法

の 比較 に つ い て は紙面 の 制約が あ り今回は と りあ

げな い。

 第 1章で は,

ニ ュー一ベ リ

ー図書館の イ ン ク ナ ブ

ラ 目録 の 分析 を 通 し て,

コ レ ク シ ョ ン 全体の 内容

を見て ゆ く。 そ の 際,バ トラ ーが依拠 した 大英博

物館 の イ ン クナ ブ ラ 目録 も同 時 に参照 す る 。 第 2

章で は,主 に ニ ューベ リ

ー図書館 の 1925年 の イ

ン ク ナ ブ ラ 展示会 冖録 に つ い て ,取 り Hげ られ た

作品 お よび解説文 を検討す る。

  第 1章お よび第 2 章に よ り,バ トラー

が 当時 の

分析書誌学 の 成果 に依拠 して ,ニ ューベ リー図書

N 工工一Eleotronio  Library  

Japan Society of Library and Information Science

NII-Electronic Library Service

Japan  Sooiety  of  Library  and  工nformation  Soienoe

若松 :イン ク ナ ブ ラ ・コ レ ク シ ョ ン に み るバ トラー

の 書物観 145

館の イ ン クナ ブ ラ ・コ レ ク シ ョ ン に印刷術 の 伝播

過程 と書物の 形 成過程 を再現 しよ うとして い た こ

とが明 らか に なる 。

 ag 3章 で は ,さ らに,1925年展示会 と 1930年

展示会の 目録の 比較を通 じて ,イ ン クナ ブ ラ の 時

代 に対する バ トラーの 別の 観点を見て ゆ く。 それ

に よ り,バ トラー

が分析書誌学 の 視点ばか りで な

く,イ ン ク ナブ ラ の 時代 を文化発展 の 重要な時期

と し て 位置づ けよ うと し て い た とい う仮説 を提示

す る。

1.イ ン クナ ブラ 目録の 構成 と内容

1.1 分析書誌学の 採用

 バ トラー

の 日録を開 くと一

風 変わ っ た排列方法

に気が つ く。 それ は, 蔵書 目録や 総合 目録 と い う

名称 か ら我 々 が 思 い 描 く よ うな ,主題 ま た は 著

者 ・書名等の 音川頁に よる排列法 とは異 なる 。つ ま

り, 日録中の イ ン ク ナ ブ ラ は, それ らが印刷 され

た国や都市や 印刷所 に よ っ て 分類 され排列 され て

い る 。 そ れ は,バ トラー

が分析書誌学の 先駆者で

ある プ ロ ク タ ーの 分類法 を基礎 に し て い たか ら で

ある 。 1933 年版 目録 に お い て バ トラーは 次 の よ

うに述 べ た 。

  私の イ ン ク ナ ブラ収集 に お ける 第一の 目標

は ,印刷術の 発明 か ら 15世 紀末ま で に至 る発

展段階 の なか で ,そ の あ らゆ る ス テ ッ プを提示

する 可能性 を持 つ 代表的図書で あ り,そ の 発展

段階 を最 も端的 に示 す 実例 を確保す る こ と で あ

っ た。第二 は,そ の 時代 にお ける知的関心 の代

表作 ,並 び に その 時代の 学識 の潮流 を示す代表

的な 図書 を選 ぶ こ とで あ っ た 。 プ ロ ク タ ーは ,

私 の こ の 二 つ の 目的を達成 させ る ため の ,不変

の 指針で あ っ た 。 彼の 分類法 は歴史的な発展を

見事 に表 して い る/2)

 バ トラー

の 言葉 か ら,プ ロ クター

の 分類法 の 採

用 が印棚術 の 発展 史を表現 す る とい うバ トラー

目的 に適 して い た と い うこ とが 分か る 。 で は プ ロ

ク ター

の 分類 法は なぜ ,また どの よ うな点で 有効

で あ っ た の だ ろ うか 。 それ ら の 問に 答える ため に

は, 分析書誌学の発展の 経緯を簡単 に た ど る 必要

が ある 。

 現 在で は,グー

テ ン ベ ル クに よ っ て印刷術が発

明 され て か ら,それが ど の よ うな経路で ヨー

ロ ッ

パ 中に伝播 して い っ たか を詳 し く知 る こ とが で き

る 。 しか し,イ ン クナ ブラ の 多 くは,印刷地や印

捌 年 , 印刷 者 な ど の 表 記 が な い。 プ レ ッ サ ー

(Helmut  Presser)は, イ ン ク ナ ブ ラの 3分 の 1 に

は印刷者,印刷 地,印刷年月 口の 表記が な い と述

べ て い る131,

。 し たが っ て,

そ れ らが,

い つ, 誰 に

よ っ て 印刷 され た もの か,また どの よ うに印刷術

が 普及 して い っ た の か は長 い 問不明で あ っ た 。 そ

の た め に,

プ ロ ク ター

以前の イ ン ク ナ ブ ラ 冖録で

は,主 と して 主題 もしくは書名 ・著者名に よ る排

列方法が採用 され て い た 。

  19世 紀末の イギ リ ス とオ ラ ン ダに お い て ,印

刷術の 伝播過程 を, 活字体や書物の 物理的な部分

を研 究す る こ と に よ っ て 明 ら か に し よ うと す る 書

誌学上 の’試みが生 まれた 。

ロ ン ドン の 印刷業者 ブ

レ イズ (William Blades,1824−90)は

, イギ リス

最初 の 印刷業者 ,キ ャ ク ス トン (William Caxton)

が 印刷 した書物の 活字の 変化 を研究 し14),キ ャ ク

ス トン 本 の 印刷年代 を明 らか に した 。 また , オ ラ

ン ダ の ハ ーグ 王 立 図 書 館 長 ホ ル ト ロ ッ プ

〈Johanncs W . Holtlop,1806−1870) も同様の 方法

で,

オ ラ ン ダ低地地 方の イ ン ク ナ ブ ラ所蔵 目録1「J ]

を編年川頁に編纂 した。彼等 の 研 究に積極的な助言

を与 え て い たケ ン ブ リ ッ ジ大 学図書館 の ヘ ン リ

ー ・ブ ラ ッ ドシ ョー

(Henry  Bradshaw,1831−86)

は ,こ うし た 書物 の 物理 的側面 の 研 究 を体系化 し

よ うと試み た 。 20 世紀初頭の イギ リ ス に お い て,

そ れ は分析書誌学 (analytical  bibliography ) と呼

ばれ る新分野 へ と発展 した の で ある。

  プ ロ ク タ ーは ,1893年か ら 1903年 に か けて 大

英博物館の 図書館員で あ っ た 。 彼 は,

ブ ラ ッ ドシ

ョー

が行 っ た 活字分析の研 究成果とホ ル トロ ッ プ

の イ ン ク ナブ ラ 目録 の 印刷 史的排 列法を基礎に ,

大英博物館 が所蔵する イ ン ク ナブ ラ の 再編成を 目

指 して 活字 の 研究 を行 っ た 。 そ の 結果 は, 1898

年か ら 1899年 に か けて A η h4 甜 o 伽 翫 吻 創 瞬 64

Boohs in the β翔 勧 ilduseum ; from the invention of

抑anting to the p6ar 150016〕

(以 下 「プ ロ ク ター

の 日

録 1 と呼ぶ ) として 出版 され た 。 当該 目録の 排列

順序 は ,印刷開始 の 早 い 国順 ,国内 は印刷開始の

N 工工一Eleotronio  Library  

Japan Society of Library and Information Science

NII-Electronic Library Service

Japan  Sooiety  of  Library  and  工nformation  Soienoe

146 日本図書館情報学会誌 xrol.46, No .4

, April 2001

早 い 都市順 ,都市内は印刷 開始の 早 い 印刷者順 ,

さら に 印刷者 内は作 品の 印刷年順 とな っ て い る 。

こ れ は ,イ ン クナ ブ ラ を印刷 史の 観点か ら整理 し

よ うとす る もの で,プ ロ ク ター分類法 また はプ ロ

クター排列法 と して 知 られて い る

17「.

 プ ロ ク タ ーの 目録 は,従来 の よ うな著者名 ・書

名順 の 分類 とは異な り,“国,都市,印刷所に よ

っ て イ ン ク ナ ブ ラ を体系的か つ 科学的 に排列 し た

最初の 大規模 な 目録で ある” 18)

と評価 され て い る 。

プ ロ クター

の 作業は,後継者 ア ル フ レ ッ ド ・ポ ラ

ード (Alfred W . Pollard

,1859−1944)等に よ・

コ て

継承 され ,Cata.logue〔ofBoola ∫ in the Fif}e翻 h CentUTIv

鰤 伽 η

’1 

’h,e British,Mtkseu”mlL

と して 現 在 へ 発 展 し

て い る 。こ う して ,活字 な どの 分析 を通 して イ ン

ク ナブ ラ の 正確 な位置づ けが な され,印刷術の 発

明か ら発展 の 過程 を歴 史地理 的 に写 し出す こ と が

可能 とな っ た の で ある 。

  19世紀の 後半 に ヨ ーロ ッ パ で 生 まれた こ の 新

しい 書誌学 は,やが て ア メ リ カ に も受 け継が れ ,

20世 紀 の 英米書誌 学 に多 くの 優 れ た研 究 成 果 を

もた ら した 。バ トラー

が ニ ューベ リ

ー図書館の 受

け入 れ部門 の 責任者,並 びに ウ ィ ン グ財団管理者

と して 活躍 した 時期 (1917擁 931)で ある 20世紀

前半は,

ま さ に英米 の 分析書誌学の 発展期 に あ た

る。バ トラーもこ の 影響 を強 く受けた

・人で ある

と考え られ る 。 1933年版 H 録の バ トラー

の 言葉

(既 述)か ら も, 彼が ブ ラ ッ ド シ ョ

ーや プ ロ ク タ

ーに よ っ て 体系づ け られた新 しい 考え方を取 り入

れ て コ レ ク シ ョ ン を形成 しようと した こ とが うか

が え る 。

  1919年版 も同様 に プ ロ ク ターの 分類排列 方法

が採用 され て い る 。こ の 日録 は,当時 ニ ュ

ーベ リ

ー図書館の 図書受け入 れ部門 の 責任者で あ っ た バ

トラ ーが , 館内の ス タ ッ フ 用 に作成 した もの で あ

っ た。バ トラーが既 に こ の 時点で プ ロ ク タ ーを意

識 しつ つ イ ン クナ ブ ラ の 整理 を試み て い た こ とが

わ か る。卜[録 に は,

ニ ューベ リ

ー図書館が 所蔵 し

て い た計 280点 の イ ン ク ナ ブ ラが 1933年版 と同

じ方法に よ っ て 分類排列 され,そ の 序文で は 当時

の 館 長 カー

ル トン (WN . C . Carlton)が,  H録は

“印刷術 の伝播を歴 史的に排列 した もの で あ る

”  ze),

と 述 べ て い る 。

 続 く 1924 年版 に お い て も , 同様の 分類排列方

法が採用 され て い る 。 プ ロ ク ター

の 名前 は こ の 目

録 の 中で も言及される 。 当時の 図書館 長ア トリー

(George B . Utleア)は そ の 序文 にお い て ,‘‘イン ク

ナブ ラ を歴史的に排列す るため にプ ロ クター

の 分

類法 をモ デ ル として 日録編成 を行 っ た”20

と明記

した。

 こ れ らの こ とか ら,バ トラー

は 14年間 ,終始

プ ロ ク ターの 目録 を指針 と しつ つ ,印刷術の伝播

過程 を示す とい う目標 に 向か っ て コ レ ク シ ョ ン を

形成 し ようと した こ とが わか る。

1.2 印躙術の 伝播過程の 提示

 大英博物館は ,世 界 で も有数 の イ ン ク ナ ブ ラ所

蔵館の一一

つ で あ る 。 プ ロ クター

が イ ン クナ ブ ラ を

整 理 し よ うと し た 時点 で, 大英博物館 はす で に

8,000 点 に近 い 作品 を所蔵 し て い た 。 こ れ ら を印

刷地 ,印刷 者,印刷年ご とに排列す る こ とに よ っ

て,

ヨ ーロ ッ パ に おける 印刷術の 伝播過程 を概観

する こ とが 可能で ある 。 他方 ,ウ ィ ン グ財団は ほ

とん どゼ ロ か らの 出発であ っ た 。 財 団 の コ レ クシ

ョ ン が,

プ ロ ク タ ーの 分類 に沿 っ て 印刷術の 伝播

過程 を体系的に 再現する ため に は, 多くの 都市や

印刷所の 代表的 な作品 を個 々 の 名高 い 作品 よ りも

優先 して 収集す る 必 要が あ っ た と’考えられ る 。で

は,バ ト ラ ーの 形成 した コ レ ク シ ョ ン は, 印刷術

伝播 の 過程 を どの 程度 表現 し得た の で あ ろ うか 。

本節で は,

大英 [専物館の イ ン ク ナ ブ ラ ・コ レ ク シ

ョ ン との 比較に よ っ て それ を検証 して み た い。

 比 較の 方法 と して ,バ トラ ーの 目録 と プ ロ ク タ

ーの 目録 を用 い ,当時 の 研 究 で 明 らかに されて い

た 15世紀 の 印刷 国,印刷都市,印刷者の それ ぞ

れ の 推 定総 tAL: に対 し , 大英博物館 とニ ューベ

リー・

図書館が どの程度それ らを収録 して い るか を

調査 した 。 なお ,こ こ で 用 い て い る イ ン ク ナ ブ ラ

に 関する情報は ,バ トラ ーが コ レ ク シ ョ ン を形成

し た当時の もの で あ る こ と,また,国や 都市の 領

域 に つ い て も第二 次大戦以前 の状態で ある こ とを

断 っ て お きた い231

 は じめ に ,印刷術 の 伝播過程 を国 レ ベ ル で た ど

っ た。プ ロ ク ター

の 目録 に よ る と,1454 年 に ド

イ ツ で 発 明 され た 印刷 術 は,1465年 に は イ タ リ

ア へ ,1468年 に は ス イ ス へ ,1470年 に は フ ラ ン

ス へ と伝 わ り,以 下順 次 ,オ ラ ン ダ,ベ ル ギー,

N 工工一Eleotronio  Library  

Japan Society of Library and Information Science

NII-Electronic Library Service

Japan  Sooiety  of  Library  and  工nformation  Soienoe

若松 :イ ン ク ナ ブ ラ ・コ レ ク シ ョ ン に み るバ トラー

の 書物観  147

オー

ス トリア ・ハ ン ガ リー

,ス ペ イ ン

, イギ リス,

デ ン マー

ク,

ス ウ ェー

デ ン,

ポ ル トガ ル,

モ ン テ

ネグ ロ の 諸国に広が っ て い る 。 表 1 は,

バ トラー

の 目録 と プ ロ ク ター

の 目録 に収録 された イ ン クナ

ブ ラ の 印刷国の 状 況 を示 した もの で あ る 。 15世

紀 中に印刷が 行 われ た 13か 国の うち,プ ロ ク タ

ーの 冖録で は 12か 国,バ トラ

ーの 冖録に は 11か

国の 作品が収録 され て い る 。 しか し,バ トラー

2 か国をカ バ ーで きなか っ た と して も不思議 はな

い 。なぜ なら,印刷所 の 数は国に よ っ て 大 きな差

が あ る か ら で あ る。イ タ リ ア に は ,最 も多 くの

73 と い う印刷 所が存在 した一

方 , デ ン マ ーク で

は 2 つ,

モ ン テ ネグ ロ で は 1つ の 印刷所 しか知 ら

れ て い な い。

つ ま り,後者の 印刷所 か ら出版 され

た作 品を入手す る こ とは, 偶然 的な要素に依存す

る と こ ろ が 多か っ た で あろ うと思 われ る。

 次に ,印刷術の 伝播過程 を都市 レ ベ ル で た ど っ

て み た 。 例 えば,

プ ロ ク タ ーの 目録 に よ れ ば ドイ

ツ で は ,15世紀末 に は 国内の 51の 都市に印刷所

が 存在 して い た こ と が記 され て い る 。 すな わ ち,

グー

テ ン ベ ル ク に よっ て マ イ ン ッ で 発明され た と

い われて い る 印刷術 は,146工年 に ス トラ ス ブル ク

とバ ン ベ ル クへ ,1466年に は ケ ル ン へ ,1467年に

は エ ル トビ ル ,ユ468年には ア ウ グス ブ ル ク,1470

年 に は ニ ュ ル ン ベ ル ク と順次広が っ て い き, 1500

年 に 51番 目の 都市 で ある プ ロ ッ ツ ハ イ ム に 伝播

して い る様子 を 目録 か らた ど る こ とが で きる241

表 1  印刷 術 の 伝播 過 程 (国)

国名   i出版年 P B

ドイツ       1 1454 O ○

イタリア     …1465 o ○ス イス       : 1468

フラン ス    …1470

オランダ     1147レ 73

Ooo ooo

ベ ルギー   拍 473 ○ oオーストリア・ハンがリ

ー i 1473 o oス ペ イン     i1474 o Oイギリス    11477 o 0デン マ ーク    21482

ス ウェ_デン   i1483

ポ ル トガ ル    i1487モ ン テ ネグ ロ   11493

XOoO ×

OOX

P :プ ロ ク ター

の 目録 ,B :バ ト ラ ーの 目録

以 ド表 2 〜表 5 も同様,○は所蔵,× は未所蔵。

こ れ ら の 51都 市の うち , 大英博物館 が所蔵す る

の は 46,

ニ ュー

ベ リー

図書館 は 30 の 都市 を収録

し て い た 。 表 2 は, 同様 に

,イ タ リ ア 73都

’市,

ス イ ス 8都市,フ ラ ン ス 39都市 , オ ラ ン ダ 14都

市,ベ ル ギー 7都市,オ

ース トリア ・ハ ン ガ リ

10都市 ,ス ペ イ ン 24 都市 , イギ リ ス 4都市 ,ス

ウ ェー

デ ン 3都市,ポ ル トガ ル 4都市,モ ン テ ネ

グ ロ 1都市に対する両 目録の 収録数を調 べ ま とめ

たもの で ある 。 プ ロ ク ターらの研究 によ り当時明

らかに され て い た,印刷所 の あ っ た都市 は 240都

市, こ の うち大 英博物館 は 73,3 % にあ た る 176

の 都市 を ,ニ ュ

ーベ リー図書館 は 39,6% にあた

る 95都市 をカ バ ーし て い た 。 つ ま り,大英博物

館の 収録都市数 と対比 した場合に は ,ニ ューベ リ

ー図書館 は そ の 54、O % を所蔵 し て い た こ と に な

る。

  印刷術の 伝播過程 を印刷所の レ ベ ル で 見て み よ

う。 ドイ ッ に つ い で 早 い 時期か ら印刷術が 導入 さ

れ た イ タ リ アで は,最 も多 くの 都市 (73都 市,

525印刷所)で 印刷が 行われ て お り,印刷業が大

変盛 ん で あ っ た こ とが わ か る 。 特に ベ ネチ ア は,

ロー

マ ン活字体や イ タリ ッ ク活字体 ,ギ リシ ャ活

字体な ど を考案 した ア ル ド ゥ ス ・マ ヌ テ ィ ウ ス

(Aldus Manutius ) や ニ コ ラ ス ・ジ ャ ン セ ン

(Nicolas Jensen)などが 活躍 した街 として知 られ

る。プ ロ ク タ ーの 目録 の 中 で,

ベ ネ チ ア は全都市

表 2 印刷術 の 伝播 過 程 (都 市)

国 総数 P B

ドイ ツ 51 46 30イタ リア 73 54 29ス イ ス 8 5 3フ ラ ン ス 39 17 9オラ ン ダ 14 13 6ベ ル ギー 7 7 4か ストリア・ハンが リ

ー 10 8 2ス ペ イ ン 24 16 6イ ギリス 4 4 4デ ン マ

ーク 2 0 o

ス ウ エーデ ン 3 2 1

ポ ル トガ ル 4 3 1モ ン テ ネ グロ 1 1 0

計 240 176 95

割合 1 100(%) 73.3(%) 39.6(%)割合 2 『 100(%) 54.0 (%)

N 工工一Eleotronio  Library  

Japan Society of Library and Information Science

NII-Electronic Library Service

Japan  Sooiety  of  Library  and  工nformation  Soienoe

148  日本図書館情報学会誌 Vol.46, No .4, Apri12   01

の なか で も 151 とい う最 多の 印刷所が あげ られ て

お り,イ タ リ ア の 中で も特に 印刷が盛ん な街で あ

っ た こ とが 分か る 。 そ の 151の 印刷所 の うち , 大

英 博物館は 133の 印刷所を,ニ ュー

ベ リー

図 書館

は 111 の 印刷所を カ バ ー して い た 。

 同様 の 方法で,

プ ロ ク タ ーら に よ る研 究成果か

ら当時判 明 し て い た全都 市 にお け る 印刷 所 の 数

と, 大英博物館お よび ニ ュ

ーベ リー図書館の カ バ

ーする 印刷所 の 数 を整理 し,表 3 に まとめ た 。 当

時推定され て い た 印刷 所 の 総 数は 1,093,そ の うち

大英博物館 は 752 (68.8 % ),

= ユーベ リ

ー図書

館 は 516 (47,2 % ) の 印刷所 をカ バ ーして い る 。

大英博物館 の 収録印刷所 の 数 を 1と した場合 に ,

ニ コ 、一ベ リー図書館 の そ れ は 68.6 % を カ バ ーし

て い る。

 以上 の 結果を総 合 し全 体を比 較 した もの が ,表

4 お よ び表 5 で あ る 。 表 4 は 当時 の 推定され た総

数 に対する, 大英 1専物館 お よ び ニ ュ

ーベ リ ー図書

館の カ バ ー率 を示 した も の で あ り,表 5は 大英博

物館 の 所蔵の 状 況 を 1 と した場合 の ,ニ ューベ リ

ー図書館 の カ バ ー率で ある 。

ニ ューベ リー図書館

は,当時推定 された タ イ トル 総 数 の 1割に も満た

な い 所蔵で あ りなが ら,

8割 以上 の 国 を押 さえ ,

4割 の 都 市 と約半数の 印刷所 をカ バ ーして い る 。

こ れ を イ ン ク ナ ブ ラ の 最 大所蔵図書館 の一つ で あ

る 大英博物館 と比較する と,2 割に 満た な い 小 規

模 な コ レ ク シ ョ ン に もか かわ らず , 9割 の 国,5

割 の 都市,そ して 7 割 の 印刷所 をカ バ ーし て い る

こ とが わか る 。

 こ れ ら の 結果 は,

コ レ ク シ ョ ン形成 に お け る バ

トラ ーの 意図が 印刷術の 発明 とそ の伝播過程 を提

示 しようとする もの で あ っ た こ と,また規模 は小

さ くて も か な りの 程度 そ れ を反映 す る コ レ ク シ ョ

ン とな っ て い る こ とを示 して い る と言え よ う。

  バ トラー

の 形成 し た コ レ ク シ ョ ン に対する 評価

を見て み よ う。 ヨーロ ッ パ で は イ ン クナ ブ ラ の 研

究 が早 くか ら行 わ れ て い た の に反 して,

ア メ リカ

で は 19 世 紀 後半 ま で イ ン ク ナ ブ ラ の 所蔵量が少

な く,イ ン ク ナ ブ ラ の 研究はほ とん ど行 われ て い

な か っ た 。 19世紀中頃に 出 さ れた蔵書 目録 の 中に

は,

イ ン ク ナ ブ ラ が 16世紀や 17LU;紀 の 印刷本 と

区別 な く扱 わ れ て い る もの もあ っ た と言わ れ る2「)

キ ャ ノ ン は ,こ の よ うな時代 に もかか わ らず,印

刷 の 起源 と発展 を示 すため に イ ン クナブ ラ の 収集

を試み た希少な例 と して ,ニ ューベ リー図書館の

イ ン ク ナ ブ ラ ・コ レ ク シ ョ ン を紹介 して い る26)

 同様に,サ ム エ ル ズ (Joel L. Samuels)は“

トラー

の 体系的な収集方針 に よ っ て ,印刷 史研究

を可 能 とする コ レ ク シ ョ ン が 形成 さ れ た 。 こ れ は,

単 なる美術的趣味や ,珍重趣味か ら形成 され た コ

レ ク シ ョ ン で は な し得 な い もの で あ る”27}

と評価

した n また,バ トラー

と同時代の ア メ リカの 書誌

学者 マ ク マー

トリ イ (1)ouglas  C . McMurtrie)は,

彼の 代表作 The Book2s) の 巻頭 に お い て ,研究に際

して ニ ューベ リ

ー図書館 の 貴重書 コ レ ク シ ョ ン を

利 用 した こ とや ,バ トラ

ーの 助醤を うけた こ とな

どを記 して い る 。

  バ トラーは コ レ ク シ ョ ン の 収集方針 を策定する

に あた り,書誌学者,書物 史研究者 , 書物製作者

に とっ て ,印刷文化の歴 史を見る上で ,また書誌

学の 研究に お い て 有効 な コ レ ク シ H ン を作る こ と

を目標 に お い た29’/。 キ ャ ノ ン等 の 評価 は

,ウ ィ ン

グ財団 の イ ン ク ナ ブ ラ・

コ レ ク シ ョ ン が ,バ トラ

表 3 印刷術 の 伝播過 程 (印刷 所)

総数 P B

1,093 752 516印刷所

割合 1

割合 2

100(%) 68.8(%) 47.2(%)一 100 (%) 68,6(%)

表 4 イ ン クナ ブ ラ の 収集結 果 (対総数)

タ イ トル の 総数 :当時の 推定数 2 万 5 千一一3 万

数字 は %

表 5 イ ン ク ナ ブ ラ の 収集結果 (対 プ ロ ク ター目録)

P B

タ イ トル 100 16.4

国 100 91,7

都市 100 54.O

印刷所 100 68.6

数字 は %

N 工工一Eleotronio  Library  

Japan Society of Library and Information Science

NII-Electronic Library Service

Japan  Sooiety  of  Library  and  工nformation  Soienoe

若松 :イ ン ク ナ ブ ラ ・コ レ ク シ ョ ン に み るバ トラーの 書物観 149

一の 意図に か な っ た こ とを示す もの で あろ う。

 他方 ,バ トラ ーの形成 したイ ン クナブ ラ ・コ レ

ク シ ョ ン に は次の よ うな批判 もある 。 ウ ィ ン グ財

団の 後の 管理者 で ある ウ ェ ル ズ qamcs Wclles)は

,バ トラ

ーが プ ロ ク タ

ー分類表に準 じた コ レク

シ ョ ン を形成する とい う試み の ため に,

手 に 入 れ

た い と思 っ て い た活字体が使わ れ て い れ ばあ ま り

重要で な い 図書で あ っ て も選 択 した こ と, ま た 新

しい 活字体 の 例 を入手す るため に,時には不完全

な図書 を購入 した こ とをあげ ,コ レ ク シ ョ ン の 僅

か な欠 陥 と み な し た30)

。 ドナ ル ドソ ン (Jcan S,

Donaldson ) も,バ トラー

が 限 られ た財源 の 中で

で きる だけ多 くの 活字体の 例 を収集 し よう と し

て ,“同形 の 活字体が 用 い られ て い れば

, 重 要で

高額 な作 晶よ りも重要性 は低 くて も安価な作晶 を

選択する こ とがあ っ た”3「

と述べ て い る 。

  しか しなが ら,こ れ らの 批判 はむ しろ,

バ トラ

ーが 印刷術の 伝播過程 を再 現す るため に活字体や

分析書誌学の 成果 に注 目して い た こ とを裏付 ける

証言 と言 えよう。プ ロ ク タ ーの 時代の 分析書誌学

は,印刷 の 歴 史をた どる こ と を 日的 に活字 の 研究

を行 っ て い た 。 イ ン ク ナブ ラ の 活字体は,印刷年

を同定する た め の 重要 な証拠で あ り,バ トラ ーが

プ ロ クター

の 分類 に則 した コ レ ク シ ョ ン を形成す

る ため に は,同形 の 活字体の重複を避 け,で きる

だけ多 くの 活字体 の例 を収集する こ とが必要 だ っ

た と推測する こ と が で きる 。バ トラ

ーの 試み は結

果 として ,個 々 の 作品 とい う観点か らはウ ェ ル ス

や ドナ ル ドソ ン に指摘 され た よ うな欠陥を残 した

と して も,印刷 史の 黎明期を歴史的に 再現 し,

つ 分析書誌学 の 研 究に とっ て有益 な体系的 コ レ ク

シ ョ ン を形成 した と言 うこ とが で きる 。

2.1925年展示会 目録の 構成 と内容

2.1 イ ンクナ ブラ期にお ける書物の変化

 前章 で は, 印刷術が 15 世紀 末に は ヨー ロ ッ パ

の 240 の 都市 へ 広が り,1

,093 の 印刷所 が稼動 し

て い た 事実が プ ロ ク ター等の研 究に よ っ て 明 ら か

に され ,バ トラーもまた こ の 歴 史地理的な鳥瞰図

を再 現す る こ とを 目標 にイ ン クナ ブ ラを収集 した

こ と が確認 で きた。 しか し,バ トラ

ーは コ レ ク シ

ョ ン を通 して ,印刷術 と い う技術 の 普及過 程の み

を再現 しよ うとした の だろ うか 。

 1933年版 目録 の 序文 に お ける, 当時 の ニ ュ

ベ リー

図書館長ア トリー

の 言は,イ ン ク ナ ブ ラ ・

コ レ ク シ ョ ン形成にお ける バ トラー

の 目標が そ れ

だけでは なか っ たこ とを示唆 して い る 6

 ニ ューベ リ

ー図書館が 1920年以 降 に購 入 し

た 作品は, す べ て

,バ トラ ーが策定した収集方

針に則 して ,バ トラー自身が貴任 を持 っ て 選択

した も の で あ る 。 (中略 )そ れ らは そ の 時代 の

書物制作の 代表例 を示す もの で あ り,収集家た

ちが め ざす単 なる稀覯本の代表例 で は ない 。 計

画的に購入 され たそ れぞ れ の 図書は, 歴 史図 の

概観 を可能 にする重要 な要素で あ る 。 新 しい 奥

書 きや 新 しい 活字体の 実例 は ,単なる年代的な

古 さや ,刷 りが少 な い と い うだけ の 理 由で 稀覯

本扱い され て い る図書 よ りも,優先的 に選択 さ

れた32t

 ア トリー

の これ らの 言葉は,バ トラー

の 関心 が

個々 の 優れ た作 品の 集合体 を作る とい う範囲に と

どまらず,印刷術伝播 の 時期 にお ける書物制作 の

歴 史的概観 に あ っ た こ とを伝 え て い る 。 しか し,

こ の こ とを コ レ ク シ ョ ン の 個々 の作 品か ら検証す

る こ とは難 しい 。そ こ で ,バ トラー

の 企画 に よ る

イ ン ク ナ ブ ラ 展示会の 内容 を参照す る こ と に よ っ

て, 彼が コ レ ク シ ョ ン に 印刷術伝播過程だ けで は

な く,書物製作 とい うもう一つ の 主題 を提示 しよ

うと して い た こ とを明 らか に した い。

  1925 年展示会 は バ 1・ラ ーに よ る ニ ューベ リ

図書館の イン クナ ブ ラ展示会 と して は最初 の もの

と推測 され る33 ’

。 当時の シ カ ゴ 地域 にあ る図書館

の 巾 で ,ニ ュー

ベ リー

図書館は最 も多 くの イ ン ク

ナ ブ ラ を所蔵 して い た 。 また シ カ ゴ は ア メ リ カ書

誌学会 (The  Bibliographical Society of  Americu)

の 本部が あ り,書誌学や書物研究 の 中心 的役割を

果た して い た都市の一

つ で あ っ た 。

当時シ カ ゴ大学 の 歴 史学教授で あ っ た トン プ ソ ン

(James Westfall Thompson )は 1925年展示会の

た め に 次 の 言−葉を寄せ た 。

 わ れ わ れ は , こ の 展示会 を通 して 大 きな河 の

流 れ の 源 を見 る こ とが で きるで あ ろ う。と い う

N 工工一Eleotronio  Library  

Japan Society of Library and Information Science

NII-Electronic Library Service

Japan  Sooiety  of  Library  and  工nformation  Soienoe

150 日本図書館情報 学 会誌 Vol.46, No .4, April 2001

の は,貴重 で 美 しい こ れ ら の 本 の 数 々 の 中 に,

人問が考案 したすば ら しい 知 的発 明 の 跡 と シ ン

ボ ル を見る こ とが で きる か らで ある 。 (略)印

刷工 は, 貧 しい 中で

, しば しば教会や政府の 検

閲の 恐怖 に さらされなが ら,粗雑な手動印刷機

に よ っ て 人類史上最 も意義深い発明を成 し遂げ

た。今 凵 の 我 々 は, 彼等が 確立 し伝えて くれ た

尊 い 遺産の 継承者で ある。ニ ュ…ベ リ

ー図書館

は幸運 に もそれ らの イ ン ク ナブ ラ を所蔵 して い

る 。 シ カ ゴ 市民 は, 人類の 発展史上 で の 最 も偉

大な進歩の 一つ を蘇 らせ て くれ る こ の 展 覧会を

大 い に誇るべ きで あ る34]・

  トン プ ソ ン が 「大 きな河 の 流 れ の 源」 また 「人

類の 発展 史 Eで の 最 も偉大な進歩 の一

つ 」 と形容

した もの は,印刷術 の 登場で あ り印刷 本の 出現 で

あ る こ とは明 らか で ある 。バ トラ

ーは,こ の 主題

を当展示会 目録 の 中で 次 の よ うに 述 べ て い る 。

 展示会 の 目的は, 1501年以前 に印 刷 され た

書物 の 数 々 を通 して ,文化の 道具 と して の 近代

的 な 印刷 本の 起源 と発展 を示す こ とに ある 。

(中略)15 世紀末 まで に は 約 2万 4千種類 の 印

刷物が 出版 され た 。写 本 しか なか っ た 時代の

人 々 の 多くが生 存 して い る こ の 時期 に ,800万

に 近 い 印刷本が 世に出 回 っ た。また,こ の 短 い

時期 に,書物 の 驚異 的増加 だけ で は な く,書物

の 物 理 的形態 に も著 しい 発 展が見 られ る 。 印刷

本 の 特徴の 多くは写本か ら引継が れ た もの で あ

る 。 しか し様 々 な新 しい 形 式は,驚異 的 な ス ピ

…ドで 取 り入れ られ ,試 され,

一般化され て い

き,16借紀初め に は,書物は基本的 な点で 今 日

の もの と少 しも変わ らな くな っ た の であ る35}

 両 者の 言 葉か ら,こ の 展 示会の 目的が ,「人類

の 発 展史上 で の 最 も偉大 な進歩 の…

つ 」 で ある ,

イ ン クナ プ ラ期 に お け る書物形態の 変化 を提示 し

よ うとする もの で あ っ た こ とがわ かる 。 また,

トラー

が イ ン ク ナ ブ ラ の 時代 で ある ⊥5世紀 後半

の 50 年問に 起 こ っ た ,書物 の 形態的な変化 を重

視 して い た こ とも理解 され る 。で は ,書物 の 形態

的 な変化 と は どの よ うな もの で あ っ た の だ ろ う

か 。 こ こ で ,イ ン クナ ブ ラ の 時代 に 起 こ っ た書物

の 変化 に つ い て ,概観 してお く必要が あろ う、,

  印刷 術 の 出現は ,そ れ ま で一

人一

人 の 判断に頼

っ て い た書写 の 本作 りに較 べ ,編集 , 修正 ,校合

の 手間を必要 と した 。 他 との競争 に迫 られ たため

に,

で きた 本を消費者に気 に入 っ て もらえそ うな

工 夫が あれば ,い ち早 くと り入れ られた 。 印刷者

た ちは,自己の利益の ため に , 宣伝 として書籍一

覧表や 回報や ちらしを発行 し,また本の 最初 の ペ

ージに工房の 名前,紋章,住所を記載 した 。 こ う

して ,書物の 体裁 , すなわ ち , 標題紙 , 目次 ,ペ

ージ,巻末索引 , 通 し見出 しな どが 印刷者に よ っ

て考案 され て い っ た36)

 なか で も, 印刷本と写本を区別す る 最 大 の 要 素

は標題紙の 登場で ある37)。標題 紙 は

“印刷 本 の 形

式に関する最 も有意義で新 しい 特色”3S:

と見なさ

れ て い る 。 初期 の 印刷本に は 写本 と同様に標題紙

は存在 しなか っ た 。 しか し,今 囗で は,タイ トル

や 著者が 明記 され た標題紙に よ っ て ,著述 の 責任

所在は明確とな り,印刷地 ,印刷者,印刷年ま で

が一

見 し て確 認で きる39)

。 標題紙 は,1475年 か

ら 1480年 にか けて登 場 し,現 在の もの とは異な

る姿で はあ るが ,15世 紀宋に な る とお よそすべ

て の 図書 に 付け加 え られ る よ うにな っ て い た4°)

標題紙の 一般化 は ,書籍一覧表 や図書 目録作 りを

容易 に し,また それ 自体 が広告 の役 目を果た した 。

こ の よ うな理由か ら,標題紙の 由来は‘‘書物 をた

や す く参照で きる ような方法が 発生 し定着 して い

くプ ロ セ ス をは っ きりと示 す ,

一.一つ の 典型 で あ る

4Dと見な され て い る 。

  ペー

ジ づ け は,1499年 ,イ タ リ ア の ア ル ド ゥ

ス ・マ ヌ テ ィ ウ ス が初め に採用 した とい われ て い

る 。また ,目次や巻末索引 の 原 型 と もみ な され て

い る 内容一

覧表や始語一

覧表 も 15 世紀 末に は登

場 して い る 、

  グーテ ン ベ ル ク の 頃に は種類の 多か っ た 活字体

も, 徐々 に改良 され統一され て い き, やが て イ タ

リ ア か ら ロ ーマ ン 体が ヨ

ーロ ッ パ 中 に広 まっ て い

っ た 。 活字が見 やす く美 し く改良され る こ とに よ

っ て ,書物は 一層 コ ン パ ク トに 読み や す くな り,

さ らに広 く普 及す る よ うにな っ た。15世紀 末に

は ア ル ドゥ ス に よ っ て携帯版の シ リーズ が 出版 さ

れ て い る 。

 印刷術 に よ る書物の 大量生 産が始 まる と製本や

N 工工一Eleotronio  Library  

Japan Society of Library and Information Science

NII-Electronic Library Service

Japan  Sooiety  of  Library  and  工nformation  Soienoe

若松 :イ ン ク ナブ ラ ・コ レ ク シ ョ ン にみ るバ トラー

の 書物観  151

装丁 に も変化が現れる 。 当時 , 書物は未製本の ま

ま売 られ,購入者 は 自分 で 好 きな製本や装丁 を施

す の が習慣で あ っ た 。 製本 裝r」業 者 は,多数の

客の 要求に 応 じる た め に 迅 速か つ 低 コ ス トで 質的

に も見劣 りしない 装丁 を行 う必要 に迫 られ た。そ

の 結果,表紙 は木か ら,古紙 で で きた安価で 軽 い

厚紙 へ と変わ っ た 。 厚紙 の 表紙の 上 に は皮革が は

られ , それ を飾る た め の 工 夫 も生 まれ た 。 ア ル ド

ゥ ス は ,唐草模様 の モ ロ ッ コ 皮 の 豪華 な版元装丁

に よ っ て,新 しい 流 行を広 め て い っ た42〕

 書物の 体裁が今 日の姿 を現す まで には,こ れら

の 個 々 の 要素が 定着 し,洗練 され,よ り発 展 を遂

げて ゆ く16世紀 を経 なけ ればな らな い。 しか し,

印刷術が 発明され伝播 され て い くイ ン ク ナ ブ ラの

時代 は,印刷史 の 出発点で ある と同時に ,書物 の

形態が写 本か ら脱皮 し現 在 の 姿へ と形 を整 えて い

く時期 で あ っ た と見 なす こ とが で きる 。 印刷術 は

書物 を大量 に世 に送 り出 した だけで は なく,書物

の 形態 を一新 した の で ある 。

 バ トラーは ,こ れ を 「文化 の 道具 と して の 近代

的 な印刷本」の 出発点 と し て 捉 えた の で あろ う。

本節の 冒頭 に掲 げた バ トラーの コ メ ン トは , 彼が

イ ン クナブ ラ の 時期 を印刷 術の 伝播の 時期と して

ばか りで は な く,こうした機能的書物の 形成期 と

し て捉 え て い た こ とを示 し て い る 。 そ こ で 次 に,

展示会の 内容 を詳 しく見 る こ とに よ っ て バ トラー

が書物の 形 成過程 をどの よ うに提示 した かを検討

する 。

2.2 書物の 形成過程の 提示

 1925年の 展 示 会の 内容 を見 る と,バ トラ ーが

上記の 書物形成の 定説を患実に再現 しようと して

い た こ と が うか が える。 展示会 に は,24 の 展示

ケー

ス に計 109点の書物が 用意 された 。 その 内訳

は 9 点の 写本 と ユ00 点の イン クナ ブ ラで あ っ た 。

バ トラ ーは, そ れ ら の 作品 を 18の グ ル ープ に 分

け,そ れぞ れ に写 本 ,ゴ シ ッ ク活字体,m 一マ ン

活字体 , イ ニ シ ャ ル 活字 と段落,書物 の 価格低下,

最初 の 印刷本,多様 な活字 体,標題紙の 発達,地

図 , 図形 ,図表,文法書 ・辞書,版画挿絵 , 語学

学習書 ,小型 化 と容易な参照,主題分野 , 各国語

と い っ た見出 しを付 した (表 6 参照)。

 こ れ らの 内容を見 る と,

バ ト ラ ーは 展示 会にお

い て も, プロ ク ターの 研究成果 を十分に活用 し よ

うとし て い た こ とが 見て 取れ る。例 えば,プ ロ ク

ター

時代の 分析書誌学の 中心課題で あ っ た活字体

の 例示 に は 多 くの イ ン ク ナ ブ ラ が 用意 され, 印刷

術伝播 をた どる 目的で収集 され た様 々 な活字体

は,こ の 展示会で は書物形態の 変化の 要因 と して

示 さ れ て い る 。

 まず初めの グ ル ープは活字体の変遷 の 例 示で あ

る 。 第 1 と第 2の ケース 中の計 8 点の 写本 は, 印

刷本に 見 られ る ゴ シ ッ ク活字体 ,ロ ー

マ ン 活字体 ,

イ タリ ッ ク活字体の 前 身の 例 として展示 され た 。

次 の グルー

プで は ゴ シ ッ ク活字体お よび ロー

マ ン

活字体の 例 ,また別の グ ルー

プ に は,段 落の 初め

を表す イニ シ ャ ル が 手書 きか ら次第 に装飾 の 多 い

イ ニ シ ャ ル 活 字 に 取 っ て 代 わ る 様 子

( Sensenschmidt と  1’elzensteincr ; Jensen;

Koberger ;Scinzenzelerの 作 品)や , 段 落を 区切

る 習慣 の 発達 と ともに 出現 した様 々 な活字の 例

表 61925 年 イ ン ク ナ ブ ラ 展示 会 の 構成

展 示 ケース番号 見出 し タイ トル数

1 写本 :写字体 4

2 写本 :草書体 4

3 ゴ シッ ク体 4

4 ロー

マン体 45 頭 文字と段落分 割 46 廉価な印刷本 5フ 最初の 印刷本 589

様 々な 活 字 体 410 標題紙の 発 達 18月

12 地図 ・図解 413 図 表・数表 414 文法書・

辞書 515 版画

・挿絵 161617181920

語学書 421 携帯本・参照機能 1a22 図 表・数表 423 学問分野 4

24 各国語に よる印刷 4

合計 インクガラ100・写本 9109

The First peLtt}・】」ears  gf the Pe)iod Booh, 1450−1500, Chicago,

Newberry  Library , 1925,17p.よ り作成

N 工工一Eleotronio  Library  

Japan Society of Library and Information Science

NII-Electronic Library Service

Japan  Sooiety  of  Library  and  工nformation  Soienoe

152 日本図書館情報学会誌 Vol,46, No,4, Apri12001

(Jensen;Ad   lf Rusch ;Fr 〔冫ben ;Arrivabenus の 作

品)が示 され た 。

 展示会 の 中で バ トラー

が強調 した と思 われ る主

題 は標題紙の 発達 で あ る 。 前節 で も見た ように,

標題紙 の 存在は 写本 と印刷本の 最 も大 きな違 い で

あ る と位置づ けられ て い る。 「標題紙 の 発 達」 と

い う見出 しの もと に は,当該展示会の 作品 グ ルー

プ の 中で 最 も多 い 18点の イ ン ク ナ ブ ラ が用意 さ

れた c

  し か し,標題紙に つ い て の バ トラー

の 扱 い 方は,

他の研究 者達 と少 し異な っ て い る 。 例えば,

ス ト

ー一ク ス (R (♪}

・Stokes)は, フ ス トと シ ェー

フ ァー一

の 1463 年の 作 晶 と,アー

ノ ル ド ・テ ル ・エ ル ネ

ン (Arnold  ther  Hoernen )の 1470年 の 作品 を,

事実上 最初 の 標題紙であ る と見なし て い る43)。ま

た,ス タイ ン バ ー一グ (S.H . Steinberg)は標題 紙

の 発明者は シ ェー

フ ァー

で あ る と述 べ る一方,現

在の 標題紙 に見られ るす べ て の 要素 を含 ん で い る

の は,ラ ト ドル ト (Erhard Ratdolt)が 1476年 に

出版 した C 碑 η癩 胤 撹 の 標題 紙で あ り,そ れ を現

在の 標題紙 の 原 型 と して評価する44〕

 他方 ,バ トラ ーは最初 の 標題紙 と して 特定の 作

品名 をあげ る こ と もな く,また,展示 した 18点

の 作品 に つ い て個 々 の解説 を記す こ と もして い な

い。 そ の 代 りに ,彼は次 の よ うな解説 を付 した 。

コ レ ク シ ョ ン か ら任意に 選んだ 18タイ トル の 書

物に よ っ て , 近代的な標題紙の 発達を示 したJ’ 451

こ れは,

バ トラー

が個 々 の 作品 よ りも,標題紙 と

い う一

つ の 機能が完成 する まで の プ ロ セ ス に重点

を置 い て い た か らで は な い か,

と考え る こ とが で

きる。

 地 図,図形,表の 複製は印刷術 の 発 明 によ っ て

容易 に な っ た もの の・つ と し て取 り上げ られ て い

る 。 バ トラーは ,写本に も地図や 図形は多 く見 ら

れ る が, そ れ ら は 一

般 向け に作成 さ れ る こ とは な

か っ た と説明 した 。そ の 理由 と し て ,・それ らは熟

練 した技 術者だけが 制作可 能で あ り, そ の 複製は

制作 した本 人 しかで きなか っ た た め ,希少で 高価

で あ っ た こ とをあ げ て い る Q そ し て ,

[‘印刷者達

が こ れ ら をす べ て 変 え た”46)

と バ 1・ラ ーは 述 べ

た。図や 表の 例 と し て 展示 され た 12点 の イ ン ク

ナブ ラ の 中 に は, ラ トドル トに よ っ て 出版 され た,

精緻 な 図 や 表 で 名高 い Cosmogy ’aPhia  K) 前述 の

Cαア槻 4α悔τ槻 が含まれ て い る 。

  バ トラーは挿絵の 発展の 様子 を提示す る こ と に

も熱心 で あ っ た 。彼 は, 16点 の イ ン クナ ブ ラ の

展示 に添えて ,初めは単な る画像的説明で しか な

か っ た 図や表が, 次第に芸術 的に優れ た も の に な

っ て い っ た こ と を説明 し た 。 こ の グ ルー

プ に は,

挿絵本 の 代表作 として知 られ て い る,コーベ ル ガ

ー (Ancon  Koberger)の 『ニ ュ ル ン ベ ル ク年代

記』が 含 まれ て い る c, バ トラー一

は ,・ウ ィ ン グ財 団

の 印刷 史 コ レ ク シ ョ ン を形成する 際に,書物の 歴

史的,学術的,芸術的な価値 を重視 し,そ れ ら の

代表的な図書 と して イ ン ク ナブ ラ に焦点 を絞 っ て

い た (「は じめ に」参照 )。 彼の 収集方針の 成果 は,

こ の よ うな展示 の 方法に もよ く現れ て い る と言 え

よ う。

  こ の よ うに 1925年の 展示会で は ,イ ン ク ナブ

ラ期 に起 こ っ た と い われ て い る 書物形態の 変化 の

様子が 目 に 見 える 具体 的 な形 で 示 され た の で あ

る 。 こ れ は,

バ トラ ーが プ ロ ク ターの 分類 法 を基

本 とする こ とに よ っ て 実現 で きた と言え よ う。 な

ぜ な ら,個々 の 著作や特定の 印刷者に焦点を当て

る の で は な く, 印刷術の 発 展 ・普及過程 を体系的

に た どる こ とによ っ て ,初 め て 書物の 形成過程 と

い う盍題 を浮か び上 が らせ る こ と が可能 に な っ た

と考 え られ る か らで ある 、こ の 意 味で ,バ トラ

表 7 1930年 イ ン ク ナ ブ ラ展示 会 の 構成

展 示 ケース番号 晃 出 し タイトル 数

1 自然科 学 7

2 数学 7

3 天 文学・宇宙学・地理 学 10

4 鉱 物学 2

5 動 物学 3

6 植物学 3

7 医 学 12

8 法 律 学 10

9 音楽 4

1D 22「.閲「.1.芸 術...齟.i一凵.・凵.」. r  文字デザインゴ シツク体...」.」一凵.幽齟幽“齟」Lr罰.11r−.....・.L.一.

       (4 )......一...・.「L「幽−.一文字デザイン:ロ

ーマン対 (5 ).凵.」一.凵..一“幽.h「,甲P  ページデザイン (1>  ..一..T.一.■一.. .h , 1

   ボーダー・装 飾..1r..一.. 凵.L.「  挿絵

      (4 )T.............凵一i−.    (8 )

合計 80

Inc,u’rtalnttrt : asf )ecial  eec励 ∫‘醜 offifleenth  centut ) beeks・

Chicago , Newberry  Libralフ,1930.10p.よ り作 成 。()は 内 訳 。

N 工工一Eleotronio  Library  

Japan Society of Library and Information Science

NII-Electronic Library Service

Japan  Sooiety  of  Library  and  工nformation  Soienoe

若松 1 イ ン クナ ブ ラ ・コ レ ク シ ョ ン にみ るバ トラーの 書物観 J53

は プ ロ ク ター

や 当時の 分析書誌学の 研究成果を忠

実に再現 して 見せ た と言 うこ とが で きる 。

3.バ トラ ーの 書物観

 前章 , 前 々 章を通 して 明 らか に な っ た事柄を整

理 して み よ う。バ トラ

ーは

,イ ン ク ナ ブ ラ ・コ レ

ク シ ョ ン を通 し て 15 世紀後半 に起 こ っ た 歴史的

な二 つ の プ ロ セ ス を再 現 し よ うと した。す な わ ち,

多くの 印刷 所か ら出版 され た多様な活字体の 例 を

収集す る こ と に よ っ て 印刷術 の伝播過程 を示 し,

書物形態の 様々 な変化を た ど る こ とで 近代的な書

物の 形成過程 を提示 した、こ れ は,バ トラー

が プ

ロ ク ター

をは じめ とする 当時の 分析書誌学の 研究

成果 に基づ き, それ を コ レ ク シ ョ ン の 構築 に反映

させ る こ とに よ っ て 実現 した もの で あ る 。こ の 意

味に お い て ,バ トラ ーは優 れた分析書誌学者で あ

っ た と位置づ ける こ とが で きる 。

  しか し , 本稿で 取 り上 げた イ ン クナ ブラ 目録 中

の バ トラー

の 言葉や展示会 目録 の 構成内容 を注意

深 く見 て み る と,分析書誌学者 と して だ けで は な

い,

バ トラーの もう

一つ の 側面が 浮かび上 が っ て

くる 。

  バ トラー

は 1925年展示会の 目録の 初め の 部分

で,

“印刷本の 発展 は

,人類の 思想 史の なか で も,

また人問性重視の 思考へ の 影響 の なかで も革命的

で あ っ た唱 7}

と い うパ ッ トナ ム (GeQrge Haven

Putnam )の 言葉を引用 し て い る 。 ま た,1933年

版の イ ン ク ナ ブ ラ 目録 の序’文にお い て も,イ ン ク

ナ ブ ラ収集 の 目標 の一

つ が ,“そ の 時代 に お け る

知的関心 の 代表作,並 び にそ の 時代 の学識の 潮流

を示す代表的な図書 を選ぶ こ と”

にあ っ た と述べ

て い る (1.工参照 )。

 最初 の イ ン ク ナ ブ ラ展 示 会か ら 6年後の 1930

年 12 月,ニ ュー

ベ リー図書館 は ア メ リ カ 書誌学

会の 冬季集会の ため に, 再 び バ トラ ー

の 企画に基

づ きイ ン ク ナブ ラ の 展示 会 を催 した 。 そ こ で は,

80 点の イ ン ク ナ ブ ラ が IO 部門 に分 け られ て展示

され て い る 。 こ の 展 示 会 の 目録 を 1925年展示会

の 目録 と 較 べ て 見 よ う 。 1930年 の 展 示内容 は ,

自然科学,数学,地学,鉱 物学,動物学,植物学,

医学 と い っ た,どち らか と言えば ,ニ ューベ リ

図書館 の 専門分野 とはか け離れた学問分野 の 主題

が 目立 つ。

こ れ を 1925年の 展示 の 構成 と比 べ て

み る と, 書物 自体 の 発展か ら書物 を通 じた学問分

野 の 発 展へ と,展示 の 重点が 変化 して い る こ とが

わか る (表 6 ・表 7参照)。

  こ れ らの こ とか ら,バ トラ

ーは イン クナ ブ ラ の

時代 を単な る印刷術 の 伝播や書物形態の 変化の 時

期 として 捉 え て い たばか りで は な く, 文化史的な

側面から学問分野 の 発展期 とし て重視 して い た の

で は な い か と の 仮説が 生 まれ て くる。

  こ の 仮説 を裏付 ける よ うなバ トラー

自身の 言葉

が ,1925年展示会の 目録 に も既 に現 れて い る

48)。

即 ち,1925年展 示 会 にお い て 既 に ,書物 の 物理

的変遷 ばか りで は な く,それ らの 原 因や 影響な ど

に も注意が払 われて い る こ とを示す よ うな解説が

見受けられ る の で ある。

  例 えば,写本時代 の 最後の 頃の 作品が 収め られ

た第 2 番 目の 展示ケース (表 6参照)で は

, 訓練

を受けた 公的な写字生 に よ っ て 書か れ た文字 と,

非写 字生 に よ っ て書 かれ た草書体 の 文 字が対比 し

て 示 され,

次 の よ うな解説が 記 さ れ て い る 。

“専

門職 の 写字生が書 い た写本 は裕福 な・…部の 人達 だ

けが所有 し,一

般 の 研究者 は普通 の草書体で書か

れた書物で 満足せ ざる を得なか っ た”49〕

。 こ れ は,

活字が登場す る直前には既 に安価 な書物 に対す る

広範 な需要が 存在 して い た こ と,しか し写本で は

こ うした需要 に十 分に 応 える こ とが で きなか っ た

状況 に バ トラーが 関心 を持 っ て い た こ とを示す も

の で あろ う。

  1925年展 示会 目録の 序 文で は,標題紙,ペ ー

ジづ け , 目次 , 参照 などの 特徴 を持つ 近代的な書

物の 登場 に よ っ て, 研究者 の 作業が容易 にな り,

研究活動が増大 した こ とを示唆して い る 。

 印刷術の 発明が, 中世か ら近代文明へ と発展

を遂げる際の 重要 な要因 とな っ た こ とは一

般の

知 る とこ ろ で あ る 。 印刷術は, 書物の 増加 と出

版費用の 滅少に よ っ て, 知識 を普及 させ ,著作

活動 を促 し,識字率 を高め た 。 書物の 物理的形

態が改良 され る に し た が っ て ,研究者 の 知的活

動 もまた拡大され た 。 例えば ,ロ ー一

マ 数字か ら

ア ラ ビ ア 数字へ の 移行 の よ うな簡単 な変化が ,

個々 の 計算力を拡大 させ る とい う数学 史上 の 画

期的な で きご と とな っ た ように,読み や す く,

N 工工一Eleotronio  Library  

Japan Society of Library and Information Science

NII-Electronic Library Service

Japan  Sooiety  of  Library  and  工nformation  Soienoe

154  目本図書館情報学会誌 Vo1.46, No .4, April 2001

きちん と編集され ,参照 が簡単で ,テ キ ス トの

図表表現 が 可能 な印刷 本 の 登場 が ,研 究者の 作

業 を容易に し,研究 を増大 させ たFJ))

 第 6ケー

ス で は,活字の 登場が書物 の 大量生産

と価格低下を引 き起 こ した こ との 例 と して ,購入

者に よ っ て 安価 な入手価格 が記人 され た印刷本 を

示 す一方,書物が少 な く貴重品であ っ た時代 の 象

徴 と して鎖 つ きの 写本 を対比 して 示 した 。 小 型 本

や参照 (Pasted tabg.,knotted tabs)の例 を展示す

る第 21ケー

ス に は , 印刷術 の 普及 と と もに発 達

し た挿絵技術や, 活字 の 洗練化 ・小型化 の技術が

書物の 物理 的形態 を変えた と解説 されて い る 。 ま

た,文法書や辞 書 は ,小 型 で 読 みやす い 活字や 大

量 生 産 に よ り普及 した書物の 例 と し て 展示 され,“取 り扱 い が 容易 で 読み やす い 印刷本の 増加 に よ

っ て, 語 の 検索時間 が 短縮 さ れ た で あろ う

「t 5ユ1と

の 見解 が示 された。こ れ らの 変化が ,読者層 の 拡

大や , 語学 ・自然科学な どの 新 しい 学問分野 の 発

展 に つ なが っ た こ とは, 先 に示 した バ トラ ーの 引

用 (注 50)を参照)に 暗示 され て い る 。

 ア ラ ビ ア 語 ,

ヘ ブ ラ イ語 ,ギ リ シ ャ 語 の 書物 は,

それ ぞれ の 活字の 登場以後にそ れら の分野で 書物

生 産 が大 き く発 展 した例 と して取 り上 げ られ た

(第 20 ケース )。 現在で は,印刷 術 発 明以 降 に古

典の 研究が盛ん に なっ た の は,複雑で種類 も多 い

ため 活字化が 困難で あっ たギ リ シ ャ 語や ヘ ブ ライ

語が活字化 され,古典作 品 や そ れ ら の 翻 訳書 の 出

版が増大 したか ら で あ る と論 じられ て い るE2:1

。バ

トラーも

“ヘ ブ ラ イ語や ギ ワ シ ャ 語の 印刷は

, 印

刷者 に とっ て ロー

マ ン・ア ル フ ァ ベ ッ トの場合 よ

り遥か に 困難で あ っ たが ,15 肚紀 末に は著 し く

発展 し た”’il)

と解説 し 同様の 見解 を示 し た 。 7 番

と 8番 の 展示 ケー

ス に は ,最初 の 印刷本 で ある

42 行 聖書 の一葉や ,初 の 多色刷 りの 試 み で あ っ

た C α tholic/on と 一 緒 に , ラ ク タ ン テ ィ ウ ス

(1.act −t ntiug .) の Opevα (Sweynhc 》ni  and  Pannartz,

Subiaco,1465)が あ る 。 後者 は,

“印刷本 と して

必ず しも早 い もの で はな い が,現 存す るイ タ リ ア

最初の 印刷本で あ り,世 界初 の ギ リ シ ャ 活字が 用

い られ た” 脚

例 と し て イ ン ク ナ ブ ラ の 中で も特 に

費重 な印刷術発明時の 作品群 に つ け加 えられ た 。

バ トラー

が 印刷術 の 登場 を技術 の 革新 と して だ け

で は な く,学問発展 の 要 因 と して 捉えて い た こ と

を うか がわせ る展示構成 と言 え よう。

  オ ラ ン ダ語,英語,ス ペ イ ン 語,フ ラ ン ス 語に

よ る書物 は,印刷術 の 普及 と とも に様 々 な言語に

よ る 出版物が 増大 した例 と して展 示 され た (第

24 ケー

ス )。

  1925 年展示会で は,学 問分野の 図書 の 例 と し

て展示 され た の は 法律学 , 文学 , 医学 , 論理学の

4 分野 (第 23 ケー

ス 〉で あ り,1930年 の 展示会

に比 べ その 比重 は軽 い。 しか し,バ トラ

ーは解説

にお い て次 の よ うに述べ, 書物 を購入で きる 人々

の 増加 と とも に,書物 の 内容が 多様な主題 へ 広が

っ た こ とを示唆 して い る 。

 初期印刷者達は,学問分野にお い て も歴 史上

重 要な貢献 を した 。 印刷本は そ の 時代の 人 々 の

読書興味を反映す る もの で あ る 。中 に は時代に

合 わ な い もの を出版 した印刷 者 もい た が ,15

世 紀 の 印刷 本の 全体は, 宗教改革直前 の 世代 の

知的閧心 や活動を具体化 した もの で ある と見な

す こ とが で きよ う。 (略) (こ の展示ケース に は

示 され て い な い が)歴 史,数学 ,天 文学 , 占星

学,地理 ,文献学,古典 に つ い て は,展示作品

の 至る と こ ろ で 見る こ とが で きる5「’)

 一

方,学問分野 を中心 に構成 され た 1930年 の

展示会にお い て も,書物の 形成過程 は重視 され て

い る 。最後 の 10番 目の グ ル ープ に は,展示作 品

の 4分 の 1以上 にあたる 22点の イ ン クナ ブ ラが ,

ゴ シ ッ ク活字体,ロー

マ ン 活字体,ペ ージデザイ

ン, 装飾,挿絵の 副題 の も とに 用 意 され た 。

 こ れ らの こ とか ら ,バ トラ

ーが , 分析書誌学の

研究 に そ っ て書物形態 の 変遷 を提示す る こ とを課

題 と して い た と同時 に ,印刷術 が学問分 野 の 発展

に 及ぼ し た影響 に対 して も十分配 慮 して い た こ と

が推測で きる 。バ トラ

・一に と っ て イ ン クナブ ラ は,

印刷術の 発明 と伝播の プ ロ セ ス を示す も の で あ

り,活字体 の 標準化や 書物の 形態的変遷 の プ ロ セ

ス を示 す もの で あ り, さ ら に は,書物の 普及に よ

る学問発展 の プ ロ セ ス を示す もの と して 重 要で あ

っ た と考 える こ とが で きる 。 すなわ ち,バ トラ ー

は イ ン ク ナブ ラ の 時代 に起 こ っ た 印刷術 の 伝播や

書物 の 変化 を,物 理 的 な観点だ け で は な く,文化

N 工工一Eleotronio  Library  

Japan Society of Library and Information Science

NII-Electronic Library Service

Japan  Sooiety  of  Library  and  工nformation  Soienoe

若松 :イ ン クナ プ ラ ・コ レ ク シ ョ ン にみ る バ トラー一の 書物観 155

や社会 との 関連で捉 え よ うと して い た こ とが ,二

つ の 展示会の内容お よび解説 には現れ て い る の で

ある 。

おわ りに

 約 15年間 にわ たる ニ ュー

ベ リー

図書館時代に,

バ トラ ーは ウ ィ ン グ財団の 印刷 史 コ レ ク シ ョ ン の

基礎 を確立 し, 自ら歴史的 ・学術 的 ・芸術 的価値

の 高い イ ン クナ ブ ラ ・コ レ ク シ ョ ン を構築 した 。

こ の 間 ,バ トラ

ーが終始指針 と した の は, 分析書

誌学 の 創始者で ある プロ ク タ ーの 研究成果 で あ っ

た 。 彼 に とっ て,ニ ューベ リ

ー図書館 に在職 した

時期 は,分析書誌学や 初期 印刷 史に 関す る知識 の

習得期で あ っ た とい うこ とが で きる 。

  しか し,バ トラ

ーの 関心 は , 分析書誌学 が研究

対象 とする,活字体 の 変遷,書物形態 の 変化,印

刷術の 伝播過程 とい う狭義 で の 印刷史に とどま ら

なか っ た 。バ ト ラーは

, 印刷 の 起源 を文化 史的な

側面か ら意義付ける こ とに も関心 を向けて い た と

推測 され る 。 その 文化 史的側面の 具体的な例が書

物の 普及 , 研究活動の 増大 , 新学問分野の 発展 と

い っ た ,印刷術が社会 へ 及 ぼ した様 々 な影響で あ

り,そ の 結果 と して 生 じた変化 で あ っ た と言え よ

う。 すな わち,バ トラー

は 印刷術に よる書物の 形

成 を,近代化 へ の 大 きな要 因の .一つ と して 捉 えよ

うと した の で は な い か 。

  イ ン クナブ ラ の 時代 を文化史的 に位置づ けよ う

と した最近の研 究に ,ア イゼ ン ス テ イン に よ る も

の があ る。彼女は ,グー

テ ン ベ ル クに よ っ て発明

され た印刷術が“瞬 く間 に広が り,2,30年の 間

に 印刷者 の 工 房は ヨ ーロ ッ パ 中の 都市の 中心 に作

られ ,1500年 に はす で に 筆写 の 時代 は終 りを告

げ , 印刷 の 時代が始 まっ て い た”5en

と述べ て い る。

つ ま り,イ ン ク ナ ブ ラ の 時代 とは,16世紀以 降

の 本格的な印刷文化の 登場 に む けて ,その 基盤が

整備 され て い く時期 にあた る 。 ア イゼ ン ス テ イ ン

は,“

写本か ら印刷 へ の 移行 は 多 くの 変化 の 集合

を伴 っ て お り, そ の 各 々 が さ らに深 い 研 究を要 し ,

か つ すべ て は あまりに複雑 で一つ の 公式 に要約 で

きな い”57)

と限界 を指摘 しつ つ も,社会や 人 々 に

及ぼ した と考 え られ る 印刷術 の 影響 に つ い て,

の 時期 に起 こ っ た い くつ か の事実 を もと に概説 し

た 。 す なわ ち,イ ン クナ ブ ラ期にお ける量的 な変

化 と して ,本の 生産量が著 しく増加 した こ とや大

規 模 な商業取引が 出現 した こ と をあげ , 質的な変

化 と して ,書物の 新 しい 特徴や新た な宣伝方法の

出現,広範囲な販売組織の 確立 な どをあげた 。 ま

た, 消費者側の 問題 と し て は

, 読書に よ る学習が

新た な重要性 を持 つ よ うにな り,韻文や抑揚文 な

ど の記憶補助手段 の 役割が減少 した こ と,記号や

シ ン ボ ル な どの 視覚補助が体系化 され, 建築学 ・

幾何学 ・地理 学 ・生命科学な ど の 学問分野 が発展

した こ とを指摘 して い る5S)

 従来の 印刷 史研究 は,

ス タ イ ン バ ーグ に代表 さ

れ る よ うに多 くが 印刷術の 技術的 ・物理 的発展の

プ ロ セ ス を重視す る観点に立 っ て い た。印刷術 の

発明 を社会的変化 との 関わ りで 捉 え よ うと した ア

イゼ ン ス テ イ ン の 観点は むしろ近年に見 られ る特

徴 で ある。バ トラー

の 書物史へ の 視点は分析書誌

学の 範囲を超 え,印刷術 を文化史の 中で 捉 え よう

と し て い た とい う点 に お い て,

ス タ イ ン バ ーグ よ

りは むしろ 後の ア イゼ ン ス テ イ ン の 立場 に近 い と

い うこ とが で きる 。

  1940年 ,シ カ ゴ大学 に移 っ て 既 に 10年 に な ろ

う と して い た バ トラー

は ,Or’i.gin of Printing in

Europe59) を出版 した 。 彼は そ の なか で ,中世か ら

近世 へ の 移行 と写本文化か ら印刷文化 へ の 移行が

同時期 に起 こ っ て い る と指摘 し“

印刷 史の 理解 な

くして は 人間 の 文明の 発展 を理解す る こ と は で き

な い”SO)

と述 べ た 。こ の 言葉 は,後年の バ トラ

がイ ン クナ ブラの 時期 , すなわち印刷 史の 出発期

にあ た る初 期 50年 間 の 文化 的な 意義 に つ い て ,

引 き続 き関心 を持ち 続けて い た こ とを示 して い

る 。 こ こ に も, 書物 の物理的形態 の み を研究対象

とす る分析書誌学 , ある い は書物 の 内容 の み を対

象とする体系書誌学 の い ず れか一方だ け の 視点で

はな い ,言 わぱ両分 野 を統合す る ような バ トラ ー

の 視点 を見る こ とが で きる 。 後年の バ トラ ーが,

分析書誌学者 よ りもむしろ図書館学者 として , 図

書館 の 存在意義を追求 し よ うとする研究 を行 うよ

うに な っ て い くの も彼がそ うした広 い 視野 に立 っ

て い た か らで は な い だ ろ うか。

  ニ ュー

ベ リー

図書館時代の バ トラー

の 著作は少

な く, 「文化の 道具 と して の 」書物観の 詳細 を当

時の 彼の 記述か ら確 かめ る こ とは で きない 。 しか

N 工工一Eleotronio  Library  

Japan Society of Library and Information Science

NII-Electronic Library Service

Japan  Sooiety  of  Library  and  工nformation  Soienoe

156 日本図書館情報学会誌 、bL  46, No .4, Aprll 2001

し,コ レ ク シ ョ ン に見られ る彼 の 書物観 と,後年

の 著作 に現れ た書物 に対す る彼 の 記述 を見る と,

バ トラ ーは ニ ューベ リ

ー図書館時代 に お ける 主 要

な関心事で ある書物形成 とい う主題,即 ち,書物

形態の 変化 を物理 的 な変化 として の み捉 える の で

はな く文化 との 関わ りの 中 で 捉 えようとす る 見方

を,シ カ ゴ大学時代 にお い て 熟成 し発展 させ て い

っ た の で はな い か,と考える こ とが で きる。

 シ カ ゴ大学時代の バ トラー

の 図書館学 に彼の書.

物観が ど う反映 さ れ て い る か とい う点 に つ い て

は ,さ ら に詳細 な検討が必 要 で あ る。 しか し,本

稿で 明 らか とな っ た コ レ ク シ ョ ン の 内容は,バ ト

ラ ーが後年に論 じ よ うと した

, 書物 を中核 とす る

文化観 の 基礎 となる 考 え方 を, コ レ ク シ ョ ン を形

成す る段階で既 に持 っ て い た ,あ る い は コ レ クシ

ョ ン 形成の 段階で 固め て い っ た,

と推測する の に

.卜分な証拠 を提示 して い る と言える で あろ うc、

謝 辞

 本研究 は 1997年度 日本図書館学会研究助成費

に よる も の で す 。研 究 に際 し て 慶 應義塾大学 の

出 村俊作先生 をは じめ,

諸 先生 方に ご指導や ご助

言をい ただ きました 。 こ こ に記 し て 感謝の 意を表

します,、

注 ・引用

1)  TOwner , Luwrellce W , An UTn.com ’mon  Gellect’ien  of

   C/’nco

’m7tto

’rt Co漉 σ‘蜘 5’ the Newbevi}/ Libraγ)  2nd ed ・

   Ghi (二ago , The  NewberW  Library ,1970.

2)  Butler, Picrcc. An  lntroduction to Librαr)・∫で卿 z〔泓

   Chicago , Uniu  of  Ch .lcago Press,1933,118p.[’図

   書館学 序説 』藤 野 幸雄 訳 .日 本 図 書 館 協 会 ,

   1978,135p.

3)  若松 昭 丁一「ピ ア ス

・バ トラー

に よ る 印刷 史 コ レ

   ク シ ョ ン の 形成 : イ ン ク ナ ブ ラ の 収集 を 中心 に 」

   『図書館学会年報』Vol.44, No 、1,1998, p .1−16.

4)  ニ ューベ リ

ー図書館 に つ い て は 以下 で 論 じた 。

   若松昭子 「ニ ューベ リ

ー図書館 の 特殊 コ レ ク シ

    ョ ン 群 :そ の 形成 と プ ロ セ ス 」 「図書館文化史研

   究」 13号,1996,p.25−49.

5)  バ トラ ーは ,critical と い う用語 を 用 い て い る 。

   分 析 書 誌学 の 意味 で 使用 さ れ た と 考え ら れ る が ,

   書誌 学 の 研 究 に 有効 と い う意味 で 「学術的 1 と

   訳 した。

6)  Ch,ech  List cflncunahula  in the rv’etvberrv  Libra’rv, com 一

   μ 副 for  the  blse  of  the 五ゴゐ厂αり 5tufJ: Chicago,

   Newberry  Library,1919,62p.

)7

)8

)9

10)

ll)

12}

13>

14)

15)

16)

17)

18)

19)

012222

23>

Check  List  of  Boohs  P 翻 露84   During  the Fiji eenth

CenturJ),・Comp ・by 燃 erce  Butler・Chicage , The

Newberry  Librarア,1924,192p,ACheclt   List  of  Frfteentit  CenturJ’Books  in  TlteNezvbei’Tv 五伽 αワ and  in Othe・r Librarie,s Of Chicago・Gomp . by Piercc Butlcr.(lhicago, The  Newberry

Librar》,1933,362p.

現在 は British Museum か ら British Libraryと し

て独立 し,大英 図 書館あ る い は 英国図書館 と呼

ば れ て い る c,

V’he∬F,fty}忽 ∬ of  the Ainted Book l450−1500:Notes

Descriptive ‘)f an  Exhibition・Cornp ・by l)icrcc

But ]er. Chicag〔〕, The  Newberry  LibIary,1925,17p.

IJzcunabul α ’ α Spe‘溜 E瀚 傭 o 塑 μ聯6 副 ん (]entu・r)’

Books♂ αη 襯 9召4 外 The ・Neivber’iLv’五か αり for  the

M 油 〃翻 6厂 M6 諭 zg  tf  tltf・ Bibtiog’raPhical  306 ぎの of

Ai’ne,rica, Chicago , The  Newberry  Library ,1930、]Op、

前掲 8),P. xvi .

presseI・,1−lelinut.『書 物 の 本 1 [Das Buch  von

Buch.]轡 田 収訳,東京 , 法政大学出版会,1992,

377,58p.弓INは p.67.

Blades,“)illlarn.ム喰 a・n.d T)

’Po.gr’aPhy  qf

’W 冨’即砌 ゐ

Caxton, Ncw  York, Burt Franldin ,[19−],2v.初版

は 1−ondOn ,1861−63.HoltrOP,Johannes W ・Monuments  

’ll:f)ograPiguts  des

Pa/ys−Bas  au ‘inizie”ze Siecle. TIL b>

・Wytze  arld  Lotze

Hc [linga. Anlsterdarn, M . Herzberger,ユ966,2v、

kJJi仮は 1857−68.Pr()ctく}ち Robert. A ・n  lhdex to the Eafl) binted Books

in 謝 β漉 5ん M 懈 構 砂 o規 the inventlon〔ゾ餌 πご伽 9to the )

/f/(i7’15DO、 Londen , The  British Museum ,

1898−99.2v.

雪嶋宏一

「イ ン キ ュ ナ ブ ラ 書誌 の 歴 史 (2)1 「早

稲 田大学図 書館紀要』34 号 ,1991

, p.9−19.

Peddie , Robcrt  Alcxsander ’脚 翩 6ん・・CentuT}’Booksr

AOzt ’ide  t・ Thei’r ldenttLt/icatien, New  York , Burt

Franklin,1913,89p.引 用 は p.14.

C伽 ‘蠏 ‘θ (ゾβo廊 P伽 ’認 2π 伽 15魏 α 剛 明 N σ留 η

伽 β癬 柚 1ifuseurra  London ,.rhc British Museum ,

190S85,、’ol.1−10,12,

肖昨掲 6) ,  P . vii

前掲 7〕, P.viiプ ロ ク ターの 目録 に 記載 され て い る 印刷 地 や印

刷所 の 数 を基 に した 。

例 え ば,オー.・

ス トリ ア や ハ ン ガ リーは 二 つ の 国

と し て で は な く,オ ース トリ ア ・ハ ン ガ リー帝

国 と して一

つ に 扱 わ れ て い た り,現在 は フ ラ ン

ス で あ る Strassburg は ドイ ッ の 都市と して 扱 わ

れ て い る、.活字体 に つ い て は バ トラー

の 目録 上

に 記載がない た め 比較 の 対象 と し な い。 こ こ で

比較す る の は 国,都市 ,印刷所 の 各 レ ベ ル で の

N 工工一Eleotronio  Library  

Japan Society of Library and Information Science

NII-Electronic Library Service

Japan  Sooiety  of  Library  and  工nformation  Soienoe

若松 :イ ン クナ ブ ラ ・コ レ ク シ ョ ン にみ る バ トラー

の 書物観 157

24)

25)

67ワ臼

2

28)

29)

0

ワODD

32)

33)

34)35)36)

37)

伝播 の 様子 で あ る。

前掲 16),VoL1 , p29 .

Cunnon ,  Carl  L.  Americα n  Boolt  Cotlectors  and

Cotlecting from Coloniag Times to the Present・New

Yerk, IVilson,1{ 41,391P.引用 は P.187.

前掲 25),p.192−93.

Samuelg. , Joel L .‘’The  John M . Wing Foundation

on   the  histor}.  of  printing  at   the   Ncwberry

Library.’T’he Library⊆塑α汀 8吻. VoL  58, No .2,1988,

p,164−189.弓i用 1よ p.177.

McMurtrie, Douglas C .η 躍 βoo 陀1 ‘んθ跏 り α 雇 わoo ん.

making .8th  ed . New  York , Oxford  Univ. Press,1965, c1943 .676p.初版 は 1927年 に Colden  Book .と

して 出版 され た。

Biitlcr, Pierce 」A  typographical  library: theJohn

M .Wing  Foundation   of  the  Newberry  LibrarゾPaPe,s qf The Bibliogrophica,I Sooiet)・ qプん η爾 σ仏 vol.

15,No .2,工921, P.73−87.引用 は P.79,

前掲 27),p.177.DonaldsQn ,」can  shephard.

“Tbe  John  wing

Roundarion  at the Newbcrry  Librarゾ In Book Art,s

Cotlectio’tzs♂ aR 吻 65翩 α‘廨 ∫幽 醜 oη. Ed  by Edward

Ripley−Duggan . Ncw  York, Hawortb  Press,1988, p.61−70.引 用 は p.64

−65.

前掲 8), P.x.

現存す る 展示会 目録 は 1925 年の もの と 1930年の

もの の み で あ る,、

角盲掲 10), P.[3].前掲 10),p.5−6.Eisentein,  Elizabeth  L .『印 刷 革 命 』 [The

Printing Pres8 as an  Agellt of  Change .]別宮貞徳

監訳 ,小川昭 子他訳,み すず書房 ,1987,303,21p.弓1用 は p.26

−28.初期 の イ ン ク ナ ブ ラ に は,標題 紙 に代わ る コ ロ フ

ォ ン (奥 書 ・刊記)が 文 末 に 示 さ れ た 。

コ ロ フ

ォ ン か ら標題紙 へ の 変遷 は 次 の 文献 に詳 しく述

べ ら れ て い る 。 Ve Vinne, Thcodorc   l.oi ・v,  A

Treatise on  7泌 ラα985」 with  ATumeix)τts  Jlliム stration ・c in

P’acsinzile   and  Sofn,e Obserr/a {ions on ‘加 E α吻 伽 漉 π9

0f Boohs. New  York, Haskcll House ,1972. I Lst ed .inl901」,485p,

) )

80り

33

40)

41)42)

43)

44)

) )

67844

44

ラ ラ

Qゾ

01

∩∠

4厂D一b5

53}54>55)56)57)58)

59)

60)

前掲 36),p.79.

標題紙 の 役割 は今 日 の 洋書 と和書 で は異 な る。

主要な書誌事項 の す べ て を含む洋書 の 標題紙 に

対 して ,和書 で は そ の 役割は 奥付が 持 っ て い る。

こ こ で 言 う標題紙 と は 洋書 の 場合 に 限定して い

る 。

Febvre, Lucien;Martin , 

Henri−Jcan.『書物の 出現1[L

apparition  de Livre.]関根素子他訳,筑摩書

房 ,1985, 2vels.引用 は Vol.1,p.181.

前掲 40),Vol.1, p.181.Grolier

, Eric de.『書物の 歴 史』[Hi5torc de Livre.]

大塚幸男訳. 東京 , [ゴオ(挙上, 1992,162p. 引用 は

p.98−99,及 び,前掲 40),Vel.1, p.225−227.

Stokes, Roy .『西 洋 の 書 物 』[Esdaile’s Manual 〔⊃f

Bibliography.]高野彰訳,雄松堂 書店,1967,177p.引用 は p.29.Steinberg,  S. H .『西 洋 印 刷 文化 史 』 [Five

Hundred  Years  of  Printing .]高野彰訳.東京,囗

本図書館協会,1985,433p.引用は p.157.前掲 10),p,11.前掲 10),p,12.

前掲 10),p.[4]、1930 年 の 目録 に は 解説 が ない た め 仮説 を直接裏

付け る よ うな バ トラー

自身の 言葉 を 見出す こ と

は で きない。

前掲 10),p.5.前 掲 10),p.7,

前掲 10),p.12.

前掲 41),第 8 章第 2節 「書物 とユ マ ニ ス ム 」を

参照

前掲 ユ0),p.14.前掲 10),p.10.前掲 10>,p.16.()は筆者 が 補足 した 。

前掲 36},p.123.

前掲 36}, p.46.

前掲 36), 第 1部第 2章 「最初 の 移行を定義す る1を参照

Butler,  Pierce.  Origin of  Printing  in Europe .

Chicago, Univ. of  Chicago Press,1940 ,155p.

前掲 59>,P.5−9.

N 工工一Eleotronio  Library  

Japan Society of Library and Information Science

NII-Electronic Library Service

JapanSociety ofLibrary andInformationScience

J58 H"paXfiE・[E\kl}Et.A-lttVt)1. 46, No.4, Apri1 2001

Pierce Butler's Point of View on Book in the Ineunabula Colleetion

at the Newbe]fry Library

Akiko WAKAMATSU

Sailamct ht72shin Mmen's .henior Coltege

Pieree Butler foeusect on the ineubanula when he established the Jehn M. Wing Foundation on the

history of printing at the Newberry Library. The purpose of this paper is to interpret Bu,tleYs inten-

tion in building the ineunabula eolleetion by examining several aspects of his ehoiees. [l]hrough

exarnination of the classification in his ineunabula catalogues and of his incunabula exhibitien eata-

logues, two important characteristies of the ineunabula colleetion are indicated as fbllows: (D The

proeess of the spread of print・ing in historieal and geographieal perspeetive. e The proeess of rnodern

book-formation. Furtheumore, it appears that Butler aimed t・o establish the incunabula eolleetion as

an expression of the diffUsi.on of seholarship. It seems that Butler developed his thinking between

book and eulture during the Newberry's period.