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「地球工学研究所・環境科学研究所 研究概要 -2010 年度研究成果-」 ©CRIEPI 2011 バイオテクノロジー 78 バイオ燃料用作物の育種・生産(その 3) -ジャトロファ農業特性の系統間変異とその相互関係- 背 景 ジャトロファはバイオ燃料作物として諸外国で実用化が進められており、荒廃地でも種子が多く収穫でき る系統が求められている。育種によって種子収穫量などの農業特性 注 1) を向上させる際には、栽培環境によ る影響の程度を明らかにした上で育種目標を設定する。しかし、多系統のジャトロファを一斉栽培して各系 統の特性を客観的に評価した事例はなく、現状では育種目標を明確にできない。 目 的 インドネシア各地で採種したジャトロファの農業特性の系統間変異 注 2) を解析し、環境影響を考慮した目 標設定を行い育種の方向性を明確にする。 主な成果 1. ジャトロファの栽培試験と農業特性調査 収集した 13 のジャトロファ系統をインドネシアのプランテーションサイトで 6 ヶ月間一斉栽培し 30 種類 の農業特性を調査した(図 1)。その結果、種子収穫量は最大 20 倍の系統間変動幅を持つことが明らかと なり、交雑による収量性向上は実現可能な育種目標となり得ることが示された。 2. 高収量性品種を選抜するための指標となる農業特性(図 2,3) 農業特性を相互に比較解析した結果、収量性と花・枝の数との間で強い相関が示された。特に花序 注 3) たりの雌花数は栽培環境の影響が低いため選抜指標に適用できる。 3.育種素材として有用な系統の選定 農業特性データを用いて栽培した系統を分類した結果、「早生・小型・中収量」「晩生・大型・低収量」 に大別された。とりわけ「早生・小型・中収量」に分類された系統群の中では、Bima および Parung Panjang 1,2,4 系統が生育速度および収量性について優れた特性を持つため育種素材として利用価値が高いことが 示された(図 4)。 以上より、高収量性を育種目標に設定した時、生育性・生産性の良い 4 系統が育種材料として利用可能で あり、環境影響を考慮した結果、花序あたりの雌花数が選抜指標として有用と判断できた。 今後の展開 選抜技術の確立を目指した収量性早期診断マーカ開発を行う。 主担当者 環境科学研究所 バイオテクノロジー領域 主任研究員 橋田 慎之介 関連報告書 (報告書名の後に記載されているアルファベットと数字は、電力中央研究所報告の報告書番号です) ・バイオ燃料用作物の育種・生産(その3)-ジャトロファ農業特性の系統間変異とその相互関係-〔V10034〕 注 1)収穫期間、収穫量、サイズ、油脂含量など品種(系統)の特性を示す。 注 2)系統間に検出される差異であり、遺伝的な要因と非遺伝的な要因(環境影響)を含む。 注 3)枝についた花の集団および配列状態のこと。

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Page 1: ©CRIEPI 2011...「地球工学研究所・環境科学研究所 研究概要 -2010年度研究成果-」 ©CRIEPI 2011 78 図1 一斉栽培による農業特性調査 インドネシア国内の7島から採集した種子を発

「地球工学研究所・環境科学研究所 研究概要 -2010 年度研究成果-」 ©CRIEPI 2011

バイオテクノロジー 78

バイオ燃料用作物の育種・生産(その 3) -ジャトロファ農業特性の系統間変異とその相互関係-

背 景

ジャトロファはバイオ燃料作物として諸外国で実用化が進められており、荒廃地でも種子が多く収穫でき

る系統が求められている。育種によって種子収穫量などの農業特性注1)を向上させる際には、栽培環境によ

る影響の程度を明らかにした上で育種目標を設定する。しかし、多系統のジャトロファを一斉栽培して各系

統の特性を客観的に評価した事例はなく、現状では育種目標を明確にできない。

目 的

インドネシア各地で採種したジャトロファの農業特性の系統間変異注2)を解析し、環境影響を考慮した目

標設定を行い育種の方向性を明確にする。

主な成果

1. ジャトロファの栽培試験と農業特性調査

収集した13のジャトロファ系統をインドネシアのプランテーションサイトで6ヶ月間一斉栽培し30種類

の農業特性を調査した(図 1)。その結果、種子収穫量は最大 20 倍の系統間変動幅を持つことが明らかと

なり、交雑による収量性向上は実現可能な育種目標となり得ることが示された。

2. 高収量性品種を選抜するための指標となる農業特性(図 2,3)

農業特性を相互に比較解析した結果、収量性と花・枝の数との間で強い相関が示された。特に花序注 3)あ

たりの雌花数は栽培環境の影響が低いため選抜指標に適用できる。

3.育種素材として有用な系統の選定

農業特性データを用いて栽培した系統を分類した結果、「早生・小型・中収量」「晩生・大型・低収量」

に大別された。とりわけ「早生・小型・中収量」に分類された系統群の中では、Bima および Parung Panjang

1,2,4 系統が生育速度および収量性について優れた特性を持つため育種素材として利用価値が高いことが

示された(図 4)。

以上より、高収量性を育種目標に設定した時、生育性・生産性の良い 4系統が育種材料として利用可能で

あり、環境影響を考慮した結果、花序あたりの雌花数が選抜指標として有用と判断できた。

今後の展開

選抜技術の確立を目指した収量性早期診断マーカ開発を行う。

主担当者

環境科学研究所 バイオテクノロジー領域 主任研究員 橋田 慎之介

関連報告書 (報告書名の後に記載されているアルファベットと数字は、電力中央研究所報告の報告書番号です)

・バイオ燃料用作物の育種・生産(その 3)-ジャトロファ農業特性の系統間変異とその相互関係-〔V10034〕

注 1)収穫期間、収穫量、サイズ、油脂含量など品種(系統)の特性を示す。

注 2)系統間に検出される差異であり、遺伝的な要因と非遺伝的な要因(環境影響)を含む。

注 3)枝についた花の集団および配列状態のこと。

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Page 2: ©CRIEPI 2011...「地球工学研究所・環境科学研究所 研究概要 -2010年度研究成果-」 ©CRIEPI 2011 78 図1 一斉栽培による農業特性調査 インドネシア国内の7島から採集した種子を発

「地球工学研究所・環境科学研究所 研究概要 -2010 年度研究成果-」 ©CRIEPI 2011

78

図 1 一斉栽培による農業特性調査

インドネシア国内の7島から採集した種子を発

芽させ、幼苗を育生した。幼苗を分割し、各系

統 3個体の挿し木クローン苗を調製した。プラ

ンテーションサイトに定植し6ヶ月間栽培した

後(施肥初回のみ、灌漑無し)、生長速度や種

子収穫量などの農業特性を調査した。クローン

苗は遺伝子型が完全に同一であるため、観察さ

れる農業特性のばらつきは環境影響と推定さ

れる。

図 2 農業特性(性質毎に 5群に分類)のばらつきと遺伝子影響

農業特性のばらつきが広く、遺伝子影響が高いときに初めて交雑による形質の進歩が期待できる。

図 3 各農業特性の相関関係

各農業特性間の相関関係を図示した。赤・青矢

印はそれぞれ正・負の相関を示す。収量と花・

枝の数との間で高い正の相関が示され、特に花

序あたりの雌花数は栽培環境の影響が低いた

め選抜指標に適用できる。

図 4 総合指標による系統特性の要約

調査した全農業特性から総合的な系統評価指

標を作成し、各系統の特性としてグラフに図示

した。縦軸に生育性、横軸に収量性を示した。

右下半分にプロットされた既存系統は育種素

材として有用と判断され、右下に近づくほど優

良品種である。