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熊本大学学術リポジトリ
Kumamoto University Repository System
Title FAP症例における生命予後に対する肝移植の効果の検
討
Author(s) 岡本, 定久
Citation
Issue date 2009-09-17
Type Thesis or Dissertation
URL http://hdl.handle.net/2298/17331
Right
学位論文
DoctoralThesis
FAP症例における生命予後に対する肝移植の効果の検討(ImpactofIivertranspIantationonsurvivalinfamiIiaI
amyIoidoticpoIyneuropathypatients)
岡本定久
SadahisaOkamoto
指導教員
内野誠教授熊本大学大学院医学教育部博士課程医学専攻神経内科学
2009年度
-1口
学位論文
DoctorisThesis
論文題名:FAP症例における生命予後に対する肝移植の効果の検討
(ImpactoflivertranspIantationonsurvivaIinfamiIiaIamyIoidotic
poIyneuropathypatients)
岡本定久
SadahisaOkamoto
著者名
熊本大学大学院医学教育部博士課程臨床医科学専攻神経内科学
内野誠教授
指導教員名
小児外科学担当教授猪股裕紀洋審査委員名
代謝内科学担当教授荒木栄一
循環器病態学担当教授小川久雄
細胞病理学担当教授竹屋元裕
2009年度
1
目次
1.要旨
2.発表論文リスト
3.謝辞
4.略語一覧
5.諸論
5-1.アミロイドーシスの定義と分類
5-2.家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)
5-3.トランスサイレチン
5-4.FAPの診断
5-5.FAPの高齢発症と若年発症
5-6.日本とスウェーデンのFAPの相違点
5-7.FAPの治療:肝移植を中心に
5-8.肝移植後の合併症
5-9.本研究の目的
6.スウェーデンのFAP症例における生命予後に対する肝移植の効果の検討
6-1.方法
6-2.結果
6-3.考察
総括
参考文献
図表
●●●
【lJn0(uzm)(叩〕.〉
2
1.要旨
スウェーデンのFAP症例における生命予後に対する肝移植の効果の
検討
[目的]家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)に対する肝移植療法は、進
行を止める唯一の治療法である。FAPは進行すると栄養状態が悪化するが、良好
な栄養状態で肝移植を行ったスウェーデンのFAP症例は、非移植群と比較し生
存率の有意な改善を認めている。しかし、それらの肝移植症例の観察期間は中
央値5年と短く、十分な解析がなされていなかった。また、発症時の年齢、性
別が肝移植症例の生存率に与える影響を非移植例と比較検討した報告もない。
本研究では、発症時の年齢、性別に注目し、スウェーデンにおける非移植例と
肝移植例の長期生存率の比較検討を行った。
[方法]対象は、1973年から2008年6月の問にスウェーデン、ウメオ大学を受
診したFAP患者141例(肝移植群108例、非移植群33例)。Kaplan-Meier生存
分析を用いて、両群の解析を行った。肝移植群は、移植が開始された1990年か
ら1995年まで病気の進行状況や栄養状態を考慮せず移植を行っていた前期移植
群と、1996年以降栄養状態を手術適応とした後期移植群に分類した。発症時年
齢は、50歳未満の若年発症群と50歳以上の高齢発症群に、移植時罹病期間は7
年未満と7年以上の2群に分類した。性別、発症時年齢、移植時罹病期間にお
ける生存率の違いについてもあわせて検討した。
[結果]肝移植群の生存率は、非移植群と比較し有意に上昇していた(p<0.001)。
若年発症群における肝移植群の生存率は、非移植群と比較し有意に延長してい
た(p<0.001)が、高齢発症群における生存率は、肝移植群と非移植群の間に有
意差を認めなかった。肝移植群におけるi生別と発症年齢の生存率に対する影響
を調べた結果、高齢発症男性群の生存率は、高齢発症女11生群と比較し有意に低
かった(p=0.02)。一方、若年発症男性群における生存率は、若年発症女性群と
の間に有意差を認めなかった(p=0.33)。肝移植時罹病期間が7年未満と7年以
上の2群間において、生存率に有意差を認めなかった。
[結語]FAP患者に対する肝移植は長期的に検討しても有効であることが確認
されたが、高齢発症男性例では、非移植例と比較し生存率の改善は認めない可
能性があり、この原因について検討するとともに新たな治療戦略が必要である。
2.発表論文リスト
関連論文
OkamotoS,WixnerJ,ObayashiK,AndoY,EriczonB-G,FrimanS,
UchinoM,SuhrOB、
Livertransplantationforfamilialamyloidoticpolyneuropathy:
impactonSwedishpatientssurvival・
Liver7YranSPIant2009inpress.
その他の論文
OkamotoaYamashitaT,AndoY,UedaM,MisumiY,ObayashiK,HoribataY,
UchinoM
Evaluationofmyocardialchangesinfamilialamyloidpolyneuropathyafter
livertransplantation
hte〃」Wl9d2008;47:2133-2137.
ObayashiK,O1ssonM,AnanLUedaM,NakamuraM,OkamotoS,YamashitaT,
MiidaT,AndoY,SuhrOB
Impactofserotonintransporterandcatechol-O-methyltransferasegenes
polymorphismongastrointestinaldysfunctioninSwedishandJapanese
familialamyloidoticpolyneuropathypatients,
CZmGhinMcta2008;398:10-14.
YamashitaT,AndoY,UedaM,NakamuraM,OkamotoS,ZeledonME,HiraharaT,
HiraiT,UedaA,MisumiY,ObayashiK,InomataH,UchinoM,
EfTbctoflivertransplantationontransthyretinTyrll4Cys-relatedcerebralamyloid
angiopathy.
/Vmmノロgy2008;70:123-128.
YamashitaT,AndoY,KatsuragiS,NakamuraM,ObayashiK,HaraokaK,Ueda
M,XuguoS,OkamotoS,UchinoM
MuscularamyloidangiopathywithamyloidgenictransthyretinSer5011eand
Tyrll4Cys
jWtJSc上/Vian'e2005;31:41-45.
4
3.謝辞
本研究を行うにあたり、いかなる時も全面的にご支援、ご指導を頂いた熊本
大学大学院医学薬学研究部先端生命医療科学部門脳・神経科学講座神経内科学
分野教授、内野誠先生に心から感謝申し上げます。
FAPという疾患を通して、医学研究に対する姿勢をご教授いただき、ご指導と
ご高配を賜りました同総合医薬科学部門生体情報分析医学講座病態解析学
分野教授、安東由喜雄先生に厚く御礼申し上げます。
論文作成を含めに日夜ご尽力賜り、かつ貴重なご助言を与えて頂きました神
経内科学分野、山下太郎先生に深く感謝申し上げます。
FAP研究だけでなく、ウメオ大学留学にあたり、多方面に渡り様々な御助言を
与えて頂きました病態解析学分野、大林光念先生に深く感謝申し上げます。
ウメオ大学留学に際し、あらゆる面で全面的にご支援、ご指導を頂いたウメオ
大学内科学教室教授、OleBSuhr先生に深く感謝申し上げます。
4.略語一覧
ATTR:amyloidogenicTTR(FAPの原因となるTTR)
ESI-MS:electrosprayionizationmassspectrometry(熱スプレーイオン化質
量分析法)
FAP:familialamyloidoticpolyneuropathy(家族性アミロイ
パチー)
InBMI:modifiedbodymassindex(修正肥満度指数)
MALDI/TOF-MS:matrix-assistedlaserdesorption-ionization
massspectrometry(マトリックス支援レーザー脱離イオン化層
PCR-SSCP:polymerasechainreaction-single-strandconfor
polymorphism(核酸増幅一本鎖高次構造多型分析法)
RBP:retinolbindingproteinルチノール結合蛋白質)
SSA:senilesystemicamyloidosis(老人性全身性アミロイド
ドポリニューロ
desorption-ionization/time-of-flight
トリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法)
chainreaction-single-strandconformational
_シス)
TTR:transthyretin(トランスサイレチン)
5.諸論
5-1.アミロイトマーシスの定義と分類
アミロイドーシスとは、線維構造をもつ特異な蛋白であるアミロイF線維が、
全身諸臓器の細胞外に沈着することによって機能障害を引き起こす一連の疾患
群である。現在までに27種類の異なる蛋白質が組織沈着アミロイドの前駆蛋白
となることが知られており、いずれもβシート構造を有する蛋白質の立体構造
の変化(misfolding)がアミロイド化に関与している。アミロイドーシスの病型
は、全身性と限局性に分類される。全身性には、免疫グロブリン性(ALアミロ
イドーシス、AHアミロイドーシス)、関節リウマチなど慢性炎症性疾患に続発す
る反応性(AAアミロイドーシス)、家族性、透析性(Aβ2M)、老人性(SSA)などが
ある。限局性には、脳アミロイドーシスであるアルツハイマー型認知症やプリ
オン病などがある(表1)。
5-2.家族性アミロイドポリニューロパチー
家族性アミロイドポリニューロパチー(familialamyloidotic
polyneuropathy:FAP)は、常染色体優性遺伝形式をとる予後不良の遺伝性全身
性アミロイドーシスである。遺伝子変異を起こしたトランスサイレチン
(transthyretin:TTR)、アポリポ蛋白AI、ゲルソリンを前駆蛋白質とし、種々
の臓器、組織にアミロイド沈着を起こす。これらの前駆蛋白質のうち、TTRの点
変異や欠失による変異型TTR(amyloidogenicTTR:ATTR)の頻度が最も高い。
FAPATTRは、1952年にポルトガルのAndradeにより最初に報告された(ANDRADE、
1952)。その後、スウェーデン、日本を含めて世界各地からの報告されるように
なった。曰本においては、1968年にArakiらにより、熊本県荒尾市に第1例曰
のFAP患者が報告され(ArakietaL1968)、次いでKitoらによって、長野県
に集積地があることが報告された(KitoeZaL1973)。近年これら2つの集積
地に加え、能登半島など石川県にも大きな集積地があることが報告され
(Kato-Motozakieta1.2008)、また、孤発例も本邦において多数報告されて
おり、現在わが国で2番目に多い遺伝性ニューロパチーであることが確認され
ている。
曰本を含め世界各地で最も多くみられるATTR変異は、30番目のアミノ酸であ
るバリンがメチオニンに変異したものである(ATTRVal30Met)(TawaraetaL
1983)。この変異以外にも90種類以上のアミロイドーシスに関連した遺伝子変
異が報告されている。変異により、アミロイド沈着臓器、および障害臓器に違
いがある。また、同一の遺伝子変異でも、症状、発症年齢に多様性を認め、環
7
境因子の関与も考えられる(AndoetaL2000,Kawajieta1.2004)。
FAPは、全身性にアミロイド沈着を認めるため多彩な症状を呈する。ATTR
Val30Met型において頻度の高い初発症状は、末梢神経障害や消化器症状であり、
下肢遠位優位のしびれ・痙痛などの異常感覚、温痛覚障害を中心とした解離性
感覚障害、交替性の下痢・便秘を呈することが多い。運動障害は、通常感覚障
害の3-4年後に生じ、進行性で下肢から上肢に症状が及ぶ。自律神経障害は、
発症時から高頻度に認められ患者の日常生活や予後に及ぼす影響も大きい。発
汗障害、陰萎、交代性下痢便秘、吐気などの消化器症状、起立性低血圧など多
彩である。内臓の臓器障害も病像の進行に伴い出現する。循環器系障害は、房
室ブロックなどの心伝導障害による不整脈、心筋障害による心不全を呈する。
近年、心室細動など致死性不整脈の出現も注目されている。腎臓へのアミロイ
ド沈着の進行により、蛋白尿を来し腎不全に移行する。また、神経因性膀胱を
伴い、進行すると尿路感染症を合併するようになる。Tashimaらは、本邦におけ
るATTRVal30Met型症例を検討し、臨床症状から感覚障害型、運動障害型、自
律神経障害型、臓器障害型に大別されることを報告している(TashimaeZaL
1997)。この報告において、感覚障害型の症例だけでなく、残り3つの病型を主
体とする症例群が存在することを示している。眼アミロイドーシスも重要な徴
候の一つである。異型TTRは網膜の色素上皮細胞からも産生されており、アミ
ロイド沈着による硝子体混濁を認める。前眼部へのアミロイF沈着も認められ、
緑内障を来し失明の原因となる。時に眼症状が全身症状に先行する場合もある。
本症は、肝移植を行わないと発症から約9-13年で死亡に至る(AndoetaL2005,
MonteiroetaL2004,SuhretaL1994)。
5-3.トランスサイレチン
当初TTRは、電気泳動した際にアルブミンより陽極に移動することから、
プレアルブミン呼ばれていた(Kabateta1.1942,SCHONENBERGERetaL1956)。
その後、げっ歯類のTTRは電気泳動場所が異なり、サイロキシンとレチノール
結合蛋白(retinolbindingprotein:RBP)の担送体であることなどが証明され、
TTRと呼ばれるようになった(KanaietaZ、1968,ROBBINS&RALL1957)。ア
ルブミン、サイロキシン結合グロブリンとTTRは、甲状腺ホルモンを甲状腺か
ら作用組織へ運搬する機能を有している。また、ビタミンA輸送蛋白であるRBP
とTTRは複合体を形成することで、レチノールの担送体としての機能を担って
いる。
TTRは、主に肝臓から産生されるが、脳内脈絡叢からも産生され、髄液中に分
泌される。髄液中TTRは、血液から脳内への甲状腺ホルモンの取り込みにも関
与している(ChanoineetaL1992,SouthwelleZa1.1993)。肝臓から産生さ
8
れたTTRは、血液髄液関門を介して髄液内に移行することが報告されている
(TerazakietaL2001)。その他に、眼の網膜色素上皮、膵臓のα細胞などか
らも産生されることが明らかとなっている。特に眼の網膜色素上皮から産生さ
れるTTRは眼組織のアミロイド沈着を誘起することから、後述する肝移植によ
っても眼アミロイドーシスは進行し続けることが知られている。
TTRは、約14kDaの単量体が結合した四量体として血中に存在し、中心部に
2つのサイロキシン結合部位を有している。単量体は127個のアミノ酸からなり、
βストランド豊富な構造を持ち、逆向きの2枚のβシートを構成する。TTRをは
じめとするアミロイド原蛋白質がβシート構造をもつことによりアミロイド形
成能が高まると考えられている。TTRは、四量体の状態では極めて安定性が高い。
しかし、遺伝子変異によりアミノ酸置換によりATTRが存在すると、血中の四量
体には、正常型TTRとATTRが混在するようになる。この変化により立体構造の
安定性が低下し単量体へと解離しやすくなる。単量体となったTTRは、ミスフ
ォールディングを起こし、アミロイド線維となる。
TTRが原因蛋白質であるアミロイドーシスには、前述のFAPと老人性全身アミ
ロイドーシス(senilesystemicamyloidosis:SSA)がある。SSAは、遺伝性変異
を持たないTTR(wildtypeTTR)が全身性に沈着する疾患である。高齢者、男性
優位、心筋障害が主症状という特徴を持つ。心筋障害の頻度が高く、心筋から
アミロイF沈着を認めたことから、当初はsenilecardiacamyloidosisと呼ば
れていたが、肺や消化管などにも高頻度にアミロイF沈着が認められる。SSAは、
剖検時にアミロイド沈着を認めることで診断がつくことが多く、80歳以上の高
齢者で20-30%の頻度と報告されている(SmithetaL1984)。SSAは、久しく
疾患との関連は注目されていなかったが、近年、高齢化社会の到来に伴い、心
不全や突然死の原因となることが注目されている。組織学検討によると、本症
は、心筋の次にアミロイド沈着の頻度が高いのは肺組織であり、特に肺胞壁に
アミロイド沈着を認める。その他、手根管症候群を呈する腱鞘滑膜や動脈周囲
にも不均一で限局性に沈着を認める(WestermarketaL2003)。SSAのアミロイ
ド線維は、C末端を中心としたTTRの断片が主な主成分であるとする報告がある
(WestermarketaLl990)。
5-4.FAPの診断
FAPは、多彩な全身症状を呈する。一般的な初発症状は、下肢から始まる温痛
覚障害や起立性低血圧・下痢・便秘などの自律神経障害である。しかし、同一
の変異TTR型であっても、臨床徴候は多彩であり、手根管症候群や硝子体混濁
で発症する場合もあり、臨床症状からだけでは確定診断にいたらない。また、
本邦において、集積地における若年発症例と非集積地の高齢発症例では、神経
9
障害の程度、心伝導障害の頻度などに違いがある可能性が指摘されている
(KoikeetaL2004,Koikeeta1.2008,Sobueeta1.2003)。非集積地の症
例は、孤発例が多く、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎などと誤診を受けている
場合もある。従って、原因不明の多発神経炎に加え種々の臓器症状がある場合、
FAPを疑うことが重要である。本症の可能性が高い場合、アミロイド沈着を組織
で証明するために生検を行う。日常診療においては、最も非侵襲的である腹壁
脂肪吸引や胃・十二指腸粘膜生検が選択される。FAPのアミロイド沈着は、これ
らの組織に対し、コンゴーレッド染色で赤燈色に染色され、偏光顕微鏡下で黄
緑色の複屈折像を示すことで確認される。次に特異抗体(AL、AA、TTRなど)を
用いた免疫染色を行い、TTR抗体に対する染色性がアミロイド陽性部位と一致す
ることを持って、アミロイド蛋白質を同定する。
FAPの確定診断は、血清診断とDNA診断を組み合わせることで簡便かつ確実に
実施できるようになった。まず、質量分析法を用い、TTR分子のアミノ酸変異に
よる分子量の変化をスクリーニングする。正常TTRのピークと異なる変異TTRの
ピークが認められた場合TTRの遺伝性解析を行う。家族歴のある症例や集積地出
身で典型的な臨床症状を呈する症例に関しては、ライトサイクラーシステムを
用いたリアルタイムPCRを行う。本法では、短時間のうちにATTRVal30Met変異
の有無を確認することができる。非集積地の症例やATTRVal30Met型でない変異
が疑われる症例は、PCR-SSCP(single-strandconformationalpolymorphism)
法や、質量分析装置(ESI-MS:electrosprayionizationmassspectrometry、
MALDI/TOF-MS:matrix-assistedlaserdesorption-ionization/time-of-flight
massspectrometry)を用いスクリーニングを行った後、TTR遺伝子に対し、遺
伝子シークエンス解析を行う(AndoetaL2005)。
FAPの高齢発症と若年発症5-5.
ATTRVal30Met型の集積地において、それぞれ発症年齢の違いがみられている。
ポルトガルと曰本の集積地における発症年齢は、30歳代発症と若年発症が多い
(AndoetaL2005)。一方、北部スウェーデンにおける発症年齢は、多くの症
例が50歳代と高齢発症である(HolmgrenetaL1994)。本邦においては、非集
積地のATTRVal30Met型が高齢発症であることが知られている。非集積地のFAP
は、孤発例で自律神経障害は著明でなく、集積地のFAPと異なる臨床象を呈する。
また心臓において、びまん性アミロイド沈着により心肥大を来すことが多い
(Koikeeta1.2004,KoikeetaJ、2008,SobueetaL2003)。スウェーデン
FAP症例においても、高齢発症例で心筋肥厚の頻度が高くなっている報告がある
(SuhretaL2006)。発症年齢を含め異なる表現型が生じる機序については明
らかになっておらず、今後の研究課題である。
10
5-6.曰本とスウェーデンのFAPの相違点
スウェーデン北部地方には、ポルトガルに次いで世界で2番目に患者数の多い
集積地がある。スウェーデン北部に位置するSkellefteAとPitedには、特に多く
のATTRVal30Met症例が存在する。
曰本の集積地におけるATTRVal30Met症例は、浸透率が90%以上で、性差は見
られない。発症から約10年で死亡することが多い(AndoetaL2005,Ikedaet
aL2002)。一方、スウェーデンの集積地における浸透率を検討した報告では、
30歳台までに1.7%、60歳台までに22%が発症している。同様の方法を用いた本
邦からの報告はないが、発症年齢等が近いポルトガルの浸透率は、50歳台まで
に80%、70歳までに91%となっており、スウェーデンと比較し格段に高くなっ
ている(HellmanetaL2008,Plante-Bordeneuveeta1.2003)。
同一のATTRVal30Met型においても、地域の違いにより臨床徴候は異なってく
る。初発症状としての消化器症状は、曰本において下痢が多く、スウェーデン
において便秘の頻度が高い(TashimaetaL1999b)。また神経症状発現から消
化器症状発現までの期間にも、曰本では平均1.8年、スウェーデンでは3.7年と
違いがみられる。セロトニントランスポーター遺伝子多型と消化器症状につい
て、両国のFAP症例を解析したところ、異なる多型を有していることが明らかと
なっている。この結果からセロトニントランスポーター発現量を介して、消化
器症状に違いが出現している可能性が示されている(ObayashietaL2008)。
曰本、ポルトガル、スペイン、スウェーデンのFAP症例のDNAサンプルを用いて、
ハプロタイプ解析を行った報告によると、スウェーデン以外の国のハプロタイ
プはほぼ類似しており、スウェーデンのFAP患者は他の国と異なる創始者をもつ
可能性が指摘されている(OhmorietaL2004)。
5-7.FAPの治療:肝移植を中心に
肝移植が開始される以前は、FAP患者に対する根治療法は開発されておらず、
対症療法のみであった。しかし血中の異型TTRは90%以上が肝臓で産生される
ため、1990年にスウェーデンでFAP患者に対して初めて肝移植が施行された。
当初、肝移植が施行された症例の術後1-2年間の生命および機能予後が良好で
あり、かつ術後血中異型TTRが速やかに消失することが証明された(Andoeta1.
1995,HolmgrenetaL1993)。それ以降肝移植はFAPの治療として認知され、
毎年100人以上のFAP症例が肝移植を受けている(www・fapwtr、org)。
熊本大学医学部附属病院においては、1993年に荒尾出身のFAP患者がスウェ
ーデンで肝移植を受けた症例を皮切りに、2009年4月までに39名のFAP患者が
肝移植を受けている(AndoetaLl994)。この内3例は発症後10年以上経過し
11
て死亡しているが、それ以外の症例は比較的良好な経過をとっている。
TTRによるアミロイF-シスを発症する動物モデルが存在しなかったため、
FAPに対する肝移植開始時点において動物での前臨床試験は不可能であった。ま
た人間における有用性、合併症などのデータもなかったが、治療開始後にその
効果が後方視的に検証され始め、肝移植の予後に関して、幾つかの予後規定因
子が報告なされている。はじめに注目されたのは、栄養状態であった。スウェ
ーデンのグループは、modifiedbodymassindex(lnBMI=血中アルブミン(g/l)
×体重kg/(身長、)2)を用いて、mBMI≧600の症例の肝移植後の生存率が良好で
あることを報告している。その後の検討において、これに加え罹病期間、神経
症状、神経因性膀胱の有無が予後を左右することが報告されている。手術適応
の決定、また、術中循環動態管理など周術期管理技術の向上もあり、5年生存率
は90%以上となっている(HerleniusetaL2004,SuhretaL2005,Yamamoto
etaL2007)。
肝移植例の生存率を比較した研究においては、栄養状態良好な症例(mBMI≧
600)は非移植例と比較し、生存率の上昇を認めていた。しかし、本報告では、
1996年以降のmBMI600以上の栄養状態を手術適応にした症例群の長期観察がで
きていなかった。そのため、栄養状態を手術適応とした症例群の+分な解析が
なされていなかった(SuhretaL2005)。発症早期の栄養状態の良い症例に肝
移植を施行するようになった現在において、FAP症例の生命予後規定因子の検討
は重要である。
ATTRVal30Met型以外の変異をもつFAPは、ATTRVal30Met型に比べ肝移植後
の予後が不良であるとする報告もある(DubreyetaL1997,Singereta1.2005,
StangouetaL1998)が、この原因として、肝移植後に進行する心アミロイド
ーシスが挙げられている(HerleniusetaL2004)。
肝移植後、FAP患者において末梢神経を含めた臨床徴候の改善はみられない。
しかし、多くの報告により、臨床徴候の進行を遅らせる効果があることが知ら
れており、患者のQOL改善に貢献している(JonsenetaL2001)。末梢神経障
害に関して、術後に神経生検を行い非移植例と比較した報告において、肝移植
例において有髄神経の減少率に明らかな差がみられること、また電気生理学的
評価を長期間行った報告において、末梢神経伝導速度の低下が阻止されること
が示されている。その他の報告においても、術後のFAPの進行の遅延が、Tashima
らによって報告されている(Adamseta1.2000,ShimojimaetaL2008,Tashima
etaL1999a)。
5-8.肝移植後の合併症
肝移植により、FAPの全身症状の進行を遅らせる効果は得られたが、いくつか
12
の予期できなかった症状の進行が報告されている。予後に最も関連し重要視さ
れている症状は、術後の心アミロイF-シスである。心エコー図による経時的
検討において、当初ATTRVal30Met型以外の変異をもつFAP症例のみで心筋肥
厚の進行が認められると考えられていたが(DubreyetaL1997,StangouetaL
1998)、その後スウェーデンのATTRVal30Met症例のうち、一部の症例において
も心アミロイドーシスの進行が証明されている(O1ofssoneraL2002)。この
原因の詳細は不明であるが、すでに心臓に沈着していたアミロイドに新たに正
常のTTRが沈着を来たすメカニズムが誘起されるものと考えられている。
Non-Val30Met症例では、多発神経症状が比較的軽く、心アミロイドーシスを主
徴候とするFAPが多数存在する。そのため異型TTRを産生する肝臓と、アミロ
イドが沈着する心臓の両方の移植を必要とする症例もある(ArpesellaetaL
2003,PilatoetaL2007,RapezzietaZ、2006)。スウェーデンのATTRVal30Met
肝移植例30例の心伝導障害に関する検討において、術後に心電図異常を呈する
症例が増加し、そのうち4例がペースメーカー留置を必要としていた(Hornsten
etaL2004)。心伝導障害だけでなく、心室細動など致死性頻脈性不整脈を認
める症例もあり、定期的な評価が必要となっている(HornstenetaL2006)。
肝移植後に、眼アミロイドーシスによる眼内病変の進行を認める症例多数報
告されている。硝子体混濁や緑内障を来し、失明する危険性がある(Andoeta1.
1996,AndoetaL2004,SandgrenetaL2008)。肝移植後の眼アミロイドー
シスの進行には、眼内の網膜色素上皮および毛様体から産生される異型TTRが
関与している(HaraokaetaL2002,Kawajieta1.2005)。
FAPでは、中枢神経におけるアミロイド沈着の報告もある6FAP剖検例におい
て、アミロイド沈着は主に細動脈の血管壁や髄膜に認められたが、脳実質には
認められなかった(SakashitaetaL2001,TakahashietaL1991)。ATTR
Val30Met型は中枢神経症状を呈さないが、島原に集積地のあるATTRTyrll4Cys
型は脳血管アミロイドーシスを主徴とする。この変異を持つ症例は、高血圧の
関与のない致死性脳出血、急速進行性認知症、動揺性意識障害、一過性脳虚血
発作様徴候などの徴候を示す。病態として、肝臓由来のATTRが脳血管、髄膜へ
沈着し、血液・髄液脳関門の破綻が起こると考えられている(NakamuraetaL
2005)。Yamashitaらは、このタイプのFAPにおいて、肝移植によって死亡率や
脳出血や急速進行性認知症の頻度が明らかに改善していることを報告している
(YamashitaetaL2008)。この知見は、脳脈絡叢から産生される異型TTRでは
なく、肝臓から産生される異型TTRが脳血管アミロイドーシスの進行に強く関
与していることを示している。ATTRTyrll4Cys型以外の中枢神経型FAPの肝移
植例は少なく、長期予後も十分な検討がされておらず、今後のさらなる検討が
必要である。
13
5-9.本研究の目的
前述のように、FAPの肝移植が行われ始めた当初の状況と異なり、発症早期
で栄養状態の良い症例を手術適応とし肝移植が行われている。長期間経過を観
察した症例において、術後心アミロイドーシスなど術後合併症の報告もあり、
肝移植が本当に生存率を上昇させているか検討する必要があるとともに、現行
の手術適応下における予後規定因子を検討する必要があると考えた。
そこで、本研究では、スウェーデンのFAP患者の肝移植後の長期生存率(中
央値10年)を非移植例と比較した。同時に性別、発症時年齢、手術時の罹病期
問が、生命予後にどのような影響を与えているか検討した。
14
6.スウェーデンのFAP症例における生命予後に対する肝移植の効
果の検討
6-1.方法
6-1-1.対象
本研究では、スウェーデン、ウメオ大学病院を1973年から2008年にかけて
受診したFAP肝移植患者群108例、非移植患者群33例、計141例を対象とした
(表2)。FAPの診断は、特徴的な臨床症状、生検組織におけるアミロイド沈着の
証明、あるいは遺伝子検査により行った。肝移植患者群105例と非移植患者群
33例は、ATTRVal30Met変異を有していた。残り3例の肝移植例は、それぞれ
Phe33Leu、Ala45Ser、Leu55Glnの変異を有していた。
本研究で対象とした肝移植は、1990年4月から2008年6月までに施行された
もので、生存症例は6ヶ月以上経過観察を行った。肝移植は、スウェーデン、
Karolinska大学病院及びSahlgrenska大学病院で施行され、主にウメオ大学で
術後経過を観察した症例を対象とした。
非移植群は、肝移植療法が開始された1990年以前に死亡した16例、1990年
以降生存していたが、病状が末期のため肝移植を施行しなかった14例、及び肝
移植開始後適応ありと判断されたが本人が拒否した3例、計33例(男性16例、
女性17例)を対象とした。肝移植群の多くが発症時年齢65歳以下であること
から、発症時年齢が65歳以上の症例は非移植群から除外した。非移植群は、1
例のみ生存しており、32例の死因の内訳は、FAP関連28例(腎不全、低栄養、
感染症、心不全)、事故1例(病状進行例)、心臓手術後死亡例1例、死因不明2
例であった。
6-1-2.方法
検討項目は、診療録をもとに後方視的に収集した。発症時年齢、性別、肝移
植時罹病期間、発症からの生存期間、移植時栄養状態を評価した。栄養状態は、
低栄養による浮腫を考慮するため、mBMIを用いた(SuhretaL1994)。肝移植
群は、手術適応変遷の観点から、前期肝移植群と後期肝移植群に分類した。前
期肝移植群は、1990年から1995年までの病状進行を考慮しない32例の症例群
であり、低栄養を伴う進行例を手術するケースも含まれた。後期肝移植群は、
1996年以降に手術適応を栄養状態InBMI600以上とした後に肝移植を行った76例
の症例群とした。
発症時年齢が肝移植後予後に与える影響を検討するため、対象症例を高齢発
症(発症年齢50歳以上)、及び若年発症(発症年齢50歳未満)の2群に分類し
15
た。50歳を境とした分類は、FAPにおける肝移植の予後また本邦での非集積地
でのFAP症例の研究などで使用されている(Koikeeta1.2004,SuhretaL
2002)。また、性別が肝移植例における予後に与える影響もあわせて検討した。
発症から肝移植までの罹病期間は、7年未満と7年以上に分類し、肝移植例にお
ける予後に対する影響を検討した。FAPWorldTransplantRegister
(www・fapwtr・org)からの報告において、罹病期間7年未満と7年以上に分類
し、予後に与える影響を検討している(HerleniusetaL2004)。本研究でも同
様の罹病期間での検討を行った。
肝移植例の死亡原因を、手術関連の死亡とFAP関連の死亡に大別した。手術
関連の死亡は、肝移植後もしくは再移植術後6カ月以内の合併症による死亡と
定義した。FAP関連の死亡は、疾患自体の病状の悪化、それに伴う合併症による
死亡と定義した。
6-1-3.統計
両群間比較には、x2独立性の検定、Mann-Whitneyの検定を用いた。相関に関
しては、Spearmanの順位相関係数を用い解析した。生存解析は、Kaplan-Meier
生存分析、2群問の生存率曲線の差の検討には、Logrank検定を用いた。優位
確率は、0.05未満とした。本研究における生存率解析には、発症からの生存期
間を検討するため、術後期間ではなく罹病期間を用いた。
16
6-2.結果
6-2-1.患者群の比較
若年発症群と高齢発症群それぞれの臨床的特徴を表3に示す。高齢発症群の
肝移植時罹病期間は、若年発症群に比較して短かった。また、両群の、BMIは差
異を認められなかった。高齢発症群における男性の比率は、若年発症群と比較
し高くなっていた。
肝移植群108例中28例が経過中に死亡しており、11例は手術関連の死亡であ
った。内訳は、循環不全による術中死3例、術直後の心不全2例、敗血症・多
臓器不全5例、肺塞栓1例であった。15例はFAP関連の死亡であり、不整脈に
よると思われる突然死2例、末梢神経障害、心筋症の進行に伴う敗血症、心不
全による死亡2例、低栄養状態による病状の悪化に伴う感染症、心不全による
死亡9例であった。2例は、免疫抑制剤の関与も考えられる悪性腫瘍(白血病、
悪性黒色腫)で死亡した。肝移植後死亡例の発症時年齢(中央値51、範囲(33-65)
歳)は、生存例(中央値43、範囲(22-68)歳)と比較して高い傾向を示した
(p=0051)。
6-2-2.肝移植群と非移植群の生存曲線
肝移植群と非移植群を比較したKaplan-Meier曲線を図1に示す。肝移植群の
生存率は、非移植例と比較して明らかに改善していた(p<0.001,図1A)。肝移
植群の10年、15年生存率は、それぞれ83%および60%であったが、非移植群
においては、62%および19%であった。前期移植群32例中19例が死亡、後期
移植群の死亡例は、76例中9例のみであった(p=0.01)。若年発症群における肝
移植群の生存率は、若年発症の非移植群に比べ明らかに改善していたが
(p<0.001,図1B)、高齢発症群における肝移植群の生存率は、高齢発症の非移植
群と比較し有意な差がみられなかった(p=0.7,図1C)。
後期肝移植群と非移植群において生存率を比較検討した。後期肝移植群にお
いて、死亡例は高齢発症群のみに認められた。若年発症群において後期肝移植
群の生存率は、若年発症非移植群と比較し有意に高かったが(p=0.001,図2A)、
高齢発症群において、肝移植による生存率の改善は認められなかった(p=0.5、
図2B)。後期肝移植例の死亡数は9例と少なかったため、発症年齢、性別を独立
変数とする多変量解析は施行できなかった。
6-2-3.性別の肝移植後生存率に対する影響
性別の肝移植後生存率への影響を図3に示す。全例に対する検討では、性別
による生存率の差はみられなかった(図3A)。若年発症群の検討においては、性
別における生存率の差は認めなかったが(図3B)、高齢発症群の生存率は、男性
群においては、女性群より低かった(図3C)。高齢発症群における男性の年齢が、
17
女性より高い傾向にある可能性も考慮し検討を行った。しかし、高齢発症例の
発症時年齢は、男性(中央値60、範囲(50-68)歳)、女性(中央値56、範囲(50-64)
歳)で有意差は認められなかった(P=0.4)。
6-2-4.肝移植時罹病期間の影響
肝移植時罹病期間を7年未満の群と、7年以上の群に分け、生存率を検討した
(図4)。罹病期間で分けた2群において、明らかな生存率の差異はなかった。肝
移植時罹病期間が7年以上の群は14例のみであった。14例中8例は、前期肝移
植例であり、このうち7例が死亡していた。この死亡例7例はすべてInBMI600
未満の低栄養症例であった。肝移植時罹病期間が7年以上の群における、BMI(中
央値604.5、範囲(420-975))は、7年未満の群(中央値959.5、範囲(550-1401))
と比較し有意に低くなっていた(p〈0.001)。さらに、肝移植時罹病期間と、BMI
にも、有意な負の相関を認めた(r$=3.0、p=0.002)。
18
考察6-3.
今回の我々の検討では、スウェーデンの肝移植を受けたFAP患者の長期生存
率を非移植例と比較したところ、肝移植が生存率を改善させることを証明した。
これまでの検討と異なり、肝移植群の生存期間は中央値10年となり、十分な観
察となった。また、発症時年齢が50歳以上の高齢発症移植群は、高齢発症の非
移植群と比較し生存率の有意な改善を認めなかった。高齢発症群の生存率は、
男性群において女性群より低くなっていた。高齢発症男性症例は、肝移植の生
存率に対する予後不良因子となっている可能性がある。
肝移植開始当初の症例には適応を誤り予後不良であったケースも認められる
が、多くは短期生命予後及び機能予後が良好であり、また肝移植後異型TTRの
速やかな消失が認められたため、肝移植療法はFAPに対する病態抑制的な治療
として受け入れられ、世界各国に本治療が受け入れられている(HolmgrenetaL
1993)。そのため現在FAPに対する肝移植療法群と対照群を比較する前方視的な
無作為研究は非移植例が少なく、不可能となってきている。我々は、本研究に
おいて後方視的に肝移植群と非移植群との生存率の比較を行った。対照群の構
成が結果に影響を及ぼすことを考慮し、肝移植群と比べ、発症時年齢が高齢な
症例は対照群から除外した。対照とした非移植例は、これまで報告されている
肝移植を行っていない症例とほぼ同様の経過をたどっており、FAPの自然経過を
表していると思われる(AndoetaL2005,MonteiroetaZ、2004,Suhreta1.
1994)。
FAP患者に対し発症早期に、良好な栄養状態(InBMI≧600)の状態で肝移植を
行うと、非移植症例と比較して生存率が上昇することが示されている(SuhreZ
aL2005)。本報告において、InBMI≧600を条件とした手術適応での肝移植群(後
期肝移植群)と非移植群の生存率の違いを検討している。しかし、後期肝移植
群は、観察期間が中央値5年、範囲(1-9)年と短く、症例数も27例と少なか
ったため、後期肝移植群の生存率の上昇を前期肝移植群と比較して証明するこ
とができなかった。今回の後期肝移植群は、中央値9年、範囲(2-17)年経過
観察しており、症例数も76例と多数例での検討が可能となった。今回の報告に
おいて、栄養状態を考慮した後期肝移植群における生存率は、前期肝移植群、
非移植群と比較し、有意に上昇していることが明らかにされた。
FAPWorldTransplantRegister(www、fapwtr・org)からの報告によると、FAP
に対する肝移植の予後因子は、栄養状態(mBMI≧600)と移植時罹病期間(7年
未満)となっている。また、ATTRVal30Met型以外の変異は、ATTRVal30Met型
と比較して肝移植後の予後が不良であることが報告されている(Herleniuset
aL2004)。本原因は、非Val30Met型はFAPの生命予後に影響する心アミロイ
19
ドーシスを生じやすく、肝移植後も正常型TTRによる心アミロイドーシスが進
行しやすいためと考えられている(Liepnieks&Benson2007,YazakietaL
2000,YazakietaL2007)。
本研究において、移植時の罹病期間は、肝移植症例の生存率に影響を与えて
いなかった。同様の結果はParrillaら、及びAdamsらからも報告されている
(Adamseta1.2000,ParrillaetaL1997)。FAPにおいて、栄養状態と罹病
期間の間に負の相関があると報告されているが(SuhretaL2002)、今回の報
告でも同様に、7年以上経過した患者群の栄養状態は、7年未満の群より不良で
あった。しかし、罹病期間が長い症例でも、栄養状態が良好な場合、肝移植の
適応になる可能性がある。本研究において、移植時罹病期間が7年以上の症例
は14例であったが、14例中7例が前期移植群であり、BMIが600未満であった。
この7例は死亡しており、1例を除き全例が肝移植後2年以内に死亡していた。
しかし、残りの後期移植群7例は、InBMIが600以上であり生存している。
いくつかの他の報告と同様に、本研究においても高齢発症は予後規定因子と
なっていた(Suhreta1.2002,YamamotoetaL2007)。しかし、高齢発症肝
移植群の生存率が、非移植群とほぼ同様の結果であったことは特筆される。本
研究はスウェーデンのみの患者を対象としており、わが国の患者でも同様の結
果が得られるのかは現時点では不明であるが、本結果の原因に関しては、以下
の如くいくつかの要因が関連していると考えられる。
FAPにおいて、発症年齢が高くなるにつれ心筋肥厚の頻度が高くなることが知
られているが(SuhreZaL2006)、高齢発症群には、末梢神経障害などの他の
徴候に先行して心筋障害を初発症状とする例が-部存在すると推測される。肝
移植は、一般的に末梢神経障害が出現した後に施行されるが、高齢発症群では、
若年発症群と比較して心臓のアミロイド沈着による障害など肝移植時に病状が
より進行していた可能性も考えられる。発症時年齢が実際より高く考えられ、
罹病期間が短く評価されていた可能性も否定できない。これらの可能性が、高
齢発症肝移植例の生存率におけるバイアスとなった可能性がある。
本邦においては、非集積地の高齢発症FAPは、若年発症のFAPと比較して心
臓合併症の頻度が高いことが報告されている(KoikeetaL2004)。また、高齢
発症のFAPは、男性優位であり心筋障害を主病態とするSSAと共通点があるこ
とが指摘されている(WestermarketaL2003)。高齢発症のFAP症例において、
心筋障害の頻度が女性と比較して男性に多いとする結果がRapezziらから報告
されているが(Rapezzieta1.2008)、スウェーデンの高齢発症FAP肝移植例に
おいて、女’1生症例は、男性症例に比べ生存率が上昇していた。高齢発症女性症
例は、高齢発症男性と比較し心筋障害の頻度が低いため、生存率が高くなって
いる可能性が考えられる。
20
近年、スウェーデンATTRVal30Met症例のアミロイド沈着に2つの様式が
あることが報告されている。プロテアーゼなどで分解を受けていない全長のTTR
のみが沈着するパターンと、全長と断片化したTTRの両者が沈着するパターン
の2つである。両者における臨床的特徴との関連も研究されており、前者は若
年発症と、後者は高齢発症と心筋障害の頻度と関連があった(IhseetaL2008)。
高齢発症肝移植例の生存率低下に、このアミロイド沈着様式の違いが関連して
いる可能性も考えられる。
本研究において、通常発症型のFAPに対する肝移植は、生存率の改善に寄与
することが明らかとなった。しかし、高齢男性(50歳以上)の肝移植症例の生
存率は、非移植例と比較し有意差を認めなかった。今後、これらの症例におけ
る生命予後を規定する因子を検討していく必要がある。
21
7.総括
スウェーデンのFAP症例における肝移植の生存率に対する影響を検討した。
これまでの非移植例と栄養状態(mBMI≧600)を手術適応とした肝移植例の比
較研究では、肝移植例が少数で肝移植後観察期間が中央値5年と短期間であっ
たため統計学的有意差を認めなかった。本研究においては、中央値10年の観察
期間における長期生存率を調査することが可能となり、生存率の上昇を示すこ
とができた。高齢発症であること、特に高齢発症男性であることが予後不良因
子となっていた。今回検討したスウェーデンのFAP症例は、本邦における非集
積地の症例、弧発例、高齢発症例に相当する可能性がある。比較的若年発症の
多い日本では、スウェーデンと比較し、さらに生存率が良好である可能性もあ
る。心筋肥厚と年齢に相関があるとの報告があり、日本の症例も50歳代以降の
発症例においてどのように生存曲線が変化してくるか、心筋障害の頻度がどう
なるのかなど、慎重に経過をみていく必要がある。
22
8.参考文献
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31
9.図・表
表1アミロイドーシスの分類
病型 アミロイド蛋白 前駆体蛋白蔭I全身性アミロイドーシス
1.免疫グロブリン性アミロイドーシス
1)ALアミロイドーシス
2)AHアミロイドーシス
2.反応性AAアミロイドーシス
3.家族性アミロイドーシス
1)家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)I
2)家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)11
3)家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)Ⅲ
4)家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)1V
5)家族性地中海熱(FMF)
6)Muckle-Wells症候群
7)家族性アミロイドーシス
8)家族性腎アミロイドーシス
9)家族性腎アミロイドーシス
4.透析(Aβ2M)アミロイドーシス
5.老人性アミロイドーシス
Ⅱ限局性アミロイドーシス
1.脳アミロイドーシス
l)アルツハイマー型認知症(ダウン症)
2)脳血管アミロイドーシス
3)遺伝性アミロイド性脳出血(オランダ型)
4)遺伝性アミロイド性脳出血(アイスランド型)
5)遺伝性認知症(英国型/デンマーク型
6)クロイツフェルト・ヤコプ病
ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群
2.内分泌アミロイドーシス
1)甲状腺髄様癌
2)II型糖尿病・インスリノーマ
3)限局性心房性アミロイド
4)下垂体腺腫(プロラクチノーマ)
高齢者の下垂体
5)医原性
3.皮膚アミロイドーシス
4.角膜アミロイドーシス
5.限局性結節性アミロイドーシス
6.老人性大動脈中膜アミロイドーシス
7.Pindborg腫瘍アミロイドーシス
L鎖(川に)
IgG1(γ1)
アポSAALⅡA
AAA
トランスサイレチン
トランスサイレチン
ァポAI
ゲルソリン
ァポSAA
アポSAA
リゾチーム
フィプリノーゲンAα
アポAII
β2-ミクログロブリン
トランスサイレチン
ATTR
ATTR
AApoAI
Agel
AA
AA
Alys
AFibA
AApoAII
M2M
ATTR
β前駆蛋白質
β前駆蛋白質
β前駆蛋白質
シスタチンC
ABriPP/ADanPP
プリオン蛋白質
Aβ
Aβ
M
Acys
ABri/Adan
APrP
(プロ)カルシトニン
IAPP(アミリン)
心房ナトリウム利尿因子
プロラクチン
Acal
AIAPP
AANF
Apro
インスリン
ケラトエピテリン
ラクトフェリン
L鎖(川に)
ラクトアドヘリン
tbn
Ains
Aker
Alac
AL
AIned
Mtbn)
厚生労働省特定疾患調査研究班新分類一部改変
32
肝移植群非移植群 p
症例数(前期/後期')108(32/76)33
性別:男性/女性60/4816/170.5
発症時年齢:中央値(範囲),歳46(22-68)53(29-65)0.018
50歳以上症例数:(男性/女性)44(30/14)20(12/8)0.045
移植時罹病期間:3(0-12)
中央値(範囲),年
経過観察期間:中央値(範囲),年10(2-24)12(5-20)0.012
死亡数2832
'前期肝移植群:1990年から1995年、病状に関連なく手術を施行した症例群
後期肝移植群:1996年以降、InBMI600以上の症例を手術適応とした症例群
表2患者背景
若年発症(50歳未満)高齢発症(50歳以上) p
発症時年齢:
中央値(範囲),歳
移植時罹病期間:
中央値(範囲),年
経過観察期間:
中央値(範囲),年
、BMI:
中央値(範囲)
性別:男性/女性
36(22-49) 58(50-68)
3.5(0-12) 2.0(1-9) 0.02
11(2-24) 6.5(2-16) 〈0.001
901(420-1335) 948(563-1401) 0.14
30/34 30/14 0.03
表3肝移植例における若年発症と高齢発症の患者背景
33
全症例10~
」平】ごヱカ5首杁
歩・ロ『..’‐‐‐1‐F{I
64
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鶴仲判鰹畷
o肝移植例打ち切り
□非移植例打ち切り・丁
非移植例 p<0.0010訂
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・・1..L、
0.2=
n=33
00円
051015202S
若年発症
50歳未満
1.0円
04『!:.….].;‐‐「.
()(》一二【西》
・把一・
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餅仲矧漣鴎《U
非移植例Ln=13 i,p<0.001
●向
0.2-1
00-9
0510112025
I田’’’昭「1111齢IIIli飴1111副【『i111コ!
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I’00000
冊仲釧樫畷
高齢発症
50歳以上
移植例=44
p=0.74
 ̄。
1
0 5 1015
生存年数
20
図1肝移植群と非移植群のKaplan-Meier曲線
A:全肝移植群(、=108)と全非移植群(n=33)にA:全肝移植群(、=108)と全非移植群(n=33)における生存曲線。
B:若年発症における肝移植群(、=64)と非移植群(、=13)。C:高B:若年発症における肝移植群(、=64)と非移植群(、=13)。C:高齢発症におけ
る肝移植群(、=44)と非移植群(、=20)の生存曲線。生存年数:発症時からの
期間。
34
10弓
若年発症
50歳未満!…;若年発症
;…:後期移植例in=40L・…….、
!……、p<0.001
A
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若年発症;…サ8゙.…8
非移植例、=13;…~T---Ib---I5三一
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爵件判鰹畷
高齢発症
50歳以上齢発症
期移植例=36
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高齢発症
非移植例
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0
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……1…
20
生存年数
図2後期移植症例(n=76)と非移植例(、=33)のKaplan-Meier曲線A:若年発症における後期移植例(、=40)と非移植例(n=13)の生存曲線。B:高齢発症における後期移植例(n=36)と非移植例(、=20)の生存曲線。
35
全肝移植群10?
:….,…『:一……,…。.;…‐….、瓠.,『:…。...’。.…61....,...,lb『…。’0.0...i…’。.。….!.。。..》.;..。…令…GI……..。.…一一一一一一一一‐「.『一一一一(叩一
二二一{、》△包疽|一ロ
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o男性例打ち切り
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胤仲判鰹畷
若年発症群
50歳未満.■
p=0.33
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O
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3口Ⅱn〉《、〉nU《⑪〉〈U
冊仲判鰹畷
高齢発症群
50歳以上
-■・-.
1▲
ひC ロ・釦・ ̄:! 女性
、=14罰・岸 、囮
男'性 p=0.02、=30
V
O 5 1015
生存年数
20
図3性別の肝移植後生存率への影響
A:全肝移植群(、=108)。B:若年発症,
(、=44)。
若年発症肝移植群 (、=64)。C:高齢発症肝移植群
36
…ヨ1.,1.…,…,!:一一一一一)-,.!i,……‐...割魯1...i:!……1-「lil.….…1忽..『1.i1.,L (卯函叩》
0一三{|》》
《、、〉》《(叩印)》4
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掛仲紺樫畷
肝移植群
≧7年;--.0<7
,=l4
p=0.62□≧7-「~~--.--~.~T---.--…….-丁-.~.…. ̄…-..--『. ̄
10152025
年打ち切り
年打ち切りl
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0
『5
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生存年数
肝移植時罹病期間(7年以上)の肝移植後生存率への影響図4
37