世界の宇宙産業動向siaのレポートにおいて打上産業分野の売...

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工業会活動 6 1. 世界の宇宙産業売上高 世界の宇宙産業の売上高は、米国のスペー ス財団(Space Foundation)が発行している The Space Report」に報告されている。 Space Foundationのレポートでは、世界の宇 宙産業売上高は「商業宇宙活動」と「政府の 宇宙支出」で構成され、商業宇宙活動は「商 業宇宙製品およびサービス」と「商用インフ ラストラクチャーおよび関連産業」の2部門、 政府の宇宙支出は「米国政府宇宙予算」と「非 米国政府宇宙予算」の2部門から構成されて いる。 1 に、Space Foundation が報告している 2012年から2017年における世界の宇宙産業売 上高の推移を示す。2017年における世界の宇 宙産業売上高は3,835億ドルで、 2016年の3,290 億ドルと比べて17%増加した。 2. 商業市場における衛星産業の動向 (1)衛星産業の概要 世界の衛星産業の売上高に関しては、米国 の衛星産業協会(SIASatellite Industry Association)が「State of the Satellite Industry Report」でレポートしている(出典資料*2)。 これは、 SIA の委託で Bryce Space and Technology社(旧The Tauri Group)が調査を 行っているものである。 SIA のレポートでは、衛星産業の市場を 世界の宇宙産業動向 図1:世界の宇宙産業売上高の推移(出典資料*1) 2,857 3,025 3,300 3,229 3,290 3,835 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000 4,500 2012 2013 2014 2015 2016 2017 売上高 (億ドル) (年)

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Page 1: 世界の宇宙産業動向SIAのレポートにおいて打上産業分野の売 上高は、打上げが行われた年に集計される。図4に打上産業分野の売上高推移を示す。打

工業会活動

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1. 世界の宇宙産業売上高世界の宇宙産業の売上高は、米国のスペース財団(Space Foundation)が発行している「The Space Report」に報告されている。

Space Foundationのレポートでは、世界の宇宙産業売上高は「商業宇宙活動」と「政府の宇宙支出」で構成され、商業宇宙活動は「商業宇宙製品およびサービス」と「商用インフラストラクチャーおよび関連産業」の2部門、政府の宇宙支出は「米国政府宇宙予算」と「非米国政府宇宙予算」の2部門から構成されている。図1に、Space Foundationが報告している

2012年から2017年における世界の宇宙産業売

上高の推移を示す。2017年における世界の宇宙産業売上高は3,835億ドルで、2016年の3,290億ドルと比べて17%増加した。

2. 商業市場における衛星産業の動向(1)衛星産業の概要世界の衛星産業の売上高に関しては、米国の衛星産業協会(SIA: Satellite Industry Association)が「State of the Satellite Industry Report」でレポートしている(出典資料*2)。これは、S I Aの委託で B r y c e S p a c e a n d Technology社(旧The Tauri Group)が調査を行っているものである。

SIAのレポートでは、衛星産業の市場を

世界の宇宙産業動向

図1:世界の宇宙産業売上高の推移(出典資料*1)

2,857 3,025 3,300 3,229 3,290

3,835

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

4,500

2012 2013 2014 2015 2016 2017

売上

市場規模

(億ドル)

(年)

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図2:世界の衛星産業売上高と分野別内訳[2012年~2017年](出典資料*2)

①通信・放送等のサービスを提供する衛星サービス、②衛星製造、③ロケット製造および打上サービスからなる打上産業、④地球局、衛星通信・管制・電話設備、衛星携帯電話端末、衛星測位機器からなる地上機器の4分野に分類している。②の衛星製造売上高は、政府機関や大学で製造された衛星を除外しているが、民間企業によって製造された民生向けや政府向け衛星を含んでいる。③の打上産業売上高は、民間企業や政府が実施するペイロード打上サービスを含んでいるが国際宇宙ステーション(ISS: International Space Station)ミッションなどの打上は含まない。④の地上機器分野の衛星測位機器には、携帯端末の部品であるチップセット、航空機アビオニクスも含んでいる。①~④に含まれないのは、政府の宇宙支出や有人宇宙開発等がある。

図2に、2012年から2017年までの民生分野における、世界の衛星産業売上高と分野別内訳を示す。2017年の衛星産業売上高は、2016年から3%増加して2,686億ドルとなった。これは、世界の宇宙産業売上高3,479億ドル(出典資料*2)に対し77%を占めている。4分野の売上高(シェア)は、衛星サービスが1,287億ドル (47.9%)、衛星製造が 155億ドル (5.8%)、打上産業が46億ドル (1.7%)、地上機器が1,198億ドル (44.6%)である。

(2)衛星産業の分野別動向①衛星サービス分野表1に世界の衛星サービス分野における売上高の内訳を示す。2017年の総売上高は、前年比0.8%増の1,287億ドルだった。衛星テレビ放送、衛星ラジオ放送、衛星ブロードバンドで構成される一般消費者向け

衛星サービス衛星製造打上産業地上機器総売上高

2,092 2,309

2,466 2,548 2,605 2,686

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

売上

(億ドル)

(年)

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サービスは、衛星サービス分野の売上高に最も貢献した。衛星テレビ放送(DBS/DTH: Direct broadcast satellite/direct-to-home)の売上高は、衛星サービス分野総売上高の75%を占め、一般消費者向けサービス売上高の93%を占めている。

②衛星製造分野SIAのレポートにおいて衛星製造分野の売上高は、衛星が打上げられた年に集計される。図3に衛星製造分野の売上高推移を示す。衛星製造分野の2017年の売上高は、前年比で

12%増加し、155億ドルとなった。同レポートによれば、産業界において製造された衛星の打上数は、2016年の126機から大幅に増加し、2017年は345機である。ただし、CubeSat等の超小型衛星も含む機数のため、売上高と機数が比例するわけではない。

③打上産業分野SIAのレポートにおいて打上産業分野の売上高は、打上げが行われた年に集計される。図4に打上産業分野の売上高推移を示す。打上産業分野の2017年の売上高は、前年比で

表1:世界の衛星サービス分野における売上高の内訳[2012~2017年](出典資料*2)

(億ドル)

年 2012 2013 2014 2015 2016 2017年増加率 5% 5% 4% 4% 0.2% 0.8%

総売上高 1135 1186 1229 1274 1277 1287

一般消費者向サービス 933 981 1009 1043 1047 1047

  衛星テレビ放送 (DBS/DTH) 884 926 950 978 977 970  衛星ラジオ放送 (DARS) 34 38 42 46 50 54  衛星ブロードバンド 15 17 18 19 20 21

固定衛星通信サービス 164 164 171 179 174 179

移動体通信サービス 24 26 33 34 36 40

リモートセンシング 13 15 16 18 20 22

図3:衛星製造分野の売上高推移[2012年~2017年](出典資料*2)

82109 100 94 89 米国

88

64

48 60 6650

その他67

146157 159 160

139

総売上高155

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

売上高

(億ドル)

(年)

20 24 2418 22 米国

18

38 2938

36 33その他28

5854

5954 55

総売上高46

0

10

20

30

40

50

60

70

2012 2013 2014 2015 2016 2017

2012 2013 2014 2015 2016 2017

売上高

(億ドル)

(年)

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16%減少し、46億ドルとなった。2017年の商業打上回数は前年と同じ64回だった(中国やインドの政府系商業部門によるロケット打上げサービスを含み、ロケット自身の開発目的は含まない)。一層低コストなロケットの打上げが増えているとされている。米国は商業打上産業の売上高の39%と最大のシェアを持っている。

④地上機器分野地上機器分野の売上高は、衛星サービス分野に次いで2番目に大きい。図5に地上機器分野の売上高推移を示す。地上機器分野の売上高は2017年に5.6%増加し、1,198億ドルとなった。地上機器分野は、ネットワーク機器と民生機器(衛星テレビ、衛星ラジオ、衛星ブロー

図4:打上産業分野の売上高推移[2012年~2017年](出典資料*2)

82109 100 94 89 米国

88

64

48 60 6650

その他67

146157 159 160

139

総売上高155

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

売上高

(億ドル)

(年)

20 24 2418 22 米国

18

38 2938

36 33その他28

5854

5954 55

総売上高46

0

10

20

30

40

50

60

70

2012 2013 2014 2015 2016 2017

2012 2013 2014 2015 2016 2017

売上高

(億ドル)

(年)

(注)2017年の集計から衛星測位機器は民生機器に統合されるようになった。

図5:地上機器分野の売上高推移[2012年~2017年](出典資料*2)

128 156 179 183 民生機器185

民生機器1080

527668

746 781衛星測位機器

846

99

8893 96

ネットワーク機器103

ネットワーク機器118

754

9121018 1060

総売上高1134

総売上高1198

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

売上高

(億ドル)

(年)

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ドバンド機器、モバイル機器、衛星測位機器)で構成されている。SIAのレポートにおいて、ネットワーク機器にはゲートウェイ、ネットワークオペレーションセンター(NOCs: Network Operations Center)、衛星ニュースギャザリング(SNG: Satellite News Gathering)機器、フライアウェイアンテナ、超小型アパーチャターミナル(VSAT: Very Small Aperture Terminal)、航空機内Wi-Fi接続サービス機器が含まれる。衛星測位機器には、ナビゲーション端末、携帯端末の部品であるチップセット、交通情報システム、航空機アビオニクス、測量機器、船舶・鉄道分野が含まれる。なお、SIAでは2016年の集計まで、衛星測

位機器と民生機器を分離して集計していたが、2017年の集計(2018年版レポート)から、衛星測位機器は民生機器に統合されるようになった。

3. 世界の衛星製造実績世界の衛星製造実績については、公表されている衛星の打上実績をもとに一般社団法人 日本航空宇宙工業会(SJAC)で集計を行った*1。

2012年から2017年における6年間の国別衛星製造数を図6に示す。また、2017年の衛星製造実績に対する製造企業別機数を図7に示す。

2017年の衛星製造実績(2017年に打ち上げられたMicro-Satelliteクラス以上の衛星)は世界全体で150機となり、2016年に比べて42機増加した。2017年までの過去6年間の年平均衛星製造実績は119.5機である。欧州の衛星製造数は、2016年の17機から

2017年は61機と44機増加し、順位は米国、中国を抜いて1位となった。2017年に次世代通信衛星Iridium-NEXTが40機も打上げられた。これは、プライムメーカーであるTales Alenia Space社(フランス)の実績に分類した。

欧州

米国

中国

ロシア

日本

インド

その他

イスラエルTOTAL

020406080100120140160

衛星製造数

(機)

(年)

(注)上図の棒グラフは表の記載順に従い、左側から欧州、米国、中国、…、TOTALの衛星製造数を示している。

図6:国別衛星製造数[2012年~2017年] (SJAC調べ)

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ちなみに、Iridium-NEXTのインテグレーション組立及び試験はOrbital ATK社(米国)が実施している。米国の衛星製造数は、2016年の34機から

2017年は30機と4機減少し、順位は2位となった。中国の衛星製造数は、2016年の28機から2017年に29機と1機増加し、順位は3位となった。ロシアの衛星製造数は、2016年の7機から2017年は10機と3機増加し、順位は4位タイとなった。日本の衛星製造数は、2016年の6機から2017年は10機と4機増加し、順位は4位タイに上昇した。インドの衛星製造数は、2016年の8機から2017年は6機と2機減少し、順位は6位となった。

2017年の衛星製造実績に対する製造企業別機数1位は、フランスの衛星製造企業Thales Alenia Spaceの45機で、そのうち、次世代通

信衛星Iridium-NEXTが40機を占めている。2位は米国の衛星製造企業Space Systems Loral(SSL)の13機、3位は中国の国有企業である中国空間技術研究院(CAST:China Academy of Space Technology)の10機*2となっている。日本では、キヤノン電子株式会社と株式会社アストロスケールといった新興メーカーが、初めて衛星の打上げに挑戦した。ただし、アストロスケールの衛星を載せたロケット(ソユーズ2.1b)は、目標高度へ到達前にロストしたため、衛星の軌道投入は失敗したと見られている。キヤノン電子の衛星は軌道投入に成功し、実証試験も成功している。

*1  本章ではMicro-Satelliteクラス以上(10kg超でCubeSatを除く)の大きさの衛星を対象とした。第2章で出典としたSIAのレポートと

図7:2017年の衛星製造実績に対する製造企業別シェア (SJAC調べ)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

アメリカ地域

欧州

ロシアその他アジア/中東地域中国 日本

(機)

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は異なり、政府機関や大学で製造された衛星も含め、製造者に関わらず衛星の大きさで識別した。Nano-Satellite(10kg以下)やCubeSatに分類される超小型衛星も多数打ち上げられているが、売上高としては衛星産業全体の1%未満であり、本稿の趣旨に従い集計から除いた。近年、打上げ機数が増加しているCubeSatに関しては、第6章に分離して集計した。同様の理由により、電気的機能を有しないパッシブ衛星(レーダー校正用金属体や記念品など)も集計から除いた。惑星や月を周回する探査母船(orbiter)は衛星に含めるが、着陸船(lander)と探査車両(rover)は含めない。宇宙ステーションとその補給機、有人宇宙船も除いた。宇宙ステーションやロケット上段に据え付けて使用され、自力で周回する能力のない観測装置類も除いた。ロケットの打上げに失敗した衛星も製造実績としてカウントするが、打上げ前の事故で失われた衛星は含めない。

*2  中国の衛星製造メーカーとしてCASTが有名だが、ロケット製造メーカーの中国運載火箭技術研究院(CALT:China Academy of Launch Vehicle Technology)と上海市にある上海航天技術研究院(SAST:Shanghai Academy of Spaceflight Technology)と共に、国有企業である中国航天科技集団公司(CASC:China Aerospace Science and Technology Corporation)の傘下にある。CAST、CALT、SASTをCASCとしてまとめると13機となり、世界第2位タイとなる。

4. 世界のロケット打上実績世界のロケット打上実績に関しては、米国

連邦航空局の商業宇宙輸送オフィス(FAA/AST: The Federal Aviation Administration’s Office of Commercial Space Transportation)が

「The Annual Compendium of Commercial Space Transportation」を公表している(出典資料*3)。同レポートに基づく2012年から2017 年における6年間の国別ロケット打上実績を図8に、2017年打上げのロケット別内訳を図9に示す。米国、ロシア、中国、欧州、日本、インド、ニュージーランドは、2017年に合計90回の軌道打上げを行ない、そのうち33回は商業打上げ(米国・欧州・ロシア・ニュージーランド4ヶ国の民間企業がロケット打上げサービスを提供し、搭載されるペイロードにはISS補給機や軍事衛星も含む)だった。2016年は合計85回、うち商業打上げ22回だった。90回の打上げのうち5回は失敗だった(ソユーズ2.1b、PSLV-XL、長征5A、Electron、SS-520)。1回は部分的成功だった(長征3B)。以下は、2017年における世界の打上産業の要約である。

米国FAA/ASTは2017年に22回の打上げをライセンスした。これは、1998年以来の高水準である。

NASAは国際宇宙ステーションの商業補給サービス(CRS: Commerc ia l Resupply Services)を継続し、5回の補給ミッションを実施した。

SpaceX社は、17回の商業打上げを実施した。うち3回は国際宇宙ステーションのCRSプログラムだった。2017年3月、SpaceX社は初めて第1段ロケットの再利用に成功した。

2017年2月、インドのPSLV-XLは1回で104機の衛星を打上げることに成功した。

2017年5月、Rocket Lab社は、新しいロケットElectronのテスト打上げを初めて実施したが、成功しなかった。(翌年1月にElectron 2号機の打上げを実施し、3機の商業CubeSatの打上げに成功した。)

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  (注)上図の棒グラフは表の記載順に従い、左側から米国、ロシア、中国、…、TOTALの打上回数を示している。図8:国別ロケット打上回数[2012年~2017年](出典資料*3)

米国ロシア中国欧州日本インドその他イスラエル韓国多国籍TOTAL

010

20

30

40

50

60

70

80

90

100打上回数

(回)

(年)

図9:2017年打上のロケット別内訳(出典資料*3)

161 1

18

1 141

841 1

62 3 1 1

6 52 1 1 1

61 1 1 3 10

2468101214161820

打上回数

(回) 米国

日本 インド ニュージーランド

中国欧州ロシア

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5. 商業衛星打上の需要予測米国連邦航空局の商業宇宙輸送オフィス

(F A A/ A S T: T h e F e d e r a l A v i a t i o n Administration’s Office of Commercial Space Transportation)は、商業打上サービスに対する世界の需要予測を行っている(出典資料*3)。表2に、FAA/ASTによる2018年から10年

間の商業衛星及び商業打上の需要予測を示す。ここで対象とする商業衛星は、商業用途の通信衛星、観測衛星、宇宙輸送機、有人宇宙船、その他の商業衛星、ロケットのテストやデモンストレーションを含んでいる。通信

衛星は、静止軌道(GSO)衛星と非静止軌道(NGSO)衛星があり、その他は非静止軌道衛星に分類されている。図10に商業打上回数の2008年から2017年までの実績データと2018年から2027年までの予測を示す。

同レポートによれば、2018年から2027年までの10年間における商業打上回数の予測は年平均42.3回である。軌道別では、静止軌道の打上回数予測が年平均18.0回であり、非静止軌道(小型~大型ロケット)の打上回数予測が年平均24.3回である。

静止軌道衛星

非静止軌道衛星

3061 306.1

静止軌道(中型‐大型ロケット)

非静止軌道(中型‐大型ロケット)

非静止軌道(小型ロケット)

商業静止軌道衛星/非静止軌道衛星打上予測 (単位:機)

軌道別商業打上回数予測 (単位:回)

静止軌道打上実績

非静止軌道打上実績

0

10

20

30

40

50

60

打上回数

(回)

(年)

静止軌道打上予測

非静止軌道打上予測

図10:2017年までの商業打上実績とその後10年間の商業打上予測(出典資料*3)

表2:商業衛星及び商業打上ロケットの需要予測(出典資料*3)

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また、同期間における商業静止軌道衛星の市場予測は年平均21.5機である。同期間における商業非静止軌道衛星の市場予測では、10年間に衛星は2,846機で、打上回数(小型~大型ロケット)は243回である。この値には小型衛星の相乗り打上げを含んでいる。

6. 世界のCubeSat打上実績世界のCubeSatの打上実績については、公表されている衛星の打上実績をもとに一般社団法人 日本航空宇宙工業会(SJAC)で集計を行った。(ロケットの打上げに失敗したCubeSatも打上実績としてカウントする。)図 11にCubeSatの打上げ数推移を示す。

2017年には大学が製作したものも含めて288機のCubeSatが打上げられたが、2016年の82機から大幅に増加した。インドのロケットPSLV-XLが1回の打上げで101機のCubeSatを軌道投入したのを筆頭に、ソユーズ2.1bで67機、アトラスVで38機のCubeSatが一度に打上げられたことが寄与し、2017年のCubeSatの打上げ機数は2003年の集計開始以来、過去最

大規模となっている。しかし、2017年にはロケットの失敗により14機のCubeSatが一度に失われたことがあり、多くの小型衛星の相乗り打上げには、打上げ費用のコストダウン効果と引き換えに、一度に多くの衛星を失うリスクも伴う。

2017年に打上げられたCubeSat 288機中140機は米国Planet Labs社が製造・運用している。46機は米国Spire Global社が製造・運用している。52機は大学が製造したCubeSat*3だった。

*3  大学が製造したCubeSatには、大学、鉱業学校(Mines)、空軍士官学校、宇宙教室の中学生が製造したCubeSatを対象とした。従来、SJACでは大学等の教育機関が製造した衛星は産業的な役割が小さいという考え方により、民間や政府機関が製造した衛星と区別する形で集計を行ってきたが、近年になると、どちらにも分類できない事例が増えてきた。欧米においては、産学官がコンソーシアムを設立して、入門機としてCubeSat開発をスタートする事例も増えてきた。中国においては、国内の民間企業は大

図11:CubeSatの打上げ数推移 (SJAC調べ)

7 8 18 1023

81

132115

82

288

0

50

100

150

200

250

300

2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

打上機数

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学と共同開発という形態をとる場合が多く見受けられる。米国では、大学が国立研究所や空軍等と共同で衛星開発を行う場合がある。これらの例のように、教育機関以外の共同開発者が大きな役割を占めている事例では、大学が製造したCubeSatとはカウントしていない。

7. まとめ以下、世界の宇宙産業動向についての要約を示す。・ 商業宇宙活動と政府の宇宙支出で構成される世界の宇宙産業売上高は、2017年は前年比17%増加し、3,835億ドルとなった。

・ 衛星産業の売上高は2017年に前年比3%増加し、2,686億ドルとなった。これは、世界の宇宙産業売上高の77%を占めている。

・ 衛星産業を構成する4分野の2017年の売上高は、①衛星サービス分野で前年比0.8%増加、②衛星製造分野で12%増加、③打上産業分野で16%減少、④地上機器分野で5.6%増加した。

・ 衛星製造実績(2017年に打ち上げられたMicro-Satelliteクラス以上の衛星)は世界全体で150機だった。国別では欧州61機、米国30機、中国29機、ロシア10機、日本10機、インド6機だった。欧州については、2017年に次世代通信衛星Iridium-NEXTが40機も打上げられた。日本では、キヤノン電子株式会社と株式会社アストロスケールといった新興メーカーが、初めて衛星の打上げに挑戦した。

・ 2017年におけるロケット打上実績は、合計90回の軌道打上げを行ない、そのうち33回は商業打上げだった。国別では米国29機、

ロシア19機(うち失敗1)、中国18機(うち失敗1、部分的成功1)、欧州11機、日本7機(うち失敗1)、インド5機(うち失敗1)、ニュージーランド 1機(うち失敗 1)だった。SpaceX社は初めて第1段ロケットの再利用に成功した。インドのPSLV-XLは1回で104機の衛星を打上げることに成功した。Rocket Lab社は、新しいロケットElectronのテスト打上げを初めて実施したが、成功しなかった。

・ 2018年から2027年までの10年間における商業打上回数の予測は年平均42.3回である。軌道別では、静止軌道の打上回数予測が年平均18.0回であり、非静止軌道の打上回数予測が年平均24.3回である。また、同期間における商業静止軌道衛星の市場予測は年平均21.5機である。

・ 2017年には大学が製作したものも含めて288機のCubeSatが打上げられたが、2016年の82機から大幅に増加し、2003年の集計開始以来、過去最大規模となっている。

出典資料*1. Press Releases “Space Foundation Report

Reveals Global Space Economy at $383.5 Billion in 2017”, Space Foundation

https://www.spacefoundation.org/news/space-foundation-report-reveals-global-space-economy-3835-billion-2017

*2. “State of the Satellite Industry Report”, June 2018, SIA/Bryce Space and Technology

*3. “The Annual Compendium of Commercial Space Transportation”, January 2018, FAA AST

〔(一社)日本航空宇宙工業会 技術部部長 寺嶋 明尚〕