世界に目を向けよう - jica ·...

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― 76 ― 畠山暁子 21世紀は,地球温暖化をはじめ,人口の増加,食糧問題,エネルギー問題,経済のグローバル化 など,世界の人々と手を取り合って解決していかなければならない複雑な問題がたくさんある。こ れらの問題を解決するために,地球に暮らす全ての人々が,自分たちが生きる環境について少しず つ考えていく必要がある。学校教育においては,身近な人とのコミュニケーションと自他を認める ことのできる関係作りを学ぶこと,自分の思いや考えを表現できる力をつけること,さらに,異文 化に関心を持ち,理解しようとする態度を身に付けさせたいと考えている。 本校の生徒は,英語や外国の生活に興味を持っているものの,世界と自分たちの生活が結びつい ていることを意識して生活している生徒は多くないと思われる。例えば,目の前の物品や食材はどこ の国のどのような人によって作られたのか,その国はどのようなところで,人々はどんな生活をして いるのかなど,自分たちの生活の背景に存在する世界の国や人々の存在をあまり意識していない様子 である。また,外国での出来事を伝えるニュース報道を見ても,それらが自分たちの生活とどのよう に関わっているのかわからないためか,説明を加えられるまでほとんど興味を示さないことが多い。 このような生徒たちに,世界との結びつきなしでは私たちの生活は成り立たないことを気付かせ, 自分たちの生活や世界の人々の暮らしについて考えるきっかけになることを願い,授業を計画した。 今回は,担任をしている学級の道徳と,担当している国語の時間の中で,スリランカで見聞した ことを題材に実践を行った。道徳では,世界の国に目を向け,理解しようと努めること,一人ひと りが「現状をよりよく変えていく力」を持っているのだということを意識できるようになること, 特に「支援のあり方」について考えさせたいと考えた。また,国語では,思考したことを言語化し, 他人や社会と関わるために必要な,情報を読み取る力や自分の考えを発信していく力をつけること を目的に授業実践を行った。 教科 時数 テーマ ねらい 学習内容 道徳 1 「世界が応援団 ~届いたエール~」 海外と日本の関わりについて目を向 けさせるとともに,多くの人々の善 意や支えによって今の自分たちがあ ることに感謝すること。 感謝・報恩 2-(6) 東日本大震災直後の外国 からの援助状況を知るこ とにより,自分たちが多 くの国や人々に支えられ ていることを感じ取る。 実践の目的 授業の構成 世界に目を向けよう 畠山 暁子 一関市立桜町中学校 国語 教 科 道徳,国語 対 象 中学 2 年 40名(道徳) 中学 2 年117名(国語)

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Page 1: 世界に目を向けよう - JICA · なので,私も外国からボランティアに来ている人に負けないようにしたい。日本人も 日本のことだけじゃなく,世界にも協力していければいいと思った。

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畠山暁子

21世紀は,地球温暖化をはじめ,人口の増加,食糧問題,エネルギー問題,経済のグローバル化など,世界の人々と手を取り合って解決していかなければならない複雑な問題がたくさんある。これらの問題を解決するために,地球に暮らす全ての人々が,自分たちが生きる環境について少しずつ考えていく必要がある。学校教育においては,身近な人とのコミュニケーションと自他を認めることのできる関係作りを学ぶこと,自分の思いや考えを表現できる力をつけること,さらに,異文化に関心を持ち,理解しようとする態度を身に付けさせたいと考えている。本校の生徒は,英語や外国の生活に興味を持っているものの,世界と自分たちの生活が結びつい

ていることを意識して生活している生徒は多くないと思われる。例えば,目の前の物品や食材はどこの国のどのような人によって作られたのか,その国はどのようなところで,人々はどんな生活をしているのかなど,自分たちの生活の背景に存在する世界の国や人々の存在をあまり意識していない様子である。また,外国での出来事を伝えるニュース報道を見ても,それらが自分たちの生活とどのように関わっているのかわからないためか,説明を加えられるまでほとんど興味を示さないことが多い。このような生徒たちに,世界との結びつきなしでは私たちの生活は成り立たないことを気付かせ,

自分たちの生活や世界の人々の暮らしについて考えるきっかけになることを願い,授業を計画した。今回は,担任をしている学級の道徳と,担当している国語の時間の中で,スリランカで見聞したことを題材に実践を行った。道徳では,世界の国に目を向け,理解しようと努めること,一人ひとりが「現状をよりよく変えていく力」を持っているのだということを意識できるようになること,特に「支援のあり方」について考えさせたいと考えた。また,国語では,思考したことを言語化し,他人や社会と関わるために必要な,情報を読み取る力や自分の考えを発信していく力をつけることを目的に授業実践を行った。

教科 時数 テーマ ねらい 学習内容道徳 1 「世界が応援団

~届いたエール~」海外と日本の関わりについて目を向けさせるとともに,多くの人々の善意や支えによって今の自分たちがあることに感謝すること。感謝・報恩 2-(6)

東日本大震災直後の外国からの援助状況を知ることにより,自分たちが多くの国や人々に支えられていることを感じ取る。

Ⅰ 実践の目的

Ⅱ 授業の構成

世界に目を向けよう

畠山 暁子一関市立桜町中学校 国語

教 科 道徳,国語 対 象 中学 2年 40名(道徳)中学 2年117名(国語)

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畠山暁子

中 学 校

教科 時数 テーマ ねらい 学習内容道徳 1 援助のあり方につい

て①「スリランカとは?」

相手の立場に立った援助をするために,援助の対象について学ぶ。国際理解と平和・人類愛 4-(10)

援助対象国「スリランカ」について理解を深める。

道徳 1 援助のあり方について②「違いについて考えよう」

外国と自分たちの生活を比較することにより,自分たちの生活を見つめ直す。愛国心 4-(9)

スリランカと日本を比較して,違いを考える。

道徳 1 援助のあり方について③「援助のあり方について考えよう」

よりよい援助の方法について考える。国際理解と平和・人類愛 4-(10)

2 枚の写真から相手の立場に立った援助のあり方について考える。

国語 2 「マドゥーの地で」 文章の読み取りを通して国際協力について考えを深める。読むことC-イ

体験を通した筆者の「ボランティア」についての考え方を読み取る。

国語 2 意見文を書こう 自分の考えを文章にできるようにすること。書くことB-イ

「マドゥーの地で」の書き方を参考にし,意見文を書く。

生徒は,この授業を行う前に「わが愛はヒマラヤのふもとへ」(東京書籍道徳副読本「明日をひらく 2」)を通して,ネパールに尽くした岩村昇医師の生き方を学び,「世界の人々の幸福のためにわたしたちができることはどんなことか」をテーマにして話し合いを行っている。しかし,援助については,経済的に優位に立つ側が困っている人に一方的に金品などを与えることだと思っている生徒が少なくない。そこで今回は,世界の人々が「共に生きていく」ことの大切さを2011年12月に作成された外務省の広報パンフレット「世界が応援団 届いたエール…日本とともに!」を使った授業を行った。このパンフレットは,東日本大震災後に日本が世界の数多くの国・地域・人々からの見舞や激励,支援を受けた様子を紹介したものである。生徒たちは,東日本大震災の直後の数日間,電気や水道が使用できない不自由な生活を送った経験をしている。また,本校は岩手県南の内陸部に位置し,津波の被害の大きかった陸前高田や気仙沼等の沿岸部まで車で 1時間程度であり,昔から人の行き来が頻繁である。そのため,生徒の 6割が地震発生後の比較的早い時期に沿岸部の甚大な津波の被害の様子を見ており,中には祖父母や親戚を亡くした者もいる。また,東日本大震災から半年経った中学 1年の 9月には,学年全員で大船渡の公園整備と仮設住宅でのボランティア活動を行っている。この時,中学生による数時間のボランティア活動を指導・支援してくれたのが「ALL HANDS」という外国のNGO団体だった。活動後の交流の時,ボランティア活動に参加している外国人に生徒が,「どうして日本にボランティアに来ることにしたのですか」と質問したところ,「そこに困っている人がい

Ⅲ 授業の詳細

……………………………………………………………………………………………………………………────────────────────────────────────────────…………………………………………………………………………………………………………………… ①道徳「世界が応援団~届いたエール~」 

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るから」という答えが返ってきた。活動をしている人の中には,大学を休学したり会社を休職したりしてまで来日したという方もいて,困っている人に手を差しのべるために外国にまで来るという生き方に,生徒も教師も感銘を受けた。このような生徒たちなので,東日本大震災後に外国からさまざまな支援を受けたことは知っているものの,具体的に世界のどれくらいの国からどのような援助を受けたのかを知ることはなかった。この授業では,「世界が応援団 届いたエール…日本とともに!」を使って,東日本大震災後,日本が外国から受けた具体的な支援状況と世界の人々がどんな気持ちで日本を見守っているのかを知り,どのような関係を築いていくべきなのかを考えさせたいと思った。資料を見た生徒たちは,世界の大多数の国が日本に対して震災発生直後に援助を行ってくれた

こと,日本が世界中から注目されていたことに驚いていた。中には,名前を知らない国や日本より貧しいと思っていた国からの援助があることに興味を示し,その位置を確かめたり人口を調べ始めたりする生徒もいた。そして,日本が多くの国や人々に支えられていることに感じ入っていた。この学習では日本が世界から支えられていることを感じ,世界の人々と「共に生きていく」ことの大切さを学んだと思われる。

<授業後の感想>

・日本と外国の結びつきの強さを感じた

・震災の次の日からもう日本に援助に来てくれた国があってうれしかった。

・小さな国のためにわざわざ世界中から何億円分もの支援を受けられて,日本は恵まれ

ていると思った。日本が他の国に今まで支援していたからこそ,たくさんの援助が受

けられたんだと思った。

・(大船渡でボランティアしていた外国の方から聞いたことを紹介して)外国の人は,日

本に自費で来たそうで,ボランティアをするために仕事をやめて来た人も少なくなかっ

た。これを聞いて,世界の人達は,世界のことを大切にしていることがよくわかった。

なので,私も外国からボランティアに来ている人に負けないようにしたい。日本人も

日本のことだけじゃなく,世界にも協力していければいいと思った。

・困っている人や苦しんでいる人を直接助けることは難しいけれど,募金や古切手集め,

ペットボトルキャップなど,身近にあるものでも役に立てると思った。そして,協力

することで自分も助けてもらえる可能性が生まれると思った。

前時に,日本は外国に援助を行っていること,外国から多くの援助をしてもらっていることを学んだ生徒たちは,小さなことでもいいので自分たちもできることから誰かの役に立とうという思いを持った。そこで,今回を含めて 3時間は,スリランカを例にとって「援助のあり方」について考えさせたいと考えた。援助は,相手に合わせた内容でなければならない。つまり,相手の背景を知り,その国の実情を知ること,必要なことは何なのかを見極めることが大切である。本時をスリランカで援助を行うための事前学習として位置付けたい。

……………………………………………………………………………………………………………………────────────────────────────────────────────…………………………………………………………………………………………………………………… ②道徳「スリランカとは?」 

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中 学 校

授業の内容は,教師の作成した「スリランカ」に関するクイズ(資料 1)に解答しながらスリランカについて理解を深めるというものである。スリランカと日本は,島国であること,仏教国であることなど共通点が多い。しかし一方では,地形や気候など,異なることも少なくない。日頃は馴染みがない「アジアのもう一つの島国」の様子を知り,興味を持つような身近な内容を取り上げた。解答は,パワーポイントを用いてスリランカを紹介する形式で行い,歴史や社会,宗教的な背景について簡単に触れること,日本との関わりについて話すよう心掛けた。レクリエーションの感覚で進め,援助対象国「スリランカ」について学習することができた。

前回に引き続き援助対象国「スリランカ」について日本と比較しながら理解を深めさせる時間である。スリランカの人たちと自分たちの生活や社会を比較したカード(資料 2)から,スリランカを通して世界には異なる文化や社会があることを具体的に意識させるとともに,自国を見つめ直す機会にすることを目的とした。また,この時間では,スリランカは,約 4年前まで内戦状態にあったこと,特に北部ではいまだに戦後復興に課題があり,住民が帰還できていない状況が続いていること,内戦は民族紛争であったことを生徒に伝え,次時の予習とした。生徒は,紛争や戦争について全く想像できないので,研修で撮影した映像や写真を用いたが,現地の人々の暮らしを正確に伝えられたかは不安が残った。

学習活動 留意点導入5

学習の活動内容の確認

展開30 スリランカと日本の様々な違いが書かれているカードを見て,どんな違いがあるのかその背景を話し合う。1.指導者が作成したスリランカと日本の違いを書いたカードを, 1 グループ( 3 人)に 1枚配布する。2.選択したカードについてスリランカと日本の生活がどのように違うのかを中心に話し合う。「いいな」とか「嫌だ」とか「うらやましい」など,印象から入ってかまわないが,そのように思う根拠を述べる。3.疑問点も出し合う。4.グループ毎の発表と質疑応答

♢グループ学習・事実だけが書かれているカードについては,どのように思うか考えさせる。

・「いいな」とか「嫌だ」とかの印象から,なぜそのように考えるのか根拠をはっきりさせて意見を出し合うよう助言する。

・社会のしくみが異なる場合は,どんな違いがあるかを考えさせる。また,それぞれの生活にはどのような背景があるのかを考える。

・根拠を持った発表になるよう指導する。・聞き手を意識した発表になるように指導する。

まとめ15

3 .教師の補足説明とまとめ4.感想記入

・内戦の様子については,丁寧な補足説明が必要。

・「違い」についてのまとめ

……………………………………………………………………………………………………………………────────────────────────────────────────────…………………………………………………………………………………………………………………… ③道徳「違いについて考えよう」 

スリランカと日本の違いについて考えよう

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 ①や⑤⑩のように事実が書かれているだけのカードもあるが,④⑦⑨のように社会のしくみを理解し,何が違いを生じさせる問題なのかを深く考えることのできるよう準備した。①のようなものは外見の違いなので深く考えても仕方がない。しかし,それが差別の対象にされることがないか,もしされたらどんな気持ちになるかなどについても話し合ってもらった。④⑦⑨⑩⑪⑫については,写真やビデオを用いて補足を行った。生徒は, 2つの国の違いを興味深く感じ,様々な「違い」を実感したようである。人種や外見など自分の努力では変えることのできない違い,社会や宗教による違い,人為的な違い,人の力や努力によって変えることのできる違い等である。しかし,⑫の同じ国の中での言語や生活の大きな差については,理解はできるものの想像することが難しかったようである。今回は時間の確保が難しかったため,教師の補足説明で終えることにしたが,生徒から出された疑問点についてインターネット等で調べさせるとより深く学習できたと思われる。しかし,様々な「違い」を学習したことは,今後の学習や日常生活の場面で活用できると思った。

「援助のあり方」について考える時間である。スリランカは近年,経済成長率が 8%を上回り,近い将来「発展途上国」ではなくなるだろうと言われているそうである。事実,コロンボやキャンディの町の中は美しく,安心して暮らせるような状況が整っていた。しかし,北部には内戦の爪後が深く残り,クラスター爆弾の影響があったり地雷撤去がうまく進んでいなかったりして,住んでいた場所に戻ることすら難しい様子だった。それでも国連や各国政府等の援助機関,NGO団体は,山積する課題に向き合いながら,住民の再定住を早く進めたい政府と話し合いを繰り返して支援活動を展開していた。どのような援助が住民のためなのか。今回の授業で取り上げたことは,答えのない問いである。現地でお会いした村落復興援助専門家の税所さんは,援助の手がなくなった後でも,「援助を受けたスリランカの人が自分の力で生活を送れるように」と,段階を追った物資と技術の支援,人材の育成を行っていらした。そして,「『与えられる生活』を 3年続けたら依存することに慣れて,自立した生活は送れなくなってしまう」と話されていた。住民たちは,内戦によって自分たちの土地も生活も奪われたという不条理な現実を抱えながら生活を立て直し,元の生活に戻るために土地を耕して作付けをし,作物を実らせるまで,相当の努力が必要である。その一方で,支援する側は,どのように関わることが住民のためなのか。これを生徒に考えさせるためにはどのような手段が効果的か,その提示の仕方が今回の授業の大きな課題だった。結局, 2枚の写真を中心にしたフォトランゲージの手法で授業を展開した。

……………………………………………………………………………………………………………………────────────────────────────────────────────…………………………………………………………………………………………………………………… ④道徳「援助のあり方について考えよう」 

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畠山暁子

中 学 校

学習活動 留意点導入5

1 .前時にスリランカについて学習をしたことを想起し,スリランカ国が内戦を終え,復興に向かっていることを押さえる。2. 2枚の写真を提示し,それぞれの写真に写っている人物の特徴をとらえる。(個人)3.本時のめあての提示。

・ 2枚の写真を準備する。資料 3

展開30 1 .提示された 2枚の写真(写真①②)を比

較し,どんな特徴があるのかを隣の人と話し合わせる。( 2人~ 3人) 写真①少女と父親の写真 写真②少年たちが車の荷台に乗っている写真2.スリランカの内戦について説明する。3.写真③~⑧(キャプションなし)を出して,それぞれ何の写真なのかをグループ毎に自由に話し合わせる。(グル―プ学習)4.①②の写真の人たちは,どのような援助を受け,今どのような生活を送っているかグループで話し合って想像させる。彼らに必要な援助はどのようなことなのか話し合う。(グル―プ学習).5 .話し合った内容を200字程度にまとめさせる。(個人)7. 2~ 3人を指名して発表させる。

・写真を見て,服装,年齢,職業など読み取れることを話させる。

①畑を背景にした父娘。父の身体は筋肉隆々。

②10代と思われる少年がトラックの荷台に乗っている,西洋的な服装。

・内戦の発端,期間などを簡潔に説明。・写真の読み取りをきちんとさせる。・ 8枚の写真がどのように関連しているかについて考えさせる。

・写真の説明。

・なかなか書けない生徒は,すべての写真を関連付けなくともよい。できる範囲で良い。

まとめ15

8 .教師の補足説明と写真の説明。9.感想記入

・現地で聞いた専門家の話と,さらに写真やビデオを交え,支援のあり方について考えさせる。

授業の初めは,「援助を受けて生活するのは,働かなくてよいから楽」と話していた生徒がいた。しかし,周囲から「働かなかったら身体がなまってしまう」とか「時間が余って結構大変だと思う」などと話されているうちに「作物ができるかどうか不安だけど,作り方を教えてもらって自分で食べるものや財産を増やしていけるんだったら,作ってもいいかな」などと考えを変えていった。また,物資や募金を贈ることが援助だと思っていた生徒たちにとって,技術支援を行う援助も効果的であることを知った時間となった。さらに,この授業を通して生徒は,「働くこと」の喜びやがんばった分だけ成果が得られることのうれしさについても考えることができた。支援を考えることは,自分も相手も「自立」した関係を築くことであり,お互いに忍耐が必要であること

援助のあり方について考えよう。

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に気付くことができた授業であった。しかし,時間をかけてさらに「生きる」ということにまで発展させて考えることのできる題材だと思われた。生徒にとって①の人物の写真は力強く,それだけ印象に残るものとなっていた。

<授業後の感想>

・援助は,ただ与えればいいのではなくて,その人(与えられた人)が,自分の力で生

きていけるような援助をしないとダメだと思った。「自立」は,難しい。

・援助には,段階があると思う。与えるのは,初めの頃。東日本大震災でも送られてき

た物資が余っているのもあると聞いた。本当に欲しいものは何かということを知って

与えないと困っている人のためにならない。

・技術を教えるのは,教える方も教えられる方も大変。専門家の人はていねいに教えて

いてすごいと思った。

・前の時間の話も考えると,同じ国の中で格差を感じた。同じ国でこんなに違うのはな

ぜなのか,民族が違うと言葉も違うので,他の土地への移住も難しい。同じ国のなか

でもっと援助ができないのかと思った。

「マドゥーの地で」は,中学 2 年生の国語(光村図書平成18年~23年度使用)の教科書に掲載されていた文章である。筆者の貫戸朋子さんが「国境なき医師団の一員として,紛争地(スリランカ北西部・マドゥー)での過酷な任務を通して,ボランティアとは与えることではなく与えられることだと考えるようになり,些細なことに感動し,喜ぶ人間の素晴らしさを味わうことができた」という内容である。文章構成は次の三つの意味段落から構成されている。第一段落は「国境なき医師団の一員として筆者がスリランカで活動する様子」,第二段落では「紛争地での過酷なルールに従いながら懸命に生きようとする人々の姿」,第三段落では「現地の人々から求められることを通して学んだこと」である。ここでは,筆者が「国境なき医師団」に参加した理由と「マドゥー・キャンプ」での体験と体験を通した筆者の考えの変化を読み取ることができるように指導した。また,学習した後に,意見文を書くので,「実体験を事例とすることの効果」にも気付かせながら読み進めた。

前時までに,スリランカという地理的に遠い場所の生活や文化の違い,難民キャンプで活躍する海外ボランティアなど,その「驚きや悩みを読み取ること」で,世界に目を向け,自分とのかかわりを考えるきっかけにできたと思われる。今回は,今まで学習した内容をふまえて「意見文を書くこと」を主な活動とした。テーマは,自分たちの社会や生活を外国のそれらと比較して考えたことや,ボランティア体験を通して考えたことをまとめた「外国と日本との生活や文化の違い」「戦争と平和」「差別と区別」などとし,情報が足りないという生徒には,新聞やインターネットで情報を収集するよう指導した。また,自分の立場を述べる部分,根拠となる事実を示す部分,意見を述べる部分など,段落構成にも注意して書くよう指導した。

……………………………………………………………………………………………………………………────────────────────────────────────────────…………………………………………………………………………………………………………………… ⑤国語「マドゥーの地で」 

……………………………………………………………………………………………………………………────────────────────────────────────────────…………………………………………………………………………………………………………………… ⑥国語「意見文を書こう」 

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中 学 校

書き終えた後には,自分で推敲するほか,他の人にも読んでもらい,伝えたいことがよりよく伝わっているかを確認して提出させた。

・生徒はスリランカの文化や社会に触れ,自分たちの社会や生活について改めて考えることができた。実践後の短い感想には,「その国の国旗には深い意味があることがわかった」「病院にかかる費用がタダの国があることを初めて知った」「同じ仏教でも違うことを知った」「『ジライを踏む』って言うけど,地雷って本当にあるんだ…本当に踏んだら怖い…」「トイレでは紙を使わない!?欧米の人が和式のトイレに入れないという人の話を聞いて驚いた」と日本との比較をしたり,「世界の人のために自分には何ができるか考えたい」「実際に外国に行っていろいろな国の人の生活を知りたい」など,世界に興味を示したりするようになった。・日本以外の国に目を向け,便利で豊かな生活が享受できる裏側には,いろいろな国や人の存在があることを知らせることができた。・生徒の中には,外国の様子を知ることは,同時に自分たちの生活を考えることにつながるということに気付いた者が少なくない。教師が実際に見聞したことを交えて話しているので,短時間で単純に「おもしろい」から「深く知りたい」という気持ちを持つことができたようだ。・学んだことを実践しようと試みた生徒がでてきた。援助のあり方について学習した後,一人の生徒が,答えだけを写して宿題を提出しようとする友達に「自分でやらなきゃ本当の力にならないでしょ,教えてあげるから一緒にやろう」と一緒に学習することを提案する場面があった。身近なところに学びの成果が表れた一例である。・今回のテーマは,外国のことを考えながら自分たちの生活を客観的に見ることができる話し合いが多くできて良かった。

・紛争があった北部地域について伝えた内容は,偏見にならないよう,伝え方に十分な配慮を要する。・時間の確保がうまくいかず,扱う内容が浅くなってしまったことを反省している。生徒が興味や関心を示した事柄について,さらに議論したりインターネットで調べたりすると学びがより深まった。・今回のような実践を年間計画の中に組み入れて,さらに発展させると生徒の視野が広げられると思われる。また,今後は他教科と連携した授業実践を行えるようにしたい。・国語の教科指導の中で話し合いの仕方についての指導ができていると,道徳をはじめ様々な場面で活発な話し合い活動が展開できる。作文指導についても同様のことが言えるので,教科の表現活動について工夫し,機会をとらえて繰り返し指導していきたいと思った。そのためには,今回のような議論や思考が深まるような話題を提示していきたい。

Ⅳ 実践の成果

Ⅴ 課 題

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畠山暁子

関連する学習指導要領の内容と文言

【道徳】

第 2 内容

2 主として他の人との関わりに関すること

(6)多くの人々善意や支えにより,日々の生活や現在の自分があることに感謝し,それにこ

たえる。

4 主として集団や社会との関わりに関すること

(9)日本人としての自覚をもって国を愛し,国家の発展に努めるとともに,優れた伝統の継

承と新しい文化の創造に貢献する。

(10)世界の中の日本人としての自覚をもち,国際的視野に立って,世界の平和と人類の幸

福に貢献する。

【国語】

〔第 2学年〕

1 目標

(1)目的や場面に応じ,社会生活にかかわることなどについて立場や考えの違いをふまえて

話す能力,考えを比べながら聞く能力,相手の立場を尊重して話し合う能力を身につけさ

せるとともに,話したり聞いたりして考えをひろげようとする態度を育てる。

(2)目的や意図に応じ,社会生活にかかわることなどについて,構成を工夫してわかりやす

く書く能力を身に付けさせるとともに,文章を書いて考えを広げようとする態度を育て

る。

(3)目的や意図に応じ,文章の内容や表現の仕方に注意して読む能力,広い範囲から情報を

集め効果的に活用する能力を身に付けさせるとともに,読書を生活に役立てようとする態

度を育てる。

2 内容

B 書くこと

(1)イ 自分の立場および伝えたい事実や事柄を明確にして,文章の構成を工夫すること。

  ウ  事実や事柄,意見や心情が相手に効果的に伝わるように,説明や具体例を加えたり,

描写を工夫したりして書くこと。

C 読むこと

(1)イ  文章全体と部分との関係,例示や描写の効果,登場人物の言動の意味などを考え,

内容の理解に役立てること。

  エ  文章に表れているものの見方や考え方について,知識や体験と関連付けて自分の考

えをもつこと。

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畠山暁子

中 学 校

●出典・参考図書・外務省 広報パンフレット『世界が応援団 届いたエール…日本とともに!』

・国語 2 光村図書(平成18年~23年度版)

・文部科学省『中学校学習指導要領』

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畠山暁子

資料 1

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畠山暁子

中 学 校

資料 2

資料 3