不確実性への対応 - ey japanbrexit:不確実性への対応 1...
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1Brexit:不確実性への対応 1
英国国民は国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めました。これは極めて重大な決断であり、英国と欧州大陸の双方に大
きな影響をもたらすでしょう。英国政府とEUとの間で厳しい交渉が始まった後に2回目の国民投票が行われる可能性も完
全には否定できませんが、企業は、英国が今後3年以内にEUを完全に離脱するとの仮定に則って、戦略、ビジネス、業務モ
デルの見直しを始めるべきです。
現時点では、国民投票の結果によって、EUとの正式な関係に変更は生じていません。つまり、英国は依然としてEUの一員であって、英国が実際にEUを離脱するそのときまでは、EUの法律と条約に縛られているのです。しかし、実際には多くの変
更が生じる可能性があり、英国政府とEUの間で交渉が行われる2~3年間は不確実な状態が続くと見られます。我々は既に
この時期に入っているのです。
企業が主に懸念しているのは、市場ボラティリティに関すること、
景気へのショック、そして離脱決定に伴う規制や法律面での不
確実性についてです。英国はEUから、どの程度速やかに離脱できるのか。英国とEUとの間、そして英国と域外諸国との間で結ばれる新しい貿易関係はどのようなものになるのか。ビジ
ネスの面で適時適切に対応できるよう、企業はこうした情報を
必要としています。
序文
企業はそれぞれのケースで、ビジネスを再構築することや、
必要に応じて英国またはEUに新しい子会社を設立すること、またそのための新しい許認可の取得などについて考える必要
があります。現に多くの企業は投票結果により生じた機会を
掴み、最優先に取り組むべき行動を検討し始めています。
本稿では、英国のEU離脱が与える影響とリスクを評価するための認識枠組みとチェックリストを掲載しています。EYは、本稿で提示した基本的な枠組みに基づき、欧州に進出して
いる日系企業との積極的な対話を通じて、課題解決に向けた
支援を実施していきます。
リスボン条約(2009年)第50条
1. 全ての加盟国は、自国の憲法が定める要件に従い、EUからの離脱を決定することができる。
2. 離脱を決定した加盟国は、離脱の意思を欧州理事会に通知する。EUは、欧州理事会が定める指針を踏まえて、当該国と交渉し、当該国とEUとの将来の関係の枠組みを考慮して、当該国の離脱に関する取決めを定める協定を締結
する。当該協定は、EUの機能に関する条約の第218条(3)に従って交渉されなければならない。当該協定は、欧州議
会の同意を得た後、EUを代表して理事会がその特別多数決に基づき締結する。
3. 離脱協定の効力発生日、または離脱協定が締結されなかった場合は第2項に規定された通知から2年後に、諸条約は当該国への適用の効力を失う。但し、欧州理事会が当該国
との合意に基づき満場一致で期間の延長を決定した場合
はその限りではない。
4. 第2項および第3項において、脱退する加盟国を代表する欧州理事会または理事会の構成員は、これに関する欧州理事
会または理事会の議論および決定に加わらないものとする。
2 � �����:不確実性への対応
国民投票の結果
EU加盟継続の是非に関する英国の国民投票が2016年6月23日(木)に実施され、翌朝、「離脱」の結果が宣言されました。この国民投票は、英国が政治、経済、さらには金融における不安定な時期を経て、実施されました。そのため、「離脱」という結果は、短期的、お
よび中期的に様々な政治シナリオの展開を引き起こすでしょう。そして、企業や金融機関は、いずれのシナリオにおいても程度の差はあ
れ、様々な不安定さに直面すると考えられます。
英国のEU離脱によって、今後の様々な短中期の政治シナリオを考慮することが必要です。本稿ではそれらを掲載します。
EUからの離脱プロセス
3Brexit:不確実性への対応
英国国民がEUからの離脱を選択したことにより、英国政府はEUからの法的な離脱について次のような選択肢を検討する必要があ
ります。
リスボン条約第50条の下での交渉による離脱
► 英国政府はEUに対して、離脱意思の通知を直ちに行うと述べていました。この通知後の2年間に離脱の条件が交渉されます。離脱の決定には他の加盟国の同意を必要としません。
他の加盟国は離脱の阻止、または2年を超えて離脱を遅らせることはできません。
► EUの諸条約は、離脱協定の発効時、または新協定が締結されない場合は通知の2年後に、英国への適用が停止されます(但し、交渉期間を延長する相互合意がある場合はその限り
ではありません)。
離脱前の交渉
► 英国政府は、EU離脱の正式な通知を行わないまま、国民投票の結果をもって、EUからの離脱交渉を実質的に開始するかもしれません。その後、英国政府はEUとの交渉を経て離脱協定の大筋について合意を得た後に、第
50条を発効するかもしれません。交渉内容を巡って2回目の国民投票を要求する声が高まる可能性もあります。
この2つのシナリオでは共に、英国が2017年後半に欧州理事会の議長国に就く予定であるという事実によって、交渉が複雑化する可
能性があります。欧州理事国議長国は法律やEUの外交政策を策定する責任を負うため、英国の議長国就任は認められない可能性
が高いと考えられます。
一方的離脱
► 英国には国内法である1972年欧州共同体法を破棄するという選択肢が存在します。この法律は英国内における
EU法の優位に議会が同意し、英国とEUの関係の枠組みを承認したものです。同法の破棄という事態になれば、
法的に不安定な期間が出現しかねません。また、この選
択肢の場合にはほぼ確実に、40年にわたる英国のEU加盟から生じた諸法律の無効や改正、あるいは保持を行
うために新たな暫定措置法の成立が必要になります。
さらに留意すべき点を挙げると、英国は離脱完了までは正式かつ
法的なEUの加盟国であり続けるものの、「離脱」を決めた国民投票から実際の正式離脱までの期間に可決されるEUの法律の真の適用性ついては解釈が分かれています。
4 Brexit:不確実性への対応
要約
► 国民投票の結果を受けて、企業は従業員、顧客、世間一般に
発信すべきメッセージを取りまとめる必要があります。
► EUとの詳細な交渉の後に2回目の国民投票が実施される可能性は、完全には排除できません。
► 英国政府は、幅広い有権者層からの要求に耳を傾ける必要があるため金融機関などの特定業界に対する規制緩和を優先的
に実施していくことが非常に難しくなります。
► 企業は、政治、法律、規制面での不確実性を含む、外部要素が
業務プロセスや組織構造などの内的要素に与える影響を考慮
する必要があります。
► その結果、英国やEUにおける事業再編やそのために必要な許認可の取得などを考える必要があります。
英国の国民投票により離脱が決定したことで、時間軸の異なる2つのシナリオへの対処が必要です。
► 短期シナリオ
英国と他のEU諸国(Rest of the EU(ROE))との関係が将来どのようになるかについての不確実性が、経済に与える短期的なインパクト
► 長期シナリオ
英国とROE、そして英国と世界の他地域との長期的な貿易関係や政治関係が与えるインパクト
5� �����:不確実性への対応
国民投票の結果、何が起こり得るのか
起こり得るシナリオ
長期シナリオ*
欧州経済領域
• 単一市場へのアクセスは現在と同じ• その他のEU貿易協定へのアクセスは不確定
• 労働力の移動の自由は変わらず• 農業/漁業分野では適用免除条項の可能性
• その他はEU規制に準拠• 予算への拠出金は現在の50~70%• 経済への悪影響、2030年のGDPは
3.8%減
• 交渉による貿易協定でより恩恵を受けそうなのは、サービスよりもモノ
• 特定分野で適用免除条項を適用• 規制面では自由度が拡大• 労働力の移動に対するコントロールの拡大
• 一定の予算拠出が必要だが現在よりは少ない
• 経済への悪影響、2030年のGDPは6.2%減
• WTO規則への依存• 輸出品に関税、英国は輸入品への課税を免除する可能性
• 通関と商品・サービスに非課税障壁が存在
• EU規則に基づく規制からの自由• 労働力の移動に対する完全なコントロール
• 経済への悪影響、2030年のGDPは7.7%減
二国間貿易協定
世界貿易機関
現状に最も近いが、労働力の移動の自由に関する要件が入っているため実現可能性は疑わしい
現在の貿易協定の主要部分を維持できる可能性が高いが、規制と労働力の移動の自由に関してはさらなる交渉が必要とされる
貿易協定としては条件がかなり悪いものの、規制、政策、移民に関する自由裁量が得られる
短期シナリオは長期シナリオのあり方によって変わります。貿易協定の射程が狭いほど経済に与え得る悪影響は大きくなる可能性が高いと考えられます。
英国財務省が開発したシナリオとモデルは、潜在的な影響の性質と規模を特定するために詳細な根拠を提供します。
注*: 貿易協定に関する3つのシナリオは英国財務省の公表資料(“HM Treasury analysis: the long-term economic impact of EU membership and the alternatives,” 2016.4.18)に基づく
6 Brexit:不確実性への対応
最初のステップは、複数のシナリオそれぞれがビジネスに及ぼす潜在的な影響の評価を、量と質の両面から行うことです。そのために、各シナリオのドライバーが引き起こすと予想される影響について考察します。
潜在的な影響の評価
シナリオ分析
ビジネスモデル、計画
売上
影響度の調査
財務
企業全体の問題規制、税務会計、法律等
業務
顧客、市場、地域
為替、金利、資金調達、税金
サプライチェーン、人事、投入原価、物流
リスクマネジメント • 発見
• 防御
• 対応
重要なのは、リスクマネジメント計画があらゆる事態を想定した実践的なものであることと、ショックに対応するためのプロセスを備えていること
-8.0
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2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
Baseline Downside BreakupGreek exit Upside
Eurozone: GDP growth% year
Source : Oxford Economics
Forecast
シナリオ・ドライバー
► 貿易協定--モノとサービス、輸出と輸入、関税と非関税障壁
► 規制--商品とサービス、一般的
規制
► 労働者の移動規制--技能労働者
と非技能労働者、他のEU諸国および世界の他地域
► 政府の方針
7Brexit:不確実性への対応
最初に検討すべきは財務基盤に与える影響です。この検討を基に、業務上の影響、会計や税務の問題および事業継続計画の展開といった業務上の詳細な評価を構築することができます。
影響度の調査 - チェックリスト
会計 税務 リスク、利害関係者 「攻め」の機会
ステップ1:安定した財務基盤の確保
ステップ2:主要な業務上の影響を評価
ステップ3:会計と税金 ステップ4:リスク、利害関係者、「攻め」の機会
財務
• キャッシュフローと流動性• 運転資本• 今後の資金調達の検討• 返済期限の延長 • 銀行との関係
• 通貨ヘッジ• 設備投資時期の見直し• 約款• 研究開発助成金
• 交渉期間である2年間、 安定したビジネス運営を 確保するための資金調達
顧客 取引・通関 仕入業者/販売業者
労働力 商品/ サービス
• 顧客ビジネスの 見通し• 契約• 取引量の見直し• EC契約の見直し• 未履行の入札
• 資産評価/減損• 開示と感度解析• 継続企業 (going concern)• 規制当局への報告• ヘッジ会計
• 通貨のボラティリティ と外為• 税務オペレーティング モデルと移転価格• 組織再編 / 資産移動の機会• 長期的な税務政策の 影響
• リスクマネジメント• 早期の警告• 影響評価• 利害関係者との コミュニケーション• 企業倫理• ロビー活動
• 国内の競合企業を 統合する能力• 世界の他地域との 新貿易協定から価値を 勝ち取る余地• 業績が悪化した市場 退出企業から利益を 享受する可能性
• 輸出入の 数量• 関税• 非関税障壁 • 今後の熟練雇用• 通関のプロセス
• 契約状況• 広範なサプライ チェーン• 為替レート • アウトソーシング 契約• 販売業者との関係
• 従業員の雇用形態• 技能労働者の 新規雇用• 非技能労働者の 新規雇用• アウトソーシング 契約
• 現行商品に対する 規制の変更による 影響• 将来の新製品開発 契約
8 Brexit:不確実性への対応
蓋然性と影響度に基づき、リスクマネジメントの優先順位付けを行います。これは、シナリオ毎に行うべきです。
影響度の調査:リスクマネジメントの実例
防御
反応
EUからの研究開発助成金の喪失
輸入品への非課税により競争が激化
英国の金利が大幅に上昇
メインバンクが英国から移転
EU向け輸出品への関税
技能労働者が不足
通関プロセスが官僚的でコストがかかる
顧客が新契約の締結に難色を示す
蓋然性が高い
蓋然性が低い
ビジネスへの影響小 ビジネスへの影響大
シナリオ:世界貿易機関のケース
英国政府の補助が拡大
9Brexit:不確実性への対応
������������チームリーダー
Andrew Cowell
エグゼクティブディレクター マーケッツ
Tel: 03 3503 3435 Email: [email protected]
規制
Gary Stanton
エグゼクティブディレクター Financial Services
Tel: 03 3503 1954 Email: [email protected]
税務
Joachim Stobbs
パートナー ITS
Tel: 03 3506 2670 Email: [email protected]
大平 洋一
パートナー Indirect Tax
Tel: 03 3506 2678 Email: [email protected]
アドバイザリー
岩本 昌悟
パートナー トランザクション
Tel: 03 4582 6636 Email: [email protected]
法務
大川 淳子
エグゼクティブディレクター
Tel: 03 3509 1661 Email: [email protected]
お問い合せ先 Tel: 03 3503 1593(担当:木村 淳悟) E-mail: [email protected]
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