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eizojoho industrial 10 October 2014 当社は、プリズムによる分光を用いた400nmから1,600nmの特殊波長カメラならびに専 用レンズの製造販売を行っている。本稿では、900 〜 2,500nmであるSWIR波長帯域(短 波赤外線)を用いた画像検査を紹介する。 短波近赤外(SWIR)波長帯域における 画像応用 株式会社ブルービジョン SWIR(Short Wave Infra-Red)帯域とは、1,000 〜2,500nmの帯域を指す。可視域は、400〜750nm であり、NIR(近赤外:Near Infra-Red)域は、750 〜1,000nmである(図1)。 Photonがもっているエネルギーと波長の関係は 図2 である。 波長(nm) = 1,240 / Photonのエネルギー(eV) ・・・(1) 1. SWIR とは 2. 波長とエネルギーの関係 図 1 可視域と SWIR 帯域 図 2 Photon のエネルギーと波長の関係

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Page 1: 短波近赤外(SWIR)波長帯域における 画像応用...10︱October 2014 eizojoho industrial Pick-upプロダクツ 当社は、プリズムによる分光を用いた400nmから1,600nmの特殊波長カメラならびに専

eizojoho industrial10︱October 2014

Pick-upプロダクツ

 当社は、プリズムによる分光を用いた400nmから1,600nmの特殊波長カメラならびに専用レンズの製造販売を行っている。本稿では、900 〜 2,500nmであるSWIR波長帯域(短波赤外線)を用いた画像検査を紹介する。

短波近赤外(SWIR)波長帯域における画像応用

株式会社ブルービジョン

 SWIR(Short Wave Infra-Red)帯域とは、1,000〜2,500nmの帯域を指す。可視域は、400〜750nmであり、NIR(近赤外:Near Infra-Red)域は、750〜1,000nmである(図1)。

 Photonがもっているエネルギーと波長の関係は図2である。 波長(nm) = 1,240 / Photonのエネルギー(eV) ・・・(1)

1. SWIR とは 2. 波長とエネルギーの関係

図1 可視域とSWIR帯域

図2 Photonのエネルギーと波長の関係

Page 2: 短波近赤外(SWIR)波長帯域における 画像応用...10︱October 2014 eizojoho industrial Pick-upプロダクツ 当社は、プリズムによる分光を用いた400nmから1,600nmの特殊波長カメラならびに専

eizojoho industrial 11October 2014︱

株式会社ブルービジョン

2.1 参考 光子(こうし、photon)は、光を粒子として扱う場合の呼び名である。電磁相互作用を媒介するゲージ粒子であり、素粒子物理学においては記号 γ(ガンマ線に由来する)、光科学においては記号 hν(後述する光子のもつエネルギーを表す式から来ている)で表されることが多い。Photon1個がもつエネルギーEは、以下の式で示すことができる。  E=hν=hc/λ ・・・(2)   h :プランクの定数   ν :振動数で、単位は(1/s)=(Hz)   c :光速3×108(m/s)   λ :光の波長 (m) 素粒子を扱う物理学では、エネルギーを表すとき「電子ボルト」の単位を使用し、(eV)を使用する。1Vの電位差がある自由空間内で電子1個が得るエネルギーが1

(eV)である。ジュールに換算すると、以下の式で示すことができる。   1(eV) ≒ 1.602 × 10-19 (J) この単位系でプランク定数を表すと、以下のとおりである。   h ≒ 6.626×10-34(Js)

≒ 4.136×10-15(eVs)  こ れ を(2)に 代 入 す る と、 波 長1,240nm の 光 が も つ エ ネ ル ギ ー は 1(eV)になる。

 900〜2,500nmの広帯域をカバーするSWIRセンサの製造は困難である。そのような広帯域の光電変換ができる光電変換材料がないからである。図3は、弊社のBV-C3100に使用されているSWIRセンサの分光特性である。本SWIRセンサは、浜松ホトニクス製G11135センサを使用している。光電変換材料はInGaAsでありIndium(イン

ジウム)、Gallium(ガリウム)、Arsenide(ひそ)の化合物を使用している。可視光用のセンサはシリコンフォトダイオードが使用され、1種類の元素である。本センサのバンドギャップエネルギーは、常温で0.73eVである。したがってカットオフ波長は、(1)式より、以下のとおりである。 波長(nm) = 1,240/Photonのエネルギー(eV) = 1,240/0.73 = 1,700nm 図4は、シリコンフォトダイオードを使用した一般的な分光特性であり、可視光帯域に分光感度をもっている。シリコンのバンドギャップエネルギーは、1.2eVである。したがってカットオフ波長は、(1)式より、以下のとおりである。

3. SWIR センサと分光特性

図3 SWIRセンサの分光特性(BV-C3100)

図4 可視光センサの分光特性例(BV-C3350)

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Pick-upプロダクツ

 波長(nm) = 1,240/Photonのエネルギー(eV) = 1,240/1.2 = 1,033nm このように光電変換の材料によって、分光特性に違いがある。 当社では、2,500nmまで帯域を伸ばしたSWIRセンサG9208を使用したラインスキャンカメラも計画中である。図5は、G9208センサの分光特性である。本センサは、InGaAsの混合比を変えることによりバンドギャップエネルギーを変え、カットオフ波長を伸ばしている。

 図6は、針葉樹(Conifers)、広葉樹(Broadleaf)、芝生(Grass)等のSWIR波長帯における反射率を示している。多くの物体が1,450nm付近にて反射率が落ちている。これは物体のもっている水分の影響である。水(Water)は、SWIR帯域を吸収する特性をもっている。図7は、被写体の水分を撮像したときの特徴的な画像である。水は可視光においては透過率が高いのでコップの底面を撮像しているが、SWIR光は吸収するので、SWIRカメ

4. 先行研究

図5 G9208の分光特性

図6 物体と水分(文献2より引用)

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eizojoho industrial 13October 2014︱

株式会社ブルービジョン

ラで撮像すると暗い画面になる。 図8は、全フッ素化ポリイミドと部分フッ素化ポリイミドの分光特性である。部分フッ素化ポ リ イ ミ ド が、1,120nm と1,400nmにおいて大きな光吸収特性をもっていることが測定できる。 図9は、緑葉の太陽光に対する反射の度合いを示している。1,450nmのSWIR帯域において大きな吸収がある。

図8 ポリイミドの分光特性(文献3より引用)

図9 �緑葉の反射スペクトル(文献4より引用)�大気の水吸収:970nm、1,190nm、1,450nm、1,940nm

図7 水の入ったコップと空のコップ

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Pick-upプロダクツ

 表1は、512画素SWIRラインスキャンセンサカメラBV-C3100の仕様であり、写真1は、その外観である。被写体からの入射光は、画素サイズ25μm、512画素のSWIR光用ラインセンサに結像し、電気信号に変換される。それぞれの信号はA/D変換され、DSNU補正、PRNU補正、シェーディング補正、Gain制御、露光制御、黒レベル制御等がされたのちカメラリンク信号として出力する。 当社ではSWIRラインスキャンカメラのラインナップ強化に加え、さらにエリアセンサを使用したカメラも企画検討中でSWIR領域での非破壊検

査の幅広いニーズに対応するつもりである。その概要は表2のとおりである。

 当社では、プリズムを使用したラインセンサカメラに適合したレンズを供給している。広範囲な被写体の大きさに対応するため可視光用として焦点距離20mmから105mmまでの6機種を製品化している(図10)。また、SWIR光に対応したレンズとして焦点距離28mmから50mmのM52マウントレンズを準備している。M52マウントはスクリューマウント方式を採用しているので、レンズとカメ

5. 製品仕様

6. プリズム使用カメラに特化した SWIR 用レンズのラインナップ

写真1 BV-C3100外観

表1 SWIRラインスキャンカメラ「BV-C3100」製品仕様

項 目 仕 様 ラインセンサ 0.5Kラインセンサ光学系 ビームスプリッタ(F�2.8)ピクセルサイズ 25μm×25μm,�512�pixels��波長帯域 900nm~1,600nm  

感度 SWIR光:量子効率75%、1,500nm時

S/N 52dB以上入力 外部トリガ(ランダムトリガ)

出力 CameraLink�8/10bit��Base�configuration�1系統

同期 内部同期、外部トリガ

入力電圧 DC12VVV

サイズ(W×D×H)95mm×95mm×95mmレンズマウント M52�mount��

表2 VGA�SWIRエリアセンサカメラ製品仕様

項 目 仕 様 

撮像素子 有効画素数:640H×512V画素サイズ:20μm×20μm

フレームレート 露光時間�1クロック時:62fps露光時間�16msec時:31fps

シャッタ グローバルシャッタ方式波長帯域 900nm~1,680nm

感度 SWIR光:量子効率80%、1,600nm時

S/N 52dB以上補正 PRNU補正、DSNU補正、欠陥補正

出力 CameraLink�8/10bit Base�configuration�1系統

同期 内部同期冷却 センサにペルチェ内臓

入力電圧 DC12VVV

サイズ(W×D×H)58mm×58mm×105mmレンズマウント C-mount

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eizojoho industrial 15October 2014︱

株式会社ブルービジョン

ラ間にスペーサを使用することにより最短撮影距離を短くすることができる(注意:ただし、ディストーション、色収差が変化するので実際に使用の

場合は、事前に性能確認が必要である)。 図11は、SWIR光用に特殊コーティングを施したレンズの分光特性である。

図10 製品群

Model Name BV-L1020 BV-L1024 BV-L1028

Image Sensor Length対応イメージセンサ長 30mm 30mm 30mm

Focal length(焦点距離) f=20mm f=24mm f=28mm

Model Name BV-L1035 BV-L1050 BV-L1105

Image Sensor Length対応イメージセンサ長 30mm 30mm 30mm

Focal length(焦点距離) f=35mm f=50mm f=105mm

図11 SWIR帯域に対応した焦点距離35mmレンズの分光特性

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eizojoho industrial16︱October 2014

Pick-upプロダクツ

 図12は、ペットボトルの撮像例である。反射SWIR光画像では印刷の特殊性が検出でき、SWIR透過画像では、残量の検出ができる。 図13は、USBメモリの可視光画像とSWIR光反射画像である。SWIR光の特長として長波長であるために、内部構造が見える場合がある。

印刷物検査、食品検査、分光検査のように広帯域の波長分析が必要な市場はこれから拡大していくと考える。当社ではプリズム分光技術を用いた特殊カメラに特化した製品の提供企業として、今後も製品のラインナップを拡大してく所存である。また、プリズムカメラ用レンズを準備し、かつSWIR領域にも拡大した製品の開発も行っている。

■ 参考資料および文献 1) 浜松ホトニクス社データシート2) 竹内渉、安岡善文: 衛星リモートセンシングデータ

を用いた正規化植生、土壌、水指数の開発. 写真測量とリモートセンシング, pp.7-19, 2005-01-05

3) 安藤慎冶: ポリイミドの光学特性. 東京工業大学, pp.113, http://www.op.titech.ac.jp/polymer/lab/sando/Book_10/Ando_LatestPIs_Optical.pdf

4) 小出肇: 温暖湿潤気候高稙被率地域を対象とした土壌水理特性の推定と地質工学的応用に関する地植物学的リモートセンシング研究. 熊本大学, pp.41, 2011

☆株式会社ブルービジョン E-mail:[email protected] http://www.bluevision.jp/

■販売・お問い合わせ先 ダイトエレクトロン株式会社 画像機器グループ TEL03-3264-0326 FAX.03-3261-3984 http://www.daitron.co.jp/

7. SWIR 光の画像事例

8. 今後のロードマップ

図12 ペットボトルの各種画像 図13 USBメモリ画像