多彩な組織像を呈した 膜性増殖性糸球体腎炎Ⅲ型の一例二次性mpgn...

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1 横浜市立大学附属病院 腎臓・高血圧内科 2 横浜市立大学附属病院 病理学 3 山口病理組織研究所  4 東北大学大学院医学系研究科 病理病態学講座 Key Word:膜性増殖性糸球体腎炎,特発性MPGNMPGN type3 症  例 症 例:70 歳、男性 主 訴:下腿浮腫 現病歴:2006 年血清 Cr 0.89mg/dl、尿所見正 常。2012 7 月血清 Cr1.9mg/dl2013 4 月よ り下腿浮腫が出現し、近医で血清 Cr 2.4mg/dl蛋白尿・血尿を指摘された。2013 6 17 当科を紹介受診。血清 Cr 3.9mg/dlAlb 2.7g/ dl、尿蛋白/Cr 9.1g/gCr、尿中赤血球 20-29/ HPF であった。腎機能障害、ネフローゼ症候群 の精査加療のため緊急入院した。 既往歴:60 歳 下咽頭癌:化学放射線療法 60 歳 大腸ポリープ、胃ポリープ 62 歳 右真珠腫性中耳炎:鼓室形成術 66 歳 高血圧:降圧薬開始 67 歳 甲状腺機能低下症:補充療法 家族歴:父:脳血管障害 嗜  好: 喫煙歴:20 本/日× 40 年(50 歳代 で禁煙) 飲酒歴:焼酎 2 杯/日 アレルギー:なし 内服薬:オルメサルタン 20mg、ニフェジピ CR 40mg、フロセミド 60mg、レボチロキシ Na 75 μ g、タムスロシン 0.1mg、ブロチゾラ 0.25mg 入院時身体所見:身長 172cm、体重 64kg1 週間で 4kg 増加)、血圧 147/86mmHg、脈拍 83/ 分 、体温 36.4℃、意識清明 【頭頚部】眼瞼結膜貧血(+)、眼球結膜黄染(-)、 甲状腺腫大(-)、リンパ節腫脹(-) 【胸部】異常所見なし 【腹部】膨隆、波動触知(+)、腸蠕動音正常 【四肢】両側下腿に圧痕浮腫著明 【神経】神経学的異常所見なし 【その他】皮疹(-)、関節炎所見(-) 多彩な組織像を呈した 膜性増殖性糸球体腎炎Ⅲ型の一例 植 田 瑛 子 1 長 濱 清 隆 2 吉 田 伸一郎 1 橋 本 達 夫 1 佐 藤   陽 1 谷 津 圭 介 1 涌 井 広 道 1 鈴 木 将 太 1 田 村 功 一 1 戸 谷 義 幸 1 梅 村   敏 1 病理コメンテータ 山 口   裕 3 城   謙 輔 4 61 第 61 回神奈川腎炎研究会 61

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Page 1: 多彩な組織像を呈した 膜性増殖性糸球体腎炎Ⅲ型の一例二次性mpgn 内皮障害型 血栓性微小血管症(ttp/hus) 溶血(-)、血小板減少(-) 抗リン脂質抗体症候群

(1 横浜市立大学附属病院 腎臓・高血圧内科(2 横浜市立大学附属病院 病理学(3 山口病理組織研究所 (4 東北大学大学院医学系研究科 病理病態学講座

Key Word:膜性増殖性糸球体腎炎,特発性MPGN,MPGN type3

症  例症 例:70歳、男性主 訴:下腿浮腫現病歴:2006年血清Cr 0.89mg/dl、尿所見正

常。2012年7月血清Cr1.9mg/dl。2013年4月より下腿浮腫が出現し、近医で血清Cr 2.4mg/dl、蛋白尿・血尿を指摘された。2013年6月17日当科を紹介受診。血清Cr 3.9mg/dl、Alb 2.7g/dl、尿蛋白/Cr比 9.1g/gCr、尿中赤血球20-29/HPFであった。腎機能障害、ネフローゼ症候群の精査加療のため緊急入院した。

既往歴:60歳 下咽頭癌:化学放射線療法60歳 大腸ポリープ、胃ポリープ62歳 右真珠腫性中耳炎:鼓室形成術66歳 高血圧:降圧薬開始67歳 甲状腺機能低下症:補充療法家族歴:父:脳血管障害嗜 好:喫煙歴:20本/日×40年(50歳代

で禁煙)飲酒歴:焼酎2杯/日アレルギー:なし内服薬:オルメサルタン20mg、ニフェジピ

ンCR 40mg、フロセミド60mg、レボチロキシンNa 75μg、タムスロシン0.1mg、ブロチゾラム0.25mg

入院時身体所見:身長172cm、体重64kg(1

週間で4kg増加)、血圧147/86mmHg、脈拍83/分 、体温36.4℃、意識清明【頭頚部】眼瞼結膜貧血(+)、眼球結膜黄染(-)、

甲状腺腫大(-)、リンパ節腫脹(-)【胸部】異常所見なし【腹部】膨隆、波動触知(+)、腸蠕動音正常【四肢】両側下腿に圧痕浮腫著明【神経】神経学的異常所見なし【その他】皮疹(-)、関節炎所見(-)

多彩な組織像を呈した膜性増殖性糸球体腎炎Ⅲ型の一例

植 田 瑛 子1  長 濱 清 隆2  吉 田 伸一郎1

橋 本 達 夫1  佐 藤   陽1  谷 津 圭 介1

涌 井 広 道1  鈴 木 将 太1  田 村 功 一1

戸 谷 義 幸1  梅 村   敏1

 病理コメンテータ   山 口   裕3  城   謙 輔4

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図 1

画像検査結果

胸部単純X線撮影 体幹CT

腹部エコー:腎萎縮なし

図 2

臨床所見まとめ

Problem list

#血尿、ネフローゼ症候群、腎機能障害#体液貯留#リウマチ因子高値#肝機能障害#甲状腺機能低下

⇔感染症、膠原病、悪性腫瘍、パラプロテイン血症を示唆する所見に乏しい

臨床診断はネフローゼ症候群。→半月体形成性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、泌尿器科的血尿+膜性腎症などを念頭に、6月20日腎生検施行

<尿所見>蛋白 3+

潜血 3+

赤血球 20-29 /HPF

白血球 5-9 /HPF

硝子円柱 100-999 /WF

顆粒円柱 5-9 /WFTP/Cr 9.12g /gCrNAG/Cr 55.6U /gCr

β2MG 832ng /mlBJP (-)SI=0.52

<24時間蓄尿>尿蛋白 4.09g /日

<血算>WBC 5800 /μl

  好中球 68.2 %

  好酸球 1 %

  好塩基球 0.4 %

  単球 8 %

  リンパ球 22.4 %

  異型細胞なしRBC 297×104 /μlHb 9.9 g/dlPlt 26.6×104 /μl

<生化学>TP 5.1 g/dlAlb 2.7 g/dlBUN 52 mg/dlCr 3.91 mg/dlGlu 99 mg/dlTC 293 mg/dl

TG 185 mg/dlLDL-C 190 mg/dlAST 96 U/lALT 67 U/dlLDH 223 U/lALP 199 U/l

γGTP 39 U/lCK 110 U/lNa 137 mEq/lK 4.7 mEq/lCl 101 mEq/lCa 8.3 mg/dlP 5.3 mg/dl T-Bil 0.3 mg/dlCRP 0.14 mg/dl

<内分泌>BNP 67.8 pg/mlTSH 13.48 μU/mlT3 1.53 pg/mlT4 1.01 ng/dl

<免疫> IgG 503 mg/dlIgA 260 mg/dlIgM 49 mg/dlIgG 413.7 mg/dlC3 96 mg/dlC4 27 mg/dlCH50 65.1 U/ml

リウマチ因子 67.8I U/ml

抗核抗体 <40倍抗DNA抗体 (-)抗Sm抗体 (-)

抗CCP抗 (-)抗SS-A抗体 (-)抗SS-B抗体 (-)ループスアンチコアグラント (-)抗カルジオリピンIgG

(-)抗GBM抗体 (-)PR3-ANCA (-)MPO-ANCA (-)クリオグロブリン (-)<感染症>  梅毒TPAb・RPR (-)HBs抗原 (-)HCV抗体 (-)ASO 16 U/ml

<腫瘍マーカー> CEA 3.5 ng/mlCA19-9 21 U/mlAFP 3 ng/mlSCC 3.5 mg/mlPSA 1.070 ng/mlsIL2R 548 U/ml

尿中NMP22 2.9 U/ml

<免疫電気泳動>   M蛋白なし

<凝固>  PT-INR 0.85APTT 33.7 secD-dimer 6.1 μg/ml

検査所見

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病理組織学的所見

図 3

図 4

図 5

図 6

図 7

図 8

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図 9

図 10

図 11

IgA IgG

IgM

図 12

C1q C3c

C4

図 13

κ λ

図 14

IgG1 IgG2

IgG3 IgG4

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図 15

図 16

図 17

診断

組織学的には膜性増殖性糸球体腎炎Ⅲ型。ループス腎炎の鑑別を要した。

1.頬部紅斑 ×2.ディスコイド疹 ×3.光線過敏症 ×4.口腔内潰瘍 ×5.非びらん性関節炎 ×6.漿膜炎 ×7.腎障害(蛋白尿、細胞性円柱) ○8.神経障害 ×9.血液学的異常 ○10.免疫学的異常 ×11.抗核抗体 ×

診断基準: 同時、あるいは経過中のどの時点にでも、上記11項目中、4項目以上が存在する場合

診断基準SLE(米国リウマチ学会,1997

SLE診断基準満たさず、その他の二次性MPGNも否定的→特発性MPGNと診断

本症例

図 18

mPSL

CYC (400mg)

PSL5mg

(7 days)40mg

(7 days)50mg

(26 days)45mg

(8 days)35mg

(7 days)30mg

(7 days)25mg

(7 days)20mg

(7 days)15mg

(7 days)10mg

(7 days)

500mg(3 days)

透析導入腎生検

治療経過

図 19

退院後経過

・近医で維持血液透析

・ステロイドを中止した頃より両側手指関節(DIP, PIP, MP)、手関節、肘関節、肩関節、股関節、膝関節の疼痛が出現

・ロキソプロフェンによる対症療法の効果乏しく、PSL10mg再開→関節痛改善

・筋電図:感覚優位、軸索障害優位のニューロパチー →神経生検予定

CK 39 U/lCRP 0.11 mg/dL赤沈 22 mm/h

IgG 685 mg/dlIgA 129 mg/dlIgM 45 mg/dlIgG4 13.0 mg/ dlC3 91 mg/dl C4 28 mg/dl CH50 45.8 U/ml

リウマチ因子 90.5IU/ml抗核抗体 <40倍抗DNA抗体 (-)抗SS-A抗体 (-)MMP-3 67.1U/ml(基準36.9-121.0)抗CCP抗体 (-)抗カルジオリピン抗体 (-)MPO-ANCA (-)PR3-ANCA (-)抗BGM抗体 (-)クリオグロブリン (-)

図 20

一次性MPGN I 型一次性MPGNⅢ型 first form (Burkholder型)

一次性MPGN 一次性MPGNⅢ型 second form (Strife and Anders型)一次性MPGNⅡ型 Dense deposit disease

ループス腎炎 SLE診断基準満たさず溶連菌感染後糸球体腎炎 ASO(-)、先行感染(-)

免疫複合体型 MRSA関連腎炎 発熱・炎症(-)C型肝炎関連腎炎 HCV抗体(-)B型肝炎関連腎炎 HBs抗原(-)PGNMID κ、λ両方染色

二次性MPGN 内皮障害型 血栓性微小血管症(TTP/HUS) 溶血(-)、血小板減少(-)抗リン脂質抗体症候群 ループスアンチコアグラント(-)、抗カルジオリピン抗体(-)Crow Fukase症候群(POEMS) 甲状腺機能低下のみ

パラプロテイン血症クリオグロブリン血症 クリオグロブリン(-)、紫斑(-)関連症候群 単クローン性免疫グロブリン沈着症 M蛋白(-)、IFでmonoclonality(-)

イムノタクトイド腎症 細線維構造(-)

考察①

MPGN様病変を呈する糸球体疾患の鑑別 本症例

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考察②

本症例の問題点:・既知の基礎疾患が背景となっていたか・適切な治療が何であったか

本症例の問題点

図 21

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討  論 座長 後半,あと3題でございますので,皆さん,よろしくお願いいたします。それでは後半1席目,「多彩な組織像を呈した膜性増殖性糸球体腎炎Ⅲ型の1例」ということで,横浜市立大学の植田先生,よろしくお願いいたします。植田 よろしくお願いいたします。 「多彩な組織像を呈した膜性増殖性糸球体腎炎3型の1例」について,症例提示いたします。 症例は,70歳男性で,主訴は下腿浮腫です。現病歴です。2006年の時点では,血清クレアチニン0.89mg/dl,尿所見は正常でした。2012

年7月,血清クレアチニン1.9mg/dlでしたが精査はされませんでした。2013年4月より下腿浮腫が出現し,近医で血清クレアチニン2.4mg/dl,蛋白尿,血尿を指摘されました。2013年6

月17日,当科を紹介受診し,血清クレアチニン3.9mg/dl,ネフローゼ,血尿を認め緊急入院しました。 既往歴は,下咽頭癌,高血圧,甲状腺機能低下症などがあります。家族歴は,父が脳血管障害です。嗜好は,喫煙が20本×40年,飲酒は焼酎2杯です。アレルギーはありません。内服薬は記載のとおりで,オルメサルタンなどを内服していました。 身体所見では,身長が172cm,体重64kgで,1週間で4kgの体重増加を認めました。血圧が147/86mmHg,その他のバイタルは問題ありません。両側下腿に著明な圧痕浮腫を認めました。皮疹や関節炎所見など,膠原病を示唆する所見は乏しかったです。 尿所見では,赤血球が1視野に20-29/HPF,尿蛋白は,1日4.09gです。selectivity indexは,0.52でした。血算では,白血球が5800,分画は正常で異型細胞はありません。ヘモグロビンは9.9です。トータルプロテイン 5.1g/dl,アルブミン 2.7g/dl,低蛋白血症を認めます。BUNが52mg/dl,クレアチニン 3.91mg/dlと,腎機能障害を認めます。

 AST 96U/l,ALT 67U/lと 肝 酵 素 の 上 昇 を認めました。CRPは0.14mg/dlで,陰性です。TSH 13.4U/mlと,甲状腺機能低下を認めます。補体の低下は認めません。リウマチ因子は67.8と高値でした。抗核抗体は陰性で,各種自己抗体も陰性です。 ANCA陰性,クリオブロブリンも陰性です。HBs抗原陰性,HCV抗体も陰性,ASOの上昇は認めませんでした。腫瘍マーカーは,有意な上昇はないと考えました。電気泳動では,M蛋白は認めませんでした。 胸部単純エックス線撮影では,異常所見はありません。体幹CTでは,少量の腹水と,右腎嚢胞を認めました。そのほか,咽頭癌の局所再発や,リンパ節腫大など,悪性腫瘍を示唆する所見は認めませんでした。腹腔エコーでは,腎萎縮はありませんでした。 以上の所見をまとめますと,血尿,ネフローゼ症候群,腎機能障害の状態であり,症状としては,体液貯留を認めました。データ上はリウマチ因子が高値でした。しかし,細菌感染や,ウイルス性肝炎,膠原病,悪性腫瘍,parapro-

tein血症を示唆する所見は認めませんでした。 臨床診断は,ネフローゼ症候群で,腎生検を行いました。組織学的には,24個の糸球体が採取されており,うち9個に結節性硬化を認めます。硬化していない糸球体は,いずれも大型のものが目立ち,分葉状を呈しています。 PAM染色では,所々に基底膜の二重化を認めます。場所によっては,管内増殖性変化も目立ちます。また,細胞性半月体を24個中の1個,線維細胞性半月体を2個認めました。間質の線維化は,中等度から高度で,炎症細胞の浸潤を認めます。中位動脈の硬化は,中等度から高度で,明らかな血栓像は認めませんでした。 IFでは,IgAがmesangiumと係蹄壁に陽性,IgGも係蹄壁に陽性,IgNも係蹄壁の一部に陽性でした。補体は,early componentを含め,全て係蹄壁に陽性でした。軽鎖はκが優位と考えました。

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 コメンテーターの先生から,IgGのサブクラスについてお問い合わせをいただき,追加で染色したところ,IgG3がdominantに陽性,IgG1

も陽性と考えました。電顕では,内皮下に大型のdepositを多数認めます。また,上皮下にも小型のdepositを散見します。一部,mesangial interpositionを伴っています。 以上より,基底膜の二重化を伴う分葉状構造が明らかで,電顕では内皮下のほかに,上皮下にもdepositを認め,組織学的には膜性増殖性糸球体腎炎3型と診断しました。ただし,管内増殖や,半月体形成などが目立つ点が気になり,また,IFで full-houseの所見を呈したことから,ループス腎炎の鑑別が重要と考えました。しかし,SLEの診断基準は満たさず,また,後述するように,そのほかの二次性MPGNも合致するものがありませんでした。それで,腎性MPGNと診断しました。  治 療 経 過 で す。 メ チ ル プ レ ド ニ ゾ ロ ン500mgを3日間投与し,後療法はプレドニゾロン50mgより開始しました。尿蛋白が減少せず,治療開始後25日目にシクロホスファミド400mgを静脈内投与しました。反応不良で,治療開始後46日目に腎機能が増悪し,血液透析を導入しました。 治療効果が乏しかったことと,感染症を発症したこと,また,腎外症状を認めず腎症状については透析に至ったことの3点から,積極的な治療はしない方針となりました。プレドニゾロンを漸減・中止し,退院しました。 退院後は,近医で維持透析を行っていましたが,ステロイドを中止したころから,両側の手指関節や,全身の大関節に疼痛が出現しました。NSAIDsによる対症療法の効果が乏しく,プレドニゾロン10mgを再開したところ,関節痛は改善しました。 関節リウマチ,SLEに関連する自己抗体や,ANCA,クリオブロブリンなど再検いたしましたが,リウマチ因子の高値を認めるのみでした。筋電図では,蛋白優位,軸索鞘が優位の

neuropathyを認め,今後,症状再燃時には,神経生検等を行う方針です。 二次性のMPGNを呈する疾患としては,免疫複合体型としてループス腎炎や,感染症に関連する腎炎,内皮障害型として血栓性微少血管症や,高リン脂質抗体症候群,POEMS症候群。また,protein血症関連としてクリオグロブリン血症,単クローン性免疫グロブリン沈着症,イムノタクトイド腎症などが挙げられますが,本症例ではいずれも可能性が低いと考え,一次性と診断しました。 一方で,一次性のMPGNタイプ3はまれだということで,何かほかに既知の基礎疾患が背景となっていた可能性はないか,追加すべき検査項目があったかどうかなど,先生方のご意見を伺いたいと思います。また,適切な治療が何であったかについても,教えていただきたいと思います。以上です。座長 ありがとうございました。それではまず,フロアのほうから何かご質問,ご意見等,ございますでしょうか。城 リウマトイド・ファクターがずっと陽性だったですね。植田 はい。城 リウマトイド・ファクターというのは,抗原が immunoglobulinで,抗体も immunoglobulin

で,そのカップリングを言うわけですね。cir-

culating immune complexes(CIC)はどうでしたか。植田 測定しておりません。城 ここでCH50が45.8を赤で書かれていますが,これはどういう意味ですか。植田 補体の低下は認めませんでしたが,基準値の上限は超えておりましたので,赤字にさせていただきました。城 基準値が超えていなかったということは。植田 基準値は超えていました。城 低補体ではなくて,45.8というのは,何を意味しているのですか。植田 低下は認めず,基準値を少し上回ってい

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る値でした。城 CH50が低い場合は異常なのでしょう。低くない場合は,どうなんですか。植田 低くないです。城 じゃあ,正常ではないのですか?植田 すみません。座長 基準値を超えていたという意味で,赤くされたということですね。高かったということですね。城 高かったということな何を意味しますか。 僕は臨床が分からないのですけれども,慢性関節リウマチの診断からすると,この方は該当しますか?植田 関節痛は認めたのですけれども,多角的に関節の小変形,自覚症状でも,朝のこわばりといったような症状はなくて,また,CRPも陰性,MMP-3の上昇も認めなかったことから,関節リウマチは否定的と考えられました。城 関節リウマチの診断基準がよく分からないのですけれども,関節リウマチそのものの診断にグレーゾーンはあるのですか。要するに,腎所見は出てくるけれども,全身の診断からいうとカテゴリーを満たさない,そういった疾患群。 ループスにもありますよね。疾患基準を満たさないでオーバーラッピング症候群のようなかたちの捉え方をすることがあるのですけれども,慢性関節リウマチのほうは,ループスに比べて圧倒的に頻度も多いし,腎症状はあるけれども,診断基準を満たさないというグレーゾーンを臨床家はどういうふうに捉えるのですか。植田 診断基準を満たさない状態でしたが,腎臓の症状だけ満たす場合,グレーゾーンの扱いについては分かりません。城 要するに,満たさないからprimaryだというふうに,本当に言えるかどうかですね。乳原 リウマチ因子が陽性だけではリウマチと言ってはいけない。リウマチ因子はいろいろなもので陽性になってしまうので,これだけが診断の根拠にはというか,あてになることはないので。

 もう1つは,リウマチと言えば,多関節痛と書いた,炎症がなければ,swellingがないと駄目なのです。多関節の腫脹がないといけないので,それが恐らくないのです。CRPが陰性ですから,これは,リウマチにこだわることはないと思います。 だから,リウマチ因子が高いのは何を意味するかというのですけれども,それは分からない。明らかにばりばりのリウマチではないということは確かだよね。definiteなリウマチじゃないということだと思います。リウマチは,あまり話をそちらに持っていかないほうがいいと思います。城 臨床家はグレーゾーンのものも?乳原 グレーゾーンは難しいのです。だから,ある程度基準内のものを何と判断する。その関節痛の鑑別診断はいくつかあるのですけれど,それについての評価は,総合的に判断しないといけないのです。 ただ,definiteなRAがあったら,それに対してのRAと関係したものと捉えていくのですけれど,それでない場合には,関節痛ぐらいです。ただ,あまり意味付けを考えてはいけない。ただ,臨床的にCRPが高くていろいろな問題があれば,またそこで考えていくということなのです。関節痛を伴う病態として考えていく。セロネガティブRAとか,いろいろな。でも,それはなさそうだから,あまりその話は,こだわらないほうがいいかもしれません。座長 ほかにございませんでしょうか。細川 横浜中央病院の細川です。 高齢で,年だけでもリウマチ因子が出てきてしまう症例とか,肝臓がちょっと悪くてリウマチ因子が陽性になってしまうような症例とか,もっと調べれば何かあるのかもしれませんけれども,そのような症例を見るかと思うのですが,このステロイドの減量速度は,どれぐらいだったのでしょうか。植田 ここに記載したとおり,大体1週間に5mgの速度で減量していきました。

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細川 毎週5mgで減量するのが速いかどうか,私も経験上ちょっと分からないのですけれども,少し速いような気もします。吉田 すみません,共同発表者で,この方の主治医をしておりました,横浜市大附属病院の吉田と申します。 この方のステロイドの投与方針は,私が主に決めさせてもらったのですけれども,まず,透析導入に至る前までのステロイドの投与に関しては,パルスをやって,50mgで後療法を始めて,エンドキサンパルスを追加した後に,通常の IVCYの方法に従ってステロイドを減らしていく方針ではあったのですけれども,その早い段階,50mgから45mgに切り替えたのが原因だったかもしれないのですけれども,GFRの低下とかが急激に見られて,透析導入に至ってしまった経過です。 それ以降は,腎外病変とかもなかったこともあり,非常に IgGの数値が,血中濃度で200とかぐらいまで下がって,cytomegalovirus感染症なども起こしておりましたので,IgGの低下とか,免疫的なもので,この方が命を落としてはいけないという思いもあり,プレドニンを急いで下げた次第です。 総じてその時点までは関節症状は見られておりませんでしたので,そういうこともあり,気持ちよく速く減らしていったという経緯です。座長 あまり効かないということで,通常よりは少し早めに引かれたということですね。 ほかにございますでしょうか。MPGN様の光顕所見で,IFは fullに光っていて,だけれども膠原病その他の診断基準は満たさないという症例になると思います。ほかにございませんでしたら,病理の先生方のほうからお願いしたいと思います。山口先生,お願いします。山口 今,MPGNの疾患概念が大きく変わってきて,昔は電顕所見で type1,2,3と分けていたのですが,C3だけ,補体系だけが沈着するグループと,IgGを主体に immunoglobulinも一緒に染まってくるグループとに分けられます。

secondlyなMPGNはたくさんあるわけです。特発性のときに,C3だけではなくて,IgGが主体に出てくる症例があります。 その場合に,IgGが出てきても補体系の異常が見つかる症例もレポートしているわけです。 日本でも,制御因子の検索ができるようにならないと,クリアになっていかないと思います。

【スライド01】 糸球体の全体が大きくなって,分葉状になって,一部cellular,あるいはfibro-scleroticな病変が出てきています。尿細管上皮の障害が部分的にはあります。

【スライド02】 これは虚血でagingでもおかしくないつぶれだろうと思います。虚脱して,ボウマン嚢が開いてしまっている場所もあります。

【スライド03】 一部podocyteの硝子滴変性,あるいは近位尿細管系の障害や赤血球 thpの円柱が見られています。

【スライド04】 小葉間動脈内膜が浮腫状に肥厚しているのです。,full moonに近いcellular crescent,あるいは,collapseして,つぶれてきているglobalに近いcellular crescentがある。尿細管上皮障害も見られている。上皮の剥離像が見られています。

【スライド05】 一部,少し好酸球でしょうか。外来性の細胞も糸球体の中に入ってきています。

【スライド06】 球状硬化と蓄縮尿細管が見られます。

【スライド07】 full moonのcellular crescentです。fibrousな full moonのcrescentである可能性も否定できないと思います。間質性炎が強いです。

【スライド08】 全周性のfibrous crescentと思います。mesan-

giumの増殖と,係蹄の二重化が顕著です。【スライド09】 cellular crescentと,それからendo capillaryに

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も外来性の細胞が入り込んで,mesangiumの増殖,二重化が顕著で,podocyteの硝子滴変性もあります。

【スライド10】 内皮下の沈着を思わせる係蹄壁に沿って沈着物が見えます。

【スライド11】 二重化が顕著で,endocapillary mesangial pro-

liferation,分葉状であります。【スライド12】 好酸球が際立っていて,vasa rectaのところに炎症があると思います。

【スライド13】 IgGはperipheral lateralが 優 位 で, 補 体 系 がC3,C4,C1qと,immunoglobulinに比べると補体系のほうがdominantで,peripheral mesangium

でしょうか。C4が弱いぐらいで,あると思います。

【スライド14】 IgGと,IgMは,私はあまり有意に取らなかったのです。λが優位で,κも少しプラスマイナスかなと。C3が優位で,C1qがちょっとsegmentalで,extra cellularな沈着に反応しているものを,見られないといけないと考えています。

【スライド15】 subendoからpara mesangiumでしょうか,膜内,上皮下にも散在性にあります。模様がある。好中球が浸潤してきています。

【スライド16】 mesangium inter positionになるのです。膜内,あるいは上皮下沈着,あるいは,mesangiumの増殖が見られています。

【スライド17】【スライド18】 inter positionで,内皮の増生,膜内,上皮下,多彩なdense depositが見られています。

【スライド19】 MPGNで,crescentが,全体の3割ぐらいに見られている。IFの見方なのですが,IgAとか,

IgMはあまり取らないで,proliferative glomeru-

lonephritis with monochronal IgG3 depositでκよりもλが優位なので,λでもいい可能性です。IgGと,補体系の両方の沈着がありますので,immune complex typeではないかと思います。 以上です。城 primaryか,secondaryかというと,これも治療に影響してくることだと思います。 所見は,山口先生がおっしゃったことで,どんどん飛ばして行きます。 糸球体に病変があって,40%の尿細管萎縮があって,感染症が加わっているという症例です。立派なcrescentを伴うタイプです。primaryの場合,ひどい場合にはcrescentが来ますけれど,通常のprimary MPGNの場合にcrescentが伴ってくる症例はむしろ少ないと思います。 これは山口先生と同じモチーフですけれども,動脈の内皮に増殖がある。全体からいえばmesangium細胞増多があって,基底膜が肥厚しているMPGN。それに管内増殖性の変化も加わっている。Massonを見てもこれ以上の問題はない。PASで見ても,MPGNに管内増殖性が加わり,しかも管外増殖性病変,すなわちcrescentも加わっています。 MPGNの診断としては,mesangium細胞増多と基底膜の肥厚が必要条件です。半月体にせよ,管内増殖性病変にせよ,これはMPGNの修飾病変だと見ることができると思います。だから,診断は,MPGNでよいと思います。 一部に癒着があって,hyalinosisの場所もあります。基底膜は,基本的には二重化が主体であると思います。 基底膜の二重化のほかに spikeがあるかどうかですけれども,PASでは二重化しか分からない。PAMでないと,上皮下沈着物があるかどうかは分かりません。 PAMで見ても,二重化と管内増殖性が主体であって,spikeはどうもないようです。先ほどの電顕でわずかな上皮下沈着物がありましたけれども,spike,あるいはbubblingを見せるほ

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どのdepositではなさそうです。 IgGの免疫染色ですけれども,主体はperiph-

eralで,mesangiumにも沈着しています。 浸出病変でもこの程度のdepositが出てきますので,これが immune complex typeのものであるか,浸出性病変であるかは分からない。このⅠgAは,ちょっと染色条件が悪いのですけれども,陽性だったと思います。それから,ⅠgG

のサブタイプで,G3のほかにG1が出ているということ,それからⅠgAがこれだけ強く陽性に出ているということで,monoclonal な immuno-

globulin depositionでは,この症例はないのだろうと思います。 また,C3がⅠqGと同じパターンで出ています。この症例の特徴は,C1qがC3に劣らずかなり強く出てきていることです。これは,最後の診断にも関係してきますが,JennetteがC1q

腎症の概念を提唱したときに,FSGSのvaliant,あるいはMCNSのvaliantとして解釈されています。一方ループス腎炎と鑑別が付かないようなC1q優勢の腎症という拡大解釈されたClq腎症の論文も出されました。 そういうことから言うと,C1qのこれだけの強い沈着というのは,それなりの意味を持っていなければいけない所見かと思います。 C4も陽性です。κ,λでは,κのほうが優勢ですけれども,λがきちんと出ていますので,この点からも,やはりmonoclonalなdepositは一応否定していいのではないかと思います。 G1,G2,G3,G4は不確定で半分がつぶれた糸球体を染色しているのかもしれません。 電顕ですけれども,主体がこの基底膜の中に出ておりまして,lamina densaが破壊されている像だと思います。もちろん上皮下沈着物がありますけれども,大半はこのように尿腔側の基底膜を1枚のこしてその中にdepositがある。しかし,MPGNのⅠ型と違うところは,Ⅰ型の場合は,lamina densaが保たれて内皮下に沈着物が出るのがⅠ型ですけれども,これは明らかにlamina densaを破壊してdepositが沈着している

のが特徴だと思います。 これもそうです。内皮下のdepositとの違いは,結局,lamina densa が保存されているかどうかだと思います。これをご覧になって分かるように,この症例は,通常の基底膜が保存されず,lamina densa にdepositが侵食していることが分かります。 それからpara mesangium。少量でありますけれども,dense depositがあります。 以上,光顕的には36%に全節性硬化があって,mesangium細胞増多が77%,管内性細胞増多が63%,半月体形成糸球体が15%,分節性硬化が13%,癒着が7%。 糸球体基底膜をPAM染色で見ますと,二重化が主体です。わずかですけれども,spikeやbubblingが見られます。残存糸球体の腫大が目立ちます。 尿細管は60%の萎縮があって,間質にリンパ球,好中球浸潤を認めます。好酸球浸潤もあると思います。血管系では,高度の内膜の線維性肥厚が小葉間動脈に見られ,輸入細動脈内膜の硝子様肥厚も見られます。 免疫染色では今お示したとおりですけれども,ⅠgG,C3,C1qが優位であって,ほぼ等価だと思います。ⅠgM陽性は浸出性病変だろうと思います。monoclonalなdepositionではないだろうと思います。 電顕に関しては,dense depositは基底膜内に塊状かつ連続性に見られわずかですけれども,内皮下,上皮下にも見られます。mesangiumにも見られます。MPGNⅢ型にcompatibleです。一次性か二次性かの区別は,電顕からは区別が付きません。 この症例をどう捉えるかですけれども,自己抗体が出ていないということで,実質的には一次性MPGNⅢ型です。MPGNⅠ型との区別では,GBMの lamina densa がdense deposit により浸食されずintactで,double contourがあって,dense depositが subendothelialにあるものをMPGNⅠ型と診断します。

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  一 方MPGNⅢ 型 second formで は,GBMのdestructionがある。銀染色で見ますと,このように基底膜の lamina densaに銀が染まるわけですけれども,明らかにdestructionがあります。 銀染色をやらないと,dense depositが基底膜の中にぼおっと見えるわけです。この定義は,1977年の論文を根拠としています。 以上の所見から,MPGNⅠ型は恐らく否定できるでしょう。また,MPGNⅡ 型 のdense deposit diseaseでないことは確かです。MPGN first formは,むしろ上皮下沈着物が非常に少ないということから,鑑別されます。 そうすると,消去法で言えば,やはり,pri-

mary MPGNであるならば,MPGNⅢ型 second formだろうと思います。しかし,先ほど言いましたように,C1q優勢の腎症の中に,seronega-

tiveなループス腎炎の可能性を念頭に置く必要があると思います。 以上です。座長 ありがとうございました。フロアのほうから,ご質問,ご意見,ございませんでしょうか。 今,城先生が言われたみたいに,C1qがあれだけ光っていると,セロネガティブのSLEなど,どこか念頭に置かなければならないのかなということを考えると,この症例の場合は,後から関節痛が出てきたりとか,いろいろなことがあったわけですけれど,腎臓に関してはある意味廃絶してしまったということはあるのですけれども,ステロイドなど何らかの免疫抑制療法を持続する必要とか,そんなことがあるようにも思われるのですが,そのへんはいかがでしょうか。 病勢を見ながらというか,難しいところだとは思うのですけれど。 ほかにフロアのほうから,特にございませんか。どうぞ。吉田 横浜市大の吉田です。先ほどはステロイドの件でお話をさせていただきましたけれども,実は後日談がございます。ステロイドをこの経過で中止して以降に,関節痛が初めて出現

してまいりました。その関節痛に対して,また最終的に特発性となって原因の特定ができずに対症的にステロイドを10mg再開したら,関節痛は消失しました。 そういうわけで,特定の病因物質が見つかってはいないのですけれども,何かステロイド反応性の病因物質が,この一連の病態にあったのではないかと,われわれの中では推測しているような状況です。以上です。座長 ありがとうございました。ほかにございますでしょうか。どうぞ。長濱 先ほどの演者の病理の長濱と申します。 診断で一番苦慮したのは,低補体も全然なくて,何に入れていいのか分からなかったのですけれども,MPGNの経験が豊富だと思える乳原先生,MPGNを呈して低補体がなかった症例はどれぐらいあるのか,教えていただけますか。乳原 MPGNのちょうど今出ていましたとおり,明らかに膠原病とかなさそうな,要するに,原疾患のないMPGNで,私たちは25例ほどMPGNを整理したことで,選には載せているのですけれども,読んでいただけなかったのかもしれません。 その中で,type2はdense depositですが,私たちは type1と type3に分けてみました。それで,低補体が起こってくるのは,多くが小児です。成人例で低補体に来ることはまずないということです。それも小児例でⅠ型が多くて,Ⅰ型とⅢ型ではⅢ型のほうが補体が下がらない。Ⅰ型のほうが下がる。Ⅰ型に属するのが小児,特に20歳以下で出てくる症例で,成人で,60代,70代で出てきたMPGNが補体が下がったことはあまりありません。そういうことがお答えです。 では,なぜC1qとの兼ね合いを考えるかということですが,それについては,そのとおり除外診断でC1q腎症と紹介していただきましたが,私はもう一つ,以前,loops-likeの所見を呈した症例で,簡単にHb-,B型ではマイナスだとされてしまったのですけれども,B型肝炎

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のときのMPGNは,C1qとC4がしっかり染まってきて,補体も下がらないというようなことがありました。 B型肝炎に対する情報がどの程度だったのかどうか。例えば,その場合に,出てきた場合は,B型肝炎のポリメラーゼ,HBVのポリメラーゼが陰性,DNAポリメラーゼが陰性ということが確認できているのかということで,それが陽性の場合はB型肝炎の可能性,または,一方でいろいろなものを測られると思うのですけれども,それに関しての情報はいかがでしょうか。植田 HBVについては,追加で検討しまして,いずれも陰性でした。乳原 B型肝炎のマーカーは全てマイナスだと,DNAポリメラーゼもマイナスだということなのですね。植田 はい。乳原 だとしたら,診断せよと言われたら,私は困ります。成人では,特に60代,70代で診断した私たちの虎の門病院のデータで,低補体にならないものは決してまれではない,むしろ補体は正常であることのほうが多かったということがあります。 それでは,予後はどうかということですが,それらの症例を見てみますと,中にはすぐ透析に入ってしまって,免疫製剤が反応しないものもありますし,すんなりと効いてしまった症例もあるということで,そのへんを治療でどう分類できるかどうか。または診断できるかというのは,まだクエスチョンかなと思っています。座長 ありがとうございました。ほかにございますでしょうか。それでは,どうもありがとうございました。

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IgG1 IgG3

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病 理 診 断 (II-1) 1. Membranoproliferative glomerulonephritis with cellular crescents, IC type

(Proliferative glomerulonephritis with monoclonal IgG3λ deposits, suspected)2. Patchy tubular injury, moderate

cortex/medulla = 5/5, global sclerosis/glomeruli= 7/27

光顕では、糸球体には全周性に及ぶ細胞性或いは線維性半月体が9ヶに見られ、分節状硬化及び癒着を4ヶ認めます。糸球体係蹄はやや分葉化し、多核球や単球浸潤とする管内増殖とメサンギウム細胞増生をびまん性に認め、係蹄の二重化や内皮下拡大が見られ、係蹄壁に沿って硝子物沈着を伴っています。

尿細管系には近位上皮の剥脱や扁平化が散見し、萎縮尿細管と間質単核球浸潤及び線維化が散在性に見られ、硝子円柱の散在を認めます。動脈系には小葉間動脈内膜肥厚と細動脈硝子化を中等度認めます。

蛍光抗体法では、IgG(++), IgG1(±), IgG3(++), IgM(±), C3(++), C1q(++), C4(+), kappa(±), lambda(+) : peripheral > mesangial patternです。

電顕では、糸球体にはGBMに膜内、内皮下沈着物がかなり目立ち、大きな上皮下沈着物も散在し、スパイク形成を伴い、メサンギウム間入を認め、好中球や単球が浸潤し、内皮の腫大、増生が見られます。傍メサンギウム域から基質内にも沈着物を認め、メサンギウム細胞増生と基質増加が高度見られます。脚突起癒合が所々で見られます。一部の沈着物にfibrillarystructureを認めます。

以上で,IC型の二次性MPGNと思われ、PGN with monoclonal IgG3λ deposits が疑われます。

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κ

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λ

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IgG1 IgG2

IgG3 IgG4

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歳 男性臨床診断 ネフローゼ症候群、高血圧、甲状腺機能低下、腎機能低下、血液透析導入後病因分類 高血圧性腎硬化症病型分類 一次性膜性増殖性糸球体腎炎 Ⅲ型、高血圧性腎症、 腎症の鑑別

考察以上の所見から、臨床的に自己抗体が認められず、臨床的には 一次性膜性増殖性糸球体腎炎 Ⅲ型。MPGN Ⅰ型との鑑別について、 がⅠ型では内皮下が主体で糸球体基底膜

が とされていますが、本症例は糸球体基底膜内に塊状,連続性のを認め、この点からMPGN Ⅲ型と診断。

しかし、病理的には、一次性 の場合は、 優勢であるが、本症例は qも同程度に陽性。に対して な膠原病関連腎炎、 腎症( が鑑別診断にあがる。

q腎症1)

2)

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<光顕>標本は 切片採取。糸球体

個 )に全節性硬化。残存糸球体において、メサンギウム細胞増多を 個 、管内性細胞増多を 個 。細胞性半月体を 個( 、分節性硬化・硝子化を 個( 。癒着を 個( 、虚脱を認める。糸球体基底膜は肥厚し、 染色にて二重化が主体で、

ならびに を伴う。残存糸球体の腫大が目立ちます(250μm)。尿細管・間質尿細管の萎縮ならびに間質の線維性・浮腫性拡大を高度に認め 、同域にリンパ球ならびに好中球浸潤を 認める。血管系小葉間動脈に高度の内膜の線維性肥厚を認め、輸入細動脈に中等度の内膜の硝子様肥厚。免疫染色にて ・ qが優性で、各種免疫グロブリン・補体が陽性。

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<免疫>・ qが優性で、 ・ ・κ・λ・ がメサンギウム領域ならびに糸球体末梢毛細血管係蹄

に顆粒状に陽性。 が糸球体末梢毛細血管係蹄のおそらく浸出性病変に顆粒状に陽性。補体沈着優位の何らかの 型免疫複合体性腎炎が疑われる。

<電顕>は基底膜内に塊状で連続性に沈着。上皮下沈着物ならびに

内皮下沈着物もわずかに見られる。また、メサンギウム領域では、傍メサンギウムからメサンギウム領域に弱陽性。以上の所見から、MPGN Ⅲ型であって差し支えない。一次性・二次性の区別は電顕所見からは付かない。

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( )

No

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