大学初年次生の喫煙経験と意識についての調査煙学 12巻第1...

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日本禁煙学会雑誌 第 12 巻第 1 号 2017 年(平成 29 年)2 月 28 日 4 《原 著》 大学初年次生の喫煙経験と意識についての調査 連絡先 ˟ 096-8641 ւಓࢢد 4 8 1 ࢢدେɹอڭڭҭ෦ɹԮେॿ TEL : 01654-2-4194 FAX: 01654-3-3354 e-mail: 2016 10 7 ɹ2017 2 8 ʲɹతʳ ɹੜͷ٤Ԏݧܦͷ٤Ԏश׳ʹΑɺॳੜͷ٤Ԏडಈ٤ԎʹରΔҙ ҟͳΔͲͷௐΛɺ৽ೖੜͷ٤Ԏडಈ٤Ԏͷܒ߁ཧͷॿݴΛΔΊͷྉͱ Δɻ ʲɹ๏ʳ ɹࢢدେΑͼظେ෦ʹ੶Δ 2014 ɺ2015 ͷॳੜΛରͱɺ ٤Ԏɺडಈ٤ԎʹΔҙௐΛΉΞϯέʔτௐΛɻ ʲɹՌʳ ɹ٤ԎݧܦͷΔੜ܈ɺKTSND ͷ 3.5 ༗ҙʹߴɺΒʹडಈ٤Ԏ༰ͷ 2.0 ༗ҙʹߴɻͷ٤Ԏঢ়گɺࡏݱ٤ԎΔͷ߹ɺKTSND ͷͷΈ 1.3 ༗ҙʹߴɻ ʲߟɹʳ ɹͷ٤Ԏೖલʢະʣͷ٤ԎʹݧܦӨڹΔͱΕɻ٤ԎݧܦͷΔੜɺ डಈ٤Ԏʹ༰Ͱɺ٤Ԏʹର༰Δɻ ʲɹʳ ɹೖॳظͷ 20 લʹۃతͳڭҭతհೖΛߦඞཁΔɻ キーワード:٤Ԏݧܦɺͷ٤Ԏঢ়گɺՃೱձతχίνϯґଘௐථʢKTSNDʣɺडಈ٤Ԏ༰ 緒 論 ͷະɺେੜɺ٤ԎະݧܦΛରͱ λόίʹରΔҙௐɺΕ·Ͱଟͷ ݚʹڀΑΒʹΕΔ 1 ʙ4ʣ ɻຊʹΔੜՊߏͷൺߴΔΊɺΕ·ͰͷௐͰେ෦ͷੜɺඇ ٤ԎͰΔͱΘΔ 5ʣ ɻಛʹೖॳ ͷੜɺ΄ͱΜͲඇ٤ԎͰΔɻೖޙͷ ੜͷଟɺۀҎ֎ͷ׆ಈͱɺ෦ɾαʔΫϧ ׆ಈɺϘϥϯςΟΞ׆ಈɺΞϧόΠτΛߦΔɻ 2007 ʹλόίنͷୈീʢडಈ٤Ԏ ʣͷΨΠυϥΠϯఆΊΒΕɺຊΕҎ લͷ 2006 ΒɺෑΛΊશ໘ېԎͱͳ ΔɻɺΞϧόΠτઌͷډञϗςϧͳͲ ٤Ԏنͳ৬Ͱɺੜʢඇ٤Ԏʣͷडಈ ٤ԎඞཁΔɻੜͷΞϧόΠτ৬Ͱͷ डಈ٤ԎͷଶΛௐՌɺ··ͳཁҼʹ Αੜडಈ٤ԎΛզຫΔঢ়گΒ ͱͳ 6ʣ ɻճɺੜͷ٤Ԏݧܦͷ٤Ԏ ׳ͷഎʹܠΑɺ٤Ԏडಈ٤Ԏͷҙҟ ͳΔͲௐΛߦɻ ຊௐɺຊอηϯλʔͷௐۀͰ ΓɺಘΒΕՌʹجޙࠓੜੜ׆Λ։Δ ੜडಈ٤Ԏͷܒ߁ཧͷॿݴΛΔ ͱΛతʹɻ 対象と方法 ٤Ԏݧܦͱҙʹɺຊͷॳʢ1 ੜʣ ੜશһʢ2014 ɿ194 ਓɺ2015 ɿ203 ਓʣ ܭ߹397 ਓΛௐରͱɻΞϯέʔτɺແ هذબͰɺผɺՊɺ٤Ԏঢ়گɺ٤Ԏ ܦݧɺͷ٤Ԏɺ٤ԎʹΔߟʢՃೱձత χίνϯґଘௐථɺKano Test for Social Nico- tine DependenceɿKTSNDʣ 2ʣ 1 ʹͱ ΓͰɺ 1 ͷΈ 0ɺ1ɺ2ɺ3 ͷॱɺ 2 Β 10 · Ͱ 3ɺ2ɺ1ɺ0 ͷॱɺ10 ߹ ܭ30 ຬɺେ ݟߟҊडಈ٤Ԏʹͷߟʢडಈ٤Ԏ ༰ʣ 6ʣ 2 ʹͱΓͰɺ 1 Β 3 · Ͱ 0ɺ1ɺ2ɺ3 ͷॱɺ 4 Β 6 ·Ͱ 3ɺ2ɺ 大学初年次生の喫煙経験と意識についての調査 荻野大助 1 、大見広規 2 、メドウズ・マーチン 1 1.名寄市立大学 保健福祉学部教養教育部、2.名寄市立大学 保健福祉学部栄養学科

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日本禁煙学会雑誌 第12巻第1号 2017年(平成29年)2月28日

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《原 著》

大学初年次生の喫煙経験と意識についての調査

連絡先〒 096-8641北海道名寄市西 4条北 8丁目 1名寄市立大学 保健福祉学部教養教育部 荻野大助TEL: 01654-2-4194 FAX: 01654-3-3354e-mail: 受付日 2016年 10月 7日 採用日 2017年 2月 8日

【目 的】 学生自身の喫煙経験や両親の喫煙習慣等によって、初年次学生の喫煙や受動喫煙に対する意識が異なるかどうかの調査を実施し、新入生の喫煙や受動喫煙防止の啓発や健康管理の助言をするための資料とする。【方 法】 名寄市立大学および短期大学部に在籍する2014年度、2015年度の初年次学生を対象者として、喫煙、受動喫煙に関する意識調査を含むアンケート調査を実施した。【結 果】 喫煙経験のある学生群は、KTSNDの点数が3.5有意に高く、さらに受動喫煙寛容度の点数が2.0有意に高かった。両親の喫煙状況は、現在喫煙している母親の場合、KTSNDの点数のみ1.3有意に高かった。【考 察】 母親の喫煙が入学前(未成年)の喫煙経験に影響があることが示唆された。喫煙経験のある学生は、受動喫煙に寛容で、喫煙に対して容認する傾向があった。【結 論】 入学初期の20歳前に積極的な教育的介入を行う必要がある。

キーワード:喫煙経験、親の喫煙状況、加濃式社会的ニコチン依存度調査票(KTSND)、受動喫煙寛容度

緒 論国内の未成年、大学生、喫煙未経験者を対象としたタバコに対する意識調査は、これまで数多くの研究によって明らかにされてきている1~4)。本学に在籍している学生は学科構成上女子の比率が高い特徴があるため、これまでの調査でも大部分の学生は、非喫煙者であることがわかっている 5)。特に入学初年次の学生は、ほとんど非喫煙者である。入学後の学生の多くは、学業以外の活動として、部・サークル活動、ボランティア活動、アルバイトを行っている。2007年にタバコ規制枠組条約の第八条(受動喫煙防止)のガイドラインが定められたが、本学はそれ以前の2006年度から、敷地を含め全面禁煙となっている。しかし、アルバイト先の居酒屋やホテルなど喫煙規制がない職場では、学生(非喫煙者)の受動喫煙も防ぐ必要がある。学生のアルバイト職場での

受動喫煙の実態を調査した結果、さまざまな要因によって学生が受動喫煙を我慢している状況が明らかとなった 6)。今回、学生自身の喫煙経験や親の喫煙習慣等の背景によって、喫煙や受動喫煙の意識が異なるかどうか調査を行った。本調査は、本学保健福祉センターの調査事業であ

り、得られた結果に基づき今後学生生活を開始する入学生へ受動喫煙の啓発や健康管理の助言をすることを目的に実施した。

対象と方法喫煙経験と意識について、本学の初年次(1年生)学生全員(2014年度:194人、2015年度:203人)合計397人を調査対象とした。アンケートは、無記名多岐選択式で、性別、学科、喫煙状況、喫煙経験、両親の喫煙、喫煙に関する考え(加濃式社会的ニコチン依存度調査票、Kano Test for Social Nico-tine Dependence:KTSND)2)配点は表1に示すとおりで、問1のみ0、1、2、3点の順、問2から問10までが3、2、1、0点の順、10問合計30点満点、大見他が考案した受動喫煙についての考え(受動喫煙寛容度)6)配点は表2に示すとおりで、問1から問3までが0、1、2、3点の順、問4から問6までが3、2、

大学初年次生の喫煙経験と意識についての調査荻野大助 1、大見広規 2、メドウズ・マーチン 1

1.名寄市立大学 保健福祉学部教養教育部、2.名寄市立大学 保健福祉学部栄養学科

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大学初年次生の喫煙経験と意識についての調査

1、0点の順、6問合計18点満点、合計25質問について(図1)、2014年および2015年12月の必修授業の際に実施した。マークシートを用いて回答を求め、授業終了時等に回収した。本人と両親の喫煙状況については、喫煙群(現在

喫煙)、非喫煙群(以前喫煙していたが、今は喫煙しない/喫煙しない)と定義した。

データ解析は、マークシートからデータファイルを作成した後、IBM SPSS Statistics 22を用いて、統計学的な分析の順に行った。両親の喫煙と学生の喫煙経験の比率の検定には、喫煙状況が不明/無回答のデータを除外して、χ2乗検定を用いた。

KTSND、受動喫煙寛容度に関連した分析を行う際、KTSND、受動喫煙寛容度の総合点がそれぞれ計算可能なデータのみを対象とした。KTSND(表1)および受動喫煙寛容度(表2)の総合点が年度、性別、学科、喫煙状況、喫煙経験、両親の喫煙で差があるかをMann-Whitney U検定、あるいはKruskal-Wallis検定およびDunnの検定法で検討した。検定の有意水準は0.05とした。〈倫理的配慮〉質問紙に調査の趣旨と倫理的配慮(回答者の署名

を求めない・プライバシーの厳守)を説明し、同意をした者のみから回答を得た。なお、本調査の実施については、本学倫理委員会の了承を得ている。

表1 加濃式社会的ニコチン依存度調査票(Kano Test for Social Nicotine Dependence:KTSND)

表2 受動喫煙寛容度

質 問 回 答(点数)

タバコを吸うこと自体が病気である そう思う(0)ややそう思う(1)あまりそう思わない(2)そう思わない(3)

喫煙には文化がある

そう思う(3)ややそう思う(2)あまりそう思わない(1)そう思わない(0)

タバコは嗜好品(しこうひん:味や剌激を楽しむ品)である

喫煙する生活様式も尊重されてよい

喫煙によって人生が豊かになる人もいる

タバコには効用(からだや精神に良い作用)がある

タバコにはストレスを解消する作用がある

タバコは喫煙者の頭の働きを高める

医者はタバコの害を騒ぎすぎる

灰皿が置かれている場所は、喫煙できる場所である

配点は右側カッコ内の点数、10問30点満点とした。

質 問 回 答(点数)

他人の吸ったタバコの煙は不快である

そう思う(0)ややそう思う(1)あまりそう思わない(2)そう思わない(3)

他人の吸ったタバコの煙は健康に非常に良くない

タバコを吸う人は周囲の人に受動喫煙をさせないよう気をつけるべきだ

他人の吸ったタバコの煙も良い香りがするときがある

そう思う(3)ややそう思う(2)あまりそう思わない(1)そう思わない(0)

受動喫煙に神経質になりすぎると、喫煙者との人間関係を壊すので、多少は我慢が必要である

飲食店などで、厳しく受動喫煙対策をすれば、売り上げに影響するので、ほどほどでよい

質問紙では受動喫煙に対する態度についての質問を用意し、点数化して「受動喫煙寛容度」とした。配点は右側カッコ内の点数、6問18点満点とした。

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大学初年次生の喫煙経験と意識についての調査

結 果対象者合計397人に対して、回答者は、2014年

度193人(男性:27人14.0%、女性:165人85.5%、性別不明1人0.5%)、2015年度192人(男性:27人14.1%、女性:165人85.9%)の合計385人から回答を得た(回収率:97.0%)。喫煙者に対する設問(1日あたりの喫煙本数、喫煙歴)については正確に把握できなかった。回答者背景(表3)について、性別では女性が330人(83.1%)、男性が54人(13.6%)であった。また学科別では社会福祉学科101人(25.4%)、看護学科99人(24.9%)、児童学科93人(23.4%)、栄養学科87人(21.9%)の順であった。喫煙状況では「もともと習慣的に吸うことはない」が364人(91.7%)、「以前習慣的に吸っていたことがあるが現在は吸わない」と「現在、習慣的に吸っている」が各2人(0.5%)であった。また喫煙経験では「全くない」が362人(91.2%)、「ある」が19人(4.8%)であった。両親の喫煙状況については、「両親吸っていない」が188人(47.4%)と最も多く、「どちらか一方喫煙」が125人(31.5%)、「両親喫煙」が43人(10.8%)の順であった。

学生の喫煙経験の有無と両親の喫煙の状況について、現在の喫煙状況が不明/無回答のデータを除外したうえで解析を行った(表4)。喫煙経験のある学生は、15人(4.1%)であった。現在喫煙している父親は135人(40.3%)、現在喫煙している母親は67人(18.6%)だった。両親の喫煙については、どちらとも喫煙していないが約半数近くで最も多く(48.6%)、両親どちらか一方の喫煙(32.6%)、両親どちらとも喫煙(11.1%)、どちらか両方わからない(7.6%)の順であった。学生の喫煙経験と両親の喫煙の関係には有意差はみられなかった。属性とKTSNDについては、KTSNDの総合点が

計算できないデータを除外して、属性と受動喫煙寛容度については、受動喫煙寛容度の総合点が計算できないデータを除外してそれぞれ比較を行った(表5)。KTSNDの点数は年度による有意差はみられなかったが、2015年度の点数が高く、受動喫煙寛容度の点数は年度を比較すると、2015年度が有意に高かった。性別の比較については、KTSNDの点数、受動喫煙寛容度の点数の両方とも男性が有意に高かった。学科別の比較については、KTSNDの点数、

図1 質問紙

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大学初年次生の喫煙経験と意識についての調査

表3 回答者背景

表4 学生の喫煙経験と両親の喫煙:n(%)

表5 属性とKTSND、受動喫煙寛容度

属 性 項 目合計人数397

n(%)性別 男性 54(13.6)

女性 330(83.1)不明/無回答 13(3.3)

学科別 栄養学科 87(21.9)看護学科 99(24.9)社会福祉学科 101(25.4)児童学科 93(23.4)不明/無回答 17(4.3)

喫煙状況 もともと習慣的に吸うことはない 364(91.7)以前習慣的に吸っていたことがあるが現在は吸わない 2(0.5)現在、習慣的に吸っている 2(0.5)不明/無回答 29(7.3)

喫煙経験 ある 19(4.8)全くない 362(91.2)不明/無回答 16(4.0)

両親の喫煙状況 両親喫煙 43(10.8)どちらか一方喫煙 125(31.5)両親吸っていない 188(47.4)両方わからない/片方わからない 29(7.3)不明/無回答 12(3.0)

あり なし学生の喫煙経験 15(4.1%) 349(95.9%)

現在喫煙 現在非喫煙父親の喫煙 135(40.3%) 200(59.7%)母親の喫煙 67(18.6%) 293(81.4%)

両方現在喫煙 一方現在喫煙 両方現在非喫煙 どちらか/両方わからない両親の喫煙 41(11.1%) 120(32.6%) 179(48.6%) 28(7.6%)

n KTSND P n 受動喫煙寛容度 P

年度2014 184 11.0

ns183 3.5 0.004

2015 188 11.6 190 4.4

性別男性 51 12.8

0.03352 4.6 0.027

女性 320 11.0 321 3.8

学科

栄養 85 11.5 85 4.4看護 96 11.8 0.032 96 3.8 0.015社会福祉 97 11.8 97 4.3児童 90 9.8 91 3.2

年度と性別の比較はMann-Whitney U検定、学科別の比較はKruskal-Wallis検定およびDunnの検定法を用いた(*:P<0.05)。

* * *

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大学初年次生の喫煙経験と意識についての調査

受動喫煙寛容度の点数の両方とも学科間で有意差がみられた。そのうちKTSNDの点数は、社会福祉学科と児童学科(p=0.049)で有意差があった。男性および不明を除く女性のみで学科間を比較したところ有意差が認められなかった。一方、受動喫煙寛容度の点数は、栄養学科と児童学科(p=0.026)、社会福祉学科と児童学科(p=0.040)でそれぞれ有意差があった。男性および不明を除く女性のみで学科間を比較したところ栄養学科と児童学科(p=0.006)で有意差が認められた。喫煙状況、喫煙経験、両親の喫煙とKTSND10、受動喫煙寛容度については、表5と同様に各総合点が計算できないデータを除外してそれぞれ差があるか比較した(表6)。喫煙状況については有意差が認められなかったが、現在喫煙している群はいずれもの点数が相対的に高かった。学生の喫煙経験はいずれもの点数を有意に高めていた。また、母親の喫煙はKTSNDの点数を有意に高めていた。

考 察本学でいままで行われた学生を対象にした調査結

果では、非喫煙者が大多数であることが明らかとなっている 5, 6)。本研究は、初年次学生(法律で喫煙することが禁止されている未成年)を対象とした調査であったため、喫煙率はかなり低かった。本学は敷地を含め全面禁煙であるが、アルバイトなどの学外での活動で喫煙するまたは受動喫煙の機会があるた

め、喫煙するきっかけとなることや健康被害につながることが無視できない。中学生や高校生(未成年)の喫煙の動機は、「好奇心」や「何となく」が多いことが知られているが、大学生の喫煙行動に関しては、友人が大きく影響していることが報告されている 7)。また、喫煙行動に関するForchukらの研究では、ストレスなど他の要因が影響を与えていることが示されている 8)。本学の地理的なアクセスの条件から、近辺の下宿、寮やアパートなどで一人暮らしをする学生が8割を超えており、特に初めて郷里を離れて暮らすことが大きなストレスになると推察される。また地理的条件により、同年代の青年はほとんどが本学の学生であり、学内で互いに影響しあう可能性が高い。そのため、サポートが必要となると思われる。

KTSNDは、「喫煙の効用の過大評価(正当化・害の否定)」および「嗜好・文化性の主張(美化・合理化)」を定量化(得点化)する質問群から成り、KTSNDは30点満点で9点以下を正常と定義している 9)。吉井他や中村他が行った研究の平均的なKTSNDの点数は、喫煙者17~19点、前喫煙者12~15点、非喫煙者8~12点となっていることから10, 11)、本学は平均点数11.3であったが、非喫煙者の中では高いほうであった。統計的に有意差はなかったが、現在喫煙している群は、喫煙していない群よりも点数が2.8高かった。一方、喫煙経験のある群は、経験ない群と比較して点数が3.5有意に高かった。無回答数から

表6 喫煙状況、喫煙経験、両親の喫煙とKTSND、受動喫煙寛容度

n KTSND P n 受動喫煙寛容度 P

喫煙状況現在喫煙している 2 14.0

ns2 6.0

ns現在喫煙していない 354 11.2 356 3.9

喫煙経験あり 17 14.7

0.00917 5.8

0.001なし 352 11.2 353 3.8

父親の喫煙現在喫煙している 138 11.7

ns131 3.9

ns現在喫煙していない 205 11.1 201 4.0

母親の喫煙現在喫煙している 67 12.4

0.03766 4.3

ns現在喫煙していない 296 11.1 300 3.8

両親の喫煙

両親どちらとも喫煙 41 12.3

ns

40 4.5

ns両親どちらか一方の喫煙 123 11.7 122 3.7両親どちらも喫煙していない 183 11.0 186 4.0どちらか/両方わからない 25 10.1 25 4.1

喫煙状況、喫煙経験、父親の喫煙、母親の喫煙別の比較はMann-Whitney U検定、両親の喫煙別の比較はKruskal-Wallis検定およびDunnの検定法を用いた。

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大学初年次生の喫煙経験と意識についての調査

過去に比べて現在の喫煙状況を正直に答えづらかったことが影響していると推察される。喫煙に関わる行動に対しての許容率は、女子学生よりも男子学生が高く12)、性別での比較においては、男性の点数が1.8有意に高かった。学科間の有意差に関しては、全学科のなかで社会福祉学科は男性の割合が最も高く、児童学科は女性の割合が最も高いため、男女構成比率の影響を受けたと考えられる。受動喫煙寛容度については、本学は平均点数3.95

であった。属性の中では2014年度と2015年度の間で有意差があったが、男女および学科の比率はほぼ同じであったため要因がわからなかった。特殊な要因によるものなのかまたは誤差の範囲であるのか、今後の調査継続で明らかになるものと思われる。性別での比較においては、男性の点数が0.8有意に高かった。また、学科間の有意差に関しては、全学科間の男女構成比率の影響を受けたこと、特に児童学科の学生は、「子育ての専門家」になることを志すため、受動喫煙に対する寛容度が低かったと考えられる。これらの要因以外について検討していく必要がある。両親の喫煙状況については、本研究では正確な年代を把握していないため、他の調査と比較することが難しい。しかし男女全体の喫煙率に着目した場合、全国の喫煙率の統計から男女とも減少傾向であることがわかっているが 13)、本学学生の両親の喫煙率は平成25年度の男女別全国平均(男性:31.5%、女性:9.5%)よりも高かった。また平成27年度の男女別北海道の喫煙率は平均男性:32.6%、女性:15.6%で全国より高めであるが 14)、本学学生の両親はいずれもさらに高かった。本研究では、両親の喫煙状況では、喫煙につい

ての意識調査であるKTSNDの点数については統計的な有意差がなかったものの、「両親どちらとも喫煙」、「両親どちらか一方の喫煙」、「両親どちらも喫煙していない」の順にKTSNDの点数が低くなっており、両親がどちらとも喫煙している学生は、喫煙に対してやや寛容となる傾向がみられた。学生の父親の喫煙状況は、KTSNDの点数に大きな影響を及ぼしていない。一方、柳生らの研究では 15)、母親が喫煙者の場合、喫煙に対してやや寛容となることが報告されており、本研究でも母親が喫煙している場合、KTSND点数が有意に高くなっていた。母親の喫煙率の高さは、さまざまな家庭の事情、勤務等による

ストレスなどの要因が考えられる。今後母親の職業や勤務状況も調査、分析していく必要がある。両親が非喫煙者の家庭において、特に母親が強い

反喫煙の姿勢を示している場合は、思春期の子どもの喫煙が約半減すると報告されている 16)。いくつかの研究では、女子学生の喫煙と母親の喫煙と強い関連が指摘されている 17, 18)。したがって、入学初年次の学生にも、母親の喫煙に対する考えや意識が強く影響していると考えられ、このことがKTSNDの点数に反映されたものと推察される。受動喫煙寛容度については、統計的に有意差はな

かったが、現在喫煙している学生は、喫煙していない学生よりも受動喫煙寛容度の点数が2.1高かった。一方、喫煙経験がある群は、経験のない群と比較して点数が2.0有意に高かった。両親の喫煙状況では、受動喫煙寛容度の点数に有意差は認められなかった。アルバイト職場での受動喫煙に関する研究では、学年が進むほうが有意にKTSND、受動喫煙寛容度とも高く、学年とともに喫煙に寛容で、受動喫煙を我慢するようになることがわかった 6)。本研究では、初年時学生のみ対象としているため、これまでに受動喫煙の本当の害についての教育を正式に受ける機会がなく、知識が不足していること、アルバイトなどの社会との接点がまだ少なく、通常の日常生活における受動喫煙に対する意識の低さがあるものと考えられる。大学生を対象とした教育に関する八杉、山本、細見、北らの研究では、禁煙、タバコ、喫煙に関する講義を行うことによって、喫煙の害についての意識の向上や喫煙の防止効果があると報告されている19~22)。さらに受講回数が増えた場合、喫煙に関連する疾患の認知度が上昇するなどの効果がある 23)。「未成年者喫煙禁止法」もあり、大部分が未成年である初年次学生は、比較的喫煙率は低い。しかし、20歳を過ぎると喫煙行動へ移行する大学生が増えると報告されている 24, 25)。20歳を境に行動変容ステージが変化することが予測されることから、その年齢周辺で、積極的な喫煙防止、禁煙教育などの介入を行うことが受動喫煙の予防、喫煙行動への抑止につながっていくと考えられる。

本研究は、質問紙の作成の際、質問数を限定して答えやすい工夫を行い、さらに記入ミスや集計ミスを防ぐため、回答用マークシートを使用した。その

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大学初年次生の喫煙経験と意識についての調査

結果、高い回収率が得られたので、結果を分析するには数のうえでは十分であったと思われる。しかし、学生の自己申告による自記式質問調査であることや質問によっては率直に答えづらい質問も含まれていたため、無回答が増えるなどの問題があり、回答の信頼性には限界がある。本学初年次学生の意識を完全に反映することができたか疑問も残るため、質問紙の構成や回答の精度を高めるための工夫が必要である。

結 論本学初年次学生の喫煙率は非常に低かった。母親

の喫煙は学生の喫煙に対する意識に影響することが確認された。また喫煙経験がある学生は、喫煙することや受動喫煙に対して寛容である傾向があるため、20歳になった時に喫煙行動へ移行する可能性があると推察される。大学では学生に対し、禁煙教育、受動喫煙防止対策、生活習慣の指導、「未成年者喫煙禁止法」の意義などの教育を実施していく必要がある。大学は一般市民に対しても知識の普及をしていく使命がある。地域社会全体で喫煙を容認しない文化の醸成を図るため、学生、教職員全体での取り組みが重要となる。

引用文献1) 村松園江 : 女子学生の喫煙について . 東海学園大学紀要 1976; 11: 35-41.

2) 栗岡成人 , 稲垣幸司 , 吉井千春 , ほか : 加濃式社会的ニコチン依存度調査票による女子学生のタバコに対する意識調査(2006 年度). 禁煙会誌 2007; 2: 62-68.

3) 北田雅子 , 天貝賢二 , 大浦麻絵 , ほか : 喫煙未経験者の‘加濃式社会的ニコチン依存度(KTSND)’ならびに喫煙規制に対する意識が将来の喫煙行動に与える影響– 大学生を対象とした追跡調査より–. 禁煙会誌 2011; 6: 98-107.

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Page 8: 大学初年次生の喫煙経験と意識についての調査煙学 12巻第1 21年(2年)2月2日 6 大学初年次生の喫煙経験と意識についての調査 結 果 対象者合計397人に対して、回答者は、2014年

日本禁煙学会雑誌 第12巻第1号 2017年(平成29年)2月28日

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大学初年次生の喫煙経験と意識についての調査

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A survey on smoking experience and awareness among university first-year students

Daisuke Ogino1, Hiroki Ohmi2, Martin Meadows1

AbstractPurpose: This study investigated whether differences in awareness of and attitudes towards smoking and sec-ond-hand smoke among university first-year students were affected by students’ own personal backgrounds, particularly their own smoking experience and their parents’ smoking status. The aim of this study was to gather information for use in aiding awareness and prevention of smoking and second-hand smoke among first-year students, and advising them in issues of health care management.Method: Participants in this study were first-year students enrolled at Nayoro City University (or Junior College) in 2014 and 2015. The survey was conducted via an anonymous, self-administered, and semi-struc-tured questionnaire that included questions concerning attitudes toward smoking and second-hand smoke.Results: KTSND scores and second-hand smoke tolerance scores were significantly higher among those with smoking experience (3.5 points, 2.0 points, respectively) than among those without any smoking experience. As for the parent’s smoking status, KTSND scores among those whose mother currently smokes were 1.3 points significantly higher.Discussion: Mothers’ smoking status strongly affected students’ own smoking experience. Students with smoking experience as minors (under age 20) had an inclination to tolerate smoking behaviors and second-hand smoke. Conclusion: It is necessary to implement positive interventions at universities before students reach the age of majority at twenty years old.

Key wordsSmoking experience, Parent’s smoking status, Kano Test for Social Nicotine Dependence (KTSND), Second-hand smoke tolerance

1. Department of Liberal Arts Education, Faculty of Health and Welfare Science, Nayoro City University2. Department of Nutritional Sciences, Faculty of Health and Welfare Science, Nayoro City University