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現代社会と倫理思想(2) 2012/04/26

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現代社会と倫理思想(2)

2012/04/26

Copyright(c)2012, K. Sora, All rights reserved. 2

使用教材(教科書)

齊藤了文・坂下浩司編 『はじめての工学倫理 第2版』 (昭和堂,2005年)

価格1,470円(税込)

次回の授業:5/10(木)に持ってくる

ケーススタディ:ゴルフ

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ポール…ブルーストーン社の製造技術者 下請け業者と定期的に会っている ゴルフが趣味 ダンカン…ポールが接する業者の1人 ポールが行きたいゴルフコースの会員

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ポールの選択

1. ダンカンからのゴルフの誘いを受けるかどうか 2. 次回の招待の誘いを受けるかどうか 3. 賭けゴルフの継続をしていることは問題かどうか 4. 契約打ち切りに際して,ダンカンとの関係を周りに

伝えるかどうか 5. ダンカンの会社を打ち切ることを自分が提案する

かどうか 6. ダンカンに対して,ポールは何と言うべきか

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結果 ※昨年度受講者の反応

提出者数 1 2 3 4 5

電子システム(12)

YES(13) NO(0)

YES(13) NO(0)

YES(2) NO(11)

YES(3) NO(10)

YES(5) NO(8)

建設工学 (6)

YES(6) NO(0)

YES(6) NO(0)

YES(3) NO(3)

YES(2) NO(4)

YES(6) NO(0)

総計 (19)

YES(19) NO(0)

YES(19) NO(0)

YES(5) NO(14)

YES(5) NO(14)

YES(11) NO(8)

ゴルフの誘いを受けることは問題があるとは見ていない。

賭けについては問題がある。

ダンカンとの関係を周囲に伝えないが,ダンカンの会社を打ち切ることを提案する。

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この事例が提起する倫理的問題 会社に仕える社員として、私的な関係、感情を仕事に持ち込むことが適切であるかという倫理的問題。 今回の場合、客観的に見れば取引をやめざるを得ない顧客と私的な友好関係が非常に固く結ばれていたため、決断を悩ませるという非常に難しい問題である。 非常にドライな人間であれば、仕事は仕事、私情は私情と割り切って冷静に決断をできる簡単な問題である。しかし、一般的な人間であれば、親交の深い相手に対して少しでも情が出て、決断に迷いが生じる。 この時に、仕事より私情を優先させることで倫理的に反しているともいえる。私は、このような事態が生じた場合は、私情を優先したい感情が上回る恐れがあるので、その問題に対しては意見をすることなく見守る立場をとるであろうと予想できる。その結果、私的な友好関係が築かれている顧客が取引をやめさせられることになれば、それに従う結果となるだろう。 このように、その問題に対して反対はしないが、意見も述べず、丁重に顧客に対して謝罪するのが一般的な解であると考えられる。

kadai2-1

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最近の出来事を1つ取り上げ,その出来事がどのような倫理的な問題を含んでいるかを明らかにし,それについての自分の考えを論じる。 作成期限,4月26日(木)12:10まで。 提出なし。授業中に発表。

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新しい倫理

1.生命倫理 2.環境倫理 3.正義論

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1.生命倫理(バイオエシックス)の登場(1960’s後半~)

例:遺伝子治療の是非 (なぜ遺伝子治療の是非が問われるようになったのか?)

19世紀後半まで 病気の中心(=感染病)

病気の原因=「病原体」と呼ばれる微生物 病気への対策⇒消毒,殺菌,隔離

20世紀後半 病気の中心(=感染病から成人病へ)

患者=自己決定能力のある成人 治療の方針=選択の余地あり 患者の自己決定権の重視

1990年~ アメリカで遺伝子治療が成功 ⇒病気の中心(=成人病から遺伝病へ)

患者=新生児や胎児,受精卵 決定の中心の変化(主観的自己決定から客観的代理決定へ

個人から家族へ

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生命倫理に関する鍵概念 • インフォームド・コンセント • 脳死 • 安楽死 • 胎児細胞 • 遺伝子治療 • パターナリズム • クオリティー・オブ・ライフ(QOL) • クローニング • 尊厳死 • ES細胞 • 代理懐胎 • 守秘義務

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生命倫理をめぐる鍵概念 インフォームド・コンセント 医師が患者や家族に対して,治療の目的や方法,副作用や治療費などについて十分説明し,患者や家族がそれに同意すること

安楽死と尊厳死 〔安楽死〕 治療の見込みがなく苦痛が激しい末期の患者に,本人のリヴィング・ウィルや家族の同意のもと,薬物などを投与して積極的に死を早めること《=積極的安楽死》 〔尊厳死〕 治療の見込みがなく苦痛が激しい末期の患者に,本人のリヴィング・ウィルや家族の同意のもと,人工呼吸器や点滴などの延命措置を行わず自然な形で死を迎えさせること《=消極的安楽死》

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2.「環境倫理」の登場(1960’s~)

• 環境問題を解決するため、自然と人間との関係を倫理的観点から考察しようとする学問。

• 自然の生存権,世代間倫理,資源の有限性を主張する倫理

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環境倫理学の登場の背景

• 地球環境の悪化 資源の枯渇 環境の汚染 • 人間中心主義の態度の反省

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環境倫理学の先駆け① • アルド・レオポルド(Aldo Leopold, 1887-1948)

「これまでの倫理則はすべて,ただひとつの前提条件の上に成り立っていた。つまり,個人とは,相互に依存しあう諸部分から成る共同体の一員であるということである。個人は,本能の働きにより,その共同体のなかで自分の場を確保しようとして他人と競争をする。だが同時に,倫理観も働いて,他人との協同にも努めるのである。(中略) 土地倫理とは,要するに,この共同体という概念の枠を,土壌,水,植物,動物,つまりはこれらを総称した「土地」にまで拡大した場合の倫理をさす」

(A・レオポルド/新島義昭訳『野生のうたが聞こえる』講談社学術文庫,p.318)

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環境倫理学の先駆け②

• レイチェル・カーソン(Racel Carson, 1907-64) 「自然は,沈黙した。うす気味悪い。鳥たちは,どこへ行ってしまったのか。みんな不思議に思った。裏庭の餌箱は,からっぽだった。ああ鳥がいた,と思っても,死にかけていた。ぶるぶる体をふるわせ,飛ぶこともできなかった。春がきたが,沈黙の春だった」

(R・カーソン/青樹簗一訳『沈黙の春』新潮社,p.12)

「人類の歴史がはじまって以来,いままでだれも経験しなかった宿命を,私たちは背負わされている。いまや,人間という人間は,母の胎内に宿ったときから年老いて死ぬまで,おそろしい化学薬品の呪縛のもとにある」

(R・カーソン/青樹簗一訳『沈黙の春』新潮社,p.24)

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環境倫理の鍵概念

① 資源の有限性 ② 土地倫理 ③ 世代間倫理

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① 資源の有限性

• 地球の生態系という有限空間では、原則としてすべての行為は他者への危害の可能性をもつので、倫理的統制のもとにおかれる。

外部不経済 =まだ誰の財産でもない資源の枯渇も、誰もが所有権を放棄した廃棄物の累積も、経済的な取引関係の外部にはみだしてしまう

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② 土地倫理

図:権利拡張の年表 (加藤尚武『環境倫理学のすすめ』p.136)

現 代 土地倫理とは,共同体の概念を土地(=自然・環境)にまで拡大した

場合の倫理

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自然の権利訴訟

《事件の概要》 奄美大島に生息する希少動物種を原告として、住用村ゴルフ場開発及び龍郷町ゴルフ場開発に伴う、森林法一〇条の二に基づく林地開発行為の許可処分の取消し及び無効確認を求めた事案。

近年の日本での裁判(自然の権利訴訟) ・日光太郎杉訴訟(太郎杉の法的人格が承認された) ・諫早湾の干拓工事をめぐるムツゴロウ裁判

アマミノクロウサギ訴訟(1995~)

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土地倫理と動物解放論

「物事は,生物共同体の全体性,安定性,美観を保つものであれば妥当だし,そうでない場合は間違っている」

( A・レオポルド/新島義昭訳『野生のうたが聞こえる』講談社学術文庫,p.349)

「環境ファシズム」(=全体論)と非難される。

土地倫理(全体主義)の主張

• 非人道的な食用動物の飼育方法への非難 • 動物実験のあり方への非難

動物解放論(個体主義)の主張

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世代間倫理(intergenerational ethics)

• 未来世代に対するわれわれの義務や責任を問うもの。

• 未来世代に対して我々はどのようにふるまうべきなのか?

現代のわれわれに対して,資源や富の使用の自主的な制限を要求する

(現代世代への制限・差別の可能性)

必然的に引き起こされる問題

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世代間倫理の諸問題

• 未来世代に対する倫理的義務は果たしてあるのか?

未来は不確定であり,パターナリズム(温情主義)である?

倫理とは「互恵性」の原則の上に成立するものだから,義務はない?

それぞれの世代は自力で難局を乗り越えていくべき?

・J・ロールズの「無知のヴェール」の正義の考え方からはどうだろう?

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J・ロールズによる正義の原理 「無知のヴェール」(veil of ignorance) 「当事者は,ある種の特定の事実を知らないと仮定する。 ①自分の社会における位置とか階級上の地位とか社会的身分

を誰も知らない。 ②生来の資産や能力の分配に関する自分の運,つまり自分の

知性や体力等々についても知らない。 ③自分の善の概念とか,自分の合理的な人生計画に特有の事

項とか,危険回避度あるいは楽観論に陥りやすいかといったような自分の心理に独特の特徴でさえも,誰も知らない。

④自分の属す社会に特有の環境についても知らない 原初状態にある人は,⑤自分がどの世代に属すかについての

情報を何ももっていない」 (ジョン・ロールズ/矢島鈞次訳『正義論』紀伊国屋書店,1979年,p.105)

どの人も自分がどのような人であるかを知らないため,貧富の差が大きくなるような原理を避ける

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J・ロールズの正義論

原初状態 「無知のヴェール」をかぶせられ,自分の能力や属性を知らない状態

公正としての正義 第一原理…平等な自由の原理 各人は基本的な自由に対する平等な権利をもつ 第二原理…実際に生じる不平等の条件 社会的・経済的不平等は次の2条件を満たすものでなければならない。 ①公正な機会均等の原理 全員に平等な機会を与え,公正に競争した結果の不平等であること ②格差の原理 社会で最も不遇な人々の境遇を改善するための不平等であること

功利主義(結果主義)に対する批判 功利主義(幸福の最大化を目指す)の原理は個人の多様性が損なわれる。

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ロールズへの批判 例:アマルティア=センの「潜在能力(capability)」 ・功利主義は社会全体の満足度の増大を目指し分配のことを

考えない。 ・ロールズの正義論は分配の平等は考えるが,財の分配のみ

を考えるので,各人のニーズが異なることを捉えきれない。 → 「何を実現したのか」「何を実現しうるか」という人生の選択

肢の幅=「潜在能力(capability)」で平等を測るべき 例:貧困問題 貧困状態にある人が豊かになるには,所得を増やすだけで

は不十分で,基本的な潜在能力を持たせ,人生の選択肢を広げることが必要 ⇒ 識字率や衛生状態の向上が必要

Kadai2 (2-1を踏まえて)

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最近の異なる出来事を2つ取り上げ,それらの出来事がどのような倫理的な問題を含んでいるかを明らかにし,そこから見えてくる現代社会の課題についての自分の考えを論じる。 課題は,メールに添付したワード書式を利用。 提出期限,5月1日(火)19:00まで。