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大阪大学大学院薬学研究科 分子生物学分野 准教授 櫻井 文教 組織線維化を治療可能なウイルス製剤

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大阪大学大学院薬学研究科 分子生物学分野

准教授 櫻井 文教

組織線維化を治療可能なウイルス製剤

組織線維化とは?①“障害によって炎症状態になった組織において、Transforming Growth Factor-b

(TGF-b)などの液性因子によって活性化した線維芽細胞が、コラーゲンなどの細胞外マトリックスを過剰に産生することによって、組織の機能不全や破壊が

引き起こされる現象“

Wynn et al., J. Clin.Invest., 2007

①組織障害

②血小板凝集&

サイトカインの分泌

➂炎症応答④線維芽細胞の浸潤と活性化

⑤コラーゲンなどの細胞外マトリックス

の蓄積

臓器の機能不全癌化

組織線維化とは?②組織線維化は、様々な組織で起こり、疾患の原因となっている。

・肝臓・腎臓・肺・小腸・骨髄・皮膚・心臓・脂肪組織 ・・・etc

組織線維化は、創薬における重要な標的疾患である。

従来技術とその問題点<従来の組織線維化治療薬>

肝線維化 インターフェロン製剤小柴胡湯ウルソデオキシコール酸 ・・・etc

肺線維化 ピルフェニドンオフェブ

・十分な治療効果が得られない・副作用を示す・肝硬変そのものを治療できる薬剤は開発されていない

患者が存在する

<問題点>

レオウイルスとは?①

レオウイルス(哺乳類オルソレオウイルス)

小林剛、ウイルス、第64巻 第2号

約80 nm

・直径約80nmの正二十面体構造を持つウイルス粒子

・10本の二本鎖RNAをゲノムに持つ非エンベロープウイルス

・ヒトの呼吸器や消化器を主な感染部位とするが(ほぼ全ての成人が感染歴あり)、特に病原性を持たない

レオウイルスとは?②

T1 Lang (T1L)

T2 Jones (T2J)

T3 Dearing (T3D)

T3 Abeny (T3A)

レオウイルスは、現在4種類の血清型が同定されている。

このなかで、T3Dが腫瘍溶解性ウイルスとして臨床応用されている。

腫瘍溶解性ウイルスとして利用されるレオウイルスレオウイルス(T3 Dearing株)は、抗癌剤(腫瘍溶解性ウイルス)として臨床試験が世界各国で行われている。

腫瘍溶解性ウイルスとは?

癌細胞

正常細胞 ウイルス感染しない

腫瘍溶解性ウイルス

Nande et al., Oncolytic Virotherapy, 2015 改変

正常細胞では感染せず、癌細胞でのみ特異的に感染・増殖することで癌細胞を死滅させるウイルス。

高効率なウイルス感染による癌細胞の破壊

レオウイルスのヒトにおける安全性は、確立されている

レオウイルスは、Phase IIIを含め、世界各国で各種癌に対する臨床試験(30プロトコール以上;主にOncolytic Biotech社)が実施されている。

ほとんどの場合、レオウイルスは腫瘍内投与、もしくは静脈内投与されている。臨床試験においては軽度の副作用しか報告されていない。

臨床試験において報告された副作用・好中球減少・血小板減少・発熱・下痢

肝線維化とは?①

元山ら、医学の歩み、240巻9号 2012年

肝細胞

活性化星細胞

静止期の星細胞

Kupffer細胞

肝線維化とは?②・アルコール性肝炎

日本で200~300万人

・ウイルス性肝炎(B型、C型肝炎)B型肝炎;日本で100~150万人、全世界で3~4億人(キャリア)C型肝炎;日本で190~230万人、全世界で1億3000万人(キャリア)

・非アルコール性肝炎(NAFLD、NASH)日本で100~300万人、アメリカで約850万人

肝線維化

肝硬変・肝癌

ヒト肝星細胞株に対するレオウイルスの線維化抑制効果①

Reovirus作用時の細胞生存率LX-2細胞(ヒト肝星細胞株)

1day

TGF-b 添加2ng/ml

12hrs

Reovirus作用MOIs 0~20

2days

細胞生存率線維化マーカーの

発現解析

Reovirusによる顕著な細胞生存率の低下は観察されなかった。

0

20

40

60

80

100

120

mock 2.5 5 10 20

***

**

Cell v

iab

ilit

y(%

)

Reovirus (MOIs)

* P<0.05, ** P<0.01

ヒト肝星細胞株に対するレオウイルスの線維化抑制効果②

線維化マーカーの発現 * P<0.05, ** P<0.01, *** P<0.001(Student’s t-test)n=4

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

mock Reo

Rela

tive

gene

exp

ress

ion

a-SMA**

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

mock Reo

COL1A1

***

mock レオウイルス

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

Reovirusにより線維化マーカーの発現が低下した

0

0.4

0.2

1.0

0.6

0.8

1.4

1.2

COL1A1a-SMA

mock レオウイルス

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

Rel

ativ

e m

RN

A le

vels

(vs.

Moc

k)

COL1A1 (Type I collagen)

Mock Reovirus(MOI20)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2R

elat

ive

mR

NA

leve

ls

(vs.

Moc

k)

Mock Reovirus(MOI20)

a-smooth muscle actin(a-SMA)

Cel

l via

bilit

y(%

of c

ontr

ol)

020

406080

100

120

Mock 10020Reovirus (MOI)

TGF-bで活性化したヒト肺線維芽細胞に対するレオウイルスの線維化抑制効果

MRC-5細胞(ヒト肺線維芽細胞)

1day

TGF-b 添加2ng/ml

12hrs

Reovirus作用MOIs 0~20

2days

細胞生存率線維化マーカーの

発現解析

線維化マーカーの発現

細胞生存率

肝線維化モデルマウスに対するレオウイルスの線維化抑制効果①

CCl4(四塩化炭素)0.6ml/kg i.p.

2回/week

C57BL6 6週齢 ♂

4weeks

Reovirus1.0x108PFU/mouse i.v.

CCl41week

肝臓採取

肝臓組織切片の観察

通常のマウスCCl4処置マウス(PBS投与群)

CCl4処置マウス(レオウイルス投与群)

肝線維化モデルマウスに対するレオウイルスの線維化抑制効果②

CCl4(四塩化炭素)0.6ml/kg i.p.

2回/week

C57BL6 6週齢 ♂

4weeks

Reovirus1.0x108PFU/mouse i.v.

CCl41week

肝臓採取

肝臓組織切片の観察

線維化マーカーの発現 * P<0.05, ** P<0.01(Student’s t-test)n=4

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

PBS Reo

相対的発現量

a-SMA*

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

PBS Reo

TIMP1**

mock レオウイルス

mock0

0.5

1.0

1.5

2.0

3.0

2.5

0

1.0

0.5

1.5

2.0

2.5

レオウイルス

0

0.5

1.0

1.5

2.5

2.0

Mock UV照射Reovirus

a-smooth muscle actin

Rel

ativ

e mR

NA

leve

ls

TIMP-1

0

0.5

1.0

1.5

2.0

Rel

ativ

e mR

NA

leve

ls

Mock UV照射Reovirus

UV照射レオウイルス

UV照射レオウイルス

a-smooth muscle actin(a-SMA)

TIMP1

肝線維化モデルマウスに対するレオウイルスの線維化抑制効果➂相対的遺伝子発現量

UV照射により感染能を消失したレオウイルスにおいても線維化抑制効果が観察された

本技術の特徴・従来技術との比較従来の組織線維化治療薬

優れた薬効を示す薬剤は極めて少なく肝炎そのものを治療できる薬剤は開発されていない

・すでに抗癌剤として臨床開発が進められているレオウイルスが組織線維化を治療しうることを見出した。

・遺伝子組換えウイルスではないため、カルタヘナ法の対象とはならない。(バイオセーフティレベル2)

・既に大量産生系が確立されている。

・抗腫瘍効果を有することから、線維化を原因とした癌化も抑制できる。

想定される用途

各種組織線維化に対する治療薬(特に肝線維化・肺線維化)

実用化に向けた課題

・現在、四塩化炭素による肝線維化モデルマウスを用いて検討している。その他の組織線維化に対する効果は今後検討予定である。

・組織線維化の患者における安全性(癌患者に対する臨床試験は数多く行われているが、組織線維化患者に対する安全性は確立されていない。)

企業への期待

・医薬品としての開発に向けて、共同研究を期待します。

本技術に関する知的財産権

【発明の名称】 線維化を治療するための医薬組成物

【出願番号】 特願2016-27202

【出願人】 国立大学法人 大阪大学

【発明者】 櫻井 文教、水口 裕之

お問い合わせ先【ライセンスに関して】大阪大学・産学連携本部・総合企画推進部担当 安原利正TEL 06-6879-4206FAX 06-6879-4208Email [email protected]

【技術内容に関して】大阪大学大学院薬学研究科・分子生物学分野准教授 櫻井 文教TEL 06-6879-8188FAX 06-6879-8186E-mail [email protected]