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6 立石信雄賞 - 山中 舜
<要約> 私が創業するとしたら、「事業承継を考えたこともない人」に人生の選択肢の一つとして「跡継ぎ」を提案するマッチングサービス・後継者プラットフォームサービスを行いたい。大きく分けて理由が3点ある。1点目は「2020 後継者問題」
「大量引退時代」と言われる状況があること。2点目は「人生 100 年時代」において、長く働ける経営者は「長すぎる老後」に備える魅力的な選択肢の1つになること。そして3点目に、他業界で働いていた後継者が異なる常識を持ち込むことにより、新規事業のアイデアを生み出し「第二創業」「ベンチャー型企業承継」
「Renovation」した事例が多く存在していることである。
1.従来型の中小企業承継の取り組み 現在、日本において中小企業事業承継は官民を問わず重要な問題として受け止められている。「2025 年には6割以上の中小企業で経営者が 70 歳を超え、このうち 2017 年時点で後継者が決まっていない企業が 127 万社ある。 休業・廃業や解散をする企業の5割は経常損益が黒字だ。廃業の増加によって2025 年までの累計で、約 650 万人の雇用と約 22 兆円の国内総生産(GDP)が
立石信雄賞
人生 100 年時代に~後継者という働き方の提案~
氏名 山中 舜年齢 23 歳所属 日本大学商学部
失われる可能性がある」と経済産業省が試算している。 そのため、経済産業省中小企業庁も「事業承継 5 ヶ年計画」をたて、事業承継税制の改革から始まり、事業引継ぎ支援センターの立ち上げ、商工会議所などとも連携したマッチングなど大々的に取り組みを進めている。 また、最近注目を集めているサービスとして、M&A仲介サイト「TRANBI(トランビ)」や「ビズリーチ・サクシード」が挙げられる。個人・法人問わず、事業承継を考える中小企業が譲渡希望価格などの自社情報を無料でネットに登録でき、買い手企業も無料で閲覧できるサービスである。 しかし、これらのサービスは「自発的に」窓口を訪れたり、後継者募集サイトに登録したり「既にやりたい人」に対する承継を補助する仕組みである。
2.私の提案:人生 100 年時代こそ「後継者」としての魅力を これまで「事業承継を考えたこともない人」に人生の選択肢の一つとして提案す る 仕 組 み が 整 っ て い な か っ た と 考 える。私が提案したいのは「スカウト・オファー型」の転職サービスと事業承継候補者探しを同時に扱い、転職を考える人
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が人生の選択肢の一つとして、自然と事業承継を考えるサービスである。 「後継者」に魅力がなければ転職の選択肢となることは出来ない。2017 年、流行語ともなる社会現象を起こした本が出版された。リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット氏による『LIFE SHIFT』だ。テーマは「100 年時代の人生戦略」である。著者の一人であるリンダ・グラットン氏は、政府の「人生100 年時代構想会議」に有識者議員となっている。 一つの企業に勤め上げるのではなく転職が当たり前になり、「人生 100 年時代」と言われる今、60 歳から定年後の 40 年をどう過ごすかを考えた時、「いくらもらえるのか」と同時に「何歳まで働けるのか」が重要になってくる。「何歳まで働けるのか」を考えたとき、中小企業の経営者は、身を引くタイミングを自分で決めることができ、後進に譲ったあとも顧問・会長職として働くことが多い「経営者」は、魅力的な選択肢となってくる。
3.思いもよらぬ第二ステージ、そして長い視点を大切に そこで、私は「事業承継を考えたこともない人」に、思いもよらぬ人生の第二ステージとして「跡継ぎ」を提案するマッチングサービスを考えた。 すでに事業の承継を諦め、自発的に後継者を探していない経営者も多く、政府や銀行、全国の商工会議所、昔ながらの仲介業者とも連携しながら、後継者を探すことをこちらから促していくことも必要と考えられる。一方で、旅館を引き継いでから経営と所有を分離させた「星野リゾート」、工具卸の仕入れネットワークを引き継いだネット型ホームセンターの「大都」など「第二創業」「ベンチャー型事業承継」「Renovation」の事例も少
人生 100 年時代に ~後継者という働き方の提案~
なくない。 前項で述べたような魅力や、承継できる有形・無形経営資源を提示できる仕組みがこれまでほとんどなかった。これをきちんと作れば、今後ますます大きくなる で あ ろ う 転 職 の 需 要 を 取 り 込 む こ とで、十分実現可能であると考える。 引き継いだ後も、そこで終わるのではないサービスを作る。大切なのは長い視点である。転職した人同士の交流サイトやコ・ワーキングスペースのようなものを作り、悩みの相談から、次の転職者に助言をしたり、新規事業のための情報交換をしたりできる後継者同士のプラットフォームを構築したい。 「転職先の選択肢の一つとして事業承継を考える社会」の実現により、「転職者が持つ異文化の取り入れ」からくる「創業」と、先人たちが積み上げて来たものの「守成」の両方を成し遂げる一助になれるのではないかと考える。
(参考文献一覧)・リンダ・グラットン , アンドリュー・ス
コット(池村千秋訳),(2016),『LIFE SHIFT』, 東洋経済新報社
・中小企業庁「事業承継 5 ヶ年計画」http://www.osakahyogokouso.or.jp/wp-content/uploads/2017/02/jigyo1.pdf(最終閲覧日2018/06/10)
Society for Advancement of Management