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創傷とともに生きる方の ウェルビーイングを 向上するために エキスパートワーキンググループによるレビュー INTERNATIONAL CONSENSUS 疼痛 悪臭 恥辱 STIGMA孤独 恐怖 不安 罪悪感 いらだち

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  • 創傷とともに生きる方のウェルビーイングを向上するために

    エキスパートワーキンググループによるレビュー

    INTERNATIONALCONSENSUS

    疼痛

    悪臭

    恥辱 (STIGMA)

    孤独

    恐怖

    不安

    罪悪感

    いらだち

  • 2 | INTERNATIONAL CONSENSUS

    MANAGING EDITOR Jason Beckford-Ball

    PUBLISHER:Kathy Day

    翻訳監修 松崎恭一川崎市立多摩病院 形成外科部長聖マリアンナ医科大学 形成外科准教授真田弘美東京大学大学院医学系研究科 健康科学・看護学専攻老年看護学/創傷看護学分野教授玉井 奈緒 東京大学大学院医学系研究科・医学部 ライフサポート技術開発学(モルテン)寄附講座特任助教PUBLISHED BY:Wounds International Enterprise House 1–2 Hatfields London SE1 9PG, UK Tel: + 44 (0)20 7627 1510 Fax: +44 (0)20 7627 1570 [email protected] www.woundsinternational.com

    © Wounds International 2012

    Supported by Smith & Nephew. The views expressed are those of the authors and do not necessarily reflect those of Smith & Nephew.

    How to cite this document: International consensus. Optimising wellbeing in people living with a wound. An expert working group review. London: Wounds International, 2012. Available from: http://www.woundsinternational.com

    まえがき2011年2月、南アフリカのケープタウンに創傷治療の医療従事者と研究者が集まり、いかにして有効な創傷ケアを行い、創傷をもつ患者のウェルビーイングを向上させることができるか、その枠組みを構築するための議論がなされた。会議では単に創傷治療の質だけではなく、創傷を持つ患者の負担ならびにウェルビーイングを向上させるための臨床家、医療関連企業、および医療機関の役割について話し合われた1。その後、2011年5月に、欧州、米国、オーストラリアからさまざまな経験と知識を持つ医学、看護関連の医療従事者や企業研究者など主要専門家がベルギーのブリュッセルに集まり、コンセンサス会議が開かれた。このコンセンサス会議の後、草案が作成され、専門家ワーキンググループにより詳細に審査された。地域によって異なる慣習を反映するために国際的な専門家にも意見を聞いた。最終的に、すべての声明について専門家ワーキンググループのメンバー全員が承認し、コンセンサスが得られた。2011年10月、英国リーズ大学で2つのサービスユーザーグループがワークショップを行った。ワークショップの目的は、創傷を持つ生活がいかに患者、介護者、家族に影響を与えるかを検討することであった。褥瘡研究サービスユーザーネットワーク(PURSUN UK)とブラッドフォード創傷治療グループのメンバーが、それぞれの個人的な経験について語り、その文書化に携わった。彼らの発言は、本書のさまざまな箇所で具体例として引用されている。本書の目的: 創傷を持って生活することが、患者やその介護者のウェルビーイングにどれほどの影響を与

    えるのか、そのことを関係者が認識する。 臨床家が患者や介護者と一緒に治療方針を決めると、全員が一体となって治療をすすめることができ合併症も少なくなる。臨床家は患者や介護者と一緒に治療方針を決定するための臨床能を高める。 相手の話を聞く(傾聴)スキルの重要性に焦点をあて、患者のウェルビーイングについて話し合いを持つ手法を明らかにする。 費用対効果に優れた創傷管理は関連部門の協力によって成立し、ウェルビーイングの向上に寄与する。各部門の関係者が各自の役割の中で、費用対効果に優れた創傷管理を行うための技能を高める。

    EXPERT WORKING GROUPMatthias Augustin Director, Institute for Health Services Research in Dermatology and Nursing, University Clinics of Hamburg, GermanyKeryln Carville Adj Professor Domiciliary Nursing, Silver Chain Nursing Association & Curtin University, AustraliaMichael Clark (Co-Chair) Visiting Professor, Tissue Viability, Birmingham City University, UKJohn Curran Director, 7bn, London,UKMieke Flour Department of Dermatology, University Hospital Leuven, BelgiumChristina Lindholm Professor of Clinical Nursing, Karolinska University Hospital/Sophiahemmet University, SwedenJohn Macdonald Director, Project Medishare and Hospital Bernard Mevs, Port-au-Prince, Haiti & Department of Dermatology and Cutaneous Surgery, Miller School of Medicine, University of Miami, Florida, USAKyoichi Matsuzaki Director, Department of Plastic Surgery, Kawasaki Municipal Tama Hospital, Associate Professor, Department of Plastic Surgery, St. Marianna University School of Medicine, Japan Christine Moffatt Professor of Clinical Nursing, Nottingham University & Nurse Consultant, UKMatt Pattison Director, 7bn, London (UK) Patricia Price Chartered Health Psychologist & Dean/Head of School of Healthcare Studies, Cardiff University, UKPaul Trueman Assistant Professor of Health Economics, Brunel University, London, UK Wendy White Clinical Nurse Consultant/Educator, Wendy White Woundcare, New South Wales, Australia Trudie Young (Chair) Lecturer in Tissue Viability, Bangor University and Tissue Viability Nurse, Aneurin Bevan Health Board, Wales, UK

  • 創傷とともに生きる方のウェルビーイングを向上する | 1

    創傷とともに生きる方のウェルビーイングを向上する患者中心のヘルスケアが増えつつあるが、ケアを効果的に行い、創傷を持つ人の複雑なニーズに対応するには、臨床家、医療機関、関連企業のすべてが重要な役割を担っている1。

    なぜウェルビーイングが重要なのか?創傷を持つことの影響は複雑で多元的である。臨床家、医療関連企業および医療機関は創傷の治癒を治療目標にしがちである。臨床家は創傷の縮小、創底の状態を評価し、データを記録する。医療機関は患者背景や創傷の種類別に罹患率や発生率の数字を求めることがある。そして医療関連企業の研究者は抗菌剤の有効性や滲出液処理能といった個々のドレッシング材の特性に注目する場合が多い。

    これらはもちろんケアにおいて重要ではあるが、創傷を持つ人の多くが気にしているのは別の側面であり、疼痛や臭いの軽減、ドレッシング材の表面にまで滲み出した滲出液の見苦しさ、あるいは衣服や靴などの着用を妨げ日常生活の邪魔になるほど厚みのあるドレッシング材を貼付しなければならないことなどである。

    創傷の「リスクがある」あるいは創傷を持つ人々は日々の生活の大きな変化に直面している。さまざまな治療に関連した処置を受け入れる必要性に迫られており、既存のライフスタイル、優先事項、行動様式に反すると、長期にわたる適応が難しくなる。

    創傷を測定することは、既存の各種ツールを使えば難しくない。しかしウェルビーイングの視点で創傷を把握するのは容易ではない。創傷を持つ人 に々とって、創傷の慢性化(創傷の治癒に時間がかかったり再発すること)はウェルビーイングに悪影響を与える一方で2、潰瘍が治癒した後でも一般の人と比べてQoLが低くなりがちである3。後者は再発率の高さや生涯にわたる治療の必要性(圧迫療法など)に関連することがある3。

    不安やうつといった心理社会的要因は創傷の治癒を遅らせる4-6。また患者の心理社会的要因への対応が不十分だと患者は治療に同意しない場合がある7-9。現在個々の患者が治療に積極的に参加することで治療結果が良くなることに関してはエビデンスがある10。そのため患者は自分の健康に責任を持ち、より多くの選択肢の中から自分が受ける医療を選択し、他人任せにしないことが大切である。さらに、治療の受けやすさ、最新の知識、スキル、リソースを持った臨床家を受診することが早期診断、適切な治療の迅速な開始、および合併症の回避に不可欠である2。

    健康とウェルビーイングの向上が経済的・社会的利益につながるという考えが広まっている11。

    創傷管理に関するウェルビーイングの定義はコンセンサスグループによって合意されている (囲み記事1)。

    囲み記事 1 創傷管理に関連したウェルビーイング

    ウェルビーイングは、身体的、社会的、心理的および精神的なものを含めた要因から成り立っている。ウェルビーイングのコンセプトは各個人で異なり、時間と共に変化し、文化や背景に影響されるが、創傷の種類、罹病期間、治療環境には影響されない。創傷治癒におけるウェルビーイングの向上には、臨床家、患者、家族と介護者、医療制度および医療関連企業との間での協力や連携が必要である。その最終目標はすべての関係者の積極的な関与のもと、ウェルビーイングを向上させ、創傷の改善または治癒、症状の緩和と管理を行うことである。

    「毎日朝食前に2時間かけてやっている。疲れるよ。 」

  • 2 | INTERNATIONAL CONSENSUS

    ウェルビーイングを構成する領域健康はその人の全身状態を表すもので、通常は病気、負傷、疼痛がない状態を意味する。1948年に初めて世界保健機関が健康を「単に疾病又は病弱の存在がないことではなく、身体的、精神的及び社会的に健康な状態(ウェルビーイング)」と定義した12。この定義は現在も活用されており、相互に関連する下記の3つのウェルビーイングの領域に関与している:■■ 身体的ウェルビーイング: 入浴、着替え、食事、移動といった活動を独りで行えること。■■ 精神的ウェルビーイング: 認知能力に障害がなく、患者が恐怖、不安、ストレス、うつなどの否定的な感情を抱いていないこと。

    ■■ 社会的ウェルビーイング: 家族、社会、友人、または同僚との活動に参加し、関わっていくことができること1 。

    さらに、コンセンサスグループはウェルビーイングの定義を拡大し第4の領域として以下の項目に関して合意した:■■ スピリチュアル/文化的ウェルビーイング: 自己と他者のつながりを通して人生の意義と目的を発見し調整できること。このことは精神的、感情的および身体的健康において不可欠であり、特定の宗教、文化的信条または個人的な価値が影響する場合がある。

    身体的ウェルビーイング創傷に関係する身体的パラメータは、創傷の大きさ、深さ、部位および罹病期間といった創傷そのものによる要因と2、臭い、疼痛や刺激症状、および過剰な滲出液や不適切な管理による滲出液の漏れなど創傷によって二次的に生じる要因からなる2。そして、これらの因子は下記の原因となる:■■ 運動性の低下、 階段を登れない、歩けない、公共交通機関を使えないなど。■■ 社会的な接触の回避、 滲出液の管理が不十分なことなどによる13。■■ 不適切な栄養状態、 運動不足による肥満の悪化やうつによる食欲低下など。■■ 睡眠障害と疲労、 夜間の疼痛などによる2。

    国際的なフォーカスグループのデータによれば、慢性創傷を持つ人にとって特に悩ましい症状の一つは疼痛である14-16。また過剰な滲出液によって生じる漏れや臭いは、創傷の存在を思い出させるものとなり、嫌悪感、自己嫌悪、自尊心の低下を招く17。

    創傷を持つ患者の多くは治癒を最大のケア目標としているが、悪性腫瘍に伴う創傷や難治性創傷では、創部局所の治癒よりも全身状態の管理のほうが重要なことがある。その場合、創傷治療だけでなく、個々のウェルビーイングについても総合的に考えることが適切であろう。

    さらに、慢性創傷を持つ患者は自分で行動することが難しいことも多く、その結果、他の人を頼ったり、予定外の入院を余儀なくされたり、自身の症状に対して自己管理できるように自宅での生活様式を調整しなければならないこともある。

    臨床家が患者の現状を把握し、患者と力を合わせて彼らの日常生活をサポートすることが重 要である。

    心理的ウェルビーイング慢性創傷を持って生活することで不安が増加したり、QoLが低下することは珍しくない5,7,18

    (囲み記事2を参照)。Cole-KingとHarding4 は、静脈性下腿潰瘍の患者において不安やうつと治癒の遷延に相関性があることを報告した。詳しい調査の結果、うつは創傷が生じる前から存在するか、あるいは創傷による疼痛や臭い、治癒遅延に対する反応であったりする17,19。さらにうつは自己軽視、睡眠障害、栄養不良などの前兆であり、創傷治癒に悪影響を及ぼす要因にもなる4。

    ウェルビーイングに影響する要因

    「皮膚が赤くなったり、損傷する様子を見たとたんに大きな恐怖に襲われる。人生の終わりだと感じる。 」

    「落ち込んだり孤独を感じやすい。」

  • 創傷とともに生きる方のウェルビーイングを向上する | 3

    創傷を持つことの心理的影響について語るのは容易でないであろう。長期間創傷を持っている人は自信や希望をなくし、他の人との接触を控えたり20、本来の問題の深刻さに目を背けることで自分を守ろうとする21。創傷を持つ生活に関わる様々な問題を否定する人もいれば22、創傷そのものに関して「なぜ自分が」という思いや、指示された治療に怒りを表す人もいるであろう13。

    創傷がこの先も治癒しないと思ったり23「治るには果てしない時間がかかる」24と思って苛立ったり、創傷が悪化するのではないかと極端な恐怖を感じる人も多い。特に今まですべてがうまくいってきた人にとって、皮膚の損傷は罪悪感や苛立ちの原因となり、さらに無力感を強め、臨床家などに依存することが多くなる25。友人や家族の支援で前向きに考えられるようにしたり、日常の活動をサポートすることで、患者を安心させたり力づけることができる。 社会的ウェルビーイング創傷を持つ患者は、ほとんど動かずに寝ているか座っているかの状態で何時間も過ごすことが多い。余暇や仕事を通じての交流が減り、社会的な孤立やうつに至ることがある15。多くの患者は、創傷に伴う臭いや滲出液の漏れといった生活上の不自由や、疼痛、活動の低下などの身体的要因、あるいはうつなどの心理的問題を自身の社会的生活において折り合いをつける必要がある。さらに、創傷が原因で働けない人は家族の中で役割を失ったような気持ちになったり、 経済的に行き詰まることがある26。

    慢性創傷を持つと生活そのものが破壊されかねない。そして多くの人は創傷ケアを受けなが ら日常生活を送ることに困難を感じている。自分の望む人生を送ることができないと感じ25、

    「自己管理と自立を求めて奮闘する」ことになる27。慢性創傷を持つ患者が自尊心を高め、自宅での自己管理ができるようにサポートすることが臨床家にとって重要である。このことは患者にとって極めて前向きな取り組みになるが、介護者や家族には精神的・金銭的に大きな負担を課すことになるため、ケアについての決定を行う際には、各人のニーズに配慮する必要がある28。

    創傷を管理できる能力には差があり、病識が低く、再発予防への意識が低い人がいる24。一方で、他人に大きく依存し(例えば、介護施設での生活や、寝たきりの状態)、ヘルスケア・チームの介入を快く受け入れ、臨床家のアドバイスが自身のウェルビーイングにとって不可欠であると感じる人もいる25。

    スピリチュアル/文化的ウェルビーイングスピリチュアルな問題や文化的な問題が創傷管理の選択や行為にどう影響するかについては情報が不足している。創傷に対する認識や治癒への期待には健康に関する患者の知識、識字能、信条が関係していると思われる。世代を超えて受け継がれてきた信条が臨床家のアドバイスと相容れぬため、適切な治療を受け入れられない原因になることがある22。

    臨床家は患者の信条、信仰心、文化的背景を認識し理解に努めたうえで、治療上の決定を患者に押しつけるのではなく、一緒に決定する姿勢が必要である。これには宗教上の祭事と診療の予約が重ならないようにする、動物由来の原料を使った製品の使用について患者の許可を得る29、特定の治療が無効であるという誤解を解くためのサポートをする22といったことも含まれる。また、患者には治療を拒否する権利や代替療法を受ける権利があることも認識するべきである。

    「創傷が人生を支配していく可能性がある。幼いころには思いもしなかったが、成長すると泳いだり社会的交流を行うことが難しくなる。夏にショートパンツをはけない。友達に会えない、泳ぎに行けない、孫と庭を走り回れないなど、少しずつできないことが積み重なっていく。 」

    囲み記事2 創傷を抱えた生活に関連した心理学的問題■● 不安/うつ■● 恐怖(例えば傷の悪化/感染)

    ■● ボディイメージの変化または悪化、自尊心の低下

    ■● 自身の不潔感■● 怒り/苛立ち‐「なぜ自分が?」

    ■● 恥辱(STIGMA)(例えば他の 人の反応)

    ■● 恥ずかしさ■● 孤独感や社会的孤立■● 罪悪感(例えば治療に同意できない)

  • 4 | INTERNATIONAL CONSENSUS

    ウェルビーイングの4つの領域以外を検証患者が創傷にどのように対処していくのか、それが日常生活にどう影響するかについての理解を深めるために、英国では7bnという名称の機関を設置し、創傷管理に関連した人間(患者と臨床家ならびに関連企業と医療サービスを含む)の行動様式を把握することになった。

    英国のロンドン、米国のジョージア州から糖尿病性、血管性、および診断がついていない慢性潰瘍を持つ13名が参加した。創傷を持つ患者の日常生活を把握するため、民俗学的なアプローチを用いて研究者一組が参加者の自宅で、4時間を共に過ごして調査した。創傷管理として毎日行っている事を取り上げ、趣味や社会活動、長期間にわたる創傷ケアによる問題、診療、家庭生活、地元コミュニティ、サポートネットワークなど、QoLに影響する要因を検討した。この情報は録画や写真といった観察技法を用いて記録した。

    家庭での調査に加え、チームはジョージア州の2つの介護施設を訪問し、12名の臨床家と協力してコンコーダンス(患者と医療関係者の対等なパートナーシップを基盤とする医療)とウェルビーイングに対する意向を明らかにするためのグループセッションを行った。

    この調査によって判明した慢性創傷による日常生活への影響例を下記に示す:■■ 60代の定年退職後の男性は、「クリケットが生きがい」だが、長時間立ったままだと(審判を行う場合は6時間)潰瘍が悪化するため、趣味であるクリケットの審判員を続けられなくなったと嘆いていた。

    ■■ 慢性潰瘍を持つ女性は、大量の滲出液を管理できるドレッシング材を見つけられず、バドミントンができなくなっていた。その結果体重が増加し、友達に会えなくなってうつ状態が悪 化した。

    ■■ 下半身麻痺の男性は、最近引っ越しをした。その後、摩擦と湿潤(汗)の増加が原因で褥瘡を生じた。これにより極度の苛立ち、恥ずかしさ、不潔さを感じるようになった。

    ■■ 静脈性潰瘍の女性はインターネットで自分の症状を詳しく学んだところ、ドレッシング材の交換に関して地元のエキスパートになった。

    ■■ 慢性的な血管性潰瘍のある若い男性は、創傷の臭いが恥ずかしくて地元の店に買い物に行くことができなくなった。この臭いが原因で大学の授業に出席できず、社会活動も制限さ れている。

    調査の結果、患者の創傷管理体験のすべての要素を包括する8つの原則が明らかになった。■■ エンパワーメント: 創傷ケアの身体的、心理的、感情的要素を自己コントロールする力■■ リスク管理: 創傷管理について特定の行動を取ること(例えば何かを行う時には、その行動に伴うリスクのレベルを判断する)

    ■■ 日課: 患者の日々の生活に対して創傷管理が四六時中及ぼす影響■■ 恥辱(STIGMA): 創傷を持つ人々に他人の反応がどう影響するか■■ 外見: ドレッシング材と製品の外観■■ 動き: 創傷に使われているドレッシング材と患者の活動がどの程度「フィット」しているか■■ 清潔度: 患者の清潔に対する意識によっては、7日間ドレッシング材を貼付したままにしておくことを受け入れられない場合がある

    ■■ 保護: 身体的な損傷や感染から身体を保護するためのドレッシング材や創傷管理製品の役割

    これら8つの原則を創傷ケアにおけるウェルビーイングの3つのリングモデルに当てはめた(図1)。

  • 創傷とともに生きる方のウェルビーイングを向上する | 5

    医療サービスの利用者/介護者の関与この研究は本書の作成に関与した医療サービスの利用者と介護者の協力によって遂行された。 彼らの多くは絶え間ないプライバシーの侵害を感じ、創傷の再発、感染、「病に打ちのめされること」への恐怖を感じていた。家族や友人と一緒にいること、ドライブや散歩に出かけること、趣味

    (ガーデニング、音楽を聞く、読書など)に没頭することはすべて、ウェルビーイングであると感じ、孤独感や憂欝感を抱かないために重要と考えられた。

    自分の生活を管理することが必要だということがよく言われる。それは、家の片付けであったり、創傷の写真を撮って回復状況を記録するといった些細なことでもかまわないという。病院で適切なケアを受けることができなかったり、機器(例えば体圧分散マットレス)を十分に使えないことが苛立ちの原因になるので、自分のライフスタイルに合った機器や製品を利用できる環境にあることも患者が自宅で創傷を管理する上で重要である。

    関係者が共同して行うアプローチの開発本書の作成に当たって収集したすべての調査結果や意見は、創傷を持つ人のニーズの多様性を示すとともに、ウェルビーイングを向上するために関係者が共同して行うアプローチの必要性が強調された。こうしたアプローチでは、臨床家、医療機関および医療関連企業が下記のアプローチを行う必要がある:■■ 創傷を持つ人と協力して彼らの必要としているものを明らかにし対応する。■■ エンパワーメントと種 の々選択を行う過程でコンコーダンス(患者と医療関係者の対等なパートナーシップを基盤とする医療)が生まれる。

    ■■ 創傷を持つ人 と々共に意思決定することによって治療計画を効果的に実施する。

    患者は自分の状況を自分で管理したいと考えている。自己管理と共同での意思決定がエンパワーメントの貴重な成果になる30。

    図1 創傷を持つ人々にとって重要とされる8つの原則を使って、創傷管理に共通する問題への解決策を提示することを目的としたイノベーション・モデル

    (7bnより提供)

    ウェルビーイング

    コミュニケーション・行動

    ドレッシング材と創傷

    臭いの管理

    創傷を持つ生活が患者の日常に与える影響

    創傷があっても構わない

    エンパワーメント

    リスク管理

    日課

    恥辱(STIGMA)

    外見

    保護

    動き

    清潔

  • 6 | INTERNATIONAL CONSENSUS

    健康関連 QoLを評価する方法健康関連QoL(HRQoL)の指標はヘルスケアの分野で使用されており、治療方針の決定と政策立案に有益な情報を提供している。HRQoLには身体的状態、機能的状態、情緒的状態、および社会的活動に関する項目が含まれており、包括的、疾患別、状態別のツールを利用して評価することができる。■■ Generic HRQoL tools ノッティンガム・ヘルスプロファイル、EuroQol-5および簡易版SF-36など31。■■ Condition-specific HRQoL tools Charing Cross Venous Leg Ulcer Questionnaire31、Cardiff

    Wound Impact Schedule32、The Freiburg Life Quality Assessmentなどのツールは、難治性創傷33を含むすべてのタイプの創傷に対する妥当性が検証されている。状態別ツールを補完するため「創傷ケアと患者の利益」を評価するツールを併用してもよい(例えばPBI-w34や Le Roux's の治療評価(TELER®)法(囲み記事3)。

    さらに、自分で管理できるMeasure Yourself Medical Outcome Profile (MYMOP)35;Schedule for the Evaluation of Individual Quality of Life – Direct Weighting (SEIQoL-DDW)36; Patient Generated Index (PGI)37など、患者の体験を理解するための簡易ツールもある。

    また、臨床家は日常用いているツール(例えばVisualアナログスケール;簡易型マックギル疼痛質問票38)を使って患者の疼痛体験や、不安・うつのレベルをアセスメントする(例えばHospital and Anxiety Depression Scale39)こともできる。

    調査の多くは慢性静脈性下腿潰瘍の患者23,40,41と疼痛管理の重要性に焦点が置かれている。最近の調査結果では、糖尿病性足潰瘍42と褥瘡27におけるQoLとウェルビーイングに与える影響に高い関心が寄せられている。

    HRQoLツールは身体機能に関する問題を発見するために作られており、定量的情報が得られる。そのため患者が創傷を持つ生活についてどのように考え、感じているかを把握できるとは限らない41。ウェルビーイングは主観的で時間と共に変化するため、一般に評価は難しい。したがって、創傷を持つ人が自己の潜在能力を発揮し、生活に対する満足度を高めることを支援するための自己報告と観察に基づいた評価法が必要である。

    ウェルビーイングのアセスメント臨床家は患者を「ひとりの人間」としてとらえ、各人のこれまでの経験にしっかり目を向ける必要がある。その人の医学的状態、QoL、そして創傷が、日々の生活にどのように影響するかについてあらゆる側面からできるだけ詳細に知ることを評価の目標とする。

    ウェルビーイングに関する質問事項を患者の病状のアセスメントとして使用したり、診断材料として代用するべきではなく、これらが優先されることには変わりはない。

    治療上の関係の構築コンセンサスグループは患者と関わるうえでの技量、気遣い、責任感、思いやりといった雰囲気作り、ならびに臨床家が公平で信頼できる関係を構築する方法について議論した。そして、臨床家は下記事項を念頭におくべきであるという結論にいたった:■■ 交流を持つ時は、 いつも患者に意識を集中する。■■ 例えば携帯電話の電源を切るなど、 気が散らないようにする。■■ 創傷に関する体験が改善していることを理解するための質問をする。■■ 診察の最初の60秒間に話を中断したり、 患者に指示しないようにする。■■ 質問に対してどのように反応するか充分に観察をする。■■ 相手を観察し、 注意深く話を聞く。

    「調子の良い時に何をしたいかを調査し、現状においてそのことが実行可能かを確認する、その人がそれをできるように手助け する方法を見つけることが重要 である。 」

    QoLとウェルビーイングをアセスメントするための測定方法

    囲み記事3 臨床現場での記録にTELERを使用TELERはHRQoLを取り入れた臨床データ収集システムで、患者が体験する創傷による影響と創傷関連の問題を評価できるように作成されている。そして臨床現場での記録と評価という2つの要素で構成される。これにより臨床家は個々の患者の状態とドレッシング材に関するパラメータ(例えばドレッシング材の性能と症状の管理)がどのように変化しているかをアセスメントし、最適なケアを確認することができる43。

  • 創傷とともに生きる方のウェルビーイングを向上する | 7

    ■■ 気づいた点があれば記録する。 例えば不安そうにしている、部屋に入る時に足をやや引きずっていたなど。

    ■■ 面談や話し合いでは「数分で終わります」と言うなどして時間枠を示す。■■ 文化的な違いを認識し、 患者のスピリチュアルなニーズに配慮する。■■ 複数回の面談を通して情報を構築する。 診断や病歴などは初回面談時に得られるが、ウェルビーイングに関する情報は面談回数を重ねることによって構築されるので、ケアを継続しフォローアップすることが重要である。

    ■■ 職務上防衛的になったり偏見を持ったりしない。 例えば患者が以前、臨床家との間で嫌な経験をしたことで不安になっているという話しを聞いた時に、自分も同じ経験をするのではと考えたり、その患者を「難しい患者」として見ないことが大切である。いわゆる難しい患者とは、通常傷が治らないことに端を発しているにもかかわらず、創傷の状態そのものではなく、臨床家の気持ちを反映することがある。

    対人スキルは、慢性的な状態では医療者が患者との関係を構築・維持する上で特に重要になる。対人スキルにおいて、創傷の重症度と自分の知識の限界について正直であることが信頼構築に役立つ。

    エンパワーメントの確保と選択臨床家は患者に自信と安心感を与える姿勢で患者の話を聞き、共感の気持ちをもって治療内容を説明する必要がある44。コミュニケーションが円滑になると、患者は治療方法について、その選択や不安に関する話し合いに参加してもよいと感じる。さらに、治療によって得られる恩恵を理解するのに必要な情報を、臨床家は患者に提供することが可能になる44。

    情報に基づいてケア方法を選択することは高齢者を中心とした患者に高く評価されている45。自己管理能力とコンコーダンスのレベルが高まることで、患者と臨床家の関係は深まり、 治療結果も向上する46-48。

    患者にとって重要なことは、どのようなケアを行えるのかを知っておくこと、自分の希望を伝えられること、話を聞いてもらえること、自分のケアに関する決定に参加できることである。

    ウェルビーイングを評価するタイミング来院中の患者に質問する時間を具体的に決めておく以外に、往診や来院の際に通常の臨床業務を行いながら全ての診療チームのメンバーがウェルビーイングを調査することも可能である。

    血圧などの検査は、患者の筋力や運動能をチェックする最高のタイミングになる。また、患者の清拭や入浴など、看護の基本業務を行う際に看護師が患者の清潔ケアのレベルや体重減少、さらに皮膚の変化、血行などをチェックすることができる。打ち解けた会話の中から患者の気持ちを聞き出せる可能性もある。

    患者をアセスメントするには、患者が快適で安心できるストレスのない環境を作ることが重要だが、その条件は人によって異なる。例えば、会話が中断されることなく自分のことを率直に説明できる部屋を好む患者もいれば、不安を共有できる社交的な環境を好む患者もいる。

    質問の内容を考える際は、簡潔な質問にすることが重要である。

    難治性で痛みが頻発する創傷を持つ人の体験を臨床家が理解するには、病気やケアに対する患者の認識を知ることが有効である。特に看護師は患者の話を聞いたり、適切なケアを行うための情報を提供する上で重要な役割を果たす49。

    創傷に関連したウェルビーイングと患者が抱いているであろう不安を、患者が簡単に自己表現できるツールを開発する必要がある。患者の優先事項は治療の経過中に変わるので、その時々のニーズに柔軟に対応ができるダイナミックなツールが望ましい。

  • 8 | INTERNATIONAL CONSENSUS

    囲み記事4 ウェルビーイングのアセスメントの起点となる質問の例1. 創傷は改善しましたか、悪化しましたか?様子を説明して下さい。初めて受診される場合、どのようにして負

    傷しましたか?2. 創傷があることで先週の行動に支障が生じましたか?それはどんなことですか?3. あなたにとって最大の障害・苦痛は何ですか、それはどんな時に起こりますか?4. 創傷処置について力になってくれる人はいますか?5. 創傷を持ちながらも、日常生活を楽にしたり改善できる方法がありますか?

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    起床 – 例)ベッドから降りると痛みを感じる

    午前中 – 例)シャワーをきちんと浴びることができない、シャワーを浴びるとドレッシング材が濡れる

    正午 – 例)買い物に行くためのバスに乗るのに困難を伴う、外出すると創傷の臭いで恥ずかしくなる

    午後 – 例)睡眠不足のために疲れて横になる必要がある

    夕方 – 例)1日の活動を終えてドレッシング材に漏れが生じている

    夜間 – 例)疼痛のために睡眠が妨げられる

    図2 1日の中の時間帯によって創傷の影響はどのように変化するか?51

    ウェルビーイングを向上させるために必要なツール作成

    ウェルビーイングに関する情報を引き出すツールは実践的で使いやすく、臨床現場や患者のニーズに合わせて調整できるものが良い。

    ウェルビーイングをアセスメントする上で起点となる質問臨床家がウェルビーイングに関する情報を引き出すうえで、患者と会う場所はとても重要である。例えば、患者の家であれば情報を入手する手掛かりは得やすいであろう。クリニックで会うのであれば、待合室でカードに書かれた簡単な質問票に記入してもらうことで会話がスムーズになり、遠慮がちな患者から話を聞き出しやすくなるうえ、患者も臨床家に会う前に自分の答えを整理できる。下記の囲み記事4にウェルビーイングに関する話し合いの起点として利用できる質問例を示す。

    患者に質問する際は、杓子定規な方法ではなく率直に質問する。臨床家は単にチェックリストに記入するのではなく、患者との「つながり」を重視する。

    時間経過に伴う創傷の変化の理解患者からの情報は時間に左右され、時間経過とともに変化する。したがって、患者の生活が1日の時間の中でどのような影響を受けるかを把握できるように質問を組み立てておくことが重要 である(図2)。

    通常行っている行動を定期的にモニターして変化を確認し、例えば疼痛があれば疼痛をモニタリングするのに妥当なツールで補完するなどの対応をとる38,50。実施状況におけるどのような変化も、症状の効果的な管理や、良い兆候を患者に伝えるための大切なフィードバックになる。

  • 創傷とともに生きる方のウェルビーイングを向上する | 9

    患者ダイアリーは、患者自身についての詳細な事柄を時間経過もふまえて教えてくれるので、創傷を持った生活に関する質の高い情報が得られる。このような自己報告に基づく文書は、複数のスタッフと会う患者にとって特に役立つ(図3)。

    人によって快適なコミュニケーションの方法は異なる。この違いに対処できるようさまざまなツールを持つことが有効である。

    図 3 例:患者ダイアリー(1日だけを抜粋)。記入は5分以内で可能だが、もっと時間をかけて考えや気持ちを表現したり、形式にとらわれない物語風にしたり、「意識の移り変わり」を表す方法でも構わない。状況の変化を捉えるうえで写真の使用も重 要であり、次回受診の際の話し合いの導入にも役立つ。患者ダイアリーに関する詳しい情報は、 http://tinyurl.com/799gydyを参照のこと。

  • 10 | INTERNATIONAL CONSENSUS

    継続的なアセスメントウェルビーイングに関する情報は明確な方法で記録し、フォローアップに使用する。質問はウェルビーイングに影響する具体的な項目に焦点を置きながら、時間を追って個人評価を行う。例えば質問を通じて、患者の睡眠パターン、疼痛のレベル、日常生活に役立つ援助を活用できるかをモニターする。患者との話し合いを続けていくことによって、患者の状況変化を察知するための重要なヒントが得られる。さらに現状と患者の不安を反映した管理計画を作成し提示することにも役立つ。

    慢性的な創傷を持つ人の多くは、長い罹病期間にたくさんの臨床家(例えば看護師、外科医、理学療法士、心理学者、栄養士)と関わることになる。そのため患者や介護者は同じ情報を何度も説明しなければならず、それが苦痛になり苛立ちの原因になることもある。医療チームのメンバーは記録されたアセスメント情報を共有するとともに担当者が変わってもケアの継続性を確保し、評価記録者と違うスタッフが治療計画に不要な変更を加えないようにすることが重要である。

    アセスメントに対する障害ウェルビーイングに関する情報入手を妨げる要因として、患者自身が医療サービスを利用する能力が欠如している場合がある。また、診療時間があわただしかったり、プライバシーが配慮されていない環境でも医療サービスの入手は不十分になる。慢性創傷に関わるすべての専門職が共有するのに相応しい記録システムがないことも課題である。

    患者の多くは臨床家を「不快にする」という恐れや、臨床家が自分に批判的になるのではという不安から自分のウェルビーイングについて語るのをためらう。臨床家は患者が口頭と文書の両方で情報を提供することができると期待している。したがって、体の弱い高齢者や認知力が低下した人など、コミュニケーションをとることが難しい患者には、家族や介護者と意思疎通を図ることが臨床家にとって重要である。

    ところが、臨床家は身体的・感情的な苦痛の訴えに毎日直面しているので、訴えに対する感受性が低下し「鈍感」になっている。そのため、例えば疼痛の体験を軽視する傾向がみられる。患者や家族の期待に対して無力感を感じ、圧倒されたり、不安に思うこともある22。臨床家がその患者にとって最善と思う事と患者の目標に相違が生じると、両者の間に溝ができ、臨床家による正しいアセスメントや、対応の変更、修正が難しくなる。

    患者が口にする希望と臨床家の考えの間に「大きな隔たり」が生じることがある52。•事例報告:「不健康」からウェルビーイングへ下記のケーススタディでは正確なアセスメントの重要性と難治性の創傷の誤った診断や診断不履行が患者のウェルビーイングにどのように影響するかを紹介する。

    72歳のこの男性はスウェーデン西部の島に住んでいる。12年前から両側性に環状の創傷を発症し、両下肢に広がったことで耐え難い疼痛となった。妻がほぼ継続的に創傷にドレッシング材を貼る他、1日に1回は訪問看護師による手当も必要になった。確定診断は行われていないが、創傷は静脈性下腿潰瘍と考えられていた。男性は12年間で体重が15キロ程減少し、車いすを使用していた。総合的に見て彼のウェルビーイングの状態は非常に低く、ドレッシング材の交換のために常に付き添いが必要という状況は妻のQoLにも影響を及ぼした。

    訪問看護師が休みの日に代わりにストーマセラピスト(ストーマ専門看護師・ET看護師)でもある創傷専門看護師が訪問した時、すぐに創傷が静脈性下腿潰瘍ではないと感じた。男性の食欲が減退し、疼痛が現れていることから、患者を地域の大学病院の大腸外科に入院させることにした。検査の結果、男性は潰瘍性大腸炎と診断された。男性には投薬治療と栄養療法が行われ、体重が増え、車いすなしで立てるようにもなった。最終的に創傷は壊疽性膿皮症と診断され、適切な治療が始まってから8週間で治癒し、男性と妻のウェルビーイングは劇的に改善した。

    「臨床家に異を唱えると、この患者は協力的でないというレッテルを簡単に貼られてしまう。アドバイスは実践的でバランスのとれたものである必要がある。例えば患者にとっては1日中椅子に座って足を上げたままでいることを実践するのは難しい。 」

  • 創傷とともに生きる方のウェルビーイングを向上する | 11

    ウェルビーイングをケアの重点におくために、医療の効率を高め、創傷を持つ患者のニーズに適時対応できる方法を検討する必要がある。良好な結果を得られるかどうかは、良好な医療ケアと同様に適切な自己管理が可能かどうかにかかっている。患者中心のケアに注力すると同時に、エンパワーメントと教育が効果的な創傷管理の鍵を握る48。

    良好なパートナーシップを築くには、自分のケアに関する情報と治療への参加について患者に興味を持たせることがまず必要であり、その結果ケアに対する満足度が高まり、より良い結果を得ることができる。

    創傷が生じた理由と、なぜこのような治療を行うのかを伝えることが、患者の不安と期待への対応に役立つ。その際、情報を記載したパンフレットや教育的な資料を利用するのも良い。一般に、治療内容を理解した時点で患者が治療に同意する可能性は高まり、自分の背景や信条におおむね一致した治療法であれば通常受け入れられる53。

    患者には安全で、利用しやすく、個々のニーズに対応したサービスを提供するべきである。その例として、予約なしで利用できる医療機関を準備し診療時間に柔軟性を持たせることが挙げられる。自分と同じ創傷を持つ人と体験を共有することで、サポートや励ましを感じる人もいる。Lindsay Leg Club® (囲み記事5を参照)のようなケアの場としての社会モデルが、慢性足潰瘍の患者の健康とウェルビーイングを向上することが明らかになった54。このようなクラブは創傷を持つことの恥ずかしさをなくすことで治療への同意を高め、不安とうつを軽減し治癒率と再発率に良い影響を与える55。

    難治性慢性創傷には高額な治療費がかかる。治癒に要する時間、ドレッシング材交換の頻度、看護に要する時間、医療機関のタイプ(急性期病院か在宅)は、治療費の重要なパラメータである56。治癒遅延のリスクの高い患者で、早期の診断と適切な治療戦略(例えば先進治療)を用いた体系的な管理が、治癒に要する時間を短縮し、QoLの向上と治療費削減に役立つことが明らかになっている56。さらに、知識とスキルの向上を目的としたスタッフの継続的な研修も重要であることが判明した56。ただし、このようなアプローチの有益性を十分に把握するためには医療経済学的分析に基づいた検討を要する。

    5ポイントプランの開発費用対効果が高く効率の良い方法でウェルビーイングを高められるよう、関係者一同は一致協力して取り組まなければならない。その際に臨床家は患者や介護者とパートナーシップを構築し共同で意思決定を行うとともに、医療機関は患者の希望に則したウェルビーイングを供与できるようにサポートすることが必要である。関連企業は治療効果だけでなく整容面にも優れQoLを最適化する製品を開発することも必要である。

    ウェルビーイングの向上を目指した適切な創傷管理

    囲み記事 5 Lindsay Leg Club®:治療の場としての社会モデル

    Lindsay Leg Club® 基金は、下肢に問題のある患者がケアとサポートを目的に集まる場として英国に設置された。このようなクラブは公民館や地元の教会といった従来と異なる環境で質の高いケアを提供している。各クラブは助言や治療を求めたり、他のメンバーと交流する目的で出席しているメンバーで構成されている。英国とオーストラリアで毎週、1,000名以上がクラブで助言や治療を受けている。クラブの成功のポイントは、社会交流と医療の提供により足潰瘍のあるメンバーが一緒に治療を受けられる環境づくりと、クラブへの資金提供と管理を行うボランティアの役割がうまく統合されることにある。規定に沿った予約制ではなく、患者やメンバーは「ちょっと立ち寄って」社会的なサポートやケアを受けることができる。この組織は下腿潰瘍患者へのサービス向上に関する運動も行っており、メンバーのさまざまな創傷体験から集めた専門的な情報も提供している。詳細はwww.legclub.orgを参照のこと:

  • 12 | INTERNATIONAL CONSENSUS

    主要関係者に対する 5ポイントプランの実施: 効果的な創傷管理を行う際にウェルビーイングを最大限に高めるための枠組みを関係各位に提示することである

    医療従事者臨床家は創傷を持つ人のウェルビーイングを最大限に高めるプロセスの中核的存在であり、患者、医療機関、企業のパイプ役となる。家族と介護者もこのプロセスに関与する。臨床家が目指す べきこと:

    1. 総合的なアプローチを用いてウェルビーイングについて質問し、患者が「ひとりの人間」であることに常に留意する。

    2. ウェルビーイングを優先して、患者の創傷の評価、治療、管理を行う。3. 治療方法についての選択肢を患者に正しく提示し、適切な教育とサポートを通じてケアへの

    積極的な参加を促す。治療を拒否する患者の権利を尊重する。4. 患者からのフィードバックを活用して医療サービス内容の立案と調整を行う。5. 同僚との連携を通じて、いつ誰に問い合わせればよいかを知る。

    患者慢性創傷を持つ患者は、糖尿病や心臓病など他の慢性症状を持つ患者と同様に自身のケアに注意を払うべきである。医療提供者が変わっても、患者は治療過程を通じて同一である。患者は:

    1. ウェルビーイングについて質問を受け、関心(懸念)事項の優先順位をつける。2. 自分のウェルビーイングについて話し合い、治療に対する期待と不安を伝える権利があること

    を認識する。3. 治療に関する決定に積極的に参加し、創傷管理に継続的に携わる。4. 妥当であれば、治療法の選択とケア行為における融通や柔軟性を享受できる。5. ケア方法を熟慮し、どのような医療サービスであれば順応できるかを提言する。

    医療機関スタッフが働きやすい環境を提供し、適切なサービスを患者に供与できるよう臨床家をサポートする。また、医療機関は教育と研究に加え、民族的多様性に対応した情報を患者に提供することも重要な役割である。医療機関が目指すべきこと:

    1. スタッフのウェルビーイングを確保し、他者のウェルビーイングに配慮できるようにする44。2. 知識に基づいた費用対効果の高い創傷ケアを推進するための重要な要素としてウェルビーイ

    ングがあることを認識するとともに、ウェルビーイング改善のための研究を継続する。3. 効果的な創傷管理を実施するために、患者のウェルビーイングを確保できるサービスを提供

    する。そのサービスはそれぞれの患者グループのニーズをふまえ平等になるように配慮する。4. 臨床家と患者との間で円滑なコミュニケーションが行えるようにサポートする(遠隔治療、ソー

    シャルネットワーキング、アプリなどの先端テクノロジーの利用を含む)5. 苦情を聞き、それに基づいてサービスを改善する。

    関連企業関連企業は製品のイノベーションとデザインの開発を進めていくうえで、ウェルビーイングを重視することによって、臨床家、患者、医療機関を積極的にサポートする役割を担う。関連企業が目指 すべき事:

    1. 患者のライフスタイルに沿った革新的な製品を開発し、ウェルビーイングを重視した費用対効果の高い創傷管理を実施する。

    2. 臨床家や患者と協力して適切で健全なコミュニケーションシステムを提供する。3. ウェルビーイングの重要性を強調する。臨床経験と患者の体験に基づいたウェルビーイングと

    創傷管理に関する研究課題を作成する。4. 使用する製品における臨床家と患者からのフィードバックに対応する。5. 生産、マーケティング、製品の販売において倫理的なアプローチを遵守する。

  • 創傷とともに生きる方のウェルビーイングを向上する | 13

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