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1 発刊にあたって 発刊にあたって 本シリーズ「現代債権回収実務マニュアル」は、債権の管理、保全、回収 全般にわたる各種手法の解説、書式等を網羅した実務書です。 本マニュアルには、これまで当事務所が扱ってきた債権管理・保全・回収 の経験とノウハウが詰め込まれているといっても過言ではありません。しか し、これはもちろん当事務所のみでなしえたものではなく、クライアントの 皆さまからのご依頼があってこそのものであることはいうまでもありません。 思い返しますと、いわゆるバブル経済崩壊後の金融機関の不良債権処理が 日本経済の深刻な課題であった頃、不良債権の回収の手法として、いわゆる 執行妨害に対する民事執行法上の保全処分や、抵当権に基づく物上代位の活 用が図られるようになり、これらによって、執行妨害の排除の手法が確立し、 また、債権回収のメニューが広がっていきました。それに呼応するように、 新たな判例・裁判例による後押しや、法改正・新法の成立などによる整備も、 十分ではなかったかもしれませんが、行われるに至ったというのが歴史的経 過です。 当時、当事務所はそのまっただ中にあって、悪質、困難な債権回収案件に 夢中で対峙していました。その中で上述したような、民事執行法上の保全処 分や、物上代位といった手法を積極的に活用していきましたが、これも目の 前にある案件を解決したい、クライアントのお役に立ちたいという、弁護士 としての本来的な使命感がそうさせたものですし、何とかしたいという気持 がこれらの手法を与えてくれたようなものだと、改めて思う次第です。 ところで、債権回収は弁護士にとっては基本的な業務です。本マニュアル に記載された見解、手法、書式等も、決して特別なものではなく、極めてオー ソドックスなものを解説、強調していると感じられる読者もいるかと思いま す。 しかし、それこそが本マニュアルが「実務書」「マニュアル」として「使 える」ものであることの現れですし、それだけ債権回収に関する各種手法が 広く知られるようになったということにほかならないと思いますので、非常 に喜ばしいことです。

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発刊にあたって

発刊にあたって

本シリーズ「現代債権回収実務マニュアル」は、債権の管理、保全、回収

全般にわたる各種手法の解説、書式等を網羅した実務書です。

本マニュアルには、これまで当事務所が扱ってきた債権管理・保全・回収

の経験とノウハウが詰め込まれているといっても過言ではありません。しか

し、これはもちろん当事務所のみでなしえたものではなく、クライアントの

皆さまからのご依頼があってこそのものであることはいうまでもありません。

思い返しますと、いわゆるバブル経済崩壊後の金融機関の不良債権処理が

日本経済の深刻な課題であった頃、不良債権の回収の手法として、いわゆる

執行妨害に対する民事執行法上の保全処分や、抵当権に基づく物上代位の活

用が図られるようになり、これらによって、執行妨害の排除の手法が確立し、

また、債権回収のメニューが広がっていきました。それに呼応するように、

新たな判例・裁判例による後押しや、法改正・新法の成立などによる整備も、

十分ではなかったかもしれませんが、行われるに至ったというのが歴史的経

過です。

当時、当事務所はそのまっただ中にあって、悪質、困難な債権回収案件に

夢中で対峙していました。その中で上述したような、民事執行法上の保全処

分や、物上代位といった手法を積極的に活用していきましたが、これも目の

前にある案件を解決したい、クライアントのお役に立ちたいという、弁護士

としての本来的な使命感がそうさせたものですし、何とかしたいという気持

がこれらの手法を与えてくれたようなものだと、改めて思う次第です。

ところで、債権回収は弁護士にとっては基本的な業務です。本マニュアル

に記載された見解、手法、書式等も、決して特別なものではなく、極めてオー

ソドックスなものを解説、強調していると感じられる読者もいるかと思いま

す。

しかし、それこそが本マニュアルが「実務書」「マニュアル」として「使

える」ものであることの現れですし、それだけ債権回収に関する各種手法が

広く知られるようになったということにほかならないと思いますので、非常

に喜ばしいことです。

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虎門中央法律事務所編『執行手続による債権回収―強制執行手続・担保権実行・強制競売―』 民事法研究会発行
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また、本マニュアルは、実務書に徹するという観点から、理論的な説明に

ついては必要最小限の記述にとどめ、実際にどのような場面でどのような手

法を用いるのかを中心に記述することに努めました。そして、具体的なイメー

ジをもちやすいように書式例を豊富に収録することとしました。もちろん、

書式例はあくまでも例にすぎませんので、事案に応じ適宜修正して活用いた

だくことを想定しています。

なお、本書の読者・利用者として想定しているのは、すべての実務家です。

弁護士、債権回収会社(サービサー)等の債権回収業務に携わるプロフェッ

ショナルはもちろん、企業の担当者、あるいは個人かを問わず、債権回収の

現場で日夜奮闘されているすべての実務家のお役に立てればこれに優る喜び

はありません。

債権回収には、魔法も万能の特効薬もなく、あるのは王道だけです。一番

重要なのは、本マニュアルで解説している各種手法を知ることではなく、個々

の債権回収案件に対し、どのような方針で、どのような手法を用いて回収す

るか、いわば、当該案件の筋読みなのです。その検討・分析そのものが債権

回収の成否を分けるといっても過言ではありません。この点をできる限り盛

り込みたいと考えましたが、もっと良い方法があるのではないかという思い

は強く、この点はさらに追求していきたいと考えています。

本マニュアルの企画をいただいた民事法研究会社長の田口信義氏、編集部

の軸丸和宏氏、輿石祐輝氏の 3氏にはひとかたならぬお世話になりました。

最初に本マニュアル出版についてお話をいただいてから随分とお待たせして

しまいましたが、 3氏の熱意は終始変わることはありませんでした。民事法

研究会創立25周年のこの年に本マニュアルの刊行を開始することができたこ

とに安堵を覚えるとともに、改めて創立25周年をお慶び申し上げる次第です。

そして、本マニュアルを読者にお届けできることをこの上なく幸せに思いま

す。

 平成26年11月

           編著者を代表して

� 虎門中央法律事務所 代表弁護士 今井 和男

� 弁護士 山崎 哲央

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発刊にあたって

【第 3巻・執行手続による債権回収】

「現代債権管理実務マニュアル第 3巻」をここにお届けします。第 3

巻は、「執行手続による債権回収」と題し、担保権の実行による債権回

収および強制競売その他強制執行による債権回収について解説をしてい

ます。

裁判手続や公正証書の作成によって債務名義を取得したとしても、そ

の内容に基づいて債務者が任意の履行を行わない、または期待できない

場合は、自力救済が禁止されている以上、債権者は強制執行手続によっ

て強制的な回収を行うことを検討することになります。また、担保権の

設定を受けている場合も同様で、担保の目的物を換価等しなければ債権

の満足を得ることができませんが、その換価等が任意になされなければ、

強制的にそれを行わなければなりません。

このことから、強制執行手続は債権回収の最後の砦であり、債権者の

満足を実現する手続そのものであるといえます。強制執行手続が有効に、

効率的に機能し、もって債権者が満足を受けられることは、債務名義を

「画に描いた餅」にしないために、そして司法手続への信頼を損なわな

いためにも極めて重要です。

他方、「強制執行」という言葉のイメージからか、債権者の立場でも、

執行手続をとることは大ごとである、または「そこまでしなくとも良い

のではないか」という印象をもたれることも少なからずあるようです。

本書ではそういった債権者のいわば「心理的なバリア」を払拭または低

減し、迅速に執行手続をとることが、適切な対応であることをご理解い

ただけるようにていねいな解説に努めました。

また、そのためにマニュアルとしての使いやすさを考え、できる限り

書式例を掲載することに努めたことは第 1巻、第 2巻と変わるところは

ありませんが、第 3巻では、迅速な債権回収を行うことができるよう、

さらに書式例を充実させることを心がけました。

なお、現在、金融機関への口座照会制度等の導入等を内容とする民事

執行法の改正の動きがありますが、現時点では具体的な制度内容が未確

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発刊にあたって

定であることから、改めて本書の改訂時にアップデートしたいと考えて

います。

本書が、第 1巻、第 2巻とともに、少しでも債権回収の現場において

悩み、苦心されていらっしゃる方のお役に立つことができれば、これに

まさる喜びはありません。

平成28年12月

� 編著者一同

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〔第1部 強制執行〕  第 2 章 不服申立手続

第2章

不服申立手続

Ⅰ 違法執行に対する不服申立て

民事執行手続は法律によって規定された手続に従って行われなければなら

ず、執行裁判所や執行官といった執行機関が行った執行行為が、民事執行の

手続規定に違反する場合には、違法執行となる。民事執行法は、違法執行に

対する不服申立手続として、執行抗告(民執10条)および執行異議(民執11条)

を設けている。

1  執行抗告

執行抗告は、執行裁判所の執行処分に対し、主としてその手続上の違法を

主張して裁判の取消し、変更を求める上訴であり、法に定める場合に限って

許される(民執10条 1 項)。

⑴ 申立て

執行抗告の申立てに際しては、裁判の告知を受けた日から 1 週間の不変期

間内に、抗告状を原裁判所に提出する必要がある(抗告裁判所に提出した場合、

不適法として却下される(最判昭57・ 7 ・19民集36巻 6 号1229頁))。

抗告状には、当事者、法定代理人、原裁判所を掲げ、執行抗告により原裁

判の取消し、変更を求める旨を記載する(【書式 1 】参照)。

また、執行抗告の理由を述べなければならず、抗告状に記載するか、抗告

状に記載しない場合は別途抗告理由を記載した抗告理由書を 1 週間以内に提

出しなければならない(民執10条 3 項。怠った場合は却下事由となる(同条 5 項

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Ⅰ 違法執行に対する不服申立て

1 号))。執行抗告の理由には、原裁判の取消しまたは変更を求める事由を具

体的に記載しなければならない。また、その事由が法令の違反であるときは、

その法令の条項または内容および法令に違反する事由を、事実の誤認である

ときは、誤認に係る具体的な事実を摘示しなければならない(同条 4 項、民

執規 6 条)。理由の記載がこれらに反するときは、却下事由となる(民執10条

5 項 2 号)。

【書式 1】 執行抗告状

執行抗告状

平成○年○月○日○○高等裁判所※1  御中

〒○○○-○○○○ 東京都○区○一丁目 1 番 1 号

          抗   告   人  株式会社○○○○          代表者代表取締役  ○ ○ ○ ○〒○○○-○○○○ 東京都○区○一丁目 1 番 1 号          ○○法律事務所(送達場所)          電 話 03-○○○○-○○○○          FAX 03-○○○○-○○○○          抗告人代理人弁護士  ○ ○ ○ ○

○○地方裁判所平成○年(○)第○○号○○事件につき、同裁判所が平成○年○月○日に言い渡した○○決定に対し、執行抗告をする。

抗告の趣旨 原決定を取り消す。 ※2

抗告の理由※3

第2章不服申立手続

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〔第1部 強制執行〕  第 2 章 不服申立手続

1  抗告人の担保不動産競売申立て抗告人は、平成○年○月○日、債務者の所有にかかる別紙物件目録(略)

記載の不動産(以下「本件不動産」という。)につき、○○地方法務局平成○年○月○日受付第○○号で設定登記された被担保債権額金○○円の抵当権に基づき、○○地方裁判所へ担保不動産競売申立てをし、同庁平成○年ケ第○○号事件として、平成○年○月○日、担保不動産競売開始決定がなされた(以下「本件競売手続」という。甲第 1 号証)。

2  競売手続の無剰余取消し○○地方裁判所は、本件不動産の買受可能価額が執行費用及び抗告人に

優先する抗告外○○の債権の見込額の合計額に満たないとして、平成○年○月○日、本件競売手続を取り消す旨の決定をした(甲第 2 号証)。

3  上記無剰余取消しは取り消されるべきであること本件競売手続の取消し後、平成○年○月○日、抗告外○○は、本件競売

手続の続行に同意した(甲第 3 号証)。これにより、本件競売手続を続行しても抗告人に優先する債権者である抗告外○○の利益を害するおそれはなく、本件競売手続を取り消す必要はなくなった。

よって、本件競売手続を取り消した原決定は取り消されるべきである。以上

※1� 抗告状の提出先は原裁判所だが、宛先は管轄の高等裁判所を記載する。※2� 原決定を取り消したうえで、さらに別の裁判を求める場合(売却不許可決定

を取り消して売却許可決定を求める場合等)は、当該求める裁判の内容を記載する。

※3� 競売手続が無剰余によって取り消された例である。執行抗告状に理由を記載できない場合は、別途抗告理由書を抗告状を提出した日から 1 週間以内に提出する。

⑵ 審理手続

A 原裁判所での審理

執行抗告の申立てを受けた原裁判所は、抗告を却下すべきかを検討する。

却下事由がない場合には、原裁判所において再度の考案(民執20条、民訴333条)

により執行抗告に理由があると認めるときは自ら原裁判を更正しうるが、理

由なしと認めるときはその理由を付して事件を抗告裁判所に送付する(民執

規15条の 2 、民訴規206条)。

第2章不服申立手続

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Ⅰ 違法執行に対する不服申立て

B 抗告審での審理

執行抗告は、執行手続の違法を理由とする不服申立て手続であり、実体的

な権利関係の存否の終局的な確定を目的とするものではないため、当事者対

立の手続による審理が必要不可欠ではなく、また、対立して手続を進めるよ

うな相手方がそもそも存在しない場合もある。したがって、抗告審では口頭

弁論を行うことは必須とはされず、書面に基づいて審理することもできる(任

意的口頭弁論)。

ただし、引渡命令、強制管理、債権差押命令、転付命令等の申立てを認容

する決定に対して執行抗告が申し立てられる場合は、抗告人の相手方が定

まっている(上記各命令等の申立人)ため、当該相手方の弁論権を保証する

必要がある。したがって抗告裁判所は、抗告状、抗告理由書の謄本を相手方

に送達し、答弁書の提出を命じる(民訴規201条の類推)。抗告状等の謄本の

送達を受けた相手方は、抗告状に対して反論する必要がある。

⑶ 裁判の方法

執行抗告に対する抗告裁判所の裁判は決定による。抗告に理由があるとき

は原裁判所の処分を取り消し、必要に応じて自判、差戻しの裁判をする(民

執20条、民訴331条、307条ないし309条)。

2  執行異議

執行異議は、執行抗告の許されていない執行裁判所の執行処分、裁判所書

記官の執行処分および執行官の執行処分並びにその遅滞に対する不服申立て

方法である(民執11条 1 項)。執行抗告とは異なり、上訴手続ではない。

執行裁判所の執行処分で執行抗告のできないものは、原則として執行異議

の対象となりうる2

執行異議の理由は原則として、執行機関の手続上の瑕疵に限られる。ただ

第2章不服申立手続

2 例外的に執行抗告、執行異議いずれの対象にもならないものとしては、執行停止等の仮処分(民執10条 6 項・9 項)、移送の裁判(民執44条 3 項・4 項、144条 3 項・4 項等)等がある。

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〔第1部 強制執行〕  第 2 章 不服申立手続

し、債務者や物上保証人が、担保不動産競売の開始決定、動産担保競売の開

始決定、債権およびその他の財産権についての担保権実行の開始決定に対し

て執行異議を申し立てる場合には、担保権の不存在または消滅という実体上

の事由を異議の理由とすることができる(民執182条、191条、193条 2 項)。

⑴ 申立て

執行異議には、執行抗告のような申立期間の制限はないが、違法な処分を

含む執行手続がすでに終了した後は、執行異議の申立ては許されない。

執行異議の申立ては、書面によるのを原則とするが、執行裁判所が実施す

る期日(売却決定期日、配当期日、審尋期日等)にその場で申し立てるときは、

口頭でもよい(民執規 8 条 1 項)。

執行異議の申立てに際しては、異議の理由を明らかにしなければならない

(民執規 8 条 2 項)。執行抗告のように法令違反の条項等や誤認事実の具体的

指摘までは要求されていないが、異議理由の明示を欠くときは、申立てが却

下されると解される。

【書式 2】 執行異議申立書

執行異議申立書

平成○年○月○日○○地方裁判所 御中

〒○○○-○○○○ 東京都○区○一丁目 1 番 1 号

          申立人  ○ ○ ○ ○〒○○○-○○○○ 東京都○区○一丁目 1 番 1 号          ○○法律事務所(送達場所)          申立人代理人弁護士  ○ ○ ○ ○          電 話 03-○○○○-○○○○          FAX 03-○○○○-○○○○

第2章不服申立手続

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Ⅰ 違法執行に対する不服申立て

御庁平成○年(○)第○○号○○事件においてなされた○○の決定に対し異議を申し立てる。

理   由(略)

(債権者が執行異議を申し立てる場合、動産執行の却下や、執行停止について手続上の瑕疵があることを主張する)。

⑵ 審理手続

執行異議は、執行抗告同様、原則として執行手続の違法を理由とする不服

申立手続であり、実体的な権利関係の存否の終局的な確定を目的とするもの

ではないため、任意的口頭弁論によって審理される。

ただし、債務者や第三者から執行異議が申し立てられた場合には、債権者

を対立当事者として関与させることが手続の適正公平を期するうえから必須

とされており、債権者に執行異議申立書等の謄本が送達され、債権者は答弁

書などで反論する必要がある。

⑶ 裁判の方法

執行裁判所は、審理の結果、執行異議の申立てが不適法である場合は異議

申立てを却下し、申立てに理由がない場合には異議申立てを棄却する。異議

の申立てに理由がある場合には、自ら執行処分を取り消し、または変更する

(再度の考案)。

執行異議を認容する裁判は、何らの手続を経ないで、新しい執行処分とし

て効力を生じる。ただし、執行官の執行処分に関する異議を認容する裁判は、

執行官に対し是正を命じるものにすぎないから、執行官がその裁判に応じた

新しい執行処分をしない限り、その裁判に応じた執行処分の効力は生じない。

執行異議の申立てについての裁判は、原則として執行異議の申立人に対し

て告知すれば足りる(民執規 2 条 2 項)。ただし、民事執行の手続を取り消す

旨の決定、執行官に民事執行の手続の取消しを命じる決定、または執行停止

等の裁判がされた場合における執行異議の申立ての裁判であるときは、執行

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〔第1部 強制執行〕  第 2 章 不服申立手続

異議申立人に加え、その相手方にも告知しなければならない(同条 1 項 2 号・

4 号)。

執行異議の申立てにかかる執行裁判所の裁判に対しては、民事執行法12条

1 項に定める場合(執行異議の申立てに理由があるものとして、執行裁判所の行

う民事執行手続を取り消す決定等)を除き、執行抗告を行うことはできない。

3  執行停止の仮処分(民執10条 6 項、11条 2 項)

執行抗告や執行異議の申立てがあっても、執行手続が当然に停止するわけ

ではない。

ただし、執行抗告に関して、競売手続の取消決定(民執12条 2 項)、売却許

可決定・不許可決定(民執69条、74条 5 項)、引渡命令(民執83条 5 項)、転付

命令(民執159条 5 項)など、当事者の権利に特に重大な影響のある決定につ

いては、確定しなければ効力を生じないとされており、執行抗告の提起によっ

て確定が遮断されている間は効力が生じないことになる。

また、執行裁判所は、必要があると認めるときは、執行抗告または執行異

議の裁判が効力を生じるまでの間、担保を立てさせまたは立てさせないで、

執行の停止もしくは民事執行の手続の全部もしくは一部の停止等の処分を行

うことができる(民執10条 6 項、11条 2 項)。ただし、この処分は裁判所の職

権によるものであり、当事者が執行停止仮処分の申立てを行ったとしても、

裁判所の職権発動を促すものにすぎない。

この執行停止の仮処分の決定に対しては、不服を申し立てることができず

(民執10条 9 項、11条 2 項)、債権者としては執行抗告または執行異議が却下

または棄却され、その裁判が効力を生じるのを待つこととなる。

Ⅱ 不当執行に対する不服申立て

債務名義に基づいて行われる強制執行について、債務名義に表示された請

求権が実体法上存在しなかったり、その後消滅したり、権利内容に変化が生

じていた場合や、債務者以外の第三者の財産に強制執行または担保権実行が

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〔第1部 強制執行〕  第 2 章 不服申立手続

  1  被告から原告に対する○○地方裁判所平成○年(○)第○○号○○請求事件の判決について、同裁判所が平成○年○月○日付与した執行文の付された債務名義の正本に基づく強制執行はこれを許さない。

  2  訴訟費用は被告の負担とする。 との判決を求める。

第 2  請求の原因(略)

以 上

証 拠 方 法(略)

附 属 書 類甲号証写し       各 1 通原告資格証明書       1 通訴訟委任状         1 通

※1  債務名義に表示された請求権の価額の 2 分の 1

Ⅳ 強制執行停止・執行処分取消し申立て

1  意 義

請求異議の訴え、第三者異議の訴え、執行文付与に対する異議の訴えが提

起されても、強制執行の開始および続行自体は直接には妨げられない。

そこで、これらの訴えを提起した債務者や第三者は、裁判所に対し、仮の

処分としての執行停止等を申し立てることができる(民執36条、38条 4 項)。

2  裁判所による処分

前記各訴えにかかる受訴裁判所は、異議のため主張した事情が法律上理由

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Ⅴ 配当異議の申出・配当異議の訴え

があるとみえ、かつ、事実上の点について疎明があったときは、申立てによ

り、終局判決において執行文付与に対する異議の訴え、請求異議の訴えまた

は第三者異議の訴えの裁判をするまでの間、担保を立てさせ、もしくは立て

させないで強制執行の停止を命じ、またはこれとともに、担保を立てさせて

すでにした執行処分の取消しを命ずることができる(民執36条 1 項前段。後

段は、急迫の事情があるときは裁判長がこれらの処分をすることができる旨定め

ている。第三者異議の訴えについて民執38条 4 項)。

また、急迫の事情があるときは、執行裁判所が、申立てにより、上記裁判

の正本を提出すべき期間を定めて、上記処分を命じることができる(民執36

条 3 項)。

Ⅴ 配当異議の申出・配当異議の訴え

1  意 義

配当手続は、裁判所書記官が作成する配当表(民執85条 5 項)に基づいて

行われるが、配当表の記載と実体的権利関係との間に齟齬がある場合には、

その是正をする必要がある。

民事執行法は、配当異議の申出(民執89条 1 項)によって配当の実施を阻

止し、それに続く配当異議の訴え(民執90条 1 項)によって実体的権利関係

の確定をすることとしている。

2  配当異議の申出 

配当表に記載された各債権者の債権または配当の額について不服のある債

権者および債務者は、配当期日において、異議の申出をすることができる(民

執89条 1 項)。

債権回収の点からは、配当表に記載された各債権者の債権または配当の額

について不服がある場合や、配当を受けるべき債権者(民執87条 1 項)であ

るにもかかわらず配当表に記載されなかった債権者は、配当異議の申出をす

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〔第1部 強制執行〕  第 2 章 不服申立手続

る必要がある。

配当異議の申出の方法としては、配当期日においてすべきことが定められ

ているほか、その方法には特段の規定はないが、配当期日に出頭のうえ、口

頭または書面で陳述する必要がある。配当期日前に配当異議申立書を提出し

ていたとしても、民事執行法上には訴状等の擬制陳述のような規定はないた

め、配当異議の申出として扱うことはできない。また、申出は本人のほか、

訴訟代理人となることができる者および執行裁判所の許可を受けた者もする

ことができるが、許可を受けて代理人となる者は、配当期日までに執行裁判

所の許可を受けていることを要する。

東京地方裁判所民事執行センターでは、原則として、配当期日の 3 日前ま

でに、配当表原案を作成し、希望する当事者に事前に開示する。また、配当

見込額はファクシミリによる照会に応じているので、債権者は、事前に配当

表原案または配当見込額を確認し、配当異議の申出をするか否かを判断する

ことができる。

3  配当異議の訴え

⑴ 基本的な考え方

配当異議の申出をした債権者および執行力のある債務名義の正本を有しな

い債権者に対し配当異議の申出をした債務者は、配当異議の訴えを提起しな

ければならない(配当異議の訴え。民執90条)。

配当異議の申出をした債権者が、配当期日から 1 週間以内に、執行裁判所

に対し、配当異議の訴えを提起したことの証明をしないときは、配当異議の

申出は取り下げられたものとみなされる(民執90条 6 項)。

よって配当異議の申出をした債権者は、配当異議の申出から 1 週間以内に、

配当異議の訴えを提起するとともに、訴訟提起証明申請書(【書式 8 】)を提

出し、配当異議訴訟を提起したことの証明書を発行してもらい、そのうえで、

執行裁判所に対して当該証明書を提出しなければならない3(【書式 9 】参照)。

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Ⅴ 配当異議の申出・配当異議の訴え

⑵ 訴えの提起

A 当事者

配当異議の訴えは、配当表に記載された各債権者の債権または配当額につ

いて不服がある場合にその配当表に対して異議を述べるものであるが、異議

がある債権者または債務者が原告、異議にかかる配当を受ける債権者または

剰余金を受ける債務者が被告となる。異議にかかる配当を受ける債権者が複

数存在する場合や債務者の剰余金に異議を述べる場合には、それらの者をす

べて被告とする必要がある(【書式10】参照)。

【書式 8】 訴訟提起証明申請書

証 明 申 請

平成○年○月○日○○地方裁判所 民事部 御中

原告代理人弁護士  ○ ○ ○ ○

  原告(申請人)  株式会社○○○○  被告      ○ ○ ○ ○

上記当事者間の御庁平成○年ワ第○○号配当異議訴訟事件の訴えは、別紙訴状をもって平成○年○月○日御庁に提起されたことを証明願います。

3 配当異議の申出があり、適法に配当異議の訴えを提起したことの証明等がなされた場合は、異議に係る額に相当する金銭は供託される。他方、配当期日から 1 週間以内に配当異議の訴えを提起したことの証明等をしない場合は、配当異議の申出は取り下げられたものとみなされ、執行裁判所は、配当を実施していない部分について、配当表に基づいて配当を実施する。

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〔第1部 強制執行〕  第 2 章 不服申立手続

【書式 9】 配当異議訴訟提起届出書

配当異議訴訟提起届出書

平成○年○月○日○○地方裁判所 民事部 御中

届出人 株式会社○○○○上記代理人弁護士 ○ ○ ○ ○

  債権者 株式会社○○○○  債務者 ○ ○ ○ ○

上記当事者間の御庁平成○年(○)第○○号不動産強制競売/担保不動産競売事件について、届出人は、平成○年○月○日の配当期日において配当表に関し異議を申し立てたところ、同期日において異議は完結しなかった。よって届出人は平成○年○月○日○○地方裁判所に対し、配当異議訴訟を提起したので、別紙提起証明書を添えて届け出る。

【書式10】 訴状(配当異議の訴え)

訴   状

平成○年○月○日○○地方裁判所 民事部 御中

当 事 者

〒○○○-○○○○ 東京都○区○町一丁目 1 番 1 号

          原      告  株式会社○○○○          代表者代表取締役  ○ ○ ○ ○〒○○○-○○○○ 東京都○区○一丁目 1 番 1 号          ○○法律事務所(送達場所)

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Ⅴ 配当異議の申出・配当異議の訴え

          原告訴訟代理人弁護士 ○ ○ ○ ○          電 話 03-○○○○-○○○○          FAX 03-○○○○-○○○○〒○○○-○○○○ 東京都○区○一丁目 1 番 1 号          被      告  株式会社○○○○

          被告訴訟代理人弁護士 ○ ○ ○ ○ ㊞

配当異議の訴え訴訟物の価額  ○○○万○○○○円※1

貼用印紙額     ○万○○○○円

第 1  請求の趣旨  1  ○○地方裁判所平成○年(○)第○○号○○事件につき、平成○年○

月○日作成された配当表のうち、被告への配当額が金○○円とあるのを金○○円に、原告への配当額が金○○円とあるのを金○○円に、それぞれ変更する。

  2  訴訟費用は被告の負担とする。 との判決を求める。

第 2  請求の原因※2

  1  原告の競売申立てと開始決定    原告は、平成○年○月○日、訴外○○の所有にかかる別紙物件目録(略)

記載の不動産(以下「本件不動産」という。)につき、○○地方法務局平成○年○月○日受付第○○号で設定登記された被担保債権額金○○円の抵当権に基づき、○○地方裁判所へ担保不動産競売申立てをし、同庁平成○年ケ第○○号事件として、平成○年○月○日、担保不動産競売開始決定がなされた。

  2  本件不動産の売却及び代金納付    その後、期間入札を経て、平成○年○月○日、本件不動産について売

却許可決定がなされ、同年○月○日、競売代金が納付された。  3  配当表の作成

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編者紹介・執筆者一覧

●編者紹介・執筆者一覧●

〔編者紹介〕

虎門中央法律事務所 (とらのもんちゅうおうほうりつじむしょ)

虎門中央法律事務所は創設以来、一環して、自己責任・自己判断の時代に

おける最先端の法律事務所として、企業法務・金融法務を中心に、企業危機

管理および企業コンプライアンスの確立に努めるとともに、「経済の法務パー

トナー」として、幅広い法務サービスを提供する総合法律事務所である。

債権回収業務には、主に金融機関、サービサー会社、その他を対象に、主

に債権者の代理人として、不良債権の回収処理に携わるなど、豊富な経験と

ノウハウを有している。

〒105-0003 東京都港区虎ノ門 1 - 1 -18 ヒューリック虎ノ門ビル

電話番号:03-3591-3281㈹  FAX番号:03-3591-3086

事務所ホームページ:http://www.torachu.com/

〔執筆者一覧〕

今井 和男(いまい かずお)

正田 賢司(しょうだ けんじ)

柴田 征範(しばた まさのり)

有賀 隆之(ありが たかゆき)

山崎 哲央(やまざき のりお)

板垣幾久雄(いたがき きくお)

臺  庸子(だい ようこ)

濵本  匠(はまもと たくみ)

平野  賢(ひらの けん)

箭内 隆道(やない たかみち)

初瀬  貴(はつせ たかし)

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編者紹介・執筆者一覧

荒井 隆男(あらい たかお)

中村 克利(なかむら かつとし)

林田健太郎(はやしだ けんたろう)

塗師 純子(ぬし じゅんこ)

小倉 慎一(おぐら しんいち)

鈴木 隆弘(すずき たかひろ)

望月 崇司(もちづき たかし)

松浦 賢輔(まつうら けんすけ)

山本 一生(やまもと いっせい)

山根 航太(やまね こうた)

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【現代債権回収実務マニュアル〔第 3巻〕】

執行手続による債権回収平成29年1月27日 第 1刷発行

定価 本体3,400円+税編 者 虎門中央法律事務所発 行 株式会社 民事法研究会印 刷 文唱堂印刷株式会社

発行所 株式会社 民事法研究会

    〒150‒0013 東京都渋谷区恵比寿3–7–16 TEL 03(5798)7257〔営業〕 FAX 03(5798)7258 TEL 03(5798)7277〔編集〕 FAX 03(5798)7278 http://www.minjiho.com/ [email protected]落丁・乱丁はおとりかえします。  ISBN978–4–86556–128–9 C3332 Y―3400E

カバーデザイン:袴田峯男