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国内情報aaaaaaaaaa aaaaa
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平成22年度多様な酪農経営実現支援事業に係る濃密研修会開催 去る2月24日に盛岡市(東日本ブロック)、3月2日に福岡市(西日本ブロック)を会場に、当団主催の多様な酪農経営実現支援事業に係る濃密研修会が開催され、都道府県の牛群検定事業実施主体及び牛群検定組合担当者、都道府県庁の酪農担当者等、約130名の参加がありました。 今年度の研修会では、東京大学大学院農学生命科学研究科の鈴木宣弘教授に「最近の国際化の動きとわが国の酪農について」と題してご講演いただきました。また当団電子計算センター電算課長の相原より「新しい検定情報について」として情報提供いたしました。 鈴木教授は、農業経済学と国際貿易論の専門家であり、現在、日本の参加が大きな争点となっているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)について、その様々な問題点とこれからの日本の酪農が進むべき方向性について熱く解説していただきました。 今回、鈴木教授のお話を伺うことで、あらためてTPPが抱える問題の大きさと課題を理解することができました。そして、今後、我々畜産関係者がどのようにこの問題を考え、どのように行動していくべきなのかということを深く考えさせられた非常に貴重な機会となりました。 この鈴木教授の講演内容につきましては、関心を持たれている方も多いと思いますので、以下にその概要を紹介させていただきたいと思います。 最後になりますが、非常にお忙しい中、ご講演いただいた鈴木教授にこの場を借りて深くお礼を申し上げます。
(電子計算センター 板橋 完)
1.TPPとは
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)とは、太平洋周辺の国々が参加し、関税・非関税措置の全面撤廃を目指す経済連携構想です。2006年5月にチリ、シンガポール、ニュージーランド、ブルネイの4 ヶ国ですでに発効している協定で、アメリカ主導で2010年10月までにアメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアが参加の意思を表明して交渉が進められています。 日本政府は、全ての関税撤廃を目指すこのTPPについて、2011年11月の次回APEC会合までの正式参加を目指し、6月までに参加の是非を判断するという方針を突然表明しました。 このまま日本がTPPに参加することになれば、日本の産業構造、雇用、そして国民生活全体に劇的な変化がもたらされることになります。
2.日本がTPPに参加すると・・・
現在の日本の食糧自給率は40%です。すなわち残りの60%は、海外の食料に依存していることになります。 日本は、コメ、乳製品等のわずか1割の重要品目に
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対してのみ高関税を維持し守ってきましたが、TPPの参加によりこれら品目が「ゼロ関税」になることで、農水省が目標として掲げている食糧自給率40%→50%の上昇シナリオは大きく崩れ、14%に向けて急落すると試算されています。 すなわち、このことは長い年月をかけて守ってきたコメや乳製品等を一瞬にして失うことになり、国民の命の根幹をなす食料のほとんどを海外に依存することになることを意味します。 また、「ゼロ関税」の打撃を受けるのは農業だけではなく、繊維製品、皮革・皮革製品などの工業分野や、金融、保険、法律、医療などのサービス分野も同様です。例えば、これまで受け入れをほぼシャットアウトしてきた海外からの看護師を大幅に受け入れることになりますが、日本側の受け入れ体制が半年程度の短期間に整えられるとは思えませんし、海外展開のない中小企業の多くは、輸入品とのさらに激しい競争に直面する可能性があります。そして、海外からの安い労働力が流入することで、国内の雇用が失われる可能性も考えられます。
3.個別所得保障すれば大丈夫?
関税撤廃の例外措置が全く認められないTPPに日本が参加した場合、国内の農業生産額は4.1兆円減少し、GDP(国内総生産)ベースの損失額は7.9兆円にのぼると農水省は試算しています。 酪農においては、海外からの19円/ kgの乳価と戦わなければならず、加工向けはほぼ消滅し、北海道の生乳が飲用にまわり、都府県の酪農が壊滅的な影響を受けるばかりか、飲用乳の約2割が中国産に置き換わり、結果として生産量で56%が失われるとも試算されています。
これらの損失に加えて約1兆円の関税収入の喪失分を、個別に所得保障する新たな財源を国は確保しているのでしょうか?結論は、皆さんお考えのとおり、財源確保の裏付けが明確になっていないのが現状です。 TPPは、「とりあえず参加を表明しておいて、関税撤廃の例外品目(コメや乳製品等)が認められなければ所得補償すればよい」というような安易な対応が許される問題ではないのです。
4.「農業保護vs国益」ではない
TPPに参加した際の農業及び関連産業のGDPの損失額7.9兆円という農水省の試算と、TPPに参加しなかった場合の輸出産業のGDP損失額10.5兆円という経済産業省の試算があります。 確かに、TPPに参加しなかった場合の輸出産業の損失は大きいものがあります。 しかしながら、農業生産をベースにして、地域の関連産業が成り立っていることを考えなければなりません。また、農業には、自給による国民への主食の安定供給、水田における生物多様性保全機能、洪水防止機能、土壌崩壊防止機能、水質浄化機能、窒素循環機能、農村景観・保健休養の場の提供など多面的機能があるのです。TPPへの参加によって、これらの多面的機能も大きく失われることになるのですが、この影響はGDPには直接表れてこないのです。 TPPの参加の是非を議論する際に、一部の輸出産業が主張する目先の利益を「国益」と呼び「農業のせいでTPPに参加できない」、といった、「農業保護vs国益」といった考えは大きな誤りで、一部の輸出産業の利益のために失う本当の意味での国益の大きさを考える必要があるのです。
5.食料は戦略物資
食料は人々の命に直結する最も基本的かつ必要不可欠なものであり、国民に安全な食料を安定的に確保することは国家としての責任なのです。 また、食料確保は、軍事、エネルギーと並ぶ国家存立の重要な三本柱の一つであり、食料は「戦略物資」だというのが世界の常識となっています。 しかしながら、外国に比較して日本ではこのような認識が薄いように思います。中には「農業ばかりが保護されている」と、農業政策が単なる農家のためだけの政策だと勘違いしている人も多くいます。 我々農業関係者は、今まで以上に、この食料の重要性と、農業政策が「国民一人一人が自らの食料をど
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う確保するか」、そのための政策であるということを、消費者をはじめ国民全体に強く伝えていく必要があるのです。
6.農産物輸出国の手厚い農業保護
アメリカは、コメの生産費がタイやベトナムよりもはるかに高いのに、なぜコメの生産量の半分以上を輸出できるのでしょう。 アメリカには、コメの生産費と、輸出価格との差額を全額政府が補填する制度があるからです。この実質的な輸出補助金によって保護されているため、農家はいくら安く売っても増産でき、また安く輸出できる
「はけ口」が確保されているので、在庫が累積し続けることがありません。 この仕組みはコメだけでなく、小麦、トウモロコシなどにも使われ、これがアメリカの食料戦略を支えているのです。 また、ヨーロッパ諸国では、農業所得に対する財政負担の割合が軒並み90%を超えているのに対して、日本の負担割合は15.6%とはるかに低くなっています。 すなわち、欧米先進諸国の食料自給率・輸出力の高さは、手厚い政府支援の証であり、わが国の食料自給率が低いのは、過保護だからではなく、農業保護水準が低いからなのです。
7.本当に「強い酪農」を目指して
TPPのような「ゼロ関税」を前提とした議論は論外ですが、今回の問題を機会に、私たちは、農業の就業人口の減少と高齢化の加速により、日本の食料生産基盤が弱体化してきていることを重く受け止め、日本農業が国民への基礎食料供給と国土・地域保全という社会的使命を今後とも果たせるような、本当の意味での「強い酪農」を目指す必要があるのです。 そのためには、輸入粗飼料への依存体質からの脱却、生産コストが急上昇しても最低限の所得を安定的に確保できるような所得保障制度、生産コストが販売価格に反映されるような市場形成、生産調整から出口調整への移行、といった施策を本気で検討する必要があります。 その一方で、酪農家と酪農関係者は、環境にも、牛にも、その他の生き物にも、景観にも、人にも優しい経営を目指し、消費者に自然・安全・本物の牛乳・乳製品・畜産物を届けるという基本的な使命に立ち返ることで、消費者ともっと密接に結びつくことが最も重要なのです。
このような取り組みによって、「少々高くてもモノが違うから、あなたのものしか食べたくない」という消費者を、地元の地域や日本はもちろん、アジアや世界につくることによって本当に強い酪農は実現できるのです。
8.最後に
TPPに関して、いま忘れてならないことは、冷静に国民的な議論をすれば、拙速な対応は回避されるはずであり、ここで農家や関係者の皆さんがやる気をなくすようなことがあってはならないということです。 私も一人の研究者として覚悟をもってこの問題に挑んでいます。 本日参加していただいた関係者の皆さんも、酪農界のリーダーとして気合いを入れ直して一緒に頑張っていただきたいと思います。
(一部研修会資料から要約)
※ 当日の資料がまだ若干ありますので、希望される方は当団にご連絡をお願いいたします。
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肉用牛合同研修会開催 平成23年3月4日、群馬県JAビル大ホールにおいて、群馬県畜産協会他4団体合同主催の平成22年度「肉用牛合同研修会」が開催されました。会場には、群馬県内の農家・関係者など約300名が集まり、熱心な勉強会となりました。本年度は、JA全農ミートフーズ株式会社より寺島豊明先生と工藤家畜診療所(青森県)獣医師の工藤洋一先生にご講演いただきました。
寺島先生は、「俵牛づくりに挑戦しよう」という題目で、より市場で高く売るための肥育牛づくりにおいて「俵牛」を作ることが重要で、肉質等級を高めるためには枝肉重量、ロース芯面積、バラの厚さを高める必要があり、これを実現させるために、素牛導入から12カ月齢までを前期、13 〜 22カ月齢を中期とし、さらに23カ月齢から出荷までを後期として、この3期に分けた時期に見合った飼養管理の重要性について
ご講演いただきました。特に肥育期間中を通して「食い止まり」なく食べさせることがポイントとのことでした。 また、工藤先生からは、「繁殖技術の奥義」という題目で授精技術向上に関するご講演をいただきました。自然交配と人工授精の初回受胎率の差から受胎率の差が何に起因しているか、また、乳用牛/肉用牛、牛/豚を比較して、今後の受胎率向上のために何をするべきかご説明いただきました。 その中で、乳牛では搾乳の際に乳房、後肢、陰部などを観察する機会が多々あるが、肉用牛では観察がおろそかになりやすく、発情の見落としから授精適期を逃していることについて言及されました。また、咆哮などの挙動の変化から授精適期を予測する方が多いが、発情期に咆哮する雌牛は45%と実は少ないことを指摘し、授精適期を見落とさないためには、粘液徴候や外陰部をしっかり観察することが受胎率向上につながっていくとのことでした。 このように、授精の最も基本となる「観察」が一番重要であり、生産者と指導者・人工授精師が連携をとって繁殖に臨んでほしいと提言されました。 両先生ならびに会場にお越し頂いた多くの方々に、この場をおかりして御礼申し上げます。
(前橋種雄牛センター 上本篤史)
十勝種雄牛センター和牛改良講演会開催!! 平成23年3月11日(金)、北海道帯広市のとかちプラザレインボーホールにて、十勝種雄牛センター主催の和牛改良講演会が開催されました。 講演会に先立ちまして、19前期現場後代検定にて選抜されましたP黒660 十勝照の生産者である北海道幕別町の黒沼茂樹氏をお迎えし、当団横内理事長より記念品のパネルを贈呈いたしました。 講演会は、(独)家畜改良センター十勝牧場 鈴木稔場長より「家畜改良センターにおける種雄牛造成と最近の選抜動向について」と題して、近年実施している種雄牛造成に係る分割卵創始を利用した取り組みについてお話しいただき、その効果として最近選抜された種雄牛の特徴をそれぞれご説明いただきました。また、JA全農ミートフーズ株式会社 生産技術主幹の寺島豊明氏からは、「最近の枝肉市況と肥育について」と題して最近の消費動向や枝肉市場の市況に加え、“俵牛づくり”のポイントをわかりやす
くご説明いただきました。 本講演会の最中に、現在東日本を震撼させている
“東北地方太平洋沖地震”が発生し、大きな揺れの中何度も講演会を中断しました。このような状況の中、最後までご講演いただきました両先生並びにご参加くださいました皆様に厚く御礼申し上げます。
(事業部 石濱 賢)
左より 鈴木 稔氏、寺島豊明氏
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