7000」に実装しようとしたとき、課題になるのが ·...

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APS MAGAZINE 5 4 APS MAGAZINE Volume.11 2015.8 5 4 Volume.11 2015.8 SDSoC)」を実際に使っていただいた感触を含 めて、ソフトウェアエンジニア目線から色々とお 話を伺いたいと思います。 山本(OKI):OKIアイディエスで開発のとりまと めをしています山本です。本日はお招きありがと うございます。 神保:OKIアイディエスさんとは、前身である沖 情報システムズの頃からのお付き合いで、10年 近く一緒にお仕事をさせていただいていますね。 山本:はい。当時、これから主流になっていく であろうFPGAの設計サービスを立ち上げたい と考え、ザイリンクスさんのPCI Expressハー ドコアに特化した「iDMAC ® 」というDMAコン トローラIPを開発しました。「Virtex ® -5 LXTに iDMACを組み込めばPCI Expressを介してき わめて高いデータ転送を実現できます」という触 れ込みで、ザイリンクスさんのご協力もいただき ながらお客様にご提案して、ずいぶんとご好評 デュアルコアのARM ® Cortex ® -A9プロセッサとFPGAファブリックを統合したザイリンクスの「Zynq ® -7000 All Programmable SoC」の採用がオートモーティブを筆頭に広がっている。そうした躍進の陰には、設計支援やコンサルテーションを通じて顧客システムの TTM(Time-to-market)を支援する、ザイリンクスのアライアンスパートナーの存在がある。今号のLEADER'S VOICEでは、その最上位 となる「プレミアパートナー」の称号を国内で唯一得ているOKIアイディエスを迎え話を聞いた。 をいただきました。その後、おかげさまでFPGA の設計サービス事業も順調に伸びています。 神保:OKIアイディエスさんは全世界で10社し か認定されていない弊社のプレミアパートナー です。エンジニアの皆さんのスキルが高いだけ ではなく、弊社と共にマーケットの拡大にも努 めていただいているので、安心してお客様にご 紹介させていただいています。 山本:はい、とても多くのお客様とビジネスさせ ていただいています。分野としては基本的に全 方位で対応していますが、画像処理、音声処理、 通信制御関連のIP開発と、それらIPを使ったデ ザインサービスを提供しており、マーケットとして はオートモーティブと医療機器に注力しています。 神保:ザイリンクスは2010年に、デュアルコア のCortex-A9プロセッサとFPGAファブリックと を統合した「Zynq-7000 All Programmable SoC」(以下、「Zynq-7000」)を発表しました。 高度なシステムを高性能かつコンパクトに実現 できるということで、市場での評価も高く、採用 事例もかなりの数になっております。現在は、次 世代システムの実現に必要な「スマート」、「コネ クト」、「ディファレンシエイト」という三つのメッ セージを掲げて、ビデオ/ビジョン、インダスト リアルIoT(Internet of Things)、ADAS(先 進運転支援システム)などを重点マーケットとし て取り組んでいます。ソフトウェアプログラマブ ルなARM Cortex-A9プロセッサと、ハードウェ アプログラマブルなFPGAファブリックとがワン チップに入っていることが「Zynq-7000」の最 大の特徴で、ビデオ/ビジョンやADASのように、 映像をリアルタイムで取得し、その映像をベース に高度な処理や判断をして、システムにフィード バックするような用途がひとつの典型になると考 えています。具体的には、産業分野におけるマ シンビジョンや防衛、ビデオ監視、高機能ドロー ンなどが挙げられます。 山本:当社ではザイリンクスさんがターゲットと する分野を見据えながら設計サービスに取り組ん でいますが、なかでもADASをはじめとするオー トモーティブは動きが活発だと感じます。当社で も2年ほど前から、従来のDSPシステムのソフト ウェア設計者を「Zynq-7000」の設計にシフトす るなど、取り組みを強化しているところです。ま た、そうした背景を受けて、ADASに対応した FPGA IPを開発しているクロアチアのザイロン社 (Xylon)の日本国内における独占使用契約を 2014年12月に同社と締結しました。歩行者検 出や車線検出に代表される同社のIPやFPGAデ ザインサービスは欧米のADAS市場で豊富な実 績があり、ADASを手掛けられている国内のお客 様にザイロン社のソリューションをご提案したとこ ろ、すぐに採用が決まったこともあります。 友杉(ザイリンクス):FAEの友杉です。OKIアイ ディエスさんと一緒にオートモーティブのお客様 を回ることも多いのですが、このところ、お客様 の要求仕様がすごく高くなってきているのを感じ ます。高い性能を得るために複数のプロセッサ を組み合わせるヘテロジニアス アーキテクチャと いったキーワードも頻繁に聞くようになってきまし た。従来、パフォーマンスを上げようとすればプ ロセッサのクロックを速くするという考え方が当た り前でしたが、消費電力や熱の問題が生じてしま います。そこで、「Zynq-7000」のようなデバイ スを使って、プロセッサやFPGAロジックをヘテ ロジニアスに結合して性能を上げていきたい、と いった発想が生まれてきているように感じます。 システムレベル設計を支援する SDSoC開発環境が一般リリース 神保:ADASに代表される複雑な機能を「Zynq- 7000」に実装しようとしたとき、課題になるのが 開発効率です。Cortex-A9プロセッサで処理す る部分とFPGAファブリックで処理する部分とをい かに切り分けるかという問題と、それらを高位言 語でいかに効率よく記述するかという問題、そし て、ハードウェア化された部分をどのようにして メインプログラムに組み込むのかという問題があ り、開発ツールがきわめて重要になってきます。 黒田(ザイリンクス):ザイリンクスで開発ツール のプロモーションを担当している黒田です。いま 神保から話がありましたように、ハードウェアと ソフトウェアの両方が関係する「Zynq-7000」 の開発はツールが鍵を握ると考えていて、「使 いやすい」かつ「高機能」なツールをユーザー に提供できるよう、積極的な投資を行っていま す。まず、ハードウェアエンジニア向けに提供 しているFPGAファブリック部分の開発ツールが 「Vivado ® Design Suite」(ビ バド)です。 従 来提供してきた「ISE ® Design Suite」に代わる ツールで、今後見込まれるFPGAの大容量化に も対応できるようなスケーラビリティを特徴とし、 実装の高速化、ロジックエレメント使用率の改 善、性能向上および低消費電力化など、次世代 レベルの優れた生産性をもたらします。「Vivado Design Suite」に含まれる高位合成ツールが 「Vivado HLS」で す。C/C++/SystemCで 記 述されたIPをハンドコーディングと同等レベルの VHDLコードまたはVerilog RTLコードに効率 的に合成するツールです。「Zynq-7000」では、 Cortex-A9プロセッサ上のソフトウェアアルゴリ ズムをハードウェア化する際に有用です。ただ し、「Vivado HLS」で合成したハードウェアIPを Cortex-A9プロセッサ上のソフトウェアから呼び 出すには、デバイスドライバの作成やAPIの定義 などが必要で、エンジニアが人手で作りこまなけ ればなりません。また、合成したハードウェアIP と他のハードウェアブロックとのインターコネクト についてもエンジニアが人手で対応する必要が あります。そうした付帯的な設計作業には、多く の工数が掛かってしまうのが実状でした。この課 題に対してザイリンクスは、それらの作業を自動 化する「SDSoC」という新しいツールを開発し、 2015年7月から一般への提供を開始したところ です(図1)。 友杉:2015年3月に「SDSoC」のコンセプトを 発表した後、山本さんから、「Vivado HLS」で アルゴリズムをハードウェアに落とし込むところ 写真(左より) ザイリンクス株式会社 マーケティング部 シニアマネージャー 神保 直弘 氏 株式会社 OKI アイディエス 開発部 部長 山本 康雄 氏 ザイリンクス株式会社 グローバルセールス アンド マーケット ツール メソドロジー アプリケーション部 シニア エンジニア 黒田 成一 氏 株式会社 OKI アイディエス 開発部 第4チーム 長岡 俊一 氏 ザイリンクス株式会社 グローバルセールス アンドマーケット エンジニアリング本部 フィールド アプリケーション エンジニア 友杉 伸一朗 氏 ザイリンクス会社 LEADER'S VOICE Zynq SoC なら ソフトウェアエンジニア でも、 ハードウェアを活用した システム高速化を容易に実現 オートモーティブ市場が活発化 ADASが キラーアプリケーションに 神保(ザイリンクス):今日は、当社のプレミア パートナーであるOKIアイディエスさんをお招き して、2015年3月に発表したザイリンクスの革 新的ツールである「SDSoC™ 開発環境(以下、

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Page 1: 7000」に実装しようとしたとき、課題になるのが · 化する「SDSoC」という新しいツールを開発し、 2015年7月から一般への提供を開始したところ

APS MAGAZINE 54 APS MAGAZINEVolume.11 2015.8 54 Volume.11 2015.8

SDSoC)」を実際に使っていただいた感触を含

めて、ソフトウェアエンジニア目線から色々とお

話を伺いたいと思います。

山本(OKI):OKIアイディエスで開発のとりまと

めをしています山本です。本日はお招きありがと

うございます。

神保:OKIアイディエスさんとは、前身である沖

情報システムズの頃からのお付き合いで、10年

近く一緒にお仕事をさせていただいていますね。

山本:はい。当時、これから主流になっていく

であろうFPGAの設計サービスを立ち上げたい

と考え、ザイリンクスさんのPCI Expressハー

ドコアに特化した「iDMAC®」というDMAコン

トローラIPを開発しました。「Virtex®-5 LXTに

iDMACを組み込めばPCI Expressを介してき

わめて高いデータ転送を実現できます」という触

れ込みで、ザイリンクスさんのご協力もいただき

ながらお客様にご提案して、ずいぶんとご好評

デュアルコアのARM® Cortex® -A9プロセッサとFPGAファブリックを統合したザイリンクスの「Zynq® -7000 All Programmable

SoC」の採用がオートモーティブを筆頭に広がっている。そうした躍進の陰には、設計支援やコンサルテーションを通じて顧客システムの

TTM(Time-to-market)を支援する、ザイリンクスのアライアンスパートナーの存在がある。今号のLEADER'S VOICEでは、その最上位

となる「プレミアパートナー」の称号を国内で唯一得ているOKIアイディエスを迎え話を聞いた。

をいただきました。その後、おかげさまでFPGA

の設計サービス事業も順調に伸びています。

神保:OKIアイディエスさんは全世界で10社し

か認定されていない弊社のプレミアパートナー

です。エンジニアの皆さんのスキルが高いだけ

ではなく、弊社と共にマーケットの拡大にも努

めていただいているので、安心してお客様にご

紹介させていただいています。

山本:はい、とても多くのお客様とビジネスさせ

ていただいています。分野としては基本的に全

方位で対応していますが、画像処理、音声処理、

通信制御関連のIP開発と、それらIPを使ったデ

ザインサービスを提供しており、マーケットとして

はオートモーティブと医療機器に注力しています。

神保:ザイリンクスは2010年に、デュアルコア

のCortex-A9プロセッサとFPGAファブリックと

を統合した「Zynq-7000 All Programmable

SoC」(以下、「Zynq-7000」)を発表しました。

高度なシステムを高性能かつコンパクトに実現

できるということで、市場での評価も高く、採用

事例もかなりの数になっております。現在は、次

世代システムの実現に必要な「スマート」、「コネ

クト」、「ディファレンシエイト」という三つのメッ

セージを掲げて、ビデオ/ビジョン、インダスト

リア ルIoT(Internet of Things)、ADAS(先

進運転支援システム)などを重点マーケットとし

て取り組んでいます。ソフトウェアプログラマブ

ルなARM Cortex-A9プロセッサと、ハードウェ

アプログラマブルなFPGAファブリックとがワン

チップに入っていることが「Zynq-7000」の最

大の特徴で、ビデオ/ビジョンやADASのように、

映像をリアルタイムで取得し、その映像をベース

に高度な処理や判断をして、システムにフィード

バックするような用途がひとつの典型になると考

えています。具体的には、産業分野におけるマ

シンビジョンや防衛、ビデオ監視、高機能ドロー

ンなどが挙げられます。

山本:当社ではザイリンクスさんがターゲットと

する分野を見据えながら設計サービスに取り組ん

でいますが、なかでもADASをはじめとするオー

トモーティブは動きが活発だと感じます。当社で

も2年ほど前から、従来のDSPシステムのソフト

ウェア設計者を「Zynq-7000」の設計にシフトす

るなど、取り組みを強化しているところです。ま

た、そうした背景を受けて、ADASに対応した

FPGA IPを開発しているクロアチアのザイロン社

(Xylon)の日本国内における独占使用契約を

2014年12月に同社と締結しました。歩行者検

出や車線検出に代表される同社のIPやFPGAデ

ザインサービスは欧米のADAS市場で豊富な実

績があり、ADASを手掛けられている国内のお客

様にザイロン社のソリューションをご提案したとこ

ろ、すぐに採用が決まったこともあります。

友杉(ザイリンクス):FAEの友杉です。OKIアイ

ディエスさんと一緒にオートモーティブのお客様

を回ることも多いのですが、このところ、お客様

の要求仕様がすごく高くなってきているのを感じ

ます。高い性能を得るために複数のプロセッサ

を組み合わせるヘテロジニアス アーキテクチャと

いったキーワードも頻繁に聞くようになってきまし

た。従来、パフォーマンスを上げようとすればプ

ロセッサのクロックを速くするという考え方が当た

り前でしたが、消費電力や熱の問題が生じてしま

います。そこで、「Zynq-7000」のようなデバイ

スを使って、プロセッサやFPGAロジックをヘテ

ロジニアスに結合して性能を上げていきたい、と

いった発想が生まれてきているように感じます。

システムレベル設計を支援するSDSoC開発環境が一般リリース

神保:ADASに代表される複雑な機能を「Zynq-

7000」に実装しようとしたとき、課題になるのが

開発効率です。Cortex-A9プロセッサで処理す

る部分とFPGAファブリックで処理する部分とをい

かに切り分けるかという問題と、それらを高位言

語でいかに効率よく記述するかという問題、そし

て、ハードウェア化された部分をどのようにして

メインプログラムに組み込むのかという問題があ

り、開発ツールがきわめて重要になってきます。

黒田(ザイリンクス):ザイリンクスで開発ツール

のプロモーションを担当している黒田です。いま

神保から話がありましたように、ハードウェアと

ソフトウェアの両方が関係する「Zynq-7000」

の開発はツールが鍵を握ると考えていて、「使

いやすい」かつ「高機能」なツールをユーザー

に提供できるよう、積極的な投資を行っていま

す。まず、ハードウェアエンジニア向けに提供

しているFPGAファブリック部分の開発ツールが

「Vivado® Design Suite」(ビ バド)です。 従

来提供してきた「ISE® Design Suite」に代わる

ツールで、今後見込まれるFPGAの大容量化に

も対応できるようなスケーラビリティを特徴とし、

実装の高速化、ロジックエレメント使用率の改

善、性能向上および低消費電力化など、次世代

レベルの優れた生産性をもたらします。「Vivado

Design Suite」に含まれる高位合成ツールが

「Vivado HLS」で す。C/C++/SystemCで 記

述されたIPをハンドコーディングと同等レベルの

VHDLコードまたはVerilog RTLコードに効率

的に合成するツールです。「Zynq-7000」では、

Cortex-A9プロセッサ上のソフトウェアアルゴリ

ズムをハードウェア化する際に有用です。ただ

し、「Vivado HLS」で合成したハードウェアIPを

Cortex-A9プロセッサ上のソフトウェアから呼び

出すには、デバイスドライバの作成やAPIの定義

などが必要で、エンジニアが人手で作りこまなけ

ればなりません。また、合成したハードウェアIP

と他のハードウェアブロックとのインターコネクト

についてもエンジニアが人手で対応する必要が

あります。そうした付帯的な設計作業には、多く

の工数が掛かってしまうのが実状でした。この課

題に対してザイリンクスは、それらの作業を自動

化する「SDSoC」という新しいツールを開発し、

2015年7月から一般への提供を開始したところ

です(図1)。

友杉:2015年3月に「SDSoC」のコンセプトを

発表した後、山本さんから、「Vivado HLS」で

アルゴリズムをハードウェアに落とし込むところ

写真(左より)

ザイリンクス株式会社マーケティング部シニアマネージャー 神保 直弘 氏

株式会社OKIアイディエス開発部部長 山本 康雄 氏

ザイリンクス株式会社グローバルセールス アンド マーケットツール メソドロジー アプリケーション部シニア エンジニア 黒田 成一 氏

株式会社 OKIアイディエス開発部 第4チーム長岡 俊一 氏

ザイリンクス株式会社グローバルセールス アンドマーケット エンジニアリング本部フィールド アプリケーション エンジニア 友杉 伸一朗 氏

ザイリンクス会社 | LEADER'S VOICE

Zynq SoCならソフトウェアエンジニアでも、

ハードウェアを活用したシステム高速化を容易に実現

オートモーティブ市場が活発化ADASが

キラーアプリケーションに

神保(ザイリンクス):今日は、当社のプレミア

パートナーであるOKIアイディエスさんをお招き

して、2015年3月に発表したザイリンクスの革

新的ツールである「SDSoC™ 開発環境(以下、

Page 2: 7000」に実装しようとしたとき、課題になるのが · 化する「SDSoC」という新しいツールを開発し、 2015年7月から一般への提供を開始したところ

APS MAGAZINE 76 APS MAGAZINEVolume.11 2015.8 76 Volume.11 2015.8

まではいけるのだが、その先のソフトウェアとの

連係のところで苦労している、というお話を伺っ

て、「SDSoC」なら問題を解決できるのではと思

い、アーリーアクセス版をご紹介しました。

山本:いくつかのお客様から、画像処理や信号

処理の性能を高めたいというご要望があり、そ

れであれば 「Zynq-7000」を使ったアクセラ

レーション化が適当だろうと考えて取り組んでい

たプロジェクトがありました。元々のソフトウェ

アアルゴリズムはOpenCV、行列演算、お客

様のオリジナル記述の混在するコードで実現さ

れていました。ザイリンクスさんから提供されて

いる 「Vivado HLS」の中で対応するハードウェ

ア化向けライブラリが存在するものは、そのライ

ブラリに置き換えることで簡単にできました。ま

た、オリジナル記述の部分については性能を満

たすようにある程度のリファクタリング(プログ

ラムの書き換え)が必要でしたが、C++記述の

まま設計を進められるのでソフトウェア設計の延

長線上で済ませることできました。しかし、大変

だったのはその後の工程で、IPが出来てもそれ

をCortex-A9プロセッサ上で走るメインプログ

ラムから呼び出せる状態に持っていくのがなか

なか上手くいかないわけです。担当者は休日返

上で頑張ったりもしたのですが、残念ながら予

定したスケジュールでは作りきれませんでした。

そんなときに、友杉さんから「SDSoC」の説明

を伺う機会があって、まさにこれだと。さっそく

ザイリンクスさんに「SDSoC」のアーリー・アク

セス版をお願いして使ってみましたら、月単位

で苦労していたハードウェアとソフトウェアの繋

ぎの部分が「SDSoC」で自動生成されるので(図

1)、わずか数日の作業で動くようになり、今ま

での苦労は何だったのだろうというぐらいに驚

きました。今日同席している長岡は「SDSoC」

を担当したエンジニアです。

長岡(OKI):私はもともとDSP向けを中心とし

たソフトエンジニアで、FPGAに触れるのは今

回が実は初めてでした。まず手始めに「Vivado

HLS」を使って高位合成の勉強をしていたとき

に、山本から「SDSoC」をやるように指示され、

この新しいツールを担当することになりました。

山本:長岡もそうだったように、FPGAの使用経

験がないというのが一般的なソフトウェアエンジ

ニアの感覚だと思います。ソフトウェアで実装さ

れたアルゴリズムをハードウェアアクセラレータ

に落とし込みたいというとき、ソフトウェアエン

ジニアがRTLで組めるかといったら無理なわけで

す。ところが、今回のプロジェクトで長岡が図ら

ずも証明してくれる形になりましたが、「Vivado

HLS」と「SDSoC」を使えば、ソフトウェアエン

ジニアでもハードウェアロジックを組めるという

ことが分かった。これはとても大きいと思ってい

ます。今回お持ちしたビデオソリューションのデ

モシステム(図2)は、ソフトウェアによるビデオ

デコード処理の内、処理の重いアルゴリズムの

部分を「SDSoC」を使用してハードウェアロジッ

クに置き換えたものです。前述のように、既にラ

イブラリにあるコードを活用したり、オリジナル

記述をリファクタリングしたり、そして「SDSoC」

を使用してさまざまな調整をしながらシステム

に最適に組み込むことができました。その結果、

元のソフトウェア処理に比べ処理時間を30倍以

上向上させることができました。これを弊社のソ

フトウェアエンジニアが一人で実現したのです。

黒田:「SDSoC」はハードウェアIPの準備がで

きた後の全ての工程を自動化しますので、ツー

ル操作自体は全然難しくありません。ハードウェ

ア化の対象としたい関数にクリックしてチェック

を入れてビルドを実行するだけで、ハードウェ

ア・ランタイムの生成までを自動で行ってくれま

す。むしろ大事なのは、アクセラレーションの

ためにコードをリファクタリングする部分(主に

ハードウェアIPの部分)で、そこは従来であれば

RTLやFW設計に相当するのですが、「SDSoC」

と「Vivado HLS」の自動生成機能によるアシ

ストによって、C/C++記述の書き換えと若干の

#pragma文挿入で済ませられるようになりま

した。長岡さんは「Vivado HLS」を使った高

位合成の手法をある程度習得されていましたの

で話が早かったです。一方「SDSoC」ではハー

ドウェア・ランタイム生成だけでなく、従来の

「Vivado HLS」単体では及ばなかった高い粒

度でのアクセラレーションも実現することができ

ます。ここは長岡さんにとっては新しい部分にな

ります。「SDSoC」のツール操作だけでなく、よ

図1:「SDSoC」の画面からハードウェア化したい関数(アルゴリズム)を指定すると、赤色で示したハードウェア部のアルゴリズムだけでなく、DMAやインターコネクトの生成や、ソフトウェア部のカスタムドライバも自動的に生成される。

Software

Hardware(ZYNQ)

void main(){ func1(…) func2(…) func3(…) func4(…) …}

C、C++ベースのHW/SW開発環境【ターゲット:ZYNQプラットフォーム】

Algo C

Algo C

App C

Algo C

OS/BSP

Application

I/OI/O I/O

IPIP

Software

Hardware(ZYNQ)

void main(){ func1(…) func2(…) func3(…) func4(…) …}

Algo C

HLS C

App C

HLS C

OS/BSP

Application

Custom Driver

I/OI/O I/O

IPIP

I/C I/C

DMA DMA

AlgoPL

PS

PL

PS

Algo

アルゴリズムをソフトウェアのみで構成 「SDSoC」を使用し、アルゴリズムをHWに置き換えた構成

ザイリンクス会社 | LEADER'S VOICE

ソフトウェア担当は、時間との戦いである。いかにアルゴリズムを縮められるか?いかに早く実行可能かどうか?そ

んな声に応えたのが、SDSoCだ。単にアルゴリズムを置き換えるだけではなく、強力なプロファイリング機能により

最適なH/W化が行われる。しかも、プロセッサやバスとのI/Fも最適化され、適切なドライバが生成される。アプリ

ケーションは、このドライバから制御を行う。これはソフトウェア担当者にとって朗報でしかない。アルゴリズムをソフ

トウェア的手法でチューニングするのは、生易しいものではないが、それを可能にするSDSoC。今回は、そんな生

の声が届いてくれればいいと思う。

ザイリンクス会社 | LEADER'S VOICE

り幅広いレンジの粒度でアクセラレーションを実

現するためのリファクタリングも含めて、長岡さ

んをサポートさせていただきました。

長岡:逐次で実行されるソフトウェアと、クロッ

クに同期して並列に実行されるハードウェアとの

違いなどを教えていただきましたが、その他は

FPGAということをあまり意識せずにアルゴリズ

ムの落とし込みができました。今まで意識してこ

なかったアーキテクチャを考えるという工程が新

しく学んだ部分で、その習得に少し時間が掛かり

ましたが、そこが分かればソースコードのリファ

クタリングはそれほど難しくはなく、私のような

初めての人間でもソフトウェアを開発している感

覚の延長で取り組めました。しかもやればやるほ

ど高速化できたのでとても楽しかったです。ある

関数はソフトウェア処理だと180msecもかかっ

ていたものが4msecまで高速化できました。こ

れは自分でも信じられなかったです(笑)。

友杉:セールスの現場では、「Zynq-7000」の

開発は基本的には簡単ですよと売り込むのです

が(笑)、ソフトウェアとハードウェアの機能配置

だとか、いままではシステムアーキテクトの方

が考えていたシステム的な発想が必要なので、

実際には難しいところはあると思います。ただ、

ソフトウェアエンジニアの方がシステム全体の最

適化まで考えられるようになる「SDSoC」はチャ

レンジに対するリターンがとても大きいツールだ

なと感じます。長岡さんのようなエンジニアの方

が増えてもらえれば嬉しく思います。

Zynqの次世代品の開発も順調パートナーとSoC市場

の拡大を目指す

神保:正式に「SDSoC」がリリースになったこと

で、「Zynq-7000」の採用がさらに加速すると

期待しているのですが、ザイリンクスでは並行し

て新しいデバイスの開発にも取り組んでいます。

すでにプレスリリースなどを通じて発表していま

すが、「Zynq-7000」の5倍以上の価値を提供

できる16nmの最新プロセスで製造する「Zynq

Ultrascale+ MPSoC」の 開 発を進 めていて、

2015年7月1日にテープアウトを行いました。

最初のサンプルは予定どおり2015年内に完成

する予 定です。「Zynq Ultrascale+ MPSoC」

は、クワッドコアのARM Cortex-A53プロセッ

サをはじめ、リアルタイム処理用のデュアルコ

アARM Cortex-R5プ ロ セ ッ サ、2Dお よ び

3Dなどのグラフィクス処理用のARM Mali™-

400MP、パワーマネージメントプロセッサ、セ

キュリティエンジンなどが内蔵されます。次世代

のADASなど、さらに高度かつ高性能なシステ

ムを実現するSoCとして、個人的にも登場を期

待しているところです。

山本:神保さんのお話にあったようなザイリンク

スさんの次のデバイスの情報や「SDSoC」のよ

うな新しいツールのアーリーアクセスをいかに早

く得るか、というのは日本のお客様をサポートし

ていく上で我々にとってとても大切で、同時に、

先ほど「Vivado HLS」で合成した次の段階で苦

労したという話をご説明しましたが、私たちの悩

みをザイリンクスさんと共有することも重要です。

ザイリンクスさんとコミュニケーションをより一層

密にすることで、お客様にも貢献していきたいと

考えています。一方で、「SDSoC」の活用による

設計期間の短縮は当社にとってもビジネスチャン

スになると考えていて、コンサルティングを含め

てデザインサービスの拡充を図り、お客様のお

役に立てるようにさらに努めていきます。

神保:OKIアイディエスさんをはじめとするア

ライアンスパートナー各社様の強みは、お客様

と密な関係を持たれているところなので、ザイ

リンクスとしても今後のニーズやトレンドを共有

していただけると嬉しいです。それと同時に、

ザイリンクスのSoCは次世代のプラットフォー

ムとして安心して使えることを市場に広く伝え

ていただければ幸いです。本日はありがとうご

ざいました。

図2:ZC706ベースのビデオソリューションに「SDSoC」を用いてパフォーマンスの向上を実現。