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6.薬物治療 1)薬物治療(婦人科) (1)月経困難症の治療 (2)排卵誘発剤 (3)HRT (4)抗癌剤 2)薬物治療(産科) (1)切迫早産の管理 (2)子宮収縮抑制剤 (3)陣痛促進剤 (4)妊婦に対する薬物処方上の留意点 1)薬物治療(婦人科) (1)月経困難症の治療 月経困難症は月経に随伴して起こる下腹痛を主症状とする症候群である.器質的な原因による器質 性月経困難症と機能性月経困難症に大別される.機能性月経困難症は子宮内膜から産生されるプロス タグランディンに起因すると考えられている.器質性月経困難症の原因は,子宮内膜症,子宮筋腫, 子宮腺筋症,子宮奇形などがあげられる. 2010 11 N315 研修コーナー 研修コーナー

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Page 1: 6.薬物治療fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=to63/62/11/KJ...図1 排卵障害の治療的診断法 (2)排卵誘発剤 正常な排卵周期が起こるためには,視床下部―下垂体―卵巣の協調が必須である.これらのいずれ

6.薬物治療

1)薬物治療(婦人科)

(1)月経困難症の治療(2)排卵誘発剤(3)HRT(4)抗癌剤

2)薬物治療(産科)

(1)切迫早産の管理(2)子宮収縮抑制剤(3)陣痛促進剤(4)妊婦に対する薬物処方上の留意点

1)薬物治療(婦人科)

(1)月経困難症の治療

月経困難症は月経に随伴して起こる下腹痛を主症状とする症候群である.器質的な原因による器質性月経困難症と機能性月経困難症に大別される.機能性月経困難症は子宮内膜から産生されるプロスタグランディンに起因すると考えられている.器質性月経困難症の原因は,子宮内膜症,子宮筋腫,子宮腺筋症,子宮奇形などがあげられる.

2010年11月 N―315

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月経困難症の治療

器質性月経困難症に対しては,それぞれの疾患に応じた治療が必要である.機能性月経困難症には,非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)などの鎮痛剤が第 1選択となる.効果がないか効きが悪い場合は,低用量ピルがすすめられる.

N―316 日産婦誌62巻11号

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図1 排卵障害の治療的診断法

(2)排卵誘発剤

正常な排卵周期が起こるためには,視床下部―下垂体―卵巣の協調が必須である.これらのいずれの部位の機能異常によっても排卵は障害される.理想的な排卵誘発法は,多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群などの副作用をできるだけ少なくし,単一排卵を誘発して,かつ妊娠率を上昇させることである.排卵障害の原因を十分検索して,病態生理に基づいた適切な治療法を選択すべきである.排卵障害の治療的診断法を図 1に示した.

①クロミフェン療法内因性エストロゲンレベルが保たれている第 1度無月経や無排卵周期症が適応となる.月経周期 5日目から50~100mg�日を 5日間投与する.無効な場合や,抗エストロゲン作用による子宮頸管粘液の減少や子宮内膜の菲薄化を認める場合には,ゴナドトロピン療法への変更を考慮する.

②FSH(hMG)-hCG療法間脳・下垂体性排卵障害が適応となる.月経周期3~5日目から hMG(FSH)製剤75~150IU を連日

2010年11月 N―317

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表1 尿由来ならびに遺伝子組換えゴナドトロピン製剤

注射する.超音波断層法にて卵胞発育モニタリングを行い,主席卵胞径が18mm以上になったら,hCG5,000~10,000IU を投与して排卵を惹起させる.卵巣過剰刺激症候群の発生や多胎妊娠に注意する.わが国で使用されているゴナドトロピン製剤を表 1に挙げた.自己注射製剤が発売され,今後の普及が期待される.

③ドーパミンアゴニスト療法視床下部の機能障害と下垂体 PRL産生腺腫による高 PRL血症性無排卵が適応となる.ドーパミンは生理的 PRL分泌制御因子である.ドーパミンアゴニスト(カベルゴリン,テルグリド,ブロモクリプチン)が有効である.

N―318 日産婦誌62巻11号

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表1-2 エストロゲン・黄体ホルモン製剤

表1-1 エストロゲン製剤

(3)HRT

更年期および閉経後女性の健康を維持・増進する療法で,エストロゲン製剤を投与する治療を総称してホルモン補充療法(hormone replacement therapy : HRT)と呼ぶ.(1)2002年のWomen’s Health Initiative(WHI)試験結果では,乳癌や心血管系疾患への悪影響が懸

念されたが,その後,閉経後早期に開始されたHRTは心血管系に対し保護効果があるだけでなく,5年以下のHRTでは乳癌リスクはほとんど上昇しないとされている.

(2)一般的に経皮投与では脂質代謝や血栓に対する悪影響が出現しにくい.(3)子宮のある女性では子宮内膜の悪性化を防止するために黄体ホルモンの併用が行われる.わが国での保険適応があるHRT製剤を表 1に挙げた.

2010年11月 N―319

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表1 婦人科癌に対する代表的な化学療法レジメン

表2 プラチナ製剤

(4)抗癌剤

①婦人科癌に対する化学療法では,プラチナ製剤を key drug とした多剤併用療法が主体である(表1).なかでも,タキサン製剤との併用療法の有用性が示されている.②プラチナ製剤とタキサン製剤の特徴をそれぞれ表2,3に示す.

N―320 日産婦誌62巻11号

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表3 タキサン製剤

表4 その他の抗癌剤

③婦人科癌に対してよく用いられるその他の抗癌剤とその特徴を表 4に示す.抗癌剤投与に際してはそれぞれの特徴を考慮し,副作用の発現には十分注意することが肝要である.

2010年11月 N―321

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2)薬物治療(産科)

(1)切迫早産の管理

以下の所見を診断の参考にする

・経腟超音波断層法による頸管長測定25mm以下,内子宮口の開大腹圧をかけて観察を行う

・頸管腟分泌液検査pH測定:4.5以上培養(Nugent スコア:4以上)

乳酸桿菌の減少,ガードネラと嫌気性菌の増加

顆粒球エラスターゼ(参考カットオフ値<1.6µg�mL)癌胎児性フィブロネクチン(参考カットオフ値<50ng�mL)

胎児心拍モニター陣痛計で子宮収縮の有無と頻度を確認する.

切迫早産治療のプロトコール(未破水例)

安静子宮収縮抑制剤の投与子宮収縮抑制が有効でないときは34週未満ならベタメサゾン*投与を行い胎児の肺成熟を行った後に分娩へ

34週以降は分娩へ

*ベタメサゾン(リンデロン)12mgを24時間ごとに 2回筋注デキサメサゾン(デカドロン)6mgを12時間ごとに 4回筋注1クールのみ行う,一時的な耐糖能異常を認める

(2)子宮収縮抑制剤

薬の使用方法

内服薬~12週 塩酸ビベリドレート(ダクチル)50mg 3錠�日12週~16週 イソクスプリン塩酸塩(ズファジラン)10mg 3錠�日16週~ 塩酸リトドリン(ウテメリン)5mg 3錠�日

出血を伴うときはアドナやトランサミンの併用も考慮する

N―322 日産婦誌62巻11号

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注射薬1)β刺激剤 甲状腺機能亢進症,糖尿病,心疾患に注意・イソクスプリン塩酸塩(ズファジラン)1mL中5mg:妊娠12週以降5~10mgを1~2時間ごとに筋注する点滴静注は適応外である.(医師の裁量権で使用されている時もある)・塩酸リトドリン(ウテメリン)1A=50mg 5%ブドウ糖液に溶解:妊娠16週以降有効用量:50µg�分~150µg�分(MAX200µg�分)

30mL�時~90mL�時(1Aを500mLに溶解時)注意事項:副作用は動悸,肺水腫,無顆粒球症に注意する.

総輸液量,輸液中の塩分量を制限して使用する.→濃度を 2倍量にして,点滴速度を1�2にする.血管炎に注意する.

2)硫酸マグネシウム(マグセント)100mL40mL取り出し20分で静注し,その後10mL�時で点滴する.5mL�時で増量20mL�時まで全身状態をモニターするMg血中濃度測定(4mg�dL~7.5mg�dL)する.マグネシウム中毒に注意(眼瞼下垂,膝蓋腱反射消失)

(3)陣痛促進剤

陣痛促進剤の使用にあたって以下の点に留意する.

使用前に頸管熟化を確認する使用時には必ず胎児心拍数と陣痛をモニターする

過強陣痛にならないように注意する

2010年11月 N―323

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内服薬の使用方法

プロスタグランジンE2子宮体部の収縮誘発作用と子宮頸管の熟化作用がある1錠を 1時間おきに 6回まで服用する

注射薬の使用方法

プロスタグランジンF2α プロスタルモン(1,000,2,000µg�A)3,000µg を5%グルコース液500mLに希釈しポンプで点滴静注開始: 3µg�分(30mL�時)増量: 15~30分ごとに1.5µg(15mL�時)至適量: 6~9µg�分(60~90mL�時)安全限界:25µg�分(250mL�時)緑内障,喘息に注意子宮収縮パターンは周期が不規則で緩やかな収縮で開始し,それが徐々に増強する.

オキシトシン アトニンO(5U�A)5単位を5%グルコース液500mLに希釈しポンプで点滴静注開始: 2mU�分(12mL�時)増量: 40分毎に1~2mU�分(6~12mL�時)至適量: ~15mU�分(30~90mL�時)安全限界:20mU�分(120mL�時)規則的で子宮内圧の高い収縮があり,徐々に間隔が短縮していく傾向にある.感受性は妊娠の時期や個人差が大きい.

(4)妊婦に対する薬物処方上の留意点

妊娠に気づかず禁忌薬を服用されていたとしても,必ずしも危険性が高いわけではない.

胎児への影響に関しては薬の服用時期が重要

受精前~妊娠 3週末

胎児奇形の出現率は増加しない.胎芽死亡(流産)の可能性はあるが,死亡しなければ修復され奇形は起こらない.角化症治療薬のビタミンA誘導体,C型肝炎治療薬のリバビリンなどは使用しない.

妊娠 4週~妊娠 7週末

器官形成期ヒトで催奇形性が証明されたものは少なく,ワーファリン,メソトレキセート,抗てんかん薬などである.

妊娠 8週~妊娠11週末

大奇形は起こさないが小奇形の可能性口蓋や性器はまだ形成が続いている.

N―324 日産婦誌62巻11号

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妊娠12週~

胎児機能障害を起こす可能性がある.NSAIDs,ACE変換酵素阻害剤,アンギオテンシン II 受容体拮抗剤などには注意する.

日常よく使用する代表的な薬

抗甲状腺剤チアマゾール(MMI)とプロピルチオウラシル(PTU)は必要最小限量を使用する.妊娠を計画している患者にはMMIより PTUを使用した方が無難であるが,MMI 服用中に妊娠が判明し,妊娠 8週以降であれば PTUに変更する必要はない.

抗てんかん薬治療上の必要性が高いことが多い.薬に関する情報提供したうえで,健常児を得る確率が高いことを説明する.

抗生剤ペニシリンやセフェム系を第一選択として使用する.

消炎鎮痛剤アセトアミノフェノンが比較的安全に使用できる.

その他降圧剤はアルドメットが第一選択となる.制吐剤はナウゼリンではなくプリンペランを使用する.胃粘膜修復促進薬のサイトテック(プロスタグランジンE1)で子宮収縮を誘発する.C型肝炎治療剤であるレベトールは夫が服用していても注意が必要である.女性ホルモン剤の多くは禁忌となっているが,ARTの際にはしばしば使用されている.

個々の薬剤についてはインターネット専門サイトか成育医療センターの「妊娠と薬情報センター」に(http:��www.ncchd.go.jp�kusuri�index.html)

鳥取大学 原田 省

2010年11月 N―325

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