5 多変数関数の積分 - 大阪大学kikuchi/2011calculus2/calculus2_l05.pdf基礎解析学2(s3)...
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基礎解析学2 (S3) 2011-11-22 5.1
5 多変数関数の積分5.1 重積分5.1.1 2重積分多変数関数 f の積分も, 1 変数関数の場合と同様に, 積分域 D の分割と Darboux 和の極限により定義される.参考文献: [Hairer–Wanner, §§ IV.5.1–5.3], [杉浦, §§ IV.2–3, 8–9]. 以下の Step 1–3, Step 4 は ‘お話’.
仮定. 当面, 積分域Dは有界, Dで f (の値)も有界; 簡単のため, f は 2変数, D ⇢ R2.
Step 1. 積分域Dが長方形 [a, b]⇥ [c, d]の場合 (定義 5.1–5.3とその補足).[a, b]⇥ [c, d]の分割�: [a, b]の分割�x = {x0, . . . , xn}と [c, d]の分割�y = {y0, . . . , ym}の積�x ⇥�y = {(xi, yk) | 0 i n, 0 k m}; mn個の小長方形 Eik への分割.�の幅 |�|: 小長方形 Eik = [xi�1, xi]⇥ [yk�1, yk]の対角線の長さの最大値.�の下Darboux和 s� :=
Pi,k(inf(x,y)2Eik
f(x, y))(xi � xi�1)(yk � yk�1).�のRiemann和 F� :=
Pi,k f(⇠ik, ⌘ik)(xi � xi�1)(yk � yk�1) ((⇠ik, ⌘ik) 2 Eik).
�の上Darboux和 S� :=P
i,k(sup(x,y)2Eikf(x, y))(xi � xi�1)(yk � yk�1).
* s� [S�]は f のグラフ z = f(x, y)を下 [上]から近似した体積で, s� F� S�.* 分割�より細かい分割�0 (� ⇢ �0)をとると, s� s�0 F�0 S�0 S�.* s = sup� s� および S = inf� S� が存在し, 任意の分割�に対し, s F� S.定義. s = S のとき, f は [a, b]⇥ [c, d]で積分可能であるという.定理 (区分求積法の原理). f が [a, b] ⇥ [c, d]で積分可能, “|�| ! 0なる任意の分割列{�}および分割�の代表点 (⇠ik, ⌘ik) 2 Eik の任意の選択に対し, lim|�|!0 F� が存在”.
Step 2. 積分域Dが一般の場合のための準備 (定義 5.4とその補足).定義. 長方形 Rの部分集合 Aに対し, Aの定義関数 �A を, (x, y) 2 Aなら �A(x, y) = 1,(x, y) 62 Aなら �A(x, y) = 0 によって定義する. Step 1の意味で �AがRで積分可能であるとき, Aは面積確定であるといい, Riemann和の極限値をAの面積と呼び, v(A)で表す.※ 底面 A, 高さ 1 の柱体の体積を A の面積とみなす; v(A) は A を包む R によらない.※ n 変数 (n 重積分) のとき, v(A) を A の ‘n 次元体積’ という; 1, 2 次元体積はそれぞれ長さ, 面積.
補題. 有界集合 B ⇢ R2 に対し, 次は同値: (i) B は面積 0; (ii) 任意の " > 0に対し, 有限個の長方形 R1, R2, . . . , R` で B ⇢
S`k=1 Rk,
P`k=1 v(Rk) < " をみたすものが存在する.
※ 補題 (ii) で ‘有限個’ を ‘可算無限個’ にしたとき, “B は Lebesgue 測度 0” という.※ ‘Lebesgue 測度 0’ と対比させるとき, ‘面積 0’ を Jordan 測度 0 ともいう.※ B が面積 0 (Jordan 測度 0) ) B は Lebesgue 測度 0.
命題. 有界集合 A ⇢ R2 に対し, 次は同値: (i) Aは面積確定; (ii) Aの境界 @Aは面積 0.※ A の境界 @A とは, A の境界点 [南, p.130] 全体からなる集合のこと.
定理. 長方形R上の有界関数 f に対し, 次は同値: (i) f は積分可能; (ii) f の不連続点からなる集合 B は Lebesgue測度 0. 特に, B が面積 0ならば, f は Rで積分可能.
Step 3. 積分域Dが一般の場合 (定義 5.5とその補足).定義. 面積確定集合Dを包む集合で定義された有界関数 f に対し, 関数 f�D がDを包む長方形 Rで積分可能であるとき, f はDで積分可能であるといい, Riemann和の極限値をf のD上の積分と呼び,
RD f(x, y) dxdy (=
RR f(x, y)�D(x, y) dxdy) で表す.
※R
D f(x, y) dxdy をRR
D f(x, y) dxdy と書く流儀もあるが, 変数が多いと書きにくい.※ 表記 dxdy は主流だが歴史的; d(x, y) などの方が現代的で変数変換 (§5.2) と相性がよい.
基礎解析学2 (S3) 2011-11-29(配付直後微修正) 5.2
定理 5.1⇤ Dは有界な閉領域, Dの境界 @Dは区分的に滑らかまたは区分的に連続関数のグラフ, 関数 f はD � @Dで連続であるとする. このとき, f はD上で積分可能である.※ ‘区分的に’ とは, ‘有限個の点を除いて’ という意味だった [南, p.131 (次 # も)].※ 曲線 {(x(t), y(t))} が ‘滑らか’ とは, ‘x(t), y(t) が C1 級, x0(t)2 + y0(t)2 6= 0’ だった.※ 曲線が ‘連続関数のグラフ’ とは, ‘{(x,'(x))} [{( (x), y)}] (' [ ] は連続) と書ける’.※ [南] のように単に ‘@D は 連続’ では, @D が面積をもってしまうこと (Peano 曲線) もあるのでダメ.
略証 条件の下で @D が面積 0 であることが示されるから, Step 2 の定理より OK.
定理 5.2⇤ 2重積分も, 1変数関数の積分と同様に, 次の各性質をもつ.(1) (線型性) 任意の定数 c, dに対し,R
D(c f(x, y) + d g(x, y)) dxdy = cR
D f(x, y) dxdy + dR
D g(x, y) dxdy.(2) (加法性) D = D1 [D2 かつD1 \D2 = ; (または面積 0)ならば,R
D f(x, y) dxdy =R
D1f(x, y) dxdy +
RD2
f(x, y) dxdy.(3) (順序保存性) Dで f(x, y) � g(x, y)ならば,
RD f(x, y) dxdy �
RD g(x, y) dxdy.
略証 1 変数関数の積分と同様に, 区分求積法の原理 (Step 1 の定理) からすぐ.
Step 4. 2変数関数の広義積分 (定義 5.6とその補足 [杉浦, §VII.1]).
再仮定. (0) 積分域Dが有界でないか, または, Dで関数 f が有界でない.(1) 有界な ‘領域’の境界は定理 5.1⇤ の仮定をみたす.(2) 任意の r > 0に対し, D \ {(x, y)|x2 + y2 r2}は面積確定である.
定義. D1 ⇢ D2 ⇢ · · · ⇢ D,S1
n=1 Dn = Dをみたす有界閉領域の拡大列 {Dn}が存在し,f はDを包む集合で定義され, 任意のDn 上で有界かつ積分可能であるとする. このとき,lim
n!1
RDn
|f(x, y)| dxdyが存在するならば, f はD上で広義積分可能であるといい, 極限値lim
n!1
RDn
f(x, y) dxdy を f のD上での広義積分と呼び,R
D f(x, y) dxdyで表す.
※ 広義積分R
D f(x, y) dxdy は有界閉領域の拡大列 {Dn} の取り方によらない.※ 広義積分の絶対収束性 (limn
RDn
|f(x, y)| dxdy の存在) を仮定しないと, 有界閉領域の拡大列 {Dn} の取り 方で値が変わる場合 [杉浦, §VII.1, 例 8] がある; したがって, [南] の定義のままではダメ.
定理 5.3 D = {(x, y) | a x b,'(x) y (x)} (', は [a, b]で連続), 関数 f はD
上で連続であるとする. このとき,R
D f(x, y) dxdy =R b
a
⇣R (x)'(x) f(x, y) dy
⌘dx.
略証 定理 5.1⇤ より, f は D で 2 重積分可能. f が D で連続だから, 各 x について y の関数として f は連続で積分可能. ', は連続だから, x の関数として右辺 ( · ) 内は連続で積分可能. したがって, Riemann和 F� =
Pi
�Pk f(⇠ik, ⌘ik)(yk � yk�1)
�(xi � xi�1) において, “|�| ! 0 のとき F� ! 左辺” より,
“|�y | ! 0 の後に |�x| ! 0 とすると F� ! 右辺”.
※ 右辺 =R b
a dxR (x)'(x) dy f(x, y) などの演算子的記法も数学以外ではしばしば使われる.
※ 実は, 右辺は累次積分または反復積分と呼ばれ, 左辺の 2 重積分とは異なる概念である.※ “2 重積分可能) 累次積分可能” である (Fubini) が, 逆は一般には成り立たない (次の例).
※ f(x, y) = x�y(x+y)3
は D = [0, 1]2 において累次積分可能だが, 積分R 10 dx,
R 10 dy の順序によって値が異なり,
2 重積分可能ではない [Hairer–Wanner, §IV.5.6].
課題 11/22 [1]略解例 (A) 5.4R 1�1
⇣R 1�x2
0 x2y dy⌘
dx =R 10
⇣Rp1�y�p
1�y x2y dx⌘
dy = 8105 .
5.5 0 6= xy ! 0のとき |f(x, y)| |xy|! 0だから, f は [�1, 1]2 で連続ゆえに積分可能.(B) 5.5⇤ f(x, y) = sin 1
xy はB = ([�1, 1]⇥ {0})[ ({0}⇥ [�1, 1])で不連続. 任意の " > 0に対し, B ⇢ A = ([�1, 1]⇥ [� "
8 , "8 ]) [ ([� "8 , "8 ]⇥ [�1, 1]), v(A) < "
2 + "2 = "より, B は
面積 0. よって, f は [�1, 1]2 で積分可能. [別解]R[0,1]2 sin 1
xy dxdy =R[1,1)2
sin(uv)(uv)2 dudv
なる変数変換において,R[1,1)2
�� sin(uv)(uv)2
�� dudv R[1,1)2
1(uv)2 dudv = 1 より右辺が絶対収
束するから, 左辺は広義積分可能. 第 2–4象限も同様. よって, f は [�1, 1]2 で積分可能.
基礎解析学2 (S3) 2011-11-29 5.3
5.1.2 微分と積分および極限と積分の順序交換微分も積分も極限操作である. 極限操作は一般には交換可能ではない (例えば, m
n に対し,lim
n!1lim
m!1mn = 1 6= 0 = lim
m!1lim
n!1mn ). この小節では, 累次積分 (定理 5.3)に関連して,
微分と積分, 極限と積分の交換可能性に関する十分条件を述べる.
定理 5.4 [a, b] ⇥ I (I ⇢ Rは任意の区間)上で定義された関数 f(x, y)とその偏導関数 @f
@y (x, y)がともに連続であるとき, yの関数としてR b
a f(x, y) dx
は I 上でC1級であり, ddy
R b
a f(x, y) dx =R b
a@f@y (x, y) dxが成り立つ.
略証 F (y) :=R b
a f(x, y) dx. F (y)�F (y0)y�y0
=R b
af(x,y)�f(x,y0)
y�y0dx =
R ba@f@y (x,9⌘) dxより,���F (y)�F (y0)
y�y0�R b
a@f@y (x, y0) dx
��� R ba
��@f@y (x, ⌘)� @f
@y (x, y0)�� dx ! 0 (y ! y0).
※ (微分の)平均値の定理から, yと y0 の間に ⌘が存在し, y ! y0 のとき ⌘ ! y0.※ ‘パラメータ y付き 1変数関数族’ f(x, y)の積分で定義された関数 F (y)の微分可能性.※ F (y)が広義積分
R b�0a でも, lim
u!b�0sup |
R b�0a �
R ua | = 0 (一様収束性) をみたせばOK.
応用R10
sin xx dx = ⇡
2 [南, pp.98–99]の計算 (あらすじ). t > 0に対し, f(x, t) := e�tx sin xx ,
F (t) :=R10 f(x, t) dx とおく. 広義積分 F (t) は一様収束 (上の※) する. 定理 5.4 より,
F 0(t) = �R10 e�tx sinx dx. Ash–Ash公式64より, F 0(t) = �[ e�tx(�t sin x�cos x)
1+t2 ]x=u!1x=0
= � 11+t2 . F (t) = C�Arctan t. lim
t!1F (t) = 0が示される. C = ⇡
2 , F (t) = ⇡2 �Arctan t.
limt!+0
F (t) = F (0)が示される. したがって,R10
sin xx dx = F (0) = ⇡
2 .
定理 5.5 [a, b]⇥Y (Y ⇢ Rは空でない任意の部分集合)上で定義された関数f(x, y)が, (i)有界, (ii)各 yに対し xについて積分可能, (iii)極限 lim
y!cf(x, y)
が存在し積分可能, をみたすとき, limy!c
R b
a f(x, y) dx =R b
a limy!c
f(x, y) dx.
略証 g(x) := limy!c
f(x, y).���R b
a f(x, y) dx�R b
a g(x) dx��� R b
a |f(x, y)�g(x)| dx !y!c
0.
※ Arzelaによる定理; 有界性が本質; [南, p.193]は ‘積分可能’より強く ‘連続’と仮定.※ べき級数 g(x) = lim
N!1
PNn=1 fn(x) (y = N , c = 1)などの項別積分可能性に応用.
※ (i)は “9M(x), 8" > 0,R b
a |f(x, y)� g(x)| dx "R b
a M(x) dx = " ·定数” でも OK.
応用P1
n=11
n2 = ⇡2
6 [Euler (1741)]の計算 (あらすじ). ArcsinxをMaclaurin展開すると,|x| 1のとき Arcsinx =
P1n=0
(2n�1)!!(2n)!!
x2n+1
2n+1 .R 10
Arcsin xp1�x2 dx = [ 12 (Arcsinx)2]10 = ⇡2
8 .R 10
x2n+1p
1�x2 dx =R ⇡/20
sin2n+1 tp1�sin2 t
d(sin t) = (2n)!!(2n+1)!! [南, p.98 例題 3.4]. g(x) = Arcsin xp
1�x2 ,
f(x,N) =PN
n=0(2n�1)!!(2n)!!
x2n+1
(2n+1)p
1�x2 , M(x) = 1p1�x2 として, 定理 5.5 (と上の※)より,P1
n=01
(2n+1)2 = ⇡2
8 . s =P 1
n2 =⇤P 1
(2n+1)2 +P 1
(2n)2 = ⇡2
8 + 14sより,
P1n=1
1n2 = ⇡2
6 .
* 絶対収束する級数は項の順序を入れ替えても和は変わらない [南, p.253 定理 6.3].※ 1644 に Mengoli が提起した ‘Basel 問題’; Leibniz も Bernoulli 兄弟も求められなかった.
※ Eulerの最初のアイデア [Euler (1735)]は, sin xx の無限積表示 sin x
x =Q1
n=1(1� x2
n2⇡2 )とMaclaurin展 開 sin x
x =P1
n=0(�1)n x2n
(2n+1)! で x2 の係数を比較するという, 厳密性を欠くものだった.
注意 自然科学で扱う関数はほとんどが定理 5.4, 定理 5.5の十分条件をみたすので気にせず順序交換できるが, そうでない特殊な状況 (絶対零度や相転移点など)もあるので注意せよ.
基礎解析学2 (S3) 2011-12-06 5.4
復習 [§5.1重積分] 重積分も定義が一番難しい; 押さえておくべきポイントをまとめる.• 重積分は積分域Dを ‘底面’, 関数の値 f(x, y)を ‘高さ’とする ‘棒グラフ’全体の ‘体積’.• 積分域Dの境界 @Dが区分的に滑らかならば, @Dは面積 0なので, 積分値には無関係.• 関数 f(x, y)の不連続点 (x, y)全体が積分域Dで面積 0ならば, f はDで重積分可能.• 重積分
RD f(x, y) dxdy可能な関数 f は, 累次積分 [
R ba
�R (x)'(x) f(x, y) dy
�dx 等]可能.
• 微分/極限と積分に関する交換可能定理は, 難しい具体的計算の遂行などに応用される.
5.2 変数変換5.2.1 Jacobi行列注意 5.2.3での応用に合わせて, 以下 [南]の (u, v)と (x, y)を入れ替えて表記する.
* 微分可能な 1変数関数 g(u)の全微分は dg = g0(u)duだった (p.169).* 微分可能な 2変数関数 g(u, v)の全微分は dg = (gu, gv)
�dudv
�だった (p.170).
※ dg = gudu + gvdv の右辺を行列の積で書いた. ※ g の微分 g0 = (gu, gv) と rg, grad g の関係など (基礎解析学 1, ハンドアウト p.4.5) を復習せよ.
微分可能な 2次元ベクトル値 2変数関数 g(u, v) =� x(u,v)
y(u,v)
�の全微分は, 各
成分の全微分をまとめて, dg =�
dxdy
�= ( xu xv
yu yv )( dudv ) と行列表示される.
※ 係数 ( xu xvyu yv ) は g の微分 g0; u = ( u
v ) とベクトル表記すると, dg = g0(u) du.※ 全微分 dgとは, 各点 uごとに gを 1次近似する 1次変換: R2 ! R2 の ‘族’ (1, p.4.8).
微分可能な 2次元ベクトル値 2変数関数 g(u, v) =� x(u,v)
y(u,v)
�の全微分の微分
係数 g0 = ( xu xvyu yv ) を, gの Jacobi行列と呼び Jgなどで表すことがある.
※ 上の g の Jacobi行列 Jg は 2次正方行列に値をとる 2変数の関数.※ 一般に, g がm次元ベクトル値 n変数関数のとき, Jg はm⇥ n行列値 n変数関数.
5.2.2 Jacobi行列式
微分可能な 2次元ベクトル値 2変数関数 g(u, v) =� x(u,v)
y(u,v)
�の Jacobi行列
Jg = ( xu xvyu yv ) の行列式を, gの Jacobianと呼び @(x,y)
@(u,v) で表す.
※ @(x,y)@(u,v) を gの Jacobi行列式と呼ぶこともある; @(x,y)
@(u,v) と異なる記号を使うこともある.
※ 公式 @(x,y)@(u,v)
@(u,v)@(z,w) = @(x,y)
@(z,w) , 特に@(x,y)@(u,v)
@(u,v)@(x,y) = 1 は線型代数の基礎だが重要 (例題 5.4).
※ 上の g の Jacobian @(x,y)@(u,v) は実数値をとる 2変数の関数.
※ 一般に, n次正方行列値 n変数関数 Jg の行列式 @(x1,...,xn)@(u1,...,un) は実数値 n変数関数.
考察 R2 において, ( ac ),
�bd
�で張られる平行四辺形を
�a bc d
�で表すことにする. 正方形
/1 00 1/ に左から ( xu xv
yu yv ) をかけると平行四辺形 /xu xvyu yv / になる: ( xu xv
yu yv ) /1 00 1/ = /xu xv
yu yv /.この 1次変換において, 面積拡大率は /xu xv
yu yv /の面積, すなわち |xuyv � xvyu| =���@(x,y)@(u,v)
���.しかも, @(x,y)
@(u,v) < 0 , “変換 /1 00 1/!/xu xv
yu yv /が反転” , “回転 ( xuyu )! ( xv
yv )が負の向き”.
したがって, /xu xvyu yv / の面積を反転か否かで符号付き @(x,y)
@(u,v) のまま表すとスッキリする.
基礎解析学2 (S3) 2011-12-06 5.5
5.2.3 積分の変数変換
考察 1変数関数の積分の変数変換 (置換)はR x(�)
x(↵) f(x) dx =R �↵ f(x(u)) dx
du du (定理 3.11)だった. 簡単のため, x(↵) = a < b = x(�)と仮定する. dx
du < 0のとき, ↵ > � より, 置換は duの向きを正として
R[a,b] f(x) dx =
R�[�,↵] f(x(u)) dx
du du =R[�,↵] f(x(u))
�� dx
du
�du
と書ける. さらに, あえて�[�,↵] = x�1([a, b]), [�,↵] = |x�1([a, b])|と書くことにすると,R[a,b] f(x) dx =
Rx�1([a,b]) f(x(u)) dx
du du =R|x�1([a,b])| f(x(u))
�� dxdu
�� du と書ける. これはdxdu > 0すなわち ↵ < � のときも成り立つ. 要するに, 積分区間 x�1([a, b])を duの向きに合わせると, 置換の微分係数 dx
du に絶対値がつき�� dxdu
��になるのだ. [南, p.201]
※�� dx
du
�� は変換 [0, 1] ! dxdu [0, 1] の長さ拡大率であり, 閉区間 dx
du [0, 1] の長さである.
※ 1 変数の積分における置換では, du の向きに合わせた ‘符号付き’ 拡大率 [長さ] dxdu の方がスッキリしていた.
定理 5.6 (変数変換) D, D0を境界が区分的に滑らかな有界閉領域とし, 変換gをD0からDの上への C1級写像, gはD0の内部D0 � @D0で 1対 1かつdet g0(u, v) = @(x,y)
@(u,v) 6= 0 とする. f をD上で連続な関数とする. このとき,RD f(x, y) dxdy =
RD0 f(x(u, v), y(u, v))
��@(x,y)@(u,v)
�� dudv.
※ 変数を (x, y)から (u, v)へ変えるとき, 変換の方向は (u, v) 7! (x, y)と逆になる!※ uv-平面の向きとは, 微小な長方形の符号付き面積 d(u, v) := du⇥ dvを正とするもの.※ d(v, u) = �d(u, v)と考える; n次元では, d(u�(1), . . . , u�(n)) = sgn(�) d(u1, . . . , un).※ 上の考察に合わせると, 右辺は
R|D0| f(x(u, v), y(u, v))
��@(x,y)@(u,v)
�� d(u, v) と書くべき.※ 通常の重積分ではD0 の向きを d(u, v)の向きに合わせるので, 絶対値を書かない.※ 向きも込めると, 右辺は
RD0 f(x(u, v), y(u, v)) @(x,y)
@(u,v) d(u, v) と書け, スッキリする.
例 5.3⇤ 直交座標 (x, y)から極座標 (r, ✓)への変換 g( xy ) = ( r cos ✓
r sin ✓ ) (例 4.19)
について, Jg =�
cos ✓ �r sin ✓sin ✓ r cos ✓
�, @(x,y)@(r,✓) = r, g([0, a]⇥[0, 2⇡]) = {x2+y2 a2}.
※ dxdy = r drd✓は幾何学的考察からもわかる; ✓の範囲は幅 2⇡の閉区間なら何でもよい.※ D0 = [0, a]⇥ [0, 2⇡]は r✓-平面の長方形領域; D = g(D0)は xy-平面の円板領域.※ D0 の境界 @D0 で g は 1対 1でないが, @D0 は面積 0なので積分の値には関係ない.
例題 5.3⇤ (Gauß積分)R1�1 e�x2
dx =p
⇡. [南, pp.202–203, pp.205–206]
略解 I :=R1�1 e�x2
dx. I2 = lim�R R�R e�x2
dx��R R
�R e�y2dy�
= limR
SRe�x2�y2
dxdy,SR = [�R,R]2. DR = {x2 + y2 R2}として,
RDR
R
SRR
Dp2R
. 極座標変換すると,RDR
e�x2�y2dxdy =
R 2⇡0
�R R0 e�r2
rdr�d✓ = ⇡(1� e�R2
), 同様にR
Dp2R
= ⇡(1� e�2R2).
limR
DR= lim
RDp
2R= ⇡より, I2 = lim
RSR
= ⇡. したがって, I =p⇡.
課題 11/29 [1]略解例 (A) 5.6 (2) 問題の積分 =R 2⇡0
�R 21
1p1+r2 rdr
�d✓ = 2⇡(
p5�
p2).
5.7 (2) u := x + y, v := x� y. x = u+v2 , y = u�v
2 . @(x,y)@(u,v) = � 1
2 . D0 := [1, 2]⇥ [�1, 1].RD x log(x + y) dxdy =
RD0
u+v2 log u |� 1
2 |dudv =R 21
�R 1�1
u+v4 log u dv
�du = log 2� 3
8 .5.9 (2)
Rx2+y2+z2a2(x2 + y2) dxdydz =
Rra,0✓⇡,0'2⇡(r
2 sin2 ✓) (r2 sin ✓ drd✓d')=�R a
0 r4 dr� �R ⇡
0 (1� cos2 ✓)(� cos ✓)0 d✓� �R 2⇡
0 d'�
= 15a5 · 4
3 · 2⇡ = 815⇡a5.
(B) [空間極座標 Jacobianの幾何学的考察] r方向�r, ✓方向 r�✓, '方向 r sin ✓�' からなる ‘微小殻’の体積が r2 sin ✓�r�✓�'+ (高次の項) だから. [p.202; 1, p.4.8, 例 4.190 ]
基礎解析学2 (S3) 2011-12-13(2011-12-30改訂) 5.5a
補足 [§5.2変数変換]
置換考察の例R 1�1 f(x) dx
⇤1=x=�u
R �11 f(�u) (�1) du
⇤2=R 1�1 f(�u) (1) du において, ⇤1は
xに �uを代入しただけの素直な計算, ⇤2は 2つの負符号を同時にひっくり返す計算技法である. これを,
R[�1,1] f(x) dx
⇤1=R�[�1,1] f(�u) (�1) du
⇤2=R|�[�1,1]| f(�u) | � 1| du と
あえて書こう. このような計算は, dxdu の符号にかかわらず, 公式として一般に成り立つ:
Z[a,b]
f(x) dx⇤1=Z
x�1([a,b])f(x(u))
dx
dudu
⇤2=Z|x�1([a,b])|
f(x(u))����dx
du
���� du.
⇤1が置換公式であり, ⇤2が計算技法であることに注意しよう.
変数変換の例 累次積分R 1�1(R 1�1 f(x, y) dx) dy
⇤1=x=�u,y=v
R 1�1(R �11 f(�u, v) (�1) du) dv
⇤2=R 1�1(R 1�1 f(�u, v) (1) du) dv において, ⇤1は (x, y)に (�u, v)を代入しただけの素直な計
算, ⇤2は 2つの負符号を同時にひっくり返す計算技法である. これを重積分の形で, あえてR[�1,1]2 f(x, y) dxdy
⇤1=R�[�1,1]2 f(�u, v) (�1) dudv
⇤2=R|�[�1,1]2| f(�u, v) |� 1| dudv と
書こう. このような計算は, @(x,y)@(u,v) の符号にかかわらず, 公式として一般に成り立つ:
ZD
f( xy ) dxdy
⇤1=Z( x
y )�1(D)
f( x(u,v)y(u,v) ) @(x,y)
@(u,v) dudv⇤2=Z���( x
y )�1(D)
���f( x(u,v)
y(u,v) )���@(x,y)@(u,v)
��� dudv.
⇤1が現代的な変数変換公式であり, ⇤2が符号を調整するための計算技法である.
※ | @(x,y)@(u,v) | = | det( xu xv
yu yv )|. 絶対値 | · | と行列式 det( · ) を区別するため, 慣れるまで行列式を | · | と書くな!
※ |( xy )�1(D)| の絶対値 | · | だけ伝統的に書かないので, 具体的な計算ではくれぐれも注意すること:
例えば, 上の累次積分の例では, ⇤2 の直後,R 1�1
R �11 と書いてしまいがちだが, 常に
R 1�1
R 1�1 とすること.
置換考察の例で言えば, 逆方向R �11 を無理矢理順方向
R 1�1 にするようなもので, 違和感があるかもしれないが,
dxdu ( @(x,y)
@(u,v) ) に絶対値がついている | dxdu | (| @(x,y)
@(u,v) |) ので帳尻が合っているのだ.
※ このように, 現代的な公式の方がスッキリしているが, 応用では伝統的な記法の方が主流なので注意せよ;
現代的な公式も, @(x,y)@(u,v) < 0 の場合, ( x
y )�1(D) を ‘負の面積’ を持つ ‘底面’ として計算しなければならない.
極座標の Jacobi行列 基礎解析学1ハンドアウト p.4.8 例 4.190 に書いたように, 全微分の変換 ( dx
dy ) =�
cos ✓ �r sin ✓sin ✓ r cos ✓
�( dr
d✓ ) と微分演算子の公式 ( @/@x@/@y ) =
⇣cos ✓ � sin ✓/rsin ✓ cos ✓/r
⌘( @/@r@/@✓ )
の間には, Jacobi行列 J に関し, J =�
cos ✓ �r sin ✓sin ✓ r cos ✓
�= t⇣
cos ✓ � sin ✓/rsin ✓ cos ✓/r
⌘�1という関係が
ある. この関係は任意の変数変換に対し一般に成立する. 空間の極座標 (p.4.6a)について,
J = t
✓cos' � sin' 0sin' cos' 0
0 0 1
◆⇣sin ✓ cos ✓ 00 0 1
cos ✓ � sin ✓ 0
⌘ 1 0 00 1
r 0
0 0 1⇢
!!�1
=
✓cos' � sin' 0sin' cos' 0
0 0 1
◆⇣sin ✓ cos ✓ 00 0 1
cos ✓ � sin ✓ 0
⌘⇣1 0 00 r 00 0 ⇢
⌘
より, @(x,y,z)@(r,✓,') = det J = 1 · 1 · r⇢ = r2 sin ✓ と計算される (練習問題 5.9(2)).
※ r � 0, ✓ は z-方向 ✓ = 0 から �z-方向 ✓ = ⇡ まで, ' は xy-平面上 x-方向 ' = 0 から 1 周 ' = 2⇡.※ xyz-空間の球領域 (D) x2 + y2 + z2 a2 と r✓'-空間の直方体領域 (D0) [0, a]⇥ [0,⇡]⇥ [0, 2⇡] が対応. 直方体領域 D0 の境界 @D0 上で変換は 1:1 でないが, 境界 @D0 は体積 0 だから, 積分の値には関係ない.※ 全微分の積 dx dy dz を計算し, dr, d✓, d' の ‘交代性’ を使っても, Jacobian r2 sin ✓ が計算できる: dx dy dz = [(dr) sin ✓ cos'+ r (cos ✓ d✓) cos'+ r sin ✓ (� sin' d')] (←全微分 [dx]) [(dr) sin ✓ sin'+ r (cos ✓ d✓) sin'+ r sin ✓ (cos' d')] (←全微分 [dy]) [(dr) cos ✓ + r (� sin ✓ d✓)] (←全微分 [dz]) (↓交代性: d✓ dr = �dr d✓, dr2 = 0 等) = (r2 cos ✓ sin ✓) [(dr cos ✓) d✓ d'] + (�r sin2 ✓) [dr(�r sin ✓ d✓) d'] = r2 sin ✓ [dr d✓ d'].
基礎解析学2 (S3) 2011-12-13(2011-12-20改訂) 5.6
5.3 曲線とその長さ, 曲率定義 R2 の曲線とは, 閉区間 [a, b]から R2 への連続写像 f(t) = (x(t), y(t))のこと.仮定 特に断らない限り, R2 の曲線は区分的に滑らかとする.※ 一般に, 連続写像 f : [a, b] ! Rn を Rn の曲線という.※ t 2 [a, b] を時刻, f(t) 2 R2 を運動する点の時刻 t における位置ベクトルと考えよ.※ パラメータ t の取り方 (f の定義) によらない像 (軌跡) としての曲線の性質が重要.※ 重要な例: 二次曲線, 葉線, 懸垂線, サイクロイド, レムニスケイト, アステロイド, 渦線など. [後見返し参照]
定義 連続写像 f : [a, b] ! R2 を R2 の曲線とする. 区間 [a, b]の分割� = {x0, . . . , xn}に対し, l� :=
Pni=1 f(xi�1)f(xi)とおく. l := sup� l� を曲線 f の長さ (弧長) という.
※ 曲線 f の長さ l は非負だが, 有限とは限らず, 無限大1 かもしれない (練習問題 5.16).※ 曲線 f の長さ l は, パラメータ変換 x(t) によらず, 像のみによる (x(t) の全単射性).
事実 曲線 f : [a, b] ! R2 の長さ lが有限のとき, lim|�|!0
l� = l [杉浦, IV §16].
定理 5.7 C1級関数 f(x)のグラフ � (x) = (x, f(x))について, a x bの部分に相当する � の曲線としての長さ lは, l =
R b
a
p1 + f 0(x)2 dx.
※ 速度 (接)ベクトル (p.168; 1, p.4.8) � 0(x)の大きさがp
1 + f 0(x)2 だから, 当然!
定理 5.8 C1級曲線 f : [↵, �] ! R2の長さ lは, l =R �
↵
px0(t)2 + y0(t)2 dt.
※ 速度 (接)ベクトル (p.168; 1, p.4.8) f 0(t)の大きさがp
x0(t)2 + y0(t)2 だから, 当然!
定理 極座標 x = r(✓) cos ✓, y = r(✓) sin ✓における曲線 r(✓) (↵ ✓ �)
の長さ lは, l =R �
↵
pr(✓)2 + r0(✓)2 d✓.
※ ✓の微小変化 d✓に対し, 点 (x, y)は r方向に r0d✓, ✓方向に rd✓変化するから, 当然!
曲線の曲率 曲線の像 (軌跡) C の曲率とは, C の各点 Pで C を円近似したときの半径 ⇢の逆数 のこと. ただし, Pのまわりが直線のときは, ⇢ = 1, = 0とする. C のパラメータを弧長 sに取ると, 速度ベクトル (x0(s), y0(s))の大きさは 1 (等速運動)であり, 加速度ベクトル (x00(s), y00(s))が速度ベクトルに直交することがわかるが, 加速度ベクトルの大きさ (x00(s)2 + y00(s)2)1/2 こそ曲率 に他ならない. (p.211の定義は Newtonによる.)
包絡線 パラメータ tを含む曲線の族 F (x, y, t) = 0が, 別の曲線 C に接し, その接点の軌跡が C に一致するとき, C を F (x, y, t) = 0の包絡線と呼ぶ. 曲線の族 y = tx� t2 とその包絡線 y = 1
4x2 の例については, [例 5.9; p.3.9, 例; 1, pp.v–x]を参照せよ. tをパラメータとする C1 級曲線の族 F (x, y, t) = 0の包絡線が F (x, y, t) = 0かつ Ft(x, y, t) = 0をみたす必要性 (定理 5.9)は, 多変数関数の陰関数定理 (定理 4.8)からわかる.
課題 12/06 [1]略解例 (A) 5.10 (3) 位置ベクトルが (x, 12x2)より, 速度ベクトルは (1, x),
大きさはp
1 + x2. よって, l =R ↵0
p1 + x2 dx
Ash2 24= 12↵p
1 + ↵2 + 12 log(↵+
p1 + ↵2).
(4) 極座標に関する定理より, l =R ↵0 a
p✓2 + 1 d✓
(3)= 1
2a�↵p↵2 + 1+log(↵+
p↵2 + 1)
�.
5.16 [f(x) = x sin 1x ] (1) 0 < x 1より 1
x � 1だから,��sin 1
x
�� = 1 , 1x = (n + 1
2 )⇡.よって, 求める点列は Pn = (xn, yn) =
�1
(n+ 12 )⇡
, (�1)n
(n+ 12 )⇡
�. (2) PnPn+1 � |yn| + |yn+1|
より, l � |y0| +P1
n=1 2|yn| = 2⇡ +
P1n=1
2(n+ 1
2 )⇡� 2
⇡
P1n=0
1n+1 �
2⇡
R11
dxx = 1.
(B) 5.16⇤ [f(x) = x2 sin 1x ] (1) 同様に, Pn = (xn, yn) =
�1
(n+ 12 )⇡
, (�1)n
(n+ 12 )2⇡2
�. ⇠n := 1
n⇡ .(2) 弧 PnPn+1 2(|yn| + |xn � ⇠n+1|)
�2⇡2 + 1
⇡
�1
n2 より, 0 x x1の部分の弧長 l1
について, l1 �
2⇡2 + 1
⇡
�P1n=1
1n2
p.5.3=�
2⇡2 + 1
⇡
�⇡2
6 = 13 + ⇡
6 < 1. [別解] 0 < x 1 のとき,
f 0(x) = 2x sin 1x � cos 1
x より, |f 0(x)| 3, limu!+0R 1
u
p1 + f 0(x)2 dx
p10 < 1. [例題 2.4 参照]
基礎解析学2 (S3) 2011-12-20(2012-01-08改訂) 5.7
5.4 図形の面積と体積* 閉区間 [a, b] ⇢ R1の ‘長さ’は b�a, 長方形 [a, b]⇥ [c, d] ⇢ R2の ‘面積’は (b�a)(d�c), 直方体 [a, b]⇥ [c, d]⇥ [e, f ] ⇢ R3 の ‘体積’は (b� a)(d� c)(f � e). 同様に, n次元直 方体
Qni=1[ai, bi] の ‘n次元体積’は,
Qni=1(bi� ai)と定義するのが自然. ここで, n + 1
次元直方体は n次元直方体を ‘n次元底面’とし閉区間を ‘高さ’とすることに注意.* p.5.1の Step 2と同様に, Rn の有界な部分集合 A ⇢ Rn に対し, Aの定義関数 (または 特性関数) �A を, x 2 Aなら �A(x) = 1, x 62 Aなら �A(x) = 0 によって定義する.
定義 5.7 Rnの有界な部分集合A ⇢ Rnに対し, DをA ⇢ Dをみたす n次元直方体として, V (A) :=
RD �A(x1, . . . , xn) dx1 · · · dxn が存在するとき,
Aは体積確定であるといい, V (A)をAのn次元体積と呼ぶ.※ V (A)は Aを ‘n次元底面’とし 1を ‘高さ’とする ‘n + 1次元柱体’の ‘n + 1次元体積’.※ p.5.1の Step 2で, 底面 A, 高さ 1の柱体の体積を Aの面積とみなす考え方の一般化.※ 1次元体積とは長さ, 2次元体積とは面積, 3次元体積とは通常の体積.
例 5.14 半径 aの n次元球 (体) Bn = {(x1, . . . , xn) |x21 + · · · + x2
n a2} の体積 V (Bn):n次元極座標による計算から, V (Bn) = 2⇡ 1
nanQn�2
k=1
R ⇡0 sink ✓ d✓.
※ ‘n 次元極座標’ とは以下のような変数変換 (x1, . . . , xn) = x(r, ✓1, . . . , ✓n�1) のこと: xのノルムを r, xと x1-軸のなす角を ✓1, xの x2 · · ·xn-成分と x2-軸のなす角を ✓2, . . . , xの xn�2xn�1xn-成分と xn�2-軸のなす角を ✓n�2, xの xn�1xn-成分と xn�1-軸のなす角を ✓n�1; 0 r, 0 ✓i6=n�1 ⇡, 0 ✓n�1 2⇡. (n = 3: (x1, x2, x3) = (z, x, y); (r, ✓1, ✓2) = (r, ✓,').)※ n 次元極座標の Jacobian (5.8) は偏微分 (幾何) 的考察だけから計算できる. (どう?) [練習問題 5.19]
※ ガンマ関数 � (x) を用いると, V (Bn) = � (n2 + 1)�1⇡
n2 an
�= 2n�[ n
2 ](n!!)�1⇡[ n2 ]an
�. [§5.5]
定義 R3の曲面とは, R2の領域DからR3への連続写像 f(u, v) = (x(u, v), y(u, v), z(u, v))の像 S = {(x(u, v), y(u, v), z(u, v)) | (u, v) 2 D} のこと. [pp.221–223では, f = t]
仮定 S は滑らか: すなわち, f の各成分関数は C1 級, 法ベクトル⇣@(y,z)@(u,v) ,
@(z,x)@(u,v) ,
@(x,y)@(u,v)
⌘は零にならない. S は区分的に滑らか: すなわち, S は有限個の滑らかな曲面の和集合.※ f の法ベクトルは u-方向の速度ベクトル fu と v-方向の速度ベクトル fv の外積 fu ⇥ fv .※ fu ⇥ fv は fu, fv と直交し, hfu, fv , fu ⇥ fvi は右手系をなす: det(fu, fv , fu ⇥ fv) > 0.※ kfu ⇥ fvk は fu, fv で張られる平行四辺形の面積; 対応する S の素片の面積を (1 次近似)2.※ 曲面のイメージ: p.178 図 4.17 において, 図が曲面 S, f(u, v) の v を固定したものが図の下に凸な曲線族で, その接ベクトルが fu, f(u, v) の u を固定したものが図の上に凸な曲線族で, その曲線族の接ベクトルが fv , 2 つの曲線族で囲まれる図の ‘矩形’ が p.222 図 5.21 の素片で, その平行四辺形近似の面積が kfu ⇥ fvk.
定義 5.8⇤ 曲面 f : D ! R3に対し,R
Dkfu⇥ fvk dudv を Sの曲面積と呼ぶ.
定理 関数 f : D ! Rのグラフ z = f(x, y)の曲面積は,R
D
p1 + (fx)2 + (fy)2 dxdy.
※ グラフ � (x, y) := (x, y, f(x, y)) に対し, �x ⇥ �y = (1, 0, fx)⇥ (0, 1, fy) = (�fx,�fy , 1) だから, 当然!
課題 12/20 [1] 例題 5.10*: 例題 5.10 において, f が滑らかなとき, f のグラフの回転面の曲面積を求めよ.
例題 5.11*: 例題 5.11 において, 上半球面 z =p
a2 � x2 � y2 の面積をR
x2+y2a2
q1 + z2
x + z2y dxdy で
求めたように, (1) 同じ曲面の面積を Lambert 正積円筒図法により D と f を定め, 定義R
Dkfu ⇥ fvk dudv により計算せよ; (2) 上の 2 つの積分が変数変換 x = x(u, v), y = y(u, v) により一致することを確認せよ.
課題 12/13 [1]略解例 (練習問題 5.17) V =R{(x,y,z)| x2+y2+z222, x2+y23z} 1 dxdydz =R
r23
�p4� r2 � 1
3r2�rdrd✓ = 2⇡ · 1
2
⇥� 2
3 (4� r2)3/2 � 16 (r2)2
⇤r2=3
r2=0= 19
6 ⇡. [円柱座標]
(例題 5.9*: 例題 5.9を pp.iii–vi導入 (V1)と同様に) 共通部分 C は 1辺 2aの立方体から上底と下底を底面とする高さ aの錐を除いた形であるから, V = (2a)3� 2 · (2a)2a
3 = 163 a3.
基礎解析学2 (S3) 2012-01-10 5.7a
課題 12/20 [1]略解例
(例題 5.10*: 例題 5.10における立体Dの ‘屋根’ (z = f(x)の回転面)の曲面積)
‘屋根’は円環領域 A = {(x, y) | a p
x2 + y2 b}上の関数 F (x, y) = f(p
x2 + y2)
のグラフだから, 曲面積はR
A
p1 + (Fx)2 + (Fy)2 dxdy =
RA
q1 + f 0(
px2 + y2)2 dxdy.
極座標 x = r cos ✓, y = r sin ✓ (a r b, 0 ✓ 2⇡)に変換すると, A0 = [a, b]⇥[0, 2⇡],dxdy = r drd✓だから, 曲面積は
RA0
p1 + f 0(r)2 r drd✓ =
R ba 2⇡x
p1 + f 0(x)2 dx.
※ 最後の公式は例題 5.10 に合わせて r を x に戻した (もちろん, 戻さず r のままでもよい).
※ 公式は “半径 x の円周に沿う幅 dx の円環上で ‘屋根’ の ‘幅’ がp
1 + f 0(x)2 dx” と幾何的に読める.
※ 要するに, z = f(x) の回転面の曲面積は, z = f(x) の弧長公式で被積分関数に 2⇡x がかかるだけ: 当然!
(例題 5.11* (1): 例題 5.11の上半球面の Lambert正積円筒図法による曲面積)
Lambert正積円筒図法は, 上半球面 z =p
a2 � x2 � y2 を平面 z = v による ‘断面円’に分けた曲面 f(u, v) = (x, y, z) =
�r cos u
a , r sin ua , v�
(r =p
a2 � v2, 0 u 2⇡a,0 v a) とみなし, それを円筒 r = a, 0 z a上に高さを保ったまま等積に投影する方法であった. 曲面積
R[0,2⇡a]⇥[0,a] kfu ⇥ fvk dudv において, fu =
�� r
a sin ua , r
a cos ua , 0�,
fv =��v
r cos ua ,�v
r sin ua , 1�, fu ⇥ fv =
�ra cos u
a , ra sin u
a , va
�だから, kfu ⇥ fvk = 1と
いう正積性が得られるので, 曲面積はR[0,2⇡a]⇥[0,a] 1 dudv = 2⇡a2 と簡単に求まる.
※ 積分領域=長方形, 被積分関数=定数関数と, 両者とも最も単純なので, 積分が最も簡単になったのだ.
(例題 5.11* (2): 例題 5.11の積分が適当な変数変換により (1)の積分と一致すること)
例題 5.11の解答では, 上半球面 z =p
a2 � x2 � y2を素直に円板領域p
x2 + y2 a上の関数 z = z(x, y)のグラフとみなし, 定理
Rpx2+y2a
q1 + z2
x + z2y dxdy により, 曲面積
をRp
x2+y2aap
a2�x2�y2dxdy で求めた. この積分領域
px2 + y2 aを Lambert正積
円筒図法における (1)の長方形領域 0 u 2⇡a, 0 v a (円筒を切り開いた形)からの写像により変数変換すると, (x, y) =
�pa2 � v2 cos u
a ,p
a2 � v2 sin ua
�とかける. これ
は (1)の曲面 f の (x, y)座標に他ならないから, Jacobian @(x,y)@(u,v) は外積 fu ⇥ fv の z-成分
なので @(x,y)@(u,v) = v
a . よって,Rp
x2+y2aap
a2�x2�y2dxdy =
R[0,2⇡a]⇥[0,a]
6a\v · \v
6a dudv. したがって, 例題 5.11の積分は, 確かに, (1)の積分と一致する.
※ 変換する前の被積分関数の分母がp
a2 � x2 � y2 =p
a2 � r2 = v となることに注意せよ.
※ 被積分関数が av となることは, pp.iii–vi 導入の解答例 (S1) と同様に, 幾何的にもわかる (どう?).
※ 例題 5.11 の解答では,Rp
x2+y2aap
a2�x2�y2dxdy =
R[0,a]⇥[0,2⇡]
apa2�r2
r drd✓ と極座標変換した;
積分領域は単純でない円板から単純な長方形になったが, 被積分関数は単純でない無理関数のままである.
※ 積分領域だけでなく, 被積分関数も単純になるように巧い変数変換を行ったのが Lambert 正積円筒図法.
※ 上半球面を例題 5.10*のように z =p
a2 � x2 の回転面とみなしても, 例題 5.10*の略解例により, 曲面積は R a0 2⇡r
p1 + (z0(r))2 dr =
R a0
apa2�x2
r dr ·R 2⇡0 d✓ となり, 例題 5.11 の積分に一致することがわかる.
基礎解析学2 (S3) 2012-01-10 5.8
5.6 Greenの定理, Gaussの定理* 微分積分学の基本定理
R ba F 0(x) dx = F (b)� F (a) は a < b のとき
R[a,b] dF =
R@[a,b] F とかける. ここ
に, 左辺の dF は F の全微分, 右辺のRは単なる和, @[a, b] は [a, b] の向きに対応して始点を負, 終点を正に
(形式的に) 向き付けられた 2 点からなる境界 �{a} + {b} を表し,R�{a}+{b} F = �F (a) + F (b) とする.
すると,R[a,b] dF =
R@[a,b] F は, “1 次元の区間 [a, b] の上の dF の積分は 0 次元の境界 @[a, b] の上の F の
積分に等しい” (関数の全微分 dF は 1 次元の図形の上の量, 関数 F は 0 次元の図形の上の量) と読める.
* この 1 次元を 0 次元に関係づける微分積分学の基本定理を高次元化し, 平面上で 2 次元を 1 次元に関係づけ たのが Green の定理, 空間内で 3 次元を 2 次元に関係づけたのが Gaußの定理, 空間内で 2 次元を 1 次元 に関係づけたのが Stokes の定理である.
* Green–Gauß–Stokesの定理を統一的に一般化し, n + 1次元領域 D とその n次元境界 @D, および @D 上の量 ! とその ‘微分’ と呼ばれる D 上の量 d! に対し,
RD d! =
R@D ! と n + 1 次元を n 次元に関係づけ
たのが一般化された Stokes の定理である.
5.6.1 Greenの定理定義 スカラー場とは, 各点にスカラー (数)を対応させた (多変数)関数のこと (例えば, 電荷密度, ポテンシャルエネルギーなど). ベクトル場とは, 各点にベクトルを対応させたベクトル値 (多変数)関数のこと (例えば, 電場, 磁場など).
定義 C(t) = (x(t), y(t))を区間 [a, b]で定義された xy-平面の C1級曲線とする; C の微分C 0(t) = (x0(t), y0(t))を dC
dt で表す. F (x, y) = (f(x, y), g(x, y))を C の像を含む xy-平面の領域の C1 級ベクトル場とする. C に沿う F の線積分
RC F · dC を
R ba F (C(t)) · dC
dt dt(スカラー積 F (C(t)) · C 0(t)は tの関数)で定義する;
RC(f dx + g dy)とも書く.
※R
C F · dC の値は C の像と向きのみにより, パラメータの取り方によらない (置換積分).
※R
C F · dC の ‘x-成分’R
C f dx を, C に沿う F の x に関する 線積分と呼ぶ.
※R
C F · dC の ‘y-成分’R
C g dy を, C に沿う F の y に関する 線積分と呼ぶ.
※ fdx + gdy はスカラー積 (f, g) · (dx, dy) を表し, F の定める 1次微分形式と呼ばれる.
※ F = grad' のとき (' を F のポテンシャル関数と呼ぶ (1, p.4.5)), fdx + gdy は ' の全微分 d'.
※ F がポテンシャル関数をもてば, F の線積分は積分経路の端点だけで決まる (例題 5.14).
意味 線積分R
C F · dC は, F が 2変数関数 hの勾配ベクトル場 gradhなら C に沿って点が動いたときの hの増加を意味する (gradh · dC は接線方向の hの増加率に動いた微小距離を乗じたものだから); F が物理学の力の場や電場なら C に沿って単位質点や単位電荷が動いたときの場がした仕事を意味する (F · dC は力の接線方向成分に動いた微小距離を乗じたものだから). (実は, 1変数の積分
R ba f(x)dxも線積分
R[a,b] f · dC だった !)
演習 ベクトル場 G(x, y) =� �y
x2+y2 , xx2+y2
�の, 原点を中心とする半径 3の円周上を (3, 0)
から�
3p
32 , 3
2
�へ反時計回りに進む曲線に沿う積分の値を計算せよ.
略解 積分の値は ⇡6 . G · dC = d✓ (極座標) だから. (円弧 C の半径 r によらない.)
事実 原点を取り除いた領域上のベクトル場 F = (f, g)がポテンシャル関数をもつための必要条件 gx = fy をみたすならば, F = kG + grad'.
定義 曲線 C : [a, b] ! R2 に対し, C と逆の向きの曲線 �C を (�C)(t) = C(a + b� t)によって定義する. �C は C 上 C(b)から C(a)まで C と逆の向きに動く曲線である.
補題 C を曲線とし, F を C に沿うベクトル場とするとき,R�C F · d(�C) = �
RC F · dC.
※ なんとなく ‘負⇥負 = 負’ のように思えるが, 定義に従った正しい計算; 2 つの �C を 1 組とみなすこと.※ 1次微分形式の記号なら
R�C(f dx + g dy) = �
RC(f dx + g dy) で違和感はないが, 定義がやや難しい.
基礎解析学2 (S3) 2012-01-10 5.9
定義 曲線の有限列 C1, . . . , Cm に対し, 曲線の和 C = C1 + · · · + Cm と C に沿う線積分をR
C F · dC =R
C1F1 · dC1 + · · · +
RCm
F · dCm によって定義する. (C が連結でなくても, 定義は可能.) また, �C = (�Cm) + · · · + (�C1)を �Cm � · · ·� C1 で表す.
定理 5.15 (Greenの定理) Dを xy-平面の有界な閉領域, Dの境界 @Dは区分的に滑らかで @Dに沿ってDが左側にある向きとする. (p, q)をD上のC1級ベクトル場とする. このとき,
RD
�@q@x �
@p@y
�dxdy =
R@D(pdx + qdy).
※ @Dは互いに交わらない有限個の曲線からなることもある.※ @Dの向きは, h@Dの外向き法ベクトル, @Dの接ベクトル i が ‘右手系’であること.
略証 (i) D が a x b, g1(x) y g2(x)なる場合: (p)R
D
�� @p@y
�dxdy =
R@D p dx,
(q)R
D@q@x dxdy =
R@D q dy に分けて, 左辺を累次積分と基本定理で右辺に一致することを
示す. (ii) D が h1(y) x h2(y), c y dなる場合も (i)と同様に示せる. (iii) D が一般の場合: Dを (i)または (ii)の小領域に分割し, 各小領域では定理が成り立っていること, 同じベクトル場の逆の向きの線積分は相殺すること, に注意すればよい.
演習 xy-平面の原点のまわりを正の向きにちょうど一周する閉曲線 � に沿うベクトル場G(x, y) =
� �yx2+y2 , x
x2+y2
�の積分は, � の取り方によらず一定であることを示せ.
略解 前頁の演習より, G · d� = d✓ (極座標) だから, � の取り方によらずR� G · d� = 2⇡.
定義 ベクトル場 F = (p, q)に対し, F の回転 rot F を rot F = @q@x �
@p@y により定義する.
※ Green の定理は,R
D rot F dxdy�=R@D F · d(@D)
�=R@D F · (dx, dy) と書ける.
※ ベクトル場 F = (p, q) にスカラー場 rot F = qx � py を対応させることは, 1次微分形式 pdx + qdy に 2次微分形式 (qx � py)dxdy を対応させることに相当する. 後者を 1次微分形式 pdx + qdy の微分といい d(pdx + qdy) で表す. dp = pxdx + pydy, dq = qxdx + qydy, dxdx = dydy = 0, dydx = �dxdy より d(pdx + qdy) = (qx � py)dxdy. (p.5.5a 全微分の積の ‘交代性’, d2 = 0)
※ Green の定理は,R
D d(pdx + qdy) =R@D(pdx + qdy) と書ける.
回転定理 Aを反時計回りの単純閉曲線 (自己交叉のない閉じた曲線)を境界 @Aとする領域, sを @Aの弧長, uを @Aの単位速度ベクトルとする. F を A上のベクトル場とする.このとき,
RA rot F dxdy =
R@A F · u ds. (d(@A) = u ds)
※ F を流れの力の場とすれば, 右辺は @A を流れる F の回転量 (単位時間に @A に沿って回転する流れの総量), 左辺は A 内の F の渦巻量 (単位時間に A 内に渦巻いて留まる流れの総量), と物理学的に解釈される.
※ 回転定理から次がわかる: ベクトル場 F の回転 rot F とは, 点 (x, y) における単位時間・単位面積あたりの 回転量の割合である: rot F (x, y) = lim
r!0
1⇡r2
RCr
F · uds (Cr = @Ur(x, y)).
定義 ベクトル場 F = (p, q)に対し, F の発散 div F を div F = @p@x + @q
@y により定義する.
発散定理 Aを反時計回りの単純閉曲線 (自己交叉のない閉じた曲線)を境界 @Aとする領域, sを @Aの弧長, nを @Aの右単位法ベクトルとする. F を A上のベクトル場とする.このとき,
RA div F dxdy =
R@A F · n ds. (F = (�q, p)に回転定理を適用)
※ F を流れの力の場とすれば, 右辺は @A を流れる F の流量 (単位時間に @A を通過する流れの総量), 左辺は A 内の F の湧出量 (単位時間に A 内で湧き出る流れの総量), と物理学的に解釈される.
※ 発散定理から次がわかる: ベクトル場 F の発散 div F とは, 点 (x, y) における単位時間・単位面積あたりの 外側へ向かう流れの量の割合である: div F (x, y) = lim
r!0
1⇡r2
RCr
F · nds.
基礎解析学2 (S3) 2012-01-10 5.10
5.6.2 Gaußの定理空間 以下, xyz-空間で考える. (xy-平面の場合と議論はほぼ平行なので, 概略のみ述べる.)
定義 S(u, v) = (x(u, v), y(u, v), z(u, v)) を uv-平面の領域 D で定義された C1 級曲面とする; S の法ベクトル Su ⇥ Sv の方向を S の表とする. F = (f, g, h) を S の像を含む xyz-空間の領域における C1 級ベクトル場とする. S に沿う F の面積分
RS F · dS をR
D F (S(u, v)) · (Su ⇥ Sv) dudv (スカラー積 F (S(u, v)) · (Su ⇥ Sv)は u, vの関数)で定義する;
RS(f dydz + g dzdx + h dxdy)とも書く.
※R
S F · dS の値は S の像と向きのみにより, パラメータの取り方によらない (変数変換).
※R
S F · dS の ‘x-成分’ はR
S f dydz =R
D f(x(u, v), y(u, v), z(u, v)) @(y,z)@(u,v) dudv.
※R
S F · dS の ‘y-成分’ はR
S g dzdx =R
D g(x(u, v), y(u, v), z(u, v)) @(z,x)@(u,v) dudv.
※R
S F · dS の ‘z-成分’ はR
S h dxdy =R
D h(x(u, v), y(u, v), z(u, v)) @(x,y)@(u,v) dudv.
※ f dydz + g dzdx + h dxdy = (f, g, h) · (dydz, dzdx, dxdy) は F の定める 2次微分形式.
意味 曲面 S に沿うベクトル場 F の面積分R
S F · dS とは, S を通って表に出る F の流量.
定義 曲面に対する逆向きの曲面, 曲面の有限列に対する曲面の和, 曲面の和に沿う面積分なども, 曲線の場合と同様に定義される.
定理 5.16 (Gaußの定理) Dを xyz-空間の閉領域, Dの境界 Sは区分的に滑らかでDの有界でない側を Sの表とし, (f, g, h)をD上のC1級ベクトル場とするとき,
RD
�@f@x + @g
@y + @h@y
�dxdydz =
RS(f dydz + g dzdx + h dxdy).
定義 ベクトル場 F = (f, g, h)に対し, F の発散 div F を div F = @f@x + @g
@y + @h@z で定義
する. div F をr = ( @@x , @@y , @
@z ) と F = (f, g, h)の内積r · F で表すことも多い.
※ Gaußの定理は,R
D div F dxdydz�=R
S F · dS�
=R
S F · (dydz, dzdx, dxdy) と書ける.
※ ベクトル場 F = (f, g, h) にスカラー場 div F = fx + gy + hz を対応させることは, 2次微分形式 f dydz + g dzdx + h dxdy に 3次微分形式 (fx + gy + hz) dxdydz を対応させることに相当. 後者を 2次微分形式 f dydz + g dzdx + h dxdy の微分といい, d(f dydz + g dzdx + h dxdy) で表す: d(f dydz + g dzdx + h dxdy) = (fx + gy + hz) dxdydz.
※ Gaußの定理は,R
D d(f dydz + g dzdx + h dxdy) =R@D(f dydz + g dzdx + h dxdy) と書ける.
発散定理 Dを曲面 S を境界とする xyz-空間の有界領域とし, S は区分的に滑らかな曲面であるとする. F をD上定義されたベクトル場とし, nを S に対する外向単位法ベクトルとする. このとき,
RD div F dV =
RS F · n dA. (dS = n dA)
※ dV = dxdydz は領域 D の符号付き微小体積; dA は曲面 S の符号付き微小面積.
※ F を流れの力の場とすれば, 右辺は S を流れる F の流量 (単位時間に S を通過する流れの総量), 左辺は D 内の F の湧出量 (単位時間に D 内で湧き出る流れの総量), と物理学的に解釈される.
※ 発散定理から次がわかる: ベクトル場 F の発散 div F とは, 点 (x, y, z) における単位時間・単位体積あたり の外側へ向かう流れの量の割合である: div F (x, y, z) = lim
r!0
143⇡r3
RSr
F · ndA.
基礎解析学2 (S3) 2012-01-10 5.11
5.6.3 Stokes の定理定義 ベクトル場 F = (f, g, h)に対し, F の回転 curlF を
�@h@y �
@g@z , @f
@z �@h@x , @g
@x �@f@y
�で定義する. curlF をr = ( @@x , @
@y , @@z ) と F = (f, g, h)の外積r⇥F で表すことも多い.
Stokes の定理 Sを xyz-空間の閉曲線 C を境界とする滑らかな曲面とし,
Sは曲線 C の左側にあるように向き付けられているとする. F を Sを含む領域におけるベクトル場とする. このとき,
RS curl F · dS =
RC F · dC.
※ curlF · dS =�@h@y �
@g@z
�dydz +
�@f@z �
@h@x
�dzdx +
� @g@x �
@f@y
�dxdy.
※ xy-平面における Greenの定理は xyz-空間における Stokesの定理の特別な場合: すなわち, h = 0かつ f, gが z によらない場合, curlF は ‘z-成分’だけが残る.※ ベクトル場 F = (f, g, h)にベクトル場 curlF =
�@h@y �
@g@z , @f
@z �@h@x , @g
@x �@f@y
�を対応
させることは, 1次微分形式 ! = f dx + g dy + h dz に 2次微分形式 d! = curlF · dS を対応させることに相当する. 後者 d!を前者 !の微分という:
d(f dx + g dy + h dz) =�@h@y �
@g@z
�dydz +
�@f@z �
@h@x
�dzdx +
� @g@x �
@f@y
�dxdy.
※ Stokesの定理は,R
S d(f dx + g dy + h dz) =R@S(f dx + g dy + h dz) と書ける.
※ 0次微分形式 (関数)に 1次微分形式を対応させる微分 dは f 7! grad f�= rf
�に相当.
1次微分形式に 2次微分形式を対応させる微分 dは F 7! curlF�= r⇥ f
�に相当.
2次微分形式に 3次微分形式を対応させる微分 dは F 7! div F�= r · f
�に相当.
こうして, grad, curl, divなどの概念は微分形式の微分 dとして統一的に説明される.
※ 一般に, n次微分形式 !に対し, !の微分 d!が n + 1次微分形式として定義される. “Dを n + 1次元の図形で n次元の境界 @Dをもつものとすると,
RD d! =
R@D !.”
この事実を一般化された Stokesの定理という: n = 2なら Gauß の定理, n = 1なら Green–Stokesの定理, n = 0なら微分積分学の基本定理 !!!
系 S を xyz-空間内の滑らかな曲面とし, (x, y, z)を S 上の点とする. Cr を (x, y, z)からの距離が r > 0である S 上の点からなる閉曲線とし, Dr を Cr の内側にある S の部分とし, A(r)を Dr の曲面積とする. nを (x, y, z)における S への単位法ベクトルとし, その方向は Cr の向きに右ネジを回したとき右ネジが進む方向とする. このとき,
curlF (x, y, z) · n = limr!0
1A(r)
ZCr
F · dCr.
したがって, 回転 curlF (x, y, z)はベクトル場 F により与えられる流体の流れが点 (x, y, z)のまわりに渦巻く回転量を表す, と物理学的に解釈される.
※ 平面の回転定理, 発散定理 (Green) にしても, 空間の回転定理 (Stokes), 発散定理 (Gauß) にしても, 物理 学的解釈のわかりやすさは物理学の知識による; よくわからなくてもあまり気にしないこと. 数学的には, 関数 値 rot F (P ), div F (P ) やベクトル値関数の値 curl F (P ) が点 P のまわりでの積分値の平均の極限として 表される, という事実さえ押さえておけばよい.
※ 実は 1 変数関数の値も同様に表せたのだ: f(x) = limr!0
12r
R x+rx�r f(t) dt. 証明のアイデアも全部一緒である.