4.1 組織及びその状況の理解 -...

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組織は,組織の目的及び戦略的な方向性に関連し,かつ,その品質マネジメントシス テムの意図した結果を達成する組織の能力に影響を与える,外部及び内部の課題を 明確にしなければならない. 組織は,これらの外部及び内部の課題に関する情報を監視し,レビューしなければな らない. 注記1 課題には,検討の対象となる,好ましい要因又は状態,及び好ましくない要因又は状態が含まれ得る. 注記2 外部の状況の理解は,国際,国内,地方又は地域を問わず,法令,技術,競争,市場,文化,社会及 び経済の環境から生じる課題を検討することによって容易になり得る. 注記3 内部の状況の理解は,組織の価値観,文化,知識及びパフォーマンスに関する課題を検討することに よって容易になり得る. 4.1 組織及びその状況の理解 主旨 組織は,品質,コスト,量・納期,安全,環境,情報などの経営指標に関するマネジメントシステムを運営管理 し,顧客の価値を高める製品及びサービスを提供することで利益を得て事業活動を行っている.このため, 4.1では, QMSを効果的に運営管理できるよう,組織を取り巻く事業環境及びQMSに関する外部・内部の課題 について,組織の置かれた状況を理解しておくことを要求している. したがって, QMSを個別に運営管理するのでなく,事業活動の一部としてQMSを運営管理することが大切で ある. 1 本資料は審査員研修用としてマネジメントシステム構築の仕方を使用させていただいています・

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組織は,組織の目的及び戦略的な方向性に関連し,かつ,その品質マネジメントシステムの意図した結果を達成する組織の能力に影響を与える,外部及び内部の課題を明確にしなければならない.

組織は,これらの外部及び内部の課題に関する情報を監視し,レビューしなければならない.注記1 課題には,検討の対象となる,好ましい要因又は状態,及び好ましくない要因又は状態が含まれ得る.注記2 外部の状況の理解は,国際,国内,地方又は地域を問わず,法令,技術,競争,市場,文化,社会及び経済の環境から生じる課題を検討することによって容易になり得る.注記3 内部の状況の理解は,組織の価値観,文化,知識及びパフォーマンスに関する課題を検討することによって容易になり得る.

4.1 組織及びその状況の理解

主旨組織は,品質,コスト,量・納期,安全,環境,情報などの経営指標に関するマネジメントシステムを運営管理し,顧客の価値を高める製品及びサービスを提供することで利益を得て事業活動を行っている.このため,4.1では, QMSを効果的に運営管理できるよう,組織を取り巻く事業環境及びQMSに関する外部・内部の課題について,組織の置かれた状況を理解しておくことを要求している.したがって, QMSを個別に運営管理するのでなく,事業活動の一部としてQMSを運営管理することが大切である.

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本資料は審査員研修用としてマネジメントシステム構築の仕方を使用させていただいています・

4.1 組織及びその状況の理解

実施事項(1) 組織の目的及びその戦略的な方向性に関連する外部及び内部の課題の明確化経営理念や事業戦略などに影響を与える外部・内部の課題には何があるのかを明確にする必要がある.このためにはトップマネジメントと各部門の責任者が意見を出し合って,その中から影響の大きい外部・内部の課題を明確にすることが効果的である.組織の目的及びその戦略的方向性は文書化されている場合もあるが,文書化されていない場合には,トップマネジメントがこれらを明示する必要がある.

(2) 品質マネジメントシステムの意図した結果の明確化何を狙ってQMSを設計し.運営管理しているのかをトップマネジメントと各部門の責任者が意見を出し合って明確にする. これは.品質マニュアルの目的に記載されていることが多い.

(3) 品質マネジメントシステムの意図した結果を達成する組織の能力の特定化QMSの意図した結果をもたらすために影響する能力(固有技術,管理技術,人,設備,知識など)には何があるかを, トップマネジメントと各部門の責任者が意見を出し合って明確にし,該当する能力を特定する.ただし,能力を特定する際には,その能力の特徴を明確にする必要がある.例えば,「設計開発技術力」といった一般的な表現ではなく,「顧客要求事項への迅速な設計変更力」のようにその能力の特徴を表すことで, 能力に関する外部・内部の課題を明確にしやすくなる(図表 6).

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マネジメントレビュ報告書例 内外の課題 監視・レビュー表例

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(4) 品質マネジメントシステムの意図した結果を達成する組織の能力に影響する外部・内部の課題の明確化組織の能力に影響を与える外部・内部の課題には何があるのかを明確にする必要があるこのためには, トップマネジメントと各部門の責任者が意見を出し合って.その中から影響の大きい外部・内部の課題を明確にする.

(3)で特定した能力に影響する外部・内部の課題の例を次に示す.•顧客及び法令・規制要求事項の変化に迅速に対応できる設計• 開発の例

外部の課題:顧客及び法令・規制要求事項の急激な変化への即応性内部の課題:技術営業要員の力量の向上,設計• 開発のモジュール化の推進

•継続的改善を実施できるQMS 評価の例外部の課題:コスト競争の激化内部の課題:内部監査の能力の向上,統計的手法の積極的活用

(5) 外部・内部の課題に関する情報を9.1.1の要求事項に基づいた監視(1)で例示した外部・内部の課題について、情報の例を加えたものを図表7~図表9に示す.(4)で例示した外部・内部の課題について、情報の例を加えたものを図表10~図表13に示す.

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主旨密接に関連する利害関係者の要求事項に基づいてQMSを設計し,運営管理し,その結果として顧客に製品及びサービスを提供し,顧客満足を得るというモデルになっており, QMSのインプットの一つである密接に関連する利害関係者の要求事項を理解することを要求している.

次の事項は,顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たした製品及びサービスを一貫して提供する組織の能力に影響又は潜在的影響を与えるため,組織は,これらを明確にしなければならない.a) 品質マネジメントシステムに密接に関連する利害関係者b) 品質マネジメントシステムに密接に関連するそれらの利害関係者の要求事項組織は,これらの利害関係者及びその関連する要求事項に関する情報を監視し,レビューしなければならない.

4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解

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実施事項(1) 事業活動に関係する利害関係者を抽出するQMSに密接に関連する利害関係者をいきなり考えずに,事業活動に影響している利害関係者をまず抽出することで漏れや抜けをなくすことができる. したがって,組織の事業活動に影響を与えている又は潜在的に影響を与える可能性のある利害関係者を全て抽出する.事業活動を行ううえで存在している供給ネットワークを明確にする.

(2) これらの利害関係者とはどのような情報でつながっているのかを抽出し, その中からQMSに関連する情報を特定し, それに関係する利害関係者を特定する

(3) (2)で抽出した利害関係者のQMSに密接に関係する要求事項を明確にする要求事項を明確にするためには, 「いつどのような方法で要求事項を収集するのか」を明確にする.そのために, 必ずしも満足度調査やアンケート調査などが必要なわけではないことに注意する.

(4) 利害関係者の変化及びその情報の変化を9.1.1の要求事項に基づいて監視する

4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解

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5.1 リーダーシップ及びコミットメント

5.1.1 一般トップマネジメントは,次に示す事項によって,品質マネジメントシステムに関するリーダーシップ及びコミットメントを実証しなければならない.a) 品質マネジメントシステムの有効性に説明責任(accountability)を負う.b) 品質マネジメントシステムに関する品質方針及び品質目標を確立し,それらが組織の状況及び戦略的な方向性と両立することを確実にする.c) 組織の事業プロセスヘの品質マネジメントシステム要求事項の統合を確実にする.d) プロセスアプローチ及びリスクに基づく考え方の利用を促進する.e) 品質マネジメントシステムに必要な資源が利用可能であることを確実にする.f) 有効な品質マネジメント及び品質マネジメントシステム要求事項への適合の重要性を伝達する.g) 品質マネジメントシステムがその意図した結果を達成することを確実にする.h) 品質マネジメントシステムの有効性に寄与するよう人々を積極的に参加させ,指揮し,支援する.i)改善を促進する.j) その他の関連する管理層がその責任の領域においてリーダーシップを実証するよう,管理層の役割を支援する.注記 この規格で“事業”という場合.それは.組織が公的か私的か.営利か非営利かを問わず,組織の存在の目的の中核となる活動という広義の意味で解釈され得る.

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方針管理、目標管理及び日常管理について(日科技連のHP引用)

5.1 リーダーシップ及びコミットメント

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2015年版規格の主な変更点(第5回JABシンポ予稿集引用)

主旨トップマネジメントは, QMSに関する最高責任者であるので, 5.1.1では,a)~j)に関するQMSの運営管理の役割についてのリーダーシップを発揮し,責任を果たすことを要求している.

実施事項a) 品質マネジメントシステムの有効性に説明責任を負う.→ トップマネジメントは. QMSの計画に対して結果を達成することについての責任をもっており, QMSについての最高責任者であるという認識をもって行動することが大切である.

b) 品質マネジメントシステムに関する品質方針及び品質目標を確立し,それらが組織の状況及び組織の戦略的な方向性と両立することを確実にする.→ トップマネジメントは,品質方針(5.2.1)及び品質目標(6.2.1)を満たすようにする.品質方針及び品質目標を確立する際には.組織の状況及び戦略的な方向性(4.1)から展開する.

c) 組織の事業プロセスヘの品質マネジメントシステム要求事項の統合を確実にする.→ 事業プロセスとQMSが別個の活動にならないようにする。例えば,同じ要素でありながら記録に含まれる内容を、別々にしないようにする,事業計画を立てるときにQMSの側面を取り込んで、同時に作成する事業計画のレビューの際に、QMSのレビューも同時に行う。また.このときQMS要求事項が事業プロセスに組み込まれるようにする.

d) プロセスアプローチ及びリスクに基づく考え方の利用を促進する.→ 品質マネジメントの原則であるプロセスアプローチに関する考え方とリスクに基づく考え方をQMSの計画実施, 維持、継続的改善に用いる

e) 品質マネジメントシステムに必要な資源が利用可能であることを確実にする.

→ QMSの計画で必要と決定した資源を提供する.

5.1 リーダーシップ及びコミットメント

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f)有効な品質マネジメント及び品質マネジメントシステム要求事項ヘの適合の重要性を伝達する.→品質方針の説明時点やマネジメントレビューの時点で、これらの重要性を従業員に伝える.

g) 品質マネジメントシステムがその意図した結果を達成することを確実にする.→マネジメントレビューを通じて, 4.1で明確にしたQMSが、その意図した結果を達成するように指示を行う.

h) 品質マネジメントシステムの有効性に寄与するよう人々を積極的に参加させ,指揮し,支援する.→品質目標の達成のために、計画への参加,改善活動(小集団活動,提案制度など)へ参加できるようにするこれらの活動に対してトップマネジメントが直接関わるとともに,資源面での支援を行う.

i)改善を促進する.→改善についての組織的な体制を確立する。例えば、方針管理,日常管理、プロジェクト活動、小集団活動などを推進する.

j) その他の関連する管理層がその責任の領域において、リーダーシップを発揮するよう,管理層の役割を支援する→品質マネジメントの原則である、リーダーシップに関する行動について,管理層が役割を果たせるように教育・訓練や個別指導などを行う.

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組織の知識(固有技術・知識)管理台帳例 教育訓練報告書例資格一覧表例

主旨5.2.1では, トップマネジメントが,品質保証活動に取り組む基本原則についての意思表示を行う役割として,a)~d)を満たすことを要求している. この基本原則に該当するものが品質方針であり, これを策定し,外部・内部の課題及びQMSの運営管理の結果をもとに、適切な時期にレビューし,改訂を行うことが必要である.

5.2.1 品質方針の確立

5.2.1 品質方針の確立

トップマネジメントは,次の事項を満たす品質方針を確立し,実施し,維持しなければならない.a) 組織の目的及び状況に対して適切であり,組織の戦略的な方向性を支援する.b) 品質目標の設定のための枠組みを与える.c) 適用される要求事項を満たすことへのコミットメントを含む.d) 品質マネジメントシステムの継続的改善へのコミットメントを含む.

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2015年版規格の主な変更点(第5回JABシンポ予稿集引用)

5.2 方針

実施事項品質方針は, トップマネジメントのQMSに関する想いが込められていなければ、利害関係者に受け入れられない. また,品質方針は, トップマネジメントの交代,マネジメントレビューの結果などをもとにレビューする必要がある. レビューの結果,改訂する必要性がある場合には,決められたプロセスで、改訂(このことが維持に該当する)を行う.

a) 組織の目的及び状況に対して適切であり組織の戦略的な方向性を支援する.→ 品質方針は,「4.1 組織の目的及びその状況の理解」で検討した内容とかけ離れていないようにする.

b) 品質目標の設定のための枠組みを与える.→ 品質方針の中に,品質目標の設定のための仕組みについて述べる.仕組みの例として,方針管理や事業計画のプロセスなどがある.

c) 適用される要求事項を満たすことへのコミットメントを含む→ 品質方針に, どのような方法でQMSに適用している、密接に関連する利害関係者の要求事項を、満たすのかという観点での意思表示をする(4.2参照)

5.2.1 品質方針の確立

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2015年版規格の主な変更点(第5回JABシンポ予稿集引用)

d) 品質マネジメントシステムの継続的改善へのコミットメントを含む→ 品質方針に,「どのような方法でQMSの継続的改善を行うのか」という観点での意思表示をする.

5.2.2 品質方針の伝達

主旨5.2.2では, 品質方針の取扱いについてa)~c)を要求している.

実施事項a)文書化した情報として利用可能な状態にされ,維持される.→品質方針は文書管理の対象であり.誰もが使えるようにしなければ、また,その維持管理を行う必要がある.

b)組織内に伝達し.理解され.適用される.→品質方針が組織内に伝わっており,その要員に品質方針の内容が理解されており,各要員の仕事にそれぞれ活用されなければならない.

そのやり方については,例えば次のようにする.・伝達する方法:ポスター,品質方針説明会,社内LANなど.・理解させる方法:従業員にわかりやすい解説をする,各人の役割を説明するなど・適用の方法:品質方針にのっとった活動を行う。例えば,品質方針の実施状況を、職場巡回などでフォローする.

c) 必要に応じて,密接に関連する利害関係者が入手可能である.→ 4.2で明確にした密接に関連する利害関係者から、品質方針を入手したいという希望があれば配布又はホームページなどの紹介を行う.

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6. 計画6.1 リスク及び機会への取組み6.1.1 品質マネジメントシステムの計画を策定するとき,組織は, 4.1に規定する課題及び4.2に規定する要求事項を考慮し,次の事項のために取り組む必要があるリスク及び機会を決定しなければならない.a) 品質マネジメントシステムが,その意図した結果を達成できるという確信を与える.b) 望ましい影響を増大する.c) 望ましくない影響を防止又は低減する.d) 改善を達成する.

主旨6.1では, QMSの計画の達成に好ましくない影響を与える可能性をリスクと認識し,その好ましくない影響を低下させたり回避するなどの方策をとる.また,好ましい影響を与える可能性を機会と認識し,その好ましい影響を促進するなどの対策をとることで,QMSの計画達成の可能性を高めることができる.また,外部・内部の課題を検討することで, 目標達成の可能性の高さを検討することも可能となる.したがって, QMSの計画を行う際には, 4.1で決定した課題及び4.2で決定した要求事項をインプットにする.そのうえでa)~d)を実施しようとしたときに,「どのようなリスク及び機会があるのか」を抽出することを要求している(図表23).

6.1 リスク及び機会への取組み

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マネジメントレビュ報告書例 内外の課題 監視・レビュー表例

実施事項4.1で明確にした外部・内部の課題,並びに4.2で明確にしたQMSに密接に関連する利害関係者及びその要求事項をインプットにして,QMSの計画を策定する。この計画は,年度事業計画の策定と一体化して行う.

年度事業計画は,事業環境を考慮して,売上計画や受注計画を策定する.これらを達成するため,品質,価格,量・納期,安全,環境などの経営要素ごとの目標を定める.

これらの目標達成のための新製品開発計画,生産計画,設備投資計画,調達計画,人材育成計画,標準化計画などを検討する.これらを検討する際にはリスク及び機会,並びにその対応を考える.この考え方が,事業プロセスとの統合である.

6.1.1のa)~d)に取り組むときにどのようなリスク及び機会があるのかを検討し,決定する.

6.1 リスク及び機会への取組み

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6.1.2 組織は,次の事項を計画しなければならない.a) 上記によって決定したリスク及び機会への取組みb) 次の事項を行う方法1) その取組みの品質マネジメントシステムプロセスヘの統合及び実施(4.4参照)2) その取組みの有効性の評価

リスク及び機会への取組みは,製品及びサービスの適合への潜在的な影響と見合ったものでなければならない.注記1 リスクヘの取組みの選択肢には,リスクを回避すること,ある機会を追求するためにそのリスクを取ること,リスク源を除去すること,起こりやすさ若しくは結果を変えること,リスクを共有すること,又は情報に基づいた意思決定によってリスクを保有することが含まれ得る.

注記2 機会は,新たな慣行の採用,新製品の発売,新市場の開拓,新たな顧客への取組み,パートナーシップの構築,新たな技術の使用,及び組織のニーズ又は顧客のニーズに取り組むためのその他の望ましくかつ実行可能な可能性につながり得る.

主旨6.1.2では, 6.1.1で決定したリスク及び機会に対して, どのように対処するかについての計画を策定する.このとき, QMSのどのプロセスでこれらの対処を行うかを明確にし,これを実施する方法を決める.また,取組みの有効性の評価方法を決めることを要求している.注記1で記載されている内容は,リスクを修正する例である.注記2は機会に関する事例である.

6.1 リスク及び機会への取組み

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実施事項a) 上記によって決定したリスク及び機会への取組み→ 6.1.1のa)~d)で決定したリスク及び機会への取組みについて注記を参考にして計画する、この取組みの計画から方針管理に関する目標が設定されるリスクの取組みの選択肢の例を図表25に示す.また,リスク評価項目及び評価基準の例を図表26と図表27に示す.リスク発生度とリスクの影響度から総合評価を次式で決め,例えば総合評価が4未満の場合にはリスクの取組みは保有とする.

総合評価=リスク発生度X リスクの影響度

b) 次の事項を行う方法① その取組みの品質マネジメントシステムプロセスヘの統合及び実施(4.4参照)→ a)の結果からリスク及び機会に取り組む計画が、QMSのどのプロセスに該当するかを明確にするとともに,どのように実行するかを計画する.

② その取組みの有効性の評価→ 取組みについて,「どのような評価基準で」「誰が」「いつ」評価するかを計画する.

6.1 リスク及び機会への取組み

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(1) 競争優位となる新製品を3年以内に市場へ投入する(戦略的な方向性)とき•外部の課題:顧客のニーズ・期待の変化•内部の課題:部門間の協調,人材の育成

(2) 顧客要求事項及び法令規制要求事項を満たした製品を一貫して提供する(QMSの意図した結果)際に影響する組織の能力の例顧客のニーズ・期待を確実に把握できるマーケティングカ,設計の効率化を追究したモジュール化設計力,複雑形状の金属製造技術力,プロセスの機能を追究した標準化技術力.

上記の能力に関する外部・内部の話題の例は次のようになる.•外部の課題:協力会社の工程管理技術の向上,海外調達の増加による発注量の低減•内部の課題:マーケティング方法の開発,高精度な金属製造技術の開発,小型化設計技術の推進,プロセス機能展開技術の活用

(3) QMSに密接に関連する利害関係者例えば.顧客,協力会社、社員、監督官庁,業界団体.認証機関である.

(4) (3)の要求事項•顧客:製品の使いやすさ,製品の見栄えの良さ,価格,故障時の対応の良さ•協力会社:設計変更の少なさ,工程管理への支援•社員:作業のしやすさ,安全作業の確立,部門間の協調,改善に対する報奨•監督官庁:法令規制要求事項•業界団体:製品に関するガイドライン•認証機関:認証に関する要求事項

以上の(1)~(4)を考えて,次の取組みに必要なリスク及び機会を明確にして,決定する.

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a) 顧客要求事項及び法令・規制要求事項を満たした製品を一貫して提供できるようになるためにプロセス能力を向上する(QMSが,その意図した結果を達成できるという確信を与える)

b) 設計開発力を高める(望ましい影響を増大する)c) 新製品の開発遅れをなくす,製品の品質不良を低減する(望ましくない

影響を防止又は低減する)d) 顧客満足を85%以上にする(改善を達成する)

望ましくない影響を防止又は低減 望ましい影響を増大

a) 顧客要求事項及び法令・規制要求事項を満たした製品を一貫して提供できるようになるためにプロセス能力を向上する(QMSが,その意図した結果を達成できるという確信を与える)

・新製品開発の技術の高度化による協力会社の工程管理能カの不足,

・コスト低減を図ることによる海外調達製品の品質低下,

・教育体制の不備による営業技術要員の力量の不足,

・設計変更が多発することによる高精度な金属製造技術の開発遅れ

・競争優位となる新製品を他社に先駆けて市場に提供する.

望ましくない影響を防止又は低減 望ましい影響を増大

b) 設計開発力を高める(望ましい影響を増大する)

・個人のノウハウが情報として共有されないことによる知識の未活用,

・高度な知識を習得することによる人材育成の時間を確保する困難さ

・新規顧客を開拓する.

c) 新製品の開発遅れをなくす,製品の品質不良を低減する(望ましくない影響を防止又は低減する)

・設計• 開発業務の多忙による顧客要求事項の見落し,・設計技術力不足による設計変更の増加,・分析力不足による工程管理の機能不全・高度な知識を習得することによる

人材育成の時間を確保する困難さ

・新製品を迅速に市場へ投入する,

・日常管理を導入する.

d) 顧客満足を85%以上にする(改善を達成する)

・設計• 開発能力の不足による競合者の製品の優位性,

・プロジェクト管理能力不足による販売時期の遅れ

・設計· 開発プロセスを革新する.・製品を革新する.

6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定6.2.1 組織は,品質マネジメントシステムに必要な,関連する機能,階層及びプロセスにおいて,品質目標を確立しなければならない.品質目標は,次の事項を満たさなければならない.a) 品質方針と整合している.b) 測定可能である.c) 適用される要求事項を考慮に入れる.d) 製品及びサービスの適合,並びに顧客満足の向上に関連している.e) 監視する.f) 伝達する.g) 必要に応じて,更新する.組織は,品質目標に関する文書化した情報を維持しなければならない.

主旨6.2.1では,品質方針を達成するための品質目標を設定する.品質目標には,方針管理と日常管理に関する品質目標の2つの側面があるので,これらに関して, a)~g)を満たす品質目標を策定することを要求している.なお,全社目標をもとに機能、階層,プロセスで、品質目標を確立することを目標展開という.

6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定

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品質目標管理表例コミュニケーション台帳例

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実施事項6.1の結果を考慮して品質目標を設定する.a) 品質方針と整合している.→ 品質目標が品質方針とのずれや矛盾がないことである.品質目標を達成することで品質方針を達成できることを確認するとよい.

b) 測定可能である.→ 品質目標はパフォーマンス指標であり,測定の対象であるのでこれを満たすものにする.

c) 適用される要求事項を考慮に入れる.→ QMSに関する要求事項を考えて品質目標を設定する.例えば,顧客要求事項で工程内不良率が0.5%以下という要求があれば,組織では工程内不良率0.4%以下,法令・規制要求事項の違反件数0件を目標値とするなどである.

d) 製品及びサービスの適合,並びに顧客満足の向上に関連している.→ 品質目標には,製品及びサービスの適合に関するパフォーマンス指標(不適合製品率,誤配送件数,欠点件数,改修指示件数など),顧客満足の向上に関するパフォーマンス指標(顧客満足度,品質評価点な

ど)がある.

6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定

e) 監視する.→ 品質目標の達成状況を経時的に監視し,監視した結果は記録する(9.1.1).

f) 伝達する.→ 関連する部門やプロセスに品質目標の達成状況を伝達する.

g) 必要に応じて,更新する.→ 品質目標は,マネジメントレビューで更新するという判断を行った場合又は顧客要求事項が変更された場合などに更新する.

目標展開の例を図表29に示す.

6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定

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6.2.2 組織は,品質目標をどのように達成するかについて計画するとき,次の事項を決定しなければならない.a) 実施事項b) 必要な資源c) 責任者d) 実施事項の完了時期e) 結果の評価方法

6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定

主旨6.2.2では,品質目標を達成するための計画に含まなければならない要素としてa)~e)を要求しているこのことを方策展開という.

実施事項品質目標の達成をするための方策展開に必要な事項を次に示す.

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6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定

実施事項品質目標の達成をするための方策展開に必要な事項を次に示す.

a) 実施事項→ 品質目標達成のために, どのような方法(方策,施策ともいう)で行うかを明確にする.この実施事項が目標達成のために効果的か否かを確認する方法は,決定した実施事項を完了することで目標が達成されるかという視点で確認するとよい.目標から方策を展開する例を図表30に示す.

b) 必要な資源→ 実施事項に必要な資源(人々.インフラストラクチャ,プロセスの運用に関する環境,監視及び測定のための資源.組織的な知識)を明確にする.

c) 責任者→ 実施事項の責任者を明確にする.

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d) 実施事項の完了時期→ 実施事項がいつまでに完了しなければならないかを明確にする.

e) 結果の評価方法→ 実施事項の結果を「どのような基準で」「誰が」「いつ」評価するのかを明確にする.一般的には,実施事項の計画対実績の進捗率などで評価する.

6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定

6.3 変更の計画

組織が品質マネジメントシステムの変更の必要性を決定したとき,その変更は,計画的な方法で行わなければならない(4.4参照).組織は,次の事項を考慮しなければならない.a) 変更の目的,及びそれによって起こり得る結果b) 品質マネジメントシステムの“完全に整っている状態 (integrity)c) 資源の利用可能性d) 責任及び権限の割当て又は再割当て

6.3 変更の計画

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7.1 資源7.1.1 一般

組織は,品質マネジメントシステムの確立,実施,維持及び継続的改善に必要な資源を明確にし,提供しなければならない.組織は,次の事項を考慮しなければならない.a) 既存の内部資源の実現能力及び制約b) 外部提供者から取得する必要があるもの

主旨7.1.1では, 7.1.2~7.1.6に関するQMSに関する資源が具備すべき要素としてa)とb)を要求している.

7.1 資源 7.1.1 一般

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7.1.2 人々

組織は,品質マネジメントシステムの効果的な実施,並びにそのプロセスの運用及び管理のために必要な人々を明確にし,提供しなければならない.

主旨QMSのリソースで一番重要な資源は人であるので, 7.1.2では, QMSの運用のための適材適所の人材を配置することを要求している.

実施事項QMSを運営管理するために必要な人材を確保する.一般的には,人材採用計画や要員計画などで明確にする場合がある.

7.1 資源 7.1.2 人々

労務.人事制度、就業規則等 組織図、体制表

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7.1.3 インフラストラクチャ

組織は,プロセスの運用に必要なインフラストラクチャ,並びに製品及びサービスの適合を達成するために必要なインフラストラクチャを明確にし,提供し,維持しなければならない.注記インフラストラクチャには,次の事項が含まれ得る.a) 建物及び関連するユーティリティb) 設備.これにはハードウェア及びソフトウェアを含む.c) 輸送のための資源d) 情報通信技術

主旨QMSを運営管理するためには,インフラストラクチャが必要である.このため, 7.1.3では,プロセスの運用に必要なインフラストラクチャ,製品及びサービスの適合を達成するために必要なインフラストラクチャの配備,維持管理を要求している.

7.1 資源 7.1.3 インフラストラクチャ

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実施事項QMSの運営管理に必要な設備には何があるのかを明確にして, 7.1.1のa)とb)を考えて配備,維持管理を行う(図表31).一般的には,新規については設備投資計画,既存については保全計画などで明確にする場合がある.

7.1 資源 7.1.3 インフラストラクチャ

設備管理台帳

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7.1.4 プロセスの運用に関する環境

組織は,プロセスの運用に必要な環境.並びに製品及びサービスの適合を達成するために必要な環境を明確にし,提供し,維持しなければならない.注記 適切な環境は.次のような人的及び物理的要因の組合せであり得る.a) 社会的要因(例えば,非差別的,平穏.非対立的)b) 心理的要因(例えば,ストレス軽減,燃え尽き症候群防止,心のケア)c) 物理的要因(例えば.気温,熱,湿度.光,気流.衛生状態,騒音)これらの要因は,提供する製品及びサービスによって,大いに異なり得る.

主旨QMSを運営管理するためには,労働環境や製品及びサービスに影響を及ぼさない環境を獲得することが必要である. 7.1.4では,業務を行うため, どのような環境条件が必要であるかを明確にして,提供し,維持することを要求している.

7.1 資源 7.1.4 プロセスの運用に関する環境

内部監査員研修会 資料を引用

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実施事項現在のQMSの運営管理で提供している環境には何があるかを明確にし,不足しているものがあればこれを提供する(図表32)

7.1 資源 7.1.4 プロセスの運用に関する環境

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7.1.5 監視及び測定のための資源7.1.5.1 一般

要求事項に対する製品及びサービスの適合を検証するために監視又は測定を用いる場合.組織は,結果が妥当で信頼できるものであることを確実にするために必要な資源を明確にし,提供しなければならない.組織は,用意した資源が次の事項を満たすことを確実にしなければならない.a) 実施する特定の種類の監視及び測定活動に対して適切である.b) その目的に継続して合致することを確実にするために維持されている.組織は.監視及び測定のための資源が目的と合致している証拠として,適切な文書化した情報を保持しなければならない.

7.1.5.2 測定のトレーサビリティ

測定のトレーサビリティが要求事項となっている場合,又は組織がそれを測定結果の妥当性に信頼を与えるための不可欠な要素とみなす場合には.測定機器は,次の事項を満たさなければならない.a) 定められた間隔で又は使用前に.国際計量標準又は国家計量標準に対してトレーサプルである計量標

準に照らして校正若しくは検証,又はそれらの両方を行う.そのような標準が存在しない場合には,校正又は検証に用いたよりどころを,文書化した情報として保持する.

7.1 資源 7.1.5 監視及び測定のための資源

2015年版規格の主な変更点(第5回JABシンポ予稿集引用)

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b) それらの状態を明確にするために識別を行う.c) 校正の状態及びそれ以降の測定結果が無効になってしまうような調整損傷又は劣化から保護する.測定機器が意図した目的に適していないことが判明した場合,組織は,それまでに測定した結果の妥当性を損なうものであるか否かを明確にし,必要に応じて,適切な処置をとらなければならない.

主旨7.1.5では,製品及びサービスの適合の状態を監視及び測定する資源の管理を要求している(図表33).

7.1 資源 7.1.5 監視及び測定のための資源

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実施事項製品及びサービスの適合についての監視及び測定の目的を明確にし,その目的に合致した資源を明確する.例えば,寸法を測定する場合に,仕様書が1/lOOmmの精度で明示してあれば,これを測定するための精度をもった測定機器を使用しなければならない.また,製品のキズ,汚れなどの外観などを検査する際には,限度見本や検査員の目が監視の資源に該当する.サービスでは,ホテルの受付要員の態度をビデオで監視する場合このビデオが監視の資源に該当する.また,エレベータの使用状況を監視するものとしてリアルタイムモニターなどがある.

測定機器の校正で校正外れが検出された場合には,校正外れの程度が測定対象の仕様と比較して許容できる場合には,前回の校正から今回の校正までについて測定値は妥当性があると判断してもよい.しかし,許容できない場合には,前回の校正から今回の校正まで測定した製品について回収を行うなどの処置をとる.

7.1 資源 7.1.5 監視及び測定のための資源

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7.1 資源 7.1.6 組織の知識

7.1.6 組織の知識組織は,プロセスの運用に必要な知識,並びに製品及びサービスの適合を達成するために必要な知識を明確にしなければならない.この知識を維持し,必要な範囲で利用できる状態にしなければならない.変化するニーズ及び傾向に取り組む場合,組織は,現在の知識を考慮し,必要な追加の知識及び要求される更新情報を得る方法又はそれらにアクセスする方法を決定しなければならない.注記1 組織の知識は,組織に固有な知識であり,それは経験によって得られる.それは,組織の目標を達成するために使用し,共有する情報である.注記2 組織の知識は,次の事項に基づいたものであり得る.a) 内部の知識源(例えば,知的財産,経験から得た知識成功プロジェクト及び失敗から学んだ教訓,文書化していない知識及び経験の取得及び共有,プロセス,製品及びサービスにおける改善の結果)b) 外部の知識源(例えば,標準,学界,会議,顧客又は外部の提供者からの知識収集)

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7.1 資源 7.1.6 組織の知識

主旨

QMSの運営管理を効果的に行うためには,組織の知識が必要であるので, 7.1.6では,これを明確にし,維持することを要求している.また,この知識の維持利用可能性についても要求している.更に,新しい知識が必要となった場合,知識の修得方法及びアクセス方法を決定することを要求している(図表34).

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7.1 資源 7.1.6 組織の知識

実施事項組織が保有している知識を次のように明確にする.a) プロセスを運用するための知識の例→ 顧客の仕様に関する情報、社外の研究成果資料,外部の講演会などの資料,供給者からの情報,管理技術のノウハウなど.

b) 製品及びサービスを達成するための知識の例→ 特許情報、商標登録情報、設計の失敗事例•成功事例集、製造の失敗事例•成功事例集,サービス提供時のインシデント事例集.顧客からの情報、供給者からの改善提案情報,研究成果資料,固有技術のノウハウなど.

組織の知識(固有技術・知識)管理台帳例 教育訓練報告書例資格一覧表例

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7.1 資源 7.1.6 組織の知識

補足説明*組織の知識を記録やサーバーで共有しているケースはよくありますが,その知識の利用が活発か否かがポイントです。

*組織の知識は会社の重要な経営資源です.利用が活発でなければ,利用を促進するための改善策をとるか,または,共有しても効果が期待できないなら,その情報を蓄積・共有する必要性を見直します

*組織の知識が共有され,利用が活発であれば,例えばアイデアを創出したいときはもちろん,夏期休暇の際や冬場に家族がインフルエンザに感染して介抱したいときにも,安心して業務を同僚に任せてお休みに集中できるでしょう!

この知識を共有→活用→更新,そして共有します。

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7.2 カ量

7.2 カ量組織は,次の事項を行わなければならない.a) 品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務をその管理下で行う人(又は人々)に必要な力量を明確にする.b) 適切な教育,訓練又は経験に基づいて,それらの人々が力量を備えていることを確実にする.c) 該当する場合には,必ず,必要な力量を身に付けるための処置をとり、とった処置の有効性を評価する.d) 力量の証拠として,適切な文書化した情報を保持する.

注記 適用される処置には,例えば,現在雇用している人々に対する,教育訓練の提供,指導の実施,配置転換の実施などがあり,また,力量を備えた人々の雇用,そうした人々との契約締結などもあり得る

主旨QMSを効果的に運営管理するためには,人々の力量が重要な要素である.このため. 7.2では. QMSのパフォーマンス及びQMSの有効性に影響を与える人々が保有す

べき力量の管理方法について要求している.

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7.2 カ量

実施事項QMSを運営管理するためには要員の力量を確保する必要があるので、次の事項を実施する(図表35).

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7.2 カ量

実施事項

a) 品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務をその管理下で行う人(又は人々)に必要な力量を明確にする.→ 業務内容ごとにどのような知識及び技能が必要かを決める.図表36に力量の例を示す。

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7.2 カ量

b) 適切な教育,訓練又は経験に基づいて,それらの人々が力量を備えていることを確実にする.→ 「業務を遂行するのに必要などのような学校教育や職業教育を修了していなければならないのか」「どのような訓練を受けていなければならないのか」「どのような経験があればよいのか」を明確にすることで力量があることを示すことができる.例えば,部材の加工業務では,材料特性及び設備の使用方法に関する知識、ミクロン単位の加工技術が必要であるとした場合に,中等教育終了,加工訓練期間3カ月又は加工経験1年以上であればこの業務を行える力量があると判断する.

c) 該当する場合には,必ず,必要な力量を身に付けるための処置をとり, とった処置の有効性を評価する.

→ a)で決めた力量とb)で決めた内容に差がある場合には,教育・訓練計画を策定し,実施する.教育・訓練では間に合わない場合には,人事での配置転換,新規採用,人材派遣などの方法で対応する.

d) 力量の証拠として,適切な文書化した情報を保持する.→ カ量に関する各人の記録を作成し,維持管理を行う.

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7.3 認識

7.3 認識

組織は,組織の管理下で働く人々が,次の事項に関して認識をもつことを確実にしなければならない.a) 品質方針b) 関連する品質目標c) パフォーマンスの向上によって得られる便益を含む,品質マネジメントシステムの有効性に対する自らの貢献d) 品質マネジメントシステム要求事項に適合しないことの意味

主旨QMSのパフォーマンスを達成するためには,人々がQMSの運営管理に積極的に参加することが必要である. したがって, 7.3では, QMSの運営管理内で働いている人々に対して, a)~d)が自分自身とどのような関係があるかを十分理解させる方法を確立することを要求している.

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7.3 認識

実施事項QMSの適用範囲の中で働く人々は.次の事項についての認識をもつ必要があるので,組織的に教育・訓練.又は日常的な指導を行う.a) 品質方針→ 品質方針がどこにあるのかがわかっているのではなく,品質方針の意図を理解している.

b) 関連する品質目標→ 自分の業務と関連している品質目標を理解している.

c) パフォーマンスの向上によって得られる便益を含む,品質マネジメントシステムの有効性に対する自らの貢献→ 「パフォーマンスが向上することでどのような有形無形の価値を得られるのか」「QMSの有効性について自分がどのような活動を行うことで貢献しているのか」を理解している.

d) 品質マネジメントシステム要求事項に適合しないことの意味→ QMS要求事項に適合しないとどのような問題が起こるのかを理解している.

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7.4 コミュニケーション

7.4 コミュニケーション

組織は,次の事項を含む,品質マネジメントシステムに関連する内部及び外部のコミュニケーションを決定しなければならない.a) コミュニケーションの内容b) コミュニケーションの実施時期c) コミュニケーションの対象者d) コミュニケーションの方法e) コミュニケーションを行う人

主旨

QMSの運営管理を効果的に行うためは, QMSに関係する利害関係者との意思疎通を行う必要がある.この方法としてコミュニケーションがあり, 7.4では, a)~e)を実施することを要求している

品質目標管理表例コミュニケーション台帳例

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7.4 コミュニケーション

実施事項QMSを効果的に運営管理するためには関連する利害関係者とのコミュニケーションが大切なので.次の方法を明確にする.a) コミュニケーションの内容→ コミュニケーションの目的及び議題を明確にする.

b) コミュニケーションの実施時期→ 案件によって定期的(委員会定例会議),日常的(毎朝ミーティング,引き継ぎ),随時(問題発生時)に行う場合がある.

c) コミュニケーションの対象者→ 4.2で明確にした密接に関連する利害関係者で,かつ, どのような人であるのかを明確にする.なお,顧客との要求事項に関するコミュニケーションは8.2.1で対応する.

d) コミュニケーションの方法→ コミュニケーションの方法には, ITの活用(メールなど),電話会議体などがある.

e) コミュニケーションを行う人→ 誰がコミュニケーションの責任者であるかを明確にする.

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7.5 文書化した情報 7.5.1 一般

7.5 文書化した情報7.5.1 一般組織の品質マネジメントシステムは,次の事項を含まなければならなぃ.a) この規格が要求する文書化した情報b) 品質マネジメントシステムの有効性のために必要であると組織が決定した,文書化した情報

注記 品質マネジメントシステムのための文書化した情報の程度は,次のような理由によって,それぞれの組織で異なる場合がある.組織の規模,並びに活動,プロセス,製品及びサービスの種類-プロセス及びその相互作用の複雑さ-人々の力量

主旨7.5.1では, QMSを運営管理するために必要な標準化を行うための規定類及び記録

を要求している.

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7.5 文書化した情報 7.5.1 一般

実施事項標準化の体系を明確にし,必要な標準類の整備を行う.QMSを規定するために品質マニュアルを作成することがあるが,本規格では品質マニュアルの作成についての要求事項はないので,組織がその必要性を検討して対応を考える必要がある. しかし, Bto Bの場合には, QMSの概要がわかるようなものがなければ顧客が個別に必要な書類を要求する場合があり,それぞれに対応したのでは効率的でないので, QMSの概要程度は作成する必要がある.ただし,必ずしも要求事項の順番どおりに作成する必要はなく,組織の業務体制に応じた内容にするとよい.

QMSの概要についての品質マニュアルの目次の例を次に示す.1. QMSの目的2. QMSの適用範囲3. QMSの適用規格及び法令・規制要求事項4. 用語の定義5. QMSに関する責任・権限6. 経営方針,中期事業戦略,品質方針の策定7. 年度品質目標及び方策の展開8. 各プロセスの日常管理9. QMSの活動状況の分析及び評価

附属書A: 組織図(QMSの対象組織を含む)B:QMSプロセス体系図c: 方針管理プロセス(方針管理規程の一部)D: 標準化の体系及び規程一覧E: 記録一覧F: ISO 9001要求事項と規程の相互関係

ISO9001:2015年版規格の変更点(JABシンポ予稿集引用) ISO9001:2015規格要求チェックリスト(例)

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7.5 文書化した情報 7.5.2 作成及び更新

7.5.2 作成及び更新

文書化した情報を作成及び更新する際,組織は,次の事項を確実にしなければならない.a) 適切な識別及び記述(例えば,タイトル,日付,作成者,参照番号)b) 適切な形式(例えば,言語,ソフトウェアの版,図表)及び媒体(例えば,紙,電子媒体)c) 適切性及び妥当性に関する,適切なレビュー及び承認

主旨文書及び記録を作成• 更新する場合には,文書管理を効果的にするために7.5.2ではa)~c)を満たすことを要求している.

実施事項文書作成及び更新に当たっては,次に示す業務機能展開を活用すると効果的である.図表37にそのフォーマット及び図表38に例を示す.

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